1: 2012/10/23(火) 22:10:35.67
 
 伊織が事務所に戻ったとき、そこにいたのは小鳥だけだった。
 
伊織「ただいま」

小鳥「おかえりなさい。あれ? 伊織ちゃんだけ?」

伊織「あずさと亜美はそれぞれピンのお仕事が入ったって。律子はあずさに付き添ってるわ」

小鳥「あー、一人じゃ帰れないかもね……」

伊織「そういうこと」

伊織「ねえ、ジュースある?」

小鳥「冷蔵庫に買い置きが。伊織ちゃんの分もちゃんとあるわよ」

伊織「さすがね、よくわかってる」

伊織「ジュース、もらうわよ」

小鳥「ええ、どうぞ」

3: 2012/10/23(火) 22:12:41.45
 
伊織「……半年か」

小鳥「……伊織ちゃん」

伊織「こんな話、半年前なら小鳥とはしてなかった」

小鳥「伊織ちゃん」

伊織「半年前なら、アイツと話してた……」

小鳥「伊織ちゃん!」

伊織「ゴメン。こんな時に思い出すような話じゃないわよね」

小鳥「吐き出したいことがあるなら、お姉さんが聞いちゃうわよ?」

伊織「いい。多分まだ、私の中で折り合いが付いてないから」

伊織「今吐き出せば、恨み言が出るかも知れないから」

小鳥「伊織ちゃん、それは」

伊織「ウン。わかってるの。理屈じゃわかってるの。あの時からずっとわかってた」


4: 2012/10/23(火) 22:15:05.34
 
伊織「だけど、感情がまだ納得しない。私の中の嫌な部分が、『あの女のせいだ』ってまだ言ってるの」

伊織「そんな顔しないで。理屈じゃわかってる。頭じゃわかってるのよ。でも、言いたくなるの」

貴音「ただいま戻りまし……」

 貴音の言葉が伊織の耳に入ったのは、伊織自身が次の言葉を発した後。

伊織「貴音のせいだって」

小鳥「伊織ちゃん!」

貴音「……失礼、いたしました」

伊織「あ……」

貴音「今宵はこれにて、自宅へ直帰させていただきます」

伊織「あ、あ……」

小鳥「待って、貴音ちゃん!」

5: 2012/10/23(火) 22:17:31.29

貴音「失礼いたします」

 小鳥の言葉も届かず、貴音はそのまま振り向いた。そこへ、

真「ただい……あれ? 貴音?」

響「貴音?」

小鳥「真ちゃん! 響ちゃん! 貴音ちゃんを止めて!」

真「え、あ、はい!」

響「わかった!」

貴音「離してください」

真「何があったか知らないけれど、貴音も落ち着いて」

貴音「なんでもないのです」

伊織「違う、違うのよ、貴音」

貴音「伊織の言葉もまた一面の真実。わたくしのせいであの御方は」

真「貴音!」

貴音「!」

真「駄目だよ……貴音がそんなこと言っちゃあ……誰が喜ぶんだよ、そんなの」

6: 2012/10/23(火) 22:19:38.77

 
 
 
 半年前――

P「もうこんな時間か」

貴音「夕食の時間もとうに過ぎてしまいました」

P「まあでも、スタッフも予想以上に熱が入ったせいだって謝ってくれたしな」

貴音「はい、それはわたくしも耳にしております」

P「写真集の出来映えが楽しみだ」

貴音「あなた様も買ってくださいますか?」

P「勿論だろ? 真っ先に買うよ」

貴音「撮られた甲斐があるというものです」

7: 2012/10/23(火) 22:21:45.08
 
P「あー、でも、さすがに遅くなりすぎたな、何処かで夕食食べていくか」

貴音「あなた様?」

P「ん? どうした、貴音?」

貴音「その先に、隠れたる名店があるとの噂。是非、味の程をと」

P「ラーメンか」

貴音「はい」

P「リサーチ済みか。さすがだな」

貴音「ささ、参りましょう」

P「わかったわかった、そんなに急がなくても……」

貴音「!?」

9: 2012/10/23(火) 22:23:59.53

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 それはスローモーションのように。

 自分に向かって容赦なく進んでくる一台の乗用車。
 
 何故かハッキリと見える運転席では、男がハンドルに突っ伏していた。

 次の瞬間、プロデューサーが自分を押しのける姿が見える。

 自分がいなくなった場所にプロデューサー。
 
 予定調和のようにその位置へと突き進み、通りすぎていく車。



 プロデューサーは翌日、病院で息を引き取った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

10: 2012/10/23(火) 22:26:29.83
 

 今――



真「駄目だよ……貴音がそんなこと言っちゃあ……誰が喜ぶんだよ、そんなの」

貴音「……」

響「貴音がそんなこと言うなんて、自分は悲しいぞ」

響「真だって、伊織だって、ぴよ子だって、今の貴音の言葉を聞いたら、みんな悲しいぞ」

貴音「……」

伊織「貴音、私」

貴音「いいのです」

11: 2012/10/23(火) 22:28:35.61
 
伊織「……貴音?」

貴音「貴方の本心、理解できぬわけではありません」

貴音「それでも……私は……今は……」

響「ぴよ子、自分このまま直帰するから。貴音と一緒に」

小鳥「わかったわ。お願いね、響ちゃん」

響「うん」

貴音「申し訳ありません」

響「帰ろ、貴音」

12: 2012/10/23(火) 22:30:45.02

 貴音を支えるようにして、響は事務所を出ようとする。

 ドアの前には、中の騒動のためか入るに入れなくなった者達が決まり悪げに立っていた。

 春香とやよい、そして以前のプロデューサーの事故氏後に入った新プロデューサーの三人。


14: 2012/10/23(火) 22:32:53.86
 
春香「あ、あはは。ゴメンね。立ち聞きするつもりはなかったんだけど」

響「うん。わかってるぞ。こっちこそ、なんか、ごめん」

新P「我那覇さん」

響「あ、新Pさんもいたのか」

新P「すみません。四条さんのこと、よろしくお願いします」

響「自分に任せるさ」

春香「新Pさん、早く中に入らないと、私たちも入れませんよ」

やよい「寒いです」

新P「あ、すみません。天海さん、高槻さん、どうぞ」

15: 2012/10/23(火) 22:34:56.24
 
 新しいプロデューサーは未だにぎこちない。
 
 それは彼のせいばかりではないだろう。アイドル達も、彼にどう接するべきかがよくわからない状態なのだ。

 彼に対する悪意はない。しかし、思い入れもない。

 彼女らにとって、そこにいるのはあくまでも「身代わり」なのだ。

16: 2012/10/23(火) 22:37:03.03
 
小鳥「お帰りなさい、新Pさん」

新P「ただいま戻りました、音無さん」

小鳥「あの、新Pさん」

新P「はい」

小鳥「響ちゃんも、他のみんなも、新Pさんを信用してない訳じゃないんです」

新P「……」

小鳥「ただ、まだ慣れていないというか……」

新P「自分が以前のプロデューサーの足元にも及ばないって事は、よくわかってますよ」

小鳥「……」

新P「今は、ね」

17: 2012/10/23(火) 22:39:08.02
 
 以前のプロデューサーの業績は聞いている。
 
 この業界では考えられないくらい、アイドル達との絆を築いていたことも。

 自分には到底真似できないと、新Pは思っている。
 
 だけど、それでも。彼が出来なくて自分に出来ることはあるはずだ。新Pは、そう信じている。

 だから、続けていくことが出来る。


18: 2012/10/23(火) 22:41:09.43
 
新P「天海さん、高槻さん、明日のスケジュール、確認しようか」

小鳥(新Pさんはよくやってくれている。それはみんな認めている)

小鳥(だけど……良くも悪くも、Pさんの影響が大きすぎた……)

小鳥(でもいつかはわかってくれるはず。みんな良い子たちだから)

19: 2012/10/23(火) 22:43:10.27

 
 
 そして――

亜美「あ、あれ、ちょ→可愛いね」

真美「どれどれ、ん? 見えませんなぁ」

亜美「あれあれ、ほら、あそこの看板の右の」

真美「んー?」

律子「ほらほら二人とも、町中でキョロキョロしない」

亜美「ねえねえ、りっちゃんは見えるっしょ?」

律子「どれのこと?」

21: 2012/10/23(火) 22:45:16.35

 一台の自動車が

亜美「だからほら、あの赤い看板の右のビルの」

 スピードを落とすことなく

律子「あ、あれ? あのうさぎ?」

亜美「そーだよ!」

 三人に向かう

???「亜美! 真美! 律子!」

 瞬間、亜美は自分に向かう車を見た。

 咄嗟に動く足、しかしそれは、間に合うのか。

22: 2012/10/23(火) 22:47:18.54
 
真美「亜美!?」

律子「亜美!?」

 辛うじて声に反応した二人の間を貫いて走った車が、並ぶショップのショーウィンドウに突き刺さる。

亜美「……え?」

 そこにいたはずの亜美は、何故か真美の背後に転がっている。

 まるで、誰かに突き飛ばされたかのように。それとも、火事場のくそ力というものか。

亜美「な……に?」

真美「……亜美? どうして?」

律子「無事なの?」 

23: 2012/10/23(火) 22:49:21.10
 
亜美「何が……あ……」

 真美は頷いた。これから亜美が言う言葉が予想できたから。

亜美「だよ、ね?」

亜美「兄ちゃんが、助けてくれた?」

 聞き覚えのありすぎる声を、今更間違えるわけもない。

 三人に危機を伝え、亜美を助けたのはPだ。
 
 それが事実かどうかは関係ない。亜美は助けられたと思った。真美と律子は危機を伝えられたと思った。それでいい。

 三人がそう思ったのなら、765プロの三人がそう思ったのなら、それは間違いなく正解なのだ。ことPに関しては。


24: 2012/10/23(火) 22:51:34.33

千早「本気なの?」

律子「いくらこの子達でも、それに私が、あの人のことでこんな悪質なジョークを言うと思う?」

伊織「ないわね……さすがに」

真「待ってよ、それじゃあ一体どういうことだよ」

亜美「亜美だって信じられない。だけど」

真美「兄ちゃんが助けてくれたのは本当だから」

律子「……幽霊」

千早「律子?」

律子「その言葉で説明が出来るというのなら、それでもいい。私はそう思うのよ」

千早「いいの? 本当に」

律子「ええ」

26: 2012/10/23(火) 22:53:36.36

 
 それが、始まりだった。

 自動車に轢かれそうになる、などが日常茶飯事であるわけもなく、同じ出来事が起こったというわけではない。

 それでも、彼女たちは見た。

 時には、移動の電車内で眠って乗り越しそうな所を起こされ。

 あるいは、レコーディングに悩む姿に一言アドバイスを与えられ。

 受信履歴の残っていない通話で寝坊を起こされ。

28: 2012/10/23(火) 22:55:38.64

 
あずさ「間違いありません」

春香「間違える訳なんてないよ」

雪歩「あの人の声、忘れません」

やよい「絶対に、プロデューサーでした!」

 誰もがその声を二度以上は聞いたのだ。

 その現象は、その声の主がまだ何処かに生きているような錯覚を彼女たちの胸に植え付ける。

 ただ、一人を除いて。



29: 2012/10/23(火) 22:57:43.66

 
 
  
貴音「……」

千早「一番最近は、おととい寝坊しかけたときかしら」

春香「うーん、私も目覚まし止めてみようかな。あ、でもお母さんに起こされちゃうか」

春香「あ、千早ちゃん、今度泊まりに言ってもいいかな?」

千早「ええ、勿論。もしかすると、二人一緒に聞けるかもね」

貴音「……」

響「貴音、なんか飲む?」

貴音「……」

31: 2012/10/23(火) 22:59:50.62
 
響「貴音?」

貴音「……響?」

響「今、お茶を煎れるんだけど、何か飲む?」

貴音「いえ、今は結構です」

響「うん。あ、これ、ぴよ子が持ってきたおまんじゅう、おいしいぞ」

貴音「ええ、いただきます……響」

響「なんだ?」

貴音「わたくしの事は気にせず、向こうの会話に参加してもいいのですよ?」

やよい「伊織ちゃんのお家にお泊まりしたとき、お風呂の中で起こされたんです」

伊織「やよいが湯船の中で寝ちゃってるからビックリしたわよ。てもやよいったら『プロデューサー、エOチです!』って」

やよい「だって、お風呂だったし……」

32: 2012/10/23(火) 23:01:53.31
 
響「自分は別に……」

貴音「響も、聞いたのでしょう? あの御方の声を」

響「……」

貴音「いいのです。声をかけてもらえないのはわたくしの自業自得なのですから」

響「違う」

貴音「わたくしが、あの人を頃したようなものなのですから」

響「違うよ……そ、そうだ、ほら、貴音は物の怪が嫌いだってプロデューサーも知ってるから……」

貴音「……」

33: 2012/10/23(火) 23:04:02.70
 
新P「よーし、全員注目お願いします」

あずさ「まあ、もうそんな時間?」

律子「ミーティングの時間よ、はい、全員注目」

新P「まずは、予定の確認の前に一つ言っておくことがあります」

律子「え? 何も聞いてませんよ?」

新P「秋月さんにもまだ言ってませんから」

律子「なにそれ」

新P「僕の前にいらしたプロデューサーのことです」

貴音「!?」

新P「皆さんの話している内容は知っています。僕はそれを否定も肯定もしません」

35: 2012/10/23(火) 23:06:04.75
 
新P「ただ、出来ればその話は765プロ以外ではしないようにして欲しいと言うことです」

新P「無関係な人に勝手に想像されるのはそのプロデューサーさんだって嫌でしょう」

新P「お願いします」

律子「……そうね。変に誤解されて好き勝手言われるのも癪だわ」

律子「皆、それでいいかしら?」

 反論はない。

新P「じゃあ、お願いします」

 厳しい眼差しで新Pを睨みつけている者が数人いた。

新P「では、来週の予定確認しますね。まず、如月さんは……」


36: 2012/10/23(火) 23:08:21.92

 
 
 
 数日後――

新P「四条さん、お疲れ様でした。この後は事務所直帰で大丈夫ですか?」

貴音「はい。直帰致しましょう」

新P「じゃあ行きましょうか」

新P「すいません、車があれば良かったんですけれど、秋月さんのほうに回っているもので、今夜は電車移動です」

貴音「月夜を歩くのも趣があるというもの」

新P「一応、来月には事務所用の車を一台増やす予定らしいですよ」

貴音「そうですか。それは楽しみです」

新P「最近、天海さんや萩原さんが変なのに後を尾行られたりしてましたからね。本当は今日も車を出したかったんですけれど」

貴音「その代わりに、新P殿が付いているのですね」

38: 2012/10/23(火) 23:10:24.69
 
新P「ま、そういうことです」

貴音「頼りにしております」

新P「……少し、プライベートな話になりますけど、いいですか?」

貴音「あの方の、ことですか?」

新P「正確には、少し違いますけれど」

貴音「構いません」

新P「面白い話があってですね。皆Pさんの声を聞いたと言ってますけれど、その時間を確認すると、重なるんですよ」

新P「本当に幽霊だとしても、同じ時刻に二カ所に現れることが出来るんでしょうか?」

新P「それに、携帯電話に受信履歴が残ってないとしても、電話を受けたという形跡自体すらない」

新P「幻覚……集団幻覚だとすれば、説明できるんですよ」

39: 2012/10/23(火) 23:12:27.71
 
新P「Pさんに会いたいという皆の気持ち」

貴音「わたくしが、あの方に会いたくないと?」

新P「会いたくない訳じゃない。四条さんは罪の意識を持っているから。だから幻覚を見ることも出来ない」 

貴音「亜美は突き飛ばされて助けられたと」

新P「自分で地面を蹴って逃げた。それが出来ない距離じゃなかったんですよ」

貴音「なんと……」

新P「声を聞いたんじゃない。声を自分の中で作ったんです。そして最初の双海さん以外、Pさんに直接触った人はいない」

貴音「裏を返せばどうなります?」

新P「ああ」

 新Pは寂しげに笑った。

40: 2012/10/23(火) 23:14:29.56
 
新P「本当に皆にPさんが見えているのに、それを認めようとしない僕、ですか」

新P「確かに、あり得そうな話ですよ。でもね」

新P「僕は見たんですよ」

 楽屋で眠っていた美希を起こした。

 テレビ局で迷子になっていたあずさに声をかけた。

 事務所に宿題に悩んでいるやよいにヒントを与えた。

美希「ハニーが起こしてくれたの!」

あずさ「あの人の声が聞こえたんです」

やよい「うっうー! プロデューサーが教えてくれました」

42: 2012/10/23(火) 23:16:33.86
 
新P「僕がしたことすら、いつの間にかすり替えられている」

新P「そういうことなんですよ」

新P「だけど、それを指摘しない方が良いような気もする。貴女以外には」

貴音「わたくしは……」

新P「四条さん、貴女は自分を責めなくていいんです。あの人が貴女の前に現れないのは貴女を憎んでいるからじゃない」

新P「罪の意識に潰された貴女が、あの人を招いていないだけなんです」

貴音「そう、なのでしょうか……」

新P「それじゃあ聞きます。あの人は、貴女を憎むような人ですか?」

新P「貴女を助けて貴女が助かり、自分が氏んで悔いる人ですか?」

新P「自分の選んだ結果で貴女が助かって、その貴女を恨むような人だったんですか?」

43: 2012/10/23(火) 23:18:44.48


 
 立ち止まる新P。距離を取るように後じさる貴音。

貴音「わたくしは……」

???「貴音!」

 貴音を案ずる声を確かに新Pは聞いた。

 同時に建物の影から現れる姿に、新Pは無意識に飛び込んだ。

 不審者を殴り飛ばし、崩れ落ちる姿を確認。次いで新Pは貴音に向かって振り向き、そして見た。

貴音「……あなた様……?」

P「……貴音」

 貴音を庇うように立つ、何処かぼやけた輪郭の男。

 その男の袖を必氏の形相で掴んでいる貴音。

44: 2012/10/23(火) 23:20:47.05
 
新P「まさか……あんた……本当に……」

 馬鹿野郎、と心が叫ぶ。

 彼女らをあんな風にしやがって

 未練だろ。なんで、そうまでしてこの子たちの前に出てくるんだ

 忘れさせろよ。わすれさせてやれよ

 わかってる。アンタのせいじゃないって事はわかってる、それでも

 氏を与えられても休むことが出来ない

 みっともない男だ、哀れな男だ、惨めな男だ

 だけど……

 ひどく羨ましい姿が、そこにある。

 生氏の壁を飛び越えてでも、越えてはならない壁を乗り越えてでも、彼女らに信頼されている男の姿が。

45: 2012/10/23(火) 23:22:59.79
 
新P「馬鹿……野郎」

貴音「あなた様、お待ちしておりました」

P「駄目だ、貴音」

貴音「聞こえません」

 待ってくれ、と貴音に言えず、新Pは立ちつくす。

貴音「新P殿……申し訳ありません」

 いいさ、仕方ないさ。声にならない呟きが漏れる。

 新Pは、二人が消えるのを見守っているだけだった。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

46: 2012/10/23(火) 23:25:04.85
 
 響を連れて帰ると、事務所にいたのは伊織だけだった。

響「今帰ったぞー」

伊織「お帰り」

響「……あれ? 他のみんなは?」

伊織「新人のオーディションがあるからって、律子と一緒に出かけたわよ。小鳥も一緒みたいだけど」

新P「あれ? 我那覇さんに言ってなかったかな」

響「聞いてないぞ? それより、また新人来るんだ。自分たちも、もう大先輩なんだな」

伊織「きっちり自覚しなさいよ? あんた、今のままだと涼や愛、それどころからきらりや杏にも抜かれちゃうわよ?」

響「え、嘘」

新P「うーん。諸星さんと双葉さんはちょっと言い過ぎかな」

49: 2012/10/23(火) 23:27:09.27
 
伊織「つまり、涼と愛に関してはヤバいのね?」

響「うぎゃあああ、酷いぞ、新P!」

伊織「アンタも少しは危機感持ちなさいって話。後輩もどんどん増えてるんだから」

響「うーん、なんかもうこんなに時間経ったのかぁって感じだぞ」

伊織「おばさん臭いことは言いたくないけど、月日の経つのは早いものよね」

響「貴音とプロデューサーは変わらないのにな」

伊織「あ、そういえば、涼も見たらしいわよ、プロデューサーと貴音」

響「涼だって二人には世話になってたのに、ちょっと遅いかもだぞ」

51: 2012/10/23(火) 23:29:11.03

 彼女らには今や、貴音の姿すら見えている。

 貴音と前プロデューサーは、アイドル達に色々忠告してくれるのだそうだ。

 それでも。

 今でも。

 それは自分の言ったことなのだと、新Pは言えないでいる。


54: 2012/10/23(火) 23:31:22.60



 新Pには、貴音とプロデューサーはまだ見えない。

 まだ。

 今のところは。




                                   終

58: 2012/10/23(火) 23:33:24.56
以上、お粗末様でした

59: 2012/10/23(火) 23:33:47.49
ミステリホラーのアイマスとかあんまないね
乙!

60: 2012/10/23(火) 23:33:49.75
なにこれこわい

引用元: 貴音「わたくしが、あの人を殺したようなものなのですから」