1: 2010/03/09(火) 16:29:37.96
平沢家の朝は早い

次女の憂は毎日朝五時に目を覚まし 朝食を作り 昼の弁当を作り

姉が遅刻せぬよう余裕のある時間帯に起こしてやる

その日も同じように 平沢憂は朝五時に目を覚ました

眠気の中で憂は気付いた

部屋に知らない誰かが いる

「ど、どなたですか・・?」

おそるおそる声をかけると

「私は便利屋でございます」

薄暗い室内から きっちりした身なりの老紳士がヌッと現れた

「便利屋・・?」

「さようで。人々が負う、日々の煩わしい手間を解消して差し上げる者です」

「はぁ・・。それよりも、どうして私の部屋に・・・何時の間に・・?」

老紳士は帽子を取り上げながら答えた

「これは御無礼を。この時代の作法習慣にはまだ慣れておりませんでしたので・・・」

6: 2010/03/09(火) 16:40:13.34
聞けばこの老紳士は遠い未来からタイムマシンでやってきたそうだ

「便利屋ってどんな物を扱ってるんですか?」

性質の悪いセールスの類と疑いつつも尋ねると

老紳士はポケットから小さな卵を取りだし、綺麗に割って見せた

卵の中から煙が吹き出し 一面真っ白になったかと思うと

煙はすぐに消えていく

「例えばこの自動朝食作成機。毎朝栄養抜群味も素晴らしい食事を作ってくれます」

何時の間にか現れた パイプの絡まったような機械を指さして老紳士が得意げに言う

まだ疑う憂の顔に気付くと

老紳士は微笑みながら 機械のボタンをカチリを押す

うぃん うぃん と音を立て

10秒もしないうちに 取り出し口から美味しそうなオムライスが出てきた

「このように食材が0からでも 空気中の原子を分解再構築して朝食を作り出せます」

「・・・!」

憂は目を輝かせる

9: 2010/03/09(火) 16:49:22.62
「これ・・凄いですね!」

「未来の技術では、この程度なんのことはありません」

どうやら老紳士の未来はとんでもない技術を扱っているらしい

「でも高いんでしょうね、これは・・」

「お金は結構です」

「え!?」

目を輝かせる憂の顔を見て

老紳士は急いで付けたす

「勘違いなさらないように。私が欲しいのはお金ではありません・・が」

「なんでしょうか・・?」

「あなたのお家の要らない物を頂いていきます」

憂は拍子抜けした

こんな超科学装置を 金以外で貰うとなると

それこそ身包み全て剥がしても足りないものだと思ったからだ

「でも・・要らない物なんかでいいですか?」

13: 2010/03/09(火) 17:01:55.28
「私のいた未来から見てみると、ここはアンティークの宝物だらけなのですよ」

「へぇ・・」

「しかし最近は法や監視が厳しくなって参りまして、持ち去りは許されないのです」

「そこで物々交換・・ですか」

「はい、対価を払えば許されます。物はなんでも良いのです・・全て・・」

老紳士の話を聞き

憂は交渉を成立させた

要らない物を自分で選んで良いというので

余って使っていないハンガーを一つあげようとする

「おや、説明が足りませんでしたな・・・」

「え?」

「大変図々しいかもしれませんが、複数あるものは全てをくださいませんかな・・?」

「つまり、このハンガーならクローゼットの中のも全部ですか・・」

「はい。流石に埃一粒などと仰られると、こちらとしても赤字でございますから」

しかしその程度、ということで憂は喜んで家中のハンガーを渡した

14: 2010/03/09(火) 17:10:49.81
「では確かに受け取りました。その機械はあなたの物です」

老紳士はまたポケットから卵を取り出し、軽くヒビを入れる

「また御用があればその機械に付いているベルをお鳴らしください・・では・・」

老紳士は卵を割る

白い煙が部屋を包み すぐに晴れるが

そこにはもう誰もいない

「これがあれば・・毎朝6時に起きても大丈夫だね・・!」

キッチンに降りて 試しにボタンを押してみる

うぃん うぃん と音を立て

すぐに温かい和風の朝食が二人分完成した

「すごいすごい!」

「ついでにお弁当も作ってもらおう!」

憂は続いて姉と自分の昼食も作っておこうと ボタンを押してみるが

機械はピクリとも動かない

16: 2010/03/09(火) 17:16:26.01
「あれ?まさか故障品をつかまされたとか・・・」

機械をひっくり返してみると 小さな文字で注意書きがされている

※この機械は朝食専用です

「・・・・・」

憂は半分呆れつつも

ただで食事ができるのだから 多くは望むまいとした 


二階へ昇り 姉を起こしに行く

17: 2010/03/09(火) 17:26:16.72
平沢家長女 唯 は大変な怠け者だった

家事は何一つしないし

態度もだらしがない

妹に生活の全てを頼りきりだが 

憂はその世話自体を楽しんでいる節もあるのだ





自動朝食作成機は憂の生活をかなりラクにしてくれた

朝の最も煩わしい作業を無くしてくれるのだ

考えてみれば昼食も購買で買えばよい

ここ最近の起床時間は朝6半と大分遅くなっている


気持ちよく目覚め 元気よく学校へ行き

授業を真面目に受け

姉より速く帰宅し

そして 家中の掃除をする

19: 2010/03/09(火) 17:35:39.38
そんなリズムを繰り返す


ある日 掃除機をかけながら憂は思った

「この時間を使えば、もっと有意義な・・趣味とか始められるんじゃないかなぁ」

キッチンへ向かい

自動朝食作成機に付いている小さなベルを鳴らした

機械の取り出し口から煙が噴出し いつぞやの老紳士が現れる

「何か御用でございましょうか」

「自動で掃除してくれる機械が欲しいの!」


老紳士は自慢の白髭を撫でながらにっこり笑った

「勿論御座います」

依然と同じように 卵からヘンテコな機械を取り出す

憂はそれに対して 

壊れて使わなくなった子供の頃のおもちゃをあげた

21: 2010/03/09(火) 17:41:43.43
老紳士は満足して帰って行き

憂は早速機械のスイッチを入れる

勢いよく動きだした掃除機は 部屋の隅々までピカピカにしてくれるのだった

「凄い凄い!私がするよりずっと綺麗だよ!」

「・・・・・」

「あれ?」

掃除機は憂の部屋を綺麗にすると自動的に停止する

「他の部屋も掃除してくれないのかな・・・」

嫌な予感がして機械をひっくり返すと

小さな文字で注意書きがしてある

※清掃範囲は一台につき一部屋までです

「・・・・・」

確かに完璧に清掃してくれるが

いくつもある中の一部屋だけでは意味がない



23: 2010/03/09(火) 17:49:08.15
憂はキッチンへ行き

再び自動朝食作成機のベルを鳴らす

「あの掃除機、この家の部屋数だけください!」

「同じ機種になりますが宜しいのですか?」

「構いませんっ」

対価として渡す物も増えるが

新聞紙ビニール袋持て余していた段ボールなど・・

廃品回収代わりにと 老紳士に払った




その日の夜

帰ってきた姉は家中ピカピカに輝いていることに感嘆の声を挙げた

「憂、頑張って掃除したんだね!」

以前なら跳ねて喜ぶような姉の褒め言葉も

憂は軽く聞き流す

26: 2010/03/09(火) 17:54:58.83
それからの憂は 老紳士を呼び出す頻度が増えた

「昼食と夕食も作ってくれる機械はありますか?」

「勿論で御座います」

老紳士は快く対応し

機械を二つ 卵の中から取り出す

「何にしようかなぁ・・」

憂が支払うものを決めあぐねていると

老紳士が語りかける

「あなたの家の調理器具は、もうご使用なさらないのでは?」

「・・そうだね!じゃあこのお玉と菜箸を」





29: 2010/03/09(火) 17:59:13.04
食事と掃除がラクになると

今度は洗濯が煩わしくなる

「洗濯機もありますか?」

「勿論で御座います」



貰った洗濯機は10秒で洗い終わる優れものであったが

今度は乾燥機が欲しくなる

「乾燥機もありますか?」

「勿論で御座います」



乾いた洗濯物を

畳むのが面倒になる

「自動畳み機はありますか?」

「勿論で御座います」

30: 2010/03/09(火) 18:06:07.50
大量の掃除機が家中を動き回る中

憂はふと思いついてベルを鳴らす

「何時でも鳴らせるベルをください」

「ベルは既にお持ちでは・・?」

「自動朝食作成機にしか付いてないから ちょっと面倒なんだよね」

「左様でございますか」

憂は小さなアンテナのような物を貰う

「頭に付けて扱う物です。不便を感じるだけで私が参りましょう」

「凄い!ありがとう!」

憂は浮かれ

ふと何も考え無しに切れた電池を渡した

「確かに受け取りました。家中の電池ですな」

「あ・・・」

32: 2010/03/09(火) 18:11:44.66
時計を見ると 秒針は確かに停止している

「そっか、電池を使う物は全部ダメになっちゃうんだ・・・」

老紳士は何時の間にか消えていたので

憂は老紳士を呼び出すよう念じてみる

白い煙と共に

間もなくして現れた

「電池いらずの絶対停止しない時計はありますか?」

「勿論で御座います」






物欲は

加速していく

34: 2010/03/09(火) 18:18:44.92
気付けば憂の部屋の中は ほぼ全て老紳士から受け取った物になっていた

机椅子電灯エアコン小型冷蔵庫・・・



「憂ー、私のギー太知らない?」

「え、どこかに置いてきちゃったんじゃないの・・?」


当然渡す物は減っていく

要らない物から渡していたが

次第に大切な物まで 要らない物へと変貌する





「自動化粧装置はありますか?」

「勿論で御座います」



変わりに欲しがる物は

不必要な物になっていた

35: 2010/03/09(火) 18:24:20.67
「自動豊頬装置はありますか?」

「勿論で御座います」




「思考で動くマジックハンドはありますか?」

「勿論で御座います」




「年を取らずにいられる薬はありますか?」

「勿論で御座います」



「・・・あれ?」

「如何致しましたか?」




遂に 対価は底を尽きた

38: 2010/03/09(火) 18:31:46.77
「一応申しておきますが、私の渡した物では対価としては認められませんので」

「・・・・・・・」


そんな中

誰かが階段を昇る音がする

聞きなれた足音は 憂の部屋の前で止まり

二回ノックをした

扉の向こうから声がする

「憂ー ギー太が無いんだよぉー」

「お姉ちゃん・・・・」

「ホントに知らないの?憂ー?」

「・・・・・・」




「対価が払えなければ 私は帰りますが」

「・・・払うよ」

41: 2010/03/09(火) 18:37:23.78
「では、何をお支払いで?」

「平沢・・・唯・・・」

「・・・・となると」

「私のお姉ちゃん・・・」



老紳士は自慢の白髭を撫でながら微笑んだ

「では、確かに頂きます」








平沢家は今でも

誰もいない家の中 全自動掃除機が完璧な清掃を行っている



おわり

42: 2010/03/09(火) 18:37:57.90
いやぁぁぁぁ…唯ちゃん…

43: 2010/03/09(火) 18:38:12.36
鬱杉ワロタ

44: 2010/03/09(火) 18:38:24.16
おわりwwwwww

引用元: 唯「べんりや!」