36: 2008/05/27(火) 23:42:38 ID:???
「というわけで、あらためて僕は謎をといてみようと思うんだ。」

「シンジぃ……唐突に『というわけで』とかいって切り出すなんて、
 お前も結構ベタなやっちゃな。ほら、はよ引っ繰り返さんと焦げ付いてまうぞ。」
「なぁトウジ、生地がちょっとゆるすぎない?」
などと、腕組みして語るシンジに対し、作業に戻るよう促すトウジとケンスケ。

3人はミサトマンションにおいて、いわゆるタコ焼きパーティーの真っ最中である。
シンジは少しむっとした様子。

「ねぇ!二人とも聞いてなかったの?」
「聞けるかいな。せやから、はよせぇゆうてんねん。タコ焼きはな、焼きすぎが一番いかんのやぞ。」
「なー碇、マヨネーズないの?」

そんな二人の調子にあきれたのか。
フン、と鼻息をならして串を手に取り、器用にクルクルとタコ焼きを引っ繰り返し始めたシンジ。
案外、こうした細かい作業は器用にこなすようである。

そのシンジに少したじろいだ様子で、
「や、やるやないか……まあ、もっかい初めからいうてみ?聞いといたるから。」

さて、彼らのタコ焼きパーティーである。
タコ焼きを一般家庭で焼く場合、大抵はホットプレートにタコ焼き用のプレートを載せ替えるところだが、
彼らはガスで焼くタイプの、小さいながらも本格派のタコ焼きセットを用意した。
恐らく、トウジあたりが「焼き加減が違う」と強く主張したのだろう。
なら、プロの焼くタコ焼きを食べに行けばいいと思うのだが。


37: 2008/05/27(火) 23:43:41 ID:???
しかも生地を注ぐための容器や、タコ焼きをかえすための串はともかく、、
タコ焼き専用のポリ容器まで用意しているのはちょっとやり過ぎである。
普通の皿でいいだろう、皿で。

「いや、以前にミサトさんが作ったカレーの話。」
そう言いながら次々と焼き上がったタコ焼きをポリ容器に盛りつけるシンジ。
それにソースを塗るため、トウジが受け取る。
「おー、ミサトはん料理まで出来はるんや。」

シンジは早くも油を引き直して、新たに生地を流し込み始めた。
「料理なんてとても呼べた物じゃないよ。レトルトカレーを引き延ばしただけ。
 それも酷い味。リツコさんなんて、一口だけで食べるの止めちゃったし。
 でもさ、そんな代物をミサトさんはカップラーメンに注いで食べちゃうんだ。
 それも美味しそうに。」

そして、ケンスケがタコ焼きのトッピングを引き継ぐ。
「青のり、カツオにマヨネーズっと。
 だとしたら、ミサトさんって相当味覚が壊れてるのかな?あはは。」

それを聞きながらシンジは、確実にタコの切り身を鉄板のくぼみに入れていく。
「と、思うでしょ。でもね、味噌汁の出汁をいりこからカツオに変えの一口で見破られたんだ。
 もし味覚が壊れてたら、味噌と具の違いしか判らないんじゃないかな。」

続いて、トウジがネギに天かす、紅ショウガの投入を担当。
「そうでもないやろ。カツオだけなんか合わせ出汁か、それぐらい匂いだけでも判るで。
 ……で、なんやシンジ。結局、何がいいたいねん。」

38: 2008/05/27(火) 23:45:26 ID:???
しかも生地を注ぐための容器や、タコ焼きをかえすための串はともかく、、
タコ焼き専用のポリ容器まで用意しているのはちょっとやり過ぎである。
普通の皿でいいだろう、皿で。

「いや、以前にミサトさんが作ったカレーの話。」
そう言いながら次々と焼き上がったタコ焼きをポリ容器に盛りつけるシンジ。
それにソースを塗るため、トウジが受け取る。
「おー、ミサトはん料理まで出来はるんや。」

シンジは早くも油を引き直して、新たに生地を流し込み始めた。
「料理なんてとても呼べた物じゃないよ。レトルトカレーを引き延ばしただけ。
 それも酷い味。リツコさんなんて、一口だけで食べるの止めちゃったし。
 でもさ、そんな代物をミサトさんはカップラーメンに注いで食べちゃうんだ。
 それも美味しそうに。」

そして、ケンスケがタコ焼きのトッピングを引き継ぐ。
「青のり、カツオにマヨネーズっと。
 だとしたら、ミサトさんって相当味覚が壊れてるのかな?あはは。」

それを聞きながらシンジは、確実にタコの切り身を鉄板のくぼみに入れていく。
「と、思うでしょ。でもね、味噌汁の出汁をいりこからカツオに変えてみたら、
 最初の一口で見破られたんだ。
 もし味覚が壊れてたら、味噌と具の違いしか判らないんじゃないかな。」

続いて、トウジがネギに天かす、紅ショウガの投入を担当。
「そうでもないやろ。カツオだけなんか合わせ出汁か、それぐらい匂いだけでも判るで。
 ……で、なんやシンジ。結局、何がいいたいねん。」

39: 2008/05/27(火) 23:46:49 ID:???
そしてシンジは自分の作業を終えて、ようやく爪楊枝を手に食べ始めた。
「ホフハフ……で、僕の推論はこうだ。
 あのとき、僕とリツコさんはご飯にかけて食べたけど、ミサトさんはカップラーメン。
 つまりね、カップラーメンのスープと合わせて、初めて完成する味なのではないかと。
 だから、僕とリツコさんは半端な味に面食らい、ミサトさんだけ美味しく食べることが……」

トウジもまたタコ焼きをほおばりながら、コポコポとコーラをコップに注ぐ。
「どんなカレーやねん。まるで化学合成やな。
 って、おいケンスケ!そんなにマヨかける奴があるかい!
 俺が調達してきた特製ソースが台無しやないか!」

ケンスケは気にせず、マヨネーズだらけのタコ焼きをつまみ上げた。
「いいじゃん別に。俺の好みだ。
 それに碇。やっぱ考えすぎなんじゃないの?面白いけどな。」
 
ひとしきり食べ終えたシンジは焼き加減を串でつついて見て回る。
「うん、確かに面白そうだし、もし本当に美味しいなら食べてみたいとおもってさ。
 ラーメンのスープは鶏ガラ、それにカレー、そこにプラスして味が劇的に変わる物。
 なんだろう……味噌でも入れたのかな。」

そのときである。
「たっだいま~!あらぁ、いーにおーい♪」
噂の葛城ミサトのご帰還である。

シンジは立ち上がって出迎えた。
「あれ、ミサトさん。今日は早かったんだね。」

40: 2008/05/27(火) 23:47:54 ID:???
ミサトは制服を脱ぎながら、開いている席に着く。
「いやー、どうにも作業が進まなくなっちゃってね。明日、早朝からいかなきゃならなくなったんだけどぉー。
 ……ね、ね、ね、ね、お相伴させてもらえるかな?それに、タコ焼きといえばアレよね?シンちゃん♪」

シンジはヤレヤレといった調子で冷蔵庫の扉を開けて、
「はい……飲み過ぎないでよね。」
コトンと机に置かれたヱビスビール。

と、そこにケンスケがすかさず。
「なぁ、碇。せっかくだから、ミサトさんに直接きけばいいんじゃない?
 今、話してたカレーのレシピ。」
「んん??何かなシンちゃん」
と、それを聞いたミサトはすかさず身を乗り出しながらビールをプシュッ。

で、かくかくしかじか。話を聞きおえたミサトは大張り切りで胸をはり、
「なぁんだ!あのカレーが食べたいなら何時でも言ってくれればいいのに♪シンちゃん!
 よぉーし、さっそく作るかぁー!!」
と、台所に立ち腕まくり。その隣に不安げな顔でシンジが立つ。

以降、ミサトの説明に相づちを打つシンジ。
「はぁーい♪ミサトの3分間くっきーんぐ!まずはレトルトカレーをお鍋に空けちゃってぇー」
「う、うん……」
「それをお湯で引き延ばしてぇー」
「ま、まぁ……それは予想通りかな。」
「で、そこにすかさず(ぴーっ)をたっぷり、それに加えて(ぴーっ)を(ぴーっ)して……」
「ちょっ……み、ミサトさん、そんなことをしたら……」

41: 2008/05/27(火) 23:48:57 ID:???
「まだまだこれからよシンちゃん!
 で、最後のトドメに(ぴーっ)を(ぴーーーーーーーーーっ)!!
 ほーら、出来上がりっ!!」
 
そのカレーのできあがる様を見ていた三人。
いやはや、味覚よりも先に感情が破壊されつつある三人の顔。
その前に並べられる三つのカップ麺。

「なぁトウジ、これだけで食べた方が……」
「ま、まてやケンスケ、も、もしかしたら本当にあのカレーと融合したらめちゃ旨いかも……」
「トウジ……今、見てたよな?ミサトさんが作るところを……」
「シンジぃ……お前のせいやぞ?どうすんねん、これ。」
「ぼ、僕に言わないでよ……で、でも……」
(に、逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ……)

いや、逃げても良いと思うのだが。人類の存亡がかかっているわけじゃなし。

「なぁーにゴチャゴチャいってんのよ。ささ、冷めないうちにどぉーぞ!」
と、勧めるミサトは得意満面である。

「あ、あこがれのミサトはんの手料理や……南無三!」
「しょ、小隊長殿!自分も逝かせてください!」
「に……に……に……逃げちゃだめだっ!」

意を決してラーメンを手にする3人。はてさて、どんな味がしたのやら。

もはや、焼きかけていたタコ焼きは鉄板の炭と成りはてていた。
(完)


46: 2008/05/28(水) 18:59:49 ID:???
「うん、アスカに言っておくよ。それじゃ……ん、アスカおはよー」
「シンジ、今日はちゃんとお風呂沸かしてくれたんでしょうね。」

電話の受話器を置くシンジに、寝ぼけ眼で起きてきたアスカ。
そう、ここは葛城家の食卓。
とりあえず長くなるので中略し、本題。

「ようするに料理を教えろってこと?でもさ……
 委員長の方がいいんじゃない?仲良いんでしょ?」
「ま、まあそうも考えたんだけどね。」

シンジのツッコミももっともである。アスカはしかめっ面で腕組みをする。
「そりゃヒカリでもいいんだけど、職務上ここに寝泊まりしてアンタと顔あわしている訳じゃない?
 ことあるごとに物を尋ねるならアンタの方が好都合って訳よ。」
「まあいいけどさ。でも、僕は料理できるってほどでもないし。それに……」
と、ごねるシンジにいらつくアスカ。

「……もう、人が恥を忍んで頼んでるんだから、グダグダ言ってないで教えなさいよ!
 ついでに恥をさらすようだけど、アタシはアンタより料理を知らないのよ!
 ちっちゃいころからエヴァの操縦と勉強ばっかで台所なんてたったことないの!
 だから焦ってんのよ。将来、加持さんのお嫁さんになったとき、はずかしい思いをしたくないの!」
「そ、そう。でも……ふーん……」
「……なによォ?」
「いや、なんでもないよ。それじゃ、えーとね……」

意外にもも己をさらけ出したアスカを物珍しげに眺めていたシンジであったが、
ひと思案して立ち上がり、戸棚からレトルトカレーを取り出す。
「僕を加持さんだと思って、お昼ご飯にカレーを勧めてみてくれる?」
「レトルトカレー!?アンタ、アタシをなめてんの?」

47: 2008/05/28(水) 19:00:36 ID:???
しかし、シンジはニヤリと笑う。
「いいから、教えることが料理以前にあるんだ。
 ただ、作るだけじゃなくてカレーを勧めるところからやってみせて。」
「演技指導なんて大きなお世話よ!」
「演技指導というか、ロールプレイングだよ。えーとね、ロールプレイングっていうのは」
「知ってるわよ!大学卒業のアタシに講釈たれるんじゃないわよ!」
「じゃ、ここに入るところから始めるからね。僕を加持さんだと思ってカレーを勧めてみてよ。」
「天と地の違いのあるアンタを誰が加持さんと……ああ、いいわよ。じゃ、始めて。」

で、ロールプレイスタート。
「あー、おなかすいた……って、ちょ、ちょっと!」
「やーん、加持さんおはよー(むぎゅうっ)」
「ちょっとぉ!いきなり抱きつかないでよ!(←真っ赤っか)
 それにお昼ご飯だから、おはようじゃないでしょ?」
「……だってアンタ、加持さんと思えっていったじゃない。親しい人とハグすんのはあったり前でしょ?」
「そこまで演じてくれなくても良いよ……カレーを勧めるとこだけでいいから。」
「こういうことも大事と思うんだけど……アンタ、ちょっと嬉しいくせに。」
「……もう。ほら、もういっかい初めからいくよ。」

テイク2。
「あー、おなかすいた。」
「じゃ、カレーあっためるから待っててね……って本当に作る必要はないわよね。」
「まあ、そうだね。料理を出すフリをしてくれればいいよ。」
「あっそ。はい、どうぞ。」
「……」
「……わーってるわよ。はい、お水。」
「うん……ぱくぱく(演技)……ごちそうさま。」

49: 2008/05/28(水) 19:01:28 ID:???
ロールプレイ終了。
「で、どうなのよ。」
と、採点を待つアスカ。

シンジ、目を閉じ腕を組んで結果発表。
「まずね、いきなりカレー作るよ、じゃなくてカレーで良いかどうか尋ねなきゃ。」
「はぁ!?カレーを出せって言ったの、アンタじゃないの!」
「だから勧めてみてよって言ったじゃない。
 カレーなんてありきたりのメニュー、もしかしたら昨日食べてるかもしれないし、
 あるいは、もっと他の料理を食べたいのかもしれないし。」
「……なにそれ。そんな策略めいた指導の仕方、キライ。」
「いや、アスカがどこまで考えているか知りたいから、ロールプレイングにしたんだよ。
 カレーでいいのか、それに辛口や甘口がいいのか。もっと手の込んだ料理がいいのか、
 それ以前に、お昼をゆっくり食べる時間があるのか無いのか。
 僕はお腹すいたとしか言ってないし。」
「このォ……いやらしい男ね。」
「はいはい。でも、その時になって後悔したって知らないから……ん、ミサトさんお早う。」

そのとき、二人の背後から出てきたミサト。
髪はボサボサで、どうやら目を覚ましたばかりのようである。おまけに、
「うー、おはよー……きもちわる。うぇっ……ぷ。」
「二日酔い?飲み過ぎだよ、ミサトさん。」
「うう……シンちゃん、お願い。」
「はいはい。」

と、シンジが冷蔵庫から取り出した物を見てギョッとするアスカ。
なんとキンキンに冷えた缶ビールである。
二日酔いの相手に飲ませるなど、文字通りに酔狂の沙汰だ。

50: 2008/05/28(水) 19:02:23 ID:???
「んく……んく……んく……ぷっはぁぁぁぁぁぁぁっ!!
 やっぱり二日酔いの朝はビールよねぇ!よォーし、これで元気百倍よン♪」
そのミサトの有様にアスカはあきれ顔。
そして超特急で着替えを済ませてミサトは玄関へ。
「ンじゃー、行ってくるわ。あと、よろしくぅ!」

シンジは改めてアスカに向き直る。
「今のを見て判ったでしょ?
 状況に応じて、あるいは相手に応じてメニューとか考える必要があるんだ。
 今のミサトさんのビールが良い例だよ。お昼もそうだけど朝ご飯はもっと難しいから。
 そのためには相手をもっとよく知る必要があるんだ。加持さんの好みとかは?」
「た、多少は知ってるつもりだけど……そんなに色んなこと考えなきゃいけないの?
 理屈っぽいイヤな男ね、アンタ。」
「いや、それほど考えるってほどでもないよ。言葉にするからややこしいだけ。
 ま、難しいんなら素直が一番だよ、アスカ。」
「……素直。」
「そう、判らない時は判らない、どうしようって尋ねたらいい。ほら、さっきみたいに……」

(ぴんぽーん)
とその時、鳴り響く玄関のチャイム。
シンジが出迎えに立ち上がり、やってきたのはもちろんこの人。
「やあ、お二人さん。仲良くやってるかい?」
「加持さん!?」

シンジはニヤニヤしながら、アスカの肩をぽんと叩く。
「ほら、レトルトカレーはここに置いておくから頑張ってね。」
「ま、まさか加持さんが来るって知っていて」

51: 2008/05/28(水) 19:03:34 ID:???
「アハハ、実はいうとね。さっき電話で聞いてたんだ。
 ほら、僕の教えたことがさっそく役に立ちそうでしょ?僕はトウジ達と約束があるから。」
といって、加持と入れ替わりでシンジ退場。

「やあ、アスカ。」
「え、あ、あの加持さん……今日はどうしたの?」
「ああ、今日は俺も暇だしミサトが二人の面倒見てくれってさ。
 そっか。シンジ君は約束があるのか。お昼、どうする?」
「そ、そうね、えーと……えーと……」

流石のアスカもしどろもどろ。
無理もない、先ほどまでシンジとやり取りをしていたシチュエーションが訪れたのだから。

(どうしよう……なんて言えばいいのかな……えーと……えーと……)
「ね、ねえ加持さん。お昼はカレーでいい?その……レトルトだけど。」
「レトルトカレーか。ふーん……」
「え、あ、その……」
(や、やっぱり、レトルトなんてショボすぎ。あーん、どうしよ。
 もっと前から料理の練習とかしておくんだった……)
 
「ん?どうしたの、アスカ。元気ないね。」
「う、うん……あのね……」

 『素直が一番だよ、アスカ』

「あのね、加持さん……その……」
「ん?」


52: 2008/05/28(水) 19:04:58 ID:???
「……な、なんていうかさ、加持さん。
 いっぺん加持さんにお食事作ってみたいなー、なんて思ってたんだけど……
 アタシにはレトルトあっためるぐらいしか出来ないなーって思って……アハハ。」
「そっか……よし。」

と、いったんは椅子に腰を下ろした加持であったが、上着を背負って立ち上がる。
「なら、アスカ。俺が料理を教えてやるよ。二人で材料を買い出しに行こう。」
「ええええ!?ほ、ホント?加持さんがアタシに料理を教えてくれるの?」
「ああ、男の手料理とはいえ、ちょっとしたもんだぞ?何を教えてほしい。」
「え、えーと、うーんとね、うーんとね……」
「まあ車の中でゆっくり考えればいいよ。そうと決まれば着替えておいで。」
「ウン!」
(らっきぃ~☆一緒に台所で料理するなんて下手なデートよりずぅっと楽しそう!)

そして、アスカはおめかし完了。
「おいおい、そんなオシャレしなくてもスーパーに行くだけだぞ?」
「えー、それだけ?ね、ね、喫茶店ぐらい寄り道しようよ加持さん♪」
「ハハ、判った判った。じゃ、行こうか。」

とまあ、こんな感じでウキウキと加持の腕にからみつくアスカ。
が、ふと思い立ってテーブルの上に置き去りのレトルトカレーを振り返る。

(ありがと、シンジ。今回は借りとくね。)

(完)

54: 2008/05/28(水) 19:06:36 ID:???
以上ですー
前回に引き続いて、タイトルは「続・葛城家の食卓」
なんちってー
では失礼しましたー

68: 2008/05/28(水) 21:22:00 ID:???
「シンちゃんおはよー……
 んー、お味噌汁のいーにおーい。えーと、新聞来てる?」
「新聞ならここにある。」
「ん、ありがと……って、あなたは!!」

ミサトはここで初めて、葛城家の食卓に最大の珍客が訪れていることに気がついた。
「い、い、い、い、碇司令!」
「早朝から邪魔をしている。気にせず、くつろげ。」
「あ、あ、あの、ちょっと着替えて……」
「構わぬ。今からビールを飲むのだろう。
 本部のすれ違いざまで匂うから判っている。気にせずにやれ。」
「や、やれって……あの」
「構わぬ。それで作戦部長として存分に働けるのならな。」

さすがは碇ゲンドウ。くつろげ、というのも命令口調である。
普段なら、どんな相手でもたじろぐことはない鋼の心臓の持ち主、葛城ミサト。
しかし場所が場所である。
朝起きて、いきなり自分の台所に碇ゲンドウが立っていようとは誰も想像など出来はしない。
それも、食卓に座っているならまだしも、エプロンまで付けて味噌汁の鍋をかき混ぜているのだ。
もしここでミサトが、自分はまだ悪い夢を見ているのだ、といって布団に引き返したとしても無理はない。

で、ようやくミサトが周囲を見渡してみると、
シンジが神妙な顔をしてテーブルについている。
どうやら、父たる碇ゲンドウの作る味噌汁が出来上がるのを待っているらしい。
シンジは平然とした口調でミサトに挨拶する。

「やあ、ミサトさん。お早う。」
「お、お早うって……あの、シンちゃん。(ひそひそ)ねぇ、これは何事なの?」
「見ての通りだよ。父さんが味噌汁を作ってるんだ。」

69: 2008/05/28(水) 21:23:05 ID:???
ミサトは心配げにシンジの隣に座る。
「ね、ねえ……だから、何がどうして、どうなってんのよ。」
「だから、見ての通りだよ。ほら、ビール飲むんでしょ。」
と、シンジはパタンと冷蔵庫からビールを取り出しミサトに手渡す。
一見、平然としているように見えたシンジだが、その顔の眉間のしわが半端ではない。
口調も少しいらついているようにも……

こうなれば、ミサトの心も急速に落ち着きを取り戻し始める。
(親子の和解の場面……でもないかな。微妙な空気。
 ははあ、突然に押しかけてきた碇司令の行動にシンちゃん納得しかねている。
 そんなところか。)

などとミサトが考えているさなかで、碇ゲンドウはゆっくりと語り出す。
「シンジ。」

「……何、父さん。」
「お前は私にユイの写真は無いかと尋ねた。それに私は無いと答えた。
 事実、そうなのだ。そして、心の中に残っていればそれでいい、とも言った。」
「……」
「亡くした者への思いというのは、そういうものなのだ。写真など形骸でしかない。
 その者と接した時の思いを記せるのは自分の心、それだけだ。」
「でもね、父さん。僕は……僕は覚えてないんだ。母さんのことを何一つ知らないんだ。」
 
ミサトは二人をやりとりをビールの封も切らずにジッと見守っていた。
どうやら、相当にマジな話らしい。
この重苦しい空気はさわやかな朝には、まるで似つかわしくない。
その緊迫感に物音一つ立てれずできず、体を凍らせて二人のやり取りを聞いていた。

70: 2008/05/28(水) 21:24:17 ID:???
シンジは少しすねたような口調で続ける。
「僕は母さんのことを知りたいし、聞きたいんだ。
 それなのに……ずるいよ、自分だけ。心の中だなんて言って、何も教えてくれないじゃないか。」
「では、何か適当な写真を偽り、これが母親だと言えばいいのか。
 ありもしない思い出を語れと?それではお前の心は満たされやしない。」
「……」

「お前は知らぬ母のことを語れ、という。それは単なる興味本位でしかない。
 お前が知らぬことを語り、お前の興味を満たすのもよいかもしれない。
 だが……私は妻のことを、お前の母のことをそのように語るつもりは毛頭無い。」
そう語りながら、ゲンドウは出来上がったらしい味噌汁を椀についで振り返った。

ここで、ミサトは思わずプッと吹き出して笑いそうになる。
ゲンドウが付けていたエプロンには可愛らしいウサギのアップリケが付いていたのだ。
両手で口を押さえて後ろを向いて笑いをこらえるのに必氏だ。

「お前が知り、お前が見たものを、俺が語る。
 それで初めてユイのことを語り合うことができる。
 だが、お前は何も覚えていないという。
 ならば、お前とユイのことを語り合うことが出来るとするならば……」
そして、ゲンドウはコトンとシンジの前に味噌汁の椀を置いた。

「出来るとすれば、それはこれだけだ。
 飲んでみろ。間違いなく、ユイが作ったものと同じ味だ。」

シンジはしばらくの間、さらに神妙な面持ちで味噌汁を眺めていた。
が、やがて意を決して椀を両手に持ち、一口すすった。

71: 2008/05/28(水) 21:25:19 ID:???
「あ……。」
と、シンジは思わず声を漏らす。
その味噌汁の味にシンジは何を感じたか、何を見いだしたのか。

が、ゲンドウはそれを聞き出そうとはせずに、スルリとエプロンをといた。
「では私は行く。じゃあな、シンジ。」
「父さん……あの。」
「シンジ。私が父として、ユイの夫としてお前に出来ることはここまでだ。
 ユイに対する私の心は、この場に置いておく。」
「あの……あの……」
「もうこれからは、私を父と思うな。私はNERV総司令、碇ゲンドウだ。」

そう言って出て行こうとするゲンドウをシンジは引き留めようとする。
「ねえ、待ってよ父さん!」
「もう、父と思うなと言ったはずだ。」
「あの、今の味噌汁……
 ごめんなさい、母さんなのかどうかなんてやっぱり判らないけど……でも。」
「……」
「覚えておくよ。父さんの作った味噌汁の味を。」
「そうか……ではな。」
そう言って、パタンと扉を閉めてゲンドウは去っていった。

恐らく下に待たせていたであろう、一台の車が走り去る音が聞こえてくる。
そして台所には半ば呆然として椀に残った味噌汁を見つめるシンジ。

ミサトは少し間をおいて、静かに声をかけた。
「シンちゃん……どう?お母さんの味、思い出した?」

72: 2008/05/28(水) 21:27:03 ID:???
シンジは少し苦笑い。
「判らないよ。結局、これは父さんの味噌汁でしかないし……
 ……アハハ、朝早くから押しかけてきて味噌汁つくって帰って行くなんて、変な父さん。」
「ウフフ、確かにね。」
と請け合うミサト。そして、さらに。

「ホントよぉ!おかげでアタシが起きるタイミング外しちゃったじゃない!」
ガラリと障子を開けて現れたアスカ。
「ちょっと、バカシンジ?まさか朝ご飯は味噌汁だけとか言い出すんじゃないでしょうね?」
「ああ、待ってて。すぐ他のも用意するから。」
「ホントに何よあのバカ司令!部下の家に早朝から押しかけてくるんじゃないわよ!
 父さんの味を覚えておくですってぇ!?なんか、碇家の男達って気持ち悪い!」
そんなアスカの毒舌に笑って請け合うシンジの目は少し潤んでいたような。

結局、いつもの調子の二人を見守りながら、ミサトはようやくビールの栓をプシュっと開ける。
「あはッ!おかげで今朝のビールは一味ちがうわ♪」

果たして、母ユイの思い出をシンジは共有することが出来たのか。
その日、シンジのシンクロ率が最高記録をマークしたことは偶然では無いと思いたい。

(完)

73: 2008/05/28(水) 21:27:52 ID:???
おしまいですーおそまつさまー

99: 2008/05/29(木) 21:52:47 ID:???
がちゃり……

「ただいま、シンジ君。」
「あ、おかえりなさいミサトさん。晩ご飯できてるよ。」
「ありがと。」
「はい、ビール。」
「ん。」

と、私は制服のままでテーブルに着く。
そして、いそいそと出来上がった料理を並べるシンジ君。
あれ?そういえば、今日の当番は私だったかな。
でもシンジ君は気にせず当たり前のように夕食の支度を調えてくれる。
まあ……私が作るより自分で食べたいものを作った方が気持ちいいのだろうけど。

「いただきます。アスカは?」
「委員長と遊びに行ってる。ご飯は帰ってから食べるって。」
「そ。」
「……」
「……」

シンジ君を孤独にしてはいけない。
そんな思いで自分のマンションに巻き込んだけど……
これじゃまずいな。会話が適当になってしまってる。

しかし、私も対使徒の作戦部長を務める身の上。
今日は特に仕事のことで頭が一杯、気持ちはもう鞄の資料に向かっている。
新しく建造されているエヴァの参入、今後の戦闘態勢における戦自との共闘体制の改善、
頭に叩き込んでおかなければならない事項が山ほどあるのだ。ぼんやりしてはいられない。


100: 2008/05/29(木) 21:53:44 ID:???
「ごちそうさま。」
と、ビールを一気に飲み干して立ち上がり、そのまま服を脱ぎながら風呂場へと向かう。
さっと湯で体を流した後、ビールをもう一缶、手にして部屋に直行。
シンジ君も心得ていて、そんな私に何も言わず背を向けて台所を片付けている。
思えば、最近のシンジ君は実に安定している。むしろ私が甘えているかのようだ。
これもひとえに彼女のお陰といっても過言ではない。

(たっだいま~!あー、お腹すいたぁ!)
(ご飯たべる?)
(もち!)

そのアスカが帰宅したようだ。襖を通してにぎやかな彼女の声が聞こえてくる。
一見、シンジ君にとって眉をしかめる存在に見えるのだが、
アスカのお陰で彼の孤独が癒やされているのは間違いない。

(えー、また揚げ物?しかもこれ、冷凍のエビフライじゃないの。)
(仕方ないだろ。僕も忙しいから買い置きの食材で済ませるしかしょうがないじゃないか。)
(でもさぁ、昨日はコロッケだったじゃん。もっと献立を考えてよね。)
(なら、いいよ。無理に食べてもらわなくったって明日のお弁当に回せるから。)
(アタシを晩飯抜きにしようっての?貸しなさいよ。)

「山嵐のジレンマ」などという言葉で、リツコはシンジ君を例えたことがある。
相手を傷つけることを恐れて人と接することが苦手になってしまう。
経験を重ね、上手に相手に干渉せずにすむコツを学ぶしかないのだけれど……
しかし、アスカとの関係はまったくの逆で効果を発揮している。

(あのね、アスカ。僕はアスカと同じように学校に行ってエヴァに乗って戦ってるんだよ。
 その上、ご飯の献立まで工夫しろっていうの?むちゃくちゃ言わないでよね。)

101: 2008/05/29(木) 21:55:16 ID:???
(あーら、家事をさせてあげてるお陰で、アンタはここに居られるってこと判ってる?
 同じエヴァのパイロットだと言っても、格が違うことを考えなさいよね。)
(あのねぇアスカ……もう頭にきた。ちょっと、それ貸して。)
(ちょ、ちょっと!アタシのエビフライをどうするつもり!)

アスカは十分に反撃が出来る余地をシンジ君に与えているようにも見える。
実際、エヴァの操縦技能はともかく、シンジ君の方が戦績は上。
パイロットとしての格の違いなどありはしない。
つまりアスカはシンジ君に自信を持って遠慮無くぶつかって来いと言ってるのだ。
アスカが故意にそうしているかどうかは本当のところは判らないけど、
二人のバランスが取れているのは間違いない。

(お鍋に出汁を張って、みりんに醤油にタマネギスライス、それから)
(ちょ、ちょっと止めてよシンジ。まさか……)
(エビフライ入れて溶き卵かけて、と。ほーら、完成!エビフライ丼の出来上がり♪)
(……ちょっと何これ?気持ち悪い。犬のえさ?)
(ふふん、食べてみれば判るさ。)
(な、なによ、その自信ありげな顔。)

でも、危うい。
互いにじゃれ合っているうちは良いけれど、本気で相手を攻撃する関係にもなりかねない。
心の奥底に相手を認めて優しい気持ちを持つ余地があるならいいけれど、
果たしてそんな大人の感情を二人が持つことが出来るかどうか。

(もぐもぐ……もぐ……ん、んく……)
(あ、その顔。ね?意外と旨いでしょ。)
(お、お、お腹減ってるんだから何でも美味しいに決まってるわよ!)

102: 2008/05/29(木) 21:56:46 ID:???
(あ、美味しいって言った。)
(こ、このバカシンジ……言葉尻を捕まえて……)

やれやれ、そろそろヤバイか。

(がらっ)

「んー、アスカ。ずいぶん美味しそうなもの食べてるじゃない。
 あーん、私もそれにして貰えばよかった。ね、ね、アスカ。半分ちょーだい。」
「だ、ダメよミサト!アタシを飢え氏にさせるつもり?」
「はいはい。腹ごしらえが終わったら、みんなでカラオケでも行く?加持とかみんなを集めて。」
「ホント?加持さんも来るの?」
「多分、今夜は暇してるんじゃないかな。ほら、さっさと食べてしまいなさい。」
「はぁーい♪」

さてと、そうと決まれば電話、電話、と。
ぴっぽっぱっ……ん?

(何?シンジ君)
(ミサトさん……忙しいんじゃないの?)
(私も仕事ばっかでうっぷん貯まってんのよ。よし、シンちゃんのためにレイを呼ぶかな。)
(えー!?綾波って歌ったりするの?)
(うふふ♪期待してて。)

シンジ君、ちょっと可愛くない反抗的な14歳。でも、レイが相手となると少し優しい顔になる。
アスカとの関係もいいけれど、レイとのなごやかな触れ合いもまた、彼にとって良い薬になっているはず。

103: 2008/05/29(木) 21:57:42 ID:???
「でも、アスカ。さっき帰ってきたばっかじゃない。疲れてないの?」
「へぇーきよぉ!ほら、シンジもさっさと着替える着替える!」
「わかったよ……そうだ、トウジ達も呼ぶかな。」
「止めなさいって。3バカそろったらバカが階乗倍でランクアップしてしまうわ。」
「ちぇっひどいなアスカ。」

何がともあれ、シンジ君とアスカはなんと言っても14歳。
傷つけあう男と女の関係を突き詰めるには、あまりにも早すぎる。
この調子で、ある程度は互いに距離を置かせた方が良い。

ましてや、私達には恋愛に没頭する余裕などありはしないのだ。
なにしろ私達の仕事に世界の命運がかかっているのだから。

「シンちゃん、構わないから3バカトリオでも洞木3姉妹でも誰で呼んじゃいなさい!
 今夜はパァーッと騒ぐわよ!」
「よぉーし、ヒカリも呼んじゃお!第2ラウンド開始ってね!」
「ま、まさか、アスカ。昼間もカラオケに行ってきたんじゃ……」

しかし。

シンジ君にアスカ、そしてレイ。
彼らの関係こそ、世界の命運を決するような……

それは少し考えすぎかな。

(完)

104: 2008/05/29(木) 21:58:21 ID:???
終わりっすー
気が向いたら、またダラダラ書いてみますー

106: 2008/05/29(木) 22:42:28 ID:???
GJ!
よく次々と思いつくなw

125: 2008/05/30(金) 23:20:08 ID:???
「ふあ、あ、あ……」
「おはよう、ねぼすけさん。」
「ん、あれ……寝ちゃってたのか。」
「そんなにお昼寝しちゃ今夜は寝られなくなっちゃうから。」
「アハハ、そうだね。って……き、君は!」

ここは葛城家の居間。
そこで居眠りをしていたシンジの目覚めを見守っていたのは?

「あ、あ、綾波!?」
「おじゃましてます。不用心ねぇ、鍵がかかってなかったわよ?」

まさしく、「レイ」がシンジの側に立っていた。
いつもの制服姿の彼女は、いそいそとエプロンを付けて台所に向かい、
冷蔵庫やら戸棚の物色しはじめている。

「ちょっとまってねシンジ。今から美味しい物を作ってあげる。
 小麦粉に、うーんと……あ、リンゴ。」
「あの、あのね、綾波、その」
「ビールは沢山あるんだけど……あった、あった。白ワイン。」
「あのさ、綾波。ちょっと待って」
「綿棒はさすがにないわね。あ、これで代用できるかな。あと、重さを量らないと……」
「だから、ちょっと待ってよ!君は誰!?」

溜まりかねてシンジは大声で問いかけた。
そんな彼をレイは手を止めてまっすぐ見つめる。
少し、微笑みを浮かべながら。


127: 2008/05/30(金) 23:21:16 ID:???
「シンジ。」
「……え?あ、あの」
「今は黙って、私の好きにさせてくれない?」
「え、あ……」

ここまでのところで――
「綾波レイ」の正体が誰なのか、もはや察しが付いた人もいるだろう。
彼に甘く優しく「シンジ」と呼びかける女性はそう、ただ一人。
しかしシンジが判るはずもない。なにしろ、彼は何も覚えていないのだから。

「あのさ、綾波……いや、なんて呼べばいいのかな……その……」
「綾波でいいわよ。パイを焼くなんて久しぶり。分量はこれでよかったかな。」
「あ、あの……僕、手伝うよ。」
「あら、料理が出来るの?偉いのね。でも今日はゆっくり見てなさい。疲れてるんでしょう?」
「う、うん……」
「卵黄をペタペタ塗って、オーブンに……あらぁ?このオーブン、さては使ったことないな?
 シンジ、オーブンってね。電子レンジ並にいろいろ使えるんだから。」
「うん……」
「手間がかかるようで即興のお料理するのに便利なのよ?いろいろ教えてあげたいけど……
 今の私が出来るのはここまでかな。ウフフ、ずいぶん卵とか使っちゃった。ごめんね、シンジ。」
「うん……」

彼女がふりまく暖かい空気の中で、次第にシンジの疑惑に満ちた目が和らいでいく。
いつもの制服姿に蒼い髪、そして紅いまなざし。
目の前にいるのは、まごうことなく綾波レイ。
しかし、多弁で優しく語りかける彼女は、まったくの別人としか言いようがない。
愛しい相手を愛でるかのような彼女の笑顔は、普段のレイが持ちうるはずのないものであった。

128: 2008/05/30(金) 23:22:14 ID:???
あとは焼き上がりを待つだけらしい。
「レイ」はエプロンを外しながら、シンジの側にトンっと腰を下ろした。
その遠慮のない距離にシンジはドキリとする。
中身がどうあれ、同い年の女の子に側に寄られて動じない男の子は居ない。

「シンジ、気になってたんだけど……ちょっと爪を見せて。」
「へ?いや、あの」
「ダメよ、ちゃんと切らなきゃ。ほら貸しなさい。」
「い、いや、自分で切るから、あ……」

戸惑うシンジの腕をぐいっと自分の体に巻き込む「レイ」。
「レイ」は平然と、むしろ楽しそうにパチン、パチンと爪を切る。
シンジの方は、これまでにない体の触れあいに頭の中が大変なことになっているのだが。

そして、足の爪までヤスリにかけた「レイ」は満足そうにニッコリ笑う。
「はい、綺麗になったわよ。そーだ、ついでに耳掃除もやったげる。ほら、横になって。」
「え、いや、もういいってば。」
「ちょっと、なんで離れちゃうの?耳掃除といえば膝枕でしょ?えいっ!」
「わ、と、と、と……」

まさしくフルコースである。
こうしたサービスなら、お金を払ってまで受けたい男性諸氏も間違いなく居ることだろう。
ほとんど上手投げをかけるようにシンジを押し倒した「レイ」は、
あらかじめ準備していたのだろう耳かきを手にして、うきうきとシンジの耳を探り始める。
優しい語りかけと共に。

「忙しいのね、シンジ……こういう細かいところを見てれば判る。」
「う、うん……」

129: 2008/05/30(金) 23:23:24 ID:???
「ちゃんとお休み取れてる?無理をしちゃダメよ。なんといっても体が大事なんだから。」
「うん、だから今日は……」
「お昼寝してたのね。いいのよ、それで……このまま、もう一眠りする?」
「うん、そうだね……」
「よし、もう片方。反対を向いて……ん?」

そのとき、シンジはようやく落ち着きを取り戻したのか。
体を起こして「レイ」の顔をまっすぐに見つめる。それも鼻の頭が触れ合いそうな距離で。

「シンジ、どうしたの?」
「綾波……あの、その……」
「シンジ……もしかして、私とキスがしたいの?」
流石は女性、こういう勘はするどい。

「レイ」にとって、自分の振りまく優しさは当然の行為らしいのだが、
しかしシンジにはまだその正体がつかめていないようだ。
一説に、男は最初に見た女性に恋に落ちるという。
ならば、シンジの衝動は無理もない、と言わざるを得ない。
そして、今の彼女の姿形は「綾波レイ」なのだから。

「綾波……その……」
「私とそういうキスをするのはちょっと変なんだけど……」
「……?」
「ま、いいわ。こんなことは、もう二度と無いかもしれないし。」
「あの……それは……」
「ううん、いいの。それじゃ、シンジ……ん……?」

(どたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたどたばたっ)

130: 2008/05/30(金) 23:24:24 ID:???
玄関の外から聞こえてくるすさまじい足音に、「レイ」は思わずシンジから視線をそらす。
どうやら彼女は感づいているらしい。間違いなく、ここにやってくる足音だ。

ばたんっ!!

と、もの凄い騒音で開けられた玄関の扉。
流石のシンジもその物音に振り返る。
さて、そこに現れたのは?

「り、リツコさん!」
「……ッ!!」

NERV技術部部長、赤木リツコ博士。
普段はクールな笑みを浮かべる才女として名を轟かせている彼女だが、
今の赤木博士はもの凄い形相で、居間に座る二人を睨み付けていた。
そして一気に駆け寄り、シンジの首筋に何かを押し当てる。

ばちっ!!

「きゅう……」
「ちょっと、シンジ?シンジ!?……もう、赤木博士?無茶をしないで。」

「レイ」の憤慨に対して、リツコはフンっと鼻を鳴らしただけである。
彼女が手にしているもの、それは無骨なスタンガン。

「それにしてもよくここが判りましたね、赤木博士。」
「あなたに眠らされなければ、もっと早くここに来れたんですけどね。」
「ウフフ、ばればれというわけですか。」

131: 2008/05/30(金) 23:25:45 ID:???
「レイ」はにこやかに請け合うが、リツコの表情は厳しい。
どうやら、彼女にとってあってはならぬ事態らしい。

「さあ帰りますよ。今のあなたは残念ながら過去の人です。これ以上、シンジ君に影響を与えられては困ります。」
「判っています。でも、私としては、こうせずには居られなかった。」
「気持ちは判ります……あいにく、私は子供をもったことはありませんが。
 それにあなたは『本人』ではありません。残念ながら、あなたは同じ記憶を持っているだけのまったくの別人。」

「レイ」はそれを聞いて、寂しげな溜息をもらす。
「そうですね……私を『処分』するのですね?『綾波レイ』の不良品として。」
「はい。抵抗するなら、この場で。」
「カーペットを血で汚しては大変。戻りましょう。」
「大丈夫、楽にすませます。車を待たせてますから……何も、痕跡を残してませんね?」
「はい、シンジは夢を見たんだと思いこむでしょうね。上手くいけば、ですけど。」

そしてリツコは振り返って玄関に向かい、「レイ」は素直にそれに従う。
気絶したシンジ一人を置き去りにして。
だが、「レイ」は最後に振り返って一言。
「元気でね。短い時間しか一緒にいられなかったけど……
 本物の『私』が必ずあなたを見守っているから。」

そして。

「……いい加減に目をさましなさいよッこのバカシンジ!」

優しさの欠片もないアスカの怒鳴り声で、ようやくシンジは息を吹き返した。
みれば外行きの格好をしたアスカにミサトが、自分のことを見下ろしている。
シンジはぼんやりした頭を振って、ようやく今の状況に気づき始めた。

132: 2008/05/30(金) 23:26:53 ID:???
「ああ、えーと……おかえりなさい、アスカ。」
「おかえりなさい、じゃないでしょ?晩ご飯の準備しておきなさいってあれほど言ったのに!」
「え、ああ、その、ごめんよ。今から作るから。もうハンバーグのタネは作ってあるし、それに……」
「私、いらない。さよなら。」
アスカとミサト、その二人の間からボソリとつぶやいたのは、珍しくも姿を現した綾波レイであった。

「あ、ちょっと……」
と、シンジは引き留めようとするが、レイは早くも背を向けて玄関の扉を開けた。
その素っ気ないそぶり。シンジに対して一瞥もくれたかどうかも判らない。
シンジが「夢」の中で見た「レイ」とはまるで雲泥の差。

(そうか……うたた寝をして夢をみたんだな。良い夢だけど……ちょっと残酷だよな。)

「ちょっとファースト?これ、アンタのために見立ててあげた服なのよ?もって帰りな」
(ばたん)
買い物袋を振り回して引き留めるアスカには振り返りもしない。
返事は玄関の扉が閉まる音だけ。

「ンもう!ファーストの人付き合いの悪さは判ってるつもりだったけど!ったく……
 シンジ?これ、明日で良いからあの子に持ってってあげてよね。」
「え?ああ、いいけど……」
「それにさ、あの子を肉嫌いは知ってるはずでしょ?なんでハンバーグなんて言い出すのかな……」
「いや、豆腐で作ったヤツも用意してたんだけどね……と、とにかく二人とも待っててよ。すぐに用意するから。」

そう言いながらエプロンを締めて台所に向かう。
そうしていつもの日常を取り戻し、既に「夢」から冷めたようにもみえるシンジだが。

133: 2008/05/30(金) 23:27:59 ID:???
材料を冷蔵庫から取り出しながら、シンジはひと思案する。
(オーブンかぁ……試してみたかったんだよな。焼きながら別のことだって出来るんだし。
 でも、ちょっと怖いな。アスカのあの調子じゃ、失敗を許してくれそうもない。)

やはり夢で見たことが頭から離れないようである。
あの「レイ」と過ごしたひととき、今にもパイを焼く甘い香りが漂ってくるかのよう。

(ん……この香り……)

シンジは鼻を上に向けて、露骨にクンクンとにおいをかいだ。

(まさか……まさか……)

思わず、シンジはオーブンの扉をガチャリと開ける。
そこには――

諜報部の仕事は万全でなければならない。

そこには焼き上がったアップルパイなど、何一つ無かった。
そう、あれは「夢」なのだから。

(完)

134: 2008/05/30(金) 23:29:10 ID:???
以上ですー
皆さん、読んでくれてありがとー
でも、うちのプロバはやたら規制されるから、書けなくなっちゃったらごめんねー

168: 2008/06/01(日) 17:37:07 ID:???
「また……」
帰宅したミサトは、居間に座っている珍客をみて溜息をついた。
もう予想外の人物が訪れることに次第に慣れてきたらしい。
見慣れた居間には巨大な将棋盤が置かれ、それに向き合う二人の人物。
それは惣流アスカ・ラングレーと冬月副司令であった。

その側、食卓のテーブルに座ってジッと見守っているシンジ。
ミサトと目が合うと、やれやれ、というかのように肩をすくめる。
その様子からして、物音ひとつ立てれない緊迫した空気にうんざりしているようである。
それほど二人の将棋指しは真剣であった。

とりあえず、二人が将棋を指す経緯を説明をするとすれば――
NERV本部で戦闘待機中、
待ち時間が長すぎて暇をもてあます、
詰め将棋で時間をつぶしていた冬月の将棋盤をアスカがのぞき込む、
知的好奇心の旺盛な彼女は駒の動かし方から教わり始める、
NERV本部内では勝負がつかず冬月訪問……と。
まあ、こんなことは適当で良いだろう。
それで冬月と対等に指せる彼女は驚異的と言わざるを得ないが。

ミサトはギリギリまで近づいて盤上の駒に目を滑らせる。
見れば、そろそろ終盤に近い局面であった。そしてアスカの方が形勢は不利。
彼女の「玉将」は左右から包囲されつつあり、その一方で冬月の堅い守りは今だ健在。
アスカはミサトの帰宅に気がついていないのか、
おかえりなさいの一言も言わずに眉をピクピクと引きつらせて盤上を睨み付けている。

やがて、アスカはバチンという大きな音を立てて一手を指した。
どうやら攻めに転ずることが出来ず、「玉将」を避難させるしかなかったようだ。
「はい、どうぞ!……シンジ?ぼーっと見てないで、お茶のお代わりぐらい煎れたらどう?」

169: 2008/06/01(日) 17:38:28 ID:???
かなり気が立っている。下手に物音を立てれば猛然と噛みついてくるだろう。
一方、冬月の方はそんなアスカが面白くてたまらないように、ニヒルな笑みを浮かべている。
余裕がある。盤上の駒を見なくても、この二人の顔つきだけでどちらが優勢なのか判るくらいだ。

(しぶしぶ)シンジが入れ直したお茶を、冬月は笑って受け取る。
「ありがとう。いや、君がこれほど旨いお茶を煎れれるなんて意外だよ。
 うちの女の子達に指導してほしいくらいだ。」

そして、ずずっという音を立ててお茶をすする。
日本人なら何とも思わないが、外国育ちのアスカには気に障るはず。

(副司令、まさか……アスカにゆさぶりをかけている?)

アスカの眉がまたしてもピクピクと動く。
しかし、大した文句も言えない。そんな暇があるなら手筋を読んでいた方がマシだ。
ましてや今は冬月の手番。けして指す相手を邪魔している訳ではないのだが。

冬月の名調子はまだ続く。
「この前の使徒殲滅の作戦行動、あれはシンジの大手柄だったね。
 聞けば訓練などの成果も上がっていると聴く。上層部としては心強い限りだよ。」
「無駄口きいてないで早く指したらどう?」
と、たまりかねて口を挟むアスカに、苦笑いで冬月は盤上に手を伸ばす。
「いや、すまない。さて、これでどうだ。」
と、パチンと駒を指した。じわり、じわりと玉将に詰め寄る冬月の手駒達。
「ちっ……」
アスカは思わず舌打ちした。そして持ち駒の「銀将」を手にして自分の「玉将」の側を守らせる。
またしても防戦。今だ攻めに転ずることが出来ないアスカ。

170: 2008/06/01(日) 17:39:34 ID:???
(姑息……いや、狡猾といってもいい。副司令のゆさぶり、間違いなくアスカに効いている。)

ミサトは盤上を読みながら考える。
(副司令……意外と小ずるいのね。そんな心理戦を使ってまで勝ちに行きたいなんて。
 ライバル視しているシンジ君を讃えることで、アスカのプライドを刺激している。
 手筋を読む彼女の頭の中に、さぞ雑音が入り込んでいることだろう。)

そしてミサトは腕を組んで頭をかしげる。何か腑に落ちないようだ。
(でも、なぜ?明らかに副司令の方が優勢、そこまでしなくても勝利は目前のはず……
 ということは?アスカに勝ち筋があるのね?)

やがて、その疑念はNERV作戦部長としての闘志に変わる。
(アスカのこの苛立ち方はまずい。このまま負けては、彼女は最悪の夜を迎えてしまう。
 同居人としてはそれは避けたい。
 なんとしてでもアスカに冷静さを取り戻させて、勝たせてあげなければ。)

しかし、それをどうやって?
(外野から出来ることといえば……よし、むしろ更に押して怒りを発散させればいい。)
手早く方針を固めたミサトはシンジの方に目を向ける。
ん?という顔付けで見返すシンジ。どうやら、アイコンタクトを始めることに気がついたようだ。

ミサト、二人の方を見て、またシンジの方を見る。
(シンジ君?あなたがなんとかしてあげなさい。)

シンジ、軽く首を横に振り、溜息混じりで目を伏せる。
(確かに困るよね……冬月さん、このまま居座って晩ご飯まで食べていくつもりかな。)

ミサト、アスカの方にあごをしゃくって見せる。
(いえ、あなたが動けば必ず効果がある。アスカをちょっと刺激してみてくれない?)

171: 2008/06/01(日) 17:40:26 ID:???
シンジ、今度はプルプルと首を振った。
(だ、ダメですよ。今日の晩ご飯は、かっきり3人分しかないんだから。)

ミサト、軽くうなずいてから、再び強くあごをしゃくる。
(不完全燃焼しているよっぽどマシよ。さあ、やって!)

シンジ、肩をすくめる。
(しょうがないなぁ……わかったよ。行ってきます。)

そしてシンジはしずしずと玄関の方に向かい、思わずミサトは声を出して引き留める。
「あ、あの、シンジ君?」
「そこのスーパーだから、すぐ帰ってきますよ。」
「いや、あの……」
「すまんが、静かにしてくれんかな。」
と、二人をたしなめたのはアスカではなく冬月の方だった。
で、シンジ退場。

失敗である。
元通りに目を閉じて笑みを浮かべる冬月と、さらに眉を引きつらせただけのアスカ。
形勢になんの変化もない。

ミサトは、あーあ、と溜息をつく。
しかし、所詮はゲームである。負けてアスカが不機嫌になったところで怪我人が出るわけじゃなし。
さて、敗者に送る慰めの言葉を考えよう、とミサトがアスカを振り返ったその矢先。

「ん、ん、んんん……?」
妙な声を漏らし始めるアスカ。先程とはまるで顔つきが違う。
盤上を見つめるその目は丸く見開かれ、輝きを取り戻し始める。
(アスカ、もしや……ついに勝ち筋を見つけのね?)

172: 2008/06/01(日) 17:41:33 ID:???
そして、ついに動いた。
アスカは虎の子、大駒の「角行」を手にして盤上の隅にパシン!
その一手に冬月は思わず、ほう?という溜息を漏らす。
そしてアスカは力図よく促した。
「どうぞ!」

さて、結果。

冬月は苦笑いで手にした持ち駒をバラバラと盤上にばらまいた。誰の目にも明らかな敗北宣言である。
そして、いつものアスカなら声高に勝利宣言をするところだが、勝利の実感に身震いしているのだろう。
腕を組み胸を反らして大きく鼻をひろげ、満面の笑みで「ふぅっ」と息を吐くのみにリアクションをとどめた。
今の彼女は、まさしく本物の満足感を得ているのだ。

あれほど追いつめられていた状況から逆転勝利したのだから無理もない。
もう自分の「玉将」が摘み取られる寸前のところで、打ち込んだ「角行」を起点に強行突破を開始。
強固に見えた冬月の陣は見事に崩し、ついに彼の「王将」をねじ伏せたのだ。

(見事な逆転劇だったけど……アスカ本人の変化は何?もしや……)

勝負が付いて、上着を片手に立ち上がる冬月。
アスカもまた見送るために腰を上げた。

「いやあ、見事だったよ。これほど良い将棋が指せるとは思わなかった。」
「いえいえ、それほどでもありませんよ副司令。」
「また勝負したいな。こんどは本格的に制限時間をつけてみるかね?」
「うふふッ望むところです!」
「では失礼させてもらうよ……あ、ちょっと。」
と、冬月はミサトの側まで来てささやいた。

173: 2008/06/01(日) 17:43:01 ID:???
「葛城君。どうやら、私のサインに気がついたようだね。」
「あ……もしやシンジ君を追い出すために……」
「そうだ。私が睨んだ通り、アスカ君は彼が居ない方が良い仕事をするようだ。」
「……あ。」
「今日のことを踏まえて、二人の作戦行動における考察をレポートにして提出したまえ。
 棋譜が必要なら、後日わたそう。」
「え、あ、ちょっと……」
「では帰るよ。シンジ君によろしく。」

アスカが上機嫌なのは良いとして、結局ミサトにとって災難が降りかかる結果となったようだ。
まあ我が身の不運などはともかく、確かに二人のパイロットにとって重要な課題であるだろう。

(幼少の頃、エヴァのパイロットに認定されて様々な訓練で好成績を残してきたアスカ。
 でも、日本に来てシンジ君に出会い、実戦の戦績はシンジ君に一歩譲る状態であり……)

ミサトは神妙な顔つきで考える。
そこにシンジが帰ってきた。上機嫌のアスカはさっそく結果を伝えて高笑い。
しかし――

(アスカにとって、シンジ君は居ない方が……良い?)

シンジとアスカ、ぶつかり合いながらも良い関係を築けると考えていたミサトには意外な結果だ。
やはり、男と女の関係はロジックでは掴めないようである。

(完)

注:羽生VS中川の逆転劇をなんとなく参考にしました

179: 2008/06/01(日) 21:46:57 ID:???
「えっと、ごめんください……」
と、玄関の扉を開けて入ってきた人物。
それは私服姿の伊吹マヤ。

「鍵は開いてるし……だれも居ないのかな。」
と、なんとなく不法侵入している気分で忍び足の彼女は、そのまま居間へとやってきた。
そこの平たいテーブルに向こう向きで座っている一人の少年、碇シンジ。
そう、ここは葛城家の居間。

シンジはどうやら素麺を食べているらしい。お箸片手で白い麺の山が目の前にある。
耳には巨大なヘッドホン。シャカシャカという音が遠くからでも聞こえてくる。
(ははあ、それでチャイムの音に気がつかなかったのね?)
そう悟ったマヤはシンジに声をかけず、勝手知ったるミサトの部屋へと向かう。
どうやら帰り道にお使いで立ち寄ったらしい。
分厚い書類の封筒を鞄から取り出し、彼女の化粧台の上に置いた。
(これでよし。このままシンジ君に何も言わずに帰っちゃおうかな?)
などと考えながら居間に戻ってきてみれば、やはりシンジは気がついていない……ん?

がちゃん!

(え!?シンジ君?)
見ればシンジは、素麺に顔を突っ込むようにしてテーブルに伏していた。
(ど、どうしよう。何かの急病?)
慌ててマヤは駆け寄り、シンジの体を助け起こす。

「シンジ君?ねえ、シンジ君?」
そして顔をペチペチ。手早く首筋に手を添え脈を取り、胸に耳を当てて鼓動を確認……


180: 2008/06/01(日) 21:47:47 ID:???
「ZZZ……」

寝ているだけであった。
「なんだ……びっくりさせないでよ、シンジ君……」
ほっと胸をなで下ろすマヤ。
やれやれ、とシンジからヘッドホンを外して仰向けに寝かせる。
そして素麺だらけの顔をハンカチでぬぐってやりながら、もう一度ペチペチ。
「ねえ、シンジ君。大丈夫?」
が、シンジはよほど疲れていたのか目を覚まさない。

(しょうがない。寝ているだけなんだし、このままほっといても大丈夫かな。)
と、立ち上がろうとするが、ふとテーブルの上に置かれためんつゆの器に目をやった。

ゴクン、と思わずのどを鳴らす。どうやら空腹らしい。
(ちょっとだけ味見しちゃおうかな……)
よせばいいのに、器を手に取り一口すすってみた。
(ん、おいしい。もしかしてシンジ君の手作りかな……あれ?あ、きゃっ……)
するりと手から滑り落ちる、めんつゆのガラスの器。

「あ……」
やれやれ、マヤの真下で寝ていたシンジにめんつゆをこぼしてしまったのだ。
シンジの頭から顔、そしてシャツまで焦げ茶色の悲惨な状態である。
「ど、どうしよう。あの、ごめん、シンジ君……」

が、これほどの状況にあってもシンジは目を覚まさない。
何事もなかったかのように、すやすやと安らかな寝息を立てている。
のび太から免許皆伝してもらいたいほどに見事な居眠りっぷりである。

181: 2008/06/01(日) 21:49:05 ID:???
(よ、よし、今のうちに着替えさせてあげきゃ。えーと、シンジ君の部屋はこっちだったかな。)
と、マヤは部屋を物色し始める。
どうやら目を覚ます前に状況の改善、むしろ無かったことにしてしまいたいのだろう。
起こして素直に謝った方が話は早いと思うのだが、自分が汚してしまったという罪悪感もある。
……いっそのこと、そのまま逃げてしまえばいいのに。

新しいシャツを片手にシンジの上着を脱がせようとするマヤ。
しかし、それだけではすまない。顔や髪の毛までめんつゆで汚れているのだ。
シンジの体からカツオと醤油のにおいがプンプンしている。
「うう、こればっかりはシャンプーしないと落ちないなあ。あ……」
「う、う、う~ん……」

シンジは身じろぎを始めている。流石に目を覚ましたようだ。
「え、あ、ど、どうしよう……えい!」
と、マヤは手早く鞄からスプレーを取り出してシンジの顔にプシュッ
「う、う~ん……ZZZ……」
「あ、ああ……私は何をやってるんだろう……」
また眠らせてどうするのだ。いや、それ以前に何故そんなものをもっているのか。

「よし、もうこうなったら後に引けない。」
そしてシンジの両脇に後ろから手を入れて担ぎ上げ、ずるずると引っ張っていく。
そう、目指すは浴室へ。
「ほっといたら、目を覚ましたシンジ君が可哀想だものね。仕方ないよ。うん、仕方ない。」
まるで誰かに言い訳するようにつぶやきながら。

上着を脱がしたのはいいけれど、あとはどうするつもりだ、マヤ。
「下はちょっと……でもなぁ、びしょぬれになっちゃうし……うーん……」

182: 2008/06/01(日) 21:50:03 ID:???
しかし、乗りかかった船。どうやら意を決したようである。
「ごめんね、シンジ君。見ないように気をつけるから……できるだけ。」
と、聞こえていないはずのシンジに謝りながらズボンに手をかける。
ついでに用心のために、もう一度スプレーをプシュッ
まあ、確かにここで目を覚まされたら大変だけど。

そして自分は袖と裾をまくりあげ、なおも眠り続けるシンジにシャワーを浴びせ始める。
(……はあ。私って何をやってるんだろ。)
いまさら気がついてももう遅い。それに、のんびりしては居られないはず。

『ばたん……』

(!?)
風呂場の外の物音にビクリとする。
それ見たことか。とうとう他の誰かが帰ってきたのだ。
『たらいまぁ~……ひっく!……シンちゃん、アスカぁ、いま帰ったぞぉ~……ひっく!』

ミサトである。それもへべれけに酔っぱらっているようだ。
(ど、ど、どうしよう。こんなところを見つかったら、大変なことになってしまう。)
だから、いまさら気がついても。

『ん~、どこにいったのかなぁ~、あーシンちゃんお風呂に入ってるんだぁ~覗いちゃおっかなぁ~』

さあ大変だ。ピンポイントでミサトがここにやってくる。
(どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……)

で、どうする?
(シンジ君と二人でお風呂場にいて自然に振る舞うには……そうよ、これしかないわ!)
マヤは威勢良く自分の服を脱ぎ捨てた!

183: 2008/06/01(日) 21:51:52 ID:???
がちゃっ

「シンちゃ……あれ、マヤ。」
「それじゃ、シンジ君。次は背中を流すわね?えー、私が前も洗うの?やだぁ♪」
「あの……マヤ、何やってるの。」
「ハイ!シンジ君とお風呂に入ってるんです!」
「あらそうなの、それじゃごゆっくり。」
「ハイ!」


ばたん……


「ふー、うまくいったかな?って……あれ?

 えーっと……………………………………あれ?

                               ああああああああああああああああああああッ!!」

ようやく熱から冷めたようだ。
徐々に自分がしたことを理解し始め、顔面蒼白になりつつあるマヤの顔。
もはや、この状態では「私、シンジ君とデキてたんです」とでも言うしかないではないか。

(こ、こうなったら……こうなったら……)
もはや病的な形相で右手にシャンプーの巨大な容器、左手は例のスプレー、
そしてバスタオルを胸から巻き付ける。

(先輩、私を守ってください!もう、こうなったら私は行くところまで行くしかないんです!)

184: 2008/06/01(日) 21:53:04 ID:???
そして風呂場の扉を開けて、向こう向きで腕を組んで首をかしげているミサトに突撃!

「葛城さんごめんなさいっ!えーいっ!!」


数日後。

「うーん、あれは変な夢だったなぁ。ね、ね、聞いてよリツコ。」
「ん、どうしたのよ。」
「家に帰るとマヤがシンジ君とお風呂に入っててね。」
「えー、そんなぁイヤですよ葛城さん。」
「マヤ、だから夢の話だって。」
「なーんだ、でも何でそんな夢を……」

葛城家で開かれた飲み会で、そんな話を始めるミサト。
どうやらマヤは勝利したらしい。
あの後、シンジの服を洗濯したりして大変な思いをしたのだが、その努力は報われたようだ。
(引いてもダメなら押してみろ、とも言うし。そうだ、私の判断は正しかったのだ。)
と、ようやく胸をなで下ろすマヤ。
この数日間、眠れぬ夜を抱えながら震え上がるような思いでMAGIの端末に向かっていたのだが。

マヤはやっと心から笑えたような気分で、
つまみを持ってきたシンジからお皿を受け取り、にこやかに礼を言う。
「ありがとうシンジ君。本当に料理が上手いのね。」
「いえ、その……とんでもないです……」
「……?」

なぜだろう。シンジの頬が赤い。

185: 2008/06/01(日) 21:53:58 ID:???
マヤはハッとなって鞄を開き、そこに詰め込んだ化粧品をかき分ける。
そして即効性睡眠薬のスプレーをよく見ると……

それはまだ封が切られていなかった。

(う、嘘!?それじゃ、いったい何のスプレーをかけちゃったんだろう?
 葛城さんは泥酔していた上に気絶させたから大丈夫として……でも……
 でも、シンジ君は……もとから眠てたけど……)

果たして、どこからどこまでバレていて、どこから二人は気付いていたのか。

「だーから、夢の話だって!ね、マヤ?」
「は、はい……そうですね、アハハ……」

伊吹マヤの眠れない夜は続く。

(完)


222: 2008/06/04(水) 19:17:08 ID:???
「つまりですね、葛城さん。現在の陸軍兵士における完全武装のトレース。
 それが僕のアイデアのコンセプトなんです。」
「ふーん……兵器開発は技術部の仕事なんだけど……」

テーブルの上に散乱した書類を前にして力説する日向マコト。
それらの書類、文面もあればイラストもある。
そのイラスト。それは短銃やマシンガン、果てはバズーカまで描かれており、
そのほか、ナイフや棍棒のような格闘戦向けの武具、
果ては手榴弾のようなものや、背中に背負うリュックサックのようなバッテリーパックまで。

ミサトは、それらの中から一枚を拾い上げて、薄目で見ながらビールをクピッ。
それはまるでサバイバル戦に挑む陸軍兵士のような格好をしたエヴァの新型装備の完成図であった。

ミサトは納得しかねるような顔つきで、それをテーブルの上にピラリと放る。
「N2機雷の手榴弾って大胆な発想だけど、街一つが吹っ飛ぶのよ?
 アスカあたりに手軽に投げられちゃたまんないわよ。」
「ま、まあ、確かにそれは……」
「バラエティーに富んだ装備を用意する明快な理由っててあるの?」
「は、はい、それはですね!」

日向は左手の中指で眼鏡のズレを直し、姿勢を正す。
「エヴァは人型決戦兵器。つまり人を模した物。
 ならば、現代の兵士における装備と同等のものを充実させることで、
 様々な状況下において対応することが可能になる、と考えたんです。」
 
 ミサトは、その日向の説明に対して相槌を打つ代わりにビールをクピッ。

223: 2008/06/04(水) 19:17:55 ID:???
「あの……葛城さん?」
「聞いてるわ。続けて。」
「はい、今後のエヴァにおいてどのような装備が必要か。
 今後の使徒との戦いにおいて考えられる状況が未知数である以上、
 出来る限りの対応をしなければ我々にとって、事前に備えるのは非常に困難です。」
「うん……」
「しかし、その時になって何も備えが無い、では済まされない。
 ならば、今日(こんにち)まで試行錯誤を重ねて完成された兵士の装備に準ずることで、
 軍隊における実際の作戦行動の事例をエヴァの戦闘に転用することが可能となります。」
「ふーん……」
「これは、いうなれば機動戦士ガンダムといったアニメ番組における、
 なぜ人型の兵器が必要か、という議題において僕なりの回答がこれなんです。」
「……アニメ?」

日向は立ち上がり、再び眼鏡のズレを直して続ける。
「なぜ人型の兵器が必要か。移動するなら二足歩行よりもキャタピラの方が安定します。
 装備については複雑な指の稼働を実現するよりも、直接、本体に取り付けた方が効率的です。
 そう考えれば人型装備などというものは不要ではないかとも考えられる。
 ですが、人型というのは自然界の様々な状況から生き抜いてきた生物の、
 いわば完成形態の一つというべきスタイルであり……」
「言いたいことは判った。ちょっと待ちなさい。」
強引なミサトの遮りに、日向はハッとなって我に返ったようにストンと腰を下ろす。

「ふーん……」
と、書類を両手にして考えるミサト。
その彼女の回答を待つ日向。

そして、その時であった。

224: 2008/06/04(水) 19:19:05 ID:???
ぷるるるるる……

ミサトの携帯電話のようだ。
「日向君、ちょっとまってね……ああ、加持?どしたの?
 ん……うん……うん……うーん、リツコは近くにいる?代わって。ああ、リツコ……」
どうやら何かのトラブルらしい。
電話を終えてピッと携帯を切り、ミサトは立ち上がる。

「日向君、悪いけど今日はここまで。書類はまとめて置いといてちょうだい。それ、コピーよね?
 それから、」
「あ、はい。」
「使徒を攻撃して破壊し、殲滅する。それが私達の仕事。
 予算の問題もあるけど、その物理的手段を用意するだけでも精一杯。
 似たような武器ばかりをスタイルだけ変えてたくさん用意できるような余裕はない。」
「……はい。」
「両手、片手、そして打撃に銃撃。その組み合わせぐらいなら、ある程度は用意した方が良い。
 もっと押さえた立案なら悪くないわよ、日向君……じゃ、これで。今から本部に戻るから。」
「今からですか!?」
「うん。日向くんは良いわ。リツコの技術部の問題だから。それじゃ、お休みなさい。」

と、ミサトは立ち上がり、手早く身支度を済ませて玄関の扉をバタン。
「……。」

日向は改めて椅子に腰を下ろす。
そして眼鏡を外して眉間をもみほぐし、大きな溜息。

「なんか……俺って一人で盛り上がっていたような……はは。」

225: 2008/06/04(水) 19:20:25 ID:???
そんな独り言をつぶやく日向の素顔。
普段の少し三枚目な彼とは少し違う、その寂しげな横顔は意外にも端正で整っている。
どうにも眼鏡のお陰で割り引いていると言えなくもないのだが……
しかし、眼鏡は体の一部です、とはよく言ったものである。
それもまた彼の性格なのだろう。
そして眼鏡をかけ直し、やるせない気持ちと一緒にトントンと書類をまとめていた背後から。

こぽこぽ……

「ん……?」
振り返ると、そこにアスカが立っていた。それはカップにコーヒーを注ぐ音だった。
そして日向の目の前にコトン。
「日向さん、お疲れ様。がんばって。」
と、にっこりウインク。

「ああ、ありがとう、アスカ。」
と日向は笑って請け合い、コーヒーを口にした。

そして、アスカはミサトが座っていた日向と対面の椅子に座る。
ねえ、ちょっとみせてよ、だめだよ、まだまだ機密なんだから……
そんな軽やかな会話で微笑む二人。

日向が上手くいく、ミサトと日向、そして加持がフリーに。
などという、つまらない計算をアスカがしていないと思いたい。

アスカの意外なもてなしを受けて、日向は軽やかな足取りで葛城家の食卓を後にした。

(完)

226: 2008/06/04(水) 19:21:27 ID:???
おわりー
日向さん短くてごめんなさいー

229: 2008/06/04(水) 22:09:32 ID:???
「ふわ……」

どてっ

シンジの顔から正気が抜け落ち、そして椅子からドサッと床に転げ落ちた。
左手に茶碗、右手に箸を持ったまま。
同居人であるミサトとアスカは同席していたが、しかしどちらもシンジを助け起こそうとはしない。
ミサトは背もたれに体を反らせ、アスカは徐々に机にうつぶせに、
それぞれシンジと同じように気を失って居たのだから。

がちゃっ、がちゃがちゃっ……

続いて、玄関の扉から妙な音がする。
そして最後にガチャリという音とともにガスマスクを付けた数人の男達が侵入。
鍵をこじ開けたのだろう。しかし、扉をまったく壊さない見事な手並み。
そして3人の意識が無いのを確認した後、ガスの効果の消失をみずから試すためだろうか。
ガスマスクを外して互いに頷きあい、新たな侵入者を招き寄せた。

それは重厚な服装を着込んだ老人達。
これぞまさしく世界を裏で牛耳るゼーレの面々である。

「ふん……なかなか、小綺麗に片付いているではないか。」
「ある程度の調べはついている。
 この部屋の家事を司る者はカツラギミサトでも、このセカンドチルドレンでもない。」
「左様、この碇の息子の手並みかと……さて、各々方。
 可及的速やかに、この少年の人となりを推し量らねばなりませんぞ。我々の宿願のために。」

などと重い口調で語り合い、台所を吟味する面々。
その間をのっそりと入ってきた人物。ゼーレの筆頭、キール議長であった。

230: 2008/06/04(水) 22:11:11 ID:???
キールが食卓の中央まで進み出る中、ゼーレの面々達による吟味はまだ続く。

「男子にして細やかに家事をこなす。男尊女卑の今だ根強いニッポンの国において、
 そしてこの年齢でそれが出来るとは大した物だ。同居人の女性二人を押さえてな。」
「が、そう褒められたものでもないですぞ。」
そう反論した者が、スッと戸棚を指でぬぐってみる。

「見ろ。一見、掃除が行き届いているように見えて、隅々までは行き届いては居ない。
 小綺麗に見えて実のところは建物と家具が真新しいだけにすぎん。」
「左様、料理一つの出来具合だけでも、この少年の気心が知れてくるというもの……」
そう言いながら、ことさら年配の老人が鍋のふたを取り、シチューらしきものに指を突っ込んだ。

他の面々がその様子に振り返る中、老人はシチューの具材をつまみ上げてペ口リ。
「フン……ほむ……火の通しはいい加減、そして塩味が勝ちすぎる。
 かよわき少年の姿の中に、荒れた自我の内面が手に取るように……」
「貴公。」
つまみ食いする老人のほうに、大きな体つきをした別の者が詰め寄る。

「んぐ?何か、ワシの見立てに誤りがあるとでも?」
「そうではない。貴公、ゼーレの随員にあるまじき振る舞い。
 このような下等な料理に素手でつまんで食するなど言語道断。」
「な、何をいうか。ワシは詮議のために味見を……」
「ふん、あさましい言い訳など聞きとうない。
 貴様など、ゼーレはおろかこの世から除名してくれるわ!」
「ま、待て!ワシは、この評議会でもっとも古参の……」
「前々から貴様のかん高い声が気に入らなかったのだ!
 貴様など禊ぎの前に地獄に送り込んでくれる!」

プシュッと何かを首筋に打ち込まれ、その老人は床に崩れ落ちた。

231: 2008/06/04(水) 22:12:42 ID:???
キール議長は白いまなざしを向けたきりで、今の出来事に動じた様子もない。
ただ、ジッとシンジの顔を見下ろすばかり。
「如何ですかな、議長……」
と、声をかけられ、キールはようやく顔を上げた。

「別段、何も言えることはない。あえて言うなら、悪くない仕上がりだ、というべきか。」
「ほう……貴殿みずから、この少年を作り上げた、と。」
「何、私が手塩にかけた訳でもない。これの父親にそう仕向けさせただけのこと。
 その父親だが……この少年に比べて良い出来では無かったな。皆には手間をかけるぞ。」
「……あの碇ゲンドウ。どうやら姑息な真似をするようになった。実に油断ならぬ。」

そのやり取りを受けて、他の者共も色めき立つ。
「確かに。あやつめ、我々から全てを掠め取るつもりらしい。」
「面妖な。リリスとアダム、そしてロンギヌスの槍をもあの男が押さえているとなれば。」
「致し方ない。少々手荒な手筈を勧めておくにこしたことはありませんな。」

この数名の老人達の対話一つで、数百数千の運命が左右されるとは誠に恐ろしい話である。
少年とその父親の人生、そしてNERVの数百数千の命、そして……

あるいは世界を牛耳る者共というのは、まさしくこういうものかもしれない。

やがて詮議を終えた老人達は、次々と玄関をくぐり立ち去る中で、
キール議長ひとりが尚もシンジを見下ろし、何かを考えていた。

そして、ふと台所の方に目を向ける。
先程、始末された老人の一人が味見していた鍋、その蓋を自らもまた開けてみる。


232: 2008/06/04(水) 22:14:19 ID:???
「似ても似つかぬ。あの碇ユイという娘、実に気だての良い少女だったのだが。
 やはり人は血筋ではなく、生い立ちで決まる。この鍋こそがそれを物語っている。」
鍋をゆっくりとかき回し、少し味を見ながらキールはつぶやく。

何を思ったのか、なにやら流しの下を探り取り始める。
取り出したのは料理酒らしい。それを少し振り入れて火にかけ、さらにスパイスを少々。
再び味見。
「ふむ、これでいい。やはりこの少年のすることは何かが欠けている。まさしく……」
そして、ようやく玄関の方へとキールは向かう。
「まさしく、儀式のよりしろにふさわしい……ムハハハハ……」
侵入の手筈を整えた数名の側近が一礼する間をくぐり、キールは去った。

そして。

「ふ、ふわぁ~……ふむ……ねえ、シンジ?お代わり……あれ?」
と、目覚めたアスカがシチューの皿を突き出してから、初めて目の前に居ないことに気付いた。

「あれ?シンジ、どこに消えた……もう、いきなり床でなに横になってんのよ!」
「ん、ふわ……あ、ああ、アスカおはよ……」
「お早うじゃない!今は晩ご飯の途中でしょ!?ほら、お代わり次いで!」
「ふわーい……むにゃむにゃ……」
「ったく……あれ?ミサト、ちょっと起きてよミサト!」
「ほっとけば?疲れてるん……くわ……」
「こら!寝ても良いけど、お代わり次いでからにしてよね!ほら、次いだら貸して!」
「う、うん……あれ、この香り……」
「何よ……(もぐもぐ)……えええ!?何これ、味が全然ちがうじゃないの!」
「ホントだ……うえっ、まずぅ……」

(完)

233: 2008/06/04(水) 22:15:08 ID:???
おわりーホントにやっつけでごめんー

237: 2008/06/05(木) 00:34:03 ID:???
『それでは伝説のバンド、ホットペッパーズの演奏VTRをご覧下さい。
 ♪じゃーん、じゃかじゃかじゃかじゃか……』

そのテレビのVTRを嬉々として指し示すシンジ。
「ね?似てるでしょ?この人が……」

それに対して、ミサト以下NERVスタッフの面々は口々に批評する。
「似て無くも……ないけれど……」と、ミサト。
「私、こういう曲とか判らないんだけど……碇君て、手広く聞いてるのね。」と、ヒカリ。
「このバカは音が出りゃなんでもいいのよ。シンジの思いこみなんじゃないの?」と、アスカ。
「このバンドは知ってるわ。すっごく売れてたから。でも……本人なら大変よ?」と、リツコ。
「あ、ほら。背丈とか、スタイルとかもすっごく似てますよ。ね?」と、マヤ。
「いやぁ、ブーツ履いてるしグラサンかけとるし、これじゃ判らんで。」と、トウジ。
「俺もわかんないよ。ね、ね、日向さん。次の出撃は何時なんです?」とケンスケ。
「使徒が何時来るかなんて判らないよ。あ、ビールもう一本いいです?」と日向。
「はーい、じゃんじゃん飲んでねー♪」と、ミサト……

「もう、話がそれてますよ!だから、この人と……」
と、シンジは少し怒り出す。
「絶対、このベーシストがそうだと思ってたんだけどなぁ……」

さて、ここは葛城家の居間。
テーブルの上にはスナック菓子につまみ、ビールから様々な飲み物が並べられ、
NERVの面々からシンジやアスカの友達まで、みんなそろってのホームパーティー、
いやさ飲み会の真っ最中である。

加持、日向にビールを手渡しながら、
「シンジ君、本人に聞くのが一番早いんじゃないのか?」

238: 2008/06/05(木) 00:35:12 ID:???
しかし、日向は首を振る。
「今日はあいつが貧乏くじでね。管制塔で待機中。」
シンジ、少し驚く。
「あれ?そうなんですか。来ると聞いてたんだけど。」
ミサト、少し怒って、
「来るぅ?マジで?あいつ、当番サボるつもりなの?」
マヤ、少しキョトン。
「えー?私、お疲れ様って声掛けたとき、そんなことは言ってなかったですよ?」
日向、うなずく。
「確かに、当番を放りだしたら即クビですよ。総司令執務室の呼び出しがオマケ付きで。」
アスカ、身を乗り出し、
「ね、ね、それってどんなところ?アタシ、いっぺんで良いから見たいと……」
シンジ、今度はさらに怒って、
「もー、だから話を別のところにもっていかないでってば!だからぁ!この人と……」

パリパリ、とレイがポテチを食べる音が鳴り響く。

その有様を見て、リツコは笑ってシンジの両肩を抱いてなだめる。
「ウフフ、落ちついてってば。でもね、シンジ君。
 このバンド、確か私の母が学生の時に流行っていたのよ?
 年齢がまるで合わないし、とても彼とは思えないんだけどナ……」
「へ……」
と、シンジはキョトン。

「だから、大変なことだと私は言ったの。
 シンジ君?もし、あのベースがそうだとしたら、彼の年齢は碇司令よりも上ってことになっちゃうわよ?」

それを聞いて呆然とするシンジ。
「あの僕はその……だから、この人と……」

239: 2008/06/05(木) 00:36:12 ID:???
「だー、シンジの勘違いかよ!」
「このバカシンジ、年代の違いぐらい区別つけなさいよね!」
「いや、でも無理ないですよ?スタイルとか結構にてる……」
「せやけど、ミュージシャンって似たような格好するし、しゃーないんちゃう?」
「そーねぇ、彼もこのベースの人に憧れて色々真似たんじゃないの?シンちゃん。」
「いや、だからぁ!」

シンジ、ついに切れたか?テーブルをドン!
「年代の違いぐらい判ってますよ。みんな口々に喋るから、最後まで喋れなかったんです!
 このベースの人が……ん?」

 ぴんぽーん

「あ、来たかな?はーい……ああ、やっと来てくれた。冬月さん、このビデオに出てるの、冬月さんでしょ?」

はい、全員。
「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」

レイ、ポテチをぱりっ。

さて、遅ればせながら参上した冬月副司令、ビデオを見て大笑い。
「アッハッハ!もう、30年近くも前になるよ。よくこんなものを見つけてきたね、シンジ君。」
「や、やっぱり冬月さんでしたか!すごいなぁ!」
「いや、私など大したことはないんだよ。他のメンバーが優秀でね。
 途中で学問の道に入るために脱退したんだ。」
「そうだったんですか……」
「それに、セカンドインパクトの折、メンバーのほとんどが……」

240: 2008/06/05(木) 00:37:26 ID:???
興味津々のシンジに、切々と語る冬月教授。
それをシラッとした目で見つめる他のメンバー達。

「副司令なら副司令って初めからいいなさいよ、あのバカシンジときたら……」
「でも、シンジ君て凄いですね。こんなビデオから副司令をみつけるなんて。」
「いやはやまったく、大した眼力だな。見直したよ。」
「でも、最初に副司令の名前だせばいいのに。」
「そうねぇ、話をする順序が少しまずかったかナ。」
「あー、でもシンちゃんてば、身の危険を判ってないな?こっから長いわよ、副司令の語りは。」
「でも碇君すっごく嬉しそうだし、大丈夫そう。」
「ホント、マニアってこれだから。」
「……お前がいうなや。」

誰が何を言ったのかは判らないけど、
レイは一人、関心なさそうにポテチをパリパリ。

はてさて、話題になりそうでなり損ねた当の本人と言えば、自由気ままな当番中。
イヤホンをこっそり耳にして、エアギターをジャン♪
「いいねぇ、ホットペッパーズ。このベースがまた……」

(完)

241: 2008/06/05(木) 00:37:56 ID:???
はい、やっつけごめーん
ロン毛の扱いはこの程度でー

264: 2008/06/06(金) 20:42:53 ID:???
さて、シンジの誕生日が迫って参りました。
アスカ、ひとり食卓に座り、用意したプレゼント片手に脳内会議中。

「というわけで、今日の議題。シンジにどうやってプレゼントを渡すのか。
 如何にしてプライドを保ったまま、あのバカに慈悲を垂れるにはどうすればいいのか。
 ここで手違いがあってはアスカ様の沽券に関わるってモンよ。
 ……ん?べ、別にあのバカシンジから何も期待なんかしてないからねアタシはっ!」

はてさて、アスカは誰に向かって怒ってるんでしょうか。

「とりあえず、パターンA。まずは、ノーマルにね。
 場所はここ、誕生日の当日にミサトと3人でご飯の時間に。」

 『ほら、シンジ。お誕生日のプレゼント。』
 『え?あ、ありがとうアスカ。』
 『……なに?その意外そうな顔。アタシはね、同居人の誕生日をほっとくほど礼儀知らずじゃないわよ!』

「うん、まー普段のアタシらしい対応ね……ん、なんか不満なの?
 では、次。パターンBはあっさりと玄関で出かけ間際に。」

 『いってらっしゃい、アスカ。』
 『ほら、誕生日でしょ?プレゼント。』
 『え……!あの、アスカちょっと待っ』
 バタン

「……なんか、余計に照れ隠ししてるみたいでイヤ。となると……
 思い切ったパターンCはどうかしら。」

265: 2008/06/06(金) 20:44:03 ID:???
 『シンジぃ!お誕生日プレゼントと、アタシのキッス♪どっちがいーい?』

「ば、ば、ヴァカじゃないの?気持ち悪ぅ!なに考えてんのよアタシはっ!!
 ……よし、だったら押しつけがましいの反対のパターンD。」

 『あれー?これ、僕あて?誰からだろう……アスカ?』
 『知らなーい。』

「……不満なの?だから、なにを期待してんのよアスカ。もーいいわ。パターンAで決まり!
 どーせ、ミサトがわざとらしく大はしゃぎするから、その間際にちょいと渡せばいいのよ。」

で、当日。
食卓にはバースデーパーティーの料理(出来合い+インスタント)が並べられ、楽しいパーティーの真っ最中。
(……よし、行くわよアスカ!)

「ほら、シンジ。お誕生日のプレゼント。」

「え、なんだろう……ええええええええええええええええええええっ!!
 あのセカンドインパクトの混乱で失われ、幻と言われた荻野目洋子のファーストアルバム!しかも未開封!
 うわ、わ、ぼ、僕どうしよう!こうしちゃいられない、二人ともごめんね、さっそく聞かなきゃ!
 い、いや待て、今、本当に開封しちゃっていいのかな?お、落ち着けシンジ!逃げちゃだめだ逃げちゃだめ……」

シンジ、トラウマ発動の見事な大はしゃぎっぷりにクラッカー片手のアスカとミサトは唖然。
「……結局、ヴァカの行動なんて予測不可能って訳ね。」

などと、あきれるアスカにミサトはニンマリ。
「ふふ。アスカ?シンちゃんのこと、よく判ってるじゃないの。ハートに直撃の見事なプレゼントだわ。」
「……ふん。」

(ちゃんちゃんっと。)

266: 2008/06/06(金) 20:45:50 ID:???
こんだけー

284: 2008/06/07(土) 22:32:42 ID:???
アスカ、テーブルを叩いて憤慨する。
「イヤよ!昔っから男女七歳にして同衾せずってね!」
「使徒は現在、自己修復中。第2派は6日後。時間がないの。」
「そんな、無茶なぁ……」

ここは葛城家の食卓。葛城ミサトと碇シンジが暮らすこの空間。
そこに惣流アスカ・ラングレーが割り込んできた、その夜のこと。
そして2体で連携する使徒を攻略するため、ミサトからその特訓方法の説明を受けていたパイロット二人。

シンジとアスカ、二人を目の前にしてミサトは一本のカセットテープを取り出した。
「そこで無茶を可能にする方法。二人の完璧なユニゾンをマスターするため、
 この曲に合わせた攻撃パターンを完璧にマスターするのよ。6日以内に。1秒でも早く。」
もはや、パイロット達に口答えする余地はない。互いに顔を見合わせる二人。

シンジ、仕方なさそうに苦笑い。
「その……仕方ないですよ。頑張りましょう、有希さん。」
そのシンジの言葉にコクリとうなずく、長門有希。

さて、特訓の開始。
寝食を共にせよというミサトの指示に従い、二人の共同生活の幕開けである。
居間にミサトを挟んで川の字で寝ていた二人は、まったくの同時に目を開き、体を起こした。
「へ、あ、ああ……」「へ、あ、ああ……」

驚くシンジ。自分とまったく同じようにうめき声を上げた有希が体を起こしてこちらを見ている。
「あの、おはよう……」「あの、おはよう……」
まるでシンジの声にエコーをかけるかのように同時復唱する長門有希。
「いや、あのね有希さん、その、」「いや、あのね有希さん、その、」
「いや、ちょっと待ってよ。話すのまでシンクロさせなくてもいいんだって。」「……」

285: 2008/06/07(土) 22:33:32 ID:???
そのシンジの言葉に、コクリとうなずく長門有希。
(もう……僕と同時に同じ言葉を話すなんて、どういう芸当なんだろ。)
と、首をかしげて頭をかくシンジとまったく同時に、首をかしげて頭をかく長門有希。

洗面台に立つ二人。
成長期で背丈が伸び盛りな中学生のシンジ。
高校生とはいえ、体が小さめの長門有希。
ほぼ同じ身長の二人が鏡に映る。

シンジ、歯ブラシを手に取る。有希もまた、歯ブラシを手に取る。
二人それぞれ歯磨き粉のチューブを手に取り、量から形状まで同じ歯磨き粉をしぼり出す。
バリバリバリ、と歯磨き開始。腕の角度から磨く順番、回数までまったく同じ。
シンジがあきれ顔で有希を見れば、マジマジとシンジを見返す、長門有希。

シンジが食パンの袋に手を突っ込めば、長門有希の手もパンを手にする。
トースターも二人で二枚を同時にセット。二人で一緒に作る目玉焼き。
パンに塗るジャムの量から、それを囓った後の形状、
目玉焼きから流れ出る黄身の具合まで、何もかもが全て同じ。

二人が部屋に戻り、寝間着から普段着に着替えるためにシンジが上着の裾をあげれば、
長門有希もまた、ゆっくりと裾をあげる。チラリと見える白い肌。
シンジ、手を止めて少し何かを考える。

いや、シンジにも良識はあったようだ。まあ、同居するミサトの目もあることだし。
後ろを向いて着替えることで、理性の危機的状況を回避した。

まあ、そんなこんなで数日後。

286: 2008/06/07(土) 22:34:40 ID:???
「二人は何でここにいるの?」
「シンジ君のお見舞い。委員長は?」
「有希さんのお見舞い。」
「ふーん……有希さんって誰?」

やってきました、3バカトリオの二人とヒカリ。
「そや委員長。その有希さんってなんなん?」
「私の友達の高校生……あれ?」
「シンジと同じ、エヴァのパイロットで……確かドイツからやってきたんだっけ?どこで知り合ったのさ。」
「うん……あれ?どこでどう知り合ったのかな。同じクラス……てことは無いわね。あれ?」
と、しきりに首をかしげるヒカリだが、3バカの二人は気にとめた様子もなくシンジの居る部屋へと向かう。
「あ、いらっしゃーい。」
と、その3人の後ろから声をかけたのは、葛城ミサト。
同じタイミングで綾波レイを伴い帰ってきたところのようだ。

 ぴっ……ぴっ……ぶっ……ぴっ……
 ぽっ……ぴっ……ぷっ……ぶぶぶー!

さて、やってきた5人を目の前にして体感ゲームで訓練中のシンジと、そして長門有希。
「完璧じゃん。」
「やるやないか、二人とも。」
「でもおっかしい。ミスするとこまで、まったく同じなんて。」
と、笑いながらも二人を讃えるクラスメート達。

「いや、有希さんが僕に合わせてくれてるんだよ。ね、有希さん?」
とタオルで汗を拭きながら、ニッコリと相方の方に振り返る。
それに対して、コクリと頷く長門有希。
どうやら過度のシンクロは控えるようになったようだ。
それはそうだろう。あれからトイレから風呂までシンクロしていたとしたら生活に支障を来す。

287: 2008/06/07(土) 22:35:37 ID:???
「補欠としてレイを連れてきたんだけど、これなら問題無いわね。」
「無い。」
あいかわらずの簡素な返答。コクリと頷く、長門有希。

 ぴんぽーん!

「はーい……」
来客のようだ。シンジが小走りで玄関に向かう。
それを見送りながらミサトは改めて首をかしげる。
「うーん、しっかし何でまたこんな寡黙なパイロットばかり集まるんだろう……」
と、改めて首をかしげて二人を見比べる。
綾波レイと、長門有希。
その二人もまた、互いを見つめ合う。

「……?」
マジマジと見つめる有希の視線に、レイは反応する。
いわゆる「何か言いたそうな顔」でジッとこちらを見ていたから無理もない。

そして有希はゆっくりと右手を挙げて、手のひらをレイに向けた。
そして口を開き、何かを「唱えよう」とした、その時。

「ちょ、ちょっと何ですか!うわっ!」
玄関の方から騒ぎ声が聞こえてくる。ドスン、という大きな物音。
見ればシンジを無理矢理に押しのけて、ノシノシと長身の男子学生が入り込んできた。
それに付き従うのは、スーツ姿でスタイルの良い女性が一人。
「ねえ、キョンくん。無茶はダメよ。そんな……」
「もうそんな暇は無いんでしょ?……やばい!長門、それはちょっと待て!朝比奈さん!」

288: 2008/06/07(土) 22:36:57 ID:???
「わ、判ったわ……えいっ」
キョンと呼ばれた男子学生に促され、朝比奈と呼ばれた女性が何かを操作した。
そして全てが――止まった。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

さて、ここから先は俺に引き継がせて頂こう。
今、俺たちがやってきたのは2015年、だったか。
朝比奈さん(大)の手引きによってようやくここまでたどり着いた。
突然消えてしまった長門有希を追うために。

入ってきた部屋の中を見れば、俺を出迎えた中学生らしき坊やを加えて、少年少女が4人。
そしてどうやらまとめ役らしい、どこかの制服を着た女性がもう一人。
朝比奈さん(大)とほぼ同じぐらいの歳に見える。ルックス、スタイルも互角に戦えると踏んだのだが……
俺は3ポイント差で朝比奈さん(大)に軍配を上げたいね。
怖そうな目で俺を睨む顔のおかげで、悪いがあんたから更にマイナス2ポイント。

いや、こんなふうに値踏みしている状況下ではないことは重々承知している。
ここまで、ほんの2、3秒ほど費やした程度だから問題はない。
言葉で説明すれば長くなるって奴だ。で、問題の長門有希。

今、朝比奈さん(大)のお陰で時間は停止している――ように見える。
長門もまた、知っている者にはそら恐ろしい右手の平を目標に向ける、あのポーズ。
今にも人知を越える驚異の呪文を今にも唱え始めようとするその状態で完全停止した。
「本当に時間停止だけで通用するかどうか不安だったけど……どうにかなったみたいね。」
と、朝比奈さんは少し安心したように大きな胸をなで下ろし、金縛り中の長門の顔を覗き込む。
正確に言えば、時間停止とは少し違う、という説明は朝比奈さん自身がしてくれたことなのだが。
時間を完全に停止させるのは無理。それはそうだろう。
無限に広がる全宇宙の運行を止めるなど宇宙開闢時のビッグバンエネルギーを費やしても無理難題。

289: 2008/06/07(土) 22:38:12 ID:???
ならば、ゼロ時間内に稼働し続ける方法を編み出せばいい、というのが装置のコンセプト。
しかし、油断なりませんよ?朝比奈さん。時間移動は簡単と言ってのけた長門のことだし、
こういう手を使う相手に対して、防御手段を何も用意していない筈が無い……

そら来た!長門め、止まってる時間の中でまばたきしやがった!
「緊急メンテナンスプログラム起動。次元非同期スレッド、稼働安定。」
相変わらず言ってる意味が判らないぞ、長門。

そしてゆっくりと突き出していた右手をおろし、無表情のままの視線が俺に向けられる……来るか?
いや、まだだ。例の呪文を使うつもりなら、勝ち名乗りなどせずに俺達のとどめを刺すはず。長門はそう奴だ。
(き、キョン君……)
不安そうに俺にささやく朝比奈さん。
判ってますよ!イザとなったら、別の時代にすっ飛んで逃げる準備をしていてください!

今回、俺は長門を捜してここまで来た。と言ったが、長門自身が敵である可能性は十分考えられるのだ。
突然の長門の失踪。それはハルヒの時のような全ての辻褄を合わせたような物ではなかった。
いきなり学校に来なくなり、長門の席は連日空席。先生達も誰も事情を知らない。
マンションに行っても管理人からは梨の礫。おかげでハルヒは不愉快大爆発の大騒ぎ。
(これは大変な事態ですよ。判りませんか?)
と、古泉は気取った口調で言う。
(あの長門さんは一切の取り繕いをせず、なりふり構わず失踪した。
 彼女の言う情報統合思念体からの使命、涼宮さんの様子観察の任務を全て投げ打って、です。
 あの全宇宙をも改変する能力を持つ涼宮さんを捨てたんですよ?)
そんなことがあるものか。ハルヒは宇宙規模の神様なんだろう?
(つまりですね。もっと重大な何かが発生した、と考えられます。あるいは――
 そうですね……既に涼宮さんの価値が失われたか。
 いずれにせよ、まずは長門さんから何があったのか、何が起こるのかを聞き出さなくてはなりませんね。)
という訳で、長門の前に俺達はたどり着いたというわけだ。
さて……

290: 2008/06/07(土) 22:39:51 ID:???
もう一度いうが、長門が敵である可能性が高い。
全宇宙を統括する情報統合思念体、それの有機生命体型インターフェース端末。それが長門の正体。
もし、長門の使い手が目標を変えたのだとしたら、俺達はそれの邪魔をしていることになる。
さて、どうする。とりあえずは……時間を稼ぐか?

長門、教えてくれ。俺達から離れてここで何をしている。
ハルヒの監視がお前の任務なのだろう?
「涼宮ハルヒの観察は終了した。情報統合思念体は更なる段階へ移行することを意図している。
 そして私に新たな任務が与えられた。」
終了……?どういうことだ。そして新たな任務ってなんだ。
「この惑星の有機生命体における情報活動は全て消滅する。涼宮ハルヒもともに。
 その前に、新たな目標を捕捉し帰投せよ。」
な!?

消滅ってどういうことだ!新たな目標!?
「これ。」
と、長門は部屋にいた中学生達と混じっていた、蒼い髪の少女を示した。
「この惑星の有機生命体すべての始まりとなるもの。それが、これ。」

――というわけで。
情報に齟齬が発生するかもしれない、という但し書き付きで長門は相変わらず訳のわからない説明をする。
それを、どうにか噛み砕いて理解したこと。
以前、マンションで説明を受けたことだが……有機生命体に知性が発生する珍しいケース。それが我が人類。
その原因というのが「これ」にあるらしい、というのだ。
俺が判らない顔をしていたら、フンフンと可愛らしい顔を上下させて聞き取っていた朝比奈さんが俺に解説する。
(キョンくん、あれよ。聖書にある神話……アダムとイブとリンゴの話。)
どこをどう聞き取ればそう理解できるのか、見直しましたよ朝比奈さん。いや、ホントですってば。

291: 2008/06/07(土) 22:41:30 ID:???
「思念体の亜種が有機生命体との結びつきを経て、この惑星の情報活動の飛躍を促した可能性がある。
 それをなしえたのが『これ』であり、それ以後の情報的発展を経て生み出されたのが……」
ハルヒ、という訳か。それが本当なら、根本からハルヒの力を探ることが可能だと。
「そう。」

だが、お前は言ったな。全人類が滅びる、と。
「滅亡ではない。情報活動の全てが停止する。
 それは外部から為される自称ではなく、この惑星の有機生命体において成された結論。
 つまり、あなたがたの人類が選択し、選んだこと。
 涼宮ハルヒが生み出された課程を知ると同時に、その終末に居たる要因を探ること。それが新たな使命。」

で、そのその蒼い髪の子、そんな古い時代からずっと生きていた訳なのか?
「そうではない。『これ』は、その始まりとなる者が保存されている、いわば記憶媒体のようなもの。」
いや、もういい。ともかくだ。
情報活動が消滅するってことは滅亡することと大して変わらん。
長門、お前はそれを放っておくのか。俺やハルヒ、朝比奈さんに古泉や、そして仲間みんなを捨てるのか。
「私の新たな任務の範疇では無い……」

それ以上言うなら、俺は『切り札』を使うぞ。
俺はこれからハルヒのところにすっ飛んで帰る。今回の話も手みやげにしてな。
「……」
どうなんだ?
「私の新たな任務、それを終えた時の私は、私であるかどうかは判らない……」
おい!待て、消えるな!俺が切り札を使ってもいいのか!
「もし、私が私のままであるのなら……私は戻る。あなたの元へ。」

292: 2008/06/07(土) 22:42:32 ID:???
長門!

「信じて。」

……消えちまった。
どうする。どうする、俺。本当に使うのか?あの、切り札を。
「あの……キョン君。」
朝比奈さんが俺の左腕の袖をクイクイ引っ張って何かを言おうとしている。
……なんですか?
「もし、長門さんが戻ってきてくれるのなら……私達が元の時代に戻ったとき、彼女はそこにいると思うの。
 私達に時空の距離というものは無い。彼女の任務完了が数十億年先であっても。」
そうか……そうですね、朝比奈さん。
「でも、それからが大変だと思うの。人類が……みずから滅びることを選択するって言ってたから……」
判ってますよ、朝比奈さん。
なに、長門が戻ってきて朝比奈さんも居て、まあ古泉もいるし、なんと言ってもハルヒがいる。
何故か……なんとかなりそうな気がしませんか?朝比奈さん。

――そして。
俺達は帰り支度にかかりながら、スッ転ばした少年を振り返る。
まあ、待っていてくれ。乱暴したお詫びを一万倍にして返してやるからな。
なんだか、小さい頃から憧れてきた秘密組織と戦うスーパーヒーローにでもなったような気がしてきた。
さあ戻りましょう、朝比奈さん。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
そして……彼らが去った後。
マンションのミサトからは、トウジにケンスケ、ヒカリ、そしてミサト自身。
さらにはレイすらもその姿を消していた。
もしや、歴史の改変の影響を受けて、みな消失してしまったのか?
いや、そうではなかった。

293: 2008/06/07(土) 22:43:46 ID:???
「うわっ!」

シンジは押し倒された時のままに、床の上に倒されていた。
そして自分の周りには何故かクッションの山。そのお陰で、大した痛みを味あわずにすんだようだ。
「あら、どうしたの?シンジ。」
と、彼を振り向いて家事の手を止めた人物。
「あれ、僕は押し倒されて……あ、あれ?」
「もう、寝ぼけてたの?」
「……あ、ああ、その、いつ帰ってたの、母さん。」
「私は今日はずっとここに居ました。研究所は今日はお休み。もう……本当に寝ぼけてるのね。」
「父さんは?」
「冬月先生と遊びに行ってる。ホントに、いつまで経っても子供なんだから。」
「ふーん。」
と、シンジは冷蔵庫から牛乳を取り出し、コップに注ぐ。
その彼の母、ユイは再び包丁を手にしながらあきれ顔。

「そんなにのんびりしてていいの?アスカちゃんとの約束は?」
「うわ、いけない!い、今すぐ行かなきゃ!」
「ほら、そんな格好じゃダメでしょ?ああ、それから電話があったわよ。綾波さんって子から。」
「ええ!?綾波さんから?」
「そう、アスカちゃんに聞いたわ。トースト囓りながらシンジと正面衝突したんですって?
 ずいぶん古典的な転校生が来ちゃったのね。」
「ちょっ……どうしてそんな古典を知ってるのさ!と、とにかく行ってきます!」
「はいはい、気をつけてね。」

誰のお陰か、春真っ盛りの第三新東京市はこうして優しい日々を送るのであった。

(完)

294: 2008/06/07(土) 22:45:44 ID:???
おわりー

445: 2008/06/16(月) 23:27:31 ID:???
綾波レイ、14歳。
誰も居なくなった葛城家の居間で、ぺたんと腰を下ろす。

 『ごめんね、綾波。留守番なんか頼んじゃって。』

両手を合わせて何度も頭を下げていたシンジ。
そう、彼女はシンジの頼みで留守番を勤めるためにやってきたのだ。
いつもの制服姿に、いつもの学校の鞄をさげて。

そして、その鞄からいつもの技術書を取り出し、ページに目を滑らせて黙々と読書にふける。
自分の部屋、学校のベンチ、電車の中、NERV本部の休憩所。
どこでだろうと構わない。休みはそうして過ごすだけ。
だから特に断る理由もなく引き受けてしまった、お留守番。

 『退屈になったら、テレビとか見たりして自由にしてていいからね。』

シンジのその言葉を思い出して、ふと見上げる。
目の前には、ごく普通の家庭用のテレビ。そしてテーブルの上にはリモコンが置いてある。
レイは本を閉じ、リモコンをしげしげと眺めてどうしようかと考える。

実を言うと、レイはテレビが珍しかったのだ。
幼少より特殊な環境で過ごしてきた彼女である。
もしかしたらテレビに触れるのは、これが初めてかもしれなかった。

 ぴっ……

電源を入れてみた。
レイはそれほど無知ではない。使い方などリモコンを見ればすぐ判る。

446: 2008/06/16(月) 23:28:16 ID:???
テレビのスイッチが入ると同時に、色鮮やかな画像と騒々しい音声が流れ出す。
せわしない司会者のトーク、悲痛なレポートをする記者の口調、そして映し出される悲惨なニュース。

……騒々しい。

そう考えたのか、チャンネルを切り替えてみる。
今はどのチャンネルもワイドショーをやっている時間帯らしく、移り変わるのは似たような番組ばかり。
やがて最後のチャンネルでやっと落ち着いた。教育テレビの名曲アルバム。

静かな音楽と映像を見て、ようやくレイはリモコンをテーブルにおいた。
そして目を閉じ、しばし体でそれらを感じ取る。
しかしある時、ハッと目を見開いた。徐々に曲が高揚し始め、劇的なクライマックスへと向かい始めたのだ。
その程度でもレイの好みでないらしい。再びリモコンを手に取り、今度はテレビの電源を切ってしまった。
ふう、とレイは溜息をもらす。まるで照り付ける真夏の日差しから逃れてきたかのように。

部屋が静かになり、レイは再び読書を再開しようと本を開く。
ここで、ふと何かに気づいて再び目を閉じた。

コチ、コチ、という時計の音。外から時折きこえてくる小鳥のさえずり。
そしてシンジが行きがけに入れてくれていた、エアコンのコココ……という小さな騒音。
静かな部屋の中に響く、ちいさなちいさな物音。
どうやらレイにとって、それらがよっぽど好ましい音楽であるかのようだ。

読みかけの本を開いたままで、レイはずっとそうしていた。
10分、1時間、いやそれ以上。まるで瞑想に入っているかのように目を閉じていた。
こんな時間の過ごし方は、忙しい生活を送る者にはとても耐えられないだろう。
しかし、レイならば日が暮れるまでずっとそうしていたかもしれない。

447: 2008/06/16(月) 23:29:03 ID:???
 ぽーん

突然、鳴り響いた電子音にレイはハッと目を開く。
それは正午を告げる時計の音。

 『お昼にサンドイッチを作ったから食べてね。』

……お昼ご飯、食べなくちゃ。

と、シンジの言葉を思い出し、立ち上がる。
示された冷蔵庫を開けて取り出したのは、ラップで包まれたサンドイッチの皿とレモンティーの入った容器。
飲み物をグラスに注いでラップを剥がし、レイは昼食を取り始めた。

果たしてレイは空腹なのだろうか。
まるで霞を食べて生きているような彼女。とても食べることに関心があるとは思えないのだが。
サンドイッチの中身は野菜や卵、そして淡い甘さのジャムが塗られたものなど色とりどり。
恐らくシンジが朝早くから留守番を務めるレイのためにこしらえたのだろう。

レイは静かにそれを食べて、レモンティーで飲み下す。
きっちり一皿分を平らげて、空になったお皿とグラスと一緒に流しに置いた。
足りなければ、と用意されているタッパーの分もあったが、レイはもう十分だったらしい。
そして居間に戻ろうとする。が、台所を再び振り返った。

そうそう、食べたお皿は洗わなくちゃ。

居間に戻ったレイは、今度は横になって部屋の物音に耳を傾けた。
別段、気分が悪くなったようでもなく、あるいは眠くなった訳でもなさそうだ。
両腕を枕にして、目を開いたまま天井をじっと見つめていた。

448: 2008/06/16(月) 23:29:49 ID:???
何か考え事をしているのだろうか。あるいは何も考えていないのか。
こうして傍から見ている分には、何も判らない。
また、時はゆっくりと流れ出す。

1時間、2時間、3時間……

朝のうちとは外の物音がまるで違う。
時折、主婦の話し声らしいものが微かに聞こえてくる。
かと思えば、はしゃぎ声をあげてパタパタと走り回る子供の足音。
それほど騒々しいわけではないが、人々の生活がこのマンションに帰ってきたことが感じ取れる。

……碇君、まだかな。

ある時、レイはガバッと体を起こした。そしてスクッと立ち上がる。
今まで瞑想にふけっていたとは思えない、性急な動き。
そしてベランダの方に駆け寄り、ガラス戸をカラカラと開ける。

 『悪いけど、もし雨が降ってきたら洗濯物を取り込んでくれるかな。』
 
レイはわずかな兆しを捉えたのだろう。
ベランダに出てくれば、なおさらはっきりしてくる。遠くの空で仄かに輝く稲妻の光。
それはもうすぐここに夕立が来ることを示していた。
そして、それは意外と早かった。

レイはベランダのサンダルを履き、パタパタという足音を立てて洗濯物を取り込む。
そうしているうちにポツリ、ポツリと雨音が鳴り始め、
洗濯物を抱えてガラス戸を閉めた頃には豪雨と化していた。

449: 2008/06/16(月) 23:30:29 ID:???
ぽすん、と洗濯物の山を床に置いて、自分も床の上に、ぺたん。
このままでいいのか、たたんだ方がいいのか考えているのだろうか。
洗濯物のひとつをつまみ上げ、しげしげと眺めるレイ。
それはミサトの巨大なブラジャー。

……。

レイは思わず自分の胸にそれを当ててみようと、

ぴんぽーん!

今度は来客である。
レイは洗濯物を放りだして立ち上がり、とととと、と玄関に向かう。
が、すぐまた居間に戻ってテーブルから小さなケースを取り、また玄関へ。
それは、シンジから預かった大事な印鑑のケース。

「ちわーっす!お届け物です!」
扉を開けると運送会社の制服を着た男が現れた。
「ここに置いといていいです?よいしょっと……」
と、大きな段ボール箱を玄関の脇に置く。その箱と男の制服がいくらか雨に濡れていた。
そして、男が示す伝票にハンコをぺたん。
実はレイが留守番をする最大の理由、何時に来るか判らない荷物を受け取ることであったのだ。
レイはこれで役目を終えたのだ。

 『荷物を受け取ったら帰っても良いからね。鍵は……』

しかし、この雨である。
レイは帰り支度をしようとはせず、再び居間に腰を下ろす。
今度は体育座りで外を眺め、雷の音を聞いていた。

450: 2008/06/16(月) 23:31:18 ID:???
シトシトと降る雨ならば心安らぐ情緒にもなる。しかし、この豪雨。そして鳴り響く雷の音。
レイは雷ぐらいで悲鳴を上げる女の子ではないが、しかし良い気分ではないだろう。
とても今までのように瞑想を楽しめるものではない。

嵐のお陰で気持ちが高ぶっているのか、レイは立ち上がり部屋の物色をし始める。
そして押し入れの襖を開けて見つけたもの。それはゲーム用のシートと巨大な掲示パネル。
そう、かつて使徒殲滅の作戦のために、シンジとアスカが訓練に使用したものである。
レイはそれをセッティングして電源を入れた。

ぴぴぴぽっぴぱー!ゲームスタート

ぴっ……ぼっ……ぴっ……ぽっ……ぴっ……ぽっ……ぶぶぶぶー!!

ゲームオーバー
コンティニュー?

レイの眉が微かにピクリと動き、コンティニューを選択した。

ぴっ……ぼっ……ぴっ……ぽっ……ぴっ……ぽっ……ぱぴっ……ぽっ……
ぴっ……ぼっ……ぴっ……ぷっ……ぷっ……ぱっ……ぽっ……ぷぷっ……

ステージクリア
ネクストステージ

ぷっぽっ……ぺっぽっ……ぱっぽっ……ぴっぴっ……ぷっぴっ……
ぺっぽっ……ぺっぷっ……ぺっぽっ……ぴっぴっ……ぷっぱっ……

ステージクリア
ネクストステージ

451: 2008/06/16(月) 23:32:07 ID:???
ぷっぺっぴっぱっぴっぷっぺっぱっぽっぷっぴっぺっぱっぴっぷっぺっぽっ
ぺっぷっぷっぺっぴっぴっぺっぺっぷっぴっぷっぴっぺっぴっぴっぴっぱっ

ステージクリア
ネクストステージ

ぴぷぺぴぽぺぺぴぱぴぱぴぺぴぴぺぴぽぽぴぽぴぽぴぺぴぺぴぽぺぴぱ
ぺぴぱぴぱぱぴぴぺぴぽぴぴぺぴぽぽぴぽぴぴぷぴぷぱぱぱぱぴぷぴぷ
ぴぽぺぺぴぱぴぱぴぺぴぴぴぽぺぺぴぱぴぱぴぺぴぴぴぺぴぽぽぺぺぴ
ぽぴぴぷぴぷぱぱぱぱぴぷぴぷぺぺぴぱぴぱぴぺぴぷぱぱぱぱぷぷぴぷ……

がちゃんっ!

「ただいまぁーっ!!」
シンジが帰ってきた。

「お帰りなさい。」
「え、あ……ありがとう。」

シンジが扉を開けると、すぐ目の前にレイが立っていた。手にはふかふかのバスタオル。
豪雨でずぶぬれのシンジは戸惑いながらもそれで頭を拭きながら、暖かく出迎えたレイを珍しげに眺めている。
もちろん、レイに限ってゲームパネルで四つん這いになっているところを見つけられたりする筈がない。
居間は完全に片付けられ、必要な分だけ照明がつけられている。今はすでに夜。

「あ、ああ、綾波。今日はありがとう……ごめんね、大雨で帰れなくなっちゃったんだね。」
「うん。」
「そうだ、晩ご飯つくるから食べてってよ。ミサトさん、まだ帰ってないのか……
 おっとっと、まずシャワー浴びなくちゃ。」
と、シンジはあたふたと自分の部屋に戻り、着替えを取り出して浴室へ。

452: 2008/06/16(月) 23:32:59 ID:???
シャワーと着替えを終えたシンジは、電話の受話器を肩に挟みながら鍋でバターを溶かし材料を炒め始める。
「ああ、ミサトさん。帰りは遅いの?えー、泊まり!?困ったなぁ……綾波、雨で帰れないんだ。
 だから、ミサトさんに車で送って貰いたくて……アスカ?アスカは委員長の家でお泊まり会だって……」
そんな慌ただしい姿を、レイは居間で座ってジッと見守っていた。

そしてシンジがこしらえたのは、とろりとした野菜のクリーム煮とサラダ。それにロールパンを二つ。
レイにも食べられそうで、女の子が好みそうな軽いメニュー。
シンジとレイは向かい合わせでテーブルに向かい、しずしずと食べ始める。

「ごめんね、綾波。退屈だったでしょ。」
「いいえ……」 
「そう……何か困ったことは無かった?」
「別に……」
「寂しく、なかった?……はは。」

寂しい?という質問。それはレイには愚問じゃないかと思いながらもシンジは尋ねた。
それにも綾波は首を横に振る。

「別に……」
「……そ、そう。」

これまで人との関わりを持とうとしなかった綾波レイ、14歳。
彼女にあるもの。それは碇司令との、そしてNERVのみんなとの、絆。

シンジは立ち上がり、食事の片付けを始める。
「……おいしかった?」
「うん……」
「ん、雨があがったかな。送るよ。」
「うん……」

453: 2008/06/16(月) 23:33:35 ID:???
「傘も一本、貸しておくからね。いつでも、返してくれればいいから。」
「うん……」
「じゃ、行こうか。」
「待って。」
「……え?」

レイ、シンジのおでこに手を当てる。
「熱がある。横になって。」
「え……いや、別になんとも……」
「横になって。」

強引というほどでもないが、レイはシンジの手を引いて寝室に連れて行く。
「体温計は?」
「あ、あの、そこの引き出し。」
「うん……(ぴぴぴっ)……7度4分」
「ああ、ホントだ。それじゃ、休ませて貰うよ。ごめんね、送っていけないけど……あの、綾波?」

レイは布団を広げ、シンジが休むための準備をしている。
「横になって。あと着替え、借りる。」
「いいけど……あの、綾波?」
「シャワー、借りる。」
と、シンジを寝かせておいてレイは浴室へ。

「……」
どうしたんだろうと、布団の上に座ったままで呆然とするシンジ。
少しして、レイが戻って来た。
シンジのTシャツに短パンを履いて。

455: 2008/06/17(火) 00:01:29 ID:???
「寝て。」
「え、あの、綾波?……あ。」
照明を消して、レイはシンジを逃がさないとでも言うように手を添えて寄り添った。
「あ、あの……」
と、シンジは横目でレイを見る。しばし、レイの紅い瞳と絡み合う。
思わずドキリとして目をそらし、天井を向いて仰向けになる。

お昼になったら、ご飯を食べる。
雨が降ったら、洗濯物を取り込む。
宅急便の受け取りには、ハンコが必要。
そして、病気の人の側に寄りそう。

別段、レイにとって大胆な行動というわけでも無いのだろう。
しかし、レイにこうされてはとてもシンジが落ち着いて眠れる筈が無いのだが。

「碇君……」
「え?」
「……」
「……?」

今日は、ずっと碇君が側に居たような……
そんな気持ちは胸に秘めたまま。

コチ、コチ、と動く時計の音。遠くの空で響く微かな雷の輝き。
そして側にいるシンジとの、絆。

それらの静かな鼓動に耳を傾けながら、レイは今度こそ深い眠りへと落ちていった。

(完)

456: 2008/06/17(火) 00:04:41 ID:???
と、見せかけて。
「ちょっとぉ!ファーストってば、いつまでここに泊まり込むつもりなのよ!」
その翌日……いや、翌々日?
ともかく、あれから後日のこと。

そんなアスカの怒号など、どこ吹く風。
シンジと共に洗面台に並んでシャカシャカとハミガキするレイの姿は、だいぶ慣れてきた様子である。
続いてシンジが朝の仕事。洗濯物のかごを抱えてベランダに向かえば、レイも後ろに付き従う。
パン、と音を立てて洗濯物を広げるシンジは、どうにもレイの意図が掴めないらしい。
不思議な面持ちでレイを見つめるが、それが当然と言うかのようにシンジの仕事を手伝うレイ。

と、シンジは手にしているものにハッと気付く。ミサトやアスカの下着類。
女の子を隣において、流石にこれは気まずいのだろう。
手早くすましてしまおうと、あたふたとそれらを洗濯ばさみで引っかけるシンジ。
そんな彼の服を、チョイチョイとレイは引っ張る。

「え、あ、ああ……綾波、何?」
「……」
「これも僕が……干すの?」
こくり、とレイは頷く。

そうしてシンジの手によって、吊されていくレイのブラにパンティー。
その光景に何故かレイは満足そう。いや、何故だろう。
「そ、それじゃ、朝ご飯の準備をしようか、綾波。」
「♪」

そんなこんなで台所に向かう彼らの背後には、心地よい青空が広がっていた。

(こんどこそ完)


457: 2008/06/17(火) 00:05:16 ID:???
おわりー

504: 2008/06/22(日) 21:52:09 ID:???
「ペンペン……」
ミサト嬢は微かにそう呟きながら、おずおずと私の体を抱き寄せた。

正直、ここがどういう場所なのか私にはよく判らない。
だが、おぼろげながら理解できる。ここは恐らく病に冒されたニンゲンを治療する場所だ。
白衣を着た大人のニンゲン達が数名、お嬢を見ながら書類片手に話をしている。
その様子から、お嬢の病症について議論しているのだと理解できる。
いや、お嬢が病んでいることなど自分の目で見れば判る。
かつて私と遊んでいたときの目の輝きはどこに隠してしまったのだろう。

さて、少し挨拶が遅れた。我が輩は――などというベタな書き出しは止めておこう。名前もちゃんとある。
私の名はペンペン。ペンギンという種族の最後の生き残りである。
大勢の仲間達とともに博士に飼われ育てられた、その最後の一匹。
しかし生き残ったとはいえ、もはやペンギン族の繁栄はこれまでである。
子孫繁栄という全生物の共通目的を果たすには、つがいが無ければ叶わない。
最後の一匹となれば、もはや性別の違いすら意味をなさなくなってしまったのだから。

だからといって、一族の滅亡を嘆いて過ごすか、残りの余生を楽しみながら氏ぬのか、
私はそんな悠長なことをしている場合ではない。大恩ある博士の一人娘、ミサト嬢が病んでいるのだ。
このまま見過ごしては、彼女とともに私を生かしてくれた博士に申し訳がない。

思えば、あれはまさしく大惨事であった。
ニンゲン共から漏れ聞いた話ではセカンドなんとかと言うらしいが、まあ名前などどうでもよい。
お嬢と共に押し込められた妙な筒。そこから顔を覗かせた我々は、信じられない光景に出くわした。
地上、天をも揺るがす巨人の咆哮。その光景を私は氏んでも、たとえ生まれ変わっても忘れることはないだろう。
ましてや幼いお嬢の心では、あんなものを見た後に平常でいられるはずがない。

ともかく、こうしてお嬢を託されたからには、私は博士に誓う。
必ずやミサト嬢の病んだ心と体を癒やし、子を産み育ててニンゲン一族の繁栄に貢献する立派な女に育ててみせる。

505: 2008/06/22(日) 21:53:23 ID:???
「それじゃ行ってくるね、ペンペン。おとなしく待ってるのよ。」

そして、ミサト嬢と二人の生活が始まった。
お嬢は徐々に回復を遂げ、そして明るく元気に学校へと通い始める。
一見では健やかな生活を送っているかに思えるが、
いざ夜になれば苦しげな顔で机に向かい、一心不乱で勉学に励んでいる様子がうかがえる。

その様子、何かに頑張っているのは誠に結構だが……
何かにとりつかれている。そのように私は感じてならない。何より、その暗い表情が気になるのだ。

「やったよペンペン!私、大学に受かったの!」

ある日のこと、お嬢はそう言いながら私の体を高々と抱き上げた。
なんといっても私はペンギン。いつも人間の言葉を解読するのに苦労させられる。
なんだかよく判らないが、大学という難しい学問をする場所に行けるようになったらしい。

そして、ひとしきり喜んだ後のお嬢の言葉。
「まだまだ、これからよ。ペンペン、私が必ず使徒を倒してみせるからね。」
と、やっぱり机に向かって難しい顔をする。
どうやら目標があるらしいのだが、よく判らん。何を倒すって?

いや、なんとなく理解した。お嬢の望みは復讐だな?
ばかばかしい。そんなことをして何になる。
やはりミサト嬢は病んでいるのだ。あの父親の命を奪った大惨事から立ち直っていないのだ。
復讐だか何だか知らないが、そんな意味のないことを私は許すわけにはいかない。
大恩ある博士のためとはいえ、お嬢に戦いに向かわせるなど決して私は許さない。

しかし、しかしだ。私に何が出来るだろう?
口がきけなければ説教も出来ない。彼女の周囲でパタパタと羽根を動かすだけ。

506: 2008/06/22(日) 21:54:40 ID:???
そうしていると、「ん?ペンペン、お腹が空いたの?」と彼女は立ち上がり、気絶しそうな酷いエサを私にくれる。
いや、エサの味などどうでもいい。そうでは無いのだ、お嬢。

嗚呼、もどかしい。
博士よ、なぜ口もきけない私にお嬢を託したのだ。

「ちょっとダメよ……ペンペンが見てる……」
「いいじゃないか。これが男と女の有るべき姿というものだ。」

だが、不意に望ましい光明が差し込んできた。
ある時、彼女は男を連れ込んだのだ。
加持とかいう名前だが、まあそれはどうでもいいだろう。
そして酒を飲んで笑いあい、昼も夜も布団でゴロゴロとむつみ合う。

この男、判っているではないか。
オスがメスに子を産ませる。それこそまさしく男女の有るべき姿。
きっとこの男がお嬢をそのように仕向けたのだろう。
どうすることも出来なかった自分のふがいなさに恥ずべきところではあるのだが、
しかしミサト嬢が幸せになればそれでいいのだ。自分の名誉などゴミ同然。
この上は身を引いて、男の力によってお嬢が立派なメスへと成長するのを暖かく見守ることにしよう……

はて、おかしい。お嬢が孕まない。
何故だろう。延々一週間に渡りむつみ合っていたというのに。
男が種無しなのか、それとも、お嬢の体は病んでいるのか。

いや、後者だとは思いたくない。きっと男が種無しなのだ。そうだ、そうに違いない。
そしてある時、男はお嬢と何やら激しい言い合いをした挙げ句に姿を見せなくなった。
当然だろう。男はお嬢を立派な女にしそこねたのだ。
あの役立たずめ、私もケリの一つでも入れてやりたいところだ。

507: 2008/06/22(日) 21:55:41 ID:???
「さあ、ペンペン引っ越しよ。行き先はドイツ!」

それ以来、お嬢は転々と住処を代え、私は変わらずそれに付き従う。
何とか言う仕事に就いたお嬢は、更に住処で過ごす時間が少なくなってきた。
あまり家に引きこもるのは決して良いことではない。
外を出歩き、世間の男共に色香を振りまくのは女として大切なことだ。

だが、お嬢はいつも一人。
遅い時間に帰ってきたと思えば、やはり難しい顔で机に向かう。
人間の繁殖期、産卵期などペンギンの私にはよく判らないのだが、
しかしこのままでは出産の契機を逃してしまうのは明白である。
もどかしい。もどかしくて仕方がない。
そして最後と住処となる場所へと引っ越しを終えた、その数日後のことである。

「おじゃまします。」
「シンジ君、ここはあなたのウチなのよ?」
「……ただいま。」
「おかえりなさい♪」

お嬢が新しいオスを連れてきたのだが……いや待て、お嬢。少し若すぎないか?
詳しくは判らないが、まだ子供の世代であることに間違いない。
ははあ、さてはお嬢。成人男子を捕まえることが叶わず、子供から手なずけるつもりなのか。

やはり、そうだった。
ミサト嬢のはしゃぎっぷりは、これまでに無いものである。
無茶なくらいにビールを飲み干し、少年の体をゆさぶってまで盛り立てようと必氏である。

お嬢よ、焦るではない。暖めずに孵る卵など、蛙や蛇のそれでしかない。
それに見よ。お嬢、見たであろう?今だ少年の体は未成熟ではないか。

508: 2008/06/22(日) 21:57:10 ID:???
夜になってもぼんやりと天井を眺めたきりで、夜這いの一つも仕掛けようとはしない。
やれやれ、性欲まで未成熟ではないか。
これではお嬢に種付けするなど何年後の話となるか知れたものではない。

「今朝の食事当番、誰でしたっけ?」
「くっ……」
「なんでミサトさんが今だに一人なのか、判ったような気がします。」

少年、何を言っている。働くのが男の勤めではないか。
まあ普段の仕事ぶりに免じて許してやらないこともないが。

ここに来て以来、お嬢の仕込みのお陰なのか少年はまめに働くようになる。
掃除をする、風呂を沸かす、炊事に洗濯、そして私に投げてよこすエサも質の良いものになってきた。
なんだかんだ言っても流石はオス、実に良い仕事をする。
お嬢の調理したものでは、よく口にした瞬間に意識を失ったものだ。
少年のお陰で私の生活はバラ色に化したといっても過言ではない。
だが、我が身の心配など私はしていない。お嬢、私はあなたが心配なのだ。
良く出来た少年ではあるのだが、しかし若すぎる故の不安がある。

「アンタ、まだ居たの?ミサトはアタシと暮らすの。ま、実力を考えれば当然よね。」

やがて、その不安が見事に的中してしまった。別の若いメスが住み着いてしまったのだ。
言っていることがどうにも噛み合わないが、いちいち少年に絡みつく挑発的なその態度。
少年目当てで乗り込んできたことがよくわかる。
露骨なアピールだ。このままでは少年の種を全て搾り取られてしまうぞ、お嬢。

だが、お嬢はそんな二人を笑ってみている。
むしろ仲良くしろと説教までしている。はて、どういうことだ?

509: 2008/06/22(日) 21:58:16 ID:???
更にその少女だけではなく、同年代らしい連中もぞろぞろとやってくる。
このままではお嬢をほったらかしで、オスメスのつがいが幾つも出来てしまうだろう。
判らない。お嬢、いったい何を考えている。

……いや、判る。
そうだ。もはや自ら子孫の繁栄に貢献できない私だからこそ、お嬢の意図が理解できる。
お嬢は若い者達のつがいが出来るのを楽しみにしているのだ。
つまり、私がお嬢を見守る気持ちとまったく同じ。
新たな若い世代の手引きをして、産めよ増えよと子孫繁栄に貢献することがお嬢の望みなのだ。

もはや、病んだ自分では無理だと考えたのだろうか。実に泣かせる話ではないか。
いや、お嬢よ。あきらめるのはまだ早い。
病んだ心はともかく、体はいたって健康な成人女性なのだ。
どうか私のためだと思って、素直に我が身の幸福を望んで欲しい。

だが、お嬢は楽しげに彼らを招きよせる。
そして大勢で笑い、飯を食い、ミサト嬢は大酒を飲む。
若い世代ばかりではない。お嬢と同年代、年寄りもやってくる。
あきれたことに以前の男、加持という奴までやってきた。
畜生、今度こそケリを入れてやる。

だが、ミサト嬢はそんな彼らを笑って迎える。
ペンギンの身である私でも判る。お嬢は心底から楽しげに笑っている。
それで幸せならそれで良い、と私はお嬢の考えを認めてやりたい。

だが、お嬢よ。笑顔の合間にみせる、その苦悶に満ちた顔はなんだ。
そして、お嬢がつぶやくいつもの台詞。
「使徒は必ず私が倒す。セカンドインパクトの二の舞はさせない。」

510: 2008/06/22(日) 21:59:29 ID:???
お嬢よ、まだそんなことを言っているのか。
それでは何も変わらないではないか。だから私は心が病んでいると言いたいのだ。
生き物とは生きるために必氏に生きる者をいう。何かを倒すために生まれてくる者など居ない。
このままではその病、自分だけの問題ではなくなってしまうぞ。

「ミサトもイヤ、シンジもイヤ……自分が一番イヤァッ!!
 もうイヤッ!我慢できないッ!!」

案の定だ。年若い少女に見事に感染してしまったようだ。
もともと大声でわめき散らす血気盛んな性格だったが、もはやまともな状態ではない。
そして、今日もまた詰まらぬことで少年に噛みついてくる。

「アンタでしょ!このカーペットを汚したの!」
「アスカ、先週もそれで怒ってたじゃないか。もういい加減にしてよ。」
「ウルサイッ!ミサト?いい加減ムカツクから取り替えてよ、これ!」
「アスカ!もう、どうでもいいって言ったの自分じゃないか!」

これら全てはお嬢、あなたの病が原因なのだ。
ミサト嬢の病が、既にこの少年少女にまで伝染し始めている。
あなたがそのことを悟らなければ、この若い二人は必ずダメになってしまうぞ。

やがて少女は何処かに行ったまま帰ってこなくなる。
少年はうつろな目つきで寝室に横たわる。
お嬢はあいもかわらず自室で難しい顔をする。

私には何も出来ない。
出来るのは彼らの心配だけだ。
このままではいけないことは判っている。
しかし、どうしようもないのだ。

511: 2008/06/22(日) 22:00:44 ID:???
「止めてよ、ミサトさん!」
「……ごめんなさい。」

ある時、少年の寝室に赴いたお嬢。
少年の手引きをするつもりだったのか、今更ながらに生物の本領に目覚めたのか。
だが、差し出した手を払われた様子が見て取れた。

無理もない。少年も病み始めている。
あの少女が姿を消してからというもの、うつろな目で天井を見てばかり。
お嬢は判っていない。あなたも少年も病根の排除が必要なのだ。

「ペンペン、おいで。」

その失敗を慰めて欲しいのか、久方ぶりのお声掛かりだ。
正直、側によって慰めてやりたいのだが私も拒否をせざるを得なかった。
これが私に出来る精一杯の意思表示。しかし、これでは私の気持ちが通じる訳がない。

畜生、どうすればいいのだ。なぜ、私には何も出来ないのだ。

やがて、少年も帰ってこなくなってしまった。
住処にはお嬢と私、二人だけ。
もはや、これまでなのか。

「ペンペン……私、保護者失格ね。」

力なく、そのようにつぶやくお嬢。
確かに、あなたが原因だと思う。しかし、あなたの罪ではない。
だが、そんな簡単な言葉ですら私はあなたに伝えることが出来ないのだ。

512: 2008/06/22(日) 22:01:38 ID:???
「ここが街外れでよかった。あなたが巻き込まれずにすんだから。でも、次の保証は無い。」

ん?お嬢、何の話だ。

「だから、明日からは洞木さんちでお世話になるのよ。しばらくお別れね、ペンペン。」

お別れ?
いや待て、私はお嬢から離れるつもりはないぞ。
お嬢、頼むから私の話を聞いて……畜生、聞こえないんだった。
いや、何でも良い。とにかく、イヤだという意思表示を……

「ん、ペンペン。お腹すいたの?えーと、確か干物が残って……」

だから、そんなことは誰も言ってないって!
何故だ!
何故、私はペンギンなのだ!

- 続く -

517: 2008/06/23(月) 07:39:37 ID:???
「それじゃ、ペンペンをよろしくね。」
「はい、判りました。葛城さん……」

ん……?

「それじゃいこうか。ノゾミ?いつまでも覗き込んでないで、こっちに貸して。」
「アハハ、ペンペンっていうの?可愛いね、おねーちゃん。」
「ヒカリもノゾミも、しっかり面倒見るのよ?私は知らないからね。」

し、しまった。すっかり寝てしまった。むむ、なんだこの檻は?
お嬢は寝ている隙に私をこんなものに閉じこめたのか。
まさか……私を無理矢理に遠ざけるため?

「よし、それじゃ行くよ?二人とも早く車に乗りなさい。」
「はーい!ねね、お姉ちゃん。疎開ってさ、どこに行くの。」
「ん、聞いてないの?ドイツだってさ。」
「えー!私、パスポートなんて持ってない……」

冗談ではない。海を隔てた外国ではないか。
そんなところまで連れて行かれては、間違いなくお嬢には二度と会うことが出来ないだろう。
これではお嬢が一人きりになってしまう。
私はお嬢を一人にする訳にはいかないのだ!

「そ、そんな暴れちゃダメだよ。落ち着いてよペンペン。」
「ちょっとぉ!うるさいよ、その子。」

いや待て、落ち着け自分。
今、車という乗り物に乗せられている。
無理に檻から抜け出しても、逃げのびるなど無理な話だ。

518: 2008/06/23(月) 07:41:03 ID:???
落ち着け……落ち着け……

「ほら、おとなしくなった。ね、ペンペンは良い子だよ?お姉ちゃん。」
「ふん……」

よしよし、この調子だ。
無理を通せば道理が通らぬ。落ち着け、自分。

「こんど出るのが最後の便だってさ。どうなっちゃうんだろうね、第三新東京は。」
「そうね……でもね、碇くん達が負けちゃったら、日本はおろか世界中だって……」
「そっか。その子、あそこにまだ残るんだよね……あの鈴原って子は?」
「病院から直接、空港に向かうんだって。会えるかな……」

確か、私の檻の側で話している子は見覚えがある。
以前、お嬢の住処に訪れて私を抱き上げていた子がそうだ。
でも聞き慣れない声でないと、言っていることがよく判らない。

「よし、着いたよ。ほら、その檻を貸して。重いでしょ?」
「ううん、大丈夫よ。よいしょっと……」
「ん……ちょっと、なに?あっちの空。」
「……え?」

着いたか?着いたようだな。
さあ、ここからだ。あの飛行機とか言うものに乗せられてしまっては、もう逃げ出すことは不可能だ。
そして四方を見渡し、あるものを探す。もし近くに無ければお仕舞いだ。
ニンゲンの足は速い。地上を走っていたのでは、すぐに追いつかれてしまう。

「あれは……何?」
「ヘリ……いや戦闘機?何あれ、戦争が始まっちゃうの?」

519: 2008/06/23(月) 07:42:06 ID:???
あった!よし、あそこへ逃げ込むんだ!
彼女達が気を取られている今のスキに、あそこを目指して一気に駆け抜ける!

   ガタンッ!

「きゃっ!」
「ちょ、ちょっと、ペンペンが逃げたよっ!」
「ど、どこに行こうというの?待ちなさい!」

その私がめざしているもの。
それは河だ。地上では勝ち目はないが、水の中に入ればもうこっちのものだ。

「お願い、ペンペン待って!」
「誰か止めて!あそこに飛び込んだら……」

口々に叫びながら追いかけてくる少女達。
すまない、迷惑をかけるが何としてもミサト嬢の元に戻らなければならんのだ。
それが、私に課せられた宿命なのだ。
えい!

   どっぽーん!!

泳ぐのは久しぶりだ。泳ぐ場所といえば、お嬢の住処で風呂につかるぐらいなものだ。
久々に動かしたお陰で、全身の筋肉がメリメリを音を立てている。
泳げ。泳ぐのだ、ペンペン。
なんとしてでも、お嬢の元にたどり着くのだ。

そして……そして、お嬢に平手の一発でも喰らわしてやる。
私を二度と離すな、と。

520: 2008/06/23(月) 07:43:20 ID:???
私は無我夢中で泳ぎ続けたが、頭上がなにやら騒々しい。
水上では信じられないような爆音が響き渡っている。何かが起こっているのだ。

そして、息継ぎのために水面に顔を出してみれば驚いた。
地上はまさに火の海と化して居るではないか。
だが、構っている暇はない。水面下なら安全だ。
早く、早くお嬢の元に戻るのだ……

……

そして、ようやくたどり着いた。
どこをどう泳ぎ、どうやってここまで来たのか判らない。
マンションの外を見渡せば、地上はまさに火の海の地獄。
それはすぐにでも、このお嬢の住処にまで及ぶだろう。

私が部屋に入ると、お嬢がそこに立っていた。
ただぼうぜんと、部屋を見渡している。
そして、私はお嬢に声をかけた。

「お嬢。」
「……嘘、ペンペン?」

信じられない。
私がお嬢と会話をしている。
これはいったいどういう奇跡なのだろう。
いや、そんなことはどうでもいい。
私の必氏の思いが通じたのだ。それでいい。
ならば、自分の思いを伝えるのみだ。

521: 2008/06/23(月) 07:44:39 ID:???
「お嬢、逃げよう。早く全てを捨てて逃げるのだ。」
「お嬢って私のこと?ペンペン、あなたはずっと私をそう呼んでいたの?」

お嬢は笑って私のほうを振り返った。
それは、なんだか寂しげな、あるいは懐かしむような笑顔だった。

「そうだ。お父上から授かったあなたをそう呼んでいた。
 いや、そんなことはどうでもいい。逃げるのだ。全てを捨てて、やり直そう。」
「引っ越すの?ペンペン……♪机、本箱~掃除したてのサッシの窓に~」

私をからかっているのか?それはお嬢が引っ越しの折に好んで歌っていた歌だ。
私はカッとなって、つい大声をあげた。

「お嬢!」
「ごめんなさい。そうね……こことも、もうお別れね……」
「そうだ。お嬢、もう一度やりなおせばいい。
 あなたは病んでいたのだ。あなたの病が、あの少年少女を陥れたのだ。
 だが、お嬢は悪くない。その病が悪いのだ。ならば、病んだ心と体を癒せばいい。」
「病んでいた……この私が?そうね、そうだったのかも知れないわね。
 本当に、悪いことをしたわね。シンジ君とアスカには。」

そして、お嬢は床にしゃがみ込み、少年が汚したというカーペットを眺める。
「そうね。アスカの言うとおりにさっさと取り替えておけばよかったわね。
 あの子、つまらないことばかりでシンちゃんと喧嘩ばかりしていたな。
 もう少し私が気を配ってあげれたら……」
「お嬢、済んだことはもういい。新しい世界に赴くのだ。
 そして、これまでの仇討ちなどという妄執を捨てて、いい男を見つけて子を産み育てるのだ。
 今からでも遅くはない。それがあなたの幸福であり、生きるものの勤めなのだ。」

522: 2008/06/23(月) 07:46:03 ID:???
必氏の私の思いを理解しているのか、いないのか。
ミサト嬢は、私の言葉をただ笑って聞いている……ん?
お嬢、怪我をしているのか?体から血が流れ出しているではないか。

お嬢はその場にしゃがみ込んで、何かを思い浮かべるように天井を見上げて語り始める。

「子供を産み、家庭を育む幸せ、か。ウフフ、なんだか父親にお説教されてるみたいね。
 ペンペン、人間はね。とても複雑な生き物なの。
 単純に側にいるオスとメスが引っ付いて、子供を産んだり出来るものじゃない。
 こんなカーペットのシミ一つで、男と女の溝をさらに深めてしまう。」
「……?」
「知ってる?NERVのマーク。あれはアダムとイブが身につけたというイチジクの葉なの。
 つまり、知性を身につけたが故に生まれた恥じらいとプライド。
 それが男と女の間に大きな壁を作ってしまった。
 加持君……彼と純粋に愛し合えたあの頃が懐かしい。
 自分の心の中にある障壁さえなければ、あのまま彼と一緒に居られただろうに。」
「その……お嬢、言っている意味が判らないが。」

「碇司令はあの葉こそ、知性を身につけた人類の勝利の証だと言っていた。でも、私はそうは思わない。
 あれこそ、人間の欠けた自我の象徴……いや、違うわね。
 あのイチジクの葉に阻まれ、男と女が補い合うことが出来なくなっちゃったのよ。
 それを使徒の力を利用して補う、人類補完計画……ちゃんちゃらおかしいわね。
 互いに手を取り合う現実の努力を捨てて、学校を爆破したがる子供のような計画だわ。
 ペンペン、仇討ちとはよく言ったものね。その仇討ちの空しさを今、私は味わっているわ。
 そんな計画に私は荷担していたなんて……」

延々と語るミサト嬢だが、正直いって何が何だかサッパリ判らない。
こうして長台詞を聞いている時間はない。なぜか、そう思った。
そして急き立てようと口を挟む。

523: 2008/06/23(月) 07:48:24 ID:???
「そ、その、お嬢。やはり、言っている意味が判らないのだが……」
「人間が愚かで、あなたが正しい。それだけよ。
 人間はあなたがいう病に冒された、繁栄の意味を取り違えた生物。」

恐らく怪我のせいであろう。 
そう私を慰めるかのように語るお嬢の顔から、血の気が引き始めている。

そういえば、何かがおかしい。
私はどうやってここにたどり着いたのだ。
ここは地上から遙かに高いところの筈。
だが、エレベーターに乗った記憶も、階段をよじ登った記憶もない。
しかも、玄関の重い鉄の扉など私の力で開けられる筈もない。

「お嬢、どうしたのだ!怪我をしているのではないのか!」

「ウフフ……ねえ、ペンペン?
 私ね、シンちゃんとはキスの続きを約束したの。
 そうね……シンちゃんの子供を産んじゃうのも悪くないな。
 シンちゃんなら何でも許してあげられたのに……
 残念ね。これでは、もう約束を果たせない。
 あとは、アスカに任せるわ……」

「お嬢!早く逃げよう!このままではお嬢は!」

「ペンペン、あの二人をよろしくね……
 ねえ、加持君……これで良かったわよね……」

「……お嬢ッ!!」

- 続く -

526: 2008/06/23(月) 14:47:13 ID:???
そして――

私はミサト嬢の体が炎に包まれ凄まじい爆音と共に吹き飛ぶのを、遙か天空の彼方から見下ろしていた。
そうか、私はすでに氏んでいたのか。
なぜ、そうと判ったのかと言えば……すぐ隣に博士の姿があったから。
私は博士と共に、お嬢の最後を見届けたのだ。

私と博士だけではなく、幾万の魂が十字となって舞い上がっていく。
なんとも美しい光景だ。その全ての人の顔は何故か幸福に満ちている。
これで良かったという訳か?
いや……良い筈はない。生きてこそ生物の本分である筈なのに……

博士、すまない。
私は誓いを果たせなかった。すまない、博士。

だが、博士は黙って地上を見下ろしている。
誰も居なくなり、もはや地獄絵図のような廃墟と化したニンゲンの街を。
いったい、何が起こったというのだろう。

ああ、そうか。
これがお嬢が言っていた人類補完計画なのか。
確か、学校を爆破したがる子供のような、と称していた。
その焼け跡を我々は見下ろしているのだ。

これで満足なのか?これで計画は成功したと言うのだろうか、ニンゲン共よ……
……ん、お嬢?

気がつくと、博士の傍らにミサト嬢が浮かんでいた。
そして私の方をジッと見つめて、地上の方を指し示す。


527: 2008/06/23(月) 14:48:29 ID:???
(あの二人をよろしくね、ペンペン)

お嬢が示した海岸沿い。
そこに、二人の少年少女が横たわっていた。

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

「シンジ……立って。」
「……」
「立ってよ!行きましょう?ここにジッとしていてもどうにもならないわ。
 ほら、首を絞めたことなんか怒ってないから!」
「……」
「ねえ、シンジ!抱きしめてキスの一つでもすればいい?」
「……」

シンジと呼ばれた少年は動かない。
その彼を立たせようとする少女は、間違いなく共にミサト嬢の元で暮らしていた彼女だ。
膝を抱えてうずくまる少年の側に立ち、どうにか奮い立たせようとしているらしい。
しかし、少年は動かない。
さあ、どうする?

「……」
「……」

少し怒り出したように見えた少女であったが、
大声を出すのを止めて、軽く溜息をついてから少年の側に座った。

そうだ。それでいい。何でも良いから側を離れてはいけない。

528: 2008/06/23(月) 14:49:44 ID:???
どうやら彼女に取り憑いていた病は癒えているようだが、完全にどうかは判らない。
怒るのを止めたのは、仕方がないと諦めたのか、
それとも少年をいたわしいと感じたのか。

しかし、こうしているのも良くないな。
そろそろ、再会の挨拶でもするとしよう。

「……あれ?ねえ、シンジ。見てよ、あれ。」
私が水面から姿を現すと、少女はめざとく見つけて少年に指し示す。

「ペンペン……?」
やっと、少年の声が聞けた。
まるで、あの時の幼いミサト嬢のようだ。

「アハハ、アンタ生きてたの!?信じらんない!」
「ペンペン……無事だったなんて。でも、おかしいな。委員長に預けられたって……」
「ここまで泳いで来たんじゃないの?」
「えー!?だって、疎開先はドイツだって……」

少しずつ、笑顔を取り戻す二人。本当に久しぶりの笑顔だ。
この二人が出会ってから、ほんのしばらくの間しか見ることの出来なかった本物の笑顔だ。

「うーん、でもこれから食料が大変ね。シンジ、どうする?」
「どうすると言ったって、こんな有様じゃ……」
「確かに酷い有様ね。こんなところで生きていけって言うつもりかしら。」
「アスカ、誰に怒っているのさ……あ、ちょっと見てよ!ペンペンが魚を捕ってきたよ!
 凄いや!これアジだよ!アジ!」
「あんな海で泳いでたのを食べるっていうの?気持ちわるぅ!」
「そんなぁ、せっかくペンペンが……」

529: 2008/06/23(月) 14:51:17 ID:???
さっそく口喧嘩のような掛け合いを始める二人。
やれやれ、この調子が思いやられる。また、病に冒されなければいいのだが。

お嬢。
正直、今の私に何が出来るか判らない。
これまで同様、私には二人のための力にはなれないだろう。
私は最後に残った、ただ一匹のペンギンでしかないのだから。
しかし、お嬢は私に託した。博士の時とは違い、正式に私に託したのだ。

ならば、私は誓う。
何も出来ない私だが、せめて私は彼らを見守り続けることにしよう。
せめて、彼らが育む新たな生命を見届けるその日まで。

願わくば、その日まで残り少ない寿命が尽きないことを、
そして願わくば、我が身がニンゲン共の繁栄の礎の、その欠片とならんことを。

「ねえ、シンジ?ペンペンって……美味しいのかな?」
「ちょっ……あ、アスカぁ!」

ど、どうか……お嬢、そして博士も共に見守っていて欲しい。
いや、守ってくれ。

西暦2015年、吉日。
ペンペン

- 完 -


(うむ。ペンペンの背中に搭載したS2機関は正常に稼働しているようだ。ペンペンはあと100年は戦える!)
(ま、マジっすか?お父さんっ!)

530: 2008/06/23(月) 14:55:21 ID:???
おわりっすー

というわけで、私の書かせていただいたシリーズはペンペンで締めたいと思いますー
読んでくださった方々、ホントにありがとー
またなんか思いついたらスレの保守に貢献したいと思いますー
ではまたー

引用元: ★エヴァ小説を投下するスレ(ノンジャンル)★