477: 2007/01/27(土) 16:20:11 ID:???

今日、世界が終わる夢を観た…。
いや、詳しく言うと終わってない。僕ともう一人、同じ年くらいの女の子だけが生き残った。
左目と右腕に痛々しく巻かれた包帯…うぅ、思い出すだけで頭が痛い。
朝ごはんの支度しなくなちゃ。

今年の梅雨は少し遅いらしい。このニュースを聞くのは今日はもう2回目。
「おはぁよ…」
同居人のお目覚めだ。
母さんが氏に、父さんが海外へ転勤になり、遠縁にあたるミサトさんに引き取られることになったのはもう3ヵ月前のことになる…
「あ、おダシ変えた~?」
この人は普段鈍感なくせに味噌汁にはうるさい。
「えぇ、ちょっと白味噌を混ぜてみました」
「おいしい♪おいしい♪」
親戚同士で僕の処遇をどうするか話し合った時、みんなが拒む中ミサトさんは一人手を挙げてくれた。らしい。
その話しを聞いた時はとても嬉しかったけど、ただ家の事してくれるお手伝いさんがほしかったんじゃないかなと思う今日この頃。
でもこの人のおかげで今の僕がいるんだ、感謝しなきゃ。


478: 2007/01/27(土) 16:24:35 ID:???

学校へ行ってみると、もうすぐ夏休みだというのに転校生がやってきた。
「惣流・アスカ・ラングレーよ」と、腰に手を置いて話す転校生。その姿を一目見ただけでも自我の強さが覗える。
空いていた隣の席に座ると彼女は僕の方をジロジロと見てきた。というよりチェックしてきた。
「よ、よろしく…ランゲージさん」
「ラングレーよ!バカ!はぁ~、なんで日本の男子ってこうも冴えないやつばっかなのかしら」
名前を間違えたとはいえ、挨拶しただけで罵られたのは初めてだ。
そのあと彼女はしれっとした顔で「アスカでいいわよ…」と小さく呟いた。
なんなんだこの女。
でも、夢に出てきた子に少し似てる…?


昼休み、いつものようにトウジ達とごはんを食べる準備をしていたら転校生が目に入った。
眉を立て、強気なところを見せているけど僕には分かる。
僕も3ヵ月前同じ思いをしたから…
「あ、あの、一緒にどう?こっちは男3人だけど」
「はぁ?あんたバカァ?なんでこの私がムッさい男共と一緒にランチしなきゃいけないのよ」
同情心丸出しの顔がカンにさわったのかな…。
その後すぐに学級委員長の洞木さんが誘ってくれてるのを見て僕は少し安心した。

「それにしても惣流の奴、いけすかんのう」
「全くだよ。クォーターっていっても、7割日本人、残りの3割はドイツ人の骨格が性格に反映されてるんだよ」
妙に的を獲ているケンスケの見解に思わず納得。
「センセはどや?」
どうって何が?もしかしてあの転校生のこと?
「碇は尻に敷かれるタイプの方が合うかもな~」
勘弁してよ、あんな傲慢女。



479: 2007/01/27(土) 16:30:26 ID:???

転校生がやってきて一週間が過ぎたある日のこと…
その日、下校途中の僕は宿題のプリントを机の中に忘れてしまい、商店街まできたとこで学校へと引き返した。
おかげで嫌なものを見てしまった…
転校生のクツ箱に書かれた落書きの数々。
『氏ね!』『消えろ!』『ドイツ帰れ!』
もちろん、僕に向けられた言葉じゃない。けどすごい嫌な気分になった。
自業自得だよ…。そう片付けてしまいたい自分にも嫌気がさした。


次の日の朝、思いっきりクツ箱で転校生と鉢合わせた。
僕の方を見ると表情一つ変えずにクツ箱を閉めた。その場にいる誰もが手を止めるほどの音を発てて…
教室に入ると転校生は顔を机に伏せるようにしていた。
隣の席に座るだけで強烈な罪悪感を感じる。
なんだよ、僕が悪いわけじゃないの…なんで僕がこんな思いしなきゃならないんだよ
僕はただただ隣の席を見ないようにしてやり過ごすしかできなかった。

放課後、当直日誌を書き終えた僕は職員室から戻ると、教室で白いリボンをつけた3年の女子が転校生の机にカラーペンで落書きしているのを見てしまった。
「なに?あんた?」
そう言われてつい目線を反らす…なんて臆病なヤツなんだ。
笑いながら教室を出て行く先輩達を見えなくなるまで見届けたあと、僕は転校生の机をぞうきんで拭いた。
『ヤリOン』『キチOイ』『男たらし』…見るに耐えない言葉ばかりだ。けど一生懸命拭いてもなかなか消えない。
『ガタッ』と物音がして入り口の方を見てみると転校生が立っていた。
相当焦った、
「ち、違うんだ!これ書いたの僕じゃないよ!僕は消そうとして、その…」
転校生は近づいてきて、僕の顔にぞうきんを思いっきり投げつけた。
「…あんたなんか大っ嫌い!!」
なんなんだ、この女…。
だから他人に干渉するのは嫌なんだ。
そう思いながらぞうきん臭い顔を石鹸でパシャッと洗い流した。

あんなやつ、もう知るもんか。

480: 2007/01/27(土) 16:33:30 ID:???

「センセ、今日はごっつ機嫌悪いのう」
「そ、そんなことないよ…ただ」
「ただぁ?」
トウジ達がやけに探りを入れてくるので僕は二人に昨日の事を話した。
「そりゃアレや、3年の間宮って人やろ」
「知ってるの?」
「有名だからな」
「あの人らのバックにはなぁ、ごっつぅ恐ろしい男子の先輩共がついてるっていう話しやで」
「惣流もタチ悪いのに目つけられたなぁ」
大丈夫かなあの子…いや、知るもんか。
もうどうでもいいだ、あんなヤツ。
「ま、出る釘は打たれるっちゅーことや。のう、ケンスケ」
「あ、あぁ…」
その時トウジとケンスケがアイコンタクトを交わしたように見えたのは気のせいだと思った。


東京は今日から本格的に梅雨入りしたらしい。
じめじめとした湿気が肌にへばりつく。それ以上に僕と転校生の席の間はじれっとしてて居心地が悪い。
「今日は三神さん休みなんでー…女子の日直は惣流さん、代わりにお願いします。碇くん、よろしく頼んだわよ」
「えー!イヤよ!こんなヤツと一緒にだなんて!」と、くるんだろうと予想していたが彼女は何も言わずに承諾した。

ちぇ、なんでこうもついてないんだろう…。


481: 2007/01/27(土) 16:42:36 ID:???

雨が降る放課後…
僕と転校生は一言も交わさなかった。
彼女がしてくれた仕事は黒板を消しただけ。しかもチョークの粉が制服に付いただけで壁に蹴りを入れる始末。
はぁ…今日何度目のため息だろう。
日誌を職員室に届ける間もきっちり5mの間隔をとってついてくる。
クツ箱ではお互いにけん制し合ったから、僕はわざともたつくフリをして先に行くのを待った。
彼女が傘立てからお似合いの真っ赤な傘を取り出す。それを見て僕はようやく靴を取り出す。
『バサッ』と傘を広げる音
スニーカーに履き替え、顔を上げた瞬間、蒼褪めた…

彼女の傘が刃物で八つ裂きにされていた。

ザーーーー
雨音が急に大きく聞こえた。
ひどい……
けど、僕にはどうすることもできない…。
同情すればまた怒るだろうし。そう自分に言い聞かせるので精一杯だった。
僕の傘には何もされていない…当たり前か。いっそのこと自分の傘を八つ裂きにされていればよかったって?
それは偽善だよ…
わかってるんだ自分でも。彼女を助けてあげられないことを…それなら関わらない方がいいんだ。
母さんが生きてたら、叱られるだろうな…

482: 2007/01/27(土) 16:47:21 ID:???

横目に彼女を見るといつもの強気な眉は平行、いや少し上を向いていた。
僕は彼女を置いて外に出た。
なんでだろう、傘を差してるのに雨が胸に突き刺さるように痛い。

自分が悪いんじゃないか
逃げちゃダメだ…
その性格直せばいいんだよ
逃げちゃダメだ…
ほーら言わんこっちゃない
逃げちゃダメだ…
逃げちゃダメだ!!


僕は体を反転させ転校生の前に立ち傘を差し出した。
「はい…」
怒られると思った、殴られると思った、でも今こうしないと一生後悔するような気がした。
「……」
彼女がなかなか受け取らないので無理やり手に渡し、逃げるようにしてその場を走り去った。
バカだな…これであの子を救ったつもりか?ヒーロー気取りもいい加減にしろ。
雨がやけに身にしみる……明日学校行きたくないな。
へっくしょぃ!!


483: 2007/01/27(土) 16:53:08 ID:???

「シンジくん?シンジく~ん?」
んん…体がダルい…。
ミサトさんに起こされるなんて初めての登校日以来だ、時計を見るまでもなくタイムオーバー。
「どうしたの~?調子悪いの?」
「…はぃ」
「わかった、じゃあ学校に連絡しとくね~」
こういう時ミサトさんが保護者でよかったなぁとつくづく思う。母さんだったらいろいろと余計な心配するんだろうな。
ダルさも手伝ってミサトさんが出掛けたあとすぐ眠りについた。

…………?
インターホンが鳴ってる。何だろう?勧誘かな。めんどくさいな…
とても動ける状態ではなかったけど何度もしつこく鳴らすのでしょうがなく玄関の扉を開けた。

て、転校生!?

「え、あ、え?」
「これ!」
彼女はつんとした顔で昨日僕が貸した傘をつき出した。
「あ、あぁ。別に急がなくてもよかったのに…」
「こんな薄汚い傘いつまでも持っていたくないのよ!」
たぶんこれが惣流・アスカ・ラングレーという女の子なんだろう。
「ははは、確かに汚いよねこの傘…」
「ちょっとあんた家の人はいなのぉ!?」
と部屋を覗きながら訊いてきたので、僕は今の処遇を簡単に説明した。
「あんたバカァ!?風邪でもヒドイと氏ぬのよ」
と云いズカズカと家の中へ入ってくる彼女。
勝手に冷蔵庫を開け、何の断りもなしに料理をしはじめた。
危なっかしい包丁さばきを毛布に包まりながら見学していたら、
「あんたは部屋で寝てなさい!」
と包丁を立てられて本当に恐くなったので部屋に退避した。

484: 2007/01/27(土) 16:58:08 ID:???
何で彼女がここにいるんだろう?何で家の住所知ってるんだろう?
…体がダルいと全く頭が回らない。
そんなこと考えてたらウトウトしてきたのも束の間、部屋の襖を思いきり開ける音にばっちり目が覚めてしまった。
「あんたねぇ、どこの部屋にいるかぐらい教えなさいよ!」
「ご、ごめん」
彼女が持ってきたお盆の上にはお粥となぜか生卵…
「言っとくけど、これはあんたのためなんかじゃないわよ。私のためなんだからね」
何を言ってるのかよくわかんない…日本語まだヘタなのかなぁ。
「あんたに貸し作ったまま生きてると思うとムカムカすんのよね!」
と云い、お粥をのせたレンゲを乱暴に僕の口に持ってきた。
「い、いいよぉ!自分で食べるよ!」
「私が食べさせてあげるって言ってんだからあんたは大人しく口開いとけばいいのよ!」
僕はいう通りに口をアーンした、
「まぬけな顔」
そう云われとても恥ずかしくなった…でもとても温かい気持ちにもなった。
ヒトに干渉したりされたりするのは苦手だけどやっぱり構ってほしい時もある。
「あ、ありがと…惣流さん」
「アスカでいいって言ってるでしょ」
「ありがと…アスカさん」
「ア・ス・カ!」
「は、はい!…ありがとう、アスカ」
そう呼ぶと少し頬を赤らめた。
「あ、あんたは何て言うのよ…」
「碇…碇シンジ 」
「ふーん、それじゃバカシンジね」
今の僕には言い返す気力もなかったので「アスカって、お母さんみたいだね」と云ったら、
真っ赤にして「…バ、バ、バカ!」と怒られた。
僕が笑うとアスカは本気で頬をつねってきた。
そんなことをしていたらミサトさんのご帰宅だ。
「たっだいま~♪シンちゃ~ん、生きてる~?」

その夜、意気投合したミサトさんとアスカは僕を置いてカラオケに行ってしまった…。

485: 2007/01/27(土) 17:01:00 ID:???


2日後…
回復した僕が学校に復帰すると先輩達によるアスカへの嫌がらせはなくなっていた。
そのかわりにトウジとケンスケの顔はアザだらけになっていた。
洞木さんに聞いた話しだとトウジとケンスケは先輩達にいじめへやめさせるため『ケジメ』をつけてもらったらしい。
そんな友人を僕はとても誇らしく感じた。
けど何も知らないアスカは自分を助けてくれた二人を「ジャージ」と「そばかす」なんて呼んでいるけど…。



『季節はずれの、転校生』 完

引用元: 落ち着いてLAS小説を投下するスレ 14