1: 2010/09/11(土) 13:37:15.38
お昼休み

純「ねえ、唯先輩のどこがいいの?」

憂「え? どこって……全部、かな」

純「具体的には?」

憂「まずあの天使みたいな顔だよね。幻想的で、思い出すたび胸がほわゎぁってなるの」

憂「あの肉つきのいい体! 将来絶対良いお母さんになれるし」

憂「ひたむきで、前向きで、明るくて、何より綺麗で」

憂「――私の憧れなんだよ」

2: 2010/09/11(土) 13:38:25.63
純「……ふーん」

憂「あれ? どうしたの? 純ちゃん」

純「あ、いや、何でも」

純(憧れ、かぁ……)

純(私も憂に、そう思われたいな……)

4: 2010/09/11(土) 13:39:24.20
梓「何の話してるの?」

純「あ、梓。購買で何買って来たの?」

梓「チョコロールパンと、イチゴジャムパン」

純「チョコの方、一口分けてー」

梓「えぇー、やだよー」

5: 2010/09/11(土) 13:40:15.40
純「ぶーぶー、けちー」

梓「はいはい、一口だけね……。それで、何の話してたの?」

憂「純ちゃんが、お姉ちゃんのどこがいいかって聞いてきたんだよ」

梓「憂は何て答えたの?」

憂「全部」

梓「憂らしいわ……」

7: 2010/09/11(土) 13:41:25.24
憂「純ちゃんったら、変な質問してくるからびっくりしたよー」

純「い、いいでしょ、別に」

梓「あれ? もしかして、唯先輩に嫉妬してるの?」

純「え?」

梓「憂に慕われてる唯先輩が、うらやましいなーって、思ってるんじゃないの?」

純「ま、まさか!」

8: 2010/09/11(土) 13:42:28.02
純「そんなわけないじゃん!」

梓「だよねー」

憂「……なんか、遠まわしに嫌味を言われた気がするよ」

梓「気のせい、気のせい」

梓「そういえばさ、唯先輩以外に好きになった人っているの?」

憂「私? 私は……うーん、お姉ちゃんしかいないなぁ」

9: 2010/09/11(土) 13:44:23.41
梓「もう、ぞっこんなんだねー」

憂「えへへ」

純「でもさ、何でそんなに唯先輩が好きなの?」

憂「うーんと、やっぱ、生まれてから今の今までずーっと一緒だったからかな」

純「ずっと、一緒かぁ」

10: 2010/09/11(土) 13:45:14.41
純(いいなぁ。憂と一緒にいられるなんて)

純(憂のお姉ちゃんに産まれたかったなぁ)

純(もしかしたら……)

純(……私も憂と、一緒にいたら、憂は振り向いてくれるかな)

純(……実践してみよう)

11: 2010/09/11(土) 13:45:55.37
放課後!

純「憂ー、一緒に帰ろー」

憂「うん、いいよ。でも部活は?」

純「たまにはサボってもいいかなーって」

憂「えー、出た方がいいんじゃない?」

純「でもなー、たまには息抜きみたいな日も欲しいわけですよ、私は」

憂「ふぅん。まあいいや。一緒に帰るよ」

純「ありがと、憂」

12: 2010/09/11(土) 13:46:44.93
街中!

純「あー、やっと学校終わったー」

憂「うん。疲れたね」

純「まぁ、テストはこの前終わったばっかだから、多少は楽なんだろうけど」

憂「あ、テストといえばさ、化学Ⅱ何点だった?」

純「化学Ⅱ? 50点そこら」

13: 2010/09/11(土) 13:47:18.71
憂「え? 平均点以下じゃない?」

純「私の答案用紙は大体が平均以下だよ。憂は何点?」

憂「うーん、83点」

純「へぇ! すごいじゃん!」

憂「えへへ」

純「憂って理系の大学を志望してたっけ?」

14: 2010/09/11(土) 13:48:01.15
憂「私? 私はN女だよー。お姉ちゃんが理系学科いくから、理系になろうとしてるんだ」

純「へぇー。お姉ちゃんラブなんだね」

憂「うん。お姉ちゃんのためなら、命を落としても惜しくないんだ」

純「それは、ちょっとどうかと思うけど……」

純(でも、いいな……)

純(憂にこんなに思われて、唯先輩が羨ましい)

15: 2010/09/11(土) 13:48:45.56
純(憂とは中学のころから一緒だったのに……)

純(私のことなんか、一度も見てくれない……)

純(憂らしいって言えば、それまでなんだけどね)

憂「? 純ちゃん、どうしたの? だまりこくっちゃって」

純「うぅん! なんでもない。あ――そうだ、何か食べてかない?」

16: 2010/09/11(土) 13:49:58.26
憂「え? 寄り道?」

純「うん。あ、あそこの喫茶店なんかどうかな」

憂「『ラ・クールパレット』……変わった店名」

純「ま、店名は置いといてさ、何か食べようよ。いや、軽くお茶するくらいでいいしさ」

憂「うん。たまにはいいかも」

純「よし、じゃあ決まりだね。行こう!」

17: 2010/09/11(土) 13:51:20.90
ラ・クールパレット店内

純「あの窓側の席に座らない?」

憂「うん。そうしよっか」

二人は席に向かう。窓からは街路樹をはじめ、バス停やコンビ二やビルが見えた。

店員「ご注文はお決まりでしょうか」

純「何にするー?」

18: 2010/09/11(土) 13:52:06.87
憂「うーんと、私はレモンティーで」

純「じゃ、私もそれで」

店員「かしこまりました」

純「ねえ、憂」

憂「んー?」

純「唯先輩と私、どっちが好き?」

19: 2010/09/11(土) 13:52:49.27
憂「もちろん、お姉ちゃんだよ!」

純「………………」

純「ま、そうだよね」

憂「あ、純ちゃんも好きだよ。でもね、お姉ちゃんは特別って言うか……」

憂「恋人になって欲しいなって思える人なの」

純「そっか」

20: 2010/09/11(土) 13:53:40.06
純(…………どうやったら)

純(どうやったら、憂は私のことを見てくれるかな)

憂「ねぇ、純ちゃんは好きな人いるの?」

純「え? 私は――いるよ」

憂「へぇ? どんな人?」

憂のその問いに、若干戸惑った。

22: 2010/09/11(土) 13:54:22.97
純(憂だよ)

純(とは言えないなぁ)

純「とーっても優しくてね。綺麗で、ぎゅーって抱きしめたくなるの」

憂「ふぅん」

純「結構昔から、知り合いなんだけどね」

憂「ずっと、気づいてもらえないんだ?」

23: 2010/09/11(土) 13:55:00.72
純「うん」

純「鈍感なんだよね」

憂が大変だね、と言うと同時。

店員「お待たせしました」

二人の前に、レモンティーが置かれた。

純「久々に紅茶なんて飲むなぁ」

24: 2010/09/11(土) 13:55:43.98
憂「家とかであまり飲まないの?」

純「うん。私はコーラとかの方が好きだし」

憂「え? じゃあコーラ頼めばよかったんじゃ?」

純「やだよー。憂が紅茶なのに、私がコーラって、なんか子供っぽさがにじみでるじゃん」

憂「そうかな?」

純「そうだよ」

25: 2010/09/11(土) 13:56:23.60
憂は紅茶を飲む。

憂「美味しい。私、レモンティーが一番好きなんだ」

純「どして?」

憂「甘酸っぱさっていうの? それが体に染み渡るんだよね」

純「ふーん」

純は試しに飲んでみる。

すこし熱い。

27: 2010/09/11(土) 13:57:15.31
純「うーん、よくわからないや」

憂「残念。でも、何回か飲んでるとわかるようになるよ」

純「じゃあ、今度から積極的に飲んでみよっと」

憂「なんか、他人と好きなものを共有できるってうれしいな」

純「え? そう?」

憂「うん」

28: 2010/09/11(土) 13:57:56.73
純「そういうものかぁ」

純はふと、窓から外を眺める。12月の街の景色はどこかあわただしく見える。

純「もう、冬だね」

憂「うん。早いよね、来年は三年生だよ」

純「また、一緒のクラスになれるかな?」

憂「うん。きっと」

30: 2010/09/11(土) 13:58:27.19
純「梓とも、一緒になりたいなー。同じ班で、修学旅行行くの」

憂「いいね! それ」

純「でしょ。あ、でもなー、受験生になっちゃうのか」

憂「……それに、お姉ちゃんも大学行っちゃうしなぁ」

純「唯先輩って、大学行ったら一人暮らしするの?」

憂「うん。本人はそう言ってるよ」

31: 2010/09/11(土) 13:59:10.30
純「寂しい?」

憂「……すこし」

純「じゃあさ、唯先輩がいない間、私が憂の家に泊まりこんであげようか?」

憂「え、いいの?」

純「いいよ。憂のためだもの」

憂「ありがとう、うれしいよ」

32: 2010/09/11(土) 14:00:07.61
純「それに、私もね」

憂「え、何?」

純「私も、憂のためなら命を投げ出したってかまわないんだ」

憂「――へ?」

純「なんでもない。忘れて」

憂「う、うん」

33: 2010/09/11(土) 14:01:02.43
純「そろそろ、出よっか」

憂「え、うん。そうしよう」

純は領収書を手に取る。

純「じゃ、私がおごるよ」

憂「え? いいの?」

純「いいって。気にしないで」

34: 2010/09/11(土) 14:01:37.96
それに、と純は続ける。

純「私が誘ったんだし」

憂「……ありがと、純ちゃん」

純はレモンティーを飲み干した。

甘酸っぱさを感じた。

35: 2010/09/11(土) 14:02:24.05
街中!

憂「今何時?」

純「うーんと、5時かな」

憂「あ、お姉ちゃんのご飯作らないと」

純「そっかー、じゃあ、明日また学校でー」

憂「うん。ばいばい」

純「ばいばいー」

37: 2010/09/11(土) 14:03:24.46
やがて憂の後姿が、群衆にまぎれて見えなくなる。

純(私も帰ろうかな)

純(あーあ、もう少し遊びたかったな)

純(…………いいなぁ、唯先輩。憂にあんなに、惚れられて)

純(私もいつか、あんなふうに……)

純の頬を撫でる木枯らしは、いやに冷たかった。

38: 2010/09/11(土) 14:04:17.04
翌日、朝

学校

純「お早う、梓」

梓「お早うー純」

純「憂は?」

梓「まだ来てないみたい」

39: 2010/09/11(土) 14:05:00.92
純「そっか」

梓「昨日憂と一緒に帰ったんだって?」

純「うん。憂から聞いたの?」

梓「そう。夜、憂からメール来たんだ」

梓「楽しかったって書いてたよ」

40: 2010/09/11(土) 14:06:05.74
純「そっか」

純の顔が綻ぶ。

梓「ラブラブですなぁ」

冷やかすように、梓が茶々を入れる。

純「ま、まだそんなんじゃないし!」

41: 2010/09/11(土) 14:07:17.12
梓「まだってことは、いつかは付き合いたいって思ってるのね」

純「うぐ」

梓「図星か」

純「ま、まぁね。憂とは中学校のころから一緒だったんだし」

純「……仲良くなって、それ以上の感情を抱くのも、当然だと思うけど」

梓「ふーん」

42: 2010/09/11(土) 14:07:50.91
純「それに、あんな可愛い子に恋しないほうがおかしいわ」

梓「じゃあ、私はかなり異端ね」

純「え? 好きじゃないの?」

梓「もちろん。友達としか感じられないし」

純(私も、憂からは友達としか感じられてないんだろうな……)

純(…………はぁ)

43: 2010/09/11(土) 14:08:27.71
憂「おはよー」

純「あ、憂。お早う」

梓「おはよう」

憂「うん。あ、梓ちゃん、昨日の宿題やってきた?」

梓「え、やってきたよ。憂やってないの?」

憂「ないの。だから写させて」

44: 2010/09/11(土) 14:09:09.55
梓「いいけど……珍しいね、憂が忘れるなんて」

憂「忘れたって言うか……お姉ちゃんと一緒に映画見てたんだ」

梓「へぇ。なんていう映画?」

憂「ターミネーター」

純「あ、それ知ってる。かっこいいよね!」

45: 2010/09/11(土) 14:09:47.23
憂「うーん、お姉ちゃんは好きだったみたいだけど、私はあまり……」

純「えー、そっかー」

憂「ごめんね」

純「いいよ別に。個人の感覚だし」

梓(趣味、完全に一致してないなぁ)

梓(なのに何で、ずっと仲良かったんだろ)

46: 2010/09/11(土) 14:10:23.42
憂「梓ちゃん? あのー、宿題……」

梓「あ、ごめんごめん。待ってて」

梓はカバンから、宿題を取出す。

梓「はい、これ」

憂「ありがと、梓ちゃん」

梓「へへへ、いやー」

47: 2010/09/11(土) 14:11:03.93
お昼休み

憂「私、トイレに行ってくるね」

純「いってらー」

憂は教室を出て行く。

梓「ねぇ、純」

純「なに?」

梓「何で憂と仲良くなったの?」

48: 2010/09/11(土) 14:12:19.81
純「え? うーん……自然と、いつも一緒にいるようになったんだよなぁ」

梓「自然に?」

純「うん。最初は当たり前だけど、そんなに仲良くなかったんだ」

梓「へえ」

梓「何か意外だなぁ。憂と純って、ずっと仲よさそうだったから」

49: 2010/09/11(土) 14:13:18.60
純「そう? それでね中一の文化祭でさ、一緒の係りになったんだよね」

梓「うん」

純「そのときに会話するようになってさ、それ以来仲良くなって……って感じ」

梓「ロマンティックな出会い、みたいのはなかったんだ?」

純「うん、そういうのは漫画だけだよ」

梓「かもね」

50: 2010/09/11(土) 14:13:51.56
憂「ただいまー」

憂「何の話してたの?」

梓「憂とじゅnモガモガ   純「何でもないよ、さ、お昼ご飯食べよ」   梓「モガーモガー!」

憂「う、うん……何か聞いちゃいけないこと話してたんだね」

純「う、まぁそんなところ」      

梓「モガー!」

51: 2010/09/11(土) 14:14:59.55
純「あ、ごめんごめん」

梓「ぷふっ。いきなり口押さえないでよー」

純「無意識のうちに手が動いたのよ」

梓「もう」

純「いいから食べよ。お昼休み終わっちゃうよ」

52: 2010/09/11(土) 14:15:47.37
放課後

純「一緒に帰らない? 憂」

憂「ごめん。お姉ちゃん、部活ないみたいでさ。早く帰らないと」

純「そっかー、残念」

憂「じゃあね」

純「うん」

53: 2010/09/11(土) 14:16:54.76
純(じゃあ、梓と一緒に帰ろうかな)

梓「純、残念だったね」

純「へ?」

梓「一緒に帰りたかったんでしょ、憂と」

純「まぁ、ね」

梓「私が憂の代わりになってあげようか?」

54: 2010/09/11(土) 14:17:33.92
純「うん、そうして。一人で帰るの、寂しいしね」

梓「正直だね、純は」

純「そ、そうかな?」

梓「うん。――すこし、羨ましい」

純「え?」

梓「私さ、誰に対しても素直になれないから。そうやって真っ直ぐな純を見てると、なんだか嫉妬しちゃうんだよね」

55: 2010/09/11(土) 14:18:18.41
純「褒め言葉?」

梓「のつもりだよ」

純「ありがとう、とだけ言っておくよ」

梓「ま、いいや。帰ろう」

純「うん」

梓と純は学校を出た。

57: 2010/09/11(土) 14:19:10.95

街中

梓「もうすぐ、クリスマスだね」

純「うん。もう一年終わっちゃうよ」

梓「中学生になったころからさ。年々、時間が経つのが早くなってる気がするよ」

純「わかる。御婆ちゃんになったころには、もっと早くなるんだろうね。一年なんて、あっという間に過ぎてさ」

梓「かもね」

58: 2010/09/11(土) 14:20:02.66
純「ねえ、梓はどこの大学行くの?」

梓「音大のつもり」

純「へえ」

梓「純は?」

純「私は――N女かな」

60: 2010/09/11(土) 14:20:49.61
梓「へえ。意外」

純「え? 何で?」

梓「純は、まだ未定とかいいそうだったから」

純「昨日までは未定だったんだけどね」

梓「今日決まったの?」

純「そんなところ」

61: 2010/09/11(土) 14:21:37.58
梓「何でN女?」

純(憂と一緒がいいから!)

純(なんて言えないなぁ)

純「秘密」

梓「えー、教えてよー」

純「今度ね」

梓「うう、気になる」

62: 2010/09/11(土) 14:22:14.86
純「まぁまぁ。あ、そうだ、あのゲーセンよってかない?」

梓「ゲーセンかぁ。あまり行ったことないなぁ」

純「もったいないなー。人生損するよ」

梓「楽しいの? ゲーセン」

純「結構」

梓「ふぅん。じゃあ、行ってみようかなぁ」

二人はゲーセンへ向かった。

63: 2010/09/11(土) 14:22:44.15
三時間後

梓「お金使いすぎた……」

純「私も。もうすっからかんだよ、財布」

梓「でも、まぁ楽しかったからいいかな」

純「でしょ?」

純の手には、人形が二体。

64: 2010/09/11(土) 14:23:14.97
梓「何千円もかけて、ゲットしたやつがその人形二体だけだと、何か損した気にならない?」

純「梓は一体じゃん」

梓「私のはキティだから、何か格が違うと思わない?」

純「どっちも同じようなものだと思うよ」

梓「そうかなぁ」

純「うん」

65: 2010/09/11(土) 14:23:52.45
梓「でもさ、その人形どうするの? 純の家に人形が飾ってあるの、想像できないんだけど」

純「うーん。そうだね……」

梓「それ、なんて人形なの?」

純「『おちょなんたん』って人形だよ」

梓「おちょなんたん?」

66: 2010/09/11(土) 14:25:13.04
純「名前は可愛いね」

梓「まあね」

純「でもなー。確かに、私の部屋楽器だらけで人形なんて置いてないからなー」

梓「あ、じゃあさ、憂にあげれば?」

純「あ、それいいかも!」

梓「でしょ!」

純(憂、喜んでくれるかな……)

純(何か、人形渡すだけなのに、今からどきどきしてる)

純は人形を、強く握った。

67: 2010/09/11(土) 14:25:47.30
翌日

学校

純「憂、いる? この人形」

憂「いいの? うわー、可愛い」

純「うん、あげるよ」

憂「えへ、ありがとう。純ちゃん」

68: 2010/09/11(土) 14:26:41.01
憂は笑みを見せる。

純「二つあるからさ、唯先輩にでも上げてよ」

憂「うん。そうするよ」

純(よかった、受け取ってもらえて)

梓「おはー、純」

純「お早う、梓」

69: 2010/09/11(土) 14:27:16.64
梓「お、憂。人形もらったんだ」

憂「え? うん」

梓「その人形ね、純が憂のために、ゲーセンで何千円もはたいてとったんだよ」

純「な、何言ってるの! 梓」

と、梓は純の耳元に口を寄せた。

梓「いいじゃん、こういった方が憂も喜ぶよ」ヒソヒソ

70: 2010/09/11(土) 14:28:04.66
純「そ、そうかもしれないけど」

憂「本当なの?」

純「う、うん。昨日の帰り、暇だったからゲーセン寄ってね」

嘘をついた。

憂「ふぅん、何だか悪いなぁ」

71: 2010/09/11(土) 14:29:42.15
純「き、気にしないでよ。私の、えーと、あ、気まぐれだしさ」

憂「気まぐれ?」

梓(アドリブ下手だなぁ)

純「それに、憂にプレゼントしようと思ったんだよ。ほら、早めのクリスマスプレゼント? ってやつ」

憂「へぇ。じゃあ、私も今度なんかプレゼントするね」

純「え? 本当?」

72: 2010/09/11(土) 14:30:25.05
憂「うん。もらいっぱなしじゃ悪いからね」

純「じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」

純(プレゼントかぁ、なんだろう)

梓「よかったねー、純」

純「ま、まぁね」

今から、プレゼントがどんなものか、気になっていた。

73: 2010/09/11(土) 14:31:10.55
****************************************

翌日

純(憂のプレゼントかぁ)

翌々日

純(プレゼント……キスとかかな)

純(きっと、クリスマスプレゼントとして渡してくるんだろうなぁ)

翌々翌日

純(まだかなぁ、クリスマスプレゼント……)

75: 2010/09/11(土) 14:31:50.76
翌々翌々日

純(クリスマスイヴと終業式って同じだからなぁ。そのときもらえるんだろうなぁ)

翌々翌々翌日

純(その日まで、もう少しだなぁ)

純(楽しみすぎて、今からわくわくしてるし)

そして――クリスマス・イヴ当日。

****************************************

76: 2010/09/11(土) 14:32:27.11
12月24日  ……終業式当日

憂「明日から冬休みだねー」

純「うん。心置きなく羽を伸ばせる」

梓「でもさ、クリスマスイヴに学校って、ひどくない?」

純「ま、いいじゃん。正月に学校とかよりはましだよ」

梓「それはそうだけど……」

78: 2010/09/11(土) 14:33:32.65
憂「クリスマスに、こうやって皆で顔を合わせられるんだよ! 何かうれしくない?」

梓「まぁ、確かにね」

純(プレゼント、いつくれるのかな?)

純「ねぇ、憂。クリスマスって何か用事あるの?」

憂「え? 今年はお姉ちゃん達、紬さんの家でクリスマスパーティするからね」

憂「私は特にないよ」

79: 2010/09/11(土) 14:35:31.53
梓「私もそこに行くんだー」

純「ああ、軽音部だからね」

梓「そう!」

純(いいなぁ、軽音部)

憂「そうだ、純ちゃん」

純「何?」

80: 2010/09/11(土) 14:36:24.90
憂「今日、私の家に来ない?」

純「え?」

憂「私一人っての、ちょっと寂しいからさ」

憂「あ、もしかして、用事あった?」

純「う、うぅん! ないない!」

憂「じゃあ、一緒にクリスマスパーティしない?」

81: 2010/09/11(土) 14:37:23.05
純「私でいいの?」

憂「うん」

憂「大歓迎だよ」

純「……ありがと、行かせてもらうよ」

憂「じゃあ、今日の6:00からね」

82: 2010/09/11(土) 14:38:13.12
純「了解。それまでに憂の家行けばいいのね」

憂「うん」

純「OK」

純(よし! 二人だけでクリスマスを迎えるなんて、ロマンティック!)

純(私、最高に幸せ!)

純は小さく、ガッツポーズをした。

84: 2010/09/11(土) 14:39:05.45
同日 PM 5:30

純「こんばんわー」

憂「あ、純ちゃん。早いね」

純「えへへ。楽しみでね」

憂「ま、いいや。入ってー」

純「うん。お邪魔しまーす」

85: 2010/09/11(土) 14:39:54.90
純は憂のあとを追って、リビングに入る。

純「綺麗だね、部屋」

憂「そうかな?」

純「そうだよ。うちよりずっと綺麗」

憂「毎日掃除してるから、かな」

純「へー、だからか……」

86: 2010/09/11(土) 14:41:03.41

純「あ、美味しそうな匂い」

憂「ケーキやいてるんだ」

純「え! 作れるんだ!」

憂「うん。作れるよ。三人分だから、ちょっと大きいけどね」

純「大きくてもいいよ。憂の作ったものなら、何でも食べれちゃう」

憂「そう言ってもらえるとうれしいよ」

87: 2010/09/11(土) 14:41:46.93
数十分後

憂「お待たせー」

そう言いながら憂が運んできたのは、すこし小さめのホールケーキだった。

純「お、美味しそう!」

憂「ちょっと手間取っちゃった」

純「ううん。充分だよ」

88: 2010/09/11(土) 14:42:17.35
純「食べていい?」

憂「うん。どうぞ」

純「いただきまーす!」

憂「あ、ごめん。切り分けるね」

純「あ、うん」

憂はナイフを持ってきて、ケーキを切り分ける。切り取ったそれを、皿に乗せていく。

89: 2010/09/11(土) 14:42:58.51
憂「はい、どうぞ」

皿に乗せられたホールケーキの半分が、純の前に出される。

純「では改めて、いただきまーす」

憂「召し上がれ」

パクパク  純「んー! 甘くて美味しい!」  パクパク

憂「そう? ありがとう」

90: 2010/09/11(土) 14:43:34.97
純「すごいねー、憂って。こんなのも作れちゃうんだから」

憂「お姉ちゃんのために作ってたら、得意になったんだ」

純「ふぅん」ムグムグ

純(いいなぁ、こんな美味しいもの食べられるなんて)

純(唯先輩、超羨ましいよ)

憂「じゃ、私も食べよ」

91: 2010/09/11(土) 14:44:07.53
モグモグ モグモグ

憂「うーん、ちょっと砂糖入れすぎちゃったかな」

純「えー? このくらいが丁度いいよ」

憂「そうかな?」

純「うん。そうだよ」

純「私もこんな風に、料理うまくなりたいなー」

92: 2010/09/11(土) 14:44:38.15
憂「料理、作ってあげたいんだ?」

純「うん」

憂「やっぱ、その……いつか言ってた、好きな人に?」

純「……うん」

憂「頑張ってね、応援してるよ」

純「ありがと」

純はすこし、悲しくなった。

93: 2010/09/11(土) 14:45:15.83
純「そうだ! この前憂、レモンティー好きって言ってたでしょ?」

憂「うん」

純「紅茶、うまく淹れれるように頑張ったんだ。飲んでみて欲しいな」

憂「え! 飲ませて!」

純「うん、淹れてくるね。あ、ケーキ美味しかったよ」

憂「あ、うん。ありがとう」

95: 2010/09/11(土) 14:45:50.44
純「いやいや、お礼を言うのはこっちだよ」

純はキッチンに向かう。

数分して、純がレモンティーの入ったカップを二つ、持ってきた。

憂「香りがいいねー」

純「えへへ」

憂「飲んでみていい?」

96: 2010/09/11(土) 14:46:30.84
純「もちろん! あ、熱いから気をつけてね」

憂「私、猫舌じゃないから平気なんだ」

こくこく、とレモンティーを飲む。

憂「美味しい。すごいね、たった数日で、ここまで美味しく淹れられるなんて」

純「頑張ったんだ」

97: 2010/09/11(土) 14:47:04.38
憂「純ちゃん、絶対いいお嫁さんになれるよ」

純「紅茶と関係がないと思うけど」

純は照れを隠すように鼻を掻いた。

純「そう言われると、何かうれしいな」

憂「あ、そうだ。今日渡せるように頑張って作ったんだ」

憂はそういいながら、自室へ向かった。

98: 2010/09/11(土) 14:47:40.12
純(作った……つまり、手作り!)

純(手作りって、なんだろ……何でもいいけど、楽しみだなぁ)

憂がやってくる。

憂「はい。クリスマスプレゼント」

純「――マフラー?」

99: 2010/09/11(土) 14:49:45.86
憂「うん」

純「あれ? これ長くない?」

憂「二人用のマフラーなんだ」

憂「好きな人と一緒に使って欲しいなって」

純「……そっか」

純「ねぇ、これ首に巻いて、二人で外散歩しない?」

100: 2010/09/11(土) 14:50:25.08
憂「え? でも……」

純「初めては憂とがいいな」

憂「うーん、わかったよ」

憂「……私でよければ」

純「よかった。断られたらどうしようかと」

憂「そんなこと、しないよ」

101: 2010/09/11(土) 14:51:02.15
純「あ、そうそう、言い忘れてた」

憂「? 何?」

純「プレゼントありがとう、憂」

憂「…………えへへ」

憂は嬉しそうに笑った。

それを見て純も笑った。

102: 2010/09/11(土) 14:51:40.55


夜空は星空、そして半月が浮かんでいた。

やわらかな光を身に浴びて、同じマフラーを共有した二人は外を歩く。

純「綺麗だね、空」

空気はきん、と冷えている。けれど憂といるから、気にならなかった。

憂「うん。綺麗」

103: 2010/09/11(土) 14:52:25.60
純「今年も終わっちゃうね」

憂「すこし寂しいなー」

純「うん。私も」

憂「ねぇ、この前聞きそびれたんだけどさ」

純「ん?」

104: 2010/09/11(土) 14:53:00.73
憂「純ちゃん、大学どこ行くの?」

純「私は――」

憂「うん」

純「私は……N女だよ」

憂「私と一緒かぁ」

純「うん。お互い頑張ろうね」

105: 2010/09/11(土) 14:54:34.02
憂「でも、何でN女?」

純「それは」

一瞬、言葉に詰まった。

純「……憂と一緒がいいからだよ」

憂「え?」

106: 2010/09/11(土) 14:55:37.62
もう後には退けない。言ってしまえ。

純「憂とずっと、一緒にいたいんだ。私」

憂「……そ、それは、告白みたいな?」

純「告白とかじゃなくてね。私は単に、憂と一緒にいたいんだ」

憂「そう、なんだ」

純「うん。…………もちろん、親友としてね」

107: 2010/09/11(土) 14:56:14.37
純(それでいい。まだ、親友のままでいい)

純(とにかく、憂と一緒にいよう。まだ、恋人にならなくてもかまわない)

純(恋人になりたいけど、今は、親友でいい)

純(まだ、時間はあるんだし)

純(いつか、必ず、私に振り向かせてやるんだから!)

109: 2010/09/11(土) 14:56:50.62
そのために――――…………

純「ねぇ、手繋がない?」

ちょっとばかし深呼吸して、純は言った。

言っただけなのに、とても心臓がばくばくと鼓動する。

純(思ったより、恥ずかしいなぁ。手繋ごうって言うの)

110: 2010/09/11(土) 14:57:51.85
憂「え?」

純「いや、ちょっと寒くなってきたじゃん」

純(うまい理由言えて良かった……)

憂「ああ、確かに……」

純「ね?」

111: 2010/09/11(土) 14:58:28.11
純は憂の手を握る。

冬の寒さすら忘れてしまいそうなほど、暖かい。

憂「純ちゃん、すこし手冷たいね」

純「え? そう?」

憂「手の冷たい人は心が暖かいんだって。お姉ちゃんが言ってた」

純「ふぅん」

112: 2010/09/11(土) 14:59:02.30
憂「純ちゃんが優しいのは、心が暖かいからかな」

純「……だったらいいな」

憂と二人。

繋いでいる手の暖かさを感じながら、純は空を仰ぎ見る。

純「あ……流れ星」

憂「え? どこ?」

113: 2010/09/11(土) 14:59:45.10
純「もう消えちゃったよ」

憂「えー。でも、この時期に流れ星って、何だか珍しいね」

純「そうかな?」

憂「うん。流れ星って、夏のイメージなんだよね」

純「ふぅん」

114: 2010/09/11(土) 15:00:21.05
憂「今何時かわかる?」

純「ごめん、わかんないや」

憂「そっか」

純は空を見つめ続ける。

すると、また流れ星を見つけた。

純(ずっと憂と一緒に入れますように、憂といっしょn……あぅ、消えちゃった)

115: 2010/09/11(土) 15:01:29.66
憂「どうしたの? 純ちゃん?」

純「あ、ううん。ちょっと流れ星にお願いしてたの」

憂「なんてお願い?」

純「それは――――」

純「憂と一緒にいられますようにって」

116: 2010/09/11(土) 15:02:40.00
憂「……大丈夫だよ」

純「え?」

憂「私たちは、ずっと一緒にいられるよ」

純「何で?」

憂「もう、親友でしょ?」

純「――うん」

117: 2010/09/11(土) 15:03:45.65
純(もう、親友かぁ)

純(私にしたら、『まだ』親友なんだよなぁ)

純(いつか絶対、私に惚れさせてやる!)

純はまた、空に目を向けた。

憂の手を、すこし強く握った。
                               終わり

118: 2010/09/11(土) 15:04:25.38
番外編    お正月

神社

梓「あけましておめでとう、純」

純「梓。久しぶり」

梓「うん。久しぶり」

純「誰と来たの?」

119: 2010/09/11(土) 15:05:14.53
梓「一人。純は?」

純「私も一人」

梓「じゃあ、一緒におみくじとか引かない?」

純「うん。いいよ」

梓と純はおみくじ売り場へと向かった。

120: 2010/09/11(土) 15:05:57.34
おみくじ売り場

梓「やったぁ! 私大吉!」

純「私も。ていうか、こういうところって、みんな大吉しかないんじゃないの?」

梓「まさか。私は去年、平だったよ」

純「ふーん」

純(平なんてあるのかな?)

122: 2010/09/11(土) 15:06:29.59
梓「私は……恋愛成就だって」

純「あ、私は学業」

梓「へえ! 受験生になるんだから幸先がいいね」

純「まぁ、確かに」

梓「あ、絵馬あるね。書いてこうか」

純「うん」

123: 2010/09/11(土) 15:07:10.45
絵馬売り場

梓「純ー、なんて書くの?」

純「うーん、なんて書こうかな……」

梓「あ、憂と一緒に……的なこと書いたら?」

純「えー、憂に見られたら恥ずかしいよ」

梓「じゃあ、大学現役合格、とか?」

純「うーん、来年でいいよなー、そういうの」

124: 2010/09/11(土) 15:07:48.65
純「梓は何て書いたの?」

梓「軽音部に新入生が来ますように、だよ」

純「ああ、梓はそうだもんね」

純「じゃあ、私は――――」

純は絵馬に文字を書く。

梓「何て書いたの?」

125: 2010/09/11(土) 15:08:26.22
純「何だと思う?」

梓「ジャズ研のこと?」

純「ううん」

梓「えー。じゃあ何?」

純「えっと、それはね――」

純「『三年生になっても、憂や梓と一緒のクラスになれますように』、だよ」         
                                          終わり

126: 2010/09/11(土) 15:08:56.27
おしまい。

127: 2010/09/11(土) 15:10:37.32
この終わり方はいいな

おつ!!

引用元: 純「ねぇ、手繋がない?」