1: 2021/07/24(土) 18:00:21.647
女「あ、日も暮れてきましたね」

男「そうですね。いつの間にか……」

女「ぶぶ漬けでもいかがですか?」

男(来たっ……!)

男(たしかこの人は京都出身で、ぶぶ漬けはお茶漬けのこと。『ぶぶ漬けいかが』は京都では“帰れよ”の合図……)

男(話は弾んでたけど、内心さっさと帰れって思ってたってことか)

男「分かりました……帰ります」スッ

女「えっ!?」

4: 2021/07/24(土) 18:03:22.925
女「待って下さい」

男「なんですか?」

女「ぶぶ漬け、食べていって下さいよ」

男(追い打ちかよ。そんなに帰って欲しいってことかよ。流石にショックだ)

男「はい、帰ります」

女「いえ、だから、待って下さい!」

男「は!?」

7: 2021/07/24(土) 18:06:23.586
女「私のぶぶ漬け、本当においしいんです! だから食べていって下さい!」

男(三度目……!)

男(これはもう“とっとと帰らねえと命ねえぞ”ぐらいの意味と見た!)

男「わ、分かりましたよ! 帰ります!」バタバタ

女「だから、ぶぶ漬け食べていって下さい!」

男「分かりましたから、すぐ出ていきますって!」

女「あ、ちょっと!」

男「失礼しまーす!」

9: 2021/07/24(土) 18:09:17.327
スタスタ…

男「ふぅ、やっと出てこれた……」

男「ぶぶ漬け勧められるって都市伝説かと思ってたけど、マジであるんだなー」

女「待ってぇぇぇぇぇ!」タタタッ

男「え」

女「ほら! ぶぶ漬け! 作ったから! 食べて!」ホカホカ

男「ひいい、ぶぶ漬け持って追ってきた!」

13: 2021/07/24(土) 18:12:08.121
男(わざわざ追ってくるって……俺にどんだけ憎しみ持ってんだ!?)

男(捕まったら何されるか分からねえ!)

男「失礼しますっ!」ダッ

女「待ってぇぇぇぇぇ!」ダッ

男(やべえ、向こうも走り出してきた!)

女「ぶぶ漬け食べてぇぇぇぇぇ!」

タタタッ… ダダダッ…

17: 2021/07/24(土) 18:15:09.782
男(人が多いところへ……!)ダッ

ドンッ!

通行人A「いてっ!」

ドンッ!

通行人B「気をつけろ!」

男「すみません!」タタタッ

女「ぶぶ漬け! ぶぶ漬け! ぶぶ漬け!」タタタッ

男(まだ追ってくる! 巧みに人をかわしながら!)

19: 2021/07/24(土) 18:18:18.071
……

男「はぁ、はぁ、はぁ……」

男「……」キョロキョロ

男(撒けたか……?)

男(撒けたみたいだな)

男「よし、駅へ向かおう」

21: 2021/07/24(土) 18:21:37.390
<駅>

男(ったく、恐ろしい目にあったよ……)

男(えーと、定期を……)

男「!?」



女「……」



男(いる……! ぶぶ漬け持って待ち伏せてる……!)

男(駅からじゃダメだ! 捕まる!)ダッ

22: 2021/07/24(土) 18:24:15.941
<タクシー乗り場>

男(仕方ない、多少金はかかるが、タクシーで帰ろう)

男「乗りまーす」

ガチャッ

運転手「どうぞ」

男「お世話になります」

運転手「どちらまで?」

男「自宅近くの……○×公民館までお願いします」

運転手「分かりました」

23: 2021/07/24(土) 18:27:11.691
運転手「ところで……」

男「?」

運転手「ぶぶ漬けはいかがですか?」

男「は?」

運転手(女)「……」ニッコリ

男「う……うわああああああああっ!!!」

27: 2021/07/24(土) 18:30:27.104
女「ぶぶ漬けいかがですか?」

男「な、なんでタクシーの運転手に……」

女「ぶぶ漬けいかがですか?」

男「ひいいいいいっ!」

タタタッ…

男(さっきまで駅にいたのに、いつの間にかタクシー運転手になってやがった……!)

29: 2021/07/24(土) 18:33:26.886
男(コンビニに寄ろう……)

ウイーン…

男(とりあえず、なにか食べて……落ちつこう)

男(えぇと、おにぎりと……おつまみと、あとお茶……)

男(こんなところでいいか)

男「すみません、これください」

店員「はーい」

30: 2021/07/24(土) 18:36:08.095
店員「……円になります」

男「はい」

店員「丁度いただきます」

店員「だけど、こんなものより……」

男「え?」

店員(女)「ぶぶ漬けはいかがですか?」

男「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

31: 2021/07/24(土) 18:39:30.655
男「はぁ、はぁ、はぁ……」

男(電車もダメ、タクシーもダメ、コンビニにも寄れない!)

男(となるとバスか……? ダメだ、あの女がバス運転手になってる予感しかしない)

男(どうすれば……!)

ガサッ

男「!?」ビクッ

ニャーン…

男「なんだ猫か……ビックリさせやがって」

32: 2021/07/24(土) 18:42:45.276
女「ニャーン」

男「わっ!?」

男(猫のコスプレしてる……)

女「ぶぶ漬けは……いかがかニャ?」

男「うわあああああああああっ!!!」ダダダッ…

女「ニャーン……」

33: 2021/07/24(土) 18:45:50.061
……

……

男(あれからしつこくぶぶ漬けを押し付けてくる女から逃げ続け……)

男(ついに……自分の足で自宅までたどり着いた……)

男(ここまで来ればもう大丈夫……もうぶぶ漬けに怯える必要はない!)

男「ただいまー!」

ガチャッ

34: 2021/07/24(土) 18:48:23.269
女「お帰りなさい」

男「……え?」

女「あなたの家を調べて、先回りしてたの」

男「あ……ああ……あ……」

女「ぶぶ漬け、ちゃんと持ってきてあるからね」

男「ああ……あ、あ……」

女「ぶぶ漬けでもいかがですか?」ニコッ

36: 2021/07/24(土) 18:51:32.280
男「……」ギリッ

男「帰れよ」

女「え」

男「帰れっていってんだよ!」

女「どうして……」

男「当たり前だろ! しつこく人を追い回して、人の家に勝手に入ってぶぶ漬け勧めてくる……」

男「こんな女に家にいて欲しいって思う男なんているわけないだろ!」

女「……!」

男「とっとと帰れぇ!!!」

39: 2021/07/24(土) 18:55:19.915
女「分かり……ました」シュン

女「ご迷惑かけました……もう二度と来ません……」スタスタ

男「……」

女「失礼します……」

男「待てよ」

女「え……?」

男「俺は泣いてる女を黙って帰すほど、薄情な男でもないつもりだぜ」

男「食わせてくれよ……あんたのぶぶ漬け」

女「……はいっ!」

40: 2021/07/24(土) 18:58:08.954
女「ど、どうぞ」

男「いただきます」

男「……」ジュルジュルッ

男「……」ハフッハフッ

男「……」モグモグ

女「いかがでしょう?」

男「美味いっ! こんなに美味いお茶漬け……いや、ぶぶ漬けは初めてだよ!」

女「ありがとうございますっ!」

男「いやー、こんなことなら最初から食べておけばよかった!」

女「うふふっ……」

41: 2021/07/24(土) 19:01:14.790
男「こんなに美味しいぶぶ漬けを……」

女「?」

男「毎日食べることができたら、きっとそれは最高に幸せだろうなぁ……」

女「えっ……!」ドキッ

男「俺と……結婚してくれないか」

女「はいっ……!」

42: 2021/07/24(土) 19:04:10.396
女「これからはあなたのために、毎日ぶぶ漬けを作ります……!」

男「ああ、頼むよ」

男(朝起きた時には夢にも思わなかったな……)

男(今日出会ったばかりの京都の人と、今日結婚することになるなんて……)







~おわり~

43: 2021/07/24(土) 19:08:41.251

ハッピーエンドになって良かった

14: 2021/07/24(土) 18:12:55.121
京都に古くから伝わる独特の作法…”ぶぶ漬け食べなはれ”。これは長居している客を帰らせたい時に、
「ぶぶ漬けいかがどすか?」と問いかけ、婉曲に帰りを促す技である。
”ぶぶ漬け”とは、”お茶漬け”のことだけど、どんなに客が待ってもぶぶ漬けが出てくることはない。
これを間に受けて大人しくまっているヤツは「無粋な人どすなぁ」と陰でバカにされてしまうという話なのだ。
しかし、こんなことを言われれば意地でも反抗したいのが人情ってもの。
「ぶぶ漬けでも食べていきなはれ」と言われたら、ハキハキと「大盛りでお願いします!」とか
「しじみのミソ汁もいいですか?」ぐらいは自然に口をつくだろう。
だが、そんなチマチマとした受け身な姿勢でよいのだろうか?! やはり攻撃こそ最大の防御なり!
京都のお宅を訪問するからには、自ら”ぶぶ漬け”を忍ばせて訪問するぐらいの備えと心構えが必要である。
そして敢えて長居を決め込み、「ぶぶ漬けでも食べていきなはれ」と言われたら、「いえ、手持ちのものがありますから」と
その場でオカ持ちから”ぶぶ漬け”を取り出してムシャムシャと食べ始める。もちろん、それだけじゃ許さない!!
逆に「ぶぶ漬けいかがどす?」と、こちらから茶碗を差し出してやるのだ! ”必殺ぶぶ漬け返し”!
京の伝統に従って、ぶぶ漬けをすすめられた者はその場を立ち去らねばならない。
相手は自分の家であるにも関わらず、荷物をまとめてその家を出て行くことになるわけだ。
途方にくれた相手がとりあえずホテルで一泊を過ごそうとしても、先回りしてホテルの前に”ぶぶ漬け”を置いておく。
ドラキュラが十字架を恐れるように、京都人は”ぶぶ漬け”を越えることができない。
仕上げはここからだ。途方に暮れる相手の前にタイミングよく現れて仲直りを持ちかけて温泉へと誘いだす。
そして相手がリラックスして湯につかっているところに、ご飯とお茶っ葉をぶち入れて叫ぶのだ! 「どうだー! おまえが、ぶぶ漬けだー!!!」
だが一度噴火した怒りの火山は相手を退治したぐらいでは納まらない!
今度は、”ぶぶ漬け”宅配業者となって京の都を恐怖に陥れてやる! まず手近なラーメン屋に忍び込み、
かかってきた注文の電話を何食わぬ顔でとる。
そしてラーメンの出前を頼んだ気になって油断している客の家に、いきなり”ぶぶ漬け”を届けてやるのだ!
宅:「お待たせしました。来来軒でーす!」 子:「わーい、らーめんらーめん!」
宅:「おい、ぼうず。これはな…ぶぶ漬けだーー!!!!」 子:「ぎゃーー!」
一家で出前ラーメンを食べるはずの楽しい夕べは、”ぶぶ漬け”によって家を追い立てられる悲劇の時間に変わるのだ!!
京都人である以上、この不文律を破ることは許されない。京の都は家を失った人であふれかえる。子供達は全員トラウマだ。
更に今度は市の職員を装い、家から追い出され腹を空かせた人々の前に現れて食料配給を行うのである。
もちろん、配給する食糧は”ぶぶ漬け”に決まっている。そして集まってきた人々に茶碗を差し出しながらこうささやくのだ…。
「ぶぶ漬け食べますか? 京都人やめますか?」

16: 2021/07/24(土) 18:13:54.907
>>14
これ好き

38: 2021/07/24(土) 18:54:43.703
>>14
これ好き

引用元: 女「ぶぶ漬けでもいかがですか?」男(来たっ……!)