2: 2012/11/15(木) 16:41:18.95
【早朝】

ぱちり、と目を見開き身体を起こす。
現在時刻午前六時。小鳥遊六花は目をしょぼしょぼさせながら枕元の手鏡を取った。

六花がこんな早朝に起きる理由はただ一つ、階下に住む彼女の契約者こと富樫勇太を起こしに行くためである。
それでわざわざ勇太が普段起きる時間よりも少し早い時間に起きているのだ。

そんな六花が起きて最初にすることは自身の右目に金色のカラーコンタクトを入れることだった。
それこそが、邪王真眼。古より伝わる伝説の魔王が備えていたという最強の魔眼……という、設定。
そんなわけで常日頃からカラーコンタクトを装着している六花だったが流石に睡眠中には外していた。

(邪王真眼を開眼、させる……)

若干寝惚けた頭でカラーコンタクトのケースを手繰り寄せながら手鏡を覗き込む六花。
しかし彼女は直ぐに違和感に気付いた。

4: 2012/11/15(木) 16:44:39.55
(あれ……? 邪王真眼が既に開眼している……?)

鏡の中の彼女の右の瞳は金色。
間違いなく、金色。

(……? 昨日、外すの忘れたかな……?)

左手にあるケースを確認する。
だが……

(…………ある)

邪王真眼――カラーコンタクトはそこにきちんと存在していた。
六花は再び手鏡を覗き込んだ。

(見間違いじゃ――ない)

そこには先と変わらず美しい金色の瞳が彼女自身を見つめ返していた。

6: 2012/11/15(木) 16:47:01.49
【富樫家】

「勇太勇太勇太ゆうたゆうたゆうたゆうたゆうたぁぁぁぁぁああああ!!!」

「うおっ!?」

突然の叫び声に思わず飛び起きた勇太。
目を開くと目の前には妙に頬を上気させた六花がいた。

「ど、どうしたんだよ六花。朝っぱらから騒いで……」

「聞いて、勇太。わたし、わたし、わたしついに――」

なにやら興奮気味の様子の六花。
そういえば今朝はいつもの眼帯してないんだなー、やっぱりオッドアイ綺麗だしかっこいいよなー、と勇太はぼーっと考えていた。

六花は息を大きく吸い込むと、高らかに宣言した。



「邪王真眼に覚醒した――!!」

8: 2012/11/15(木) 16:48:58.84
「…………は?」

口から溜め息のような変な声が漏れ出る。
覚醒、ってじゃあお前今までのはなんだったんだよ、と聞きたくなる。

「朝起きたらこうなってたのっ!」

そう言って胸を張る六花。
俺は今度こそ溜め息を吐いた。

「邪王真眼……ってどうせいつものカラコンでしょ?」

「違う。本当の邪王真眼。邪王真眼が覚醒した」

「ふーん」

「むっ……もしかして勇太、信じてない?」

「まあ」

即答だった。

9: 2012/11/15(木) 16:50:33.49
「…………は?」

口から溜め息のような変な声が漏れ出る。
覚醒、ってじゃあお前今までのはなんだったんだよ、と聞きたくなる。

「朝起きたらこうなってたのっ!」

そう言って胸を張る六花。
俺は今度こそ溜め息を吐いた。

「邪王真眼……ってどうせいつものカラコンでしょ?」

「違う。本当の邪王真眼。邪王真眼が覚醒した」

「ふーん」

「むっ……もしかして勇太、信じてない?」

「まあ」

即答だった。

10: 2012/11/15(木) 16:51:04.83
(邪王真眼に目覚めたわたしには全てが分かる)

かつて暗黒世界の魔王がその瞳に宿していたといわれる邪王真眼。
邪王真眼は全てを“視”通す。
故に、最強。
故に、無敵。

そしてそれは人の感情・思考を読むことなど容易いことだった。

(今のわたしには勇太の考えも全て手に取るように分かる。全ては真の覚醒を果たした邪王真眼の能力)


「……六花、どうしたんだよ急に黙り込んで」

「ちょっと黙ってて、勇太。今、邪王真眼の存在を証明するために勇太の心の内を“視”る」

「あー……、わかったぞ、うん。待っててやるから気の済むまでおやり」

(むっ、また馬鹿にされた気がする……)

12: 2012/11/15(木) 16:52:32.21
(精神を集中させる……邪王真眼は最強。やろうと思えば心を読むなど造作も無い……!)

「勇太、汝の心を…………読むっ! はああああああああっっ!!」

激しく震えながら腕を振り回す六花。
いつもながらの彼女の中二病ではあるが今回は異様に気合が入っていたためにすこし引く勇太。

(……ま、どうせいつもの設定だけの中二病なんだろうけど)

「む、そんなことはない勇太。わたしの邪王真眼は本物」

「えっ」

思考を……読まれた?
まさか。本当に?

(もしかして、もしかして本当に邪王真眼――?)

「もしかしてもなにもさっきから本当だと言ってる」

(ま、マジだ――っ!?)

13: 2012/11/15(木) 16:54:37.77
(六花……まさか、本当に邪王真眼に覚醒したのか?)

「うん、覚醒した。……というかさっきからそう言ってる」

(じゃあ俺がこれから頭の中で考えること全部言ってみろ)

「よゆー」

(早寝早起き)

「早寝早起き」

(赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ)

「赤パジャマ青パジャマ黄パジャマ」

(本当にマジだ……すげぇ)

「本当にマジだ……すげぇ。……フッ」ドヤァ

           :
           :
           :

「やばい、遅刻するっ!」

「うぅ、勇太がずっと問題を出し続けるから……」

「お前もノリノリだっただろおおぉぉおおおお!!」

14: 2012/11/15(木) 16:58:39.84
「走れ六花! 間に合わなくなるぞ!」

「うん! ……あっ」

「ど、どうした」

「封印具を忘れた、取りに戻らなくては」

「い、急げっ!」

ダダダッ、と踵を返し走り去る六花。
右目に眼帯を装着した彼女は物の数分で戻ってきた。

「……やはり、封印具をつけると邪王真眼は発動しない模様」

「そりゃ、人の心が常時分かるのも面倒くさそうだし……」

「それよりも勇太……時間」

「……っ! やばい! 走るぞ六花!!」

「うんっ」

15: 2012/11/15(木) 17:02:14.01
【数学授業中】

「えー、ではこの問題を……小鳥遊、解いてみろ」

指名され、すくりと立ち上がる六花。

(数学苦手の六花、大丈夫かな…………ん?)

見ると、六花は指を眼帯に掛けるとほんの少しだけ引っ張り持ち上げたようだった。
恐らく、邪王真眼を開眼させたのだろう。


(邪王真眼を発動し、答えを視る……っ!)

17: 2012/11/15(木) 17:05:29.02
「……2x^2+2x+1」

「んむ、正解だ。よく予習しているな」


(どうでもいいけど六花のあれ、ズルだろ絶対……)

クラス中が、数学苦手の六花が淀まずに問題の答えを告げたことに驚きを隠せないようであったが、
タネを知ってる勇太だけはハァ、と顔に手を当てため息を吐いた。

(ったく、あいつは……)

見ると、六花がこっちを振り返り、得意げにVサインを向けていた。

18: 2012/11/15(木) 17:09:19.37
【放課後・部室にて】

「どうだった、勇太。今日の数学の時間のわたしの活躍は」

「どうって……」

いくら本当に邪王真眼に目覚め、人の思考を読むことが出来るようになったといっても、
そうやって問題の答えを知るというのは間違っていると思う、そう勇太は思った。
だけど……

(六花の、こいつのこんな顔見てそんなこと言えないよな……)

ニコニコと微笑む六花。
勇太は彼女を叱り付けることが出来なかった。


勇太がどう返して良いか分からず困っているそんな中、凸守と森夏、それにくみんがやってきた。

「おぉっ、今日のマスターの魔力からは一段とすごい何かを感じるDeath!」

19: 2012/11/15(木) 17:13:39.83
「ふふふ、やはり分かるか我がサーヴァントよ」

「ええ、この魔力……! まさか、伝説の」

「聞いて驚くがいい。なんとわたしはついに――」

そして部員全員の顔を見回しながらゆっくりと眼帯に指を掛ける六花。
しかし部員の方はと言うと、凸守は六花の言葉の続きを心待ちにしている様子であったが、
くみんは枕片手に寝落ち寸前、森夏に至っては興味無さげに眺めているだけだった。
そして、もう既に彼女がこれから言う言葉を知っている勇太もまた同じであった。

眼帯を取り去り、右目を露にする六花。
彼女は眼帯をそのまま背後に放り捨て、決めポーズを取る。
綺麗な黄金の瞳がこちらを見つめている。

「――邪王真眼に覚醒した」


その言葉と同時にくみんは「おやすみなさーい」と眠りに就き、
森夏はくだらない、という表情で鞄から取り出した文庫本を開いた。

20: 2012/11/15(木) 17:17:23.08
「ぐ、愚民ども! 何を詰まらなさそうにしているDeathか!? 特に偽モリサマー! 我がマスターの御言葉をとくと聞くDeath!」

「だって、邪王真眼に覚醒したってそんなの……どうせいつもの設定でしょう?」

「何を言うDeathか! 設定などではないDeathよ! マスターの邪王真眼は真の――」

「いい、凸守。これからわたしが邪王真眼の力を解放する。……そうすれば彼女もきっと信じる」

凸守の言葉を遮り、自信一杯に彼女はそう宣言した。
いつもと少し違う六花の雰囲気に気付いたのか凸守は微かに身構えたようだった。
モリサマー……森夏もこの場に満ちる、不穏な空気を感じ取ったのか顔をしかめた。

「まあ、どうせ設定でしょう? 証明なんて出来ないと思うけれど、出来るものなら」

「丹生谷、今回は本当に――」

「何よ、富樫君までそんなことを言うの? ……まさか富樫君、あなた中二病を再発したとか」

「してないよ!? ……でも、今回の六花の“それ”は本当に、本当なんだよ」

「いい、勇太。いくら彼女を説得しようとも無駄。それよりもわたしなら彼女を手っ取り早く納得させることが出来る――」



「――この、邪王真眼を使って」

21: 2012/11/15(木) 17:20:41.64
「これから、凸守の考えていることを言い当てて見せる」

宣言。
凸守と森夏は顔を見合わせた後、ゆっくりと頷いた。

沈黙。
六花はじーっと凸守の顔を見つめている。

「……本当に、思考を読めるというのDeathか?」

「…………“視”えた」

凸守が不安そうに呟いた瞬間六花はそう告げた。
彼女は直ぐに再び口を開く。


「『もし本当にマスターが邪王真眼に目覚めたとしたら凄いことDeath』……と」

「あ、当たってるDeath……!!」

23: 2012/11/15(木) 17:22:57.25
驚いた顔をする森夏。
六花は彼女の方に向き直った。

「モリサマー。貴女の心も読んでみせる」

「で、できるものなら……」

先程と同じ台詞。
ただ、明らかに弱気になっていた。

「…………“視”えた」

やはり、数秒してそう告げる六花。
彼女は凸守を見て言った。

「『一々デスデス五月蝿い中坊よねこいつ』……と」

「あ、当たってる……!?」

25: 2012/11/15(木) 17:27:40.87
「って、五月蝿いってどういうことDeathか!?」

「そのまんまの意味よ……」

森夏に掴みかかろうとする凸守と、呆れ顔の森夏。

「お前ら、先輩も寝てるんだし部室で暴れるなよ……」



「でも、本当に邪王真眼? に目覚めた……ってことでいいのかしら」

「そう。わたしはついに邪王真眼に覚醒した」

「やっぱりマスターは最強Death!」

一変、驚きの表情を隠せない森夏と、六花を賞賛する凸守。
六花は得意気な顔をして、眼帯を付け直した。

「でも普段はこの封印具で禁を施しておく」

27: 2012/11/15(木) 17:30:09.52
【帰り道】

「じゃっおうしんがん、じゃっおうしんがん♪」

「はぁ……」

邪王真眼節(自作)を口ずさみながら駅のホームで小躍りしている六花を勇太は複雑な心境で眺めていた。
確かに他人の心を覗ける邪王真眼は凄い。
でも、今日の数学の時間のように悪用してしまうのはいけないことではないだろうか。

「なあ、六花」

「何、勇太」

「あのさぁお前、その邪王真眼だけれど……」

「……たとえ勇太の頼みでもこの邪王真眼はあげることは出来ない。
. なぜならこれは不可視境界線を見つける道標になるかもしれない」

「いや、そういうことじゃないくてさ……」

31: 2012/11/15(木) 17:33:36.16
「違うの? では勇太は何が言いたい?」

首を傾げる六花。
勇太は、言い聞かせるように言った。

「あのな、邪王真眼は確かに凄いよ。でも、それを無闇に使っちゃ駄目だ」

「……何故?」

「何故って……」

勇太は言い澱んだ。
道徳的にいけないことだから?
でも、彼女の設定の中で彼女は闇の存在だ。
そんな彼女に道徳を言って聞かせることが果たして有効だろうか。

「と、とにかく駄目だ。だってそれについても今朝突然そうなってたわけで全然理解もしてないんだから……」

33: 2012/11/15(木) 17:38:05.99
「ふふふ、勇太が何か心配してるのは分かる。……でも大丈夫」

六花は靴を滑らせ決めポーズをとる。
いつもの靴、彼女のお気に入りのローラーシューズだ。

「なぜならこのわたしは、邪王真眼を手に入れ最強と相成ったのだから――」



そのとき、一陣の風が吹いた。

突風だった。

六花はバランスを崩した。

彼女が立っていたのは線路に近いところだった。

ちょうど列車はホームに入ろうとしているときだった。

彼女は慌てて身体を立て直そうとした。

しかし地面の出っ張りにローラーのタイヤが引っかかり、余計に身体を崩した。

彼女の、

        身体は、

                 線路に、

                         吸い込まれていって、

36: 2012/11/15(木) 17:41:59.62
「え…………」

目の前には列車があった。
周りは騒然としている。

左手を痛む右腕に伸ばす。

腕が強く引っ張られた感覚。
直前に聞こえた「危ない!」という叫び声。

隣を見る。
先程までそこにいた、少年はいない。

前を見る。
列車の下の方にナニか赤い液体が付着していた。

「あ、あ、あああ、ああああ……」

それは……さっきまで一緒にいた……

「うわああああああああああああああああああっっっ!!!!!!!!!!」

38: 2012/11/15(木) 17:44:58.04
それから数年の時が過ぎた。
小鳥遊六花はそれ以来、以前にもまして寡黙な少女となった。

中二病的行動は全くしなくなり。
包帯も全て取り……

……ただ、忌まわしき事故を思い出してしまう右目だけは眼帯で「封印」していた。



彼女がそれからも普通に話せたのは凸守や森夏、それにくみんだけだった。
事情を真に分かってくれた人たち。
彼女達のお陰で六花は自暴自棄になることなく高校生活を送ることが出来たのだ。



……ときどき、六花は思う。
何がいけなかったのだろう、と。

あの輝かしかった高校一年の日々。
いつも一緒にいてくれた優しい少年に自分は、きっと、

41: 2012/11/15(木) 17:48:26.20
彼が氏んでしまったのは、あのとき自分が調子に乗っていたことの罰なのだろうか。
ならば何故神は邪王真眼をこのわたしに与えたのか。
いや、そもそも邪王真眼は神が与えたものなのか、悪魔が与えたものなのか。

分からない。分からない。


彼はどうして氏ななければならなかったのか。

分からない。分からない。



――憧れていた。

最初はそれが全てだった。

非日常への憧れ。

夢を見ていたのだろうと思う。

美しく、美しく、……儚い、夢を。



彼女が信じてきた中二病は……

……結局大切な人を救うことには役に立たなかった。

42: 2012/11/15(木) 17:51:35.58
そうしてそれからさらに数年が経った。

中二病から完治した六花はいたって普通に卒業し、普通に就職した。

朝起きて、朝食を摂って、仕事をして、帰って、夕食を摂って、寝る。
その繰り返しの毎日。

誰かと交際する事は無く。
日々を機械的に過ごしていく。



彼女はあの日以来、一度も――それこそ寝る時ですら――眼帯を取り除くことは無かった。

あれだけ憧れていた邪王真眼。
あれだけ喜んでいた邪王真眼。

今はただ忌むべき存在と成り果てていた。

43: 2012/11/15(木) 17:55:05.74
「ふぅ…………疲れた」

そんなある日のことだった。
六花は洗面台に立っていた。

最近、妙に疲労が溜まっているような気がする。
働きすぎなのであろうか。
肩も凝るし、目もしょぼしょぼすることが多々あった。

医者に処方してもらった目薬を左目に差した。
目薬の冷たさと、爽快感に思わず感動する。

こんなに気持ちのいい物ならもっと早く医者に掛かれば良かった、そんなことを思いながら。





「右目……」

鏡に映るのは眼帯の右目。
あれから一度も晒していない右目。

医者には両目に目薬を差すように言われていた。

「…………目薬、差さなくちゃ……」

彼女は指を眼帯に掛けた。

44: 2012/11/15(木) 17:56:29.25
数年ぶりに露になった金の瞳。
六花は凍りついた。

目の前に、勇太がいた。

「え……?」

(六花)

勇太の声が聞こえる。
いや、“視”えるといった方が正しいか。

「ゆう、た?」

(そうだよ、六花)

彼は。

あのときと全く変わらない風貌で。
あのときと全く変わらない優しい笑顔で。

彼女を見つめていた。

47: 2012/11/15(木) 17:59:14.97
(ずっと話したかった……六花)

「本当に……勇太?」

(そうだよ)

彼はにっこりと微笑んだ。

六花の瞳には涙が溢れてきた。
一体何が起こっているのか分からない。
どうして彼が目の前にいるのか理解できない。

でも、それでも良かった。
六花は久しぶりに涙を流した。



それから二人は長らく語り合った。
それこそ六花の出勤時間の直前まで、飽きることなく語り合った。

48: 2012/11/15(木) 18:02:29.70
楽しかったこと。
辛かったこと。
詰まらなかったこと。
嬉しかったこと。

勇太はあのときからずっと六花のそばにいたらしいけれど、彼女が眼帯を外さなかったために
この時まで彼女に気付いてもらうことが出来なかったという。

六花は夢中になって勇太に話しかけ続けた。
勇太は時々相槌を打ったり、感想を口にしたりした。



それからは一変、彼女の生活は薔薇色となった。

朝起きたら「おはよう」を言って。
出勤までの短い時間を二人で過ごして。
仕事から帰ってきたら「ただいま」を言って。
寝るまでの時間、二人で語り合う。

51: 2012/11/15(木) 18:06:52.61
確かに、彼は氏人だった。
触れる事は出来ず、六花以外の人間にはその言葉を聞くことはおろか、その姿を見ることも適わない。

あるとき、森夏や凸守、それにくみんに事情を話した。
彼女たちは六花のその突拍子も無い話を信じてくれた。
だが、彼女たちもやはり勇太の姿も声も、認識する事は出来なかった。

また、勇太も六花に姿を見せ、声を届かせること以外のことは何一つ出来なかった。
幽霊みたいな存在なんじゃないかな、と勇太は言った。



それからも、六花と勇太は毎日のように語り合った。

雨の日も、雪の日も、晴れの日も――

彼女はかつて失った笑顔を取り戻していた。

55: 2012/11/15(木) 18:10:19.42
「勇太、今日はね。勇太に言いたい事があるの」

(ん、どうしたの改まって)

「えっとね…………」



六花は思うのだ。

彼の姿は彼女にしか見れない。
声もまた彼女にしか届かない。
他の人間には彼の存在を認識する事はできないのだ。



――それは。

それは、まるで中二病の妄想のようではないか、と。

58: 2012/11/15(木) 18:15:34.73
だってそうだろう?

自分だけがそれを知っている、なんて……中二病の設定と何が違うというのだろうか。
それは何も…………残酷なほどに、何も違わない。



つまり、こういうことだ。

勇太の事を六花は視る事が出来る。
声を聞くことが出来る。

でも、それは六花だけの事実だ。
六花にとってだけの真実なのだ。
他の人にとっては、ただの妄想となんら変わらない。



それでも。六花はやはり、思うのだ。

かつて発病していた中二病。
沢山の妄想を抱え、沢山の設定を生み。
何の因果か本当に“特殊能力”を手に入れさえもしてしまった。

周りからは醒めた視線を向けられ。
友達も多くは出来なかった。

60: 2012/11/15(木) 18:19:24.63
――――それでも。

彼女の目には彼が映る。
話し、語ることが出来る。
笑い合う事が出来る。

ならば、それはたとえ他人には見えないとしても彼女にとっては真実なのだとは言えないだろうか。



「ねえ、勇太」

(ん、何?)

「わたしね――」



だから。

たとえ妄想でも。
たとえ中二病でも。



「わたし、勇太の事が――」



――中二病でも恋がしたい。                                                    【終わり】

62: 2012/11/15(木) 18:22:14.06

70: 2012/11/15(木) 18:26:57.18
個人的に不完全燃焼なんでまた中二恋で書くと思う
今度は地の文無しで

技量が足らんね
読んでくれた人はありがと

引用元: 六花「邪王真眼に目覚めた……っ!」