36: 2008/08/17(日) 22:25:40 ID:???
2025年
ネルフが超法規的特務機関から、科学研究所となった。
僕碇シンジが24歳になり、ネルフ職員となった。
そして、惣流アスカラングレーが『碇アスカ』…つまり僕の奥様になった。
そんな、ある日のネルフ研究所にて

『電話あい』

「碇く~ん、お電話入りましたよ」
「あっハイ!」
デスク上の書類に目を通していた僕は一旦その作業を中断し、受話器を取る。
その様子を楽しそうに眺めている、電話を教えてくれた先輩の女性研究員さん。
「ふふ、奥さんからですよ♪ごゆっくりね」
「えっ…アスカから、ですか…」
思わずボタンに伸ばした手を止めてしまう
が、さすがに出ないワケにもいかないので、「はぁ…」という溜め息と共に、電話を繋いだ。

「もしもし?」
『あ、シンジ…。今大丈夫よね…?』

受話器の向こうから聞こえるスゴく聞き慣れた声。
「うん、一応大丈夫だけどさ。会社の電話で話すのって恥ずかしいから、出来ればやめてほしい…です」
そう言いながら僕は、上司であり元保護者のミサト課長を見やる。

ほら…ニタニタ笑いながら、両手でハートマークなんか作ってる。

『し、仕方ないでしょ!ネルフって携帯の電波入らないんだからさぁ!』

37: 2008/08/17(日) 22:27:11 ID:???
「で?用件は何なの?」
ミサトさんからの好奇の視線にグッと耐えながら、僕は受話器を両手で握りしめてコソコソと話す。
『うん。夕飯は何がいいかな?・・・とか思ったりして…』

「は?」

僕は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
「ま、まさかそんな理由で電話かけてきたの?」
『え!あ…いや…』
リビングで、子機片手に焦っているアスカが目に浮かぶ。
『それだけじゃないわよバカ!そのぉ…えっと…』
「・・・今日カレーでいいよ。バイバイ」
そう言うと、僕は通話終了のボタンに手をかける。
『ま、待ちなさいよ!切っちゃダメ!
あっ!今日ミライが幼稚園で粘土作ったらしいのよ!』
「その話は夜、ミライ本人から直接聞くからさ。じゃあバイバイ」
僕は再び通話終了ボタンに手をかける。
『ヤダっ!切っちゃダメって言ってるでしょぉ!!』
「もぉ…だって用事無いんだろ」
もう一度僕は、ミサトさんの方をチラリと見る。

すると、先程までコチラを眺めてニタニタしていたミサトさんは、
何故か今はイヤホンを耳にぶら下げて、両手で顔を覆うようにして必氏に笑いを堪えていた…。

・・・間違いなく盗聴されている。

38: 2008/08/17(日) 22:28:42 ID:???
『アンタは今日何かあった?』
「イヤ何かはあるけど、会社の電話で話さなくていいでしょ…」

『・・・ねぇ。・・・そんなにアタシと話すのイヤ?』

そんな弱々しい言葉の後に、ズズッという鼻をすする音が聞こえる…。
「ちょっ、ちょっと泣くことないだろ」
『だって、すんごい鬱陶しそうな感じじゃないのよぉ…
ミライもお昼寝中でヒック…アタシすっごい寂しかっエック…たんだからぁ…』
「ぷくくっ!」
完全に泣き虫モードに突入し、変な泣き癖までついてきたアスカ。
そして、そんな彼女の意外な一面を垣間聞いてしまったミサトさんは、デスク下の足をバタバタさせながら、声を出して笑うのを必氏で堪えている。
「わ、わかったよ。わかったから、とりあえず一旦電話切っていい?談話室の公衆電話から、かけ直すから…」
『やっヤダぁ、ダメよダメ!!シンジ絶対電話かけない気でしょ!!
大体なんでソコじゃダメなのよ!談話室だって人多いでしょぉ!』
「だ、だって…」
まさか盗聴されてるなどと言えるワケが無いので、僕はそのまま押し黙ってしまう。

当の盗聴犯は、逆探知してる刑事さんのように、話を伸ばすジェスチャーなんかを僕にして、凄く楽しそうだ。

39: 2008/08/17(日) 22:30:25 ID:???
『ね、ねぇ…もしかしてアタシからの電話が不都合な理由とかが
・・・あるの?』
「え…」
自分がかけた電話を迷惑そうにあしらう僕に、アスカは少しイラついてきたのか、今度はダークサイドに片足入れたような声で僕に問いかけてきた。

「いや、僕は会社でプライベートの電話はちょっと…と、思って」
『じゃあさっきの女誰よ!!』

うわぁ、かなりキテる…。

「さ、さっきのは先輩の研究員さんだよ」
『なによその女!!いっつもアンタの近くにいるの!?
まさか、さっきまでソイツと乳繰り合ってたんじゃないんでしょうね!!』
その言葉と同時に、メキメキッという破壊的な音が受話器から聞こえた。
ヤバい…このままでは子機がアスカの握力に耐えられない…!
『電話出た時だって「あっ碇君の奥さんですね。今代わりますから、ちょっと待ってて下さい」
とか何とか言っちゃって!どんだけヤラシイ女なのよソイツ!!』
さっきの応対内容のどこにヤラシさが含まれていたのかがよくわからないが、とにかくアスカが暴走モードに入ったことは、ハッキリとわかった。

一方そんな修羅場を盗聴しているミサトさんは、『えらやっちゃ♪えらやっちゃ♪』と呑気に踊っている。

40: 2008/08/17(日) 22:32:10 ID:???
このままでは通話を終わらせるどころか、僕の人生すら終わらせかねない…。

僕はヒステリック満載の声を発し続ける受話器を耳にあてながら、コソコソと自分のデスク下に入っていく。
これで、課内の人達には僕の声が聞こえないハズ。
・・・まあ盗聴してる人には丸聞こえだけど、この際仕方ない。

「ねぇアスカ…?」
『なによ浮気不倫の馬鹿男!!』
「あ、愛してるよ…世界で一番」
『ぅあ!?』

10年一緒にいるから知ってる、アスカが一番大好きな言葉。

「アスカは僕のこと嫌いになったの?」
『あ、アンタ馬鹿ぁ!?』

・・・なんで僕、職場でこんな会話してるんだろ…

「ねぇ、僕がアスカ以外の人とそんな関係になるようなヤツだと思ったの?アスカは僕のこと信じてないの?」
『だ、だってアタシっ!アンタが…その…』
「心配してくれたんだよね?」
『あ、いやっ!その…

・・・うん』

机の下という世界の外から「キャーキャー背中が痒いわ~んっ♪」などの声が聞こえるが、ここはグッと耐える。

「落ち着いた?」
『うん、あのぉ疑って・・・その・・・』
「ごめんね」
『う、うんっ!アタシも…ごめんね』

41: 2008/08/17(日) 22:33:47 ID:???
アスカもだいぶ落ち着いたようなので、僕はゆっくりデスクから這い出し、自分の椅子に座った。
さっきから急にデスク下に潜り込んだり、出てきたりと、かなりおかしな行動をとっていた僕だったが、職員の人達(盗聴犯以外)は全く気にした様子が無く、自分の仕事に各自没頭している。

僕そんなに影薄いのかな?

『…ねぇ、ねぇシンジ?』
「ん?なに?」
ちょっと気持ちが凹みかけていた僕だったけど、やっぱりアスカの声を聞くと少し安心してしまう。

きっとこういうのを家族っていうんだろうね。

『なんかありがとね…アタシちょっと馬鹿だったわ』
「ううん、もういいよ。わかってくれたんならさ」
『・・・・・』
スッキリした様子のアスカだったけど、今度は何故か黙り込んでしまう。
ホントにこの人は何を考えてるのかわからない…
『・・・ねぇ、明日休みだよね?』
「ん?まあね」
『そっか…休みなんだよね』
電話のむこう側で、なにか言いたげにモゴモゴしてるアスカ。

でもこちら側はこちら側で変な雰囲気。
だって、課内の職員さんみんなが無言で机に向かっていて、喋ってるのは僕だけという状況なわけで・・・。
さすがにそろそろ終わらせた方がいいかな…?

42: 2008/08/17(日) 22:35:37 ID:???
「ねぇ、そろそろ…」
『わ、わかってるわよ!今言うから、ちょっと待ちなさいよ!
その…明日休みなのよね?』
「そうだよ。さっきも言ったじゃないか」
「ほほほっ…それもそうね」
「まさか、またどっか行きたいの?この前遊園地行ったばかりなのに」
「そ、そうじゃなくてぇ…。簡単に言うと…」
「・・・なに?」
「久しぶりにさぁ…」
「・・・ん?」
「せ…!・・・その…せせっ…!」

静まり返った課内。
僕の耳に入るのは、いつもよりオドオドしたアスカの声だけだったのだが…
次のアスカの一言によって

「せせせ?」

次の一言によって・・・

「・・・せ、しない?」
「ば、馬鹿…!」

ミサトさんに盗聴されてることに気が焦る僕の声をかき消すように…


「「「「「「うおーーーーー!!!!」」」」」」「「「「「「きゃーーーーー!!!!」」」」」」


・・・課内全体がお祭り騒ぎとなった

43: 2008/08/17(日) 22:38:21 ID:???
「シンジ君やるじゃないか!!」
「今夜は寝かさないよ?ってか!?おい」
「ふ、不潔よシンジ君!!」

「え…?え!!」
いきなりの課内丸ごと大フィーバーに、僕は目を白黒させながら周りを見渡す。
・・・そして見えたのは、ハシャぎ倒す先輩職員さん達の耳にぶら下がるイヤホン。

ま、まさかっ!?

『ちょっと何よ!後ろの騒ぎは!』
「ご、ごめんアスカ、電話が…その…盗聴されてたみたい…」

まさかの課内全員に・・・

『な゛っ…!?』
あまりのことに絶句するアスカ。受話器の向こうで彼女の顔が赤くなっていく音が聞こえた気がした。
「アスカ~?今晩は可愛がってもらっちゃうのよぉん♪」
僕の背後からニュ~っと顔を出して、ミサトさんが大声を出す。
『み、ミサトまで聞いてたの!?』
「ごめん…」
『バカ!信じらんないわよ!なんでアンタは・・・』
『ママぁ、声おっきいよ』
『み、ミライ!起きてたの!?』
あぁ・・・もう、なにがなんやら・・・
『ねぇってなに?』
『あ、アンタいつから起きてたのよ!!
とりあえずシンジ!アンタ帰って来たら酷いんだから、覚悟しときなさいよね!!』
「ちょっ、ちょっと待っ・・・」

ガチャン!!

44: 2008/08/17(日) 22:39:32 ID:???
「あぁ・・・」

電話がきれた後も祭りが終わらない課内で、1人氏んだような目で受話器を下ろす僕。
「あら~どうしたのよシンちゃん?せっかくアスカからのお誘いがあったのに♪」
「うぅ…」
職場のどこに隠していたのか、何故かえびちゅを片手に装備し、ガハハと笑うミサトさんの声。
その声から逃れるように僕は両手で頭を抱える。

ぷるるるっ

と、その時、僕のデスクの電話が内線ランプを点滅させながら騒ぎ始めた。
「あ…?」
僕は一瞬ためらいながら、再びゆっくりと受話器を手に取った。
聞こえてきたのは、アスカの声とは真逆をいくように低い声。

『シンジか』
「と、父さん!」
『ミライは俺が預かるから、安心して今日は早退しろ』
「は…?」
『次は男の子がいいな。一姫二太郎ともいうしな』
「ま、まさか父さんも盗聴してたのかよ!?」
『問題ない』
「なにがだよぉ!!」

その日、仕事を早退した僕がネルフとアスカのご希望に答える『お仕事』をしたのは、いうまでもないことでした…。

おわり

50: 2008/08/18(月) 10:39:28 ID:???
僕は幸せです

引用元: 落ち着いてLAS小説を投下するスレ 15