2: 2012/03/10(土) 15:12:53.39
初めて見た時から、なんて綺麗な子なのかしらって思った。

可愛らしいお顔、少し癖のある柔らかな髪の毛。年頃の女の子らしい、健康的で……でも艶やかな身体。

そして……その性格と雰囲気。

貴女はわたしの事を『おっとりぽわぽわで、一緒に居たらあったかい、優しい気持ちになれるよ~』なんて言ってくれるけれど。

そんな事ないわ。それは貴女。貴女の事。

もし本当に……周りに私がそんな影響を与えられているのなら、貴女が側に居てくれるからよ。

貴女という存在に引っ張られているから。

ね、唯ちゃん……

3: 2012/03/10(土) 15:17:34.80
唯「ムギちゃん、今日は付き合ってくれてありがとねっ」

ある冬の休日、隣を歩く唯ちゃんが笑う。

近々憂ちゃんのお誕生日が近いらしく、そのプレゼントを買うのを手伝ってと頼まれたのだ。

良い物が見つかって良かった。

りっちゃんと澪ちゃんは……澪ちゃんが風邪を引いてしまい、りっちゃんは澪ちゃんについていてあげたいという事で今回はお休み。

澪ちゃん大丈夫かしら……

でも、唯ちゃんと二人きりになれた事でちょっと喜んでいる私がいたり。

私悪い子かしら。ごめんね、二人共……

4: 2012/03/10(土) 15:20:28.94
唯「ラッキーラッキーっ」

ねえ知ってる? 私、唯ちゃんに一目惚れした事。

最初、軽音部に入ろうか迷っている貴女を見ながら『お願い行かないで。入部して』ってずっと祈っていたのよ。

凄くドキドキしながら。

思えば、あんなにドキドキしたのは生まれて初めてだったな。

5: 2012/03/10(土) 15:22:47.59
唯「ムギちゃん? どうしたの?」

思い出し笑いをしてしまった私に、唯ちゃんが問いかけてくる。

……いけない。

紬「ううん、唯ちゃんがあまりに可愛い顔で笑うから、つい見惚れちゃったの~」

なんてうそぶいてみる。

唯「えへへ、そんな事ないよぅ。
むしろムギちゃんの方がかわゆいよ~」

唯ちゃんが照れ笑いを浮かべながら言う。

6: 2012/03/10(土) 15:25:24.40
あぁもう可愛いなぁもう、もうっ!

♪しゃらんらしゃらんら♪

紬「……あっ、じゃあ私こっちだから」

下校の時もいつも思う事だけれど、別れる時はやっぱり寂しい。

もちろん、同じお家に住んでいない限り……例え隣同士でも、最後まで一緒の道を歩く事は出来ないのだから仕方ないんだけどね。

でも今日は唯ちゃんとの初めてのデート(キマシタワァ)、彼女の最後の素敵な笑顔で、私はかなり気分が良かった。

……だけど。

7: 2012/03/10(土) 15:29:18.47
唯「……うん」

紬「えっ」

そこには、見た事の無い表情をした知らない女の子が居た。

紬「唯ちゃん?……どうしたの?」

唯「……あっ、ううん、何でもないよっ」

言ってサッと私に背を向ける唯ちゃん。

8: 2012/03/10(土) 15:32:07.63
ここは私が登下校に使ういつもの駅じゃなく、普通の住宅街。

夕暮れも近いとあって人通りはまばら。その事も合間ってか、そんな彼女の背中はとても切なそう。

紬「唯ちゃん……」

唯「ホントに何でもないよぅ。
じゃあまた明日ねっ」

紬「待って!」

焦って立ち去ろうとする唯ちゃんの手首をとっさに掴む。

9: 2012/03/10(土) 15:34:45.67
唯「きゃっ……ムギちゃ、強い……」

紬「あっ、ごめんねっ」

つい力を入れすぎた。

でも、今まで見た事はもちろん、彼女がそんな顏をする事を想像すらした事もなかった私には、先程の唯ちゃんの表情は強烈すぎた。

力を緩めこそすれ、どうしても彼女の手首を掴んだ左手を離せなかった私は、さらに右手で唯ちゃんの肩を掴んだ。

自然と私達は密着し、見つめ合う体制になる。

♪キマシタワァ♪

10: 2012/03/10(土) 15:37:42.58
唯「ムっ、ムギちゃん……?」

紬「唯ちゃんっ」

唯「はひっ」

紬「もうちょっと公園でお話しましょうっ!」

その言葉に一瞬唖然とし、首を傾げた唯ちゃんだったけど、すぐにいつもの笑顔に戻って。

唯「うんっ」

11: 2012/03/10(土) 15:44:28.01
さっきの場所から2、3分歩いた所にある公園のベンチ。

夕方だし、結構寒いのにも関わらず、公園には何人か遊んでいる子供達が居る。

紬「美味しいわねっ、唯ちゃん」

ここに来る途中にあった自販機で買った……午◯の紅茶?

ストレートティーみたいだけど、美味しい。どんな葉っぱを使ってるのかな?

唯「ムギちゃんの入れてくれるお茶には全然かなわないけどね」

唯ちゃんはミルクティ。

紬「あらあらうふふ、ありがとう」

唯「えへへ」

笑いながら唯ちゃんが私に寄ってきて、肩と肩がピトッとくっ付く。

12: 2012/03/10(土) 15:46:12.79
紬「……どうしたの、唯ちゃん」

唯ちゃんは確かにスキンシップが大好きな子だけど、今はちょっと雰囲気が違う。

唯「……寂しいなって」

紬「うん」

唯「寂しいなって思ったんだ」

21: 2012/03/11(日) 14:31:03.01
唯「私ね。ムギちゃんや皆と居るの、大好きなんだ。
だからかな。学校から帰る時とかの、一人になる瞬間がとっても苦手で……
でもね、ここまで切なくなったのは初めてなの。
今日はいつもよりもっともっと楽しかったから、いつもより寂しい気持ちが沢山やってきたのかな。
……ごめんね、嫌な顔見せちゃった」

紬「別に嫌じゃないわ」

唯「嘘だよぅ。悲しい顔や寂しい顔見て、嫌な思いしない人なんていないもん」

やっぱり唯ちゃんは綺麗。世の中、そんな良い人ばかりじゃないのよ……?

22: 2012/03/11(日) 14:35:55.49
でも、私は唯ちゃんのそんな所が好き。大好き。

皆は私の事を上品って言ってくれるけど、本当に人として上品なのは、彼女みたいな人の事を言うのだと思う。

唯「えへへ、変だよね。
ちょっと歩いたらお家について、憂だって居てくれるのに。
そんなちょっとの間も切ないんだ」

隣の唯ちゃんが、頭を横に倒して私の肩に乗せる。


ふわっ。


23: 2012/03/11(日) 14:38:17.58
ほのかに香る、唯ちゃんの匂い。

シャンプーと、今日一日頑張った香りが混じった、唯ちゃんの……匂い。

胸が高鳴った。

まずい。こんな気持ちになるには場所が悪いし、少し時間が早い。

唯「……あっ、でもでも、本当にいつもはここまでじゃないんだよっ!
別に耐えられるくらいって言うか……
今日はその、特別っ!」

紬「特別?」

唯「そうっ。大好きなムギちゃんと二人でお出かけ出来たからだよっ」

えっ……

24: 2012/03/11(日) 14:42:43.93
唯「だからね、寂しがりやじゃないんだよ。
そう、寂しがりやじゃないんだよ~」

唯ちゃんどうして二回言ったのかしら?

い、いやっ、それより……!

唯「だから私も立派な大人の女なのです! ふんすっ!」

そう言う唯ちゃんが吹き出した息をこっそり吸いつつ、今度は力を入れすぎない様に気を付けながら、私は上半身をねじって彼女の両手を握った。

唯「ムギちゃん?」

唯ちゃんも上半身をこちらに向け、私を見つめながら小首を傾げる 。

紬「唯ちゃんは私の事が大好きなの?」

25: 2012/03/11(日) 14:45:46.36
唯「えっーー
……あっ!」

唯ちゃんは大きく目を見開き、「な、なんの事やら~」と視線を外す。

私は自分の手を唯ちゃんの可愛らしい手から離して、彼女の両の頬へとやった。

唯「ほぇ?」

改めて私と視線を交わらせた彼女の顔が赤く、熱くなってきた気がするのは私の思い違いではないはずだ。

……もし。

もしも。

紬「私と唯ちゃんの気持ちが一緒なら。
こばまないで。
……受け入れて」

私は私の天使様へそう言うと、ゆっくり顔を近づけた。

26: 2012/03/11(日) 14:49:56.71
ほんのり香る、唯ちゃんの匂い。

甘い吐息。

感じる体温に、指先に触れる、柔らかい無垢な糸。

わずかな時間にそれらを堪能し、幸せ色に染まった私の唇は……


唯ちゃんの唇と一つになっていた。


27: 2012/03/11(日) 14:52:42.00
唯「ん……む……」

紬「あむ……ん……」

私達は一度お互いに触れ合い始めると、なかなか止まらなかった。

最初こそ一拍の間があったけれど、私が下手なリードを始めると、いつしか唯ちゃんも私を求めてくる。


うぶで、熱くて甘いキス……


しかし、私達はそんな最高に素敵な出来事を味わう余裕もなく、必氏に貪り合い、やがて唇と唇を離した。

28: 2012/03/11(日) 14:55:28.91
唯「ぷはっ……」

紬「ん……ふぅ、ふぅ……」

いつか唯ちゃんとキスするつもりで、毎日彼女とのエアー・キスを自主練してたのだけど……

本番はやっぱり違うのね。息継ぎも上手く出来なかったわ。


でも……


唯「……ムギ、ちゃぁん……」

未だ荒い息のまま、潤んだ瞳で私に体を預ける唯ちゃん。


……最高だった。


29: 2012/03/11(日) 15:00:37.19
紬「唯ちゃん……
だいすき。だい、だいすき……」

唯「私も……だいだいだいすき、だよぅ」

ーーお菓子みたい。

私の肩で甘える唯ちゃんを見て、私はふとそんな風に思った。

なんと言うか、その存在自体が。存在すべてが甘い……スイーツのよう。

澪ちゃん風に言うと唯ちゃんは……

『ときめきシュガー』と言った所だろうか。

……食べたい。

実は唯ちゃんこそが、何より、どんなお菓子よりも紅茶に合う最高のスイーツなんじゃないだろうか。

30: 2012/03/11(日) 15:06:07.63
唯「ーーわぅっ⁈」

私は唯ちゃんの耳たぶを甘噛みしていた。

唯「ム、ムギちゃん……?」

紬「もう私と唯ちゃんは恋人同士だものね?
だから、その『証』」

唯「……あ……」

甘噛みされた耳に手をやり、そこに出来た痕を確認すると。

照れ臭そうに、嬉しそうに。唯ちゃんは俯く。

私はさらに続けて、彼女の髪の毛に口づけようと……

紬「ーーんっ、ぁ……!」

31: 2012/03/11(日) 15:09:21.98
唯ちゃんは流れる様な動きで、私の首すじにキスを……

いや、むしゃぶりついてきた。

紬「ちょ……唯ちゃんっ。
だ、駄目……っ!」

唯「んっ……ふ」

紬「んっーー!」

最後に少し強めに噛むと、唯ちゃんはようやく私の首すじから唇を離した。

そして、彼女は真っ赤な顏をして上目遣いで私を見ながら、

唯「ムギちゃんだけズルいよ~。
これで一緒っ。
ムギちゃんとーー」

紬「い……」

先ほどの唯ちゃんと同じ様に、私は自分の首すじに手をやる。

そこには確かに、彼女がつけてくれた『証』があった。

紬「っ、しょ……」

32: 2012/03/11(日) 15:13:36.57
湧き上がり、溢れてたまらない愛しさと嬉しさに思わず微笑みをこぼすと、唯ちゃんもいつものほがらかな太陽みたいな笑顔を見せて、

唯「うんっ! 一緒っ。
私たち、一緒っ!」

紬「……うふふ」

唯「えへへっ」

33: 2012/03/11(日) 15:17:36.65
ーー唯ちゃんが唯ちゃんでよかった。

唯ちゃんに出会えてよかった。

幸せが止まらない。

幸せが溢れてくる。

唯ちゃんも同じかしら。

そうだったら嬉しいな。

たとえそうでなくても、幸せにしたい。幸せにしてみせる。

そして、そんな彼女を見て私ももっと幸せになり……

私はまた、唯ちゃんをさらに幸せにするのだ。

私達ならきっと……

ううん、絶対出来ると。

絶対そんな関係になれると思うから。

34: 2012/03/11(日) 15:22:11.45
夕暮れ、帰路に着く私達は寄り添い歩いていた。

その手で、肩で。

指先で、髪の毛で。

心で。

気温は低いけど、私達は心も身体も踊るように暖かいから、まったく気にならなかった。

寒い冬の日を、こんな軽やかに歩けた事なんてあったかしら。

まるで、そう。スキップをしているかの様な。

夕日に照らされ、伸びる私達の影はきっと……

周りの人から見たら、はしゃいでいる様に見えるだろう。


おしまい。

35: 2012/03/11(日) 15:25:58.68
以上で終了です。
レスくれた人も、ROMってくれた人も、皆本当にありがとう!
駄文ではありますが、見てくれた人が少しでも楽しい時間を過ごして貰っていたら、最高に幸せです。
本当、唯ムギは良いものですね☆

って、タイトルの元ネタがわかる人が居たっ。
そう、堀江由衣さんの『約束』て曲の歌詞でつ。
ご存知ない人、よかったら聴いてみてくれー。
良い曲ですよ。

ではでは。

36: 2012/03/11(日) 15:39:14.76

唯ムギいいな~

引用元: 紬・唯「夕暮れ、小さな影がはしゃいで」