1: 2012/09/27(木) 22:54:47.61
6時間目、数学。
最近の授業は前半に入試対策の演習問題を出されて、後半にそれを解説するというパターンだ。
今は皆の問題を解く音だけが教室に響いていた。
時間内に問題を終えた私はノートから顔をあげて一息つくと、少し首を回した。
すると同じく問題を解き終えたのだろうか、窓の外を眺めている和が視界に入った。
と、同時にその後ろで盛大に舟を漕いでいる唯の姿も。
澪(おいおい、唯寝てる場合じゃないだろ…)
普通に前を向いていれば私の席からは唯も和も見えない位置だが、偶然とはいえ一度見てしまったものは気になってしまう。
私が先生の気配を伺いつつ唯の方見ていると、すでに視線を前に戻していた和がそのままの姿勢で唯の方へと消しゴムを投げた。
https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1348754086/
2: 2012/09/27(木) 22:56:23.41
澪(えっ)
消しゴムは唯の頭にポコンと当たると隣りの姫子の方へと跳ねる。
澪(あっ)
しかし姫子は手慣れた様子でそれをキャッチすると、何事も無かったように唯の机に消しゴムを置いて唯の肩をそっと揺すった。
こうして二人の連携プレーにより目を覚ました唯は、姫子に口パクで礼を告げ、机に置かれた消しゴムを和の元へと返していた。
と、その時、和が唯に何か合図でもしたのか、はっとしたように唯が窓の外を見た。
そんな唯の様子が気になったけれど、先生の「では今から解説を始めます」という声に前を向かなければならなかった。
3: 2012/09/27(木) 22:57:50.27
そうして授業が終わり、ホームルームも済んでクラスメートは三々五々に帰宅していく。
気付いたら律、ムギ、唯の三人も居ない。
全員、机に鞄はあるからお手洗いにでも行ったのだろうか。
まあ、いいや。
何も言われてないという事はすぐ戻るんだろう。
そう思いつつ私が帰り支度をしていると、和に声をかけられた。
和「澪達は今から部活?」
澪「うん。和は生徒会?」
和「ええ」
澪「そっか。あ、そういえばさ。和さっき何を見てたんだ?」
ふと先程の様子を思い出した私が質問すると、何の事?というように一瞬首を傾げた和は、ああ、と呟いた。
和「数学の時よね」
澪「ああ。和がよそ見ってちょっと珍しいなと思って」
和「雲を見てたのよ」
澪「くも?」
和「そう、飛行機雲。癖で見ちゃうのよね」
澪「へぇ、変わった癖だな。それって何かきっかけとかあったりするのか?」
和「そうね、あれは小学生の時だったわ」
そう言って和は語り始めた。
4: 2012/09/27(木) 22:59:14.05
◇◇◇
小学四年生の夏休み。
唯「和ちゃん、和ちゃん!空見てた?」
憂「見てた!?」
大きな声を出しながら唯と憂が慌ただしくウチへ走ってきた。
二人が訪れること自体は別にいつもの事だったけれど、こんな風にふぅふぅと息を切らして来る事は珍しかった。
和「ううん。本読んでたから見てないけど、どうしたの?」
唯「うんとね、すっごくキレイなひこうき雲があったんだよ!!」
和「飛行機雲?」
唯に言われて空を見上げみたけれど、どこにもそんな形跡は見当たらなかった。
憂「あれぇ?和ちゃんのおうちとウチから見える空がちがうよ、お姉ちゃん」
唯「なんと?!」
まだ肩で息をしながら唯と憂も空を捜していたけれど、やはり影も形も残っていないようだった。
和「ごめんね。急いで来てくれたのに」
唯「ううん。そっかぁ、間に合わなかったねぇ…」
憂「和ちゃんに見せてあげられなかったね…」
小学四年生の夏休み。
唯「和ちゃん、和ちゃん!空見てた?」
憂「見てた!?」
大きな声を出しながら唯と憂が慌ただしくウチへ走ってきた。
二人が訪れること自体は別にいつもの事だったけれど、こんな風にふぅふぅと息を切らして来る事は珍しかった。
和「ううん。本読んでたから見てないけど、どうしたの?」
唯「うんとね、すっごくキレイなひこうき雲があったんだよ!!」
和「飛行機雲?」
唯に言われて空を見上げみたけれど、どこにもそんな形跡は見当たらなかった。
憂「あれぇ?和ちゃんのおうちとウチから見える空がちがうよ、お姉ちゃん」
唯「なんと?!」
まだ肩で息をしながら唯と憂も空を捜していたけれど、やはり影も形も残っていないようだった。
和「ごめんね。急いで来てくれたのに」
唯「ううん。そっかぁ、間に合わなかったねぇ…」
憂「和ちゃんに見せてあげられなかったね…」
5: 2012/09/27(木) 23:00:29.11
しゅんとする唯と憂になんだか悪い気がしながら尋ねる。
和「…そんなにキレイだったの?」
唯「うん!もうね、ひこうきの後ろから雲がスゥーーッて出て、どんどん青いなかにとけていったんだよ!憂といっしょにすごいね!って」
憂「その時の空もきれいだったの」
唯「和ちゃんにも見せたかったよぉ~」
憂「また飛行機とんでこないかなぁ」
唯「うぅー、もったいない…」
雲の事を身振り手振りできらきらと話し、もっと早く知らせたかったと眉を下げて悲しそうにしている幼なじみ達に、見れなかったことがだんだん悔しくなってきた。
どうすればまた見る事が出来るだろうか。
私はふと思いついた事を唯たちに提案してみた。
和「ねえ、二人とも自由研究で飛行機雲について調べてみない?」
夏休みの間、毎日空を見ていればもう一度くらい、今度は三人一緒に、雲を見る事が出来るんじゃないだろうか。
唯「じゆうけんきゅう?」
和「うん。唯ちゃんと憂ちゃんと私の三人で」
憂「私もいっしょにしていいの?」
唯「いいね!やろうやろう!!そうだね!いっつも空を見てればだいじょうぶだね!」
憂「皆でいっしょに見れるといいね!」
7: 2012/09/27(木) 23:03:38.09
二人が嬉しそうに笑い、単なる思いつきはあっさりと決定した。
初めは飛行機雲だけを調べるつもりが、他にもどんな雲があるのかとか色々調べた。
その際、雲は水蒸気の集まりで触れられないし、上にも乗れないと判明して唯と憂がすごくガッカリしてしまったりしたけど。
三人で雲のことばかりな夏休みとなった。
唯「毎日、たくさん雲が流れてくるねぇ」
憂「いろんな景色を見てきたのかなぁ」
和「もしかしたら世界一周してる雲もいるかもしれないね」
唯「じゃあ、雲さんはいろんな事知ってるのかな?」
憂「お話できたら楽しいだろうね!」
和「そうだね」
唯「あ、あの雲、アイスクリームみたい!」
憂「ホントだ!」
唯「やや、あっちにはアヒルさんが!」
和「そうかな。お玉みたいじゃない?」
唯「えぇ~」
残念ながら夏休みの間に飛行機雲と遭遇することは出来なかったけれど。
でも出来るだけ三人揃って空を眺めるという日々を過ごしたおかげで、今でも何となく空をみるようになってしまった。
◇◇◇
9: 2012/09/27(木) 23:06:42.49
和「……というわけ」
澪「なるほど。だけど授業中でもちゃんと唯に知らせてたのは意外だったよ」
和「まぁ、せっかく後ろの席だし。目を覚ますにもいい話題だったから」
澪「はは。あ、でも雲に乗れないってガッカリした唯と憂ちゃんの気持ちはわかるなぁ」
和「あら、澪も雲に乗りたかったの?」
澪「う、まあ。ほら、あれだ、着ぐるみの中には本当は人が入ってたって事がわかった時みたいな!」
和「着ぐるみにショックを受けた事もあるのね…」
10: 2012/09/27(木) 23:08:52.08
律「おうおう、二人して何の話だーー!」
唯「何の話だーー!」
紬「話だーー!」
いつの間にか教室に戻って来ていた三人が騒がしく私の席に集まってきた。
澪「…ムギまでノリノリだな」
和「さっき飛行機雲が見えたって話よ」
唯「あ、和ちゃん教えてくれてありがとね。危うく見逃すところだったよ!」
紬「飛行機雲?」
唯「うん! そうだ、和ちゃん。その下にあったネコちゃんみたいな雲も見た?」
和「…猫?おまんじゅうみたいな雲ならあった気がしたけど」
唯「もー、和ちゃんにはかんじゅせいというモノが足りないよ!あずにゃんみたいにかわいい雲だったのに!」
律「唯の口から『感受性』…」
紬「白い雲でも猫に見えたら梓ちゃんなのねぇ」
律「それもそうだな。唯、そこんとこどうなんだよ?」
唯「むむむ…。だって、ネコといえばあずにゃんというか、」
澪「というか唯、寝てたらダメじゃないか」
唯「あー、問題解いてたらいつの間にか…えへ」
律「ちぇー、唯の席はいいよなぁ。私の席からじゃ外を眺めるのも居眠りも難しいんだよなー」
紬「私も見たかったなぁ、飛行機雲と梓ちゃん雲」
和「ほらほら、皆そろそろ部室に行かないと、その梓ちゃんを待たせちゃうわよ?」
律「おぉ、そうだな。皆、部室行こうぜー」
11: 2012/09/27(木) 23:10:08.73
□□□
…午後の古文はつらい。
私は先程から迫りくる眠気から逃れるために、気を紛らわそうと教室を見渡した。
……突っ伏して寝るなんて、余裕というか度胸ありますね純さん。やれやれ。
完全に夢の世界へと旅立っている純に呆れつつ、憂の方を見ると窓の外を眺めている姿が目に入った。
憂はじっとなにかを見ているようだったけれど、すぐに教科書に向き直っていた。
しかし、憂の背中からはなにやら嬉しそうな気配を漂わせている。
…どうしたんだろ。気になる。
いったい何を見てたんだろうか。何が起きたんだろうか。
私も教科書へ意識を戻そうとしたけれど、なかなか上手くいかず、結局授業が終わるまでずっとそわそわすることになった。
12: 2012/09/27(木) 23:14:04.40
梓「…飛行機雲?」
憂「うん、飛行機雲」
梓「私の席からは見えなかったなあ」
憂「廊下側からじゃ見えなかったのかもね」
梓「ふむ。で、嬉しそうにしてたのは飛行機雲を見たからなの?」
憂「えっ?あ、梓ちゃん、なんで嬉しいってわかったの?!」
梓「そ、そんなに驚かなくても…。いや、そのせいですごく気になってたんだけど」
憂「えっと、小学生の時にね、お姉ちゃんと和さんと飛行機雲を探すって一生懸命になった事があって。
それから飛行機雲見ると良い事があるんじゃないかなって嬉しくなっちゃうの」
梓「それなら私もちょっと見たかったな」
憂「えへ。今度見たら合図するね」
純「私も見えなかったです!」
梓「純は寝てたからでしょ」
純「いやー、面目ない」
憂「今日のトコ、試験に出すって先生言ってたよ?」
純「なっ。お、お助けを…!」
憂「今、写しちゃう?」
純「ありがたやありがたや」
梓「…全く。じゃあ、私は部室行くね」
純「じゃーねー」
憂「いってらっしゃーい」
憂(猫に見えた雲もあって、梓ちゃんみたいだなって思ったのは内緒にしておこう…)
13: 2012/09/27(木) 23:17:46.57
□□□
唯「ただいまー」
憂「おかえり、お姉ちゃん」
唯「お腹ペコペコだよ~」
憂「いま夕飯の準備するね」
唯「わーい。憂ありがとうー」
憂「そうだ。お姉ちゃん、今日飛行機雲があったよ!」
唯「ばっちし見たよ!和ちゃんに教えてもらったんだぁ」
憂「和ちゃんも見てたんだ」
唯「うん。三人とも見てたんだね」
憂「でも、せっかくだから一緒に見たかったな」
唯「今度は揃って見れるといいねぇ」
憂「そうだね」
唯「そういえば、りっちゃん達も見たいって言ってた」
憂「梓ちゃんと純ちゃんも言ってたよ」
唯「よーし。じゃ、次は皆で見よう!」
憂「楽しみだね!」
唯「あ!ねぇ、憂。飛行機雲の下らへんにあった小さな雲も見た?」
憂「小さな雲?…あぁ、あったね」
唯「憂は何に見えた?」
憂「え、お姉ちゃんは?」
唯「それじゃ、せーので言おっか」
憂「うん。わかった」
唯「いくよ、せーのっ」
唯憂「「あずにゃん(梓ちゃん)みたいなネコ!」」
14: 2012/09/27(木) 23:18:59.05
□□□
梓「っくちっ!」
梓「?」
15: 2012/09/27(木) 23:21:11.97
□□□
憂「ふふ。同じだったね」
唯「ね!やっぱネコさんに見えたよね!和ちゃんたら『お饅頭みたい』なんて言ってたんだよ」
憂「あはは。和ちゃんらしいね」
唯「そうだけどさぁ。よーし、明日からまた雲修行だ!」
憂「えっ」
16: 2012/09/27(木) 23:22:34.78
□□□
和「へっくしゅっ」
携帯「」ブルブル
和「…あら唯からメールだわ」ピッ
おしまい!
18: 2012/09/27(木) 23:25:07.19
短いですがこれでおわりです。
20: 2012/09/28(金) 11:10:22.05
おつ
けいおんらしい話でした
けいおんらしい話でした
21: 2012/09/28(金) 19:25:33.02
乙
のんびりしてて良いね
のんびりしてて良いね
引用元: 唯「雲とお話し」
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