1: 2015/01/26(月) 02:17:32.91

昔々、弱い弱い魔族がいた。


そいつには何の取り柄もなく、周囲の奴等から馬鹿にされるくらい底辺の魔族だった。

魔族と言えるかどうかさえ不思議なほどに非力な魔族だった。

周囲は同族だと認めていなかったかもしれない。


痩せぎすで青白い肌、如何にも弱そうな風体。

美しかったが、美しさが力になる世界ではなかった。


【人間】と言われることさえあった。


馬鹿にされる度に愛想笑いを浮かべた。
 
悔しさを誤魔化して、憎しみを胸に過ごす日々を送っていた。



https://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1422206252

2: 2015/01/26(月) 02:20:21.72

だがそんな奴にも野心はあった。

力が全ての世界で成り上がる術を模索した。

弱者は、魔界の中で強くなろうとしていた。


だが自分より弱い魔族などいやしない、全く歯が立たない。

そんな弱小魔族が目を付けたのが、人間。

いや……ちょっと違うな。


目を付けたのは、人間の血。

人間の血を、命を【奪う】ことだった。

人界との接触は堅く禁じられているにも拘わらず、そいつは『それ』を実行した。


3: 2015/01/26(月) 02:41:33.72

夜な夜な人界へと赴き、人間の命を奪い続けた。


そいつは信じいた……

何の力のない自分、蔑まれる自分を消し去る為に……


藁にも縋る想いだったんだろうな。

だから、命を奪えば力が増すという妄想妄執に取り付かれた……

しかしそれは現実となり、そいつは力を得た。

奪った分だけの命を得、不氏とも言える肉体を得たんだ。


挙げ句、その馬鹿は血に酔い、一代で数万の命を奪った。



4: 2015/01/26(月) 02:46:23.08

自分の為だけに、数万人の人間を頃し続けた。

つまり数万回殺されても生き延びられる力(命)を得たわけだ。


それ後、入念に準備をして実行に移した。

それから自分より上位の魔族に戦いを挑んだんだ。

底辺だと、【人間】と蔑み侮っていた連中に……


どんな汚い手でも使った。

勝つ為、見下した者を見返す為に……


何度も何度も氏を偽装し、己を蔑んでいた彼等彼女等、全員を頃した。

5: 2015/01/26(月) 02:55:08.26

その後の戦い全てに勝利した。

奪った魔法で、奪った力で、奪った姿で……


勝利しただけでなく奪った。

敗者の力を奪い、力を高め、更なる力を求めた。

それから長い時、幾多の戦いを経て、その馬鹿は魔界を支配する王となった。


同族とさえ認められなかった屑は他者の力を奪い、這い上がり、遂には王となった。


王となった後、そいつ名は

ブラッドリー・アナステシア・ディーア。


こいつの一族は、こう呼ばれることになる。


6: 2015/01/26(月) 02:57:40.52

その後の戦い全てに勝利した。

奪った魔法で、奪った力で、奪った姿で……


勝利しただけでなく奪った。

敗者の力を奪い、力を高め、更なる力を求めた。

それから長い時、幾多の戦いを経て、その馬鹿は魔界を支配する王となった。

同族とさえ認められなかった屑は他者の力を奪い、這い上がり、遂には王となった。


王となった馬鹿の名は

ブラッドリー・アナステシア・ディーア……


こいつの一族は、こう呼ばれることになる。

7: 2015/01/26(月) 02:59:11.34





【吸血鬼】と……





10: 2015/01/26(月) 03:12:23.00

そういや言い忘れてたな。


俺は、俺の名は

ルクレーシャス・クリストファー・ディーア。



これは、妻と出逢う以前の物語り。



俺を愛し、救ってくれた女と出逢う以前。

友人と言っていいのか分からねえが、奴と出逢う以前。

息子、ロイ・クリストファー・アルノルトが生まれる以前。




アニ・アルノルトと出逢う前の物語りだ。



11: 2015/01/26(月) 03:20:24.13
酔ってんのに調子に乗って書いてたから許して。
一応見直したつもりだったんだけど、ダメだったかぁ
たぶん早めに終わるはず。

この文に誤字脱字はない。

12: 2015/01/26(月) 03:33:45.27
>>3の二行目 そいつは信じていた……

>>4の三行目 その後、入念に準備をして実行に移した。

他にもあるかもしれないけど、これからは気を付ける。

14: 2015/01/26(月) 14:33:16.97
ーーーー
ーーー


「さーて、どうすっかなぁ……」

真Ⅱ修正版、八千魔貨もすんのか。

いやいや、これくらい安いもんだろ。

寧ろ納得の額だと言える。


思えば長い道のりだった。

そういや始まりは真Ⅲだったっけ。

それからペルソナ2罪・罰、P3、P4、マニアクス、真Ⅰ……


「うっし、買うか。代引きにしよ」


ボイス付きとあって手を出しにくかったアバタールチューナー。

これもやってみれば中々良かった。


15: 2015/01/26(月) 14:36:18.11

葛葉ライドウ対超力兵団も良かったな。


ネコマタは良かったな。

センリは何で……いや、まあいいや。

で、今回遂に真Ⅱを購入するに至った。

楽しみだなぁ、早くやりてえなぁ……


【黄昏に神、堕ちる】


とか格好良すぎんだろ。期待大だな。


16: 2015/01/26(月) 14:42:40.58

「あー、暇過ぎる」


届いたら、すぐにプレイするから忙しくなる。

しかし届くまでが暇だ。部屋掃除でもすっかなぁ……

でも、クリアしたらまた暇になっちまう。


「ったく、オレは何すりゃあいいんだよ」


17: 2015/01/26(月) 14:43:52.39

同期の奴等は王の座を目指して頑張ってる。

目指すっつーか、現王を打倒しようとしてるんだっけか。


理由は単純。

強いだけの馬鹿が王になっちまったもんだから、民衆の不満が爆発した。

好き放題やりたい放題やってるから擁護する奴なんていやしない。


つーか、あんまり詳しく知らされてねーから分からん。

ただ、とんでもねえ野郎らしい。


18: 2015/01/26(月) 14:45:45.49

しかも、厄介なことに強いんだよな。

魔界の王だしな、当たり前か。


覇者、勝利者、全てを手に入れた男。

つまり魔界最強なわけだ。

だから何をやっても許される。


【強き者が上に立ち、民を導く】


これが何千年も続いてる魔族の掟だ。


19: 2015/01/26(月) 14:47:57.21

どんなに願っても、自ら王座を退くようなことは絶対しないだろう。

だから皆は協力して王を倒そうとしてる。

父ちゃんも現状を打開する為、同志と意見を交わす毎日。


色々と気を回しているからか最近顔色が悪い、かなり心配だ。

母ちゃんも結構きつそうだし、何かしてやりたい。

でもオレは戦うことを許されてない、毎日毎日だらだら過ごすだけ。


「約束、だもんな。でもこのままじゃ……あー、めんどくせえな」


オレはその時の出来事を憶えてないけど、子供の頃に何かやらかしちまったらしい。

それから父ちゃん母ちゃんに一つだけお願いされた。


今でもはっきりと思い出せる。


20: 2015/01/26(月) 14:49:34.67

※※※※※

『いいかいクリス、今から言うことをよく聞くんだよ?』

ーーうん

『よし、良い子だ』

ーーえへへっ

『……クリス』

ーーなーに?


『何をしてもいい、自由に生きていい』

『貴族として振る舞えとも言わない、今や没落したようなものだからね』

『けれど、決して戦ってはいけない』


『これは父さん母さんからの一生に一度のお願いだ』


21: 2015/01/26(月) 14:51:18.63


『分かってくれるかい?』


ーーうん、分かった。

ーーでもまた父さんを侮辱されたりしたら、僕は……


『確かに私は弱い』

『時と共に血は薄れ、最早吸血鬼と名乗っているに過ぎない力なき魔族だ』

『その事実を、私は否定はしないよ』


ーー父さんは強いよ!!

ーー優しい人は強いんだって、母さんが言ってたもん!!


『そうか、母さんがそんなことを……』


ーーうんっ、優しいのが一番だって言ってた


22: 2015/01/26(月) 14:55:30.87


『クリスは強くなりたいかい?』

ーーうん、一番強くなりたい!!

『そうか……なら、誰よりも優しくなりなさい』


ーーえっ?


23: 2015/01/26(月) 14:57:43.36

『優しくなるには、悪い気持ちに負けちゃ駄目だ』

『時にはどうしても我慢しなきゃならないこともある』


ーー父さんを馬鹿にされても我慢しなきゃならないの!?

ーーそんなの無理だよ!!


『うーん、じゃあこうしよう』

『ちょっとだけ我慢して、まずは話してみなさい』


ーー話す?馬鹿にした奴と?


『そう、何故そんなことを言うのか、何故それを口にしたのか。とかね』


24: 2015/01/26(月) 14:58:57.91

ーー理由を聞いて、もっと嫌な気持ちになったらどうするの?

ーーそれでも我慢するの?


『うーん、母さんなら殴れと言うんだろうけど……』

『まあ確かに喧嘩程度なら仕方無いか。それに子供だから喧嘩の一つや二つ……』

『でも、うーん困ったな。あぁそうだ』


ーーどうしたの?


25: 2015/01/26(月) 15:00:46.54

『暴力は嫌いだからあまり言いたくはないけど、喧嘩は許そう』

『けれどそれは、堪えかねない侮辱を受けた場合のみ、だからね?』


ーーうんっ、分かった!!


『でも、悪い気持ちに従っちゃ駄目だよ?』


ーー悪い気持ち?


『そう。この前のような、怒りに身を任るのは絶対しちゃいけない』

『そういう気持ちに負けないで、心を強くするんだ』


ーー心を強くって、どうやって?


『その為の我慢だよ。それが心を鍛えるんだ』


26: 2015/01/26(月) 15:02:21.43


ーー分かんないよ。

ーーどうやって鍛えればいいの?


『我慢出来た時、自分を褒めてあげるんだ』

『よく我慢した。これで僕は一つ強くなれた!!ってね』

『まあ、おまじないみたいなものさ』


ーー僕は父さんみたいになりたい。

ーーだから、やってみる。


『……ありがとう、クリス……』


28: 2015/01/26(月) 20:28:19.48

※※※※※


「相変わらず屋敷だけは立派だな」


アタシは、アイネイアス・ヒルデガード・エインズワーズ。

この屋敷に住むルクレーシャスと同族の吸血鬼だ。

しかし今や吸血鬼とは名ばかり、種族として名が残っているにすぎない。


吸血鬼が廃れたことには勿論理由がある。

彼の子孫が人界へ接触していたことが露見したのだ。

マヌケな話しだよ、まったく……


以来、人界へ接触することは禁忌とされ、接触した者は氏罪されることとなった。

以後数百年が経ち、次第に血は薄れ、吸血鬼は力を失ったのだ。


29: 2015/01/26(月) 20:29:45.55

だがアイツは違う。

アタシのような紛い物とは違う。

アイツは正真正銘の【吸血鬼】だ。


偉大なる始祖

ブラッドリー・アナステシアス・ディーア。


その力の全てを受け継いだ唯一の男。

途切れたかに見えた彼の血脈が突如蘇り、姿を現したのだ。

それが、アイツ……

ルクレーシャス・クリストファー・ディーアだ。


30: 2015/01/26(月) 20:30:41.88

皆、その力に嫉妬した。

アタシもその一人だ。

嫉妬というより、奥底では憧れているのかもしれない。


だけどアイツは戦わない。

魔界を統べる力を持っていながら、それを行使しない。


そういうとこが大ッ嫌いだ。

大ッ嫌いだけど、王はアイツであるべきだ。

真に強い者が王となるのなら、アイツ以外に有り得ない。


31: 2015/01/26(月) 20:32:05.75

幼い頃、私は【吸血鬼】を見た。

遠い記憶だけど、今も鮮やかに残っている。


アイツは父を侮辱されたことに怒り、魔力を放った。

そういった諍い、喧嘩は別段珍しいことじゃない。

ただ質が違った。


炎や氷、風や岩、そういったものを現出させ操る。

そんなありふれた魔法じゃなかった。

いや、そもそもあれを【魔法】と呼べるかどうか……


32: 2015/01/26(月) 20:33:43.62

あの時、アイツの身体から膨大な赤い霧が立ち上り、霧は武器へ変わった。

斧、剣、槍、鉄球、鞭、矢、鎌……

あらゆる武器に形状を変え、全てが父を侮辱した相手へ向かった。


斬られ、弾け、潰され、貫かれた。

皆、見ていることしか出来なかった。

或いは見惚れていたのかもしれない。

当然、そいつは氏んだ。


異常なのは、【何度も】氏んだことだ。


33: 2015/01/26(月) 20:36:26.81

アイツは、ルクレーシャスは蘇生の法すら使えたんだ。

あれだけの力を操りながら、超難度の魔法を難なく併用していた。

頃しては蘇らせ、再び[ピーーー]。

アイツの顔には、何の色もなかった。


ただ淡々と、まるで作業をこなすように命を終わらせては呼び戻した。

赤の中に浮かぶ青白い肌、さらさらと風に揺られる黒髪。

忘れられることの出来ない光景。

ただただキレイで、とっても美しかった。


生と氏を自在に操り……

命を玩具のように扱う奴の姿は神々しささえ感じさせた。


35: 2015/01/26(月) 20:38:01.76

アイツは、ルクレーシャスは蘇生の法すら使えたんだ。

あれだけの力を操りながら、超難度の魔法を難なく併用していた。

頃しては蘇らせ、再び頃す。

アイツの顔には、何の色もなかった。


ただ淡々と、まるで作業をこなすように命を終わらせては呼び戻した。

赤の中に浮かぶ青白い肌、さらさらと風に揺られる黒髪。

忘れられることの出来ない光景。

ただただキレイで、とっても美しかった。


生と氏を自在に操り……

命を玩具のように扱う奴の姿は神々しささえ感じさせた。


46: 2015/01/26(月) 21:06:49.34

「なのに……」

アイツはこんな辺鄙な地域に住み、屋敷に引き籠もり、何もしない。

魔族がすべきそれをしない。

アイツを口説きに来るのはこれで何度目になるだろう。


現王になってから来るのは初めてだ。

どうせ相も変わらず怠けてるに違いない。


【吸血鬼】としての誇りは本当にないのだろうか?

まあ、アイツと話すのは嫌いじゃないからいいけどさ。

いや、まあ……会いたいから来たんけど。

どうせ気にもとめられないのは分っているのに、髪を整えてる。


「さて、行こうかな。【吸血鬼】に会いに……」


36: 2015/01/26(月) 20:39:26.44

ーーーー
ーーー


「おっ、ヒルダか、久しぶりだな」

「はぁ……いつ来ても同じ恰好だな、アンタ」


半袖短パンのジャージ姿。

細く白い腕と脚、本当に彫刻みたいな奴だな。

第一、その鍛え抜かれた肉体は何なんだ……

一切運動してない癖に、その身体はおかしいだろ。


「これか? 動きやすくていいんだよ。お前も着てみるか?」

「へっ? い、いやっ、やめとく////」


37: 2015/01/26(月) 20:40:30.04

こいつ、本当に意識してないんだな。

女として見られないから気軽に来れる、というのもある。

何だか複雑だ。


好意っていうか、認めて欲しいのかもしれない。

吸血鬼としてでなく、何の力もない私の存在を……

大嫌いなのに……自分でも、分からない。


「ふーん、着心地良いのにな。まっ、そこら辺に座れよ」

「う、うん。そうするよ」


38: 2015/01/26(月) 20:41:34.64

「で? 今日も誇りだ何だって言いに来たのか? 暇だなー、お前」

「うっさい。今日は現王について話しにきたんだ」

「ああ、なんかとんでもねえ野郎何だろ?」


「……やっぱり、何も知らないんだな」

「あ?馬鹿にしてんの?」

「違うよ。大方知らされていないんだろ?」


「……まーな。で、そいつがどうしたんだよ」


39: 2015/01/26(月) 20:42:24.97

「気に入った女を攫って、所有物としている。
 人の嫁、結婚間近の娘、お構いなしさ」

「……攫われた女達は、生きてんのか」

「それは分からないよ。ただ、そのせいで問題が増えた」


「問題?」


「攫った女を餌に、下劣な魔族共を部下にし始めたのさ」

「……なる程、父ちゃん母ちゃんが教えないわけだ」

「お、おいっ、何処に


「ちょっと城行ってそいつと【話して】くる」


40: 2015/01/26(月) 20:43:51.65

「アンタ、まさか……」

「真Ⅱクリアして丁度暇だったんだ。
 まっ、いい暇潰しになんだろ。じゃあな」

「ち、ちょっと待ちなって!!」

「ああそうだ。父ちゃん母ちゃんには内緒な。
 まあゆっくりしてけ。暇ならdmcでもやっとけ良かったぞ」


消えた。

転移の法か……

陣もなし詠唱もなしで使用出来るのはアイツくらいなものだろう。

何とか冷静を保ってたみたいだけど、怒りの熱が透けて見えた。


41: 2015/01/26(月) 20:45:57.09

アイツは怠け者で馬鹿だ。

まっ、演じてるだけかもしれないけどさ。

けど何故だか正義感だけはめっぽう強い。


父親の影響が大きいんだろう。

アタシと同じ紛い物の吸血鬼なのに、それを受け入れてる珍しい種だ。

アイツがあんな風になったのも父親の影響なんだろう。


「でもあれじゃダメなんだ。あのままじゃダメ。だってアイツは……」


まあいいか、目的は達成したんだ。

これで、アイツは変わる。


42: 2015/01/26(月) 20:46:28.63





「だってアイツは、吸血鬼なんだから」






48: 2015/01/26(月) 23:27:33.12

※※※※※

女を攫ってる?

そんなことは知ってたさ。

オレは知ってて動かなかった。


「父ちゃん、母ちゃん、ごめん」


声を聞き取るくらい、わけない。

どんなに離れてても、聞こうと思えば聞こえるんだ。

盗み聞きってやつだ。


やっちゃならないことだってのは分かってる。

でもさ、父ちゃん母ちゃんが安全かどうかだけは知りたかったんだ。


49: 2015/01/26(月) 23:29:21.30

言っちゃ悪いが、父ちゃんは弱い。

ただそれは魔翌力とかの話しだ。

父ちゃんにはそれより強い力がある。


魔翌力が弱かろうが力がなかろうが、問題ならないくらいに強い力。

それは魔族が持たないモノ、本来なら必要としないモノ。

それは優しさと実直さ、だから父ちゃんは信頼される。


相手を想い、尊重し、信じる。


だから皆は父ちゃんを頭に置いた。


50: 2015/01/26(月) 23:31:51.62

現王が倒されれば間違い無く父ちゃんが王になるだろう。

時代は変わり、新たな世界に生まれ変わるはずだ。


今更になって動いたのは、父ちゃん母ちゃんが狙われてると知ったからだ。

父ちゃんは気付いてないだろうけど、組織の中には裏切り者がいる。


そして今夜、暗殺が実行される。

父ちゃんには言えなかった。きっと悲たしむだろうから。


だから動いた。


ヒルダが来なかったとしても、オレは動くつもりだった。

ただ、あいつの所為で動くのが早まっちまった。

焚き付けてんのは見え見えだった。けど、我慢ならなかった。


51: 2015/01/26(月) 23:34:56.59

現王が倒されれば間違い無く父ちゃんが王になるだろう。

時代は変わり、新たな世界に生まれ変わるはずだ。


今更になって動いたのは、父ちゃん母ちゃんが狙われてると知ったから。

父ちゃんは気付いてないだろうけど、組織の中に裏切り者がいる。

父ちゃんには言えなかった。きっと悲しむだろうから。


今夜、二人は暗殺される。

だから動いた。

ヒルダが来なかったとしても、オレは動くつもりだった。


ただ、あいつの所為で動くのが早まっちまった。

焚き付けてんのは見え見えだった。

けど、我慢ならなかった。


52: 2015/01/26(月) 23:36:28.10

気に入らねえんだ。

何もかも気に入らねえ。

強さが全てだ?

笑わせんじゃねえ、クソったれ。


本当に強い奴なら、本当の強さを持つ奴だったら……

女を攫うなんて真似は絶対しねえ。

強い奴は優しいんだ。

いや、優しくなくちゃダメなんだ。


そうじゃなきゃ、狂っちまう。


53: 2015/01/26(月) 23:39:09.52

今の魔界みてえに、ぐちゃぐちゃになっちまう。

魔力、腕力だけが強い馬鹿が王になるなんて間違ってる。


掟の意味を履き違えてやがるんだ。

強さの意味を間違って解釈しちまってるんだ。


だったら見せてやる。

てめえが信じる強さが如何にちっぽけなもんか、思い知らせてやる。


「くそっ、頭、いてえ……」


感覚、広げ過ぎたな。

攫われた女達の念が入ってきやがる。


54: 2015/01/26(月) 23:41:51.81

でも、これでいい。

女達がどれだけ辛い想いをしたのか、奴等に分からせてやる。


「父ちゃん、母ちゃん。オレ、戦うよ」


許せないから、辛いから、悲しいから、止めたいから………

喪いたくないから、戦うよ。


父ちゃんは以前から言ってたよな。

魔界の在り方は間違ってるって……


でも自分にそれを変える力がないことも分かってた。


55: 2015/01/26(月) 23:43:18.54

かなり悩んでたよな?

辛かったよな?


「知ってたよ……」


だから、戦わせてくれ。

オレが壊すから、父ちゃんが作ってくれ。

だって、父ちゃんには出来ないだろ?


オレと同じ力を持っていたとしても、父ちゃんには出来ないだろ?


力で解決するなんて、父ちゃんは大嫌いだからさ。


56: 2015/01/26(月) 23:45:25.06

親孝行させてくれよ。

少しでも役に立ちたいんだ。


得体の知れない力を持ったオレを守ってくれたろ?

だからあんな辺鄙な所に引っ越したんだろ?


この【吸血鬼】の力の所為で、沢山迷惑掛けたんだよな。

色んな奴に嫌なこと言われたんだよな。

オレを殺せって、そう言われたりしたのも知ってるよ。

魔界を揺るがすとか何とか理由付けてさ……


二人が戦って、オレを守ってくれたのも知ってる。



57: 2015/01/26(月) 23:48:47.44

父ちゃんが父ちゃんで良かった。

母ちゃんが母ちゃんで良かった。


「現王・ラモン・ファラムンド・ベニテス……だったっけか」


てめえはオレが……

てめえは、オレが頃す。


王位を渡さない以上、それしか方法はねえんだからな。

空席にしたら、父ちゃんに譲りゃあいいんだ。


「てめえの身の程を教えてやる」


てめえが王の器じゃねえってことを教えてやる。

てめえの犯した罪の数だけ、痛みを与えてやる。

魔界にお前は必要無い。

ただな、お前の氏に意味がある。


お前が氏ねば……

もう二度と、お前のような王は現れないだろうから……



62: 2015/01/27(火) 16:04:45.94

※※※※※

ラモン、一体君はどうしてしまったんだ。

確かに君には王になる素質はあった。

力と知識を兼ね備え、私を含め数多くの友人がいた。


「ラモン、何故だ」


いつも笑顔で、力をひけらかすことなどせず、知識を鼻にかけることもしない。

皆に好かれる良識ある人物だった。

こんなやり方で王になる男では断じてなかったはずだ。


「何故、先生を……」



63: 2015/01/27(火) 16:06:16.82

前王は、我々が幼い頃からの恩師だった。

皆、彼を尊敬し慕っていた。

ラモンも私も、彼に教わった。


何故、頃す必要があった。


そもそも信頼されていたし、後任は君だという話しだったじゃないか。

一体、何が君を凶行に走らせたんだ。

君は誰よりも学び、誰よりも励んでいたじゃないか。


64: 2015/01/27(火) 16:08:01.61

そんな君が何故……

「あなた、大丈夫? あまり無理しちゃ駄目よ?」

「エミーネ……いや、私は大丈夫だよ」


「その資料。ラモンのこと、まだ調べていたのね」

「ああ、私にはどうしても納得出来ないんだ。
 きっと我々が気付いていない何かがある」

「確かにそういう人ではなかったわ。
 でも彼が前王を頃したことは事実なのよ?」


「……分かってる、分かってるさ」


65: 2015/01/27(火) 16:10:00.19

「ヴェネリオ、少し休んだ方がいいわ。
 きっとあの子も心配してる」

「……そうだね、もう何日も帰っていない。
 それに、クリスはああ見えて寂しがり屋だから」

「ふふっ、そうね。さっ、行きましょ」


妻の手を取り立ち上がろうとした時、机から資料の一部がはらりと落ちた。

読み過ぎたせいか、どこかのページが破れ落ちてしまったようだ。

拾い上げてみると、ラモンに明らかな変化が見られた時期詳細を記載したものだ。


66: 2015/01/27(火) 16:11:59.04

「本当に大丈夫?顔色が酷く悪いわ」

「……何故、見落としていたんだ。こんな重要なことを……」

「っ、しっかりして!!」


ふらふらとよろめく私を支える妻に、最悪の事実を伝えなければならない。

憶測であって欲しいが、そう考えれば全てが繋がる。

全ては、一人の男によって引き起こされたのだった。


67: 2015/01/27(火) 16:14:25.74

「……エミーネ、クリスが力を覚醒させた日は憶えているね?」

「やめて。あの時の話しはしないって、そう言ったじゃない」

「同じなんだ」


「……ヴェネリオ、あなた一体何を言ってるの?」


「クリスが力に目覚めた日と、ラモンが変わった日が」

「っ、そんなの偶然でしょ!? ラモンを信じたい気持ちは分かるわ。
 でもそんな考え、普段のあなたらしくないわ!!」

「前王が殺害された日も、【彼】が氏んだとされる日も、同じなんだ」


「そんなの……偶然よ…」


68: 2015/01/27(火) 16:16:03.07

「落ち着いて訊いてくれ」

「嫌よ。お願い、もうやめて……」

「……っ、エミーネ、これは偶然じゃない。全て仕組まれたものなんだ」

「クリスが、あの子がやったって言うの!?
 あなたと私の息子なのよ!? なのに、よくもそんなこと!!」

「違う!! 落ち着くんだエミーネ!!」


泣き崩れる妻を抱き締め宥めながら、私は怒りを抑えていた。

友人、恩師、何より愛する我が子を利用された……


いや、【奪われた】のだ。


69: 2015/01/27(火) 16:17:56.82

きっと誰も気付いていない。

クリス自身ですら気付いていないだろう。

あの日、クリスが目覚めたのを境に【彼】はずっと狙っていたのだ。


ーー復活の時を……


何らかの方法で、彼は永遠すら手に入れていた。

この一件は、千年以上前から計画されていたのかもしれない。

単にラモンの暴走と考えた方が筋が通るし分かり易い。


しかし私はラモンという男を昔から知っている。

ラモン程の男を変えることが出来る存在……

それほど強大な魔力を持つ者など、現魔界には存在しない。


我が息子・クリスを除けば……


70: 2015/01/27(火) 16:19:45.62

「落ち着いたかい、エミーネ」

「……ええ、もう平気。
 ねえヴェネリオ、本当にクリスじゃないのよね?」

「ああ、ラモンや前王の件は全てクリスの内側の存在がしたことだ」


「じゃあ、あの力は本当に?」


「彼の力だろう。それがクリスの内側から出ようとしている」

「っ、帰りましょう。クリスに話さないと……」

妻は強い、その瞳にはもう涙はなかった。


しかし話したところで止められるのだろうか?

本人の意志と関係なく行動されては防ぎようがない。

だが今なら【彼】が動ける日は限定されている。


そこが鍵になるだろう。


71: 2015/01/27(火) 16:23:20.28

「あなた、準備が出来たわ。早く陣の中に」

「ああ急ごう。早くクリスに伝えなければ」

「ええ、辛いかもしれないけど隠しては


『父ちゃん、母ちゃん』


「この声、クリス!?」

「クリス、どこにいるの!?」


『ごめん。オレ、戦うよ』


「駄目だクリス!!止すんだ!!」


……応えはなかった。

私と妻は陣の中で膝を突き、言葉を失った。


72: 2015/01/27(火) 16:25:13.74

私は一人の男を呪った。


これほどまで誰かを憎いと感じたことはない。

こんなにも抑えがたい殺意を抱いたこともなかった。

こんなにも己の無力さを痛感をたこともなかった。


私は我が子すら救えないのか……

最愛の息子まで奪われてしまうのか……



ブラッドリー・アナステシアス・ディーア



お前は子孫の命すら、奪うというのか……


75: 2015/01/27(火) 19:38:27.92

※※※※※

大方片付いたな。

数を集めただけの群れなんざ相手にならねえんだよ。

結束も信頼もありゃしない。


やられた奴を助けようともせず、自分だけ助かろうとしやがる。

逃げようとした奴等も、もれなく石化してやった。

お前等を壊すのはオレの役目じゃない。


これから助ける女達の役目だ。


76: 2015/01/27(火) 19:40:09.55

旦那に逢いたい、息子・娘に逢いたい、愛する男に逢いたい。

生きて、この場所から出たい。

それが共通の想い、願い。


オレは馬鹿だ。

もっと早く動くべきだったんだ。


家族がいるのは皆同じ、オレはオレの家族しか考えてなかった。

もっと早く行動していれば……

こんなに悲しい想いをさせることはなかった。


さっさと終わらせて、家に帰ろう。


77: 2015/01/27(火) 19:40:53.03

女達は地下だったな……

もうすぐ行くから、後少しだけ我慢してくれ。

絶対、この城から出してやる。


いくら魔法を使えても、受けた屈辱、心傷は消せない。

此処から出してやるくらいしか出来ない。


いくら魔力が強かろうと、それがオレの出来る精一杯だ。


78: 2015/01/27(火) 19:42:12.85

「止まれ」

三、四……七人か。

揃いも揃って見事な悪役面だな。


「おい、聞いてんのか!!」


黙れ下っ端。

オレはすこぶる機嫌が悪いんだ。

消し炭にされたくなけりゃさっさと道を空けろ。

今なら石化で許してやる。


79: 2015/01/27(火) 19:43:06.13

「舐めた口利きやがって」

馬鹿な野郎だ。

そんなに痛い目見てえのか、じゃあ【見せて】やる。


ほらどうだ?

焼かれると熱いだろ?

つーかめんどくせえ、どいつもこいつも、燃えちまえ。


「あぢぃぃ!!だずげでげれ!!」

「ぎぃぃやぁああ!?」

「いでぇぇ!!あじ、あじが、ぎられだ!!」


80: 2015/01/27(火) 19:45:10.62

うるせえ黙れ。

どこも痛くも熱くもねえ。

それはお前等にしか見えねえし、お前等しか感じねえ。

幻惑の法だ。


どうせ氏にゃしねえよ。

オレが王を頃すまで、そのまま叫んでろ。


81: 2015/01/27(火) 19:46:48.31

ーーーー
ーーー


囚われた女達は全員助けた。

そんで、一人一人を元々いた場所に帰した。

全員助けたけど数人は殺されてて、オレが生き返らせた。


それが良かったのか悪いのか、オレには分からない。

オレがそうしたいから、そうしたにすぎない。


氏んだ瞬間の記憶は消せても、他はどうにも出来ない。

沢山ありがとうって言われたけど、オレにはそれが辛かった。

こんなに酷い目に遭ってるなんて、思いもしなかったから。


でも誰一人壊れちゃいなかった。

誰一人として生きることを諦めてなかった。


きっと彼女達は強いんだろう。


82: 2015/01/27(火) 19:47:52.84

「ありがとう、か……」

オレはつくづく甘かったみてえだ。

父ちゃん、本当にごめん。

オレ、【話し】出来そうにねえや。


もう、我慢なんか出来ねえ……

そもそもオレが我慢する必要なんざねえだろ。

あんな外道共を許す必要も、何でこんなことしたのか……

そんな理由を考えることもない。


結果、奴等はそうしたんだから。

だったら、誰に何をされても文句言えねえだろ?


「なあ王様、あんたもそう思うだろ?」


83: 2015/01/27(火) 19:56:16.75

※※※※※

流石、王になっただけはあるな。

真っ当な方法で王になりゃあ良かったものを、馬鹿野郎。

魔力も力も桁が違う。


こんな奴がいるなんて知らなかった。

それに戦うってのがこんなに楽しいもんだとも知らなかった。

一度も戦ったことねえのに、場の空気がしっくりくる。


流れ、吹き出す、地に落ちる……綺麗な赤だ。

あいつは他にどんな力を持ってる、見せろ。

それからゆっくりと奪ってやる。

オレの糧になれ、オレの為に氏ね……


……あ? 今、何考えた?

何だか、頭がくらくらしてきやがった。


まあいいや、もうお終いだ。

楽しいから戦ってるわけじゃなし。


84: 2015/01/27(火) 20:06:09.10

「どうした吸血鬼。お前の力はそんなものか?」

「黙れ」

「ぐっ……」


「その気になりゃあ、てめえ程度一瞬で殺せんだよ」

「ふっ……ふふふっ、見せてやりたかったなぁ」


「あ?」


「犯され泣き叫ぶ女共を、助けを請う哀れな姿……
 お前にも見せてやりたかったよ!!」

「……てめえ、どこまで腐ってやがる」

「くくっ、ははははっ!!」


「……笑うな」


「ひゃははははっ!!」

「笑うなって、言ってんだろうが!!!!」

「がッは……ひひっ…私を頃したくてうずうずしているなぁ…
 ほら、殺せ、頃し奪うのは、実に気持ちが良い…」


「ああ、今すぐ頃してやる。塵一つ遺さず消えろ」


85: 2015/01/27(火) 20:09:35.73







『良い、実に良い。それでこそ、私に相応しい……』







86: 2015/01/27(火) 20:11:00.67

87: 2015/01/27(火) 20:18:34.65
続きはあるので良ければ見て下さい。
http://ex14.vip2ch.com/i/responce.html?bbs=news4ssnip&dat=1367385153

書き方とか違うしギャグよりだけど……
最後まで読んでくれた方、ありがとうございました。

引用元: 吸血鬼「愛する女に出逢うまで」