263: 2009/07/02(木) 22:43:12 ID:???
ずっと、理由がほしかった。

「ねぇバカシンジ」

「なんだよ」

「チェロ、弾いてよ」

「え?」

「前に弾いてたでしょ」

「え、う、うん」

「聴いてやるから、弾きなさいよ」

「なんだよ急に…」

「いいから、早く」

「…わかったよ、ちょっと待ってて」

264: 2009/07/02(木) 22:48:30 ID:???

「持って来たよ…あ、アスカ…?」

「何」

「もしかして」

「……」

「いや、ううん、何でもない」

「……」

「……」

「ハンカチなんていらない」

「ごめん、もしかして、その、」

「泣いてないわよ!涙の一ッ粒もないじゃない」

「う、うん。」

「勝手に誤解しないでよ」

「ごめん」

「私が泣く理由なんてこの世界のどこ探したってないんだから」

「うん」

「だから、そんなの要らないの」

「うん」

「わかったら、早く弾いて」

「…うん」

265: 2009/07/02(木) 22:53:04 ID:???
「どうだった?」

「まあまあってところかしらね、礼はいっとくけど」

「そっか」

「じゃ。」

「アスカ」

「ん?」

「アスカはクラシック音楽好きなの?」

「もっちろん!ドイツ生まれのドイツ育ち!

 アンタなんかよりもよっぽど詳しいわよ」

「無理かな…」

「無理って、なにが?」

「いや、その、なんでもない……。」

「はっきり言いなさいよ!男らしくないわね。」

「ぼ、僕、ずっとただチェロを弾いてきたんだ。
 習い始めたのも先生が薦めたからなんとなくだったし、
 それからもずっと、ただ弾いてるだけだった」

「ふーん、その主体性の無さ、いかにもアンタらしいわね」

「うん、本当にそうなんだ。…でも。」

「でも?」

266: 2009/07/02(木) 23:02:00 ID:???
「そうじゃないのも、いいかなって。」

「は?」

「なんていうかさ、ただ弾くんじゃなくって、
 なにか目的があればいいかなって」

「目的、ねぇ」

「うん」

「なに?コンクール優勝でも目指すわけ?」

「ううん、そんな大それたことじゃなくていいんだ。」

「そう」

「うん」

「それで?」

「え?」

「あーもぉー!まだるっこしいわね!
 その「目的」とやらと、さっきの「無理かな」はどういう繋がりがあるのよ!」

「ああ、うん」

「きぃーっアンタと話してると、ほんっとストレスが溜まるわ」

「でも、アスカ、今日は珍しく僕の話、聴いてくれるね」

「チェロのお礼!もぉ、いいから早く話しなさいよ!」

267: 2009/07/02(木) 23:05:54 ID:???
「うん」

「で?」

「つまり、チェロを弾くことで、その、だ、誰かにあげれたらいいなって」

「あげる?なにを?」

「なにをっていうか、うんと、ちょっとリラックスしたりとか、落ち着いたりとか…
 あとはさ、ほら、素晴らしい音楽を聴くと、
 感動して泣いちゃう人とかもいるだろ?そんな感じの、なんていうか、うまくいえないけど…」

「……」

「……ごめん。自分でもよくわからないんだ。」

「馬っ鹿みたい」

「そうだね、ごめん、もういいよ…引き止めてごめん。」

「ほんっと頭が悪いわね」

「うん、ごめん…」

268: 2009/07/02(木) 23:09:19 ID:???
「…なんて言ったらよかったんだろう、アスカに」

「でも、あんなこと言ったら怒られるよな、バカシンジのくせに生意気だって。」

「もうわかんないや…でも」

「とりあえず、明日もチェロを弾こう」

「……バカシンジ」


269: 2009/07/04(土) 13:00:52 ID:???
投下乙。次は会話文だけでなく地の文も書いてくれ

引用元: 落ち着いてLAS小説を投下するスレ 15