未来「プロデューサーさんが言いたいことは分かりました」

P「それはなりより」

未来「でも世界で１番くさいシュールストレミングを食べる必要はないですよお！」

未来の悲鳴が響き渡った。

シュールストレミングとは主にスウェーデンで生産・消費される塩漬けのニシンの缶詰。その強烈な臭いから世界一臭い食べ物と評されることもある。

未来も当初はその名は知らなかったがスマホで検索するうちにどんどん顔が青ざめていった。

未来「そもそも何故シュールストレミングを食べようと思ったんですか？」

P「ああ、営業先の人が差し入れということでくれた」

未来「確実に営業先の人に嫌われてますよねえ！？」

P「そんなことない。ほれ見ろアマゾンで調べたら６０００円だぞ。高級品だ！」

未来「６０００円出すならもっとおいしいものが食べたかったなあ」

P「これ未来、貰い物にそんなこと言うもんじゃない」

未来「だってその缶詰からすでにヤバイもの感じますもん」

俺の手のひらより大きなそれは赤と黄色を基調としてデザインされていてよく分からん言葉となんか犬が描かれていた。まぁ日本人のセンスのデザインではないわな。

P「ちなみに殺菌がされてないから、日本では缶詰と呼ぶことができないそうだ」

未来「ヤバさ増しましたよね！？」

ちらりと手にあるそれにもう一度目をやる。……なんか一種の禍々しさまで感じるぞ。

未来「そもそも何で私なんですか！」

P「だって事務所に未来しかいないもの」

しかも一緒に食べてくれるアイドルが他に思いつかない。

静香→辛辣に断られる。

翼→ケラケラ笑いながら俺ばっか食わされる。

可憐→氏ぬ

そんな未来しか思いつかないのだ。

未来「そもそもミリマスでやる必要ない企画だよお」

未来がとち狂ってメタ発言をしてるが無視無視。だって俺はミリマスと未来が好きだから。今回のスレタイもバカとテストと召喚獣だとか恋と選挙とチョコレートみたいで気に入ってる。

P「ほら未来、発酵が進んできて缶が膨らんできて爆発しそうだから早く食べようぜ」

未来「すでに前提が食べ物のそれじゃない！」

P「水中で開ける方法も一般的だけど、屋内にニオイが付いたら大変だから外いくぞ、外！」

こうして俺たちはシアターの裏庭へ繰り出すのであった。

裏庭

さて俺の右手には缶切り、左手には自分の口と鼻を押えるためのハンカチが握られていた。

右手に武器、左手に防具。まさに俺のなりは西洋騎士のそれであった。

テキトーな段差の上にブツを置く。

この独特の緊張感……ライブ前の空気感に近い。

未来「近くないです！」

未来に突っ込まれたが気にしない。なんだかんだ付いてきてくれた未来は優しい。あと普段でへでへしてる未来が突っ込みに回ってるという時点ですでに異常事態であることは察してほしい。

P「では開封の儀を始める」

未来も少し離れたところから俺を見守ってくれている。

もちろん缶切りは100均で買ってきたもので、使い捨てにするつもり。

ブツはビニール袋の中で開けて汁が飛び散らないようには気をつけている。

汁が服に着いたら、臭いがとれないらしいから。

未来「プロデューサーさん……」

未来が見守っててくれる。なら俺はやり遂げなければなるまい。俺は爆発物処理班になったかの気持ちになった。赤と青の線。どちらを切るか、もちろん青だ。だって未来との赤い糸はつながっていてほしいから。

未来にぽかんとした顔をされジェネレーションギャップを感じながらもメスを入れた。

一刺しした途端に襲ってくる臭気。

P「未来、一旦退散だ！」

未来と一緒に一旦遠くまで離れる。

未来は鼻と口を押え涙目で首をぶんぶんと振っている。

普段なら涙目未来ちゃかわいい！　と小躍りする状況ではあるが、今回はそんな状況ではなかった。

おええええ！　だとか　くっっっさ！　とかも思ったさ。だけど食べ物にそんな描写はしたくない。だけど何度もえずいた。

俺の一人称視点で本当によかった。だって省ける描写は省けるのだもの。

正直、シュールストレミングとか言いつつも、結局は食べ物だから言うほどだろ？　とは思っていた。ハードルを上げ過ぎて、あれこんなもんか……みたいなのも予想していたさ。でもこれは本当にいかんやつだ。

臭いは筆舌に尽くしがたいと書いたら、物書きとしては負けか。のちのちネットで検索したらいろいろ感想は載ってたけど、俺が感じたのは、くっさいドブを底からシャベルですくって、ひっくり返して、そこに1週間放置した生魚のアラを混ぜ込んだ感じ。

だけど、一旦開けたものは食べなきゃいけない。ここまで来たからには引き下がれない。

ひょっとして次のミリシタのイベントはシュールストレミングを集めて、ライブをしようかもれない。シュールストレミング４倍消費で一気にポイントゲットだ！

未来「意味が分かりませんよ……」

未来はそういうが、勇気だとか希望を集める方が訳わからない。最近は実物になったけどおかげで事務所がシンバルやバレーボールまみれになった。

未来と２人でブツに近づく。開けて数十秒というのにすでにハエがわいていた。

俺はそれを手で払い、息を止めて缶を開け切る

中をみると黒く濁った汁に青魚の切り身が所せましとぷかぷかと浮かんでいた。

あれだ。生魚を発酵させただけだから、青い背中だとかピンクの身だとかすげえリアルにかつては生き物でしたよ。魚でしたよ感が強すぎて一層食欲をげんなりさせる。

P「なぁ未来、あーんしてくれないか？」

未来「えっ」

P「なら食べられる気がするんだ」

未来は悩むそぶりをみせたがやがて俺の願いを了承してくれた。

恋人同士の通過儀礼、あーん。しかも容姿端麗、鮮美透涼、愛しきアイドルちゃんがやってくれるのだ。これ以上の幸せはないであろう。その箸の先にシュールストレミングがなければ、だが。

未来はブツを箸で掴んだ。片方の手で鼻をふさぎながら、箸の方は自分からなるべく遠くにいくように。

あーんに期待していたロマンティックさは全く感じられなった。まるでアシカか何かにおそえるおそる餌やりをしているようだ。

挟まれたそれはプルプルと揺れ、臭い汁がしたたり落ちていた。

ええい、ままよ！

俺は箸にむかってかぶりついた。

途端に襲ってくる臭気、過剰なほどの塩っけ、発酵のためヌメヌメとした気持ちの悪い食感。

食べ物としてこれは何一つ成り立ってはいない。

胸の底から湧いてくるえずきを何度も我慢しながら、少しずつ噛んでゆく。

目の前には未来。彼女はきらきらとした世界に生きていて、彼女自身もきらきらとしている。なら、おっさんが吐く様を眼前で見せつけるワケにはいかない。

未来「プロデューサーさん、大丈夫ですか？」

口にブツが入っていて喋れないので、ジェスチャーで手をパーに広げ、まぁ待てのポーズをした。

だんだんの視界が歪んでくる。そうか、泣いてるんだ。俺。

くるっと背中を向け、未来に醜い顔を見られないように、少しずつ食を進めていく。

臭気と異様なほどに気持ちの悪い舌ざわり、食感に耐えながら、少しずつ噛み、飲み込んでゆく。

噛まずに一気に飲み込むことも考えたが無理。吐く。

口の中で分かる、やわらかくなった骨。そして背びれなどが余計に気持ち悪さを増幅させる。

少しずつ少しずつ噛みちぎっていき、なんとか飲み込んだ。

未来「プロデューサーさん……がんばりましたね」

未来が頭を撫でてくれる。うう……辛かった。

って俺くさっ！！！　あっそっか。あーんしてもらってるところに、かぶりついたから、うまく一発で口に入らず、唇とか口周辺がくっさいのだ。

ああ、そんなところが臭いから、常に臭気にあてられている。

俺は気持ちの悪い口を開いて、なんとかしゃべった。空気が入って余計くさいけどがんばってしゃべった。

P「俺、臭いか？」

未来は無言でコクコクとうなずいた。さらに泣いた。

P「未来ちゃも食べる？」

未来「私もはちょっといいかなって」

そうだよな……。がんばってアイドル活動してきたのに、コレのせいでイメージが崩れたら今までの努力が台無しだもんな。Dreaming!どころかシュールストレミングだもの。

その日は誰も俺に寄り付かなかったので本当に悲しかった。

胃の中で発酵してるのか分からないけど、常に空気がせりあがってきて、何度もゲップが出た。

ゲップをするたびに臭気と味が腹から喉と口に這い上がってきて、ずっと気分が悪かった。胃がムカムカとした。５時間くらいはずっと気持ち悪かった。

次の日

P「どうだ、もう俺臭くないだろ？」

未来「はいっもう会社に来なくなるのかと思ってずっと心配してました」

P「次はドリアンに挑戦だ！　早速買ってきたぞ！」

未来「まだこりてなかったんですか！」

おわり

ありがとうございました

ちなみに南方で食べる、新鮮なドリアンは臭くないんだよね

未来ちゃがツッコミ役とは珍しい