648: 2009/09/20(日) 21:21:58 ID:???
「…それでは第4次セカンドチルドレン要望判定試験を行う」
ゲンドウの声が発令所に静かに響いた。発令所の中央にはプラグスーツ姿のセカンドチルドレンが、緊張した面持ちで直立している。オペレータ達は
固唾を飲んで、試験の行方を見守っている。

「規定に従い、試験の要項を前説する。これから10の質問がセカンドチルドレンに対し出題される。これらの質問に全て正解した場合、
セカンドチルドレンの要望は受け入れられるが、不正解があった場合はその場で試験中止となり要望は認められない。アスカ君、それでいいかね?」

「はい、わかっています。この試験に合格してあの場所に戻ることが、今の私の生き甲斐ですから!」

アスカの答えを聞いて、ゲンドウは少し表情を緩めた…が、サングラスのせいでそれに気づけたのは副司令と某金髪博士だけであった。

「…では、伊吹君、始めてくれたまえ」
「はい」

ゲンドウの指示に従い、マヤが問題を読み上げる。

649: 2009/09/20(日) 21:23:10 ID:???
「第一問」
「タイの首都、バンコクの正式名称を答えよ」
「クルンテープマハーナコーン ボーウォーンラッタナコーシン マヒンタラーユッタヤーマハーディロック ポップノッパラット
ラーチャターニーブリーロム ウドムラーチャニウェート マハーサターン アモーンピマーン アワターンサティット
サッカタッティヤウィッサヌカムプラシット!」
間髪を入れずにアスカが答える。
「…冬月」
ゲンドウが静かに副司令を促す。
「うむ」
冬月が目の前のボタンを押した。

ピンポーン…

間抜けなインターホンのような音と共に、メインモニターに大きく○が描き出された。
「…最初は初歩的な一般問題から、というわけですね。碇司令?」
アスカが不敵に微笑む。
「…フッ」
ゲンドウもニヤリといつもの微笑みを返す。二人の視線が交錯する。
周囲のオペレーター達は、二人の目線の中間に青白い火花が飛び散り、背後に龍と虎が威嚇し合っている姿が見えたと後に語っている。

650: 2009/09/20(日) 21:24:14 ID:???
「…問題ない。伊吹君、続けたまえ…」
「は、はい。第二問」
マヤがあわてて読み上げる。
「ブルックナーの交響曲第七番において、第二楽章177小節に打楽器群を追加していない校訂版は?」
アスカは少し考えた後、答えた。
「ハース版」

ピンポーン!

正解の音に、発令所の中が小さくどよめく。
(残念ね、派手好きのあの子はブルックナーは聞いてないと思ったのに…)
金髪の才媛が、心の中でため息をついた。ブルックナーも相当派手だと思うがな。


メインモニターが切り替わり、対局中の将棋の棋譜が映し出された。
「この後、先手8五歩に対する後手の差し手を示せ」
アスカはしばらく盤面を眺めた後、冬月に向かって不適な笑みを浮かべて答えた。
「8五同金」
冬月の片眉がピクリと小さく動いた。そして、静かに正解のボタンを押す。
(惣流君は、小池-升田の57年対局を知っているというのか…)
副司令が初めてセカンドチルドレンに対して畏怖の念を持った瞬間であった。

651: 2009/09/20(日) 21:25:17 ID:???
「ビールの生産量世界一の国はどこ?」
ふっ…、とアスカは憫笑をある人物に向けたあと、しっかりと答えた。
「中華人民共和国!」

ピンポーン

その笑みを向けられた人物は怒りに震えていた。
(ドイツ娘だからドイツ!!って答えると思ったのに~!それより、あの『こんな初歩的な引っかけに引っかかるとでも思ったの?』みたいな嘲笑が腹立つ腹立つ腹立つ~!!)
っと、声を立てずに隣の眼鏡君の首を絞めていた。眼鏡君、顔色がガミラス星人みたいになってるぞ。


その後も、アスカはよどみなく正解を答え続ける。


「モース硬度計における硬度5の鉱物は?」
「燐灰石!」

「物理学や数学における、特殊相対性理論を定式化する枠組みとして用いられる数学的な設定とは?」
「ミンコフスキー空間!」

「銀河鉄道9○9号の牽引機関車の型番を全て答えよ」
「C62 48、TVアニメ版のみC62 50!」

「2015年度ギネスブックに認定された、雑誌に対する投稿数世界一記録の保持者は誰?」
「三○徹!」

652: 2009/09/20(日) 21:27:17 ID:???
8問を終えて、未だ無傷のアスカ嬢。その表情には余裕がありありだ。
どこかからヤスリを取り出して、爪なんか磨いている。
そんな中、これまでテンポ良く問題を読み上げていたマヤの声がしない。
問題用紙を握りしめて、なぜか真っ赤な顔をしている。
「…伊吹君どうした?問題を読み上げたまえ」
「し、しかし司令、この問題は…」
「かまわん、やりたまえ」
なんとか異議を申し立てようとしたマヤだが、司令の指示には逆らえない。んくっと唾液を飲み込んだ後、努めて冷静な声で問題を読み上げた。

「第九問」

「ネルフ所属サードチルドレン、碇シンジのサイズを答えよ」

「…んな?!」
アスカは固まった。一生懸命問題の意味を分析検討し、その内容に再度驚愕する。
「な、な、な、な…」
言葉を発することすらできないアスカ。周囲からは、なぜか女性オペレーターからの熱い期待の視線が集中する。微動だにしないアスカに、
ゲンドウが声をかける。
「どうした、アスカ君。20秒が過ぎれば自動的に不正解となるが、よいのかね」
ゲンドウの言葉に、アスカは我に返る。
そう、このまま座して待っていれば不正解となり、私はあの場所に帰ることができない。今の私の生き甲斐はあそこに戻ることじゃなかったの!?
それに、挑戦をうけて黙って引き下がるなんて惣流・アスカ・ラングレーのポリシーに反するじゃないの。誰にケンカを売ったのか思い知らせてやるわっ!!
アスカはぐっとゲンドウをにらみつけると、胸を張って大きな声で回答した。


653: 2009/09/20(日) 21:28:11 ID:???
「長さ20.5cm、長径5.1cm、短径4.6cm、角度84°!!」

ピンポンピンポンピンポーーン!

おぉ~!!

 なんの数値かはわからないが、アスカが真っ赤な声で答えると、発令所内には感嘆と羨望のため息が漏れた。なんに対する感嘆かはわからないが、
オペレータのお姉さん方はなんだかうらやましそうな顔でアスカの顔を見ているし、なぜか男性職員は血涙のだだ流し状態だ。
『据え膳食っときゃ良かったかもねえ』などと考えている三十路のおばさんもいる。ちょっとしたパニック状態だ。

654: 2009/09/20(日) 21:30:04 ID:???
「…それで、最後の問題はなんなの?!」

羞恥を振り払うために、アスカが叫ぶ。あと1問、あと1問答えれば自分はあそこに戻れるのだ。自分の存在価値を見いだせるあの場所に!
アスカは期待に震えながら、マヤの出題を待つ。

「第十問」

マヤの声と共に、メインモニターにネルフの制服を着た男性の写真が大きく映し出される。

「この男性の姓を答えよ」

なんかすぐそばで『オレっすかー?!』という声が上がったが、アスカには聞こえていない。たしかに見たことがあるし、声を聞いたことがある、
いやすぐそこに座っているのもわかっているのだが、なぜか名前がさっぱり浮かばない。アスカは大いに焦り出す。
(ま、まずい、まるで見当もつかないわ。卑怯よ、こんな難問、答えられる人間がいるわけないじゃない~!!)
アスカの焦りが極限に達する頃、ゲンドウが静かに問いただす。
「アスカ君、制限時間だ」
アスカは悔しさに唇をかむ。一か八かなどという博打的な対応は彼女の一番嫌うものであるが、今彼女が取り得る手段はそれしか残っていなかったからだ。

「…あ、青山…?」

その答えを聞いて少し嘆息した後、冬月がボタンを押した

アホ~~~!!

カコン!!

間抜けなカラスの鳴き声が鳴り響くと同時に、アスカの足元に四角い穴が開口した。

655: 2009/09/20(日) 21:31:03 ID:???
「わきゃ~~………!!

落ちていくアスカの悲鳴が小さくなって聞こえなくなると共に、カコンとその穴は閉じてもとどおりの床となった。
「これで、第4次セカンドチルドレン要望判定試験を終了する」
ゲンドウの声と共に発令所はいつもの喧噪を取り戻したが、そのアスカの最期の声は発令所の職員の耳にいつまでもこびりついていた。また、一人の男性オペレータが膝を抱えていじけていたが、誰も気づくものはいなかった。


とぽ~~~~ん…!

エヴァの格納庫のLCLプールに、ひとつの水柱が立った。

ばしゃあ……

続いて水面に赤い固まりが打ち上がってくる。
「えほ、えほ…」
上がってきたのはアスカ嬢だ。発令所からダストシュートでLCLプールに落とされたのである。
(あんな卑怯な問題を出してくるなんて、あ~もう悔しいったらありゃしないっ!!)
LCLプールを泳ぎながら、アスカは怒りまくっていた。様々な出題者の嗜好を考慮して膨大な分野の予習をしていたのだが、
今回の最終問題は確かにあまりにも卑怯なものであった。発令所のメンバーでも正解できるものは3割に満たないだろう。

656: 2009/09/20(日) 21:32:27 ID:???
「…はい」
アスカがプールサイドまで泳ぎ着くと、白い手が差し伸べられた。
「…ありがと、ファースト」
アスカはレイの手を掴んで引きずり上げてもらった。そばにはバスタオルを持ったシンジが待機している。アスカはシンジの手からバスタオルを奪って、
乱暴に髪を拭いた。
「…モニターで見ていたわ。惜しかったわね」
「なによ、あの最期の問題!頭にくるったらないわ!」
髪をふきながらも怒りが収まらないアスカ。その怒りによる発熱のためか、体から湯気が立ち上っている。
「でも、もう4度目だよね。アスカもあきらめた方がいいんじゃないかな?」
シンジがやんわりと言ってみたが、アスカは食ってかかる。
「なによ、シンジ!あんた、このままでいいと思ってるの!?」
「ん~、父さんは僕たちのことについては認めてくれてるわけだしねえ。今はこのままでもいいんじゃないかなあ」
「あ~!?シンジ、あんた私を裏切るつもり!?」
「私も客観的に見て碇君の意見に賛成」
「ファーストもそんなこと言うの!?」
アスカはさらにヒートアップする。


彼らチルドレンが高校に入学した頃、ん年越しの愛を実らせてミサトが無精髭の人との結婚を果たした。最初は心からの祝福を送ったアスカであったが、
その後の自分たちの身の振り方を聞いた時に修羅となった。ミサトが結婚によりマンションを出て行くことになれば、残るのはアスカとシンジ、
色気づいた高校生カップル二人。彼ら二人の交際はネルフ内でも既に周知の事実ではあったが、二人きりの同棲状態は倫理的にも対外的にも
まずいだろということで、アスカについては女子寮に移ることが決定されたのだ。アスカが猛然と反対したのは当然であったが、司令命令には逆らえない。
泣く泣く荷物をまとめて女子寮に移ったのだ。しかし、(無駄に)有能な頭脳を持つアスカ嬢。いろんな(ここでは書けないような)手段を使って、
コンフォートマンションに戻ること、つまり元のようにシンジと同棲することをゲンドウに働きかけたのだ。その結果がこれ、セカンドチルドレン要望判定試験の
開催である。

661: 2009/09/20(日) 22:34:04 ID:???
「僕たち、まだ高校生だし、二人きりでの生活はやっぱり早いと思うよ」
今回の第九問目のように、アスカがことを起こすと何かと巻き込まれる体質の持ち主であるシンジは、あまりこの試験に乗り気でないようだ。
「どうして?シンジ、私のこと嫌いになったの?」
「そんな訳じゃないけど…」
アスカに涙目で訴えられたらシンジには何も言えない。シンジの隙を見てアスカがつばを目尻につけていたのを見ていたレイにとっては、
とんだ茶番にしか見えないが。
「とにかくシンジは心配しないでいいの!私が何とかしてみせる!絶っっ対に二人きりの甘い生活を実現してやるんだから!」
おお、アスカは燃えているぞ!
「そうとなれば、こうしちゃいられないわ。さっさと着替えて、また対策勉強を始めないと!」
そう言って、アスカはバスタオルをシンジに投げつけて、更衣室の方に向かって行った。

「…2号機パイロット、めげないのね」
レイは心底感心していた。
「ん~、ああ言いながらも、アスカは楽しんでいるんだよ」
「?楽しんでる?LCLへの高飛び込みを?」
「それもそうだけど、父さんとのコミュニケーションとかね」
「?」
「父さんはああいう人だから、なかなかコミュニケーションが成立しないだろ?だからアスカは、ああいうクイズ大会を通して父さんと少しでも
触れ合おうとしているんじゃないかな。それに、僕と父さんのコミュニケーションの為にもがんばってくれていると思う」
「そうなの?」
「たまに父さんと話をしても、すぐに『アスカ君は』ってアスカの話題になるんだ。アスカのおかげで父さんとの会話がとぎれることがなくなったんだ。
自然に会話することが出来るようになったんだよ。だから、僕も父さんもアスカには感謝しているんだ」
ちょっと照れているシンジにレイは微笑む。
「そう、良かったわね」
「うん」
シンジも微笑みを返す。

662: 2009/09/20(日) 22:35:45 ID:???
「ファースト~!、また勉強するわよ、手伝って~!!」
向こうでアスカがレイを呼んでいる。これまでの試験に対してはレイが試験勉強の手伝いをしていたのだ。
「わかったわ」
レイはてとてととアスカのそばに駆け寄る。目的の善し悪しはともかく、アスカの試験準備の手伝いはレイとしてもやりがいのある仕事なのだ。
「今回は何を中心に勉強するの?」
「ネルフの職員名簿を暗記するわ」
「…広辞苑レベルの厚さになるわよ」
「やってやれないことはな~い!」
きゃいきゃいと女子更衣室に向かう二人。シンジは苦笑すると、濡れたバスタオルを持ってランドリー室に向かった。
(でも、僕にとばっちりが来るのはやっぱりやめて欲しいんだけど)

663: 2009/09/20(日) 22:37:09 ID:???
そのころ、発令所では表彰が行われていた。セカンドチルドレン要望判定試験の試験問題は発令所の有志が作成している。その難度を上げるために、
ゲンドウはひとつの策を弄した。すなわち、セカンドチルドレンに不正解させた問題作成者には、表彰と臨時ボーナスを支給するというものである。
今回の表彰者は伊吹マヤだった。素直に喜びを表現するマヤと、そのボーナスにたかろうと怪しげな働きかけをするミサト、
陰でまだすねている青山(だったっけ?)、発令所は今日も平和だ。

その表彰式を見下ろしながら、冬月はゲンドウに問いかけた。
「碇、惣流君で遊ぶのはかまわんが、あまり度が過ぎると未来の嫁に嫌われるのではないかね?」
ゲンドウは静かに答えた。
「アスカ君は聡明な娘です。私に対して闘志を燃やすことこそあれ、嫌ったりすることはないですよ、先生」
それを聞いて、冬月は嘆息した。
「そうか。おまえは惣流君をかっているのだな」
ゲンドウはサングラスのズレを直しながら、ニヤリと笑った。

「当たり前です。あの娘はシンジが選んだ娘ですから」

664: 2009/09/20(日) 22:39:47 ID:???
以上、おしまいです。657さん660さんありがとうございました。おかげで貼り付けられました。
落ちが弱い、LASが弱い、そもそも青山って誰よ 等の御指摘、御批判よろしくお願いします。

それでは、私のようなエセではない、本当の職人さんが投下するのをお待ちしておりますです。

665: 2009/09/20(日) 23:19:59 ID:???

こーいうアスカ好きです

666: 2009/09/20(日) 23:39:31 ID:???
つーか、誰だ第9問の問題作った奴w

引用元: 落ち着いてLAS小説を投下するスレ 15