1: 2021/08/03(火) 18:17:08.696
男「……以上が私の強みです!」

面接官「なるほど、ところであなた……」

男「はい?」

面接官「過去にイジメをなさってたそうですね」

男「え……」

面接官「ある生徒に対して、持ち物を隠したり、黒板に悪口を書いたり、無視したり……」

男「な、なぜそれを……」

面接官「人事として、就活生の身辺調査をするのは当然のことです」

3: 2021/08/03(火) 18:20:22.621
面接官「このことについてどう思っていますか」

男(落ちつけ……冷静に答えればきっと悪印象は与えない! 面接官の狙いもそこにある!)

男「とても……悪い事をしたと反省しています」

面接官「反省しても被害者の心は癒えませんよ」

男「おっしゃる通り……ですが、しかしこの経験を生かし……」

面接官「イジメの経験をいったい何に生かそうというのです。厚顔無恥も甚だしい」

男「も、申し訳ありません」

面接官「謝るのは私にではなく、被害者に対してでしょう」

5: 2021/08/03(火) 18:23:25.752
男「この面接が終わったら、すぐに謝りに……」

面接官「どうせやらないでしょ。やりもしないことを口にしないように」

男「す、すみません……」

面接官「もう結構です。あなたの人柄はよく分かりました」

男「え……」

面接官「弊社にあなたのような人材は必要ありません。お引き取り下さい」

男「しかし……!」

面接官「お引き取り下さい」

男「あ、ありがとうございました……」

10: 2021/08/03(火) 18:26:18.858
……

男「聞いてくれよ~」

友人「なんだ?」

男「面接でお前過去にイジメをしてただろって問い詰められて、結局不採用でさ」

男「中学時代の話だぜ? しかも主犯は他にいたし……んなもん今更蒸し返すなっつうの」

友人「ふうん、ところで……」

男「なんだよ」

友人「お前、友達のゲームを借りパクしたことがあるらしいな?」

男「え……」

12: 2021/08/03(火) 18:29:43.435
友人「あるのか? ないのか?」

男「そういえば……借りたままになってるゲームがある」

友人「やっぱりな」

男「だけど、あれは借りた友達が転校しちゃったからで、返せともいってこないし……」

友人「返せっていわれなきゃ、持ち物を返さなくてもいいのかよ?」

男「そんなことはないけど……」

友人「だよな。普通、自発的に返すよな」

13: 2021/08/03(火) 18:32:13.439
男「いやだけど、大して高いゲームじゃないし……」

友人「高くなきゃいいのかよ? 盗人猛々しいってやつだな!」

男「盗人呼ばわりはないだろ……」

友人「借りたもん返さない奴を盗人呼ばわりしない国がどこにあるんだ」

友人「そうやって今も俺の持ち物を狙ってるんだろ?」

男「んなわけないだろ!」

友人「もういい。お前との仲は今日限りだ。絶交な」

男「お、おい……」

18: 2021/08/03(火) 18:35:06.922
男「はぁー……」

女「どうしたの?」

男「最近散々でさ。就活はしくじるわ、友達はなくすわ」

女「ふうん」

男「君と一緒にいられるこの時間が一番幸せだよ」

女「そういえばあなた……昔、女の子をひっぱたいたことがあるそうね」

男「え……」

26: 2021/08/03(火) 18:38:13.083
女「どうなの?」

男「そりゃ確かにあるけど、平手で軽くだし、好きな子だったから……」

女「好きならひっぱたいていいっていうの?」

男「そうじゃなくて、思春期特有の男心というか、好きだからからかっちゃう……みたいなもんで」

女「そんな男心、私には理解できない!」

女「DVする男ってサイテー! もう二度と私に近づかないでね。連絡もしないで!」

男「待ってくれよぉ!」

29: 2021/08/03(火) 18:41:22.798
男「はぁ……」トボトボ

男(なんだこれは……?)

男(ここにきて、過去にやってきた悪事が俺に襲いかかってきやがる)

男(過去なんてもう過ぎ去ったことなんだ! もういいじゃねえか! とっくに時効のはずだろ!)

男(だけど、一度やったことは消せないってことなのか……)

男(このままじゃ俺は……どうすれば……)

男(そうだ、悪い事を帳消しにしたいなら、“いいこと”をすればいいじゃないか!)

男(そうと決まればさっそく――)

31: 2021/08/03(火) 18:44:23.760
職員「ほう、ボランティアに参加したいのですか」

男「はいっ!」

職員「理由は?」

男「人助けをして……少しでも成長したいと思いまして」

職員「なるほど」

男(ボランティアをすれば、少しは過去の悪事が帳消しになるだろう)

33: 2021/08/03(火) 18:47:18.946
職員「しかしあなた、子供の頃面白半分に蟻を頃したことがあるそうですね?」

男「え……」

職員「どうなのですか?」

男「そりゃま、ありますけど……」

職員「やはりね。冷酷な目をしておられる」

男「でも、それぐらいみんなやってると思うんですけど……」

職員「勝手に人を巻き込まないで下さい。私はやったことありません」

男「す、すみません」

35: 2021/08/03(火) 18:50:22.424
職員「蟻を殺せるということは、つまり人だって殺せるということです」

男「そんなことはないと思いますけど」

職員「いえ、悪事というのはエスカレートするものなのです」

職員「あなたのようなサイコパスをボランティア集団に加えるわけにはいきません」

男「サイコパスって、んな大げさな」

職員「お引き取り下さい」

男「待って下さい! 本当に参加したいんです!」

職員「警察を呼びますよ」

男「失礼します……」

37: 2021/08/03(火) 18:53:36.189
男(ボランティアもさせてもらえないなんて……どうしよう……)

ピンポーン

男「はい。あ、大家さん」

大家「さっそくだが、出ていってもらおうか」

男「は?」

大家「アパートを出ていけといってるんだよ」

男「なんでですか!?」

大家「あんた、昔人んちの壁に落書きしたらしいねえ」

男「え……」

41: 2021/08/03(火) 18:56:09.396
大家「隠したって無駄だ。ちゃんと調べたんだから」

男「やりましたけど、チョークですし、ちゃんと消しましたし……」

大家「消せばいいと思ってんのか!?」

男「いえ、そんな」

大家「また部屋に落書きなんてされちゃたまらないからな。アパートの価値が落ちちまう」

大家「今日中に出て行ってもらおう!」

男「そんなぁ……」

43: 2021/08/03(火) 18:59:04.446
男(仕方ない……実家に戻ろう)

男「ただいまー」

母「お帰り。どうしたの?」

男「色々あってアパート追い出されちゃってさ……。しばらく戻ることにしたんだ」

父「そうだったのか」

母「ゆっくりしていきなさい」

男「ありがとう……」

男(さすがに両親は優しいや……)

44: 2021/08/03(火) 19:02:20.628
父「だけど、そういえばお前、昔俺に暴言吐いたよな」

男「え……」

父「“うるせえぞクソ親父”って。机を叩きながら」

母「私も吐かれたわ。“誰が産んでくれって頼んだよ”って」

男「あれは……反抗期のことだし……」

父「反抗期だろうとなんだろうと、暴言吐いたことへの免罪符にはならん」

母「そうね、私あの夜は泣いちゃったもの。悲しくて、悲しくて……」

男「ご、ごめん」

45: 2021/08/03(火) 19:05:17.053
父「気が変わった」

男「え」

父「悪いが、お前のような奴を息子と認めるわけにはいかん」

男「は?」

父「今日で勘当する。出ていけ」

男「ちょ、ちょっと待ってくれよ! 母さん、なにかいってやってよ!」

母「私もお父さんに同意見だわ。もう二度と家の敷居をまたがないでちょうだい」

男「勘当って……」

48: 2021/08/03(火) 19:08:25.228
男「過去の悪事のせいで、友達も、ガールフレンドも、住む場所も、親もなくしちまった」

男「どうすりゃいいんだ……」

黒服「ちょっと失礼」

男「?」

黒服「ふむ……ふむ、私と同じ匂いを感じる」

男「なんですか、あなた?」

黒服「あなたひょっとして、過去の悪事が原因で身動きが取れなくなってしまったのでは?」

男「……! はいっ、その通りです!」

黒服「そうですか、実はこのところそういう方が増えているのです」

男「どういうことです?」

50: 2021/08/03(火) 19:12:08.497
黒服「今の社会は情報社会、その気になれば個人でもいくらでも情報を仕入れることができる」

黒服「そのおかげで、過去のちょっとした悪事を調べられてしまい」

黒服「ほじくり返され、まるで大悪人のように糾弾され、結果的に社会に居場所がなくなる……」

黒服「こういうケースが増えているのです」

男「まさに俺がその状態です!」

黒服「やはりね。しかし、もうご安心下さい」

男「どうしてです?」

黒服「我々はそういう被害者を集めて、秘密結社を結成しました」

男「秘密結社?」

黒服「名づけて、『ノーパスト』!」

男「ノーパスト……(“パスト”ってのは過去って意味だよな)」

51: 2021/08/03(火) 19:15:39.770
男「どんな活動をしてるんです?」

黒服「むやみに過去を責め立てるのはやめよう、と各地で啓蒙活動を行っています」

黒服「さらに、居場所がなくなってしまった人に住居や仕事を与えるなどもしております」

黒服「このまま人数を増やしていけば、きっと今の世の中を変えることもできるはず」

黒服「ぜひ仲間になりませんか?」

男「なります!」

52: 2021/08/03(火) 19:18:15.012
黒服「ここが我々の拠点となります」

男「はい」

黒服「では手続きをしてくるので、少々お待ち下さい」

男「分かりました」

男(よかった……やっと仲間に会えた)

男(ここで地道に活動すれば、きっと社会復帰できる……)

53: 2021/08/03(火) 19:21:10.131
黒服「お待たせしました」

男「仲間にしてもらえるんですよね?」

黒服「それが……」

男「?」

黒服「あなたのことを調べていたら、とんでもない事実が発覚しましてね」

男「な、なんでしょう」

黒服「あなた、昔マラソン大会で一緒に走ろうと約束した仲間を裏切った経験があるそうですね」

男「え……」

58: 2021/08/03(火) 19:24:25.889
黒服「どうなんですか?」

男「ええ、まあ……」

黒服「残念ながら、あなたのような裏切り癖のある人間を仲間にするわけにはいきません」

男「ええっ! だけど昔の話ですよ?」

黒服「一度裏切った人間は何度でもやるんです。間違いありません」

男「でも、この秘密結社のモットーは過去の悪事を遡及しないことなんじゃ……」

黒服「その通り。しかし、“裏切り”だけは別です。組織の崩壊を招きますから」

男「絶対裏切りません! ですから入れて下さい!」

黒服「ダメです。お帰り下さい。おいっ、こいつを追い出せ!」

男「うわあああああっ……!」

59: 2021/08/03(火) 19:27:45.587
男「ハハ……アハハハハ……」

男「もうどうしようもないじゃねえか! 俺はどこにも行くことができない!」

男「こうなったら……暴れてやるーっ!!!」

ドカッ! ガシャァンッ! パリィンッ!

「うわああっ!」 「なんだこいつ!」 「暴れてやがる!」

男「アハハハハーッ!!!」

61: 2021/08/03(火) 19:30:34.201
警官A「コラッ!」

警官B「やめないか!」

ガシッ!

男「うぐっ!」

男(これでいい……これでやっと居場所ができた)

男(さすがに刑務所は、“過去に悪事をやってたから入れない”ってことはないだろうしな……)

63: 2021/08/03(火) 19:33:23.858
……

……

裁判長「それでは、被告人に判決を申し渡す」

男「はい」

裁判長「被告人は町中で身勝手に暴れた。その罪は償わなければならない」

男「そうですね」

男(さっさとしてくれよ。懲役何年だ……?)

64: 2021/08/03(火) 19:35:22.264
裁判長「しかしながら、刑を申し渡す前にいっておきたいことがある」

男「なんでしょう?」

裁判長「被告人は財布を交番に届けたことがあるそうだな」

男「へ? まあ子供の頃、あったような……」

裁判長「……素晴らしい!」

男「え……」

裁判長「そのような過去があるのならば無罪! 被告人は刑務所に入る必要なし!」

男「いやおかしいだろ!!!」







引用元: 面接官「あなた……過去にイジメをなさってたそうですね」男「え……」