3: 2010/10/18(月) 22:14:23.98
憂「愛して欲しいなんて、そんな贅沢は言わない」

憂「私だけのものになって、なんて、そんな贅沢も言わない」

憂「……だから、せめて」

憂「遠くへ行かないで、ずっと傍にいてよ、お姉ちゃん」

5: 2010/10/18(月) 22:23:05.54
キミを見てるといつもハート DOKI DOKI♪

純「あっ、ラジオ」

憂「……」

純「放課後ティータイム、絶好調だね。今年は紅白にも出場できそうなんでしょ?」

憂「うん、そうだね」

純「すごいよなぁ。高校の頃に身近にいた人が、まさかあんな遠いところに行っちゃうなんてね」

憂「……」

7: 2010/10/18(月) 22:33:51.77
お姉ちゃんが大学へ進学して、一人暮らしを始めた時。
それまで傍にいる事が当たり前だった、お姉ちゃんがいなくなりました。
一人で食べる夕飯が、あまりにも寂しくて、私は毎晩泣いてしまいました。

……でも、今考えれば。
あれくらいの距離、大したことなかったんです。
私はもう高校3年生だったから、1年だけ我慢すればよかったんです。
実際、N女子大へ入学した私は、またお姉ちゃんと一緒に住むことになった訳だし。

8: 2010/10/18(月) 22:40:21.91
憂「お姉ちゃん、今日からまた一緒の生活だね!」

唯「うん、よろしくね、憂~」

憂「じゃあ私は早速、夕飯の支度をするよ」

唯「ふふふ、その必要は無いのだよ」

憂「えっ?」

唯「今日は憂の入学をお祝いするために、料理を作っておいたんだ~」

憂「……ええっ!?」

9: 2010/10/18(月) 22:49:09.05
その日のメニューは、カレーライスでした。
レトルトではありません。野菜と肉を切るところから、お姉ちゃんが作ってくれたんです。
1年前まで、ほとんど包丁も握った事がなかったのに。

その時、初めて私は気づいたんです。
お姉ちゃんは、私がいなくても生きていける。
私は、お姉ちゃんがいなくちゃ生きていけないのに。

お姉ちゃんが、私から離れていく。
考えただけでも恐ろしいことが、少しずつ現実になっていきました。

11: 2010/10/18(月) 22:59:50.74
1年後…

唯「ねぇねぇ、今度ライブハウスで演奏するんだよ!」

憂「お姉ちゃん、すごいね!」

2年後…

唯「ねぇねぇ、今度HTTソロでイベントを組んでもらえるんだよ!」

憂「お姉ちゃん、すごいね!」

3年後…

唯「ねぇねぇ、インディーズ契約だけど、CDデビューが決まったんだよ!」

憂「お姉ちゃん、すごいね!」

12: 2010/10/18(月) 23:12:37.97
トントン拍子で、夢に向かって進んでいくお姉ちゃん。
それを見守ることしか出来ない私。

お姉ちゃんは、いつの間にかプロのアーティストになっていました。
梓ちゃんの大学卒業を待って、メジャーレーベルに移籍。
デビューアルバム『放課後ティータイム』は、チャートの上位にランクインしました。

一方の私は、特に取り柄もない女子大生。
卒業後は、そこそこ有名な企業に就職して、雑用みたいな仕事をしているだけ。
キラキラ輝くお姉ちゃんを見ると、なんだか遠い存在のように感じることがあります。
おかしいな、お姉ちゃんは、すぐ傍にいるはずなのに。

14: 2010/10/18(月) 23:19:58.74
唯「初めての全国ツアーが決まったよ!」

憂「おめでとう、お姉ちゃん!」

唯「こんな感じのスケジュールなんだけど……」

憂「名古屋、大阪、福岡、仙台、札幌……」

唯「う~ん、1ヶ月くらい家に帰れないかもしれないね」

憂「そうだね。仕方ないよ、お姉ちゃん」

15: 2010/10/18(月) 23:28:05.50
仕事が忙しくなっていくお姉ちゃん。
家に帰れない日が増えたお姉ちゃん。

キラキラ輝いてるお姉ちゃん。
画面の向こうのお姉ちゃん。

離れていくお姉ちゃん。
遠くなるお姉ちゃん。

お姉ちゃん。
お姉ちゃん。

17: 2010/10/18(月) 23:34:38.21
憂「……あっ、そうか」

憂「私、お姉ちゃんのことが『好き』なんだ」

憂「お父さんやお母さんの『好き』じゃなくて」

憂「純ちゃんや梓ちゃんの『好き』でもなくて」

憂「恋人の『好き』なんだ、お姉ちゃんのことが」

19: 2010/10/18(月) 23:42:36.03
これだけ何年も一緒にいたくせに、今さら気づいた私。
お姉ちゃんのことを、きっと世界で一番愛している私。

暗い部屋に独りぼっちの私。
画面を見つめている私。

離れていくお姉ちゃん。
遠くなるお姉ちゃん。

こんなダメな私。
こんなダメな私。

20: 2010/10/18(月) 23:53:11.41
唯「HTTのみんなで話し合ったんだけどさ」

唯「音楽活動の拠点をロンドンに移そうかと思うんだ」

唯「日本では、アイドルみたいな扱いしかしてくれないけど」

唯「向こうのファンは、ちゃんと私たちの音楽性を評価してくれるから」

唯「住むところはムギちゃんが手配してくれるみたいなんだけど」

唯「……ねぇ、憂も一緒に来る?」

22: 2010/10/19(火) 00:14:28.79
お姉ちゃんの申し出を、私は断りました。
キラキラ輝くお姉ちゃんの傍に、私なんかが一緒にいたら、台無しだから。

ロンドンは遠いです。
お姉ちゃんが遠くへ行くのを、ただ見送るだけなんて悔しいです。
でも、今でも十分すぎるほど、お姉ちゃんは遠くにいるんです。
お姉ちゃんは目の前にいるけど、お姉ちゃんは遠くにいる。

愛して欲しかったわけじゃない。
お姉ちゃんが傍にいてくれたら、それで満足だったんです。
でも私はいつの間にか、その資格をなくしてしまったみたいなんです。

23: 2010/10/19(火) 00:21:14.32
唯「……憂はきっと、そう言うだろうと思ったよ」

憂「……えっ?」

唯「ふふふ、私は憂のことなら何でもお見通しだよ?」

憂「お、お姉ちゃん」

唯「ねぇ、例えばさ、こんなのはどうかな?」

憂「……通訳学校、のパンフレット?」

唯「その学校を卒業して、憂が自信を取り戻した時は、ロンドンに来てよ」

憂「……それって、つまり」

唯「私たちみんな、英語は苦手なんだよね。あはは」

25: 2010/10/19(火) 00:31:08.63
それから間もなくして、お姉ちゃんはHTTのメンバーとロンドンへ行ってしまいました。
私にとって、お姉ちゃんのいない、寂しい日々が始まるはずでした。

ところが、その寂しさを感じる暇がなくなってきました。
通訳の資格を取るための勉強が思いのほか大変で、毎日が忙しくなったからです。
そう言えば、高校3年生の時も、大学受験の勉強に集中することで寂しさを紛らわしていたんだっけ。

そして1年が経ちました。
私は猛勉強の末、通訳の資格を取ることに成功しました。

26: 2010/10/19(火) 00:36:57.64
純「行っちゃうんだね、ロンドンに」

憂「うん。お姉ちゃんが待ってるからね」

純「梓に続いて憂まで、私の遊び相手がどんどん少なくなる!」

憂「あれ、純ちゃんって他にもたくさん友達がいたはずじゃ」

純「みんな結婚して子育てが忙しいんだって。独身の友達は貴重なんだから」

憂「あはは、そっか。でも私は独身じゃないもん!」

純「……はぁ?」

憂「私はずっと、お姉ちゃんの傍にいるからね!」



おわり

28: 2010/10/19(火) 00:42:43.32
甘ぁーい甘すぎて溶けそうだGJ!

引用元: 憂「愛して欲しかったわけじゃない」