1: 2010/06/26(土) 20:07:28.94
夏ロックフェスタ会場

唯「ねぇ、あずにゃん」

梓「何ですか? 唯先輩」

唯「夏! っていったら何だと思う?」

梓「海に、夏祭り、花火、それに今まさに私たちが楽しんでいるような夏フェスですかね」

唯「そうだね。そのとおりだね!」

梓「それがどうしたんですか?」

唯「そんなイベントにつきものといったら何だと思う?」

梓「イベントにつきもの、ですか? う~ん……」

梓「絵日記、とかですかね?」

唯「かぁ~っ、あずにゃん子供! お子ちゃま!!」

梓「なっ!?」

唯「夏は特に開放的になる季節、そんな時期にはひと夏のアバンチュール!」

梓「はぁ?」

唯「ナンパだよ! ナンパ!!」

2: 2010/06/26(土) 20:13:38.26
唯「冬の寒さに耐え忍び、春の陽気に芽を出して……」

唯「そして夏の太陽と共に燃え上がる!」

唯「そんな男女の物語!!」

梓「とりあえず、落ち着いてください」

唯「私たちも一応花の女子高生だよ! ちょっとくらい声を掛けられちゃうかも///」

梓「唯先輩は、そんなこと期待してるんですか?」

唯「そうじゃなくてね、もしそんな状況になったらどうしようかって言ってるの」

梓「そうですか……」

唯「やっぱりここは、断った方がいいのかな?」

梓「そんな心配はもっと大人の色気が出てからにしましょうね」

唯「もう! あずにゃんのいぢわる~」ブ~ブ~

3: 2010/06/26(土) 20:20:56.27
梓「だって、私も含めてですけど、見る人が見たら私たち中学生ですよ
  澪先輩が一緒ならまだしも……」

唯「今は、澪ちゃんとりっちゃん違うステージ見に行ってるからな~」

梓「ナンパされたいんですか?」

唯「だってされたら大人だよ~。あずにゃんだって可愛いんだから可能性はあるよ~」

梓「私は結構です」

唯「もう、そんなこと言って~」ダキッ!!

梓「に゛ゃっ! やめて下さい! こんなところで」

唯「えへへ、あずにゃん可愛い~♪」

通りすがりの男(『に゛ゃっ』とかリアルで言ってる奴本当にいるんだな。初めて聞いたよ、きめぇ……)

5: 2010/06/26(土) 20:28:36.63
紬「何話してるの?」

唯「ナンパのことだよ、ムギちゃん」

紬「ナンパって何?」

唯「えっとね、男の人が女の人に話しかけてね」

唯「そしたら男の人が『美味しいものでも食べに行かない?』って誘うんだよ」

唯「で、女の人は美味しいものをたらふく食べれるってわけ」

梓「間違ってはいませんが、食べ物メインなんですね……」

紬「私もよく屋敷のパーティーで御曹司や次期社長の殿方からディナーに誘われることが
  あるんだけど、それがナンパってやつなのね!」

梓「レベルが違いますけどね」

唯「そうだよ、とくにこんなイベントで開放的になってると、ほら、もうあっちこっちで」


男「一緒にまわらない? まずはお昼でも食べようよ(あわよくば、やらせろ)」

女「え~、どうしよっかな~(グッズ買わせるだけ買わしておさらばね)」キャッ キャッ ウフフ


唯「このように、なっているわけですよ!」

6: 2010/06/26(土) 20:32:50.87
紬「そろそろお昼どきよね。だからああやって誘い合ってるってわけね!」

唯「そうだ! お昼だ! お腹空いた!」

紬「でも、澪ちゃんとりっちゃんはどうしよう」

唯「二人は二人できっとどこかで食べてるよ」

唯「だから、私たちもお昼食べよう!」

梓(色気より食い気の先輩にはナンパなんてものは、ほど遠い気がします)

7: 2010/06/26(土) 20:38:46.96
紬「唯ちゃん! 私、焼きそば!」

梓「ムギ先輩、朝からずっとそれですね」

唯「よっぽど焼きそばが好きなんだね、ムギちゃん」



「すみませ~ん、焼きそば売り切れで~す!」

紬「あ、あ……」

梓「ムギ先輩!」

唯「気を確かに!」

ナンパな男「彼女~、良かったら俺たちと一緒に焼きそばしない?」

紬「えっ?」

軽めの男「俺たちが買ったのが最後の焼きそばだから、一緒に仲良く食べようよ」

9: 2010/06/26(土) 20:44:14.08
紬「まぁ! よろしいんですか?」

ナンパな男「君たちとならよろこん……で……!!」

軽めの男「お、おい……、ちょっと、これは……」

紬「?」

ナンパな男「あ、あの……人違いでした……すみません……」

紬「え? あの……」

ナンパな男「もう、その焼きそばは差し上げます」

紬「あ、ありがとうございます」



軽めの男「地雷じゃね~かよ……」

ナンパな男「後ろ姿にグッときたからさ~」

ナンパな男「でもまさか……」


紬「???」

13: 2010/06/26(土) 20:50:35.83
唯「ムギちゃん、ナンパ!?」

紬「えっ? よくわからない」

梓「その焼きそばは?」

紬「あの男の人がくれたの」

唯「間違いなくナンパだね!」

梓「でも、どっかいっちゃいましたね」

唯「男の人に話しかけられて、食べ物を奢ってもらえる」

唯「これは間違いなくナンパだよ!」

紬「そっか! うふふ、ナンパされちゃった♪」

梓「それって、男からしたらなにもメリットがない気がするんですけど……」

16: 2010/06/26(土) 20:54:39.60
紬「じゃあ、次は唯ちゃんの食べたいもの買おう」

唯「はい! ピッツァ!!」

梓「発音!?」



 SOLD OUT

唯「うっ……うっ……」

紬「唯ちゃん……」

唯「やだ~、もう帰る~……」

梓「駄々こねないで下さい」

日焼けした男「そこのお嬢さん、良かったらそこで一緒にピザ食べませんか?」

唯「えっ!? 本当に!? うわ~い!」

梓「ムギ先輩に続き唯先輩まで!?」

18: 2010/06/26(土) 21:00:18.19
唯「友達も一緒にいいですか?」

日焼けした男「もちろ……!?」

唯「?」

日焼けした男「ご、ごめん! 急用を思い出して……、それじゃあ!」

唯「ああっ! せめてピザだけは置いていって!!」

梓「まただ……」

唯「ムギちゃんはナンパ成功したのに、私は失敗だ~……」

紬「元気出して、唯ちゃん。一緒に焼きそば食べよ」

梓「ナンパ的には二人ともスルーされているんじゃ……」

梓「でも、これはいったいどういう事だろう……?」

梓「唯先輩も、ムギ先輩も後ろから声を掛けられて、顔を見られてからスルーされている……」

梓「……これは、もしや」

19: 2010/06/26(土) 21:05:25.75


梓「先輩」

唯「あ、あずにゃん」

梓「こんなところで何してるんですか?」

唯「遠くから聞こえる曲聴いてたの」

唯「本当に一晩中やってるんだね~」

梓「……」



「ぁ……ぁっ……ゃっ……」ハァハァ



唯「……あっちも、一晩中やってるのかな///」

梓「ば、場所変えましょう///」

20: 2010/06/26(土) 21:08:43.56
唯「や、やっぱり夏は開放的になるんだね///」

梓「そうですね///」

律「あ~ら、お二人さん。こんなところで内緒のお話?」

唯「ちょっと曲を聴いてたんだよ」

律「だったら、もっとあっちの上の方が見晴らしも良いし、行こうぜ」

梓「そっちは、行かない方がいいと思います……///」

唯「そうだよ。あっちは虫が多かったからここで座って聴こうよ///」

律「ん? そうか?」

22: 2010/06/26(土) 21:14:17.22
唯「あ、そうだ~。実は私たちね。お昼食べるときナンパされたんだ~」

澪「えっ!? 本当か!?」

唯「うん。ムギちゃんが焼きそば食べたいって言ってたんだけど売り切れててね。
  そしたら、男の人が話しかけてきて焼きそばくれたんだよ。ね、ムギちゃん」

紬「うん、焼きそばすごく美味しかったわ」

律「へ~、まぁ、ムギならわかるかな。なんたってお嬢様オーラ出まくりだもんな
  普通に考えたらムギなんてモテまくりだろうし」

唯「私もね、ピッツァ食べたくて買いに行ったんだけど」

澪「発音……」

唯「それも売り切れててね、でも、私も男の人に話しかけられて一緒に食べようって誘われたんだ~」

律「なっ!? 唯まで!?」

唯「でも、その人急用があったらしくて、すぐにどっか行っちゃったんだよね……」

律「そうだろ、そうだろ。唯はそんなもんだよ。急用たってきっと唯の顔が好みじゃなかったから
  咄嗟についた嘘だったんだろ」

唯「ムッ! そういうりっちゃんはどうなのさ~」

23: 2010/06/26(土) 21:20:42.30
律「私なんて~、声掛けられまくりだったぜ~」

唯「うそっ!?」

澪「お前のは、振り上げた拳が前の人に当たりまくって文句を言われてただけだろ」

律「うをっ! 澪! バラすなよ~」

梓「そんなことだろうと思いました」

律「何を~梓~!」グリグリ

梓「にゃっ! やめて下さい!」

唯「澪ちゃんはどうだったの?」

澪「えっ!? わ、私!?」

律「へっへっへ~。澪は三回も声掛けられたんだぜ」

紬「すごい! 焼きそば食べ放題ね!」

澪「ん?」

24: 2010/06/26(土) 21:26:49.48
唯「で、どうだったの? ひと夏のアバンチュール?」

律「そうそう、火傷するほどの恋」

澪「そんなものあるわけないだろ」

紬「でも澪ちゃん可愛いから、男の人も声掛けたくなっちゃうのね」

澪「そ、そんなことは……///」

律「まぁ、私が男だったら、放っとけないな」

澪「り、律まで///」

律「でも、みんな澪の顔見ると逃げて行くんだよ」

唯「え~、なんで~」

律「きっと、すごい怯えた顔してたんだよ。今にも泣きそうな顔」

唯「あはは、澪ちゃんらしいね」

律「男は女の涙には弱いからな」

梓「本当にそうでしょうか?」

澪「へっ?」

27: 2010/06/26(土) 21:32:10.73
律「何言ってるんだ? 梓」

梓「ムギ先輩からお嬢様オーラが出ててモテくりだとか
  澪先輩が可愛いとか、本当にそうなんでしょうか?」

澪「じ、自分が可愛いなんて思ったことなんてないぞ!」

梓「本当ですか?」

澪「うっ……! 確かに、平均よりは上かな、という自覚はないわけではないけど……」

梓「まぁ、澪先輩は学校にもファンクラブがあるくらいですし
  私自身も澪先輩は可愛いと思います」

澪「梓、照れるじゃないか///」

梓「でも、それは果たして客観的視点に乗っ取ったものでしょうか?」

唯「あずにゃん、難しくてよくわからないよ……」

梓「つまり、私たちは井の中の蛙ではないか、ということです」

律「どういうことだよ梓」

梓「もっとわかり易く言うと、私たちは自分が思っているよりも実は可愛くないんじゃないかということです!」

唯澪律紬「!?」

29: 2010/06/26(土) 21:38:35.64
梓「ムギ先輩も、唯先輩も、声を掛けられました」

梓「でも、結局それ以上の進展はありませんでした」

梓「普通、ナンパっていうのは、声を掛けて一緒に食事なりなんなりをするまでが
  ナンパってものじゃないでしょうか?」

梓「でも、何故かちゃんと話すらする暇もなく去っていく」

梓「それって、やっぱり顔が好みじゃなかったということではありませんか?」

律「顔が好みじゃなかったら、そもそも話もしてこないんじゃ……」

梓「お二人が話し掛けられた状況は常に後ろからでした」

梓「後ろ姿は好みだったけど、顔は残念……」

梓「そんなことはよくあることだと思います」

唯「あずにゃん酷いよ……」

梓「す、すみません。でも、先程の状況から考えるに、そうである可能性もあるということです」

紬「……」

31: 2010/06/26(土) 21:45:59.14
梓「それによく考えてもみてください。いくら女子高だからって誰も今まで浮いた話がないんですよ」

律「だ、だって、そもそも出会いがないわけだし」

梓「それは、甘えです。もし私たちが可愛いならば、街で声くらい掛けられると思います」

梓「しかも、学園祭は男の人だって入ることができます。私たちのライブだって見てくれてるはずです」

梓「なのに、今まで一度だって男の人からは、なんのアプローチもありません」

梓「もし、私たちが可愛いのなら男の人が放っとくわけありません」

澪「しかし、梓。それにしたってやっぱり会うような機会がないよ」

梓「やろうと思えば帰りの校門で待ち伏せして手紙なりなんなり渡せると思います」

紬「でも、梓ちゃん。男の人もそういうことは恥ずかしんじゃないかしら?」

梓「だとすれば、私たちは所詮その程度だということでしょう」

梓「それがないのは、つまり私たちにそれほどの魅力がないということです」

梓「それだけ苦労するほどの見返りがない程度の顔だということです」

律「は、はっきりと言うな……」

32: 2010/06/26(土) 21:51:04.37
梓「今日だって、何度か声を掛けられましたがことごとく逃げられました」

梓「これって、やっぱり、私たちが可愛くないということではないですか?」

唯「でも、澪ちゃんにはファンクラブがあるくらいだし、私も澪ちゃんは可愛いと思うし……」

梓「女が言う可愛いは、男にとっては見当違いだということが多々あります」

澪「そ、そんな……」

梓「それに、見てるうちに慣れるということも言えると思います」

梓「ポッと出のアイドルも最初はイマイチだと思っていたのが何回かTVで見てるうちに
  『アリかな』と思う。そんな経験ありませんか?」

律「た、確かに……」

33: 2010/06/26(土) 21:59:05.40
梓「それに日本人は流されやすい傾向にあります」

梓「声の大きい人、つまり影響力の強い人が可愛いと言えば周りもそう思ってしまう」

梓「そんな周りに合わせてしまう国民性故に、知らず知らずのうちに澪先輩はまさしく偶像として祭り上げられた」

梓「曽我部先輩から始まった連鎖がいまだに広がっているのです」

梓「生徒会長という肩書き故にその影響力も計り知れないものがあったはずです」

紬「女子高でもあるし、さらに仲間意識は強くなるかもね」

梓「はい、男の目という客観的視点が無いのでとどまることを知りません」

律「確かに、男から可愛いなんて言われた経験なんてない」

律「でも、私は、澪が綺麗だと思うし、ムギも優雅さと気品を兼ね備えていると思っている」

律「お前らもそうだろ?」

唯「うん! TVだっていつも見てるんだし、ドラマとかに出てくる女優さんだって見るんだから
  そこまで閉鎖的な評価じゃないと思うよ!」

梓「ええ、そこで私が疑っているのは、私たちの美的感覚です」

紬「美的感覚?」

35: 2010/06/26(土) 22:07:04.23
梓「先輩方はさわ子先生をどう思いますか?」

唯「さわちゃんは綺麗だよね」

律「ああ、言動はアレだけど、見てくれはいいよな。黙ってればもっとモテると思うのに」

澪「生徒からも人気が高いし、さわ子先生は美人に分類されるだろう」

紬「私も、顧問になってもらった当時はドキドキしちゃった」

梓「私も、さわ子先生は美人だと思います。でも、いざそれが色恋沙汰になると、どうなりますか?」

律「……聞くのは、駄目だった話ばっかりだな」

唯「もはや失恋のプロだよね」

梓「そうです。私たちが美人だと認識しているさわ子先生ですら、恋に関しては連戦連敗なんです」

梓「男性から見ればさわ子先生ほど魅力のない女性はいないのです」

澪「つまり、それは……」

梓「はい、つまり、私たちの可愛いや美人だと感じるハードルが著しく低いのではないかと」

梓「そんな、低いハードルで私たちは自分たちを評価していたのです!!」

唯澪律紬「!?」

39: 2010/06/26(土) 22:14:51.00
澪「つまり私たちは世間から見るとそれほど可愛くはない、と」

梓「おそらく……」

律「なんてこった……」

紬「……私は、なんとなくは気づいていたわ」

唯「えっ!?」

紬「だって、こんな眉毛の太い女が可愛いわけないもの……」

唯「そんなことないよ! ムギちゃんは可愛いよ!」

澪「そうだぞ! そんな欠点なんて気にならなくなるくらい他が素晴らしいぞ!」

律「むしろ、そんな太い眉毛も私にとっては魅力的だよムギ!」

紬「み、みんな……」ウルウル

梓「こう言っちゃ、身も蓋もありませんが……」

梓「不細工同士が不細工を可愛いと慰めるのってとても滑稽ですよね」

唯澪律紬「……」

42: 2010/06/26(土) 22:20:38.20
澪「そういう梓だって……」

梓「わかっています。私だってそのブサイクの仲間に入っているってことくらい」

澪「……」

梓「認めましょうよ。私たちは自分が思ってるほど可愛くない」

梓「バンドをやっているというアドバンテージだけで人気があったんですよ」

梓「でも、それは私たちが放課後ティータイムだって知っている人だけに通じるものです」

梓「こうやって、私たちのことを知らない人たちが沢山いる世界に飛び込んで
  その他大勢に紛れてしまえば、私たちなんてゴミクズなんですよ」

唯「ゴミ……」

紬「そんな……」

46: 2010/06/26(土) 22:26:53.90
律「私は……」

唯「りっちゃん?」

律「今まで、私は、恋愛ができないんじゃない、今は特に必要ないからしないだけだ
  って思っていたけど……」

律「なんのことはない、男の方が私を必要としていないだけだったんだな……」

紬「りっちゃん……」

律「私さ、実は、本気で自分は美少女だって思ってたんだよ」

律「カチューシャ外して鏡見たときさ、一人で『おかしいし』とか言ってみたりもしたけど」

律「本心では結構いけるんじゃないかって思ってたんだ」

律「でも、どっちにしろ客観的に見ればブサイクの戯言だったってことだよな」

澪「律……」

48: 2010/06/26(土) 22:33:52.53
律「中学のときだって、私はクラスでは可愛い方だと思っていたんだけど」

律「私は澪とずっと一緒にいたから、美人だって信じていた澪と一緒にいたから」

律「だから、相対的に見て澪よりは可愛くない私に男子も話しかけてこないだけだって思っていたんだ」

律「だって、そうだろ? 目の前に一万円札と五千円札があれば、誰だって一万円札が欲しいに決まってる」

律「もちろん、私が五千円で澪が一万円だ」

律「澪はきっと男子にとって高嶺の花って感じだと勝手に思っていた」

律「だから、そんな一万円の澪にも誰も話しかけてこないって」

律「あまりもの美人って近づきにくいだろ?」

律「ずっとそう思っていたんだ」

律「でも、現実は違ったんだな」

49: 2010/06/26(土) 22:35:04.17
律「私たちには一万円札と五千円札なんて価値はない」

律「実際は、十円玉と五円玉だったんだ」

律「どうりで、誰も見向きもしないはずだ……」

律「いったい、どこで私は澪を美人だと勘違いしたんだろう……」

澪「……」

紬「あまり悲しいことを言わないでりっちゃん……」

51: 2010/06/26(土) 22:44:36.38
澪「きっと、律が私のことを可愛いって勘違いしたのは私の親のせいだ」

澪「私は、昔から親に『澪ちゃんは可愛い』って言われて育てられたんだ。一人娘だったしな」

澪「律とは家が近所で小学校のときから親ぐるみのつき合いだし」

澪「だから、律はそんな私の親に影響されてそう思い込んでしまっていたんだよ」

澪「私も、ずっとそう言われて育ったから、自分は可愛いんだって信じ込んでいた」

澪「なんの間違いか高校ではファンクラブなんてものもできちゃって」

澪「表向きは、恥ずかしいからやめてくれ! って言ってたけど……」

澪「実は結構いい気分だったんだ。もっとちやほやされたかった」

唯「澪ちゃんはガチで恥ずかしがり屋さんだとばっかり……」

澪「ガチで恥ずかしがり屋だったら作詞して、それを大勢の人に聞いてもらうなんてことはしないよ」

紬「そう言われれば、そんな気もするわ」

澪「実際は真面目キャラな私がこんな意表を突く歌詞を書くって
  意外性があってそんなギャップも萌える要素じゃない?」

澪「なんて思ってたくらいだよ」

梓「正直まんまと嵌められました」

53: 2010/06/26(土) 22:52:45.73
澪「でも、ファンクラブのお茶会」

澪「今思えば、あのときの私はどうかしてたんだ」

澪「調子に乗ってあんなポエムも作ったりして……」

梓「ときめきシュガー……」

澪「よしてくれ梓、忘れたい過去なんだ……」

梓「すみません……つい……」

澪「でも、私はそんな内輪で行われていることに満足していたんだな」

澪「きっとファンクラブの人はそうやって祭り上げる存在が欲しかっただけなんだ」

澪「実際はだれでもよかったんだ。ただ一度学園祭で目立ったから選ばれただけで」

澪「本当に滑稽だよ……」

55: 2010/06/26(土) 22:59:03.89
澪「それに、確かに怖い話や痛い話は苦手なんだけど」

澪「たかが指のマメが潰れたって律が私に見せるくらいであんなに怯えるはずないよ」

唯「だよね……」

澪「どこかで、こんな些細なことで怯える自分可愛いって気持ちがあったんだと思う」

澪「実際あんなことで怖がってる人がいたら、どこか脳の病気じゃないかと病院を紹介したくなるよ」

律「私も、澪が怯えているのを演出している私可愛いって思って嫌がらせしてたからな」

律「人気があるであろう澪に寄生して少しでも注目を浴びようとしていたんだ」

澪「お互い様だな」

律「ああ、そうだな……」

56: 2010/06/26(土) 23:04:11.84
唯「私も」

紬「唯ちゃん?」

唯「私も、のんびり屋さんだったりちょっと抜けてたりするじゃない?」

律「ああ、不覚にも可愛いと思ってしまっていたよ」

唯「多少計算してたんだよね」

梓「その告白は少なからずショックです……」

唯「こうすれば、可愛いかな。って」

紬「やめて唯ちゃん……、聞きたくないわ……」

唯「ううん、言わせて」

59: 2010/06/26(土) 23:09:45.31
唯「梅雨で雨が降ってたとき、ずぶ濡れになって学校来たことあるでしょ」

唯「あれって、ずぶ濡れになって皆から心配されたい、って気持ちがあったんだよね」

唯「それに、ギターを守ってる自分もなんだか自己犠牲の精神があって感動的でいいかな、って」

唯「そう思って、わざとずぶ濡れになって来たんだ」

澪「そりゃ、普通はあんなにはならないもんな……」

唯「それに、本当は濡れたくなかったらギターにビニール巻いてくる方法だって思いついてたんだ」

律「でも、澪に言われて初めて気づいたってリアクションだったんじゃ……」

唯「そんなドジな私も可愛いって思わなかった?」

紬「唯ちゃん……なんて演技派なの……恐ろしい子ッ!」

澪「月影先生もビックリだな」

61: 2010/06/26(土) 23:15:09.84
梓「そういえば、さっきから唯先輩ギターのことギー太って呼ばないんですね」

唯「ああ……」

唯「ギターに名前付けて話しかけたり、物に生命が宿っているような素振りをしてたけど」

唯「あれって、実は夜に寝る前とか思い出す度に、恥ずかしさでジタバタしてたんだ」

唯「なに不思議ちゃん気取ってるんだろう、って」

唯「冷静になって考えるともうね……」

律「よくわかるよ……」

唯「でも、周りの皆はきっとそんな私のことを可愛いと感じてくれているんだと思うと」

唯「やめられなかったんだ……」

澪「唯……」

63: 2010/06/26(土) 23:20:24.27
紬「私もね……」

澪「ムギもか」

紬「たぬきうどんだって知ってるし、がんもどきだって本当は知ってるの」

梓「なんで知らない振りをしたんですか?」

紬「だって、そう言った方がお嬢様っぽくっていいじゃない?」

澪「そ、そうかな……」

紬「クリスマスに商店街で福引したときだって皆に会わなかったら普通にハワイ旅行貰っていたの」

律「えっ?」

紬「でも、ボードゲームと取り替えてもらうことで、なんて世間ずれしたお嬢様だろうって」

紬「そんなところが可愛いって、そう思わない?」

唯「すっかり騙されていたよムギちゃん……」

66: 2010/06/26(土) 23:25:28.50
紬「それにね、二年目の合宿のとき船とかあったじゃない?」

澪「ああ、ムギが泣きながら電話で抗議してたやつか」

紬「あれね、実は私が用意しておいてって頼んだやつなの」

梓「それってどういう……」

紬「お船もいらない~」ジタバタ

紬「ってなかなか可愛いと思わない?」

澪「なんだ、自作自演だったのか……」

紬「ごめんなさい……」

律「気にするなよムギ、誰にだってそういうとこはあるさ」

紬「ありがとう、りっちゃん」

72: 2010/06/26(土) 23:34:09.54
澪「あとは……」

梓「わかっています。もう私なんて存在からしてあざといですからね」

律「自分でそう言うなよ、悲しくなるだろ……」

梓「本当は私、敬語でしゃべるの苦手なんですよね」

梓「でも、後輩って立場上そうした方が目上の人に可愛がられるし」

澪「まぁ、それは薄々感づいてはいたよ」

律「たまに、おかしな敬語のときがあるもんな」

梓「やってやるです!」

澪「ああ、それそれ」

梓「猫耳だって、嫌がってみせましたが、本当は自分には似あうだろうなと思ってましたし」

梓「にゃ~って言えと言われて本当に言うはずがありませんよ、普通は」

律「ああ、そうだな……」

梓「最近では、唯先輩に抱きつかれるときに意識して『に゛ゃっ!』って言うようにしてますし」

紬「それは、わざと言ってるんだろうなって思ってたわ、さすがに」

梓「そうですか、どうもお恥ずかしい限りです」

76: 2010/06/26(土) 23:41:43.34
唯「私はその声が聞きたいがために抱きついていたようなものだよ」

梓「ふふっ。じゃあ、唯先輩は私の術中に嵌ったということですね」

唯「えへへ、あずにゃんに嵌められちった♪」

律「唯……」

唯「なぁに? りっちゃん」

律「また、可愛い自分を演出しようと思ってるだろ」

唯「あっ……」

律「もう、そういうのよそうぜ……」

唯「うん、そだね……」

80: 2010/06/26(土) 23:49:15.57
澪「なんか今まで自分が可愛いと思われていた世界から抜け出して
  こうやって世間一般の評価を目の当たりにすると悲しいな」

梓「でも、裸の王様のままでもそれはそれで悲しいことですよ」

律「それもそうだな」

唯「私たちって、不細工だったんだね」

澪「どおりで、誰も彼氏がいないわけだよ」

律「付き合わない、じゃなくて付き合えないんだな」

紬「皆で街を歩いてるときも声掛けられたことなんて一度もなかったもんね」

澪「ところで、可愛いって何だろうな?」

梓「私たちみたいに打算的じゃなくて自然体で自分を表現できる人間のことじゃないですか?」

律「そんな奴本当にいるのかよ」

梓「……わかりません」

唯「顔が不細工だったら心なんて関係ないよ、きっと……」

梓「……」

81: 2010/06/26(土) 23:53:10.11
澪「さっきからこんなに若い女5人が暇そうにしてるのに誰も話しかけてこないもんな」

梓「そうやって自虐してる不細工って笑えませんよ」

律「でも、夜だし顔もよく見えないから私たちが不細工だなんてわからないんじゃないか?」

紬「きっと不細工オーラが出てるのよ……」

澪「そうだな……」

唯「私、泣きそう……」

律「不細工が一番不細工になるのって泣き顔なんだぜ」

唯「……」

84: 2010/06/26(土) 23:59:13.21
紬「もう、やめましょう」

梓「ムギ先輩……」

紬「確かに、私たちは世間から見ればあまりよろしくない顔立ちかもしれない」

紬「でも、それがなんだっていうの? 私たちは充分軽音部で楽しいじゃない!」

律「そうだ! ムギ、良いこと言った!」

梓「はい! 音楽をやるのに顔は関係ありません!」

唯「むしろ、いつも美味しいお菓子やお茶を楽しめている私たちこそが勝ち組だよね!」

澪「開き直った不細工は強いよな」

律「澪……」

澪「すまん……」

澪「でも、こうやって自虐することでしか自分を保てないんだ」

律「……」

唯「もう、寝ようよ……」

紬「そうね……」

梓「……はい」

87: 2010/06/27(日) 00:05:44.73
 ・ ・ ・ ・ ・

ナンパな男「いや~、しかし今日はビックリしたな~」

軽めの男「ホントだよ、お前が昼にナンパした女。マジありえね~し」

ナンパな男「あれは俺もビビった」

軽めの男「明らかにあれは何人か頃してる顔だったな」

ナンパな男「ああ、女自体はマジで俺の好みだったんだけど」

軽めの男「眉毛は太めだったけどな」

ナンパな男「バッカ、そこがいいんだよ。スレてない感じで」

軽めの男「でも、話しかけた瞬間、女の後ろにいた、黒服のボディーガードみたいな奴が睨んでくるんだもんな」

ナンパな男「お嬢様っぽかったし、あれ、SPって奴じゃね~の」

軽めの男「ある意味地雷踏んだって感じだったよな」

ナンパな男「あ~、でも顔はめっちゃ好みだったんだよな~。明日もいるかな~」

軽めの男「よせよ、命が幾つあっても足りねぇって」

88: 2010/06/27(日) 00:08:59.35
(´;ω;`)うっ…

92: 2010/06/27(日) 00:11:13.50
 ・ ・ ・ ・ ・

日焼けした男「昼間に話しかけた娘、可愛かったな~」

日焼けした男「でも、話しかけた瞬間になにやら良からぬ気配を感じて逃げてきたんだけど」

日焼けした男「あとで、その娘に似たポニーテールの女の子から
         『ぶっ頃す』っていきなり言われて……」

日焼けした男「きっと、その良からぬ気配はその娘の殺気だったんだろうな」

日焼けした男「あの時ほど氏を覚悟したことはなかった……」

日焼けした男「……」ブルブル

日焼けした男「思い出しただけで、震えてきた」

日焼けした男「毎年、何人かはこのフェスで喰ってるけど」

日焼けした男「今年は、もうおとなしく帰ろう……」

96: 2010/06/27(日) 00:15:14.81
 ・ ・ ・ ・ ・

 澪と律をナンパしようとした男たちの証言

 「黒い髪の可愛い娘をナンパしたら狐の亡霊が見えた」

 「黒い髪の女の子とカチューシャの可愛い二人組をナンパしようとしたら
  目が細めの女に『呪ってやろうか!』と脅された。あの目は本気だった」

 「髪の黒くて長い女をナンパしようと思ったら、急に体が動かなくなった
  遠くの方から視線を感じたのでそちらを見ると
  少し眠たそうな目をした女が藁人形をもって不気味に笑っていた」

 他、超常現象が多数報告される

105: 2010/06/27(日) 00:20:11.12
 ・ ・ ・ ・ ・

憂「なんとか一日目は何事も無く終わったみたいですね」

斎藤「はい」

憂「でも、さすがに夜通しお姉ちゃんたちのテントを見張ってるわけにもいかないし……」

斎藤「ご安心下さい。我が琴吹家シークレット・サービスが二十四時間体勢でお嬢様の身辺を警護しております」

斎藤「あのテントの半径100メートル以内は何人たりとも侵入することはできません」

憂「それは、心強いです!」

恵「はぁ~……、さすがに妖術の連発は体に堪えるわ……」

憂「曽我部さん、お疲れ様です」

恵「お疲れ様、平沢憂さん」

憂「憂でいいですよ」

恵「そう? じゃあ、私のことも恵って呼んでね」

斎藤「どうぞ、曽我部様、お夜食にございます」

恵「ありがとうございます」

106: 2010/06/27(日) 00:26:55.14
恵「でも、良かったわ。これで私の秋山さんに変な虫が寄り付くこともないし」

斎藤「憂様には感謝をしなければなりません。よくぞ知らせていただけました」

恵「本当に。もし私の秋山さんが欲望の塊でしかない男共に蹂躙されてしまうかと思うと……」

斎藤「この斎藤、もし紬お嬢様にどこの馬の骨とも知れぬ者が近づこうものなら……」

憂「いえ、私も一人じゃさすがに二十四時間体勢でお姉ちゃんを守ることは難しかったので」

憂「琴吹家の協力を得ることができて本当に助かりました」

斎藤「しかし、あの憂様の殺気の迫力、目を見張るものがありましたぞ
   よろしければ流派を教えていただけませんかな?」

憂「いえ、我流です」

斎藤「なんと!? お若いのによもやそこまでとは……」

憂「お姉ちゃんを守りたい一身なだけです」

斎藤「想う心が強さ……というわけですな」

憂「はい」

斎藤「これは感服いたしました」

113: 2010/06/27(日) 00:33:18.00
恵「ほんと、憂さんには驚かされたわ」

憂「そういう恵さんも、見事な妖術でしたよ」

恵「うふふ、ありがとう」

憂「どこであのような妖術を身につけていらしたんですか?」

恵「私の一族はね、代々狐に憑かれているのよ。ほら、私もどことなく狐似でしょ?」

憂「そう言われれば……」

斎藤「その昔、人間を幻惑させ悪さをする狐を退治し、その狐の生き血を飲み妖術を会得したという
   古い伝説を聞いたとこがありますが、もしや……」

恵「ええ、その祖先の直系が我が曽我部家なんです」

斎藤「なんと……」

恵「何世代かに一度、産声が『こーん』という女児が生まれる。その女は妖術の血を色濃く受け継ぐ者……」

恵「それが私なの」

憂「そうだったんですね」

恵「昔は、よくおばばに妖術の特訓と称してシゴキを受けたわ」

恵「これを次の世代に受け継いでいかせるにはお前しかいない! ってね」

118: 2010/06/27(日) 00:38:39.60
恵「とても厳しかった……」

恵「友達と遊ぶ時間さえなく、妖術の特訓の毎日」

恵「小さな頃はこの自分の血を呪ったわ」

憂「恵さん……」

恵「でも、今では良かったと思っているわ」

恵「だって、秋山さんを守ることができたんですもの、この私の妖術で!」

憂「そうですよ! このときのためにそれがあったんです!」

恵「そうね、私もそう思うわ!」

斎藤「人の力というのは、想い人がいるほど強くなるものでございます」

123: 2010/06/27(日) 00:44:06.32
憂「でも、あと一日あります。気を抜かないようにしないと」

恵「ええ、わかってるわ」

斎藤「明日は人員を倍増して臨みましょう」

紬「そんなに人を増やしてどうするのかしら?」

斎藤「もちろん、紬お嬢様に近づく下賎な輩を排除するため……」

紬「へ~……、そんなとこをしていたのね」

憂・恵・斎藤「!!?」

斎藤「つ、紬お嬢様!? 何故ここに!」

紬「それは、私のセリフよ! 斎藤!」

紬「お手洗いに行こうと思ったら、私たちのテントの周辺を
  夏の夜なのに、サングラスと黒のスーツで決めた集団が徘徊していました」

紬「このスーツにあるマークは琴吹のシークレット・サービスよね?」

紬「私が詰め寄ったら、すぐにここに貴方がいると吐いたわ」

琴吹家SP「申し訳ありません、執事長……」

斎藤「……」

128: 2010/06/27(日) 00:49:16.87
紬「さぁ、説明してもらいましょうか? 斎藤」

斎藤「お、お嬢様、これは……」

律「おーいムギ、あんまり夜に出歩いちゃ危ないぞ~」

澪「まぁ、私たちは不細工だから襲われる心配もないだろうけど……」

梓「もう、忘れましょうよ……」

唯「って、あれ? 憂? なんでここにいるの?」

憂「ぐ、偶然だね~、お姉ちゃん」

恵 そろ~り……

律「そっちにいるのは、曽我部先輩?」

恵「!?」ギクッ!!

澪「どうして、ムギの家の執事さんや憂ちゃんと一緒にいるんですか?」

133: 2010/06/27(日) 00:55:13.42
恵「じ、実は私たち仲良しさんなのよ」

憂「そう! そうなんだよ、お姉ちゃん!」

斎藤「恵や憂ったら、はしゃぎすぎちゃって困ってたのよ~」

憂・恵・斎藤「ね~♪」

紬「嘘をおっしゃい」

斎藤「申し訳ありません、紬お嬢様……」

憂・恵「……」

斎藤「我々はお嬢様方が心配のあまり、出過ぎた真似をしてしまいました」

紬「では、今まで話しかけてきた殿方が急に私たちから遠ざかっていったりしたのも」

斎藤「我々の仕業でございます」

律「ど、どういうことなんだ、いったい?」

澪「つまり、男の人にことごとく避けられたのは私たちのせいではない、と」

梓「不細工だから避けられていたんじゃないんですね!」

137: 2010/06/27(日) 01:00:07.81
唯「なんで、そんなことしたの、憂」

憂「だ、だって、私……、お姉ちゃんのことが心配で……」

憂「食べ物に釣られて、男の人について行っちゃうんじゃないかって心配で、心配で……」

梓(けっこう合ってる……)

憂「それに、家にいたって一人で寂しいし、私……私……」ウルウル

唯「憂……」

唯「ごめんね、憂……。そうだよね、寂しかったよね」ギュッ

憂「お、お゛ね゛え゛ぢゃん……」ビエ~ン

唯「私も、このフェスの雰囲気に飲まれて浮かれていたのかもね」

唯「ナンパされたいなんて思ったりしてさ」

唯「でも、だからと言って、他の人においたは駄目だよ」メッ!!

憂「こ゛め゛ん゛な゛さ゛い゛~」

唯「よしよし……」ナデナデ

144: 2010/06/27(日) 01:08:53.94
唯「明日は、憂も一緒に会場を回ろうね」

憂「いいの!?」

唯「だって、せっかく来たんだから楽しまなきゃ」

憂「でも、私、お姉ちゃんが男に話しかけられたらまた邪魔しちゃうかも……」

唯「別にいいんだよ」

憂「えっ!?」

唯「だって、今は男の人といるよりも、きっと軽音部の皆や憂といる方が楽しいもん」

憂「お姉ちゃん」ウルウル

唯「でも、間違っても息の根を止めちゃ駄目だよ」

憂「うん! 充分に手加減するよ!」

唯「それでよし! やっぱり良くできた妹だよ♪」

梓「いや、危害加えたら駄目でしょ……」

148: 2010/06/27(日) 01:13:30.37
恵「お、お久しぶりね、秋山さん」

澪「曽我部先輩も、邪魔をなさってたんですね」

恵「……認めるわ」

律「いったいどうやって……」

恵「妖術を少々……」

澪「妖術?」

律「なんだそりゃ」

恵「でも、そうよね。夏は恋の季節だもんね」

恵「いくら、恥ずかしがり屋の秋山さんだって男とくんずほぐれつしたくなるわよね」

澪「なんだか卑猥です」

恵「あなたを守っていた気でいたけど、結局は嫌がらせでしかないわよね」

恵「そんな私はもう二度とあなたの前に姿を現すことはないわ……」

恵「さようなら、秋山さん……」

澪「ま、待って下さい!」

恵「!?」

151: 2010/06/27(日) 01:18:35.84
澪「確かに、若干やり過ぎた感もあるでしょうが」

澪「私は、男の人に話しかけられるのって、本当に嫌だったし……」

澪「妖術とかよくわかりませんけど、正直言ってすごく助かりました!」

恵「秋山さん……」

澪「それに……」

恵「それに?」

澪「男の人が避けるのは私の原因じゃないって思えただけで救われたんで……」

律「不細工返上だな」

恵「不細工? そんな!? 秋山さんが不細工なわけないじゃない!」

恵「秋山さんは、みおたんは……」

恵「世界一! かわいいよ!」

澪「あ、ありがとうございます」

恵「うおおおおおおおおおおぉぉぉぉ!!!!」

律「なんだこれ……」

156: 2010/06/27(日) 01:24:47.92
恵「もう、私満足だわ……、いつ氏んでもいい……」

律(前から変な人だと思ってたけど、やっぱり変人だな……)

澪「あ、あの」

恵「?」

澪「前のファンクラブのお茶会に曽我部先輩は出られなかったじゃないですか」

恵「ええ、そうね……、カッコつけて私は気にせずにやってとは言ったけど
  本心を言うと、とてもすごくやるせないくらい残念だったわ」

澪「なので、その代わりと言ってはなんですが、明日私たちと一緒に回りませんか?」

恵「えっ……」

澪「律も別にいいよな」

律「いいよ。あのお茶会は私もなんだかんだいって楽しませてもらったし」

律「そもそもの切っ掛けを作ってくれた曽我部先輩に恩返しをしてもバチはあたんないだろ」

恵「秋山さん……、ありがとう!!」

澪「いえいえ」

律「あの……私は……?」

158: 2010/06/27(日) 01:29:14.21
紬「斎藤、何故このようなことをしたの?」

斎藤「申し訳ありません」

紬「この野外ライブに来ている人たちに迷惑だとは考えなかったの?」

斎藤「お嬢様のおっしゃるとおりでございます。この斎藤、お嬢様しか見えておりませんでした」

紬「あなたには罰が必要ね」

斎藤「なんなりとお申し付け下さいませ」

紬「あなたを今日限りで琴吹家の執事から解任します」

斎藤(ああ……、琴吹家に仕えて40年。ついにわたくしの執事人生も終焉を告げた……)

斎藤「わかりました、お嬢様。今まで琴吹家にお仕えすることができてこの斎藤は幸せでした」

斎藤「どうぞ、旦那様にもそうお伝え下さいませ」

斎藤「それでは……失礼いたします」

紬「何を勘違いしているの? 斎藤」

斎藤「はっ?」

160: 2010/06/27(日) 01:35:58.87
紬「琴吹家の執事を『解任』と言ったのよ。解雇じゃないわ」

斎藤「と、申されますと……?」

紬「新たに、私個人、この琴吹紬の使用人に任命します」

斎藤「お、お嬢様……!!」

紬「だから、明日からは、あなた自身で私を守ってみなさい」

紬「SPを使って裏から姑息な真似をせずに、紳士的に私を守ってみなさい」

紬「私が小さい頃、屋敷で飼っていたライオンが逃げ出し、庭で遊んでいた私を襲ってきた」

紬「そのとき貴方は、私をその身一つで守ってくれた」

紬「そのときのように私を守ればいいのよ」

斎藤「はい、お嬢様のためなら喜んで」

紬「頼りにしているわ、なんせ私は貴方を第二の父と思ってるんだから」

斎藤「お、お嬢様……、有り難きお言葉に御座います!」よよよ……

紬「そして、今日は焼きそばを食べたので、明日は必ずお好み焼きを手に入れるのよ!」

斎藤「かしこまりました、お嬢様!」

161: 2010/06/27(日) 01:41:03.71
梓「なんだかんだで一件落着、ですね」

澪「まぁな」

律「でも、本当に良かった~」

唯「私たち不細工じゃなかったんだね♪」

紬「そうね、安心したわ」



澪(でもな~……)

紬(私たち、結構色々と曝け出しちゃったし……)

唯(皆、なんだかんだでキャラ作ってたよね……)

律(これから先、なんだかやりにくくなりそうだな……)

梓(先輩たちも、同じとこ考えているんだろうな……)



軽音部一同「はぁ~……」

164: 2010/06/27(日) 01:46:14.05
新学期 軽音部部室

律「ちょっと、小腹が減ったな……」

紬「今日は結構暑いから、おやつはかき氷なんだけど……」

澪「それじゃあ、腹は膨れないな」

唯「今日の体育は、なんだかいつもよりきつかったもんね~」

律「仕方ない、最終兵器を取り出すか」

唯「なになに?」

律「じゃ~ん! カップヌードル!」

唯「ああ~! いいなぁ……」

律「へっへ~ん、備えあれば憂いなしってな」

律「あ、ムギ、お湯沸かしてくんない?」

紬「お湯をどうするの?」

澪「ムギは知らないのか? カップヌードル」

紬「初めて見たわ!」

唯「へ~……」

166: 2010/06/27(日) 01:51:25.05
律「お湯を注ぐだけで、ラーメンができるんだよ」

紬「すごいわ! それって屋敷のシェフ要らずね!」

澪「……うん、まぁ、そうかな」

紬「たったの3分でそれなりの美味しさのものが食べられるなんて
  さすが日清さんね!! ちなみに私はシーフード味が好きよ!!」

律「知らないのに、色々知ってるんだな」

澪「3分も日清もシーフード味があるっていうのも誰も言ってないぞ」

紬「……あっ!?」

律「……」

澪「……」

紬「……」

唯「お嬢様キャラの世間知らず気取り」ボソッ

紬「!?」

170: 2010/06/27(日) 01:57:11.08
梓「遅れてすみません!」

唯「あ! あずにゃ~ん!」ダキッ!!

梓「に゛ゃっ!?」

澪(またキャラ作ってる……)

梓「暑苦しいのに、抱きつかないでくださいですぅ~」

梓「それに、夏休みも終わって学園祭も近いんですから、早く練習始めるです!」

紬(無理がありすぎるわ……)

梓「ほら、唯先輩も早くギター持ってください!」

唯「……う、うん」

梓「今年こそは完璧なライブをやってやるです!」

律「必氏だな、見苦しいぞ」

梓「!?」

172: 2010/06/27(日) 02:06:39.07
澪「そ、そういえばさ~、新しい詞書いてきたんだけど」

唯「あっ! 見たい見たい!」

律「どれどれ?『恋のサインは ヒット・エンド・ラヴ』」

梓(また、そんな斬新な……)

澪「甲子園見てるときに思いついてさ」

紬「りっちゃん、読んでみて」

律「私の気持ちを貴方の本塁(ハート)に届けたい でも今はそんな気持ちもまだ一塁ベース上」

律「早く思いを伝えなきゃ だけどライバルは豪速球投手」

律「送りバント? ノンノン ワンナウトも無駄にしたくない だから作戦はヒット・エンド・ラン」

律「ライナーバック 失恋ゲッツーはご勘弁 ショートの脇を抜けたなら もうこの気持は止められない」

律「貴方の本塁(ハート)まで長駆ホームイン 恋のサインはヒット・エンド・ラヴ」

173: 2010/06/27(日) 02:10:17.11
澪「どうかな……? 頑張って書いてきたんだけど……」

律(こいつ、わざとやってるんだろうな……)

紬(変わってるわね、って言ったら満足なのかしら……)

唯(もっと普通の歌詞書いてきてよ……)

澪「やっぱり、私の感性って他人とはちょっと違うからなぁ~」チラッ

唯「……」

律「……」

紬「……」

梓「……キモッ」

澪「!?」

176: 2010/06/27(日) 02:17:02.72
律「そ、そういや、甲子園って言えばさ、延長15回の熱闘!」

唯「○×高校の△□君だよね! 私感動しちゃった!」

紬「確か一人で15回まで200球以上投げたのよね」

律「そうそう、途中で爪が割れて血が出ても投げ続けたんだよな」

律「だから血染めの球って話題になってさ」チラッ

澪「聞こえない聞こえない……」

律「あーっ! 私も練習のし過ぎで豆が潰れて血染めのドラムスティックだー!」

澪「いやーーー!!!!」

律「へへへ~」ニヤニヤ

梓(また、こうやって人気のある澪先輩をいじめて注目を得ようとしている……)

唯(りっちゃんも、あいかわらずワンパターンだよね
  まぁ、澪ちゃんも、本当は怖がってないんだろうけど……)

紬「……コバンザメ女」

律「!?」

180: 2010/06/27(日) 02:22:57.79
唯「ね、ねぇ、そろそろ練習しようよ。さっきあずにゃんが言ったみたいに
  学園祭も近いことだしさ」

澪「そうだな」ケロリ

梓(もう、私たちにはバレてるから立ち直り早い……)

律「じゃあ、やるか!」

紬「そうね!」

唯「それじゃあ、皆がんばろー!」

一同「おーっ!!」

唯「ギー太も頑張ろうね!」フンスッ!!

紬(唯ちゃん、まだギー太とか言ってる……)

唯「なになに? ふむふむ……」

梓「どうしたんですか? 唯先輩」

183: 2010/06/27(日) 02:26:49.08
唯「澪ちゃんのエリザベスも頑張るって言ってるよ!」

澪「……」

唯「りっちゃんのドラミもちゃんとエリザベスと協力しなきゃ駄目だよ
  いつも一人で突っ走ってエリザベスに迷惑かけてるんだから」

律「あ~……、そうなんだ~、へ~……」

唯「ムギちゃんとキー坊はすごく息が合っててキー坊も喜んでるよ♪」

紬「そ、そう……、よかったわ……」

唯「あずにゃんとむったんは、もはやツーカーの仲だね」

梓「そうですね、あ、あはは……」

唯「皆も自分のパートナーとしっかり心を通じ合わせてね!!」

澪「唯」

唯「なぁに? 澪ちゃん」

澪「すごく痛々しい」

唯「!?」

185: 2010/06/27(日) 02:31:46.92
唯「……」

律「……」

澪「……」

紬「……」

梓「……」


律「あっ! UFO!! ほら澪、あれってきっと地球侵略に来たんだぜ!
  韮澤潤一郎が言ってたから間違いない!」

澪「ひっ! ついに地球最後の日か!? 助けて大槻教授!」ガクブル

紬「それってどんな焼きそばなの!?
  もちろんかやくは麺の下にしてからお湯を注いだ方が良いなんて知るわけないわ!」

梓「そっちのUFOじゃありませんですぅ~! たとえ宇宙人が攻めて来たとしてもやってやるです!」

唯「違うよ、きっと宇宙人さんたちは私たちの演奏を聴きにきてくれたんだよ!
  だから歓迎の意味も込めて、皆で演奏しなきゃ!」フンスッ!!


 心にシコリを残しながらも、お互いにその点には目を瞑り
 空気を読み合おうと決めた軽音部であった

 おしまい

186: 2010/06/27(日) 02:33:24.48
さわちゃん どうなったんだ?

187: 2010/06/27(日) 02:35:00.41
おつ

188: 2010/06/27(日) 02:35:26.31
乙www
いや、いい終わり方だった

引用元: 唯「ナンパ!」