2: 2012/10/17(水) 22:46:20.06
 わたしの名前は鹿目まどか。見滝原中学校に通うごく普通の女の子です。
 今、わたしは学校から帰っている所なんですが、いつもなら親友のさやかちゃんや仁美ちゃんと一緒に帰っているんですけど、
今日に限って皆に用事があって、わたしは一人で帰るしかなかったのでした。

「はあ~あ……、さやかちゃんに仁美ちゃん……わたしと違ってする事が有って良いなあ……」

 わたしには、習い事もなければ特にする事もなかったので、二人がいない時はこうして一人寂しくお家に帰るしかなかったのです。

「はあ……、私も何かやらないとダメダメになっちゃうよね……」

 このままだとわたしは、自分が何も産み出さないダメな大人になるのかなあとか、そんな事を考えながら歩いていました。

「危ないぞーーーー!」

「いやあああああ!!」

 周りからわたしの方に向かって大きな叫び声が聞こえるなあと、のんきな事を思っていたら、わたしの横からブォーンと鳴り響く
大きなクラクションと、キキーっという急ブレーキの音と共に、トラックがわたしに向かっているのを目の当たりにしました。

「…………えっ?」

(嘘……、嫌……氏にたくない……!!!)

 もうダメだと思ったその時、わたしは誰かに抱えられて物凄く高く飛び上がり、
何の怪我も無く横断歩道を渡った先の地面に着地して助かりました。

「おいおい、大丈夫かい?」

「え? えと……その……」

 わたしを抱きかかえているその子は、燃え盛る様な赤いポニーテールの髪と、
強い意思の宿っていそうな瞳を持ったカッコイイ女の子でした。
 そんな彼女を前にしてオドオドしていたわたしに、女の子は現実を突きつけてくれました。

「まあ無理も無いよね、あたしがいないと今頃あんたは氏んでたんだからさ」

「……ひっ!」

 その子の一言を聞いて、わたしはとても怖くなり、身体を震えさせながら涙を流してしまいました。

「わわ、ちょっと……。いきなり泣くなよな! ……ごめん、怖がらせるような言い方して……。あたしが悪かった」

 その子が、わたしの頭を優しく撫でてくれたので、わたしは安心してしまい、その子にしがみついて泣き叫んでしまいました。

「うう……うわあああぁぁぁん! 怖かったよおおぉぉ!!!」

「よしよし……もう怖くなんてないから……」

 しばらくして落ち着いたわたしは、その子から離れてお礼を言いました。

「あの……、本当にありがとうございます! なんてお礼を言えばいいのか……」

「あはは、気にすんなって。それはそうとさ、ボサッとしながら歩くなんて危ないぞ」

 その子に説教をされて、わたしは落ち込んでしまいました。

「あう……ごめんなさい……」

「へへ、まあコレからは気を付けるこったね! ……命は一つしかないんだからさ」

 その子は何だか、悲しそうな様子でそう言っている様にわたしには見えました。

「あの……わたしは鹿目まどかって言います。気軽にまどかって読んでください」

「うん。あたしの名前は佐倉杏子ってんだ。あと、敬語は止めてくれよな。固っ苦しいのは嫌いなんだ、 あたしは」

 杏子ちゃんは楽しそうな顔をしながら、わたしに自己紹介をしてくれました。

「えへへ、それじゃあ気軽にお話させてもらうね、杏子ちゃん!」

「へへ……それじゃあね」

 杏子ちゃんが何の見返りも求めずに帰ろうとしたので、わたしはお礼をする為に彼女を引き留めました。

「あ、ちょっと待って!」

「ん? どうかしたかい?」

 わたしは、恥ずかしい気持ちを胸に秘めながら杏子ちゃんに言いました。

3: 2012/10/17(水) 22:52:35.22
「えっとね……。わたし、杏子ちゃんにお礼がしたいから……これからファミレスに行かない!?」

「……へっ?」

 杏子ちゃんは何を言われたか理解していないのか、戸惑っていました。

「何でも奢るよ! ……お小遣い少ないけど……」

「良いのか!?」

「ひゃ!」

 思ったよりも嬉しそうな反応をしながらわたしの肩を強く掴んでくるものだから、わたしはビックリしてしまいました。

「あ、ごめんごめん」

「えへへへ、良いの!」

 杏子ちゃんは、笑いながらも申し訳なさそうにわたしの肩から両手を離して、腕を頭の後ろで組み直しました。

「それじゃあ行こう!」

「おお!」

 わたしと杏子ちゃんは、楽しくお話しをしながらファミレスへと向かいました。



 わたし達は、しばらく繁華街を歩いて、全国にチェーン店があるグアストと言う名のファミレスの店の前へとやってきました。
その店の前にある料理の写真を見るや否や、杏子ちゃんは瞳をキラキラと輝かせて、ヨダレをダラダラと流していました。

「杏子ちゃん……ヨダレすごいよ……?」

 わたしが杏子ちゃんにそう言うと、彼女はヨダレを腕で拭って正気を取り戻しました。

「……おっとわりい。ついついこの料理の写真を見てを想像しただけで興奮してしまったよ」

 杏子ちゃんは意地汚いなあとか、失礼な事をわたしは考えてしまいました。杏子ちゃんごめんね。

「えへへへ……。さっ、入ろう!」

「おうよっ!」

 そして、ご飯を楽しみにしている杏子ちゃんを連れて、わたしは店の中へと入って行きました。

「いらっしゃいませ、お客様二名様のご案内でよろしいでしょうか」

「はい、お願いします」

「それでは、どうぞこちらの席へ」

 わたしと杏子ちゃんは、ウェイトレスさんに奥の席へと案内されました。

「ご注文が決まりましたら、こちらのボタンでお呼びください」

「はーい」

 ウェイトレスさんは笑顔で会釈をして、向こうに行ってしまいました。

「さっ、杏子ちゃんは命の恩人なんだから何でも頼んでよ!」

 わたしは、少しだけ優越感に浸りながら胸を張って、杏子ちゃんにそう言いました。

「う~ん……そうだねえ。コレと、コレとコレ……あとコレ!」

 杏子ちゃんがメニューに差した指を見てみると、なんとジューシーハンバーグ200グラムに、サーロインステーキ200グラム、
それと特盛カルボナーラに特大チョコパフェでした。

「えー……?」

 わたしは一瞬、杏子ちゃんの胃袋の心配をしてしまいました。というか、わたしのお財布の中身も心配なんだけど。

「わ~い、楽しみだな~!」

(えへへ、本当に嬉しそうな笑顔……。何だかこっちも楽しくなってきちゃった! )

4: 2012/10/17(水) 22:57:57.99
 わたしは、杏子ちゃんの嬉しそうに笑っている顔を見ていると、そんな事はもうどうでもいいと思ってしまいました。

「じゃあわたしは、ナポリタンとジンジャーエールにしようかな」

 そして、わたしは呼び出しボタンを押して店員さんを呼びました。すると、さっきのウェイトレスさんが笑顔で来てくれました。

「ご注文はお決まりでしょうか」

「はい。ええと……、ジューシーハンバーグ200gとサーロインステーキ200gと、カルボナーラの大盛に特大チョコパフェ、
それとナポリタンにジンジャーエールをお願いします」

「えっ!?」

 私がメニューを読み上げるとウェイトレスさんは笑顔から驚いた顔に変わって、変な声をあげてしまいました。

「あっ……し、失礼しました。では、すぐにお持ちします」

 オーダーを聞いたウェイトレスさんは、そそくさと戻って行ってしまいました。
 これはまずい。後で絶対に噂になるかもしれないと、わたしは少しだけ後悔してしまいました。

「うわあ……、これは絶対噂になるよ……」

「えっ、何が?」

 杏子ちゃんの何とも思ってないという様子に、わたしは少しだけ頭が痛くなりました。

「えへへへ……。何でもないよ……」

「んー? 変なの」

(杏子ちゃんには言われたくないよ……)

 とにかく、わたしは気を取り直して杏子ちゃんから更に楽しい話を聞こうと思いました。

「ふう……まあ良いや! そういえば、杏子ちゃんはどこの学校に通ってるの?」

「あ~……うん……、えっとね……」

 杏子ちゃんはわたしの質問に対して、ばつが悪そうにわたしから顔を逸らしました。

「……あたし、ちょっと事情があって学校には行ってないんだ」

「えっ!?」

 杏子ちゃんの意外な返答に、わたしはとってもビックリしてしまいました。

「あ、ごめん……。聞いちゃいけなかったよね……?」

「あはは、いいよ別に。気にしてないし」

 杏子ちゃんが無理して笑っているように見えたので、わたしは申しわけなく思って俯いてしまいました。

「本当にごめんね……」

「良いってば、そんなにしんみりしてると飯がまずくなるじゃないのさ」

 わたしは、少しの間何を話していいのか分からず黙ってしまいました。すると、その空気に耐えかねたのか、
杏子ちゃんが先に口を開きました。

「ちょっとつまんない話かもしれないけどさ、あたしの作り話を聞いてくれないかい?」

「えっ……? うん……」

 それから杏子ちゃんは、真剣な顔をして話を続けました。

5: 2012/10/17(水) 23:13:39.38
「昔々、ある教会に父と母と二人の娘の四人家族が住んでたんだ。一家は貧しいながらも楽しく過ごし、毎日が充実していたよ。
その一家の父親は神父さんで、毎日来る信者さんの為に信仰を告げて寄付金を貰って生活をしていたんだがある日、
その父親は今のままの信仰だけでは皆が幸せになる事はないと考えて、いつもの信者さんに向けて自分の言葉をそのまま告げたんだ。
するとどうした事か、信者の方々はその父親に対して、お前の話が聞きたいわけじゃないと言い放ち、二度と教会に来る事はなかった」

「うん」

 杏子ちゃんの作り話を聞いていると、何とも言えないリアリティがあって、作り話の様には聞こえませんでした。

「それからと言うもの、その一家は本部からも破門され信者にも見離されるし、
それでお金が入らなくなった事で食べるのにも苦労する毎日が続いたんだ。
それから少し日が経って、空腹に耐え切れなかった妹の為に、一家の長女が一つの林檎を盗もうとしたんだ。
だけど、路地裏に逃げようとして失敗に終わり、長女は地面に倒れて嘆いた。どうして皆、父親の話を聞いてくれないのか、
どうして私達がこんな目にあわないといけないのかと。そうして泣いていると、白い天使が私に囁きかけたんだ。
君は父親の話を皆に真剣に聞いてもらいたいんだね、と。長女は白い天使にお願いをしたさ。
どうか、父の話を皆が真剣に聞いてくれますように、ってね。
そして、次の日からいつもの信者さんの方々が父の話を聞きに教会に訪れてきたよ。
それから、新しい信者さんも増えて寄付金も増えまくって、一家はお金に困る事も無くなり、見違えるように幸せになったんだ」

「うわあ、すごく良い話だね……!」

 杏子ちゃんのお話に感動して、わたしは少し涙ぐんでしまいました。

「そう、ここまでは良い話なんだよ。……ここまではね」

「えっ……?」

 杏子ちゃんの瞳には、全てを諦めたかのように暗い影を帯びていました。

「正直、こっから先は胸糞悪い話なんだ。だから、そういうのが苦手なら話すのは止めるけど」

「……ううん、話して。このお話の結末を聞かないと、わたしのモヤモヤが止まらないから」

「……ああ、分かった」

 そして、杏子ちゃんはお話の続きを話してくれました。

「……所が、長女が願った想いは予想もしない事で全てを壊してしまったのさ。
ある日ちょっとした事があって、どうして父親の話を皆が真剣に聞いてくれるのかを全て話してしまったんだ。
すると、父親は突然怒り出して、お前は魔女だの悪魔の手先だのと長女にのたまい、父親は完全に頭がおかしくなってしまったんだ。
それからその父親は、毎日酒に浸り、信者さんを説くのも止め、母親にも手を出すような荒くれ者となったんだ。
……そして、しばらく経ったある日、ちょっと散歩に出かけていた長女が家に帰ってみると、家の様子が変な事に気付いたんだ。
……床一面は血溜まりになっていて、母親と妹が何者かに刺されたような後が付いて倒れて……。
そして、長女が上を見上げると……、父親が首を……」

「いやあああああ!!! もう止めて! 聞きたくないよ……!!」

 わたしは、あまりの衝撃的な話を杏子ちゃんから聞いて言い様の無い恐怖を感じ、耳を塞いで叫んでしまいました。
きっとこの時、店にいる人達はわたしの事をジロッと見ていたかもしれません。

「……悪い、最後まで聞いてくれ……お願いだから……!」

「うう……。……うん」

 もうこんな話は聞きたくなかったけれど、杏子ちゃんの真剣な顔を見ていると、わたしには話の続きを聞く事しかできませんでした。。

「……そう。父親は長女を残して一家で無理心中をしてしまったんだ。
それからというもの、一家の長女は何もする気が起きずにただ彷徨うしかなかったわけよ。
自分を呪いなから……。あはは……全く……バカみたいな話だよね」

「……そんな事無い!」

「えっ……?」

 わたしの反応が予想外だったのか、杏子ちゃんはとっても驚いていました。

「だって、その女の子はお父さんの為を思ってお願い事をしたんでしょ……! そんな女の子がバカなわけない!」

 わたしは、自分でも抑えきれないほどにその長女に感情移入をしてしまい、とっても興奮しました。

「……いいや、バカだ! 大バカじゃないのさ! 自分がこんな願いを叶えちまったから結局一家は皆、不幸になってしまったんだし!」

「それは……」

 杏子ちゃんの迫力に、わたしは何も言葉を返す事が出来ませんでした。

「そうだろう? ……どうかバカと言って笑ってくれよ! ……そっちの方が気が楽になるからさ!」

6: 2012/10/17(水) 23:19:32.51
「杏子ちゃん……、そのお話って……もしかして、杏子ちゃんのお話なの……?」

 杏子ちゃんのお話の意味を感じ取ってしまい、わたしの目から涙が止まらなくなりました。

「……っ! ああ、そうだよ……」

「……辛かったよね、大変だったよね……!」

 わたしは、悲しくて今にも泣き出しそうな顔をする杏子ちゃんに耐えられなくなり、杏子ちゃんの隣に行って、
そのまま抱きついてしまいました。

「うう……」

「わたしにはこんな事しか出来ないけど……。どうか自分を追い詰めないで……」

「……うわあああぁぁぁぁぁん!!!」

 杏子ちゃんから緊張の糸が抜けて、思い切りわたしの胸の中で泣いてしまいました。

「大丈夫だよ……。もう何も恐く無いから……」

 わたしは、そんな杏子ちゃんの頭を優しく撫で続けました。杏子ちゃんが落ち着くその時まで。
 そして、しばらくして落ち着き泣きやんだ杏子ちゃんは、いつもの様にスッカリと元気になっていました。

「あ~、思いっきり泣いたらスッキリした! まどか~、お腹空いた!」

「えへへへ! もうすぐ頼んでたモノが来るよ!」

「あはは、楽しみだぜ!」

 杏子ちゃんはさっきまでとは打って変わって、もの凄くテンションが高かったです。

(えへへ! ……良かった、元気になってくれて。)

「あー、えっと……その……」

「ん? どうかしたの、杏子ちゃん」

 杏子ちゃんは、照れくさそうにモジモジとしていました。

「悪いね、食事時にこんな話しちゃってさ」

「えっ!? ううん、良いの! 杏子ちゃんの事を沢山知る事が出来たから!」

 わたしがそう言うと、杏子ちゃんの顔がバラの様に赤くなり、わたしから目を逸らしてしまいました。

「へへ……。照れるじゃないのさ……」

「えへへへ! 杏子ちゃん、カワイイ!」

「バっ……! もう……調子狂うなあ」

 杏子ちゃんは恥ずかしいのか、わたしとは目を合わせようとはしてくれませんでした。
 そして、杏子ちゃんが待ちに待った沢山のお料理達がやって参りました。
流石に量が多すぎるせいか、ウェイターさん一人とウェイトレスさん二人の合計三人で、料理を運んできてくれました。
その中のウェイターさんが、冷静に頼んだメニューを読んでくれたおかげで、わたしだけが恥ずかしくなってしまいました。

「お待ちしました。ジューシーハンバーグ200gとサーロインステーキ200gにカルボナーラ大盛に特大チョコパフェ、
それとナポリタンとジンジャーエールをお持ちしました。以上でよろしいでしょうか?」

「はい、大丈夫です。ありがとうございます」

 どかどかと、テーブルの上に頼んだ料理達が並んでいきます。
 よくテーブルからお皿が溢れなかったなあと、わたしは感心してしまいました。

「うひゃあ、うまそー!」

「うわあ……すごい量……。杏子ちゃん……、本当に食べ切れるの?」

「あったりまえでしょ! 第一残すなんて……あたしは食べ物を粗末にする奴は絶対に許さないぞ!」

 杏子ちゃんは沢山の料理を見て、まるで子供のようにはしゃいでいました。

「えへへへ! それでは、いただきます!」

「いただきまーす!」

7: 2012/10/17(水) 23:22:20.47



 まどかと佐倉杏子から少し離れた席で、私は一人で四人掛けのテーブルを牛耳ってコーヒーを嗜んでいたの。
その二人の事を監視しながらね。

(それにしても……これは一体どういう事なの! どうしてまどかが佐倉杏子と一緒に仲良くお食事しているというの……!?)

 自己紹介が遅れたわね。私の名前は暁美ほむら。見滝原中学校のまどかと同じクラスに通うただの中学生よ。
さっきまで私は、ワルプルギスの夜に備えてグリーフシードを集める為に魔女退治をしていたのだけれど、
佐倉杏子の魔翌力の反応が近かったので、一緒に魔女と戦わないかと誘う為に店内に潜入していたの。それがこの有様よ。

(くっ……! まどかが近くにいては魔法少女に関する事を迂闊に話す事も出来ないじゃない……。
……それにしても、まどかったらとても楽しそう……)

 私は二人の間に入ることが出来ずに、ただジッと見ている事しか出来なかった。

(……ああ。……まどか……。私は一体どうしたら……。)

8: 2012/10/17(水) 23:26:09.51



「ふい~、食った食ったー!」

「凄い……、見てるこっちが気持ち悪くなるレベルだよ……」

 わたしは、杏子ちゃんの恐ろしいまでの食べっぷりに対して、正直引いてしまいました。

「いやあ、あたしは満足だぞまどか~! 人助け様々だね~!」

「えへへへ! 本当に助けてくれてありがとう……」

 わたしは、心から杏子ちゃんに対して感謝しました。

「あー……。へへ、良いって!」

「あれ? 杏子ちゃん、どうしてちょっと言葉に詰まったの……?」

 杏子ちゃんの言葉が少し詰まった事が気になったわたしは、杏子ちゃんを問い詰めました。

「うん……。実はあたし、誰でも助ける程いい奴じゃあ無いんだよね」

「えっ? それじゃあ、どうしてわたしを助けてくれたの……?」

 杏子ちゃんは恥ずかしそうに、わたしに話してくれました。

「……なんて言うかね。……妹に似てたんだ」

「えっ!?」

 杏子ちゃんから意外な言葉が返ってきて、わたしはビックリしてしまいました。

「いやね、姿が似てるとかじゃなくてさ。……その、面影があって、ほっとけなかったんだ……」

「そうなんだ……」

 杏子ちゃんは悲しい顔をしてわたしを見ました。

「悪いね……。不純な理由でさ……」

「……杏子ちゃん。ううん、良いんだよ……お姉ちゃん!」

 わたしが杏子ちゃんに対してそう言うと杏子ちゃんはとてもビックリしてしまいました。
 そして、すぐに杏子ちゃんの顔がくしゃくしゃに崩れて涙を流してしまいました。

「……っ! ごめんね……。モモ……守れなくって!」

「あわわ、ごめん! 泣かないで杏子ちゃん!」

 わたしは、急いで杏子ちゃんの隣に行って抱き寄せました。すると、杏子ちゃんはまた、わたしの胸で豪快に泣き叫びました。

「うわあああぁぁぁぁん!!!」

「よしよし……」



(佐倉杏子……そう……貴方も……。)

 私は、佐倉杏子がまどかに対して妹の面影があったから助けたという部分を聞いて、とても悲しくなってしまった。

(貴方も辛い過去を持っているのね……。そして、まどかを助けてくれてありがとう。貴方がいなかったら今頃、私は……。
いくら何度でもやり直せるといっても、私の大切な人が簡単に氏ぬなんて絶対に嫌だから。)

 そう、私は心から彼女に対してお礼をすぐに言いたい。けれども、今はまだ彼女と接触するべきではないとわたしは考えたわ。

(それにしても……。佐倉杏子ったらまどかとイチャイチャしすぎよ……! あの胸は本来、私の特等席なのだから……!)

9: 2012/10/17(水) 23:30:21.14



「……落ち着いた?」

「うん……、何度も悪い……」

 わたしは、杏子ちゃんをゆっくりと胸から離して元の席へと戻りました。

「えへへへ、良かった……。杏子ちゃんが優しい子で」

「あたしが優しい……だと……? どこがだ?」

 杏子ちゃんは、わけが分からないという顔をしながらわたしを見ていました。

「だって杏子ちゃんったら、妹さんの為にすぐに泣いてあげられるんだもの。そんな子が、優しくないわけないでしょ」

「えっと……。その……ありがと……」

 照れている杏子ちゃんを見ていると、何だかこっちも嬉しくなってきてしまいます。

「あ、そうだ!」

「ん? どうしたんだい?」

 わたしは、とても良い事を思い付きました。

「杏子ちゃんさえ良ければ、いつでもわたしの家に遊びにきてよ!」

「……ええええええ!?」

 杏子ちゃんは、とても驚いていました。

「でも……悪いよ……」

「んーん、家のパパとママにも少しだけ杏子ちゃんの事を話しておくから大丈夫だよ!」

「いや、そうじゃなくて……。ああ、もう!」

 杏子ちゃんがいきなり叫んだので、わたしは驚いて変な声を出してしまいました。

「ひゃん!?」

「あっと……悪いね。まあ、まどかが良いって言うんなら仕方ないよな……」

 杏子ちゃんのその一言でわたしはとっても嬉しくなって、満面の笑顔で杏子ちゃんの両手をギュッと握ってしまいました。

「うわあ~い! ありがとう杏子ちゃん!」

「……へへ、こちらこそありがとよ……!」

「それじゃ、わたしの家まで案内するね!」

 わたしはそう言って、ファミレスでの会計を済ませてから、杏子ちゃんをわたしの家の前まで案内する事にしました。



 杏子ちゃんをわたしの家に案内している途中、杏子ちゃんの気になる事があったので、彼女に質問をしてしまいました。

「あの、杏子ちゃん」

「なんだい、まどか」

「その、杏子ちゃんの話の中の白い天使ってもしかしてきゅうベエの事……なのかな?」

「……っ!?」

 杏子ちゃんは、わたしの口からきゅうベエと言う単語が出てきた事に非常に驚いて、わたしの肩を思い切り掴みかかりました。

「おい! 知っているのか!?」

「痛い……。痛いよ杏子ちゃん」

 痛がっているわたしを見た杏子ちゃんは、申し訳なさそうに肩から手をどけてくれました。

10: 2012/10/17(水) 23:37:28.86
「あ……悪かったよ……。興奮しちまってつい……」

「ううん……良いの。わたしね……きゅうベエに契約を迫られちゃったの」

 わたしの話を聞くや否や、杏子ちゃんの顔はもの凄く恐くなりました。

「くそ……! あのヤローが……! で、まどかはどうしたんだい?」

「えっ? もちろん断わったよ……、魔女と戦う使命を背負ってまで叶えたいお願いなんて無かったから……」

 わたしがそう言うと杏子ちゃんは安心したのか、落ち着いていました。

「そうか……。良いか。まどかは絶対にあいつとは契約するな! ……特に、誰かの為に契約するなんて事は絶対にな……!」

「うん……わたしは大丈夫……。杏子ちゃんの話を聞いたから尚更契約なんて出来ないよ……」

 落ち込んで俯いているわたしの頭を、杏子ちゃんは優しい顔をしてポンと叩くように撫でてくれました。

「……そうか。それは良かった! たまにはあたしの話も役に立つんだな!」

「……杏子ちゃん」

 わたしは、杏子ちゃんの優しさに嬉しくなり、同時に悲しくなりました。

「まあ、何があっても叶えないといけないって時が来るまでは、そのお願いは無駄にしない事だね」

「えへへ……。うん!」

 それから、わたし達は楽しく会話を続けながらわたしのお家まで歩いていると、すぐにわたしの家の目の前まで来ました。

「ここがわたしのお家だよ!」

「おお……なかなか立派そうじゃないのさ!」

 杏子ちゃんは、わたしの家を見てとっても驚いていました。

「えへへへ! 杏子ちゃん、これからどうするの? もしも暇だったらお家に寄っていかない?」

「あー……ごめんまどか! 今日は、どうしても外せない用事が有るんだ……。だから、また今度遊びに来るよ!」

 杏子ちゃんのその言葉に、わたしは少しだけ悲しくなりましたが、用事があるなら仕方ないなと思い、
今日はここでお別れすることにしました。

「……うん! 気を付けてね、杏子ちゃん!」

「ああ、またね!」

「うん、バイバイ!」

 わたしは、忙しそうに走っていく杏子ちゃんの背中を、見えなくなるまで見送りました。



続くっ!

21: 2012/10/18(木) 22:57:26.19
 杏子ちゃんをわたしのお家に紹介してから三日後の放課後に、例によってわたしはこの前の様に一人で下校していました。
でも、今日は寄る所が有って公園の方に向かっていたのです。しばらく歩くと公園に着いたので、早速あの子がいるか探してみました。

「杏子ちゃん、今日は居るのかな……?」

 わたしは昨日、下校中にたまたま杏子ちゃんに会ったんだけど、その時にいつもは大体近くにある公園に居ると言われたので、
杏子ちゃんと遊ぼうと思って、こうしてこの場所に足を運んでしまいました。

「うーん……、居ないかも……」

 しばらく杏子ちゃんの事を探したんだけれど、肝心の杏子ちゃんの姿がなかなか見当たらないのでもう帰ろうかなと思ったその時、
公園の奥の方に何ともいえない違和感を感じたので、行って見る事にしました。
 その違和感のある場所に辿り着いたのはいいんだけど、そこには何もありませんでした。
でも、違和感だけはあいかわらずすごかったです。

「……何だろう、誰かに呼ばれているような……?」

 最初はわたしの勘違いかなあと思っていたんだけど、いきなり頭の中からエンジンをフル回転させた様な、
ブオンブォーンっという耳障りな音が聞こえてきたので、わたしは咄嗟に耳を塞ぎながら、かたく目を閉じてしまいました。

「いや……! 何なの……? この爆音は……?」

 ずっと耳を塞いでいると、とつぜん爆音が止まりました。
 それからわたしがゆっくりと目を開けると、辺りはいつもの公園ではなく、わたしの見た事のないどこかへと変貌していました。



 あたしは見滝原の全域を眺められる展望台の中で、あたしを魔法少女にしやがった張本人を待ったいた。
 案の定やつの気配はしていたが、中々姿を見せないので、イライラしたあたしはやつの名前を呼び掛けた。

「おいキュゥべえ、居るんなら出てこいよ」

 あたしがあいつの名前を呼ぶと、そいつはどこからかひょっこりと姿を表した。

「やあ、ひさしぶりだね、杏子」

「あんたに一つ言いたいことが有るんだ」

 あたしは虫の居所が悪かったもんだから、キュゥべえのやつを物凄い形相で睨んでしまった。

「何だい、おっかない顔をして」

 ただ一言それだけ。キュゥべえのやつにどんなプレッシャーを与えようが、やつは顔色一つ変えずに、ただすましていやがった。
本当に腹の立つ野郎だ。
 だが、キュゥべえのやつが魔法少女に関しての情報を握っているのは間違いない筈だから、
ここは冷静になって話を聞くしかないとあたしは思ったね。

「鹿目まどか……、知っているんだろう?」

 あたしがまどかの名前を口に出すと、珍しくキュゥべえが少し驚いていたように見えた様な気がした。
まあ、ただの気のせいかもしれないがな。

「へえ、意外だな。どこで鹿目まどかの名前を知ったと言うんだい?」

「そんな事はどうでもいいんだよ。……率直に言うよ? あいつに契約を迫るのは止めて欲しい」

 あたしがそう言うと、キュゥべえは文字通り顔色一つ変えずに首を横に振った。

「やれやれ、どうしてそんな事を僕に言うんだい。そもそも、そうする事で君に何の得があるのかと……」

「言ったっしょ? つべこべ言わずに、まどかに接触するのは止めろとね」

 あたしは、ソウルジェムから槍だけを創り出して、キュゥべえの目の前に突きつけた。

「全く、わけが分からないよ。後、そんな事しても無駄だからね。代わりはいくらでもいるんだから」

「てめえ……何を言ってやがる……?」

 あたしは、キュゥべえの発言にちょっと怖気づいてしまい、後ろに引いてしまった。

「まあ、とにかく。君のその意見に応える事は出来ないね」

「……くそ!」

 あたしは、キュゥべえの答えを聞いてから、躊躇せずにキュゥべえを刺し頃した。
 すると、何故かあたしの隣からやつが現れて、氏んだキュゥべえの元へと移動して、やつの氏体を食べ始めてしまった。

22: 2012/10/18(木) 23:16:45.13
「どういう事だおい……!」

「きゅっぷい。だから言ったじゃないか、代わりはいくらでもいるって」

 キュゥべえのその答えに対して、あたしは頭が痛くなってしまった。

「くそ……どうしたら……」

 あたしは心底、自分の無力さを実感して自分に対して腹が立ってしまった。
 そんなあたしに殺された筈のキュゥべえは、何もなかったかの様にあたしに話し掛ける。

「それにしても、こんな所で遊んでていいのかい? 君がいつもいる公園の方に結界ができて、一人の女の子が迷ってしまったみたいだけど」

 あたしは、キュゥべえのその話を聞いてとても嫌な予感がした。

「一人の女の子って……まさか……!」

「行ってあげないと彼女の命が危ないよ」

「……ふざけんな!!!」

 こんなうざったいやつはほっといて、あたしは急いでいつもの公園へと駆け出した。



 私は公園の奥の方で、使い魔の結界の入り口を見つけてしまった。

「……使い魔の結界ね。どうしようかしら」

 私が魔女を探していると、公園内からそれらしい反応があったので、すぐにここへとたどり着けた。
でも正直な所、この結界に入ろうかどうか、私は迷っていた。

(……魔女はいないけれど……嫌な予感がするから入ってみようかしら……)

 とにかく結界の中の様子が気になった私は、使い魔の気配を察知しながら結界の中へと入っていった。



「いやあああぁぁぁぁ!」

 夜の街並みに沢山の道路がある結界内でわたしは、黒いサビの様な物体に包まれた使い魔に追いかけられていました。

「ここは一体どこなの? もしかして……この前マミさんやさやかちゃんと一緒に入った魔女結界って所なの……?」

 とにかくわたしは使い魔から逃げきる為に、長く続く道路を必氏になって走りました。

「はあ……はあ……、嘘……!」

 なんと、わたしが通路を曲がった先は行き止まりでした。このままだとわたしは使い魔に取り殺されるしまうかもしれないと思って、
とっても焦ってしまいました。

「いや……そんな……どうして……!? きゃああああ!」

 すぐ近くまで来ていた使い魔が、黒い油のような粘着性の高い液体をわたしに向かって飛び散らせてきました。
その液体をもろにかけられたわたしは、その場で座りこんでしまい動けなくなりました。

「いや……。ぺっぺっ……! 何これ……液体が身体に絡まって重くて動き辛い……!」

 そして、わたしが動けなくなった事に気付いた使い魔が、ゆっくりと私の方へと近付いてきました。

「いや……。お願い……! 来ないでえ!!!」

 わたしの目の前まで来た使い魔は、アームの様な手を伸ばしてきて、わたしを掴み上げようと、
そのアームをわたしの首へと近付けてきました。

「ひっ……! ……いやあああぁぁぁぁ!!!」

 わたしはこの時、もうダメだと思って全てを諦めて、目を閉じて絶叫してしまいました。
 ですが、いつまで経ってもわたしの身には何も起きなかったので、ゆっくりと目を開けると、
バラバラに砕かれた使い魔の上に一人の女の子が怖い顔をしながら立っていました。

「……えっ……ほむら……ちゃん……?」

「大丈夫まどか!? どこにも怪我はない!?」

(わたしの事……名前で呼んでくれた?)

 何かの聞き間違えかなとわたしが思っていると、ほむらちゃんは優しい顔に戻って目元に涙をためながら、
わたしに思いきり抱きついてきました。
 そして、わたしの顔や体に怪我が無いか執拗に確認してくれました。

23: 2012/10/18(木) 23:28:53.63
「良かった……。何ともないわね!」

「あの……えと。ありがとう……ほむらちゃん……」

 わたしがそうやってお礼を言うと、ほむらちゃんは安心していたのか可愛らしい笑顔を浮かべてわたしを見ていました。

「ふふ、良いのよまどか。貴方が無事でいてくれたのなら」

(あ……、また名前で呼んでくれた……)

 やっぱり聞き間違えじゃないと思ったわたしは、とっても嬉しくて笑顔になってしまいました。

「えへへ……ほむらちゃん、わたしの事名前で呼んでくれたね……」

「あ……」

 ほむらちゃんは、しまったという顔をしながら、わたしから目を逸らしました。

「えへへへ、変なほむらちゃん。別に目を逸らさなくてもいいのに。わたしは名前で呼ばれるのは嫌いじゃないよ」

「いいえ……別にそういうわけじゃ。 ……! まどか、話は後よ」

 ほむらちゃんはそう言うと、わたしを抱えながら、手榴弾を盾から取り出してピンを抜いてから力強く握り締めました。

「……え、ええ!?」

 ほむらちゃんが本物の手榴弾を持っている事に、わたしは本気でビックリしてしまいました。
 わたしが驚いている中で、道路の向こう側からぞろぞろと大量の使い魔がやってきました。
そんな危険な状況でも、ほむらちゃんはあくまでも冷静でした。
 そして、ほむらちゃんの手の中にある手榴弾を使い魔達の真ん中辺りに投げると、
見事に全ての使い魔を巻き込みながら手榴弾はドカーンと大きく爆発して、使い魔達は木っ端微塵になりました。
 そして、全ての使い魔を倒し終えたのか結界が崩壊していって、わたし達は元の公園へと戻ってきました。

「はあ……怖かった……」

 わたしは、元の公園に戻ってきた事を確認すると一気に力が抜けてしまって、ほむらちゃんにお姫様抱っこされたまま気絶してしまいました。

「……まどか!」

(良かった……気を失っただけみたいね……)



「おいてめえ! まどかに一体何をしやがった!」

 私が気絶したまどかを抱えて安心していると、少し遅れて私達の前に現れた佐倉杏子が怒鳴ってきた。

「……安心なさい。彼女は使い魔との接触の影響で、疲れて気を失っているだけよ」

「そうか。悪かったな……怒鳴っちまって」

 私の話を素直に聞いた佐倉杏子は、申し訳なさそうな表情をしながら俯いていた。
 そんな佐倉杏子を見て、私は意外だと思ってしまう。その理由は、いつもは人の話なんて聞かずに何も考えずに襲ってくるから。
まあ、こんな素直な杏子も悪くはないわねと私は思ってしまった。

「いいえ、問題ないわ。寧ろ、それだけまどかの事を心配してくれているのだから逆に感謝したいぐらいだわ」

「へへ……。あたしからもあんたに礼を言わせてくれ。まどかを助けてくれてありがとう……。あんたはまどかの命の恩人だよ」

 佐倉杏子は楽しそうに笑いながらお礼を言ってくれた。そうして二人で話し込んでいると、突然まどかが目を覚ました。

24: 2012/10/18(木) 23:36:54.57



「うう~ん……。あれ……あたし?」

「おはよう、鹿目さん」

「よう! 怪我は無かったかい?」

 気絶していたわたしが目を覚ますと、制服姿のほむらちゃんと、私服姿の杏子ちゃんが一緒に目の前にいてビックリしてしまいました。

「えっ!? どういう事?」

 わたしは、二人が一緒に目の前にいるのを見て混乱してしまいました。だって、ほむらちゃんはあまり他の子とは協力しなさそうだし、
杏子ちゃんだって一人とで頑張りそうなタイプだし……。

「ふふ、驚いているわね、鹿目さん。貴方ったら、ここで気持ち良さそうに眠っていたのよ」

「あはは! そうそう! そんであたしはたまたまここを通りかかって気になったから来てみただけさ」

 わたしはさっきまでの事を、二人に話してみようかと思いました。

「でも……わたし……、変な使い魔に襲われて……それからほむらちゃんに助けてもらって……」

「鹿目さん、貴方は一体何を言っているのかしら。私はついさっきここに来たばかりよ?」

 ほむらちゃんは、本当に何も知らない感じでわたしにそう言いました。

「えー……?」

「こんな所で熟睡してしまうぐらいだから、あなたは疲れ果てて悪い夢でも見ていたのよ。だから今日はもうお家に帰りなさい……。いいわね?」

 ほむらちゃんは、わたしのことをとっても心配してくれていました。

「うん、そうするね……。それはそうとほむらちゃん、早くわたしを地面に降ろしてくれないかな……。恥ずかしいよ……」

「あら、ごめんなさい」

 謝ってくれたほむらちゃんが、わたしを地面に優しく降ろしてくれました。

(って、どうしてほむらちゃんがわたしの事をお姫様抱っこしてるんだろう……)

 わたしは少しだけ考えてみたけれど、特に何も浮かんではこなかったので、もう気にしない事にして、
笑顔で二人にさよならの挨拶を言いました。

「えへへへ。それじゃまたね、二人とも~!」

「ええ、またね」

「ああ、またな!」

 わたしが嬉しそうに手を振っていると、二人とも笑顔で手を振り返して、見送ってくれました。



 あたしと目付きの悪い黒髪ロングの女は、まどかを公園から見送って、こいつに今後の事でも相談しようかと思った。

「なあ、まだ言ってなかったよね。あたしの名前」

「ええ、まだ聞いてないわ」

「あたしの名前は佐倉杏子。気軽に杏子って呼んでおくれよ」

 あたしがそいつに自己紹介をすると、そいつもあたしに軽く自己紹介をしてくれた。

「私の名前は暁美ほむら、好きに読むと良いわ」

「じゃあ、ほむほむって呼ぶね」

 あたしがふざけながらそう呼ぶと、ほむらは大層驚いて、恥ずかしそうにあたしから目を逸らした。

「……やっぱり、ほむらと呼びなさい……いいわね?」

「へへ、分かってるって! それにしてもほむら……。どうしてあんたはまどかに本当の事を話さなかったんだい?」

 あたしがその質問をほむらにぶつけると、ほむらは悲しそうに俯いてしまった。

25: 2012/10/18(木) 23:44:40.50
「……今はまだ……まどかとは親密になれないから……」

「……どういう事だい……? さっぱりわけが分からない……。しかも、まどかに対して妙によそよそしくしてるしさあ」

「……それ……は……」

 ほむらがあまりにも切ない顔をしていたので、無性に我慢ができなくなったあたしは、ほむらに向かってあたしに相談するように言ってみた。

「何か言いたい事があったらさ、あたしに言ってみなよ」

「いつものあなたらしく無いのね……」

「いつものあたしって……あたしの事を何でも知ってるみたいに……」

 あたしは、ほむらの言う事に少しだけ腹が立ってしまった。だけど、ここで怒ってしまったらほむらの事が何も分からなくなりそうだったので、
今は感情を抑えて話を進めた。

「……とにかく、そんな悲しそうな顔をしているやつをほっておけるわけないしさあ。あたしで良ければ話してよ」

「……あの子には絶対に言わないって約束してくれるなら」

「ああ、約束するよ」

 そうして、ほむらは自分の事を語り出した。ほむらが、時間を遡行して来た事。
他の魔法少女に理由を説明しても分かってもらえなかったという事。キュゥべえと契約した理由。
それから、近々この街にワルプルギスの夜がやって来るという事。

「なるほど……。そりゃ、いきなりそんな話しても誰も信じてくれないよな」

「ええ……。特に疑り深いのが二人もいたから尚更……ね」

「それはあたしも入っているのかい?」

「いいえ」

 ほむらはそう言って、疑り深いその二人の事を簡単に説明してくれた。
 一人目は巴マミ。まあこいつの事はよく知っているからいいとして、二人目の美樹さやか。
ほむらの説明を聞く限りだと、こいつは好きな奴のために願いを叶えたらしい。全く持ってバカな奴だな。
しかも、人を救う為に力を使い続けていると来たもんだからホントに救い様がない。
あたしがそんな事を考えている中で、ほむらは話を続ける。

「まあ、貴女の事はとても信頼しているのだけれどね」

 ほむらがさらりとそんな事を言うものだから、あたしは恥ずかしくなってきてほむらから目を逸らしてしまった。

「……へへ、そうかい。まあ、あたしもまどかと出会わなかったら、今でも自分の事しか考えないバカのままだったのかもね」

 あたしが自虐的にそう言うと、ほむらは何故か申し訳なさそうな顔をしながら俯いてしまい、黙り込んでしまった。

「そんな顔すんなってば。別に今は何も気にしてないんだからさ」

「ごめんなさい……」

「それにしたって、その二人……。マミはまあ分かるんだけど、美樹さやかだっけ? ……気に入らないね。ちょっと焼きでもいれてこようか」

 あたしがそう言うと、ほむらは顔を上げた。

「……やめておきなさい。彼女はまどかの親友なのよ?」

「うっ。そうか……。でもさ、それでもあたしはそいつに、ちょっとばかし言いたい事があるのさ」

 美樹さやかがまどかの親友だと聞いたら、あまり乱暴なマネはやめようかなとあたしは思ってしまった。
だが、魔法少女として生きていくのなら命に関わるぐらい重要な事だから、そいつに身体で覚えさせないといけない、とあたしは思う。
 あたしが真剣にそんな考え事をしていると、不敵な顔をしたほむらが笑っていた。

「ふふ、なんだかんだで貴方と美樹さやかの相性はいいと思うわ」

「……そんなわけあるか!」

「ふふ、ごめんなさい」

 ほむらは少し楽しそうな態度で、あたしに謝ってきた。

26: 2012/10/18(木) 23:52:56.12
「まあ、それはおいといてマミのやつだな……。ほむら、あんたは今、マミの奴とはどんな感じなんだい?」

 マミの話をしたその時、ほむらの顔からは笑顔が消えて、寂しそうに俯いてしまった。

「巴マミは……この時間軸で一番最初に会った時に突き放してしまったし……。それから魔女に殺されそうになっていたのを助けた時も、
何故か向こうは私に良い印象を持ってはいなかったわね……」

 ほむらのそんな話に、あたしは頭が痛くなってきた。

「バカ……。そりゃ、あんたも悪いよ!」

「……ごめんなさい」

 あたしが怒鳴るとほむらは、申し訳なさそうに俯いたまま、あたしに謝ってきた。

「はあ……。まあ険悪になってしまったんならしゃあない。それに、何だかんだでマミはお前に対して借りがあるんだし、
あんたがちゃんとマミに対して謝れば、そんなに問題はなさそうだけどな」

 あたしがそう言うとほむらは驚いた顔をしながらあたしの事をまじまじと見ていた。

「貴方でもそんな考えが出てくるのね」

 そんなほむらの言葉を聞いて、あたしは一瞬殺意が湧いてしまったけど、気にせず話しを続けた。

「はあ……お前ってやつは……。まあ、これでもシスターみたいな事やってたからね。相談事は割と得意なんだ」

 これで大体ほむらとの話は整ったので、あたしはそろそろ帰ろうかと考えていた。

「とにかく、あたしは明日にでも一度、美樹さやかって子の所に行って話をしてくるよ」

「あまり彼女を刺激するのだけは止めてちょうだい」

 まどかに関係する事となると、ほむらは妙に真剣になるなと、あたしは思ってしまった。

「分かってるって。……まどかの親友だもんな。それじゃ、あたしはそろそろ帰るよ」

「ええ、またね」

 そして、あたし達はこの公園を後にした。



 次の日、あたしが繁華街辺りをウロウロしていると、まどかが緑髪の女の後を追いかけているのを見かけた。

「ん? あれはまどかと……誰だ?」

 どうも緑髪の女の様子がおかしかった。

「仁美ちゃん、一体どこへ行くの? ……なんか変だよ?」

「うふふふ、素晴らしい所ですわ」

 まどかに仁美ちゃんと呼ばれた女の眼がおかしかった。……何かに魅入られているような?

(まさか……魔女か!? ……まどかには悪いけど、ちょいと後を着けさせてもらうよ。なあに、危なくなったら命をかけて守ってやるさ)

 あたしはそう自分に言い聞かせて罪悪感を薄めながら、まどかの後をつけていった。



 しばらくまどかの後をつけていると、どんどんと虚ろな目をした連中が集まってきて一緒に歩いて、
しばらくすると小さな工場の中へと入っていき、その中でたむろしていた。

(おいおい。かなり大量にいやがるな……)

「わたくし達はこれから、素晴らしい世界へと旅立つんですのよ~!」

 さっきまどかと一緒にいた緑髪の女が楽しげにそう言うと、まどか以外の奴ら全員がパチパチと拍手をしながら歓声をあげていた。

(……ちっ! 胸糞の悪い事を……)

 あたしがそうやって悪態ついていると、その中の一人の女が液体の入ったバケツを地面に置いてから、その中に何かを混ぜようとした。

(おい……あれって確か……劇物か! まずい! 早く止めないと!)

 あたしが焦って止めに入ろうとしたその時、憔悴しきったまどかが急いでバケツを手に取って窓の方に走っていった。

「それはダメ……。それはダメええぇぇぇぇ!」

27: 2012/10/19(金) 00:04:55.23
 まどかが窓の外に向かって液体の入ったバケツを投げ捨てると、途端にまどか以外の奴らがまどかに襲いかかろうとする。
 それであたしは我慢できなくなって、まどかを助ける為に、まどかの前に姿を現した。

「きょ……杏子ちゃん!?」

「くそ……! 見てられるか! おい、まどか!」

「はひ!?」

 あたしの怒声を聞いたまどかが驚いていたのか肩を竦めてしまう。

「こいつらはあたしが何とかするから、お前はそこのドアから表へ逃げろ!」

「待って! ……その人達を怪我させないであげて!」

「……ああ、分かってる! 友達がいるんだろう?」

 そう言いながら、あたしは緑髪の女の方をチラッと見た。

「うん……。だから、お願い!」

「安心しな。……だから早く逃げろ!」

「うん、分かった!」

 そして、まどかは工場の外へと逃げていった。

「まどかのお願いだからね……あんたらを誰一人怪我させずに無事に連れて帰るよ!」



「はあ……はあっ……!」

 わたしは杏子ちゃんに全てを託して、小さな工場の外へと必氏に逃げました。

「ふう……。ここまで来れば大丈夫……だよね?」

 わたしはそこで安心して、工場の方に振り返って様子を見ていると、変な声が聞こえたと思ったら周りがとつぜん歪んできて、
魔女が作った結界の中へと取り込まれてしまいました。

「え……、嘘……いやあああぁぁぁぁ!」



 わたしが取り込まれた魔女の結界の中には、わたしの心の中がそのまま映ったテレビの様な物と、
沢山のメリーゴーランドが周囲に立ち込めていました。

「なに……何なのココは……。また魔女の仕業なの……?」

 そこでわたしは言いようのない恐怖に支配され、その場を動くことができませんでした。
そんな時、天使の様な使い魔が突如二体現れて、わたしに襲いかかろうとしていました。

「いや、嘘でしょ……! ダメ……。動けない……!」

 自分の手をよく見てみると、わたしの体は絵の様に薄っぺらくなっている事に気付いて、
もう抵抗する気力すら完全に失ってしまい、自己嫌悪に陥りました。

「えへへ……。そうだよね……。バチがあたっちゃったんだ……。わたしはいっつも何もしないでみんなに頼ってばかりで……。
さっきだってそうだ……。杏子ちゃんがせっかく助けにきてくれたのに、わたしは杏子ちゃんの事を何も考えずに逃げてしまって……」

 疲れきっているわたしの事なんてお構いなしに、使い魔達は容赦なく突進してきました。

「そう……これで良いんだよ……。わたしなんていなくなっちゃえば……」

「そんな事ない……!! てやあー!」

「えっ……?」

 さやかちゃんの幻聴が聞こえたかと思ったら、目の前の使い魔達は刃物で切られたように、綺麗に真っ二つになっていました。
 そして、切られた使い魔の後ろからちょっぴりセクシーだけどカッコいい衣装の上に、純白のマントを羽織ったさやかちゃんが姿を現したので、
わたしはとってもビックリしてしまいました。

「……えっ? さやか……ちゃん!?」

「まどか、話は後! 来るよ、ここの親玉がさ……!」

 さやかちゃんがそう言うと本当に上の方から、テレビに羽の生えたような物体が、わたし達の元へと舞い降りてきました。

28: 2012/10/19(金) 00:12:40.09
「何これ……コレが魔女なの……?」

「うん、そうみたい。まどか、少しだけ待っててね。すぐに終わらせるからさ!」

 そう言ってさやかちゃんは魔女目掛けて新幹線のような速さで突進して、剣で居合いぎりでもするかのように、箱形の魔女を斬り付けました。
 そして、魔女はきれいに斜めに真っ二つになり、変な音を立てながら、すぐにグリーフシードへと変化してしまいました。

「……ふう」

 すると結界がぼんやりと無くなっていき、わたし達は無事に元の工場の外へと脱出できました。

「……まどか!」

 悲しそうな表情をしているさやかちゃんが、わたしの名前を呼びながら頬をパチンっと音を立てながら叩いてきました。
さやかちゃんのその一撃はとっても痛かったけれど、すごく暖かかったような気がします。

「……痛い」

「まどかのバカ……! 自分がいなくなればなんて簡単に言わないでよ……!」

「さやかちゃん……ううっ。 ごめん……なさい……!」

 さやかちゃんの悲しんでいる理由が分かったわたしは感極まってしまい、その場で泣いてしまいました。
 そして、わたしの頬を叩いた事を気にしていたのか、さやかちゃんが申し訳なさそうな顔をしていました。

「あたしもごめんね……。まどかの事叩いちゃって……。痛かったでしょう?」

 そう言って、さやかちゃんはわたしの頬を優しく撫でてくれました。

「ううん……良いの……。この痛みはさやかちゃんの心の痛みでもあるんだから……」

「まどか……」

「おいまどか! 大丈夫かよ!?」

 工場の皆をまいたのか、いつの間にか杏子ちゃんが工場の外に来て、わたしの心配をしてくれました。

「いきなり皆の意識が途切れたから何があったのかと……」

「えーっと……。あんたは一体誰?」

 さやかちゃんは杏子ちゃんの事が気に入らないのか、とっても不審な目で見ていました。

「あん? 先輩に向かってその口の聞き方はなってないね……。つーか、そっちから名乗ったらどうなんだい?」

 さやかちゃんと杏子ちゃんはお互いに仲が悪いのか、もの凄い形相で睨み合っていました。
そんな二人を落ち着かせる為に、わたしは二人の間に入ってその場を和ませようと思って、二人の自己紹介をしてあげました。

「あわわ……二人とも落ち着いて! 杏子ちゃん、この子の名前は美樹さやかちゃん。
そしてさやかちゃん、この子の名前は佐倉杏子ちゃんって言うの」

「ちょっ、まどかが勝手に自己紹介しないでよ」

「まどかが勝手に自己紹介すんなよな!」

 二人同時に似た事を言われたわたしはとってもビックリしてしまって、ついつい二人に謝ってしまいました。

「あう……、ごめんなさい」

「そうか、あんたが例の新米魔法少女なのか……」

 杏子ちゃんがさやかちゃんに向かってそう言うと、さやかちゃんはムスッとしながら答えました。

「ああ? 例のって何よ……。まあ、新米なんだけどさ……」

 杏子ちゃんはさやかちゃんのその答えを聞いて、妙に納得した顔をしていました。

「そうかい」

 とにかくわたしは、さやかちゃんがどうして魔法少女になったのか気になってしまい、さやかちゃんに質問してしまいました。

「そういえば……。さやかちゃんはどうして魔法少女に……」

「えっ!? ま、まあちょっと……ね! 心境の変化というか、心変わりっていうか」

 わたしの質問を聞くとさやかちゃんは、何故かとっても焦っていました。
これ以上さやかちゃんの事を困らせるのも悪いと思い、わたしはこれ以上何も言おうとは思いませんでした。

29: 2012/10/19(金) 00:23:34.30
「そうなんだ……」

「……まどか、悪いけどちょっとこいつと話をさせてくれ」

 杏子ちゃんは真剣な表情でわたしを見ました。

「うん……良いけど」

「ちょっとあんた、なに勝手に……!?」

 杏子ちゃんは槍を創り出し、さやかちゃんの喉元へと構えて、さやかちゃんの言葉を遮りました。

「杏子ちゃんやめて!」

「安心してよまどか。こいつもあんたの友達なんだろ? だったら、傷つけるような事はしないから。
……ただし、ちゃんと言う事を聞いてくれるんならだけど」

「……この、調子に乗って!」

「さやかちゃんダメ! 動かないで!!!」

 わたしが大きな声をあげると、何とかさやかちゃんが鎮まってくれました。

「はあ……。それで? あんたはあたしに何が聞きたいわけ?」

 さやかちゃんは虫の居所が悪そうに杏子ちゃんの事を睨んでいました。

「あんたはどんな願いであいつと契約したんだ?」

 杏子ちゃんのその返事に対して、さやかちゃんはあからさまに怒っていました。

「……会って間もないやつに、そう簡単に教えるとでも?」

 杏子ちゃんもそれを聞いて、さやかちゃんと似たように怒りをあらわにしていました。

「……質問の仕方が悪かったね。他人の為に叶えたのか自分の為に叶えたのか、どっちなんだい?」

「……他人の為よ」

 その言葉を聞いて、杏子ちゃんはとてもやりきれないという顔になってしまいました。

「やっぱりそうか……。あんた、バカだろ……」

「……なんだと!」

 杏子ちゃんの一言で、遂に怒り出してしまったさやかちゃんがとっさに剣を創り出して、油断していた杏子ちゃんの槍を弾きました。
 槍を弾かれて激情した杏子ちゃんが、さやかちゃんから距離を取って槍を構え直しました。

「くっ!」

「ふざけないでよ! あんたにあたしの何が分かるっていうの!?」

「分かるよ! 人の為の願いなんてのはろくなもんじゃあないって事がね!」

 杏子ちゃんもそれに応戦して、槍をさやかちゃんに向けたまま、勢いよく突進しました。

「いやあ!! 二人とも止めてえ!!」

 わたしはとっさに、二人の間に割り込んで喧嘩を止めようとしてしまいました。

「……っ!?」

「あぶな!?」

 喧嘩をしていた二人の剣と槍が、わたしの足元にざっくりと刺さっていて、わたしはとっても驚いてしまいました。

「馬鹿野郎! 生身で止めに入ったら氏んじまうだろうが!」

「まどか! あんたなんて事を……!」

 二人の心からの怒りの声を聞いたわたしは、なんだかとっても怖くなってしまい、その場でへたってしまいました。

30: 2012/10/19(金) 00:30:10.07
「あう……ごめんなさい。でもこうしないと二人を止められないから……!」

「全く……どいつもこいつも自分の命を粗末にしやがって……! もういい……帰る!」

 そう言って杏子ちゃんは、この場からどこかへと駆けていってしまいました。

「ふう……まったく……。 まどかはあいつとどこで知り合ったわけ?」

 さやかちゃんはとっても不機嫌そうに、わたしにそんな質問を投げ掛けました。

「うん。えっとね……わたしがトラックに轢かれそうになった時に助けてもらったの」

「そうなんだ……。まあ、そこまで悪いやつじゃあないんだね……」

 さやかちゃんは杏子ちゃんに対して、ちょっとだけ申し訳なさそうにしていました。

「うん。それに昔、杏子ちゃんには不幸があったらしくて……」

「……まどか、その話聞かせてもらえる?」

「えっ? でも……良いのかな……」

 わたしは杏子ちゃんに対して申し訳なく思ってしまい、それをさやかちゃんに話そうかどうか、迷ってしまいました。

「安心してよ、別にその話を聞いたからって何かするわけじゃ無いから……。ね?」

「う、うん……」

 わたしは、さやかちゃんの真剣な表情を見ていると、杏子ちゃんの過去を話さないといけないのかなと思ってしまって、
誰にも喋らない事を約束して、話してしまいました。
 杏子ちゃんの話を聞いたさやかちゃんは、とっても悲しそうな表情をしていました。

「あいつ……」

「だから……杏子ちゃんはとても良い子だから……」

「……分かってるって。杏子と戦う事なんて、あたしにはもうできないよ」

 さやかちゃんのその言葉を聞いて、わたしは嬉しくなってしまい、自然と笑顔になってしまいました。

「わあ~! さやかちゃん!」

 さやかちゃんもさやかちゃんで、いつものように楽しそうに笑っていました。

「あはははは! さやかちゃんは正義の味方なのだ~! ……だから、あたしも今度、杏子にちゃんと話をしてみる!」

「うん!」

 気付くと外も大分暗くなっていたので、わたしはさやかちゃんに自分のお家まで送ってもらってから、そこでさやかちゃんを見送りました。


続くっ!

35: 2012/10/21(日) 13:03:16.67
 工場近辺で魔女の魔力を感じた私は、急いでその場に向かった。

 するとそこには、まどかと一緒に佐倉杏子と美樹さやかがいて、まどかの事を差し置いて何か言い合いをしていた。
私がその場でずっとその様子を見守っていると、とつぜん二人が武器を創り出して頃し合いを始めてしまった。

 二人が武器で斬り合おうとしたその時、まどかが二人の間にいきなり割って入ってしまい、私は相当焦ってしまった。
 このままではまどかが危ないと思った私は、すぐに時間を停めて二人の武器を地面に払ってまどかの足元近くに刺してあげてから、
その場を離れて時間を再び動かした。

 佐倉杏子と美樹さやかは、自分の武器がまどかの横に刺さっているのを見て、相当焦っていたように私には見えたわ。
それですっかり興ざめした杏子はその場を後にしてしまった。
 もうこれ以上は、心配する事は何もないだろうと考えた私は、その場を後にした。



 それから三日ほど経った日、私は巴マミの魔力の波動を探して公園へと来ていた。
その公園の奥に、巴マミの魔力と魔女の魔力の波動を感じたので、その場へと移動した。
 すると、案の定魔女の結界があったのですぐにその中に私は入り込んだ。
その結界内は白と黒の二色の影で構成された様な世界だった。しばらくその結界内を探索しているその途中で巴マミを発見したので、
私は早速彼女に声を掛けた。

「居たわね、巴マミ」

「あら、貴方はたしか……暁美ほむらさん……ね」

 何故か巴マミは、嬉しそうにこちらを向いてきた。私があんなにひどい事をしてきたと言うのに。

「巴マミ。あなたは私があなたにしてきた事をもう忘れてしまったのかしら」

 私がそう言うと、巴マミは悲しい表情を浮かべながら俯いてしまった。

「そうね……。覚えているわ。一番初めに会った時には、あなたを疑ってしまってあんなひどい態度をとってしまった事……。」

 まああの時はまだ、巴マミはキュゥべえの事を信頼していたから仕方がないと私は思った。

「でもあなたはお菓子の魔女結界では、魔女に殺されそうになっていた私の事を助けてくれたわ! その節は本当にありがとう!」

 巴マミが嬉しそうに私にお礼を言ってくれたので、私は優しい表情を浮かべて彼女に向けた。

「いいえ、同じ魔法少女として当然の事をしたまでよ」

 私がそう言うと、また巴マミは悲しそうな顔をしてしまう。

「……でもあの時、私はあなたにどう声を掛けたらいいのか分からずに一瞥して、その場を去ってしまった」

「そう……。でもそれは仕方がない事だわ」

「いいえ。仕方なくなんてないわ!」

 巴マミのその感情を込めた叫び声を最後に、しばらく私達の間に沈黙が続いた。
 そして、落ち着いた巴マミが先に口を開く。

「あの……あの時は助けてくれて本当にありがとう! ……私、貴方がいなかったら今頃は! そして……今まで貴方を疑う事しかできなくて本当にごめんなさい!」

 そう言いながら巴マミは、申し訳なさそうに深々と私に頭を下げてきた。流石にそこまで言われてしまうと私も申し訳なく思ってしまい、
遠い昔の記憶を思い出してしまう。
 まどかや巴マミと一緒に魔女と戦ってきたあの懐かしい日々を。その事を思い出してしまうと、
私の中に自然と優しい感情が芽生えそうになる。

「……巴さん。どうか頭を上げてください。あの時は私も言い方も悪かったんです。……でも、私にはああするしか」

「暁美さん……。貴方は一体……」

 私の口調が変わった事に驚いたのか、巴マミはとても驚いていた。

「……話は後です。奴らが私達の魔力に反応して来たみたいですから!」

 私はデザートイーグルを取り出して、巴マミの後ろに突如現れた黒い蛇のような使い魔を正確に撃ち抜いた。
すると、使い魔はサラサラと消滅してしまった。

「うふふ、そうね。今日はなんだか気分がいいし、暁美さんも一緒だから三分も掛からずに終わらせそう!」

 巴マミはというと、マスケット銃を二丁創り出し、私に左右から飛び掛ろうとする黒いうさぎ頭の蛇の様な使い魔達を見事に撃ち抜き、
消滅させた。

「ええ、今の巴さんなら二分でもいけそうですね!」

 私はこの時とても気持ちが良くて、何とも言えない最高の気分になっていた。

「うふふ、ありがとう。さあ暁美さん、行きましょう!」

36: 2012/10/21(日) 13:10:31.51
「はい!」

 私達は次々と襲いかかってくる使い魔達を倒しながら、魔女の反応のする方向へと駆けていった。



 しばらく走っていると、ついにこの結界の魔女を見つけた。そいつは大きな十字架に願いを込めている聖女の様な姿をしていた。
巴マミはその魔女を見ても、特に緊張はしていない様だった。

「いたわね……。速攻で終わらせてあげるわ!」

「援護は任せてください!」

 私はデザートイーグルに弾を装填して、いつでも手助けをできる準備をした。

「ええ、お願い!」

 巴マミはというと、銃の射程距離まで魔女に近づいていった。そんな彼女に襲いかかろうとする使い魔を、私は正確に撃ち抜いて倒した。

「体が軽い……。こんなに気分が良いのはホントに久しぶり。もう何も怖くない!」

 巴マミが大砲を構えたその時、黒い触手の様なものが彼女目掛けて突き進んでいた。

「巴さん危ない!」

 私は巴マミに注意を呼び掛けたけれど、彼女は余裕の表情を浮かべていた。

「うふふ……もちろんそう来るのは分かっていたわ!」

 そんな巴マミの手前まで触手が迫ったその時、地面から無数のリボンが出てきて、全ての触手を絡め取ってしまった。

「さあ、これでお終いよ!」

 巴マミはリボンで大砲を作り出して、大砲の照準を魔女に合わせる。

「ティロ・フィナーレ!」

 巴マミがそう叫んだと同時に、物凄い轟音を伴いながら大砲の弾を発射させて、見事に魔女を撃ち抜いた。
 そして、魔女はグリーフシードへと変化して、結界が徐々に崩れていく。

「流石ですね、巴さん」

 やはり巴マミの魔法少女としての強さは偉大だと言う事を、私は再認識してしまった。

(でも、ワルプルギスの夜を倒せるかどうかは、まだ分からないわね……)

 ワルプルギスの夜の事を考えてしまうと、どうも気が滅入ってしまう。そんな私の気持ちなど知らないであろう巴マミが嬉しそうに答える。

「ふふっ! 曉美さんにカッコ悪いところ、見せたくないもの!」

 それでも巴マミに悪い気持ちなんてないと私は思うから、何とか笑顔を保つ。
 すると巴マミが申し訳わけなさそうな表情を顔に出して、少し遠慮がちに話しかけてくる。

「暁美さん……。あなたのお話、聞いても大丈夫かしら……」

「はい……。私の知る限りの事は教えます」

 そして私は、巴マミに対して佐倉杏子と同様の話をした。私の話を聞いている時の巴マミの様子は、少し辛そうに見えた。

「そう……なの……。貴方がそこまで一人で苦しんでいるというのに私ったら……」

 巴マミは、とてもやりきれないという表情をしながら俯いてしまった。

「いいえ……良いんです。こんな話、あまりに非現実的すぎて信じないのが普通ですもの」

「ありがとう……。暁美さんにそう言ってもらえると少しだけ気が楽になるわ……」

 巴マミは少しだけ元気を取り戻して顔を上げて、笑っていた。

「……うふふ」

 私は何がおかしいのだろうと思って、少しだけ困惑した表情を浮かべながら、巴マミに質問をしてしまう。

「巴さん、どうかしましたか?」

 私が困惑しているのを悟ったのか、巴マミは申し訳わけなさそうに私に謝ってきた。

37: 2012/10/21(日) 13:15:29.36
「あっ、ごめんなさい……。でも、暁美さんったら……。魔法少女なのに非現実的なんて事言うからおかしく思っちゃって……うふふふ」

「ふふ……確かにその通りです。おかしいですね」

 確かに思い返してみると少しおかしいかもしれないと私は思い、巴マミに釣られて一緒に笑ってしまった。

「うふふふふっ」

「ふふふっ」

「……はあ、おかしい。ねえ、暁美さん?」

「……はい、何でしょうか」

 巴マミがとつぜん笑うのを止めて、真剣な表情をしながら私の目を見ていた。

「私戦うわ……。あなたと一緒にワルプルギスの夜と!」

 巴マミからそう聞いた私は、とても嬉しくなってしまい自然と笑顔になってしまった。

「巴さん……!」

「うふふっ。私だってこの街には思い入れがあるんだもの。ちゃんと守らなくちゃね!」

 私はそのまま、巴マミに頭を下げてしまった。

「本当にありがとうございます!」

「顔を上げて暁美さん。……鹿目さんが平和に暮らすこの街の為にも、私は精一杯頑張らせてもらうわ!」

 巴マミがまどかの事まで考えてくれていた事に、私は感極まってぽろぽろと涙を流してしまった。

「本当に……ありがとう……!」

「暁美さん……」

 私が今まで溜まっていた黒い感情を全て流すかの様に泣いていると、私の事を巴マミが優しく抱きしめてくれた。

「もう大丈夫よ……。あなたが鹿目さんの事を一人で全て抱える事なんてないんだから……」

(暖かい……。こんな気持ちになるなんていつ以来かしら……)

「う……うううぅぅぅ……!」

「よしよし……」

 私はしばらく、巴マミの大きな胸の中でむせび泣いてしまった。
 それからしばらくして、私が涙が止まった事に気付いた巴マミが、ゆっくりと私の身体を離してくれた。

「ふふ。もう大丈夫ね」

「巴さん……ごめんなさい」

 まさかここまで泣いてしまうなんて思わなかった私は、恥ずかしくなってしまい顔を赤らめてしまった。

「……今は頼れる先輩に見えるかもしれないけれど。実は私もね……暁美さんよりも寂しがりやさんなの……」

「はい……。知っています……」

 巴マミは恥ずかしそうに、私の顔から目を逸らした。

「そうよね……。さっきの話だと私だけでなくていろんな事も知ってそうだものね」

「でも、巴さん! 一人が寂しいのは誰でも一緒ですから……巴さんはそれでいいと私は思うんです!」

「暁美さん……」

「だから一緒に戦いましょう。……ワルプルギスの夜だけでなく、どんな時でも!」

 私のその言葉を聞いた巴マミが微笑みながらも涙を流して、その涙を恥ずかしそうに指で拭っていた。

「ふふ……。ありがとう!」

 彼女が落ち着くのを待ってから、私は話の続きを語ろうと考えた。

「巴さん……一つお願いがあります……」

38: 2012/10/21(日) 13:23:20.01
「ええ、何かしら?」

「佐倉杏子の事は知っていますよね」

 その名前を聞いた巴マミの顔には、やりきれないという表情を顔に出していた。

「ええ……」

「実は彼女も、私達と一緒にワルプルギスの夜と戦う事になっているんです」

「そうなの……。それだと私は……もしかしたら一緒には戦えないかも……」

 巴マミは申し訳なさそうにそう言って俯いてしまった。それでも私は、二人の力を借りないとワルプルギスの夜は絶対に倒せないと思って、
何とか彼女の事を説得しようと考えた。

「確かに以前の杏子となら共闘は出来ませんよね……。でも今は……、今の杏子の目的は私や貴方と同じ筈ですから! きっと大丈夫ですよ!」

「佐倉さんが……私達と一緒の目的……?」

 佐倉杏子の目的が私達と一緒だと聞いた巴マミは、なにがなんだか分からないという様子で混乱していた。
そんな彼女に私は、杏子がまどかを助けてくれた時の事を伝える。

「……杏子はまどかの命の恩人なんです。まどかがトラックに跳ねられそうになった時、杏子がまどかの事を助けてくれたから今も元気なまどかがいます。
そして……まどかもまた、杏子の恩人でもあるんです」

「鹿目さんが……佐倉さんの恩人……?」

「どうしてかはよく分からないですけど、杏子はまどかに自分の過去の事を全て話して、まどかがその話を受け止めてくれてから彼女は変わりました」

 その話を聞いた巴マミの表情は、とても穏やかなものだった。

「そう……。佐倉さんは鹿目さんに救われたのね……。本当に良かった……」

「はい。私も本当にそう思います。」

 そして、巴マミの顔が勇ましくなったと思ったら、彼女は小さくガッツポーズをした。

「分かったわ。私、佐倉さんとお話ししてみるわ」

「はい、どうかお願いします」

 私は最高の気分のまま、笑顔で巴マミに会釈をした。

「うふふっ!それにしても凄いわね鹿目さんは……。まるで、全ての人を救おうとする天使みたいね」

「ふふ、その通りですね」

(そう……。彼女は私にとって天使のような存在……。彼女が側にいるだけで私は救われるわ……)



 わたしは学校が終わってから、いつもの様に一人寂しく帰っていました。

「はあ……。最近一人の事が多くて何だかさみしいな……」

 それからわたしは、少しでも気分を晴らそうと考えて公園の方に足を運んでしまいました。

(でも仕方ないよね……。仁美ちゃんはお家の習い事が多くて忙しいし、さやかちゃんは皆の為に魔女退治を頑張っているし……。
さやかちゃんの側に一緒にいてあげたいけど、邪魔になりそうだからどうも声を掛けづらいし……)

「はあ……。何だか自己嫌悪……」

 わたしがそんな事を考えながら公園の中を歩いていると、公園の中にある外れた林の方から何か聞こえてきたような気がしたので、
その場に近付いてみる事にしました。

「え……。うそ……あの二人は!」

 するとそこには、さやかちゃんと杏子ちゃんが変身して戦っているように見えました。

「さあ、来なよ」

「……てやあああぁぁぁぁ!」

 槍を持った杏子ちゃん目掛けて、さやかちゃんは剣を思いっきり斬りつけました。

(うそ……! まさかまた喧嘩なの!?)

39: 2012/10/21(日) 13:30:08.73
 わたしには、それ以外何も考えられなかったので、二人を止める為に精一杯叫びながらおもいっきり走りました。

「駄目ええぇぇぇぇ!!! 二人とも喧嘩は止めてよおぉぉぉ!!!」

 そうして二人の間に割って入ると、二人はわたしの目の前で咄嗟に攻撃を止めました。

「うわあ、バカ!」
「うわああ、まどか!」

 二人がほぼ同時にそう叫んでしまい、わたしはポカーンとしてしまいました。

「……あ、あれ……?」

 なんだか二人の様子がおかしいなと思ったわたしは、首を傾げてしまいました。

「馬鹿野郎! いきなり入ってきたらまどかが大怪我しちまうじゃねえか!」
「バカ! どうしてあんたはそう無茶ばかりするのよ!」

 そしてまた、二人が同時にわたしを怒鳴りつけるものだから、わたしはビックリして『うひゃっ!』と言う変な声を出しながら、
頭を両手で防いでしまいました。

「だって……、二人が喧嘩してるとばかり……」

 わたしのその言葉を聞いた杏子ちゃんが、ばつが悪そうにわたしから目を逸らしました。

「あー……。まどか、これは違うんだよ」

「えっ?」

 一体どういう事なんだろうと、わたしは混乱してしまいました。そんなわたしに、さやかちゃんがわたしが納得する言葉をくれました。

「そうだよ、まどか。杏子はあたしに修行をしてくれてる所なんだ」

「えっ!? ……なあんだ。ビックリした……。って、いつの間に二人ともそんなに仲良しになったの!?」

 二人の関係がいつの間にか良好になっていて、わたしはとっっってもビックリしてしまいました。

「あははは……。まあちょっとね~。ねえ、杏子!」

「あ、ああうん! まあそういう事だよ」

 二人は肩を抱き寄せあいながら、なんだか楽しそうにしていました。

「ああ良かった……。二人が仲良くなってくれて。……でも、ちょっとだけ寂しいかな」

 二人が仲良くすると言う事は、それだけわたしの入り込む場所がなくなるんだと思ったわたしは、
寂しくなってきてそれを顔に出してしまいました。

「まどか……」

 そんなわたしの顔を見たせいか、杏子ちゃんは申し訳なさそうにしていました。

「もう、可愛い奴め~」

 でも、さやかちゃんは杏子ちゃんとは正反対に、楽しそうにしながらわたしにいきなり抱きついてきたものだから、
わたしはとってもビックリして『ひゃあ!』と、変な声をあげてしまいました。

「安心しなよ、まどか。あたし達は親友なんだから、まどかに寂しい思いをさせる訳ないでしょ~」

「そうだよ、まどか。あたしだって、あんたがいなかったらこいつとはこんなに仲良くなれなかっただろうしな」

 二人のその言葉は、今のわたしにはとても温かいし、寂しい気持ちもどこかへと吹き飛ばしてくれました。

「なんだと、このお!」

「ホントの事じゃねーか!」

 わたしがそんな温かい気持ちでいると、いきなり二人の間で子供のような口喧嘩が始まってしまいました。

「ちょ、ちょっと二人とも……!」

「大体おまえ、まどかにくっつきすぎなんだよ!」

「あれえ~? 杏子ちゃんたら、わたしに嫉妬してるのかな~ん?」

 さやかちゃんはそう言いながら、わたしに抱きついている力を少し強めてきました。

「へっ!?」

40: 2012/10/21(日) 13:35:22.85
 そして、さやかちゃんのその言葉を妙に意識してしまったわたしは、恥ずかしくなってきて顔を赤く染めてしまいました。

「ばっ……! 変な言い方はやめろ! ただ……、大事な親友を一人占めするなんて……ズルいぞ……」

 杏子ちゃんも杏子ちゃんで、やたらと顔を赤く染めながらそう言いました。

「ほらねえ、やっぱり杏子もまどかに抱き付きたいんじゃないか~。ああ~、まどかの抱き心地さいこ~う!」

 さやかちゃんの抱きつく力が、よりいっそう強くなりました。

「ちょっとさやかちゃん……! 恥ずかしいよ……」

 恥ずかしがっているわたしがそう言うと、杏子ちゃんがさやかちゃんに怒鳴ってくれました。

「……おいさやか! まどかが嫌がってるじゃんか! 離してやれよ!」

「あれ? まどか嫌がってたの?」

 さやかちゃんは間の抜けた表情でそう言っていたけれど、わたしはさやかちゃんの事を考えてしまい、つい気を使ってしまいました。

「えっ!? ……ううん。そういう訳じゃ……ないけど」

(どうしよう……なんて言えばいいのか……)

「嫌じゃないってさ」

 それを聞いた杏子ちゃんはショックを受けていた様にわたしには見えました。

(杏子ちゃんゴメン!)

「ガーン……! くそ……。もう許さねえぞ、さやか! やっぱりお前とは一度ケリをつけてやる!」

 ショックを受けた杏子ちゃんはそう言いながら、さやかちゃんを睨んでいました。

「ほ~う、やろうっての? 良いよ、受けて立つから!」

 さやかちゃんも杏子ちゃんの喧嘩を買って、わたしから離れて杏子ちゃんの方へと向かってしまいました。

「えっ……。どういう事……? 二人とも友達じゃないの……?」

「まどか、あたしはまどかの為なら誰であろうとも容赦はしないよ!」

「あたしも。まどかの為にも、ここは勝たないとね!」

 二人の暴走に対して、わたしは遂に堪忍袋の緒が切れてしまいました。

「……二人とも。いい加減にしてよ!!!」

 そしてわたしは、さやかちゃんの後ろに素早く回り込み思いきり首の根元にチョップをかましました。
すると、グエッという声と共に、さやかちゃんは気絶してしまいました。

「……えっ?」

 それを見た杏子ちゃんは状況が全く理解出来ていない様子で、
わたしはその一瞬の隙をついて杏子ちゃんの後ろに素早く回り込んでチョークしました。

「うぐっ! ……ギブギブギブ!」

 杏子ちゃんがわたしの腕をトントンしても、わたしは腕の力を弱める事はせずに、容赦なく杏子ちゃんを気絶させてしまいました。
 その後に残るものは突っ立っているわたしと、気絶している杏子ちゃんにさやかちゃんだけでした。

「……うええん……、もうやだよう……!」

 それからわたしは、言いようのない悲しみに囚われ、その場で涙を流してしまいました。



 それからしばらくすると、杏子ちゃんとさやかちゃんの二人は目を覚ましたので、わたしは二人におはようの挨拶を言ってあげました。

「あれ……。あたし一体……」

 さやかちゃんは、自分の身に何が起こったのか全く分からないようでした。

「うーん……。なんかすごく嫌な夢を見ちまった様な……」

 杏子ちゃんも杏子ちゃんで、さっきまでの事は夢として考えていたようでした。

「二人とも! あんなにひどい喧嘩なんかするから気絶しちゃうんだよ!」

 とりあえず、わたしはその場をおさめる為にも、そういう事にしておきました。

41: 2012/10/21(日) 13:39:41.85
「あれ……? なんか……違うような……」

「……いいや。まどかの言う通りだね。あたし達がまどかの事であんな喧嘩をしてしまったのが悪いんだ……。悪かったね、さやか」

「えっ!? ……あ、うん。……杏子、あたしもごめんね」

 そうして二人は手を取り合って謝りあい、仲直りをしていました。わたしはそんな光景を見て、嬉しくなって笑顔になってしまいました。

「ああ、良かった~! 二人が仲直りしてくれて……」

「あははは……」

「へへへ……」

 二人は、とっても楽しそうに笑っている様にわたしには見えました。
それからすっかり仲良くなった二人が修行を再開して、その場をわたしは見守っていました。

「さやか、あたしにいい考えがあるんだ」

「なあに、杏子?」

「たしか、さやかは剣を創れるんだよな。それは、どのくらいの距離まで創れるんだい?」

「うーん……。まあ5メートルくらいじゃない?」

 さやかちゃんからそう聞いた杏子ちゃんは、とっても楽しそうにさやかちゃんに説明をしていました。

「そうか! そのくらいなら、アレができるぞ!」

「アレって何よ……?」

「簡単な事さ。剣を上にたくさん創ってから降らせるんだよ!」

「おお~。なんか楽しそうだ!」

「早速やってみなって!」

 そうして、さやかちゃんから少し前の上空から大量に剣が現れて、その大量の剣の向きを斜め下に固定しました。

「てやあ!」

 さやかちゃんの掛け声と共に大量の剣は前方へと降り注いで、ザクザクっと音を出しながら地面に大量の剣が刺さります。

「……なんかしっくり来ないな」

 その様子を見ていた杏子ちゃんは、少し残念そうにしていた。

「そうだね……。これじゃ威力がなさすぎるよ」

 二人のそんな会話を聞いたわたしは、驚いてしまいました。

「えっ? 今ので駄目なの……?」

「うん、なんていうのかな。これならまだ、自分で剣を投げた方が威力があるかなあ」

 さやかちゃんはちょっぴり悲しそうにしているように、わたしには見えました。

「そうだね。……はあ、いい技だと思ったんだけど」

 杏子ちゃんもさやかちゃんと一緒になって、悲しそうにしていました。そんな二人を見たわたしは、
何かいい方法は無いかと考えて、パッと思いついた事を口にしてみました。

「……あ。それじゃあ、さやかちゃんの身体能力を活かして大ジャンプした後にさっきと同じ事すれば良いんじゃないかな?」

「そうか……! その手があったか!」

「おおう、流石はまどか! あたしの嫁だあ~」

そう言いながらさやかちゃんがわたしに抱きついてきました。

「もう、さやかちゃんったら……」

「コラ! ちゃんと真面目にやれよさやか!」

 杏子ちゃんはまた、すごい形相でさやかちゃんの事を睨んでいました。

「おお怖い怖い。それじゃあ、いっちょやってみますかね~!」

 さやかちゃんはわたしから離れた後に上空へと大ジャンプして、大量の剣を創り出しました。

42: 2012/10/21(日) 13:43:23.24
「……やあ!」

 そして、さやかちゃんの掛け声と共に、大量の剣が斜め下に射出された後、地面にザクザクッと深く刺さりました。

「わあ……。見ただけでもわかるくらいすごい威力だね!」

「ああ。これなら十分使えるぞ。やったなさやか!」

「あははは、確かに使えるけどちょっときついかも……」

 さやかちゃんは苦しそうにしながら、地面に膝をつきました。

「さやかちゃん!?」

 わたしがさやかちゃんに駆け寄ろうとすると、なぜか杏子ちゃんは止めて、さやかちゃんに憎まれ口をたたきました。

「待てまどか! ……おやあ、もうお終いなのかい。さやかちゃんよお」

「……いいや、まだだね!」

 杏子ちゃんの言葉に呼応して、さやかちゃんは立ち上がりました。

「そう、それで良いんだ」

「そんな……。無茶しすぎだよ……!」

「悪いねまどか。嫌な所見せちまって……。でもここですぐにバテる様じゃあ、どの道魔女には勝てないんだ」

 杏子ちゃんは、とっても辛そうにわたしにそう言ってくれました。

「そうだよまどか……。それにこれはあたしが望んだ道……。この道を曲げるくらいなら、最初から魔法少女になんてならないんだから」

 さやかちゃんは辛そうにしているけれど、その瞳にはとっても強い意思が宿っていました。

「……分かった。もう二人の邪魔はしない! そのかわり……本当に危なくなったらすぐに止めてね……」

「ああ……約束するよ。それに魔女退治の前にくたばっちまったら元も子もないからな」

「うん……。杏子ちゃんの言う事ならわたしは信じるよ!」

 わたしのその言葉を聞いた杏子ちゃんは、恥ずかしそうにわたしから目を逸らしながらお礼を言ってくれました。

「お、おう……。……ありがとね」

「ええ~。あたしは~?」

 わたしが杏子ちゃんに信頼している事を伝えた事に、さやかちゃんは不満そうにしていました。

「もちろん、さやかちゃんの事も信じてるよ! ……ちょっぴりだけ」

 わたしがそう言うと、さやかちゃんはちょっとだけ悲しそうな顔をしていました。

43: 2012/10/21(日) 13:46:54.11
「あ、まどかひど~い!」

「へへ、日頃の行いの差だよ!」

「き~! 杏子! もう許さないぞ!」

「なんだ? やるのかい? このひよこちゃんが!」

 二人はまた、こりずに喧嘩を始めてしまいました。

「ふ・た・り・と・も?」

 わたしが悲しい顔をしながら一言そう言うと、二人は落ち着いてからわたしに謝ってきてくれました。

「ゴメン、まどか……」

「ゴメンな……さい」

 二人はとっても大人しくなったので、わたしは嬉しくなって微笑んでしまいました。

「うん。やっぱり仲良しが一番だね!」

『おい、まどかのやつにあたしは逆らえる気がしないぞ!』

『大丈夫。あたしもだから……』

「……? 二人ともテレパシーなんか使ってどうかしたの?」

 わたしがそう言うと、二人は肩をビクッと震わせてから取り繕っていました。

「いやいや、何でもないって!」

「そ、そうだよまどか! あたし達はほら、とても仲が良いからこうやって目で見つめあってたんだ。な、さやか?」

「そ、そうそう! それにあたし達、テレパシーなんか使ってないから!」

 なんだか怪しいなあとわたしは思ってしまったけれど、もうそろそろお家に帰らないとパパを心配させてしまうので、
二人にさよならの挨拶をして帰ろうかと思いました。

「うん……? ならいいんだけど……。あっ、もうこんな時間! わたし帰らないと! じゃあね、二人とも!」

 そして、わたしは二人に手を振りながら急いで走って帰りました。

「お、おう!」

「あ、ああ!」



「……ふう。行ったみたいだね。それにしても、まどかは本当に良いやつだな」

「当たり前でしょ。何たってあたしの親友なんだから!」

「……もっと友達は選ぶべきだね。まどか」

「な、何だとー!」

 あたしとさやかの喧嘩は止まることはなさそうだ。まあ、そのくらいででちょうどいいのかも知れないなと、あたしは思う事にした。

47: 2012/10/22(月) 22:04:31.84
 佐倉さんが美樹さんと一緒になって修行をしていた日から三日後、私は佐倉さんと話を付ける為に彼女と一緒に公園へと来ていたわ。

「珍しいじゃんか。マミの方からあたしを呼んでくれるなんてさ」

 佐倉さんと決別したあの日の時のように、相変わらず彼女は、そっけない態度を私に見せてくれた。

「……ええ。貴方とは一度本気で勝負をしようと思ってね」

 私がそう言うと、佐倉さんが楽しそうに笑っていた。本当に楽しそうにね。

「そうかい……。いいね燃えてきた!」

 それから私達は変身して、お互いに戦う為に距離をとる。

「その代わりひとつだけ約束してちょうだい。あなたが私に負けたら、この街には二度と近寄らないと」

「ああ……。だけど、あんたが負けたらその逆だ!」

 佐倉さんはそう言って、早速槍を構えて突進してきた。

「ふふ、甘いわね!」

 佐倉さんの攻撃を先読みした私は、リボンを創り出して自由を奪おうとした。だけど、
佐倉さんもその先を読んでいたのか真上に飛んでリボンを断ち切り、槍を私に投げつけた。

「へへ、マミの攻撃パターンはもうお見通しなんだよ!」

「そう上手く行くと思って?」

 佐倉さんの投げ付けてきた槍の矛先を、私は正確にマスケット銃で撃ち抜いて弾き、
更に大量のリボンを生成して佐倉さん目掛けて伸ばした。

「そう何度も同じ攻撃を喰らうかよ!」

「だからあなたは甘いのよ!」

「……何だと!?」

 私は創った大量のリボンを佐倉さんの後方へと伸ばして、そのリボンをマスケット銃へと変化させて、素早く大量の弾丸を射出した。

「ぐわああぁぁぁ!!」

 私の放った弾丸は、佐倉さんの背中にもろに直撃した。

「チェックメイトね、佐倉さん」

「なんちゃって」

「えっ!?」

 私の背後から佐倉さんの声が聞こえて咄嗟に後ろを振り向くと、彼女の槍の矛先が私の目前へと迫っていた。

「マミ、今度はあんたがチェックメイトだぜ」

 私の心臓からあと少しの所で、佐倉さんは構えた槍の矛先を止めてくれた。

(私、負けちゃった……)

 佐倉さんに負けてしまって、私はとても悔しかった。でも、それ以上にこの真剣勝負をとても楽しんでいた自分がそこにいたわ。

「佐倉さんあなた……。幻術は使わなかったんじゃ……」

「悪いねマミ。これも、とある女の子を守る為の、あたしなりの覚悟なんだ」

 佐倉さんの瞳には、何があったとしてもその子を絶対に守りきるといった、そんな意思がこもっていた。

「そう……。それがあなたが見つけ出したあなたなりの答えなのね」

 私のその一言で、佐倉さんは寂しそうな表情を顔にして私から目を逸らしてしまった。

「ああ。あたしはもう何も失いたくないから……」

「佐倉さん……。分かったわ。私は負けたからこの街を出ていく。どうか私の分までこの街を……。いいえ、鹿目さんのことを守ってあげて」

「マミ……。お前ってやつは……」

 私は佐倉さんに背中を向けて、その場を離れようとした。でもその時、彼女は必氏に私の事を呼び止めてくれた。

「待ってくれ!!!」

48: 2012/10/22(月) 22:13:23.17
 私は佐倉さんに呼び止められたので、その場で立ち止まってしまった。

「佐倉さん……。私は貴方の事を救う事が出来なかったから……」

 そう。私の声は佐倉さんには届く事はなかった。そんな後ろめたい気持ちを私は持っていたからこそ、
彼女とは向かい合う事が私にはできなかった。

「何を言ってやがる! ……あたしが昔マミに助けられたからこそ、こうしてまどかを守る事ができたんじゃないか……!」

「佐倉さん……」

「それに、あたしはまだ未熟だからマミの助けが必要なんだ! ……だから、一緒にワルプルギスの夜と戦ってくれよ……。お願いだから!」

 佐倉さんの精一杯の言葉に対して嬉しくなった私は、我慢できずにその場で佐倉さんの方を向いて涙を流してしまった。

「ええ……分かったわ!こんな私で良ければ……いくらでもあなたの力になるから……!」

「泣かないでよマミ……。マミが泣いちまうと、なんだかあたしも悲しくなってくるからさ……」

「別に私は……悲しくて泣いてるわけじゃ……ないんだから……」

 佐倉さんと打ち解け合っていると、突然近くから魔女の反応がしている事に、私は気付いてしまった。

「この波動は……魔女のようね」

「……ああ、行こうぜマミ! それにしても、あたし達二人がいるってのに、こんな所に現れるなんて可哀想な奴だな」

「ふふ、本当にね! それじゃあ行きましょう!」

 私達は、魔女の気配がする方へと足早に移動した。

 そうして見つけた結界の入り口から中に入ってから、私はひどく後悔をしてしまう事になる。
 まさか、またあの魔女と対峙する事になるなんて夢にも思わなかったから……。



「うそ……。どうして今になって……!」

 結界に入るなり、マミの様子がおかしい事にあたしは気付いて、マミの心配をしてしまう。

「おい、どうしたんだよマミ! 大丈夫か!?」

「……ええ、大丈夫よ」

 マミはそう言うけれど、明らかに辛そうにしていた。

「とにかく無茶はするなよ……」

「……分かっているわ」

 マミの調子が気になるけど、今は早く魔女を倒す為にも、あたし達は結界の先へと進んだ。
 そして、少し進んだ先でとつぜん使い魔が姿を現す。

「お、現れたね。マミ! こいつはあたしが……!?」

 マミは使い魔の姿を目撃するなり、マスケット銃を大量に創り出して、そいつに容赦なく全弾撃ち込みやがった。
それで使い魔のやつは跡形も無く砕け散ってしまった。

「ハア……ハア……」

「おいマミ! そいつは、そこまで魔力を使うほどの相手じゃねえぞ!」

「わかってるっ!」

 マミはやたらときつそうな調子で声を張り上げていた。それがあたしに悪いと思ったのか、すぐに謝ってきた。

「あ……。ごめんなさい……」

「マミ……何をそんなに焦ってるんだい? あたしで良ければ話を聞くからさ……」

「で、でも私は……」

 マミはあたしの事を信用していないのか、申し訳なさそうにまごまごとしていた。

「そうか……。あたしには言いたくないか……」

 あたしが悲しみながらそう言うと、マミは必氏になってあたしのその言葉を否定してくれた。

49: 2012/10/22(月) 22:21:19.35
「いいえ、違うの! ……ただ、こんな話をしたら絶対に嫌われるから……。誰であっても……」

 マミは、本当にやり切れないという表情を顔に出しながら俯いてしまった。

「……マミはあたしの事を信用してないのかい?」

「え……?」

「あたしはマミからどんな話を聞いたとしても、マミの事を嫌いにはならないから……。絶対に!」

「佐倉さん……。分かったわ。話すわね……」

 あたしに話してくれる覚悟を決めたマミは、少しだけ元気を取り戻していた。
 そして、過去にこの結界内にいる魔女に攫われた子供を助ける為に結界に入ったけれど、今のように銃を作る事ができる力が無いせいで、
魔女相手とは相性が悪くて、その魔女に子供を攫われたまま結界から逃げ出しててしまったと言う話を、あたしに話してくれた。

「あたしは見捨ててしまったの……。あの子の事を目の前にしながら……!」

「……バカやろう!」

「えっ……?」

 マミはどうしてあたしに怒鳴られたのか分からずに、その場で唖然としていた。そんなマミの為に、あたしはとても必氏になっていた。

「マミは何も悪くないじゃないか! ただ魔女を倒す力が無かったってだけで、その子を助けにいったのは事実なんだろ!?」

 あたしのその言葉に、マミは静かに首を縦に振ってくれた。そしてあたしは、マミに話を続ける。

「だったら、マミが気にする事なんて何もないさ! あるとしたら、これからは誰も犠牲にしない様にする為に、ひたすら強くなる事なんじゃないのか!?」

 あたしは自分で思っているよりも、感情を込めながら思いの丈を叫んでしまった。

「佐倉さん……私は……。これから一体どうしたらいいのかしら……?」

 それでも弱気なマミの事を、あたしは引っ張ってあげようと思いマミの為に提案をした。

「そんなの決まってるさ! とりあえず、その子のかたきをあたしと一緒に取ろうぜ! ……自分の心の弱さにケリをつける為にもさ」

「分かったわ……。行きましょう、佐倉さん!」

 マミの声には元気が戻ってきていた様に、あたしには見えた。

「おう! それじゃあマミ。ここの指揮はあんたに全部任せるから、あたしの事をしっかりと導いてくれよ!」

「任せて!」

 そうして気合を入れ直したあたし達は、さらに結界の奥へと進んでいった。
 すると、マミが嫌な気配を察知したのか私に命令をしてくれた。

「佐倉さん。向こうから使い魔が沢山やってくるから、あなたは私の背中を守ってちょうだい!」

「ああ、分かった!」

 マミの言う通り、前方からハイエナの群れの様な数の使い魔共が現れた。
 そしてマミは宙に舞って、いくつものマスケット銃を創り出し、照準を使い魔共に合わせる。
 そこに一体の使い魔がマミに向かって何かを飛ばそうとしていたので、すかさずあたしはそいつに槍を構えて飛びかかった。

「やらせるかよ!」

 あたしが、槍を縦横無尽に操ってそいつを倒れさせると、その使い魔は地面に向かって何かを飛ばしたせいで弾け飛んでしまった。

「へっ、無様だね!」

「佐倉さん、下がって!」

「おうよっ!」

 マミの注意を聞いたあたしは、使い魔共からすぐに離れた。
 そして、マミが宙に浮いている全てのマスケット銃から弾を全弾発射した。
 すると、爆音と共にすごい爆発と衝撃があわさって、全ての使い魔共を跡形もなく吹き飛ばしてしまった。

「ひゅー。マミったら容赦ないねえ」

「別に情けをかける相手でもないでしょう?」

 マミは余裕の表情でそう言ってたんで、あたしもワザとふざけてみた。

50: 2012/10/22(月) 22:28:24.08
「おお、怖い怖い」

「もう……。ふざけてないでさっさと魔女の所へ向かうわよ」

「あいよー」

 あたしとマミは、そんな楽しいやり取りをしながら、結界の奥へと進んでいった。

 そうして結界の最深部に辿り着くと、錆びたバイクの様な魔女が姿を現した。

「……いたわね」

 やっぱりマミは過去の恐怖に囚われていたせいで、少しだけ気を高ぶらせていた。

「……マミ、とにかく落ちついて戦えよ。見た目程あいつは強くはなさそうだしね」

「ええ。……ありがとう佐倉さん。もしも貴方がいなかったら、私は憎しみに囚われたまま何をしでかすか分からなかったわ」

 マミはいつものマミらしくなく、あたしに対して素直にお礼を言ってくれた。

「……気にすんなって。マミがそんな感じだとあたしも調子狂うじゃんか」

「ふふ、それもそうよね。……それでは、こちらに気付いた魔女さんを倒すとしますか」

 魔女はあたし達の存在に気が付くと、自分の身体を纏っていたどす黒い錆びを周囲に飛び散らせ、
魔女らしくない綺麗な銀色のバイクの姿へと変化した。そして、こちらに突っ込んでくる。

「遅いぜ!」

 突っ込んでくる魔女の攻撃をあたしはサッとかわして、槍をヌンチャクの様に縦横無尽に操り、魔女をこけさせて動きを封じた。
すると、魔女のタイヤの部分がなさけなく空転して、地面をギュルギュルと擦っていた。

「マミ、今だ!」

「ええ!」

 威勢のいい返事をしたマミが大砲を創り出し、照準を魔女に合わせる。

「……ティロ・フィナーレ!!!」

 マミは、いつも以上に気合の入った声をあげながら魔女目掛けて巨大な弾を射出した。
その弾は見事に魔女を貫き、グリーフシードへと変化する。

「流石だぜ、マミ!」

「佐倉さんと私の二人でかかれば、どうという事はない相手だわ」

 そうして結界が崩れて元の公園の風景へと戻っていく。

「ごめんなさい……。貴方の事を助けてあげられなくて……」

 そう言いながらマミは、その場にしゃがんで目を瞑ってから手を合わせてしまった。

「マミ……」

 あたしは持っていたお菓子の箱を一つ、マミの前にそっと置いた。

「その代わりというと変だし、自己満足になるかもしれないけれど……。私はこの街を……みんなを必ず守りぬくから。だから、どうか安らかに眠って……」

 マミは手を合わせたまま、黙祷を続けた。

「マミ、その子はきっとあんたを恨んじゃいないさ。むしろ、ここまで思ってくれる奴がいて、その子は感謝してるんじゃないか」

 マミは黙祷をやめて、寂しそうな顔をしながら立ち上がった。

「……そうだと良いのだけれど」

 そんなマミの顔を見てると、あたしは自然とマミの事を励ましたくなる。

「バカだね、そうに決まってるじゃないか。何たってこんな美人にずっと思われてるんだぜ? それはもう、男の子冥利に尽きるって奴じゃあないか」

 あたしがそう言うと、マミは恥ずかしそうに顔を赤くして、あたしから目を逸らした。

「もう……。私はそんなに美人じゃないわ……」

「あはは! 照れるなよマミ~。あたしがもしも男なら、あんたの事をほっておかないって!」

「……ふふ。ありがとう佐倉さん。なんだか私、とても元気が出てきたわ」

 マミに元気が戻ってきてくれた事に対して、あたしは嬉しくなり自然と笑いがこみあげてきた。

51: 2012/10/22(月) 22:33:42.70
「へへ、どういたしまして」

「でもあなたのその言動……。きっと男の子ならたらし確定よ?」

 マミからそう聞いて、なんでか分からないけど、あたしはマミから目を逸らしてしまった。

「えっ? ……あはは! そんなわけないじゃないか~。あたしはこう見えても一途だよ~?」

「……怪しいわ。鹿目さんを助けた時もこんな感じだったんじゃないの?」

 マミにそう言われて振り返ってみたあたしだが、そんな記憶はなかった……と思う。

「いやっ? ……そんな事ないと思うけどなあ」

 あたしはそれから少し考えてみたけど結局のところ、よく分からなかった。

「そう……。天然なのね」

「……え? 天然って?」

 マミが何を言っているのか、今のあたしにはさっぱり理解できなかった。

「……いいわ。佐倉さんが優しいって事には変わりないもの!」

 マミがいきなりそんな事を言うもんだから、あたしは小っ恥ずかしくなってしまって、おもいきりマミから顔を逸らしてしまった。

「バッ! 別にあたしは優しくなんか……」

「ふふ。照れちゃってカワイイわ……」

 マミはうっとりしながらあたしの事をからかってきやがった。

「か、カワイイって言うなー!」

「うふふふ。貴方のその反応、とっても面白いわ!」

「むきー!」

 あたし達は、そんなしょうもないやり取りを続けていた。でもそのやり取りは、あたしにとっては楽しくて楽しくて仕方が無かった。



 マミと仲直りをした三日後、あたしはさやかやマミと一緒になって、ワルプルギスの夜に備えて作戦会議をする為にほむらの家へとやって来ていた。

「みんな、来たわね」

「ああ、約束通りにな」

 でもあたしは、一人の桃色の髪をした女をほむらの家で目の当たりにして、違和感を抱いてしまった。

「あ、みんなお待たせ! お茶の用意が出来てるからあがって~」

 そう。なんとあたし達より先に、まどかがほむらの家に上がり込んでいたんだよ。それであたし達三人はひどく驚いてしまった。

「なっ……まどか!?」

「ちょ、ちょっと!? どうしてまどかがほむらの家に……」

「曉美さん。私もこの件を詳しく知りたいわ……」

 まどかの事で驚いてるあたし達がほむらを問い詰めていると、やつは困った顔をしてしまう。

「ちょっと待って。今説明を……」

 ほむらが何かを喋ろうとするのをまどかは遮って、ほむらの前へと出てきた。

「ううん、わたしが説明するよ!」

「あ、ああ……」

 あたし達は、まどかの勢いに負けて黙ってしまった。
 それから、まどかが笑顔でお茶を持って来てくれるらしいから、あたしは素直に待つ事にした。。

「みんなは居間の方で待っててね。お茶がぬるくなっちゃうし、すぐに持ってくるよ」

「それなら私が……」

 まどかの代わりにお茶を持ってこようと、ほむらがまどかの方に近付いていった。

52: 2012/10/22(月) 22:41:54.51
「ううん、いいの! ほむらちゃんもワルプルギスの夜と戦う為の大事な戦力なんだから、ここはわたしに任せてみんなと寛いでいてっ!」

 まどかに申し出を断られたほむらは、寂しそうにトボトボとこちらに戻ってきた。

「なんだい。やけに張り切っているじゃないか、 まどかのやつ」

「ええ……。わたしは魔法少女じゃないからその分みんなを元気付けるの、と言ってやたらと頑張っているわ」

 ほむらのまどかの声真似は、予想以上に似てなくてあたしは吹きだしそうになった。でも、さやかとマミは何故か何ともなさそうな事にあたしは
妙な違和感を感じてしまったが、気にせず会話を続けた。

「あはは……。まあ、まどからしいけどね」

 あたしは、ここ二週間程でまどかの性格がよく分かってしまったよ。

「ふふ。鹿目さんったら案外、意地らしいのね」

「まあ、ああ見えてすごくガンコな所が有りますから……」

 さやかはさやかで、少し面倒臭そうな顔をしながらそう言っていた。

「……まあ、そこもまどかのいいところだと私は思うわ」

 あたし達三人で、あれこれまどかの事を話していたら、当の本人がこちらへお茶を持ってやってきた。

「はい、お待たせ~。あと、こっちのたい焼きは巷で有名なたい焼き屋さんで買ってきた美味しいたい焼きだから、みんなで仲良く食べてね!」

「おほ~う! 美味そうじゃないか!」

 うまそうなたい焼きを前にして興奮してしまい、あたしはつい変な声を出してしまった。

「もう。あなたったら相変わらず食いしん坊さんなのね……」

 マミが残念そうな顔でそう言ったもんだから、あたしは食いもんの偉大さをマミのやつに教えてやった。

「当たり前だろう。食いもんがないとこの世は生きていけないんだ! つまり、食いもんが世界を回してるんだよっ!」

 でも、なぜかそれに反応したのはマミではなくさやかの方だった。

「あんたがそれを言うと、すごく重く感じるわ……」

「……ふふ。まどかがわざわざ買ってきてくれたたい焼き……。私が真っ先にいただくわ」

「えへへへ! みんな仲良く食べながらわたしのお話を聞いてね」

「おうよ! ……モグモグ」

 あたしが早速たい焼きに手を付けると、何故かほむらが悔しそうにあたしの顔をジロッと見ていた。

「……杏子、私より先にまどかの差入れを食べるとはいい度胸ね……?」

「ああん? 早い者勝ちじゃないのさ。……モグモグ」

 そうしてあたしは、二個目のたい焼きを頬張った。

「ちょっと……。あなた食べるペースが早すぎよ! 」

 あたしはほむらの言葉なんて気にせずに、次々とたい焼きを口に頬張った。

「ああ~美味いっ! ……あれ、もう無くなっちゃった。あはは、ごめんねほむら~」

 あたしはたい焼きの味に満足して、笑顔になりながらほむらに謝ると、やつはあたしの方をかなり恨めしそうに見ていた。

「あ、あなたって人は! ……もう許さないわ!」

53: 2012/10/22(月) 22:44:57.33
「ちょっとおい、魔法を使……」



「ここからは私の時間よ。それ……」

 私は油性ペンを取り出して、時を停めた杏子のおでこに肉という文字を書いてあげた。

「……これだけでは微妙ね。更に猫のヒゲを付け足そうかしら」

 杏子の頬に猫のヒゲを追加すると意外と似合っていたので、私は少しだけ笑ってしまった。

「ふふ。……案外カワイイじゃない」

 そして、私は元の位置へと戻って時を動かした。



「うなって! ……あれ、何ともないぞ……?」

 すると、何故かいきなりほむら以外のみんなから、楽しそうな笑い声が聞こえてきた。

「あはははははは! 何よその顔~! 超カワイイんだけど!」

(おいおいさやか、気でも狂ったのかよ)

 でもさやかの方をよく見ると、あたしの顔を見て笑っていやがった。

「……え?」

「うふふふ……ふふ! これは……カワイすぎるわね……っ!」

 さやかと同じ様に、マミもあたしの顔を見ながら笑っていた。

「えへへへへ! 杏子ちゃん、猫さんみたいでカ~ワイイ!」

 しかも、まどかまで。

(……は? みんな一体何を言ってるんだ?)

 あたしには、今の状況を全く理解できなかった。

「ふふふ、ふふ……! 杏子、この鏡を見てみなさい……!」

 そう言って笑いを必氏に堪えているほむらが、手鏡をあたしに差し出してきた。

「……え? ええええぇぇ!!?」

 なんと、いつの間にかあたしの顔にはとんでもない落書きがなされていた。

「どういう事だ、おい……。一体どうなってやがる!」

「ぶわっはっはっはっは! もう、ヤバイ……! ツボに入っちゃったよあたし~!」

 さやかが恐ろしいぐらいにあたしの顔を指差しながら笑っていやがった。

(このやろう……てめえにもいつか同じ目に合わせてやる!)

 そんな事を思っていたあたしだが、今はさっさと顔の落書きを消そうと思い直した。

「なっ……。ちくしょう! こんなのすぐに消してやる!」

 あたしはテーブルにあった布巾で、顔を擦った。

「無駄よ。油性ペンで描いたから3日は消えないわ」

 そう言いながら、すました顔をしたほむらがペンを指でクルクルと回していやがった。

「なっ! てめえは……なんてことを……!」

「ふふ、まどかの差入れを全て食べてしまった罰よ」

「……てめえ、もう許さねえぞ!」

 ほむらの暴挙に我慢できなくなったあたしは、ほむらに思いきり飛びかかった。すると、ほむらもそれに応えて取っ組み合いの喧嘩へと発展してしまった。

「何よ! 大体あなたが悪いんじゃない!」

 あたしとほむらの間で、自分のプライドを掛けた真剣な喧嘩が始まったのさ。

54: 2012/10/22(月) 22:50:32.96
「おいおい……。二人とも子供じゃないんだからそんな事で喧嘩すんなよー」

 そんなあたし達を、さやかのやつが茶化す様にそう言いやがった。

「そうよ二人とも。……まあ、中学生だからまだ子供なんだけど……」

「そんな事より二人とも喧嘩は止めてよ! たかがたい焼きで喧嘩するなんて、そんなの絶対おかしいよ!」

 例え、まどかの言葉だろうと、今のあたしには聞く耳を持たなかった。

「ガルルルルル!」

「この! 私のまどかを返しなさい!」

 ほむらは一体何を言っているんだとあたしは思った。だってあたしが食ったのはたい焼きだけだし。

「……二人とも。もしも喧嘩をやめないのなら、わたしは最後の手段を取らせてもらうよ……?」

「ま、まずい! 二人とも早く喧嘩をやめてっ!」

「このままだと……あなた達は……」

 さやかとマミの声が聞こえたような気がしたが、あたしはかまわず喧嘩を続けた。

「5……4……0!」

 笑顔だったが、やたらと凄みのあるまどかが、あたし達の間に割って入ってきた。

「なっ?」

「ま……まどか?」

「二人とも……喧嘩は止めて欲しいなって……、わたしはとっても思うのでした!」

 そう言って目を据わらせたまどかが、あたし達の首を両腕で抱えるように締め付けてきた。

「ま、待て! ギブギブギブ!」

「ま、まどか、もっと……もっときつくおねが……ぐぇ!」

 あたしはまどかの腕をトントンしてどうにか止めるように促した。それに比べてほむらは何故か嫌がらずに受け入れていやがる。

「……もう、仕方ないなあ」

 そう言ってまどかは、あたしの首を締めている腕の力を弱めて開放してくれた。ただしほむらの方は、そこから両腕でチョークされてしまう。

「ほむらちゃん……。たい焼き如きで喧嘩を始めるなんて間違ってるとわたしは思うんだ……。それに杏子ちゃんが食いしん坊だって事は、もう分かりきってるでしょ?」

「……っう、うふ」

「あ、きつく締めすぎて喋れなかったかな。ごめんね」

 そう言ってまどかは、少しだけほむらの首を締め付けている腕の力を弱めた。

「……ハア! ……ハア! ええ……ごめんなさいまどか……。でも私は……あなたが買ってきてくれた物を食べたかったから……」

「ほむらちゃん……」

 そして、まどかがチョークをやめて、そのままほむらに抱きつくような体勢になる。

「もう……ほむらちゃんたら……。別にそんな事に拘らなくても、わたしはいつだってほむらちゃんの物なんだから……」

「……はっ?」

 さやかはワケが分からないと言った感じで二人の様子を見ていた。

「……まどかあ!」

「……あ、あたしは認めないぞ! 断じて!」

 いちゃいちゃしている二人を前にして、あたしはついそんな事を口走ってしまった。

「杏子……。あんた一体何を……」

「美樹さん、彼女の事をとめないであげて……!」

 マミは、なぜかさやかの肩を悲しい顔をしながら掴んでいた。

「ごめんなさい、杏子ちゃん……。でもわたしは、ほむらちゃんの事が……」

55: 2012/10/22(月) 22:55:54.13
「いいや! その先は言わなくていいよ……。悪いねまどか……変な事言っちゃって……」

「杏子ちゃん……。それでもわたしは杏子ちゃんの事を家族も同然だと思ってるよ……。
パパとママにも話はしているから、杏子ちゃんさえ良ければいつでもわたしの家に来て良いんだからね」

「まどか……。ありがと……」

 あたしは、まどかのそんな優しさに救われていた。

「待ちなさい」

「え、どうかしたのほむらちゃん?」

「まどかだけに負担を掛けるのはどうかと思うの。だから、たまには私の家にも泊りにきなさい。好きな所で寝ていいから」

「ほむら……」

「私の家だって、いくらでも来ていいのよ。どうせ誰もいないから寂しいし」

「マミ……」

「あたしんちだって、たまになら泊りにきていいから」

「さやか……。ありがとう……みんな!」

 あたしは、みんなの優しさに嬉しくなってしまい、ついウルっとしてしまった。

「うふふっ! こんなに可愛い子猫ちゃんを鹿目さんに一人占めさせるなんて勿体ないわ」

「んあ……?」

 マミがあたしの顔を見て笑うもんだから、さっき顔に落書きされた事を思い出してしまった。

「ば、バカ! こっち見んなー!」

「……仕方ないから落書きを消してあげる」

 そう言って、ほむらはあたしの顔を濡れタオルで強く擦ってきた。

「痛い痛い!」

「さあ、もう取れたわよ」

 あたしが鏡で見てみると確かに消えていた。肉の文字だけ。

「ふざけんな! ちゃんと全部消せよ!」

「嫌よ。だってこんなに可愛いんだもの」

 そう言って、ほむらがあたしに抱き付いてきた。

「バ……! 何をするの……さ」

「あら、抱きつかれるのは苦手なのかしら?」

「そそ、そういう問題じゃねえよ……」

「ふふ、あなたって意外とウブなのね」

 ほむらはあたしをからかって楽しそうに笑っていやがった。
 すると、ほむらの後ろから殺気がするのをあたしは感じてしまう。そいつは影のある笑顔で、ほむらの肩をトントンと優しく叩いていた。

「ほーむーらーちゃーん……?」

 そんなほむらの肩は妙に震えていた。

「ま、まどか……これは違うの……。そう……! スキンシップってやつよ!」

「そう……。それじゃあ、わたしもほむらちゃんにスキンシップしたいなあ~」

「ま、まどか……?」

 次の瞬間、まどかはほむらに対してコブラツイストを掛けた。

「うきゃ……あうっ!」

 ほむらの身体からミシミシとヤバイ音が聞こえてくる。

「どうかな、ほむらちゃん。わたしのスキンシップは?」

56: 2012/10/22(月) 23:01:22.09
「やめ……! ああ……でも幸せ……。でも痛い! 氏ぬ、氏ぬううう!!」

 そんな二人を見ているあたしやみんなは、その場でポカーンとするしかなかった。

「あははは。二人の間にあたしはついていけないや……」

「安心しろさやか。あたしもだから……」

「私も、ちょっとあの二人の関係はどうかと思うわ……」

「まあ、二人が良ければそれでいいんじゃない?」

(でも……なんでか知らないが、無性に腹が立つけどさあ)

 あたしは、自分の腹の底にある何とも言えない感情さえ除けば、さやかの意見に素直に同意できたと思う。

「ああ、そうだね」

「うふふ、そうね」

 あたし達の事などお構いなしに、二人はまだ見せつけていた。
 それから10分程経って、まどかがやっとほむらを解放した。

「ほむらちゃん……。今度わたし以外の子とイチャイチャしたら次はもっとすごい事するからね……」

「はい……。ごめんなさい……」

「あの……。仲睦まじいところ申し訳ないんだけど、そろそろ鹿目さんの事、話してもらえるかしら」

 マミの言葉を聞いたまどかは、あたふたしながらもすぐに取り繕って、話を戻そうとした。

「あ、えと……ごめんなさい……。それでは、みんなにお話をするね」

 それから、まどかは次々とキュゥべえから聞いた話をしていく。
 この宇宙の為に魔法少女になってくれと言われた事。
 キュゥべえの正体。
 魔法少女のおそろしく長い歴史。
 これらの話を、こと細かくまどかはあたし達に教えてくれた。

「そんな……。それじゃあ私達はキュゥべえに騙されていたという事なの……?」

 その話を聞いたマミは、あたし達の中で一番ショックを受けていた。

「うん……。だからわたしはいてもたってもいられなくなって、こうしてほむらちゃんに頼んで作戦会議のついでに話そうと思って、先に来ていたの……」

「そうか……。まああたしにとってはキュゥべえの事なんてどうでもいいんだけどね。一応、あいつのおかげでこの力が手に入ったのは事実なんだし」

 そう。もしも奴がいなかったら、あたしはとっくに飢え氏にしていたのかもしれない。

「確かに……。私もあの時キュゥべえに合わなかったら今頃はここにいなかったのよね……」

 マミだって交通事故の後にキュゥべえに合わなければとっくに氏んじまっていただろう。

「まあ、あたしもそのおかげで恭介の腕を治してあげられた訳だし……」

 まあ、さやかの事はどうでもいいか。本人が満足してるんだし。

「……まどか、本当にそれで全部なのかしら……?」

 ほむらがまどかの事を問い詰めると、まどかが口を濁してしまった様にあたしには見えた。

「……う、うん」

「……まどか、まだ言いたい事があるなら全て言ってくれ。あたし達は全部受け止めてやるから……」

「そうだよ、まどか。全部言いなって?」

「私も……鹿目さんのお話を全て聞きたいわ……」

 あたし達から問い詰められて、まどかはとても辛そうにしていた。



『まどか……。皆が暴走したら、私が全力で止めてあけるから遠慮なく言ってちょうだい』

『ほむらちゃん……。うん……わかった……!』

 私とまどかは、テレパシーを使ってお互いに相談し合った。
 そして、まどかは魔法少女にとって一番辛いであろう話を二人に告げた。

57: 2012/10/22(月) 23:07:54.65
「魔法少女はね……。絶望するとソウルジェムがグリーフシードへと変化して魔女になってしまうの……」

「そうか……」

 佐倉杏子は、まどかの話を聞いても少し寂しい顔をしただけで、特に動揺はしなかった。

「……はっ?」

「うそ……でしょう……!」

 佐倉杏子と違って美樹さやかと巴マミの二人は、まどかの話を聞いてからというもの、かなり動揺していた。

「……二人とも!!! 気を確かにもってよ!!! 絶望さえしなければ魔女になる事なんてないんだから……!!!」

(まずい……! このままでは美樹さやかと巴マミが魔女に……!)

 私はそう危惧していたけれど、二人の反応は意外なモノだった。

「うん……。でもあたしは、こんな大切な事を黙っていたキュゥべえだけは絶対に許せないっ!」

 美樹さやかは、悔しそうな顔をしながらインキュベーターに対して怒りを露わにしていた。

「私は魔女にはなりたくない……。でも……逆に考えれば全ての魔女をこの力で倒して被害を抑えればいいのよね……。
それと、もう私達以外に魔法少女は増やさせないわ。絶対に!」

 巴マミも新たな思いを自分の信念に追加して、激しく燃えていた。
 そして、佐倉杏子は二人とは違って特に何も気にせずに、いつもの様に振舞っていた。

「みんな……それじゃあ!」

 私は、そんな三人の反応を前にして、とても嬉しくなってしまった。

「ああ、どっちにしても絶望する気はないから魔女にはならないって!」

「うん! あたしも杏子とおんなじ考えだよ、ほむら!」

「ええ! むしろ鹿目さんに感謝してもしきれないくらいだわ!」

 三人は本当に嬉しそうに、これからの魔法少女としての生き方を上向きに考えてくれた。

「はああ……良かったあ……。みんな絶望して魔女になるんじゃないかとヒヤヒヤしちゃったよ……」

 まどかは安心して力が抜けたのか、床にぺたりと座り込んでしまった。
 そんなまどかに対して私が手を差し伸べると、まどかは私の手を取って立ち上がる。

「ふふ、まどか。……本当にありがとう。あなたは私達の天使ね……」

「そんな……わたしはなにも……」

 まどかが恥ずかしそうに俯いていると、佐倉杏子や美樹さやかに巴マミが、まどかの事を励ましてくれた。

「そうだぜまどか。……あたしは正直、まどか無しでは生きる事ができなさそうだ」

「あははは、あたしも~。まどかの癒しがないともう魔女になるしかないのだ~」

「そうよ。鹿目さんから魔法少女の話を聞いたからこそ、私は正気でいられたのかもしれないのだから」

 三人がまどかに救われているという話を聞いたまどかは、とても顔を赤くして俯いたまま、もじもじとしていた。

「えへへへ……。何だか恥ずかしいな……」

「ふふ、恥ずかしがらずに胸を張ってちょうだい。そんなまどかを見ていると私達も堂々とできるから」

「うん……! 私は自分を誇ってみるよ!」

 私の言葉を聞いたまどかは張り切りながら胸を張っていた。
 そして、佐倉杏子が私に話しかけてくる。

「あとほむら。あんたはまどかの事を守る為に、ずっと一人で苦労してきたんだろう……? 本当に悪かった!」

 そう言って、佐倉杏子が私に頭をさげてくれた。

「私も……。きっと昔の私のままなら、あなたの事を信用してなかったと思うから……」

「あたしもごめん……。何ていうか、一番あたしがほむらの事を信用してなかったかもしれない」

58: 2012/10/22(月) 23:14:36.88
 三人は、とても申し訳なさそうに私に謝ってくれた。

「すぎた事はもういいのよ……。その代わり、これからは皆でこの見滝原を守りましょう!」

「ああ!」「ええ!」「おうとも!」

 三人から威勢の良い返事を同時にもらった私は、今までにないほどの充実感を噛み締めていた。

「さあ、作戦会議の続きを始めましょう。今回は……」

「待った!」

 私が作戦の先を言おうとすると、佐倉杏子が楽しそうに笑顔で遮ってきた。

「そんなもんは、あたし達にはいらないんじゃない?」

「うふふ、そうよね」

 巴マミも、佐倉杏子に釣られて笑ってしまった。

「そうだよ。あたし達は好き勝手にみんなの事を助け合いながら戦う! ただそれだけでいいんじゃない?」

 美樹さやかの言葉は浅はかの様にも感じるけれど、確かにそれが一番いいのかもしれないと私は思った。
要はワルプルギスの夜のみに集中して倒す様にすればいいのだから。

「ふふ……全くもう。これでは作戦会議の意味がないわね。……ええ。それでは皆で好き勝手に助け合いながら戦いましょう!」

 私のそんな言葉に対して、皆から威勢のいい賛同の声をもらった。

「えへへへ! 皆が楽しそうにしてくれて、わたしはとっても嬉しいな!」

「なにを他人事みたいに言ってるのさ」

 杏子がそう言うと、まどかは何の事か分からずに戸惑ってしまった。

「え?」

「まどかだってあたし達の大切な一員なんだからな! ……だから、全てが終わったら、また一緒に遊ぼうぜ!」

「そうだよまどか! あたしも杏子の意見に大賛成だね! まどかを一人寂しくさせたり、ほっとくなんてできないって!」

「杏子ちゃん……。さやかちゃん……」

 まどかは二人の優しい言葉を聞いて、今にも泣きそうな顔をしていた。

「ええ。この戦いが終わったら、私の家で皆でお茶会をしましょう! もちろん、鹿目さんも一緒にね!」

「マミさん……」

「そういう事よまどか。……どうか、私達のワガママに付き合ってちょうだい」

「ほむら……ちゃん。みんな……。本当にありがとう……!」

 まどかが嬉しさのあまりに遂に泣きだして顔をくしゃくしゃにしてしまう。
 そんなまどかを私達四人は、一緒になって抱き合った。

「まどか。そう言う訳だから、あたし達は絶対に無事に帰って来るよ。必ず!」

「そうだよ~。だから、まどかはあたし達の無事を祈ってて!」

「私達四人が一つになれば、倒せない魔女なんていないわ!」

「まどかが私達の武運を祈ってくれているだけで、私達の中に無限の希望が湧いてくるのだから、私達は絶対に絶望する事はないし、氏ぬ事もないわ!」

「うん……! わたし、みんなの事をずっと……祈って待っているから……!」

 それから私達五人は楽しく会話をしながら、巴マミがこっそりと持参していたケーキを五人で仲良く分け合って、
最後の戦いの前に心の準備をしっかりと整えた。



続くっ!

61: 2012/10/25(木) 22:09:16.13
 そして、遂にワルプルギスの夜がこの街に襲来してくる最後の審判の日がやって来た。
 私と一緒になって佐倉杏子や巴マミに美樹さやかは嵐の中にいた。

「みんな、準備は良いかしら?」

 私がそう言うまでもなく、みんなの覚悟はできているだろうけど、ここは士気を高める為にもあえて確認した。

「ああ、覚悟はしている!」

 佐倉杏子は武者震いしている様で、気持ちが高ぶっていた。

「あたしも……、正直負ける気がしないわ!」

 美樹さやかは、怯えている様には見えたけれどおそらく佐倉杏子と同じだと思う。

「ええ……流石に震えが納まらないわね。……でも一人じゃないからそこまで怖くはないわ!」

 巴マミの意見には私も大賛成だった。一人で戦っている時とは違って、妙に身体が軽いもの。

「ふふ。私も巴さんの意見に同意です……。こんなにも怖くなく戦えるなんて初めてだわ!」

 そんな会話を続けていると、ついにワルプルギスの夜が耳に残る不快な高笑いを続けながら遠くの方に姿を表した。
そいつは大きな歯車の下に、のっぺらぼうな人形を逆さにぶら下げたような姿をしていた。

「さあ、奴が姿を表したぞ……!」

 流石の佐倉杏子でも、そいつを目の当たりにすると少し及び腰になっていた。

「おうよ!」

 美樹さやかもまた、ワルプルギスの夜に対して恐れおののいていた。

「さあ皆、行きましょう!」

 そんな二人を元気付ける様に、巴マミが声掛けをしていた。

「ええ! ……みんな分かってるわね。こんな所で氏んではダメって事」

 私がそう言うと、みんなが笑顔になって威勢のいい返事を私に返してくれた。
 すると、大量の使い魔達が私達の目の前へと姿を現し、杏子は真剣な表情に変わって大声をあげた。

「おい! 使い魔がやって来たぞ!」

 次々と現れる使い魔達の特性は、近接戦闘を得意とする格闘系や、遠距離を得意とする魔術師系に、
その使い魔達のサポートを専門とする支援系と、とにかく様々だった。

「あっちの使い魔はあたしが相手するね!」

 美樹さやかはそう言って、私達から少し離れた所にいる一体の格闘タイプの使い魔へと特攻し、持ち前の剣技を活かして斬りかかる。

「てい!」

 美樹さやかの攻撃は正確に使い魔を捉え、特に苦戦する事もなくスパッと斬り倒していた。
 しかし相手も一筋縄ではいかず、魔術師系の使い魔が美樹さやかに杖の様な物を向けて、今にも魔法の弾を撃ち出そうとしていた。

「ふふ、そんな攻撃の遅さでは私の敵ではないわね」

 美樹さやかを守る為に、巴マミはマスケット銃を一丁創り出して、魔術師系の使い魔に照準を合わせ弾を撃つと、その使い魔を正確に撃ち抜いた。

「さんきゅー、マミさん!」

「ふふ、後ろは私に任せて」

 美樹さやかと巴マミの二人は、とても楽しそうに合いの手を取っていた。

「あたしもさやかに続くよ!」

 佐倉杏子も美樹さやかと同じように前に出て、槍をヌンチャクの様に自在に操り、複数の使い魔達を同時に薙ぎ倒していった。

「ふふ、さすが杏子ね。やるじゃない」

(杏子。何故か分からないけれど、私はあなたには先を越されたくはないわね)

 この時私は、佐倉杏子には負けていられないと思ってしまった。そんな私の心の内など知る由もない彼女が、楽しそうにわたしに話しかけてくる。

「当たり前さ。こんな雑魚に苦戦してちゃ、当然あいつには辿り着けないからね!」

62: 2012/10/25(木) 22:16:24.04
 そう言って佐倉杏子はまだまだ遠くにいるワルプルギスの夜の方を少しだけ見た。

「ええ、その通りね。……はっ!」

 佐倉杏子と会話をしていると、一体の格闘系の使い魔が、私目掛けて飛び蹴りをしてきたので、
私はベレッタM92FSを盾の中から取り出して、その使い魔を撃ち抜いた。
 更に三体の格闘系の使い魔が巴マミに襲いかかろうとしたので、ベレッタM92FSをその場に投げ捨てて、
素早く軽機関銃を盾から取り出し、その使い魔達に照準を合わせて撃ち放って倒した。

「ありがとう。暁美さん」

 巴マミが笑顔で私にお礼を言ってくれたけれど、私は恥ずかしく思ってしまったせいで少し素っ気なく返事を返してしまった。

「問題ありません」

「よし、大分片付いたんじゃ無いかい? おっと、危ないっ」

 佐倉杏子はそう言って、遠くから私を狙い撃とうとする魔術師系の使い魔目掛けて槍を思い切り投げ付けて、見事に貫いた。
 すると、そいつの隣にいた支援系の使い魔がこちらに突進しようと飛んできたので、私は投げ捨てていたベレッタM92FSを拾って、そいつを撃ち抜いた。
 そして、私はベレッタを盾の中へとそっと納めた。

「それにしてもあなたの投擲……すごい飛ぶわね。あなたに兵器なんていらなそうだわ」

 私は、佐倉杏子の身体能力の高さに心底驚いてしまった。

「へへっ。そりゃまあ、あたしが兵器みたいなもんだからね~」

「うふふ、佐倉さんたら頼もしいのね」

 巴マミがそう言うと、佐倉杏子は恥ずかしそうに巴マミから目を逸らしながら、彼女の事を褒める。

「へっ、マミだってすごく頼もしいぜ……」

「ありがとう、佐倉さん」

 佐倉杏子に褒められた巴マミが羨ましかったのか、不満そうにしていた美樹さやかが自己主張する。

「ええ~、あたしはあたしは~?」

 そんな美樹さやかに対して、佐倉杏子は嬉しそうに答える。

「もちろんさやかも頼りにしてるよ。この短期間で心も体も相当強くなっているからね」

「ありがとうっ! 杏子!」

 美樹さやかは佐倉杏子に褒められて、とても嬉しそうにしていた。

「まあ、このベテランのあたしが直々に修行をしてやったからね~。強くならない筈がないのさっ!」

 佐倉杏子はそう言って、鼻高々と笑っていた。そんな彼女の事を美樹さやかは、ジト目で眺めていた。

「ああ……。まあそうなんだけどさあ……」

(美樹さやか。あなたの気持ちよく分かるわ。佐倉杏子ったらいつも一言多いものね)

 私は珍しく、美樹さやかに対して同情をしてしまった。
それにしても、みんなの絆がここまで深まっていると考えてしまうと、何か感慨深いものがあると私は思って、自然と笑いが込み上げてしまう。

「ふふ。……さあ、先に進みましょう」

 私がそう言うと、皆が威勢のいい返事を返してくれた。
 そして私達は、更にワルプルギスの夜へと近づいていった。



「あと少しね……」

 私達はワルプルギスの夜に近付いている間にも、使い魔達の相手を何度もしていたせいで消耗していた。

「……やっぱり、雑魚どもも大分増えてきたな……」

「……くっ、なんて数なのさ……」

 見た感じだけで様々な種類の使い魔が20体程いると私は見積もっていた。
 その大群を前にした美樹さやかが、何かを閃いた様に佐倉杏子に話しかけていた。

「よし……。杏子、あたしはアレを試そうと思う!」

「ああ、アレか……! よし、マミ! ここはさやかに任せるんだ!」

63: 2012/10/25(木) 22:24:43.43
 沢山の使い魔を倒していたせいで大分消耗していた巴マミがマスケット銃を創り出そうとすると、佐倉杏子が止めに入った。

「ええ、わかったわ。それでは美樹さん、フォローは任せて!」

「マミさんお願いします! ……てやあああ!」

 美樹さやかは叫び声と共に上空に高くジャンプした。それから大量の剣を美樹さやかの周囲に創り出して、その剣先を使い魔達に合わせていた。

「喰らえええぇぇぇ!!」

 美樹さやかがそうして叫び声をあげた瞬間、その大量の剣が地上に大勢いる使い魔達に降りかかる。
 その大量の剣は、ザクザクと使い魔達を貫いて、地面に深く刺さり込んでしまった。
だけれど精度がやや悪かった事もあって、数体の使い魔が無傷の状態で残っていた。

「残りは任せて!」

 巴マミはすぐに、創り出していたマスケット銃を撃ち放って数体の使い魔を撃ち抜いた。

「ヤバ! こっちを狙い撃とうとしてる使い魔が大量にいやがる!」

 佐倉杏子が見ていた方向には、魔術師系の使い魔達が密集して、こちらに杖を向けて魔力を込めていた。

「……ここは私が!」

 私はRPGー7を取り出し、使い魔達を全て巻き込む様に照準を合わせた。

「よし……。これだけ纏まっていれば爆風で吹き飛ばせる!」

 そして、私はRPGー7の弾を発射させた。すると、大量の使い魔の群れの真ん中に命中し、ものすごい爆発と共に使い魔全てを巻き込んだ。

「ヒュー! すごい威力じゃんか!」

 RPGー7による大爆発を見ていた佐倉杏子が、とても楽しそうにしていた。

「魔法を使わないで、この威力なんだから流石よね……」

 巴マミは近代兵器の威力の凄さに驚嘆していた。

「あははは……。あたしはあの技を使うのに相当疲れるってのに、全ての使い魔を倒せなかったんだよねえ……」

 美樹さやかもまた、巴マミと同様に驚いていたけれど、自分の弱さに対して不満そうにしていた。
 そんな巴マミと美樹さやかを見ていると申し訳なくなってきた私は、二人に対して謝ってしまった。

「……ごめんなさい。でも私は武器を使わないと、時を停める事ができるだけのただの女の子だから……」

 私は自分のそんな行動に対していたたまれなくなってしまい、その場で俯いてしまった。すると、巴マミが私の事を励ましてくれた。

「……暁美さん。どうか顔を上げて? 私は別に貴方を責めるつもりなんて全く無いわ。
暁美さんの戦い方がどうであれ、その目的は私達と一緒なのだから」

「巴さん……」

 巴マミに続いて、美樹さやかも私の事を励ましてくれた。

「そうだよほむら。それにあたしだって、精々剣を創るか傷を癒す事ぐらいしかできないんだよね~。
だから、あたしはその力を最大限活かしてやるって思っているよ。例えその力に限界があるとしてもね」

「さやか……」

 そして佐倉杏子が私の肩に、ポンと優しく手をのせてきた。

「まあ、そう言う事だ。みんなそれぞれ得意な所があるからこそ、そこを活かして生きるしかないワケじゃん。
だから落ち込んでる暇があったらさ。サッサと奴を倒しに行こうぜ!」

「杏子……。分かったわ! 私はもう自分の行動に迷わない! そうでないと折角の兵器の威力も半減するものね!」

「いやあ、それはどうかなあ……」

 美樹さやかが何かを言いたそうだったけれど、私は気にせずに話を続けた。

「それでは行きましょう……みんな! ……これが最後の戦いになるから!」

 私がそう言うと、みんなは片手を思いきり挙げて威勢のいい返事を私に返してくれた。



 ついに私達は、ワルプルギスの夜が手の届く所まで近付いていた。それでもあいつは何事もなかったかのように、
ただひたすら面白おかしく笑い続けていた。

「くそ……。改めて見るとデカいねホントに……」

64: 2012/10/25(木) 22:30:30.96
「こんなのにあたし達……。本当に勝てるのかな……?」

「分からないわ……」

 ワルプルギスの夜を目前にして、三人はひどく怯えてしまった。でもそれは仕方がない事。だって今の万全な私でも、
こいつを目の前にすると一気に士気が下がってしまいそうになるから。
 それでも私は怯えている三人を元気付ける為にも無理やり大声をあげた。

「みんな! ここで弱気になってはダメよ! まだ始まってもいないのだから!」

「そうは言うけどさ……。やっぱり怖いものは怖いよ……」

「そうよ……。こんなの相手に攻撃が効くかどうかも……」

 それでも美樹さやかと巴マミは気が滅入っていたせいで弱気な発言をしてしまう。
そんな二人を目の当たりにした佐倉杏子は、二人に対して悪態をついた。

「……だったら、二人はそこで見ていな? こいつはあたしとほむらで何とかするからさ。なあ、ほむら?」

 私も佐倉杏子に倣って、二人に対して悪態をつく。

「……ええ、そうね。ここで覚悟を決める事ができないのなら着いて来ても何の役にも立たないわ」

 私と佐倉杏子の言葉に二人は何も言い返せずに、ただその場で立ち尽くしていただけだった。
 そんな二人をその場に置いて、私と佐倉杏子はワルプルギスの夜へと近付き、攻撃を実行した。

「てやああああ!!」

 佐倉杏子は気合を入れて叫びながら、ワルプルギスの夜相手に槍を縦横無尽に操り叩きつける。
だが、ワルプルギスの夜は不快に笑い続けているだけで、ダメージを受けているのかどうかすら分からなかった。

「……前もそうだったわ。こいつは笑っているだけでダメージを受けているのか全くわからない! だから杏子、怯まずにどんどんこいつに攻撃を繰り出して!」

「ああ! 言われなくても分かってるさ!」

 私も、次々に盾の中に補充していた兵器を取り出した。始めは軽機関銃を取り出して、ワルプルギスの夜に全弾撃ち放った。
だけど、あいつは相変わらず笑うだけで効いているのかが全く分からなかった。

「くっ……、次はこれを食らいなさい!」

 そう言って私は、持っている手榴弾を全て取り出してワルプルギスの夜の頭部に投げ付けた。
すると、全ての手榴弾が一気に爆発して相当な爆風を生み出した。
だけど、ワルプルギスの夜は爆風を物ともせずにただ不快に笑っていた。

「くそ! あたしの攻撃じゃ本当にダメージを与えてんのか分からねえ!」

 佐倉杏子は負けじと、どんどん攻撃を繰り出してはいるものの相手の大きさのせいで滑稽に見えてしまう。

「杏子、大丈夫よ! ……この世に倒せない魔女なんていないのだから!」

「ああ……。そうだよな!」

 私は更に、RPGー7を数本取り出してワルプルギスの夜目掛けて全弾撃ち出した。
その結果、大量の手榴弾の爆発を上回る爆発が巻き起こりワルプルギスの夜が少し傾いた。

「よし……! 効いているわね!」

「ほむら!!! 危ない!!!」

「……えっ?」

 佐倉杏子の叫び声が聞こえたと思ったら、私の斜め真上からビルの瓦礫がそのまま私に降りかかろうとしていた。

(うそ……、間に合わない……!)

 いきなりの事で私は時を停める余裕が無かったので、咄嗟に両腕でガードをするように構えた。
だけど次の瞬間、そのビルはどこからともなく撃ち放たれた大砲の弾によって、跡形も無く崩れ去ってしまった。

「全く、危なっかしくて見ていられないわね」

 私が声の聞こえる方を振り向くと、巴マミが余裕の表情でポーズを構えていた。

「巴さん……!」

 やっぱり来てくれた事に、私は嬉しくなってしまい、自然と笑顔になってしまった。

「ごめんなさいね……。こんなところまで来て怖気付いてしまって……。でも、もう私は迷わない!」

 この時私は、やはり巴マミは私にとっての一番の先輩なんだという事を改めて認識してしまった。

65: 2012/10/25(木) 22:40:13.96
「……本当にありがとうございます。巴さんの事をこんなに危険な事に巻き込んでしまって……」

「話は後よ! 早くこんな事は終わらせてしまいましょう!」

「はい!」

 それから巴マミは空中で留まり、大量のマスケット銃を空中に創り出して照準をワルプルギスの夜へと合わせて全弾撃ち出した。
 すると、すごい轟音を伴いながら爆発が巻き起こり、ワルプルギスの夜の全体の表面が少しへこんでいたように見えた。

「これは……。ダメージが通っていますね!」

「うふふ、だったらもっと撃ち込んであげるわ!」

 そして、私はマミに倣って迫撃砲をワルプルギスの夜の真下に設置した。
 それから巴マミは更にマスケット銃を大量に創り出して、何度も撃ち放ち続けた。

「ハア……ハア……。くそ……! 大分疲れてきた……」

 ワルプルギスの夜に対する連続攻撃による疲れのせいで少し油断をした佐倉杏子に、
突如現れた一体の格闘系の使い魔が飛び蹴りをしようと構えていた。

「……っまず!」

「てやぁ!」

 するとそこに、美樹さやかが叫びながら使い魔に突進して斬りかかる。 見事に使い魔は斜めに真っ二つになって、佐倉杏子は事無きを得た。

「ふう……。サンキューさやか!」

 佐倉杏子は美樹さやかが隣にいる事ですっかり安心して落ち着いていた。

「別に……。あんた達二人だけにいいとこ取られるのは癪だと思っただけだから……」

「へへ、素直じゃないねえ。そんなにさっきあたし達から突き離されたのが悔しかったのかい?」

 佐倉杏子がそう言うと、美樹さやかは恥ずかしそうに佐倉杏子から目を逸らす。

「べ、べっつにい~! ……まあ、ちょっとイラっときたけど」

「まあそう拗ねんなって! ……さやかが一緒に戦ってくれれば百人力なんだからさ」

「ほ、本当に……?」

 美樹さやかは恥ずかしそうにしながら、上目遣いで佐倉杏子の事を見ていた。

「本当さ! だから頼んだぜ、相棒!」

「……おうとも!」

 そして、佐倉杏子と共に美樹さやかも加わってワルプルギスの夜に対して攻撃を続けた。
 それから四人で攻撃を続けているおかげで、大分ワルプルギスの夜の動きが鈍っている様な気がした。
 でも、その分私達の消耗も酷いものだった。私は最後のグリーフシードを取り出して、みんなのソウルジェムの穢れを取り除いてあげた。

「ハア……ハア……さんきゅー……。それにしても、一体いつになったら終わるんだ……!」

 佐倉杏子は疲れきっているせいで、もの凄く辛そうな顔をしていた。

「……きっと……あと少し!」

 私はいつもあいつと戦っていたから何と無くわかるのだけど、あともう少しで倒せると思っていた。

「ええ……。ワルプルギスの夜も大分弱ってきたわ……」

「あはは……。こりゃ凄いや……色々と……」

 巴マミと美樹さやかも、佐倉杏子と同様に疲労困ぱいの様だった。
 そして、私の残りの武器は八八式地対艦誘導弾と指向性散弾だけ。これを上手く使えば倒せるかもしれないと私は思う。
そこで私は最後の作戦をみんなに話す事にした。

「……みんな聞いて。今私が持っている武器は八八式地対艦誘導弾と指向性散弾だけなの。だから、
どうかあいつを上手く川の方に誘導してちょうだい。幸いにもあいつは川の近くにいるから、魔力で叩きつければ問題なく動かせる筈よ」

 私の作戦に対してみんなは少し戸惑って黙ってしまった。すると、美樹さやかが初めに口を開く。

「……わかった。最初はあたしがあいつに剣の雨を降らせるよ!」

「ええ、お願い!」

「美樹さんの次は私に任せて。私もあいつに必殺技を試みるから!」

66: 2012/10/25(木) 22:57:08.41
「お願いします!」

「……最後はあたしが、とっておきの奴をお見舞してやるから楽しみにしてな!」

 佐倉杏子はそう言っていたが、嫌な予感がした私は彼女の事を引き留めた。

「……杏子。貴方の攻撃には私も一緒にサポートするわ」

「んな! ……あたしの力を信用していないってのかい?」

 佐倉杏子は私の支援に対して不満そうにしていた。

「そうではないの。……これにはちゃんとした訳があるから」

 私が悲しみながらそう言うと、佐倉杏子も私に釣られたのか悲しそうな顔になってしまう。

「一体何を……」

「もちろん……。貴方に無茶をさせない為よ」

 私がそう言うと、佐倉杏子は驚いた表情に変わって私から目を逸らした。

「くそ、あの技を知ってやがったか……。分かったよ! 勝手に着いてこい!」

 そして、すぐに佐倉杏子は辛そうな表情へと変わってしまった。

「ええ……。それではみんな! これで最後だから頑張りましょう!」

 私がそう言うと、みんなから威勢のいい返事が返ってきた。
 そして、作戦通り最初に美樹さやかがワルプルギスの夜の上空へと飛び上がり、空中に大量の剣を創り出し、
それらを思いきりワルプルギスの夜目掛けて投げ付ける。

「でりゃああああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 大量の剣は、ワルプルギスの夜に高速で突き刺さって少し高度が下がる。それから、
巴マミがワルプルギスの夜の前へと移動し、いつも以上に大きい巨大な大砲を創り出して構える。

「私のとっておきの攻撃に耐えられるかしら……? ティロ・フィナーレ!!!」

 巴マミが巨大な大砲の弾を撃ち出すと、彼女はものすごい衝撃と反動によって遥か後方へと吹き飛んでしまった。
 そして、巨大な大砲の弾は見事にワルプルギスの夜に命中して川の方へと大きく動いた。
 かなり魔力を消耗する大技を放った二人は力尽きてしまったのか、そのまま地面へと落下していく。

「くっ……! 二人は無事なのか……!?」

「分からないけれど……。ここで私達が手を差し伸べれば確実にあいつを倒せなくなるわ……!」

「分かってるよ! よし、待ってろよ二人とも……。すぐに終わらせるからな!」

 そして佐倉杏子と私はワルプルギスの夜の前へと移動し、佐倉杏子は巨大な槍を創ってその上に乗って構えていた。

「私もお供するわ」

 そして私は、巨大な槍の上に立つ佐倉杏子のお腹に両腕を回した。

「な……!」

 すると佐倉杏子は驚いたが、そんな事は気にせずに私は話を続ける。

「私が時を停めるから、その隙にタイミングを図りながらあいつに突っ込みなさい!」

「……ああ!」

 私が時を停めて佐倉杏子に合図を出すと、巨大な槍事ワルプルギスの夜目掛けて思いきり突っ込んだ。
 そして、巨大な槍がワルプルギスの夜に突き刺さると同時に私は水面へと落下してからワルプルギスの夜の
方向を定めてから八八式地対艦誘導弾を召喚してから時を動かした。

「杏子! ミサイルを撃ち込むからそこからすぐに退避して!」

「おう、分かった……!」

 だけど、佐倉杏子は疲れているせいなのか巨大な槍の上から動かなかった。

「どうしたの!? ……あなた、まさか!」

「……大丈夫。ちょっと疲れただけだ! ほむら、あんたがミサイルの発射準備をしている間にあたしはここから逃げるから気にするな!」

「……分かったわ」

(このままあいつを倒さなければどの道私達は朽ち果てる運命にある……。だから私は迷わない!)

67: 2012/10/25(木) 23:06:09.86
 私は、そう心の中で決心して八八式地対艦誘導弾の照準をワルプルギスの夜に合わせた。

「……杏子、どうか無事でいて……!」

 そして、私は佐倉杏子の無事を祈りながらミサイルを発射した。凄い発射音と衝撃と共に、すぐにワルプルギスの夜へと飛んでいく。
そしてワルプルギスの夜は、私が事前に大量に設置しておいた指向性散弾のある方へともの凄い勢いで飛んでいった。

「お願い……。杏子、無事でいてちょうだい……。そして、どうか上手くいって……!」

 私は、矛盾しているようだけれど杏子の身の安全を考えながらも、指向性散弾が上手く作動してくれる事を心から願っていた。
 そして、私の仕掛けた大量の指向性散弾の方へとワルプルギスの夜は突っ込んでいった。

「……よし。後はこれを押すだけ……」

(でも……。もしも杏子が一緒にあそこにいたら彼女まで巻き添えに……)

 佐倉杏子の事が心配になってしまい、私にはこのボタンを押す事ができなかった。すると突然、佐倉杏子からテレパシーがきた。

『何やってんだほむら! あたしはもうあいつから離れているから早く起爆しろ!』

『杏子! 無事なのね!?』

 佐倉杏子の声を聞いた私は、とても安心してしまった。

『ああ無事だよ! だから頼む! 間に合わなくなる前に!』

『……分かったわ』

 私は、佐倉杏子の無事を祈りながら大量の指向性散弾を起爆させた。すると、今までにない以上の大爆発と爆風が巻き起こった。
 すると、空の色が元通りの青空へと戻っていった。

「ああ……。終わったのね……。やっと……!」

 私は嬉しさのあまりに力が抜けて、膝を地面に付けてしまった。そして、杏子の事を考えて涙を流してしまった。

「ありがとう……杏子……。そして、あなたの事は忘れないわ……」

「……ちょっ! なに人を勝手に氏んだ事にしてやがる!?」

 いつの間にかびしょびしょに濡れた佐倉杏子が、いつの間にか私の横で仰向けで大の字になって寝転んでいるのを私は見て、とても驚いてしまった。

「……えっ!?」

「言ったじゃんか。あたしは無事だってさ」

「ああ……。本当に良かった……」

 本当に良かったと私は心底安心してしまい、涙を流しながらも自然と笑顔があふれてしまった。

「へへ……。それにしても、ほむらがあたしの為にそこまで泣いてくれるなんて嬉しいねえ」

 佐倉杏子のその一言で私は恥ずかしくなって俯いてしまった。

「これも、まどかの為よ……」

 半分は本当にまどかの為だった。実際、佐倉杏子がいなくなってしまったらまどかはひどく悲しんでしまって、あいつに願いを懇願すると思うから。

「ふ~ん、本当にい~?」

 そんな私の気持ちなど全く知らないであろう佐倉杏子が、私の事をからかってくる。
でも半分は本当に佐倉杏子の為に泣いていた事もあって、私は恥ずかしくなってつい悪態をつく。

「……ほっておきなさい!」

 私が恥ずかしさのあまりに佐倉杏子の顔を見られなくなってそっぽを向いてしまうと、
その向いた方向から巴マミと美樹さやかがこちらへと駆けてきていたので、私はとても驚いてしまった。

「二人とも! 無事だった!?」

 巴マミは私達の事を心配していたのか、息を乱しながらこちらへと走っていた。

「おお! ほむらと杏子もどうにか無事みたいだね」

 美樹さやかも巴マミと同様に、私達の心配をしてくれていたようで、少しだけ焦っていた。
 そんな二人を目の当たりにした私は、二人が無事な事に対して安心してしまい肩の力を抜かしてしまった。

「ふう……。二人とも無事だったのね。よかった……」

 私がそうして安心しきっていると、突然佐倉杏子がその場から立ち上がる。

68: 2012/10/25(木) 23:12:51.88
「はあ……。やっと回復したよ!」

 こうして誰一人も欠ける事もなく四人全員が無事に揃っている事に、私は心の底から感動してしまった。
 私が幸せを噛み締めているとと、壊れたビルの向こうから心配で仕方がない様子のまどかが走りながらこちらへとやってきた。

「みんな! 怪我はない!?」

「まどか!? どうしてここが……?」

 まどかがどうやってここまで来たのか疑問に思っていた私だったけれど、まどかの後ろにいるインキュベーターを見て私は確信してしまう。

「……ごめんなさい。みんなが心配だったから、キュゥべえに案内して貰ったの……」

「そういう事なんだ。みんな大丈夫かい?」

 私達は白々しいインキュベーターを前にして、敵意を剥き出しにしていた。

「……今さら、なんの様かしら? もうこの街には魔法少女になりたいなんて女の子はいないわよ?」

 そう、まどかが魔法少女になる事なんて、未来永劫ないと言ってもいいと私は思っている。

「やれやれ。別に僕は君達に対して悪意はないと言うのに」

 こいつの言葉はいつもながら、私の事を苛立たせてくれる。
 そして、こいつの話を聞いた美樹さやかと巴マミもまた怒っていた。

「……ふざけないでよ! あたし達に大切な事を黙っておいて契約させるなんて悪意があるとしか思えないじゃない!」

「……そうよ。私、あなたの事を信用していたのに……」

 美樹さやかと巴マミの言い分に対してインキュベーターは、何も感情を込めずにただ話す。

「その過程がどうであれ、君達は願いが叶ったんだろう? だったら、それでいいじゃないか」

「それは……そうだけど……」

「……」

 インキュベーターの言う事に、二人は言い返す事が出来なかった。

「……正直あんたの事は好きになれないけどさ。この力のおかげで救えるものもあるんだから、あたしはそんなに気にしてないよ」

 佐倉杏子は悲しそうな表情をしてインキュベーターにそう言った。そんな彼女の事を、やつが物珍しそうにしていた。

「杏子。君の様な考えをする子はとても珍しいね」

「……だが、お前が嫌いなのは変わらない! 早くここから消えてくれよ?」

 杏子は鬼の形相でインキュベーターを睨みながら、槍の矛先をやつに向けていた。

「ふう。僕の話を聞く気はみんな無いみたいだね」

「……そう言う事よ。だから消えなさい」

 相変わらず無表情のインキュベーターの事を私は突き放した。すると、やつは私から目を逸らして何処かへ行こうとした。

「まあ良いさ。僕は別の街にでも行って、新たな魔法少女を探すだけだ」

 インキュベーターのその一言で、私達はやりきれない気持ちでいっぱいになってしまい、俯いて黙る事しかできなかった。

「それじゃあ、まどか。さようならだ」

 まどかにのみ別れを告げて去ろうとするインキュベーターの事を、とても辛そうにしていたまどかが突然引き留めた。

「……ちょっと待ってよ。キュゥべえ」

 まどかのその一言を待ってたと言わんばかりに、インキュベーターが振り返りまどかの方を向いた。

「まどか、どうかしたのかい?」

「もうこれ以上魔法少女を増やすのはやめてよ……」

 まどかが目に涙を浮かべながらインキュベーターにそう言うと、やつは残念そうにまどかに話す。

「残念だけどそれは無理な相談だ。もしも僕がそれをやめたとしても、他の誰かがきっと契約を迫るだろうね」

 そんな救いの無い話を聞いたまどかは、とても辛そうにして俯いていた。

「そんな……」

69: 2012/10/25(木) 23:24:01.48
「だけど、君がそれを願って魔法少女になるのなら……」

 インキュベーターがその残酷な言葉を言い終える前に、私は時を停めてゴルフクラブを盾から取り出してきゅうベエを叩き潰した後に、再び時を動かした。

「ひっ……」

 インキュベーターの潰れた氏骸を見たまどかは、ひどく怯えてしまった。

「いい加減にして! これ以上まどかの事を苦しめないでよ……!」

 怯えているまどかを前にしても、私は彼女を慰めようとする事もせず無償に虚しくなってしまい、その場で地面に膝をついて泣き崩れてしまった。

「ほむらちゃん……。ごめんなさい……」

 やり場のない気持ちを持った私の事を、まどかは謝りながら背中から優しく抱きしめてくれた事に対して私はとても驚いてしまった。

「……まどか!」

「そうだよね……。ほむらちゃんが心身を削ってまで苦労して手に入れた世界だもんね……。
それをわたしが勝手に壊してしまったらほむらちゃんが悲しむだけだもの……。だから……わたしは魔法少女には絶対にならないよ!」

 どこからともなく現れたインキュベーターが、まどかのその話を聞きながら前の自分の潰れた氏骸を食べ、残念そうにしながら溜息を吐いていた。

「やれやれ……。それが君の答えかい」

 突然生きているインキュベーターが私達の前に現れた事に対して、まどかは驚きながら見ていた。

「君が魔法少女になりさえすれば、全ての夢見る少女を救えるかもしれないと言うのに」

 そんなインキュベーターの詭弁に対して、まどかは動じる事もなく答える。

「……わたしが魔法少女になってしまったら、ほむらちゃんは救われないじゃない!」

「何事にも犠牲は付き物じゃないかな」

 インキュベーターはしつこく、まどかの事を魔法少女にしようと説得をしていたが、まどかは自分の意志を曲げる事はなかった。

「だったら……。私は一人の女の子の幸せを選ぶ! 他の子の事は他の子にでも任せる!」

 そんなまどかの魔法少女には絶対にならないという意志を感じ取ったのか、インキュベーターは大きな溜息を吐いた。

「ふう……。君にはもう何を言っても無駄みたいだね。分かった。本当にさよならだ」

 そう言い残してインキュベーターは、この場を立ち去ってしまった。
 その途端にまどかの身体から力が抜けて私の背中にぎゅっとのしかかってきた。

「わっ……!」

 その時私は、まどかの心音を背中で感じてしまい妙にドキドキしてしまった。
 そんな私の気持ちなど知る由もないであろうまどかが、私の背中でぐったりとしたまま溜息を吐く。

「はあ……。疲れたあ……」

「まどか……ごめんなさい。あなたを縛り付ける様な言い方をしてしまって……」

 私のこの気持ちは、まどかにとって足枷にならないのかと考えてしまい、彼女につい謝ってしまった。

「ううん……。良いんだよ、ほむらちゃん。わたしはほむらちゃんにこんなにも思われているんだから、他の事なんてどうでもいいの……」

 私は、まどかのその言葉でとても救われたような気がして、嬉しさのあまりに顔をくしゃくしゃにしながら涙を流してしまった。

「ありが……とう……!」

「えへへへ……!」

 まどかは優しく微笑みながら、私の頭を優しく撫でてくれた。

「……ああもう! どうしてあたしはキュゥべえに何も言い返せなかったんだよ……!」

 美樹さやかは、相当悔しそうな様子で髪を掻き乱していた。

「仕方ないわ……。確かに美樹さんと私は、どんな形であっても自分の為の願いが叶ったのだからキュゥべえに言い返せるわけがないのよ……」

 巴マミはとても悲しそうに俯きながら話していた。そんな彼女の意見は、私にも同意できる所があった。

「巴さんの言う通りよ……。私だって結局の所まどかとの出会いをやり直したい、なんてすごく自己満足な願いを叶えてしまったんだもの……」

 自分の願い事に対して嘆いている私達に続くように、佐倉杏子が悲しそうに語る。

70: 2012/10/25(木) 23:30:34.31
「まあ……。あたしだって昔は人の為に願いを叶えたんだ。……そのせいで、散々な目にあってしまったけどね。
でもそのおかげで、ある女の子の命が救えたんだから別にいいけどな……」

 佐倉杏子がそう言うと、まどかはとても恥ずかしそうに顔を赤くして俯いてしまった。

「杏子ちゃん……」

「いくら自分が小っ恥ずかしいからって、まどかの名前を伏せなくてもいいじゃない」

 私は佐倉杏子のキザな態度が気に障ったので、彼女の事をからかう様にそう言った。

「バッ……! 黙ってろ!」

 すると佐倉杏子は照れ隠しをする為に、私に殴りかかってきた。でも私は彼女の拳をサッとかわして更にからかい続けた。

「ふふ。そんなに恥ずかしいのなら最初からまどかの名前を口にすればいいじゃない」

「う……うるさーい!」

 そんな風にじゃれあっている私達を見た巴マミは、とても楽しそうに笑っていた。

「うふふ、ホント佐倉さんたら昔と違って感情表現が豊かになったわよね。いえ、もしかしたら元からそうだったのかしらね……」

 巴マミは、佐倉杏子の昔の事を思い出してしまったのか少し悲しそうに話をしていた。そんな彼女の事を元気付ける為なのか、佐倉杏子が悪態をついた。

「ふん……。偉そうな事言って乳ばっかり見せつけやがって。マミの癖に生意気だぞー!」

 佐倉杏子のその一言が癪にさわったのか、巴マミが顔を赤くしながら言い返す。

「なっ……! 胸は関係無いでしょう!?」

 そう言って巴マミは恥ずかしそうに自分の胸を両腕で隠してしまった。
 そんな彼女を目の当たりにしたまどかが、羨ましそうにしていた。

「ああ……。わたしもマミさんみたいな大きなおっOいが欲しいな……」

 まどかの女の子らしい悩みを聞いた巴マミが、まどかの事を安心させる様に諭す。

「……うふふ。鹿目さん安心して。大人になったら誰でも大きくなるのだから」

 巴マミのその言葉に、まどかは何も疑う事もなく嬉しそうに大きく両手を挙げてバンザイをしていた。

「……やっぱりマミさんの言うだよねっ! わ~いっ!」

 そうしてはしゃいでいるまどかに対して、美樹さやかが笑いながら余計な事を言ってくれる。

「あははは、むりむり~。今でも幼児体型のまどかが大人になったからって大きくなる訳ないって~!」

 美樹さやかのその一言で、かなり落ち込んでしまったまどかが、とても悲しそうに泣きながら巴マミの胸へと飛び込んだ。

「……うわあ~ん! さやかちゃんがいじめるよお!」

 そんなまどかの頭を優しく撫でながら、美樹さやかに怒鳴りつける。

「よしよし。……こら! こんなに可愛い子をいじめるなんて可哀想じゃない!」

「あはは! ……ごめんね、まどか。まさかそこまでまどかが自分のスタイルの事を気にしてるなんて思ってもなかったからさ……」

 どうやら美樹さやかには悪意はなかったらしい。まあ、私はまどかを泣かした美樹さやかの事を許すつもりはないけれどね。

「ひどいよ……! あんまりだよ……!」

 私は、まどかを泣かした美樹さやかの態度が気に入らなかったので、少しお灸を据える事にした。

「……さやか。いい事教えてあげるから耳を貸して」

「ええ、何々~?」

 私は、私が何を教えてくれるのか興味津々な美樹さやかに対して、耳元でLove Me Do……と優しく囁いた。
 すると彼女は、茹でダコの様に赤くした顔を両手で隠し、妙な呻き声をあげながら体をくねらせてしまった。
 そんな美樹さやかの様子を見た佐倉杏子は、私に対して少し怯えていた。

「あんた一体、さやかになんて言ったのさ……」

「魔法の言葉よ」

71: 2012/10/25(木) 23:34:03.68
「あんたには逆らわない方が懸命だね……。なにされるか分かったもんじゃないからな……」

 佐倉杏子は、割と本気で私の事を恐れていた。

「私の性格を理解しているのなら賢明な判断ね。まあ、まどかの事をいじめたりするやつだけは、この私が許さないって事だけは肝に命じておきなさい」

「あはは……」

 私のそんな様子を見て、佐倉杏子はただ笑う事しか出来なかった。

 そして、いつの間にか泣きやんで元気を取り戻していたまどかが巴マミから離れて、大きな声で嬉しそうにみんなに言った。

「さあ、みんな! みんなのお家へ帰ろう!」

 まどかがとても楽しそうにそう言うと、私達四人はまどかに釣られて楽しくなって仕方がなくなってしまった。
 でも何故かまどかだけは、すぐに疲れきった表情へと変化してしまう。

「あ……。わたしは一度避難所に戻るね……。ああ……ママが恐いな……」

「あはは~! あたしも……」

 まどかと美樹さやかの顔は両親にみっちりと怒られてしまうという恐怖に対して、とても青ざめてしまった。

「うふふふ! 魔法少女でもそうでなくても、親が一番恐いのはみんな一緒なのね」

 両親のいない巴マミは、二人の慌てふためいている様子を楽しそうに見守っていた。

「ふふっ。さあ、帰りましょう」

 そして私達は、それぞれ自分達の帰るべき居場所へと歩き出した。

75: 2012/10/27(土) 11:25:25.84
 私が、佐倉杏子や巴マミや美樹さやかと一緒になってワルプルギスの夜を撃墜した日から数ヶ月後、
佐倉杏子と沢山の風車の見える河川敷で座って話し込んでいた。

「杏子……。そう言えばあなたに聞きたい事があるのだけど」

「あん? 何だ?」

 私と佐倉杏子はワルプルギスの夜を倒した後、こうして週に二回ほど河川敷で出会うことにしている。
 その理由は、これから先に魔女をどうするかとか、他愛もない話をしたりとか、
魔法少女である私達がこれから先どうするのかとか、そうして意見を交換し合う為だ。
 そして今私は、トラックに轢かれそうになったまどかを助けた時の話を佐倉杏子から聞いていた。

「杏子……。あなたが初めてまどかを助けた日の事なのだけれど。どうしてあなたはこの町にいたのかしら?」

 私の記憶では、たしかあの日はこの見滝原には佐倉杏子はいない事になっていたはず。
 その事が不意に気になった私は、彼女に対してそう質問をしてしまった。

「……いちゃ悪いのかい?」

 佐倉杏子は何かを隠すように私に質問を返してきた。

「いいえ、それは別にいいのだけれど。ただ、いつもの別の時間軸のあなたならその日は、
この町には居ない事になっているのよ。それが不思議で気になってしまってね。」

「…………やっぱり、言わなきゃダメ?」

「気になって仕方がなかったから、あなたが本当に話すのが嫌じゃなければ是非とも話して欲しいわ」

 佐倉杏子はとても悩みながら唸って、その日の出来事を答えようかどうか迷っていた。

「はぁ……。 まあ、悩んでてもしゃあないから話すわ」

 その日の出来事を話す覚悟を決めた佐倉杏子だったが、あまり乗り気ではなかった。

「ええ、お願い」

 そして、杏子はまどかと出会うまでのいきさつを語りだした。

「実はさ。その日は風見野で魔女と戦っていたんだよ。そんで、あたしがちょいと油断したら、その魔女がいきなり逃げ出してさ」

 佐倉杏子は、その時出会った魔女の話を悔しそうにしていた。

「それで?」

「うん。しかもそいつがやたらと素早くてさ。厄介な事にマミがいる見滝原まで逃げてしまったんだ。
でも、あたしは自分の獲物を取り逃がすのは嫌いな性分だから、仕方なく見滝原に立ち入ったのさ」

「なるほど。あなたらしいわね」

「ああ。それから何か考え事しながらトロトロと歩いてるまどかが、トラックにはねられそうになった所を助けたってわけ」

「そうだったの……。それで、その魔女は?」

「知らね。まどかを助けていたら、いつの間にかいなくなってしまったよ」

 私は悔しがっている佐倉杏子のその話を聞き終わると、無性に申し訳なく思ってしまい謝ってしまう。

「なんていうか……。ごめんなさい」

 私がそうして謝ると佐倉杏子は笑いながら私の事を慰めてくれた。

「へへ。別にほむらが謝る事じゃないさ。まあ……よく考えたらその魔女も変な奴だったな」

「変な魔女?」

 私は、佐倉杏子の話す魔女の事が気になってしまい、話の続きを催促した。

「なんて言うのかな。あたしの勘違いかもしれないけど、ほむらと似たような力を使う奴だったのかもしれない」

「私と同じ力を……?」

 まさか私以外にも時を操る事ができる魔法少女がいて、その子が魔女にでもなってしまったのだろうか。
 そう考えると、私は無性に悲しくなってしまった。

「そうだ! あの時、時を停めやがったからあいつは逃げる事ができたのか……。ちくしょう! 惜しい獲物を逃がしてしまったな」

 だけど佐倉杏子の話を聞いた私には、二つ程気になる事があった。
 一つは、どうして時を操る事ができるのなら時を停めている間に佐倉杏子の事を頃してしまう事も可能なはず。

76: 2012/10/27(土) 11:30:13.54
「……杏子。少し疑問に思うのだけれど、あなたの言うようにその魔女が時を停められるのなら、
どうしてその魔女はあなたの事を頃してしまわなかったのかしら」

 私がその事を話すと、佐倉杏子も疑問を浮かべてしまう。

「うーん……。いや、もしかしたらその魔女はあたしの事なんて眼中になかったんじゃない?」

「どうして?」

「だって、最初にその魔女を見掛けてあたしが攻撃した時、そいつはあたしの攻撃を避けながら真っ先に逃げていきやがったんだもん」

「そう……」

 そして私が二つ目に気になる事。どうしてその魔女は佐倉杏子が言うように、何も反撃をせずにただ逃げていたのか。

(よほど弱い魔女なのか、杏子の魔法の特性が苦手だったのか……)

 わたしがそうして魔女の考察を楽しんでいると、佐倉杏子が話し掛けてくる。

「まあ……。そいつのおかげでまどかの事が救えたんだから、もうどうでもいいかな」

 佐倉杏子からその話を聞いた私は、その魔女について自分の心の中で納得できた事がある。

(時を停める魔女のおかげでまどかを救う事ができた。……まさか! その魔女の正体って……)

 そう。私はこの時やっとその魔女が誰なのかを確信してしまい、胸の中に苦しみが込み上げてきて、くたびれた表情を顔に出してしまう。
 そんなわたしの顔を見た佐倉杏子が、私の心配をしてくれていた。

「おいっ! 大丈夫かよほむら。なんか顔色が悪いぞ」

 佐倉杏子を心配させない為にも、私はすぐに平静を装った。

「……いいえ。問題ないわ」

「そう。……ならいいんだけど」

(まさか私が魔女になってしまうなんて……。そんな事、誰にも話せるワケないじゃない……)

 そんな絶望的な事を考えていた私だったけれど、しばらくこの河川敷で佐倉杏子が隣にいるのも気にせずに黙り込んで悩んだ結果、
私は無性に嬉しくなってきて笑ってしまった。

「うふふっ!」

「お、おい。一体どうしたんだよ……?」

 私がとつぜん笑い出してしまったせいで、佐倉杏子は私の事をかなり心配していた。

「あらゴメンなさい。でも……ふふっ! なんだか無性に笑いたくなってしまってね」

「なんなんだよ……。いったい」

 不審がっている佐倉杏子を無視して、私は時を停める魔女の事を話した。

「きっともう時を停める魔女は、この世界にはいないわね」

「はあ? どうしてそんな事が分かるんだよ?」

 私の突拍子もないそんな言葉を聞いて、佐倉杏子は少し苛立っていた。

「だって私のように時を操れるのなら時間を遡行……。時を戻ったとしても不思議ではないもの」

「ああ……。そうだよな」

 佐倉杏子は私の話を聞いてスッキリしたのか、妙に落ち着いていた。

「杏子。……まどかの事を助けてくれて本当にありがとう」

 私は無性に佐倉杏子に対してお礼を言いたくなってしまい、しんみりとしながらお礼を言ってしまった。
 私にお礼を言われた佐倉杏子は、照れ臭そうに私から顔を逸らしてしまう。

「な、なんだよ今更……」

「なんでもないわ。無性にあなたにお礼を言いたくなってしまっただけだから」

 私がそう言うと、私達はその場で沈黙してしまった。でも、その沈黙は気まずいものではなく、心が穏やかになる沈黙だった。
 そうしてしばらくの間沈黙していると、私達は同時に笑いあってしまった。

「ふふふっ!」

77: 2012/10/27(土) 11:34:39.96
「あははははっ! ああ……。まったく持って平和だねえ」

 そう言って佐倉杏子は大の字のまま、青空を眺めていた。

「そうね!」

 私も佐倉杏子に倣って芝生に寝っ転がり、彼女と一緒に青空を眺めていた。

「あはは! まあ、何であれこんなに満面の笑顔のほむらが見られるんだから、確かに世の中捨てたもんじゃあないね!」

 佐倉杏子が突然そんな恥ずかしい台詞を吐いてきたものたがら、私は恥ずかしくなってきて顔を赤らめてしまった。

「……まったく。あなたときたら、よくそんなに恥ずかしい台詞を惜しげもなく言えるわね……」

「あん? 何か言った?」

 私が小さな声でボソボソと言ったものだから、さっきの私の言葉は佐倉杏子には聞こえていなかったようだ。

「別に……。なんでもないわ」

「なら良いけどさ」

 そうして私達二人は寝っ転がるのをやめて、再び座りなおしていると背中から私達を呼ぶまどかの声が聞こえてきた。

「ふったりっとも~!」

 そして、まどかは私と佐倉杏子の間に強引に入りこんで私達と腕を組んだ。

「えへへへ! 今日はわたしも暇だから三人で遊ぼうよ~!」

「全く……まどか。あなたったら強引に割り込みすぎよ」

(そこに入られると、私が独り占めできないじゃない……)

 そんな私の邪な思いなど知らないまどかが、楽しそうに話を続ける。

「えー? だって、二人の間にわたしが入り込める隙間があるんだもん!」

「あー……。まあねえ」

 佐倉杏子は、照れ臭そうにまどかから目を逸らしていた。

「えへへ! そういえば、まだほむらちゃんには真っ黒いサビサビの使い魔から助けてもらったお礼をしてなかったよね? 」

「そんな事あったかしら……?」

 もちろん私は覚えているのだけれど恥ずかしくて、しらばっくれてしまった。

78: 2012/10/27(土) 11:38:54.84
「……あの時何故かほむらちゃんは夢で片付けようとしていたけれど」

 その話をしている時、まどかの目は据わっていたので私は見ていられなくなり、彼女から目を逸らしてしまった。

「……ははーん? なんだい。あんたもまどかの命の恩人なんじゃないのさ!」

 佐倉杏子も私をからかう様にそんな事を言ってくる。その時の事を知っている癖に。

「べ、別にあのくらいの事……。私は魔法少女なのだから彼女を助けるのは当たり前の事じゃない」

 私が恥ずかしがりながら言い訳をしていると、佐倉杏子も楽しそうに私に嫌味を言ってくる。

「なんだよー? ほむらだってあたしの事、偉そうに言ってた割には素直じゃないじゃんか~」

「あ、あなたは黙っててちょうだい!」

 まどかは恥ずかしがってる私を見て、本当に楽しそうに笑っていた。

「えへへへ! だから今日は、ほむらちゃんに美味しい料理を作ってあげる!」

 まどかはこの頃、まどかの父親である知久さんから料理の作り方を教わっているらしく、メキメキと料理の腕をあげていた。

「まどか~。あたしは~?」

 まどかに対してゴハンをねだる猫のように佐倉杏子は甘えていた。
 そんな彼女に対して、まどかは笑顔で答える。

「うん! もちろん杏子ちゃんの分も一緒に作ってあげる!」

「わ~い!」

(杏子……。いくらなんでもあなた丸くなり過ぎよ……)

 すっかりまどかに心を許している佐倉杏子を目の当たりにして、私は頭が痛くなってしまった。
 そして、まどかはとても嬉しそうに元気な声で私達二人に言った。

「だって! 二人ともわたしの大切なお友達なんだもん!」

 そして、まどかは私達二人の腕を組みながら元気に立ち上がる。

「二人とも! じゃあ、行こう!」

「ええ!」
「おう!」

 私達三人は、このまままどかを中心に腕を組合って、三人で楽しく会話を続けながらまどかの家へと向かっていった。



おしまい

79: 2012/10/27(土) 11:43:44.30
これにて閉幕です

おかしな所もあるかもしれないけれど、
笑って許してね!

おまけもあるけど需要があるか分からないので
気が向いたらという事で

84: 2012/11/01(木) 20:36:16.73
 あの超弩級の魔女であるワルプルギスの夜を、私は曉美さんや佐倉さんや美樹さんと一緒になって倒した事によって、
この見滝原に平和が訪れていた。
 そんな途方も無い出来事から数ヶ月たったある日、私は自分の家で寛いでいた。

「はあ……暇ね……」

 最近は魔女もあまり出てこなかったものだから私は何もする事がなかった。そんな中、
今日は特に暇だったのでテーブルの上に顔を乗せてだらりとしていた。

「でも、これも平和な証拠なのよね……。一応グリーフシードの予備もあるにはあるし、魔法を使う事もないから心配はないのだけれど……」

 それにしても暇でしょうがなかった私は、とりあえず外に出る事にした。

「うーん……。とりあえず公園にでも行ってみようかしら……」

 そして私は家の鍵をかけて近場の公園へと足を運んだ。



 公園に来てみたのはいいものの、一人で来るのは間違いだったと私はとても後悔していた。

「うう……。やっぱり一人で公園なんてレベルが高すぎたかしら」

 結局私は何もする事が無かったので、一人寂しくベンチに座るしかなかった。

「まあ、誰もいないからまだいいわ。……それにしても、綺麗な青空ね」

 私が何も考えずにベンチに背中からもたれ掛かって空を仰いでいると、
突然ベンチの横から鹿目さんの声が聞こえてくる。

「あ、マミさん?」

「うわぁ!?」

 突然の事にびっくりしてベンチから飛び退いた私は変な声を出してしまい、
それに反応して鹿目さんもとても驚いて可愛らしい叫び声をあげていた。

「きゃ!? びっくりしたあ……」

「ごめんなさい……」

 別に謝る必要は無かったはずなのに、私はつい鹿目さんに申し訳なく思い謝ってしまった。
 そんな私に対して、鹿目さんは質問をしてくる。

「えと、今日はどうかしたんですか?」

「えっ!? ……うん。ちょっと暇だったから散歩のついでに公園に来てみたの」

 本当は、お家でお菓子を食べながらダラダラするのも飽きたから仕方なく公園に遊びに来たなんて、
先輩である私には絶対に口にはできなかった。

「えへへ! マミさんの気持ちとても分かります。 わたしも、お家にいて暇でしたから、
こうしてタッくん……弟のタツヤを連れて一緒にお散歩してたんです」

 よく見ると鹿目さんの後ろにとても可愛い男の子がいる事に私は気付いてしまった。
 男の子は私を見て不安がっているのか私の顔をじっと見ていた。

「ほ~ら、タッくん。お姉ちゃんの先輩のマミさんって言うんだよ。挨拶は?」

 タツヤくんは私の顔をじっと見ながら、何かを訴えかけていた様にも見える。

「……じー」

 このままだと拉致があかないので、私からタツヤくんに挨拶をする事にした。

「うふふ。私のの名前は巴マミ。よろしくね、タツヤくん」

 自己紹介をして私はタツヤくんに手を差し出した。すると、タツヤくんはおそるおそる手を延ばして私の指を優しく握ってくれた。

「あいー。よろしくー」

 タツヤくんは安心したのか、笑顔を浮かべて私に挨拶をしてくれた。

「えへへ! タッくん良かったね。これでマミさんはタッくんのお友達だよ~」

「あいー! まみともだちー」

 タツヤくんは元気そうにバンザイをしていた。

85: 2012/11/01(木) 20:45:41.91
「あわわ、タッくん! マミさんは先輩なんだから呼び捨てしちゃダメっ! ……って言ってもまだ分からないよね。マミさん、ごめんなさい!」

 鹿目さんは申し訳なさそうに、私に深々と頭を下げてきたので、私は笑いながら気にしていない事を伝える。

「うふふっ。良いのよ鹿目さん。どうか気にしないで。それにしても、鹿目さんにこんなに可愛い弟さんがいたなんて知らなかったわ」

 私がそう言うと、鹿目さんは楽しそうにタツヤくんの事を話してくれた。

「えへへへ! とっても可愛いですよね! わたしも、タッくんの行動の可愛いらしさに癒されてるんですよ~」

「うふふふ。鹿目さんは弟さんが大好きなのね」

「はい! なんて言うのかな……。ええと、いきなり何をするか分からない所を見たり、一緒に遊んでたりすると、とっても楽しいんです!」

 鹿目さんが楽しそうに話していると突然、タツヤくんが私の巻き髪を楽しそうな顔をして引っ張ってきたので私は変な声をあげてしまった。

「ひゃ!」

「あははは。びよんびよんたのしー!」

 鹿目さんは、その状況を見て顔を青ざめさせていた。

「……うわあああ! こ、コラ! タッくん! 女の子の髪で遊んじゃダメっ!!!」

 鹿目さんは慌てふためきながらタツヤくんを私の髪から引き離した。すると、タツヤくんはすごい勢いで泣いてしまった。

「……うわああああん! ねーちゃいじめるー!」

「あわわ……。うう……困ったなあ……」

 タツヤくんは大泣きしながら鹿目さんの腕の中で暴れていた。

「鹿目さん。ちょっとタツヤくんを抱っこさせて」

「あ……。お願いします!」

 私は暴れているタツヤくんを鹿目さんの腕の中から優しく抱きあげた。

「うわあああああん!」

「よしよし……大丈夫よ……。もう何も恐くないわ……」

 私はそう言いながらタツヤくんの身体を優しく揺らしてあげた。すると落ち着いてきたのか、徐々に泣き声も小さくなってきていた。

「うー……。ぐすん……」

「いい子ね~」

 しばらくこうして抱いていると、タツヤくんは私の胸の中で気持ち良さそうに眠ってしまった。

「あら、寝ちゃったわね。……うふふ。可愛い寝顔ね」

「わあ……マミさんすごい! 暴れてるタッくんをこんなに早く鎮めちゃうなんて……。やっぱりマミさんはわたしの憧れの先輩です!」

 鹿目さんは目をキラキラと輝かせながら私の事をべた褒めしていたので、私は恥ずかしくて仕方が無かった。

「まあ、鹿目さんたら。でも、私はそこまで憧れる程の先輩じゃないわ……」

 私がそう言うと、鹿目さんは意地になっていたのか大きな声で興奮気味に私の事を熱く語ってくれた。

「そんな事ありません! だって、マミさんは魔法少女の時だってステキでカッコイイですし、
わたしなんかじゃ考えられないくらい必殺技の名前のセンスもいいですし!」

「ちょ、ちょっと鹿目さん!」

 私が驚いているのを無視して、鹿目さんは熱く語り続ける。

「だから……もっと胸を張ってください! マミさんが自信満々だと、わたしはそれだけでとっても誇らしくなりますから!」

「ちょっと鹿目さん……! ……そんなに大きな声をあげたらタツヤくんが起きてしまうわ」

 私と鹿目さんはタツヤくんが起きそうになっていないか様子を確認してみた。
 だけど、何事も無かったかのようにスヤスヤと気持ち良さそうに寝ていた。

「あっ。ごめんなさい……。わたしったら興奮しちゃって、つい……」

「うふふ。いいのよ鹿目さん。……あなたの私を慕ってくれる熱い気持ち、それが聞けただけでも私はとっても嬉しかったから……」

86: 2012/11/01(木) 20:51:33.27
 鹿目さんは、さっきの私への発言を思い出してしまったのか、とても顔を赤くしながら俯いてしまった。

「えへへへ……。恥ずかしいです……」

「うふふ。あなたもタツヤくんと負けず劣らず可愛いわよ」

「えっ!? ……マミさんたら、もう……」

 私が鹿目さんの事をからかうと、彼女は恥ずかしさのあまり、俯いたまま顔を両手で覆い隠してしまった。

「うふふふ。……ああ、今日は本当に公園へ来て本当に良かったわ」

「マミさん……」

 鹿目さんは両手で隠していた顔を上げて手をどかし、私の顔をじっと見ていた。

「だって、こんなに嬉しい出会いがあったんだもの!」

「……えへへへ! あ……。もうそろそろ帰らないと……」

 鹿目さんはとても悲しそうな顔をしながらそう言った。

「あら、用事があるのね。それじゃあ私、鹿目さんをお家まで送るわよ」

「え!? ……でも、いいんですか?」

「言ったでしょう。私も今は暇で仕方が無いって。それにタツヤくんもこのままでは帰れないでしょう?」

 鹿目さんは私の胸の中で眠っているタツヤくんを見て、申し訳なさそうにしていた。

「マミさん本当にありがとうございます……。それでは、遠慮なくマミさんにお家まで送ってもらいますね!」

「ええ、任せて!」

 そして、私はタツヤくんを抱っこしたまま鹿目さんの家へと足を運んだ。



 鹿目さんの家の前まで辿り着いて、初めて見た彼女の家に私は密かに驚いてしまった。

(まあ……。鹿目さんの家、とっても素敵ね……)

「ただいま~」

 私が鹿目さんの家に見惚れていると、いつの間にか玄関の奥から鹿目さんのお父さんらしき人がやってきていた事に私は気付いた。

「おかえり、まどか。おや、お客さんも一緒みたいだね」

「あ、うん。えっとね……」

 鹿目さんが何をどう言えばいいのか困っていたので、私が鹿目さんの代わりに説明をしてあげた。

「初めまして。私は鹿目さんの先輩にあたる巴マミと言います。先程、鹿目さんと公園で出会って、
鹿目さんと弟さんのお二人と一緒に遊んでいたのですが、弟さんが遊び疲れてから今もこうしてグッスリと眠っているんです」

 私がそう言うと、鹿目さんのお父さんは少し申し訳なさそうに謝ってくれた。

「そうだったのかい。それは申し訳なかったね」

 そして私は、タツヤくんを優しく鹿目さんのお父さんへと手渡した。

「そんな事ありません。タツヤくんはとてもいい子で可愛かったですから。それでは、失礼しました」

「あ……」

 私が帰ろうとすると、鹿目さんの残念そうな声が聞こえてきたけれど、長居するのは悪いと思って私はこの場を去ろうとした。
 すると、意外にも鹿目さんのお父さんが私の事を呼び止めてくれた。

「ちょっと待って。もし用事が無かったら晩御飯でも食べていかないかい?」

「えっ……?」

 予想していなかった鹿目さんのお父さんのその言葉に、私はどう返答すればいいのか分からなかった。
 すると、鹿目さんが嬉しそうに言ってくれた。

「わあ~! マミさんと一緒に御飯が食べられるなんて、わたしとっても楽しみです!」

「コラコラまどか。まだ巴さんの都合がいいか分からないだろう?」

87: 2012/11/01(木) 20:56:49.48
「えー……。でも……」

 鹿目さんの悲しい顔を見てしまうと私には断れるわけが無かったので、晩御飯をご馳走させて貰う事にした。

「……それでは、御馳走になります」

「うん! 腕によりをかけて作るからね!」

 鹿目さんのお父さんは、とても楽しそうにガッツポーズをしていた。

「わ~い! それじゃあマミさん! どうぞあがって~!」

「ええ。では、おじゃまします」

 私は、鹿目さんに背中を押されながら鹿目さんの家にお邪魔した。

「それじゃあ、僕は料理の下ごしらえをしてくるから二人はタツヤの世話をしておくれ」

 そう言って鹿目さんのお父さんは、鹿目さんにタツヤくんを優しく手渡した。

「は~い」

「はい」

 そして、私は鹿目さんに居間まで案内を受けた。だけど、その途中で寝室らしい所から、
パジャマを着た鹿目さんのお姉さん(?)みたいな人が姿を現した。

「おう、まどかと……お客さんかい?」

「うん。そうだよ~」

「あ、初めまして。私は鹿目さんの先輩にあたる巴マミと言います」

 私は自己紹介をしながら、会釈をした。

「おお、礼儀正しい子だねえ。あたしはまどかのお母さんをやってる鹿目詢子って言うんだ。 気楽に詢子さんって呼んでよ。まあ、よろしくね~」

 私は、詢子さんが鹿目さんのお母さんだと聞いてビックリしてしまった。

「えっ!? 結構お若く見えたので、てっきり鹿目さんのお姉さんかと思っていました」

「あはは! あたしそんなに若く見えるかなあ~。嬉しい事言ってくれるじゃん!」

「えへへへ……。確かにママはまだ若く見えるかも知れないけど……」

「なんだいまどかー。あたしが若く見えるのがそんなに不満かい?」

 鹿目さんは言いようの無い恐怖を背負って、両手を必氏に振りながら詢子さんに答えた。

「ううん! そんな事ないよ!? そ、それよりもママ! ついさっき起きたんだね……。もう四時前だよ……?」

「あはは……。昨日は遅くまで飲みに付き合わされちゃってさあ……。帰ってきたのが今朝の三時頃だったんだよねえ……。つーことで、
あたしはシャワーを浴びて来るからマミちゃんはゆっくりしてってなー」

「はい。ありがとうございます」

 それから詢子さんは、浴室があるであろう方向へと歩いていった。

「もう……ママったら……。マミさん、ママからマミちゃんなんて呼ばれるのは嫌じゃないですか? もしも嫌だったら、わたしが言ってあげますよ?」

「いいえ、嫌じゃないわ。むしろ、嬉しいぐらいかも」

「えっ?」

 私がそう言うと、鹿目さんは意外という顔をしながら私を見ていた。

「……なんだか鹿目さんの家に居ると、私の両親との楽しい思い出を思い出す事ができるから……」

 私はその話をしている時、少し悲しい顔をしていたかもしれない。だって、鹿目さんがとても悲しそうな顔をしていたから。

「マミさん……」

「うふふふ。ごめんなさいね……。しんみりするような話しちゃって……」

「いいえ、いいんです……。それでマミさんの気が少しでも紛れるのなら。わたしはマミさんのお話をたくさん聞きたいです!」

 鹿目さんのその一言で私は目頭が熱くなってきてしまった。

88: 2012/11/01(木) 21:06:35.44
 すると、ここで立ち話をするのも何だからといった様子の鹿目さんが、私を居間へと案内してくれるそうだ。
 そして居間へ移動する鹿目さんの後ろに私は着いていった。

「ここが居間です。ささっ。どうぞ入ってくださ~い」

 居間に辿り着くと、眠っているタツヤ君を抱っこした鹿目さんが楽しそうに私の顔を見ていた。

「ええ。ありがとう」

「えへへへ……。よっ……と」

 嬉しそうに笑った鹿目さんは、スヤスヤと気持ち良さそうに眠っているタツヤくんを静かに、
敷いてあった小さな布団の上に寝そべらせて毛布を被せてあげていた。
 そんな鹿目さんを見ていると、やっぱり彼女はお姉さんなんだなと私は実感してしまった。

「うふふふ。鹿目さんは将来いいお嫁さんになれると私は思うわ」

「えっ!? そそそ、そんなこと……! ないです……」

 鹿目さんは恥ずかしさのあまりに顔を赤くしながら俯いてしまった。

「いいえ、本当にそう思うわよ。だって、こんなに世話好きなんですもの。私が男の子だったら鹿目さんから目が離せないと思うわ」

 私が微笑みながらそう言うと、鹿目さんは真っ赤な顔をあげて嬉しそうにしていた。

「えへへへ……。そういうマミさんだって、男の子にモテモテだとわたしは思うなあ。スタイルだっていいですし」

「ええっ!? わ、私はそんなに人気ないと思う……。だって、いつも私は一人だし……」

 私はつい、あまり言いたくない事を鹿目さんに言ってしまった。

「マミさん……」

「……あ、ごめんなさい。……こんな事、後輩である鹿目さんに話す事では無いのにね……」

 そう言いながら私は、虚しさと悲しさが合わさったせいで目に涙を溜めてしまった。

「……マミさんは一人なんかじゃありません!」

「か、鹿目さん……?」

 目に涙を溜めている私の手を、鹿目さんは優しく握り締めながら励ましてくれた。

「……もうマミさんには、たくさんの仲間達がいるじゃないですか……。いつもはクールだけど、実は優しい心を持っているほむらちゃんに、
口は悪いかもしれないし大食らいだけれど面倒見の意外といい杏子ちゃん。私の親友の明るく元気だけどちょっとおセンチなさやかちゃん。
……それと、いい所の無いわたしもその……仲間に入りたいなって……」

 鹿目さんが必氏にフォローしてくれたおかげで、なんだか私はとても楽しくなってきてしまった。

「うふふふふっ! 鹿目さんたら、それは彼女達の事を褒めているのかしら?」

「はう……。ごめんなさい……」

「それにもう、鹿目さんも私達の仲間じゃないの」

「えっ!?」

 鹿目さんは意外という顔をしながら私の顔を見ていた。

「もう、むしろあなたのおかげでみんなが一つにまとまったのよ! それこそ、胸を張っていいと私は思うわ」

「でも……。わたしは魔法少女じゃないですし……」

「……鹿目さん。あなたは自分を責めすぎよ。鹿目さんがこうして幸せに暮らしているのを実感出来たからこそ、私達は頑張れるのよ」

「マミさん……」

 鹿目さんは私の話を聞いて、感慨深そうに目に涙を溜めていた。

「だから、あなたはそのままのあなたでいて欲しいわ」

(そういえば、暁美さんも同じ考えだったわね)

 曉美さんの考えている事を思い出した私は何故かおかしく思って、つい笑いがこみ上げてきてしまった。

「うふふふ!」

「えへへ! マミさんもおんなじ事考えてたんでしょう?」

 鹿目さんも私と同じ様に、楽しそうに微笑んでいた。

89: 2012/11/01(木) 21:15:42.54
「あら、ばれちゃった?」

「はい! わたしの事を導いてくれたのは、ほむらちゃんですからね!」

 鹿目さんは暁美さんの話をする時いつも楽しそうにしているので、聞いているこちらの方がこそばゆくなってしまう。

「うふふ。それにしても、私も暁美さんには随分とお世話になったわ……」

 私は魔女相手に一度殺されそうになった所を暁美さんに助けてもらった事がある。それから私は、彼女に対して感謝の気持ちを忘れない様にしていた。

「それから、しばらく一人で塞ぎ込んでいた時も暁美さんは親身になってお話を聞いてくれたし……。うふふ。なんだか私、ダメな子みたいね」

 私が笑いながら自虐的にそう言うと、鹿目さんは少し怒っていた。

「もう……マミさん!」

「な、何かしら……?」

 突然、怒鳴ってきた鹿目さんを目の当たりにして、私はとても驚いてしまった。

「もしも次に自分を傷付けるような事言ったら、ペナルティを与えますから!」

「うう。ごめんなさい……」

 鹿目さんに対して申し訳なく思って私が謝ると、彼女は笑顔で微笑んでいた。

「……でも、わたしもマミさんと同じ事をしたらペナルティを受けますから! その時はマミさんに何でもしてあげます!」

「うふふふ。分かったわ。気をつけるわね」

 私は鹿目さんの健気な態度に、とても救われていた。

「はい! お互いに気をつけましょう!」

「ええ!」

 私達はそう心に誓ってから、楽しく会話を続けた。

「それにしても、やっぱりほむらちゃんは優しいな~。私なんてまだまだだよね……。ハッ!?」

 ペナルティの話をしたばかりの鹿目さんが早速自分を責めるような発言をしてしまい、
しまったと言わんばかりにハッとしていた。

「ああ~。鹿目さん今自分を責めたでしょう?」

「うわあ! やってしまった……」

 私は鹿目さんにして貰いたい事があったので、すぐにペナルティを彼女に与えた。

「それじゃあ、鹿目さん。何でもしてくれるのよね?」

「はい……。何でもします……」

 鹿目さんは自分の不甲斐なさに落ち込んでいるようだった。

「それじゃあ。私の肩を揉んでもらおうかしら」

「……えっ? それだけで良いんですか?」

 鹿目さんは、とても拍子抜けしている様な顔をしていた。

「あら。こう見えても私、とっても肩こりなのよ? それでは、お願いするわね」

 そう言いながら私は、両方の肩を重たそうに交互にゆっくりと回した。

「あ、はい!」

 そして、鹿目さんは私の両肩に手を伸ばして揉み始める。

「あ、本当だ。マミさんの肩とっても固い……」

「ええ。それにしても、どうしてこんなに肩が凝るのかしら……」

 これは私の悩みのタネの一つでもあった。
 私が肩が凝っている話をしている時、一瞬鹿目さんの手が止まったような気がした。

「ええと。それは多分……。マミさんのおっOいが大きいからかと……」

90: 2012/11/01(木) 21:20:52.20
 そして、鹿目さんは少し寂しそうに私にそう言った。

「ええ? そうなのかしら……」

「マミさんのおっOい、重たそうですもんね」

「あら、こう見えて意外と軽いのよ。持ちあげてみる?」

 私がそう言うと、鹿目さんはとても驚いていた。

「うぇえ!? い、いいんですか……?」

「……? ええ、別に構わないわよ」

 鹿目さんが何をそこまで慌てふためいているのか私にはよく分からなかった。

「で、でも……。なんていうか……その……恥ずかしいです……」

 鹿目さんは、本当に恥ずかしそうに顔を赤くして俯いてしまう。

「あら、でも私達は女の子同士なんだし別に意識する事はないんじゃない?」

 私はそう言いながら、自分の胸を両手でゆっくりと上げ下げしていた。
 そんな私の仕草を見ていた鹿目さんは、ルビーの様に顔を真っ赤に染めながらブンブンと首を横に振っていた。

「でででででも……!」

「まあ、鹿目さんが嫌って言うのなら強要はしないわ」

 私がそう言うと、彼女はすぐに威勢のいい返事を返してくれた。

「持ちあげさせていただきます!」

「はい、どうぞ」

 そして、私は鹿目さんが持ちあげ易いように両腕を頭の後ろで組んだ。



 マミさんが何の警戒心も持たずに、自分のおっOいを持ち上げやすい様にしてくれた事に対して、わたしは心臓が爆発しそうな程に興奮していました。

「でででは、後ろから失礼します……」

 そうしてわたしはマミさんのおっOいを、マミさんが痛がらないように下から優しく持ち上げました。
 その時の感触はとっても柔らかくて、本当にわたしと同じ女の子の感触なのだろうかと疑ってしまいました。

(うわあ……。わたしのおっOいと違ってとっても柔らかい……。ってそうじゃないでしょわたし!)

 ついそんな邪な事を考えてしまった自分に対して、わたしはとっても怒りたかったです。

「あわわ……! マミさんのおっOい、やっぱり重いですよっ!」

 本当にマミさんのおっOいは重かったです。例えるならスイカ二個分……の様な。

「うーん……。やっぱり自分だけじゃ分からない事もあるのね……」

「えへへへ。……ああ。マミさんのおっOいが羨ましい……」

 わたしがついそんな事を口走ってしまうと、マミさんが不思議そうな顔をしてわたしに質問をしてきました。

「ん? 鹿目さん、何か言わなかった?」

「あっ、いえ。その……。な、なんでもないです!」

 わたしが慌てふためいていると、マミさんは楽しそうに笑ってくれました。

「うふふ、変な鹿目さん」

「えへへへへ! ……ふう。それでは肩揉みの続きを始めますね」

 そう言ってわたしは、心を落ち着かせてからマミさんの肩揉みを再開しました。



「ねえマミさん」

 肩揉みをしている途中に、唐突に鹿目さんから質問を貰った。

「なあに?」

91: 2012/11/01(木) 21:27:14.41
「マミさんのおっOいはどうしてそんなに大きくなったんですか?」

(自分の胸の事を気にしているのかしら? 今の鹿目さんの胸の大きさ、とっても羨ましいのに……)

 胸の事で悩んでいる鹿目さんの為にも、とにかく私は思い当たる事を考えてみた。

(うーん……よく考えたら私は特に何もしていないのよね……。あ、そういえばこの前ネットでスイーツを幼い頃から食べる子は、
発育がいいって記事を見たような……。でも、できれば信憑性のない事は言いたくないし……。真剣に悩んでいる鹿目さんの為にも)

 でも、それ以外に何も思いつかなかったので私は仕方なくスイーツの話をする事にした。

「そういえば、スイーツを幼い頃から食べる子は発育が良くなるって聞いた事があるわ」

 私の話を聞いた鹿目さんは本当に嬉しそうに、とても目を輝かせていた。

「わあああ……! そう! そういう事だったんですね!」

「か、鹿目さん。どうしたの?」

 やたらとテンションの高い鹿目さんを目の当たりにして、私は少し引いてしまった。

「いいえ! わたしは至って普通です! ただ、マミさんの大きなおっOいの謎が解けました!」

 私には鹿目さんが何を考えているのかよく分からなかった。

「え? え、ええ……」

「マミさんはスイーツは大好きですか?」

 いきなりノリノリの鹿目さんから尋問が始まってしまったけれど、私は素直に答えてしまう。

「ええ、もちろん好きよ」

「小学生の頃からお菓子食べるのは好きでした?」

「う、うん」

(どうしよう……。いつもの鹿目さんとは全くテンションが違うわ……)

「あう……。やっぱり……」

 私がそう思っていた途端に鹿目さんのテンションが一気に下がってしまった。
 そんな彼女の心中を察した私は、何とかして励まし続けた。

「だ、大丈夫よ鹿目さん! あなたのお母さんは並の持ち主じゃないの! だからきっと成長するわよ!」

「並……かあ。……わたし、マミさんみたいな大になりたいです。……ああそうか、きゅうベエに頼めば大きく……」

「ちょ、ちょっと落ち着いて鹿目さん!!!」

 私は近くにきゅうベエがいたら、いつでも邪魔をできる様にマスケット銃を一丁創りだした。

「あなたはどうしてそこまでして大きくなりたいの……?」

 私の素朴な質問に対して、鹿目さんは首を傾げながら唸ってしまう。

「え? ……えと、う~ん……。そう言われるとどうしてか分からないです……。ただ、マミさんのおっOいを見てるとわたしも女の子として、
とっても欲しいなって思って、それからその気持ちがどんどん止まらなくなって……」

 私は鹿目さんからそう聞いて、やっと彼女が大きくなりたがっていた理由を確信した。

(そう……。ただの無い物ねだりだったのね……。仕方ない……。あまり現実的な事言いたくないけれど大きいと苦労するって事を教えておかないとね)

「いい? 鹿目さん。よく聞きなさい」

 そして、私は巨乳になる事の辛さを鹿目さんに全て教えた。すると、鹿目さんの顔はみるみる内に元気がなくなって、
あまりの現実の悲しさを知ってしまい青ざめてしまった。

「うう……。やっぱりわたし、大きなおっOいにはなりたくないです……」

「うふふ、分かってもらえて私も嬉しいわ」

(でも、私も自分の胸が嫌いになりそうね……)

 私は自分の心に甚大な傷を負ってしまったけれど、なんとか鹿目さんが大きな胸を諦めてくれたので良しとした。
 そんな時、鹿目さんのお父さんから鹿目さんを呼ぶ声が聞こえてきた。

「おーい、まどかー。晩御飯ができたから巴さんを一緒にダイニングに連れてきなさーい」

92: 2012/11/01(木) 21:34:25.14
「あ、パパの声だ。いつのまにかもうこんな時間だったんだね。それじゃあ御飯を食べに行きましょうマミさん!」

「ええ」

「ほおら、タッくん。もうすぐ御飯だから起きて~」

 鹿目さんは可愛いらしい寝顔で寝ているタツヤくんを優しく起こした。

「……うー……。あーい……」

「えへへ、いい子だね~。じゃあ、御飯食べに行こう!」

「ごはん、いこー!」

 鹿目さんはタツヤくんと手を繋いで一緒に居間を出て行こうとしていたので、私は二人の後ろを着いていった。



 鹿目さんやタツヤくんと一緒にダイニングへ辿り着いた私は、真っ先にテーブルに並んでいた沢山の豪勢な料理を目の当たりにして、
とても驚いてしまった。

「やあ、今日はタツヤの面倒を見てくれてありがとう。御礼といってはなんだけど、たくさん食べてね」

 その料理達はラザニア、マルゲリータ、カルパッチョ、カプレーゼ、ミネストローネにティラミスと言ったイタリア料理の定番ばかりだった。
 でも、定番だからこそ作る人の料理の腕が左右される事を知っていた私は、自然と料理の採点を頭の中でしてしまう。

(料理のレイアウトと盛り付け方は満点……。すごく綺麗だわっ!)

 別に私は料理の専門家という訳では無いのだけど、美味しい物には目が無かったので失礼ながらに評価をしてしまう節がある。
 ここまで素敵な料理達を見ていると、私の舌が自然と唸ってしまって仕方が無かった。

「まあ……。とても美味しそうです」

 それでも私は、表向きは平静を装っていた。

「わあ~! 今日はいつもよりすごい豪華だねっ。パパ!」

 鹿目さんも、この素敵な料理達を前にして、とてもはしゃいでいた。

「あははは、最近はイタリア料理にハマっててね。いつかお客さまがきた時にでも出そうと思ってたんだ。お望みならばカプチーノもすぐに淹れてくるよ」

 鹿目さんのお父さんは、本当に楽しそうに料理の事を語っていた。

「いやあ~! イタリア料理と言ったらやっぱりワインだよな~!」

 詢子さんはとても目を輝かせながら、たくさんの料理を眺めていた。
 お酒をたくさん飲みたがっている詢子さんの事を、鹿目さんのお父さんは宥めようとする。

「ママ、今日はお客さんもいるんだからお酒は控えめにね」

「ええー。つまんねえの……」

 鹿目さんのお父さんは、割と本気で落ち込んでいる詢子さんを尻目に、私に謝ってくれた。

「いやあ。すまないね巴さん。いつもはここまで行儀の悪い人じゃないんだけどね」

「えー? 別に自分の家なんだからいいじゃんかあ。ねえマミちゃん?」

 詢子さんが唐突に私にそんな意見を求めてきたものだから、私は少し驚いてしまった。

「えっ? あ……はい。詢子さんの言う通りです。私の事はどうかお構いなく、いつもの様に楽しくしてください。その方が私も嬉しいですから」

 私が少し偉そうにそう言ってしまっても、鹿目さんのお父さんは何も気にしていない様子で優しい笑顔のまま私の顔を見ていた。

「ははっ。巴さんは実にできた子だね。」

 突然褒められたものだから私は恥ずかしくなって顔を赤らめながら、鹿目さんのお父さんから目を逸らしてしまった。

「いえ……。私はそこまでいい子じゃありません……」

「ゴメン。なんだか巴さんに悪い事言っちゃったかも」

 挙動がおかしい私の事を気にしたのか、鹿目さんのお父さんが突然謝ってきたので、私は慌てて弁解する。

93: 2012/11/01(木) 21:41:27.78
「あっ! いいえ! 鹿目さんのお父さんは何も悪くありませんっ! 私はただ、
自分の事をあれこれ考えてしまっていい子なのかなとか思っただけですからっ!」

 鹿目さんのお父さんは、私の話を聞いて何かに気付いた様にハッとしていた。

「あ、そう言えば僕の名前をまだ言ってなかったね。僕の名前は鹿目知久。好きに呼んでもらって構わないよ。
それと、この通り主夫をやってるんだけど男が家事を担うのは、巴さん的にはおかしく感じるかな?」

 自己紹介をしてくれた知久さんが、唐突にそんな質問を私にしてきた。

「いえ、そんな事は無いと私は思います」

 私が一言そう言うと、知久さんは嬉しそうに微笑んでいた。

「あはは。ありがとう巴さん」

 知久さんが私にお礼を言いながら取り皿に料理を盛ってくれていた事に私は気付いて、大変申し訳なく思い謝ってしまった。

「あ。何もお手伝いもせずにすみません……」

「あはは。巴さんの為に用意した料理だからね。どうか、今日は気を使わないでたくさん食べてね」

 知久さんに続く様に、微笑んでいた鹿目さんが言う。

「パパの言う通りだよマミさん。今日だけでも気を使わずにゆっくりしてほしいな~」

 詢子さんは少しお酒を飲んだのか、顔を少し赤らめながら、とても楽しそうにしていた。

「そうだよお。それにしてもまどかの友達は礼義正しい子ばかりだねえ。んまあ、杏子ちゃんみたいな珍しい友達もいるけどねえ」

 詢子さんは鹿目さんの顔を見ながら佐倉さんの事を口にしていた。

(そういえば、佐倉さんは鹿目さんの家に一番お世話になっているのよね。彼女にも大切な居場所ができて本当に良かったわ……)

 佐倉さんが幸せに生きている事を再確認した私は、自然と嬉しくなってしまった。

「えへへ。 言われてみればそうかも~」

 私達三人が話をしている中、鹿目さんのお父さんが全員の取皿に料理を盛ってくれていた。

「さあ。料理が冷めないうちに食べようっ」

 そして、知久さんがいただきますと言うと、みんなも後に続いて手を合わせ、いただきますと言った。
私は早速、お皿に盛られていたカルパッチョを口に入れた。すると、
豊かなオリーブオイルの香りと新鮮なサーモンの風味が口の中いっぱいに広がってきた。

「……凄く美味しい! 今まで食べたイタリア料理の中でも一番ですよ!」

 私はついサーモンのカルパッチョの美味しさに興奮して、そんな事を言ってしまった。

「あははっ。どうもありがとう。そう言ってくれると、とても嬉しいよ」

 鹿目さんのお父さんは少し恥ずかしそうに喜んでいた。

「うう~ん! このカルパッチョ、ホントに美味しい~!」

 鹿目さんも、この極上の味にご満悦の様子だった。

「ああ~! ワインと合うわあ!」

「もう、ママったらぐびぐび飲んじゃって……。そのペースじゃすぐに潰れちゃうよ?」

 ぐびぐびとワインを飲んでいる詢子さんを見た鹿目さんは少し心配そうにしていた。

「あははは! 大丈夫だって~!」

 二人がそんなやり取りを続けている中、鹿目さんのお父さんはタツヤくんに、
ラザニアを食べやすい大きさにスプーンで掬ってから冷ました後に食べさせていた。

「さあ、タッくん。まんまだぞー」

「まんま、まんまー」

 タツヤくんは口の周りの汚れも気にせず、美味しそうにラザニアを頬張っていた。

「美味しいかい?」

「おいしー!」

94: 2012/11/01(木) 21:49:48.21
「好き嫌いが無くてタッくんは偉いなー! パパは嬉しいぞ」

「うれしーぞー!」

(ああ……。タツヤくんを見ているだけでなんだか癒されるわね……)

 タツヤくんの可愛らしい行動を見ているだけで、私の中に幸せが込み上げてきてニヤニヤが止まらなかった。

(もしも私にも弟がいたらこんな感じだったのかしら。……もう、あの頃には戻れないけれど……)

 楽しそうに過ごしている鹿目さんの家族を目の当たりにしていると、私はお父さんとお母さんの事を思い出してしまい、自然と涙が零れ落ちてしまった。

「あれ……私どうして……」

「マミさん……」

 泣いている私を見た鹿目さんは、とても辛そうな顔をしていた。

「大丈夫かい? はい、ハンカチ」

 心配そうな顔をしていた詢子さんが私にハンカチを手渡してくれた。

「……ごめんなさい。ちょっと昔の事を……思い出してしまって……。つい涙を……」

「あ、そういえばまだ巴さんの親御さんに断りの連絡を入れてなかったね」

「あ、パパ……。そのね……」

 鹿目さんは泣いてしまって喋るのも辛かった私に代わって、私の両親が交通事故で亡くなってしまった事を説明してくれた。

「……と言う訳なの」

「そうだったのか……。すまなかったね巴さん」

「いいえ……。いいんです」

 知久さんは自分が私の古傷を抉ってしまったのだと勘違いしてひどく落ち込んでいたので、私は心から気にしていない事を知久さんに伝えた。
 それから詢子さんがとても真剣な表情で私の目を見たと思ったら、すぐに優しい表情へと変わった。

「……マミちゃん。もしあなたさえ良かったらさ、いつでも遊びに来なよ。あたしは平日は夜しかいないけど、
休日なら大体いるからさ。なんていうか、マミちゃんのお話をもっと聞いてみたいんだ……」

 詢子さんのその話を聞いて私はとても嬉しくなってしまい、更に涙を流してしまった。

「うう……詢子さん……。本当に……ありがとう……ございます……!」

 泣いている私を気にしてくれたのか、タツヤくんが心配そうに私の顔を覗き込んでいた。

「マミどったの?」

「マミさんはね……。御飯がとっても美味しくて泣いているの」

 鹿目さんはタツヤくんを悲しませない様にとフォローをしてくれた。

「あははは! ごはんおいしー!」

 タツヤくんの純粋な笑顔を見ていると、私は自然と元気を取り戻してしまいそうになる。

「ええ……。みんなで食べるご飯はとっても美味しいわ」

 そう言って、私はタツヤくんの頭を優しく撫でてあげた。すると、タツヤくんはとても楽しそうに笑っていた。

「あははははー!」

 とても楽しそうに笑っているタツヤ君を尻目に、鹿目さんは私の心配をし続けてくれていた。

「マミさん……。もう落ち着いた?」

「ええ、おかげさまで。お二人にもお恥ずかしい所を見せてしまって申し訳ありません」

 私は詢子さんと知久さんに対して申し訳なく思い、深々と頭を下げてしまった。

「あははは。いいってば~。それはそうと、あたしは個人的にマミちゃんの事を気に入ったから、もっとお話し聞きたいな~」

「うん、そうだね。もしも巴さんさえ良かったら、僕も巴さんの話を聞きたいな」

「ききたーい!」

「えへへへ! マミさん大人気だね~!」

95: 2012/11/01(木) 21:56:37.13
 鹿目家のみんなに注目されて私はとても嬉しかったけれど、恥ずかしくもあったので複雑な気持ちだった。

「ええと……。そんなに注目されると恥ずかしいです……」

「おっと、ごめんよ~。それじゃあ、パパの料理を食べながらゆっくりと会話しようか」

「はい!」

 それから私達は、鹿目さんのお父さんの料理を嗜みながら、楽しい会話を続けていた。
 楽しい時間はあっという間に過ぎるもので、いつの間にか時刻は食べ始めた六時から八時になっていた。

「あら、もうこんな時間……」

「わあ……。あっという間ですね……」

 もうそろそろお暇しないといけないと考えると、私は寂しくなってきた。
 そして、そろそろ帰ろうと思って私が挨拶をしようとしたら詢子さんが私に話しかけてきた。

「ねえマミちゃん。もし良かったら、今日は家に泊まらない?」

「えっ? でも……いいんでしょうか……」

「あったり前の事聞かないでよ~。もちろんいいに決まってるじゃんか。それに、まどかもマミちゃんが家に泊まるって聞いてから、物凄く目を輝かせてるよ」

 詢子さんがそう言っていた様に、鹿目さんはとても嬉しそうにはしゃいで、目を輝かせながら微笑んでいた。

「わあ~……。マミさんとお泊まり! マミさんとお泊まり~!」

「コラまどか。巴さんが困ってるじゃないか」

 とてもはしゃいでいる鹿目さんの事を、知久さんが注意していた。

「えへへへ! ごめんなさい。でもとっても嬉しくって、つい!」

(鹿目さんたら本当に嬉しそう。なんだか私まで嬉しくなってしまうわ)

「では、お言葉に甘えさせて頂きます」

「やった~!」

 鹿目さんは大げさにバンザイをして喜んでいた。

「あははは。ねーちゃ、たのしー!」

 タツヤくんもとても楽しそうに、鹿目さんの真似をしていた。

「よおし! それじゃあ、あたしは食器の片付けとまどかの布団の用意をしてくるよ。
パパはタツヤをお風呂に入れておくれよ。もうそろそろお寝んねの時間だからさ」

 そう言って詢子さんは台所へと食器を運んでいった。

「ああ、分かった。さあタツヤ、パパと一緒にお風呂に入るぞ~」

「あーい!」

「それじゃあ、まどかと巴さんはゆっくりしていておくれ」

「えへへへ。パパ、ありがとう!」

「本当にありがとうございます。知久さん」

 私が知久さんの名前を呼びながらお礼を言うと、知久さんは照れ臭そうに笑っていた。

「あはは……。それじゃあまどか、巴さんを悲しませるような事言っちゃ駄目だぞ」

 そう言い残して、知久さんはタツヤくんを抱っこしてお風呂場へと歩いていった。

「もう、パパったら……。わたし、そんなにひどい事しないよ」

「まあまあ。知久さんもきっと、さっき私に話した時のことを気にしているのよ」

「うん……。そうだよね……。ねえマミさん?」

 鹿目さんは少し寂しそうな顔をしながら私に質問をしてきた。

「どうかしたかしら」

「マミさんはどうしてパパとママの事名前で呼んでくれるのに、わたしの事は名前で呼んでくれないのか気になっちゃって……」

96: 2012/11/01(木) 22:09:04.83
 そう言えば私は、自分が恥ずかしくて鹿目さんの事を名前で呼んでいなかった事を、彼女から聞いて思い出してしまう。

「あっ……。えっと……それはね……。近い年の子の事を名前で呼ぶのがとても恥ずかしかったから……」

 どうしてか分からないけれど、私には年の近い子を名前で呼ぶのが恥ずかしく思えていた。
 そんな私を目の当たりにした鹿目さんは、首を傾げながら悩み出す。

「……う~ん。わたしにはよく分からないです。でも……マミさんさえ良ければ名前で呼んでくれた方がわたしは嬉しいな」

(そうよね……確かに鹿目さんのご家族は名前で呼ぶのに、鹿目さんだけ苗字で呼んでたら、
それでは彼女だけが仲間外れになっているみたいだものね……)

 そう思ってしまうと私は鹿目さんに申し訳が立たなくなってきてしまう。一人ぼっちは誰だって嫌だもの。

「分かったわ。あなたの事をこれからは、まどかさんって呼ばせてもらうわね。改めてよろしくね。まどかさん!」

 私が満面の笑顔のつもりで鹿目さんを名前で呼ぶと、彼女も満面の笑顔になり私の手を握りしめながら喜んでいた。

「わあ……。マミさん、わたしとっても嬉しいです! これからもお友達でいてくださいね!」

 私に名前を呼ばれて、とても嬉しそうにしているまどかさんを見ていると、自然と私は笑顔になってしまった。

「うふふふっ! ええ!」

 私はしばらくまどかさんと楽しい会話を続け、お風呂から上がって出てきた知久さんに、
お風呂を入っていいと言われたので先にまどかさんにお風呂に入ったらと尋ねたら、
彼女は遠慮して私に先に入るように促してきたので、私は彼女にお風呂場まで案内をしてもらい、
ゆっくりと浸からせてもらった。

 そして、お風呂でさっぱりとした私は詢子さんとまどかさんに、まどかさんの部屋まで案内してもらっていた。
 この時私は泊まるとは微塵も考えていなかったので、着替えの準備をしてはいなかった。
それで詢子さんから寝間着を一着借してあげると言われたので、私は遠慮をしながらも貸してもらった。
 初めは、まどかさんから寝間着を借りようと思っていたのだけれど、
彼女が顔を真っ赤にしながら物凄い勢いで首を横に振っていたのを見てしまい、私は借りるのをやめようと思ったのだ。

 それからまどかさんの部屋へ行くと、まどかさんからはベッドで寝ていいと言われたけれど、
それは申し訳ないと思った私は床のお布団で寝るとまどかさんに言った。
 だけれどまどかさんからは、どうしてもマミさんには気持ち良く寝てほしいと必氏に言われてしまったので私には断る事が出来ずに、
申し訳ないと思いながらも彼女のベッドで寝る事にした。

「それじゃあマミさん。おやすみ~」

 まどかさんはベッドの隣に敷いてあったお布団の中に入り込んでいた。

「ええ。おやすみなさい、まどかさん」

 私が、まどかさんの事を名前で呼ぶと、彼女は本当に嬉しそうに笑っていた。

「えへへへ!」

 その笑い声に釣られて私も一緒になって笑ってしまう。

「うふふふ。それにしても、まどかさんのご両親はとっても優しいわね」

「はいっ。わたしの自慢のパパとママですから」

 まどかさんは本当に嬉しそうに詢子さんや知久さんの事を自慢していた。

「ふふ。あなただってとても優しいわよ。お二人の子って感じてすもの」

 私がそう言うと、まどかさんは私から恥ずかしそうに目を逸らしてしまった。

「ええー。そうだといいなあ……」

「本当よ。何度も言うけれどあなたのその優しさには、みんなが救われているのだから……」

「わたしには何もできない分、みんなには笑顔でいてもらいたいから……」

「あなたは何もできなくなんてないわ。その証拠に、今もこうして幸せを分けてもらっているんですから」

 まどかさんは照れ臭そうに布団の中でモジモジとしていた。

「えへへ。そうだといいんですけど」

「……まどかさん。罰ゲームの話、覚えてる?」

 私が、さっきの罰ゲームの話を口に出すと、まどかさんは驚きながら返事をした。

「えっ!? はい……」

97: 2012/11/01(木) 22:17:19.83
「それで、あなたは今自分を責めるような発言をしたわよね?」

「あう……。はい……」

 まどかさんは、私の突飛な発言に対しても、素直に聞いてくれていた。

「罰として、あなたには今晩だけ私の抱き枕になってもらうわ」

 私が意地悪くそう言うと、まどかさんから少し遅れて返事が返ってきた。

「……えっ。……えええええ!? でも、わたし……」

「……暁美さんには少し申し訳ないけれど今晩だけだから。それに私にはやましい気持ちなんて無いし女の子同士なんだし、
何も悪い事なんてないと思うわ」

「……はい。分かりました……。今晩だけ、わたしはマミさんのただの抱き枕です……」

 まどかさんはそう言って私の寝ているベッドに入り込んできた。早速私は彼女の事を優しく抱きしめる。
すると彼女は少し肩を震わせながら可愛い声をあげた。

「ひゃう!」

「うふふ……。まどかさんの温もり、とても温かいわ……」

「は、恥ずかしいです……。あ、あれ……。マミさんの身体、震えてる……?」

 まどかさんを抱きしめている時、私は色々な事を考えていた。こんな事してまどかさんに嫌われるんじゃないかとか、
魔女との戦いの事とか、これから先もこの幸せが続くのかとか、とにかく私の中には恐怖の気持ちがいっぱいだった。

「……ごめんなさい。私怖いの……。……幸せすぎてこれは夢なんじゃないかって思っちゃって……」

「マミさん……。安心してください。夢なんかじゃありませんから。だってそうでしょう。
わたしの温もりを感じる事ができるのなら、つまりそれは夢なんかじゃないって事……ですよね」

 まどかさんは、私を少しだけ強く抱きしめながら優しい言葉を掛けてくれた。

「まどか……さん……」

「だから、そんなに悲しい顔をしないでください。わたしが側にいますから」

「ありがとう……。ありがとう……!」

 私が嬉しさのあまりにお礼を言いながら、まどかさんの事を強く抱きしめてしまうと、何故か彼女が苦しそうに暴れていた。

「もごごご!」

「ま、まどかさん? ……あ、ごめんなさい!」

 私はつい夢中になっていたせいで、まどかさんが私の胸の中で苦しそうにしているのを知る事ができなかった。
なので、すぐに彼女を私の胸の中から解放した。

「ハァ……ハァ……。……氏ぬかと思った……」

 まどかさんがとても苦しそうに息を乱しているのを見た私は、彼女に対して申し訳なく思い謝ってしまった。

「本当にごめんなさいね……」

「で、でも! 幸せ半分、苦しさ半分ですから問題ありません!」

 私は、まどかさんの微妙なテンションの高さと言葉の意味を理解できなかったものだから疑問を抱いてしまった。

「……? 幸せ……?」

「え? え~っと……。えへへへ! 何でもありませんっ!」

 まどかさんが楽しそうに笑っていたので、その事はもう忘れて別の話をした。

「うふふ。それにしても髪を降ろしたまどかさんって、とても可愛いわ」

「えっ? えへへ。ありがとうございます! でもわたし、癖っ毛ですから凄いボサボサしちゃうんですよね……」

 私は、まどかさんの髪を軽く手ですいてみた。

「でも、髪はサラサラだから傷んでいるわけじゃ無いのよね」

「はい。でも、やっぱりわたしもマミさんみたいな綺麗でまとまりのある髪になりたいです」

「うふふ。私の場合、美容院に通いつめてるからこんなに綺麗でいられるのよ。私だってお手入れをサボってしまったらきっとボサボサになっちゃうわ」

98: 2012/11/01(木) 22:25:26.88
 私は自分の髪を少しいじりながらまどかさんにそう言った。

「そういうものなんでしょうか」

「ええ、そういうものよ。それにほら、私が髪を解いてもある程度巻いた後がついてないかしら?」

 私がまどかさんに巻いていた部分の髪を見せると、彼女は感心したように驚いていた。

「おお~。……あの、マミさんの髪触ってもいいですか?」

「ええ、いいわよ」

 そして、まどかさんは恐る恐る私の髪を撫でるように触っていた。

「わあ……。とってもフワフワしていて柔らかいです……。それで、こんなにまとまるなんて羨ましいなあ……」

「うふふ。でもまどかさんは、その髪の方がまどかさんらしくて私はいいと思うな」

「やっぱりそうなんでしょうか……」

 自分の髪に対して少し不満そうにしていたまどかさんに、少しでも満足してもらう為にも私は例え話をした。

「例えば、私がまどかさんのような髪型をしているとどう思う?」

 私が例え話をすると、まどかさんはしばらく考えながら唸っていた。

「うーん……。あ、何だかマミさんが別の意味で可愛くなったような……。でも、イメージとは違うなって思います」

「でしょう。逆にあなたが私の髪型をしているのを想像すると、やっぱりイメージとは違うもの」

 そう言いながら私は、自分の髪型をしたまどかさんの姿を想像してしまって、割と似合ってるかもと思ってしまった。

「えへへ……。全然違いますね」

 まどかさんも私の髪をした自分の姿を想像してしまったのか、苦笑いしていた。

「でしょう。だから無理して真似しなくてもいいのよ。あなたも私もね。いつも通りが一番だわ」

 私が少し笑いながらそう言うと、まどかさんも釣られて楽しそうに笑っていた。

「えへへへ! そうですよね。無理しても辛いだけですよねっ!」

「ええ、その通りよ」

 そうして楽しい話を二人で続けていると、まどかさんが眠たそうに大きく欠伸をした。

「ふわあ……! ……あう。ごめんなさい……」

 まどかさんの机に置いてある光る置時計を見てみると、時刻はもう十一時を回っていた。
 流石にこの時間ともなると普通の中学生の子なら、もう寝ている時間だと私は思い、
もう寝ようとまどかさんに提案した。

「うふふ。もう寝ましょうか」

「はい……。おやすみなさい……」

 まどかさんは結局私と一緒のベッドの中で、そのまま眠りに落ちてしまった。

「すー……すー……」

(はあ……。今日はとっても充実した一日だったわ。本当に公園に行って良かった……)

 私はまどかさんの可愛いらしい寝顔を見ながらそんな事を考えていた。

(それにしても、神様は本当にいるのかもしれないわね。こんなに嬉しい出会いを作ってくれたのだから。
もしも、あの時暇じゃなかったり公園に行かなかったら、私はきっとまどかさんのご家族の方とも知り合いになれなかったのよね。
それにしても、可愛い寝顔……。何だかとってもほっこりしちゃうわ)

99: 2012/11/01(木) 22:32:49.40
 つい私は、まどかさんの寝顔を眺めながらニヤニヤしてしまった。

「も~う、そんなに見つめないでよ~。ほむらちゃん……! スー……スー……」

 すると、いきなりまどかさんから声が聞こえてきて私は心臓が飛び出しそうになるほど驚いてしまった。

(び……びっくりした……! それにしても、一体どんな夢を見ているのかしら? 暁美さんの名前が出てきたという事は、
魔女との戦いにでも巻き込まれている夢なのかしら……って、違うわよね)

 まどかさんの夢の続きが気になったけれど、人の寝言を聞くのは盗み聞きしているような罪悪感があってできなかったので、
私は無理矢理にでも寝ようと思ってギュッと目を閉じた。

(……! 隣にまどかさんがいると思うと気になって眠れない……。トイレにでも行こうかしら……)

 それでも、どうしてもまどかさんの事が気になって眠れなくなった私は、ひとまずトイレにでも行こうとまどかさんの部屋を後にした。

 部屋を出て少し歩いた途中で、眠たそうにあくびをしていた詢子さんに、ばったりと出会ってしまった。

「おや、マミちゃんじゃない」

「あ、夜分遅く申し訳ありません」

 突然詢子さんに出会ってしまった事で、私はとても驚いてしまった。

「どうしたの? 何か悩んでる顔をしてるけど」

 詢子さんにそう言われて、自分の顔に悩みが出ていた事に気付いた私は無理矢理笑顔を作ってしまった。

「はい。ちょっと眠れなくなってしまいまして……」

「マミちゃん。もし眠れないのならちょっとオバサンとお話ししない?」

「あ、でも……。いいんでしょうか?」

 こんなに夜遅くに話し込むのは詢子さんの身体に響くのではと思った私は、詢子さんに対して申し訳なく思い込んでしまった。

「気にしない気にしない。あたしもマミちゃんのお話しが聞きたいだけだからさ」

 それでも詢子さんは嬉しそうにそう言ってくれた。
 そして、私も詢子さんのお話しを聞いてみたかったので静かに快く返事を返した。

「分かりました。私も詢子さんのお話し、聞いてみたいです」

「あはは。それじゃあ、ダイニングに行こうか」

「はい」

 私は詢子さんの後ろに着いていって、ダイニングへと移動した。



続く!

101: 2012/11/11(日) 20:10:56.86
 ダイニングへとやって来た私は、詢子さんにテーブルに座るように言われて待ち続けていた。

「はい、熱いココアだよ」

 すると詢子さんは、とても温かいココアを私に持ってきてくれた。
 詢子さんはというと、ウィスキーを氷で割るロックで嗜んでいた。

「ありがとうございます」

「う~ん。まずは何から話そうかな」

 悩み顏で詢子さんは何を話そうか迷っていた。

「そうだ。マミちゃんはさ。将来どうするとか考えてる事はある?」

「ええと、そうですね……。特に考えていません」

 私は頭の中で少し考えてみたけれど、何も自分の未来のビジョンが浮かんでこなかった。

「あはは。そりゃそうだよねえ。変な事聞いてゴメンね。……それじゃあさ、マミちゃんは結婚して落ち着きたい?
それとも、バリバリ働くキャリアウーマンになりたい?」

「それは……。どちらとも言えません……。でも……」

「でも?」

 私は今から言う事を口に出そうか少し迷っていたけれど、勇気を出して口にした。

「……私は、詢子さんのような優しくて強い人になりたいです」

「あはは。嬉しい事言ってくれるねえ。でもさ、あたしなんてマミちゃんが考えてるほど、そんなに立派なもんじゃないよ?」

 詢子さんが話している時、少し寂しそうにしていたのを目の当たりにして、私は疑問を抱いてしまった。

「えっ?」

「マミちゃんはさ。素直で嘘もつかないとてもいい子じゃない?」

 確かに私は嘘をつくのは苦手だったけれど、いい子と言われるのには違和感があった。

「そう……とは言えないかもしれません」

「どうして?」

「素直かと言われたら意外とそうでもないですよ。この前だってお友達と喧嘩してから仲直りするまでに、とても時間が掛かってしまいましたし……」

 私は曉美さんとの事を話した。

「まあ、それでも仲直りできるんだからあたしはいいと思うな。歳を取ると尚更に……ね」

 詢子さんの寂しそうな様子を見ていると、大人というのは大変なんだなと私は思ってしまった。
 そんな詢子さんが私に話を続ける。

「あたしはさ、マミちゃんとは正反対。マミちゃんと同い年の頃は親と喧嘩ばかりしてたし、素直になるなんて事はまずなかったね」

「そんなの信じられません……」

 こんなに優しい詢子さんが昔はそんな人だなんて、私には信じられなかった。

「あはは。まあ、それだけあたしも大人になったって事かもしれないね。……こんな話を聞いても、あたしの事尊敬できる?」

 少し寂しそうな顔で詢子さんは私の瞳を覗き込んでいた。

「……はい。だってそのお話は過去の詢子さんですもの。今の詢子さんの事なら、私は素直に尊敬できます」

 私が感情を込めてそう答えると、詢子さんは嬉しそうに微笑んでいた。

「ふふっ。本当にマミちゃんはいい子だねえ」

「うふふふ。ありがとうございます」

 詢子さんは真面目な顔に戻って真剣に私に語り掛ける。

「それでね。もしもマミちゃんが将来バリバリ働きたいって言うのなら、あたしが幾らでも助言をしてあげるよ。
あたしの勘だとマミちゃんには、かなりのカリスマ性があると思ってるからね」

102: 2012/11/11(日) 20:18:48.54
 詢子さんにそう言われた私は、嬉し恥ずかしくなり少し俯いてしまった。

「そんな……。カリスマだなんて……」

「ふふ。あたしの勘は意外と当たるんだよお?」

「でも私なんて……」

「まあそう言われて恥ずかしいのは分かるけどね。でもさ、ここで恥ずかしがってたらカッコいい大人にはなれないぞ~」

「そ、そうですよね……」

 詢子さんにそう言われると、私は上を向いて堂々としようという気になってしまう。

「分かりました! これからは自分に自信を持って生きていきます!」

「ああ! 頑張れよ~!」

「でも、どうして私にこんな話をしてくれたんでしょうか?」

 ただお話しをしてくれているにしては少し親切すぎる気がしてしまい、詢子さんに対してふと疑問を抱いてしまった。

「……それはね。あたしのただのお節介かもしれないけれど、マミちゃんのご両親はきっとあなたにこうして自信を持って生きて欲しいって思ったからさ。
ほっとけなくてつい、ね」

「あ……」

「あたしも二児の母だからなんとなくわかるんだけど、もしもまどかやタツヤがマミちゃんのような経験をしたら、
きっと二人は塞ぎこむと思う。でも親としてはそんな事を望まないわけよ」

 確かに私は両親が氏んでからというもの、自ら進んで友達に接しようとはせずにとにかく塞ぎ込んでいた。
同情というか、言いようのない罪悪感を相手に持たれたくなかったからだ。
 だからこそ詢子さんのその言葉は、私の胸を締め付けるのだ。

「そう……ですよね」

「まあ……なんて言うのかな。こんな事マミちゃんに頼むのは間違ってるかもしれないけど、
もしもそういう不幸が私や知久にあった時は、経験者であるマミちゃんがあの二人に手を差し伸べてほしいんだ」

「……私なんかに務まるのでしょうか……」

 もしもの話とは言え、私にはまどかさんやタツヤくんの事を引っ張ってあげる自信が全くなかった。
 その時の私の顔は無意識に辛そうにしていたのか、詢子さんが慌てて私を励ましてくれた。

「ああっと……。別にそこまで思い詰めなくていからね。ただ、いつも通り接してくれれば、ホントにそれだけでいいんだ」

(そう……。今なら私にもそんな事を気にせずにいつも通り接してくれる友達がいる……。だったら私も、もっと心から強くならなくちゃ!)

 私は頭の中で熱く意気込んでいた。もう昔の自分の様な、殻に閉じこもる人を作りたくはないから。

「……はい。わかりました!」

「うん。いい返事だね~。うちのまどかもマミちゃんみたいにもう少ししっかりしてくれると嬉しいんだけどね」

「いいえ。まどかさんもしっかりしていると私は思います。何度、彼女の優しさに救われた事か……」

 私がそう言うと、詢子さんは照れくさそうにしていた。

「あはは。まあ、あたしに似て頑固なところがあるからねえ。でも、ちょっと抜けてる所があるというか頼りなく感じるというか……。
まあ、親としては心配事が耐えないね」

「うふふ。確かにまどかさんは抜けてる所もあるかもしれませんね」

 私は、まどかさんの抜けている場面を想像しておかしく思い、笑ってしまった。

「でも、ここ最近は芯の方が強くなっている気がするんだ。きっとあいつに心境の変化でもあったんだな。まあ心当たりはひとつ有るんだけど……」

 私は、詢子さんの口から出た心当たりという単語が気になってしまった。

「心当たりとは一体なんでしょうか……?」

「うんとね。この前超大型の台風が見滝原に来たから避難所に居たんだけどさ。もしかしたらその時、マミちゃんも避難してたんじゃない?」

「あ、はい。確かに避難していました。ですけど避難した人が多すぎたせいもあって詢子さんを見かけた事は無かったですね」

 私はその時、詢子さんに暁美さんや佐倉さんに美樹さんの三人と一緒にワルプルギスの夜と戦っていたなんて口が裂けても言えなかった。

103: 2012/11/11(日) 20:26:45.47
 そして私はつい嘘をついてしまった。詢子さんは笑いながらも、少し悔しそうな表情で話の続きを始めた。

「あはは。確かに人は多かったねえ。まあそれはイイとしてさ。
まどかのやつトイレに行くって言っておきながら一人で外に出ようとしたんだ。外はすごい大嵐だってのにね」

「そうなんですか……」

(やっぱり、まどかさんは私達の事が気掛かりだったのね……。)

「まあ面白半分で行こうとしたって訳じゃ無いのは分かるんだ。あいつの覚悟の様なものを垣間見たわけだし」

「まどかさんの覚悟……。一体どういうものかしら……」

 私がそう聞いた時の詢子さんの表情はとても辛そうで、今にも絶望に呑まれそうになっていた。

「……わたしじゃないと出来ない事があるって言ってた。……それがどういう事かあたしには全く理解出来なかったけど、
その時はまどかがどこか遠くに行っちゃうんじゃないかって思って私は気が気じゃなかったさ……」

「そう……ですか……」

 詢子さんの辛そうな声を聞く度に、私の胸の辺りにチクチクと棘が刺さってしまう。

「だからあたしは、その時初めてあの子に本気で手を出してまで必氏に止めたね。……結局あいつの覚悟に負けて行かせてしまったけど」

「まどかさんの……覚悟……ですね」

「まあ、こうしてまどかが無事に戻って来てくれたから、あたしもこうして正気でいられるんだろうけど、もしもそうじゃなかったらって考えたら……ね」

「その気持ち……。痛いほどわかります」

 両親を亡くした私には特に。それでも詢子さんは、この場を明るくしようと笑顔で笑っていた。
 そんな時、詢子さんが別の話を私に持ちかけてきた。

「あはははっ。そういえば話は変わるけど、まどかにはもう一人マミちゃんと似た境遇の子がいるんだよね」

 私には、その子の事がすぐに分かった。

「佐倉さん……ですね」

「おや、マミちゃんとも友達なのかな?」

「そうだといいんですけど……」

 そう私がうやむやに言ったものだから、詢子さんは少し申し訳なさそうな顔をした。

「……杏子ちゃんとケンカでもしちゃったのかい?」

「はい……。ちょっと昔に行き違いがありまして……。今ではもう、私もあの子もそんな事は気にしていないと思うのですが……」

「……自信がないんだね。まあ、この世の中みんながみんな、仲良しこよしでいられる程に上手くできた世界じゃあないからねえ」

 詢子さんの言う通り、非情にもこの世界には様々な意見があり、ぶつかり合う事があると、こんなわたしでも理解はしている。
でもそれは寂しくて悲しい事に変わりなかった。

「そう……ですよね……」

「……でもさ。今は杏子ちゃんとは仲良くできてるんだろう?」

「はい……」

「だったらさ。二人とも昔の事なんか気にせずに楽しくやればいいんじゃないかな? って、答えになってないか~」

 詢子さんはそう言いながら申し訳なさそうな顔をしながらも、楽しそうに笑ってウィスキーを口に含んでいた。

「いいえ。詢子さんの言う通りです。こうしていくら悩んでいたって答えが出ないのなら、自分から進んで行動すればいい。そうですよね詢子さん?」

「おう。まあ、まだマミちゃん達は若さに満ち溢れているんだからさ。そうやって間違いを訂正していく生き方をした方がいいよ。
まあ、オバさんの僻みなんだけどねえ~」

「そんな事ありません。詢子さんだって、まだまだ若さに満ち溢れていますよ。お肌だって綺麗ですし、見た感じも二十代前半ですって」

 私がそう言うと、詢子さんは本当に嬉しそうに笑っていた。

「あははは! もう、マミちゃんったらホンっトいい子なんだから。」

104: 2012/11/11(日) 20:34:01.64
 不意に詢子さんが時計を見て、ハッとしていた。

「おっと、もうこんな時間だ。ありがとね。こんなオバさんのお節介話しに長々と付き合ってくれてさ」

 詢子さんは申し訳なさそうに私にそう言ってくれたので、私は詢子さんに会釈をしてしまった。

「いいえ。こちらこそ親身になって話を聞いてくれて本当にありがとうございます!」

「これからも、まどかといいお友達でいてくれるとあたしは嬉しいよ」

「はい。もちろんです!」

 むしろまどかさんと友達でいられる事が、昔の私では考えれない程の奇跡だと思った。

「あと、どうしても誰にも相談できない悩みがあったら、いつでもあたしに言ってくれていいからね。
……マミちゃんのこれからの人生はとても長いんだからさ」

「……はい!」

 私は、今日の詢子さんとの会話を二度と忘れない様に深く心に刻み込んだ。

「それじゃあ、おやすみ」

「おやすみなさい」

 詢子さんは私がまどかさんの部屋に戻るまで、ずっとテーブルに座って見守ってくれていた。



 そして、まどかさんの部屋に戻った私は、彼女のあまりの惨状に言葉を失いそうになってしまう。

「まあ……。すごい寝相ね」

 詢子さんとの会話を終えた私は、まどかさんの部屋へと戻って寝床に着こうとした。
 だけれど、ベッドに満遍なく身体を広げて毛布を乱しているまどかさんを見て邪魔しては悪いと思った私は、
毛布を掛け直してあげてから、床に敷いてあるお布団で眠る事にした。

「うふふ。それにしても気持ち良さそうに寝ているわね」

 私はまどかさんの寝ている姿が可愛くて仕方なかったので、彼女の事をしばらく眺める事にした。
彼女は右へ左へと転がって何か寝言を言っている様だった。

「う~ん……。わたしもマミさんみたいなカッコ良くて強い人になりたいなあ……」

(うふふ……。何だかとっても恥ずかしいわ……。)

「あと、ナイスバディになりたい……」

 まだ自分の身体の成長の事を諦めていなかったまどかさんの寝言を聞いてしまい、つい私は溜息を吐いてしまった。

(まどかさんたら……。私は今のままのまどかさんの方が可愛らしくていいと思うのに。……って、私は何て失礼な事を! ……もう寝よう。)

 さっきも思っていた事だけれど、このまま彼女の寝言を聞いているのはあまりにも可哀想なので、
私は早々にお布団の中へと入って毛布を被って、そのまま眠りに落ちてしまった。



 朝日がまどかさんの部屋に射し込んできて、その朝日の眩しさのせいで私は目を覚ましてしまった。
 私は起き上がって不意にベッドの方を見てみると、既にまどかさんは起きていたのか、その場にいなかった。

「うーん……」

「あら……。まどかさんの声が聞こえる。まさか!」

 まどかさんの声の出どころが気になった私は、もう一度ベッドの方を見てみたけれどやっぱり誰もいなかった。
 でも、ベッドの下の方をよく見てみると、なんとまどかさんが毛布に包まったまま落ちたようで、床に豪快に転がっていた。

「ちょ、ちょっと大丈夫!?」

「……あ。マミさんおはようございます」

 彼女は何事も無かったかのように普通に私におはようの挨拶をしてくれた。

「ええ、おはよう。……って、あなたったらベッドから落ちていたのよ? どこか怪我はない?」

105: 2012/11/11(日) 20:39:34.02
「えっと……。どこも痛くありません」

 まどかさんはそう言うけれど、わたしは念の為に彼女の身体の隅々を見た。それで本当に怪我はなさそうだったので、ホッとしてしまった。

「ふう……良かったわ。それにしても……。まどかさんたら寝相が悪すぎるわ」

 私がそう言うと、まどかさんは恥ずかしそうに顔を赤らめてしまった。

「……えっ!? も、もしかしてわたし、寝ている時マミさんにひどい事しちゃったんですか!?」

「いえ、別にそういうわけではないけれど……。でも、ベッドから落ちる程の寝相はどうかと私は思うの」

 私の話を聞いたまどかさんは恥ずかしそうに頭を掻く。

「えへへ……。確かにそうですよね……」

「でも、こればっかりは直しようも無いわよね」

「はい……。検討もつきません……」

 私は不意にいい案を思い付いたものだから、ポ口リと口に出してしまった。

「ベッドに柵をつけるとか?」

 私がそれを口にすると、まとかさんの顔が少し膨れて可愛らしく怒った。

「うう……。それじゃあ、まるでわたしが赤ちゃんみたいじゃないですか……」

「うふふ。でもまどかさんみたいな赤ちゃんだったら可愛くていいと私は思うわ」

「マミさんの意地悪っ……」

 わたしがからかいすぎたせいでまどかさんは拗ねてしまい、そっぽを向いてしまった。

「うふふ。意地悪言ってゴメンなさいね」

「……? それにしても、いつものマミさんと少し違う様な……?」

 それからすぐに機嫌の良くなったまどかさんがこちらを向いて、まじまじと私の顔を見つめながらそう言ってきた。

「いいえ。私はいつもと変わらないわ」

「う~ん……。なんていうのかな、昨日よりも頼りのあるお姉さんになった様な気がします」

(そう……。まどかさんたら意外と鋭いのね。流石は詢子さんの娘さんね。)

「うふふ。いろいろあったのよ。いろいろとね」

 自分でも昨日の一晩で変わったという自覚が確かにあった。

「えへへへ! 何はともあれ、マミさんが元気になってくれて本当に良かった!」

「こちらこそお家に誘ってくれてありがとう! 私は、この至福の時を一生忘れないから!」

「え~? マミさんたらオーバーですよ~」

 私とまどかさんがそんなやり取りを続けていると、詢子さんの呼ぶ声が聞こえてきた。

「おーい。二人とも起きてるんだろー? 朝ご飯出来たからおいでー」

「は~い! それじゃあ、マミさん。行きましょう!」

「ええ!」

 それから私は朝ご飯を頂いた後、お昼前までにお話をして、お昼を過ぎた辺りにまどかさんの家族全員に、
お別れの挨拶をして自分の家へと帰宅した。
 私にとってこの二日間の出来事は、一生忘れる事ができない程に充実していた。

 もしも私が魔法少女の使命に挫けそうになったら、この二日間の出来事を思い出して全てを乗り越えられるような気がした。

「さあ、明日からも頑張ろうかしらね。私!」



おしまい

106: 2012/11/11(日) 21:12:59.87
少し遅くなっちゃったけど今まで読んでくれた人へ。ありがとう!

自分が忙しくなければ、また何時か会いましょう。

108: 2012/11/14(水) 04:01:04.51
おつおつ

引用元: まどか「杏子ちゃん、それはちょっと食べすぎじゃない……?」