664: 2013/06/29(土) 05:37:17.53

「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている」

「はいはい、間違っているのはここの計算なのですよー。一の三乗は三ではないのです」

「あ、はい」

窓から差し込む夕陽の光。オレンジ色に染まる二人だけの教室。一人は少年で、一人は少女。
わたくしこと上条当麻は、そんな空間に居る。

それだけ聞けば俺の最初のセリフに対して意義を唱える奴も多いだろう。
しかし、違う。この状況はそんなリア充的なものではない。

まず一つ目として、目の前に居る少女はクラスメイトではない、先生だ。
しかもその見た目は少女というよりも幼女といった方が正しく、とても大学を出て酒タバコ大好きなオトナには見えない。
つまりは、端から見ればこの光景は幼女に勉強を教わる高校生という不名誉極まりないものとなっている。

そして二つ目として、これは分かっているとは思うが、今この場で行われているのは単なる補習だ。
放課後の教室に二人、とだけ聞けばそれはそれはラブコメっぽいシチュエーションではあるのだが、そこに“教師”と“補習”という単語が入った瞬間、それは単なる苦行へと様変わりする。

まぁ、これは慢性的に出席が足りない俺に対する救済措置なので文句を言うことはできない。むしろ感謝すべきことなのだが。

「それで先生、俺の青春ラブコメがどう間違っているかという事なんですけど」

「その前にここの連立方程式の解も間違っているので直してくださいねー。プラスマイナスが逆なのです」

「ぐっ……あの先生、こんな数字が世の中の多くの学生達を苦しめているなんておかしくないですか?」

「確かにここの数字もおかしいですねー。上条ちゃん、せめて二桁同士の足し算くらいはミスしないでほしいのですよー」

「……すみません」

目の前の我が担任教師、月詠小萌先生はニコニコと天使のような笑顔を浮かべながら、俺のノートに次々とダメ出しをしてくる。
世の中にはこういったプレイを好む者も居るが(某青髪のクラスメイトなど)、俺にはそういった性癖はなく持ちたいとも思わない。

665: 2013/06/29(土) 05:38:09.82

それからしばらく何の役に立つのかも分からない数字との格闘を続ける俺。
そしてだんだんと頭がぼーっとしていくのを感じ、これら全てをこの右手でぶち壊せたらどんなにいいかと思い始めた頃。

ようやく、小萌先生は今日の補習は終わりだと告げる。

「よく頑張りました上条ちゃん! これに懲りたらちゃんと学校に来てくださいねー?」

「いや先生、俺だって学校が嫌いなわけじゃないんですよ。むしろ好きです、大好きです。でも気付けばイギリスやらロシアやらハワイに居るんですよ」

「先生、若い内は積極的に色々体験するべきだとは思いますけど、上条ちゃんの場合はちょっとアクティブ過ぎる気がするのですよー。
 まぁでも、上条ちゃんの性格は先生もよく分かっているつもりです。これからも出来る限りフォローしていきますから、上条ちゃんもできるだけ登校してくださいねー?」

「先生……本当にありがとうございます。誰も貰い手いなかったら俺が先生を貰ってあげます」

「ぶっ!!! ちょ、何唐突に失礼な事言ってんですかー!!! あのですね、別に先生は生き遅れているとかそういうのではなくてですね!!!」

「あれ、でもまだ独身ですよね先生」

「だからやめろって言ってんだろ留年させるぞ!!!!!」

「すみません、調子乗りました」

マジ顔で迫ってきたので、とにかく頭を下げる。
正直先生の心遣いに本気で感動してその照れ隠しに言ってみただけなのだが、本人も割と本気でそれを気にしていたらしい。今度からは注意しよう。
しかし、まさか若干涙目になる程だとは思わなかった。誰か拾ってあげろよもう。本当に良い先生なのに。世間体とかがヤバイっていうのは分かるけども。

小萌先生はまだ頬を膨らませてプリプリ怒っている様子で、

「まったくもう! 上条ちゃんも先生の人生を心配している暇があったら、早く進路調査票出してほしいのです」

「あれ、出しませんでしたっけ?」

「えぇ、出してくれましたね、『しあわせにくらしたいです』っていうものを。そして先生はそれを突っ返したはずなのです」

「あー、そうでしたっけ。でもさ、先生。幸せになりたいっていうのは人間としてごく当たり前の事でそれを否定するのは」

「別に否定しているわけではないですよー、もっと具体的に書いてくださいって言っているのです」

「具体的に?」

「えぇ、幸せといっても人によって様々でしょう。上条ちゃんは幸せになるために具体的にどんな事をしたいのですか? 将来やりたい事などは?」

「……うーん、俺ってもういつもやりたいことやってる感じだからなぁ」

「その結果がロシアとかハワイへの遠征なのですか……」

小萌先生は思い切り呆れた様子で溜息をつく。

666: 2013/06/29(土) 05:39:03.51

四月。桜はもうすっかり散ってしまったが、まだまだ始まりの季節を感じる今日このごろ。
俺は昨年の絶望的な出席日数から奇跡の生還を果たし(主に小萌先生の助けによるもの)、無事に二年生へと進級することができていた。
そして、さぁ高校生活にも十分慣れたところで、いよいよ本格的に青春始めっかー!! などと思い始めた頃。

お前ら現実見ろよ、と突きつけられたのが進路調査票。
俺からしてみればまだ早すぎるのではないかとは思うのだが、この時期から考えるべきだというのがこの学校の方針らしい。
まぁ、それは別に珍しいことでもなく、二年生に上がったと同時に漠然としたものでも構わないので、進路調査をするというところはある。

ただ、俺の出した内容はあまりにも漠然としすぎていたらしい。

「人助けが好きなのでしたら、先生になって警備員(アンチスキル)になるのはどうでしょう?」

「先生……警備員(アンチスキル)……かぁ。うーん」

「嫌なのです?」

「嫌っていうわけではないですけど……」

なんだか上手くイメージができない。
というか警備員(アンチスキル)はともかく、俺がまともな授業ができるはずがない。
そもそも、学生の内からこんな出席状況で教師が務まるのか。

小萌先生はしばらくうーんうーんと考えていたが、

「あ、そうですっ!」

頭の上に豆電球が出そうな勢いで、ポンッと手を叩いた。

俺はそれを見て何か嫌な予感がする。
別に第六感的な何かが働いたというわけではなく、単なる経験則の話だ。
先生は本当に心から生徒のことを考えてくれる。それはありがたいことなのだが。

必ずしもそれが生徒自身にとって嬉しいことであるとは限らない。
全てが完璧な者などはこの世に存在しないのだ。

「んー、この時間ならまで居ますかね! 上条ちゃん、ちょーっとお時間よろしいですかー?」

「……あー、いえ、今急に用事を思い出して」

「大丈夫ですねー? さぁ行くのです!」

初めからこちらに決定権がないのなら問答の意味は無いと思う。

667: 2013/06/29(土) 05:39:46.89



・・・



誰も浸かっていない空き教室というものは案外あるものだ。
後者の隅、普段は誰も通らないような場所にポツンと。

「こういうのが経費の無駄っていうんですか?」

「無駄ではないですよー。部活で使っていますから」

先生はニッコリと微笑んで説明する。

なるほど、使っているのであれば空き教室というわけではないのか。
いや、それとも授業で使っていないのであればやっぱり空き教室なのか。
まずその辺りは教室の定義から確認しなければいけないのかもしれない。

そんな事を考えている俺をよそに、小萌先生はコンコンと扉をノックする。

「はい」

「先生なのですよー。少しよろしいですかー?」

「もうすぐ帰ろうと思っていましたが……どうぞ」

この声……と思った時にはガラガラと扉は開いていた。

風が吹いた。
夕陽に染まった教室は、たくさんの机と椅子が後ろへ追いやられている。
まさに空き教室と呼ぶに相応しい光景、元々人の居ない教室というものは妙に寂しく思うが、そういった要素が更にその寂しさを際立たせていた。

ポツンと取り残された一組の机と椅子には長い黒髪の少女が座っている。
俺はその少女のことを知っている。クラスメイトで割とよく話す。

しかし、なぜだろうか。
よく知っているはずの彼女の横顔を見て、俺には一瞬別人のように思えた。
昼間の自分達の教室ではなく、放課後の空き教室で、という普段とは違うシチュエーションだからなのか。ハッキリとは自分自身でも分からない。

少しの間、部屋で聞こえる音は、パタパタというカーテンがはためく音だけだった。

668: 2013/06/29(土) 05:41:01.36

それでも、長くは続かない。
沈黙というものは必ずしも悪いものではないが、基本的に好んで続けようとするものでもない。

「上条……?」

「あー、よう吹寄。何してんだこんな所で」

「それはこっちのセリフよ。月詠先生、これは?」

「ふふふ、察しの良い吹寄ちゃんなら何となく分かるんじゃないですかー?」

そう言っていつもの微笑みを浮かべる小萌先生。

黒髪の少女……吹寄制理は小萌先生ではなく俺の方をじっと見つめる。
といっても、別にピンク色の空間が広がるような視線ではなく、品定めをしているような、といった方が正しい。
それも、賞味期限ギリギリだけど安いからどうしようか……などといった感じの。

そんな視線に半ば俺の心が折れかけた辺りで、吹寄は諦めたような溜息をついた。

「……分かりました。上条当麻を更生させる、そういう事ですね?」

「ビンゴなのです! さっすが吹寄ちゃん!」

「えっ、あの、本人置いてけぼりで話進めないでもらえませんか。あと更生っていう単語を聞く限り俺が何かおかしい事になっているようにも思えるのですが」

「それでは、よろしくですー」

「おい!?」

俺の言葉は完全スルーでさっさと出て行ってしまう小萌先生。俺に放置プレイの趣味はない。

再び沈黙が広がる。
別に吹寄とは二人きりだと気まずいという間柄でもないのだが、純粋に今のこの状況を理解できないので何から聞けばいいのかもとっさに出てこない。

すると彼女は椅子から立ち上がって、

「悪いけど、今日はもう部活終了よ。明日から放課後はすぐここに来ること、補習とかがあるなら連絡入れること。以上」

「ちょ、待て待て待て!!」

「なによ」

「いや、俺何も聞かされてないんだけど……ここって何の部活なんだ?」

「えっ…………はぁ、月詠先生……」

吹寄はガクッと分かりやすく肩を落とすと、椅子ではなく机に腰掛けた。

「ここは奉仕部よ」

「奉仕……部……?」

669: 2013/06/29(土) 05:41:48.25

俺は思わずゴクリと喉を鳴らした。
吹寄のような胸の大きい少女が奉仕などという単語を口にすると、そこはかとなく工口い感じがする。

彼女はそんな俺にジト目を向けて、

「なによ」

「何でもないです!! そ、それで、具体的にはどんな事をやってんだ?」

「何でもよ。頼まれたことであれば、ね」

「何でも!?」

「だから何よ、変にテンション高いわね」

……ダメだダメだ。
もし本当にそういう部活だったら、小萌先生が容認しているわけがない。
そんなものが存在しないという事くらいには、現実はつまらないという事は分かっているつもりだ。

それでも、心のどこかでは期待してしまうのが男なわけで。

「その、つまりは頼み事を聞いてくれる部活……ってわけか?」

「そういう事ね。今回は月詠先生が貴様の更生を依頼してきた、というわけ」

「……そうですか。じゃあさ、代わりに課題やってくれとかっていうのでも受け付けるのか?」

「やらないわよ。ここはあくまで頼み事を聞いて、それを達成する為の手伝いをする所なの。
 だから、課題のやり方は教えても、実際にその課題をやるのは依頼者自身、という頃になるわ」

「へぇ……なるほどな……」

俺は納得する……が、すぐに別の疑問が浮かんでくる。

「なぁ、そもそもお前は何でこの部活を」

「それは後にして。今日はもう帰る」

「え、あぁ。悪い、何か用事でもあったのか?」

「まぁ……そんなところよ。観たい番組があるの」

「……また通販番組か」

「うるさいわね!! 悪い!?」

「わ、悪くねえって!!」

「ふんっ!!」

すっかり機嫌を損ねた吹寄は、乱暴に机の上の鞄を手に取るとさっさと行ってしまう。
と、思いきや扉に手をかけたところでこちらを振り返り、

「明日からちゃんと来なさいよ」

それだけ言い残して、出て行った。
おそらくこれは、明日から毎日行かなければ首根っこ掴まれて連れて行かれるのだろう。

気付けば日は更に傾き、教室の色はオレンジから赤に変わっていく。
もう少しすれば完全下校時刻を告げる放送も聞こえてくる頃だろう。

俺は窓を締め、教室の鍵を締め、帰路につく。
小さな溜息と共に。

670: 2013/06/29(土) 05:42:20.42



・・・



次の日の放課後。
俺が例の部室へと行くと、そこではやはり吹寄が椅子に座って、鞄を机の上に置き、本を読んでいた。
日はまだ落ちていないので、昨日とは違って空はまだ透き通るような青空が浮かんでいる。

「おっす」

「ん」

短すぎる返事。
別に長々と愛の言葉をささやいてほしいというわけでもないのだが、それでも他に何かないのかとも思ってしまう。
というか俺の更生を頼まれたんじゃなかったのか。いや別に俺は更生が必要なわけじゃないけど。

ただ、彼女は読書中だ。
そういう時はやはり没頭したいものなのだろうし、この対応も仕方ないのかもしれない。

……彼女が本を読んでいなかったとしても対応はさほど変わらなかったであろう、という事は置いといて。

「よっと」

俺は教室の後ろから手頃な机と椅子を一組持ってきて座る。
特に汚すぎて使えなくなったもの、というわけではないらしく、落書きも彫刻刀で彫った後もない。
もしかしたら、自分の机や椅子が壊れたらここから代わりのを持ってくるようなシステムで、使えなくなった方は他の場所にあるのかもしれない。

「…………」

「…………」

部屋には吹寄が本をめくる音と、外からうっすら聞こえてくる運動部の声だけが広がっている。

暇だ。暇すぎる。
ここは吹寄に習って本でも読もうかと思ったが、あいにく起き勉主義の自分の鞄には教科書すら入っていない。まぁ例え入っていたとしても読む気にはなれないが。
それでは、ケータイでもいじってるか。などと思うが、カチカチ音をたてるとうるさいと言われそうだ。

……いや、気にし過ぎか? 吹寄だってペラペラ本めくってるし。

671: 2013/06/29(土) 05:43:00.47

「…………」

「…………」

「……なによ」

「あ、いや、何読んでるのかなーってさ」

「本」

「それは分かるっつの! どんな本なんだ? 面白い?」

「上条、あたしだって貴様がそういう事を聞きたいという事くらいは分かっていたわよ。でも、答えなかった、あとこれにはブックカバーがかけられているわ」

「つまり言いたくないって事ですか…………まさか工口いやつなんじゃぶげっ!!!」

言い終える前に、何かの物体が勢い良く飛んできて、おでこにぶつかる。
どうやらそれは箱のようで、でこを擦りながら拾い上げてみると、そこには『特殊電波を用いた肩こりに効く低周波パッチ』などと書かれていた。

「……絶好調ですね吹寄さん」

「うっさい、それは結構効いたわよ!!! …………たぶん」

自信が持てない辺り、自分を納得させようとしている部分が大きいのだろう。
去年の大覇星祭から吹寄がこういった胡散臭いものを好むというのは知っていたが、まだそれは続いているらしい。

まぁしかし、別にそれ自体は特におかしい事でもないと思う。
例えばどこかのお偉いさんの名前を出されて「○○に効く!」などと言われれば、そういうものなんだと思うのは仕方ない。
それだけで実際にはそこまで効果が無かったとしても、効いたと思い込んで自己満足を得られれば、それはそれで幸せな事なのだろう。

世の中、必ずしも真実を知ることだけが幸せなわけではない。

「よし吹寄、それなら俺がお前のその本がどんなやつなのか当ててやろう」

「……上等じゃない。言ってみなさいよ」

「『能力レベルを上げる100のコツ』…………監修辺りに長点上機の有名な先生の名前が入っていると見た」

「ッ!!!」

「そして中身は効くのかどうかよく分からない微妙な事しか書いてないくせに、2000円以上したというオチだ」

「うっさいうっさい!!! なによ、たまに時計を見て現在時刻を秒数単位に直してみるとか、凄く演算能力上がりそうじゃない!!」

「そんな事してんのかお前…………面倒くさくね?」

「はっ!!! あ……うっ……黙れ上条!! それに監修だって長点上機じゃなくて霧ヶ丘よ!!」

ついに顔を真っ赤にしてガタッと立ち上がる吹寄。
このままではどうあがいても頭突きをくらう未来しか見えないので、俺は大人しく両手を上げて降参の意思を示す。

彼女はしばらく、フーッフーッと荒々しい息でこちらを威嚇していたが、何とか座ってくれた。

672: 2013/06/29(土) 05:43:29.75

それから再び沈黙が広がる。
俺はまた余計な事を言って彼女を怒らせるわけにはいかないので、迂闊に口を開く事ができない。
その内、教室に戻って勉強道具でも持ってくるか……などと柄にもない事を思い始めた頃。

「…………ねぇ上条」

「な、なんでしょうか」

「貴様は……レベルが上がらなくて悩んだりはしないわけ?」

「へ?」

「あたしは、これでも結構気にしてんのよ。ほら、学園都市といえばやっぱり超能力じゃない? 正直、ここに来るまではワクワクしてたわけよ」

「まぁ……そうだろうな」

「あ、でも今の状態が辛くて仕方ないというわけではないわ。確かに能力は全然ダメだけど、それでもあたしはここでの生活は毎日楽しんでる。
 ただね、勉強も運動もそうだけど、あたしは物事に対して妥協とかはしたくないの。ダメならダメで精一杯努力する、それさえできなくなったらもう本当にダメだと思うから」

「…………」

「だから、貴様も不幸なんていう言葉で片付けるんじゃなくて、もう少し色々頑張ってみれば? もしかしたら少しはマシになるかもしれないわよ」

「はは……敵わねえな吹寄には」

ダメなら頑張って努力する。
それは当たり前のように思えて実は難しいことだ。
人間というのはどうしても楽な方へと流れたくなる生き物であり、何かと頑張らない理由を作りたがる。

恐れというものもあるのかもしれない。
別に珍しい話でもないが、もし努力してもダメだった場合、本人からしてみれば希望を失うという事になるのだろう。
それならば、努力をしないことで保険を作っておくという考え方もあるのかもしれない。

しかし、吹寄はそういった事を一切しない。
努力するのは当たり前、それでもダメだったならもっと努力する。
彼女は諦めない。何度壁にぶつかっても立ち止まらず、前だけを見て挑んでいく。

俺にはそんな彼女が凄く遠い存在のように感じる。
彼女はよく鉄壁の女と言われるが、イメージ的にはその高い壁の上に咲く花といった感じか。

吹寄は小さく息をつくと、

「……まぁ、ちょっと暑苦しいかしらね。別に押し付けてるわけじゃないから、心の何処かに置いてくれればいいわ」

「いや、そんな事ねえよ。俺は吹寄のそういうとこ好きだぞ」

「それはどうも。でも、あたしは頬を染めたりはしないわよ。残念だったわね」

「期待してねえって、むしろそんな事されたら風邪だと思って保健室連れてくわ」

「それはそれでイラッとくるわね」

ふんっと鼻を鳴らす吹寄。
彼女が恋愛事に一切興味を持たない……とまでは思ってはいないが、相手への要求は凄まじく高い事くらいは予想できる。
なので、実際彼女に見合う男なんていうのはかなり限られるだろう。俺なんかは門前払いレベルだ。

673: 2013/06/29(土) 05:44:36.10

「そういえば、吹寄はどうしてこの部活に入ってるんだ? 昨日聞きそびれたけど」

「あぁ、そういえば言ってなかったっけ。そうね、簡単に言っちゃうとやりたい事探しよ」

「お、意外と俺と同じ心境? いやー、俺も自分が将来何やりたいのかって全然浮かんでこなくてよー」

「貴様と一緒にしないでよ。あたしはね、むしろやりたい事が多すぎて困ってるの」

「へ?」

「よく使ってる健康器具を作るっていうのも興味あるし、後は能力関係で色々役に立つアイテムなんか作ったりするのも面白そう。
 他にも日常で使えるような小物を考えるのも好きだし、教師だってちょっとは考えてる。イベント関係の主催とかもいいわね」

「……お、おう」

「ただ、それを進路調査票に全部書いて月詠先生に出したら苦笑いされたわ。だから、本当にやりたい事を探すためにあたしはここに居るわけ。
 依頼の種類は様々だし、あたし誰かの世話を焼くのも結構好きな方だから。貴様みたいに難物過ぎるのはアレだけど」

「ぐっ……」

本当にやりたい事を探すというのは同じだが、俺とはまるで違うようだ。
でも、世間一般的に多いタイプは俺の方で、吹寄の方は中々いないとは思う。
まぁ、彼女のほうが数段素晴らしい人間だという事に変わりはないだろうが。

その時だった。

先程から二人の声しか響いていなかった部屋に、コンコンとノックの音が控えめに入り込んできた。
俺はまた小萌先生だろうか、と考えるが、

「どうやら依頼人が来たようね」

「え、そうなの?」

「この部屋に来る人は依頼人か小萌先生くらい。そして、小萌先生は扉の窓に影が写ったりはしない」

「……なるほど」

確かに見てみれば、扉の窓からはうっすらと影がある。
何となくだが女子だろうか。

「それじゃ、貴様の初仕事よ。あたしの足を引っ張るんじゃないわよ」

「へーへー……ってあれ? 俺って依頼人側じゃなかったっけ?」

そんな俺の疑問は当然のようにスルーされ、吹寄は訪問者に対応する。
そして数秒後には扉が開かれ、悩みを持った依頼人が入ってくる。


四月。桜が散って緑が芽吹き始める時期。
開かれた窓からは静かな風が吹き込み、穏やかな春の日差しが差し込む教室。
俺の高校生活二年目は、奉仕部というよく分からない部活に入ることからスタートする。

それが良い事なのか悪い事なのか。
今すぐには答えが出ないだろうし、もしかしたら結局いつまでも分からないのかもしれない。

ただ、それでも今この一瞬だけは。
俺はまた違う一歩を踏み出せた、そんな気がした。

674: 2013/06/29(土) 05:45:08.16



【ぼんやり考えたネタ的なもの:その1】



「私。クラスでもう少し存在感を出したい」

「せ、切実だな……。別にそこまで存在感ないってわけでも」

「慰めはいらない。余計惨めになるから」

「うっ……」

「上条……貴様らバカ三人が毎回毎回騒ぎまくるからいけないんじゃないの?」

「えっ、俺のせい!? つーか、それなら吹寄だって十分騒ぎまくってると思うんですけど!!」

「はぁ!? 貴様がバカな事しなければ、あたしだって普段は物静かよ!!」

「ウソつけ!! 俺とか関係なしにお前は物静かとは対極にいるね!!」

「なんですってええええええええええ!!!!!」

「うわっ、ま、待てっ!! 暴力反対いいいいいいいいいいいい!!!!!」

「逃げるんじゃない!! 貴様は言ってもダメだから痛い目みるしかないのよ!!」

「毎回毎回手が出てて、言葉だけっていう記憶がないんですけど!?」


「…………ふふふ。ここでも消える私」


「「あっ」」

675: 2013/06/29(土) 05:45:40.31



【ぼんやり考えたネタ的なもの:その2】



「ウチの居候が全然学校行かないじゃん」

「はぁ……不登校というものですか?」

「んー、そういう事になるのかねぇ。私も教師という立場で生徒にこんな事頼むというのも情けないんだけど。
 でも、もしかしたら同じ学生のお前達の方が教師よりも適任っていう可能性もあるじゃんよ。アイツも見た目ほど悪いやつではないんだ」

「あ、でも俺そういう学校行ってない知り合いとかもいるし、そいつらとも話してみたりすれば何か力になれるかも」

「……さすが上条ね」

「おい、言っておくけど俺は別に不良とかじゃないからな。そういう奴と関わることが多いだけだ」

「悪そうな奴は大体友達ってわけ?」

「なんかすっごく誤解生みそうな言い方だなそれ……」

「ははは、確かにアイツは見た目は不良……というかそれ以上じゃん。先に言っておくけど、白髪に赤目だからってあんまり引かないでくれな?」

「あたしは人を見た目だけで判断したりは…………ってどうしたのよ上条」

「…………なんだかとてつもなく嫌な予感がするッ!!!!!」

676: 2013/06/29(土) 05:46:19.44



【ぼんやり考えたネタ的なもの:その3】



「どもー、ここに来れば悩み解決してくれるって聞いて来たんですけど」

「解決するのはあたし達じゃなくてあなたよ。あたし達はその手伝いをするだけ」

「つーか、なんで御坂がこんなとこ居るんだ何でもアリか」

「ア、 アンタ……こんな所で女と二人きりとかどういうわけよコラァァ!!!!!」

「上条、またなの?」

「その手の施しようがない患者に向けるような目はやめてください!! 御坂も勝手にテンション上げてねえでさっさと悩み話せっての!!」

「くっ……まぁいいか、それは後にするわ。それで悩みなんだけど、私今年で中学卒業で進路も決めてるんだけど、最近ウチの教師にその進路について散々反対されて参ってんのよ。
 別にあの人達の言葉で私が道を変えるつもりもないんだけど、それでも流石に毎日ともなると鬱陶しくてね」

「それで、何とか先生達に納得してもらいたい、というわけかしら?」

「えぇ、そういう事よ。何か良い案ないかしら?」

「まずそのお前の希望する進路ってのは何だよ? 先生だって余程の事が無ければ生徒の進路にそこまで口出してくるとは思えねえぞ」

「……えっと、その、進学よ進学」

「え、進学? でもあなた常盤台よね? あそこって卒業の時点でもう社会に出ていける程の力は十分身につくって聞いたけど」

「そ、そんなのは本人にしか分からないでしょ! 私はもっと色々学ぶ必要があると思って進学することにしたのっ!」

「なるほどな……それなら学校は長点上機あたりか? それか他の五本指とか……」

「……ここよ」

「へ?」

「だ、だから……この学校に進学しようと思ってるの」

「よし、全面的に先生が正しい。お前は良く考え直すべきだ。依頼終了悩み解決」

「おいコラ何勝手に終わらせてんのよ!!! そんなに私がここに来るのが嫌かァァあああああああああああああああああああああ!!!!!」

「うぎゃあっ!!! だからそういう事するから嫌なんだよちくしょう!!!!!」

「……はぁ。またいつもの上条のアレか」

「人を病気のように言わないでくれますか吹寄さん!?」

677: 2013/06/29(土) 05:47:34.17
終わり、16レスもいらなかった

678: 2013/06/29(土) 06:09:59.43
乙。中々にハイクオリティで楽しめた

正直スレ立てておもいっきりガツンと書いて欲しいなと思うね

引用元: ▽【禁書目録】「とあるシリーズSS総合スレ」-39冊目-【超電磁砲】