1: 2010/08/22(日) 00:50:01.48
和「遅くなっちゃった……」

夏休みのある日、時刻は午後7時。
受験生である私は、最近はずっと予備校の夏期講習通いを続けている。
しかし今日は、遅くとも夕方には家に帰れるはずだったのだが……

和「急な仕事だからって私を呼ばないでほしいわ……」

そう、生徒会から呼び出しがあったのだ。
私は一応は現職の生徒会長。
そういうこともある、と割り切ってはいる。
でも……

和「書類の処理くらいは私抜きでやってもらわないと……来年が思いやられるわね……」

思い起こすのは申し訳なさそうに事情を話す後輩たちの顔。
頼られてるのは悪い気分じゃない。
悪い気分じゃないけど……

2: 2010/08/22(日) 00:51:57.81
和「ちょっと指導してあげないとダメなのかな……」

後輩の指導は先輩の務め。
私自身、先代の生徒会長である曽我部先輩にはいろいろとお世話になったものだ。
よーし……

和「頑張るぞ!」オー!

和「……」

和「……///」カアアッ

和「ち、ちょっと今のは私のキャラじゃなかったわね……」

さっきの行動を振り返ってみる。
…………。
うん、まるで我が愛すべき幼なじみのような言動だ。

3: 2010/08/22(日) 00:54:34.51
和「唯に影響を受けているのかしら……?」

そうだとしたら気をつけないといけない。
私までぼけぼけになってしまうと、とんでもないことになってしまいそうだ。
色々な意味で。

和「ふう……」

辺りを見回すと、人影はほとんどない。
よかった、さっきの私の醜態は誰にも見られていないようだ。

和「さて、早く帰らないと」

再び家に向かって歩みを進める。
ふと空を見上げると、太陽はすでにその姿を隠しており、街には夜の帳が下り始めていた。
……いくら午後7時を回っているとはいえ、今は夏。
少し暗くなるのが早すぎるような……

4: 2010/08/22(日) 00:59:10.06
和「あ……」

ポツ、ポツと。
空を見上げながら考えに耽っていた私の顔に、いくつかの水滴が落ちてきた。

和「雨、ね」

……そういえば、今朝の天気予報で夜から天気が崩れると言っていた気がする。
辺りに人がいなかったのもそのためなのだろう。

和「まったく、いつもは外れてばかりで役に立たないのに。どうして傘を用意してない日に限って当たるのかしら……」

雨粒を落とす雲を、もう一度恨めしげに眺める。
……でも天気予報に文句を言っても仕方ない。
とにかく今は、濡れないうちに早く帰っちゃわないと。

6: 2010/08/22(日) 01:03:07.61
和「あんまり走りたくはないんだけど、ね」

そうも言っていられない。
雨足は少しずつ強まって行き、私の服に斑点模様を作っていく。
ああ、この服けっこう気に入ってるのに……

和「あら……?」

家に向かっている途中、ふと気付いた。
商店街の路地裏、薄暗い道の端。
後ろ姿しか確認できないけど、耳を塞いでしゃがみ込んでしまっているあの子はたぶん……

和「……澪?」

澪「ひいいっ!?」

私の友人であり、唯と同じ軽音部に所属している秋山澪だった。
こんなところで何をしているのかしら……?

7: 2010/08/22(日) 01:07:06.79
和「どうしたのよ、こんなところで……濡れちゃうわよ?」

澪「の、和……?」

和「何?」

澪「ほ、本当に和……なのか……?」

和「そうだけど……」

澪「……!」プルプル

和「澪?」

8: 2010/08/22(日) 01:11:31.05
澪「う、うわあああ~~~んっ、のどか~~~!」ガバッ

和「きゃあっ!?」

怯えた目でこちらを見上げていた澪は、いきなり立ち上がって私に抱きついて来た。
唯のおかげで抱きつかれるのは慣れているけど、澪は背が高いから少し苦しい。

澪「怖かった……怖かったよ~……」

和「よしよし……」ナデナデ

澪「……」グスッ

必氏にしがみついてくる涙目の澪をしっかりと抱きとめ、頭を撫でてやる。
子供扱いをしているようだけど、この効果は唯に留まらず憂でも実証済みだ。

9: 2010/08/22(日) 01:14:39.81
和「……」ナデナデ

澪「……」ギュウッ

……少し落ち着いたかな?
顔は見えないけれど、何となく雰囲気で分かる。
相変わらず抱きつかれてはいるけど、パニック状態は脱したようだ。

和「……落ち着いた?」

澪「……ん」

和「ここは濡れるから……少し移動しましょうか」

澪「うん……」

私の言葉におとなしく頷く澪。
しかし、

10: 2010/08/22(日) 01:19:32.64
和「……」

澪「……」

私に抱きついたまま一向に動く気配がない。
心なしか、抱きつく力が強まったようにも感じる。
……振りほどかれるのを恐れているのだろうか?

和「ふう……」

まったく、しょうがないわね。

和「ほら、行くわよ」

澪「あ……」

澪に抱きつかれたまま歩き出す。
はた目から見るとかなりおかしな光景だろうけど、昔から唯に抱きつかれながら過ごしてきた私にとっては何ということはない。
何だか私って、妙なスキルばっかり磨かれてるわね……

12: 2010/08/22(日) 01:23:18.90
和「ほら、ここに座って」

澪「うん……ありがとう」

都合良く濡れない場所に設置されたベンチを発見した。
未だに私に抱きつく澪をエスコートし、座らせてあげる。
もちろん予めベンチの汚れは払っておく。

和「もう、こんなに濡れちゃって……」

澪「んん……」

ハンカチを取り出し、澪の顔や服を拭う。
髪が一番濡れちゃってるけど、この小さいハンカチじゃ全部は無理ね……

13: 2010/08/22(日) 01:27:44.44
和「はい、終わり」

澪「あ、ありがと……」

和「いいわよ、別に。でも髪はまだまだ濡れたままだし、早めにお風呂に入って乾かさなきゃダメね」

澪「うん……」

和「それで……一体どうしたの?」

澪「……」ウルウル

澪は潤んだ瞳でこちらを見上げてくる。
うう……そんな目で見ないでよ。

澪「実は……律が……」

和「律が?」

14: 2010/08/22(日) 01:32:56.54
……

律「いや~、遊んだ遊んだ!」

澪「まったく……受験生なのに何やってるんだ」

律「何だよ~、澪も楽しそうだったじゃん」

澪「う……」

日も傾きかけた夕方。
私――秋山澪は、幼なじみの田井中律に誘われて街に買い物に来ていた。
最初は確か、律のために参考書を選んでやるはずだった。
だけど……

15: 2010/08/22(日) 01:36:37.86
澪「ゲーセン、楽器屋、ブティック、雑貨店、ファミレス、駄菓子屋……何をやっているんだ私は」ズーン

律「はっはっは、息抜きも大切だよ?澪君」

澪「律は息抜きばっかじゃないか。いつ勉強してるんだお前は」

律「失礼なー!ちゃんとやってるぞー!?」

澪「全然そうは見えない。同じ大学行くんだろ?律はもっと頑張らないと」

律「ガンバンべ!踊れミツバチ♪Hey!」

澪「ふざけてる場合か!」ゴンッ

16: 2010/08/22(日) 01:41:30.31
律「いたっ!?か、軽いジョークなのに……」

澪「はあ……」

何で律は真面目に勉強しようとしないのだろうか。
律が私と一緒の大学を目指すことにしたって聞いた時は、すごく嬉しかったのに……

律「みおー?」

澪「……」

律「……ちぇ、ムギは最後まですごく楽しそうだったのに……何で澪は……」ブツブツ

澪「何か言ったか?」

律「いんや~、何も~?」

澪「……ふん」

17: 2010/08/22(日) 01:45:27.23
律「……」

澪「……」

律と二人、無言で歩く。
空を見上げるとまるで私の心を示すかのように曇っており、辺りの光を奪っていく。
……はあ、何をやっているんだろう。
私は律と気まずくなんてなりたくないのに……

律「……」

澪「……」

チラッと隣を歩く律の横顔を覗き見る。
当たり前のことかもしれないけど、律はいつものような明るい笑顔を浮かべておらず……何か考え込んでいるようだ。

19: 2010/08/22(日) 01:49:03.57
……うん、謝ろう。
今日は本当に楽しかった、と。
分からないところは教えてあげるから一緒に勉強しよう、と。

澪「律、あのさ……」

クルっと再び律のほうを向く。

律「ふふふ、澪~?」

すると律は、先ほどの思案顔はすでにやめており。
何だか、意地の悪い笑みを浮かべていて……

律「こういう話が最近流行っているんだけど、知ってるか……?」

20: 2010/08/22(日) 01:54:13.45
……

和「……で、律に怖い話をいっぱい聞かされて走って逃げだした、と」

澪「う、うん」

和「はあ……」

何をやってるのかしらね、二人とも。
澪も律もお互いのことをしっかりと考えてるのに、イマイチ噛み合ってない。

和「それにしても、何であんな路地裏で蹲ってたの?」

澪「必氏に走ってたら道分かんなくなっちゃって……それに疲れて動けなくなっちゃったんだ」

21: 2010/08/22(日) 01:58:28.68
和「……」

どれだけ走り回ったのかしらね、この子は。

澪「それに律の話にあった、通り魔がいるとか路地裏お化けの話が頭をよぎって……」

和「それこそ早く移動したほうがいいんじゃ……」

澪「こ、怖くて腰が抜けちゃって……」

和「……」

顔を赤らめながらポツポツと経緯を話してくれる澪。
知ってはいたけど……相当な怖がりね、澪って。
こういう話を聞くと改めてよく分かる。

22: 2010/08/22(日) 02:01:46.36
澪「の、和が話しかけてきた時も、心臓が飛び出るかと思ったよ……」

和「それで私だと分かったから……」

澪「安心して抱きついちゃったんだ……何か、ごめん」

和「いいわよ、気にしないで」

澪「和ぁ……」ギュー

和「ふう……」

またもや抱きついてくる澪。
辺りは大分暗くなってきているけど、もうしばらくこのままにしてあげよう。

25: 2010/08/22(日) 02:05:46.26
……

和「……澪、そろそろ帰らないと」

澪「……ふぇ?」

あれから30分。
どうやら澪は私に抱きついたままウトウトしていたらしい。
寝ぼけ眼で私を見つめてくる子供っぽい姿を見ていると、普段のイメージが瓦解しそうね……

和「えっと……一人で帰れる?」

澪「……」

和「無理?」

27: 2010/08/22(日) 02:11:49.16
「無理……かも。それに……」

和「それに?」

澪「今日はうち、誰もいなくて……」

和「……」

私を見つめる澪の瞳に、心なしか何かを期待する色が混ざっている気がする。
……ふう。
いつもは律がこういう立場なんだろうけど、ね。

28: 2010/08/22(日) 02:13:51.59
和「それじゃあ私の家に来なさい。今日は私以外は出かけてるはずだし」

澪「え……いいの?」

和「ええ。困ってる友人を放っておくことは出来ないわ」

澪「……っ!」

和「澪?」

澪「和~~~っ!ありがと~~~!」ガバッ

和「ひゃっ!?ち、ちょっと澪……」

……お持ち帰り決定。

29: 2010/08/22(日) 02:16:35.89
……

澪「ここが……和の家」

和「ええ。さ、上がって」

澪「お、お邪魔しまーす……」

澪を伴っての帰宅。
すっかり遅くなっちゃったな……

和「澪、私は今から夕飯作るから居間でくつろいでて。あっ、濡れてるから先にお風呂に入っちゃったほうがいいか」

澪「えっ!?いやいや、私も手伝うよ!和にはすっかりお世話になっちゃってるし……」

30: 2010/08/22(日) 02:19:59.83
和「ダメよ。風邪引いたら良くないし、澪はお客様なんだから」

澪「で、でも」

和「ほらほら、すぐ入れるから」

グイグイと澪の背中を押してお風呂場へ。
頭の中ではすでに夕飯のメニューを何にするか、と考え込んでいる。

澪「あ、あのっ!」

和「ん、どうしたの?遠慮しなくていいから……」

澪「い、一緒に入ってくれないかな!?」

31: 2010/08/22(日) 02:24:02.30
和「……えっ?」

澪の口から、あまり良くない提案が飛び出してきた気がする。
え、っと……

澪「ひ、一人でお風呂入るの怖い……」ウルウル

和「……」

この子、日常生活に支障はきたさないのかしら……?
素朴な疑問が浮かんだけど、すぐに頭から振り払う。
乗りかかった船だ、最後まできっちりやらないと私としても好ましくない。

33: 2010/08/22(日) 02:26:26.46
澪「……」ウルウル

和「もう、そんな顔しないの。私も一緒に入るから」

澪「……!」パアア

和「夕飯は遅くなっちゃうけど……大丈夫かしら?」

澪「うん、もちろん!ありがとう和!」

和「どういたしまして。それじゃあ着替え持って来ないと……澪の分も、ね」

澪「あ……何から何まで本当にごめん……」

和「気にしなくていいってば。少し待っててね」

35: 2010/08/22(日) 02:29:57.24
申し訳なさそうにしている澪を残し、自分の部屋へ。
そういえば私の着替えを貸すことになるけど……サイズは大丈夫なのかな?

和「……」

視線はついつい自分の胸へ。
小さくはないと思うんだけど……スタイル抜群の澪と比べるのは心許無いわね。
……考えても仕方ないか。

ダイスキー、ダイスキー、ダイスキーヲア・リ・ガ・ト♪

和「あら、電話」

唯の歌声を響かせる携帯が震える。
取り出して見てみると……

36: 2010/08/22(日) 02:35:35.43
和「……律から?」

なかなかに珍しい相手からだ。
律とは仲が悪いということはもちろんないが、頻繁に連絡を取り合う仲というわけでもない。

和「もしもし、律?」

律『ああ、和か!?た、大変なんだ!』

切羽詰ったような律の声が聞こえる。
息も荒いようだし、一体何があったのかしら……

和「落ち着いて。何かあったの?」

律『あ、ああすまん。実は澪が……!』

和「澪が?」

チラリと居間の方に目をやる。
ここからでは見えないが、澪は間違いなくそこにいるはずだ。

37: 2010/08/22(日) 02:38:16.55
律『澪が……まだ帰ってないみたいなんだ!おかしいんだ、携帯にも出ないし……!』

和「えっ?」

律『唯に聞いてもムギに聞いても、みんな知らないって……!』

和「……」

律『くそっ、澪に何かあったら私のせいだ……!和、どんなことでもいいから何か知らないか!?』

和「えっと……律、今どこにいるの?」

律『あちこち走り回って澪を探してるよ!』

時間を確認すると、すでに私と澪が出会ってから一時間は経っている。
律はどうやら澪が逃げ出してからずっと探し続けてるみたいだから……
……はあ、まったくこの子達は。

39: 2010/08/22(日) 02:41:49.07
和「……律」

律『どうした!?何か知ってるのか!?』

和「知っているというか……澪なら今、私の家にいるわよ」

律『……ふぇ?』

予想外の言葉に驚いたのか、気が抜けてしまったのか。
律の口から変な声が漏れる。
……ちょっと不謹慎だけど、可愛いと思ってしまった。

律『……いるの?』

和「ええ。路地裏に蹲ってる澪を見つけて、そのまま保護?したわ」

40: 2010/08/22(日) 02:44:34.46
律『そっかぁ……良かった~……』

安心して力が抜けたのか、その場にへたり込む律。
いや、見えないけども。

和「事情は澪から聞いてるわ。澪と代わりましょうか?」

律『……いや、いいよ。私のつまんない嫉妬で澪を怖がらせちゃったし、明日直接会って謝りたい』

和「そう、その方がいいかもね」

律『ああ、澪のことよろしく頼むよ』

41: 2010/08/22(日) 02:47:51.53
和「この天気じゃ律も濡れてるでしょ?それにずっと走ってたなら疲れてるだろうし……早く帰って休まないとダメよ」

律『ははっ、分かってるよ。じゃあな』ピッ

和「……ふう」

律は澪のこと、本当に大事に思ってるのね。
たぶん、いや間違いなく澪も……
二人の関係が少し羨ましく感じる。

和「おまたせ、澪」

澪「あっ、和。遅かったけど何かあったのか?」

和「ううん、何も?さあ入りましょうか」

澪「う、うん」

和「あ、ところで澪。携帯はどうしたの?」

澪「携帯?……あ、バッテリー切れてる」

なるほど。

42: 2010/08/22(日) 02:51:48.79
……

澪「の、和?う、後ろに誰もいないよな?」

和「……心配しなくても私以外は誰もいないわよ」

お風呂場。
湯船に私が浸かり、澪はその艶やかな髪を洗っている最中だ。
……さっきから澪は背後に何かいるんじゃないかと異様に気にしている。

澪「ううう……」ブルブル

和「……」

曰く、『お風呂で髪を洗っている時に、背後に現れるお化けがいるって律が……!』らしい。
私とお風呂に入りたがったのはそのせいか。
でも、結局怖がってるんだから意味ないわよね……
しょうがない。

44: 2010/08/22(日) 02:56:39.14
澪「ひゃわあっ!?和あっ!?」

和「動かないの。私が洗ってあげるから」

澪「え、えええええええええっ!?」

和「あんなにのろのろされちゃうと、私がのぼせそうなのよ」

澪「で、でも……はう」

澪の髪にそっと触れ、ゆっくりと洗い始める。
柔らかくてサラサラの髪の毛が私の手の中で躍る。
……羨ましい。

45: 2010/08/22(日) 02:59:48.70
和「んしょ……」

澪「ん……」

心地よさそうな声を上げる澪。
恥ずかしいのか、顔は真っ赤だけど。

和「本当に奇麗ね、澪の髪って」

澪「そ、そうかな……ありがとう。和も綺麗だよな」

和「ふふ、ありがと。お世辞でも嬉しいわ」

澪「お世辞なんかじゃ……いたっ!」

こちらを振り向こうとして、急に痛がる澪。
目をギュッと閉じている。
どうやらシャンプーが目に入ってしまったらしい。

46: 2010/08/22(日) 03:03:59.13
和「目に入っちゃったのね。ほら、流してあげるからこっち向いて」

澪「う、うん……」

顔だけでなく、目も赤くなってしまっているわね……
目を傷つけないように、優しく流してあげないと。

澪「ん、もう大丈夫。手間かけてごめんな和」

和「いいのよ。じゃあ続けるわね」

澪「うん、よろしく」

和「……」ワシャワシャ

澪「……」

また髪を洗ってあげる。
何だか楽しくなってきた気がする。
でも、もうそろそろ終わりね、やりすぎるのもよくないし。

47: 2010/08/22(日) 03:06:04.21
和「……はい、流すわよ。目を瞑って」

予め断ってからお湯で澪の髪を洗い流す。
……髪に絡みついていて、なかなか泡が落ちない。
羨ましいと思ったけど、この分だとかなり手入れが大変ね……私には無理かも。

澪「ぷうっ、ありがとう和」

和「どういたしまして。……体も洗ってあげましょうか?」

澪「ふえええっ!?」

悪戯っぽく笑って澪に提案。
私らしくないかもしれないけど、たまにはいいわよね?

48: 2010/08/22(日) 03:09:37.17
澪「いやっ、でも、そそそれは恥ずかしいよっ!」

和「あら、一緒にお風呂に入ってって頼むだけでも十分恥ずかしいと思うけど?」クスクス

澪「ううう~……和ひどいよぅ……」

和「ふふっ、冗談よ」

恥ずかしがる澪は、お世辞抜きにしてすごく可愛い。
律がちょっかいかけたがる気持も分かるわね……

49: 2010/08/22(日) 03:11:30.41
……

和「それじゃあ寝ましょうか」

澪「そうだな」

あれからしばらくして。
遅い夕飯を終え、少しだけ勉強してから就寝することになった。
明日も早いしね。

澪「えっと……その、和?」

和「分かってるわよ、一緒に寝ましょうか」

澪「う、うんっ!」

一緒に過ごしてる間に澪の考えてることが大体分かるようになった。
まあ、いつもこんな風じゃないんだろうけど、ね。

51: 2010/08/22(日) 03:15:55.18
澪「それじゃあ……お、お邪魔します」

カチコチに緊張した澪が、私のベッドに潜り込んできた。
動きがロボットのようにぎこちない。

和「ぷっ、何よそれ」クスクス

澪「うううう~……」

和「ごめんごめん、拗ねないで」

澪「……ふんっ」プイッ

あらら、そっぽ向かれちゃった。
でもそんな姿も可愛らしいのだからズルイわね。

52: 2010/08/22(日) 03:17:57.16
澪「……和は何だか慣れてるよな。その……一緒に寝たりとか、お風呂とか」

和「まあ……唯のおかげでね」

澪「ああ……納得」

和「それじゃおやすみ、澪」

澪「……おやすみ」

灯りを消し、目を瞑る。
……何でだろうか。
隣に人の体温を感じると、不思議と安心して眠れる。
別に誰でもオーケーってわけじゃあ、ない……けどね……

和「……」

53: 2010/08/22(日) 03:19:52.94
……

まどろみの中、突然目が覚めた。

ウッ、グス……

……声が聞こえる。
誰かが……すすり泣く声?

グスッ、リツゥ……

……澪?

和「……泣いてるの?」

54: 2010/08/22(日) 03:22:16.66
澪「グス……和?ごめん、起こしちゃった?」

和「ええ。いったいどうしたの?」

身を起こし、隣にいる澪を見つめる。
時刻は……深夜三時、まだまだ夜明けは遠いが灯りを消してからは結構経っている。
澪は、ずっと眠れなかったのだろうか。

澪「……今日は、本当は律と一緒にいるはずだったんだ」

ポツリと話す澪。
そうか、律のことを思い出して……
薄暗い中なのでよく見えないが、澪の横顔はとても寂しそうに見えた。

澪「でも……喧嘩しちゃった」

和「……」

57: 2010/08/22(日) 03:25:41.88
澪「わ、私は……律と一緒に頑張りたかったんだ。一緒の大学に行って、それで……」

和「……うん」

澪「今日も本当は律と遊べてすごく楽しかった、楽しかったのに。わ、私は、私は……」

和「いいのよ、澪……我慢しないで」ギュウッ

震える澪を抱きしめてあげる。
少しでも澪が落ち着けるように、安心できるように。

澪「和……のどかあ……寂しいよお……」

和「よしよし……」ナデナデ

58: 2010/08/22(日) 03:28:39.47
澪「ううっ、グスっ……律に謝らないと……」

和「大丈夫よ、澪」ナデナデ

澪「でも、謝らないと……」

必氏に澪を探し回り、私に電話してきた律を思い出す。
ふふ、意外と似た者同士なのね。

和「大丈夫、大丈夫……。律は明日澪に謝って来てくれるわ」

澪「律、が……?」

和「ええ。だから澪は、その時に笑って律を許してあげて。あの子も色々と思い詰めてるから」

59: 2010/08/22(日) 03:31:31.38
澪「……ほんとう?」

和「本当よ。だから澪、ゆっくり休んで……ほら、目を閉じて……」

澪「うん……」

澪を抱きしめたまま、優しく囁く。
安心したのか、澪の泣き声は小さくなっていき……私に抱きしめられたまま眠りに落ちた。

和「今度こそおやすみ、澪……」

澪「おや、すみ……まま……」

61: 2010/08/22(日) 03:37:14.15
……

律「澪、昨日はほんっとうにゴメン!許してくれ!」

翌日。
予備校の夏期講習に揃ってやってきた私たちの前に、律が飛び出して来て深々と頭を下げている。

和「ふふ……」

澪が驚いた顔をしているので、目配せをして返事を促す。
ほら、このままだと律はいつまで経っても顔を上げないわよ?

澪「律……全然気にしてないよ。私の方こそゴメンな」

律「澪は謝らなくていいよ。私頑張るから、澪と一緒に頑張るから!」

澪「うん、一緒に頑張ろうな」

62: 2010/08/22(日) 03:39:45.05
律「澪……みお~~~っ!」ガバッ

澪「わっ、こら!き、急に抱きつくな~!」

ギャーギャー騒ぎながらじゃれ合う澪と律。
うまくいって良かったわね、二人とも。

律「じゃあ澪、さっそくだけどこの問題が……」

澪「和~!仲直りできたよ、ありがとう!」ダキッ

和「ふふ、良かったわね」ナデナデ

64: 2010/08/22(日) 03:44:25.27
律「あ、あれ……?」

澪「和、あったかい……」ギュウッ

和「ちょっと澪……もう」

どうやら私は澪に相当懐かれてしまったようだ。
今朝から澪が積極的にスキンシップしてくるのだ。
もちろん嫌ってわけではないけど……

澪「そうだ、今日の講習が終わったら時間あるか?昨日のお礼に何かご馳走するよ」

和「ありがと。考えとくわ」

律「……」ジー

65: 2010/08/22(日) 03:47:32.59
澪「楽しみだな!それじゃあ行こうか」

和「そうね……ほら、律も」

律「……うん」ジトーッ

……律からの視線が何だか痛い。
隣を歩く澪はにこにこ笑ってご機嫌だから何も言えないし……

澪「~♪」

律「……」ジトーッ

澪は自覚なし、ね。
……ふう、どうやら私はもう一働きしないといけないようだ。

66: 2010/08/22(日) 03:51:47.30
澪「ひゃあっ!?な、何するんだ律ぅ!」

律「あらー、私は何もしてませんことよ?お化けでも出たんじゃな~い?」

澪「ひいいいっ!?」

律「ふんっ、澪のばーか!」

和「もう……仕方ない子たちね。ふふっ」

このちょっと鈍感で、甘えん坊なところがある臆病な親友と……
普段は明るいくせに、意外と嫉妬深い親友のために。


終わり♪

69: 2010/08/22(日) 03:54:42.08
和ちゃんマジ和ちゃん
おやすみ

70: 2010/08/22(日) 03:55:46.17
おつ
とてもよかったです

引用元: 和「臆病な親友」