1: 2010/07/30(金) 22:05:13.48
こんにちは、中野梓です。
ジメジメとした嫌な梅雨も明けて、連日晴天、夏真っ盛りで実にいい気分。

最近、私はある悩みを抱えてる。
そのお陰で勉強も練習も身が入らない状態が続いている。
これじゃあいけないって思ってはいるんだけど……やっぱりダメ。

でも一人で悩んでいても解決できそうになかったので、
今日は思い切って相談しようと決めたんだ。

こんなこと相談できる人は限られてるけど、
あの人ならきっと真面目に、真摯に聞いてもらえると信じてる。

2: 2010/07/30(金) 22:06:36.27
律「よーし、今日はもうこれくらいでいいだろー」

唯「今日もあっついもんねー。もう帰ってアイス食べたいよ~」

律「そうと決まったら即帰ろう! おっさきー!」ダダッ

唯「おっさきー!」ダダッ

澪「うおおい、勝手に決めるな! ったくもう」

紬「ふふ、この暑さじゃ唯ちゃんじゃなくてもまいっちゃうもの。仕方ないわ」

澪「そうだな、一回合わせられただけでもよしとするか」

梓「……」

3: 2010/07/30(金) 22:11:01.67
紬「梓ちゃん、今日も元気なかったけど大丈夫? 夏バテかしら」

澪「練習も心ここにあらず、って感じだったからな。無理はしないほうがいいぞ」

梓「えっ、あっ、すみません! その、夏バテとかじゃなくて……」アセアセ

澪「? まぁ、何でもないならいいんだ。じゃあ私も帰るよ、お疲れ様」

紬「お疲れ様。私はティーセットを片付けてから帰るわ。戸締りもしてくから、梓ちゃんもお先にどうぞ」

梓「あ、あのっ、ムギ先輩! ちょっとお話聞いてもらっていいですか?」

紬「あらあら、私なんかでいいの?」

梓「ムギ先輩がいいんです! 律先輩は真面目に聞いてくれなさそうだし、澪先輩はこういうことには疎そうなんで」

紬「唯ちゃんは?」

梓「……唯先輩のことで相談なんです……」

紬「(真剣な目……もしかして)じゃあお茶淹れるから、落ち着いてお話しましょう?」

梓「あ、はい、すみません!」

4: 2010/07/30(金) 22:20:05.99
ムギ先輩が淹れてくれた、気持ちを落ち着かせる効能があるっていうハーブティーを一気に飲み干す。
ふと部屋の隅にある水槽に目を見やると、トンちゃんと目が合った。
トンちゃんにも後押しされている気持ちになった私は、意を決して口を開いた。

梓「あのあの、ムギ先輩、その、相談なんですけど……!」

紬「……唯ちゃんのこと、好きになっちゃった?」

梓「えっ、ええっ! どどどっ、どうして!」カーッ

時たまこの人はこうやって心を読んでくる。
私は自分でも分かる位に顔を真っ赤にさせて下を向いてしまった。

紬「あっ、ごめんね! そうじゃないかなぁ、って思っただけなの」アセアセ

梓「……もしかしてバレバレですか?」チラッ

5: 2010/07/30(金) 22:27:47.76
紬「(上目遣い!)うーん、りっちゃん、澪ちゃんも薄々ってところかしら。多分だけど、唯ちゃんは気付いてないと思うわ」

梓「そうだといいんですけど……」モジモジ

紬「(可愛いわ~♪)あら、どうして? どう見ても唯ちゃんも梓ちゃんのこと気に入ってるし、悪いようにはならないんじゃないかしら」

梓「でも……やっぱりおかしいですよね? 女の子同士ですし」

紬「そうね……普通の恋愛、とは違うわね。色々障害もあると思う。それでも、好きって気持ちは簡単に諦めていいものじゃないはずよ」

梓「そう……そうですよね! 私、決心しました。やっぱりムギ先輩に相談して良かったです!」

さっきまで曇天のようだった心の中に光明が差した気がした。
これはもう早速明日にでも告白しちゃおう!
今日は準備で忙しくなりそうだ。

7: 2010/07/30(金) 22:32:00.54
紬「あ、でもこうなると困ったことに……」

梓「えっ?」

紬「実は昨日ね――」

9: 2010/07/30(金) 22:36:52.26
憂「紬さん……私っ、お姉ちゃんのことが大好きなんです!」カーッ

紬「えっ、うん? それは十分知ってるけど?」

憂「えっ、あっ、いやそうじゃなくてですね。えっと、何て言ったらいいんだろう」

紬「姉としてではなくて、ってこと……?」

憂「そ、そうっ、そういうことですっ! ……やっぱりおかしいですか?」

紬「(ああ、潤んだ瞳で見上げるのは反則よ~)そうね、普通ではないわね。それは姉妹愛とは違うの?」

憂「はい。私、ずっとお姉ちゃんを見てきました。お姉ちゃんも私をずっと見てくれていて、それだけで満足していました」

憂「でも最近お姉ちゃんは軽音部の事、特に梓ちゃんの事ばかり話していて、私を見てない気がするんです」

10: 2010/07/30(金) 22:40:11.06
紬「それは考え過ぎよ。唯ちゃんはいつも憂ちゃんを一番大事に思ってるはずよ」

憂「ありがとうございます。でも、一度そう考えてしまったらもう元の感情に戻せなくって……これがただの姉妹間のものとは思えません!」フルフル

紬「憂ちゃん……そうね、そこまで思い詰めてるなら、一度思い切って唯ちゃんに思いの丈をぶつけてみればいいわ」

憂「大丈夫でしょうか? 私、嫌われちゃうんじゃ……」

紬「どういう結果になろうとも、唯ちゃんが憂ちゃんを嫌いになることなんて絶対ないわ。それは断言できる」

憂「は、はい! ありがとうございます、変なこと聞いちゃってすみませんでした」

紬「いえいえ、どういたしまして~」

12: 2010/07/30(金) 22:45:19.46
紬「――ということがあったの」

梓「憂も……唯先輩のこと……」

紬「これは大分複雑な関係ね」

梓「私、憂に聞いてきます。今日は図書室で勉強してるはずだから、まだ校内に――」

憂「その必要はないよ、梓ちゃん」

梓「憂! どうしてここに?」

13: 2010/07/30(金) 22:50:51.76
憂「なんとなく、かな? お姉ちゃんの話してるような気がしたから」

梓「恐るべし憂の姉センサー! じゃあ話が早いね、憂」

憂「うん……やっぱり梓ちゃんもお姉ちゃんの事好きなんだ」

梓「うん。こればっかりは憂でも譲れない」

紬「梓ちゃん、憂ちゃんにも聞いたことだけど、その感情は本物? 先輩を慕う感情とは違うって言い切れる?」

梓「……正直に言うと、分かりかねます。こんな気持ちになったの初めてなんで……だから、確かめるためにも告白します」

紬「梓ちゃん……」

14: 2010/07/30(金) 22:54:04.58

憂「じゃあさ、梓ちゃん。土日、ウチにおいでよ。一緒にいたらはっきりするんじゃないかな」

梓「憂、いいの? 唯先輩を取っちゃうかもしれないんだよ」

憂「それは嫌だけど! でも、お姉ちゃんが梓ちゃんを選んだら、梓ちゃんだったら私も諦めがつくと思うの。だから、ね」

梓「憂……わかった。その勝負、受けて立つよ。絶対唯先輩を振り向かせるんだから」

憂「ふふっ、私も負けないよ、梓ちゃん」

紬「梓ちゃん、憂ちゃん……こういう三角関係もいいわ~」ポタポタ

梓「わっ、ムギ先輩鼻血出てます!」

17: 2010/07/30(金) 22:57:22.28
憂「ただいま、お姉ちゃん」

梓「お邪魔します」

唯「お帰り~、ってあずにゃんどうしたの?」

梓「色々ありまして、二日間ご厄介になります」

唯「よくわかんないけど、あずにゃんならいつでも大歓迎だよ~!」ダキッ

梓「はわわ! ど、どうもです」カーッ

憂「むーっ、すぐ晩御飯の支度するから、お姉ちゃんは先にお風呂入っててね」

唯「うん。じゃあ、あずにゃんも一緒に入ろうよ」

梓「ふぇっ!? ふ、ふつつかものでふけど、よ、宜ひくお願いひまふ!」グルグル

唯「あはは~、何か今日のあずにゃん面白~い」

19: 2010/07/30(金) 22:59:18.82
憂「だっ、だめだよお姉ちゃん! あ、梓ちゃんは……その、私と入るのっ!」

梓「えぇっ!?」

唯「えー、そうなんだぁ。ならいいよ、一人で入っちゃうから」ガチャ バタン

憂「……」

梓「……」

憂「……ぷっ」

梓「……ははっ」

梓憂『あははははっ!』

20: 2010/07/30(金) 23:02:31.49
唯「じゃあ今日はもう寝るね、お休み~」バタンッ

梓「お休みなさいです」

憂「お休み、お姉ちゃん」

梓「さて、憂さん」バッ

憂「何でしょう、梓さん」バッ

梓「協定を結ぼうよ」

憂「協定?」

梓「そう。唯先輩に軽いアプローチを仕掛けるのは勝手。でも、こっ、告白とかそういう抜け駆けは禁止!」

憂「うんうん」

22: 2010/07/30(金) 23:05:30.13
梓「あくまでも唯先輩に振り向いてもらうことを第一に! 私達はまだ自分の気持ちも整理仕切れてないんだからさ」

憂「そうだね。それじゃあ、お互いをフォローし合うって感じでいいのかな?」

梓「そうしようよ。憂は恋敵だけど、私、憂と喧嘩なんかしたくないもん」

憂「それは私も同じだよ。私、お姉ちゃんと何があったか、毎日梓ちゃんに報告するね」

梓「私も! 隠しっこは無しだからね」

憂「うん! それじゃあ私たちももう寝よっか?」

梓「えぇ、もうちょっとお話しようよ」

憂「うん、いいよ。じゃあ明日どうしよう?」

梓「天気いいみたいだから、唯先輩と三人でどこか行こうよ――」

24: 2010/07/30(金) 23:29:01.21
翌日は市民プールに遊びに行ってきた。
今まではそこまで意識してなかったけど、改めて唯先輩を意識しだすと水着姿が眩し過ぎて、私はろくに目を合わせられなかったっけ。。

唯先輩は恥ずかしくて俯いてる私を見て、具合が悪いのかなって下から覗き込んでくるんで、
私の心臓はまるでフルマラソンを全力疾走したみたいに激しく脈動しちゃった。
かなり危ない状況だったけど、憂がフォローしてくれたんで何とかやり過ごせた。

この日の夜に唯先輩は、暑いからってアイス食べ過ぎてお腹壊しちゃったそうで。
憂が相当絞ったみたいで、怒られて小さくなってる唯先輩の写メが送られてきた。

梓「ふふっ。【あんまり私の唯先輩をいじめないでね】っと、送信完了」ピッピッ

ブルルルルッ

梓「早っ、もう返信きた。えーっと、【私のお姉ちゃんですっ!】か。あはは、憂ったら」

27: 2010/07/30(金) 23:35:24.77
これが平沢唯協定を結んだ初日。
この週はこれから毎日こんな風にメールを交換し合ってた。
私は部活での唯先輩、憂は家での唯先輩。

そしてこの頃から憂は私達の下校時間に合わせて一緒に帰宅するようになっていた。
私もあつかましくも、平沢家にお邪魔して晩御飯をご馳走になることも多くなっていた。

教室では常に唯先輩の事で盛り上がってた。
あ、純は空気でした。

そんな生活が1ヶ月ほど続いた。
週末には必ず平沢家にお泊りするようにまでなっていて、この土曜の夜もいつもと同じ流れで夜を迎えていた。

29: 2010/07/30(金) 23:40:52.29
唯「ごちそーさまぁ。う~い~、アイス~」

憂「お姉ちゃん、お風呂入ってからにしたら?」

唯「憂のけちー! あずにゃ~ん、憂ったらひどいよ~」

梓「御飯食べてすぐアイスとか……またいつぞやみたいにお腹痛くなっても知りませんよ?」

唯「うぅ、二人とも厳しいよ~」

30: 2010/07/30(金) 23:43:54.24
唯「お風呂あがったよ~」

憂「それじゃあ梓ちゃん一緒に入ろうか? お姉ちゃん、アイス食べすぎないようにね」

唯「あ~、また二人でお風呂入るんだぁ。最近いつも一緒にいて凄く仲いいね。妬けちゃうな~」

梓「そ、そうですか!? 普通ですよ、普通!」

憂「そうだよ! お姉ちゃん、変なこと言わないでよ!」バタバタバタ

唯「変な二人。それよりもアイス、アイス~♪」

33: 2010/07/30(金) 23:49:40.37
お風呂場!

梓「ふ~、危なかった~」チャポン

憂「お姉ちゃん、時々鋭いところあるもんね~」

梓「でもさ、唯先輩に言われて確かに、って思っちゃった」

憂「え? 何が?」

梓「えっと、よく考えたら最近は唯先輩といる時間より憂といる時間の方が長いな、って」

憂「そうだね。一緒にお風呂はあんまり普通じゃないかも。でもそれは抜け駆け禁止と、お互いの報告もあるから……」

梓「…………うん。あ、あのね、憂!」

憂「は、はいっ!?」

梓「う……や、やっぱりやめとく!」

憂「え……くすっ、変な梓ちゃん」

梓「あ、あはは……」

憂「……」

梓「……」

34: 2010/07/30(金) 23:53:43.52
唯「三人で私の部屋で寝るなんて初めてかも」

梓「そうかもしれませんね」

憂「じゃあ電気消すよ?」

唯「は~い」

――――チッチッチッチッ……
時計の針が無限とも思える時間を刻み続ける。
この狭い空間にはその音だけが響いていた。

唯「すーすー」

梓「(唯先輩の寝息もか)」

35: 2010/07/30(金) 23:55:14.84
唯先輩はベッドの上なので、ここからでは確認できない。
でも、いつも通りの幸せそうな寝顔をしているってことは何となくわかる。

梓「(寝苦しいな……)」

ほんの少しだけ首を傾け、隣で寝ている憂を見やる。
だけど憂は背中をこちらに向けていて、もう眠りについているかまではわからなかった。

梓「(憂、起きてる……のかな?)」

36: 2010/07/30(金) 23:57:12.57
憂「(梓ちゃんの視線を感じる……どうしよう、最近、お姉ちゃんといるよりも、梓ちゃんといた方が楽しくなってきてる)」

憂「(もちろんお姉ちゃんは大好きなんだけど、それに負けないくらい……ううん、多分私、梓ちゃんの方が……好き、なんだ)」

憂「(でも、今更だよね…………今更、梓ちゃんの方が好きなんです、って言っても迷惑、だよね)」ポロポロ

憂「(梓ちゃんはお姉ちゃんの方が好きなんだし……私、どうしたら)」

唯「う~ん……あずにゃ~ん。ぐ~」

梓憂『!!』

37: 2010/07/30(金) 23:59:19.92
梓「(寝言、か。唯先輩……最初は唯先輩しか見えなかった。いつも一緒にいられる憂に嫉妬してた)」

梓「(だけどお互いに胸の内を打ち明けて、お互いの目的が一緒で、その為に協力し合って……楽しかった)」

梓「(もしかしたら今は憂の方が好きなのかもしれない。でも……今更だ。憂には迷惑でしかないよ)」

梓「(怖いよ……このままじゃ正気でいられなくなる。私は本当は……)」

憂「梓……ちゃん、起きてる?」

梓「――!」

38: 2010/07/31(土) 00:01:15.61
私は憂の問いかけに答えなかった。
何故かはわからない。
ここで答えておけばこの後の出来事は回避できたのかもしれない。

でも、しなかった。
何を聞かれるのかわかっていたんだと思う……そして、私がそれに対してどうするかも。

怖かったんだ。
全部、怖かった。
些細な事で壊れてしまうかもしれない、弱い自分が怖かった。

39: 2010/07/31(土) 00:05:12.42
梓「あ、明日の用意しなくちゃ……」

今日は昼過ぎに平沢家を出て、それから自室にずっと篭って考え事をしていた。
議題はもちろん、唯先輩と憂……自分の気持ちについて。
結論は出ず仕舞い。
もっと時間が欲しいが、それでも月曜はやってくる。
なんと容赦の無いことだ。

梓「このままじゃまずいよね。練習も疎かになっちゃうし、事情を知ってるムギ先輩には迷惑かけっぱなしだし」

梓「これって決断の時、ってやつなのかな」

梓「ん~、明日! 明日決めよう!」

梓「お休みっ!」

40: 2010/07/31(土) 00:08:33.68
唯「昨日はずーっとゴロゴロしてただけだったね~」テクテク

憂「……」テクテク

唯「あずにゃん、急に用事ができた、って帰っちゃったから仕方ないけどさ」

憂「……」

唯「折角いい天気だったのに勿体無かったねぇ……って、憂? 聞いてる?」

憂「えっ!? う、うん、そうだね。たまにはスイカバーも美味しいよね」

唯「そんなこと聞いてないよ……昨日からなんかおかしいよ、憂」

憂「ご、ごめんね、お姉ちゃん。何でもないよ」

憂「(今日、今日梓ちゃんに話そう! 部活の前なら少しくらい時間取れるよね)」

42: 2010/07/31(土) 00:13:07.10
その日はずっと悩んでた。
憂も何か思い詰めた表情で、とても話しかける雰囲気ではなかったので丁度よかった、と言えば丁度よかったのかな。
私達が難しい顔をしてたから、純は変わらずの空気っぷりだった。

梓「(ああ、もう放課後になっちゃう……このままじゃ一緒だよ)」

憂「……」カチカチ

梓「(憂……携帯? そうだ! HR前に唯先輩を呼び出しちゃおう!)」

梓「(唯先輩、大事な話があるのでHRが始まる前に部室に来てくれませんか?、送信っと)」カチカチ

ブルルルルッ

梓「(きたきた、えっと【わかったよ! それにしてもあずにゃん不良だね~。】。よしっ)」

キーンコーン

梓「純、ちょっと準備があるから先に部室に行ったって伝えておいてっ!」ダダッ!

純「早っ! ちょ、ちょっと梓!」

憂「(梓ちゃん……何て呼び出そうか迷ってたけど、部室に行くなら丁度いいかな)」カチカチ

44: 2010/07/31(土) 00:20:06.44
梓「はぁっ、はぁっ。あ、唯先輩もう来てるんだ。よし!」ガチャ

唯「おー、あずにゃん。突然呼び出してくれちゃってどうしたの? 和ちゃんに掃除当番代わってもらうの大変だったよ」

梓「突然すみませんでした。どうしても唯先輩に聞いてもらいたいことがあって」

唯「どんときんしゃい! 可愛い後輩の頼みを断るわけにはいかないよ」

梓「は、はい! えっと、あのですね――」

ブルルルルッ

梓「!?」

人が決心しようとしてるってのに。
気になるけど、今は無視。
全く間の悪いメールだ……メール!?

頭の中に思い詰めた表情でメールを打っている憂が浮かんだ。
このメール、憂かな? でも確認はしない。絶対決心が鈍っちゃうから。

45: 2010/07/31(土) 00:26:34.33
唯「あずにゃん?」

梓「す、すみません! えっと、その……私は……唯……先輩が…………です」ゴニョゴニョ

唯「え? あずにゃん、よく聞こえないよ~」

梓「わ、私は唯先輩のことが、だ、大好きですっ!!」

唯「えっ」

梓「ずっと、ずっと前から好きでした! ゆ、唯先輩は、その、どうですか!」

唯「わ、私? うん、あずにゃんのことは出会った頃から」

出会った頃から! その続きを! 唯先輩、早く――――

48: 2010/07/31(土) 00:29:59.38
――――バタンッ!!

扉を思いっきり開く大きな音。
恐る恐る振り返ると、そこには全身を震わせ、大きく目を見開き凄い形相をした憂が立っていた。

唯「あ、憂~」

梓「う、い……これは、その……!」

憂「梓ちゃん。そういうこと、しちゃうんだ」

全身が粟立つ感覚を覚える。
どうみても言い訳できる状況ではないけど、私はそれでも何とか言葉を選んでみる。

梓「ご、ごめんなさい、憂! これは――」

憂「言い訳なんてしないで!!」

梓「――!!」

49: 2010/07/31(土) 00:33:59.74
普段の憂からは想像もできない怒声にたじろぐ。
しっかりと見開かれた双眸の端から涙が流れ落ちる。

憂「私、最初はお姉ちゃんが大好きで……そして梓ちゃんの気持ちを知って、梓ちゃんとお姉ちゃんの事で一緒に考えるようになって」

憂「それがずっと続いて、気付いたら梓ちゃんに会うことが凄く楽しみになってきてて……」

梓「憂……」

憂「もうわかったんだ。梓ちゃん……私、梓ちゃんの事が好きだよ。お姉ちゃんより」

憂は泣きながら笑っている。
無理して笑っていることを肯定するように、涙は絶えず流れ続けていた。
私は、なんて軽率なことをしてしまったのだろう。

50: 2010/07/31(土) 00:37:55.19
梓「う、憂」

憂「触らないで!!」

とりあえず落ち着かせようと差し出した手を弾かれる。
さっきまで笑っていた憂の顔が再び暗く、澱んでいく。

憂「でもね、梓ちゃんはお姉ちゃんが好きだから……梓ちゃんに告白して嫌われるのが怖かったから、お姉ちゃんの事譲って、私は身を引こうって決心したんだ」

憂「そしたら梓ちゃんが、お姉ちゃんに……告白してて。もうわかんないよ。……約束を破ってまでした告白、どうだった?」

梓「憂、落ち着いて! 何言ってるのかわかんないよ」

憂「私もわからないよ! 私が引いて、梓ちゃんがお姉ちゃんに告白して。希望通りになったけど……何か違うよ!」ダッ

憂が背を向けてこの場を走り去ろうとする。
唯先輩は事態の把握が出来ていないのか、理解の範疇を超えているのかオロオロしている。
ここで憂を見失うと二度と元の関係に戻れなくなる気がして、咄嗟に私は憂の腕を掴んだ。

51: 2010/07/31(土) 00:41:50.23
梓「憂、待って! 話を――」

憂「触らないでって言ったでしょ!!」ドンッ!

梓「あっ」

ガシャアァァァァァァァン!!

突然突き飛ばされた私は、体勢が悪かったせいもあってか後ろの机まで飛ばされた。
憂って力持ちなんだなー、とか、そういえば鞄を教室に置きっぱなしだっけ、とか色んな事がゆっくり浮かんできて、
鈍い痛みの到達と共に、そこで私の頭の中が真っ白になった。

52: 2010/07/31(土) 00:46:15.83
憂「あっ!」

唯「ちょっ、憂! って、あずにゃん大丈夫!!」ガバッ

憂「ああ……!」

唯「あずにゃーん、あれ、起きないよあずにゃん。なんか頭がぬるぬる……コレッテ血ジャ」

律「よーっす、早速お茶にしようぜー! あれ、憂ちゃんじゃん。どした?」

澪「練習が先だ! わっ、机が無茶苦茶じゃないか」

紬「唯ちゃんこれって……! 梓ちゃんどうしたの!」

唯「ナンカアズニャン動カナクッテ……血ガダラダラデ……アハハ」グルグル

55: 2010/07/31(土) 00:49:06.79
律「お、落ち着け唯! 澪、何してんだ、救急車だよ!」

澪「ウワー、血ガドバーッダ……アハハハハ」グルグル

律「だあぁぁぁ! もういい、私が呼んでくる!」

紬「唯ちゃん、私先生呼んでくるから。頭は動かさないようにしてね?」

唯「ワカッタヨムギチャン……エヘヘヘヘ」グルグル

紬「憂ちゃんも落ち着いて」

憂「つ、紬さん……私、こんなつもりじゃ」ガタガタ

紬「……話は後で聞くわ。今は梓ちゃんの事が先よ」

憂「は、はい……梓ちゃん……ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」ポロポロ

56: 2010/07/31(土) 00:52:35.63
梓「あ、憂。今日も来てくれたんだ。さっきまで唯先輩達もいたのに」

憂「うん、さっき受付ですれ違ったよ。……もう大丈夫なの?」

梓「みんな騒ぎ過ぎだって。頭って結構派手に血が出るけど、大した事無いこと多いみたいだし」

憂「でもまだ包帯取れないんだね」

梓「うん。包帯が邪魔で髪纏められないんだよね。これでいつもと一緒にしてたら、それこそ触覚だし」

憂「梓ちゃん、怪我した日は殆ど意識無かったんだよ。心配しちゃうよ」

梓「貧血でフラフラだったみたい。病院の先生や両親と会話してた記憶はあるけど、内容までは覚えてないんだ」

そう言って軽く笑い、心配そうな顔のままの憂を元気付ける。

58: 2010/07/31(土) 00:56:07.27
目覚めた時、私は真っ白な病室のベッドの上だった。
丸一日寝込んでいた時は両親が付きっきりだったけど、昨日には大分回復してきたから二人とも仕事の前後に見舞いに来ただけだった。
今日は大事をとって安静にしているが、若いから回復が早いとかで、明日には退院できるみたいだ。

唯先輩たちは昨日もお見舞いに来てくれてた。
本当に怪我自体は大した事無いんだけど、唯先輩はすっごい泣いてて、澪先輩はもちろん、なんと律先輩まで涙ぐんでて、
ムギ先輩からは凄く高そうなフルーツ盛り合わせを頂いちゃったし、さわ子先生からもそれより大分劣ってたけど盛り合わせがきて、
純や和さんまで心配したって言ってくれて……。
凄く心配かけて申し訳ないって気持ちと、こんなに皆に気に掛けて貰ったっていうので、気付いたらボロボロ泣いちゃってた。

憂は……憂も昨日、皆と一緒に来ていた。
頭割っちゃった私よりもよっぽど青ざめた表情で、今にも倒れ込みそうな感じだった。
結局昨日は憂とは一言も話せなかった。

……まぁ、私だって空気が全く読めない訳じゃない。
憂が今日皆と時間を外してお見舞いに来たっていうのは、きっとそういう訳だろう。

61: 2010/07/31(土) 00:58:37.32
梓「憂、ちょっと中庭でお話しようか」

憂「え? 出歩いちゃってもいいの?」

梓「だから大げさなんだって。ほら、大丈夫――って、あれ?」フラフラ

憂「梓ちゃん! まだ寝てた方がいいんじゃない?」

梓「ずっと寝てたからふらついちゃっただけだよ。本当に大丈夫」

憂「本当? うーん、具合悪くなったらすぐに言ってね?」

梓「うん。さぁ行こう」

憂「あ、そんなに急いだら危ないよ!」

62: 2010/07/31(土) 01:02:45.51
梓「わぁ、外はまだまだ暑いねー」

憂「……」

梓「この分だと唯先輩は、いつも通り扇風機の前でゴロゴロしてるんじゃない?」

憂「……」

梓「ねぇ、憂。……憂? 聞いてる?」

憂「梓ちゃん……ごめんね、私のせいで」

梓「……」

憂「全部私が悪かったんだ。梓ちゃんがお姉ちゃんに告白して、それで良かったのに私が出しゃばっちゃって」

憂「梓ちゃんの事が好き、とか言っちゃって……迷惑だったよね? 困らせちゃったよね?」ポロポロ

憂「それで途中から訳分かんなくなっちゃって。気付いたら梓ちゃんを突き飛ばしてた」

63: 2010/07/31(土) 01:06:00.31
梓「……憂」

憂「私、梓ちゃんと付き合うとかじゃなくって、ずっと一緒にいたいな、って思ってたんだ」

憂「あの時のメールの内容も、梓ちゃんを呼び出して告白しよう、ってそういうこと考えてた」

憂「でも多分できなかったと思う。私、肝心なところで弱気になっちゃうから……自分勝手だよね」

梓「憂……もういいよ」

憂「あの時梓ちゃんを怒鳴っちゃって、それで……梓ちゃんが負い目を感じて……っ、私に振り向いてくれないかな、って……うぅっ」

憂「本当に自分勝手っ……嫌になる。ごめんね、まだこんなに愚痴っちゃって。でも、もうこれで最後」

梓「えっ」

憂「こんなことしちゃって友達失格だよ。梓ちゃんも怒ってないはずないもん」

憂「もう……会わないようにするね。あっ、あずっ、さちゃんも……私のこと嫌いになって……ね? うぐっ、うぅっ」

梓「……」

66: 2010/07/31(土) 01:15:29.11
涙で顔をぐしゃぐしゃにして憂は懺悔する様に思いの丈を語り終えた。
一旦背を向けて短く深呼吸をし、腕で顔を拭う。
振り向いて精一杯の作り笑いを浮かべた憂が言葉を紡ぐ。

憂「じゃあ……さようなら、梓ちゃん」

梓「待ってよ、憂。言いたい事だけ言って、それでさよならなんて、それこそ自分勝手だよ」

憂「梓ちゃん……そうだよね。梓ちゃんだけが傷付いちゃってるもんね。いいよ、私にも同じ事して」

梓「――っ! じゃあ目を瞑ってよ」

憂「うん……」

梓「行くよ」

私がそういうと、憂は閉じた両目の端にぐっと力を込める。
小刻みに震えている両肩に、少し背伸びして手を置いた。
憂は一瞬ビクッとしたが、覚悟を決めたように震えを止めた。
それを見届けてから、まだ少しだけ引きつった憂の頬に目掛けて――――

67: 2010/07/31(土) 01:18:21.22
憂「――っ!? あ、あああ梓ちゃん!?」

梓「えへへ……ファーストキスってやつ、しちゃった」

憂「梓ちゃん……何で?」

梓「私も憂の事が一番大好きってことだよ!」

憂「えっ、えっ?」

突然の出来事に憂は混乱している。
私は憂と二人きりになったら言おうと決めていた事を語りだす。

69: 2010/07/31(土) 01:22:45.64
梓「謝るのは私の方だよ。約束を破って唯先輩に告白したのは私なんだから」

梓「実は私も怖かったんだ」

梓「世話が焼けるけどほっとけない唯先輩。気配り完璧、何でもこなして尽くしてくれる憂。顔は似てるけど、全然性格の違う姉妹」

梓「二人の事深く知っていくにつれて、私はどっちが本当に好きな人なのか分からなくなっちゃってた」

憂「あ、私と同じ……」

梓「それで答えが出せなかった私は、焦って唯先輩に告白した。本当に好きなのは憂だったのにね」

梓「弱かったんだ。憂に告白して振られるより、唯先輩に告白して憂とは今まで通りでいようって。そんな上手くいくはずないのにね」

憂「そう、だったんだ」

70: 2010/07/31(土) 01:27:25.92
梓「訳分かんないよね。憂が好きだから、憂に嫌われたくない為に唯先輩に告白しちゃうとか。本末転倒って感じ」

自然と涙が出てた。
溜め込んでいた気持ちを吐き出すように、それを流すように、言葉と涙が溢れ出てきた。
憂も落ち着きを取り戻したようで、今は真剣に私の話を聞いてくれている。

梓「軽蔑、しちゃった?」

憂「ううん、そんなことしないよ。私だって梓ちゃんに酷いことしたもん。お互い様だよ。それに――」

梓「それに?」

憂「私と梓ちゃんの気持ちが一緒だったって、そっちの方が嬉しくて……」

梓「憂……!」

71: 2010/07/31(土) 01:32:22.86
憂「梓ちゃんは本当に卑怯だよ。こんなこと言われたら……お別れなんてしたくなくなっちゃう……よっ」

梓「憂……私も! 私も嬉しい! あー、こんな簡単に解決しちゃうことで悩んでて、私達何やってたんだろうね」

憂「うんっ。ふふ、何か私今日泣いてばっかりだよ。それより頭の怪我、本当にごめんね?」

梓「これは憂を裏切った身勝手な私への罰なんだよ。傷は治っちゃうけど、この痛みは一生忘れないよ」

憂「私も……私も、この気持ちは絶対に忘れない」

72: 2010/07/31(土) 01:37:12.20
梓「じゃあ、ウジウジしちゃうのはここまで! ……ゴホン、では改めまして」

憂「?」

梓「こんなワガママで自分勝手な私だけど、付き合ってもらえますでしょうか!」

憂「あ……! こんな弱くて自分勝手な私でよければ、こちらこそよろしくお願いします!」

梓「えへへ……」

憂「ふふふ……」

梓憂『あははははっ!』

73: 2010/07/31(土) 01:41:54.56
梓「大変ご迷惑をお掛けしました。今日からまたよろしくお願いします!」ペコリ

律「いやー梓が無事でよかったよかった。これでまた練習ができるな!」

澪「本当に練習するんだろうな? まぁ、大事無くてよかったよ。私達は気にしてないからさ」

紬「ええ、またよろしくね? 今日は快気祝いってことで、一杯お菓子持ってきたの~」

唯「えっ本当!? わ~い、あずにゃんも復帰するし、お菓子も一杯だし最高だよ~」

憂「もう、お姉ちゃんったら」

澪「まぁ、今日位いいじゃないか」

律「そうだぜ。私らが用意するからさ、梓と憂ちゃんは座った座った!」

梓「えっ、そんな悪いですよ。私も手伝います」

紬「いいのいいの。今日は梓ちゃんが主役なんだから。憂ちゃんも座って」

75: 2010/07/31(土) 01:46:08.26
いつもの軽音部の光景。
違うのは私の横に憂がいて、先輩方が快気祝いってことで目まぐるしく用意していること。
めんどくさがりの唯先輩と律先輩まで私の為に動いてくれている。
少し気恥ずかしさを感じていたら、おぼつかない手つきで唯先輩がティーセットを運んできた。

唯「お、ま、た、せっ……ととっ! フラフラしちゃうよ~」ガチャガチャ

梓「あわわわわっ!」

憂「お、お姉ちゃん危ないっ!」

唯「だい、じょうぶ、っとぉ! これからは私も一人で色々できるようにならないとだもんね!」

憂「えっ? それってどういう」

律「おい、唯!」

76: 2010/07/31(土) 01:50:41.29
唯「あれっ、まだ秘密だっけ!?」

澪「おいおい、確認しても無いのにもうバラしちゃったのか」

梓「えっ……もしかして」

紬「ごめんなさい、梓ちゃん。事後の説明が必要だったし、なによりこういうことは皆でお祝いした方がいいと思ったの」

なんという。
時期を見て憂と付き合っている事を皆さんに報告しようと思っていたのに。
ムギ先輩は天使なのか、悪魔なのか。
私は耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかった。

憂「もう観念したら、梓ちゃん?」

梓「……うーっ……わかった! わかりましたよ!」

77: 2010/07/31(土) 01:53:41.68
覚悟を決めて椅子から立ち上がる。
だけど、部室内の全視線を一斉に受けて少し決心が揺らぐ。
トンちゃんまで見つめてる気がしてきた。

梓「えっと、その……あのですね……つまりですね」

律「……じれったいなー」

澪「静かに聞いてろ!」

憂「梓ちゃん」

憂が力一杯握り締めている私のこぶしにそっと手を置いた。
びっくりして憂の方を見る。

憂「落ち着いた?」

梓「……うん! それじゃあですね」

78: 2010/07/31(土) 01:56:53.15
梓「えっと、わ、わたくし中野梓は、こちらの平沢憂さんと……お、お付き合いすることになりました!」

憂「なりました~」

パチパチパチパチパチパチ!!

澪「おめでとう、二人とも」

律「遅かれ早かれこうなると思ってたぞー?」

紬「素敵~、赤飯も持って来ればよかったわ~♪」

唯「ううぅぅぅうう! あずにゃんんん、う、憂を宜しくお願いしますうぅぅぅ!! ふえぇぇぇぇん!」

梓「あはは……何だか恥ずかしいです」

憂「うふふ、そうだね!」

80: 2010/07/31(土) 01:59:25.10
梓「あ、そういえば唯先輩! この間のことなんですけど」

唯「ひっく、ふぇ?」

梓「あの、その、唯先輩を好きだって言った件なんですが……」

唯「おー、あのことね! 私もあずにゃんの事は出会った頃からずーっと大好きだよ!」

梓「そ、それなんですけど」

唯「もちろん、りっちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん、憂もみーんな大好きだよ!」フンス

梓「あ……えぇ?」

81: 2010/07/31(土) 02:02:09.21
紬「(梓ちゃん)」ボソボソ

梓「(は、はいっ!)」

紬「(唯ちゃんは告白と受け止めてなかったみたい。それとなくフォローもしておいたから大丈夫よ)」

梓「(あ、ありがとうございます。何から何まで)」

唯「こらーあずにゃん! 内緒話ばっかしてないで、飲んだ飲んだ! 食べた食べた!」

梓「そ、そんなに食べられませんよ!」

紬「うふふ」

82: 2010/07/31(土) 02:07:50.21
律「ふぃー、もう食べられねー! 澪ーおんぶしてくれー」

澪「調子に乗って食べるからだろ。全く」

紬「戸締り完了しました~」

梓「じゃあ皆さん帰りましょうか」

澪「おい、律」

律「! ああ、そうそう! 澪、お前新しいイヤホン欲しいって言ってたっけー」

澪「ああそうだったー。律、すまないけどちょっと付き合ってくれよー」

梓「え、何か凄い棒読みですよ」

律「お前らはごゆっくりどうぞー、じゃあなー」タッタッタッ

紬「唯ちゃん、帰る途中でアイスでも食べに行かない?」

唯「アイス! 行きます! あずにゃんと憂も一緒に……むぐっ」

紬「じゃあ梓ちゃん、憂ちゃんまた明日ね~」ズルズル

83: 2010/07/31(土) 02:11:27.16
梓「あ、あはは」

憂「何か気を使わせちゃったみたいだね」

梓「そ、そだね、こういう時だけ完璧に合わせるんだから……行こうか?」

憂「うん。あ! 梓ちゃん、アレ何かな?」

梓「えっ?」

指差した方向を見るが、特に変哲も無い光景があるだけである。
憂にしては珍しいいたずらだ。

梓「もー、何にもないよ。って――――むぐっ!!??」

84: 2010/07/31(土) 02:16:15.52
驚いた。
振り向いたら目を閉じた憂の顔があって……私は一気に、く、唇を奪われた……。
突然の事で硬直してしまったが、次第に私も目を閉じて憂を受け入れた。

憂「…………えへへ」

梓「はぁっ、はぁっ……ううう憂! いいいいきなりなな何を!」

憂「この間のお返し。私だけびっくりしたんじゃ不公平だもん。お返しは倍返しってことで唇、ご馳走様でした!」

普段の天使と見紛うばかりの笑顔。
そして今の、普段は見せない小悪魔の笑顔。

こんなに可愛い憂を独り占めできちゃうんだとか、やっぱり憂が大好きなんだって考えてたら、
一気に感情が押し寄せてきて、また私は泣いちゃった。

85: 2010/07/31(土) 02:20:10.61
憂「あ! ご、ごめんね。いきなり唇とか嫌だったよね?」

梓「あ、ううん。これは違うの」

憂「えっ」

梓「うーん、なんか実感しちゃったっていうか、何というか。想いのままを言葉にするのは難しいね」

憂「梓ちゃん……」

梓「えへへ。さっ、折角気を使ってもらったんだし、どこか寄って帰ろうか?」

憂「そうだね! あ、梓ちゃん、その……手、繋いでもいいかな?」

梓「(か、可愛いっ!!)う、うん、もちろんいいよ!」

86: 2010/07/31(土) 02:26:14.35
憂「ふふ……梓ちゃん大好きだよ」

梓「うぅ……う、憂は……可愛すぎだよ!」

憂「そう思うならさ、梓ちゃんも私に言うこと、あるよね?」

梓「ホントにもう……卑怯だよ……コホン!」

多分この時は耳たぶまで真っ赤だったと思う。
体温計なんて振り切っちゃうくらいの熱もある。
期待してる憂の目を見据えて、息を整えて、私もとびっきりの笑顔で答えた。

梓「私も憂が、世界で一番大好きだよっ!」



おしまい!

89: 2010/07/31(土) 02:30:08.58
どうもです。
うまくできてるかどうかはわからないけど精一杯やったつもりです。

もっと早く終わるかな、とか思ったけど全くそんなことなかった。
今日も早朝から仕事です!

94: 2010/07/31(土) 03:52:37.35

引用元: 梓憂「本当に好きな人」