1: 2012/11/20(火) 21:02:30.78


身も凍る季節。


「ふぅ……ふぅ……」


頬をほんのりと赤く蒸気させ、まだあどけなさの残る女性が階段を駆け上がっていく。


「…………よし」


ひとつ、両手を胸の前で握り扉を開けた。


それを元気に変えるおまじないのように――



https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1353412950

2: 2012/11/20(火) 21:03:05.78

「ただいま戻りました~」

「お帰りなさい、あずささん」

あずさ「今日も寒くて参っちゃいました~」

「お疲れ様です。今、温かいお茶を――」

あずさ「ありがとうございます。でも、書類の整理をしますので……えっと……律子さんは?」

「……律子さんなら、もうすぐ戻られるかと」

あずさ「そうですか……困りましたね~」

「…………」

あずさ「小鳥さん……? どうかしたんですか?」

小鳥「あの……無理していませんか?」

あずさ「そうですね……。やっぱり私では勤まりませんよね」

小鳥「そうじゃないんです」

あずさ「…………」

小鳥「慣れないことだけどとても頑張っている、と、社長も律子さんも仰っていますし、私もそう思います」

あずさ「…………」

小鳥「私は、あずささんが心配です」

あずさ「ありがとうございます。でも、私は平気です。頑張っているみんなの背中を支えたいんですから」

小鳥「……っ」

あずさ「そんな顔をしないでください、小鳥さん。私は、この仕事――好きですから」

小鳥「はい……っ……はい……」グスッ

あずさ「あらあら……!」

小鳥「ご、ごめんなさい。泣いちゃったりして……。……私も頑張らないと、ですね!」

あずさ「うふふ」

小鳥「頑張れ私!」グッ

あずさ「私も頑張らないと、ですね~」

小鳥「そうだ、今日、律子さんも呼んで私の家で飲みませんか?」

あずさ「あらあら、いいですね~」

3: 2012/11/20(火) 21:04:27.20


ガチャ


「うん? 飲み会の話かね?」

あずさ「あ、社長さん。お疲れ様です~」

高木「いやぁ、三浦君が色々と動いてくれているから、私としては楽なもんだよ」

小鳥「立ち話もなんですから、ソファに座ってください」

あずさ「……でも」

小鳥「律子さんが戻るまで、ですよ」

あずさ「…………はい」


4: 2012/11/20(火) 21:05:52.75

高木「どっこいしょぉ」

あずさ「……ふぅ」

小鳥「どうぞ」コト

高木「うむ、ありがとう」

あずさ「ありがとうございます」

小鳥「いえいえ」

高木「う~ん、小鳥君の淹れてくれるお茶はおいしいねぇ」

あずさ「ほんとに……」

小鳥「もう、そんなこと言っても何も出ませんよ。おかわりくらいならいくらでも出しますけど」

高木「事務所に戻ってくると安らぐねぇ。なんというか、懐かしい気分だよ」

あずさ「…………」

小鳥「そういえば、あずささん」

あずさ「なんでしょう?」

小鳥「急いで帰ってきたようですけど、何かありましたか?」

あずさ「うふふ、実は……」

高木「ほぅ、いいことがあったのかね」

あずさ「仕事を一つ、貰ってきちゃいました~」

小鳥「え……!」

高木「それは凄い」

あずさ「うふふ」

小鳥「だから、律子さんを――」

「ただいま戻りました~」

小鳥「丁度、戻ってきたみたいですね」

あずさ「お疲れ様です、律子さん」

律子「はぁ~、疲れた~……って、社長!?」

高木「はっはっは、休憩の場に私がいると休むことができないな。
   ごちそうさま、小鳥君。私は部屋に戻るよ」

小鳥「いえ……」


スタスタスタ

6: 2012/11/20(火) 21:07:39.75

律子「……ふぅ」

あずさ「ごめんなさい、律子さん……」

律子「え?」

あずさ「私が、もっと要領よく動くことが出来たら、律子さんの負担も減らせたのに……」

律子「い、いえいえ! そんなことないです、あずささんには感謝してますから」

あずさ「…………」

律子「現場でもあずささんの噂、聞いてますよ」

あずさ「う、噂ですか?」

律子「人が変わったようだ、って」

あずさ「……そうですか」

小鳥「…………」

律子「あ……」

あずさ「うふふ、嬉しいです」

律子「…………」

小鳥「あずささん、律子さんに報告することがあるんですよね?」

あずさ「そうそう。律子さん、今晩の予定は空いてますか?」

律子「今晩?」

小鳥「ち、違いますよ! 仕事の話です!」

あずさ「そうそう。春香ちゃんの仕事を貰ってきちゃいました~」

律子「えぇ……?」

あずさ「これがその書類です」

律子「え、えっと……どれどれ」

小鳥「今日は祝勝会ですね!」

あずさ「そうですね!」

律子「……あずささん、これ、春香と相談しましたか?」

あずさ「え? ……はい、ちゃんとしました。……問題ありますか?」

律子「……いえ、それならいいんです」

小鳥「?」

律子「それより、祝勝会って……なんです?」

あずさ「私たち三人で飲みませんか?」

律子「いいですね。その為にもさっさと仕事を片付けますか。
   ……えっと、この時間だと……1時間で終わらせましょうあずささん」

あずさ「よろしくお願いします、律子さん」

律子「それじゃ、急いでやりますので、確実に覚えてくださいね」

あずさ「はい!」

小鳥「よーし、私も頑張るぞ」


7: 2012/11/20(火) 21:09:55.86

――…


あずさ「次、真ちゃんのボイスレッスンですが」

律子「何時になっています?」

あずさ「明後日の午後4時です」

律子「そうですね……、春香と一緒に受けさせたいけど……難しいかなぁ」

あずさ「あ、それなら、明日のダンスレッスンに組み替えが利きますよ」

律子「それだと春香の負担が大きくなりますが……」

あずさ「春香ちゃんが、今はじっとしていられない、と」

律子「無理して言ってる様子は?」

あずさ「見られません」

律子「わかりました。……余裕が無くなってしまいますけど、
   学校の宿題も合わせてフォローお願いします」

あずさ「はい」

律子「えっと……次は……――あ」

あずさ「…………美希ちゃんですね」

律子「予定は……無し、と」

あずさ「…………」

律子「家族の方の話では、学校にも行って、放課後は友達と遊んでいるってことですけど」

あずさ「……話、してきます」

律子「…………駄目ですよ、あずささん一人では」

あずさ「…………」

律子「行くなら、私か、小鳥さん……他の誰かと一緒に行ってください」

あずさ「………………はい」

律子「よぉし、これで終わりー!」

小鳥「終わりましたか?」

律子「いいタイミングですね、小鳥さん」

小鳥「ふふ、今か今かと終わるのを待っていましたから」

あずさ「それじゃ、戸締りと後片付けをしてきます~」


スタスタスタ



8: 2012/11/20(火) 21:10:42.97

小鳥「あ、あずささ~ん! それも終わってますよ~!」

律子「はは…………素に戻るといつもの…あずささんだ」

高木「終わったかね?」

律子「あ、社長」

小鳥「はい、今日はこれで失礼します」

高木「少し話をしたいのだが……秋月君と小鳥君、時間を少し貸してもらえるだろうか」

律子「……」

小鳥「……」

高木「三浦君のことでな」

律子「わかりました」

小鳥「…………はい」

あずさ「私ですか?」

高木「そうだ。秋月君から三浦君の評価を聞こうと思う」

律子「と、言うわけですから、ここで待っていてください」

あずさ「まあ……」

9: 2012/11/20(火) 21:12:00.31

―――― 社長室


律子「飲み込みが早すぎます」

高木「…………そうか」

律子「教えたこと、覚えておくべきこと、判断基準、私が3ヶ月かかったものを1ヶ月でクリアしてます」

高木「それをどう思う?」

律子「私は、プロデューサーという仕事に憧れがありましたから、嫉妬をするべきところなんですが」

小鳥「……」

律子「ただ、怖いという気持ちが強くて……」

高木「そうか……」

律子「最初は私の手伝いをしてくれるということで、支えてくれましたけど、
   今は春香だけじゃなく、真や貴音の管理もしているので、プロデューサーとしてはいい傾向だと思います」

高木「プロデューサーとしては、か」

小鳥「体力はある方ですけど、健康面では私もチェックをしています」

高木「うむ。……すまないが、よろしく頼むよ、二人とも」

律子小鳥「「 はい 」」


10: 2012/11/20(火) 21:13:21.76


―――― 屋上


あずさ「今日は満月……ですね」


小雪の舞う空。

雲と雲の間を金色に輝く月。


あずさ「はぁー……」


少し悴んだ両手を暖める。


あずさ「ここに、君がいないこと――」


月に話しかけるように。


あずさ「ここに、君がいたこと――」


誰かに届けるように。


あずさ「そこに、私がいなかったこと――」


想いを伝えるように。


あずさ「――そこに、私がいたこと」


それは叶わぬことと知る。


あずさ「…………」



―― チリン。


あずさ「あら?」


鈴の鳴る方へ視線を向けると一匹の黒猫が佇んでいた。


黒猫「……」

あずさ「あなたはどこから入り込んだの?」

黒猫「にゃ」

あずさ「うふふ」


11: 2012/11/20(火) 21:14:41.43


―――― 給湯室


律子「あずささんは、最後の言葉を聞いていないんです」

小鳥「……」

律子「みんな、最後の言葉を交わしました。
   あの美希でさえ、泣かずに現実を受け入れて……」

小鳥「……それなら、どうして」

律子「美希がこの事務所に来なくなったのがその理由なのかもしれません」

小鳥「…………」

律子「その時の最初から見届けた美希。
   その時の最後すら見届けられなかったあずささん。
   その二つの間にある溝……だと思います」

小鳥「……」

律子「…………」


小鳥「あずささんは、変わってしまいました……か?」

律子「気の持ちようって言うんですかね、目的が変わったのかもしれませんよ」

小鳥「目的……今日、聞いてみましょう」

律子「そうですね」

小鳥「あとは……」

律子「やよい、伊織、亜美、真美、響、雪歩。……6人はまだ時間が必要かな……」

小鳥「そうですね……」

律子「さて、行きましょうか」

小鳥「律子さんも、あまり無理をしないでくださいね」

律子「無理なんて、していませんよ」



12: 2012/11/20(火) 21:15:57.21

―――― 事務所前


小鳥「あれ、居ませんね」

律子「おぉーい! あずささぁーん!」


「こっち、こっちですよぉ~」


律子「うえ!?」

小鳥「あ……屋上ですね」


「今、降ります~」


律子「はぁ……びっくりしたぁ」

小鳥「私の部屋にしますか?」

律子「うーん……ここから近いのはいいんですけど」

小鳥「遠慮しないで、泊まっても平気……だよね?」

律子「誰に訊いているんですか」

小鳥「えっと、部屋片付けたかな……」

律子「…………」

あずさ「お待たせしました~」

黒猫「……」

律子「どうしたんですか、そのネコ?」

あずさ「屋上で出会いました~」

黒猫「にゃ」ピョン

あずさ「あっ……!」


テッテッテ


小鳥「行ってしまいましたね」

あずさ「あらあら、残念」

律子「飼うつもりですか?」

あずさ「はい~、事務所でこっそりと」

律子「こっそりって……もう私たちに知られましたけど」

小鳥「あずささん、私の部屋と居酒屋、どっちにします……?」

あずさ「そうですね……小鳥さんのお部屋でいいでしょうか?」


13: 2012/11/20(火) 21:16:53.17

―――― 小鳥の部屋


「「「 かんぱーい 」」」


カキン


小鳥「ごくごくごく」

律子「私はオレンジですけど、あずささん、明日に差し支えが無いようにお願いしますね……」

あずさ「はぃ~、なんれすかぁ~?」ポワァー

律子「あわわわわ、もう酔ってる……!」


14: 2012/11/20(火) 21:18:33.26

――…


律子「くー、すぅー」

小鳥「あらまぁ……、可愛い寝顔だこと」ウフフ


ファサ


律子「う……ん…………」

あずさ「小鳥さん、あの棚にあるものって……」

小鳥「あ……はい。録画したものですよ。見てみますか?」

あずさ「…………」

小鳥「私、思うんです。あの時間は幻じゃなかったと」

あずさ「……はい」

小鳥「ちゃんと、記録だけじゃなく、胸の中にもあるって」

あずさ「…………見たいです」

小鳥「それじゃ、準備しますね」

あずさ「あの、小鳥さんは最後の言葉、聞いたんですよね」

小鳥「…………」

あずさ「なんと、言っていましたか……?」

小鳥「再生しますね」


ピッ


『日曜午後の新発見。神出鬼没の生中継。生っすか!? サンデー』

『この番組は――』



小鳥「『ありがとうございました』と」

あずさ「…………」


15: 2012/11/20(火) 21:19:30.35

――…


あずさ「すぅ……ふぅ……」

律子「くぅーすぅ」

小鳥「すやすや」


『ネーミングはイマイチだけど、これ、美希が知ってるアイスの中でいっちばんおいしいのー』

『うん、うん……!』

『ホントだよ☆ ハニーも食べてみる?』

『ハ、ハニー……ハチミツ……! も入ってるかもね! あは、あははは』


あずさ「……ー…さん」ホロリ


16: 2012/11/20(火) 21:20:32.52

――…


チュンチュン 

 チュンチュン



あずさ「律子さん、律子さん」ユサユサ

律子「うん……んー?」グラグラ

あずさ「朝ですよ~」

律子「あさ……? え、朝!?」

小鳥「洗面器、自由に使ってくだふぁいね」シャカシャカ

律子「私が二人を起こすものだと思ってたのに……!」

あずさ「疲れが溜まっているんじゃないですか?」

律子「そう……なのかも……」

小鳥「あずさふぁん、占いやってまふよ」シャカシャカ

あずさ「……いえ、占いはもういいんです」

律子「え…………?」

小鳥「…………」

あずさ「さぁ、私たちも支度をして、事務所に向かいましょう~」


17: 2012/11/20(火) 21:22:07.23


―――― 事務所


高木「それじゃ、諸君。今日も一日よろしく頼むよ」


「「「 はいっ! 」」」


あずさ「律子さん、これから春香ちゃんと合流してテレビ局に行ってきます」

律子「あぁっと、あずささんが取ってきた仕事ですけど、もう少し慎重に考えてみてください」

あずさ「はぁ……」

律子「悪い話じゃないんですけど、……勘を働かせてみるといいかも」

あずさ「勘、ですか?」

律子「はい。勘です」

あずさ「わかりました。それでは行って来ますね」

律子「はい。行ってらっしゃい」


バタン


高木「秋月君、今のは?」

律子「番組ディレクターが山田さんなんです」

高木「彼か……うむ、気になるな」

律子「色々とよくない噂が立ちますから……って、小鳥さんは何をしているんですか?」

小鳥「嗚呼、あずささんの話を聞かずに自分だけ楽しんでいたのね、私……」ガクッ

律子「ちゃんと聞けなかったんですね……」

小鳥「はい…………嗚呼、もっと気を配るのよ小鳥……」


18: 2012/11/20(火) 21:38:14.73


―――― スタジオ


あずさ「この調子で進めば、午前中にダンスレッスンへ行ける……かな?」

「おはよう、三浦さん」

あずさ「おはようございます」

「高槻やよいはまだ現場復帰してないの?」

あずさ「……はい」

「765プロの事情は知ってるけどさ、こっちもこれ以上の待ちは無理なんですよ」

あずさ「はい、すいません」

「代わり、いないの?」

あずさ「高槻やよいの代わりは……」

「ふぅ~……。それじゃあしょうがないっかぁ」

あずさ「…………」

「他の事務所から――」

「まだ1ヶ月じゃないか。待っても支障はないだろう?」

「う――」

「ほら、君は自分の仕事に戻りたまえ」

「は、はい」


スタスタスタ


「ふんっ、立場を利用して言いたいこというじゃないか。まったく」

あずさ「……その、なんと言ったらいいか」

「あぁ、気にしないでくれ。彼はちょっと良くない噂があってね。
 961事務所と繋がっているとかいないとか……まぁ、そんなことはいい」

あずさ「……?」

「四条貴音、彼女を起用しようと思っているんだ、企画書を持っていってくれ」

あずさ「あ、ありがとうございます」

「彼女の持つ、不可思議な魅力を解明してみようという企画だ。どうだ?」

あずさ「…………」

「うん? どうした?」

あずさ「出演者なんですが……」

「お笑い芸人だけだと問題があるのか?」

あずさ「貴音の魅力を活かせないかと思います」

「……それなら、誰が彼女の魅力を活かせるというんだ?」

あずさ「双海亜美、真美……我那覇響、彼女たちは彼らより付き合いが長いですから」

「ははっ、売込みが上手いなぁ」

19: 2012/11/20(火) 21:40:08.15

あずさ「彼女たちなら、四条貴音の魅力を――」

「なにしてんの、山田ちゃん?」

山田「仕事の話だ。邪魔をするな」

「へへ、怖い怖い~って、おぉ~アイドルの三浦あずさじゃん?」

あずさ「元、です」

「えぇ? 辞めちゃったの???」

あずさ「…………」

山田「向こう行ってろ!」

「へいへい」

山田「仕事の話に戻るけど、落ち目の事務所を起用しようとしてるのにそれはないでしょう」

あずさ「――ッ」

山田「大体ね、その三人はまだ復帰してないじゃないか。過去の栄光に縋っているだけじゃ――」

「すいません、休憩室へ案内してください」

あずさ「あ――!」

山田「うん? 休憩室? ……あんたは確か」

「私の先生があちらでお待ちになっています」

山田「先生?」

「はい、Athena Glory、と言います」

山田「あ、あれは……!」

「先生を待たせないでください」

山田「三浦さん、あの企画も白紙に戻すから!」


タッタッタ


「さすが、世界のオペラ歌手といったところですか」

あずさ「ありがとう、千早ちゃん」

千早「あずささんのスーツ姿、初めて見ましたが、随分と着こなしていますね」

あずさ「うん。……久しぶりね」

千早「はい。と、いっても一ヶ月と少しですよ」

「――!」

千早「Si, ho capito!」

あずさ「あの方はなんと……?」

千早「ここで待ってる、と」

あずさ「まあ、イタリア語はマスターしたのね」

千早「いえ、カタコトです。……髪も伸びましたね」

あずさ「そうなの。……また、伸ばそうと思っています」

千早「…………」

あずさ「勘を働かせてみましたけど……ダメですねこれでは」

千早「……?」

20: 2012/11/20(火) 21:42:18.39


―――― レッスンスタジオ


千早「春香、頑張っているんですね」

あずさ「……千早ちゃんも、頑張ってるみたいね」

千早「私なんて、まだまだですよ」

あずさ「テレビ局で見た人が先生さん、なのよね?」

千早「そうです。歌声の奥深さ、崇高さ、美しさを全て備えています」

あずさ「とても尊敬しているのね」

千早「はい。先生の元で勉強させてもらって……、拾って頂いて私は幸運ですね」

あずさ「……私も千早ちゃんに負けないように頑張らなきゃ」

千早「…………」

あずさ「春香ちゃんも言っていたけれど、、一緒にレッスンを受けたらいいのに」

千早「いえ……。本当は、ここに来るつもりも、あずささんや春香に会うつもりはありませんでした」

あずさ「え……?」

千早「今、ここにいるだけで……ドアの向こうでレッスンを受けている春香を見ただけで、
   強く後ろ髪を引かれるから……」

あずさ「…………」

千早「時間も無いことですし、行きましょうか」

あずさ「どこへ……?」

千早「……美希のところへ」

あずさ「でも、明日にはイタリアへ帰るんでしょう?」

千早「律子から聞きました。今日、日本へ来たのはめぐり合わせかもしれません」


21: 2012/11/20(火) 21:43:44.33

―――― 通学路


千早「ここで待っていればいいんですか?」

あずさ「ええ……。家族の方が言うには、ここで待っていれば会えるはずだと」

千早「会えなくても、それはそれでめぐり合わせとして受け止めます」

あずさ「……」

千早「…………」

あずさ「…………なにか、温かい飲み物買ってくるわね」

千早「あ、おかまいなく」

あずさ「うふふ、いいですから~」


22: 2012/11/20(火) 21:45:42.37


ピッ

ガコン


あずさ「めぐり合わせ……」


薄い雲がかかった空を見上げる。


あずさ「…………」


次第にぼやけていく視界を振り切るように前を見据える。


あずさ「…………」


そして彼女は力強く歩き始める。



23: 2012/11/20(火) 22:00:37.66


―― チリン。


千早「あなたはどこから来たの?」

黒猫「……」

千早「なんだか、不思議な仔……」ナデナデ

黒猫「にゃ」

「千早…さん……?」

千早「……美希…………」

美希「どうして、ここにいるの……?」

千早「先生の仕事の付き添いとして、私が日本に来ることになったの」

美希「そ、そういうことを聞いているんじゃないの」

千早「……そうよね」

美希「……」

千早「これから遊びに行くの?」

美希「そうなの……。今日の予定は、アクセ見て、映画観て、駅前のクレープ屋に行くの」

千早「楽しそうね」

美希「千早さんも行く?」

千早「ごめんなさい、せっかくだけど、私もやらなくてはいけない事があるから」

美希「……ふぅん。…………残念、なの」

千早「美希は最後の言葉を――」

美希「その話はしたくないの」

千早「美希……」

美希「千早さん、海外って楽しい?」

千早「ええ……。大変なことの方が多いけど、充実してる」

美希「事務所にいたときよりも?」

千早「私には両方を比べることなんて出来ない」

美希「…………」

千早「アイドルとしてトップを目指していた自分も好きだから」

美希「ミキも海外に行きたいな……フランスとかいいかも」

千早「美希一人じゃ不安だから、律子と一緒ならある程度上手くいくかもね」

美希「それはいいかも! ……って、ダメだよ。美希は普通に戻っちゃったから」

千早「…………」

美希「もう、戻ることはできないの」

24: 2012/11/20(火) 22:02:51.05

千早「『俺の居る場所までその歌声を届けてくれ』」

美希「――――ッ!」

千早「私はその願いを叶えるつもり」

美希「い、いや……聞きたくない!」

あずさ「美希ちゃん……」

美希「あ、あずさ……!」

あずさ「美希ちゃんも、辞めてしまうの?」

美希「千早さんも、あずさも、二人とも縛られてるだけなの」

あずさ「……っ」

美希「もうあの人は居ないの! あの頃の幻影に取り憑かれているだけなのッ!」

あずさ「ごめんなさい、美希ちゃん」

美希「どうしてあずさが謝るの!?」

あずさ「意思を受け継いだはずなのに、ちゃんと支えてあげられなかった」

美希「な……!」

あずさ「美希ちゃんの望むことが変わったのなら、しょうがないわ」

美希「…………」

あずさ「でも、ステージに立ちたいという気持ちが少しでもあるのなら、私と一緒に頑張ってみませんか?」

美希「…………知らないの」

あずさ「……」

美希「プロデューサーとして板に付いてきたみたいだね」

あずさ「まだまだ、遠くに及ばないけれど……」

美希「代わりになんてなれないの」

千早「美希ッ!」

美希「……っ」

あずさ「突然押しかけたりして、ごめんなさい。今日は帰ります」

美希「…………」

千早「……美希」

美希「……?」

千早「あの頃の日々は幻影なんかじゃないわ。
   今の私の礎になっているのが確かだから、それはハッキリと言える」

美希「……」

千早「それが私の夢になった、それだけのこと」

美希「――――!」


25: 2012/11/20(火) 22:04:06.86

――…


あずさ「夢……?」

千早「はい、『千早の歌声をみんなに届けてくれ』って。それが最後の言葉です」

あずさ「そう……」

千早「美希には少し違った解釈を伝えましたが……」

あずさ「……」

千早「それでは、私はここで失礼します」

あずさ「今日はありがとう。千早ちゃんが一緒に居てくれて心強かったわ」

千早「そう言ってくれると、私も少しだけ強くなれたような気がします」

あずさ「それじゃ……また、ね」

千早「はい。いつの日かまたお会いしましょう」


スタスタスタ


あずさ「ありがとう、千早ちゃん」

黒猫「……」

あずさ「あら……? あなたは……」

黒猫「にゃ」


テッテッテ


あずさ「あらあら、行ってしまったわ……」

28: 2012/11/20(火) 22:17:52.54

―――― 高槻家


律子「ありがとう、千早」

『ううん。これくらいの事しかできないから』

律子「充分よ、とても助かった」

『高槻さんの様子はどう?』

律子「今日会った様子だと、復帰も近いかな」

『そう……良かった。ごめん、事務所が大変な時に……私だけやりたいようにやって』

律子「身の振り方を最初に決めた千早さんが言うことじゃないんじゃない?」

『ふふ、そうね……あ、先生が呼んでる。それじゃ、律子』

律子「うん……」

『あずささん、あの頃とは違ってしっかりしてて、頼れる雰囲気になってた。まるで……』

律子「…………うん」

『あの頃を知ってる分、頼れるというより不安の方が大きい』

律子「あずささんには私たちがいるから、千早は千早で頑張りなさいよ?」

『ええ、そうさせてもらう』

律子「それじゃ、元気で」

『ci vediamo.』


ピッ


律子「ごめん、千早……。私……嘘吐いたわ……」


29: 2012/11/20(火) 22:18:54.14


―――― 事務所前


「――――ん!」

あずさ「あら……?」

「――――」

あずさ「幻聴かしら……?」

「――さ――ん!」

あずさ「うん???」

「あーずーさーさぁぁあああん!!!!」

あずさ「この声は……」

「こっち! こっちですー!!」

あずさ「あ、真ちゃん」

「やっと気づいたぁぁああ!!!」

あずさ「まぁまぁまぁ」


ダダダダダッ


真「やっと掴まえた……と思ったら、事務所に着いちゃった……」

あずさ「汗が……風邪ひいちゃいますよ」

真「だって、200メートルを全速力ですよ。汗ぐらいかきますよ」

あずさ「拭くからじっとしててね」

真「あ、はい……」

あずさ「真ちゃん、それは?」フキフキ

真「あぁ! ケーキが!!」


30: 2012/11/20(火) 22:22:14.37


―――― 事務所


真「ボクが呼びかけてもちっとも気付いてくれないんですよー」

あずさ「あらあら、そうだったの、ごめんなさい」

真「駅からずっと……ですよ?」

小鳥「距離あるけど……ずっと……?」

真「あずささんはスタスタ歩いていくし、ボクはボクでいちいち信号に引っかかるし……」

あずさ「はい、タオル」

真「ありがとうございます。ふぅー、あったかぁい」ホクホク

あずさ「汗をかいて体が冷えてきてるから、暖めなおさないとね」

真「……はい」

小鳥「あー、ケーキが無残な姿に……」

真「せっかくみんなで食べようと思って買ってきたのにぃ……」

あずさ「一つ、いただきます~」

真「おいしくないですよ、きっと……」

あずさ「それは食べてみてからのお楽しみ。もぐもぐ」

真「……どうです?」

あずさ「…………うん」

真「あぁー! やっぱりー!!」

あずさ「喉元を過ぎれば甘さは忘れるっていうから、ね?」

真「いいませんよぉ……」

律子「なんの騒ぎですか?」

小鳥「真ちゃんが持ってきてくれたケーキが……」

律子「あ、それ……ケーキだったのね。新発売のバームクーヘンかと……」

真「どうせボクなんてガサツで粗暴で落ち着きがなくて無作法で無神経でガラの悪いアイドルなんだ」ブツブツ

律子「雪歩並みのネガティブっぷりね……」

あずさ「もう一つ頂いていいかしら?」

真「どうぞ……」

律子「……あ」

あずさ「?」

律子「いえ……なんでもないです」

小鳥「あずささん、よく食べられますね……」

あずさ「いただきます。後で真ちゃんのダンスレッスンにお邪魔しますから」

真「え……?」

律子「珍しいですね……。あずささん……その…………美希と何かありましたか?」

あずさ「……いいえ、特には」

律子「…………」

31: 2012/11/20(火) 22:27:32.23

小鳥「紅茶とホットミルク、どちらにしましょう?」

真「ボク、ホットミルクで!」

あずさ「紅茶を~」

律子「紅茶をお願いします」

小鳥「はい、了解しました~」


スタスタスタ


真「いただきまーす」

律子「それで、雪歩はどうだった?」

真「あまーい! 明日には顔を出すってさ」

あずさ「良かった……」

真「よくない」

あずさ「え……?」

真「雪歩……辞めるって……」

律子「そう言ったの?」

真「……うん。ボクには留めることができなかった」

あずさ「…………」

真「ボクだって……ッ……ボクだってッ」

律子「真……」

真「まだ乗り越えてないのに……ッ」ボロボロ

あずさ「……真ちゃん、こっち向いて」

真「うぅっ……ぐすっ」

あずさ「明日、雪歩ちゃんとは私が話をしてみます」フキフキ

真律子「「 え……? 」」

あずさ「美希ちゃんも……少し迷ってる風でしたから……ちゃんと話をしてみるまでわかりません」

真「美希が……?」グスッ

あずさ「だいじょうぶだから、私に任せて。ね?」

真「う、うん……っ……ありがと、あずささん」

あずさ「……」

33: 2012/11/20(火) 22:29:02.71

真「ボク、顔を洗ってきます!」


テッテッテ


あずさ「……代わりになんてなれない」

律子「あずさ…さん……?」

あずさ「そう、美希ちゃんに言われました」

律子「……美希ったら…………」

あずさ「代わりになろう、なんて思えません。でも、私は……」


―― チリン。


あずさ「あら……」

黒猫「……」

律子「あ、この仔……あずささんが連れてきたんですか?」

あずさ「いえ――」


― ――。


あずさ「――え?」

黒猫「……」

律子「犬やハムスターが出入りする事務所だから、ある程度許容できますけど……」

あずさ「律子さん、声が聞こえませんでしたか?」

律子「声?」

あずさ「『見届ける』って……」

律子「……見届けるって、何をですか?」

あずさ「さぁ?」

律子「あの、首を傾げられても困るんですが……」

真「うわっ! ネコ!?」

黒猫「クァ……」

真「わぁ~、可愛い欠伸~」ナデナデ

律子「ほら、あと10分も無いわよ真!」

真「もうそんな時間なの!?」

律子「そうよ、はやく食べちゃいなさい」

小鳥「はい、ホットですよ」

真「ありが……あれ、小鳥さん……目が……」

小鳥「な、泣いてませんっ」

真「……すいません、ボクがしんみりしちゃったせいで」

小鳥「泣いてないって言ってるのに」ムス

34: 2012/11/20(火) 22:31:35.09

真「あずささん」

あずさ「?」

真「『真は期待に応えられる強い人だ』って、最後の言葉を受け取りました。
   ボク、その言葉を裏切らないように頑張りますからね!」

あずさ「……うん」

真「よぉーし! もぐもぐ!」

律子「あーあー、そんなに急いで食べないの!」

真「むぐっ」

律子「ほらぁ、言わんこっちゃない!」

あずさ「はい、カップ」

真「ごくごく!」

小鳥「……っ」グスッ


35: 2012/11/20(火) 22:34:27.77

――…


真「あずささん! 明日の4時ですよね!?」

あずさ「そうですよ~、遅れないようにしてくださいね~」

真「了ッ解です! うっわー、春香とのレッスン久しぶりだなー!」

律子「気をつけて帰るのよー」

真「分かってるってー! それじゃ、お疲れ様でしたー!」


バタン


律子「……まったく、騒々しいんだから」

あずさ「春香ちゃんも楽しみにしてましたから、明日は鍛えられますね」

律子「そうだといいんですけど」

あずさ「律子さん、春香ちゃんと貴音ちゃんの来週の予定表みてくれますか?」

律子「はい、いいですよ」

あずさ「お願いします」

律子「……ふむ」

あずさ「小鳥さん、領収書のまとめできました」

小鳥「え!? それ私の仕事なんです…よ……?」

あずさ「あら……どうしましょう」

律子「経理に触れる仕事について教えていませんでしたね。
   それも追々ってことで。……それと、スケジュールなんですが」

あずさ「はい」

律子「来週には響も復帰できそうなので、この組み立てを柱に進めましょう」

あずさ「律子さん、やよいちゃんは……」

律子「もう少し……時間かかるかと。……あ、でも、亜美からは連絡ありましたよ」

あずさ「そうですか……」

小鳥「亜美ちゃん、復帰は近いのでしょうか?」

律子「はい、明後日には顔を出すと」

あずさ「まぁまぁまぁ!」

小鳥「祝勝会しましょうー!」ガタッ

律子「やりません……」

36: 2012/11/20(火) 22:35:40.58

あずさ「律子さん、私が二人の予定を」

律子「あずささん、5人も担当するつもりですか……?」

あずさ「はい。やらせてください」

律子「……こういっちゃなんですけど、背負いすぎです」

あずさ「でも、律子さんがスタジオや現場を回っているおかげで、私も自由が利いているんです」

律子「いえ、それは……」

あずさ「今日、現場で少し辛い思いをしました。でも、それは律子さんや社長と同じ辛さのはずです」

律子「…………」

あずさ「私だけ、安全な場所に居て、守られているのは……嫌…です」

小鳥「あずささん……」

律子「わかりました」

あずさ「すいません、生意気なことを言って……」

律子「謝るのは私の方です。あずささんを少し、見縊っていたようです」

あずさ「……」

律子「これから、ビシバシ行きますからね!」

あずさ「…………はい!」


37: 2012/11/20(火) 22:38:18.54

――…


小鳥「そろそろ帰りましょうか」

律子「あぁ、間に合わなかったぁ」

あずさ「あらあら」

律子「まだ仕事が残ってるので、小鳥さんとあずささんは先に帰っててください」

小鳥「それなら、ここで夕飯を食べましょうか」

あずさ「あ、それはいいですね~」

律子「うぅ……すいません」

小鳥「買い物に行きますけど、お二人は何が食べたいですか?」

律子「私はなんでも……」

あずさ「お鍋なんてどうでしょう~、暖まりますよ~」

律子「鍋って……そんな都合よく容器があるわけないじゃないですか」

小鳥「あります」

律子「……え」

小鳥「ありますよ? 社長が、そろそろ鍋の季節だね、と言って持ってきたものが」

律子「用意周到というか、なんというか……」

小鳥「それじゃ、買い物行ってきまーす」


タッタッタ

バタン


律子「小鳥さんが楽しそうなのは気のせい……?」

あずさ「律子さん、ラジオ局のディレクターさんに提出する企画書なんですが……」

律子「……えっと、あのディレクターは全体像より理由付けを重視してますから、
   詳細も合わせていけば納得してくれます」

あずさ「全体像よりもですか?」

律子「はい。さっき話した要点から大体のことを読み取ってくれますので……。
   そのおかげでこっちも気軽になれるんです。とても信頼できる人ですよ」

あずさ「何度かお世話になりましたけど、そういう流れがあったんですね~」

律子「ふふ、伊織と亜美があれだけ自由に話せたのもディレクターの腕のおかげなんです」

あずさ「まぁ~、そうだったんですか~」

律子「……」

あずさ「色々と見えなかったところが見えて……律子さん?」

律子「は、はい?」

あずさ「どうかしました?」

律子「あ、いえ……伊織、どうしてるかな……と」

あずさ「伊織ちゃんのお父さんと一緒にいるんですよね」

律子「ええ……」



38: 2012/11/20(火) 22:39:38.28


――…



小鳥「うぅ……また冷え込んできましたよぉ」

あずさ「おかえりなさ~い」

小鳥「あずささん、これ、黒猫ちゃんにどうぞ」

あずさ「まぁ、わざわざありがとうございます~」

小鳥「さくっと準備しちゃいますね」

あずさ「は~い」

黒猫「……」

あずさ「いぬ美ちゃんの容器を借りましょうか……。はい、にゃんプチですよぉ~」

パカッ


黒猫「……」ジー

あずさ「あら……、お好きじゃなかったのかしら……」

黒猫「ハグ……ハグ…………」

あずさ「仕方なく食べてるような……?」

「あずささぁ~ん、すいませんけど~」

あずさ「あ、は~い」

テッテッテ


黒猫「……ハグ…………ハグ」


39: 2012/11/20(火) 22:40:38.20


――…


律子「終わった~!」

あずさ「お疲れ様です」

律子「あれ、あずささんは何をしているんですか?」

あずさ「企画書のアウトラインを入力中です。これが終われば完成なので……」

律子「それじゃあ、なにか手伝えることありませんか?」

あずさ「いえ、後で指摘してくだされば」

律子「……わかりました。こっちの書類まとめておきます」

あずさ「あ、あぁ……それも……私がやりますから」

律子「いいじゃないですか、小鳥さんがお腹を空かせて待ってますよ。早く終わらせましょう」

あずさ「でも……」

律子「でもじゃありません。何でも背負い込もうとしないでください」

あずさ「……はい。ありがとうございます」



40: 2012/11/20(火) 22:42:03.25


――…


グツグツグツ


「「「 いただきま~す 」」」


律子「もぐもぐもぐ……ん~、暖まるぅ~」

小鳥「これで炬燵があれば……」

律子「いやいやいや、事務所にコタツなんて置いたら、亜美と真美が堕落してしまいますよ」

小鳥「ふふ」

あずさ「……」

黒猫「」スヤスヤ

律子「あずささん?」

あずさ「黒猫ちゃん、食べ残してます……」

小鳥「次はニャンコまっしぐらを買ってきますね」

黒猫「……」ピクピク

律子「自分のこと話してるって気付いてるような反応ですね。……このネコ、どうします?」

あずさ「こっそり飼う、なんて言いましたけど……しばらくは様子を見ようと思います」

小鳥「様子……ですか?」

あずさ「人に飼われるような猫さんじゃないような気がして」

律子「うん……?」

あずさ「いえ、なんとなくです。懐いてくれるようだったら、私の家に連れて帰ります」

小鳥「……」

律子「よく分かりませんけど、ネコはあずささん担当ってことですね」

あずさ「うふふ、しっかり面倒を見ますからね~」

黒猫「……」

小鳥「はふっ、ほふっ……ふぅー、あふいでふけど、……それが心まで温めてくれますね」

律子「白滝をいただきます」

あずさ「ダンスレッスンのおかげで、食が進みます~」

律子「私はすぐにへばったのに、あずささんよく真に付いていきましたよね」モグモグ

小鳥「運動でもしてるんですか?」モグモグ

あずさ「体が資本ですから、体力が落ちないように、週に4回走ってます~」

律子「……」

小鳥「……」

あずさ「朝、走るのは気持ちがいいんですよ~。近所の方と挨拶を交わせますし、
    なにより仕事に向かうときに、よぉし、って気持ちを高めてくれますから~」

律子「…………」

小鳥「あずささんを、そこまで突き動かすものは……なんですか?」

あずさ「……はい…………?」

41: 2012/11/20(火) 22:47:22.16

小鳥「あの日から、沈んでいた事務所の雰囲気を支えてくれました。
   春香ちゃんも、真ちゃんも、貴音ちゃんもそう言っていました……私もです」

あずさ「……」

小鳥「あずささんを支えているものって、なんですか?」

あずさ「……美希ちゃんに言われてしまいました。
    もうあの人は居ない、あの頃の幻影に取り憑かれているだけ、と」

律子「……っ」

あずさ「それを聞いて、意思を受け継いだ……なんて、思い上がりだと気付きました」

小鳥「……」

あずさ「私、考えてみたんです。
    最後の言葉を聞けずにいた私ですけど、だからこそ……プロデューサーとしてみんなを応援したいって」

律子「あずささん……っ」

あずさ「千早ちゃんの夢を聞いて、私もいつの間にか、……それが夢になっていました」

小鳥「……」

あずさ「みんなとてっぺんを目指そう…………なんてこと、思っちゃっています」

律子「頑張りましょう、あずささんッ」ギュッ

あずさ「りつ…こ……さん?」

律子「私はモーレツに感動しましたっ!」

あずさ「は、はぁ……」

小鳥「私も……ぐすっ……頑張りますから……っ」

あずさ「……」

律子「私ね、最近、食欲が落ち気味だったんですよ」

あずさ「ちゃんと食べてなかったんですか……?」

律子「一応食べてました。ご飯ではなく、栄養食品ですけど」

あずさ「昨日もそんなに食べていませんでしたね……」

小鳥「どうして……」

律子「『みんなを包む柔らかさで守ってやれ』」

あずさ「……」

律子「最後の言葉、私に向けられた言葉じゃないような気がして……。
   ずっと心のどこかで引っかかっていたんです」

小鳥「……」

律子「だけど、あずささんの話を聞いて吹っ切れたというか、俄然やる気が出ました!」

あずさ「あらあら、なんだか恥ずかしいです~」

42: 2012/11/20(火) 22:48:27.76

律子「明日からまた頑張れるよう、たくさん食べましょう」

小鳥「律子さん、取り分けますからお茶碗を貸してください」

律子「あ、いえ。自分でやりますから」

あずさ「律子さん、しいたけ、避けてますよね?」

律子「う……」

小鳥「やっぱり……、好き嫌いはダメですよ……どうぞ」

律子「洞察力も鋭くなって……」

あずさ「うふふ」

律子「そういえば、あずささんが取ってきた仕事の件、どうなりました?」

あずさ「白紙になっちゃいました。春香ちゃんにも伝えたんですが、わかりました、と」

律子「そうですか……私としてはそれで良かったと思います。色々と噂を聞いていますから」

あずさ「そうなんですか……」

律子「出演者の扱いがぞんざいなんです。まぁ、影響力のある人ですから、利用すれば……とは思いますけど」

あずさ「うちは今、体力がありませんよね」

律子「そういうことです。無理して足場を崩す必要なんてありません」

小鳥「どうぞ」スッ

律子「うぅ……しいたけばっかり……」


43: 2012/11/20(火) 22:49:25.24

――…


律子「こんな時間まで付き合ってくれて、ありがとうございました」

小鳥「いえいえ」

あずさ「今度はみんなと一緒に鍋を囲みたいですね」

律子「はい、……必ずやりましょう」

小鳥「……」コクリ

黒猫「にゃ」


テッテッテ


あずさ「あの仔、どこで寝ているんでしょう……?」

小鳥「どこからか流れ着いたネコみたいですね、以前は見られませんでしたから」

あずさ「…………」

律子「それじゃ、また明日」

あずさ「はい、お疲れ様でした~」

小鳥「お疲れ様です」


44: 2012/11/20(火) 22:50:41.22


―――― あずさの部屋



あずさ「……ふぅ」


風呂から上がり小さめのコップに入ったむぎ茶を飲み干す。


あずさ「よいしょっと……」

ピッ


~♪


あずさ「……さて、と」


部屋の中にまだ世間には発表されていない曲が流れ始めた。


あずさ「……」


ノートパソコンに向かいキーボードを打つ彼女。


あずさ「…………」


姿勢を崩さず表情を緩めずに、ただ信じたことをひたすら突き進むように。


45: 2012/11/20(火) 22:51:29.88


―――― 事務所前



小鳥「うぅ~、さむいぃ~」ブルブル

あずさ「おはようございます~」ホカホカ

小鳥「おは…………あずささん、温かそうですね……?」

あずさ「実は……上着の中に……じゃ~ん」

黒猫「……」

小鳥「こら、世の男性方が羨ましがるような場所にいるんだぞ、君は」

あずさ「この仔、付かず離れずの位置を保っているので、思い切って捕まえちゃいました」

黒猫「……にゃ」

小鳥「ネコは温かい場所が好きだ言いますけど……この仔……」

あずさ「困ってるみたいですね」

黒猫「……」


46: 2012/11/20(火) 22:54:00.27


―――― 事務所


黒猫「……」クシクシ

律子「それじゃ、打ち合わせ行って来ます!」

小鳥「行ってらっしゃい、気をつけてくださいね」

律子「はーい、あ、あずささぁーん!」

あずさ「は~い!」

律子「春香と真のレッスン……それと……雪歩のこと頼みますよ!」

あずさ「は~い、わかりました~!」

律子「行ってきまーす!」


バタン


あずさ「それでは、私も打ち合わせに行ってきます。午前中には戻れると思いますので」

小鳥「わかりました。今日も冷えますから、暖かくしてくださいね」

あずさ「は~い」

黒猫「……」

あずさ「行ってきます」ナデナデ

黒猫「にゃ」


バタン


小鳥「……さて、と……企業の研究をしておこうかな……」


ギィ……


小鳥「?」

「…………おは…よ……ご……い……す」

小鳥「…………雪歩……ちゃん」

黒猫「……」


51: 2012/11/21(水) 09:02:55.35

―――― 会議室前


あずさ「お疲れ様でした~」


バタン


あずさ「…………えっと、次は」

「……よぉ」

あずさ「あら……?」

「さっさと戻って来いよ、オマエらが居なくなって張り合いがねえ」

あずさ「……えぇっと……はい」

「ふん、……じゃあな」


スタスタスタ


あずさ「お名前は…確か……砂志須瀬草汰さんでした……ね、はい」


52: 2012/11/21(水) 09:04:33.93


―――― スーパー



あずさ「えっとぉ……ニャンコまっしぐら……は……」


pipipipipi


あずさ「あらあら、小鳥さんかしら……?」


ピッ


あずさ「……もしもし……はい。今ですか? スーパーで買い足しをしています。
    ちょうどよかった。事務所で必要なものも一緒に……え? 
    はい、これから戻りますよ。……はい、わかりました~」


ピッ


あずさ「迷ってはいられませんね…………えっと、……すいません、店員さ~ん」

店員「はい、なにかお探しですか?」

あずさ「ニャンコまっしぐらを探しています~」

店員「ペットフードコーナーはこちらになります」


54: 2012/11/21(水) 09:11:10.74


―――― 事務所


小鳥「これから戻られるそうです」

律子「それで、社長はなんと……?」

小鳥「なにも……。ただ、彼女の意思は尊重するみたいで……」

律子「そうですよね……続けたいという意思が無い人を……いつまでも……っ」

小鳥「律子さん……」

律子「だ、大丈夫……ですけどっ……少し…キツイかな……」

小鳥「同じ時期に入ってきましたからね……」

律子「何も言わないで……行くなんて…………っ」

小鳥「……」

律子「一緒に頑張ってきたのに……一緒に乗り越えてきたのに……こんな終わり方って……っ」

小鳥「…………」

律子「すいません、外で頭……冷やしてきます」


スタスタスタ


バタン


小鳥「…………」


55: 2012/11/21(水) 09:13:04.18


――…


あずさ「ただいま戻りました~」

小鳥「……あずささん…………」

あずさ「あら……黒猫ちゃん……?」

小鳥「そういえば……朝に見て以来、姿を見ていません……」

あずさ「そうですか……。小鳥さん……電話ではなにか急いでいるみたいでしたけど……」

小鳥「あの……あずささん」

あずさ「……はい」

小鳥「朝、あずささんと入れ違いに雪歩ちゃんが事務所に来て……これを」

あずさ「手紙……ですか?」

小鳥「はい。私達に向けた内容です。あと、社長と少し話をして帰りました」

あずさ「…………」

小鳥「手紙はお詫びと謝辞、社長へは辞める趣旨を伝えて……事務所を後にしました」

あずさ「……そうですか」

小鳥「……」

あずさ「…………律子さんにはこの話……」

小鳥「はい。すぐに連絡して戻ってきてもらいました。……今は外に出ています」

あずさ「……」

小鳥「……どうしますか? 春香ちゃんと真ちゃんを待って――」

あずさ「いえ……」

小鳥「……」

あずさ「真ちゃんの話では午後と聞いていました。
    時間をずらしたのは、私や律子さんと顔を合わせづらかったからだと思います……」

小鳥「……」

あずさ「だから……今は……」



56: 2012/11/21(水) 09:15:15.88


―――― 公園


雪歩「……あなたも一人なの?」

黒猫「……」

雪歩「…………」

黒猫「……」

雪歩「……っ」

黒猫「にゃ」


テッテッテ


雪歩「あ……」


雪歩「……独りに…なっちゃった」


雪歩「……」


雪歩「……うっ」


雪歩「うぅ……っ」


雪歩「…ぁ…っ……ぁぁ」


雪歩「ぁぁ……っ」


雪歩「なんで……こんな……っ」


雪歩「ぅ…っ………」



―― チリン。


57: 2012/11/21(水) 09:16:29.92

あずさ「風邪、ひきますよ」

雪歩「……あず…ささん……?」

あずさ「はい」

雪歩「ぐすっ」

あずさ「どうして、泣いているんですか?」

雪歩「そ…それは……」

あずさ「どうして、寒空の下、公園に独りでいるんですか?」

雪歩「……ぐすっ」

あずさ「どうして、辞めようと思ったのですか?」

雪歩「……ぅ…っ」

あずさ「私は、雪歩ちゃんのことを何も知らないみたいです」

雪歩「うぅ……っ」ポロポロ

あずさ「雪歩ちゃんのことを聞かせてくださいませんか?」

雪歩「うああぁぁぁぁ!! あずささぁぁぁん!!!」

あずさ「雪歩ちゃん……」

黒猫「……」


58: 2012/11/21(水) 09:19:04.65

――…


あずさ「お茶でいいですよね、どうぞ」

雪歩「ありが…とう……ございます……。上着、返します」

あずさ「その格好、寒いでしょう? 私はいいですから、使ってください」

雪歩「でも……あずささんが……」

あずさ「黒猫ちゃん、こっちにおいで」ポンポン

黒猫「……」ピョン

あずさ「こうやって黒猫ちゃんが膝の上に乗っていれば少しは暖か……くしゅっ」

雪歩「か、返します!」

あずさ「平気ですから……」

雪歩「……っ」

あずさ「事務所に戻れば温かいですよ…………なんて、少し強引でしたね」

雪歩「っ……」

あずさ「……私は、雪歩ちゃんが事務所を辞めることを決心してしまったのなら、
    それはしょうがないことだと思って諦めます」

雪歩「……っ」

あずさ「雪歩ちゃんの人生ですから、私が口を挟めることではないと思います」

雪歩「…………はい」

あずさ「でも、雪歩ちゃんが何かを我慢して、アイドルを辞めるというのなら話は別です」

雪歩「……!」

あずさ「私には――」

雪歩「わ……私は……私にはもう無理なんです……」

あずさ「……」

雪歩「真ちゃんに会わないように……わざと時間をずらして事務所に……行きました」

あずさ「……」

雪歩「律子さんが……事務所から出て行くのを確認して……階段を上りました」

あずさ「……」

雪歩「あずささんが扉の向こうから出てくるのを知って……隠れました」

あずさ「……」

雪歩「こんなダメな私は――」

あずさ「でも、小鳥さんと社長さんには顔を合わせています」

雪歩「それは……ケジメをつける為……です。後戻りをしないように……です」

あずさ「それは勇気のいることだったと思います」

雪歩「――ッ!」

あずさ「だから私は雪歩ちゃんから直接辞める理由を聞かない限り納得できないと思いました」

雪歩「うぅ……ぅ……っ」グスッ

あずさ「……」

59: 2012/11/21(水) 09:22:46.29

雪歩「私で……最後でした……」

あずさ「え……?」

雪歩「私が駆けつけた時………みんな揃っていて……」グスッ

あずさ「…………」

雪歩「…………雪のように冷たい手を握って……、
   最後の言葉を聞いたんです『臆病な分、とても勇気が要るはずだ』」グスッ

あずさ「…………」

雪歩「目の前が真っ白になって、ただただ泣くだけで、何も応えられずに…………うぅ……」ボロボロ

あずさ「雪歩ちゃん……」


ギュ


雪歩「あの冷たい感触が……こわく…て……さいご……の…さ…いご……で……わ、わたしっ」ボロボロ

あずさ「……」

雪歩「なにも…いえな……かった…です……っ」ボロボロ

あずさ「私の手、どうですか……?」

雪歩「ぅ……っ………!」ボロボロ

あずさ「その感触を覚えていてください、そして、私の手の感触も覚えていてください」


ギュウウ


雪歩「うぅ……うぅぅ……っ」ボロボロ

あずさ「それが……伝えたかったことだと思います」

雪歩「ぅぅ…ぁ……っ……ぁぁっ!」ボロボロ

あずさ「…………ずっと……握っていますから」




60: 2012/11/21(水) 09:24:12.05


――…



雪歩「暖かいです……ぐすっ」

あずさ「……」

雪歩「……この仔…あずささんが飼っているんですか……?」

黒猫「……」

あずさ「うん……そうなるのかな……?」

雪歩「この仔、いつの間にか私の側にいたんです……」

あずさ「…………」

黒猫「にゃ」ピョン

雪歩「あ……」


テッテッテ


雪歩「……行っちゃった」

あずさ「時期に戻ってくると思います。……今の時間なら、春香ちゃんたちと合流できますね」

雪歩「あ、あの……見学しても…いいですか……?」

あずさ「はい」



61: 2012/11/21(水) 09:25:37.57


―――― 高槻家


「…………」

「――姉ちゃん」

「……え?」

「ずっと呼んでたのに……」

「あ……ごめんね、すぐ晩ご飯作るからね」

「…………そうじゃなくて……」

「……?」

「どこか痛いの……?」

「どうして?」

「だって…………」

「どこも痛くないよ、元気、元気ー」

「…っ…ひっく……ふぇぇ……」

「ど、どうして浩司が泣くのっ……?」

「うっ……うぁぁぁん!」

「か、かすみまで……っ」

「……ぅ……んー!」

「あ、あぁ……! こうぞう…泣かないで……っ!」

「ただいまー……どうしたの、やよい姉ちゃん……」



62: 2012/11/21(水) 09:27:26.73


―――― 事務所


あずさ「ただいま戻りました~」

律子「どうでした、雪歩は」

あずさ「春香ちゃんと真ちゃんのレッスンを見学するだけでした」

律子「もぅ……、どうせだったら一緒にレッスン受ければいいのに……。
   ブランクは命取りなんだから……」

あずさ「あら~、律子さん」

律子「なんですか?」

あずさ「先ほど、怒ってらっしゃったのに~」

律子「と、当然じゃないですか! 勝手に辞めるなんて普通なら許されませんよ!」

あずさ「あらあら、うふふ」

律子「その全てを見透かしたような笑い方やめてくださいよぉ」

あずさ「それはそうと、シロちゃん、まだ戻ってきてないんですね~?」

小鳥「シロちゃん……?」

あずさ「黒猫ちゃんのお名前です~」

小鳥「黒猫なのに!?」

律子「さて、と。聞かなかったことにして仕事にも~どろっと~」

あずさ「ご機嫌ですね、律子さん」

律子「さぁ、それはどうでしょう」


プルルルルル


小鳥「おっと、電話電話」

律子「大体、まだ怒っているんですよ私は」

あずさ「さ~てと~、仕事の続きを~」


ガチャ


小鳥「はい、765プロです」

律子「今日の分はもう終わってるじゃないですか、それより話はまだ終わっていませんよ」

あずさ「え、え~とぉ~」

小鳥「もしもし、やよいちゃん?」

あずさ「?」

小鳥「どうしたの?」

律子「……」

小鳥「落ち着いてからでいいからね、ゆっくり話してみて」

あずさ「…………」


63: 2012/11/21(水) 09:29:04.23


―――― 高槻家


ピンポーン


あずさ「……」


ドタドタドタドタ


ガラガラガラガラ


「……」

あずさ「初めまして、私、765プロの三浦あずさと申します」

「…………しーさー姉ちゃんは……?」

あずさ「は、はい……?」

「浩太郎……挨拶しなきゃダメでしょ?」

浩太郎「は、はじめまして……」

あずさ「はい、初めまして。……お久しぶりね、やよいちゃん」

やよい「はい……すみません……あずささん…………」

あずさ「ううん、いいのよ。どんどん頼ってくれていいから、ね?」

やよい「…………」


66: 2012/11/21(水) 19:26:24.38

――…


あずさ「と~きには、いそぎすぎて~みうしなう、こともあるよ~、しかたな~い」

こうぞう「……ん……ん」

あずさ「ずぅっとみまもっているからって~えがおで~いつものように~だきしめ~た~」

こうぞう「……ん」

あずさ「あなたのえがおに~なんどたすけられただろう~」

こうぞう「すやすや」

あずさ「ありがとう~ありがとう~…………べすとふれんど……」

こうぞう「すやすや」

あずさ「寝ちゃいましたね」

やよい「そのベッドの上に……」

あずさ「はぁい……」


67: 2012/11/21(水) 19:27:39.64

あずさ「……ふぅ」

やよい「ありがとうございます」

あずさ「赤ちゃんを抱っこした経験ってあまりないから、とても緊張しました~」

やよい「そうなんですか? とっても上手にあやしてましたよ」

あずさ「ふふ。次は何をしましょう?」

やよい「居間で座って待っててください。お茶を持っていきますね」

あずさ「お願いね」

やよい「は、はいっ」


タッタッタ


あずさ「え~っと、居間はどこかしら……?」

「……こっち」

あずさ「あら、かすみちゃんね?」

かすみ「……うん」

あずさ「初めまして、私、三浦あずさと――」

かすみ「知ってる……よ」

あずさ「あら、そうなの?」

かすみ「……うん。やよいお姉ちゃんがたくさん話、してくれたから」

あずさ「そうですか」

かすみ「最近……してくれないけど……」

あずさ「……」

浩太郎「ねぇ、しーさー姉ちゃんは?」

あずさ「えっと、しーさー姉ちゃんとは誰のことでしょう?」

こうぞう「……ん…」

あずさ「! さぁさ、居間にいきましょう~」



68: 2012/11/21(水) 19:29:32.96

――…


「なんとかさーって言うお姉ちゃんのことだよ」

あずさ「まぁ……! シロちゃん!?」

黒猫「……」

「あの、お姉ちゃん……?」

あずさ「あ、えっと、なんですか?」

「浩太郎が言ってるのは、なんとかさーって言うお姉ちゃんのこと……」

あずさ「あ、あぁー……響ちゃんのこと……ですね」

浩太郎「来ないの……?」

あずさ「ごめんね、今日は来れないの」

浩太郎「……そっか……」

あずさ「あなたが長介くんね?」

長介「……うん」

かすみ「どうして名前知ってるの?」

あずさ「やよいちゃんから聞いてるの。
    長女のかすみちゃん。
    長男の長介くん。
    次男の浩太郎くん」

かすみ「うれしい……!」

あずさ「そして三男の浩司くん……はどこかしら?」

長介「やよい姉ちゃんにくっついてる。……邪魔になるって言ってるけど……」

あずさ「……そう。……ところで」

長介「?」

あずさ「その仔、どこで……?」

長介「こいつ? 庭から家の中を覗いてたから、捕まえた」

あずさ「まぁ……付いて来たのかしら……?」

黒猫「……にゃ」

69: 2012/11/21(水) 19:31:09.49

浩太郎「遊んで~」

かすみ「うん……!」

あずさ「そうですね~、それじゃあ、アルプス一万尺を知っていますか?」

かすみ「うん! 知ってる!」

浩太郎「なにそれ~?」

あずさ「手遊びといって、手を叩きあって遊ぶんですよ。かすみちゃん、相手してくれる?」

かすみ「うん」

あずさかすみ「「 せっせっせ~のよいよいよい! 」」

あずさ「あ~る~ぷ~す~」スカッ

かすみ「いちま~んじゃ~く~」スカッ


スカッ スカッ スカッ


あずさ「あら~?」

かすみ「……」

浩太郎「へんなの~」

長介「全然合ってない……」

やよい「長介、浩司みててくれる?」

長介「うん、浩司、こっちこい」

浩司「……」

あずさ「え~と、最初はこう……?」

かすみ「ううん……こっち」

あずさ「こっちね」


パチン


かすみ「うん……!」

やよい「アルプス一万尺ですね? 亜美たちとやりました」

あずさ「みててね、やよいちゃん。さぁ、もう一度」

かすみ「うん」

かすみあずさ「「 せっせっせ~のよいよいよい! 」」

あずさ「あ~る~ぷ~す~」ペチペチ

かすみ「いちま~んじゃ~く~」ペチペチ

あずさ「こ~や~りの~」スカッ

かすみ「う~えで~」スカッ


スカスカッ


あずさ「難しいですね~」

かすみ「もう一回しよ!」

あずさ「うふふ、いいですよ~」

70: 2012/11/21(水) 19:32:14.52

やよい「…………」

長介「やよい姉ちゃん、台所……」

やよい「あ、いけないっ」


タッタッタ


浩太郎「つまんないー!」

あずさ「あらあら、ごめんなさい。そうですね、外で遊びましょうか」

浩太郎「うん!」

かすみ「わたしも」

浩司「あそぶぅ!」

あずさ「長介くんはどうしますか?」

長介「こうぞう見てるから」

あずさ「わかりました」



あずさ「やよいちゃん、私達、お外で遊んできます~」

やよい「あ、はい。……みんな、あずさお姉ちゃんの言うことよく聞くんだよ?」

あずさ「まぁ……!」

「「「 はーい 」」」

やよい「よろしくお願いします、あずささん」

あずさ「はい、あずさお姉ちゃん、頑張ります~」


71: 2012/11/21(水) 19:33:50.44

――…


あずさ「だ~るまさんが~こ~ろんだ!」

浩司「……」

かすみ「……」

浩太郎「……」

あずさ「……」ジーッ

浩司「…………」フラフラ

かすみ「………………」

浩太郎「……………………」

あずさ「……」ジーッ

浩太郎「……」ピクッ

あずさ「浩太郎くん、動きました~!」

浩太郎「あー、ずる~い~!!!」

あずさ「うふふ、さぁ、捕まっていてくださいね~」

浩太郎「ぶーぶー!」

律子「今のは待ちすぎじゃないですか……?」

あずさ「律子さん……、もうそんな時間ですか」

かすみ「つづきー!」

浩司「つーづーきー!」

あずさ「日も沈んでしまいましたから、これで最後ですよ~?」

浩太郎「はやくはやく~」

律子「はは……それじゃ、やよいの手伝いしてきます……」

あずさ「は~い、それでは……だ~るまさんが~」

72: 2012/11/21(水) 19:34:37.32


ガラガラガラ


律子「お邪魔しま~す」


ドタドタドタ


長介「また知らない人がきた」

律子「はいはい、お邪魔するわよぉ」


ズカズカズカ


律子「やよい、準備できてる?」

やよい「……あ、律子さん。はい、出汁をとっている所です」

律子「よしよし、ほら、たくさん買ってきたから、たくさん食べましょう」

やよい「……はい、ありがとうございます」

律子「水切りかご貸してくれる?」

やよい「あの……律子さん」

律子「仕事の話は無し」

やよい「……」

律子「とりあえず、お腹いっぱい食べましょ」

やよい「……はい」


73: 2012/11/21(水) 19:36:53.09

――…


あずさ「それでは……」

「「「 いただきまーす 」」」

律子「うん、おいしいわ」

小鳥「ん~、高槻家秘伝の出汁がもやしと華麗に絡み合い、さっぱりとした味わいを生み出している!
   それでいてシャキシャキと口の中で響きあう食感が食欲をさらに増幅してくれるわ!」

浩太郎「おいしー」

あずさ「もやし鍋って初めてですけど、癖になっちゃいそうです~」

律子「それで、どうしてこの仔がここにいるんですか?」

黒猫「……ハグ……ハグ」

かすみ「ねこまんま、おいしい?」

黒猫「……にゃ」

あずさ「私に付いて来たみたいで、お庭で眺めていたそうです」

律子「よくわからないネコですね」

小鳥「豚バラ肉と唐辛子の絶妙な二人三脚!」

浩司「おねーちゃん……?」

やよい「え?」

浩司「たべ……ない……?」

やよい「う、ううん、食べるよー。ほら、浩司もたくさん食べないと、残しちゃダメだよー?」

浩司「うん……」

あずさ「……」

律子「ほら、にらも食べなさい。好き嫌いしてたら大きくなれないわよ」スッ

浩太郎「うぅ……」

長介「もぐもぐ」


74: 2012/11/21(水) 19:41:35.20

――…


「こんなに、たくさんのしあわせ~かんじるときは~しゅんかんで~」


律子「あずささん……この曲を子守唄にしてるんだ……」

やよい「最近のこうぞう、なかなか泣き止まなくて困っていたんですけど、
    あずささんがあやしてくれると、すぐ泣き止んでくれて……」

小鳥「母性愛かしら……」

やよい「……」


「ここにいる、すべてのなかまから~さいこうの~ぷれぜんと~」


小鳥「春香ちゃんや真ちゃん、雪歩ちゃんもここに来たいって言っていたのよ」

やよい「……」

小鳥「大人数で押しかけるのもなんだから、今回は我慢してもらったけど……」

律子「やよいの顔をみたかっただけかもしれないけどね」

やよい「……っ」


「まだまだやれるよ~だっていつでも~みんなそばにいる~」


やよい「わたし……お姉ちゃんなのに……浩司やかすみを不安にさせちゃって……」

小鳥「……」

やよい「どうにかしなきゃってわかってるのに……なにもできなくて……」

律子「……」


「きっと、いまここでやりとげられること~どんなことも~ちからにかわる~」


やよい「もっと頑張らなきゃって……思うのに……」

律子「ゆっくりいきましょ、やよい」

やよい「……」

律子「事務所に電話してくれて、私、嬉しかったんだから」


「ずっとみまもっているから、ってえがおで~」


やよい「……」

律子「辛く厳しいときでも明るくて元気なやよい。だけど、それでも乗り越えられないものはあるわ」

小鳥「……」

律子「やよいの笑顔に何度も助けられたから、なにかお返しをしてあげたいって、春香達が言ってたわ。もちろん、私達も」


「いつも~のように~だきしめ~た~」


75: 2012/11/21(水) 19:43:04.39

律子「嬉しかった、なんて……失言だったわね、ごめんなさい」

やよい「…………」

律子「やよいが居なくなったら、765プロはより厳しい状況になるわ」

小鳥「……」


「みんなのえがおに~なんどたすけられただろう~」


律子「だけど、無理してまで頑張らないでほしい。……特に今は、ね」

やよい「……はい」

小鳥「……」

黒猫「……」


「ありがとう~ありがとう~…………べすとふれんど」


律子「私もコーラスで歌えばよかったかしら」

小鳥「デュエットもいけますね」

やよい「あの……!」


ドタドタドタ


浩司「おふろーでたー」

浩太郎「いいゆだったー」

かすみ「いいゆかげんでした」

律子「それ、どこで覚えたのよあなたたち……むっ!?」キラン

やよい「寝る準備しますよー」

浩司「おねーちゃん、げんき……でた?」

やよい「うん!」

律子「やよいっ! ドライヤーはどこ!?」

やよい「え、えっと……あずささんの居る部屋ですけど」

律子「おいでっ、かすみ!」グイッ

かすみ「ひゃっ」

あずさ「あらあら、どうしたんですか?」

律子「フフフ、近い将来姉妹ユニットが誕生しますよあずささん」フフフ

かすみ「あずさお姉ちゃん……怖いよ」ブルブル

あずさ「律子さん、強引には……」

律子「これからドライヤーの使い方をレクチャーするから、毎日風呂上りには欠かさずすること」

かすみ「やぁ……」

こうじろう「んー……」

あずさ「あらあらあら、起きてしまいます~」


76: 2012/11/21(水) 19:45:00.74

――…


律子「それじゃ、ちゃんと寝るのよ」

あずさ「おやすみ~」

「「「 はーい、おやすみなさーい 」」」

律子「おやすみ」


スゥー バタン


律子「そろそろ帰りますか」

あずさ「そうですね、いい時間ですし……」


「千早さん帰って来てたんですか!?」


あずさ「……?」


小鳥「そうよ、日本での撮影があるらしくて、来日なされたときに千早ちゃんも一緒に」

やよい「うー、会いたかったですぅ」


あずさ「……」

律子「なんだか、二人並んで洗い物をしてる後姿はまるで……」

やよい「あ、ありがとうございました!」

あずさ「これくらいいいのよ~」

小鳥「律子さん、まるで……なんですか?」ニコニコ

律子「えっと……その、ですね」

小鳥「まるで、姉妹のようだ、ですよね」ニコニコ

律子「そういうことですね、はい」

やよい「えへへ、頼れるお姉ちゃんが三人も増えたみたいで、嬉しいですー」

小鳥「まぁ、やよいちゃんったら……」テレテレ

律子「さて、洗い物も終わったようですし、帰りましょうか」

長介「お姉ちゃん、ちょっといい?」

あずさ「は、はい……私ですか?」

長介「うん」

あずさ「?」


スタスタスタ


77: 2012/11/21(水) 19:46:44.46


長介「やよい姉ちゃん、アイドルやってなかったから、元気が無いと思ったんだけど……違うの?」

あずさ「…………」

長介「お姉ちゃん……?」

あずさ「あ……えっと……」

長介「?」

あずさ「…………とても……悲しいことがあったの」

長介「かなしい……こと……」

あずさ「……その出来事が私達の胸をとても強く締め付けています」

長介「やよい姉ちゃんも……?」

あずさ「そうです」

長介「で、でも、やよい姉ちゃん……お姉ちゃんの子守唄きいてどんどん元気になった」

あずさ「唄を……ですか……」

長介「だから、アイドルをやりたいんだって思ったんだ」

あずさ「…………」



小鳥「今日は三人でボイスレッスンをして、律子さんと貴音ちゃんで雑誌の取材が入ってて」

やよい「そうなんですかぁー」

律子「明日は……新曲の勉強会ね」

やよい「うぅー、新曲ですかぁー。とっても気になります」



あずさ「…………」

長介「またアイドルをやれば元気になるでしょ?」

あずさ「……はい」

長介「じゃあ、俺頑張るから、家のこと今まで以上に頑張るから、
   こうぞうも浩司も浩太郎もかすみもちゃんと面倒みるから、やよい姉ちゃんをまたアイドルにしてよ」

あずさ「…………」

長介「やよい姉ちゃん、大丈夫だよって言うだけで……、大丈夫っていうのに悲しい顔してたんだ……」

あずさ「わかりました。私に任せてください」

長介「……」

あずさ「明日からやよいちゃんの為に、一緒に頑張りましょう、長介くん」

長介「う、うん!」


78: 2012/11/21(水) 19:48:28.92

―――― 玄関


やよい「ありがとうございましたぁ!」

小鳥「また一緒にお食事しましょうね」

やよい「はい! またご招待しますね!」

律子「あまり夜更かししないで、さっさと寝るのよ」

やよい「はーい、大丈夫ですー!」

あずさ「やよいちゃん、これを」

やよい「なんですか?」

あずさ「新曲の歌詞です」

やよい「え……?」

あずさ「明日の勉強会、必ず参加してくださいね」

やよい「…………」

あずさ「……」

長介「やよい姉ちゃん、また前みたいに俺も頑張るから」

やよい「長介……」

長介「だから、やよい姉ちゃんもアイドル頑張ってよ……」

やよい「う……うん……っ」グスッ

あずさ「私も、やよいちゃんを頼りにしていますから」

やよい「うぅ……っ……」ボロボロ

律子「やよい……」

やよい「『優しさはみんなに伝わる』って最後の言葉……よく…わからなかったんです……」ボロボロ

あずさ「……」

やよい「あずささんがっ……かすみに…アルプスを教えてるとき……こういうことかなー……って」ボロボロ

長介「やよい…姉ちゃん……」グスッ

やよい「でも……でもっ…………悲しくて……悲しくてっ…あの時のこと…考えるの…いやだなー……って思ってしまうんです」ボロボロ

あずさ「…………」

やよい「だけど……っ……あずささんが……律子さんが……っ…小鳥さんが来てくれて……っ」ボロボロ

長介「……っ」グスッ

やよい「長介…が応援……してくれるって聞いて……っ……優しくしてくれたから……私も……それを返したいなって」ボロボロ

あずさ「……うん」


ギュウ


やよい「あず…さ……さん……っ……」ボロボロ

あずさ「最後の言葉を、ちゃんと受け取ったのよね、やよいちゃん」

やよい「うっ……ぅぅ……うわぁぁぁあああん!!!」

あずさ「……」


ギュウウ


黒猫「……」

79: 2012/11/21(水) 19:49:35.71

――…


やよい「もう……平気です……あずささん」グスッ

あずさ「うん……」

やよい「えへへ、温かかったですっ。あずささんに甘えちゃいました!」グスッ

小鳥「うぅ……」ボロボロ

律子「小鳥さん、ハンカチ使ってください」

小鳥「ありがどぅございまず……」グスッ

あずさ「それじゃ、また明日」

長介「バイバイっ」

やよい「明日からよろしくお願いします!」


80: 2012/11/21(水) 19:51:57.19

―――― あずさの部屋



静寂が彼女を包む。


あずさ「…………」


視線を動かさず、唯、一点を見つめ続ける。


あずさ「…………」


横に倒れクッションに頭を沈めると同時に小さな溜息を吐いた。
それは彼女自身が気付かないほど小さな溜息。


あずさ「……」


少女の泣き声。
その悲しみが彼女の心に浸透していく。


あずさ「……っ」


息を大きく吸い込み、必氏で堪えようとする。


あずさ「――。」


遠い彼方へ旅立った。

と。



あずさ「……?」


体を起こし、耳を澄ます。


あずさ「……」


―― チリンチリン。


あずさ「…………」


隣の住人が廊下を歩いた際に聞こえた鈴の音。


あずさ「……」


予想が外れたことを確認してベッドの中へと移動する。


あずさ「…………」


沈んでいた気持ちを明日の予定を考えることで切り替え、次第に深い眠りへと堕ちていった。


81: 2012/11/21(水) 19:55:33.83


―――― とある部屋


「よぉーし、今日から頑張るぞー」

「チー!」

「いぬ美、留守番を頼んだぞ!」

いぬ美「バウッ」

「いつまでも下を向いてちゃいけないんだ、てぃだの光を吸収して頑張るさー!」

「チー」

「なんだよハム蔵……景気悪いぞ」

ハム蔵「チー……」

「空元気じゃないって言ってるのに!」



82: 2012/11/21(水) 20:12:59.47

―――― 事務所


黒猫「クァ……」

あずさ「まぁ……」

律子「おはようございます、あずささん。その仔、事務所のドアの前に座っていたそうですよ」

あずさ「まぁまぁ……」

小鳥「昨日、やよいちゃんの家から帰る途中まで一緒でしたよね、ここに一人で帰ってきたのかしら」

あずさ「まぁまぁまぁ……」

黒猫「……」

律子「うーん……懐かないくせに、そっけないくせに、私達……いや、あずささんに付き纏うのはどうしてでしょう」

小鳥「まさか…………」

あずさ「まさか?」

小鳥「いえ、そんなはずはないわ小鳥、現実から目を背けちゃだめ」

律子「あ、あの、気になるんですが」

あずさ「わ、私も気になります~」

小鳥「いえいえ、こんな少女マンガのような話、口に出来ませんっ」

律子「……少女マンガのような話を想像しているってことですよね」

あずさ「ぜひ、聞いてみたいです」

小鳥「わ、わかりました。ではお話します」

律子「な、なんだか真剣な話なんですね……」ゴクリ

あずさ「……」ゴクリ

小鳥「シロちゃん……実は……唯のネコじゃないんです」

律子「そうですね、佇まいからそれは感じ取れます」

あずさ「……はい」

小鳥「今、思い出したことがありまして。少し前に、川に流れるダンボールの中に一匹のネコが入っていたんですね」

あずさ「ふむふむ」

律子「…………」

黒猫「……」クシクシ

小鳥「私はその流れていくダンボールを橋の上から確認して、慌てて追いかけました」

あずさ「わくわく」

小鳥「すると、目の前を一人の男性の影が横切ったのです」

あずさ「まぁ……!」

律子「さて、と……響は明後日からの復帰だから……春香と貴音の三人でダンスレッスンを組んで」

小鳥「その男性は自分の服が濡れるのも構わず川の中へと進み、ダンボールを掴みあげたのです」

あずさ「まぁまぁ……!」

律子「待てよ……やよいと雪歩も一緒に……となると真も入れたほうが効率的ね……気力も上がるでしょう」

83: 2012/11/21(水) 20:15:20.52

小鳥「ダンボールからネコ……シロちゃんを抱え上げた彼の清々しく爽やかな表情は太陽のように眩しく、
   私の心を鷲づかみにしちゃいました……」

あずさ「まぁまぁまぁ……!」

律子「うーん……真の調整が難しいなー」

小鳥「というところで目が覚めたんです」

律子「夢だったんですか?! 何の話をしてるんですか!」

あずさ「素敵な夢ですね~」

小鳥「話の途中で、そのネコ……白猫だったと気付いてしまいまして……すいません」

律子「それ、本当に夢だったんですか? 実体験を夢オチにしていませんよね?」

小鳥「夢です。男性役は真ちゃんでしたから」

律子「その話、真には言わないようにしてくださいね」

あずさ「…………あなたは、どこから来たの?」

黒猫「……」


ガチャ


「はいたーい!」


小鳥「あ……」

律子「この声は……」

あずさ「響ちゃん……」

響「あ、間違えた。はいさーい!」

あずさ「……」

律子「響、あなた……明後日から復帰のはずでしょ……?」

響「稼ぎ頭いつまでも休んでいたら家族を路頭に迷わせてしまうさー」

あずさ「……」

黒猫「……!」

響「お、ニューフェイス! ちゅらかーぎーさー!」ヒョイ

ハム蔵「チー」

黒猫「!!!」ジタバタ

響「ん~? 君は無口さんだなー?」

あずさ「響ちゃん、そこに座って」

響「んー? どうしたの、あずささん?」

黒猫「……!」ピョン


テッテッテ


響「あ、逃げられたさー。おいでー、ねこ子~」

ハム蔵「チー」

84: 2012/11/21(水) 20:17:12.31

あずさ「響ちゃん、こっちに座ってください」

響き「な、なんだか怖いぞ……」

律子「とりあえず、胃に優しい食べ物、買ってきます」

小鳥「あ、律子さん、駅前のデパートに行った方がいいと思いますよ」

律子「……そうですね、わかりました」


バタン


響「なんだか、慌しいね?」

あずさ「響ちゃん、最近……鏡を見てる?」

響「もちろんさー、ちゃんと律子に言われたとおり、髪のケアだって肌のケアだってしてるぞー」

ハム蔵「チー……」

響「なんだよ、ハム蔵……ちゃんとやってたぞ、自分!」

あずさ「少し、やつれている様に見えるわ」

響「え……」

小鳥「…………」

響「そ、そんなはずないぞ、ちゃんと……ご飯……食べて……」

あずさ「…………」

響「……食べて…………るぞ……」

あずさ「髪を梳くから……じっとしててね」

響「ん……うん…………」


スーッ 


響「……」

あずさ「…………」


スーッ



響「ねこ子~、こっちにおいで~」

あずさ「……」

響「事務所で飼ってるの?」

あずさ「う~ん……飼ってるというより、見守られている……?」


スーッ


響「どういうこと?」

あずさ「私達を見守ってくれている、というのかしら」

響「よくわからないぞ」

あずさ「……そうですよね」


スーッ


85: 2012/11/21(水) 20:18:37.69

響「……」

あずさ「……」


スーッ


響「まだ……続くの……?」

あずさ「えぇ、まだまだ」

響「これ、なんの意味があるかな……?」

あずさ「……特に意味はありません」


スーッ



響「んー……なんだか毛繕いされてるみたいでこそばゆいなー……」

あずさ「……」


スーッ



響「……」

あずさ「……」



スーーッ



響「うー……」

あずさ「なにか、お話しましょう、響ちゃん」

響「はなしー? うーん……そーだなー」

あずさ「昨日、やよいちゃんの家でもやし鍋をしたの」

響「へー……いいなー」

あずさ「浩太郎くんが、響ちゃんが来るのかって、何度も聞いてきたのよ」

響「そっかー、また遊びたくなってきたぞ」

あずさ「今度、一緒に行きましょうか」

響「付き合ってくれるの?」

あずさ「はい」

響「それはとっても楽しみさー」

あずさ「これで、よし、と」

響「自分の髪、痛んでた?」

あずさ「それを確認していたんだけど、大丈夫みたいでした」

響「……」

あずさ「でも、油断してると、ね」

小鳥「……!」ギクッ


86: 2012/11/21(水) 20:20:32.79

――…


律子「ただいま戻りました」

黒猫「……」

律子「今日は暖かいですよ~って、どうしてそんなとこにいるのよ……?」

黒猫「にゃ」


スタスタスタ


あずさ「昨日からね」

響「そうかー、やっぱり自分も来たらよかったぞ」

ハム蔵「チー」

あずさ「あ……おかえりなさい、律子さん」

律子「ただいまっっと」


ガサガサッ


響「たくさん食べるんだな、律子」

律子「あなたがこれを全部食べるのよ」

響「こ、こんなに食べきれないぞ」

あずさ「料理するんですか?」

律子「ほとんどレトルトなので、持って帰らせてもいいし……自由にってことで」

あずさ「わかりました」

響「別に、食べるのに困ってるわけじゃないけどなぁ」

律子「私も同じ状況だったから、大体わかるの! ほら、これ食べて元気出しなさい!」

響「おー! アーサー汁だぞ!」

ハム蔵「チー?」

あずさ「えっと、これは……炊き込みご飯ですか……?」

律子「適当に買ってきたので詳しくはわかりません……」

響「それはじゅーしーっていう料理さー。でも、どうして沖縄の商品がこんなにあるの?」

律子「駅前のデパートで沖縄フェアを開催してるのよ。それじゃ、仕事に戻りますから、後はお願いしますね」

あずさ「はい。とりあえず、お湯を沸かして……」


シュボッ


響「ジューシーはレンジだな」


カチカチカチ


87: 2012/11/21(水) 20:22:33.38

響「沖縄フェアかぁー、自分も後で行って見ようかなー」

あずさ「一緒に行きましょう」

響「ううん、仕事の邪魔をしたくないから自分一人でいくさー」

あずさ「仕事もかねて、ね?」

響「かねて……?」

あずさ「色々とアンテナを張って受信するのもプロデューサーの仕事……ということです」

響「ふぅーん……でも、小規模だからそんなに面白いとは思えないぞ」

あずさ「それなら……」


ピーーーー!!!


あずさ「おっとっと」


カチャ


あずさ「このあーさー汁の味は、響ちゃんにとって故郷の味がするのかしら」

響「……」


コポコポコポ


あずさ「磯の香り……」

響「うん……、沖縄の岩場に生える緑色海藻のことをアーサーと呼ぶんだ……」

あずさ「……」

響「最近……海、見てないなぁ……」

律子「見てきたらいいじゃない」

響「え……?」

律子「夕方まで、あずささんは休暇のようなものだから一緒にね」

あずさ「……よろしいんですか?」

律子「あずささん、前倒しで仕事進めてましたから、それくらいの余裕はありますよ」

小鳥「事務所には私が居ますから、行ってきてください」

あずさ「響ちゃん……行きましょうか、海へ」

響「……!」


88: 2012/11/21(水) 20:23:50.23

――…


「おひさー!」

律子「……?」

「あ、なんかしんないけど、ネコだー! おーよしよしよし」ワシャワシャワシャ

黒猫「…………」

「反応ないねぇ」

律子「……今日は一人なの?」

「うんー……そーだよー」

律子「……」

「あずさお姉ちゃんは?」

律子「沖縄よ」

「そっかー、沖縄かー、そんじゃしょーがないねー……」

小鳥「……」

「おきなわっ!?」



89: 2012/11/21(水) 20:27:01.58

―――― デパート前


響「大したもの無かったぞ、しょうがないけど……」

あずさ「残念ですね~」

響「やっぱり高いよ、あの値段はないさ!」

ハム蔵「チー」

響「地元だと二つは買える値段だったぞ!」

ハム蔵「チー!」

あずさ「それじゃ、電車に乗って行きましょう響ちゃん」

響「うー、なんだか楽しみになってきたぞ」


「――ちゃーん、ひびきーん!!」


あずさ「?」

響「誰かに呼ばれた気がする……」


「待ってー!」


あずさ「亜美ちゃん……?」

響「亜美……」

亜美「つかまえたー! よかったー!」

あずさ「偶然ね、ここで会うなんて」

亜美「偶然じゃないよ~、追いかけてきたんだよー!」

響「?」

亜美「亜美も海に行くってこと!」

あずさ「それはいいけど、真美ちゃんは……?」

亜美「真美は……その……まだ……」

響「……」

亜美「…………だから、今日は亜美一人で来たんだよ」

あずさ「真美ちゃんに連絡してくれるかしら」

亜美「いいけど……どうするの?」

あずさ「みんなで海に行きましょう」

亜美「うん……わかった」


ピピッピ


黒猫「……」

響「どうしてねこ子と一緒なんだ?」

亜美「勝手に付いてきちゃったんだよー……あ、真美? 今から海に行くんだけどー」


90: 2012/11/21(水) 20:28:05.78

―――― 駅


亜美「この駅で合流できるよ!」

あずさ「えっと、この駅には……どうやって向かうのかしら……」

響「んー……三番ホームかな?」

亜美「そうそう」

黒猫「……に」

亜美「おっと、動かないでくれたまえ。君は今、ただのぬいぐるみなのだー」

黒猫「……」

あずさ「う~ん?」

響「あずささん、行くぞー?」

あずさ「大体の道は覚えたはずなのに……まだまだ勉強不足ですね~……」


91: 2012/11/21(水) 20:30:01.36

―――― 海


亜美「海だー!」


タッタッタ


響「亜美は元気一杯だなー」

ハム蔵「チー」


ザザァーン


響「……」

あずさ「……」

響「自分は別にうみんちゅってわけじゃないけど、海を見ていると気持ちが落ち着くさ」

あずさ「……真美ちゃんはどう?」

真美「わかんないよ……」

あずさ「私も落ち着いていくから、そういうものなのかなって思いました」

真美「……」

響「……」


タッタッタ


亜美「真美も一緒に遊ぼうよー!」

真美「いい……」

亜美「えー、一人じゃつまんないじゃん!」

真美「…………いいって言ってるでしょ」

亜美「あ……うん…………ごめん…ね」

真美「…………」

響「……」

あずさ「……」

黒猫「……」



ザザァーン


93: 2012/11/21(水) 20:34:47.01

響「思い出した……」

あずさ「?」

響「自分が小さい頃、おとーが亡くなったんだ」

真美「……っ」

響「煙突から昇る煙を見上げている自分に……兄貴が言ったんだ……」

あずさ「……」

響「後ろ見てみろ、って」

亜美「……」

響「そこに……広くて大きな海が綺麗に輝いてた……」

あずさ「……」

響「てぃだの……太陽の光を反射してキラキラ輝いてた……っ」

真美「――っ」

響「今と同じように……寂しくてどうしようもない気持ちを……落ち着かせてくれたんだっ」グスッ

真美「――ッ!」

響「そしたら、涙が止まらなくて……泣けなかったのに……っ……たくさん泣いたんだ……」グスッ

真美「聞きたくない――」

響「ッ!」

真美「そんな哀しい話、聞きたくないよ」

亜美「ずっと……ずっとそうやって閉じこもってるつもりなの、真美」

真美「亜美みたいに忘れていたくないだけだよ」

亜美「『二人の元気をみんなに渡してやれ』って最後の言葉、真美も聞いたっしょ!?」

真美「……ッ」

亜美「亜美一人じゃできないから、真美と一緒じゃなきゃできないから、二人で頑張らなきゃいけないのに!」

真美「亜美みたいに考えきれないよ!」

亜美「……ッ」

真美「そうやって……! 現実を受け入れて……! 進んでいけないよ!」

亜美「あ、亜美だって……」

真美「真美はそんなに強くないよッ!」

亜美「亜美だって……強くない…よ……」グスッ

真美「……っ」

亜美「寂しいのにぃ……哀しいのにぃ……」ボロボロ

あずさ「亜美ちゃん……」


ギュウ


亜美「あ、あずさお姉ちゃん……ッ」ボロボロ

真美「……泣いたって……どうにもならないよ」

亜美「うぅ……っ……ぅ」ボロボロ

あずさ「……」

94: 2012/11/21(水) 20:38:29.28

響「泣けないと、心が疲れてしまうぞ」グスッ

真美「泣いたって……戻ってこないっしょ」

響「……っ」グスッ

真美「わかんないよ……」

あずさ「……」

真美「あずさお姉ちゃん……どうして、代わりをやってるの?」

あずさ「…………」

真美「どうして、今までのように……していられるの?」

あずさ「私は…………」

真美「……」

亜美「どうしてそんなこというの!?」

真美「わからないから聞いてるだけだよ」

亜美「ま、真美……っ!」

響「……っ」

あずさ「私にはなにものこしていってくれなかったから……」

真美「え……?」

あずさ「私は、その場に立ち会えなかった……」

真美「あ――」

あずさ「だから……、現実感がないのかも……しれない……」

真美「――ッ!」

あずさ「いつか、必ず戻ってくるって……そんな希望を持っているのかも……しれない」

真美「っ……」グスッ

あずさ「叶わないけど……願わずにはいられないから……」

真美「ご、ごめんなさい……っ」グスッ

あずさ「ううん……」

95: 2012/11/21(水) 20:39:21.41


ザザァーン


真美「ごめんなさい…………ごめんなさい……ごめんなさい」ボロボロ

あずさ「……真美ちゃん」

真美「……っ……ごめんなさ……ぃ……っ……ぅぅ……」ボロボロ

あずさ「私は教えられたこと以上の事は出来ないけど、でも、
    私は私で出来ることをしていくつもりだから……」


ギュウウ


真美「――ッ」

あずさ「頼りにならない私ですけど、……頑張りますから」

真美「うぅっ……うぅぅぅ………うわぁぁああああん!!」

亜美「ぐすっ……ぅぅう……うわぁぁあああん!!」

響「うぅぅ……っ」ボロボロ

あずさ「……」


黒猫「……」



ザザァーン


96: 2012/11/21(水) 20:40:51.14

――…


あずさ「どうぞ」

真美「……これ……なに?」

あずさ「沖縄料理のあーさー汁です」

亜美「この緑色のって海苔みたい」

響「ぬちぐすいやっさー」

ハム蔵「チー」

真美「ひび…きんが……食べてるのは……?」

あずさ「ジューシーという炊き込みご飯で……おにぎりにしてラップで包んで」

響「まーさんまーさん」

亜美「ひびきんが外国語しゃべってるよー」

響「外国語じゃないぞ、うちなーぐちだぞ」

あずさ「どういう意味なのかしら?」

響「まーさんは美味しいって意味さー」

ハム蔵「チー?」

響「ぬちは命、ぐすいは薬。美味しい料理を食べたときに言う言葉がぬちぐすいなんだ」

ハム蔵「チー」

響「懐かしいさー。もぐもぐ」

亜美「変わった味だねぇ……もぐもぐ」

真美「……あったかい」

あずさ「魔法瓶でお味噌汁を携帯できるなんて知らなかった」

亜美「あずさお姉ちゃん、そういうことじゃないよぉ」

あずさ「うふふ」

真美「……おいしいよ」

あずさ「よかった」

響「……」



97: 2012/11/21(水) 20:42:37.47

―――― 電車内


ガタンゴトン

 ガタンゴトン


真美「くぅ……」

亜美「……すぅ」

黒猫「……」


響「ねこ子が居心地悪そうだぞ」

ハム蔵「チー」

あずさ「あらあら、二人に挟まれて大変そうね」

響「ねぇ、あずささん」

あずさ「?」

響「『別け隔てなく一緒にいられる温かさは誰にも負けない』って最後の言葉なんだけどね……」

あずさ「うん……」

響「自分……別け隔てなくっていうのがよく分からないさ……」

あずさ「……」

響「どういう意味だと思う?」

あずさ「それは…………響ちゃん自身が見つけ出さないといけないと思う」

響「…………うん」

あずさ「ごめんなさい」

響「や、いや、あずささんが謝ることじゃないぞっ」

あずさ「……」

響「あぅ……」


黒猫「……」


98: 2012/11/21(水) 20:43:40.55

響「……ねこ子、自分たちのやりとりを聞いてるみたいだね」

あずさ「響ちゃん、あの仔の名前はシロちゃんよ?」

響「ふぅん…………でも、合ってる名前だぞ」

あずさ「そう?」

響「ねこ子……じゃない、シロは名前の通り、色が無いみたいさー」

あずさ「?」

響「いろんな動物みてきたけど、特色が無いのは初めて」

あずさ「……」

響「それより、昔の事たくさん思い出したから聞いてほしいさ」

あずさ「うん。まだ到着まで時間があるから、ゆっくり聞かせてくれるかしら」


亜美「すやすや」

真美「すやすや」

黒猫「」スヤスヤ


響「おばぁーがね、よくアーサー汁作ってくれるわけさ。それがおいしくって」

あずさ「……とても素敵な思い出ね」




ガタンゴトン

 ガタンゴトン


99: 2012/11/21(水) 20:44:59.01


―――― 事務所



「やっと帰ってきたわね」

あずさ「伊織ちゃん……?」

伊織「話があるの、時間はとらせないから、少しいいかしら」

あずさ「それは構わないですけど……」

伊織「律子なら春香達を連れていつものスタジオに向かったわ」

あずさ「そうですか……」

亜美真美「「 あ……いおりん…… 」」

響「入り口で固まってると自分が入れないぞー」

伊織「亜美と真美は酷い顔してるわね。……顔洗ってきなさいな」

真美「えへへ」

亜美「えっと……あずさお姉ちゃん……」

あずさ「少し休んで、それから一緒にスタジオへ向かいましょうか」

亜美「うん……わかった」

小鳥「響ちゃんはこれ、食べてね」

響「黒糖ピーナツかぁ……でも自分、お腹空いてないぞ……」

ハム蔵「チー」

伊織「ここじゃなんだから、付いて来て」

あずさ「……」


100: 2012/11/21(水) 21:02:53.13

―――― 屋上


伊織「真美が笑ってたわね……」

あずさ「……」

伊織「まぁいいわ……それより……、その……」

あずさ「?」

伊織「こ、このネコはなんなのよ」

黒猫「……」

あずさ「私が……いえ、事務所で……? 飼ってる……? シロちゃんです」

伊織「肝心なところがハッキリしないわね……」

あずさ「……」

伊織「ち、違う、そうじゃないのよ……話は……」

あずさ「はい」

伊織「…………その……」

あずさ「私も、言わなくてはいけないことが」

伊織「……?」

あずさ「ごめんなさい」

伊織「……」

あずさ「私のわがままで、伊織ちゃんの夢を……」

伊織「なによ」

あずさ「……」

伊織「先を……言いなさいよ」

あずさ「…………」

伊織「冗談じゃないわよ……! あのバカが居なくなったから私の夢が終わったって言いたいの?」

あずさ「……」

伊織「あんたがアイドルを辞めて、ユニットが解散したから私の夢が終わったって言いたいのッ!?」 

あずさ「……」

伊織「ふざけるんじゃないわよ! あんたたち二人は、私を半端者にしたいわけ!?」

あずさ「……」

伊織「なんなのよ……! 律子まで私なんかに気を遣って……! そこまで腑抜けになってないわよ……!」

あずさ「…………」

伊織「どうして黙ってるのよ! なにか言うことはないの……ッ!?」

あずさ「やっぱり、私のわがままから始まっていると思います」

伊織「……ッ!」

あずさ「私のわがままで、伊織ちゃんの夢が途絶えたのだと思います」

伊織「バカなこと言ってるんじゃないわよッ! 移籍してでも叶えてやるんだから!!」

あずさ「それだと、私の夢が叶いません」

伊織「知らないわよ…そんなこと……!」

あずさ「私の夢はみんなと一緒にトップを目指すことです」

伊織「――ッ!」

101: 2012/11/21(水) 21:06:18.16

あずさ「伊織ちゃんの夢も、同じだと思っています」

伊織「~ッ!」

あずさ「……代わりが勤まるとは思えませんが、私と、律子さんと一緒に叶えてもいいですか?」

伊織「か、勝手に私の夢を――――」

「いい加減、素直になりなさい」


ポン


伊織「いっ……な、なにするのよ……!?」

律子「黙って聞いてたら、勝手なこと散々言ってくれたわね」

伊織「……っ」

律子「何が移籍よ、何が気を遣って、よ……。伊織、あんたが自分から素直にならないと意味が無いじゃない」

伊織「……ッ!」

亜美「……」

伊織「亜美! なんで律子を連れてきたのよ!」

亜美「だって、いおりん…………」

律子「それはいいから。伊織、ちゃんと伝えたいことがあるんでしょ?」

伊織「……っ」

律子「今は私達しかいないんだから……」

伊織「…………」

亜美「……」

あずさ「……」

伊織「……ご……ごめ…んなさ…い」

あずさ「伊織ちゃん……」

伊織「話は……謝りたかっただけ……。千早のように進むんじゃなくて、ただ…………逃げただけだから」

あずさ「……そんなこと」

伊織「あるの! 私……あの日からずっと、お父様やお兄様の仕事を見てきた」

律子「……」

伊織「その仕事を手伝って――と言っても、足を引っ張ってるだけだけど、お父様達は何も言わなかった」

亜美「……」

伊織「それどころか、仕事を受け継ぐか、って聞いてくるのよ」

あずさ「……」

伊織「ある程度、ユニットとして世間に名を残していたから、私の実力を認めてくれたのかもしれないって思ってた」

あずさ「……」

伊織「だけど……やよいのメールで……思い知らされたわ」

亜美「やよいっちの……?」

伊織「えぇ、誰かさんの意図が見え隠れしていたけど」

律子「……」

102: 2012/11/21(水) 21:08:57.17

伊織「春香や貴音はともかく、真や…………雪歩まで……レッスンに参加してるっていうじゃない」

律子「……」

伊織「自分がどれだけ腑抜けていたのか……」

あずさ「……」

伊織「逃げでしかなかったのに……それでも、優しくしてくれた……お父様やお兄様に……甘えてるだけだって気付けた」

律子「まぁ、そこまで効果があるとは思わなかったけどね、やよいにメールを送らせたのは……」

伊織「……」

律子「亜美、行くわよ」

亜美「う、うん……」

律子「あずささん、先に行ってますから」

あずさ「はい」


伊織「……っ」

あずさ「……」

伊織「な、なによ……そこまで……気を遣わなくても……っ」

あずさ「律子さん、みなさんのこと、ちゃんと考えてくれてますよ」

伊織「し、知ってるわよ……っ!」

あずさ「伊織ちゃんに一つ訊きたいことが」

伊織「だめ、訊かないで」

あずさ「どうして、お父さん達と一緒に……?」

伊織「一人で居たくなかったからよ! だめって言ったでしょ!?」

あずさ「……そうですか」

伊織「なによっ、その見透かしたような――ふぎゅ!?」


ギュウ


あずさ「これからは私達が一緒に……」

伊織「く、苦しいわよ……」

あずさ「……あら、ごめんなさ――」

伊織「『高いところから見渡して、よく気が付く視野を持ってる』って最後の言葉」

あずさ「……」

伊織「お父様達と一緒にいることで、それがどういうことなのか、わかると思ってた」

あずさ「どうでした……?」

伊織「全然……。でも、律子と……あ、あんたを見てたら……なんとなく」

あずさ「……そうですか」

伊織「でもっ……それだけじゃなかったみたい……っ」

あずさ「……?」

103: 2012/11/21(水) 21:10:12.66

伊織「後ろ……誰もいない……?」

あずさ「はい」

伊織「………………あのバカ……の…面影……探してた……」

あずさ「……!」

伊織「お父様や……お兄様に…………姿を重ねて……」

あずさ「伊織ちゃん……」


ギュウウ


伊織「事務所に…来るのが……っ……怖かった……っ」グスッ

あずさ「……」

伊織「本当に居なくなった……って……認めてしまう…のが…………怖かった」グスッ

あずさ「うん……」

伊織「うぅ…っ……嫌……っ……」グスッ

あずさ「……」

伊織「……つらくて……胸が痛い……っ……さびしくて……っ……ぅぅっ」グスッ

あずさ「……」

伊織「あのバカのせいで……こんな嫌な思いする……なんてっ…!」ボロボロ

あずさ「…………私も、です」

伊織「……ぅっ……うぅぅぅっ……ぁぁああ!!!」

あずさ「……」



黒猫「……」


104: 2012/11/21(水) 21:13:30.81

―――― スタジオ前


伊織「それで、美希はどうなってるのよ?」

あずさ「すいません……」

伊織「まったく、ちゃんとしなさいよね」

あずさ「……はい」


スッ


伊織「?」


律子「なんであんたが偉そうなのよっ!」


ビシ コンッ


伊織「ぎゅぅ!?」

あずさ「り、律子さん……!」

律子「まったく、はやく中に入りなさい、みんな待ってるわよ」

伊織「チャームポイントに傷がついたらどうしてくれんのよ!」

律子「たかがデコピンくらいで……爪も切ってあるから大丈夫よ。
   それにしてもいい音が鳴ったわね、ベニヤ板と同質じゃないの」

伊織「私をなんだと思ってるのよ! きーーっ!!」

あずさ「ほらほら、早く入りましょう~」

伊織「ちょっ! 押さないでよ!」

律子「あずささん、ちょっと」

あずさ「?」


ガチャ


「あ、伊織ちゃーん!」

「やっと来たな、伊織!!」

「ふ、ふんっ、私が居ないとダメダメなあんた達をこれから指導してあげるんだから、感謝しなさい!」

「あれあれ~、いおりん、おめめが真っ赤ですな~」

「ほんとですな~」

「なっ!? ち、違うわよこれは!」

「目薬を使用なされたのですね」

「使う理由がわからないぞ……貴音……」

「うぅ……歌詞が頭に入ってこない……やっぱり私はダメダメですぅ……」


律子「……あれ、春香は一緒じゃないんですか?」

あずさ「いえ……?」

律子「忘れ物を取りに事務所に向かったんですけど……?」

あずさ「?」

律子「器用にすれ違ったか……。まぁいいです」

105: 2012/11/21(水) 21:15:23.81

あずさ「私達も会議室に入りましょうか」

律子「あ、待ってください」

あずさ「はい……?」

律子「明日……美希と話をしましょう」

あずさ「……」

律子「前を向きだしたみんなの気力を殺がない為にも、早めに結論を出すべきです」

あずさ「……はい、わかりました」

律子「明日は、私も行きます」

あずさ「……」


黒猫「……」



――…


106: 2012/11/21(水) 21:16:54.24


―――― あずさの部屋



夜の静寂。


彼女は賑やかな時間を遠くに感じていた。




あずさ「……」





明日、彼女に伝える言葉。


それだけを心に留めて。





107: 2012/11/21(水) 21:19:19.95


―――― 公園



チュンチュン

 チュンチュン




タッタッタ


あずさ「はっ……はっ…………」

「おや、朝から精が出るね、あずさちゃん」

あずさ「あ、おばぁちゃん……ふぅ~」

お婆「呼び止めて悪かったねぇ」

あずさ「いえいえ~、私も、座っていいですか?」

お婆「どうぞどうぞ」

あずさ「失礼します~」

お婆「最近テレビに出ないねぇ」

あずさ「もう引退しちゃいましたから、ごめんなさい」

お婆「そうかい……残念じゃのぉ……。じぃさんと楽しく拝見させてもらってたよぉ」

あずさ「あらあら、そう言ってくださると、もったいないって気持ちになっちゃいます」

お婆「テレビにはもう出ないのかい?」

あずさ「はい、残念ですけど」

お婆「……そうかい」

あずさ「おばぁちゃん、あの坂の話……もう一度聞かせてくださいませんか?」

お婆「変わった子じゃねぇ……」

あずさ「おばぁちゃんのお話、好きなんです」

お婆「先立たれたじぃさんと、ずっとずっと一緒に上っていただけの話……」

あずさ「…………」

お婆「こんな話のどこがいいんだろうねぇ……」

あずさ「ふふ、おばぁちゃん、このお話をするとき、とっても幸せそうなお顔をなさるんですよ?」

お婆「……年老いをからかうんじゃないよぉ」

あずさ「うふふ」

108: 2012/11/21(水) 21:20:38.22

お婆「貧しくて大変な時期もあった……だけどねぇ、あの人と一緒にいる時間は何物にも代え難かった……」

あずさ「…………」

お婆「わたしがケガをすれば背負ってくれて、疲れたと言えば手を引いくれて……そうやって二人で歩いてきた」

あずさ「……」

お婆「ずっとずっと一緒に上ってきた…………だけどねぇ」

あずさ「隣に・・・」

お婆「?」

あずさ「ずうっと隣にいてくれていますよ。断言しちゃいます」

お婆「そうかいそうかい」

あずさ「私にも頼れる人がいました」

お婆「……」

あずさ「今でも私達と一緒にいてくれるような……そんな気がするんです」

お婆「……」

あずさ「おばぁちゃん、体が冷えないよう、気をつけてくださいね」

お婆「はいよぉ」

あずさ「ジョギングに戻ります。またお話を聞かせてください」

お婆「…………あずさちゃん」

あずさ「……?」

お婆「いつまでも応援しとるから、頑張るんだよぉ」

あずさ「はいっ!」


109: 2012/11/21(水) 21:22:54.06


―――― 事務所前


「お待ちしておりました」

あずさ「おはようございます~、事務所に入らないんですか?」

「まだ誰も出社していないようです」

あずさ「あ……小鳥さんは今日、遅れると言っていました」

「……」

あずさ「申し訳ありません、すぐに温かいもの用意しますね」

「…………何か」

あずさ「はい?」

「善い事でもありましたか?」

あずさ「うふふ、お茶を飲みながら聞いてください」



118: 2012/11/22(木) 20:21:17.00

―――― 事務所


黒猫「……」

あずさ「おはようございます、シロちゃん」

「……!」

あずさ「この仔、4日前から私達と過ごしているんですよ」

「4日も前から……」

あずさ「貴音ちゃん、まだ会ったことが無かったの?」

貴音「……はい」


ガチャ


あずさ「さ、どうぞ」

貴音「少し、話をしてきます」

あずさ「は、はい……電話ですか?」

貴音「はい。……失礼して」


スタスタスタ


黒猫「……」


テッテッテ




あずさ「シロちゃん……?」


119: 2012/11/22(木) 20:23:06.83


―――― 屋上


貴音「……」

黒猫「……」

貴音「貴方は一体、――。」


※ ―― ※


※ ―― ※







120: 2012/11/22(木) 20:29:55.34


―――― 事務所


黒猫「クァ……」

貴音「それは僥倖ですね」

あずさ「えぇ……」

貴音「その御婦人とはいくつか語らいたいと…………あずさ?」

あずさ「……は、はい?」

貴音「なにか?」

あずさ「シロちゃんが……貴音ちゃんに懐いているようで……」

貴音「これは邂逅というものです」ナデナデ

黒猫「にゃ」

あずさ「ま、まぁ……」

律子「貴音に気を許してるみたいね、余計にこの仔がわからなくなったわ……」

小鳥「ひょっとして……!」

貴音「はて?」

小鳥「貴音ちゃんを迎えに来た使者……!?」

貴音「……?」

律子「さてと、貴音、そろそろ時間よ」

貴音「はい、わかりました」

あずさ「私達も行きましょう、律子さん」

律子「そうですね」

小鳥「両目に携えた黄金の三日月はそういうことだったのね……シロちゃん!」

黒猫「……」ピョン


テッテッテ


小鳥「あら」

律子「違うみたいですね。それじゃ私達、出かけてきます」

121: 2012/11/22(木) 20:31:37.87

あずさ「……行って来ます」

小鳥「あずささん……?」

あずさ「少し、緊張してます」

貴音「緊張……今日はなにか大きな仕事でもあるのですか?」

あずさ「…………美希ちゃんと話をしてきます」

律子「……」

小鳥「……」

貴音「あずさ」

あずさ「……?」

貴音「『目指した先にある景色を、いつか』と、最後の言葉をわたくしは糧にしています」

あずさ「……」

貴音「その言葉をのこし、雪歩が来るまで休まれました。
   いつか……の続きが聞けなかったことに戸惑いはありますが、
   それもまたあの方のくれた試練として受け止めています」

あずさ「……」

貴音「貴方の信じた先を、わたくしも信じていますよ」

あずさ「……」



黒猫「……」


122: 2012/11/22(木) 20:38:55.26

―――― 通学路


律子「…………」

あずさ「千早ちゃんと一緒に来たときと同じ場所だから……大丈夫……」

律子「…………」

あずさ「律子さん?」

律子「…………」

あずさ「あの~」

律子「は、はい。……あずささんが道を間違えることなく進んでいて、すごいなぁって思っているんです」

あずさ「えっと、どうかされたんですか……?」

律子「ただ、道がわからなくてぼんやりしてるだけですよ。
   あずささんに代わって私が方向音痴になったんですかね……ははは……」

あずさ「……」

律子「はは…は………はぁ…………すいません、失礼なことを言いました」

あずさ「いえ……」

律子「貴音の話を聞いて……私も緊張してきました…………」

あずさ「……」

律子「美希は……今や765プロにとって必要不可欠な存在です」

あずさ「……はい」

律子「美希自身のポテンシャルもそうですけど、事務所内でのライバル的役割が上手くみんなを刺激してて」

あずさ「……」

律子「……」

あずさ「それだけ、ですか?」

律子「はは…………バレちゃいましたか」

あずさ「……」

律子「……」

123: 2012/11/22(木) 20:40:21.05

あずさ「私に遠慮していますよね、律子さん」

律子「…………はい」

あずさ「……貴音ちゃん」

律子「?」

あずさ「朝、一緒に事務所への階段を上りました」

律子「……」

あずさ「そして、屋上で電話をしたのかな? それから、なにかを見つけたようで……」

律子「見つけ……?」

あずさ「それは、シロちゃんが知っていると思います」

黒猫「……」

律子「この仔が……貴音と一緒に屋上へ?」

あずさ「そうです。何が起こったのかはわかりませんが、貴音ちゃんに変化が生まれました。
    そして、事務所から出る前に私達に伝えた言葉……」

律子「……」

あずさ「その言葉が私に勇気をくれました」

律子「……っ」

あずさ「今なら受け止められると思います。今、律子さんが遠慮していることを、話してくれませんか?」

律子「…………すぅー」

黒猫「……」

律子「はぁー…………」

あずさ「……」

律子「わかりました。少し座りましょうか」


124: 2012/11/22(木) 20:43:53.25

――…


律子「私たちが駆けつけたときは、まだ美希が一人でいました。一人で一生懸命に話しかけていたんです」

あずさ「……」

律子「それから、小鳥さんと社長に『ありがとうございました』と伝えて……私に最後の言葉をのこしました」

あずさ「……」

律子「そして、春香が来て、伊織、千早…………と、みんなが駆けつけてきて、最後に……雪歩」

あずさ「……」

律子「みんなが短い時間の中で、別れを……伝えていました」

あずさ「……っ」

律子「……」

あずさ「……」

律子「…………」



―― チリン。



「話はおしまい?」


あずさ「?」


美希「あの人と違って、あずさと律子はしつこくないからミキ退屈してたんだよ」

律子「美希……!」

美希「みんなが短い時間の中で、からしか聞いてないよ」

律子「……っ」

美希「真美の様子はどう?」

あずさ「昨日から復帰していますよ。……美希ちゃん以外、みんな」

美希「ふぅん……そっか。真美はあの時、様子が変だったから……って、みんな……平気でいられないよね」

律子「美希……あなた」

美希「春香は元気してる?」

あずさ「えぇ。いつも明るくて、随分助けられています」

美希「なにそれ」

あずさ「え?」

美希「……べっつにー」

律子「美希らしくないわね、言葉を濁すなんて」

美希「春香から、最後の言葉、聞いたんでしょ?」

あずさ「いいえ……まだ聞いていないけれど……」

美希「そっか……聞いていないのか…………なんだ……」

あずさ「?」

125: 2012/11/22(木) 20:45:45.96

美希「それで、どうするの?」

あずさ「美希ちゃんとお話がしたいと思って」

美希「うん、いいよ」

あずさ「……」

美希「どうしたの?」

あずさ「前に来たとき……」

美希「うん……あの時は嫌だった……。でもね、千早さんの夢を聞いて、ミキも考えたんだ」

あずさ「……」

美希「『みんなを導いてやってくれ』って最後の言葉、ちゃんと受け取ってないなぁって」

律子「……それじゃ、戻ってくるの?」

美希「それはあずさと律子がミキを口説かないとダメでしょ?」

律子「あんたねぇ」

美希「呼び捨てなのに、注意しないの?」

律子「そんなことで話の腰を折りたくないだけよ。帰ったらまた教育するけど」

美希「ふぅん……」

律子「なんだか、気勢をそがれたわね」

あずさ「いえ……」

律子「?」

美希「ミキを口説く前に、聞いて欲しいことがあるんだけど、いいかな?」

あずさ「…………はい」

律子「なによ、聞いて欲しいことって」

美希「前に、千早さんとあずさに言ったよね。二人とも縛られてるだけだって」

あずさ「……」

美希「それね、違ったみたい。千早さんはとっくにミキ達が追いつけないところまで進んでいたの」

律子「……」

美希「春香も……同じ…だね」

あずさ「……」

美希「だからね、ミキ……たくさん考えたよ」

あずさ「……」

美希「縛られてるのは……ミキと……あずさだよね」

あずさ「……!」

律子「み、美希……!」

126: 2012/11/22(木) 20:48:21.32

美希「ミキ知ってるよ。誰かさんがあの人を目で追ってたこと」

あずさ「――ッ!」

美希「これから、ミキが事務所に戻って、レッスンを頑張って、仕事もたくさん頑張って、
   輝くステージで楽しい思いをしてもね……それだけなの」

律子「……ッ」

美希「『頑張ったな』って認めてくれたり、『よかったぞ』って褒めてくれたり、
   『こうしたらいい』ってアドバイスくれたり、『ダメじゃないか』って叱ってくれたり」

美希「律子もそうしてくれてたけど、ちょっと違うの」

律子「……!」

美希「ミキも……あの人が……好きだったんだなぁって気付いたの」

あずさ「……」

美希「だけど、……だけどね……っ……それが…もう……なくなっちゃった」グスッ

律子「……」

美希「……っ」

あずさ「……美希ちゃんは――」

美希「ミキの話は……まだ終わってないの」グスッ

あずさ「……」

美希「千早さんのように、自分の進む道がみつかって、事務所を離れるかもしれないよ」

律子「……?」

美希「律子がよく言ってるよね、アイドルのタレント生命は短いって」

律子「えぇ……」

美希「事務所のみんながいなくなったら、あずさはどうするの?」

あずさ「――!」

律子「美希の言ってることの意味が……よくわからないんだけど?」

美希「あずさは気付いてるよね」

あずさ「…………はい」

美希「ねえ、あずさ……教えて?」

あずさ「……!」

127: 2012/11/22(木) 20:50:42.90

美希「あずさはミキにとってあの人の代わりになれないの。律子だってそう」

律子「……」

美希「『みんなを導いてやってくれ』って最後の言葉をちゃんと受け取るためにも、
   胸に空いた穴を埋めるしかないの」

あずさ「……ッ」

美希「レッスンで頑張っても、仕事で辛いことがあっても、ステージで楽しんでも、
   きっとそれだけなの。……それを見守ってくれる人はいても、
   たった一言だけで、ミキの胸を暖かくしてくれる人はもういないの」

あずさ「……」

美希「ミキもみんなと一緒に、またステージに立ちたいよ。
   でもね、その幻影を探していたらきっとミキだけじゃなく事務所のみんなも不幸になっちゃうよ」

律子「……」

美希「そうだよね、あずさ……?」

あずさ「……っ」

美希「だから、教えて欲しいの」

律子「……飛び込んでみる、というわけにはいかないの?」

美希「それは――」

あずさ「美希ちゃんが受け取った最後の言葉……」

律子「あ……」

美希「――うん。みんなの足を引っ張ることは絶対にイヤだから」

あずさ「……」

律子「美希……それってとても難しいことよ? あずささんは…………その……」

あずさ「私は……最後のその時に……立ち会えませんでしたから」

美希「……」

律子「……だから…………ふぅ…………、遠慮していては進めませんね」

あずさ「……はい」

美希「……」

律子「倒れたと報せが入るまで、社長以外の事務所のみんなはその事を知らなかったわ」

美希「……うん」

あずさ「……」

律子「三人で病院へ向かう途中に、社長から病気のことを聞いたの。
   だから……頭がごちゃごちゃになって、またスケジュール調整が必要だ、なんて、
   どうでもいいことを考えたりして、とにかく思考回路がまともじゃなかった」

あずさ「……」

律子「だけど、病室で一生懸命に話しかけている美希を見て、しっかりしなきゃって、自然に落ち着くことができたわ」

美希「ミキは……っ」

律子「……」

美希「笑ってほしかったから…っ……『もう時間が無い』って言われたから……っ、泣き顔なんか見せたくなかったからっ」

律子「うん……」

あずさ「……っ」

美希「楽しかったこと…っ……たくさん聞いてもらったの……ッ」グスッ

律子「美希が傍にいてくれたから、みんながちゃんと別れの言葉を交わせたんだと思う」

128: 2012/11/22(木) 20:52:41.77

美希「……ッ」グスッ

律子「でもね、美希」

美希「……?」グスッ

律子「今、あずささんは道に迷うこともなくなったわ」

美希「え……?」

あずさ「……」

律子「外出しても時間を無駄にすることなく移動してる」

美希「……」

律子「占いも当てにしないし、おっとりとした口調もなくなってしまったの」

美希「……」

律子「事務所のために、みんなのために、少し前のあずささんはいなくなったわ」

あずさ「……」

律子「社長や小鳥さん、私はそれを危惧しているの。いつか崩れてしまうんじゃないかって」

美希「……」

律子「真っ直ぐしか見ていないから、変わってしまったから」

美希「――ッ!」

律子「だから、美希が必要なのよ」

美希「どうして……ミキが……?」

律子「美希だけじゃない、最後の言葉を交わせた私達で、あずささんと一緒に意思を継ぐの」

美希「そ、そんなの――」

あずさ「それがプロデューサーさんの夢だと思っていますから」

美希「あ……」

あずさ「美希ちゃん」

美希「……なに……?」

あずさ「私は、事務所でみんなと一緒にいることで、プロデューサーさんが傍にいると感じていたのかもしれない」

美希「……っ」

あずさ「だから、みんなが居なくなったとき……どうするのかって訊いたのよね?」

美希「…………うん」

あずさ「今はまだ、先の事はわからないけれど、……でも、律子さんが言ってくれたから、頑張ろうって思います」

律子「……っ」

あずさ「そんな、確固とした決意じゃないかもしれないけれど。……でも、私は765プロで美希ちゃんと」

美希「……ッ」

あずさ「みんなを……ステージで輝くみんなをプロデューサーとして応援していきたいと思います」

美希「……ぅ……っ」グスッ

あずさ「ごめんなさい、ちゃんとした約束を交わせばいいのだけれど」

美希「ミキもあの人に……っ……ぅ…約束…破られたから……っ」ボロボロ

あずさ「……うん」

129: 2012/11/22(木) 20:53:39.87

美希「『トップに立つまで支え続ける』って……約束…したのにぃ……」ボロボロ

あずさ「……本当に…………」

美希「うぅぅッ……ぁぁ……っ」ボロボロ

律子「美希……!」


ギュウゥ


美希「り…っ…りつ……こ…さ……ん……?」

律子「ありがと……っ、……ありがとね、美希……!」

美希「うっ……うぅぅぅ……っ!」

律子「よく頑張ってたわ……ちゃんと、ちゃんと見ていたから……!」

美希「ひぐっ……ぐっ…ぁぁぁあっあぁぁああぁぁああああ!!!」

律子「……ッ」




美希「ぁぁあぁぁぁぁぁあぁぁああああああああっっ!!」

あずさ「……」


黒猫「……」


130: 2012/11/22(木) 20:54:16.29


―――― 星井家



あずさ「お邪魔しました」


バタン



律子「ふぅ……倒れるように眠るからびっくりしましたね」

あずさ「……泣き疲れちゃったんですね」

律子「だからって、ここまでおぶってくるなんて思いもしませんでしたよ……」

あずさ「最近、眠れてなかったそうですから……」

律子「…………えぇ」

あずさ「あの……律子さん」

律子「待ってください、ここではなんですから」

あずさ「は、はい」



131: 2012/11/22(木) 20:56:03.75

―――― 公園


律子「すいませんでしたっ」

あずさ「そ、そんな……謝ることなんて!」

律子「勢いに任せて、あずささんはいなくなったとか勝手なこと言いました」

あずさ「それを……遠慮していたんですね……」

律子「……はい。美希にあずささんの状況を知って欲しかったのと、……私の不安を聞いて欲しかったのが混ざってしまって」

あずさ「……そうですか」

律子「…………あずささん」

あずさ「はい……?」

律子「事務所の中で、あずささんと長く一緒にいる私が疑問を持つこと、訊いていいですか?」

あずさ「……」

律子「……」

あずさ「…………はい」

律子「あの日から、泣いていますか」

あずさ「……」

律子「今のあずささんを支えてるものがいつか、崩れるかもしれない。その時が私は怖いんです」

あずさ「……」

律子「私達は……頼りになりませんか」

あずさ「頼りにならないわけがないじゃないですか」

律子「……」

あずさ「ずっと、いっしょに、ここまで来たんですから」

律子「もぅ……」

あずさ「私も気になっていたんですが、律子さんは、泣いていますか」

律子「話を逸らさないでください」

あずさ「私はみなさんからたくさんの勇気を貰ってますから」

律子「…………ハァ」

あずさ「あら、どうして溜息を?」

律子「……いえ」

あずさ「……?」

律子「まぁ、いいです。……私達が見過ごさないよう、ちゃんと見張っていればいいんですから」

あずさ「まぁ、……見張るだなんて」

律子「……」

あずさ「それじゃ、戻りましょうか」

律子「そうですね…………やらなきゃいけないことが……」

132: 2012/11/22(木) 20:56:36.60

あずさ「これからは忙しくなりますよ~、それこそ時間を忘れるくらいに」

律子「……やっぱり、だめ…みたい」


ギュ


あずさ「律子……さん……?」

律子「ちょっとだけ、手を貸してください……」

あずさ「…………はい」

律子「美希の……あんなに…哀しい…声……聞いたらっ……」グスッ

あずさ「……」

律子「あぁ、もぅ……! あずささんが頼ってくれるまで……泣かないって決めてたのに……!」グスッ

あずさ「そうですか…………私の為に……」


ギュゥ


あずさ「ありがとうございます、律子さん」

律子「っ……ッ……」グスッ


黒猫「……」


133: 2012/11/22(木) 20:58:15.22


――


黒猫が見つめる。

事務所に戻り、いつものように作業を進める彼女を。


少しだけ賑やかになった事務所で、ペットのように可愛がられていた。
撫でられ、話しかけられては、馴れ合うことを拒むように距離を取る黒猫。


外見はまだ仔猫。

それ故、動物好きの少女から訝しい目で見られることになる。
その目から逃れるようにミステリアスな女性の後ろに隠れ、その様子をメガネの似合う女性は小首を傾げる。

双子からの悪戯を躱し、高飛車な少女の邪魔にならない位置に座る。

事務員に夢想を語られ、ボーイッシュな少女に餌を与えらながら、優しげな少女に頬笑みを向けられる。
しかし、元気な少女に抱えられても、リボンがトレードマークの少女にじゃれ付かれても、
猫特有の愛らしさはみられなかった。


そして、三浦あずさ、彼女を見つめる。

彼女の胸の奥の寂しさを見つめる。


――


134: 2012/11/22(木) 20:59:37.86


―――― あずさの部屋



バタン



「はーい、ただいま~」

「……」

「今日に限って連れてきちゃいましたけど、……嫌がる様子はないですし……う~ん……?」

「……」

「それより。シロちゃんはお風呂に入りましょうか」

「……」




ジャー


「にゃ」

「嫌がりませんね~? やっぱり普通の猫さんじゃないのかしら……?」




「これで、よし、と」

「……」

「うん、綺麗になりましたね」

「……にゃ」

「ご飯はねこまんまと、にゃんプチ、どちらにしましょうか?」

「……」

「にゃんプチ」

「……」

「ねこまんま」

「にゃ」

「わかりました」



135: 2012/11/22(木) 21:00:32.19


「どうでしたか?」

「……にゃ」

「ねこまんまの方が美味しい……というわけでもなさそうですね……」

「……」

「う~ん……」

「にゃ」




「シロちゃん、私と暮らしますか?」

「……」

「う~ん……」

「……」




「それでは、電気を消しますね」

「……」

「あ、猫さんは夜目が効きますよね」

「にゃ」


カチッ




「シロちゃん、布団の中は暖かいですよ」

「……」

「寒くないですか?」

「にゃ」


モゾモゾ


「あら……」

「……」

「うふふ、おやすみなさい」

「……にゃ」



136: 2012/11/22(木) 21:01:28.15

――…



静まり返った室内。





「――。」





彼女は一つの言葉を零した。

それは夢と現の狭間。

誰にも届かない言葉を。

誰も拭わない涙と一緒に。



「……」



黒猫は見つめる。



137: 2012/11/22(木) 21:04:34.55

―――― 事務所


「おはよーなの」

「み、美希……?」

「おはよう美希ちゃん」

「おはよう、律子、小鳥。まだ二人しか来てないんだね」

「律子さん、でしょ」

「むぅ……」

「どうしたの? 美希の予定はまだ入れてないんだけど」

「いいよー。春香と一緒にレッスンするから」

「あのね、春香は今日、レッスン無いの。撮影やインタビューで忙しいの。美希とは違うの」

「ふぅーん。律子…さん、意地悪なの」

「なんでそうなるのよ……」

「ふふ、好きな子には~ですよね」

「小鳥さん……何を言ってるんですか」

「あふぅ……ソファー借りるね」

「あ、こら。せっかく来たんだから、寝ないで新曲でも覚えなさい」

「昨日ね、ちょっと哀しい夢をみたよ」

「話聞いてないわね……」

「哀しい夢……?」

「……うん、とっても……哀しい夢」

「……」

「……」

「律子…さんとあずさとミキで話をしてね、ミキ……号泣しちゃった」

「ちょっと! 夢じゃないわよ!?」

「律子、ひっかかった」

「くぅ……っっ」

「一本取られちゃいましたね」

「まったく……! もぅ……!」

「これでおあいこ、だよ」

「ハァ…………はいはい。もういいから、静かに寝てなさい。これから貴音のレッスンが入ってるから、一緒に受けること」

「はい……なの」

「ふふ」

「戻ってきたと思ったら、いつものペースなんだから」

「泣き疲れて、寝ちゃって……起きたら朝だったのね」

「……」

「お腹空いてて、ご飯食べて。……そしたら、律子とあずさに会いたくなったの」

「……」

138: 2012/11/22(木) 21:06:35.64

「春香にも真君にも雪歩にも……やよいに伊織に、亜美、真美、響、貴音、小鳥、ついでに社長」

「……そう」

「千早さんにも会いたいなぁ……って」

「……」

「だから、夢じゃないよね」

「当たり前でしょ、夢で終わり。なんてことにさせないわよ」

「……うん。そうだよね」

「……」

「少し、寝るね」

「ほんとに、少しだからね」

「すぅ……」

「相変わらず早いな……」

「なんだか、安心してるみたいですね」

「くぅ……すぅ……」

「……そうですね」



―― チリン。


「?」

「おはようございます」

「おはよう、貴音ちゃん」

「美希……?」

「すやすや」

「貴音、悪いんだけど、打ち合わせから始めていいかしら」

「それは構いませんが……」

「じゃあ、デスクに来て」

「あずさは……?」

「……空を見てくるって……屋上へ」

「屋上へ……」

「にゃ」


テッテッテ


「あら、シロちゃん……いつの間に」

「どうやら、その時が来たのやもしれません」

「その時……?」

「すやすや」


139: 2012/11/23(金) 01:26:04.23

―――― 屋上



「空に抱かれ……雲が…………流れてく……」



―― チリン。



「……」

「?」

「……」

「シロちゃん……」

「……」

「そういえば、シロちゃんと会ったときも今と同じでした……ね」

「……」

「……」

「……」

「やっと、スタートラインに立てたような気がします」

「……」

「私達はこれから夢を叶えるため……走り始めます」

「……」

「だけど……」

「……」

「……だけど…………やっぱり……」

「……」

「さびしい……です…………かなしい…です……っ」

「……」

「……みんなの願いが……少しでも…………空に……」

「……」

「届いてくれないかと……」

「……」

「想い続けることは悪いことでしょうか……」

「にゃ」


140: 2012/11/23(金) 01:32:50.01

「シロちゃん……あなたは……もしかして」

「……」 ― もしかして、は有り得ません。

「……」

「……」 ― 私の声が聞こえますか?

「……やっぱり、唯の猫さんじゃなかったんですね」

「……」 ― 私の声を聞いた時の反応として、幾つか予想をしていましたが。どれも外れました。

「シロちゃん……あなたは……?」

「……」 ― 妖怪、天使、悪魔、神、宇宙人、異世界人、霊体、思念体、観測者、色々と呼び名はあります。

「……」

「……」 ― そのどちらにも該当しますし、該当しません。

「……?」

「……」 ― 旅行者が適役かと思います。

「旅行者……」

「……」 ― 陳腐な役柄で拍子抜けさせたことでしょう。

「……」

「……」 ― 三浦あずさ、あなたに一つの選択を迫りたいと思います。

「……」

「……」 ― そのまえに、予備知識として聞いてください。

「はぁ……?」

「……」 ― 始まりがあれば終わりがある。

「……」 ― それは生と氏。

「……」 ― この宇宙もそれは同じです。地球にもそれを証明した物理化学者がいますがご存知でしょうか。
 
「……」 ― 彼の他にも数名、この全世界の仕組みを発見した人物がいますが、一般的には知られていません。

「……」 ― 氏が存在する限り生も存在するのは摂理といえます。

「……」 ― この宇宙もそれは同じであり、氏と生があるのです。

「……えっと」

「……」 ― 弾けては収縮、収縮しては弾ける。この宇宙はその繰り返し。

「……」 ― 三浦あずさ。それはあなたも同じです。あなたが生まれて、成長し――――


「すいません、宇宙がなんでしょう?」


「……」 ― 失礼しました、話を進めましょう。私にはその寂しさを埋めることができます。

「……」

「……」 ― 私はあなたを含めたみんなの願いを近い形で叶えることができます。

「!」

「……」 ― 天使のような悪魔のような、神のような身勝手な問いかけです。

「会いたいです」

141: 2012/11/23(金) 01:33:26.57

「……」 ― 疑わないのですか。言ったはずです、悪魔のような問いかけだと。

「……ずっと、そばにいたのでしょう?」

「……」 ― ずっとでは無く、刹那。

「信じます」

「……」 ― 代償を頂くと言っても、その想いは揺らぎませんか。

「代償……?」

「……」 ― あなたの今までの頑張りが無かったことになりますよ。

「……」

「……」 ― それだけではありません。
 
「……」 ― あなたが仲間達と共に懸命に乗り越えた苦しい時間、それを無かったことにするのですか。

「……」

「……」 ― ずっと傍で見てきたあなたなら、その意味が解るでしょう。

「はい」

「……」 ― 辛い日々を繰り返すだけという可能性も無いわけではありません。

「……」 ― あなた方から見れば、神は悪魔にでもなり、悪魔は――

「私は、信じます」

「……」 ― ……。

「これからどんなことが起きたって乗り越えていけると」

「……」 ― ……。

「みんなが私を支えてくれる限り、私がみんなを支えていくと、決めました」

「……」 ― ……。

「それに、私達には彼が……プロデューサーさんが必要なんです」

「……」 ― わかりました、私もそれに付き合いましょう。

「……」

「……」 ― 目を閉じてください。

「…………」

「……」 ― ほんの数秒です。

「……」


       ― 失礼ながら、にゃんプチという代物、私の口には合いませんでした。


「ふふ、ごめんなさい」



「」


142: 2012/11/23(金) 01:33:57.22

――――――――






………………



…………


……






※ ―― ※



貴音「貴方は一体、何者なのです」

黒猫「……」

貴音「……」

黒猫「……」 ― このことは秘密にしていただけませんか。

貴音「貴方が、彼女――あずさに悪影響を与えないのであれば」

黒猫「……」 ― 感謝します。

貴音「なぜ、あずさに付き纏うのです?」

黒猫「……」 ― 偶々、では納得できませんか。

貴音「……」

黒猫「……」 ― 私はこの“時”の中で、幾つかの観察対象を眺めてきました。

黒猫「……」 ― その対象は私に数多くの情報を齎してくれます。対象は時を選ばず、世代を超えて多様に広がります。

貴音「その対象となる基準は無い……と」

黒猫「……」 ― はい。命あるものならば種は問わず観察対象になります。この星だけではなく他の星も同様に。或いは星そのものが対象に。

貴音「質問の答えが足りていないようです、納得するしないではありません」

黒猫「……」 ― 三浦あずさから情報を得る意味、それを知りたいということでしょうか。

貴音「ええ」

黒猫「……」 ― ただ、観察をしている――

貴音「……」

黒猫「……」 ― 申し訳ありません、どうか許していただけませんでしょうか。

貴音「……」

黒猫「……」 ― 先ほどから、あなたから怒りの感情が空気を伝い私を刺激しています。

貴音「貴方の為に、彼女の人生があるのではありません」

黒猫「……」 ― ……。

貴音「これ以上、そのような理由で付き纏うのであれば、わたくしは貴方を退けます」

黒猫「……」 ― 私が彼女の願いを叶えられるとしてもですか。

貴音「……!」

143: 2012/11/23(金) 01:34:51.53

黒猫「……」 ― 私は時間を飛ばすことができます。

貴音「…………飛ばす……?」

黒猫「……」 ― その前に、この宇宙の秘密をお教えしなければなりません。

貴音「……」

黒猫「……」 ― 宇宙は収縮し、膨張し、弾ける。そして、弾けた宇宙は収縮を始め、膨張し、また弾ける。

黒猫「……」 ― この過程を幾度となく繰り返していこと。この秘密を知る人物がこの星にも数名いますね。

貴音「今が膨張の時……」

黒猫「……」 ― そうです。そのプロセスは正しく、一つ一つの事柄が緻密に再現されています。

貴音「……」

黒猫「……」 ― 正しい行いも、間違った選択も、一つ一つ正確に。

貴音「……」

黒猫「……」 ― 今、この時をあなた方は何度も過ごしているといえるのです。

貴音「高次元、多層状から見られる、ぱられるわぁるど、というものでしょうか」

黒猫「……」 ― 許していただけたようで安心しました。

貴音「話の続きを」

黒猫「……」 ― 失礼しました。多世界解釈ですね。ですが、私にとって意味を持ちませんのでその解釈は排除してください。

貴音「それでは、たいむりぃぷ……?」

黒猫「……」 ― それも意味を持ちません。なぜならば、土質が悪くて枯れた花があるとします。

貴音「はい」

黒猫「……」 ― 私が良質な土に入れ替えて延命したところで得るものは無いのです。

貴音「花を慈しむ人々を観察、ではないのですか?」

黒猫「……」 ― いえ。花が枯れて悲しむ人々が観察対象になります。

貴音「……」

黒猫「……」 ― 花が枯れて土に還り、次の花を咲かせるという役目もまた重要なのです。

貴音「そうですね……。枯れた花は次の世代への糧となるのですから」

黒猫「……」 ― はい。この“時”を戻してやり直す。選択を操作して改変。それは私にとって無意味なのです。

貴音「……」

黒猫「……」 ― 私に流れる時間は無限ですから、一つの対象に拘る必要も無いということですね。宇宙が一つではないのもその理由に含まれます。

貴音「そのようなことが……。それでは、飛ばすという概念は」

黒猫「……」 ― 時間を消すのではなく、早めると思っていただければよいかと思います。

貴音「過去が明日に変わり吸い込まれる未来」

黒猫「……」 ― その表現が適切です。しかし、驚きました。的を射た表現です。

貴音「わたくしの唄う歌詞にそのようなふれぇずがあります」

黒猫「……」 ― 音楽。世界を象る要素の一つですね。納得しました。

貴音「先ほどの例を引用しますと、土が代わるのを待つ、ということでよろしいのですか?」

黒猫「……」 ― はい。

貴音「…………矛盾しているようなのですが……」

黒猫「……」 ― そうですね。緻密に再現していると説きながら、代わるのを待つとも説きました。

144: 2012/11/23(金) 01:36:25.18

貴音「土が代わる可能性が無いわけではない……と?」

黒猫「……」 ― そのための実験――失礼しました、観察でもあります。

貴音「貴方の存在はいれぎゅらぁなのですか?」

黒猫「……」 ― お察しの通り、幾億の繰り返しで出会ったイレギュラーです。ですが、時間が流れる毎に無意味となります。

貴音「いえ、これも縁というもの」

黒猫「……」 ― ……。

貴音「わたくしは信じます。またあの方と会えることを、皆と共に過ごせる時間を。ですから、このいれぎゅらぁも無駄ではないと」

黒猫「……」 ― ……。

貴音「はて、どういたしました?」

黒猫「……」 ― いえ。

貴音「飛ばすことであずさに及ぶ危険は?」

黒猫「……」 ― あなた方にとってはほんの一瞬ですので、注意を促す必要も無いと判断しています。

貴音「貴方にとってはどのような時の流れになるのです……?」

黒猫「……」 ― 結構な時間です。

貴音「独りで旅を続けて来たのですね」

黒猫「……」 ― 旅。そうですね、私は旅行者と呼ぶに相応しいと思います。

貴音「このこと、あずさに伝えてもよろしいのですか」

黒猫「……」 ― 時期を観て、私から尋ねます。

貴音「では、そのように。話を聞いて理解することができました」

黒猫「……」 ― 怖くは無いのですか?

貴音「消す、ということでなければそれほどの身構えは不要かと……。
   あと、彼女とわたくし達の想いも一つでしょうから」

黒猫「……」 ― ここまで話をしましたが、選択を決めるのは彼女です。

貴音「……」

黒猫「……」 ― 一つ、試したいことがあるのです。彼女の想いの強さの程度を。ですから、飛ばさないという可能性も少なくはないでしょう。

貴音「それならばそれで、あずさと共に、とっぷあいどるを目指す次第です」

黒猫「……」 ― そうですか。

貴音「どうやら、わたくし達だけではなかったようですね」

黒猫「……」 ― ……。

貴音「貴方自身、気付いていますか?」

黒猫「……」 ― ……。

貴音「行動の矛盾に」

黒猫「……」 ― どうやら、私の完敗のようですね。私も彼女の願いを叶えたい一人なのです。

貴音「それを聞いて安心いたしました」

145: 2012/11/23(金) 01:36:58.01

黒猫「……」 ― 私が情報を集めていることに不審はないのでしょうか。

貴音「わたくしにとってそれは重要なことではない、それだけのことです」

黒猫「……」 ― わかりました。最後にもう一つ、お尋ねしてもよろしいでしょうか。

貴音「はい、なんなりと」

黒猫「……」 ― 私の存在に気付いた理由を教えていただけますか。

貴音「そのような、ぷらいべぇとな質問にはお答え致しかねます」

黒猫「……」 ― ……。



※ ―― ※






……


…………



………………





――――――――








「あずささん、起きてくださいあずささん」





「……ん…………」



「あずささん、あずささん……」



「は……ぃ…………?」




146: 2012/11/23(金) 01:39:24.72

あずさ「……あ…ら……?」

「おはようございます……。って、もう夜ですけど」

あずさ「……ぅ……ん…………?」

「30分くらいかと思ったら、1時間も寝ちゃってましたね……あはは」

あずさ「……ん……? ん?」

「おっと、こうしちゃいられません、早く宿題を片付けなきゃっ」

あずさ「春香……ちゃん……ここは……?」

春香「え? ……事務所……ですよ?」

あずさ「あら……?」

春香「寝ぼけているんですね、わかりますよ。私も長い長い夢を見ていましたから、あれれ~って」

「春香、宿題しなくていいの?」

春香「あぁっと、いけないいけない」

あずさ「……」

「はぁ…………歌声の奥深さ、崇高さ、美しさを全て備えている……」

あずさ「Athena Glory……」

「知っているんですか、あずささん……?」

あずさ「えっと……あら?」

「?」

あずさ「……特に知っているわけじゃないんですけど」

「そうですか」

春香「この放送日のためにスケジュールをこなしてきたんだよね」

「えぇ……というわけですので、しばらくテレビに集中してもいいですか?」

あずさ「え、えぇ、……話しかけてごめんなさい」

「いえ……」

春香「うーん……イヤホンを装着してまで…………凄い熱心ですね……」

あずさ「千早ちゃんの……先生さん……」

春香「せ、先生?」

千早「……」ジー

あずさ「まだ寝ぼけているのかしら……なんだか頭がぐるぐると……」

春香「……」


147: 2012/11/23(金) 01:41:23.09


ガチャ


パタパタパタ


あずさ「あら……誰か……?」

春香「帰ってきたみたいですね……給湯室に駆け込んだみたいですけど……」



「うぅー、寒い……なんなんだ、この異常気象は」


あずさ「――!」

春香「えっと……この公式は……」

あずさ「教科書の40ページ……」

春香「え……?」




ガチャ


ドタドタドタ


「もぉー、なんで亜美達を置いてくのー?」

「そーだよーひどいよー」

「お菓子コーナーでいつまでも駄々こねてるからだろ?」

「お菓子くらい買ってくれてもいいっしょー?」

「そーだよー、色々オレンジしてかわいーくおねだりしたのにぃー!」

「アレンジ、な。……大体、二人に買ったら、事務所みんなの分を買わなきゃいけなくなるだろ?」

「問題ないっしょ?」

「天気が悪くなるから、のんびりされたら困るんだ。そろそろ夕飯時だしな」

「だいじょーぶだよー。甘いものは別バラ肉っていうもんね!」

「肉は余分だな。胡麻を振りかけてっと……出来上がり」

「おいしそー! とくせーあいじょー料理完成だね!」

「そんなに胡麻が必要なの?」

「ああ。この胡麻じゃないと風味が足りなくなるんだ。ほら、亜美、食べてみてくれ」

「あーん……もぐもぐ」

「真美もー!」

「……はい、あーん」

「あーん……もぐもぐ」

「どうだ?」

「このごりごりとした歯ごたえ……実に斬新ですな」

「それでいてごりごりとした食感……なんともトレビアーン」

「ごりごりとしか言ってないじゃないか。二人とも料理番組に呼ばれなくなるぞ……」

「「 でも、めっちゃおいしーよ! 」」

「それは良かった……って、あずささんが寝てるんだから、声を小さくしてくれ……!」

148: 2012/11/23(金) 01:42:34.23


春香「寝てたのあずささんだけじゃないんですけどね……はは……」

あずさ「……ッ」

春香「あずささん……?」

あずさ「……っ……っ」


「あ、あずささん起きたのか、春香?」


春香「は、はい……起きてますけど……」

「「 あれまー、起こしちゃったよー 」」

あずさ「亜美……ちゃん……」

亜美「うるさくてごめんねー?」

あずさ「真美ちゃんも……」

真美「あずさお姉ちゃん……どうしたの?」

春香「だ、大丈夫ですか……顔色が……」

あずさ「……っ」

真美「手が……震えてるよ……っ」

千早「すぐ横になったほうがいいですよ」

亜美「そうだよー、はやく」

あずさ「だ、だいじょう……これは誰の……上着……?」


「風邪はまずいな!」


パタパタパタ


あずさ「――!」


「こ、小鳥さん! 体温計ってどこでしたっけ!?」

「え、えぇっと……」

「落ち着いてください。そこの棚です」

「えーっと! どこだ!?」

「だから、そこの……もぅ、どいてください!」

「……す、すまん……律子……」

「もう少し、もう少しで終わるぞー、頑張れ自分ー!」


真美「お水……持って来たよ」

千早「ありがとう、真美。これを飲んでください、あずささん」

あずさ「う、うん……」


149: 2012/11/23(金) 01:44:25.36


ガチャ


「うっうー! ただいま戻りましたー!」

「風と雪で疲れたわ……まったく、やんなっちゃう」

「あれ……なんだかおいしそうな匂いがするよ……くんくん」

「伊織ちゃんのために料理を作って待っててくれたのね。やるじゃない」



「あずささん、体温を測ってみてください」

あずさ「…………」

「あの……あずささん……?」

あずさ「……」

「俺の顔に……なにか……?」

あずさ「プロデューサー……さん……」

P「顔色が悪いですよ……?」



「はい、伊織ちゃん、あーん」

「あ、あーん…………もぐもぐ」

「どう?」

「うん、悪くない味ね」



P「……」

あずさ「……」


春香「……」

亜美「うーん……?」

真美「二人見つめあったまま固まってるけど、ドラマの練習じゃないよね?」

千早「……」

律子「……」

小鳥「……」




ガチャ


「たっだいまー!」

「道が悪くて……もうへとへとですぅ~」

「もぉ、疲れちゃった~……ソファーで回復するの」

「三人ともお腹空いてるでしょ?」

「う、うん……そうだけど」

「いいものあるから、こっちに来なさい」

「え……?」

「とってもおいしいですよ~」

150: 2012/11/23(金) 01:47:00.67


「まるで長い時間を越えて出会った二人のようなの」


P「……はっ!?」

あずさ「あ、あら……?」


亜美「あずさお姉ちゃん……だいじょうぶ?」

あずさ「だ、大丈夫ですよ~」

真美「でも、さっき……」

あずさ「ほ、ほら。この通り、元気ですから」

春香「……」

千早「急に体を起こさないほうが……」

「あふぅ」

律子「そうですよ。風邪は早めに対処しなくては」

あずさ「風邪ではありませんよ。……大丈夫ですから。ほら、ちゃんとまっすぐ立てますし、はい」

律子「いつもそうやって無理を…………無理を……?」

千早「大丈夫そうですね」

真美「そう言葉を残し、千早姉ちゃんはイヤホンを耳にかけ」

亜美「テレビに映るマドンナに恋焦がれるのであった」

小鳥「な、なにを言ってるのかな……?」

P「体調が戻るまで上着を着てて――」



「おいしい、さっすがプロデューサー!」

「でも、食べちゃっていいのかな……」

「いいのよ。私の下僕が作ったんだから。遠慮しないでどんどん食べちゃいなさい」

「でも、残り少なくなってきたよ?」

「また作らせればいいのよ」



P「こ、コラー!!」


パタパタパタ


151: 2012/11/23(金) 01:49:34.95

「できたー! 律子ー! これで問題ないさー!」

律子「はいはい……って、美希は何をしてるのよ」

美希「あったかぁい……あずさがミキの為にソファーを暖めてくれたんだねぇ……」

律子「ちょっと、眠らないの!!」

美希「くぅ……すぅ」

律子「な、なんて早さなの……」

「律子ー! 企画書できたぞー!」

律子「春香、美希を起こしておいてね。予報では雪が激しくなるそうだから、そろそろ帰らないと」

春香「……」

律子「春香?」

「りーつこー!! 早く来てー!」

律子「あぁ、もぅ!」


パタパタパタ



「あぁー! こんなに食べたのかー!?」

「だ、だって……おいしかったんだもん……」

「ご、ごめんなさいぃ……」

「なによ、材料ならまだあるじゃない」

「材料はあっても時間が無いんだよー!!」

「ご、ごめんなさいプロデューサー!」

「うぅ……! こんなダメダメな私なんてっ」



小鳥「なんだか給湯室が慌しくなってきましたね……」

あずさ「……」

春香「あずささん……」

あずさ「…………」


ガチャ


「ただいま戻り……」

「あ、おかえりなさい……四条さん」

「どうしたのです、雪歩。……スコップを持って……さては、これから雪下ろしに励もうというのですね」

「違いますぅ」

「ちょうどよかった、ほら、貴音も食べてみてよ!」

「こら、真! 共犯者を増やそうとするんじゃない!」

「もぐもぐ」

「ねぇ、どうすんのー?」

「やっぱり作り直さなきゃダメだよー」

「わ、私も手伝いますから!」

「い、いや……気持ちは嬉しいが時間が無い……これだけでも充分…なんとか……!」

152: 2012/11/23(金) 01:50:58.90

千早「……ッ!」ガタッ

春香「わっ、ち、千早ちゃん……!?」

あずさ「……」

小鳥「あずささん、大丈夫ですか?」

あずさ「…………」

美希「すやすや」



「あの……プロデューサー……!」

「な、なんだ千早……」

「静かにしてください……!」

「わ、わかった。すまん」

「あわわ、千早を怒らせちゃった……!」

「こ、怖かったですぅ……!」

「もぐもぐ」

「た、貴音ー!?」

「はて?」

「もう一口分しか……ふぐっ!?」

「ちょっ、黙りなさいよ!」

「お、怒らせてしまいますよー」



千早「もぅ……!」

春香「……」

千早「なに?」

春香「ううん……なんだか、珍しいなーって……」

千早「珍しい……? 私のこと?」

春香「……うん」

あずさ「……」


153: 2012/11/23(金) 01:52:47.73

ドタドタドタ


「プロデューサー! 企画書出来たぞー!」

「し、しずかにしろ、響」

「な、なんでそんなに怯えているんだ? まるで群れからはぐれたバンビのようだぞ」

「その喩えはなんなのよ」

「千早がリアルタイムで鑑賞するために作った貴重な時間なんだ、みんな邪魔をしないよう、しずかにな」

「そう……まるでゾンビのように!」

「あ゛~ぁ゛~……兄ちゃんはっけ~ん……」

「真美はなにをしてるんですか?」

「ゾンビの真似だろうな……よく分からないけど」

「あははっ、上手いな……ふぐ!?」

「ま、真ちゃんしずかにっ!」

「ぁ゛~にくだ~……がぶっ」

「うぐっ!? 本当に噛むやつがあるかっ!」

「しずかにしなさいよっ!」

「い、伊織ちゃんもだよ~!」

「やよいもですよ」




千早「……」

春香「ぷ、プロデューサーさーん……」




「……」

「……」


シ ィ ー ン



小鳥「なんだか、今日は特に賑やかですね」

律子「……確かに」

あずさ「……」



154: 2012/11/23(金) 01:54:22.30

「プロデューサーからオーケーを貰ったら大丈夫って律子が」

「あ、あぁ……って、律子が通したんなら問題ないと思うが……」

「いいから、読んでー」

「うん……。……沖縄ロケ……か」

「そうだぞ。またバナナを準備しなくちゃな」

「……だから、それは失礼に当たるって……。でも、悪くないな」

「どうしてきんぴらごぼうを作ってたの?」

「さぁ……? 私に対するねぎらいじゃないの?」

「う~ん、とことんポジティブだね、いおりん」

「あのね、……兄ちゃんがケーキを」

「あ……! そうだった……問題はこっちの方が大きい」

「大変おいしゅうございました」

「お茶請けにいいかも……」

「いやいやー、やっぱり白いご飯だよ雪歩」

「どうしたものか……」

「プロデューサー、ちゃんと見てくれないと困るぞー!?」

「しずかにしろーひびきん、ここは戦場だー」

「あはは、亜美、おもしろ~い……あっ! しーっ!」



千早「……ふぅ」

春香「あ……」

千早「もういいわ……。録画もしてあるし、今じゃなくてもいいの」

春香「……」

千早「それに、どうしてか分からないけれど、向こうが気になって……」

春香「……うん」

律子「私も……なんだけど……どうしてかしら……」

小鳥「……そうですね」

あずさ「……」



「あ、あれ? 千早姉ちゃん、テレビ消してるよ?」

「うわ……やってしまったか……」


千早「別に、怒っていません」


155: 2012/11/23(金) 01:55:58.41

「よかったぁ……ボク、ハラハラしちゃったよー」

「よ、よかったね……」

「うんうん」

「ふ、ふんっ、みんなびびり過ぎよ」

「伊織、シャルルーゼフィアンソア・ドナテルロ18世が圧迫されて苦しそうなのですが……」

「シャルル・ドナテりゅロ18世よ! 無駄に付け足すんじゃないわよ貴音!!」

「申し訳ありません」

「あれ、伊織ちゃん……名前……」

「どっちが正しいの?」

「貴音が正しいわよ! 私は噛んだだけよ!?」

「伊織、怒った勢いで誤魔化そうとしてないか……」

「あ、温かいお茶を淹れますから、みなさん落ち着きましょう……」

「いや、落ち着いてる時間は……」

「なにこれ、でぇじおいしかったさー」

「ひびきんが最後まで食べたー!!」

「もうダメだ……謝ってくるしかない……」

「が、頑張って、兄ちゃん!」



P「あ、あの……あずささん……」

あずさ「は、はい……」

P「すいませんでしたっ!」

あずさ「え、えっとぉ……??」

P「約束していた、あの店のケーキなんですけど――」

あずさ「……約束…………」

P「急いで向かったんですが、間に合わなくて」

あずさ「やく……そく…………」

P「雪が積もっていたのもあって」

あずさ「――。」

P「え……?」








あずさ「嘘つき」







P「……」

156: 2012/11/23(金) 01:58:18.03

律子「え――?」

小鳥「あ、あずさ…さん……?」

響「あずささん!?」

真「え、え? あずささん!?」

やよい「……あずささん?」

雪歩「あ……あずさ……さん……?」

伊織「ど、どうしたのよ、あずさ……?」


千早「あずささん……?」

美希「……」

春香「……」

貴音「……あずさ」


あずさ「――はっ! わわわ私ななななんてことを!?」

P「すいませんでした……。言い訳……なんてしてしまって……」

あずさ「ちちちがいますっ! そそそれははですね!」

律子「お、おお落ち着いてくださいっ」

小鳥「り、律子さん……!」

亜美「あずさお姉ちゃん、その……兄ちゃんは代わりのケーキも買ってきたから……」

真美「前にあずさお姉ちゃんが褒めてた……チンピラごぼうも……作って……」

真「あのキンピラごぼうって……!」

雪歩「その為に……!?」

伊織「……しくったわ」

やよい「あ、あぅ~……」

響「食べてしまったぞ……」

P「いや、ご機嫌取りをしようとした俺が悪いんだ。
  あずささんは俺との約束を守ったのに……俺は破っただけじゃなく……言い訳まで」

あずさ「ちちちがうんですよ!? そういうあれがそうじゃなくてですね!?」

P「お詫びといってはなんですけど、出来る事ならなんでもしますから。言ってください」

あずさ「えぇっとええっとあのそのええっと……ど、どうしましょう律子さん!?」

律子「何か、言ってみたら……いいんじゃないですかね」

響「自分も、サーターアンダギーたくさん作ってくるぞ!」

伊織「材料くらいならいくらでも用意させるわ。作るのはプロデューサーだけど」

やよい「わ、わたしもなんでもしますっ! たくさんお手伝いしますっ!」

雪歩「わ、わたしも……お茶を毎日……いつもより多めに作りますぅ……!」

真「え、えっと……ボクは……あずささんを毎日護衛します!」

亜美真美「「 あずさお姉ちゃんのためになんでもするから! 兄ちゃんが!! 」」

157: 2012/11/23(金) 01:59:31.28

あずさ「…え…えっと……そ、そうですねぇ……」


千早「……」

小鳥「……」

春香「……」

美希「……」

貴音「……?」



あずさ「それじゃあ……」



―― チリン。







あずさ「結婚してください」


P「――はい」






P「なんだ……どんな難題を……ん? ケッコン……!?」

亜美真美やよい伊織「「「「 えええええぇぇぇぇぇ!? 」」」」

真雪歩響小鳥   「「「「  …………えええぇぇぇぇぇええ!? 」」」」

春香千早        「「 ………………ぇぇぇぇぇえええええ!? 」」



「どうしたというのかね、大波のような驚き声が怒涛に――」


ガチャ


伊織「ちょ!? 社長は部屋に引っ込んでなさい!」


ドンッ



「み、水瀬君!? なにを……!」

伊織「今、765プロの瀬戸際なんだからっ!!」

「そ、それなら尚更私が必要じゃないのかね!?」

伊織「亜美、真美!」

亜美真美「「 あいあいさー! 」」


ガッ


「あ、開けるんだ水瀬君!」

ドンドン


158: 2012/11/23(金) 02:01:03.22

伊織「ふぅ……これでしばらくは出てこれないでしょう。よくやったわ、二人とも」

亜美真美「「 いえいえ 」」

律子「あ、あんたたち……社長になんてことを……」

小鳥「そそそ、それより」


あずさ「ああ、ああそそそれはですね! や、やよいちゃんが言ったんです!」

やよい「わ、わたしが言ったんですかぁ!?」


律子「ダメだ、完全にパニックになってる……」

千早「驚いた……」

春香「わ、私も……」

貴音「……なるほど、こうなるのですね」


やよい「わわわ、私がプロデューサーとけけけケッコンですかっ!?」

真美「落ち着くんだよ、やよいっち……これは夢なんだから」

やよい「そ、そうだよね! まだ早いよね!」

亜美「そうそう、やよいっちにキューコンなんてしたら、兄ちゃんはしゅーしんけーで島流しだよ」

真「なんだ、夢かぁ……」

雪歩「びっくりしちゃったぁ……」

響「あはは」

やよい「あ、あははは」

亜美真美「「 あははははは 」」

伊織「笑ってなかったことにするのね、わかったわ。……あはははは」

律子「混沌としてきたわね……」


あずさ「あはははは」

P「あの、あずささん……夢じゃないですよ」

あずさ「……そうですよね」

P「……」

あずさ「あ、あの……冗談……ですから……忘れてください」

P「……そうですか……冗談……」

あずさ「は、はい……」

P「よかった」

あずさ「え……」

159: 2012/11/23(金) 02:02:56.08

P「ほら、みんな遊んでないで帰る準備するんだ!」

亜美「ちぇー、せっかく面白くなってきたのに~」

真美「でも、さっきのあずさお姉ちゃん……ハクシンの演技だったよねー」

あずさ「そ、そう?」

やよい「はいー! 私、ビックリ企画のなのかなーって思って、カメラ探しちゃいましたー」

あずさ「……うん」

P「春香、帰り支度してくれ。これから吹雪いてくるそうだぞ」

春香「は、はい……」

亜美「ねぇねぇ、兄ちゃん。これから吹雪いたらどうなるのかな?」

真「うわっ! 交通機関が止まって帰れなくなるよ! 急いで帰らないと!」

雪歩「わ、私も帰らなきゃ!」

P「千早とやよいと響は俺が送っていくから、待っててくれ」

千早「わかりました」

やよい「はーい!」

響「帰れなくなっても、ハム蔵たちのご飯は充分置いてきたから平気なんだけどなぁ……」

P「響! 何を言っている!?」

真美「みんなでお泊り? それすっごく楽しそうだよねー! いおりん!」

伊織「そうね……まぁ、退屈はしないんじゃないかしら」

P「ダメだ!! 雪の止んでいる今のうちに帰るんだ!!」


伊織「イクシアダーツサムロディーア」


160: 2012/11/23(金) 02:04:13.80

P「外に向けてなんの呪文をかけたんだ伊織!?」

伊織「あんたが望まないことよ、にひひっ」

あずさ「あの、私……少し散歩してきます……」

P「えっ!? こんな時に!?」


バタン


P「都会で遭難することになるぞ! 真、頼むッ!」

真「了解ー!」

貴音「では、わたくしも」

春香「わ、わたしも……うぉわっ!?」


ドンッ


バサバサバサッ


律子「あー! せっかく纏めた書類がー!!」

春香「あわわ! すいません律子さん!」

律子「明日使うのに……!」


小鳥「社長……この通りの有様で……」

高木「うむ……。後は頼んだぞ」

P「は、はい! ……はい!? 帰るんですか!?」

高木「外せない用事があってな。すまないが、後の事はキミに任せるよ」

P「それ本当に外せない用事なんですかっ! 社長ー!!」


バタン


P「行ってしまった……!」

律子「行ってしまった……じゃないですよ! バカプロデューサー!!」

P「い、いっ!? 耳がっ?!」

律子「いいから、こっちにきなさい!」


161: 2012/11/23(金) 02:06:16.11


美希「くぅ……すぅ……」

律子「ど、どうしてここで寝てるの美希……」

小鳥「ここは静かですからね……」

律子「まぁ、いいや……で、プロデューサー殿?」

P「……はい」

律子「どぉして、あずささんにあんなリアクションをしたのか説明してくれますよね?」

P「……えっと」

小鳥「そうですよ。冗談と言われて、安心するなんて、女性なら傷つきますよ」

P「……俺の立場が」

律子「あずささんの立場は考えないんですか?」

P「……」

律子「まぁ、みんな驚いていましたけど……」

P「……」

律子「あずささんを傷つける人は、たとえプロデューサーでも許すことはできません」

小鳥「同じく」

P「う……」

律子「なんとか言ったらどうなんですか?」

P「あずささんのファンを裏切ることになる」

美希「ファンを舐めるな、なの」

P「……」

美希「ミキ知ってるよ。誰かさんがあずさを目で追ってること」

P「……!」

律子「美希……」

美希「ミキたちとは違った優しい目だから、すぐわかったよ」

P「俺はこれでもプロとして働いているつもりだ。そういった話はこの世界でタブーなのは知ってるだろう?」

美希「あずさを悲しませちゃダメなの」

P「え……?」

美希「ただ、それだけ」

律子「……」

小鳥「……」

P「わかった。そこまで言わせて白を切るのもよくないよな」

美希「……」

P「『夢はみんなまとめてトップアイドル』」

律子「……!」

P「この夢を前に、俺は中途半端なことをしたくないんだ。みんなに対しても、仕事に対しても」

美希「……」

162: 2012/11/23(金) 02:08:04.50

P「あずささんに対しても」

美希「ふぅん……そんなことより、ミキの眠りを妨げないでほしいの」

P「あ、あのなぁ……」

律子「そうですよ。さっさと追いかけてください」

小鳥「吹雪いてきたら大変ですよ」

P「あ、あぁ……分かった。律子、みんなをちゃんと帰らせておいてくれ」

律子「りょーかいです」


テッテッテ




小鳥「……ふぅ……あずささんのこととなると、変に自信を失くしますよね、プロデューサーさん」

律子「まったく……世話が焼けるんだから」

美希「まったくなの……」

律子「あんたもでしょうが」

美希「……そんなの知らないよ」

律子「ありがとね、美希」

美希「え……?」

律子「ん? なんでお礼を言ったのかしら……?」

美希「お礼はいいから、最後に優しくしてほしいな」

律子「なに言ってるのよ」

美希「だって、プロデューサーにはもう甘えられないでしょ?」

律子「……はいはい」


小鳥「今日はなんて良い日なのかしらっ!」









ガチャ


P「えっと……あれ……真?」

真「あ、プロデューサー……」

P「どうしてこんなとこに……?」

貴音「屋上で、お待ちしていますよ」

P「……?」

貴音「素敵な縁にございます」

真「……そうだね」



163: 2012/11/23(金) 02:09:04.48


―――― 屋上




あずさ「今日は満月……ですね」


小雪の舞う空。

雲と雲の間を金色に輝く月。


あずさ「はぁー……」


少し悴んだ両手を暖める。


あずさ「ここに、君がいないこと――」


月に話しかけるように。


あずさ「ここに、君がいたこと――」


誰かに届けるように。


あずさ「そこに、私がいなかったこと――」


想いを伝えるように。


あずさ「――そこに、私がいたこと」


それは届く言葉になる。


あずさ「…………」


―― チリン。


あずさ「あら?」


鈴の鳴る方へ視線を向けると一匹の黒猫が佇んでいた。


黒猫「……」

あずさ「あなたはどこから入り込んだの?」

黒猫「にゃ」

あずさ「うふふ」


164: 2012/11/23(金) 02:12:09.10

「あずささん」


あずさ「は、はい……?」

P「どうして……こんなところに……」

あずさ「月を見ていたんです」

P「え……? あ……本当だ……」

あずさ「でも、雲の流れが速いですから、天気はすぐに崩れそうですね」

P「そ、そうです。早く帰らないと……!」

あずさ「なんだか、今だけ、時間がゆっくり流れているような……」

P「……?」

あずさ「……そんな気がします」

P「……」

あずさ「……」

P「帰りましょう」

あずさ「…………そうですね。嵐が来る前に」

P「……さ」

あずさ「さ?」

P「さっきの……冗談、嬉しかったりします」

あずさ「ま、まぁ……! あれはその……ですね……!」

P「俺、約束します」

あずさ「――ッ」

P「だから」

あずさ「…………嫌……です」

P「え……?」

あずさ「約束は……もう、嫌です」

P「……」

あずさ「……っ」

P「すいません。……俺の知らないところで、あずささんを傷つけていた……みたいですね」

あずさ「……そ、そんなことは」

P「誓いを立てていいですか……?」

あずさ「ち、誓い…ですか……?」

P「みんなをトップアイドルにすると。……その時には、あずささんに……ですね」

あずさ「?」

P「えっと……その……ですね」

あずさ「???」

P「さっきあずささんが言ってくれたことを……俺が言ってもいいですか」

あずさ「はい……??」

P「プロポーズしてもいいですかってことです」

あずさ「――!」

P「あ、いや……他に素敵な人が現れれば――」

165: 2012/11/23(金) 02:14:01.79



あずさ「――はい」



P「……」

あずさ「ずっと、ずっと待っていましたから」

P「……」

あずさ「探していましたから……っ」

P「あずさ…さん……」

あずさ「……っ」

P「……」

あずさ「どうしてでしょう……プロデューサーさんの声を聞くたびに胸が締め付けられて……」

P「……」

あずさ「目を見るたびに……苦しくなって…いくんです……」

P「あずささんが……」

あずさ「……っ」

P「あずささんが俺に約束をしてくれませんか……?」

あずさ「……」

P「それなら、大丈夫……かな、と」

あずさ「…………ずっと……ずっと……隣に・・・いてくださいね」

P「いつまでも支えたいと思っています」

あずさ「……!」

P「これは約束じゃなくて、俺の勝手な希望ですから」

あずさ「……はいっ…………だいじょうぶですよね……っ」ボロボロ

P「……っ!」

あずさ「もう……私を……私達を置いていかないで……っ……くださいね……」ボロボロ

P「…………はい」

あずさ「……胸が苦しくて……涙が…止まってくれません……っ」ボロボロ

P「……」



166: 2012/11/23(金) 02:15:08.90



ビュゥゥウウウウ


P「まずい……!」

あずさ「ぐすっ」

P「帰りましょう、あずささん」

あずさ「……あ」



黒猫「……」 


        ― 見届けましたよ。



あずさ「……」

黒猫「――」

あずさ「えっと……」

黒猫「……にゃ?」

P「あずささん……?」

あずさ「ふふ、戻りましょうか」

黒猫「にゃ~」

あずさ「ありがとう、シロちゃん」



167: 2012/11/23(金) 02:16:41.78

真「あ……」

あずさ「あらあら、真ちゃん、貴音ちゃんも……」

貴音「……」

P「待っててくれたのか……」

真「さってと、帰りましょうか!」

あずさ「真ちゃん、そんな格好では風邪を引いてしまいますよ」

真「平気ですよーこれぐらいっ!」

黒猫「にゃ~」

真「うわっ、可愛い~!」ナデナデ

黒猫「うにゃう」スリスリ

真「ぐはっ! ボクの精神に鋭くジャブを……!」

P「遊んでないで、みんなも帰ったんだから俺達もさっさと帰るぞ」

真「誰も出て来ませんでしたよ?」

P「なっ……!?」

貴音「旅立っていったのですね……」ナデナデ

黒猫「うにゃ?」

あずさ「……」

P「しょうがない、ここは気合を入れないとな」

真「どうして気合をいれるんですか?」

P「みんなをさっさと帰らせる為だ……何やら危険な計画を立ててるからな……」

真「計画……?」

あずさ「うふふ」

P「行くぞ……!」



ガチャッ


P「おまえたち! 急いで――」

真美「鍋の支度だー!!」

亜美響やよい「「「 おーっ! 」」」

P「ダメだーッ!」

亜美「だって、兄ちゃん、この吹雪じゃ帰れないっしょ?」

P「今ならまだ間に合う! さぁ、さっさと帰るぞー!」

春香「電車止まっちゃいました……」

P「」 

小鳥「バスもストップですね」

P「」

168: 2012/11/23(金) 02:18:13.85


ゴォォォォオオオ



響「みてみてプロデューサー! 窓がガタガタ鳴ってる! 台風の雪バージョンみたいで、なんかワクワクしてくるね!」

P「頼むから響、はしゃがないでくれ……こういう楽しい気持ちは伝染するんだから」

千早「プロデューサー、送ってくれるといいましたよね」

P「そうだけど……この吹雪に気後れしないんだな……」

千早「先ほどの特集を早く見直したいので……よろしくお願いします」

P「こっちはこっちで真面目……ッ」

やよい「うぅー長介たち大丈夫かなー」

P「そうだ! 早く帰らないと家の人が心配するぞ! みんな家に連絡して迎えに来てもらえる人は呼んで帰るんだ!」

伊織「ほら、やよい。電話使って」

やよい「あ、ありがとう」

亜美「ピッポッパとな!」


pipipipipipipi


P「亜美、俺に電話して遊ぶんじゃない」

亜美「もしもし、母上殿でござるか? 拙者、主の娘御にございまするん」

P「あれ……?」

真美「兄ちゃん間違えてやんのー」

響「やんのー!」

あずさ「まぁ、誰でしょう?」

P「……知らない番号……? もしもし?」


『よう……』

P「申し訳ありません。登録されていない番号ですので、お名前を仰っていただけますか?」

『あぁ? 俺が分からないのか?』

P「……間違い電話?」

あずさ「この声……たしか」

P「ち、近いですよあずささん……!」

あずさ「……砂志須瀬草汰さんでした……ね、はい」

P「あぁ、草汰か……」

『五十音で覚えてんじゃねえ! どうせならタ行で……って! なんの話だよ!?』

あずさ「たちつてとうま……さん……」

P「たちつてとうまが俺になんの用……って、なぜこの番号を知っている!?」


169: 2012/11/23(金) 02:20:08.42


コンコン


小鳥「はぁーい」

伊織「やっときたわね」

P「こんな時にお客……?」

『いや、用があるわけじゃないんだが……ただ、なんとなくな……』

P「あ、すまん……なんて言ったんだ?」

『ふん、じゃあな』


プツッ


P「え……俺……なにかしたのか……アイツに……?」

あずさ「ふふ、気にかけてくれた……ということだと思います~」

P「気にかけて……?」

伊織「ご苦労様、新堂」

新堂「いえ、それでは失礼いたします」

P「え……」


バタン


P「どうして新堂さんが……?」

伊織「布団一式とお鍋の材料を持ってきたからに決まってるじゃない」

P「新堂さーん!! 伊織をつれて帰ってくださいー!!」

伊織「なによ、そんなに私が邪魔なの?」

P「なぜ新堂さんと帰らないんだ!?」

伊織「だって、今日は事務所にお泊りでしょ?」

P「知らない、そんな事は聞いていない……!」

伊織「知っていようがいまいが私には関係ないわね。やよい、どうだった?」

やよい「うん、お母さん達も帰ってきてるから、お泊りしても大丈夫だって」

P「えぇーッ!?」


亜美「兄様、我が母上が語りを尽くしたいと申し上げたてまつるん」

P「え……も、もしもし……はい……いつもお世話になっています。
  い、いえいえ、とんでもない……はい……はい……あははっそんなんじゃないですよ。
  はい……そうですね。えぇ……そうですそうです、最後に胡麻を……はい」

律子「なんの話をしてるの……?」

真美「我が母上と兄上様は仲良きかな……でございつかまつるん」

P「いえいえ。はい……こちらこそ、これからもよろしくお願いします。
  はい……楽しみにしてます。……えっ!?」

あずさ「?」

P「いや……その話はまた……というより……その……居ますから、ご心配には……。
  違いますよ! 亜美と真美は! ……いえ、洒落にならないので……はい。
  ……心臓に悪いですから……二度と言わないでください。はい…それでは失礼しま――って、そうじゃなくてっ!?」


ツーツー

170: 2012/11/23(金) 02:23:35.05

P「世間話で終わってしまった……迎えに来てもらうはずが……。くっ」

千早「真似をしないでください」

亜美「ねぇ、兄ちゃん、話の途中であずさお姉ちゃんをみたのはどうして?」

P「ち、近くにいたからだけど……」

あずさ「まぁ……」

P「まずい……この流れは非常にまずい……せめて、何人かは帰らせないと……」

真「なんか、こう……きゅんきゅんってくるなぁ……!」

P「真、テレビドラマなんか見てないでさっさと帰らないと……」

真「やだなープロデューサー、ボクがこんな楽しそうなこと見逃すわけないじゃないですか!」キラキラ

P「あぁ……うん……そうか……。いや……家の人も心配するだろうから……」

真「大丈夫ですよ。明日の朝にちゃんとトレーニングをすれば……ドラマ見ているんですから、邪魔しないでくださいね」

P「うん……悪かった」

律子「どうします……?」

あずさ「そうですねぇ……」

P「律子はどうするんだ?」

律子「春香が資料をバラけさせてしまったので、その整理をしなくては帰られません……」

P「あれか……」

小鳥「うーん……困りましたねぇ」

P「いや、小鳥さん……」

小鳥「はい?」

P「困ってると言う割には鍋を持って……楽しそうに見えますけど……」

小鳥「あ、これは社長が、そろそろ鍋の季節だねぇ、みんなで食べられるように持ってきたよ、と」

P「あぁ……言ってましたね……なんてタイミングだろう」

あずさ「そうです! もやし鍋にしましょう~!」

P「あぁ、あずささんも乗り気だ……」

やよい「うっうー! あずさお姉ちゃんの希望通りこれからもやし鍋ですよー、私張り切っちゃいますね!」

P「え……?」

千早「た、高槻さん!?」

やよい「なんですか?」

伊織「い、今……なんて……」

やよい「?」

171: 2012/11/23(金) 02:26:11.41

P「この高翌揚感はまずい……収集がつかなくなってきた……」

雪歩「お、お茶を用意しました……ど、どうぞぉ」

P「ありがと……」

あずさ「雪歩ちゃんのお茶は、暖かくてとても落ち着きますね。いつもありがとうございます~」

雪歩「あ、ありがとうございます」

P「落ち着いてきたら……なんかもう、どうでもよくなってきたな……」

律子「しょうがないですから、泊まる人は泊まって、朝に一度帰宅してまた戻ってきてもらいましょう」

P「……それしかないか。帰る人は俺が送ればいいな……ある程度諦めよう。よし、みんな、ちょっと聞いてくれー!」

春香「?」

貴音「?」

響「なーにー?」

P「この天気で帰ることが困難な人がいるから、何人かはここに泊まり、それ以外は帰ることになる。
  ちょうど、あ り が た く 伊織が布団を準備してくれたので、全員分はあるが……って」

美希「すやすや」

P「部屋の隅でさっそく布団敷いて寝てるのか……。えっと、帰る人は俺が送っていくから、手を挙げてくれないか」


シ ィ ー ン 


P「よし、誰も居ないと……もう全て諦めたぞ俺は。……というか、千早まで……?」

千早「困難な道を乗り越え、一人で晩御飯を食べる家へ帰るより、みんなと一緒にいた方がいいと思いまして」

P「……うん」

千早「な、なんですかその嬉しそうな目は!?」

P「小鳥さん、帰らないんですか?」

千早「む、無視しないでくださいプロデューサー!」

小鳥「私も千早ちゃんと一緒で……一人寂しく家に帰るより……一人悲しくご飯を食べるより……ここに居たいんです……よよよよ」

P「……そうですか」

千早「わ、私は別にっ、一人が嫌だとかっ、そういうわけではっ」

P「亜美と真美は宿題を必ずやること、それは譲れないからな」

亜美真美「「 りょーかいだよん! 」」

千早「き、聞いているんですかっ、プロデューサー!」

P「あ、ごめん……なんだ……?」

千早「なぁっ!?」

あずさ「千早ちゃん、今日は先生さんについてたくさんお話をしましょうか」

千早「せ、先生……?」

あずさ「世界のオペラ歌手ですよね。カンツォーネがとても素敵だとか……」

千早「そうなんです! 知っている人が身近にいて私は嬉しいです!」キラキラ

小鳥「千早ちゃんが輝きだしたわ!」

172: 2012/11/23(金) 02:28:09.00

律子「さて……と、仕事でもするかな」

P「待て律子」

律子「……なんですか?」

P「あそこで俺の言いつけを早速無視してゲームしている亜美と真美、ついでに響と伊織の勉強をみてやってくれ」

律子「え、遠慮します……仕事を優先させてください」

P「こうなるから俺は早く帰らせたかったんだ……」

律子「うぅ……そうですけど、時間が……」

あずさ「律子さん、私も手伝いますから」

律子「それなら……大丈夫かな……?」

P「?」

やよい「あのっ、プロデューサー! コンロが足りませんっ!」

P「あ、そうだった……伊織、コンロも一緒に持ってきてないのか?」

伊織「ないわよそんなの! なんで勉強しなきゃいけないのよ!?」

P「無いのか……鍋は足りてるんだけどな……困ったな」

伊織「大体ね、知的あふれた伊織ちゃんがこんな時にまで勉強をする必要――」

律子「プロデューサーに絡んで逃げようとするな」グイッ

伊織「うにゅっ……わ、わかったわよ……」

小鳥「ありますよ?」

P「え……?」

あずさ「えっと、たしか……給湯室の上の棚に……」

やよい「あ、ありましたー!」

小鳥「な、なぜそれを!?」

あずさ「えっと……超能力です~」

小鳥「こうやって人は進化していくのよ小鳥……!」

P「……」

あずさ「あの、プロデューサーさん」

P「はい……?」

あずさ「きんぴらごぼう、食べたいなぁ……って……その、わがまま言っちゃってもいいですか?」

P「わ、わかりました。リベンジします」

173: 2012/11/23(金) 02:30:03.31

貴音「わたくしも、りくえすとしてもよろしいでしょうか」

P「いや、もう鍋って決まってるからな……味の変更も効かないだろうし……」

貴音「冷やしそぉめんを」

P「ラーメンか……それなら……俺の隠してあるカップラーメンで雑炊の代わりに……よし、わかった」

貴音「いえ、冷やしそぉめんを食してみたいのです」

P「この吹雪の中を冷やし素麺か……聞き間違いだと思ってたんだが……」

小鳥「……」

P「小鳥さん……」

小鳥「なんです? まさか、素麺まで事務所にあるなんてこと……思っているんですか?」

P「……社長が持ってきているのかなって」

小鳥「あ、あるわけないじゃないですか……そんな素麺なんて……素麺なんて」

P「なぜ動揺を……」

あずさ「食器棚の下に木製の小箱がありましたね」

小鳥「ななななぜそれを!?」

貴音「発掘いたしました」

P「素麺を独り占めしようとしてましたね……」

小鳥「……はい……つゆは冷蔵庫の奥に……」シクシク

P「そんなに好きでした?」

小鳥「炬燵の中でアイスを食べるような……そんな感覚で食べるのがおいしくて」

貴音「なぜそれを隠すのです……!」

雪歩「し、四条さんが……怒ってる……!?」

小鳥「素麺の喉越し、かつおの風味が癖になるんです」

貴音「やはり、食してみるべきです……! プロデューサー! 是非に!」

P「わかった。……わかった」



春香「……」

真「あぁ、いいなぁ、あんな恋をボクも……!」

春香「……」

真「春香? どうかした?」

春香「うーん……なんというか、今日はみんな……プロデューサーさんに付きっ切りというか……」

真「それはいつものことじゃないの……?」

春香「そうなんだけどね……うーん……? あれ、いつものことだっけ?」

真「……それもそうだね……千早も珍しく……」

春香「…………」


179: 2012/11/23(金) 11:01:18.69

――…


春香「うん、あと少しで終わる!」

真「はぁ……よかったなぁ……。正にプリンセスのナイト様だよね~」

春香「給湯室からいい匂いがするね」

真「やよいとプロデューサーがご飯の準備してるからね……」

春香「よぉし、ご飯の為にもあともうちょっと! 頑張るぞっ」

真「あずささんは小鳥さんと仕事してる……? ……亜美達も勉強で……、
  雪歩達は歌詞の勉強……。事務所内がしずかで……ちょっと、怖いかも」




ドタドタドタ



「終わったぞー! プロデューサー!」

「宿題終わったよん!」

「火を使ってるから騒いだらダメだよー!」

「そうだぞ、やよいの言うことをきちんと守れないものは給湯室に入る資格はない」

「ま、真美! こ、これはもしや……!」

「もやし……!」

「話を聞いてくれ……。邪魔になるから出ててくれないかな……」

「自分、手伝うぞ!」

「さすが響だ。それじゃあ、そのごみを纏めて捨ててくれないか」

「これ以外にもなんでもやるぞー!」

「やよいの指示通りにしてくれれば問題ないからな」

「はーい!」

「それじゃあですね~人参を切ってくれませんか?」

「まっかせろー!」

「わ、私も手伝いますぅ」

「あっはっはは! 兄ちゃん、この漫画ちょー面白いよ!」

「雪歩は亜美を連れ出してくれ」

「え、えぇっ!?」



真「なんだか楽しそうだなー、ボクもっ!」


タッタッタ


春香「あはは……急に賑やかになった……ね」

180: 2012/11/23(金) 11:03:09.22

「プロデューサー、ボクにできることないですか!?」

「……ありがとな、真。人手は足りてるんだ、休んでてくれ」

「えー!」

「人には優しくしないとダメだよ、兄ちゃん」

「人は世の為にならずっていうっしょ?」

「どこの誰がそんな酷いことを……」

「やよいちゃん、このしいたけはどうやって切ろうか……」

「それはですね~、えっと……そぎ切りにしましょう、お願いしますね雪歩さん」

「わ、わかった……任せて」



律子「雪歩ー、みじん切りでいいからねー」


「み、みじん切り!?」

「で、でもそれだと味が……」

「どうしてだ、律子ー」


律子「そ、それは……その……そう! 嫌いな人でも食べられるように! ですよ!」

あずさ「律子さん、苦手は克服しないと」

律子「どうして知っているんですか……!」


「雪歩、一つだけ飾りきり込みでいいからな」

「えっと、どうやるんですか?」

「風見鶏?」

「しいたけを丸々一つ……かさに切り込みを入れて、こうやってこう……だな」

「ほぅほぅ」

「わぁーすごいです、プロデューサー!」

「これは律子のだから、みんな、食べちゃダメだぞ」

「「 あいあいさー 」」


181: 2012/11/23(金) 11:05:03.49

律子「なんてこと……!」

あずさ「味がいいですから、食べられると思いますよ」

律子「食感が、ですね……」

春香「……」

千早「春香?」

春香「え、あ……うん」

あずさ「どこで止まっているんですか?」

春香「えっと、この式が解けなくて……」

あずさ「これは……確か……参考書借りますね」

春香「は、はい……。あの、あずささん」

あずさ「はい? あ、ありました、この公式を使って……」

春香「あずささんに勉強を見てもらった事……ありましたっけ?」

あずさ「無いですよね……?」

千早「……?」

律子「……確かに、あずささんが春香の勉強をみているところ……なんて、
    見たことない……はずなんだけど、見たことあるような……?」



「ちょっと! いつまで待たせるのよっ!」

「すまん、鍋の準備はすぐに出来るんだけど……」

「チンピラごぼうがまだなんだよ、いおりん」

「キンピラだよ、真美……」

「もうすぐ出来るから、もうちょっとの辛抱だ伊織」

「たくさんあるから、いつものようにガツガツ食べような、伊織!」

「真! 私を食いしん坊みたいに言うんじゃないわよ!」

「白く輝く糸……これがそぉめんなるものですか……」

「初めて見るの? お姫ちん」

「いえ……そういうわけではないのですが……これほどまでに芯のあるそぉめんは……中々お目にかかれません」

「そ、そうなのか、真……?」

「え、ぼ、ボクは知りませんよそんなこと」

「そ、そうなの、いおりん」

「そうよ……」

「ちがうっしょー!」

「なによ……どう応えればいいのよ……?」

「そ、そうなの、雪ぴょん」

「そ、そうめん……だよ……っ」

「……」

「……」



182: 2012/11/23(金) 11:06:28.02

千早「……プフッ」


「千早がウケたぞ、雪歩」

「そうだよー、と、そうめんだよー、をかけたんですねー!」

「雪歩……今のギャグ……?」

「いやぁぁああ!!!」


ダダダダッ



「穴掘って埋まってきますぅー!!!」

「待って雪歩ー!」

「理解し難いぎゃぐでした」

「亜美と真美も雪歩を追いかけるんだ」

「だいじょうぶっしょー、まこちんが追いかけてったしー」

「責任の重さを知って欲しい。無茶振りをした本人が無傷という理不尽さを俺は認めたくない」

「うぅ……そっか……」

「どうしてプロデューサーが亜美を責めるのよ?」

「俺がいつもされてるからだよ」

「それじゃあ、日頃の鍛錬の成果を私が試してあげるわ。このもやしがテーマよ」

「余計なことしなくていいから……!」

「ねえ、真美、これはなに?」

「もやしと言う名の大根だよ」

「いいわね。合格」


千早「私達も手伝ったほうがいいのかしら」

小鳥「窮屈になりますよ。やよいちゃんが居るから味は保障されているようなもの……あら?」

春香「やよいの作る鍋を食べたことあるんですか?」

小鳥「無い……はずだけど……」

千早「?」



「響、これはなに?」

「え、じ、自分!? えーっとそうだなぁ……えっと…………えっと……バナナかな?」

「……」

「……」



千早「ッ……ゴホッ」



183: 2012/11/23(金) 11:09:36.79

「千早がややウケたぞ、響」

「まぁまぁいいわね。時間がかかった割りに良かったと思うわ。合格よ」

「どこの大御所なんだ伊織は……」

「むー、なんか、わじわじーするさー」

「いいじゃない、大トリが全て持っていってくれるわよ。次は貴音よ、これはなに?」

「やよい、先ほど教えていただいた、あれで相違ないですね?」

「え……えぇー!? アレってなんですかぁ!?」

「ちょっと! 滑り止めを用意するなんて卑怯じゃない!」

「やよいはなんて言ったんだろうっていう期待まで沸いてくるな」



千早「……」コクコク

春香「千早ちゃんの期待値が上昇してる……」



「ま、間違いないと……おもいますよー?」

「それでは自信を持って回答させていただきます」

「改めて聞くわよ。このもやしは一体なんなの?」

「縁の下の力持ち」

「お姫ちん、その心は?」

「やよいは家族の為に努力をし、苦労を愉楽に変える力を秘め、持ち前の明るさで周りに元気を与えてくれます。
 芯のある、栄養満点なもやしは高槻家の縁の下の力持ち。
 それ即ち、765プロの縁の下の力持ちはやよいであり、慈愛に満ちた心とも言えるのです」

「な、なんだかよく分かりませんけど、照れちゃいますねー、えへへー」


千早「……あぁ」ホンワカ


「千早が和んだぞ、貴音」

「お後がよろしいようで」


春香「あれ、ということは……もやしとやよいは同じってこと……?」

千早「前提が全く違う。春香は勉強のし過ぎで疲れているだけなのよ」

春香「そうだね」

184: 2012/11/23(金) 11:11:30.84

「少し強引だったけど、まぁいいわ。次、プロデューサーの番よ」

「ねえ、伊織ちゃん」

「な、なによ……?」

「食べ物で遊んじゃだめだよっ!」

「やよいっちを怒せちゃった!」

「つ、次で最後だから! ほら、あんたはこれをなんだと思ってるのよ!?」

「もやしだろ」

「は……ハッ! 所詮アンタはこんなもんよねー!!」

「もやしだぞ」

「「 もやしだねぇ 」」

「紛う方無き、もやしかと」

「な、なによ……この仕打ち……酷いじゃないの」

「いいか、二人とも、こうやって敵を作ることになるんだ、わかったな」

「「 はーい、わかったよ、兄ちゃん! 」」

「うむ。次からは俺に無茶振りはやめるんだぞ?」

「「 それとこれとは話は別だよ~ 」」

「くっ……」



春香「プロデューサーさん……雪歩のこと忘れてるね」

あずさ「あらあら、給湯室が賑やかでいいですね~」

千早「……」



「ねえ、ニンジンこれでいいかな……?」

「ありがとうございますー! 響さん!」



千早「あずささん」

あずさ「はい、なんでしょう~」

千早「……なにか、良い事でもあったんですか?」

あずさ「ふふっ。この時間そのものがとても良い事、ですよ~」

千早「……」

春香「えへへ、なんだか……いいですよね」

律子「あぁー、騒がしくてちっとも集中できない。もういいや、後でプロデューサーに手伝ってもらおう……」

あずさ「うふふ」

春香「すいません、律子さん……」

律子「春香のアレはとっくに終ってるから、気にしないでいいのよ」

春香「よかった……」

千早「仕事、まだあったの?」

律子「えぇ……あずささんに指摘されて気付けたわ」

春香「……」

185: 2012/11/23(金) 11:14:06.89

「重いって! 亜美、真美!」

「女性に重いは禁句なんだぞ、兄ちゃんくん!」

「ズン ズン♪ ズン ズン♪」

「うぐぐぐっ肩が……ッ」

「情けないわね、二人乗ったくらいで根を上げるなんて。しかもまだ子供じゃない」

「「 子供じゃないやい! 」」

「器用に肩に乗ってるけど……バランス崩して変に落ちるなよ、頼むから」

「「 あいあい! 」」

「うっうー! できましたー!」

「うぐぅ!? や、やよい!?」

「なんですかー?」

「あ、あれ? 首に纏わりついてるの……やよいじゃないのか……っ?」

「違いますよー?」

「さっきの仕返しよっ」

「後ろから抱き付いて、甘えてるようにしか見えないぞ」

「同感です」

「はぁ……外寒かったね……」

「う、うん……ひゃあ!?」

「え……うわ!? 何をしてるんですか、プロデューサー!?」

「ぐ、ぐるじ……!」



律子「危ないことしてないでしょうね!?」ガタッ

あずさ「まぁまぁ……!」ガタッ

千早「気になる……!」ガタッ

春香「うぅ……宿題が終わらない~!」


P「うぐぐぐっ」

あずさ「まぁ……!」

律子「なにしてんのよあんたたち!?」

伊織「よっと……三人の女の子を支えられない貧弱な体力なんて、この先不安よね~」

P「……すぅ……はぁ」

千早「我那覇さん……止めないの?」

響「うん……仲がいいから眺めてただけだよ。見てるだけで楽しかったさー」

貴音「真に」

真「なにをやってるかと思ったら、伊織が甘えてただけ……」

伊織「甘えてないわよ! 仕返しよ! 復讐よ! 仇よ!」

186: 2012/11/23(金) 11:15:17.37

亜美「ねえ、兄ちゃん」

P「……遊んでないでさっさと食べて……さっさと寝よう」

真美「兄ちゃん、なにか香水付けてる?」

P「いや、付けて……あ」

伊織「なによ、色気付いちゃって」

P「違う。香水のプロモーションでな……といっても、企画段階だが……」

律子「知らない話ですね」

P「あずささんのイメージに合う香水を発売するって話……それで色々とな」

雪歩「……」

亜美「ふぅん……」

真美「ほぉん……」

律子「へぇ……」

伊織「ふんっ」

真「へぇ~」

貴音「なるほど」

響「みんな、なにを察しているんだ?」

やよい「?」

千早「ふふ、そういうこと……ですか」

あずさ「ま、まぁ……」

小鳥「ついにあの事業が……!?」

P「大げさですよ。仕事の話になにを想像してるのか知らないが……みんな、持てる物持って移動だ」

美希「ねえ、ご飯まだー?」

黒猫「にゃ~?」


187: 2012/11/23(金) 11:17:03.54

――…


あずさ「みなさんに行き渡りましたか~?」

小鳥「はい、大丈夫ですよ」

黒猫「にゃ~う」

あずさ「シロちゃんはねこまんまですよね」

黒猫「にゃ」

小鳥「シロ……?」

あずさ「そうです~。あ、みなさんにご紹介しますね。
    この仔、私が飼うことになった、シロちゃんと言います~」


小鳥真美千早真伊織「「「「「 黒猫なのに!? 」」」」」


律子「デジャヴ……?」

あずさ「みなさん、シロちゃんをよろしくお願いしますね~」

黒猫「にゃう」

響「シロ……というより、紫だぞ……?」

春香「あれ、今……千早ちゃん……ツッコミを……?」

千早「ツッコミ?」

春香「……気のせいだよね」

千早「春香、私がツッコミなんてするわけないわ」

春香「そうだよね~」

P「……」チラッ

律子「……」フルフル

P「……」コクリ

亜美「兄ちゃんと律っちゃんが秘密の会話をしてるよ~」

貴音「面妖なっ」

P「ストーブの温度下げたほうがいいかなって目配せしたんだ」

律子「そうよ。食べたら体温が上がるけど、油断大敵だからね……千早は関係ないの」

亜美「ふぅん」

美希「いただきまーすなのー」

律子「待てぇい!」

美希「もぉ~、長いんだもん! はやく食べたいよっ!」

黒猫「にゃう」

美希「そうだよね、ストロベリー?」

黒猫「にゃ~」

あずさ「あの、美希ちゃん……シロちゃんですよ?」

P「一緒に布団で寝てただけに、妙な連帯感が生まれてるな……」

188: 2012/11/23(金) 11:18:52.46

真美「あ、でわでわぁ~、あ、このわたくしぐぁ~乾杯の音頭をぉしきらせてぇいただきやぁす」

律子「なんで歌舞伎風なのよ……普通にしましょうよ」

亜美「あ、律っちゃんん~、とりあえず、あ、やらせてみせましぉうぞぉ~」

律子「……はいはい」

雪歩「ふふ、真美ちゃんったら」

真美「あ、い た だ き まぁ あ すぅ~」

やよい「いただき ま あ すぅ~」

律子「やよいまで……」

伊織「いただき ま あ す~」

「「「「 いただきまーす 」」」」

伊織「ッ!?」

小鳥「ん~、高槻家直伝の出汁がもやしと華麗に絡み合い、さっぱりとした味わいを生み出している!
   それでいてシャキシャキと口の中で響きあう食感が食欲をさらに増幅してくれるわ!」

P「おいしいな、やよい、いい出汁が取れてるぞ」

やよい「えへへー」

伊織「うん……いけるわね」

貴音「ぱくぱく」

真「ん~、おいしい~!」

千早「うん……!」

響「伊織~」

伊織「な、なによ」

響「自分、そういうの嫌いじゃないぞ」

伊織「そういうフォローいらないわよっ!」

P「フォロー?」

響「聞いてよプロデューサー、伊織がさ、歌舞……むぐっ!?」

伊織「いいっていってるでしょ~? プロデューサーが作ったキンピラよ~? おいしいわよね~?」

響「むぐむぐむぐ」

P「無理やり食べさせるな……なんだか、俺が傷つくだろ……」

雪歩「ぷ、プロデューサー……すいません……私にも……きんぴらごぼう……」

P「うん……受け皿貸してくれるか?」

雪歩「お、お願いしますぅ」

律子「……」

美希「珍しいね、雪歩がプロデューサーを頼るなんて」

雪歩「そ、そうかな……」

律子「えぇ……」

小鳥「豚バラ肉と唐辛子の絶妙な二人三脚!」

P「ほら、雪歩」

雪歩「あ、ありがとうございますぅ」

189: 2012/11/23(金) 11:20:47.17

貴音「ずるずるずるっ」

P「……」

貴音「なるほど、小鳥嬢が極秘にする理由。解明いたしました」

P「……」

真「プロデューサー! ボクにもお願いします!」

P「……あ、あぁ……えっと……素麺だっけ?」

真「違いますよ! キンピラごぼう!」

P「あぁ、そっちか……そうだよな」

貴音「はて、冷やしそぉめんは場違いなのでしょうか」

P「……うん」

真「認めちゃった!?」

貴音「そうですか……そうですね」

P「……」

律子「ちゃんとフォローしてくださいよ」

P「お、俺も食べてみようかな……」

貴音「では、この容器を使用ください。わたくしはもやし鍋に箸を伸ばすことといたしましょう。いざっ!」

P「ずるずるずるっ」

小鳥「どうですか? 美味しいですよね? ね?」

P「……うぅ、冷えるっ」

小鳥「あら……」

春香「次は私に」

美希「次はミキね!」

P「……はい」

春香「……」

美希「ずるずるずるっ」

小鳥「美味しいわよね、ね? 美希ちゃん?」

真「小鳥さんが必氏に見えるんだけど」

美希「さ、寒い……の」

小鳥「……」

P「そういえば、あずささん」

あずさ「はい、なんでしょう?」

P「さっき、香水の話が出たとき、初めて聞いたような反応でしたけど……」

あずさ「…………?」

P「おいしいですね、この白菜。もぐもぐ」

あずさ「そうですね、しゃきしゃきとしていて甘みもあって。もぐもぐ」

P「……」

あずさ「……えっと?」

P「お昼に資料とサンプル渡しましたよね……?」

あずさ「あの果物、サンプルだったんですね……私、てっきり差し入れかと思って……」

190: 2012/11/23(金) 11:23:20.56

春香「私も食べちゃいました……あはは」

P「……」

律子「……」スッ

P「やよい、律子がしいたけで遊んでる」

やよい「食べ物で遊んではダメですよ、律子さんっ」メッ

律子「食べます、はい」

真美「兄ちゃん……密告したよ……」

P「それじゃあ……イメージリストは持っていますか?」

あずさ「お昼に私が取った行動を思い出してみます。……え~っと、お昼に私は何をしていたんでしょう~?」

P「春香とやよいと亜美と伊織でボイスレッスンを受けていたはずです」

あずさ「そうですね、思い出しました。そのあと、千早ちゃんと合流して、休憩したんです」

千早「もぐもぐ」

あずさ「その時、春香ちゃんが持ってきてくれた手作りクッキーと一緒に、サンプルをいただきました。おいしかったです」

亜美「梨がイケてたよね~」

P「……」

美希「……」ジーッ

あずさ「それから、事務所に戻って……眠くなって…………はい」

P「覚えてないわけですね」

あずさ「もぐもぐ」

P「左の内側のポケットに入ってますから、それを持っていってください」

あずさ「はい。ありがとうございます、私のためにコピーまで」

P「いえ、それは俺のです」

真「今更だけど、どうしてプロデューサーの上着をあずささんが着てるの?」モグモグ

小鳥「真ちゃんが帰ってくる前まで少し寝てたの。その時に体を冷やさないように、ってプロデューサーさんが」

雪歩「……でも……今もまだ着てますよね……」モグモグ

小鳥「目覚めたときに、あずささんの体調が優れない様子だったので、そのまま……」

美希「もぐもぐ」ジーッ

あずさ「プロデューサーさん、袖のボタン解れてますよ」

P「あ……本当ですね。……律子」

律子「あずささんにやってもらってください」

P「怒ってる?」

律子「いいえ、しいたけは体にいいんですから、むしろ感謝してますよ。えぇ、それはもう」

P「……」

あずさ「私が持って帰って、ちゃんと繕いますから。気にしないでください」

P「いえ……帰れなくなるので……」

あずさ「そうですよね、帰れなくなってはいけませんよね」

小鳥「あぁ、もうっ、長年連れ添った夫婦ですか! って、ツッコミたいのに……!」ワナワナ

律子「いまいち、かみ合ってないですよね、あの二人……」

小鳥「焦れったい……!」ワナワナ

191: 2012/11/23(金) 11:24:51.88

律子「プロデューサーが一歩退いてしまうんですかね」ヒソヒソ

小鳥「どうやらそうみたいですね。そのせいであずささんも遠慮してしまって」ヒソヒソ

律子「こうなったら」

小鳥「私達でなんとかするしかないですね」

律子小鳥「「 頑張りましょう! 」」グッ

真「二人ともなんだか燃えてますね~、ボクも混ぜてくださいよ!」

律子小鳥「「 Non 」」

真「フランス語で断られた!?」ガーン

響「ぬちぐすいやっさー」モグモグ

やよい「あずささん、どうですかー?」

あずさ「とってもおいしいわよ、やよいちゃん」

やよい「えへへー、頑張ってよかったですー!」

あずさ「あらあら、うふふ」

響「やよいとあずささんは仲がいいなー」

伊織「そうね、やよいが……いつもとは違うような? どうしたのかしら」

千早「もぐもぐ」

やよい「取り分けますけど、あずさお姉ちゃんはなにが食べたいですかー?」

あずさ「そうですね~」

千早「んぐっ」

春香「ち、千早ちゃん落ち着いて!」

千早「っ……! ッ!」

P「ほら、水だ、深呼吸しながら落ち着いてゆっくり」

千早「ごく……ごくごく」

やよい「だ、大丈夫ですか?」

千早「え、えぇ…………ふぅ」

雪歩「うぅ、寒いですぅ」

小鳥「……」

あずさ「ずるずるずるっ」

律子「まるでわんこそばね……」

やよい「次、食べたいです、いいですか、あずさお姉ちゃん」

あずさ「はい、どうぞ~」

やよい「冬に冷やし素麺だなんて、なんだか新鮮ですね~! ずるずる~」

千早「次、いいかしら……や、やよい」

やよい「これは素麺ですね! はいどうぞ、千早さん」

千早「くっ……」

亜美「ふむ、どうして千早姉ちゃんはガッカリしておられるのか、伍長くんは知っているかね?」

真美「そうですな、特に分からぬぞ、元帥さん」

P「身分の差がありすぎるな……」

192: 2012/11/23(金) 11:27:05.86

春香「千早ちゃん、次……」

伊織「次、私によこしなさいよ」

千早「ぅ……なんだか寒気が……どうぞ」

春香「……」

美希「ねえ、プロデューサー」

P「うん……?」モグモグ

あずさ「もやし鍋は癖になっちゃいますね~」

伊織「うぅ……外吹雪いてるのに、どうして冷やし素麺を食べるのよ……」

美希「付き合わないの?」


Pあずさ「「 んぐっ!? 」」


やよい「あ、あずさお姉ちゃん! お水です!」

千早「プロデューサー、水をどうぞ」


Pあずさ「「 あ、ありがとう…… 」」


小鳥「美希ちゃん……?」

美希「な、なに?」

小鳥「先ほど、プロデューサーさんが言ったこと、それが答えですよ?」

美希「うーん、でもね、そういうややっこしいことしなくてもいいなーってミキは思うよ?」

小鳥「わかる、わかるんだけどねっ」

律子「美希、後でみっちり教えてあげるから、今は楽しく食べましょう」

美希「でもね、ミキ的には」

律子「ね?」

美希「……はい」

真美「うぅ……なんで真美は冷やしソーメンを食べたんだろう」

春香「ま、真美……次は」

美希「うわぁ、怖かったね~、シャルル?」

黒猫「にゃん」

伊織「ちょっと! 名前被ってるじゃないの! ストロベリーじゃなかったの!?」

あずさ「あの、美希ちゃん、伊織ちゃん……シロちゃんですよ?」

亜美「ねぇ、兄ちゃん、何の話?」

P「うーん……宣言してもいいのかな……?」

律子「やめてください。公認になると、色々と面倒になるんです」

千早「私もそう思います」

小鳥「はい」

P「そういうものか……」

あずさ「私も、そう思いますよ」

P「……」

193: 2012/11/23(金) 11:28:09.39

あずさ「みんなの、プロデューサーさん、ですから」

P「……頑張るしかない……ってことですね」

あずさ「はいっ」

律子「……あれ?」

小鳥「放っておいてもどうにかなりそうですね」

律子「……はい」

雪歩「ま……まさか……!」

真「うぅ、寒い……どうかした、雪歩?」

雪歩「ぷ、プロデューサー……! 誰か好きな人がいるんですかぁ!?」

伊織響真美亜美「「「「 え……? 」」」」

貴音「ぱくぱく」

美希「雪歩、気付くのがおそ――」

律子「あんたは黙ってなさい!!」

美希「ふぐぐっ」

真「……ど、どうなんですか、プロデューサー?」キラキラ

P「楽しそうだな真…………俺は……」

あずさ「……」

P「みんなのことが好――」

雪歩「あ、美希ちゃん、おにぎりあるよ」

美希「え、どこどこ?」

伊織「ほら、皿ごと持っていっちゃいなさい」

美希「でこちゃんが優しいの……だから異常気象なんだね」

伊織「あんた失礼よっ!」

響「時間があったら、ソーメンちゃんぷるーも作れたのにさー」

千早「我那覇さん、他にもちゃんぷるーの料理作れるのかしら」

響「それくらい簡単のお安い御用さー、リクエストがあれば作るぞ!」

千早「それじゃ、今度お願いしてもいい?」

響「まかちょーけー!」

亜美「ひびきんが新たな呪文を唱えた……?」

P「いや、愛してるといっても過言では――」

春香「おいしい! おいしいですよ小鳥さん!」

小鳥「やっと冷やしソーメンの良さをわかってくれる人に会えたわ!」

律子「……冷やし素麺が悪いわけじゃなくて、時期がですね」

貴音「ぱくぱく」

真美「亜美、ちゃんと食べなきゃダメだよー。真美のピーマンあげるね」

亜美「真美だって、食べたくないから亜美に横流ししてるだけっしょー? 返すね」

やよい「二人とも食べ物で遊んではダメだよ」メッ

真美亜美「「 ……はい 」」

194: 2012/11/23(金) 11:29:24.28

P「仲間であり家族なんだ、これからどんなに辛く苦しいことがあっても……」

真「……」

あずさ「……」

P「必ずや……乗り越えて……いけると…………」

春香「……」

美希「……」

千早「……」

伊織「……」

P「俺は……信じ…て……」

響「……」

やよい「……」

貴音「……」

雪歩「……」

亜美「……」

真美「……」

小鳥「……」

律子「どうぞ、続けてください」

P「聞いてたのかぁ……」カァァァ

真「ボクは最初から聞いてましたよ、これからもよろしくお願いしますねプロデューサー!」

春香「わ、わたしも頑張りますっ! よろしくお願いしますプロデューサー!」

美希「ミキももっともっとステージに立ちたいの。よろしくねプロデューサー」

千早「私も、たくさんの歌と出会いたいです。よろしくお願いします、プロデューサー」

伊織「伊織ちゃんをプロデュースできるなんて滅多に無い幸運なんだから、もっと励むことねプロデューサー」

P「……」

響「プロデューサーが居れば、なんくるないさー!」

やよい「うっうー! 私も頑張りますよー! よろしくお願いしますプロデューサー!」

貴音「わたくしも、皆と共にとっぷを目指す所存にございます」

雪歩「わ、私も……頑張ります……だから、よろしくですプロデューサー」

亜美真美「「 よろしくね、兄ちゃん! 」」

小鳥「サポートは任せてください」

律子「もう止まれませんよ、プロデューサー」

P「……」

あずさ「プロデューサーさん……?」


P「いただきまーす」


「「「「「 こらッ!! 」」」」


あずさ「まぁ~……うふふ」


195: 2012/11/23(金) 11:30:54.40

――…



P「さすがに、さっきは照れたな……」

律子「何を言ってるんですか、その前まで熱い演説をしてたくせに」

P「誰も聞いてないと思ったから言えたんだよ……」

律子「これで……よしっと」

P「こっちもちょうど終わったよ」

律子「ありがとうございます。……なんとかなりました」

P「ああ、お疲れ様」

律子「しかし、外は相変わらず……」


ゴォォォオオオオオ


P「律子も泊まっていくのか?」

律子「えぇ、帰るの面倒ですし……なんとなく、みんなと一緒に居たいですから」

P「そうか。…………今日は変な一日だったな……」

律子「そうですか? いつもと同じ……でもないですね、確かに」

P「なにかあったのか? 少なくとも夕方までは……あんな高揚感はなかったけど」

律子「うーん……ないはず、なんですけどね……」

P「……ハッキリとしないな」

律子「……」

P「?」

律子「あずささんと……プロデューサーに関わってる……のは確かなんですけどね」

P「……そうだな。いつも以上につっかかってくる千早とか……」

貴音「幸せの理由を無理に見つけ出す必要はないのです」

律子「そうなんだけど、すっきりしないのよね」

貴音「就寝の手はずは整いました」

P「……そうか」

196: 2012/11/23(金) 11:31:51.18

律子「プロデューサー」

P「……?」

律子「あずささんのこと、よろしくお願いします」

貴音「わたくしからも何卒、よしなに」

P「……うん」

あずさ「あのー……」

P「な、なんですか!?」

あずさ「驚かせてしまいましたか?」

P「い、いえ……」

あずさ「プロデューサーさんも泊まっていかれるんですよね」

P「さすがにそれはどうかな、と……」

律子「これから帰るんですか?」

P「そうする」



ゴォォォオオオオオ



P「……」

律子「まぁ、今更ですからね」

あずさ「それでは、窮屈になってしまいますけど、いいですよね?」

P「はい……?」

亜美「仕事終ったー?」

真美「ねえねえ、兄ちゃん、一緒に寝ようよー!」

P「視える……視えるぞ……寝相の悪い亜美と真美に頭を蹴られて、朝まで寝付けない俺の姿が……!」


197: 2012/11/23(金) 11:33:08.95

――…


P「くぅー……すぅ」

あずさ「……」


伊織「バカ面してるわね……私達より先に寝ちゃうなんて信じられないわ」

やよい「そんなこと言ったらかわいそうだよー。プロデューサー、先週から忙しそうだったよー?」

真「そうだよ伊織、たまには優しい言葉の一つや二つかけてもバチは当たらないんじゃないか?」

伊織「ふんっ、だーれがこんなバカに高貴なる伊織ちゃんのお言葉をかけてやるもんですか」

真「素直じゃないなぁ……子供っぽいし……」

真美「真美は知っている。いおりんがチンピラごぼうをたくさん食べていたことを」

伊織「手前にあったから丁度良かったってだけよ。私、素朴な味は好きなんだから」

亜美「亜美は知っている。いおりんがチンピラごぼうをたくさん食べていたことを」

伊織「ちょっと、同じことを二度も言うんじゃないわよ。それに、キンピラよ」

律子「はい、毛布」

伊織「?」

律子「プロデューサーが風邪ひいちゃうでしょ?」

伊織「はぁ? あずさにでもかけさせなさいよ。なんで私なのよ」

律子「この中で、一番声を低くして喋ってるからじゃないの」

響「誰よりも気を遣ってるさー」

伊織「そんなことないわよ!」

響「急に声を上げるなんて」

亜美真美「「 わざとらしい 」」

伊織「あ、あんたたちねぇ……!」


P「…………ん……」

あずさ「……!」


伊織「しずかにしなさいよっ」

響「ほら、ね?」

伊織「むきーっ!」

千早「みんなしずかに……」

響「悪かったぞ……」

伊織「……ふんっ」

やよい「プロデューサー、ソファーで寝ていても大丈夫でしょうか……」

小鳥「みんなが帰った後なんか、たまに休んでいたりするから」

やよい「そ、そうなんですか……?」

律子「本当に、たまにだけどね」


198: 2012/11/23(金) 11:34:38.37

春香「……」

雪歩「春香ちゃん……?」

春香「プロデューサーさんの……寝顔を見ていたらね……」

雪歩「……」

春香「ど、どうしてかな……っ…やっぱり……不安になってきて……胸が痛いの……」

雪歩「――!」

千早「雪歩……?」

雪歩「ぅ……ぅぅ……!」

千早「……体が震えてるわ…………」

真美「どうしたの……雪ぴょん……?」

雪歩「……だ、大丈夫だ…よ……だい…じょう……ぅぅっ……!」

美希「……」




P「すぅ……くぅ……」




あずさ「雪歩ちゃん」

雪歩「……ッ!」

あずさ「大丈夫ですから」

雪歩「うぅ……っ……!」

貴音「確かめてみるのです」

雪歩「……え…………?」

貴音「雪歩の中にある不安を拭えることでしょう」

雪歩「…た…確かめる…………?」

あずさ「プロデューサーさんの手を……握ってみてください」

雪歩「うぅ……ッ!」

真「ゆ、雪歩……!」

雪歩「こ…怖いよ……っ!!」

春香「大丈夫だから……ね?」

雪歩「う……うぅぅ……」


伊織「雪歩……どうして……あんなに……」

小鳥「……」

やよい「うぅ……私も……なんだか……」

真美「やよいっち……っ」

199: 2012/11/23(金) 11:36:32.60

千早「……雪歩」

雪歩「……っっ」

千早「今は……、みんなが傍にいるわ」

春香「そうだよ、雪歩」

あずさ「はい」

雪歩「……!」


P「……すぅ」

雪歩「…………ぷ、プロデューサー……っ!」


ギュ


P「くぅ……」

雪歩「……うぅ……っ……ぅぅっ……」ボロボロ


黒猫「……」ピョン

あずさ「シロ……ちゃん……?」


P「すぅ……すぅ……」

雪歩「暖かい……です……っ」ボロボロ


黒猫「……にゃ」

グニグニ


P「……ん……ぅ…ん……? ……なんで……電気が点いて…………?」

黒猫「にゃう」

P「クロ……じゃなくて……シロ……?」

雪歩「うぅぅ……ッ……っ……っっ」ボロボロ

P「…………雪歩」

雪歩「よかった…………よかったです……っ」グスッ

P「……」

雪歩「よかったですぅ……」グスッ

P「雪歩、なにがあったんだ?」

雪歩「ぐすっ……わからないです……っ」

P「……みんなも、寝たはずじゃなかったのか……?」

春香「その……一度は……寝ようとしていたんです」

P「……」

春香「電気を消して……暗闇になると……どんどん……不安になってきて」

P「不安……?」

春香「プロデューサーさんが……どこか遠くに行ってしまうんじゃないかって……」

P「そんなこと――」

200: 2012/11/23(金) 11:38:09.04

春香「だから、みんなに聞いてもらったんです」

真「ボクも……同じでした」

響「自分もだぞ……」

亜美「兄ちゃんが起きなかったらどうしようって……亜美……怖かったよ……」

真美「うん……」

P「……」

千早「……」ホロリ

P「千早……」

千早「え……?」

P「……」

千早「あ、あれ……私……どうして泣いて……?」グスッ

貴音「それは、嬉し涙というもの……っ」

やよい「貴音さんまで…………うぅっ……」

P「待った、やよい」

やよい「……!」

P「どういう状況なのか、ハッキリいってわからない。
  みんなの様子がいつもと違ったけど、それは有意義だと思ったから触れないでいたんだ」

伊織「……」

P「今のみんなをみていると、そういうわけにもいかなくなった」

真「……」

P「だけど、みんなを安心させるためだけの約束は……できるだけしたくないって……思う」

美希「……」

あずさ「……」

P「見過ごせない……のに……気の利いたことが言えない……。だから、どうしたらいいか教えてくれないか」

美希「…………なにもしなくていいの」

P「……」

あずさ「……そうですね。プロデューサーさんは、プロデューサーさんでいてください」

美希「そういうことなの」

P「……」

あずさ「今日はちょっとだけ特別だったんです。
    明日からは……いえ、明日からもまた、今日のように楽しんで過ごしていければ……と思います」

律子「……そうですね。今まで通り、これからも今まで以上にやっていきましょう」

小鳥「ぞ、ぞうでずよっ」グスッ

真美「ピヨちゃぁん……ずるいよぉ……うわぁぁぁん!」

やよい「ま、真美~っ!」

伊織「ほら、二人とも泣かないの」

響「……っ……伊織がいなかったら、自分も泣いてたぞ……危なかった」

伊織「しょうがないわね……もう」

春香「えへへ、プロデューサーさん、責任重大ですねっ!」

P「……そうだな」

201: 2012/11/23(金) 11:40:12.24

春香「さぁー、みんな寝よう! 明日から頑張るぞー!」

雪歩「……っ……ふふ、春香ちゃん……ったら」

真「春香らしいな」

P「『春香の明るさに随分助けられたな』」

春香「――ッ!」

P「は、春香……?」

春香「うわああああん!!!」

P「えぇっ!?」

千早「こ、今度は春香が……」

伊織「甘いものでも食べたら泣き止むわよ」

美希「でこちゃんじゃないんだから」

伊織「そうそう、私じゃないんだから簡単には泣き止まない……って!」

真「自分で認めたな、伊織……」

美希「あふぅ」

あずさ「あ、ケーキがまだ冷蔵庫にありましたね~準備してきます~」

貴音「わたくしも参ります」

律子「ちょっと待ったぁぁああ!!!」

春香「こんな時間に食べたら……後が怖いけど……でも食べたい……!」グスッ

亜美「兄ちゃん、疲れてない……?」

P「あぁ、平気だよ」

小鳥「そ、そういえば……ぐすっ……健康診断の通知が……」


「みなさ~ん、プロデューサーさんが買ってきてくださったケーキ、用意できましたよ~」


響「まだ日付越えてないから平気さー!」

雪歩「そ、そうだよね」

P「おい、待て待て! 嫌な予感がひしひしと……! シロ……降りてくれ……っ」

真「膝の上で寝るなんて……可愛いなぁ」ナデナデ

黒猫「」スヤスヤ

P「動けない……!」

千早「少しくらい平気ですよ」

やよい「そうですねー、赤信号みんなでどんどん進んで行こう、ですよねー」

P「やよいにそんな言葉を教えたの誰だーッ!!」

真美「ま、真美は知らないよ!?」

P「こっちに来るんだ真美!」

真美「し、知らないってゆったっしょー?」


テッテッテ


P「じゃあなんで逃げるんだ……」

真「ボクも食べてこよーっと」

202: 2012/11/23(金) 11:43:08.14

P「……」

黒猫「」スヤスヤ

P「明日から……ダンスレッスンを厳しくしてもらわないとな……」

小鳥「みんなに置いて行かれちゃいましたね……。プロデューサーさん、健康診断の通知です」

P「は、はい……」

小鳥「みんなが食べ過ぎないように、私が見張ってきます! ケーキ……」


フラフラ


P「吸い込まれるような足取りだけど……注意しておくべきかどうか……」


ビリビリッ


P「……」

黒猫「……うにゃ?」



―― チリン。



P「…………」

あずさ「……見せてもらいますね」


スッ


P「あ……」

あずさ「……」

P「……」

あずさ「…………プロデューサーさん」

P「……はい」

あずさ「血液型、RH-なんですね」

P「ですね」

あずさ「再診の通知ではありませんから、問題はないってことですよね……?」

P「え?」

あずさ「いえ、なんでもありません。……それより、はい、ケーキですよ」

P「いや……その、恥ずかしいんですけど……!」

あずさ「うふふ、遠慮なさらずに、はい……あーん」

P「……ぱく」

あずさ「私、もう一つ夢ができました……」

P「もぐもぐ」

あずさ「プロデューサーとして、みんなを支えていきたいな……って」

P「ッ!?」

あずさ「あ、でも……今はまだアイドルとして頑張らせていただきます」

P「……」

あずさ「うふふ、ですから――」

203: 2012/11/23(金) 11:45:32.53


「怪しい」

「どうしたの真美?」

「なんだか怪しいふいんきが漂っていますぞ……」

「伊織、自分のケーキ、残すのもったいないから食べていいぞ」

「ボクのも食べていいよ」

「どうぞ」

「だ、だから! なんで食いしん坊キャラになってるのよ!」

「ん~! あまい~♪」

「はるるんが幸せそうだから亜美も幸せになるさ~」

「美味でした」

「こ、小鳥さん……四条さんの真似をしなくても……」

「美味でした。伊織、食べられないのであれば」

「これは、私のよ!」

「食いしん坊じゃないの! 食べすぎよ伊織!」

「伊織ちゃん……ヤケになってます……」

「もぐもぐ…………くぅ……」

「立ったまま食べながら寝ないの美希!」

「……ほぇ」


P「……」

あずさ「……」

P「明日から……また忙しい日々が続いていくんですね……」

あずさ「はい。とっても楽しみです」


「プロデューサーさーん! あずささーん!」


黒猫「にゃ」ピョン


テッテッテ



P「食べてすぐ寝るのも危険なので、もう少しだけ起きていましょうか」

あずさ「うふふ、そうですね」

P「やれやれ……大変だな……」

あずさ「きっと…………大丈夫ですよ」


スタスタスタ

204: 2012/11/23(金) 11:47:57.52


「うわ、伊織……皿の数が……」

「まぁまぁまぁ……全部!」

「ち、違うわよ! みんなが私の前に置いただけなんだから!」

「お茶をどうぞ」

「あたたたかいですなぁ」

「あたたたたかいですぞぉ」

「給湯室にみんなで居ると狭いさー!」

「人口密度の容量を超えているかと」

「でも、なんだか暖かくていいですよね~、私はこういうの好きかなーって」

「ふふ……」ホンワカ

「やよいちゃんの温かさ……! 優しさ……! 現代が失った歯車のように大切な存在っ!」

「明日も忙しいんだから、温まったら寝るわよ、みんな」

「布団ってさぁ、最初は冷たいんだよねぇ」

「うんうん。あれは嫌だよねぇ」

「そうなの? 電気で暖めるのが普通なんじゃないの?」

「うちは……ペットボトルにお湯を入れて足元に置いて寝てるよー?」

「現代の科学に頼りきってる伊織は……フッ」

「なによっ、鼻で笑うんじゃないわよ真!」

「炬燵があったら宿題も捗るんだけどな~」

「あったら余計にお喋りしてそうだけどな……春香は」

「そんなことないですよ~プロデューサーさん…………そんなことないですよ~……プロデューサーさん」

「二回言う割りには自信がなさそうね……春香」

「コタツかぁ……みんなで囲んでゆっくりしたいなぁ」

「それ、すっごくいい案なの真君!」

「そうですね~、とても素敵なことだと思います~」

「堕落しそうなのが数名いて危険極まりない……」

「で、でも……楽しそう……」

「炬燵かぁ~、あまり馴染みが無いから楽しみさー」

「蜜柑を添えて……それもまた風流があってよいものです」

「えぇ、猫に炬燵にみかん……とてもいいと思います」

「でも、この事務所でみたことないよね~」

「そだね~、やっぱり買わないとないよね~」

「どうですか、プロデューサーさん!」

「そういうのは小鳥さんに聞くんだ……」

「小鳥さん! 炬燵をご検討してくださいませんか!」

「あ、そういえば、社長室に」

「「「 あったの!? 」」」



黒猫「……」クシクシ

205: 2012/11/23(金) 11:49:00.47



「シロちゃんがいない……?」

「あっちですよ、あずささん」

「あ……よかった」

「気になっていたんですけど、どうして黒猫にシロと名づけるんですか?」

「じぃーっと、見ていると、白色をイメージしてきませんか?」

「なんとなく解るような……」

「今は冬ですから、夏が恋しくなったりしますよね?」

「あぁ、居ますよね。冬の寒いのが苦手だから夏が好きとかいって、夏には冬が待ち遠しいとか言う人」

「私はどの季節も好きです~。夏にはみんなで海へ行ったり、冬にはみんなでこうして温まったり」

「俺もですよ。夏は空が高くて、冬は空が澄んでいて」

「うふふ」

「あはは……って、みんな、どうしたんだ……?」

「「「「 いえいえ、べつになんでもありませんよ? 」」」」

「うん~、おいしい~♪」

「食べすぎなの、春香…………あふぅ」



黒猫「クァ…っ」






End



206: 2012/11/23(金) 11:53:14.98





これで一先ず終わりです。
時間を移動する前に閉めた方が物語としては良かったのかもしれませんね。
プロデューサーの居る世界と居なくなった世界のギャップを楽しんでいただければと思います。


説明不足でした

この世界に世界線は存在しません
早送りは出来ても巻き戻しが出来ないからです
宇宙規模のでっかいタイムループ

黒猫の中の存在が別の観光地へ移動したのは変化を見極めたからです
これは裏設定だったので、ややこしくなるし、あずささんには関係ないかな、と思って書きませんでした。すいません

あずささんと貴音はそれらしい描写がありますけど、完全には思い出していません。


稚拙な文でしたが、ここまで読んでくれてありがとうございました!


207: 2012/11/23(金) 11:55:04.57
何言ってんのかまったくわかんねえけど

209: 2012/11/23(金) 12:03:41.32
もっとわかりやすい説明してくれ

210: 2012/11/23(金) 12:05:57.23
なんでP生き返ってるの?
パラレルワールドに来たの?
もっとわかりやすい説明してくれよ

211: 2012/11/23(金) 12:15:31.12
つまり、宇宙規模でPが生きている前と似たような世界に早送りした
あずささん達はその記憶が残ってない代わりにデジャヴが残った
黒猫の中の存在はあずささんの願いで変化が起こったことを確認したからアイドル達の前からいなくなった

ってこと?

212: 2012/11/23(金) 12:29:23.97
>>211
ずばりその通りです


前半のPが居なくなった世界(1週目)
後半のPが居る世界(2週目)

1週目を無かったことにしない為に早送りをした(一度宇宙の命を終らせた)
そして、前半のPの最後の言葉を受け継いだアイドル達の2週目という形です

要は経験値を貯めて再スタートです

貴音に全て説明させればよかったですね
記憶があやふやという中途半端なことをせずに


本当にすいません
自分の頭では限界があったみたいです……orz


215: 2012/11/23(金) 21:01:49.20

後日談を投下します。

ある理由で台詞の前に名前を置くことができません。
状況の読みにくさがあると思いますが、ご容赦くださいませ。

216: 2012/11/23(金) 21:02:33.81


――――

――





「にゃ」


グニグニ


「ぅ……ん……クロ?」


「にゃう」


「……ふぁ……ぁぁ」


「にゃ~う」


「く、くすぐったいですよぉ」


「にゃん」


テッテッテ


「うん……ん~っ!」



217: 2012/11/23(金) 21:03:20.88


『わぁ、もうすぐ出てきますよー!』

『あわわわっ! うぉわっ!』

『ちょっ! 春香! 押さないで――ふぎゅ!?』

『あはははっ! はるるんといおりんがー!』

『あははっ! 将棋倒しだぞー!』

『ちょっと! 笑ってる場合じゃないでしょ!』

『大丈夫、春香? 掴まって』

『うぅ……こんな大事な日まで……ありがと、千早ちゃん……』

『なんで……誰も私を起こしてくれないのよ……!』



「……」

「にゃう」

「…………あら」

「にゃう~」

「うふふ」



『 カラァーン カラァーン 』

『出てくるよ! 律子! ちゃんと撮ってる!?』

『その声もバッチリ入ってるわよ、真』



「……」

「あ、あら……! いつからそこに!?」

「ねぇ……これ……」

「な、なんでもありませんよ~」


ピッ


『なんでやねん! なんでやねん! なんでやねん!』

『45点でーす!』


218: 2012/11/23(金) 21:04:19.62


「みない……ですか?」

「コ、コホン……。えっと、お部屋のお片づけ、忘れていませんか?」

「……」

「質問を質問で返すのはよくありませんね……。今日はもう見ません。忙しくなりますから」

「みたいです……」

「今度はこっちの質問ですよ。お部屋のお片づけ、まだですよね?」

「……」

「はい、してきましょうね」

「にゃん」

「クロちゃんにご飯をあげてきますから、陽が沈む前までに片づけるんですよ?」

「……はぁい」

「うん。……クロちゃん、おいで」

「にゃ~ん」


テッテッテ


「……」



『それでは懐かしのCMソング集です!』

『香水といえば、このCM~! 三浦あず――』



ピッ



『うぅ……またドキドキしてきた……』

『 カラァーン カラァーン 』

『『 あずささーん 』』

『あずささんが手を振ってますよー!』

『知人なんだから当然でしょ……それにしても』



「お母さん……?」


219: 2012/11/23(金) 21:05:53.69


『うっわー! あずささんの純白ドレス! やっぱり綺麗だー!』

『とっても綺麗だぞ!』

『あずさお姉ちゃーん!』



「……」



『あれ!? 亜美の花がないよ!?』

『ほ、ほら亜美、私のあげるから!』

『あ、ありがとー律っちゃん!』

『ふらわぁしゃわぁ……なんとも華麗な……』



「もぅ……」

「あ……」

「少し、恥ずかしかったんですけど、しょうがないですね」

「お母さんです」

「うふふ、一緒に見ましょうか。こっちにおいで」

「はい」

「にゃう」



『恥ずかしいですよ、律子さん……!』

『おめでとうございますー!』

『あずささん、おめでとうございます』

『ありがとう、千早ちゃん』

『綺麗ですよ、あずさ』

『も、もぅ……貴音ちゃんまで……!』

『うわっ! あずささん!?』

『あっ!? どうして逃げるんですか!?』

『プロデューサー……引きずられるように……』

『兄ちゃん……転びそう……』




「……」

「あの時は、なんだか恥ずかしくて……ゆっくり階段を下りれば……なんて」



220: 2012/11/23(金) 21:06:48.69


『あずさお姉ちゃん、ブーケトスやんないの?』

『えっと、渡す相手が決まってますから』

『なんだーつまんないねー』

『亜美と真美でピヨちゃんの為に』

『なにか言いまして?』

『ピヨちゃんの……為に……ですね』

『私の為に?』

『亜美、真美。およしなさい』

『『 律ちゃんの仰せのままに…… 』』




「渡す相手は決まっていたんですけど……」

「うん……?」



221: 2012/11/23(金) 21:07:26.66


『美希ちゃん』

『うん? どうしたの、あずさ』

『ブーケをどうぞ』

『……うん』

『美希ちゃん……?』

『やっぱり、いらない』

『 ポイッ 』

『あ……』

『なんと……』

『なんてことするんだよ美希ー!?』

『は、花嫁から渡されたブーケを……ッ!』

『放り投げるなんて、前代未聞だよ美希!』

『あ、よかったです……女性が受け取ったみたいですよ……!』

『うわ……降って沸いたブーケに困惑してる……』

『あ! 大丈夫ですよー! 花嫁がトスしましたからー!』

『お、お幸せになってくださいね~!』

『ミキミキ、いくらなんでもあれはないよー!?』

『ミキはね、自分で幸せを掴むんだから、他の人に渡したほうが有効活用だって思うな。
 それに、事務所のみんなにはまだ必要ないよね』

『どういう意味よ!』

『その理屈がどこでも通用するなんて思ってな い わ よ ね ?』

『うぅ……!? 律子怖いのー!』

『ど、どこに行くんだよ! 美希ー!』

『ま、待って美希ちゃん!』

『律子さんのおかげで幸せが無事、繋がれました……ね……』

『やよいっちが引くぐらいのアクシデントだったよね……』

『なんでこんな大切な日までマイペースなのよ……うちは……』

『はぁ、ちっとも変わらないわね、あんたたち』

『いおりんもだよ』

『はぁ……少しは落ち着いてくれるかと思ったら……』

『うふふ、それがいいんじゃないですか』



「お母さんうれしそうですね」

「はい……とっても嬉しかったんですよ」


222: 2012/11/23(金) 21:09:11.31


『でも、あずささんの綺麗な姿は残しておきますから』

『や、やだ……もぅ……!』

『また逃げた……』

『あずささんと挨拶してくるから、みんな、後でな』

『カッコいーよ、兄ちゃん!』

『ありがと』

『お偉方も来てるから、大変よね』

『始めましょうか、律子』

『あ、そうね。それじゃー、みんな! 後で一人ずつ声をかけて、あずささんとプロデューサーに向けたコメントを貰うから、
 今は自由にしてていいわよ! 時間になったらここに集合だから忘れないこと!』

『『『 はーい 』』』

『貴音、カメラ頼めるかしら』



「あ……」

「よく会う人ですから、知ってますよね」

「はい」

「秋月律子さん」



『えっと……あはは、なんだか緊張するわね』

『いつでもいいですよ』

『コホン。……おめでとうございます、あずささん』



「……」

「……」



『あずささんの人生で、一番輝くこの日を一緒に過ごせることが私にとっても幸せなことです』

『……』

『いつまでも、二人お幸せに。……今、この映像を見てるときには家族が増えているのかもしれませんね』



「ふふ」

「……」



『はい、終わり。次は貴音ね』

『かしこまりました』

『短くない?』

『いいのよ、これからも仕事で一緒なんだから……。貴音、いいわよ』

『では……』

223: 2012/11/23(金) 21:10:41.45

「……?」

「あれからどうしてるんでしょう」

「……だれですか?」

「四条貴音ちゃん」



『皆に祝福される二人の姿は、正に幸福の象徴。この善き日に巡り合えた幸運にわたくしは感謝しています』

『……』

『これからの大きな苦難にも必ずや乗り越えていけるでしょう。具申するなら――』



「よく聞いていてね?」

「……?」



『幾度の生まれ変わりで育まれた絆。それを信じることが遥かなる旅路への道しるべとなるのです』

『ちょ、ちょっと? わけわかんないわよ?』

『こら、伊織っ』



「……」

「難しいですよね、うふふ」

 

『あずさの未来に神の祝福のあらんことを』

『……』

『それじゃ次は私ね』

『あ、おーい春香ー!』

『ちょっと!?』

『はいはーい!』

『春香! ちゃんと前を見なさい!!』

『 ドンッ 』

『うわっ!?』

『……またオマエか』

『わっ! わっ! うぉわわわ!?』

『あのコースは噴水に転倒ね、にひひっ』

『は、春香ー!』

『あぶねえっ!』



「春香ちゃんを助けてくれたのが……」

「たちつてと」



224: 2012/11/23(金) 21:11:31.24

『毎回毎回……気をつけろよ』

『は、はいっ、毎度毎度すいませんっ』

『ふんっ』

『あ、あのー、一言コメントもらえませんか……?』

『あぁ? なんで俺が……』

『どうせカットするんだからいいじゃない』

『カットするなら撮るんじゃねえ! まぁ、一言な』

『は、はい。……どうぞ』

『戻ってくるのを待っててやるから、逃げんじゃねえぞ。あと……おめでと』

『最後聞き取れなかったわよ?』

『うるせえ。じゃあな…………なんで俺が呼ばれてんだよ』

『あ、ありがとうございましたー』

『口が悪いわね。どうして来たのかしら』

『ま、まぁ、人気は絶大だから……765プロとしても利用……いやいや、役立って……うぅむ』

『あ、あのー、律子さん……?』

『あ、はいはい。いいわよ』



「はるかさん」

「先週にも会いましたよね」

「はい」

「天海春香ちゃん」



225: 2012/11/23(金) 21:12:16.11

『あずささん。ご結婚おめでとうございます。とても綺麗な花嫁姿でした。私、憧れちゃいます!』

『……』

『披露宴での事務所代表の挨拶、どうして私なのかなーって思うんですけど、与えられたからには頑張りますね!』

『消去法に決まってるじゃない』

『え……」

『律子は営業始めるし、貴音は今のような哲学的な話から始まってウェディングケーキの味について語りだすわ。
 やよいと響はいい話をしてくれそうだけどまだ早いわね。千早は淡々としそうだし、美希と雪歩と亜美真美は論外。
 小鳥は……うん。真は新郎であるプロデューサーの影を薄くしちゃうわよね。社長は主賓だから、というわけで、しょうがなくよ」

『清々しいほどの口の悪さね……春香、続けて』

『…………そうだったんだ……』

『ほ、ほら、気にしないの! 全部伊織の出鱈目なんだから!』

『ま、私でもよかったんだけど、それじゃあ、あずさが霞んでしま――むぐっ!?』

『粛清……基、静粛に』

『私……嬉しいなって……思って……』

『春香、あずささんとプロデューサーは春香の明るさに支えられたって言ってたのよ?』

『……』

『だから、春香が代表なの。わかった?』

『……わ、わかりました。私、がんばります!』

『むぐぐ』

『貴音、その天邪鬼、しばらくそのまま封印してて……』

『仰せのままに』



「あらあら」

「……」



『あの日、プロデューサーさんとあずささんから結婚の発表を聞いた時、とても、とても嬉しかったんです』

『……』

『みんなを支えてくれるプロデューサーさん。
 アイドルとして頑張りながら、みんなを想ってくれているあずささん。
 二人が幸せになったらいいなーって思っていました。……その日まで気付かなかったの私だけでしたけど』

『……』

『あの吹雪の日のこと、覚えていますか?』



「……はい」

「……?」


226: 2012/11/23(金) 21:12:58.35

『あの日から、私達は忙しくなって、お互いの時間が合わなくなって……。あの日以来、お鍋どころか、食事すら一緒にできなくて。
 でも、こうやって久しぶりに集まることが出来た今日が、なによりも大切な、幸せな日になりました』

『……』

『ありがとうございます、あずささん。プロデューサーさん。
 あの吹雪の日のように、私達にとっても今日という日が宝物になりました。
 いつまでもお幸せに!』

『……』

『……』

『終わり……だけど……変だったかな……?』

『いいんじゃない? 春香らしくて』

『そ、そうかな……』

『にひひっ、次はいよいよ世界のアイドル、伊織ちゃんの登場ね!』

『律子、いい?』

『うん。次は千早ね』



「……」

「如月千早ちゃん」



『おめでとうございます、あずささん』

『……』

『道の選択を迷っていた私ですが、あずささんが背中をそっと押してくれたことで、
 自分を試してみたいと気持ちが生まれ、決意することが出来ました。とても感謝しています。
 まだまだ勉強中の身ですが、これからも精進して夢を叶える為に頑張っていきたいと思います』

『……』

『私の夢は、空の向こうまで歌声を届けること』



「おそらですか……?」

「歌声を聞かせたかった人が、空の向こうに」

「……だれがいるんですか?」

「大事な人ですよ。もしかしたら、隣に・・・いるのかもしれませんね」




『ありがとう。あなたが居てくれてよかった』



「……」

「うれしそうです……」



227: 2012/11/23(金) 21:13:37.10

『プロデューサーと末永くお幸せに』

『……』

『終わり……だけど』

『いい画が撮れたわ……』

『……そうね、良かったわ』

『素敵な微笑みでしたよ、如月千早』

『なっ……!?』

『今の、プロモーションに使えないかしら……』

『私との相乗効果で事務所の知名度もぐんと上がるわね』

『だ、ダメよっ! 私の事なんてもう忘れられてるんだから!』

『世界の如月千早として名を上げてくれれば、765プロとしても美味しい話なんだから。
 イタリアでも頑張り続けるのよ』

『……』

『あ、ごめん。余計なプレッシャーを……。千早が事務所を辞めてから……色々と……ね』

『ちょっと律子、感傷に浸ってるんじゃないわよ』

『おっと、いけないいけない』

『ごめん、律子』

『ううん。さっきも言ったとおり、千早の頑張りはみんなのためにもなるんだから。……また帰ってくるのよ?』

『今日はまだ終ってないのに、もうお別れを言うの?』

『あ、あはは、そうね……私ったら何も今言わなくてもねぇ』

『ふふっ』



「うふふ」

「……」



『えーっと、次は』

『あれ、伊織ちゃん、どうして律子さんと一緒にいるの?』

『さっさと終らせたいんだけど、意地悪して撮ってくれないのよ』

『そっかー』

『やよい、カメラに向かって、あずささんに挨拶してくれる?』

『わっかりましたー!』



「やよいちゃん」

「毎日会ってるから、わかりますよね」

「やよい先生です」

「高槻やよいちゃん」



228: 2012/11/23(金) 21:14:16.70

『えーっと……。あずささん、ご結婚おめでとうございます』

『……』

『えーっと……、いつまでもお幸せに』

『……』

『えへへ、なんだか照れちゃいますね』

『え……、終わりなの……?』

『はい……ダメ…ですか?』

『あずさに伝えたいこと、いっぱいあるでしょ?』

『うん。でも……後で直接たくさん言いたいかなーって』

『今しか言えない事を後に取っておくと、言いそびれた時に後悔するわよ』

『う、うぅ……そうですね……。わかりました、律子さん』



「いつもいってます」

「……そうですね」



『あずささん。プロデューサー。ご結婚、おめでとうございます。
 私が困っていると必ず声をかけてくれた、プロデューサー。
 私が失敗をして落ち込んでいる時には必ず励ましてくれるあずささん。
 二人が幸せになると、私も幸せになります』

『……』

『ずっとずっと甘えさせてもらいました。
 わ……っ…私も……あずささんのように……っ……強く……ッ』

『やよい、がんばれっ』

『あずささんのように強く……なります!
 どんなことにも乗り越えられるように、強くなります!』

『……』

『だから、プロデューサーのこと、よろしくお願いします!』

『……』

『……どうでしたか?』

『うん。良かったわ』

『プロデューサーのお母さんみたいだったわね』

『そうですか? そんなこと初めて言われました』

『私もこんなこと初めて言ったけどね……』



「やよいちゃん、さびしい……?」

「……少し、怖かったのかもしれませんね」

「どうしてこわいのですか?」

「……不安だからですよ」

「……?」

「昨日、やよい先生はどうでした?」

「たのしかったです」

「うふふ」

229: 2012/11/23(金) 21:15:10.39


『次はボクね』

『美希と雪歩は?』

『向こうのベンチで寝てるよ』

『まったく、どこでも寝るのね……』

『なんで伊織がアシスタントになってるの?』

『貴音がどこか行ったからよ……。やってらんないわよ、こんなの』

『はい、真、いいわよー』



「……?」

「昨日、一緒に見ていたテレビに映っていた人ですよ」

「あ……まことくん」

「菊池真ちゃん」



『あずささん、プロデューサー。ご結婚おめでとうございます。
 まさか、あの吹雪の日のプロポーズが有効だったなんて……とってもロマンティックで……、
 あの時のあずささんの真っ直ぐな気持ちを思い出すと、なんていうか、ボクの胸がきゅんきゅんと……っ』

『……』

『……』

『こ、コホン。……神様の前で愛を誓い合う二人はとても素敵でしたよ』

『……』

『プロデューサー、あずささんを守れるのはあなただけです。
 プリンセスのナイトとして、いつまでいつまでも傍にいてあげてください。絶対にですよ』

『……』

『二人、いつまでもお幸せに』

『……』

『ごめん律子、もう一度撮り直していいかな?』

『どうしてよ? 前半はどうかと思ったけど、後半は真らしく格好良く決まってたわよ?』

『だ、だからだよー!』

『プリンセスのナイト……ね。真の願望っぽいわね』



「かっこいいです」

「ふふっ、そうですね~」



230: 2012/11/23(金) 21:15:47.71

『次は雪歩、いい?』

『う、うん……でも……』

『……んー…………』

『ちょ、ちょちょちょちょっと美希ちゃん!』

『誓いの……キスを…………ん……』

『は、離れて……美希ちゃんっ……!』

『ほら、美希! 寝ぼけてないで、ちゃんと目を覚ましなさい!』

『……ん……?』

『時間が無いんだから、しゃんとしなさいよ』

『太陽が……二つ……? やだ……』

『だ、誰がッ!?』

『こっちに立って……そうそう。いいわよ』



「……」

「萩原雪歩ちゃん」



『え、えっと……、ご、ご結婚おめでとうございます』

『……』

『……さっきまで……美希ちゃんが……陽だまりの中で眠っていました』

『……?』

『とても気持ちよさそうに寝ていました』

『……』

『プロデューサー。あなたの隣にいる暖かな太陽は、
 いつでも私をやわらかい陽だまりのように包んでくれましたよ』

『……』

『これからもずっと、その穏やかな日々は続いていきます。
 二人ならだいじょうぶ。ずっと……っ……歩いて……行けますぅ……』

『……』

『末永く……お幸せに……っ』



「さびしそう……?」

「……」



『ほら、雪歩、泣かないで』

『……ご、ごめん……ね……ぐすっ……』

『嬉し涙でしょ』

『う、うん……!』

『次、ミキね』


231: 2012/11/23(金) 21:16:31.11


「……」

「星井美希ちゃん」



『ミキね、暖かい夢を見てたよ』

『……』

『初めて事務所の扉を開いたときの事や、輝くステージでファンのみんなに応援されてるときの事とか、
 大変なレッスンでも皆で楽しくやってた事とか、おいしいおにぎりを食べてる事とか、走馬灯のように』

『使い方間違えてるからっ』

『それでね、その中心にはいつもプロデューサーがいたの』

『……』

『ミキを見てくれて、応援してくれて。それはミキだけじゃなくてね、みんなも同じ。頑張れって言ってくれて。
 信じてくれる人がいるから、それに応えようって。それに応えられた自分がとっても好きになったの』

『……』

『プロデューサー。お願いがあるの』

『……』

『あずさを必ず幸せにしてね?』



「……」

「とってもうれしそうです」



『二人を見ているとね、なんだか暖かくなるの。
 プロデューサーの隣には、いつもあずさがいて、二人の周りにミキ達、みんながいるの』

『……』

『だから、絶対に幸せにならないといけないの』

『……』

『あふぅ』

『ちゃんと閉めなさいよ……!』

『昨日の撮影が忙しくて疲れてるの……でこちゃん、代わりにやっといてくれる?』

『はぁ!?』

『途中までいいこと言ってたのになぁ……』

『どうしてあんたはいつもそうなのよ!』

『でこちゃんが苛める……。好きな子に意地悪をする男の子と同じ心理かも知れないけど、
 ミキ、そういうの流行らないって思うな』

『勝手に好意的に捉えてんじゃないわよ!?』

『美希はこれでいいかな……次は……』



232: 2012/11/23(金) 21:17:13.95

「にゃう~」

「クロのお母さんですか……?」

「そうですよ」



『にゃ』

『撮影は順調ですか?』

『えぇ、伊織が頑張ってくれてるから』

『後の事はお任せいたします』

『それで、貴音、あんたはなにをしてるのよ?』

『しろと戯れております』

『猫と遊んでないでこっち手伝いなさいよ……!』

『あれ、シロも来てたのかー。ビックリしたさー』



「さー」

「我那覇響ちゃん」



『あれ、シロになってる?』

『なにを言ってるのよ?』

『紫じゃないぞ?』

『響、コメントを貰えるかしら』

『任せるさー!』



「さー!」

「うふふ、響ちゃん、大好きですよね」



『あずささん、プロデューサー。結婚おめでとう』

『……』

『自分、プロデューサーと頑張ってきたからここまでなんくるなったさー。
 だからね、あずささん。これからもきっとなんくるないさ』



「なんくる……?」

「なんとかなるって意味ですよ」



233: 2012/11/23(金) 21:17:52.94

『なんくるないさーって、決して他人任せじゃないんだよ。
 自分でなんくるしていくって意味合いが強いんだ。自分自身を強く信じた言葉さー』

『……』

『だからね、二人ならどんなことでもなんくるないさ。自分はそう信じてるぞ』

『……』

『……終わり』

『あんた、なんくるないさ、しか言ってないわよ?』

『うぅ……それじゃもう少しだけ、いい?』

『えぇ』

『楽しかったぞ、プロデューサー。
 もうプロデューサーと呼べなくなってしまうけど、自分はここまで来れて本当によかったぞ』

『……』

『お礼を言い足りないから、たくさん言うね! ありがとう、ありがとう、ありがとー! プロデューサー!』


「……」

「ひびきちゃん……ないてる?」


ピンポーン


「あらあら、誰かしら?」

「やよいちゃん!」

「まだそんな時間じゃないですよ~」



スタスタスタ



『次は伊織ね』

『やっとね……』

『はいどうぞー』

『やる気出しなさいよ……。コホン。お待たせ! みんなのアイドル水瀬伊織ちゃんよ!』

『……』


「いおり……ちゃん」



234: 2012/11/23(金) 21:19:38.88

『あずささん、プロデューサー。ご結婚おめでとうございますぅ』

『……』

『プロデューサーが支えてくれたから、私はここまで来ることができました。
 感謝の言葉が足りないけれど、伝えずにはいられません。心からのありがとうをあなたに』

『……伊織、これ、プロモーションには使わないからね』

『それを早くいいなさいよね』

『うん……ごめん』

『9割の私の努力と1割のあんた達の支えでここまで来ることができたわ。とりあえず感謝しとくわね』

『……』

『いいこと? 私がトップを守っていてあげるんだから、早く復帰すること』

『……』

『まぁ、アンタが私のライバルを育てたところで、私の抑えきれない魅力に敵うはずがないけどね、にひひっ』

『……はい、おーけーでーす』

『まだ終ってないわよ!』



「えっと……貴音ちゃん……今日の日付で帰るとありますが、どこから帰ってくるのでしょう……?」

「おもちゃがとどきました!?」

「違いますよ。仕事に使うものです」

「……そうですか」



『まぁ、私の実力を持ってすれば、これくらいのことどうってことないんだけど』

『……お持ちしました』

『ありがと貴音、よいしょっと』

『なにしてるのよ?』

『ん? 三脚に取り付けてるのよ、伊織が自由に喋られるようにね……』

『ちょっと律子! 仕事を放棄するんじゃないわよ!』

『だって、あんた長いから……ちょっとお茶を飲んでくるから、少し離れるわね』

『わたくしも、しろと戯れてまいります』

『放置……!?』



「まぁ、新人さんの資料……律子さん相変わらず仕事が早いですね~」

「お母さん、おしごとですか……?」

「はい、少しだけ。ちゃんと見終わったらお部屋の掃除、するんですよ?」

「はぁーい」


スタスタスタ


「にゃう?」

「クロ、いっしょにみましょう」



235: 2012/11/23(金) 21:20:21.90

『……』



「……」



『たくさん支えてくれたわよね。……ここまで来れたのもアンタのおかげよ』


「……」


『だから、二人には絶対に幸せになってほしいの』


「……」


『幸せにならないなんて、許さないんだから』


「……」


『プロデューサー。あずさ。結婚おめでとう』



「……うれしそうです」

「にゃ」



『亜美です』

『真美です』

『『 亜美真美でーす! 』』



「……」



『亜美、真美! まだ私が撮ってるんだから!!』

『んっふっふ~、いおりん、亜美聞いちゃった~』

『な、なによ』

『なにを聞いたのですかな~』

『幸せをありがとうって』

『言ってないわよ!?』

『律っちゃんは?』

『……あっちで、お偉いさんに捕まってるわね』

『そんじゃー、亜美が撮ってあげるよ真美!』

『かわいーく撮ってよ!』

『まったく……遊びじゃないんだからね。私が撮ってあげるから、貸しなさい』

『はーい、よろしくね、いおりん』

『これ、撮れてるのかしら……?』

『だいじょーぶだよ。きっと、多分、恐らく』

『……まぁ、大丈夫でしょ。亜美、いいわよ』

236: 2012/11/23(金) 21:21:07.93

『こんばんは! 双海亜美です!』



「あみちゃん……」



『亜美、兄ちゃん達がこの映像を見てるとき、朝かもしんないよ?』

『あ、そっか……』

『大丈夫よ。続けて亜美』

『どうしてわかるの、いおりん?』

『こういうのは夜に観るものだからよ』

『てきとーゆってない?』

『どうしてこういうことには鋭いのよあんたたち……』



「……」



『兄ちゃん、あずさお姉ちゃん。結婚おめでとー!』

『……』

『亜美ね、とっても嬉しかったよ! 兄ちゃんとあずさお姉ちゃんがゴールインして!』

『……亜美、その表現』

『とっても楽しかったよー! 色んなとこで遊べたし、色んなことして遊べたから!
 とぉってもじゅーじつしてた! あんがとね、兄ちゃん!』

『……』

『これからもみんなで遊びに行くから、楽しみにしててね!』



「……」



『さて、ここで問題です。私は誰でしょー?』



「まみちゃん」



237: 2012/11/23(金) 21:21:48.61

『ブブー、はずれー! 正解は、双海真美だよー!』

『……』

『兄ちゃんとあずさお姉ちゃんが間違えるわけないよね!』

『……』

『えへへ、結婚おめでとうございます!』

『……』

『楽しくて楽しくてね、困ってしまうくらい楽しい毎日だったよ』

『……』

『ずっとずっとずっと続けばいいな……って。思ってた』

『……』

『ちょっと寂しいなって思うけど――』

『変わらないの!』



「みきちゃん」



『だからね、これからも楽しいよ、真美』

『う、うん』

『そうだよ、真美』



「ゆきほちゃん」



『きっと楽しい明日が待ってるさ!』



「まことくん」



『えぇ、きっとね』



「ちはやちゃん」



『間違いないさー!』



「ひびきちゃん」



『うっうー! 楽しみですー!』



「うっうー……?」



238: 2012/11/23(金) 21:22:24.32

『伊織、ありがとね。代わるわ』



「りつこさん」



『いいのよ、これくらい』



「いおりちゃん」



『では、最後に皆で言の葉を』



「たか……?」



『まって、お姫ちん』



「あみちゃん」



『真美』



「はるかさん」



『うん……。兄ちゃん、あずさお姉ちゃん!』



「まみちゃん」



『『『 結婚おめでとー!! 』』』



「……」



239: 2012/11/23(金) 21:23:10.60


『さてさて、私達は終わったことですし、最後はプロデューサー殿とあずささんにコメントをいただくとしましょうか。
 ……と、その前に、社長からも一言、お願いします』

『う、うむ……。忘れられているのかと思って肝を冷やしたよ』

『あはは……』

『顔がひきつってるよ、律子っ』

『そんなこと言わなくてもいいわよ、真っ』

『コホン。……私を仲人として二人が頼みに来たときは、さすがに腰が抜けそうになったよ』

『社長も知らなかったんですねぇ……』

『気付かなかったの、あんたと社長くらいのもんよ』

『うぅ……そこまで鈍感だったなんて……』

『人生には三つの坂がある。 一つ目は上り坂。 二つ目は下り坂。 三つ目はまさか』

『……』

『まず一つ目の上り坂についてだが――』

『社長』

『ん? なんだね小鳥君?』

『その話は披露宴の主賓挨拶でお願いします。長くなりそうでしたら短めに考慮してくだされば尚良いかと』

『いや、しかしだね』



「……」



『うぉっほん。二人とも末永くお幸せに。君達は私の誇りだ。この日を迎えることができて私はとても嬉しいよ。
 おめでとう!』

『……』

『こんなものでいいかね?』

『はい、短くて重みのある有難いお言葉でした!』

『いやしかし、足りない気がするな。そうだ、三つの袋の話をしようか』

『亜美、真美』

『『 りょうかい! 』』

『なっ、なにをするのかね!?』

『社長さんはこっちだよん!』

『さぁさ、さぁさ~』

『わが765プロは、いつでも君を待っているぞ~!!』



240: 2012/11/23(金) 21:24:10.31

「もうこんな時間……早くしないとやよい先生が来ちゃいますよ?」

「……」

「今日はたくさんのお客さんが来るんですから、お部屋が散らかっていては笑われてしまいますよ?」

「しゃちょうさんつれていかれました……」

「やよい先生に笑われてしまってもいいんですか?」

「そうですね……」



『次は私ですね』

『お願いします』



「ことりさん」

「……あ、そうでした。やよい先生は今日、来られないと連絡がありました」

「きれいでした」

「耳に届いていませんね…………誰に似たのでしょうか……ふぅ」



『ご結婚おめでとうございます』



「……」



『お二人が並んでいる姿を私は毎日見てきました』


「……」


『今でも、これからもそれは揺るがないと思っています』


「……」


『プロデューサーさん。私達765プロを、これからもよろしくお願いします』


「……」


『あずささん。アイドルを引退してしまったのは、少し寂しく感じましたが、私は……』


「……」


『あずささんのもう一つの夢を応援しています』



241: 2012/11/23(金) 21:25:48.23

「……」

「お母さん……どうして……どこかいたいの?」

「嬉しい時にも涙は流してもいいんですよ」

「……」



『ありがとうございます』



「……」



『そして、これからもよろしくお願いします』



「……」

「……」

「……おわりですか?」

「はい。……終わりです」

「……」

「約束、忘れていませんか?」

「やくそく?」

「お部屋の掃除です」

「そうでした」

「お母さんは台所にいますからね」

「はぁーい」


テッテッテ


ピッ


「さて……なにを作りましょう……?」



スタスタスタ



「……にゃ?」



ピピッ



「にゃ~う!」

「クローこっちですよー!」

「うにゃん!」


ピョン テッテッテ




242: 2012/11/23(金) 21:27:12.07

『……』

『……』

『……』

『……さて、と』

『……』

『プロデューサー、ちょっといいですか?』

『お、俺も撮るのか……?』

『当たり前です。撮らなくてどうするんですか』

『なにを言えばいいのか……』

『アンタが今思ってることを言えばいいじゃない』

『……』

『あらあら、どうしたんですか?』

『いえいえ、なんでも~。あずささん、綺麗ですねー』

『や、やだ……律子さん……!』

『どうして恥ずかしがるのよ、ウェディングドレスなんて何度も仕事で……なるほどね!』

『いおりんが悟ったよ!』

『伊織ちゃん、どういうこと?』

『やよいは、あずさの夢を知っているでしょ?』

『う、うん……あー! そっかー! 仕事は練習だったんですねー!』

『や、やよいちゃんまで……っ……!』

『おいおい、プロとしてあるまじき台詞を』

『プロデューサーさん!』

『な、なんだ……春香』

『今日はあずささんの夢が叶った大切な日なんです! 仕事とは別なんですよ! 別!』

『す、すまん……』

『も、もぅ! みんな……! は、恥ずかしいです~!』

『また逃げた……』

『ねぇねぇ、あずさ放っておいていいの?』

『なによ、美希……?』

『だって、前にもウェディングドレスを着て迷子になったことあるよね?』

『『 ……あ 』』

『いくらあずさお姉ちゃんでも……こんな日にまで……迷子に……』

『……』

『ぼ、ボク追いかけてきます!』

『あずささーん待ってー!!』

『わ、わわわ私も……!』

『……頼んだわよ、伊織』

『さっさと終らせなさいよね』

243: 2012/11/23(金) 21:29:02.31

『……』

『……いつでも始めていいですよ』

『三脚にして欲しいな……って思うんだけど』

『ダメです』

『そうか……』

『……』

『この仕事は……』


『支えているというより、支えられていることの方が多いと気付かされます』


『仕事や練習、ステージで頑張るみんなを見て、俺も勇気を貰っています。
 輝くみんなをもっと見たい。そんな気持ちが強くなっていくんです』


『俺の力不足で、中々上手くいかなくて、みんなに苦労をかけました。
 辛いことが多かったけど、みんなと乗り越え、なんとか、ここまで来れました』


『俺自身の夢を叶えることができました』


『それがとても嬉しくて、幸せだと感じています』


『正直、俺なんかでいいのかなって思っていたんだけど……』


『……』


『俺には』


『あずさが必要です』


『……』


『俺はこれから、入院して、手術を受けます』


『一人だったら諦めたかもしれない』


『だけど、あずさ――君がいてくれたから、夢を諦めないでいられた』


『春香、美希、千早、真、雪歩、やよい、伊織、律子、亜美、真美、響、貴音、小鳥さん、社長』


『みんなが支えてくれた。手術を受ける勇気、それを乗り越える力をみんなから貰った』


『……』


『これを観ているとき、俺は隣に……いないかもしれない』


「……」


『そんな俺なのに、またプロポーズをしてくれたことが何より嬉しかった』


『誓いを破ってしまうほどの弱い心支えてくれた』


『ありがとう』

244: 2012/11/23(金) 21:30:22.15


『俺は君を――』



「……」





『あずさを愛しています』




「私もです」

『私もです』


『ッ!?』

『後ろですよ、プロデューサー』








「私も、あなたを、愛しています」

『私も、あなたを、愛しています』




「ずっと一緒にいます」

『ずっと一緒にいます』




「あなたは私の……」



「……」

「い、いつからそこに……!?」

「……」


ピッ


「え、え~っと、お料理の続きをしてきますね~」

「ねぇ、お母さん」

「な、なんですか~?」

「お父さんのこと好ですか?」

「もちろん、大好きですよ」

「……」

「……」

「うん……」

「……うん?」


245: 2012/11/23(金) 21:31:08.18


ガチャ


「ただいまー」

「帰ってきましたよ」

「お父さん!」


ドタドタドタ


「あらあら」



「おかえりなさーい!」

「ただいま」

「だっこしてください」

「よいしょぉ……重くなったな……」

「おかえりなさい」

「ただいま」

「どうでした、お仕事は」

「……律子に絞られた」

「うふふ。律子さん、ずっと待っていましたから」

「体力も戻さないとな……」

「まだ運動はできませんからね。焦ってはダメですよ~」

「うん……わかってる」

「ねぇ、ひびきちゃんとまみちゃんもきますか?」

「はい。みなさん来てくれますよ」

「どうして真美を知ってるんだ?」

「さっきまで、結婚式の映像を二人で観ていたんです」

「うわ……」

「座ってくつろいでいてください」

「……ふぅ」

「お父さん、つかれてませんか?」

「少しだけ疲れたかな。でも、大丈夫だよ」

「……そうですか」

「どこまで観たの?」

「さいごまでみました」

「最後は誰だった?」

「ことりさんです」

「よかった……」

「はい、お茶です」

「ありがとう」

「私は最後まで観ましたよ」

246: 2012/11/23(金) 21:32:14.71

「なんか俺、恥ずかしいこと言ってたから……照れるな……」

「うふふ」

「そうだ、貴音に会ったよ。旅をしてきたって言うけど、全然変わってなくてビックリしたよ」

「さっき、葉書のようなものが届きましたけど……」

「のようなもの……?」

「貴音さんも今日来るんですよね?」

「うん。みんなと一緒に来るって」

「みんな?」

「さっき映像に映っていた人みんなですよ」

「……そうですか……うれしいです」

「765プロは……また個性的な候補生が揃ったな……」

「今日からまた、プロデューサーさん、ですね」

「懐かしいな……」

「懐かしんでいられませんよ。さっき新人さんの資料届きましたから、きっと大変ですよ~?」

「見せてくれるかな」

「まだダメですよ。私の担当なんですから」

「……」

「そんな顔をしないでください、今は少しずつ、ですから」

「……おなかいたいですか?」

「ううん。複雑っていうんだよ」

「ふくざつ……ですか」

「口調がお母さんに似てきたな~」

「ふふ」

「笑い方まで……」

「うふふ」



ピンポーン



「やよい先生?」

「かも、しれませんね」

「おむかえしてきます!」


テッテッテ


「にゃう」

「やれやれ……大変だな……」

「楽しくて、大変ですね」

「あぁ、騒がしくなる……ちょっとは休みたいなぁ……」

「……」

247: 2012/11/23(金) 21:33:03.68

「お邪魔しまーっす!」

「この声は……」

「ずっと一緒に居させてくださいね」

「なにか言った、あずさ?」

「あなたは私の――」





―― ……運命の人、ですから。













248: 2012/11/23(金) 21:33:40.11



以上で終わりです。

読んでくださった方。感想をくれた方。

ありがとうございました。


249: 2012/11/23(金) 21:42:59.64
おつおつ

引用元: あずさ「嘘つき」