29: 2008/12/18(木) 00:56:59 ID:???
あたしが自力で倒した使徒はたったの一体……

それも太平洋艦隊の力を借りて……

次の使徒はシンジと一緒じゃなければ倒せなかった

その次はファーストと三人で

あたしはただ命令通りに動いただけ

その次と次は

手も足も出なかった

倒したのは両方とも無敵のシンジ様……か

あたしは本当に特別なの……?

教えてママ 加持さん……
28: 2008/12/18(木) 00:54:50 ID:???
基本的に貞エヴァに準拠してますが、エントリープラグの強制射出によってトウジは無事助け出され、初号機の暴走はなかったという設定でいきます。
だから参号機戦の後ですが、シンジには待機命令が出ていないということで。
少しずつになるかもしれませんが投下、始めます。

30: 2008/12/18(木) 01:01:12 ID:???
「あ、絨毯買ったんですね」
気付けばリビングのテーブルの下に大きな白色の絨毯が敷いてあった。
「ちょっとアンタ、まさか今気付いたの?」
アスカがカチャカチャと食器の音をたてながら言った。
「あたし達が帰ってきたときにはもうあったじゃない」
「あ……そうだっけ」
「信じらんない」
アスカは侮蔑に満ちた口調で言うと、再び黙々と食べ始めた。
「暦の上ではもう冬だしね、買っちゃった。なんとなく暖かな雰囲気があっていいと思わない?」
ミサトさんが微笑んで言った。僕は改めて絨毯に目をやる。
真っ白な絨毯は羊の毛のようで、確かに暖かい雰囲気を醸し出している。
「クリスマスも近づいているし、本当はもうちょっとクリスマスっぽい色にしようかなって思ったんだけど、白で良かったかしら」
ミサトさんの問いかけにアスカは
「クリスマスなんて、あたし達には関係ないじゃない」とぶっきらぼうに答えた。
「まぁ、そうね。あちらさんは私達の日常生活なんて関係ないものね。正月だって襲ってくるかもしれないのよね~」ミサトさんが缶ビール片手に言った。
「でもアスカ……」
僕は、なぜか苛立った様子で食事を続けるアスカに話しかけた。
「いつも戦いのことばかり考えてるわけにはいかないしさ……」
「だからアンタは甘いのよ」
僕の言葉を遮ってアスカは口を開いた。鋭い視線が僕に突き刺さる。
「いつ襲ってくるのかわからないんだから……世間の浮かれたクリスマスムードになんか流されていたら、アンタ、氏ぬわよ」
アスカの口調がいつもよりも厳しい。何か思い詰めているようにも感じる。
「でもたまには息抜きも大切じゃないかしら」
ミサトさんがなだめるように言うと、焚きつけられた薪のようにアスカの勢いが一気に強まった。
「息抜きなんて必要ないのよ。だいたい、あたしならともかく、シンジなんていつも息抜きしてるって言ってもいいくらい常日頃からぼけっとしてるんだから、もっと……」
アスカの勢いが止まらない。リビングにアスカの僕をなじる声が響きわたる。
「それに、この前だって……」
アスカの声が鳴り止まない。どうしてこんなに機嫌が悪いんだろう。
僕はアスカの罵倒から逃避するかのように牛乳を手に取り、飲んだ。
黙って聞いていたら疲れる。

31: 2008/12/18(木) 01:02:40 ID:???
「あら」
その様子を見てアスカの批判が止まった。
「アンタ、今日は牛乳なんて飲んでるのね、珍しいじゃない」
「うん、ほら今日シチュー作っただろ。それで使ったんだけどけっこう余っちゃったから……」
「ふーん、ま、アンタにはミルクがよく似合うわ」
アスカがにんまりと笑って言った。ミサトさんはそれを聞いて苦笑いを浮かべている。
僕は牛乳を置き、今度はシチューに口をつけた。反論する気は起こらない。嵐が収まったのなら、僕は別に言うこともないのだから。

32: 2008/12/18(木) 01:04:35 ID:???
それからは割と和やかな時間が流れた。そんな良い雰囲気を破ったのは僕だった。

「キャッ」
「あ、ごめん!」
食卓の上でグラスは転がり、テーブルの縁からは牛乳がポタポタと滴り落ち始めた。
手がすべってしまいグラスを落としてしまったのだ。
「バカシンジ!あたしにまでかかったじゃない!」
「ご、ごめん!」
僕は謝ることしかできず、とりあえず急いで台拭きを取りに走った。
戻ってきてよく見てみると、絨毯の上にも牛乳が広がっている。
同じ白なので目立ちはしないが、新品なので悪いことをしてしまった気がする。
「ごめんなさいミサトさん、買ったばっかりなのに」
「いいのよ気にしなくて」
ミサトさんは笑って許してくれた。でもたぶん……、いや絶対許してれない人がいる。アスカだ。
僕は絨毯を後回しにしてアスカの服にかかった牛乳を拭こうとした。けれど
「なに触ろうとしてんのよ変態!アンタは絨毯と机の上を何とかしなさい」
「う、うん。ごめん」
僕は一喝されて、すごすごと引き下がった。絨毯を拭くことにする。

僕は雑巾を水でしぼって、しゃがみこみ、ゴシゴシと絨毯を拭き始めた。
流台の布で服を拭いていたアスカはいつの間にか戻ってきていて僕を見下ろしている。
「本当、アンタってダメね」
アスカは呆れたように言うと、僕の隣にしゃがみこみ、雑巾を奪い取った。
「こういう絨毯に広がった汚れっていうのはね、叩くようにするといいのよ」
アスカは小刻みに手を動かした。パンパンと軽快なリズムが響く。
「へー、そうなんだ……」
「バカシンジ。こんなの常識じゃない、覚えておきなさいよ」
アスカは得意気に言うと、僕に雑巾を手渡した。
少し誇らしげな表情だ。怒った顔のアスカより、こういう表情のアスカの方がいい。
見ると、絨毯はさっきよりも確実に綺麗になっていたのだった。

35: 2008/12/18(木) 02:00:03 ID:???
その日の夜、日付が変わりそろそろ寝ようかと思っていたときに、静かな音をたてて扉が開いた。
「ねぇ、シンジ」
アスカが扉の陰からひょっこりと顔を出して小声で言った。アスカがこんな夜更けに部屋まで来て声をかけることはまずない。
どうしたのだろう、といぶかしんでいるとアスカは足音を忍ばせて、つっと部屋に入ってきた。
「ねぇ、シンジ……。アンタの本当の気持ちを教えて欲しいの」
心臓が大きく波打った。アスカの思い詰めたような表情を見ると、体に緊張が走る。
アスカは続けて言った。
「……エヴァのパイロットとして、あたしとアンタ、どっちが上だと思ってる?」
「え……?」
夜中に部屋を訪れて聞くことだろうか。予想してた展開と違うことに少し戸惑いを覚える。
「訓練では、あたしの方が明らかに技量が上だわ」
アスカがうつむく。
「でも、実績ではアンタの方が遥かに上……。エヴァのパイロットとして、どっちが上だと思ってるの?遠慮しないで、はっきりと本当のことを言って……」
アスカの目に、見ていて切なくなるくらいに苦悩の色が浮かんでいる。
こんな、どっちが上かなんていう、どうでもいいことでアスカは悩んでいるのだろうか。

36: 2008/12/18(木) 02:01:07 ID:???
「アスカの方が上だよ。僕は、アスカのシンクロ率には敵わな……」
「そういうことじゃなくて!」
アスカは声を押し頃しつつも、わずかに声を荒げた。
「実戦的な能力では、どっちが上だと思ってるの?」
僕は二の句が継げなかった。ここで『アスカの方が優れている』と言い続けることは、果たして正しいのだろうか。
それが本心であるかどうか、自分でもわからないのに……。
「黙っちゃったわね……。いいのよ、それがアンタの本当の気持ちだと思う。例えば初号機と弐号機で一騎打ちの勝負をした場合、どっちが勝つのかしら……」
アスカの透明な瞳が僕に向けられる。心の中が見透かされているような気分だ、下手な気休めは言えない。
「あたしね、確かめてみたいと思うの。アンタとあたし、どっちが優秀なパイロットなのか……実戦でね」
ピリピリと音をたてているような張り詰めた空気が部屋に満ちている。
「とは言っても……、さすがに本気でやりあうわけにもいかないわ。私だって、そこまで分別がつかないわけじゃないんだから……」
そう言うと、アスカは僕の方へ更に歩み寄り、顔を近付けて言った。
「だからシンジ、次に使徒が襲来したら、どっちが先にトドメを刺すかで勝負するわよ」

38: 2008/12/18(木) 02:02:45 ID:???
「実戦での、勝負。どっちが上か白黒つけましょう」
「でもそんなの無理だよ。ミサトさんが次はどんな作戦を出すのかもわからないじゃないか」
「作戦なんて無視すればいいわよ」
アスカは冷たく言い放った。
「無茶言うなよ、そんな勝手なことしたら……」
「いいじゃないですか、勝ったんだから」
アスカは僕が言い終わる前にボソッとつぶやいた。
その言葉に、恥ずかしさで体がほてるのを感じた。以前、僕がミサトさんに言った言葉だ。
「前にアンタが命令無視をしたときに言ったそうね。優等生らしくない、良い言葉だわ」
アスカが口元に笑みを浮かべて言った。僕が話す間を空けずに、アスカは続ける。
「それにミサトの命令が常に正しいわけでもないのよ。ラミエル戦のとき、何の下調べもせずに初号機を出動させたとき、アンタどうなった?」
「えっと、いきなり胸を撃ち抜かれて……」
「ね?」
アスカは得意そうな顔つきで言う。
「ミサトの命令に忠実に動いていたら殺される、なんてことがあってもおかしくないのよ。結局、本当に頼れるのは自分自身だけなんだから」

39: 2008/12/18(木) 02:04:33 ID:???
僕は言い返す言葉が見つからずに、黙ってしまった。確かに、ミサトさんの命令は絶対ではないかもしれない。いや、でも……
「でも、次に来る使徒が強敵だったら、それぞれが単独行動を取るっていうのは危険だよ」
「わかってるわ。もしも危なそうだったら勝負は先送り。相手が弱そうだったらどっちが先に倒すかで勝負。これでどう?」
アスカの力強い目が真っ直ぐ僕に据えられている。
「わ、わかったよ。でも本当に大丈夫そうな場合だけだよ。あとこんなことは一度きりに……」
「もちろんよ」
そう言ってアスカは立ち上がると扉まで歩いていき取っ手に、手をかけた。
「シンジ」
アスカは振り向きもせずにそのままの姿勢で言った。
「やるからには本気でやりなさいよ。あたしに勝たせようとか、余計なこと考えたりしたら、あたし、絶対許さない」
「……うん」
僕はアスカの迫力に少したじろぎながらも、答えた。
僕が返事をしたのを聞いて、アスカは扉を開き、出ていった。
部屋に一人取り残された僕は、しばし呆然とする。
アスカはプライドが高い。だから勝負事で手を抜かれたりなんかしたら烈火のごとく怒り出すだろう。
僕は、曲がりなりにもアスカの勝負を受けた。だとしたら、誠実に、アスカの想いに応えなければいけないのだろう。
僕はおもむろに布団に潜り込む。
静まりかえった部屋の中で、秒針が時を刻む音だけが静かに響いていた。


42: 2008/12/19(金) 00:05:23 ID:???
なるべくならアスカが勝負のことなんて忘れたころに来てほしい、という僕の願いも空しく
それからあまり日を開けずに、クリスマスが目前に迫ったある日、使徒は襲来した。


「シンジ君、アスカ、レイ、聞こえるわね?」
モニターにミサトさんが映る。
「使徒はまだ上陸してから全く動きを見せていないわ。このまま様子見で待機。その後変化があれば、それに対応。なければ遠距離から射撃、いいわね?」
「はい」
僕は返事をした、が、アスカは返事をしただろうか。アスカの声が聞こえなかった。
出撃する前にアスカが漏らした笑みが脳裏に浮かぶ。きっと勝負をする絶好の機会だと思っているのだろう。
遠くにいるけれど肉眼で確認できる距離に使徒はいた。
乱立するビルの間に、大きな白い物体が見える。真っ白な球体が上下に重なっているだけのシンプルな形態。
まるで雪ダルマだ。クリスマスのモニュメントのようにも見えるし、あまり危険な感じはしない。けれどラミエルの一件もある。
サキエルやシャムシェルよりも、ずっと単純な形をしたラミエルの方が強かった。
見た目では判断できない……。そう思ったときモニターにアスカの顔が映し出された。
「シンジ、チャンスよ。見るからにザコだわ」
やっぱり……そう思ってるだろうとは、薄々感づいてはいたけれど……。
「だめだよアスカ。まだ全然動いていないんだ。どんな敵なのかわからないじゃないか」
「そんなこと言ってたらいつまでたっても勝負なんてできないわ」
「でも……」
「つべこべ言わない。行くわよ、勝負開始」
モニターが閉じるとすぐさま、脇に立っていた弐号機が使徒に向かって走り出した。
初号機と零号機を残して。

43: 2008/12/19(金) 00:06:51 ID:???
「アスカ、何やってるのよ、戻りなさい!」
ミサトさんの声が響く。それにも関わらず弐号機はどんどん離れていく。
しかし、使徒まであと少しの距離に迫ったとき弐号機が突然止まった。
再びアスカがモニターに映る。
「何やってんのよバカシンジ!」
アスカの怒声が響いた。僕は拳を握り締め、うつむき、それから小さく呟いた。
「ごめんなさい、ミサトさん」
僕はライフルを片手に使徒の方へ走り出した。
「ちょ、ちょっと~!何やってんのよシンジ君まで!私の指示を仰ぎなさい」
「それでいいのよシンジ!」
二人の声が同時に耳に届く。立ったままの零号機を置き去りにして僕は駆け抜けた。
使徒はやはりまだ動いていない。雪だるまのように沈黙を保っている。
アスカの弐号機はパレットで掃射し始めた。弾着の煙が都市部に舞い上がる。
僕も撃つべきだろうか、いや、それじゃあ使徒を倒せたとしてもどっちの弾が使徒の致命傷となったのかはわからないだろう。
中途半端なことをやってはいけない。アスカに勝たせたとしても余計に傷つけるだけだ。

44: 2008/12/19(金) 00:08:23 ID:???
僕はライフルを地面に置くと、肩からプログレッシブナイフを取り出した。
命令に背いてナイフを取り出したのはこれで二回目だ。
「シンジ君、アスカ!命令よ、戻りなさい!」
ミサトさんの声がプラグ内に木霊する。それでも僕は戻る気にはなれなかった。
もうやると決めたのだし、それに何よりも、白黒つけたいというアスカの気持ちに応えたい。
「ミサトさん、ごめんなさい」
僕ははっきりとそう言って、ナイフを両手で握り締めた。
弐号機が放つ銃の煙でよく見えないけれど恐らくまだ深刻なダメージは受けていないはずだ。
使徒を倒すために僕ができる最大のことと言えば、これしかない。
銃の射程距離から、一気に白兵戦の距離まで詰め寄った。近くで見ると、初号機よりも一回りも二回りも大きい。
それに臆することなく僕はナイフを突きたてた。
上部の球体と下部の球体の丁度付け根のあたりにナイフが食い込む。
核は見えない。けれど、たぶんここは使徒の『首』にあたるはずだ。
力いっぱいにナイフを突き刺した。少しずつ内部へとナイフがめり込んでいき、ギリギリと鈍い音を立てている。

45: 2008/12/19(金) 00:09:43 ID:???
使徒の体が大きいおかげで弐号機の放った流れ弾が当たることはない。
僕は更に全身に力を込め、全体重をかけるようにしてナイフに力を伝わらせた。
抵抗してこない。効いているのだろうか……。
そのときだった。
「うあっ」
「シンジ君!」
猛烈な痛みが胸を貫いた。
「胸部、第3装甲を貫通!ですが機能中枢は無事です」
マヤさんの声が耳に届いた。僕は痛みと衝撃で倒れ込んでしまう。
確かに見た。使徒の体表面の一部が雪玉のように小さく膨らんだかと思うと、それが弾かれたかのように、白い小さな球体となって飛んできたのだ。
雪玉なんかよりもずっと固く強力だ。激しい胸の痛みに、脂汗がにじむ。
僕を見下ろすかのようにそびえ立つ使徒に視線を戻すと、ナイフはまだ突き刺さったままだった。
立ち上がり、ナイフを掴もうとしたとき、今度は足に向かって第二射が放たれた。
とっさに足を動かして避けようとしたものの、わずかにかすめたらしい。
足にも痺れるような痛みが走った。頭にこれを撃たれたら、きっと耐えられない。
そう思いながらも、痛みに耐えて何とか立ち上がり、再びナイフを握った。
「シンジ君、危険だわ。態勢を建て直してからもう一度……」
もうミサトさんの声は耳に届かなかった。僕はやれるだけのことをやるだけだ。「うおおおおっ!!」
僕はナイフを一気に引き抜き、今度はさっきと少し位置をずらしたところにナイフを思いきり突き刺した。
力を込めながらも、今度は使徒の体の表面を注視しなければならない。
体の表面が小さく膨らんだら、また球が飛んでくる。

46: 2008/12/20(土) 00:36:06 ID:???
沈黙を破り反撃してきたということは、きっと効いている証拠なんだ。
そう思って必氏になってナイフを突き立てているとき、何かが倒れるような物音と地響きを感じた。
きっとアスカも撃たれ、倒れたんだ。
そう悟ったとき、なぜだか、僕の中で何かが切れたような感じがした。反撃が恐くない。僕は全神経を両腕に集中させた。
完全にエヴァと一体になっている感覚。そして痛みの感覚が途切れ信じられないくらいの力が湧いてくる。
「おおおおおおお!!」
渾身の力を込めた一撃が遂に使徒の体の深くに突き刺さる。
大きな音と共に使徒の体に亀裂が入り、ナイフを持つ腕の一部までが使徒の体を貫いた。
やった、と僕は思った。使徒の体に走った亀裂は次第に広がっていき、ボロボロと体の一部が崩れ落ちてきたのだ。
取り壊されている最中のビルのように破片があたりに散らばる。
しかし、僕は驚くべき事態を目の当たりにした。使徒の体が、雪のように溶け出したのだ。
まるで春の訪れと共に溶けてなくなる雪ダルマのように。
でも雪ダルマとは明確に違うところがあった。
溶けてなくなるのではなく、溶けても白さを保ったままの液体なのだ。
まだ生命力に満ち溢れているような感じがした。拡散せず、水溜まりのように寄り集まっている。
僕の直感が、確かに告げていた。まだ生きている、と。
「シンジ君、避けて!」
ミサトさんのその言葉にハッと気がついた。足下に白い液体が迫ってきたのだ。
僕は反射的に後方に飛び退けた。
「シンジ君、もう戻れとは言わないわ。その場で殲滅してちょうだい。ただし、これからはちゃんと私の言うことを聞いて」
なだめるように言うミサトさんが言った。
「原型はなくなったけど、まだエネルギー反応もあるし油断はできないわ。ひとまず離れて」
興奮が醒めてきた。僕はミサトさんの指示通りに後ずさる。
アスカは?そう思って白い沼のようになっている先を見やった。
そして僕は安堵する。どこを撃たれたのかはわからないけれど、大事にはならなかったらしい。
弐号機は立ち上がり、武器を構えていた。気が付けば、綾波の零号機も使徒の近くまで来ていた。
ちょうど、使徒を三機で取り囲んでいる形だ。白い液体となった使徒は、動いてはいるものの、エヴァを追うような動きは見せていない。
完全な、硬着状態。

51: 2009/01/22(木) 07:09:38 ID:???
見ると、使徒が通った箇所はどろどろに溶けている。
建物も、車も、道路も、酸で溶かされたかのように奇怪な様相に変貌していた。
「どうやら、あの白い液体に、触れたらアウトみたいね……。エヴァの装甲なら多少は耐えられるでしょうけど長くは持たないわ。いい?
とにかく距離を保ちなさい。そして遠距離から一斉に射撃。相手の動きに注意して」
ミサトさんの指示が下る。でもあの液体状の使徒に銃撃が効くのだろうか。
少し疑問に思いながらも、僕は視線を使徒から外し、ライフルを探した。幸い、さっき地面に置いたライフルが、まだ浸食されずに残っていた。
僕はライフルを急いで回収すると、使徒に向かって撃ち放った。
とはいえ、どこを狙えばいいのかわからない。アスカも綾波も闇雲に攻撃しているように見える。
でも仕方がない。使徒は沼くらいの大きさにまで広がっている上、どこも均質なのだ。
凹凸なんてまるでない、滑らかで、真っ白な液体をたたえた沼のようだ。
弾丸が当たるたびに、液体は飛び散るけれど、すぐにまた凝縮してしまう。
沼に小石を投げ入れているような気分になってくる。
きっと、全く効いていないだろう。かと言って他にどんな攻撃が有効なのかもわからない。閉塞感が漂う。

乱射の音だけがなり響く中、使徒は突然、低地で流動する溶岩のように弐号機に迫った。
アスカ……!危ない!
しかし、僕の心配をよそに弐号機はとっさに飛びはね、使徒と距離を置いた。
どうやら敵のスピードはあまり速くないらしい。
長期戦になりそうだけど、そんなに危険な相手ではないのだろうか。
ひたすらライフルを撃ちながらそんなことを思っていたとき、突然、沸騰した水のように気泡が生じてきた。
次はどんな行動に出るつもりなのか、嫌な予感がする。
そのとき沸騰した水が飛びはねるように、白い液体が勢いよく飛び散った。
「うああっ!」
回避行動は取ったものの、避けきれずに、体表面の何箇所かに、かかってしまった。
焼けるような痛みが走る。濃硫酸が皮膚に触れると、こんな感じなのだろうか。
僕は更に使徒との距離を置いた。見れば、弐号機も零号機も使徒からかなり離れて位置している。
使徒は、泡立ち、そして水滴を撒き散らし続けている。
これでは近づけない。

55: 2009/02/06(金) 19:08:04 ID:???
「ミサト、このままじゃ、らちが明かないわ。斧を出して」
「どうするつもりなの?」
「勝算があるのよ、お願い、あたしに任せて。確実に仕留めて見せるわ」
アスカとミサトさんの遣り取りがモニターを通して聞こえてきた。
斧?いったい、アスカはどうするつもりなんだ。
「……わかったわ。B‐05に向かって」
「了解、サンキュー、ミサト」
そして弐号機は走り出し、兵装ビルから武器を取り出した。
太陽の光を浴びて、楔型の刃が妖しい光を放つ。液体状の敵を相手に、斧なんか効くのだろうか。
でもアスカには絶対の自信があるようだった。ただのはったりとは思えない。
僕はただ黙って見ているしかなかった。そして綾波もミサトさんも傍観者になっている。
アスカの一人舞台だ。
弐号機は斧を両手で持ち使徒との距離をじりじりとせばめている。
使徒は相変わらず液体を飛ばし続けている。斧の攻撃圏内には入れないはずだ。
「アスカ、どうするつもり?」
僕の問掛けにアスカは答えた。
「アンタわからないの?少なくともアンタだけはわかると思ってたのに。この間教えてあげたばかりじゃない」
「……え?」
何のことを言っているのかわからずに、僕は記憶を遡った。そうか、もしかして……。
「もう忘れたの?全く呆れるわ。アンタ牛乳こぼしたでしょ?こういうのを処理するときにはね……」
そこまで言って、弐号機は空高くに舞い上がった。上空で太陽と弐号機が重なり合う。
「叩かなきゃダメなのよっ!!」

56: 2009/02/06(金) 19:09:28 ID:???
弐号機が斧を振り上げ、液体となった使徒の中に落下していく。
そして轟音と共に、弐号機は使徒の上に降り立ち、斧を振り下ろした。
斧が地面を叩き付ける轟音と共に、液体が派手にとびちる。しかし、効くのだろうか?斧も弐号機も溶けてしまう。
それでもアスカは斧を振り下ろし続けた。二回、三回……いつまでやるつもりなんだ。機体はそんなにもたないのに。
と、突然、弐号機は斧を振り下ろすのをやめた。黙って使徒を見下ろしている。
「アスカ?」
なぜ攻撃をやめたのだろう。わけもわからず見守るなか、使徒の沸騰のような現象が止まった。
そして、薄い白色の煙へと変わっていく。白い液体の面積はみるみる狭まり、やがて全てが煙となり空に飲み込まれていった。
「……目標完全に沈黙」
青葉さんの声が聞こえ、体の力がどっと抜けた。
「シンジ、完全にあたしの勝ちね」
モニターにアスカの顔が映り、アスカはしたり顔で言った。

57: 2009/02/17(火) 16:07:23 ID:???
大義であった。これでおしまいですか。
アスカのしたり顔が目に浮かびますぜ。

引用元: ★エヴァ小説を投下するスレ(ノンジャンル)★3