1: 2009/09/12(土) 23:24:27.18
自販機(あっ・・・)

男「今日は寒いな。久々に温かいジョージアにするか・・・」

自販機(ま、待って!今取り出したら熱いよ!ちょっと冷ますから・・・)

男「あちっ!」

自販機(だから言ったのにー)

自販機「ありがとうございました!今日も一日、がんばってくださいね!」

男「お前もな、なんつって」

自販機(・・・///)

5: 2009/09/12(土) 23:32:36.98
自販機「今日もお疲れ様!またどうぞ、ありがとうございました!」

男「しかし、今日は夜も冷えるな」

自販機(仕事帰りはBOSSだよね、ちょうどいい温度にしておい・・・)

ピッ

男「ココアなんて買っちまった」

自販機(ふ、普段と違うところ、触られちゃった・・・)

男「・・・案外うまいな。仕事帰りはココアにするか」

自販機(明日からココア、ちょうどいい温度にしておかなきゃ!)

9: 2009/09/12(土) 23:38:35.09
自販機「おはようございます!」

男「あれ?ジョージア、デザイン変わったか?」

自販機(そんなに近くで見ないで・・・恥ずかしいなあ)

男「前よりかっこよくなったな」

自販機(は、恥ずかしかった・・・)

ピッ

男「って熱ッ!?」

自販機(や、やだ、私ったら・・・こんなに熱くしちゃだめじゃない!)

12: 2009/09/12(土) 23:42:25.83
自販機「今日もお疲れ様!またどうぞ、ありがとうございました!」

男「あー、本当に今日は疲れたよ。くそ、何なんだよあの上司」

自販機(仕事、上手くいかなかったのかな・・・)

男「大体、あの企画の担当は俺じゃないんだぞ」

自販機(それは大変だったね。勘違いで怒鳴られたのかな)

男「最近何にもいいことないな」

自販機(私がクジ付だったら、サービスしたのに・・・)

男「ま、ココアもコーヒーもうまいから、いいか」

14: 2009/09/12(土) 23:49:15.15
自販機「おはようございます!」

男「あっ、やべ、小銭ないぞ」

自販機(大丈夫、お釣りならいっぱい用意してるから、千円使って」

男「・・・五千円札しかないな。しょうがないか」

自販機(!! 待って、五千円なんて入れられたら、私っ・・・)

男「お釣り半端ねえな・・・」

自販機(じゃ、じゃらじゃらしちゃった・・・///)

自販機「・・・ありがとうございました!今日も一日、がんばってくださいね!」

男「なんだ、今の間・・・」

15: 2009/09/12(土) 23:55:15.01
自販機「今日もお疲れ様!またどうぞ、ありがとうございました!」

男「今日もココアがうまいな。って、俺は子供か」

自販機(今日のココアもいい具合に温めておいたからね)

男「しかし、この自販機も長いことここにあるけど・・・」

自販機(うんうん。あなたが大学生の時から、ずっといるよ)

男「俺以外に買ってるやつ見たことないな」

自販機(・・・うんうん)

男「俺、自販機会社に感謝されてもいい気がする」

自販機(私も、感謝してるよ)

21: 2009/09/13(日) 00:01:12.31
自販機「おはようございます!」

男「・・・・・・」

自販機(あ、寝ぐせついてる・・・朝、遅かったのかな)

男「・・・・・・ねみー」

自販機(ね、寝ぼけてる! だ、だめだよ、それはコーヒーじゃな・・・)

ピッ

男「あー?中身が出ないぞ」

自販機(中身は一応、入ってるけど・・・)

男「一体どうなって・・・あああ!?くそ、なんだこりゃ!」

自販機(何で私、キットカットなんか仕入れてたんだろ・・・)

24: 2009/09/13(日) 00:07:34.23

自販機「今日もお疲れ様!またどうぞ、ありがとうございました!」

男「しかし、バンホーデンのココアは濃くて美味いな」

自販機(本当は、缶より紙パックのほうがおいしいんだって)

男「そこまで甘ったるくないしな」

自販機(天下のバンホーデンだしね)

男「・・・ああ、うまいな」

自販機(ゆっくり飲んでね。ココアはむせやすいから)

男「っ!?げふっ、ち、ちくしょ、変なとこに入った」

自販機(今日はチョコに関して厄日なのかしら・・・)

26: 2009/09/13(日) 00:16:36.43
自販機「おはようございます!」

男「・・・うわ、ひでえな。なんだ、この落書きは」

自販機(昨日の夜に、ちょっとあったんだ)

男「ちょっとこれは酷いな・・・あーあー、ガムまでくっついてる」

自販機(ごめんね、私、汚くなっちゃって・・・買いづらいよね)

男「・・・・・・うーん」

自販機(は、恥ずかしい・・・あんまり見ないでってば)

男「油性ペンってどう落とすんだ? 仕事終わったら、ちょっと調べるか」

自販機(えっ・・・?)

男「ま、その前に、ジョージアジョージア」

27: 2009/09/13(日) 00:23:20.41
男「見つけてきたぜ、落書き落とし。売ってるもんだ」

自販機(そんな・・・私のために?)

男「なんか、ほぼ俺専用みたいになってるしな。日頃の感謝を込めて、ってか」

自販機(あなた専用・・・なんか、良い響き)

男「裏側にまで落書きしてあるし。最低だな」

自販機(そ、そんなところまで見なくていいよぅ)

男「しかしくだらない落書きが多いな。相合傘とか、古臭え」

自販機(私は結構好きだけどなあ。そういうの)

男「・・・よし、こんなもんか」

自販機(はう・・・わざわざ、ありがとう。・・・大好き)

男「ココア買って帰るか。いい仕事したぜ」

28: 2009/09/13(日) 00:29:50.11
男「・・・あれ?」

男(珍しいな・・・自販機の前に人がいる。けど、様子が変だ)

男「あの・・・買わないんですか?」

女「この自販機をご利用ですか? どうもすみません、どうぞ」

男「いいんですか?」

女「私は、仕事で来ていますので、お気になさらず」

男「仕事・・・ですか?」

女「ええ。今までのご利用状況を踏まえて、この自販機の撤去を考えているんです」

男「え?・・・すみません、もう一度お願いします」

女「撤去、です」

男(・・・なんてこった)

29: 2009/09/13(日) 00:30:22.92
なんてこった

31: 2009/09/13(日) 00:33:59.06
自販機「今日もお疲れ様!またどうぞ、ありがとうございました!」

男「お前、なくなっちゃうかも知れないんだってな」

自販機(・・・・・・)

男「さみしくなるなあ。よく考えたら、お前とすごく長い付き合いだぞ」

自販機(うん、そうだね。・・・もう、十年くらいになるのかな)

男「俺もよくまあ、毎日コーヒー買ったもんだな」

自販機(仕事がお休みの日も、買いに来てたもんね)

男「ここ、お前以外に自販機ないしな。みんなどこで調達してんだろうな」

自販機(今は、通りの向かい側コンビニができちゃったから・・・)

男「・・・あーあ。何で、お前のこと、使ってやらないんだろうな」

32: 2009/09/13(日) 00:39:46.99
女「あら、おはようございます」

男「あ、どうも・・・」

女「すみません、この位置はお邪魔でしたね。どうぞ」

男「こちらこそ。じゃ、ちょっと失礼して」

女「・・・あなたは、いつもこの自販機をご利用なんですか?」

男「そうですね。大学生の時からずっとお世話になってます」

女「それは、どうもありがとうございます」

男「なんていうか、俺、あんまりものに執着するタイプじゃないんですけど」

男「・・・正直、さみしいです。この自販機が無くなるのは」

女「・・・・・・」

34: 2009/09/13(日) 00:45:06.30
男「少し、お話を聞いてもいいですか?」

女「構いませんよ。じゃあ、私も一本、失礼しようかな」

女(・・・不思議。このコーヒー、他のところより少し温めで、飲みやすいわ)

男「あの、いつ、これは撤去になるんですか?」

女「調査にもう少しかかりますから、二週間先くらいでしょうか」

男「・・・そうですか。撤去取り消し、なんてないですよね」

女「ええ・・・おそらくは。このご時世ですし、ほぼ確定ですね」

男「それじゃ、仕方ないですよね。・・・売れなかったら、どうしようもないですからね」

女「・・・長い間ご利用頂いているのに、申し訳ないです」

男「いえ、・・・仕方のないことでしょうから」

女「・・・」

37: 2009/09/13(日) 00:51:51.02

男「この自販機は・・・撤去されたあと、どうなるんですか」

女「そうですね・・・別の場所に移されるか、解体されるか、ですね」

男「! か、解体!?」

女「滅多に解体はしないんですが・・・この自販機は、少し型も古いですし」

女「他にいい場所があれば、修理をしたあとに移動、という形になりますね」

男「見つからなければ解体、ですか・・・」

女(・・・・・・)
 「あら、こんな時間。私、そろそろ本社の方に戻らなくてはいけませんので」

男「あっ・・・どうもすみません、引きとめちゃって」

女「大丈夫ですよ。・・・貴重なご意見、ありがとうございます」

39: 2009/09/13(日) 00:55:38.97
自販機「おはようございます!」

男(今日は、あの女の人、いないのか)

男「・・・お前、解体されちまうのか? 移動しちまうのか?」

自販機(・・・もう、ジョージア、渡せなくなっちゃうね)

男「もう、朝、挨拶してもらえないのか」

自販機(そういうことに、なっちゃうね)

男「・・・・・・ちくしょう」

自販機(! お願い、そんな顔しないでよ・・・)

ピッ

自販機「ありがとうございました!今日も一日、がんばってくださいね!」

自販機(同じセリフしか言えない自分が、憎い)

42: 2009/09/13(日) 00:59:28.23

――翌日

男「あ・・・おはようございます」

女「どうも。えっと、今日はあなたに少しお聞きしたいことがあるのですが」

男「俺にですか?・・・何でしょう」

女「この辺りに、アパートや大きなマンションはありませんか?」

男「アパートですか?ええと・・・この道をまっすぐいけば、たくさんありますよ」

女「そうですか。ということは、あなたがいらした方向ですね」

男「ですね。俺も、アパート暮らしなんで」

女「ふむ。では、もうひとつ質問させて頂きますね」

43: 2009/09/13(日) 01:01:12.22
女「この辺りにあるコンビニは、そこの一軒だけですか?」

男「たぶん、そうですね。アパートから遠いんで、ちょっと不便です」

女「なるほど・・・よくわかりました。ありがとうございます」

男「え、終わりですか?」

女「ええ。この辺の地理に少し明るくなる必要がありましたので」

男「お引っ越しかなにかですか?」

女「ふふ、まあ、そのようなものですね。では、失礼します」

男(・・・何なんだ?)

44: 2009/09/13(日) 01:05:32.56
自販機「今日もお疲れ様!またどうぞ、ありがとうございました!」

男「・・・やれやれ。もうすぐ、二週間たっちまうな」

自販機(そう、だね。・・・あなたが仕事に行ったあと、女の人と作業員の人が来たよ)

男「なんか、焦るよな。どうしようもないのはわかってるけど」

自販機(気づいてる? ・・・私の固定金具を外す用意が、できてるわ)

男「何でみんな、お前のこと、使わないんだろうな。・・・こんなに有難いのに」

自販機(・・・私は、あなたに使ってもらえるだけでいいのに)

男「あーあ。ひょっとすると、このココアも飲みおさめなのかな」

自販機(・・・今まで、いっぱい買ってくれて、ありがとね)

男「・・・ご馳走様。・・・美味しかったぜ」

47: 2009/09/13(日) 01:10:12.57
男「・・・今日で、あの女の人と会ってから二週間だが」

男「朝は、まだ、ちゃんと自販機はあったからな」

男「きっと夜だって、あるに決まって・・・
  !」

男(自販機が、なくなってる)

51: 2009/09/13(日) 01:12:27.21
うう・・・・・・ついに・・・

52: 2009/09/13(日) 01:13:15.87
男(なんだ?・・・なんだ、この喪失感)

男(変なものがつまったみたいだ。・・・呼吸がつらい)

男(自販機がないだけで・・・えらく殺風景だ)

男(この辺りは街灯がないから・・・夜はあのちょっとの灯りが頼りだったのに)

男(あの挨拶も、もう聞けないのか)

男(どれだけ帰りが遅くなっても、ずっとそこにあったのに)

男(・・・つい、財布、出しちまった。買うものもないのに)

男「・・・・・・今日は、冷えるな。心の底から、冷える」

56: 2009/09/13(日) 01:17:32.60
男(・・・自販機がなくなって、もう一週間だ)

男(俺が缶コーヒーを飲まなくなって、一週間、でもある)

男「何にもないけど、立ち止まっちまうんだよな。この場所」

女「あ!」

男「? ・・・あ、どうも、お久しぶりです」

女「会えてよかった、ずっと探していたんですよ」

男「俺をですか?」

女「そうですよ。なかなか時間が合わなくて・・・それで、お話なんですが」

58: 2009/09/13(日) 01:20:40.11
男「・・・何のお話ですか?」

女「えっと、あの自販機なんですが、先週撤去致しました」

男「はぁ。そういうお話なら、俺はもう・・・」

女「それでですね、あの自販機の行方についてご報告に参りました」

男「・・・解体の話は、あまり聞きたくないですね」

女「少々、お時間頂けますか?案内して頂きたいところがあるのです」

男「構いませんけど・・・どこまでですか?」

女「××アパートさんまで、お願いしたいのですが」

男(・・・案内も何も、俺の住んでるアパートじゃないか)

59: 2009/09/13(日) 01:25:16.00
男「ここですね」

女「ありがとうございます。・・・け、結構距離があるんですね。疲れちゃった」

男(そういえば、アパートから駅までの、良い具合のところにあの自販機があったな)

女「えっと、駐車場はどちらですか?」

男「アパートを少し回りこんで、ここにあり・・・
  ・・・!」

女「・・・お気づき頂けましたか?」

男「・・・・・・気づくも何も・・・どうして、ここに?」

63: 2009/09/13(日) 01:30:37.33
男(俺の目に飛び込んできたのは、あの自販機だった)

男(少し色が明るくなって、細かい部品が変わっていたけど、間違えようがなかった)

男(十年間、毎日俺が小銭を入れて、毎日コーヒーを渡してくれた、あの自販機だった)

女「上に相談しましたところ、ここに設置するように言われましたので」

女「ここなら、売上の増加が見込めるということでしたから」

男「まさか・・・俺のために、なんてことは、・・・」

女「ふふ、さあ、どうでしょう? 私は皆さんの意見を上に伝えただけですから」

男「・・・ありがとう、ございます!」

女「これからも、どうぞご贔屓に。では、私は失礼しますね」

66: 2009/09/13(日) 01:35:49.57
男(俺は、女の人が見えなくなるまで、ずっと彼女に頭を下げていた)

男(振り返れば、そこにはあの自販機がいる)

男(妙な高揚感で胸をいっぱいにしながら、俺は自販機に小銭を入れた)

自販機「いらっしゃいませ!」

自販機(・・・やっと、また会えたね)

男「本当だ、綺麗になったな、お前。声も前よりはっきりしてる」

自販機(そ、そんなに見ないでよ・・・ちょっと手入れしてもらっただけだし)

男「品揃えも結構変わったな・・・コーヒーがやたら充実してるぞ」

自販機(あ、美味しいって噂のFIREも入ってるよ。飲んでみて)

69: 2009/09/13(日) 01:39:03.11
男「・・・・・・」

自販機(あれ、気に入らなかったのかな・・・?)

男「新しい商品も悪くないんだけど・・・」

男「やっぱ、ジョージアだな。そんで、夜はココア。
  長く続けてきたことは、なかなか変えられないし、変えたくないもんだ。
  ・・・これからも、ずっと頼んだぜ」

自販機(・・・!)

男「じゃあ、行って来るよ」

自販機「・・・いつも、ありがとうございます!今日も一日、がんばってくださいね!」


fin

72: 2009/09/13(日) 01:42:46.01
1です。需要なんて無いに等しいもんだと思いつつ書いてました。
それから、台本形式の文章って凄く難しいのな。
10年使った自販機がリアルで撤去されちまったぜ!がっでむ!
どこかで見たことあるような展開にお付き合い頂きありがとうございました。

みんな!自販機を愛してあげてね!

76: 2009/09/13(日) 01:46:06.33
忘れてた
遅筆にいらいらした皆さんには本当に申し訳ない
次は熱血長州とツンデレ薩摩をひっさげてくるかもしれません

70: 2009/09/13(日) 01:39:15.75
俺がいつも使ってる自販機もこんな風に思ってくれてたりするんだろうか

71: 2009/09/13(日) 01:41:50.68
>>70
自販機「きったねえ手でさわんじゃねーよ>>70
自販機「さっさとあっちいけ馬鹿」

73: 2009/09/13(日) 01:42:49.38
>>1乙!!
リアルに涙出た!!

75: 2009/09/13(日) 01:45:52.99
今日から自販機に感謝する

引用元: 自販機「いらっしゃいませ!」