2: 2013/02/03(日) 22:02:12.04
~テレビ局 Cスタジオ~

アナウンサー「デーハ、ツギの問題いきまっショー!」

アナウンサー「日本のテレビドラマ内での殺人事件の発生率ナンバワーンの都道府県とハー?」

スタジオとは別室にいる、外人訛りのある風変わりなアナウンサーが問題を読み上げる。

銀色の髪が揺れ、回答ボタンが押される。

アナウンサー「ハイ、ミス四条。お答えをドーゾ?」

貴音「京都……でしょうか」

軽快な正解音がスタジオに鳴り響く。

アナウンサー「ィィイエスッッ!! お見事デース! チーム765プロに10ポインツ!」

響「すごいなー貴音! 自分、全然わからなかったぞ」

貴音「ふふ、ありがとうございます、響。カンが当たりました」

3: 2013/02/03(日) 22:06:35.64
貴音と響の二人は今、深夜に放送中のクイズ番組、『クイズマスター』の収録中だ。

二人共、少しずつテレビ番組への出演数も増えてきている。

アイドル活動は順調と言っていいだろう。

彼女らが日々アイドルとして成長する姿を間近で見られるというのは、プロデューサーの俺としても冥利に尽きるというものだ。

アナウンサー「問題デース。キャンベル、カンガルー、ニュートン、ゴールデン、共通するものはァ何でショー?」

響「簡単だぞ! 答えは『ハムスタ-』だ!」

アナウンサー「エクセレンッ!」

貴音「流石ですね、響」

響「へへー、動物の問題なら任せるさー、貴音!」


……さて、『クイズマスター』がどのような番組かについて説明しておこう。

簡単に言うと、『対戦型クイズ番組』である。

毎回、二組に別れた回答者が対戦形式で競い合うというものだ。

今回は貴音と響の二人がチーム765プロとして出演している。

この番組のもう一つの特徴として、深夜番組であることを考慮してもかなり低予算で作られているということが挙げられる。

出演者は一般公募による視聴者が多く、たまに今回のように売出中の無名タレントが混ざるくらいだ。番組制作スタッフも片手の指で足りるほどしかいない。

どうやらシンプルな番組性と、やたらとアクの強いアナウンサーが世のクイズ好きを中心にウケているようで、深夜帯の中ではそこそこの人気がある番組だ。

4: 2013/02/03(日) 22:09:47.64
~1時間後~

アナウンサー「サァ、これで全てのクイズが終わりましタ」

アナウンサー「勝者は……チーム765プロなのカ?」

響「うぅー……緊張するぞ……」

貴音「…………」

アナウンサー「ソレトモー、ミスター無駄知(むだち)の3週連続勝利となるのカァ!?」

無駄知「…………ふふん」


『クイズマスター』では、二組の内、クイズに正解して獲得したポイントの多いほうが勝者となる。

勝者は最後に『ラストクイズ』に挑戦し、それをクリアすると賞金として50万円獲得となる。

ラストクイズをクリアした者にはさらに、翌週の番組の参加権利が与えられる。

連続3回まで出場が可能で、賞金は『前回獲得した額に50万円ずつ加算された額』となる。

つまり、3回目の賞金は150万円。1回目からの総額は300万円にもなる。

5: 2013/02/03(日) 22:12:02.57
当然、番組サイドからしたら毎回そんな賞金を出していてはあっという間に打ち切りだ。

だから、最後に出題されるラストクイズは難易度が桁違いなのである。

そう、つまり今回貴音と響の対戦相手の無駄知識雄(むだち しきお)という男……。

彼は2週連続勝ち抜いてきている、かなりの実力者なのだ。


アナウンサー「ポイント、150対180で……ウィナー……無駄知ィッ!!」

無駄知「よっしゃー!」

ガッツポーズを取る無駄知氏。

響「うがー! 悔しいぞ!」

貴音「最善は尽くしました……無念ですが、仕方ありませんね」

カメラマン「はいそれじゃー、テープチェンジついでに休憩入りまーす!」

スタジオに一台しかないカメラを操っていたカメラマンが声を上げる。

数少ないスタッフのうちの一人だ。確か名前は、左部映示(さぶ えいじ)。

まだ若いが、この番組のサブディレクターも務めている。

6: 2013/02/03(日) 22:15:38.67
P「……まぁ、相手が悪かったよなぁ」

貴音と響に近づいて言った。

貴音「プロデューサー」

P「しかし結構惜しかったよな。たった30ポイント差だろ?」

実のところ、もっと大差で負けるだろうと考えていたのだ。

貴音「強敵だとは存じておりましたので、昨日は響と二人で予習をしていたのです。その効果が出たのかもしれませんね」

響「事務所でクイズ番組のビデオ見てただけだけどなー」

P「クイズ番組のビデオ? うちにそんなの置いてあったっけ?」

貴音「小鳥嬢から貸していただいたのです。確か番組名は、くいずだーびーとかいう……」

P「あっ」

貴音「まこと、はらたいら殿は尊敬に値します」

P「そ、そうか(俺もリアルタイムで見たこと無いんだよなぁ)」

7: 2013/02/03(日) 22:19:18.85
響「そうだプロデューサー、自分たちの出番ってこれでもう終わりなのか?」

P「いや、たしかこの後ラストクイズをやって、それからお前たちの感想コメントを撮るってさ」

ディレクター「ガハハ! いやー皆おつかれちゃんおつかれちゃん!」

コントロールルーム(スタジオへ指示を出したり音楽を流したりする場所)から出てきたディレクター――つまりこの現場のトップ、管徳次(かん とくじ)さんがニコニコ顔で近寄ってくる。

管「それにしても、大したもんだねムダちゃん! まーた勝っちゃったよ」

俺達とは少し離れた場所に座っていた無駄知さんに話しかけている。

無駄知「ははは……また賞金は頂いていきますよ、監督ぅ?」

管「ガハハ! 今回はとっておきに難しいヤツを用意しといたからよ!」

左部「あっ、管さん……」

左部さんが管さんに近寄り、耳打ちする。何か問題が生じたのだろうか?

管「……バカヤロー! さっさと取ってこい!」

左部「す、すんません!」

左部さんは慌ててスタジオの外へ駆け出していく。

8: 2013/02/03(日) 22:23:14.52
響「あの人どうしたのかなー?」

貴音「何かを取りに行かれたようですが……」

管「あっ、765プロの皆さんも、おつかれちゃん!」

管さんはぱっとニコニコ顔になってこちらへ近づいてくる。

管「いやー、貴音ちゃんも響ちゃんもよかったよ!」

管「こう、画面がパァーッと明るくなるね! やっぱりアイドルは違うね!」

貴音「ありがとうございます」

響「えへへ……何だか照れるなー」

P「ありがとうございます。今後も765プロをよろしくお願いします!」

管「ガハハ! オッケーオッケー」

管「次はあの子、美希ちゃんだっけ? あの子にお願いしようかな。あと、あずさちゃんだっけ、あの子もいいね」

P「あはは……(この人どういう基準でキャスティングしてるんだ?)」

9: 2013/02/03(日) 22:25:55.67
無駄知「監督、ちょっと相談があるんですがね……」

管「ん……なに?」

管さんは無駄知さんと一緒にセットの隅のほうへ行ってしまった。

貴音「…………むぅ」

P「貴音? どうかしたのか?」

響「な、なんか顔色が悪いぞ貴音?」

貴音「プロデューサー……。まこと、このようなときに申し上げにくいのですが……」

P「な、なんだ!? 俺に遠慮する必要なんて無いんだぞ?」

貴音「…………では」

P&響「…………ゴクリ」

貴音「お腹がすいたのです」

P「え?」

10: 2013/02/03(日) 22:28:42.90
P「……心配して損した」

響「自分はそんなとこだろうと思ってたけどな」

貴音「わたくしにとっては一大事なのです! お腹が空いてはもはや仕事どころではないのです!」

P「わかったわかった。終わったらラーメンでも食いに行こう、な?」

貴音「そ、それはまことですか?」

響「やったー。プロデューサーのおごりだぞ!」

P「おう、だからがんばってくれ」

貴音「らぁめん……それは、大変嬉しい話なのですが……」

貴音「わたくしにとっては明日より今なのです!」

P「いや、誰も明日の話なんてしてないし」
 
貴音「とにかく、今すぐに何かこの腹に入れておかねばならんのです!」

P「お、落ち着け貴音。――というか、この後もう感想コメント撮ったら終わりなんだぞ? だからさ――」

響「まぁまぁプロデューサー。こういうときは素直になにか食べさせるのが一番だぞ」

P「とはいっても、食べ物なんて……」

響「自分に任せるさー」

響はスタジオのセットから離れた位置にある椅子の上に置いてあるポーチを持ってきた。撮影開始前に響が楽屋から持ってきていたものだ。

11: 2013/02/03(日) 22:31:22.66
響「いいものがあるんだ……ほら、これ!」

貴音「そ、それは…………!」

響がポーチから取り出したのは、ビニル袋に入れられたクッキーだった。

響「もともとハム蔵のおやつ用に作ったものなんだけど、もちろん人間が食べても大丈夫だぞ」

貴音「響……わたくしは、あなたのような友人を持てたことをまこと嬉しく思います……」

響「大袈裟だなー。ほら、あーん」

貴音「あーん……」

???「ヂュッ!!」

小さな影が響の手めがけて跳ぶ。

響「ああっ!! クッキーがっ!?」

P「あ、あれは…………」

P&貴音&響「HAMUZO!!」

ハム蔵「ヂュ」

12: 2013/02/03(日) 22:34:11.23
P「あっ、逃げるぞ!」

小さな略奪者はスタジオの入口側へ向かって走りだす。あっという間に奥まっていてこちらからは氏角となる通路へと入っていく。

貴音「待ちなさい! この痴れ者!」

響「うわっ!? 貴音ってあんなに速く走れたのか?」

P「食べものの恨みは恐ろしいな……」

入り口前の通路まで来た。奥にはスタジオ入口の扉。右手側にはコントロールルーム。左手側には下層フロアへの階段がある。

P「ハム蔵は……いないな」

貴音「ハム蔵が自分で扉を開けられるとは思えません。下です!」

P「あっ、貴音! そんなに急ぐと危ないぞ!」

響「プロデューサー、ほら早く!」

ハム蔵と貴音の後を追って下層フロアへ向かう。

P「それにしてもどうしてハム蔵が?」

響「スタジオについてきちゃってたからおとなしく見学しといて、って言っておいたんだけどなー……」

……もしかしてかまって欲しかったんだろうか?

13: 2013/02/03(日) 22:36:53.30
階段を下った先は薄暗かった。蛍光灯が切れかけているようだ。

……ここは、倉庫として利用しているのだろうか。セットや小道具などの荷物が壁に沿って積まれている。

貴音「くっ……見失ってしまいました……」

P「あー、これは探すの大変だな」

???「どうしました?」

P「うわっ!?」

影から急に人が出てきたので驚いてしまった。

P「あ、あなたは?」

落田「あ、ADの落田平太郎(らくた ひらたろう)と申します」

P「すいません、こっちにハムスター逃げて来ませんでしたか?」

落田「ハムスター……、ああさっきのあれかな?」

響「見たのか!?」

落田「暗くてよく見えなかったけど、あっちの、マットの並んでる所あるでしょ? 向こうに行きましたよ」

落田さんが指差す方には、胸の高さほどもある巨大なマットが3つ並んでいた。

14: 2013/02/03(日) 22:40:43.12
マットのそばまで来たが、ハム蔵の姿は見えない。

響「ハム蔵-? 出てこーい」

貴音「……響! あそこです!」

3つ並んだマットのうちの真ん中。古いもののようでところどころカバーに穴が開いている。その中の一つからハム蔵がニュッと顔を出した。

響「見つけた!!」

ハム蔵「ヂュヂュ!?」

響がマットの上にぴょんと飛び乗ってハム蔵を捕まえた。さすがの身体能力だ。

響「こらハム蔵! どうしてこんなことしたんだ?」

ハム蔵「…………」ツーン

響「むぅ……何か言ってくれよ……」

P「なんかハム蔵を怒らせるようなことしたんじゃないか?」

響「えー……? うーん……何もしてないと思うけどなぁ?」

15: 2013/02/03(日) 22:43:10.26
貴音「響……ハム蔵はくっきぃを持っていないようですが……」

響「あっ、ほんとだ。ハム蔵、クッキーどこへやったんだ?」

ハム蔵「…………」プイ

響「ハム蔵怒りのだんまりだぞ……」

貴音「わたくしのくっきぃが……」

響「ああ、そんな泣きそうな顔するなよ貴音。まだ袋に残りがあるからさ!」

貴音「なんと!」

貴音の表情が一転ぱぁっと明るくなる。

16: 2013/02/03(日) 22:45:56.41
~Cスタジオ~

上に戻ってきた。管さんと無駄知さんは先程と同じ場所でなにか話している。

貴音「まこと、美味ですね……この手加減なし、容赦なしの甘さがたまりません」

貴音は念願の響手製のクッキーを頬張っている。

響「そうか? えへへ、そんなに喜んでもらえると嬉しいなー」

貴音「うまうま」

P(貴音、それハムスターの餌だってこと忘れるなよ)

17: 2013/02/03(日) 22:47:46.59
無駄知「ん……じゃあそういうことで」

管「はいはーい。任せてー」

管さんと無駄知さんは先程からずっとなにを話していたのだろうか?

管「おう左部、取ってきたか?」

左部「はい! 大丈夫です!」

先ほど何かを取りに行っていた左部さんはたった今戻ってきたところのようだ。

管「よし、それじゃさっさと準備しろ。3分したらはじめっぞ」

管「おっと、その前に……」

管さんは服の裾を上げるとズボンと腰の間から何かを取り出した。……封筒だ。太い文字で『マル秘』と書かれている。

管「ん、よし。問題なし!」

管さんはそう言うとコントロールルームの方へ戻っていった。

貴音「今、でぃれくたぁが取り出していたものはなんでしょうか?」

P「さぁ? マル秘とかって書いてたからなんか大切なモノなのかもな」

18: 2013/02/03(日) 22:49:49.41
左部「大変お待たせしましたー! 間もなく再開しますので無駄知さんはラストクイズの回答場所へお願いしまーす!」

無駄知「はいはい、と……」

スタジオのセットの一角に、高台のようになっている場所がある。

そこがラストクイズの舞台だ。俺達はカメラの後ろで無駄知さんの挑戦を見守る。 

左部「10秒前ー、8、7、6、5、4、………………」

左部さんが手で合図する。それと同時にスタジオにスポットライトが点灯し、音楽が鳴る。

スタッフ不足のため、スタジオの音響や照明の操作はコントロールルーム内にいる管ディレクターが一人でやっているそうだ。

ここからでも窓を通してコントロールルーム内の様子が伺える。管さんの、先ほどとはうってかわって仕事人としての真剣な表情が見えた。

問題を読み上げるアナウンサーも中にいるはずだが、奥の方にいるらしくここからでは見えない。

19: 2013/02/03(日) 22:53:15.84
アナウンサー「サァ、いよいよ3度目の挑戦となりマース……ミスター無駄知、自信の程は如何でショー?」

無駄知「ええ、まぁ……自信……は正直言うとありませんが、精一杯やるだけですね」

アナウンサー「ワカリました。ではここでルールの確認をしておきまショー」

アナウンサーのルール説明はざっとまとまるとこういうものだ。

ラストクイズは3択問題が3題出題される。問題のテーマは毎回ランダムで決定され、2問目、3問目となるごとに難易度は上がる。

回答者は問題が読まれた後で、目の前にある「1」、「2」、「3」と書かれた床のうち、自分が答えだと思う番号を選んでその上に乗る。

正解ならば次の問題へ、不正解ならば床が開いて下へ落下する……。

思うに、先程行った地下フロアにあったマット、あそこへ落下することになっているのだろう。数も3つで一致している。位置的にもだいたいあの辺りだ。

20: 2013/02/03(日) 22:55:13.05
アナウンサー「それデーハ、テーマの発表デース」

アナウンサー「今回のテーマは……ゲーム、ときめきメモリアルについてデース。ちなみに初代デース」


P「またえらく限定的なテーマだな……」

響「プロデューサー、やったことあるのか?」

P「スーファミ版は小学生の頃やったことあるけど、もうほとんど忘れちゃってるだろうな」


アナウンサー「第一問、主人公の通う高校の名前は?」

アナウンサー「1番、『きらきら高校』。2番、『きらめき高校』。3番、『かがやき高校』」

21: 2013/02/03(日) 22:58:02.03
響「……プロデューサー、わかる?」

P「…………に、にばん」

響「本当かー……?」

アナウンサー「……デハ、お答えいただきまショー……。ミスター無駄知、答えだと思う番号の上へ!」

無駄知「…………」

無駄知さんは「2」と書かれた上に移動した。

アナウンサー「オーケイ……正解は……2番!!」

無駄知「よしっ!!」


プロデューサー「ほ、ほら2番だったぁ! な? な?」

響「あてずっぽで正解しただけで喜びすぎだぞ……」

22: 2013/02/03(日) 23:00:03.97
アナウンサー「第2問……! 修学旅行、オーストラリアで戦うことになる動物とは?」

アナウンサー「1番、『クロコダイル』。2番、『虎』。3番、『キングコブラ』」


響「え? 戦うって、そういうゲームなのか? 恋愛するゲームじゃないの?」

P「恋は戦いだからな」

響「は?」


無駄知「…………」

アナウンサー「ソレデハ、お答えいただきまショー!」

無駄知「ふっ…………」

無駄知さんは1番へ移動する。

アナウンサー「…………セイ、カイ!!」

23: 2013/02/03(日) 23:02:51.66
アナウンサー「……ついに最終問題。これを正解出来れば賞金は1回目からの総額で300万エン!」

アナウンサー「それではウンメーの第3問!! ヒロインの一人、朝日奈夕子の3年目の誕生日プレゼントで最も好感度が上がるものとは?」

アナウンサー「1番、『ヨーグルトきのこ』。2番、『スノーボード』。3番、『携帯テレビ電話』

貴音「……プロデューサー、どれでしょうか?」

P「俺、鏡さん派だったからな……鏡さんのことなら兄弟が何人いたかまで答えられるんだが」

貴音「そうですか」

P(あれ、なんか冷たい)

24: 2013/02/03(日) 23:04:14.39
アナウンサー「……デハ、お答えをドーゾ!!」

無駄知「…………」

……無駄知さんはゆっくりと2番へ移動する。

アナウンサー「2番でヨロシ-ですね?」

アナウンサー「…………答えは…………3番!!」

無駄知「……え?」

アナウンサー「ザンネン!! 落下デース!!」

無駄知「ちょっ……」

無駄知さんは信じられない、といった表情でうろたえている。そして…………――『2』と書かれた床が、ガタンと重い音を立てて、開いた。

無駄知「うわっ…………!!」

無駄知さんは床の下に吸い込まれるように落ちた。

アナウンサー「惜しくもミスター無駄知の挑戦はここで終わってしまいましター……」

25: 2013/02/03(日) 23:06:20.59
響「あーあー、惜しかったな」

P「あと一問で150万だもんな。悔しいだろうなぁ」

貴音「…………」

P「……貴音? どうかしたか?」

貴音「……いえ、なんでもありません」

無駄知さんが落下してから2分ほどが経過した。

左部「…………っかしいな。何してんだあいつ」

左部さんがいらついたように呟くのが聞こえる。

26: 2013/02/03(日) 23:07:23.25
P「あの……どうかしたんですか?」

左部「え、ああ、すいません。実は挑戦者が落下した時には、下で待機してるADが上まで誘導してくるようになってるんですが、 まだグズグズしているみたいで……」

AD、というとさっき下で会った落田さんのことだろう。

貴音「様子を見に行ってみましょう」

左部「え? いやでも……」

P「あっ、もしかしたら落ちた時に怪我したとかじゃ……」

何かトラブルが起こったとすればそれぐらいしか考えられない。

左部「うっ、それはマズイなぁ。じゃあちょっと見に行ってみます」

P「俺もいきます」

27: 2013/02/03(日) 23:08:41.98
~落下フロア~

相変わらず、暗い。そして、不思議なことに音が何も聞こえない。

無駄知さんと、落田さんが確かにいるはずなのに、生物のいるような気配をまるで感じないのだ。

P「…………あ、あれは……!」

床に転がっている影が視界に入る。……人だ。人が倒れている……!

左部「ら、落田ッ!!」

左部さんが駆け寄る。落田さんはぐったりとしていて、その後頭部には血が大量に付いている。

左部「…………だ、大丈夫です、息はあります……!」

左部「すいませんが、無駄知さんの様子を見に行ってくれませんか?」

P「わ、わかりました……!」

無駄知さんは……もっと奥か?

心臓がものすごい速さで脈打っている。体中から汗が吹き出す。

その緊張をほぐすために、乾いた口の中の僅かな唾を無理やり飲み込んでみる。

ここで……何か……なにか異常なことが起こっている……!

28: 2013/02/03(日) 23:11:11.42
P「………………」

さっきハム蔵を追いかけてきたマットのあたりだ。無駄知さんは2番、つまり3つのうち真ん中のマットに落ちたはずだが……。

P「…………?」

最初の一瞬、そこにあるものが何なのかよくわからなかった。

そして――『それ』が何であるかを理解したとき、俺は思わず腰を抜かしてしまっていた。

P「うわっ…………!?」

貴音「プロデューサー……? 無駄知殿は見つかったのですか……?」

響「あの落田って人、倒れてたみたいだけど……って、な、なんか変な匂いしないか……? これ……血の匂いじゃ……?」

P「た、貴音、響!! それ以上近づくな!!」

響「え……? ど、どうしたんだプロデューサー?」

P「い、いいから、とにかく、管さんを、ディレクターを連れてきてくれ!」

貴音「!……わかりました。行きましょう、響」

響「あ、うん……」

貴音と響が去っていくのを見届けてから、俺はゆっくりと立ち上がった。

……こんな光景を彼女たちに見せる訳にはいかない。

3つ並んだマットの真ん中……その上で無駄知識雄が、事切れていた。……マットの中から突き出た細長い金属の串のようなものが数本――無惨に彼の体を貫いていた。

29: 2013/02/03(日) 23:13:30.13
~Cスタジオ~

あの後、警察が駆けつけ、俺達は事の経緯を説明した。

警部「……なるほど、クイズに失敗して、落ちた。そして被害者はマットの中に仕込まれていた長さ1メートルもの鉄串に体を貫かれて氏んだわけですなぁ」

警部「鉄串はマットの上へ、こう、ずぶりと埋め込まれていました。それが6本もです。いずれにも指紋は残っていませんでした」

警部「ああ、それと、落田平太郎さんですが、彼は後頭部を殴られた衝撃で気絶していただけのようです。今は病院で治療を受けております」

左部「……殴られて、って一体誰に?」

警部「おそらく……マットに串を仕込んだ人物と一緒でしょうな」

左部「そんな……!」

警部「残念ながら、そうとしか考えられません。犯人の主なる目的は無駄知さんの殺害にあったんでしょう」

警部「そこでマットに鉄串を仕込んでおくという方法を考えたが、落下フロアに居る落田さんが邪魔だ、それで後ろから殴りつけて気絶させたんでしょう」

30: 2013/02/03(日) 23:16:24.45
警部「落田さんを殴った凶器についてはすぐに見つかりました。彼の倒れていた近くにあった角材です。近くに同じようなものがたくさんあったのですが、あれは番組で使うもんなんですか?」

管「え、ええ。セットの組立なんかに……」

警部「ふむ。それじゃあわざわざ犯人が用意したものではないと」

警部「もう一方の凶器、鉄串の方はどうですかな? もともとここにあったものですか?」

左部「ああ確か……もう随分前なんですが、『巨大バーベキューを作ろう』って企画で使ったやつですね。ずっと地下フロアに放置してあったんです」

貴音「……じゅる」

P「こら」

警部「放置してあった……そのことを知っていたのは誰か、分かりますか?」

左部「うーん……もうだいぶ前から置いてあったから、このスタジオに出入りする人間は大抵知っていたんじゃないかな……」

警部「ふむ……それじゃあ、765プロの皆さんを除いた全員が、凶器に使われた鉄串の所在を知っていたわけですな?」

管「ちょっ、ガハハ……それじゃあ俺らが疑われてるみたいじゃないですか! いやだなぁ」

警部「……まぁ、まだ捜査は始まったばかりです。今はなんとも。……また後ほどお話聞かせていただくかと思います」

31: 2013/02/03(日) 23:18:32.75
俺達はひとまず3人で今後のことについて話し合うことにした。

P「しかし大変な事になっちゃったな」

響「まさか殺人事件に出くわすだなんて思ってもみなかったぞ」

P「そりゃそうだろうなぁ」

貴音「む……あの方は?」

こちらに近づいてくる男性が一人。あの妙な喋り方のアナウンサーだ。さっきも一緒に刑事さんの話を聞いていた。

アナウンサー「イヤー……大変な目にあっちゃいましタネ。マサカ殺人事件だーナンテ」

P「ああ、えっと……」

アナウンサー「ああ、マイクと申しマス。ヨロシコ」

32: 2013/02/03(日) 23:20:49.17
P「マイク……ああ外国の方でしたか。どうりで顔の彫りが深いと」

マイク「違いマース」

P「違う? ……あっ、ハーフとか?」

マイク「ノン、私生粋の日本人デース。五反田生まれ五反田育ちデース。舞来詠次(まいく よみつぐ)と申しマース」

貴音「なんと、面妖な……」

響「紛らわしいぞマイク……」

マイク「オゥ、よく言われマース。でもボク、じつは英語ゼンゼンしゃべれまセーン」

P「じゃあなんでそんな喋り方なんだよ、あ?」

響「プロデューサー、気持ちはわかるけどキレちゃダメだぞ」

マイク「小学校のころに面白がってやってたらいつの間にか戻せなくなっちゃってまシタ」

響「いい加減すぎるぞ!!」

マイク「ハハハ、おもしろいデスネ、ミス我那覇」

響「自分なんにも面白いこと言ってないぞ……」

33: 2013/02/03(日) 23:21:44.56
P「マイク……ああ外国の方でしたか。どうりで顔の彫りが深いと」

マイク「違いマース」

P「違う? ……あっ、ハーフとか?」

マイク「ノン、私生粋の日本人デース。五反田生まれ五反田育ちデース。舞来詠次(まいく よみつぐ)と申しマース」

貴音「なんと、面妖な……」

響「紛らわしいぞマイク……」

マイク「オゥ、よく言われマース。でもボク、じつは英語ゼンゼンしゃべれまセーン」

P「じゃあなんでそんな喋り方なんだよ、あ?」

響「プロデューサー、気持ちはわかるけどキレちゃダメだぞ」

マイク「小学校のころに面白がってやってたらいつの間にか戻せなくなっちゃってまシタ」

響「いい加減すぎるぞ!!」

マイク「ハハハ、おもしろいデスネ、ミス我那覇」

響「自分なんにも面白いこと言ってないぞ……」

34: 2013/02/03(日) 23:22:49.58
ハム蔵「ヂュ?」

響「ん、ハム蔵?」

ハム蔵「ヂュ!」

ハム蔵は響の胸ポケットから飛び出すと、マイクの足元に擦り寄っていった。

マイク「オゥ! ハムスターデスネ。かわうぃーデス」

ハム蔵「ヂュ……ヂュ!」

響「ハム蔵! なんだ、マイクのことが気に入ったのか? 珍しいなぁ、初対面の人にそんなに懐くなんて」

ハム蔵「…………」ガジリ

マイク「オゥ! 靴を噛まないでくだサーイ!」

響「ダメじゃないかハム蔵、そんなもの食べたらお腹壊すぞ」

P「問題はそこなのか?」

35: 2013/02/03(日) 23:24:08.17
マイク「おっと、警部サンに呼ばれているんでシタ。行かなくテハ」

貴音「警部殿に?」

マイク「エエ、アリバイ確認ってやつデース」

貴音「そういえば、先ほどの休憩中は姿が見えませんでしたが、どこにいらっしゃったのですか?」

マイク「コントロールルームにいましタ。スタジオへの放送はあの部屋からするノデ、そのまま待機してまシタ」

貴音「ずっとですか?」

マイク「あっ、ソーイエバ、途中でトイレにも行きましタネ」

トイレはスタジオを出た先にある。

マイク「トイレから戻ってきてしばらくしたら、ディレクターが戻ってきて、すぐラストクイズの撮影が始まりまシタ」

貴音「そうですか……わかりました。ではまた」

マイクは手を振ってコントロールルーム内にいる警部の元へ向かった。

36: 2013/02/03(日) 23:25:38.91
それからしばらくして、響が唐突に言い出した。

響「う~……これって今日は帰れるの何時になるんだ?」

P「さぁ……」

貴音「本来ならば本日の仕事はもう終わっている時間ですね」

P「この後も色々と聞かれるだろうからなぁ……悪いけどラーメンはまた今度だな」

貴音「なっ…………」

P「ん?」

貴音「なんですとッ!?」

P「な、なんだ?」

貴音「ら、ら、らら、らぁめんはまた今度、と……いいぃ、今そうおっしゃったのですか……?」

37: 2013/02/03(日) 23:27:35.44
P「いや、俺だってがんばったお前たちにラーメンおごってやるぐらいやぶさかではないけどさ。仕方ないじゃないか。殺人事件だぞ?」

響「犯人の目星もつかないみたいだし、まだ当分は帰れそうにないもんなぁ」

貴音「…………なるほど、わかりました」


貴音「それでは……この事件、私が解決しましょう」


P「はっは、そりゃ頼もしい……」

貴音「…………」

P「…………マジで言ってる?」

貴音「まじ、です」

貴音「実は、少々気になっていることがいくつかあるのです。まずはそれを警部殿に確認してみましょう。さぁ、参りましょうプロデューサー、響!」

P「あっ、ちょっと待てって!」

38: 2013/02/03(日) 23:29:42.77
~コントロールルーム~

貴音「もし、警部殿」

警部「ん、どうしたお嬢ちゃん?」

コントロールルームの中は警部一人だった。マイクとの話はもう終わったようだ。

貴音「警部殿に確認しておきたいことがあるのですが……」

警部「なんだい? なんでも言ってみな」

貴音「凶器に使われたのは、1めぇとるの鉄串……それが6本……とのことでしたね」

警部「ああ、マットのどの部分に落ちても殺せるようにか、一面にまんべんなく仕込んであった」

貴音「……鉄串が仕込まれていたまっとは、1つだけなのですね?」

警部「……ほぉ。鋭いな」

響「え? なになに? どういうことなんだ?」

39: 2013/02/03(日) 23:32:03.54
P「……犯人は無駄知さんが2番のマットに落ちることを予測していたってことか?」

警部「マットは3つあり、そのうち中央の、2番のマットにだけ鉄串が仕込まれていた……つまり犯人は、『被害者が2番を選んで間違える』というシナリオを先読みしていたことになる」

貴音「そう考えると、『なぜ犯人はそんなことを予測できたのか?』という疑問が生まれますね」

響「ああ、そういうことか……うん? でもさ貴音……もしかしたら犯人は、他の2つのマットに串を仕込む時間がなかったのかもしれないぞ?」

響「元々は3つ全部のマットに仕掛けるつもりだったけど、何かトラブルがあって、結局は1つしか仕掛けられなかったってことも考えられるんじゃないか?」

貴音「それならば、1つのまっとに6本もの串を仕込むより、殺傷能力が多少落ちたとしても、他のまっとに仕込む方を優先するのではないでしょうか?」

響「……あ、そういうことか」

警部「補足するが、放置してあった鉄串の数は全部で6本だったという確認がとれている。その6本ともが2番マットに仕掛けられてたってことは、最初から犯人は他2つのマットは眼中になかったと考えられそうだな」

40: 2013/02/03(日) 23:34:02.38
響「……串を仕込むマットは適当に選んだだけってことはないかな?」

P「無駄知さんが氏ぬかどうか、3分の1の確率にかけたってことか?」

P&貴音&警部「…………」

警部「……なんでぇ、そんなことする必要があるんだ?」

響「……うん、自分で言ってて変だと思ったぞ」

貴音「犯人は現場にいた落田殿を殴りつけて気絶させています。それほどまでの犯行への覚悟と、無駄知殿への殺意を持っていたことは疑いないでしょう」

貴音「それと、無駄知殿が2番まっとに落下する確率は3分の1ではありませんよプロデューサー。無駄知殿が3問連続正解すればまっとに落ちることはなかったのですから」

P「あっ、そっか。言われてみれば確かに。……じゃあやっぱり、犯人は無駄知さんが2番マットに落ちることがわかっていたってことか……」

貴音「……では、先ほど言ったとおり、『犯人はなぜ無駄知殿が2番まっとに落ちることを予測し得たのか』、それがこの事件の鍵となりそうですね」

警部「うぅむ。なぜ2番マットに……か」

41: 2013/02/03(日) 23:36:42.43
貴音「さて、警部殿」

警部「なんだ、まだなにか?」

貴音「あれから、なにか新しい発見はあったのでしょうか?」

警部「はっはっは。いやぁ、さすがにそうぺらぺらと内部情報を渡すわけにはいかんよ」

警部さんがそういうのも当然だ。所詮俺たちはただの事件関係者に過ぎず、捜査権なんてものもまた当然のことながら、無い。

貴音「……なるほど、ではこう申し上げることにしましょう」

貴音「実は、事件について重要な何かを、思い出せそうなのです」

42: 2013/02/03(日) 23:38:07.84
警部「……どういうことだ?」

貴音「なにか新しい情報をいただければ、それをきっかけに思い出せるやもしれません」

警部「……そうきたか。……まったく、そう言われちゃ無視するわけにもいかんか」

響「教えてくれるのか?」

警部「絶対、他に漏らさないと誓うんならな」

貴音「誓いましょう」

P「貴音、おまえ一体そんな交渉術をどこで……」

小声で尋ねる。

貴音「ふふっ……とっぷしぃくれっと、ですよ」

いつもの言葉と仕草で誤魔化された。

43: 2013/02/03(日) 23:39:54.45
警部「やれやれ……ええっと……あった、こいつだ」

警部は傍らにおいてあった鞄の中から証拠品などを入れておくポリ袋を取り出す。

その袋の中には、一枚のメモ翌用紙のようなものが入っていた。


『SO 1  
D  2  
SA 3 』

貴音「……これは?」

警部「被害者である無駄知が右手に握りしめていたものだ。筆跡も本人のものと一致した」

響「えすおー……いち。でぃー……に。えすえー……さん? どういう意味なんだ?」

警部「さぁ? 俺にもさっぱりわからん」

44: 2013/02/03(日) 23:41:20.70
貴音「右手に握りしめていた……と、おっしゃいましたね?」

P「たしかに、くしゃくしゃになってるな」

警部「被害者は落下した時に串に体を貫かれて致命傷を負ったわけだが、十数秒程度は息があったようだ。その間に手に持ったと考えてるが……」

P「もしかして……ダイイングメッセージってやつか?」

貴音「これは……ぼうるぺんで書かれたもののようですね。無駄知殿はぼうるぺんを持っていたのですか?」

警部「いや、筆記用具の類は持っていなかった」

貴音「それでは、落下した後で書かれたものではないようですね」

P「じゃあ、ダイイングメッセージってのは違うか……」

貴音「……いえ、まだ結論づけるには早計でしょう」

45: 2013/02/03(日) 23:42:58.72
部屋の中に携帯電話のバイブ音が鳴り響く。

警部「おっと、失礼するよ」

警部は電話に応答する。

警部「おう、どうした? ……………………そうか、わかった」

警部は携帯を再びポケットにしまった。

響「どうしたんだ?」

警部「落田平太郎が目を覚ましたらしい。俺はちょっと様子を見に行ってくるから、何かあったら……この番号に電話してくれ。俺の携帯に繋がる」

警部はそう言って書いたメモを俺に押し付けると、慌ただしくコントロールルームを出て行った。

46: 2013/02/03(日) 23:45:30.81
P「……そもそもよく考えてみれば、外部にいた人間にだって犯行は可能なわけだろ? このコントロールルーム内にはセット側にしか窓がないから、通路側にある落下フロアへの階段は部屋の中からは見えない」

P「そして同じく、セット側からは階段のある通路は奥まっていて氏角になっている。階段のすぐそばにスタジオの出入口があるんだから、外にいた者がこっそり落下フロアに侵入することはできたわけだ」

貴音「……外部の者が落下ふろあに侵入し、まっとに凶器を仕込んだ……たしかにその可能性はあるでしょう……しかし」

貴音「それでは最も大きな問題が解決されません」

響「最も大きな問題、って……どうして犯人は2番のマットだけに鉄串を仕掛けたのか、ってやつか……」

P「待てよ貴音、ということは、内部の人間が犯人なら、その問題を解決する方法があるってことか?」

貴音「一応は……ですが、考えられる方法はそう多くはありません」

47: 2013/02/03(日) 23:47:19.76
左部「あっ、皆さんお揃いで」

P「左部さん」

左部さんが扉を開きながら一礼する。

左部「あれ? 警部さんは?」

警部が既に出て行ったことを説明する。

左部「なんだよ~、一人ずつ話が聞きたいなんて言うから来たのに」

貴音「左部殿、それではこちらからお尋ねしたいことがあるのですが、よろしいですか?」

48: 2013/02/03(日) 23:49:02.36
左部「え? え、ええ。いいですけど……」

貴音「先程の休憩時間のことですが、一体何を取りに行かれていたのでしょうか?」

左部「あ、ああー、あれですか。いやお恥ずかしい。あれは実は、替えのテープを取りに行ってたんです」

響「テープ? 撮影用の?」

左部「そうです。いつもは落下フロアに余分に置いてあるんですが、今日はどうしてか見当たらなくって。それで局の別の倉庫から取ってきたんです」

P「そういえば、休憩に入るときにテープチェンジって言ってましたね」

左部「申し訳ありません、そのせいでちょっと撮影の再開が遅れてしまいまして」

貴音「……ところで、番組の撮影中、休憩に入る時間というのは決まっているのでしょうか?

左部「いつもラストクイズへの挑戦前に休憩を取ることになってますね。撮影時間的にだいたいテープチェンジのタイミングと重なるので」

49: 2013/02/03(日) 23:50:51.06
貴音「…………左部殿、もう一つお尋ねしたいのですが」

左部「なんですか?」

貴音「今回、らすとくいずに出題される問題……左部殿はあらかじめご存知でしたか?」

左部「いえ、そんなことはありません。問題の作成はいつもディレクターが一人でやっていて、撮影の直前になってから問題を読み上げるマイクに直接渡してるんです」

貴音「……撮影の直前に、ですか。……ということは…………」

左部「……どうかしました?」

貴音「……いえ、お気になさらず」

左部「えーっと、多分……あった。ほら、これですよ」

左部さんはコントロールルーム内の椅子の一つに置かれていた封筒を見せる。表に『マル秘』と書かれた封筒――管さんが持っていたものに間違いない。あの時と違うのは開け口に破いた跡があることだ。

P「それは?」

左部「今言ってた、問題の内容を書いたメモです」

50: 2013/02/03(日) 23:53:41.03
受け取り、中からワープロで打たれた用紙を取り出す。

『テーマ:ときめきメモリアル(初代)

第一問 主人公の通う高校の名前は?

1番 きらきら高校  2番 きらめき高校  3番 かがやき高校   答え 2
 

第二問 修学旅行、オーストラリアで戦うことになる動物とは?

1番 クロコダイル 2番 虎  3番 キングコブラ   答え 1


第三問 ヒロインの一人、朝日奈夕子の3年目の誕生日プレゼントで最も好感度が上がるものとは?

1番 ヨーグルトきのこ  2番 スノーボード  3番 携帯テレビ電話   答え 3』


P「…………たしかに今日出題された問題だな」

貴音「……普段、これを見ることができるのは問題を作成した管でぃれくたぁと、読み上げるマイク殿だけなのですね?」

左部「そういうことですね」

51: 2013/02/03(日) 23:55:55.41
貴音「ふむ……ところで左部殿は、無田知殿が殺されるような理由に何か心当たりはあったのでしょうか?」

左部「無駄知さんねぇ……ちょっと偉そうなところはあったけど、殺されるっていうのはね……」

左部「……会社の方も大変だろうなぁ」

貴音「……会社?」

左部「ああ、知りませんでした? 無駄知さんって、ネット通販サイトを管理してる会社の社長なんですよ。『濁点』って聞いたことありませんか?」

P「『濁点』……か。たしかに、最近よく聞くような……」

響「あ、自分知ってるぞ! ブタ太の豚用ブラシとかワニ子のワニ用ブラシとか買ったんだ!」

P「そんなものがあるのか……」

左部「その会社なんですが、随分と景気良かったみたいですよ。その要因の一つが、無駄知さんの『クイズマスター』での活躍だとかで。話題になってたみたいです」

貴音「………………なるほど、ありがとうございます」

52: 2013/02/03(日) 23:58:14.20
貴音は床の一点をぼんやりと見つめながらなにか呟いている。

貴音「…………ならば……目的は…………動機は……」

P「……貴音?」

貴音「……! はい、なんでしょうか?」

P「もしかして事件のこと……何かわかってきてるのか?」

貴音「…………ええ、少しずつですが、着実に、真相に近づいてきているはずです」

貴音「……それでは左部殿、最後にもう一つだけ」

そう言いながら白い人差し指を立てる。

左部「な、なんでしょう?」

貴音「らすとくいずの際の映像を見せていただきたいのです」

左部「ラストクイズの……? わかりました、ちょっと待っててください、まだスタジオ側にテープ置いたままなんで」

貴音「いえ、今日撮影したものではありません。先週と、先々週の分です」

53: 2013/02/04(月) 00:01:15.34
~先々週の映像の検証~

マイク「本日のテーマは……クラシック音楽、デース」

マイク「第一問、『歌劇王』の別名で知られる作曲家トハ?」

マイク「1番、『ワーグナー』。2番、『ビゼー』。3番、『ウェーバー』。

マイク「それデハ、お答えいただきまショー……ミスター無駄知、答えの番号へッ!」

映像の中の無駄知さんが一つの番号に向かって歩を進める。

無駄知さんは『1』の描かれた床の上に移動した。

マイク「セイカイ!!」

54: 2013/02/04(月) 00:02:25.84
マイク「それデハ、第二問。三大レクイエムの作者、ヴェルディ、モーツァルト、残りの一人は?」

マイク「1番、『ベートーヴェン』。2番、『サティ』。3番、『フォーレ』 ……サァ……答えハ!?」

無駄知「…………」

無駄知さんはゆっくりと3番へ移動する。

マイク「セイ、カーイ!」

55: 2013/02/04(月) 00:03:21.00
~三問目~

マイク「第三問、紙幣に肖像画が使用されたことのある作曲家は次のうちドレ?」

マイク「1番、『パッヘルベル』。2番、『メンデルスゾーン』。3番、『ドビュッシー』。……サァ、ミスター無駄知、答えハ……ッ!?」


「3番」

……映像中の声ではない。それまで黙ってモニターをじっと見つめていた貴音が小さくつぶやいた声だった。

マイク「答えは3番!! コングラッチュレーション!! ミスター無駄知、見事3問連続セイカイ!!」

響「うぇっ……!? た、貴音、今の問題の答えわかったのか?」

貴音「……ええ、わかりました。……さぁ、左部殿、次へ参りましょう」


続いて先週分のラストクイズの映像の再生が終わる。無駄知さんはまったく危なげなく3問連続正解。

……貴音は、これらの映像から何かを掴んだのだろうか……?

56: 2013/02/04(月) 00:04:50.49
貴音「ありがとうございました」

貴音は優雅な動きで一礼し、左部さんにお礼を伝える。

左部「あ……いえいえ! これくらいなんでもありませんよ!」

響「……自分いっこもわからなかったぞ……うがー! 事件のこともさっぱりだし、頭痛くなってきたぞ!」

貴音「…………決め手が……あるいは……あそこに…………」

P「……貴音?」

貴音「……プロデューサー、警部殿に連絡をお願いします」

P「え……?」

響「なにか聞くことでもあるの?」

貴音「ええ……確認しておきたいことが」

57: 2013/02/04(月) 00:05:53.04
俺は警部から渡されていたメモに書かれた番号に電話をする。……そういえば病院に行くって言ってたからまだでれないかもな……。

警部「はいもしもし!」

P「ああ、でてくれてよかった。警部さん、今大丈夫ですか?」

警部「おお、その声は765プロのプロデューサーくんかい。今ちょうど病院を出たとこだよ」

P「落田さんに話聞けましたか?」

警部「一応はな。でも大した収穫はなかったな。後ろからいきなり殴られたんで何も見てないって言うし」

P「そうですか……しかもあそこは薄暗かったですからね……」

貴音「プロデューサー」

貴音が手を差し出し、電話を代わるように促す。

P「あ……四条がなにか伺いたいことがあるそうなので代わりますね」

58: 2013/02/04(月) 00:08:06.23
貴音に携帯を渡す。

貴音「もしもし……警部殿」

警部「ようお嬢ちゃん。『重要な何か』ってのは思いだせたかい?」

貴音「ええ……とても重要なことを。それよりも警部殿、一つお聞きしたいことが」

貴音は電話で話しながら部屋の隅の方へ歩いて行き、さらに小声なせいで話の内容がよく聞き取れない。

貴音「…………に…………がなかったでしょうか?」

貴音「そうですか……やはりありましたか…………ええ……そうです…………それでは」

貴音が電話を切る。

響「貴音? なにを聞いてたんだ?」

貴音はゆっくりと微笑んだ。

貴音「…………響、プロデューサー」

貴音「犯人がわかりました」

59: 2013/02/04(月) 00:11:01.82
次からは解決編となります 見てる人がいるかもわからないので大体30分後から再開しようと思います
何か質問等あれば可能な範囲で答えます。

誰が? どうやって? なぜ? 被害者を頃したのか?
どうかこのパズルを解き、この物語の探偵役たる彼女と共に秩序をもたらしてください

60: 2013/02/04(月) 00:49:17.76
あげてみてもうちょっとだけ延長するんじゃ……

61: 2013/02/04(月) 01:18:42.20
~コントロールルーム~

警部「……全員集まったな。まぁ当然病院にいる落田は欠席だが……」

貴音。響。警部。左部さん。管さん。マイク。そして俺。

……この場にいる誰もが、ここが終末が間近であることを予感していただろう。

マイク「犯人がわかったと聞きましたーガー……本当ですカー?」

管「なに!? ほ、本当なのか貴音ちゃん!?」

貴音「……わたくしは、これまで得てきた様々な情報を考慮した上で、一つの答えを出しました。……それを、これから皆様にお話しようと思います」

――銀色の女王はゆっくりとした口調で語りだす。

――彼女の見据える先に、真実がある。

62: 2013/02/04(月) 01:20:17.94
貴音「まずは、事件の経緯を確認しておきましょう」

貴音「事が発覚したのは、らすとくいず3問目が終了してから数分後。えーでぃーの落田殿が落下した無駄知殿を上まで誘導してくる手はずになっていたにも関わらず、来る気配がないことを不思議に思った左部殿とプロデューサーが落下ふろあに移動しました」

貴音「そこで、落田殿が何者かに殴られ気絶しているのを発見。プロデューサーがその奥で、まっとの上で無駄知殿の氏体を発見した……と。ここまではよろしいでしょうか?」

一同がそれぞれに頷く。

貴音「ではまず、凶器となった鉄串が一体いつ仕込まれたのか? それを考えていきましょう」

63: 2013/02/04(月) 01:24:27.68
管「いつ仕込まれたか、なんて……そんなことがわかんのかい?」

貴音「犯人が落田殿を気絶させた理由は、まっとに串を仕込むためであることは明白です。落田殿が気絶した後で鉄串は仕掛けられたのです」

左部「でも、もしかしたら落田が落下フロアに行くよりも前に仕掛けられていたのかもしれませんよ? 下は暗いから、マットに細工がされていても気が付かなかったかも……」

貴音「それはありえないのです。なぜならば、この場にそれを証明してくれる人物がいるからです」

響「そ、それって誰なんだ?」

貴音「あなたですよ。響」

響「エェッ!?」

貴音「よく思い出してください。くっきぃを奪っていったハム蔵を追いかけていた時です。あなたはハム蔵を捕まえるためにまっとに飛び乗りました……真ん中のマットに」

P「そうか……じゃあ、あのときもしも既に鉄串が仕掛けられていたら……」

響「……じ、自分、串刺しだったのかぁッ!?」

警部「鉄串が仕掛けられたのはそれよりも後だったってことになるな」

貴音「さて……これで、『犯人が誰かは明らかになりました』」

P「え……!?」

64: 2013/02/04(月) 01:26:19.27
俺だけでなく、他の誰もが驚愕の声をあげていた。

P「た、貴音。今の話だけで本当に犯人がわかるのか?」

貴音「そうです」

響「い、一体誰なんだ?」

警部「お嬢ちゃん、もったいぶらずに教えてくれ……犯人は、この中の誰なんだ?」

貴音「……わかりました。お教えしましょう」

彼女はゆっくりと右手の人差指を上げた。

貴音「犯人は――」

65: 2013/02/04(月) 01:28:02.52
貴音「――犯人は、あなたです。……舞来詠次」

マイク「……わ、ワット?」

管「馬鹿な、マイクが!?」

左部「信じられない……」

マイク「ちょっと待ってクダサーイ! どうしてボクが犯人になるんでスカー!!」

貴音「犯人たる条件は2つ。その両方を兼ね備えているのは、あなた一人だけだからです」

マイク「ど、どういうことデースカ……?」

貴音「条件の一つ。これはもちろん、まっとに鉄串を仕掛けることができた人物です」

貴音「まず、管でぃれくたぁは除外されます。彼は休憩時間中ずっと無駄知殿と、せっと側で話をしていました。わたくし達が落下ふろあから戻ってきた時にもその姿を見ています。そして休憩時間の終了間際にこんとろぉるるぅむへ戻って行った。そうですね?」

管「あ、ああ、そうだとも」

66: 2013/02/04(月) 01:29:09.21
警部「一体何をそんなに話し込んでいたんです?」

管「ムダちゃんが、いや無駄知くんが『自分がクリアしたら会社の宣伝のテロップを入れてくれ』って言うんでね。まぁそれぐらいなら、と思ったんですが、結構細かく要望があったので、それを聞いていたんですわ」

警部「ふむ。しかしお嬢ちゃんよ。休憩時間の終わる直前とは言ったが、コントロールルームへ戻るふりをして落下フロアへ向かい、ぱぱっと串を仕掛けた可能性もあるんじゃないか?」

貴音「それはありえません。串は6本も仕掛けられていたのです。それに落田殿を気絶させる必要もある。2,3分程度では不可能でしょう」

警部「……なるほど、たしかにそうだ。続けてくれ」

67: 2013/02/04(月) 01:30:08.01
貴音「次に、落田殿と左部殿。この二人は串を仕掛ける事ができたという条件には当てはまります」

警部「落田はずっと落下フロアにいたわけだからな。自分で後頭部に傷をつけておいて、殴られたふりでもしていたのかもしれんし」

貴音「左部殿は替えのてぇぷを取りに外部の倉庫へ行かれていた。その戻りのついでに落下フロアへ立ち寄り、串を仕掛けることはできたでしょう」

左部「そんな! 僕は違いますよ!」

貴音「ご安心を。落田殿と左部殿は犯人たる条件のもう一つを満たしていないのです」

P「もう一つの条件?」

68: 2013/02/04(月) 01:31:11.38
貴音「それは『無駄知殿が2番まっとに落ちることを知っていた』ということです」

警部「うむ、それがわからんのだ。犯人は2番マットだけに串を仕掛けていた。無駄知が2番に落ちることをどうやって予測できたと言うんだ?」

響「いや、落田って人ならできるんじゃないか? マットのどれか一つに串を仕掛けておいて、マイクの声を聞いて、他のマットに落ちてくるときにはマットをその位置に動かせばいいんだ!」

貴音「響。では聞きますが……無駄知殿が最後の問題を間違えてから落下するまでせいぜい十秒程度。その間に胸の高さほどもあるまっとを動かせるものでしょうか?」

響「……うがー! そんなの無理だぞ!」

69: 2013/02/04(月) 01:32:26.13
P「それじゃあ犯人はどうやって?」

貴音「そうですね……正確には、『無駄知殿が2番まっとに落ちるから、2番まっとに仕掛けを施した』、のではなく……」

貴音「2番まっとに仕掛けを施したから、『無駄知殿を2番まっとに落とした』のです」

響「……え? え? どういうことなんだ?」

貴音「犯人は、問題の答えを無駄知殿に伝えていたのですよ。そして、最後の問題はわざと誤った回答を伝えた……」

P「……最後の問題、答えは3番だったのに、犯人は、『答えは2番だ』と伝えていたってことか!」

管「馬鹿な! そんなことできるはずがない! 問題は俺一人で作って、撮影開始直前まで肌身離さず持ち歩いてるんだ! あらかじめ問題の内容を知ることはできない!」

貴音「……そう。だからこそ、落田殿と左部殿には不可能なのです。……しかし、舞来殿にはそれが可能だった」

マイク「……………………」

70: 2013/02/04(月) 01:33:37.98
管「し、しかし……マイクにはラストクイズの撮影の始まる直前に問題を渡したんだ。その後すぐに始まったからこいつはコントロールルームを出てない。 無駄知と打ち合わせる時間なんてなかったはずだ」

貴音「打ち合わせの時間など必要ないのです。彼はある『暗号』を使って、無駄知殿に答えを教えていたのです。それをこれからお教えしましょう」

貴音「警部殿、例のめもを……」

警部「ん? ああ、これか?」

警部がメモを取り出して見せる。

『SO 1  
D  2  
SA 3 』

71: 2013/02/04(月) 01:34:27.08
管「な、なんだこれは?」

貴音「無駄知殿が氏の際に握りしめていたものです。自分を裏切った犯人を告発するために……」

貴音「これは、犯人と無駄知殿の間だけで通じる暗号のめもなのです」

貴音はメモを受け取ると、指し示しながら説明する。

貴音「この右側に書かれている数字が、答えの番号を示しています。では、この左側はなにを意味しているのか?」

貴音「実際に確かめてみるのが良いでしょう。管でぃれくたぁ、今日のらすとくいずの映像を見せていただけますか?」

管「あ、ああ。わかった、ちょっと待っててくれ」

72: 2013/02/04(月) 01:36:47.87
コントロールルーム内のモニターに映像が映し出される。

貴音「重要な部分だけ見ていきましょう。管でぃれくたぁ、私が合図するまで早送りを」

管「おっし」

映像が早送りで流れる…………。

貴音「今です」

 マイク「……デハ、お答えいただきまショー……」

貴音「一問目、無駄知殿は2番を選びました。では、次を」

管「はい」

再び早送りに。

貴音「すとっぷです」

 マイク「ソレデハ、お答えいただきまショー!」

貴音「二問目。無駄知殿が選んだ答えは1番です。さぁ、次へ」

管「ははぁー」

73: 2013/02/04(月) 01:38:04.50
…………。

 マイク「……デハ、お答えをドーゾ!!」

貴音「三問目、無駄知殿は2番を選び、不正解となりました。……念の為に、先々週の映像も確認してみましょう」

マイク「それデハ、お答えいただきまショー」 回答 1

マイク「……サァ……答えハ!?」 回答 3

マイク「……サァ、ミスター無駄知、答えハ……ッ!?」 回答 3

貴音「……もう、おわかりですね?」

響「……え? え?」

貴音「『それでは』は1番、『では』は2番、『さぁ』が3番の合図となっていたのです」

P「そうか……! SO、D、SAというのはそれぞれの言葉の頭文字だったのか!」

貴音「そのとおりです。舞来殿。あなたと無駄知殿はこうして協力して不正を働くことによって、らすとくいずを勝ち残ってきたのです。おそらく、賞金を山分けするという条件のもとに」

マイク「…………」

74: 2013/02/04(月) 01:40:50.88
貴音「……あなたは休憩時間中、といれに立つふりでもしてこんとろぉるるぅむを離れた。そして、落下ふろあにいる落田殿を殴って気絶させ、まっとに鉄串を仕込んだ」

貴音「らすとくいずの前に休憩時間に入ることを知っていたあなたは、細工を施す時間を確保するために、あらかじめ落下ふろあに置いてあったテープを隠しておいたのではありませんか?」

マイク「…………」

貴音「……らすとくいずは難易度の高い問題が出題されます。しかし万が一、無駄知殿が答えを知っている問題であれば嘘を見破られるかもしれない。だから最も難しい三問目で偽の答えを教えた。幸い三問目の答えは3だったので、あらかじめ鉄串を仕掛けておいた2番に落とすことが可能だった……」

貴音「動機は、無駄知殿に脅されたことではありませんか?」

75: 2013/02/04(月) 01:41:57.06
警部「脅された?」

貴音「そうです。はじめは、ただ単に協力関係を打ち切られ、不正を暴露されそうになったからではないか――と思いました。しかし、それでは今回も暗号を用いて不正を働いていたことに説明がつきません」

貴音「そこで、協力関係は続けたままで、無駄知殿は舞来殿を脅していたのではないかと考えたのです」

P「脅している相手と協力関係は続けたままで……?」

貴音「無駄知殿は、『不正の事実を暴露するぞ』と舞来殿に脅しをかけた。『暴露されたくなければ金をよこせ』とも言われたかもしれません」

P「ちょっと待ってくれよ。不正を働いていたのは無駄知さんも一緒なんだから、暴露したら無駄知さんもただじゃすまないだろ?」

76: 2013/02/04(月) 01:43:04.40
貴音「無駄知殿が会社社長であるというのが重要なのです。無駄知殿が『番組側に指示された』というふうに不正を告白すれば、イメージの低下はそう深刻なものとはならないでしょうし、むしろより強力な話題作りとなります。賞金は返還しなければなりませんが、大した痛手ではないでしょう」

貴音「一方、舞来殿の場合は深刻です。不正がバレればそれだけで信頼を失い、もうテレビの仕事はできなくなるかもしれない。無駄知殿とは立場が違うために、相手に責任を押し付けることはできない。舞来殿は追い詰められ、とうとう無駄知殿を殺害することを決心した――」

貴音「いかがでしょう? どこか違う場所があれば指摘してください――舞来殿」

マイク「………………」

舞来「けっ……小賢しい小娘が生意気に」

77: 2013/02/04(月) 01:45:27.53
響「え……?」

管「ま、マイク……?」

舞来「不正だ? 殺人だ? よくもまぁ言ってくれたもんだぜ」

管「お、お前その喋り方は」

舞来「うるせぇぞ!! 黙ってろ!!」

管「ヒィ!!」

なんてことだ……本当にこれが、あの陽気な外人かぶれと同一人物なのか……? これが彼の本性だとでもいうのか?

78: 2013/02/04(月) 01:46:46.80
舞来「おい小娘。たしかにお前の話は筋が通ってる……ように見える、一見な」

舞来「だけどよぉ……決定的な証拠はなにもねぇんだよ!! 俺が不正をしていた証拠も! 頃したって証拠も! 証拠がなけりゃあ、どんなに筋が通ってるように聞こえても、それはただの想像だ!」

貴音「……………………」

貴音はまるで怯んだ様子を見せず、舞来をまっすぐ見つめている。その瞳にも恐怖の色は一切見えない。

舞来「俺を犯人として告発するってんなら……決定的証拠を見せてみやがれ!! ああ!?」

貴音「……わかりました」

貴音「決定的証拠を、お見せしましょう」

舞来「な……なんだと……? そんな、嘘だ。そんなものあるかぁッ!」

貴音「いいえ。嘘ではありません。この最後の証拠で――あなたは終わりです」

舞来「ひっ……」

79: 2013/02/04(月) 01:48:10.25
貴音「最後の証拠――それは、あなたの靴です」

P「靴……?」

貴音「わたくしと、響、プロデューサーの三人で、くっきぃを盗んだハム蔵を追いかけていった時のことです。落下ふろあで見つけたハム蔵は……くっきぃを持っていませんでした」

舞来「…………」

貴音「そしてもう一つ……事件の発覚後、わたくし達と舞来殿が話している時、ハム蔵が舞来殿の靴にかじりついたのです。……くっきぃはもともとハム蔵のために作られたものだったのです。そのことを思い出して、警部殿にあることを確認したのです。……警部殿」

警部「……現場の2番マットの上から、砕かれたクッキーの粉末が見つかっている」

80: 2013/02/04(月) 01:49:35.15
貴音「響の後にまっとに乗った人物……鉄串を仕掛けた犯人が踏みつけたものと思われます」

貴音「……つまり、犯人は今も――靴の下から響特製の、手加減なし、容赦なしに甘いくっきぃの匂いを発しているはずなのです!」

舞来「あ……あぁッ…………!」

貴音「さぁ、靴の裏を検めさせていただきましょうか――舞来詠次!!」

舞来「うぅ……うわぁぁぁあああああ!!」

舞来が崩れ落ちる……貴音の推理が正しいことが立証された瞬間だった。

貴音「……これにて、くおど、えらと、でもんすとらんだむ(証明終了)――ですね」

81: 2013/02/04(月) 01:50:37.53
舞来「あいつが……あいつが悪いんだ! 俺は悪くない!」

警部「まだそんなことを……」

管「動機も、貴音ちゃんが言ったとおりだったのか……?」

舞来「話を最初に持ちかけてきたのは無駄知のやつだった! なのに、あいつ……ここまできて、俺をはめるようなマネを!!」

舞来「頃すしかなかったんだ!! それしか俺が助かる道は――」

貴音「黙りなさい」

舞来「なっ……!?」

貴音「たとえどんな事情があろうとも、殺人が正しい解決法であるはずがありません……あなたは自ら、引き返せぬ誤った道を選んでしまったのです。あなたは――愚かな殺人者に過ぎません」

舞来「く……くそぉぉおおおお!!」

舞来が突然立ち上がり、貴音へ向かって突進してくる――!

82: 2013/02/04(月) 01:51:51.65
貴音「!」

警部「こいつ!?」

響「貴音ぇッ!!」

P「――ぉおおおおおおッ!!」

気がついた時には体が動いていた。舞来に向かって飛び出していた。

舞来「なっ――!? うわぁあああ!!」

背負投げ――向かってくる舞来の勢いはそのまま床へ落ちる奴の背中へ叩き込まれる。

貴音「あ…………」

舞来「ぐ…………うっ……」

P「はぁ……はぁ……」

P「……う、うちのアイドルに……触れないでもらおうか?」

貴音「…………あなた様」

83: 2013/02/04(月) 01:53:24.35
~ラーメン屋にて~

響「そういえば、なんでハム蔵が怒ってたのか、謎が解けたぞ!」

P「おお」

ラーメンを頬張りながら聞く。

響「自分、撮影が終わったら、ハム蔵にじっとしてたご褒美にクッキーあげる約束してたんだ。でも自分が貴音にあげようとしちゃったから……」

貴音「なるほど、それで……」

P「つまりハム蔵は貴音に嫉妬してたんだな」

ハム蔵「ヂュ!?」

響「あはは! ハム蔵、顔が赤くなってるぞ!」

P「よくわかるな……」

84: 2013/02/04(月) 01:54:13.32
響「それにしても、貴音はすごいなー。ほんとに事件解決しちゃうんだもんな!」

P「ほんとだよ。めちゃくちゃかっこよかったぞ、貴音」

貴音「…………かっこよかったのは、あなた様の方ですよ」

P「え? なんて? 麺すすってて聞こえなかった」

貴音「……なんでもありません」

P「なんだよ~、気になるだろ?」

貴音「ふふっ……とっぷしぃくれっと、ですよ」

終わり

85: 2013/02/04(月) 01:55:48.94
終わりです
読んでくださった方、ありがとうございました

86: 2013/02/04(月) 02:00:53.13
クッキーの行方だけはわかったんだが…悔しい!乙でした!

87: 2013/02/04(月) 04:02:19.35
ハム蔵の動きでマイクが犯人っぽいのは分かったんだがなぁ
不正をしてるのがDだと決めつけてしまって迷宮入りしたわ

引用元: 貴音「くおど、えらと、でもんすとらんだむ」