1: 2010/10/08(金) 19:41:21.46
馬鹿と天才は紙一重…とはよく言うが、天才と秀才の差は限りなく厚い。

私がその事に気づくのには、そう時間は要りませんでした。

2: 2010/10/08(金) 19:42:02.60

両親や周りの人たちは、姉の事を自堕落で利己的な人間だと思っている。

私の事を良く出来た人間と称え、私の成績や私の料理を褒めてくれる。

だけど実際のところ自堕落で真に利己的なのは私である。

周囲の人は表面上の事だけを見て判断を下す。

だから姉妹仲が良いなどと寝ぼけた事を言うのだ。

3: 2010/10/08(金) 19:42:43.35

別に勉強する事がすきなわけではない。料理なんてむしろめんどくさいだけとさえ思っている。

でも私は今日も作り続ける。

お風呂を沸かして、部屋の掃除をする。

決して姉に家事をさせないように。

いつからこういう事をするようになったのだろうか…。

思い返してみると始まりは小学生の頃だったような気がする。

4: 2010/10/08(金) 19:43:23.80

当時私は小学1年生で姉は2年生だった。

この時点ではまだ姉は姉でなく、お姉ちゃんだったような気がする。

5: 2010/10/08(金) 19:44:08.65

足し算、引き算をこなした私だが、どうしても九九の掛け算だけは苦手だった。

だから家で独りの時はもっぱら苦手な7の段を音読するのが日課だった。

ある日、いつの間にか隣に居たお姉ちゃんが音読する私を見ていた。

私は九九を苦手としてることを伝えると、お姉ちゃんは難なく7の段をスラスラ言い放った。

6: 2010/10/08(金) 19:44:49.15

そこまではよかった。一年の先があるし、九九を言える事はなんら特別な事ではなかったから。

しかし8の段、9の段と続けていくお姉ちゃんは留まることを知らず、なんと50の段まで空で完答したのだった。

これは普通の範疇を著しく超えている。

私が何故そこまで覚えられるのかと聞くと、暗記なんてしてない。計算してると言う答えが返ってきた。


お姉ちゃんが姉になった瞬間だった。

7: 2010/10/08(金) 19:45:59.75

お姉ちゃんの天才ぶりは本当に注意して観察しなければ気づかない。

何故なら自分の興味が沸いたことでしかその力を発揮しないからである。

学校のテストでは常に最下位だし、何かで賞をもらった事もない。

いかに天才だろうと0の努力では、結果は必ず0なのだ。

しかし事自分の関心を引く事柄だと凄まじい能力を発揮する。

9: 2010/10/08(金) 19:47:12.41

特に顕著だったのが、高校入試の時だった。

今まで全く勉強しなかった姉が一日中机に向かっていた時があった。

理由を聞くと和さんと一緒の高校に行くと決めたから試験対策してると言った。

受験日のわずか3日前のことである。

12: 2010/10/08(金) 19:48:20.68

いまさらそんな勉強しても無意味だと思った私だが、ふと姉の机を見てすぐにその異常性に気づいた。

筆記用具やノートの類が一切使われた形跡がないのである。

まさかと思い、教科書をすごい速度でめくっている姉に問いかけた。


何してるの?


帰ってきた答えは、まさに姉の天才っぷりを最大限表していた。


教科書を暗記してる。全部覚えれば合格できると思って。

2ヵ月後姉は和さんと同じ高校に進学した。

13: 2010/10/08(金) 19:49:34.09

私は料理を作り続ける。お風呂を洗い続ける。

それは周りから褒められたいでも、何かをしてほしいからでもない。

ただ姉に自分の存在を認めてほしいからである。

姉の作らない料理を作り、姉のしない掃除をする。

もう私が私のアイデンティティを守るにはお姉ちゃんが敬遠してる事をするしかないのだ。

15: 2010/10/08(金) 19:50:45.97
私は日々怯えてる。顔は常に笑顔を浮かべているが、いつも姉に恐怖してる。

いつの日か料理を作りたいと願い、掃除をしてみたいと姉が口に出す事を。

私のアイデンティティが消え、存在理由がなくなる恐怖に日々心をすり減らしている。

16: 2010/10/08(金) 19:52:44.16

眠れない夜、無理やり自分の心を頃す。

殺さなければ朝起きれなく、起きれなければ姉のお弁当を作れないから。

歯がカチカチ鳴り、足元が震えても必氏で心を頃す。

私が私であるために。

17: 2010/10/08(金) 19:54:39.04

どうして私達は姉妹なのだろうと思う。

きっと姉と私は二人で一人だったのだ。

私に足りないところを姉が持ち、姉が足りないところを私が持って生まれてきたのだ。

いや、気づいている。姉に足りないところなどない事に。

確かに家事はしないし、勉強もできないが、それはただやらないだけである。

もし姉が料理に興味を持ち始めたら、私の腕などたちまち追い抜いてしまうだろう。

結局のところ私は姉の劣化版コピーでしかないのだ。

劣等感の塊、醜い内面性。どれをとっても天才で天真爛漫な姉とは比べ物にならない。

20: 2010/10/08(金) 19:56:08.04

それでも私は生き続けたい。私の人生を歩みたい。

きっと私が他の家で生まれてれば、平凡な人間だったと思う。

勉強も料理も平均、だけど毎日寝る前に爪を噛むことも震える事もなく生きれたと思う。

21: 2010/10/08(金) 19:56:48.39

朝、目が覚め、ボロボロになった親指を見る。

今日も一日を過ごせる、そう思える至福の時である。

お弁当を作り、学校の準備をして、数少ない私が私であるための仕事をこなす。

23: 2010/10/08(金) 19:57:40.97

2階にあがり、お姉ちゃんを起こしに行く。

一変の悩みもなく、心のそこから幸せそうな寝顔がそこにあった。

劣等感を感じる事もなく、嘘偽りのない笑顔を作り出せる姉に私は一度も嫌悪した事がない。

もはや姉は私が生きる上で、なくてはならない存在なのである。

私は、姉から存在を認めてもらえなければ生きる事さえできぬ砂上の楼閣なのだ。

だから私は今日も姉を好きでいる。そう努力をする。

24: 2010/10/08(金) 19:59:31.26

魔法の言葉。

今から私は、私を存在させるための言葉を口にする。

この儚くも醜い私を存在させる事をできる言葉を口にする。

そして同時に願う。どうか今日も姉が姉であり、私が私でいられるように。


「お姉ちゃん朝だよ」




憂「告白します……。」


引用元: 憂「告白します……。」