2: 2012/10/20(土) 03:36:59.01
Echizen
悪代官の魔女 その性質は悪
かつて公正なお裁きを望んだ魔法少女のなれの果て
今はただ、山吹色のお菓子を貪るばかり
Echigoya
Echizenの使い魔
魔女のために山吹色のお菓子を届けるのが仕事
彼女を守るためにYoujinboを集める役割もある
Youjinbo
Echizenの使い魔
結界内の侵入者を撃退するのが仕事
腕利きぞろいだが、金に弱い
悪代官の魔女 その性質は悪
かつて公正なお裁きを望んだ魔法少女のなれの果て
今はただ、山吹色のお菓子を貪るばかり
Echigoya
Echizenの使い魔
魔女のために山吹色のお菓子を届けるのが仕事
彼女を守るためにYoujinboを集める役割もある
Youjinbo
Echizenの使い魔
結界内の侵入者を撃退するのが仕事
腕利きぞろいだが、金に弱い
3: 2012/10/20(土) 03:38:20.19
鹿目まどかは見滝原に暮らす。
取り立てた長所もないが、素直で優しい子だと誰もがそう思っている。
それは彼女の両親も同じであった。
「ほら、まどか。早くしないと遅刻するよ」
「え、嘘! もうそんな時間!?」
父の指差す時計を見れば、針はもう八時にさしかかろうとしていた。
取り立てた長所もないが、素直で優しい子だと誰もがそう思っている。
それは彼女の両親も同じであった。
「ほら、まどか。早くしないと遅刻するよ」
「え、嘘! もうそんな時間!?」
父の指差す時計を見れば、針はもう八時にさしかかろうとしていた。
4: 2012/10/20(土) 03:39:10.05
「い、行ってきます!」
食べかけのパンを置いて駆け出す愛娘の背を、飽きれたように父と母は見送った。
「全く、まだまだ子どもだねぇ」
「はは、いいじゃないか。ちょっと抜けているところはあっても、まどかはとてもいい子だよ」
「それはそうだけど、ねえ」
食卓に笑みが広がる。幸福な家庭であった。
食べかけのパンを置いて駆け出す愛娘の背を、飽きれたように父と母は見送った。
「全く、まだまだ子どもだねぇ」
「はは、いいじゃないか。ちょっと抜けているところはあっても、まどかはとてもいい子だよ」
「それはそうだけど、ねえ」
食卓に笑みが広がる。幸福な家庭であった。
5: 2012/10/20(土) 03:39:46.41
いつもの通学路にはもう、まどかの姿があった。十分に間に合う時間である。
「はあ、またズルしちゃったよ……」
一つ息をついたまどかの手には、らしからぬ指輪が光る。それを隠すようにして、まどかは歩き出した。
学校へと向かう生徒達の中に、見知った背中を見つけた。まどかの歩みが、少し早くなる。
「はあ、またズルしちゃったよ……」
一つ息をついたまどかの手には、らしからぬ指輪が光る。それを隠すようにして、まどかは歩き出した。
学校へと向かう生徒達の中に、見知った背中を見つけた。まどかの歩みが、少し早くなる。
6: 2012/10/20(土) 03:40:58.72
豊かな黒髪を、艶やかに背で捌く少女は、暁美ほむらと言う。
凛とした気配の中に、儚さを匂わせる美少女である。江戸から転校して来たばかりであるが、彼女を見つめる目は随分と多く、また熱心なものだ。
まどかにとって、彼女の背中は幾分眩しい。誰に話した事もないが、ほむらとは、何か因縁めいたものを感じてならない。
いつか、どこかで出会ったか。彼女に守られてはいなかったか?
夢の中で、あったような。
凛とした気配の中に、儚さを匂わせる美少女である。江戸から転校して来たばかりであるが、彼女を見つめる目は随分と多く、また熱心なものだ。
まどかにとって、彼女の背中は幾分眩しい。誰に話した事もないが、ほむらとは、何か因縁めいたものを感じてならない。
いつか、どこかで出会ったか。彼女に守られてはいなかったか?
夢の中で、あったような。
7: 2012/10/20(土) 03:41:29.13
風が一塊吹き付けて、ほむらの体が揺れた。
まどかは、ふわと息を吐いて、少し前髪を揃えてみた。いつもの顔になれたかと思う。
「ほむらちゃーん!」
彼女は首だけで振り向いてみせた。澄ました、小さな顔にはにかむような笑顔がにじむ。
それがうれしくて、まどかは駆け出した。
まどかは、ふわと息を吐いて、少し前髪を揃えてみた。いつもの顔になれたかと思う。
「ほむらちゃーん!」
彼女は首だけで振り向いてみせた。澄ました、小さな顔にはにかむような笑顔がにじむ。
それがうれしくて、まどかは駆け出した。
8: 2012/10/20(土) 03:41:57.25
「おはよう、ほむらちゃん!」
「おはよう、まどか。今日は一人?」
「う、私今日は遅れちゃって……」
二人は歩き出した。少し話もした。数学の小テストが今日だと知って、まどかは愕然とした。
淡い雲が流れる、灰色の空であった。
「おはよう、まどか。今日は一人?」
「う、私今日は遅れちゃって……」
二人は歩き出した。少し話もした。数学の小テストが今日だと知って、まどかは愕然とした。
淡い雲が流れる、灰色の空であった。
9: 2012/10/20(土) 03:43:09.48
校門の前が騒然としていた。
何かを囲むようにして、生徒達が集まっている。みんな、横目で何かを見下ろしながら、声を潜めるようにして顔を見合わせ合っている。
群がる人の数に比べて、その辺りはどうにも静かである。
「なんだろうね?」
まどかは傍らのほむらに視線を送った。ほむらはもう、何事かを察しているようだ。大きな目を痛ましげに伏せる。
「……?」
何かを囲むようにして、生徒達が集まっている。みんな、横目で何かを見下ろしながら、声を潜めるようにして顔を見合わせ合っている。
群がる人の数に比べて、その辺りはどうにも静かである。
「なんだろうね?」
まどかは傍らのほむらに視線を送った。ほむらはもう、何事かを察しているようだ。大きな目を痛ましげに伏せる。
「……?」
10: 2012/10/20(土) 03:43:56.38
まどかは人垣の隙間から、その中心を伺った。
誰かが座り込んでいる。制服が同じだから、見滝原中学の生徒だと分かった。足下に黒い、箱のようなものが転がっている。
「ヴァイオリン……?」
ほむらがまどかの袖を引く。何事かを話す前に、まどかには分かった。
座り込んでいたのは、上条恭介であった。
誰かが座り込んでいる。制服が同じだから、見滝原中学の生徒だと分かった。足下に黒い、箱のようなものが転がっている。
「ヴァイオリン……?」
ほむらがまどかの袖を引く。何事かを話す前に、まどかには分かった。
座り込んでいたのは、上条恭介であった。
11: 2012/10/20(土) 03:44:51.36
上条恭介はヴァイオリニストである。その道では、天才中学生として中々に有名な筈だ。
「か、上条君……」
「まどか、見て」
ほむらに促されて、地面のヴァイオリンケースに目を移す。楽譜とおぼしき紙が貼付けられ、そこには筆字で大書された一文があった。
「闇の仕置人にお願い申し上げる」
上条の手は、包帯で包まれていた。かすかに紅色に染まっている。
しばらく後、教師が駆けつけてきて、生徒達を散らした。上条は悄然としながら、大人達に連れられて行った。
「か、上条君……」
「まどか、見て」
ほむらに促されて、地面のヴァイオリンケースに目を移す。楽譜とおぼしき紙が貼付けられ、そこには筆字で大書された一文があった。
「闇の仕置人にお願い申し上げる」
上条の手は、包帯で包まれていた。かすかに紅色に染まっている。
しばらく後、教師が駆けつけてきて、生徒達を散らした。上条は悄然としながら、大人達に連れられて行った。
12: 2012/10/20(土) 03:45:38.06
教室は、門前の事件の話題で持ち切りであった。
上条恭介が何者かに襲われたこと。それで腕に重傷を負ったこと。
まどかが席に着くまでの間に、それだけのことは耳に飛び込んで来た。
「けどさあ、闇の仕置き人って何よ? そいつに犯人に復讐してもらおうっての?」
「そんな奴いる訳ないじゃん! 上条もだいぶ参ってんだろ。コンクールの前だったらしいしな……」
「いや、でも噂じゃ……」
時折笑い声が混じる。席に向かうまどかの、その足が高い音を立てる。ただ、それは絶え間ない喧噪にかき消されてしまった。
上条恭介が何者かに襲われたこと。それで腕に重傷を負ったこと。
まどかが席に着くまでの間に、それだけのことは耳に飛び込んで来た。
「けどさあ、闇の仕置き人って何よ? そいつに犯人に復讐してもらおうっての?」
「そんな奴いる訳ないじゃん! 上条もだいぶ参ってんだろ。コンクールの前だったらしいしな……」
「いや、でも噂じゃ……」
時折笑い声が混じる。席に向かうまどかの、その足が高い音を立てる。ただ、それは絶え間ない喧噪にかき消されてしまった。
13: 2012/10/20(土) 03:46:19.33
いつもの席にいないのは、上条だけではなかった。
「さやかちゃんも、仁美ちゃんもまだ来てない……」
「そうね……」
まどかもほむらも、上条を巡る二人の恋を知っている。まどかは二人を励まし、ほむらはやたらにさやかの背を押していた。
「仕置人って、書いてあったね」
「……まどか、まだ早いわ」
言い返そうとしたまどかの、その後ろでドアが開いた。
美樹さやかの姿がそこにあった。
「さやかちゃんも、仁美ちゃんもまだ来てない……」
「そうね……」
まどかもほむらも、上条を巡る二人の恋を知っている。まどかは二人を励まし、ほむらはやたらにさやかの背を押していた。
「仕置人って、書いてあったね」
「……まどか、まだ早いわ」
言い返そうとしたまどかの、その後ろでドアが開いた。
美樹さやかの姿がそこにあった。
14: 2012/10/20(土) 03:47:03.66
さやかは、まどかの親しい友人の一人である。明朗快活、人に対して遠慮がないのが彼女の魅力であったが、今はその影も無い。
まどかが何か言う前に、さやかは手を上げた。
「ごめん、後で……」
後ずさるように、まどかは席に戻るしかなかった。
ほむらの方を見ると、携帯の液晶画面を睨んでいた。端正な立ち姿が、かすかに揺れる。
まどかが何か言う前に、さやかは手を上げた。
「ごめん、後で……」
後ずさるように、まどかは席に戻るしかなかった。
ほむらの方を見ると、携帯の液晶画面を睨んでいた。端正な立ち姿が、かすかに揺れる。
15: 2012/10/20(土) 03:47:31.50
昼休み、さやかはようやく重い口を開いた。
屋上にはまどかとほむら、ベンチに落ち込んださやかだけである。
風のない空に、張り付いたような雲が三人の頭上に浮かぶ。
「恭介は……」
さやかの声は、小さく震えているようだ。
屋上にはまどかとほむら、ベンチに落ち込んださやかだけである。
風のない空に、張り付いたような雲が三人の頭上に浮かぶ。
「恭介は……」
さやかの声は、小さく震えているようだ。
16: 2012/10/20(土) 03:48:14.35
その日、上条恭介はいつものようにヴァイオリンのレッスンから帰る途中であった。
既に陽は沈んでしまい、街は電灯の光に照らされていた。
ヴァイオリンを抱えて、家路についた上条は、不意に呼び止められた。
「おい、そこの兄ちゃん。ちょっと寄ってかないかい」
袖のすり切れた浴衣を方肌脱ぎにした、柄の悪い男であった。
17: 2012/10/20(土) 03:48:56.82
上条は聞こうともしなかったが、その行く手を阻むようにまた男が現れた。
「おいおい、話ぐらい聞いちゃくれないのかい?」
黄色い歯を剥いて、下品に男は笑う。開いた浴衣の胸元からは、匕首の柄がのぞく。
「な、何ですか。僕は急いでるんです!」
そう叫ぶ上条の肩口を、男の手が掴む。楽器など触った事も無い、粗暴な手である。上条の足はそれだけですくんでしまった。
「まあ、ちょっと寄ってけや。うちも最近不景気でねぇ」
「や、止めろ! 離せ!」
二人は上条を路地裏へと引きずって行った。
「おいおい、話ぐらい聞いちゃくれないのかい?」
黄色い歯を剥いて、下品に男は笑う。開いた浴衣の胸元からは、匕首の柄がのぞく。
「な、何ですか。僕は急いでるんです!」
そう叫ぶ上条の肩口を、男の手が掴む。楽器など触った事も無い、粗暴な手である。上条の足はそれだけですくんでしまった。
「まあ、ちょっと寄ってけや。うちも最近不景気でねぇ」
「や、止めろ! 離せ!」
二人は上条を路地裏へと引きずって行った。
18: 2012/10/20(土) 03:50:00.04
路地裏を進む事、数分。
上条の気付かぬうちに、辺りの風景は一変していた。
練塀に囲まれた武家屋敷。門前にはかがり火がたかれ、その辺りを浪人どもがうろついている。
潜り戸に突込まれた上条は、屋敷の一角にむさ苦しい男どもが群がっているのを見た。
すり切れたゴザに男どもが並ぶ。時折罵声まじりの大声を上げて、その度に一喜一憂の図が現れる。
座の真ん中にはさらしを巻いた女が、サイコロと振り壷を掲げて、威勢良く声を上げた。
「さあ、張った張った!」
賭場である。いよいよ上条の足にも震えが来た……
上条の気付かぬうちに、辺りの風景は一変していた。
練塀に囲まれた武家屋敷。門前にはかがり火がたかれ、その辺りを浪人どもがうろついている。
潜り戸に突込まれた上条は、屋敷の一角にむさ苦しい男どもが群がっているのを見た。
すり切れたゴザに男どもが並ぶ。時折罵声まじりの大声を上げて、その度に一喜一憂の図が現れる。
座の真ん中にはさらしを巻いた女が、サイコロと振り壷を掲げて、威勢良く声を上げた。
「さあ、張った張った!」
賭場である。いよいよ上条の足にも震えが来た……
19: 2012/10/20(土) 03:50:39.93
「それで、どうなったの?」
ほむらが尋ねる。ささやく様な調子であった。
「そこからはお決まりだよ。はじめの二、三回は勝たせる。それで勝ち逃げはするなって無理に賭けさせられて」
まどかは俯いて、固く手を握る。
「そこからは負け続き。有り金全部でも足りなくて、ヴァイオリンまで取られちゃった」
さやかの目は、動かない雲へと移る。
ほむらが尋ねる。ささやく様な調子であった。
「そこからはお決まりだよ。はじめの二、三回は勝たせる。それで勝ち逃げはするなって無理に賭けさせられて」
まどかは俯いて、固く手を握る。
「そこからは負け続き。有り金全部でも足りなくて、ヴァイオリンまで取られちゃった」
さやかの目は、動かない雲へと移る。
20: 2012/10/20(土) 03:51:15.09
「はじめからね、イカサマなんだよ。そうやって身ぐるみ持ってくつもりなんだ。けど恭介はヴァイオリンを守ろうとして……」
さやかは歯を食いしばって、そして目を固く閉じた。震える肩にかける言葉が見つからず、まどかの目は地面に落ちてしまう。
「それで、ケガをしちゃって、あんな風に……」
さやかは歯を食いしばって、そして目を固く閉じた。震える肩にかける言葉が見つからず、まどかの目は地面に落ちてしまう。
「それで、ケガをしちゃって、あんな風に……」
21: 2012/10/20(土) 03:52:18.87
「犯人は分からないの?」
そう聞いたほむらは、彼方を見つめている。左手に、指輪が光る。
「こんな訳分かんない話、誰が信じるっていうのよ」
「……そうね」
口を閉じたほむらに替わって、まどかが声を掛けようとしたが、その前にさやかは立ち上がって、言った。
「こんな話、聞いてくれてありがとね。恭介から聞いたんだけど、あたしにはどうしょうもなくて……」
「さやかちゃん……」
そう聞いたほむらは、彼方を見つめている。左手に、指輪が光る。
「こんな訳分かんない話、誰が信じるっていうのよ」
「……そうね」
口を閉じたほむらに替わって、まどかが声を掛けようとしたが、その前にさやかは立ち上がって、言った。
「こんな話、聞いてくれてありがとね。恭介から聞いたんだけど、あたしにはどうしょうもなくて……」
「さやかちゃん……」
23: 2012/10/20(土) 03:53:40.54
さやかが去った屋上で、二人は話す。
「上条君、結界に巻き込まれたんだね……」
「ええ、代官の結界は悪意と欲望に満ちている。目を付けられたらおしまいよ」
「ほむらちゃん、私……」
まどかが言い終える前に、二人の頭に声が響いた。
「まどか、ほむら、仕事だよ」
「九兵衛……」
「上条君、結界に巻き込まれたんだね……」
「ええ、代官の結界は悪意と欲望に満ちている。目を付けられたらおしまいよ」
「ほむらちゃん、私……」
まどかが言い終える前に、二人の頭に声が響いた。
「まどか、ほむら、仕事だよ」
「九兵衛……」
34: 2012/10/21(日) 02:32:50.12
第一話 「崩し技・散り雨対艦誘導弾」
35: 2012/10/21(日) 02:33:36.30
夕焼けに染まる空の下、一軒のマンションへと少女たちは集う。
逢魔が時の静けさの中、二人の足音ばかりが高く響いた。
やがて二人は立ち止まった。部屋の扉には巴マミ、と記されている。
「……入って」
ベルを鳴らすよりも早く扉が開いた。
逢魔が時の静けさの中、二人の足音ばかりが高く響いた。
やがて二人は立ち止まった。部屋の扉には巴マミ、と記されている。
「……入って」
ベルを鳴らすよりも早く扉が開いた。
36: 2012/10/21(日) 02:34:30.04
部屋の中はカーテンが閉め切られ、外からの光は入らない。電灯も消してある。
燭台の小さな火が、唯一の光であった。
「ケーキがあるから、座っていてね。今紅茶を用意するわ」
部屋の主の顔は、ちらつく火の明かりでは伺えない。まどかとほむらは促されるままに進んだ。
キッチンの辺りで食器の割れる音が聞こえる。暗いのだ。
燭台の小さな火が、唯一の光であった。
「ケーキがあるから、座っていてね。今紅茶を用意するわ」
部屋の主の顔は、ちらつく火の明かりでは伺えない。まどかとほむらは促されるままに進んだ。
キッチンの辺りで食器の割れる音が聞こえる。暗いのだ。
37: 2012/10/21(日) 02:35:06.87
先客がいた。
赤髪を後ろで束ねた少女である。盛大にあぐらをかいて、菓子を咥えているようだ。
手を上げて二人を迎えたのが、気配でわかった。
「杏子、早かったわね」
「まあ、な」
置かれたテーブルが震えた。まどかが足をぶつけたのだ。
赤髪を後ろで束ねた少女である。盛大にあぐらをかいて、菓子を咥えているようだ。
手を上げて二人を迎えたのが、気配でわかった。
「杏子、早かったわね」
「まあ、な」
置かれたテーブルが震えた。まどかが足をぶつけたのだ。
38: 2012/10/21(日) 02:35:47.13
すり足で空間を探りながら、マミがケーキを運んで来た。
「いたた、ほら座って」
四人は闇の中を、右往左往しながらどうにか席に着いた。
火が揺れる度、ちらつく様に互いの顔が見えた。
ほむらが電灯のスイッチを見つめているのを発見して、まどかは慌ててほむらの手を引いた。
「いたた、ほら座って」
四人は闇の中を、右往左往しながらどうにか席に着いた。
火が揺れる度、ちらつく様に互いの顔が見えた。
ほむらが電灯のスイッチを見つめているのを発見して、まどかは慌ててほむらの手を引いた。
39: 2012/10/21(日) 02:36:22.68
「お楽しみの前に、良いかな?」
部屋の片隅に動物がいる。白い猫とも兎とも言えない、不可思議な姿。丸い目が闇の中で紅色に光る。
「後にしろよ、味が悪くなる」
杏子は早々にフォークで食べるの諦めて、手づかみで口へと運んでいた。
「いいじゃない。嫌な話は甘いものでもないと、飲み込めないわ」
マミは紅茶をこぼした。
部屋の片隅に動物がいる。白い猫とも兎とも言えない、不可思議な姿。丸い目が闇の中で紅色に光る。
「後にしろよ、味が悪くなる」
杏子は早々にフォークで食べるの諦めて、手づかみで口へと運んでいた。
「いいじゃない。嫌な話は甘いものでもないと、飲み込めないわ」
マミは紅茶をこぼした。
40: 2012/10/21(日) 02:37:16.18
紅い眼が語りだした。
「まどかとほむらはもう知っているだろうが、先日とある少年が結界に連れ込まれた」
「上条君、だったかしら」
フォークでケーキを探りながら、マミは闇の中に呟いた。
「……さやかは大丈夫か?」
ほむらは頭を振る。まどかは目を伏せたが、杏子には見えなかっただろう。
「……そうかよ」
そう言って紅茶を手に取った。
「それ、私の」
ほむらがマミの方に言った。
「まどかとほむらはもう知っているだろうが、先日とある少年が結界に連れ込まれた」
「上条君、だったかしら」
フォークでケーキを探りながら、マミは闇の中に呟いた。
「……さやかは大丈夫か?」
ほむらは頭を振る。まどかは目を伏せたが、杏子には見えなかっただろう。
「……そうかよ」
そう言って紅茶を手に取った。
「それ、私の」
ほむらがマミの方に言った。
41: 2012/10/21(日) 02:39:27.57
「どうやら代官の意を受けた、使い魔の仕業のようだね」
一瞬の光の中に、顔をゆがめる杏子が見えた。
「御託はもう良い。で、どうすんだ?」
「分かっていると思うけど、誰かがグリーフシードを提供して、僕たちに依頼しないと動く訳にはいかないんだ」
まどかの手が止まった。
一瞬の光の中に、顔をゆがめる杏子が見えた。
「御託はもう良い。で、どうすんだ?」
「分かっていると思うけど、誰かがグリーフシードを提供して、僕たちに依頼しないと動く訳にはいかないんだ」
まどかの手が止まった。
42: 2012/10/21(日) 02:40:09.11
「どうにもならない現実に怨恨が積み重なった時、グリーフシードは生まれる」
「それまでは、仕事にはならない……」
マミは宙に目をやった。
「魔法少女って、そういうものよ」
ほむらも天を仰ぐ。見つめているのは電灯である。
「そういうことだ。ただ下調べだけはしておいてほしいな。いざと言う時のためにね」
「それまでは、仕事にはならない……」
マミは宙に目をやった。
「魔法少女って、そういうものよ」
ほむらも天を仰ぐ。見つめているのは電灯である。
「そういうことだ。ただ下調べだけはしておいてほしいな。いざと言う時のためにね」
43: 2012/10/21(日) 02:40:37.19
やがて電灯を点けて、始まった茶会は幾分打ち沈んだものになった。
その家路の途中で、まどかは誰に言うともなく呟いた。
「上条君の腕は治るのかな……?」
ほむらは口の端のクリームを拭いつつ、言った。
その家路の途中で、まどかは誰に言うともなく呟いた。
「上条君の腕は治るのかな……?」
ほむらは口の端のクリームを拭いつつ、言った。
44: 2012/10/21(日) 02:41:05.66
「魔女を仕留めれば、彼の傷は治り始めるでしょう。後は彼次第……」
まどかの瞳の、そのわずかな動きを捉えて、ほむらは言う。
「焦っては駄目よ。心静かに挑まなければ、上手くいかない」
「うん……」
まどかの横顔に影が落ちる。その右手は、知らぬ間にほむらの裾を掴んでいた。
まどかの瞳の、そのわずかな動きを捉えて、ほむらは言う。
「焦っては駄目よ。心静かに挑まなければ、上手くいかない」
「うん……」
まどかの横顔に影が落ちる。その右手は、知らぬ間にほむらの裾を掴んでいた。
45: 2012/10/21(日) 02:41:51.59
明くる日の学校にさやかの姿は無かった。
「さやかさんは、上条さんを襲った犯人を探しているそうですわ……」
「そ、そんな! 危ないよ……」
「仇を取りたいって……そうおっしゃっていました」
ほむらは細い息を吐いた。
「さやかさんは、上条さんを襲った犯人を探しているそうですわ……」
「そ、そんな! 危ないよ……」
「仇を取りたいって……そうおっしゃっていました」
ほむらは細い息を吐いた。
46: 2012/10/21(日) 02:42:50.46
「……警察に」
任せてもいられないか、と目を伏せた。
「……最近はおかしな事件が増えましたわね。警察の方では事故で片付けてしまうようですが」
仁美は一回り小さくなってしまったようだ。
「あんなお話では、無理もありませんが……」
まどかは横目でほむらを見た。見返す瞳はかすかに揺れていた。
任せてもいられないか、と目を伏せた。
「……最近はおかしな事件が増えましたわね。警察の方では事故で片付けてしまうようですが」
仁美は一回り小さくなってしまったようだ。
「あんなお話では、無理もありませんが……」
まどかは横目でほむらを見た。見返す瞳はかすかに揺れていた。
47: 2012/10/21(日) 02:43:26.62
裏路地は杏子にとって、通学路に等しい。
彼女は見滝原を縫うように歩き、やがて一つの突き当たりにぶつかった。
「ふん、まあ面ぐらい拝んどくか……」
荒い気配をにじませながら、指輪を宙にかざす。薄紙をはぐように、景色が塗り替わっていく。
武家屋敷が現れようという、その寸前に杏子は大声で呼び止められた。
彼女は見滝原を縫うように歩き、やがて一つの突き当たりにぶつかった。
「ふん、まあ面ぐらい拝んどくか……」
荒い気配をにじませながら、指輪を宙にかざす。薄紙をはぐように、景色が塗り替わっていく。
武家屋敷が現れようという、その寸前に杏子は大声で呼び止められた。
48: 2012/10/21(日) 02:44:07.90
「杏子!」
さやかである。杏子は振り返らず、唇を噛んだ。
「……何してんの?」
咎めるような調子でさやかは詰め寄った。舌打ちして、杏子は向き直る。
「この辺りはあたしの庭みたいなもんだ。別に大した意味はねえよ」
それよりも、と杏子は声を凄ませた。
さやかである。杏子は振り返らず、唇を噛んだ。
「……何してんの?」
咎めるような調子でさやかは詰め寄った。舌打ちして、杏子は向き直る。
「この辺りはあたしの庭みたいなもんだ。別に大した意味はねえよ」
それよりも、と杏子は声を凄ませた。
49: 2012/10/21(日) 02:44:48.50
「お前こそ何してんだ? 学校はどうしたよ、ってあたしが言えた話でもないが」
「……あんたには関係ない」
さやかは目をそらしたが、そのこと自体が杏子にとって何より腹立たしい。
「……」
目を背けるさやかに、かける言葉は見つからなかった。
「……ごめん。私もう行く」
去って行く後ろ姿に、杏子は一人立ち尽くした。
ビルの谷間に、ぬるい風が吹く。
50: 2012/10/21(日) 02:45:20.44
マミは教室に一人である。
(代官の魔女は、かなり手広く手を伸ばしている……)
ノートの上をペンが滑っていく。
(下手に手を出すと、余計なトラブルを招きかねないわ……)
マミの手が止まった。
(ちょっと覚悟しておくべきかしら)
「巴さん、次移動教室だよ」
マミの右手が震えた。
(代官の魔女は、かなり手広く手を伸ばしている……)
ノートの上をペンが滑っていく。
(下手に手を出すと、余計なトラブルを招きかねないわ……)
マミの手が止まった。
(ちょっと覚悟しておくべきかしら)
「巴さん、次移動教室だよ」
マミの右手が震えた。
51: 2012/10/21(日) 02:46:08.12
数日がたった。
さやかは学校に戻って来たが、ふさぎ込む姿は教室に染みついてしまった。
まだ、犯人を探しているのだろうか。今日の放課後も、さやかの姿は無い。
「……マミから連絡が入ったわ。いつでも行けるって」
「結界の場所が分かったんだね……」
二人の視線は、さやかの席に注がれた。
もう一度、その目が交わった時、声が聞こえた。
「さやかを追うんだ。彼女が今回の依頼人だよ」
さやかは学校に戻って来たが、ふさぎ込む姿は教室に染みついてしまった。
まだ、犯人を探しているのだろうか。今日の放課後も、さやかの姿は無い。
「……マミから連絡が入ったわ。いつでも行けるって」
「結界の場所が分かったんだね……」
二人の視線は、さやかの席に注がれた。
もう一度、その目が交わった時、声が聞こえた。
「さやかを追うんだ。彼女が今回の依頼人だよ」
52: 2012/10/21(日) 02:47:34.55
さやかはバス停の席で俯いていた。
分厚い雲が空を覆う昼下がりである。かすかな雨が少女達の肩を濡らした。
「さやかちゃん、大丈夫……?」
まどかの言葉を聞いても、虚ろな瞳で地面を見つめるばかりであった。
まどかは小さな拳を固めて、言った。ほむらは、さやかのその後ろに目を送る。
分厚い雲が空を覆う昼下がりである。かすかな雨が少女達の肩を濡らした。
「さやかちゃん、大丈夫……?」
まどかの言葉を聞いても、虚ろな瞳で地面を見つめるばかりであった。
まどかは小さな拳を固めて、言った。ほむらは、さやかのその後ろに目を送る。
53: 2012/10/21(日) 02:48:31.19
「上条君の無念、私たちが晴らすよ」
ゆらりとまどかに向き直ったさやかは、その刹那に気を失った。
「これが、今回のグリーフシードだ。確かに依頼されたよ」
九兵衛を見るほむらの目は、あまりやさしいものではなかった。
54: 2012/10/21(日) 02:49:21.23
マミの部屋に少女たちは再び集う。
変わらぬ闇の中に、紅い目が二つ光る。
「グリーフシードは一つか。割に合わねえ仕事だな」
「それはいつもの事でしょう?」
「因果な商売よね、魔法少女って」
「それでも、誰かの無念を晴らせるのなら……」
それぞれが、己のソウルジェムをグリーフシードにかざす。そして、一人ずつ部屋を後にした。
外は宵闇。曇天に月も隠れる。
ほむらは天を見上げた。
変わらぬ闇の中に、紅い目が二つ光る。
「グリーフシードは一つか。割に合わねえ仕事だな」
「それはいつもの事でしょう?」
「因果な商売よね、魔法少女って」
「それでも、誰かの無念を晴らせるのなら……」
それぞれが、己のソウルジェムをグリーフシードにかざす。そして、一人ずつ部屋を後にした。
外は宵闇。曇天に月も隠れる。
ほむらは天を見上げた。
55: 2012/10/21(日) 02:50:00.56
♪魔法少女出陣のテーマ~コネクト~(歌:氷川きよし)
闇に沈んだ見滝原を少女たちが征く。
夜の街を抜け、光の届かぬ小路へと進む。
救済の円
爆撃の焔
洋銃の巴
仕込み槍の杏
出陣である。
闇に沈んだ見滝原を少女たちが征く。
夜の街を抜け、光の届かぬ小路へと進む。
救済の円
爆撃の焔
洋銃の巴
仕込み槍の杏
出陣である。
56: 2012/10/21(日) 02:51:00.37
Echizenの結界。その武家屋敷の門前にたたずむyoujinboが一人。
西国の生まれであるが、詰まらぬことで人を斬り、結界から召放ちになった使い魔である。
暗い夜である。かがり火の光は、かえってその周りに闇を作った。
「ったく、こんな日は冷やで一杯やりてぇな」
答えるものはいない。
西国の生まれであるが、詰まらぬことで人を斬り、結界から召放ちになった使い魔である。
暗い夜である。かがり火の光は、かえってその周りに闇を作った。
「ったく、こんな日は冷やで一杯やりてぇな」
答えるものはいない。
57: 2012/10/21(日) 02:51:36.97
だがその間の一瞬、あたりの闇がわずかにその色を増した。
「!」
youjinboも腕利きである。即座に鯉口を切って、右手を柄にかける。
「!」
youjinboも腕利きである。即座に鯉口を切って、右手を柄にかける。
58: 2012/10/21(日) 02:52:55.56
だが、それまでであった。
鎖が首を巻き、声もなく門扉に吊り上げられた、哀れyoujinbo。
門前の闇の中、仕込み槍の柄を抱いて膝をつく杏子。
その指が槍の握りを、ピンと弾いた。その微妙な震えがとどめであった。
youjinbo、絶息。
「成仏しなよ」
キリシタンはそう言い残して、闇へと消えた。
鎖が首を巻き、声もなく門扉に吊り上げられた、哀れyoujinbo。
門前の闇の中、仕込み槍の柄を抱いて膝をつく杏子。
その指が槍の握りを、ピンと弾いた。その微妙な震えがとどめであった。
youjinbo、絶息。
「成仏しなよ」
キリシタンはそう言い残して、闇へと消えた。
59: 2012/10/21(日) 02:53:42.35
♪マミのテーマ(三味線)
屋敷には、youjinboのために用意された一室がある。
そこに詰めていたyoujinboどもは杯を煽りながら、尾籠な話を声高に交わしていた。
その刹那である。薄い障子紙の上を、影が走った。
屋敷には、youjinboのために用意された一室がある。
そこに詰めていたyoujinboどもは杯を煽りながら、尾籠な話を声高に交わしていた。
その刹那である。薄い障子紙の上を、影が走った。
60: 2012/10/21(日) 02:54:09.55
「何だ……?」
一人が立ち上がり、部屋の外へと出た。
庭先の闇に目を凝らしてみても、人の影などない。
「気のせいか……」
61: 2012/10/21(日) 02:55:15.48
そうして振り返ったyoujinboの耳に、かの雷鳴が聞こえたかどうか。
飛来した弾丸がyoujinboを撃ち抜き、その体は崩れ落ちた。色めき立って飛び出したyoujinboども。
雷鳴は三度だけ、鳴った。
youjinbo、絶命。
練塀の上に立つマミ。手にした洋銃の筒先からは細い煙が立ちのぼる。
瞬間、煙もマミも闇へと掻き消えた。
飛来した弾丸がyoujinboを撃ち抜き、その体は崩れ落ちた。色めき立って飛び出したyoujinboども。
雷鳴は三度だけ、鳴った。
youjinbo、絶命。
練塀の上に立つマミ。手にした洋銃の筒先からは細い煙が立ちのぼる。
瞬間、煙もマミも闇へと掻き消えた。
62: 2012/10/21(日) 02:55:58.56
Echizenの居室。
Echigoyaが差し出した桐箱には、黄金色の光が宿る。
「どうぞ、御納めください」
Echigoyaは脂ぎった面相に、笑顔を貼付けて言った。
「ほほう、これはまた上手そうな菓子じゃのう」
Echigoyaが差し出した桐箱には、黄金色の光が宿る。
「どうぞ、御納めください」
Echigoyaは脂ぎった面相に、笑顔を貼付けて言った。
「ほほう、これはまた上手そうな菓子じゃのう」
63: 2012/10/21(日) 02:56:57.60
Echizenは相好を崩して、箱を手元に引き寄せた。
「それにしても、先日のヴァイオリンの小僧、あれは滑稽であったな」
Echizenは大笑する。
「大人しく渡せば良いものを、楽器ごときにあのすがりよう」
「思い出しても涙がでますな」
腐敗した二人の笑いが、座敷で何度となく弾けた。
「それにしても、先日のヴァイオリンの小僧、あれは滑稽であったな」
Echizenは大笑する。
「大人しく渡せば良いものを、楽器ごときにあのすがりよう」
「思い出しても涙がでますな」
腐敗した二人の笑いが、座敷で何度となく弾けた。
64: 2012/10/21(日) 02:57:40.42
♪Surgam idetidem(ほむら爆撃のテーマ)
「しかし今夜は騒がしい。先など銃撃の音まで聞こえたぞ」
「見て参りましょう。あやつら、根は暴れ者ですからな」
「しかし今夜は騒がしい。先など銃撃の音まで聞こえたぞ」
「見て参りましょう。あやつら、根は暴れ者ですからな」
65: 2012/10/21(日) 02:59:14.16
Echigoyaは座敷を出た。
縁側を伝って、離れの方へ。
やがて、走り来るyoujinboの一団とぶつかった。
「何事だ。あまり騒ぐものではないと……」
「Echigoyaの旦那、それどころじゃ……」
66: 2012/10/21(日) 03:00:16.45
ふっ、と月が顔を出す。
思わずそちらに目をやったEchigoyaは月を背に立つ少女を見た。
思わず見蕩れた間抜け面に、突き刺さったのは88式地対艦誘導弾であった。
Echigoya、そしてyoujinboの群れを巻き込んで、弾頭は飛ぶ。
真一文字に屋敷を引き裂いて、天を揺るがす轟音とともに屋敷は爆炎に包まれた。
暁美ほむらの仕事の後には、塵しか残らない。
黒髪を風がなでる。細い指がSSM-1をなぞり、やがて兵器も少女も闇へと溶けていった。
思わずそちらに目をやったEchigoyaは月を背に立つ少女を見た。
思わず見蕩れた間抜け面に、突き刺さったのは88式地対艦誘導弾であった。
Echigoya、そしてyoujinboの群れを巻き込んで、弾頭は飛ぶ。
真一文字に屋敷を引き裂いて、天を揺るがす轟音とともに屋敷は爆炎に包まれた。
暁美ほむらの仕事の後には、塵しか残らない。
黒髪を風がなでる。細い指がSSM-1をなぞり、やがて兵器も少女も闇へと溶けていった。
67: 2012/10/21(日) 03:01:35.92
♪Magia~演歌ver~(インストゥメンタル)
「まったく何事だ、これは!」
Echizen、未だ事の重大に気付かぬ。
それでも座敷の外に出たのは上等な所だろう。
その後ろ姿に声を掛けたものがある。
「まったく何事だ、これは!」
Echizen、未だ事の重大に気付かぬ。
それでも座敷の外に出たのは上等な所だろう。
その後ろ姿に声を掛けたものがある。
68: 2012/10/21(日) 03:02:15.69
「誰だ!」
まどかである。ゆっくりとEchizenの方へと歩き出した。
「いえ、怪しいものではありません。ただ御注進に参りました」
「注進? 何だ?」
まどかは庭の方へと目をやる。
69: 2012/10/21(日) 03:03:28.31
「御代官、先頃少年を痛めつけられたとか」
「それがどうした」
心底分からぬという顔でEchizenは言う。
「どうにも、その件で魔法少女が参ったようですね……」
「馬鹿な! ガキの一人や二人で、何故わしが狙われねばならんのだ!」
まどかは一つ、息をつく。
70: 2012/10/21(日) 03:05:05.53
「分かりませんか」
Echizenの背中に魔法の矢が突きつけられる。
驚く顔を見せる前に、矢は放たれた。
桜色の光に包まれて、Echizenは崩れ落ちた。
Echizen、消滅。
無様な最後であった。
「……帰ろう」
まどかの足取りは、いつもと変わらぬ。
Echizenの背中に魔法の矢が突きつけられる。
驚く顔を見せる前に、矢は放たれた。
桜色の光に包まれて、Echizenは崩れ落ちた。
Echizen、消滅。
無様な最後であった。
「……帰ろう」
まどかの足取りは、いつもと変わらぬ。
71: 2012/10/21(日) 03:06:24.24
明くる朝に、まどかは家に帰った。
仕事の日は遅くなるから、いつもほむらの家に泊まるのだ。
「まぁた朝帰りかい?」
そう言って、母はまどかの頬を引っ張った。
72: 2012/10/21(日) 03:07:00.94
「痛い、痛いよママ!」
ふにゃふにゃ言ってまどかは逃れる。
「ほむらちゃんばっかり追いかけて、迷惑かけてるんじゃないだろうな!」
笑いまじりの母が追いかけて来た。
きゃあきゃあ言って走り回りながら、まどかはすっと目を細める。
幸福な家庭であった。
ふにゃふにゃ言ってまどかは逃れる。
「ほむらちゃんばっかり追いかけて、迷惑かけてるんじゃないだろうな!」
笑いまじりの母が追いかけて来た。
きゃあきゃあ言って走り回りながら、まどかはすっと目を細める。
幸福な家庭であった。
83: 2012/10/24(水) 00:16:40.52
雪に白鷺 闇夜に鴉 紛れ 隠れる 悪い魔女
正直者は 阿呆鳥 これじゃあ 理屈が合いません
世の中こんなもんだよと 諦めないで 来て下せい
どこに居ようと 探し出し 必ず仕留めて ご覧に入れます
BGM:Magia
84: 2012/10/24(水) 00:21:23.10
休日の午後、ほむらは病院からの家路にあった。
心臓は既に完治していたが、それでも定期検査を求められる。
消毒液の匂いが、まだ胸のあたりに残っている。
街は何だか浮ついていた。
ほむらは足早に人波をすり抜けて行く。儚げな少女に振り返る人も少なくなかった。
「……」
街の空気が、ほむらには苦しい。
心臓は既に完治していたが、それでも定期検査を求められる。
消毒液の匂いが、まだ胸のあたりに残っている。
街は何だか浮ついていた。
ほむらは足早に人波をすり抜けて行く。儚げな少女に振り返る人も少なくなかった。
「……」
街の空気が、ほむらには苦しい。
85: 2012/10/24(水) 00:24:13.15
そんな矢先に、ほむらを呼び止める人がいた。
「暁美さんじゃん! 奇遇だね!」
わずかに眉根を顰めて、ほむらは立ち止まった。
クラスメイトの女子が数人、駆け寄ってくる。そのうち一人は、転校初日にいつもシャンプーのことを尋ねてくる子だ。
ほむらの瞳の奥が、揺れる。
「暁美さんじゃん! 奇遇だね!」
わずかに眉根を顰めて、ほむらは立ち止まった。
クラスメイトの女子が数人、駆け寄ってくる。そのうち一人は、転校初日にいつもシャンプーのことを尋ねてくる子だ。
ほむらの瞳の奥が、揺れる。
86: 2012/10/24(水) 00:28:09.63
矢継ぎ早に話すクラスメイトたちのスピードに、ほむらは追いつけなかった。
彼女たちの顔を見比べながら、言葉を探した。
いつかも、こんな風だった。
そう思った瞬間に瞳の揺れは静まり、微動だにしないものがほむらの中に降りる。
「それで、あなたたちはどうしたの?」
彼女たちの顔を見比べながら、言葉を探した。
いつかも、こんな風だった。
そう思った瞬間に瞳の揺れは静まり、微動だにしないものがほむらの中に降りる。
「それで、あなたたちはどうしたの?」
87: 2012/10/24(水) 00:29:13.33
「そうだ! 暁美さんも誘おうよ」
クラスメイトは何事か、色めき立った。ほむらはかすかに俯いてしまう。
「これから時間ある?」
時間はあったが、行きたくない。
言い出せないままに、手を引かれてしまった。
幾百の戦場を越えたほむらは、しかし未だ人の世の中に戸惑い続けていた。
クラスメイトは何事か、色めき立った。ほむらはかすかに俯いてしまう。
「これから時間ある?」
時間はあったが、行きたくない。
言い出せないままに、手を引かれてしまった。
幾百の戦場を越えたほむらは、しかし未だ人の世の中に戸惑い続けていた。
88: 2012/10/24(水) 00:30:22.84
繁華街の雑多なビルの隙間に、薄暗い地下へとのびる階段がある。
両の壁には何枚ものポスターが張られ、そして剥がされていた。
そういうものを眺めながら、ほむらはそこがライブハウスなのだと知った。
少し、足取りが重くなる。
89: 2012/10/24(水) 00:31:04.10
妙に高い飲み物を買って、同級生たちと席へ向かった。
次第に辺りの喧噪が大きくなり、同級生たちもひっきりなしに話しかけてくる。
ほむらは何度も口元に飲み物を運んだ。ただ唇を濡らすだけであったが。
やがてステージに聞いた事も無いバンドが現れ、あまり上手くない演奏と歌を始めた。
ほむらは飲み物を口元から離さずにいる。
次第に辺りの喧噪が大きくなり、同級生たちもひっきりなしに話しかけてくる。
ほむらは何度も口元に飲み物を運んだ。ただ唇を濡らすだけであったが。
やがてステージに聞いた事も無いバンドが現れ、あまり上手くない演奏と歌を始めた。
ほむらは飲み物を口元から離さずにいる。
90: 2012/10/24(水) 00:31:43.92
音の響きが動悸に変わり、少し気分が悪い。
左の胸を押さえる自分の動きに、ほむらは気付いていなかった。
「あの、私……」
飛び跳ねるクラスメイトたちを見て、ほむらは言葉を飲み込んだ。
ステージに目を移す。ボーカルの男が投げキッスをこちらに寄越したので、ほむらは目を逸らした。
左の胸を押さえる自分の動きに、ほむらは気付いていなかった。
「あの、私……」
飛び跳ねるクラスメイトたちを見て、ほむらは言葉を飲み込んだ。
ステージに目を移す。ボーカルの男が投げキッスをこちらに寄越したので、ほむらは目を逸らした。
91: 2012/10/24(水) 00:32:19.73
ほむらにとっては長い時間が過ぎた。
ライブハウスを引き上げようとするほむらの前に、外国人風の男が現れた。
「ネエ、チョットイイモノアルヨ?」
顔の割に流暢な日本語だった。話しながら怪しげな小袋を振ってみせた。粉末の音がする。
92: 2012/10/24(水) 00:33:16.59
ほむらが何か言う前に、クラスメイトの声が追い越した。
「いや、いらないから。私らもう帰るんで」
シャンプーの子がほむらの袖を引いた。ほむらもそそくさとその場を離れる。
「ヤセルヨー!」
外国人の声が追いかけて来た。少女たちの足も速くなる。
93: 2012/10/24(水) 00:33:47.77
「暁美さん、あんなの相手にしちゃ駄目だよ」
クラスメイトたちは厳しい顔で言う。
ほむらは黙って頷いた。
そろそろ夕刻だったが、まだ空は明るい。
94: 2012/10/24(水) 00:34:51.44
「そりゃあ、災難だったな」
街の広場の一角でシルバーアクセサリーを売っていた杏子が言う。手元の銀細工からは目を離さなかった。
ほむらもその横に腰を下ろした。
「噂には聞いていたけど、本当にあんなのがいるのね」
ほむらの声は細い。
「何だ、実は世間知らずか? 世間なんて一皮むいたらそんなもんだよ」
ほむらは黙って、売り物に手を伸ばす。人魚を象った意匠のようだ。
「いいだろ、それ」
「……そうね」
ほむらは手を離した。
街の広場の一角でシルバーアクセサリーを売っていた杏子が言う。手元の銀細工からは目を離さなかった。
ほむらもその横に腰を下ろした。
「噂には聞いていたけど、本当にあんなのがいるのね」
ほむらの声は細い。
「何だ、実は世間知らずか? 世間なんて一皮むいたらそんなもんだよ」
ほむらは黙って、売り物に手を伸ばす。人魚を象った意匠のようだ。
「いいだろ、それ」
「……そうね」
ほむらは手を離した。
95: 2012/10/24(水) 00:36:57.38
「それで、これが現物なのだけど」
ポケットから小袋を取り出したほむらを、杏子は呆れたように見つめた。
「盗って来たのかよ……」
手癖の悪い奴だな、と八重歯を見せながら杏子は袋を受け取った。
「確かめてはいないけど、あの男、何かおかしかったわ」
「……魔女か」
ほむらは答えず、長い髪を指先で弄んだ。
ポケットから小袋を取り出したほむらを、杏子は呆れたように見つめた。
「盗って来たのかよ……」
手癖の悪い奴だな、と八重歯を見せながら杏子は袋を受け取った。
「確かめてはいないけど、あの男、何かおかしかったわ」
「……魔女か」
ほむらは答えず、長い髪を指先で弄んだ。
96: 2012/10/24(水) 00:37:49.77
「脱法ハーブって奴だな。最近は多いんだ」
杏子はこともなげに言った。ほむらはその顔を伺う。
「まあ要するに規制前の阿片だよ。ろくなモンじゃ無い」
「……そう。ありがとう」
そういってほむらは携帯電話を散りだす。何事か操作しているその手元を、杏子は覗いてみた。
液晶画面には見滝原の地図と、いくつかの移動する点が表示されていた。
「お前まさか、発信器を……」
ほむらは何も言わず、なびく髪を軽く流した。
杏子はこともなげに言った。ほむらはその顔を伺う。
「まあ要するに規制前の阿片だよ。ろくなモンじゃ無い」
「……そう。ありがとう」
そういってほむらは携帯電話を散りだす。何事か操作しているその手元を、杏子は覗いてみた。
液晶画面には見滝原の地図と、いくつかの移動する点が表示されていた。
「お前まさか、発信器を……」
ほむらは何も言わず、なびく髪を軽く流した。
97: 2012/10/24(水) 00:38:33.65
明くる日の通学路。
まどかは先を行っていたほむらを捕まえて、連れ立って登校していた。
「それでねー、ママが少しくらい派手な方がいいって……」
「あ、それでそのリボンなのね」
他愛無い会話を続けながら、まどかはほむらの横顔を見つめた。
白い頬に、黒髪が一束垂れている。
何故だか、笑みがこぼれた。
まどかは先を行っていたほむらを捕まえて、連れ立って登校していた。
「それでねー、ママが少しくらい派手な方がいいって……」
「あ、それでそのリボンなのね」
他愛無い会話を続けながら、まどかはほむらの横顔を見つめた。
白い頬に、黒髪が一束垂れている。
何故だか、笑みがこぼれた。
98: 2012/10/24(水) 00:39:31.06
校門前に人だかりが出来ていた。
顔を見合わせながら、声を顰めて囁き合う人々の壁がある。その中心に誰かいるようだ。
「……?」
まどかとほむらは顔を見合わせた。
まどかが人垣の隙間から、その内側を覗いてみた。ほむらもそれに倣う。
99: 2012/10/24(水) 00:40:21.27
車椅子の車輪が見えた。その主はどうやら男で、制服を見る限り同じ見滝原中学生のようだ。
その手元に、黒い箱の様なものが見えた。
「ヴァイオリン……?」
不審げなほむらの横顔を見ながら、まどかはもう一度、そちらへ目をやった。
ほむらが、まどかの袖を引く。まどかにも分かった。
上条恭介であった。
その手元に、黒い箱の様なものが見えた。
「ヴァイオリン……?」
不審げなほむらの横顔を見ながら、まどかはもう一度、そちらへ目をやった。
ほむらが、まどかの袖を引く。まどかにも分かった。
上条恭介であった。
100: 2012/10/24(水) 00:41:28.30
「上条君……? また?」
「まどか、見て」
ほむらはヴァイオリンケースを示した。そこには楽譜の裏とおぼしき紙の上に、赤ペンで大書されていた。
闇の仕置人にお願い申し上げる(中沢が)
「まどか、見て」
ほむらはヴァイオリンケースを示した。そこには楽譜の裏とおぼしき紙の上に、赤ペンで大書されていた。
闇の仕置人にお願い申し上げる(中沢が)
101: 2012/10/24(水) 00:44:11.32
上条の腕に包帯はない。幸い怪我は治ったようだ。
しばらくすると教師達が駆けつけて、生徒を散らした。
上条は憤然と顔を振り上げて、しかしながら大人たちに車椅子を押されてその場を去った。
まどかは目をさまよわせ、やがてほむらの方を見た。
ほむらにも、一言も無い。
しばらくすると教師達が駆けつけて、生徒を散らした。
上条は憤然と顔を振り上げて、しかしながら大人たちに車椅子を押されてその場を去った。
まどかは目をさまよわせ、やがてほむらの方を見た。
ほむらにも、一言も無い。
102: 2012/10/24(水) 00:45:27.63
教室は門前の事件の話題で持ち切りであった。
「また上条かよ? しかも闇の仕置人って……」
「中沢に何かあったのか?」
「そういや上条を襲った奴らってどうなったんだ?」
まどかが席に着くまでに、飛び込んできた言葉は多いがどれも要領を得なかった。
ほむらも席について、茫洋とした表情でいた。
「また上条かよ? しかも闇の仕置人って……」
「中沢に何かあったのか?」
「そういや上条を襲った奴らってどうなったんだ?」
まどかが席に着くまでに、飛び込んできた言葉は多いがどれも要領を得なかった。
ほむらも席について、茫洋とした表情でいた。
103: 2012/10/24(水) 00:46:09.46
二人の背後でドアが開いた。車椅子の上条と、それを押すさやかであった。
上条の顔は、俯いて見えない。さやかも俯いていたが、その頬には淡く血が昇っていた。
まどかが声を掛けようとしたが、さやかは手を上げてそれを止めた。
「ごめん、後でね」
さやかの声は上ずっていた。ほむらが眉をひそめる。
まどかは引き下がるしか無かった。
上条の顔は、俯いて見えない。さやかも俯いていたが、その頬には淡く血が昇っていた。
まどかが声を掛けようとしたが、さやかは手を上げてそれを止めた。
「ごめん、後でね」
さやかの声は上ずっていた。ほむらが眉をひそめる。
まどかは引き下がるしか無かった。
104: 2012/10/24(水) 00:46:55.54
その昼休みである。
日本晴れの屋上に、少女たちは集った。
「ええと、それでなんだっけ? 中沢のこと?」
「そうだけど……、あなた何かあった?」
さやかは盛大に顔を赤らめて、しかし黙って前髪に触れて見せるだけだった。
ほむらは無表情に目を見開いた。
慌てて、まどかがさやかを促す。
「中沢は……」
日本晴れの屋上に、少女たちは集った。
「ええと、それでなんだっけ? 中沢のこと?」
「そうだけど……、あなた何かあった?」
さやかは盛大に顔を赤らめて、しかし黙って前髪に触れて見せるだけだった。
ほむらは無表情に目を見開いた。
慌てて、まどかがさやかを促す。
「中沢は……」
105: 2012/10/24(水) 00:49:20.41
第二話「沈め技・さみだれ危険物第四類」
106: 2012/10/24(水) 00:55:20.15
Flying Dutchman
密売人の魔女 その性質は出島
かつてヨーロッパから交易を求めてやって来た魔法少女のなれの果て
まさかの鎖国体制に絶望した今は、阿片をばらまくばかり
John
使い魔。
腕っ節の強い水兵。魔女の護衛役。
日本食が合わないので、いつも気が立っている。
Tom
使い魔。
布教と称して、阿片を売り歩く。
密売人の魔女 その性質は出島
かつてヨーロッパから交易を求めてやって来た魔法少女のなれの果て
まさかの鎖国体制に絶望した今は、阿片をばらまくばかり
John
使い魔。
腕っ節の強い水兵。魔女の護衛役。
日本食が合わないので、いつも気が立っている。
Tom
使い魔。
布教と称して、阿片を売り歩く。
112: 2012/10/27(土) 02:51:40.14
「つまり、その中沢君が阿片を掴まされた挙げ句、警察に逮捕された、と」
闇の中からマミの声がする。
「ええ、無理矢理押し付けられて、お金も取られてね」
ほむらの瞳に、炎が散らつく。
「警察がそんなんで逮捕するのか?」
杏子の姿は、全くの影となって、見えない。
113: 2012/10/27(土) 02:52:27.60
「例えば、犯人が目に見えないとしたら?」
まどかが言葉を引き継ぐ。
「中沢君が襲われたのは、船着き場なんだけど、その日には船なんて来てなかったの」
「中沢君は船に連れ込まれた、と言ってるわ」
見えない紅茶を探りながら、マミの目がきらめく。
「魔女の仕業……?」
ほむらは半眼になって、テーブルに目を落とす。
マミは紅茶を諦めた。
まどかが言葉を引き継ぐ。
「中沢君が襲われたのは、船着き場なんだけど、その日には船なんて来てなかったの」
「中沢君は船に連れ込まれた、と言ってるわ」
見えない紅茶を探りながら、マミの目がきらめく。
「魔女の仕業……?」
ほむらは半眼になって、テーブルに目を落とす。
マミは紅茶を諦めた。
114: 2012/10/27(土) 02:53:30.91
紅い目が、闇の中に浮かぶ。
「既にグリーフシードの気配は起こりつつある。今回も情報の収集は怠らないでほしいな」
杏子はため息を一つこぼして、大きく体を伸ばした。
伸ばした手が何かに当たった。モノが割れる音がする。
マミが息をのんだ。
「言うだけのお前は楽で良いよな」
「既にグリーフシードの気配は起こりつつある。今回も情報の収集は怠らないでほしいな」
杏子はため息を一つこぼして、大きく体を伸ばした。
伸ばした手が何かに当たった。モノが割れる音がする。
マミが息をのんだ。
「言うだけのお前は楽で良いよな」
115: 2012/10/27(土) 02:54:02.10
どこかに行った自分のケーキを、目を凝らして探すほむら。
杏子の言葉を引き継いだ。
「気が滅入るのよね。今に始まったことじゃないけど……」
まどかは黙ってケーキをさらに一片、口に運んだ。味が変わっていた。
「だけど、私たちがやらないと……」
ほむらはまどかの口元を見つめる。
「魔法少女にしか出来ないことも、あるのよ」
マミが布巾を握りしめながら、闇の中に嘯いた。
杏子の言葉を引き継いだ。
「気が滅入るのよね。今に始まったことじゃないけど……」
まどかは黙ってケーキをさらに一片、口に運んだ。味が変わっていた。
「だけど、私たちがやらないと……」
ほむらはまどかの口元を見つめる。
「魔法少女にしか出来ないことも、あるのよ」
マミが布巾を握りしめながら、闇の中に嘯いた。
116: 2012/10/27(土) 02:54:46.77
「……よし!」
勢い良く立ち上がったマミが、カーテンを開けた。
刺さる西日に目を細めながら、ほむらが蝋燭を消す。
杏子がもう一つため息をついた。
テーブルの上はこぼれた紅茶と、崩れ転がったケーキが散乱していた。
「……ところで報告があるのだけど」
明らかに二人分の痕跡を残すまどかの手元に目を流しつつ、ほむらが言った。
「さやかと上条君、交際開始とのこと」
マミはまたカーテンを閉じた。
部屋が闇に沈む。
勢い良く立ち上がったマミが、カーテンを開けた。
刺さる西日に目を細めながら、ほむらが蝋燭を消す。
杏子がもう一つため息をついた。
テーブルの上はこぼれた紅茶と、崩れ転がったケーキが散乱していた。
「……ところで報告があるのだけど」
明らかに二人分の痕跡を残すまどかの手元に目を流しつつ、ほむらが言った。
「さやかと上条君、交際開始とのこと」
マミはまたカーテンを閉じた。
部屋が闇に沈む。
117: 2012/10/27(土) 02:55:18.92
明くる日の教室に、さやかの姿は無かった。
上条は病院へと戻った。
目を充血させた仁美が事情を語る。らしからぬ早口であった。
「さやかさんは上条さんに替わって、中沢さんを嵌めた犯人を探すんだって息巻いておられました」
小さな手を、ほむらは額に当てる
「ああ、恋が実って浮かれてるのね……」
上条は病院へと戻った。
目を充血させた仁美が事情を語る。らしからぬ早口であった。
「さやかさんは上条さんに替わって、中沢さんを嵌めた犯人を探すんだって息巻いておられました」
小さな手を、ほむらは額に当てる
「ああ、恋が実って浮かれてるのね……」
118: 2012/10/27(土) 02:55:58.22
その裾をまどかが掴んだ。
「事件があってから既に数日……」
ほむらは向き直る。
「じゃあ、そろそろバス停に……」
「ええ、お願いするわ」
互いの姿が瞳に映る。小さな手は握りしめられたままであった。
「事件があってから既に数日……」
ほむらは向き直る。
「じゃあ、そろそろバス停に……」
「ええ、お願いするわ」
互いの姿が瞳に映る。小さな手は握りしめられたままであった。
119: 2012/10/27(土) 02:57:11.54
その放課後である。
家路に向かう二人は早乙女先生に呼び止められた。
「暁美さん、検査はどうだった?」
心臓のことである。まさか魔法で全快とは言えなかった。
「まどか、先に行ってくれる?」
先生には見えないように、ほむらは眉を下げて困り顔作った。
いたずらまじりの笑顔を残して、まどかは頷いた。
家路に向かう二人は早乙女先生に呼び止められた。
「暁美さん、検査はどうだった?」
心臓のことである。まさか魔法で全快とは言えなかった。
「まどか、先に行ってくれる?」
先生には見えないように、ほむらは眉を下げて困り顔作った。
いたずらまじりの笑顔を残して、まどかは頷いた。
120: 2012/10/27(土) 02:57:53.27
叢雲が太陽を隠し、見滝原に影を落とす。
一人歩くまどかは、やがてバス停にうなだれるさやかを見つけた。
足取りを遅らせながら、まどかはその隣に腰を下ろした。
「悪いね、世話かけさせちゃって……」
さやかの目は、前方の一点に据えられて動かない。
一人歩くまどかは、やがてバス停にうなだれるさやかを見つけた。
足取りを遅らせながら、まどかはその隣に腰を下ろした。
「悪いね、世話かけさせちゃって……」
さやかの目は、前方の一点に据えられて動かない。
121: 2012/10/27(土) 02:58:26.49
「……恭介のため、だったんだけどね」
まどかは黙って頷いた。
「恭介と言えば、昨日約束したんだけど!」
「!?」
ぐるりとまどかに向き直ったさやかの目は煌めいてた。
「今度の休みにさあ、デートだって! もう私どうし……」
その背中に、紅い目が光る。
まどかは黙って頷いた。
「恭介と言えば、昨日約束したんだけど!」
「!?」
ぐるりとまどかに向き直ったさやかの目は煌めいてた。
「今度の休みにさあ、デートだって! もう私どうし……」
その背中に、紅い目が光る。
122: 2012/10/27(土) 02:59:00.76
満面の笑顔のまま、さやかは気を失った。
「か、彼女が今回の依頼人だ。グリーフシードは確かに受け取ったよ」
「毎度あり……」
まどかと九兵衛はしばし目を合わせた。
気まずい沈黙が流れる。
雲は静かに流れる。
まどかは振り向かなかった。
「か、彼女が今回の依頼人だ。グリーフシードは確かに受け取ったよ」
「毎度あり……」
まどかと九兵衛はしばし目を合わせた。
気まずい沈黙が流れる。
雲は静かに流れる。
まどかは振り向かなかった。
123: 2012/10/27(土) 02:59:45.59
ようやく先生から解放されたほむらが、廊下を行く。
かすかに俯いた歩みは、駆け寄ってくる少女に気付かせなかった。
「暁美さん……?」
仁美であった。しきりに両目をこすって、心のうちを隠そうとしていた。
ほむらはふわと息をついて、宙に目を泳がせる。
かすかに俯いた歩みは、駆け寄ってくる少女に気付かせなかった。
「暁美さん……?」
仁美であった。しきりに両目をこすって、心のうちを隠そうとしていた。
ほむらはふわと息をついて、宙に目を泳がせる。
124: 2012/10/27(土) 03:00:19.92
「……きっと、あなたにも素敵な人が現れるわ」
仁美が目を上げる。
「だから、今は……」
次の瞬間に、ほむらの小さな体が抱きしめられた。
華奢な体に、仁美が驚いたかどうか。
陽は沈みつつある。
白い顔を一層白くしながら、ほむらの目に宿る光は、目の前の紅い目を刺した。
仁美が目を上げる。
「だから、今は……」
次の瞬間に、ほむらの小さな体が抱きしめられた。
華奢な体に、仁美が驚いたかどうか。
陽は沈みつつある。
白い顔を一層白くしながら、ほむらの目に宿る光は、目の前の紅い目を刺した。
125: 2012/10/27(土) 03:00:51.38
仁美の体が、ほむらを抱いたまま崩れ落ちる。
「えーと、グリーフシードだ……」
仁美を支えながら、ほむらは言葉を返す。
「何で?」
紅い目が、揺れる。
「失恋の無念を、君が晴らしたということじゃないかな?」
「そんなのでグリーフシードが出るの?」
ほむらは紅い目に向き合う。決して仲の良くない二つの意識が、この瞬間に重なった。
「何で?」
「えーと、グリーフシードだ……」
仁美を支えながら、ほむらは言葉を返す。
「何で?」
紅い目が、揺れる。
「失恋の無念を、君が晴らしたということじゃないかな?」
「そんなのでグリーフシードが出るの?」
ほむらは紅い目に向き合う。決して仲の良くない二つの意識が、この瞬間に重なった。
「何で?」
126: 2012/10/27(土) 03:01:31.08
夕凪の影より、さらに色濃い闇が部屋を満たす。
小さな炎が、卓上の二つのグリーフシードを照らした。
「何だ、今回は二つか? 妙に豪勢だな」
ほむらと九兵衛は目を逸らす。
「……今回の標的は厄介よ」
マミが誰もいない空間に向かって語った。
小さな炎が、卓上の二つのグリーフシードを照らした。
「何だ、今回は二つか? 妙に豪勢だな」
ほむらと九兵衛は目を逸らす。
「……今回の標的は厄介よ」
マミが誰もいない空間に向かって語った。
127: 2012/10/27(土) 03:02:00.92
「船着き場から、かなり離れた沖に結界があるわ、いつもの様にはいかない……」
杏子が乾いた笑いをこぼした。
「腕が鳴るってもんだろ?」
マミが笑い返したかどうか。
「理不尽に泣いた人がいます。だから私たちが……」
見えないまどかの声がする。それでも炎が四人の瞳に映り込んだ。
それぞれが己のソウルジェムをグリーフシードに翳しては、部屋を去る。
魔法少女、出陣である。
杏子が乾いた笑いをこぼした。
「腕が鳴るってもんだろ?」
マミが笑い返したかどうか。
「理不尽に泣いた人がいます。だから私たちが……」
見えないまどかの声がする。それでも炎が四人の瞳に映り込んだ。
それぞれが己のソウルジェムをグリーフシードに翳しては、部屋を去る。
魔法少女、出陣である。
128: 2012/10/27(土) 03:02:34.46
出陣のテーマ~コネクト~(歌:八代亜紀)
月夜の港に少女が立つ。
小舟が一つ、波間に揺れる。
目指すは彼方のガレオン船。四本マストが映るのは、少女たちの瞳だけ。
救済の円
爆撃の焔
洋銃の巴
仕込み槍の杏
出港である。
月夜の港に少女が立つ。
小舟が一つ、波間に揺れる。
目指すは彼方のガレオン船。四本マストが映るのは、少女たちの瞳だけ。
救済の円
爆撃の焔
洋銃の巴
仕込み槍の杏
出港である。
129: 2012/10/27(土) 03:03:12.90
ガレオン船の甲板にはいくつかのランタンが置かれている。
西洋カルタを囲んで、シェリー酒を煽るJohnたち。
いくつもの海を越えた荒くれ者である。
「Shit ! I'll have no luck tonight ! 」
「HAHAHAHA !」
賭けに負けた一人が、悪態をつきながら船縁に寄った。
130: 2012/10/27(土) 03:03:44.45
その額に、長槍が突き刺さる。引き抜かれたその勢いで、体は海に落ちた。
盛大な水音に、甲板の連中が群がった。
その背中に、影が落ちる。ちょうど少女一人分であった。
酔漢に気付かれる手並みではなかった。
盛大な水音に、甲板の連中が群がった。
その背中に、影が落ちる。ちょうど少女一人分であった。
酔漢に気付かれる手並みではなかった。
131: 2012/10/27(土) 03:04:40.09
三人のJohnがマストに吊り上げられる。鎖と節が絡み合い、声もなくもがくJohn。
やがて甲板に降り立った赤髪の少女。手元には鎖が連なる。
ぐいとその手が引かれ、Johnの体が力なく伸び、そして動かなくなった。
絶息である。
やがて甲板に降り立った赤髪の少女。手元には鎖が連なる。
ぐいとその手が引かれ、Johnの体が力なく伸び、そして動かなくなった。
絶息である。
132: 2012/10/27(土) 03:05:41.62
杏子は足下の西洋カルタを一枚、手に取った。
切り札であった。
「Rest in peace、だったか……」
札を散らして、少女は消えた。
甲板に、笑うジョーカーだけが残った。
切り札であった。
「Rest in peace、だったか……」
札を散らして、少女は消えた。
甲板に、笑うジョーカーだけが残った。
133: 2012/10/27(土) 03:06:42.58
船内を見回るのは、Tomである。
修道服に酒の匂いが染み付いている。
聖書を阿片に持ち替えて、腐った福音を、海に陸にばらまいてきた。
右手のランタンが作った光に、一瞬の影が差す。
「……?」
134: 2012/10/27(土) 03:07:35.59
怪訝な顔で船倉の方を覗く。
その背に砲門が突きつけられた。
振り向いたTomが最後に見たのは、巨大な銃火の起こりであった。
喫水線の浅いガレオン船。
轟音は船体のすべてを揺るがした。
その背に砲門が突きつけられた。
振り向いたTomが最後に見たのは、巨大な銃火の起こりであった。
喫水線の浅いガレオン船。
轟音は船体のすべてを揺るがした。
135: 2012/10/27(土) 03:08:04.90
空いた穴から海が見える。波間に月光が煌めいては消えた。
「ティロ・フィナーレ……」
流れ込んだ水を踏む音はない。
闇の海に、合図のように響いた洋銃の雷鳴。
一発だけ、海に鳴る。
「ティロ・フィナーレ……」
流れ込んだ水を踏む音はない。
闇の海に、合図のように響いた洋銃の雷鳴。
一発だけ、海に鳴る。
136: 2012/10/27(土) 03:08:36.21
轟音に飛び出した使い魔どもは、甲板に集った。
吊るされた同胞を指して、洋音の罵声が飛び交う。
その喧噪の中、一番マストに影が立つ。
半月を背に、煌めく黒髪が潮風をまとう。
吊るされた同胞を指して、洋音の罵声が飛び交う。
その喧噪の中、一番マストに影が立つ。
半月を背に、煌めく黒髪が潮風をまとう。
137: 2012/10/27(土) 03:10:15.69
使い魔がそれに気付いた。見上げた連中の口が無様に開く。
使い魔どもが、巨大な影に覆われる。
一瞬の間を置いて、タンクローリーが甲板に突き刺さった。
ガレオン船に、墓標のようにそびえる車体の姿。
それは瞬間に天をも焦がす火柱となって、船を頃した。
使い魔どもが、巨大な影に覆われる。
一瞬の間を置いて、タンクローリーが甲板に突き刺さった。
ガレオン船に、墓標のようにそびえる車体の姿。
それは瞬間に天をも焦がす火柱となって、船を頃した。
138: 2012/10/27(土) 03:11:48.15
マストから、ふわと少女の影が舞う。
可憐な姿が闇にまぎれ、燃え盛る甲板には爆薬が落ちる。
焼け崩れるマストに、悲鳴だけが残った。
「お粗末様……」
暁美ほむらの仕事の後には塵だけが残る。
可憐な姿が闇にまぎれ、燃え盛る甲板には爆薬が落ちる。
焼け崩れるマストに、悲鳴だけが残った。
「お粗末様……」
暁美ほむらの仕事の後には塵だけが残る。
139: 2012/10/27(土) 03:12:18.08
♪Magia~演歌ver~
沈む船から、一人逃れたのは魔女である。
「What's the hell is it !!」
上陸用の小さなボートは徐々に本船を離れた。
もはや洋上の爆炎と化した、自らの結界を省みた魔女に、声がかかる。
沈む船から、一人逃れたのは魔女である。
「What's the hell is it !!」
上陸用の小さなボートは徐々に本船を離れた。
もはや洋上の爆炎と化した、自らの結界を省みた魔女に、声がかかる。
140: 2012/10/27(土) 03:12:51.05
「はるばる日の本に来て、やることはこれですか」
小舟を寄せたまどかが、魔女を見据えた。
「Hey,girl !! please help me !」
まどかは櫂を離し、すっと立ち上がった。
闇夜が刹那、桜色に染まる。
「お命、頂きますね……」
小舟を寄せたまどかが、魔女を見据えた。
「Hey,girl !! please help me !」
まどかは櫂を離し、すっと立ち上がった。
闇夜が刹那、桜色に染まる。
「お命、頂きますね……」
141: 2012/10/27(土) 03:13:22.95
やがて、小舟が離れる。
まどかは目を細めて、月を仰いだ。
彼方から、ほむらのモーターボートの爆音が響く。
まどかは小さく手を振った。
夜が、明ける。
142: 2012/10/27(土) 03:13:52.17
やはり朝帰りのまどかを両親が迎えた。
「まったく、この子はテスト前だってのに……」
「まあまあ、勉強を教えてもらったんだろう?」
まどかはふわふわと笑って、そのまま部屋に行こうとしたが。
「これは遊んでたな……」
「ははは……」
追いかける母を振り切れるのか、まどか。
朝から騒がしい家であった。
「まったく、この子はテスト前だってのに……」
「まあまあ、勉強を教えてもらったんだろう?」
まどかはふわふわと笑って、そのまま部屋に行こうとしたが。
「これは遊んでたな……」
「ははは……」
追いかける母を振り切れるのか、まどか。
朝から騒がしい家であった。
143: 2012/10/27(土) 03:17:25.98
次回予告
見滝原幕府、37代将軍Yoshiyasuは突如として乱心。
スーパーセルの中、庶民を避難させぬという、生類憐レミギスの夜を発令する。
暴政に屈した少女は、思いを魔法に託す。
次回最終話 「まどか、天下人に喧嘩を売る」
見滝原幕府、37代将軍Yoshiyasuは突如として乱心。
スーパーセルの中、庶民を避難させぬという、生類憐レミギスの夜を発令する。
暴政に屈した少女は、思いを魔法に託す。
次回最終話 「まどか、天下人に喧嘩を売る」
152: 2012/10/30(火) 01:44:30.05
????
将軍の魔女 その性質は暴れん坊
結界を必要としない超弩級の魔女
通称セキガハラの夜
Hatamoto
将軍の魔女の使い魔
八万騎の忠実な武士
将軍の魔女 その性質は暴れん坊
結界を必要としない超弩級の魔女
通称セキガハラの夜
Hatamoto
将軍の魔女の使い魔
八万騎の忠実な武士
153: 2012/10/30(火) 01:44:58.70
その日、見滝原大広場に札が立った。
いかなる天災においても、見滝原を離れるまじきこと。
この奇怪な号令はその日のうちに見滝原を駆け巡った。
154: 2012/10/30(火) 01:46:52.22
「ふぅん。お上の考えることは、よく分かんねえな」
杏子は後ろ頭を掻きながら、興味なげに言った。
「見滝原は災害対策も十分だから、下手な避難をするより安全ってことかしら?」
マミが紅茶を口に運ぶ。
杏子は後ろ頭を掻きながら、興味なげに言った。
「見滝原は災害対策も十分だから、下手な避難をするより安全ってことかしら?」
マミが紅茶を口に運ぶ。
155: 2012/10/30(火) 01:47:21.40
まどかは首を捻った。
「でも何だかおかしいような……」
同意を求めてほむらを見る。視線が合わなかった。
まどかは自然、ほむらに向き直る。
その目を捉えたまどかの胃の当たりに、冷たいものが落ちる。
ほむらは真っ白な顔をしていた。
「でも何だかおかしいような……」
同意を求めてほむらを見る。視線が合わなかった。
まどかは自然、ほむらに向き直る。
その目を捉えたまどかの胃の当たりに、冷たいものが落ちる。
ほむらは真っ白な顔をしていた。
156: 2012/10/30(火) 01:48:13.26
「ほむらちゃん……?」
膝に手を掛けた。まどかの体が前にのめる。
ほむらの細い息が、聞こえた。
「おい、大丈夫かよ……」
頷いたほむらが息をのみ、やがて顔を上げた。
その線の細さが、まどかの胸を突く。
知らず、手を取った。
膝に手を掛けた。まどかの体が前にのめる。
ほむらの細い息が、聞こえた。
「おい、大丈夫かよ……」
頷いたほむらが息をのみ、やがて顔を上げた。
その線の細さが、まどかの胸を突く。
知らず、手を取った。
157: 2012/10/30(火) 01:48:48.49
ほむらが小さな声で言った。
「……この街に、セキガハラの夜が来る」
まどかの知らない言葉であった。
「暁美さん……?」
マミの声は優しい。ほむらは眼光も鋭くそちらを見た。
「……この街に、セキガハラの夜が来る」
まどかの知らない言葉であった。
「暁美さん……?」
マミの声は優しい。ほむらは眼光も鋭くそちらを見た。
158: 2012/10/30(火) 01:49:26.34
「いきなり言われても分かんねえよ。一から説明してくんない?」
杏子があやすように言った。
ほむらの呼吸が、細い。
まどかが強く手を握った。ほむらとは目が合わない。
「……分かった。説明する」
杏子があやすように言った。
ほむらの呼吸が、細い。
まどかが強く手を握った。ほむらとは目が合わない。
「……分かった。説明する」
159: 2012/10/30(火) 01:50:05.91
「セキガハラの夜は超弩級の魔女。これは知ってるわね」
杏子が頷く。まどかは初耳だった。
「とにかくすごい魔女よ。その被害は天変地異として語られるの」
説明するマミはまだ、訝しげにほむらを見ている。
「でも、これはただの言い伝えよ? 実在するのかどうかも……」
「するわ」
160: 2012/10/30(火) 01:50:37.83
小さな声でほむらが遮った。
杏子が目を細めて、ほむらを見る。
「何でわかるんだよ?」
ほむらが目を伏せる。
やがて語りだしたのは、思いも寄らぬ昔話であった。
杏子が目を細めて、ほむらを見る。
「何でわかるんだよ?」
ほむらが目を伏せる。
やがて語りだしたのは、思いも寄らぬ昔話であった。
161: 2012/10/30(火) 01:51:16.13
小さな声でほむらが遮った。
杏子が目を細めて、ほむらを見る。
「何でわかるんだよ?」
ほむらが目を伏せる。
やがて語りだしたのは、思いも寄らぬ昔話であった。
杏子が目を細めて、ほむらを見る。
「何でわかるんだよ?」
ほむらが目を伏せる。
やがて語りだしたのは、思いも寄らぬ昔話であった。
162: 2012/10/30(火) 01:52:32.33
「かつて、戦国の世を終わらせ、庶人に平和をもたらそうと願った魔法少女がいたわ」
口を挟みそうになった杏子を、マミが制した。
まどかは、ほむらを見つめる。
「天下人の間を渡り歩いた彼女は、やがて天下分け目の戦いに望んだの。東軍と西軍、この国を二つに分けた、大きな戦いよ」
ほむらが息をつく。
口を挟みそうになった杏子を、マミが制した。
まどかは、ほむらを見つめる。
「天下人の間を渡り歩いた彼女は、やがて天下分け目の戦いに望んだの。東軍と西軍、この国を二つに分けた、大きな戦いよ」
ほむらが息をつく。
163: 2012/10/30(火) 01:53:34.25
「この戦いが終われば、世は治まり平和な時代がくる。そう信じた少女は勇敢に戦ったわ」
「そして、戦場の真ん中で力尽きて、魔女になった」
誰も声を出さない。
「突然現れた魔女に、両軍の魔法少女も驚いたわ」
「でも島津方の魔法少女の決氏の突撃でなんとか退ける事が出来た」
「そして、戦場の真ん中で力尽きて、魔女になった」
誰も声を出さない。
「突然現れた魔女に、両軍の魔法少女も驚いたわ」
「でも島津方の魔法少女の決氏の突撃でなんとか退ける事が出来た」
164: 2012/10/30(火) 01:54:02.68
マミが呟く。
「倒した、わけじゃないのね」
ほむらが頷く。
「ええ、天下人に最も近かった魔法少女よ。その魔女を倒すなんて、誰にもできなかった」
杏子が声を上げる。
「で、それがセキガハラかよ。おとぎ話も良いとこだな」
ほむらは答えなかった。
「倒した、わけじゃないのね」
ほむらが頷く。
「ええ、天下人に最も近かった魔法少女よ。その魔女を倒すなんて、誰にもできなかった」
杏子が声を上げる。
「で、それがセキガハラかよ。おとぎ話も良いとこだな」
ほむらは答えなかった。
165: 2012/10/30(火) 01:54:39.75
「魔女はどこかに消えたのだと、みんな信じていたわ」
だけど、とほむらは言葉を継ぐ。
「もう一度現れたのは、江戸の頃になってから。天和の大火って知ってる?」
まどかは首を振る。
「江戸の町を焼いた大火事よ。これはセキガハラの夜の再演なの」
杏子が息を吐いた。マミがその膝を押さえる。
だけど、とほむらは言葉を継ぐ。
「もう一度現れたのは、江戸の頃になってから。天和の大火って知ってる?」
まどかは首を振る。
「江戸の町を焼いた大火事よ。これはセキガハラの夜の再演なの」
杏子が息を吐いた。マミがその膝を押さえる。
166: 2012/10/30(火) 01:55:07.20
「この時、一人の魔法少女が魔女と戦い、そして氏んだ」
ほむらはまどかを見ない。
「その子はね、友達に頼んだの。こんな結末を変えて欲しいと」
「その友達は約束した。必ず助けてみせるって」
ほむらの瞳は揺るがない。
ほむらはまどかを見ない。
「その子はね、友達に頼んだの。こんな結末を変えて欲しいと」
「その友達は約束した。必ず助けてみせるって」
ほむらの瞳は揺るがない。
167: 2012/10/30(火) 01:55:59.11
「そして彼女は時間を巻き戻し、魔女を退けたの」
「巻き戻し?」
マミの疑問は黙殺された。
「そうして第一シリーズが終わった……」
風の鳴る見滝原の午後であった。
「巻き戻し?」
マミの疑問は黙殺された。
「そうして第一シリーズが終わった……」
風の鳴る見滝原の午後であった。
168: 2012/10/30(火) 01:56:49.26
「それからも何度も戦いは続いたわ。セキガハラの夜はシリーズ最後にいつも現れる」
ほむらは声を抑える。
「あのどうしようもないTVスペシャルを越えて、今回もここまで来たわ」
「私は絶対に……」
杏子がついに大声を上げた。
169: 2012/10/30(火) 01:57:28.97
「おい! 本当に何言ってるかわかんねえよ!」
その声を受けて、初めてほむらは表情を緩めた。
「でしょうね。私も信じてほしいなんて思わない。これはただの与太話」
その滑らかな言葉が、まどかの胸に冷たく落ちる。
「必要なことだけ話しましょうか」
その声を受けて、初めてほむらは表情を緩めた。
「でしょうね。私も信じてほしいなんて思わない。これはただの与太話」
その滑らかな言葉が、まどかの胸に冷たく落ちる。
「必要なことだけ話しましょうか」
170: 2012/10/30(火) 01:58:32.55
「セキガハラの夜が現れる前には、必ず時の権力者に魔女の口づけが施される」
訝る視線を横顔で跳ね返しながら、ほむらは言う。
「そうして発せられるのが、町を離れるなという奇妙な命令」
「通称、生類憐レミギスの令。苦難に満ちた現世から、生けるものを浄土に送る」
ほむらは薄く笑った。
訝る視線を横顔で跳ね返しながら、ほむらは言う。
「そうして発せられるのが、町を離れるなという奇妙な命令」
「通称、生類憐レミギスの令。苦難に満ちた現世から、生けるものを浄土に送る」
ほむらは薄く笑った。
171: 2012/10/30(火) 01:59:20.88
「憐れんでくれてるんだそうよ」
マミは声が変わらぬように努める。
「つまり、この奇妙な令は、超弩級の魔女の前触れだということ?」
「ええ」
マミは声が変わらぬように努める。
「つまり、この奇妙な令は、超弩級の魔女の前触れだということ?」
「ええ」
172: 2012/10/30(火) 02:00:32.09
「おそらくは今、魔女は城の天守閣に潜んで、その時が来るのを待っている」
「それまでに、奴を倒さないと……」
部屋の隅から、ほむらに答える声があった。
「ほむら、君はどこでその情報を手に入れたんだい?」
「……前のシリーズで」
ほむらは俯いた。
「それまでに、奴を倒さないと……」
部屋の隅から、ほむらに答える声があった。
「ほむら、君はどこでその情報を手に入れたんだい?」
「……前のシリーズで」
ほむらは俯いた。
173: 2012/10/30(火) 02:01:12.98
「僕の方でも、巨大な魔女の存在を感知した。詳細は不明だったんだが……」
紅い目がほむらを見つめる。
「君の話を信じていいのかな?」
「……魔女のことは信じてほしい」
174: 2012/10/30(火) 02:02:13.00
夕焼けの見滝原。
ほむらが去った部屋で、少女たちは沈黙の中にいた。
「なあ、どう思う? あいつの話……」
「信じて、あげたいけど……」
マミが傾く。
175: 2012/10/30(火) 02:02:40.76
「まあ、あのシリーズ云々は置いといこうぜ。あいつも何か訳ありみたいだしな」
「そうね。今は大型の魔女に……」
黙っていたまどかが、不意に顔を上げた。
「すみません、私……」
「あー、行ってこいよ。まだほむらもその辺にいるだろ」
何やら声を残して、まどかは飛び出して行った。
「そうね。今は大型の魔女に……」
黙っていたまどかが、不意に顔を上げた。
「すみません、私……」
「あー、行ってこいよ。まだほむらもその辺にいるだろ」
何やら声を残して、まどかは飛び出して行った。
176: 2012/10/30(火) 02:03:09.90
引きずるように、ほむらは歩いていた。
駆け寄ったまどかも、足取りを落として横に並ぶ。
二人に言葉はなく、ただ夕日だけが沈んでいく。
やがて、まどかが言った。
「私たちは、ずっと前にもどこかで会ってたのかな……」
駆け寄ったまどかも、足取りを落として横に並ぶ。
二人に言葉はなく、ただ夕日だけが沈んでいく。
やがて、まどかが言った。
「私たちは、ずっと前にもどこかで会ってたのかな……」
177: 2012/10/30(火) 02:03:40.37
ほむらが立ち止まる。泣きそうな目をして、しかし一瞬に表情を消してまどかを見た。
「かも、しれないわね」
ほむらは何を思ったか。
まどかは、ほむらの手を握る。
ほむらはそれを拒まなかった。
もうすぐ、夜がくる。
「かも、しれないわね」
ほむらは何を思ったか。
まどかは、ほむらの手を握る。
ほむらはそれを拒まなかった。
もうすぐ、夜がくる。
178: 2012/10/30(火) 02:04:24.28
明くる日の朝、まどかはいつもの通学路を行く。
知っている顔には、誰にも会わなかった。
ここ数日、見滝原は曇天が続いている。
肩口に落ちた雫に、まどかは飛び上がった。
雨が来る。
知っている顔には、誰にも会わなかった。
ここ数日、見滝原は曇天が続いている。
肩口に落ちた雫に、まどかは飛び上がった。
雨が来る。
179: 2012/10/30(火) 02:04:58.11
校門の前には人だかりが出来ていた。
人々は顔を見合わせて、何かを囲んでいる。
その人垣の隙間から、まどかは中を伺った。
黒い、箱のような物が見えた。ヴァイオリンケースだ。
また、と思う前に、その横の少女たちに気付いた。さやかと仁美であった。
人々は顔を見合わせて、何かを囲んでいる。
その人垣の隙間から、まどかは中を伺った。
黒い、箱のような物が見えた。ヴァイオリンケースだ。
また、と思う前に、その横の少女たちに気付いた。さやかと仁美であった。
180: 2012/10/30(火) 02:05:52.48
横断幕のように、長い紙を持っている。その上に墨字が踊る。
「闇の仕事人にお願い申し上げる」
目に刺さる黒字に、まどかは傍らの少女を探した。
だがそこに、誰もいなかった。
191: 2012/11/04(日) 02:53:10.11
よく知った顔を、まどかは穴の開くほどに見つめた。
仁美は笑顔を作り、さやかは真っすぐに見つめ返した。
「これ、要るんでしょ?」
突き出された手には、グリーフシードが光る。
震える瞳で、まどかは顔を上げる。
仁美は笑顔を作り、さやかは真っすぐに見つめ返した。
「これ、要るんでしょ?」
突き出された手には、グリーフシードが光る。
震える瞳で、まどかは顔を上げる。
192: 2012/11/04(日) 02:53:38.47
「あんたがさ、何してるのかはしらないけど」
さやかはそういって、笑ってみせた。
「私はまどかのこと、信じてるから」
さやかはまどかにグリーフシードを握らせた。
「こ、これをどこで……」
やっと声を出したまどかである。
「恭介と喧嘩して、そんで仲直りする度さあ、何かポロポロ出て来るんだよね」
さやかは照れくさそうに笑った。
さやかはそういって、笑ってみせた。
「私はまどかのこと、信じてるから」
さやかはまどかにグリーフシードを握らせた。
「こ、これをどこで……」
やっと声を出したまどかである。
「恭介と喧嘩して、そんで仲直りする度さあ、何かポロポロ出て来るんだよね」
さやかは照れくさそうに笑った。
193: 2012/11/04(日) 02:54:14.65
友人のまだ見ぬ才能に、まどかは慄然とした。
「それじゃ、頼んだよ、まどか」
「頼むって何を……」
言い終える前に、その肩を強く叩かれた。
194: 2012/11/04(日) 02:54:54.87
「細かいこと言わない! ほら、行った行った!」
言葉に追われるようにして、まどかは教室の方へと駆け出す。
一度振り返った。
「さやかちゃん、仁美ちゃん、ありがとう」
二人に声はない。ちょっと誇らしげに胸を張った。
195: 2012/11/04(日) 02:55:28.56
見滝原を見渡せる高台。
彼方に見滝原城の天守が輝く。
「……」
ほむらは一人、温い風を浴びた。白い肌に、わずかな水気が纏う。
その背を見つめる紅い目がある。
「暁美ほむら、君に話がある」
ほむらは前を見据えたままであった。
彼方に見滝原城の天守が輝く。
「……」
ほむらは一人、温い風を浴びた。白い肌に、わずかな水気が纏う。
その背を見つめる紅い目がある。
「暁美ほむら、君に話がある」
ほむらは前を見据えたままであった。
196: 2012/11/04(日) 02:56:00.88
構わず九兵衛は話を続ける。
「前々から思っていたんだ。君は知りすぎていると」
ほむらは動かない。
「だけどこの前の話で分かった。君はこのシリーズの人間じゃないんだね」
黒髪が一束、風に舞った。
「時代劇はシリーズが終わればそれまで。次のシリーズは別の世界だ。それなのに」
「どうして君は過去のシリーズの記憶を持ち越しているんだい?」
九兵衛はわざとらしく首を捻った。
「前々から思っていたんだ。君は知りすぎていると」
ほむらは動かない。
「だけどこの前の話で分かった。君はこのシリーズの人間じゃないんだね」
黒髪が一束、風に舞った。
「時代劇はシリーズが終わればそれまで。次のシリーズは別の世界だ。それなのに」
「どうして君は過去のシリーズの記憶を持ち越しているんだい?」
九兵衛はわざとらしく首を捻った。
197: 2012/11/04(日) 02:56:28.68
「僕の推測では、君は時間に関する願いで魔法少女になった。違うかい?」
ほむらはようやく向き直った。
「違わないわ」
そう言って不適な目をした。
「今回のあなたは随分協力的で助かるわ」
198: 2012/11/04(日) 02:56:58.42
「へえ、前の僕は君の敵だったのか。裏切り者がいるパターンだね」
ほむらは天の一角を見つめて、薄く笑った。
「マミは『骨外し』が得意ですごい指力。杏子は折り鶴を投げる……」
少しだけ目を細めた。
「三味線とかもあったわね。かんざしも……」
「それを知っているのは君だけだ。誰も覚えてなどいない」
199: 2012/11/04(日) 02:57:32.43
ほむらは何か言いかけて、しかし黙り込んだ。
「ふむ。それで今回は君はどうするつもりだい?」
「どうもこうもないわ。私はまどかを守る」
九兵衛の目が光る。
「一つ情報だ。君は今の将軍が、魔女に操られているといったけどそれは違う」
「……どういうことよ」
「将軍が、魔女だ。つまりこれを倒すというなら、君は謀反人となる」
一陣の風に、遠くの木々が揺れる。ざわめきは次第に大きくなっていった。
「ふむ。それで今回は君はどうするつもりだい?」
「どうもこうもないわ。私はまどかを守る」
九兵衛の目が光る。
「一つ情報だ。君は今の将軍が、魔女に操られているといったけどそれは違う」
「……どういうことよ」
「将軍が、魔女だ。つまりこれを倒すというなら、君は謀反人となる」
一陣の風に、遠くの木々が揺れる。ざわめきは次第に大きくなっていった。
200: 2012/11/04(日) 02:58:21.85
闇に落ちた部屋で、少女達が鍋を囲む。
恐る恐る箸を伸ばして、口に運ぶ度に悲鳴や歓声が飛び交った。
「で、将軍なのだけど、どうする?」
何を食べようとうれしがる杏子の声は弾んでいた。
201: 2012/11/04(日) 02:58:54.84
「どうするもこうするも……お、肉だ!」
「私が持って来たのに……」
「結局私たちは……」
言いかけてマミが悲鳴を上げた。
「り、林檎入れたの誰!?」
杏子が大声で笑った。
202: 2012/11/04(日) 02:59:24.70
「な、何でみんな緊張感ないの!?」
まどかが鍋から箸を上げて叫んだ。
「今度の魔女は、とんでもないって……」
杏子が軽く言う。
「逃げたって謀反、戦っても謀反。だったらさ、やることなんて一つだろ?」
「ええ、美樹さんには感謝しないと」
マミが箸の先を見つめる。明らかに林檎である。
「取ったもんは食えよ。食い物を粗末にすんな?」
まどかが鍋から箸を上げて叫んだ。
「今度の魔女は、とんでもないって……」
杏子が軽く言う。
「逃げたって謀反、戦っても謀反。だったらさ、やることなんて一つだろ?」
「ええ、美樹さんには感謝しないと」
マミが箸の先を見つめる。明らかに林檎である。
「取ったもんは食えよ。食い物を粗末にすんな?」
203: 2012/11/04(日) 03:00:01.12
「それじゃあ、みんなはもう……」
ガスコンロの火が、揺れる。
「セキガハラか将軍か知らんが、やってやろうじゃん」
「大変なお仕事よね……」
マミは涙目である。
204: 2012/11/04(日) 03:00:33.02
「そう、だよね! 私たちは魔法少女だもんね!」
もはやまどかの箸に迷いは無い。勢いよく鍋から引き出したのは、得体の知れぬ塊であった。
闇を透かしても分かる、丸ごとピーマンである。
まどかは泣いた。
傍らの少女の、黒髪に隠した表情をまどかは知らない。
一刻の後には、出陣である。
205: 2012/11/04(日) 03:01:07.79
♪魔法少女出陣のテーマ~コネクト~
宵闇である。
見滝原城へ向かって、少女たちは歩き出した。
救済の円
爆撃の焔
洋銃の巴
仕込み槍の杏
決戦である。
宵闇である。
見滝原城へ向かって、少女たちは歩き出した。
救済の円
爆撃の焔
洋銃の巴
仕込み槍の杏
決戦である。
206: 2012/11/04(日) 03:01:35.97
見滝原城の門前。
かがり火と、常駐の見張りがうろついている。
「……おかしいな」
「ええ、静かすぎる……」
城というものは人が集まる。たとえ夜であっても人の気配は絶えないものだ。
「……もう、人間はいない」
「まさか、これ全部使い魔かよ!?」
「旗本八万騎、伊達ではないのね……」
207: 2012/11/04(日) 03:02:15.43
その呟きが闇に溶けるよりも早く、少女たちは四方から光に照らされた。
同時に辺りから、騎馬武者が立ち上がる。
「気付かれた!? まさか……」
具足と太刀の林の中に、紅い目が光る。
208: 2012/11/04(日) 03:02:55.71
「九兵衛!」
白い獣は変わらぬ。
「将軍を倒そうだなんて、それは幕政そのものに対する叛逆だ!」
「お前はまた……!」
「今回の僕は、幕府の手の者。君達の味方である以上に、幕府の味方なのさ!」
そのしたり顔は瞬間、撃ち抜かれた。
209: 2012/11/04(日) 03:03:22.78
それはまさに、開戦の狼煙であった。
硝煙立ちのぼるデザートイーグルを、ほむらは天に向ける。
マミは既に大砲を照準している。
杏子の槍が月を指した。
まどかもまた天に矢を向ける。
「本日は満月なれど、意気高し!」
「かかれぇい!!」
硝煙立ちのぼるデザートイーグルを、ほむらは天に向ける。
マミは既に大砲を照準している。
杏子の槍が月を指した。
まどかもまた天に矢を向ける。
「本日は満月なれど、意気高し!」
「かかれぇい!!」
210: 2012/11/04(日) 03:03:51.63
武者がかかる。騎馬が殺到する。
「何人だろうと、相手になるわ!」
間断なく洋銃が閃き、砲が幾度無く咆哮する。
「ほらほら、次だ!」
槍の一閃が、一群の敵をなぎ倒す。
月夜が刹那、陰る。
211: 2012/11/04(日) 03:04:42.99
「放てぇ!!」
ほむらの手が振り下ろされた。
空を埋め尽くす弾頭が、城に、使い魔に降り注ぐ。
見滝原城、炎に落ちる。
「ああ、城が!! 父祖伝来の地を!!」
「食い止めろ! 連中をこれ以上進ませるな!」
「上様を守れぇ!!」
212: 2012/11/04(日) 03:05:13.25
「ほらほら、それでも旗本さんかい! 武者人形と変わんねえぞ!」
「宮仕えで剣まで鈍ったのかしら!」
旗本には働かずとも扶持米が下される。
それゆえ他藩の士に比して、腕は劣る。
「爆破!」
ほむらのC4が爆炎を上げ、大手門が消し飛んだ。
「突入!」
213: 2012/11/04(日) 03:05:43.36
天守より見下ろすのは、魔女である。
37代目将軍yoshiyasu、その実セキガハラの夜。
巧妙に将軍家に入り込み、日の本を欲しいままにしてきた。
「これは、これは、余には過ぎたる余興……」
広大な広間に、将軍は一人。
「ここまで生きた甲斐があったというものだ」
その背で、大襖が音を立てて開いた。
214: 2012/11/04(日) 03:06:11.62
「……お覚悟を」
鹿目まどか、血路を開いてここに至る。
将軍は先祖伝来の太刀を抜いた。
yoshiyasu、殿様剣術ではない。柳生新陰流の免許は腕に恥じぬものである。
「存分に楽しもうぞ! 小娘ぇ!」
一颯、二颯、踏み込んで上段から打下ろす。
まどかも止まらぬ。太刀筋の彼方から、矢を放つ。
将軍はこれをすべてたたき落とした。
215: 2012/11/04(日) 03:06:38.41
「お見事です……」
将軍は不意に構えを解いた。
「無形の位……」
呟いたまどかの背に、月が宿る。
構え無しから、相手の業に乗じて勝つ。
新陰流の極意である。
216: 2012/11/04(日) 03:07:37.16
糸で引くように二人は間合いを保ったまま、広間を横断した。
やがて気が満ちる。
「……!」
将軍の一刀、閃光のようにまどかを襲った。
少女の髪が一筋落ちる。だが、まどかは中空にあった。
「頂きました!」
真上から、将軍の背を矢が射抜いた。
やがて気が満ちる。
「……!」
将軍の一刀、閃光のようにまどかを襲った。
少女の髪が一筋落ちる。だが、まどかは中空にあった。
「頂きました!」
真上から、将軍の背を矢が射抜いた。
217: 2012/11/04(日) 03:08:11.03
「RPG! RPG!」
ほむらの対戦車兵器が降り注ぐ。
武者たちは機関砲に撃ち抜かれていくが、三河武士は止まらぬ。
「長篠を思い出すのぉ!」
「我らお家の礎とならん!」
華奢な姿と、武者の影が交差する。
「着弾、今!」
可憐な影だけが、月夜に残った。
218: 2012/11/04(日) 03:08:36.97
「ティロ・フィナーレ!」
旗印をつけた侍大将を撃ち落として、マミは快哉の声を上げた。
「討ち取ったわぁ!」
武者どもも感嘆の声を漏らす。
「ぬぅん、見事なり!」
炎に照らされて、マミは飛ぶ。
219: 2012/11/04(日) 03:10:08.14
杏子は馬を奪っていた。
手綱を咥えて、両手で槍を操りながら、戦場を疾走していく。
「一騎打ちだ! 受けてくれるな!」
杏子が槍先を突きつけたのは、深紅の鎧の大将首であった。
「その意気や良し!」
剣戟の音、槍を交わすこと数合。
「へっ、討ち取ったぜ!」
大槍が天に弧を描いた。
220: 2012/11/04(日) 03:10:39.12
矢を背に立てながら、将軍は倒れぬ。
「そんな……」
まどかは後ずさった。
将軍は太刀を捨て、小太刀を抜いた。
右手に小太刀、左手をだらりと下げる。心持ち背を丸めている。
「無刀取り……!」
新陰流の秘奥であった。
221: 2012/11/04(日) 03:11:07.41
まどかも矢をつがえる。
「取れるものなら……!」
込められた想いは、矢に宿る。桜色に輝く一矢である。
「行くぞ……」
将軍は滑るように動いた。
新陰流の極意は水月という。
水に月を映すがごとく、己が心に敵を映し、読み取る。
222: 2012/11/04(日) 03:11:41.32
時は刹那であった。
まどかの矢が、宙を切り裂いて将軍に迫る。
だが将軍、射抜かれる前に見事にそれを掴んでみせた。
「……!」
223: 2012/11/04(日) 03:12:37.83
勝利を信じたのは、束の間であったか。
将軍の手の中で、矢が光を放ち、弾けた。
「魔法、でした」
広間も、天守も悉くを巻き込んで、矢は天へと消えていった。
将軍、天に還る。
将軍の手の中で、矢が光を放ち、弾けた。
「魔法、でした」
広間も、天守も悉くを巻き込んで、矢は天へと消えていった。
将軍、天に還る。
224: 2012/11/04(日) 03:13:20.82
瓦礫と化した天守から、城下を見下ろすまどか。
先ほどの戦場が嘘のように、静寂が辺りを包んでいた。
セキガハラの夜は、ここに終わる。
225: 2012/11/04(日) 03:14:35.89
EDテーマ 「みちのく流れ唄」(唄:Kalafina )
監督 鹿目詢子
脚本 鹿目詢子
プロデューサー 鹿目詢子
出演 鹿目まどか
暁美ほむら
美樹さやか
巴マミ
佐倉杏子
志築仁美
上条恭介
中沢
シャンプーの子
見滝原中学の皆さん
監督 鹿目詢子
脚本 鹿目詢子
プロデューサー 鹿目詢子
出演 鹿目まどか
暁美ほむら
美樹さやか
巴マミ
佐倉杏子
志築仁美
上条恭介
中沢
シャンプーの子
見滝原中学の皆さん
226: 2012/11/04(日) 03:15:09.34
鬼ばかりの浮き世にも
闇を晴らす少女あり
決して忘れないで
あなたは一人じゃない
「クラスのみんなには、ナイショだよ!」
おわり
227: 2012/11/04(日) 03:18:06.91
なんだろう、ごめんなさい。でもすげえ楽しかったです。
さやかも戦わせたら良かった。
けど、追いつめられて仕事人になけなしの金を渡す町娘役はさやかにしかできないと……!
読んでくださった方、ありがとうございました。
さやかも戦わせたら良かった。
けど、追いつめられて仕事人になけなしの金を渡す町娘役はさやかにしかできないと……!
読んでくださった方、ありがとうございました。
229: 2012/11/04(日) 03:30:55.12
乙!
230: 2012/11/04(日) 03:51:35.54
乙
不思議だ、仕事人にしては穏便に終わったように思えるww
将軍家居城の天守が吹っ飛んでるけど、ま、あれだ、些細だ
不思議だ、仕事人にしては穏便に終わったように思えるww
将軍家居城の天守が吹っ飛んでるけど、ま、あれだ、些細だ
引用元: 必殺仕事☆マギカ
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