1: 2012/11/18(日) 14:15:38.40
キーンコーンカーンコーン

先輩「…あかん。寝てもうた。もうこんな時間や」

先輩「……後輩ちゃん、先に帰ったみたいやね」

先輩「あれ?誰やろ、ウチにセーターかけてくれたんわ」

先輩「これ、後輩ちゃんのやな」

スー

先輩「後輩ちゃんの匂いや…ってウチなにしとんねん!」

4: 2012/11/18(日) 14:22:09.52
先輩「あ、後輩ちゃんの原稿がある。途中かけみたいやなあ。どれどれ?」

先輩「タイトルは…【女二形】

    何て読むんやろ、これ……まあええわ」



『今思えば、眩暈の様なものだったのかもしれません。女が女に恋をするなんて、よくよく考えれば間違った道理ですから

それはただ、一時の気の迷いが、そう錯覚させていたのでしょう』

先輩「ほう……百合か」

5: 2012/11/18(日) 14:27:32.31
『なにも気に留めることではないのです。人生においてほんの一瞬、間違ってしまっただけなのだから。

明日には、何もかも忘れてしまいましょう。昨日まで好きだった人の、顔も、名前も』


先輩「なんか、切ないかんじやな、これ」

先輩「後輩ちゃん、どんなことを思って書いてたんやろうか」

先輩「作者の気持ちを考えるのが文系やしな」

7: 2012/11/18(日) 14:33:19.06
先輩「なんで、女の子同士の恋愛なんて、書こう思ったんかな」

先輩「いや、なんで書けるんやろ。知らんものは書けへんで普通」

先輩「となるとや、後輩ちゃんは『そっち』やったゆーことか?」

先輩「無責任に決めつけるのはあかんと思うけど、だとしたら意外やな」

先輩「……ウチも人の事言えへんな」

11: 2012/11/18(日) 14:40:16.81
先輩「……部長のアホタレ」

先輩「あー、なんで思い出すんやろ。あんな人の事」

先輩「もう、忘れるゆうたやんけ」

先輩「なにが『最初で最後のキスするから、それで諦めてくれ』や」

先輩「かっこつけしいや。……ほんまに」

先輩「あんとき、ほんまにキスしてくれたんやろか」

先輩「ウチがそれを望んだら、くれたんやろか」

13: 2012/11/18(日) 14:44:12.92
回想

先輩「部長、話があんねんけど」

部長「ここじゃ駄目?」

先輩「屋上、いこうや」

部長「なんだよ、剣呑だなあ」

先輩「別にそういうんやあらへん」

先輩「……大事な話や」

部長「……いいよ。いこう」

14: 2012/11/18(日) 14:47:08.90
部長「で、大事な話って何?」

先輩「あのな、その……」

部長「言いにくい話?」

先輩「……せや」

部長「いいよ、言ってごらん」

先輩「…ウチ、ずっとあんたの事好きやってん」

部長「…っ!」

16: 2012/11/18(日) 14:53:17.44
先輩「ウチが関西から越してきて、一番最初にできた友達があんたや」

部長「うん」

先輩「でもな、それじゃ済まされへんかった。だんだん、ウチの中であんたがおっきくなってった」

部長「それは、どういう意味で?」

先輩「恋や。気がついたら、いつもあんたのこと考えとる」

19: 2012/11/18(日) 14:58:21.16
先輩「でも、ウチらは女同士や。絶対に嫌われる思っとった。せやから、口にするつもりはなかった」

部長「なら、どうして」

先輩「あんたも同じやって、気づいた」

部長「っ!」

先輩「同時に、このままじゃウチの前から、あんたがおらんようになると思った」

部長「……」

先輩「あんた、後輩ちゃんの事好きやろ」

22: 2012/11/18(日) 15:03:19.73
部長「なっ」

先輩「わかるで。あんたは後輩ちゃんを見る時、ウチと同じ目をするんや」

先輩「ウチがあんたを見る目とな」

先輩「あんたを後輩ちゃんに渡したくない。これが率直なウチの気持ちや」

部長「…そう」

先輩「せやからな、ウチと付き合うてくれへん?」

部長「…………」

24: 2012/11/18(日) 15:06:58.50
部長「…いやだ」

先輩「……っ」

部長「それだけは、嫌だ!」

先輩「……なにも、大声ださんでええやん」

部長「ああ、ごめん」

先輩「どうしてもだめなん?」

部長「お前の事は嫌いじゃないし、むしろ好きだと思ってるよ。でもな」

部長「負けた気になるんだよ。それじゃあ」

先輩「……どないゆうことや」

29: 2012/11/18(日) 15:13:04.60
部長「私の事好きだって言ったよね。私は、言われるまで気づかなかった。

   自分の恋を追いかけるのに必氏だったからな」

先輩「やっぱ、認めるんやな。後輩ちゃんの事」

部長「うん。言い訳の仕様がないからね。

   だけどさ、お前も一緒なんだよ。それは」

先輩「ゆーとることがわからん」

部長「だから、さ。

   私の事好きなのはいいけど、自分が誰に好かれてるかなんて、考えたことないだろ?」

先輩「……ちょいまち、それって」

部長「そう。お前は私の恋敵ってこと」

31: 2012/11/18(日) 15:18:19.47
部長「私はお前が羨ましい。何故なら、私が後輩ちゃんを見る目で、後輩ちゃんはお前を見るからだ」

先輩「そないな、こと」

部長「私にはわかるんだよ。お前と同じだからな」

先輩「ウチはそんな、後輩ちゃんの事なんて、これっぽっちも」

部長「後輩ちゃんだって、私の事はこれっぽっちも考えちゃいないさ」

33: 2012/11/18(日) 15:23:57.17
部長「よく考えてみろよ。三人しかいないんだ。誰も悪くないのに、絶対に誰かが悲しまなきゃならない」

先輩「確かに」

部長「お前と付き合ったら、恋敵から情けをかけられたみたいだし、それに

   後輩ちゃんが悲しむだろ?私には絶対できない」

先輩「でも、そんなん理屈やん」

部長「そういわないでくれよ」

先輩「私は、傷ついてもええよ」

35: 2012/11/18(日) 15:31:09.60
部長「なんだよ、その私っての」

先輩「あんたが『自分の事ウチって呼ぶのは変だ』って言って、ウチに教えてくれたやろ」

部長「だからなんだよ」

先輩「今のウチを形作ってんのは、あんたや。消えない傷をつけてくれたって、ええよ。あんたになら」

部長「どうしたいんだよ」

先輩「わからん。わけわからんわ。後輩ちゃんがウチの事好きだとか、今日初めて知ったし…でもな」

部長「?」

先輩「あんたが悲しむくらいなら、ウチが悲しんだるわ。それでだけは、なんとなく分かった」

38: 2012/11/18(日) 15:41:17.10
部長「……馬鹿」

先輩「せや、ウチは馬鹿や。でもな、好きな人を傷つけてまで手に入れようとは思わん」

部長「お、おい」

先輩「じゃ、この話はなかった、ことでな」

先輩「ウチも、忘れる、わ……あんたのこ…と」

ギュッ

先輩「っ!……やめてーな、中途半端なこと」

部長「ごめん。でも、私の気がすまないんだ」

先輩「傷つけるなら、一思いにしてや」

部長「ああ。だから、最初で最後だ。もう二度としない」

40: 2012/11/18(日) 15:45:32.97
部長「キスをしよう。それで諦めてくれ」

先輩「……っ」

部長「じゃあ、いくぞ」

先輩「……ド阿呆」

部長「ん?」

先輩「もうええわ!!馬鹿にするのも大概にしい!!

   好きな人にキスされて、忘れるなんてできるわけないやろ!!」

42: 2012/11/18(日) 15:49:00.01
部長「おい!待てよ!」

先輩「待たへん!!さいなら!」

――――――――――――――――――――――

先輩「うち、なにやってんやろ」

先輩「わけわからんわ。ほんまに」


回想終わり

44: 2012/11/18(日) 15:54:49.86
先輩「あかん。忘れられへん。部長がけったいなマネするからや」

先輩「後輩ちゃんの小説でも読んで、気紛らわそ」





先輩「この小説見ると、納得するわ」

先輩「やっぱほんまに、後輩ちゃんはソッチやったんやなあ」

先輩「そんでもって、ウチの事を……」

先輩「部長から言われたときは、頭ン中ぐちゃぐちゃで実感わかへんかったけど」

先輩「うっわ、この小説ほとんどウチのことやんけ」

46: 2012/11/18(日) 16:00:18.51
先輩「そういえば、なんでこないなところに原稿が?」

先輩「まあ、ええか」

先輩「……」

『なにも気に留めることではないのです。人生においてほんの一瞬、間違ってしまっただけなのだから。

明日には、何もかも忘れてしまいましょう。昨日まで好きだった人の、顔も、名前も』

先輩「せやなあ、ウチも忘れられたら、どんだけええことか」

先輩「……ウチ、後輩ちゃんになんかしたん?

  なんか、恨み節みたくなっとるで、これ」

47: 2012/11/18(日) 16:06:42.89
先輩「そーいえば、後輩ちゃんの気持ちには気づかへんかったなあ」

先輩「ここに、わざわざ見せるようにおいとくゆーんわ、そういうことやろか」

先輩「ウチが部長にやったみたいなことか?」

先輩「でもなあ、ウチに対するあてこすりかもしれへんけど

   とてもウチの事、諦めたようには見えへんなあ」

先輩「この原稿は途中でとまっとる。そんでもって、このセーターか」

先輩「後輩ちゃんも、ウチと同じ形の恋をしとる。あ、そういうことか」

先輩「タイトルの読み方がわかったで」

先輩「おんなじかたち、や。こら一本取られたで」

49: 2012/11/18(日) 16:09:43.24
先輩「小説の主人公は、後輩ちゃんと同じ。

   後輩ちゃんはウチと同じ。

   ウチと部長は同じ。か」

先輩「トンチやな」

先輩「同じ形、か。悲しいけど、嬉しいわ。なんか」

51: 2012/11/18(日) 16:15:17.07
先輩「今はこんなに悲しくても、いつか笑い話になる日が、来るんやろうか」

先輩「はははっ」

先輩「でもな、これはちゃうで」

先輩「一時の気の迷なんかやない。ほんまの気持ちや」

先輩「好きやった。これだけは変わらんことや」

53: 2012/11/18(日) 16:21:36.19
先輩「せやから、ウチも仲直りせんとあかんなあ。振られて、ダダコネとるだけやからなあ」

先輩「……キス、しとけばよかったかなあ。最後に」

先輩「まだ、ちょっと名残惜しいわ。せやけど、ウチの恋はこれで仕舞いや」

先輩「新しい事、しよか」

先輩「明日、セーター返しにいこ」

55: 2012/11/18(日) 16:27:29.77
翌日

後輩「あ、先輩…」

先輩「おはよーさん。セーター、返しにきたで」

後輩「は、はい。ありがとうございます」

先輩「ウチの方こそ。それにしても、なんかよそよそしいやないの」

後輩「なんでもありません」

先輩「それ、ほんま?」

57: 2012/11/18(日) 16:32:07.11
後輩「……わかってるくせに」

先輩「んー?」

後輩「わかってるんですよね。私の気持ち」

先輩「……せやよ」

後輩「じゃあ、どうして」

先輩「自分のセーターわたしといて、それはないやろ」

後輩「っ……」

先輩「まだちょっと、期待しとったんやろ?」

59: 2012/11/18(日) 16:37:20.40
後輩「いじわる、しないでください」

先輩「そんなつもり、あらへんよ?ただ」

後輩「ただ?」

先輩「おせっかいや」

後輩「?」

62: 2012/11/18(日) 16:48:07.32
先輩「諦められへんのなら、それでええ。でも、好きだっていう気持ちに、嘘なんてあらへん」

後輩「っ……」

先輩「わかるよ。ウチには。ついこないだまで、おんなじかたちやったから」

後輩「わかんないですよ。先輩には」

先輩「せやからな、ウチもそういう恋をしてんねん。そんで、終わった」

63: 2012/11/18(日) 16:55:37.88
後輩「……終わったって?」

先輩「振られたんや」

後輩「誰に?」

先輩「後輩ちゃんの思っとるとおりや。ぜーんぶ、あの小説に書いてあるで」

後輩「…先輩、部長に…」

先輩「うん。こっぴどく振られた」

後輩「……それが、なんで私にかまうんですか」

先輩「だから、おせっかいや」

65: 2012/11/18(日) 17:02:26.82
後輩「私が先輩の事好きなの、知ってるくせに!」

先輩「ウチがそれを知ったのは、部長からや」

後輩「……えっ」

先輩「ウチは、部長のこと好きやった。せやから、気づかれへんかった。後輩ちゃんの気持ち」

後輩「それって、どういう」

先輩「後輩ちゃんが気づいてない、誰かの気持ちがあるんちゃう?なにせ、ウチと後輩ちゃんは同じ形やからな」

67: 2012/11/18(日) 17:07:26.02
後輩「それってだれの…」

先輩「そんなん言えへんわ。でも、あの小説には、三人しか登場せえへんで」

後輩「っ!!」

先輩「あんまり、苦しめんといてーな。ウチの好きやった人を」

後輩「それじゃあ…」

先輩「せやよ」

69: 2012/11/18(日) 17:13:27.57
先輩「ウチはこの三つ巴から降りる」

後輩「そんな、私、先輩の事が」

先輩「ウチは早めに諦めた。後輩ちゃんは諦められへん。そんだけの話や」

後輩「だって」

先輩「そんなにウチが好きなら、捕まえてみ」

72: 2012/11/18(日) 17:22:55.31
先輩「ま、後輩ちゃんには部長がいるらしいけどな」

後輩「……」

先輩「ウチやって、部長の事嫌いになったわけやあらへん

   けどな、付き合い長すぎて、恋愛よりもやっぱ

   後輩ちゃんに取られとうないっていう独占欲の方が強かったんや

   それに気づいたときに、部長の為になんかしたらな思ってん。

   そしたら、この雁字搦めを断ち切るんが、一番かなと、考えたんや」

74: 2012/11/18(日) 17:26:45.22
先輩「もう、ウチは誰の事も見てへん。後輩ちゃんはウチの事、思う存分追いかければええし

   部長だって、同じや」

後輩「先輩、かっこつけすぎですよ」

先輩「かもしれへんな」

後輩「結局、自分でしょい込んでるだけじゃないですか」

先輩「ええねん。今は。納得もいっとる」

76: 2012/11/18(日) 17:32:57.06
先輩「ウチのことは気にせんでええから、部長に恋愛させたってーな」

後輩「……わかりました」

先輩「後輩ちゃんの小説【女二形】っていうやろ」

後輩「はい、それが?」

先輩「そこに女は三人もいらん。止まったゲームを、動かそうや」

後輩「……ふー、わかりました」





おしまい

77: 2012/11/18(日) 17:33:38.87


関西弁百合はもっと流行ってもいい

引用元: 先輩「このセーター、後輩ちゃんの匂いがするなぁ」