1: 2010/09/07(火) 23:46:23.96
平沢家

唯はN女大に合格した。結果、唯は大学の学生寮で暮らすこととなった。

憂は、一人で家に暮らしていた。

憂「なんか、家が広くなったなぁ…………」

今日は、桜高の始業式があった。今日から憂は、高三となったのだ。

憂「寂しいなぁ。お姉ちゃん……」

3: 2010/09/07(火) 23:47:59.70
憂「あ、もう、こんな時間。ご飯作ろう」

時計にはP・M6:00と表示されている。

憂はキッチンへと向かった。

憂(お姉ちゃんがいなくても、ちゃんと生活しなきゃ!)

憂(お姉ちゃんに依存してばっかじゃ駄目なんだ!)

憂はご飯を作り終える。

5: 2010/09/07(火) 23:49:37.19
そして気づく。

憂(また、二人分作っちゃった……)

憂(…………お姉ちゃんと一緒だったころの癖、抜けてないなぁ)

憂(……残すのももったいないしね。全部食べよ)

憂(…………太っちゃうなぁ。ははは)

憂(このままじゃ、私、おでぶさんになっちゃうよ。お姉ちゃんに会っても、別人って思われるかもなぁ……)

7: 2010/09/07(火) 23:51:06.02
憂(ははは……)

憂(……はぁ)

憂(……ううん! だめだめ! お姉ちゃんがいなくなったって、氏んだわけじゃないんだ!)

憂(それに、お姉ちゃんに心配かけたくないし!)

憂(笑おう。暗い顔じゃ、お姉ちゃん心配しちゃうよ)

8: 2010/09/07(火) 23:52:42.49
憂はリビングに、二人分の料理を持っていった。

憂「いただきます」

ムグムグ ムグムグ ムグムグ 憂「……普通」 ムグムグ

自分の料理を褒めてくれる相手がいないと、モチベーションが下がる。

憂(いつもはお姉ちゃんがいたのに……)

憂は食べ終わると、食器を洗いに、再びキッチンへ向かった。

9: 2010/09/07(火) 23:54:20.64
憂「…………お姉ちゃんがいないと、こうも静かなんだなぁ」

憂「…………そうだよね、一人しかいないんだもの」

憂「…………一人って、つらいなぁ」

憂「…………もう、やだな」

皿洗いを終える。

10: 2010/09/07(火) 23:55:38.16
リビングへ向かう。

憂「TVでもみよっと」

憂「面白いの、やってないかな」

憂「…………うーん。どれも、つまらなさそうだなぁ」

憂「…………いいや。部屋戻ろう」

憂はTVの電源を消すと、自室へ向かった。

12: 2010/09/07(火) 23:57:07.86
憂部屋

憂「勉強でもしようかな」

憂「受験生だしね」

憂「……そっか、もう受験生なんだ」

憂「うん。勉強した方が良いだろうな」

憂「よし、そうしよう」

13: 2010/09/07(火) 23:59:16.98
カキカキ カキカキ

憂「……何か、静か過ぎて気味悪いな」

憂「……ラジオでも、つけようかな」

憂は机を離れ、ラジオの電源を入れにいく。

ラジオ『所ジョージのオールナイトニッポンゴールド!』

憂(うん。すこしBGMがあったほうがいいよね)

そのまま机に戻る。

15: 2010/09/08(水) 00:01:13.31
カキカキ カキカキ

憂「えーと。ここにλが入ってるから……」

憂「……うん、よし。出来た。答えは……あってる」

憂「………………うん」

憂(…………お姉ちゃん)

16: 2010/09/08(水) 00:01:46.31
憂(今、何やってるんだろうなぁ)

憂(悪い男の人とかと、一緒になってないかな)

憂(彼氏とか、いるのかなぁ)

憂(大丈夫だよね、女子大だもん)

憂(きっと、今頃律さんとかと一緒にわいわいやってるんだろうな)

憂(……………………いいなぁ)

17: 2010/09/08(水) 00:02:38.81
そのとき、インターホンの音がした。

憂「あ、今開けまーす」

憂は玄関へと向かった。

憂(こんな時間に誰だろう?)

憂(もしかして……)

玄関の扉を開ける。

――純がいた。

18: 2010/09/08(水) 00:03:18.60
純「やほー、憂」

憂「純ちゃん……どうしたの?」

純「お姉ちゃんと離れ離れになった憂が、しょげていないか心配になっちゃったんだ」

純「いてもたってもいられなくて、来ちゃったよ」

憂「……べつに、大丈夫だよ」

嘘だ。

20: 2010/09/08(水) 00:03:59.41
純「またまたー。梓じゃないんだから、強がんなくたっていいんだよ」

でも、すぐにばれた。

憂「強がってなんか、ないもん」

憂は口を尖らせた。

純「本当?」

憂「本当だもん!」

純「でも、泣いてるよ」

21: 2010/09/08(水) 00:04:57.68
憂「え?」

純「ほら」

純が憂の目元をぬぐう。

憂「……本当だ」

純「無理しなくて、いいんだよ」

憂「……眼に、ゴミが入っただけだよぅ」

24: 2010/09/08(水) 00:06:35.97
純「はいはい。あがらせてもらっていい?」

憂「いいけど……純ちゃん、お母さんとかになんかいわれない?」

純「両親共働きでね、家には私に小言を言う人はいないんだ」

憂「ふぅん」

純「と、いうわけであがらせてねー」

25: 2010/09/08(水) 00:07:59.84
純は憂の脇をすりぬけ、玄関に入る。靴を脱ぎ、そのままリビングへ。

憂「あ、ちょっと!」

憂は純の後を追いかけた。

不思議と、寂しくなくなった。

純が来てくれたことが、嬉しかった。

26: 2010/09/08(水) 00:08:44.39
****************************************

純「あ、お土産持ってきたんだ。はい、ミスド」

憂「あ、うん。ありがとう」

純「私、ポンデリング食べるから」

憂「うん」

純は、リビングに置かれたテーブルの近くに、ゆっくりと腰を下ろした。

27: 2010/09/08(水) 00:09:35.39
純「いやー、私たちも、もう高三だねー」

憂「うん。早いね」

憂は二人分のコーヒーを運んできた。

純「お、サンキュ」

憂「……そうだ。純ちゃんは、どこの大学に行くの?」

28: 2010/09/08(水) 00:10:51.05
純「私かー。私は……どこでもいいな!」

憂(……純ちゃんらしい答えだな)

純「憂と一緒なら!」

憂「…………………………へ?」

純「なーんて、冗談冗談」

29: 2010/09/08(水) 00:11:53.21
憂「な、な、なーんだ。お、驚かせなないでよ、もぉー」

純「うは。マジにとっちゃった?」

憂「まさか。冗談だっててて、わかってたよ」

純「…………まだ、驚いてるのね」

純「憂はどこにするの?」

30: 2010/09/08(水) 00:12:34.38
憂「え? 私?」

純「うん。やっぱN女?」

憂「うーん。でも、あまり気が進まないんだよなー」

純「何で?」

憂「純ちゃんと、一緒じゃなきゃ嫌だもん」

憂は純を、まぁるい瞳で真摯に見つめた。

純「…………………………へ?」

31: 2010/09/08(水) 00:13:07.34
純が動揺する番だった。

憂「冗談」

憂はいたずらな笑みを見せた。

純「あ、ああ、そうだよね……」

冗談だとわかっているのに、どきどきしている自分がいた。

32: 2010/09/08(水) 00:13:42.68
二人はその後、談笑した。

ジャズ研の話。

梓の話。

午後の紅茶は午前に飲んだ方がうまい、と言う話。

温くなったコーヒーを飲み終え、一息ついたころには、もう日付が変わっていた。

憂「あ、もう12:00だ」

33: 2010/09/08(水) 00:14:22.71
純「あ、本当だ。そろそろ帰るね」

憂「――待って」

純「え?」

憂「ほら、夜道は危険だし、今日はうちにとまらない?」

純「…………いいの?」

憂「うん。大丈夫、変なことしないよ!」

純「じゃあ、お言葉に甘えて……」

34: 2010/09/08(水) 00:15:13.10
憂「パジャマとって来るね!」

純「う、うん」

憂「とってきたよ!」

純「はやっ!」

憂「私のなんだけど、合うかな?」

純「……うん、ぴったり!」

憂「よかったぁ!」

35: 2010/09/08(水) 00:15:55.29
純「じゃ、私はどこで寝れば?」

憂「私の部屋?」

純「え、いいの?」

憂「うん」

憂「二人で一つのベッドになるけど、いい?」

純「いい、けど」

憂「よかった! じゃあ、行こうよ!」

憂の手に引かれて、純は半ば強制的に、憂の部屋で寝かせられることになった。

37: 2010/09/08(水) 00:16:30.41
憂部屋

純「そういえば、中学校の修学旅行のときも、こんな風に寝たね」

憂「そうだねー。もう、あれから三年もたってるのかぁ」

純「時間が流れるのは、早いね」

憂「…………うん」

純「ねえ、中学校のときにいた、Hちゃんっておぼえてる?」

憂「あ、うん。お下げの子でしょ」

38: 2010/09/08(水) 00:17:02.21
純「あの子ね、東大目指してるんだって」

憂「へえ! 頭良かったもんね」

純「すごいなぁ。何か、溝みたいなもの感じちゃう」

憂「……そだね」

シングルベッドに、二人で寝るのはすこし窮屈だ。

41: 2010/09/08(水) 00:17:59.90
それでも憂には、心地よかった。

純と……誰かと一緒にいることが、心地よかった。

憂「ふわ~ぁ。純ちゃん、私、眠くなっちゃった。寝るね」

純「うん。お休み」

数分ほどして、憂の寝息が聞こえた。

純はむくり、と起きだした。

憂の顔を覗き込む。

中学生のころから変わらない、でもどこか大人びた顔つき。

42: 2010/09/08(水) 00:18:43.63
純は、憂の頬を触る。

ぴくん、と憂が反応したような気がした。

柔らかくて、あったかくて。

抱きしめたい衝動に、駆られた。

すんでのところで、それをおさえこんだ。

純(………………憂)

43: 2010/09/08(水) 00:19:25.72
純はそっと、憂の唇に自分のそれを近づける。

重ねる。それは長い長い、一瞬。

感触は頬よりも、柔らかかった。羽毛のように、ふわふわしていた。

そして憂の唇は、すこし甘かった。

唇を離す。憂は起きていないようだ。

純「…………大好きだよ、憂」

その呟きは、誰にも聞こえないけれど。

****************************************

44: 2010/09/08(水) 00:20:27.36
憂が眼を覚ますと、時計の針は九時をさしていた。

憂「……ふぁ~あ」

憂「…………あれ?」

憂(今日って、平日だよね)

憂(なのに九時ってことは…………)

憂(遅刻ううううううううううううううううううううううううう!!)

45: 2010/09/08(水) 00:20:58.49
憂の傍らにいるはずの純はいない。

代わりに机にメモ用紙。

『あまりに寝顔が可愛かったので、起こしませんでしたー

先に学校行ってくるね                        純     』

憂「うう、もう、純ちゃんったら……」

毒づきながらも、許せる気になった。

46: 2010/09/08(水) 00:21:39.76
学校!

数学教師「で、ここにγが――」

ガララッ

憂「すいません! 遅れました!」

数学教師「……珍しいな、平沢が」

憂「すいません……」

羞恥に頬を赤らめながら、憂は自分の席に座る。

47: 2010/09/08(水) 00:22:17.44
数学教師「じゃ、再開するぞ。それでだ、ここにωを代入して――」

憂は純の方を見やる。

目が合った。

憂(今、目が合ったよね?)

純(わー、ごめーん!)

憂(もう! おかげで遅刻したじゃない!)

純(反省してるよー)

憂(…………もう)

48: 2010/09/08(水) 00:22:59.94
お昼休み!

梓「今日は何で遅刻したの?」

憂「目覚ましかけ忘れちゃった」

純「憂らしくないねー」

憂「う、うん」

梓「そうだ。純、覚えてる?」

純「な、何?」

梓「けいおん部に新入生来なかったら、入ってくれるんだよね?」

49: 2010/09/08(水) 00:23:29.33
純「えー、本当に入るの?」

梓「当ったり前じゃない。ただでさえ廃部寸前なんだから」

純「うーん。入ってくるでしょ、きっと」

憂「新歓っていつなの?」

梓「あさって」

憂「何の曲弾くの?」

梓「ごはんはおかず、とふわふわ時間、かな」

50: 2010/09/08(水) 00:25:32.82
憂「来るといいねー、新入部員」

梓「うん。あ、そういえば、唯先輩の調子はどう?」

憂「うーん、あまり連絡とってないんだ」

梓「そか」

憂「心配?」

51: 2010/09/08(水) 00:27:33.76
梓「う、ううん! ちょっと気になっただけよ!」

憂(……心配、してくれてるんだなぁ)

純「よかったねー、憂」

憂「な、何が?」

純「心配してくれる人、他にもいてさ」

憂「…………まあ」

梓「わ、私はそんなに心配してないもん!」カァァ

52: 2010/09/08(水) 00:28:57.11
放課後!

憂「純ちゃん、帰ろ!」

純「ごめん、ジャズ研あるんだ」

純は、また今度ね、と言いながら、ジャズ研部室へ行く。

憂「えー、じゃあ、梓ちゃんは?」

梓「私も部活。今度は一人でやらなきゃいけないからね」

53: 2010/09/08(水) 00:30:45.25
憂「そっかー……」

梓「ごめんね」

憂「……あ!」

梓「何?」

憂「私も、手伝ってあげる!」

梓「え? 何を?」

憂「新歓ライブ!」

梓「え、でも、憂は部員じゃ……」

憂「じゃあさ、私が部員になるのはどうかな?」

56: 2010/09/08(水) 00:33:48.14
梓「――――へ?」

憂「部員ならいいんでしょ?」

梓「う、うん」

憂「なら、私も部員になるよ」

梓「いいの?」

憂「うん。家に帰っても、暇なだけだし、それに……」

梓「それに?」

憂「……もう、高校生活最後でしょ。だから、今のうちに思いで作っておきたいんだ」

58: 2010/09/08(水) 00:34:29.09
梓「…………憂」

憂「いいでしょ?」

梓「うん」

憂「ありがとう!」

憂は笑う。つられて、梓も笑みをこぼした。

60: 2010/09/08(水) 00:38:26.98
音楽室!

憂「先生、今日からよろしくお願いします!」

さわこ「いいけど……急に、何で?」

憂「音楽に目覚めたんです!」

梓「と、言うわけなんで、憂と二人で新歓やります」

さわこ「いいけどねぇ……憂ちゃん、楽器出来るの?」

憂「ギターなら……」

61: 2010/09/08(水) 00:39:19.22
さわこ「ギターは梓ちゃんがやってるのよ。他は?」

憂「ああ、なら――」

迷った。それ以外に弾ける自信がない。

憂「――ハーモニカ、なんてどうでしょう」

思い切って、言ってみた。未経験で、一度もやったことがない。

律たちがいたら、既視感を感じていたに違いない。

****************************************

63: 2010/09/08(水) 00:40:11.62
梓「さわこ先生は、職員会議で出て行ったから、二人だけかー」

憂「うん、何か新鮮だね」

梓「だね。じゃあ、早速練習しようか」

憂「わかった!」

憂はハーモニカを吹く。

梓「へえ、なかなか上手いじゃん!」

64: 2010/09/08(水) 00:40:43.27
憂「ありがと。…………何か、上から目線?」

梓「あ、ごめんごめん。嬉しくなっちゃって」

憂「まあいいや。でも、本当に上手く吹けてる?」

梓「うん! 練習したら、もっと上手くなれると思うよ!」

憂「えへへ、そうかな」

憂は頭をかいた。

梓「じゃあ、次は私の演奏聴いてね」

憂「うん!」

****************************************

65: 2010/09/08(水) 00:41:42.56

平沢家!

憂(梓ちゃん、凄かったな……)

憂(演奏もプロ並みだし……声も綺麗だし)

憂(梓ちゃんに負けないように、私も頑張んなきゃ!)

憂(でも、ハーモニカなんてどうやったら上手く吹けるのかなぁ)

憂(練習したら上手くなるって言ってたけど、練習の仕方がわからないや)

ピンポーン

憂(…………純ちゃんかな?)

憂は玄関へ向かった。

****************************************

66: 2010/09/08(水) 00:42:54.54
純が、玄関先にたっていた。

憂「やっぱ、純ちゃんかー」

純「へえ、わかったんだ」

憂「うん」

純「どうしたの? 浮かない顔して」

憂「うん、実はね…………」

憂はけいおん部に入ったことを言った。

67: 2010/09/08(水) 00:43:24.75
憂「それでね、純ちゃんに聞きたいんだけど……」

純「何?」

憂「……ハーモニカって、どうやって吹くの? 上手にさ」

純「ハーモニカ? 私もあんまやったことないなぁ」

憂「そっか…………」

純「うーん。でもさ、何でハーモニカにしたの? もっとやりやすい楽器あったんじゃない?」

68: 2010/09/08(水) 00:44:03.77
憂「まあ。じゃあさ、何の楽器がいいかな?」

純「キーボード、とか?」

憂「キーボード、かぁ。うちにはないなぁ」

純「あ、私の家に一個あるよ。やってみる?」

憂「え、いいの?」

純「うん。どうせ、使わないしね」

69: 2010/09/08(水) 00:44:35.00
純宅

憂「へー。純ちゃんの家って、はじめて来たよ」

純「そうだっけ?」

憂「うん。で、キーボードはどこ?」

純「私の部屋。大抵の楽器は、私の部屋にあるんだ」

憂「へー、すごいな」

純「じゃ、部屋においでよ」

憂「うん!」

71: 2010/09/08(水) 00:45:10.00
純部屋

憂「へえ、本当だ! キーボードある!」

純「へへー」

憂「弾いてみていい?」

純「うん」

♪  ♪

純「うーん、何か今ひとつ」

72: 2010/09/08(水) 00:45:46.78
憂「うう、どうしたら…」

純「ほら、こんな風に……」

♪ ♪ ♪  ♪

憂「すごい! 上手」

純「いやー、それほどでもー」

憂「んーと、こうかな?」

♪ ♪ ♪  ♪

純(飲み込み早!)

憂「どう?」

純「うまくなってるよ! じゃあ次は……」

二人の練習が終わったのは、一時間ほど経ってからのことだった。

73: 2010/09/08(水) 00:46:23.07
鈴木家玄関前

憂「今日はありがと! 純ちゃん!」

純「いやいや、なんの」

憂「なんか、とてもうまくなった気がするよ…」

純「気、じゃなくて、本当にうまくなったよ……」

純(何しろ、私より上手になったもんな)

憂「そうだ! お礼するよ。何か欲しいものある?」

74: 2010/09/08(水) 00:47:07.77
純(欲しいもの……)

純「キス?」

憂「へ?」

純「わわわ、なんでもない!」

憂「そ、そう?」

憂(いま、キスって言ったよね……)

憂(よし……)

75: 2010/09/08(水) 00:47:58.67
翌日、放課後!

梓「……で、キーボードにしたの?」

憂「うん。ハーモニカは無理なような気がしてね」

梓「まあ、いいけどね。でも、なんか憂が紬先輩に見えてきた」

憂「紬さんに?」

梓「キーボードが紬先輩ってイメージだから、ね」

梓は遠い目をした。

76: 2010/09/08(水) 00:48:46.59
憂「ねえ、梓ちゃん」

梓「何?」

憂「寂しい?」

梓「…………ちょっと、ね」

梓「一人で頑張るぞーって、張り切ってたんだけどさ」

梓「こうしてみると、寂しくなっちゃってね」

憂「…………そっか」

梓「まあいいや! とにかく、練習しよ! もう時間もないんだし。明日に迫ってるんだし、新歓!」

憂「そうだね、頑張ろう!」

梓憂「おー!」

77: 2010/09/08(水) 00:49:35.22
翌日 新歓ライブ――体育館

梓「えーと、軽音部です! 部員は、二名しかいませんが………………」

梓はMCが終わった後、憂と目配せし、演奏を始める。

流れるような旋律が、体育館を包んだ。

小気味いい歌詞が、一年生の鼓膜を震わす。

その音楽は、聴く人の耳を捉えて放さない。

梓「――ありがとうっ!」

梓の科白の一瞬後、怒涛のような拍手が、沸きあがった。

78: 2010/09/08(水) 00:52:39.20
放課後! 音楽室!

梓「新入生、来るかな?」

憂「……来る、と思うよ。精一杯やったんだし」

梓「だよね。早く、来て欲しいな」

梓の期待にこたえるように、音楽室のドアが開いた。

一年生数名「あの、部活見学に着たんですけど……」

初々しいその態度に、梓は頬を緩める。

梓「――ようこそ、軽音部へ!」

梓の晴れ晴れとした笑顔に、一年生はすこし見とれていた。

****************************************

79: 2010/09/08(水) 00:55:08.04
純「こんばんわー」

純が憂の家に来たのは、その日の八時のことだ。

憂「あ、純ちゃん。あがってあがってー」

純「お邪魔しまーす」

憂「と、言っても私以外誰もいないけどね」

純「それもそうだね」

憂「今日の新歓、見に来てくれた?」

80: 2010/09/08(水) 00:57:41.94
純「ごめん。私もジャズ研で忙しくてさ」

純「部員は入ったの?」

憂「まだわからないけどね」

憂「――多分、入ってくれると思うよ」

純「……そっか」

純は何故か、一抹の寂寥を感じていた。

憂「…………純ちゃん?」

82: 2010/09/08(水) 00:58:34.17
純「……………………」

憂「…………純ちゃん!?」

純「……あ、ごめん、すこしぼーっとしてた」

憂「疲れてるの?」

純「あ、うん。それもあるかもしれないけど――」

憂「けど?」

純「何か、ものかなしいっていうか」

83: 2010/09/08(水) 00:59:07.04
憂「……もしかして」

純「……何?」

憂「……軽音部、入りたかった?」

純「……まぁね」

純「楽しそうだなーって、思ったし」

憂「そっか」

純「うん」

憂「ねえ、純ちゃん」

純「ん?」

憂「軽音部、入らない?」

84: 2010/09/08(水) 01:00:00.28
純「……いいの?」

憂「駄目ってことは無いよ」

純「……本当に?」

憂「本当に」

純「本当に本当?」

憂「本当に本当」

純「………………」

憂「………………」

85: 2010/09/08(水) 01:00:54.87
純「………………かな」

憂「え?」

純「入ってみよう、かな」

憂「本当?」

純「うん。入る。高校三年なんだし、好きなことやりたいしね」

純「それに―――」

純は憂を見つめた。

小悪魔のように、瞳を細めて。

純「憂と、一緒がいいしね」

86: 2010/09/08(水) 01:01:54.77
それは本音だった。

それが本音だった。

憂はきっと、頬を赤らめて驚くに違いない――そう、高をくくっていた。

しかし、憂は意に反して。

憂「…………私も、一緒がいいな」

純「…………え?」

憂「私も、純ちゃんと一緒がいいな」

87: 2010/09/08(水) 01:02:55.80
純「…………何かの冗談?」

憂「ううん。冗談じゃないよ。私の本心」

純「…………からかってたり、しないよね」

憂「うん」

憂の瞳には、迷いがなかった。それは、憂の言葉が真実だ、と示唆しているようにも思えた。

純「…………うれしい」

88: 2010/09/08(水) 01:03:43.21
憂「私もうれしいよ。純ちゃんに、やっと言えたんだもん」

純「この前も、言ってなかった?」

憂「あれは、どんな反応するかなーって」

純「………………」

憂「そういえばさ」

純「なに?」

憂「私にキス、してきたよね」

89: 2010/09/08(水) 01:04:23.91
純「え、お、起きてたの?」

憂「ほっぺ触ってくれたおかげでね」

純「ご、ごめん! 悪気はなかったの! 衝動に駆られたの!」

憂「うん。だからさ、今回は、お互いの合意を得た上でキスしようよ。無理やり、とか寝込みを見計らって、とかじゃなくて」

純「……え?」

憂「私は純ちゃんとキスしたいな。純ちゃんは?」

憂はきっぱりと言った。

90: 2010/09/08(水) 01:04:55.81
純「私は――、私も、したい」

言うのはかなり、恥ずかしい。

憂「じゃあ、どっちもキスしたいってことで。しようか」

純「今?」

憂「うん。私は今、キスがしたいな」

純「……うん。わかった」

91: 2010/09/08(水) 01:05:36.77
憂「じゃあ、はい」

憂は純のところに詰め寄り、そのまま目を閉じた。

純「……え?」

憂「純ちゃんから、私にしてよ」

その科白に、純はつばを飲み込む。

ええいままよ! そう心の中で叫びながら、純はその唇を、憂の唇に触れ合わせる。

92: 2010/09/08(水) 01:06:49.17
柔らかい肉感。どこか懐かしい、感触。

憂の鼓動が聞こえてきそうなほど、接近している。

甘い味がする。イチゴの味。

純は唇を放す。

憂が目を開ける。

93: 2010/09/08(水) 01:07:55.01
憂「ねえ、純ちゃん」

純「うん?」

憂「これからも、ずっと一緒にいようね」

大学生になっても、社会人になっても、ずっと――。

憂「一緒にいてくれるよね?」

94: 2010/09/08(水) 01:08:54.40
純「もちろん」

純「ずっと一緒にいよう」

氏ぬまで、ずっと、一緒に……。

純「約束するよ、憂」

躊躇いもなく答えていた。
                               終わり

95: 2010/09/08(水) 01:09:35.29
番外編  憂と純と

ある日の学校

憂「ねえ、純ちゃん」

純「なーにー?」

憂「私たち、友達? それとも恋人?」

純「え?」

96: 2010/09/08(水) 01:10:11.92
憂「どっちなんだろ」

純「えー、えー、えーっと」

憂「恋人かな?」

純「うーん、恋人ってのは何か違う気がする」

憂「じゃあ、何だろ? 友達?」

97: 2010/09/08(水) 01:10:51.76
純「もっと、親しい関係のような気が……」

憂「あ、じゃあさ、『親友』かな?」

純「あ、しっくりくる」

憂「そっか、まだ親友かぁ」

憂(いつか、恋人って認識されたいなぁ)

98: 2010/09/08(水) 01:11:52.38
憂(そのためにも、コミュニケーションを……)

純「…ねえ、憂」

憂「へ?」

純「やっぱり、恋人にならない? そっちの方が、いいなーって」

純の科白に、憂は少し驚いた。

99: 2010/09/08(水) 01:12:27.40
憂「……私でいいの?」

純「うん。むしろ、憂がいいな」

憂「――――嬉しいな」

純「よし、今日から『恋人』ね」

憂「うん。純ちゃん」

純「あのさ、恋人なんだから、呼び捨てにして欲しいなーなんて」

憂「うん、わかったよ、――純」

何だかとても、新鮮で。

純「ありがと、憂」

何となく、お礼を言ってしまった。
                               終わり

100: 2010/09/08(水) 01:13:05.83
終わり。

引用元: 憂「もう、高校三年生か……」