1: 2010/10/16(土) 19:55:38.31
未来…あした



3: 2010/10/16(土) 20:03:53.78
きっかけなんてない。
私はいつのまにか、未来が視えるようになっていた。
未来と言っても遠い先のことじゃないし、意識して視ることは出来ない。
視えた未来は全部明日のことで、私や軽音部の皆が将来何をしているかなんて
見当もつかない。

私は未来が視える自分の力が嫌いだった。
始まりはまだ幼い頃。こんなに怖がりになってしまった理由は多分、この力のせい。
夜中に突然目が覚め、目の前に明日の光景が広がっている。
幼い私は最初、怖いというよりも凄いと感じて周りの友達や大人に話した。
初め、笑って聞いてくれていた大人は私の予言が当たると段々気味悪がった。
友達も私を遠巻きに見るようになった。だから私は、「未来が視える」ことは変なんだと、
自分はおかしいんだとわかるようになった。

それからというもの、必氏に未来を視ないようにした。
その努力の甲斐があり、中学校に上った頃には殆ど視えないようになっていた。

けど、ここ最近、幼い頃のように頻繁に未来を視るようになっていた。

4: 2010/10/16(土) 20:07:36.83
あぁ、まただ。

私はベッドの中で蹲る。
未来が私の目の前に広がるとき、決まって一度、心臓が強く強く脈打ち、
こめかみが痛くなる。
こめかみの痛みがなくなると、私の前には未来(あした)が広がっているのだ。

はっきりと視えるときと、ぼんやりとしか視えないときとがあるけど、
今日はいやにはっきりだった。
声は聞こえない。視えるだけだ。
小さい頃は聞こえていた気もするが、思い出せない。

私が今視ている光景は、軽音部の部室でのいつものティータイムだった。

5: 2010/10/16(土) 20:16:08.93
律がお菓子を食べながら、身振り手振りを交えて話している。
それに合わせて明日の私や唯たちが笑ったりしている。

あ、明日のお菓子はチョコレートだ。

チョコレートに目を奪われていると、突然律が立ち上がりカバンを持った。
時間はわからないが、帰るにはまだ早い時間のはずだ。律が早めに帰るなんて珍しい。

と、突然視点が切り替わった。
こんなことは今までなかったから、私は戸惑った。

前に律の背中が見える。駅前の商店街のほうを歩いているみたいだ。
こっちの方に来ることはあまりないくせに、何の用があるんだろう。

律の足が止まった。どこかの店の前でいいものでも見つけたらしい。
急に視界がぼやけてきた。そろそろ未来が視えなくなる。
律は露店で何か買っているようだ。段々遠くなるその光景。

あれ?

遠くなっていく景色に、私は慌てて目を凝らした。律の後ろに二人、見たことも無い
怖そうな女子高生が立っていた。
一体誰なのか確かめようとしたところで何も視えなくなってしまった。


6: 2010/10/16(土) 20:20:55.65
ふっと身体に入っていた力を抜いた。
なんだ、今の人たちは。

心臓が凄い音をたてている。
もしかしたら視ている間に眠ってしまっていたのかも。
普段なら視点が移り変わるなんてこともないし。
それにあんな怖そうな女(ひと)達が律に絡もうとしてたなんて。
律は一見不良に見えないこともないけど、そっち方面の友達はいないはずだし……。

私はなんだか良くわからない不安な気持ちを抱えながら、寝返りを打って、
こんなこと忘れちゃおう、と目を閉じた。

――――― ――

8: 2010/10/16(土) 20:32:35.72
次の日の放課後。
ムギの持ってきたお菓子は、昨日視たとおりチョコレートだった。
律がそれを齧りながら「そういえばさあ」と口を開いた。

「昨日、私万引き犯捕まえちゃったんだよなあ」
「え、すごーい!どこでどこで!?」
「まあ落ち着け、唯隊員。昨日ちょっと用があって、商店街のほう行ったんだわ」

商店街。
その言葉が少しだけ心に引っ掛かった。

「で、たまたま入った店で多分年下の――梓と同い年だと思う――子が万引きして
たの見掛けてさ。捕まえた」
「逃げなかったの?」
「いや、私にバレたのがわかると逃げようとした。けど、それより先に私が
捕まえたってわけ」

そんなあっさりと言えることなのか。それよりどうして商店街なんかに?
昨日視た限り、律は今日も商店街に行くはずなのに。

「それでその子はどうしたんですか?警察とか盗った店に連れて行ったんですか?」

9: 2010/10/16(土) 20:40:12.60
梓が訊ねると、律はううん、と首を振った。

「謝ってきたし、もう二度としないって言って泣いちゃうからさ。警察とか店に
突き出すのがかわいそうになって盗った奴返させて逃がした」
「そういうのは警察に連れて行ったほうが」

私の言葉に、梓が「そうですよ」と同意した。

「ていうか万引きする人って大体不良グループが絡んでるらしいですし、ここ最近、
この辺りでもそういうグループの中でも凶悪なグループが目立った行動してるらしいですし。
逃がしたその子が律先輩のこと話したりしてたら結構危ないんじゃないですか?」
「ないない、大丈夫だって!」

律は笑いながら手を振ると、立ち上がった。
私の頭の中に、昨日視たあの光景が浮かび上がる。

「帰るのか?」
「うん、まあな」

コートを着込んで、マフラーを巻きながら律は頷いた。鼻歌まで歌って、随分と
ご機嫌なようだ。

どうしよう、このまま行かせちゃっていいのかな。

10: 2010/10/16(土) 20:48:36.15
梓の言う、不良グループとか危ないとか、そんな言葉が私の頭の中で
昨日視た光景を呼び起こさせる。

せめて私が一緒に行ったほうが……。

「私も一緒に帰る!」と立ち上がったとき、突然心臓が大きく脈打って、こめかみが
痛くなった。痛みはすぐに治まり、私の目の前は部室ではなく、明日の光景が広がっていた。

律がいる。私がいる。多分、ここは私の部屋だ。律が明日遊びに来るのか。
でも私たち二人とも様子が変。私は何でかわからないけど怒っている。
律はそれを悲しそうな顔で見ていた。そして、律は私に何か告げて部屋を去っていった。

「澪っ、澪!大丈夫か?」

いつのまにか私は部室のソファーに座っていた。律や、他の皆が心配そうに私を
見ていた。

「……私」
「突然ふらってしてさ。貧血?大丈夫か?」
「うん……」


12: 2010/10/16(土) 20:57:03.98
未来を視ているとき、どうやら私は倒れてしまうらしい。
自分じゃそんなつもりはないんだけど、皆には気絶しているように見えるのかな。

私は学校や皆が居るときに未来を視たことがないし、皆にも、勿論律にもこの力の
ことを話したことはなかった。
だから私はまだ心配そうな皆に「大丈夫だから」と笑ってみせた。

あんなものを視たあとでは、上手く笑えているかどうかわからなかったけど、
とりあえず、私はさっき視えたことについては何も考えないことにした。
どうせ明日起こることなんだ。わかっていたら、喧嘩(かどうかわからないけど)
する前に止められるだろうけど、今は思い出したくない。

「そっか」

律がほっとしたように言うと、私に手を差し出した。
その意図が掴めず律を見上げると、「帰るぞ」と言ってカバンとコートを渡され、
私は律の手を掴んで立ち上がった。

「じゃ、悪いけど私等今日先帰るわ」
「うん、じゃあね、りっちゃん、澪ちゃん」
「また明日。澪ちゃん、無理しちゃだめよ?」
「不良さんたちには気をつけてくださいね、律先輩!」
「だーから、大丈夫だっつーの!」

私も皆に手を振って、律と一緒に部室を出た。

14: 2010/10/16(土) 21:11:45.38
廊下を歩きながら、律が「今日は大人しく帰るか」と呟いた。

「え?何で?商店街行くんじゃなかったの?」
「いや、そのつもりだったけど……、っていうかなんで澪が知ってんの?」

律が不思議そうな顔をして訊ねてくる。
しまった。
私は慌てて「いや、なんとなく、かな?」と乾いた笑いを漏らした。

「ふーん」
「それで、行かないの?」

出来れば行って欲しくない。昨日視たあの光景にいた怖そうな人たちが、
梓の言うような不良グループの仲間と決まったわけじゃないけど、やっぱり
怖いものは怖い。

「うん、でもやっぱ澪が心配だしさ」

律はそう言うと自分で言って照れたのか、そっぽを向いてしまった。
バカ、心配なのはこっちだ。
けどもし律が本当に私のことが心配で行きたかったとこに行けなかったんだと
すると悪い。私は迷った末、言った。
大丈夫、もしあの人たちを見かけたらその場から離れればいいんだから。

「いいよ、行こうよ」

16: 2010/10/16(土) 21:18:12.11
「え……」

律が少しだけ驚いたように私を見た。
それから「でも……」と言って目を逸らす。

「何だよ?何か私の前じゃ買い辛いものでも買いに行くのか?」
「べ、別にそんなんじゃねーし!」

図星、なのかな?
律が声を張り上げた。私はおかしくなって笑いながら、「大丈夫、何買ったか見ないから」
と言ってやると、「ほんとか?」と律が訊ねてきた。私は頷く。

「なら……、澪も体調が大丈夫なんなら、行こっか」
「うん」


17: 2010/10/16(土) 21:40:48.04
商店街は、いつもより人の数が多くて混み合っていた。
店のあちこちに飾られたツリーや飾りつけが、私にもうすぐクリスマスなんだという
ことを思い出させてくれた。

「さみー……」

隣で律がぶるぶると震えている。
今年のクリスマスプレゼント、どうしようかな。また軽音部の皆でパーティーでも
して盛り上がるんだろうか。
もちろん、考えたってその日が視えるわけでもないので、とりあえずプレゼントの件は
保留にすることにする。律へのクリスマスプレゼント以外、は。

「あ、澪、ちょっと待ってて」

と、律が何か見つけたのか私にそう言い置いてどこかへ走っていた。
私はその先を見てハッとした。
律の向かった先には、昨日視たあのお店があったから。

18: 2010/10/16(土) 21:50:04.08
「あ、律!」

止めようとしたけど遅かった。既に律の背中は人混みに紛れて見えなくなって
しまった。とりあえず辺りを見回し、怖そうな女子高生がいないか確認。
一応自分も女子高生なのにこんなにびくびくしてしまう自分が情けない。
けど、後ろに凶悪不良グループがあるとか考えると……。

あぁ、だめだ。しっかりしなきゃ。

とりあえず、近くにそれらしき人たちはいなかったので、私は少しだけほっとしながら
律の走っていった方向に足を進めた。
人混みを掻き分けながらやっと律の姿を見つけた私は、固まってしまった。

昨日よく顔は視えなかったけど、わかってしまった。
あの二人組が、律と一緒に居る。

落ち着け、私。別にまだ怖い人って決まったわけじゃないんだ。
そうだ、まずは様子を見てから、大丈夫そうだと思ったら出て行こう。

20: 2010/10/16(土) 22:00:31.44
「……すよ、それで……から」

だめだ、遠すぎて聞こえない。
律は笑ってるからやっぱりそこまで怖い人たちじゃないのかな?
もしかして、私が知らないだけで律の友達だったりする?

あ、何かメモを渡された。律はそれを受取った。
何だ、あれ。
必氏で見ようとしたのが悪かった。数歩足を踏み出してしまった。

律たちの前に出てしまった私は、「あ」と間抜けな顔をした。

「何やってんだよ、澪!見るなって言ったのにもしかして見てたのか?」
「あ、いや……」

ちらり、と二人組みを見る。二人組みは、私を品定めするように見ていて、私は
身体をカチンコチンに緊張させて、ぺこっと頭を下げた。
二人組みは私に何も言うことなく「それじゃ、さっきのこと考えといて」と手を上げ
去っていった。

21: 2010/10/16(土) 22:07:30.90
「律、さっきの話って……」
「ん?あー、何でもない」

二人組みが去るのを見送ってから、私は律に訊ねた。律は答えるのが嫌なのか、
曖昧にそう言って話を逸らした。

「買うもんも買ったし、もう寒いし、帰るか」
「うん?……そうだな」

空を見上げると今にも泣き出しそうな空が広がっていた。
もしかしたら、今夜、雪が降るかも。
クリスマス前に雪なんて、この辺りじゃ珍しいけど。

「雪、降りそうだなあ」

律が同じ事を思っていたのか、白い息を吐いて呟いた。
私はそうだな、と頷くと、もうあの二人組みのことは考えないようにして歩き出した。
律が何でもないって言うんだからきっと何でもないんだろう。
そう思うことにした。


22: 2010/10/16(土) 22:12:52.89
その夜、私は何も視なかった。
だから久しぶりにぐっすり眠ることが出来た。

朝目が覚めると、外は一面銀世界だった。

「雪、本当に降ったんだ……」

携帯を開ける。唯とムギからメールが来ていた。どっちも私のことを心配する
メールだ。そういえば昨日、家に帰ってから携帯開けてなかったな。
私は学校に行く前に二人にメールの返信をすると、まだぼーっとしている頭を
目覚めさせようと部屋を出た。


24: 2010/10/16(土) 22:20:11.94
家の扉を開けると、冷たい風が私の頬を撫でた。
雪が積もっているせいで、いつもより数倍は寒い。
今はもう止んでて良かった、と思いながら玄関を出ると、家の前に律がいた。

「さむっ……って、あれ?律?」
「あ、澪……。おはよ」
「うん、おはよう。どうして家の前にいるんだ?朝苦手なくせに」

今日は雪が積もってるから急いで滑ったりしないように早めに家を出たのだ。
律なんていつも、遅刻ぎりぎりで教室に入ってくるから、高校の最初のほうは一緒に
登校してたときもあったけど最近は一緒に登校することは少なくなっていた。

そんな律が朝早くから、しかも家の前で待ってるなんて。

「ちょっとな」

律はそう言って苦笑した。その声が少し疲れているように聞こえて、私は首を傾げた。
頭に昨日の二人組みのことが過ったけど、考えすぎだと思って律の横に並んで
私たちは学校に向かって歩き出した。


25: 2010/10/16(土) 22:24:26.14
いつもなら朝でもテンションの高い律が私に話しかけてくるのに、今日の律は
やけに静かだった。何も話さずに数分が過ぎる。
別に律との間に出来る沈黙が嫌いなわけじゃない。ただ、あまりこういうことは
ないので、少しだけ居心地が悪い。

「なあ」

私が痺れを切らして声を掛けようとした瞬間、律が口を開いた。
私は一旦開けた口を閉じると、「なに?」と答えを返した。

「今日、放課後澪ん家遊びに行って良いか?」
「へ?いいけど……」

本当にどうしたんだろう。普段はそんなこと聞いてくる奴じゃないのに。
いつのまにか私の家に来て、いつのまにか私の部屋に居座ってる奴なのに。

「律、何かあったのか?」

私が訊ねると、律は「何でもない」と慌てたように首を振り、「今日は一段とさみーな」と
誤魔化すように笑った。


26: 2010/10/16(土) 22:31:13.13
長い授業が終わり、放課後になった。
授業中も、昼休みも、今日はいつもの律じゃなかった。
唯やムギもそんな律を心配して色々聞いてたけど「ほんとに何でもないから」の
一点張りだった。

んじゃ、部室行くか。

今日はいつもの律の号令もなかった。
その代わり律は、私に「行くぞ」と言って教室を出た。

「りっちゃん、部活は!?」
「悪い、今日は欠席」

唯が訊ねると、律は振り向きも立ち止まりもせずにそう言った。
私は唯とムギに「私も、ごめんな」と謝ると、律を追いかけた。

「おい、律、別に休むこともないだろ?部活終わってから家に来れば……」
「それじゃ時間が無いんだよ」

律に追いつき、私が少しキツい口調で律にそう言うと、律はそれよりもっと乱暴な
口調で、不機嫌なときの低い声で答えた。

27: 2010/10/16(土) 22:37:23.24
時間がない?どういうことだよ!

私はそう訊ねようとして、やめた。
昨日視たことを思い出す。そうだ、もしかしたら私がこう言ったからあんなふうに
喧嘩しちゃったのかも知れない。こんなことで怒ることもないんだし。

「……わかったよ」

私は一旦喉まで出掛かった言葉を飲み込むと、頷いた。



朝と同じく、殆ど何も話さないまま家に着くと、律は「お邪魔します」と言って
家に入ってきた。

「先に部屋入ってて、何か持ってくるから」
「いいよ、別に。すぐ帰るし」

やっぱりおかしい。いつもなら私が何も持ってこないと「澪、お菓子!」とか
言ってくるのに。私はとりあえず、「そうか?」と言うと先に立って部屋へと続く階段を
上り始めた。

28: 2010/10/16(土) 22:42:35.83
「それで?一体なに?」

部屋に入って扉を閉め、暖房を入れると、私はタイを緩めてブレザーを脱いで
訊ねた。律もタイを緩めながら、私のベッドにどさっと座った。

「うん」

律は気の無い返事をすると、私の部屋をゆっくりと見回した。
いつも来てるんだから、私は何で律がそんなことするのかわからなかった。

再び、私たちの元に沈黙が落ちてくる。
律はずっと黙ったまま自分の指先を見ている。
私はすることもなくって、CDプレイヤーに律が私に初めて「音楽」というものを
教えてくれた曲をセットして、少し大きめのボリュームで流した。

ベースとドラムが絡み合う間奏に入ったとき、律はやっと口を開いた。

「退部届け出したから」

32: 2010/10/16(土) 22:59:37.59

「え?」

私は耳を疑った。聞き間違いであってほしかった。
だけど律は。

「今日、退部届け出したから」

同じ言葉を繰り返すだけだった。
私は突然のことで、何も言葉が浮かばずに、ただ「何でだよ!?」と律に詰め寄った。

なんで!?
なんで私や唯達に何も言わずにそんなものを出したんだ!?
さわ子先生は受取ったのか!?
なんで軽音部を辞めちゃうんだよ!?

「……もう、決めたことだし」

律は私に詰め寄られても、ただ苦しそうな表情をするだけでそれ以外は何も
言わない。

34: 2010/10/16(土) 23:03:11.34
「なんで、だよ……」

私はバカみたいに同じ言葉を繰り返すしかなかった。
悔しくて、悲しくて、寂しくて、色々な感情がごちゃ混ぜになって、涙となって
溢れてくる。

あ、と思った時には遅く、私の目から次々と涙が頬を伝って流れ落ちて行った。

泣いちゃだめだ。泣いたら律は、昨日視たように出て行ってしまう。
出て行ったら私たちはもう――

「それだけだし。じゃ」

律は私の涙から目を逸らすと、立ち上がった。
私は「待って!」と律の手を掴んですがった。だけど律は私の手を振り払った。

「律……」
「もうこれからは私に構うな」

律は冷たい顔で、だけど私よりも悲しそうな顔で、そう言って、部屋を出て行った。
玄関の閉まる音がした。
部屋は暖かいはずなのに、律がいないこの部屋は、震えるほど寒いと感じた。

――――― ――

35: 2010/10/16(土) 23:09:34.81
律にメールを打った。

『何があったのかは知らないけど、これからも友達だよな?』

バカみたいな内容。
何度も書いては消してを繰り返し、やっと思いついた文がこれだった。
私は震える指で送信ボタンを押した。返事はいつまで経っても返ってこなかった。

夜、私は何度も目を覚ました。
寒くも無いのに、怖い夢を見て何度も。こんなとき、いつも私は律に電話する。
律はどんなに夜遅くても優しく私の話を聞いてくれた。

何度目かに目を覚ました私は、眠るのを諦めた。

何で、と思う。
律は昨日まで何も変わったとこはなかった。
なのに何で突然今日、あんなことを言い出したんだよ。

「なあ、律」

虚しい問い掛けは、部屋の壁に反響して夜の闇に消えていった。

今夜もまた、私は未来を視なかった。




36: 2010/10/16(土) 23:17:17.83
翌朝、寝不足の頭で外に出た。昨日の雪はまだ半分ほど溶けないで残っていた。
玄関を出たら律が申し訳なさそうな顔をして立ってるんじゃないかって期待したけど、
やっぱり律はいなかった。

私は一人、律とおそろいで買ったマフラーを巻いて通学路を歩く。
あとちょっとで校舎が見えるところに差し掛かったとき、後ろから誰かの走る音が
聞こえてきた。

「澪ちゃん!」

名前を呼ばれ振り向くと、唯がいた。
立ち止まって唯が追いつくのを待っていると、唯はものの数秒後、私の前で
大きく肩で息をしていた。

「澪ちゃん……っ、りっちゃんが、軽音部辞める、って、ほんと!?」

62: 2010/10/17(日) 12:04:02.84
唯は息を切らせながらも、必氏に言葉を紡いだ。
私が答えに詰っていると、唯は「これ」と言ってカバンの中から携帯を出して
開くと私に差し出した。

唯が私に見せたのは、律からのメールだった。

『軽音部辞めたから』

絵文字も何もない、ただ黒い文字だけのメール。

「私、冗談だよねって何度も電話したんだけど……」

律が電話に出ないのは私だけじゃなかったんだ。
それを知って、少しホッとした自分に気付き、私は自分が嫌になった。

「とりあえず、さわ子先生に聞きに行こう」

私はそう言うと、歩き出した。
隣に唯がいるのに、私の心はさっきとちっとも変わらず冷たいままだった。


63: 2010/10/17(日) 12:09:48.13
職員室に行く前に、ムギにも会った。
梓はメールで本当なんですかと訊ねてきた。
皆律のことを心配している。なのに何で。

職員室にさわ子先生の姿はなかった。

「すみません、山中先生は……」
「出張だよ」

一応訊ねてみると、そんな答えが返ってきただけだった。

その日、律は学校を無断欠席した。
私はほんの少し、律が来なかったことに安堵した。どんな顔で律に会えば
いいのか、わからなかったから。



けど、その次の日も、また次の日も、律の無断欠席は続いた。
さわ子先生はただ、「大丈夫だから」と言って私たちの質問には何も
答えてくれなかった。

「……、律先輩、本当にどうしたんでしょう」

放課後。梓は机に頬杖をつきながら、律のいるはずの場所を見て言った。
私たちも、何も言わずに同じようにその場所を見る。
ふいに梓が、「もしかして」と口を開いた。

「不良グループの仲間に引き入れられてたりして」

64: 2010/10/17(日) 12:13:59.30
「え!?あずにゃん、それ本当なの!?」
「唯ちゃん、落ち着いて。梓ちゃんはもしかして、って言ったんだから」

心臓が、どきんどきん、と音をたてる。
律と商店街に行った日のことを思い出す。

二人組。
律の様子。
渡されたメモ用紙。
「それじゃ、さっきのこと考えといて」
それに、ここ最近の無断欠席。

もし、梓の言ったことが当たっているとしたら。

律のことだ。
私たちを巻き込まないように、私たちと距離を置くはずだ。
でも律がそんな仲間に入るわけ……。

「ごめん、あずにゃん、ムギちゃん」

唯が梓のほうに乗り出していた身体を戻すと、謝った。
それから唯は、言い難そうに、俯きがちに、言った。

「私、今日の朝、見ちゃったんだ。絶対りっちゃんだって決まったわけじゃない
けど……。りっちゃんっぽい人がね、怖そうな男の人や女の人と歩いてるの」

66: 2010/10/17(日) 12:33:31.84

突然、心臓が大きく脈打った。
こめかみの痛みが私を襲う。それも今まで以上にひどい痛みが。
ふと気付いた瞬間、私の目の前には未来が広がっていた。

どこだ、ここ。
見たこと無い場所。
どこかの倉庫だろうか。そこに数人、気だるそうに座っている。
その中に見慣れた姿を発見した。
律は……蹲っている。そんな律の身体を蹴る、あの二人組。

律っ!

叫びだしそうになったとき、ガクガクと視界が揺れ、律じゃなく私の名前を呼ぶ
声が私を現実の世界に引き戻した。

「澪ちゃん、澪ちゃん!」

私はハッと唯たちを見た。あの嫌な光景は、どこにもない。

「澪ちゃん、大丈夫?」

ムギがコップに入った水を差し出してくれた。
「ありがとう」とお礼を言って受取ると、それを一気に飲み干した。
冷たい水が、喉の奥を流れ落ちていく。その冷たさが、私を冷静にしてくれた。

私が大きく息を吐くと、唯が「よかったあ」と笑顔を見せた。

68: 2010/10/17(日) 13:00:46.68
「澪ちゃん、突然頭を抱えて動かなくなっちゃったからどうしたのかと思った」
「うん、ごめんな、心配かけて」

私が謝ると、ムギが私の額に手を置いた。

「ムギ?」
「熱はないみたいね。澪ちゃん、今日はもう帰ろっか」
「え、でも……」
「澪ちゃん、帰ろう?今日はもう、練習出来ないでしょ?」
「……うん」

私は頷いた。皆が立ち上がって帰り支度を始める。私も立ち上がると、
ソファーにかけてあったコートを手に取った。その時律のドラムが目に入り、
さっきの律が蹴られるシーンを思い出して気分が悪くなった。

もし明日、本当に律があんなことをされていたりしたら。
私はどうすればいいんだろう。助けに行く?そんなこと、できるわけない。

70: 2010/10/17(日) 13:04:46.04
それなら警察に電話する。けど、信じてもらえるわけ無い。
実際にその現場を見たわけでもないのに。

なら、せめて軽音部の皆に相談して……。
でも相談するなら私の力のことも話さなきゃいけない。
けどいくら皆でも、そんなの信じてくれるわけ無いし、頭がおかしくなったんじゃ
ないかと思われてしまうかも知れない。

「澪先輩、どうしたんですか?」
「あ、ごめん。すぐ行く」

いつのまにか皆部室の外に出ていて、私は慌ててコートを着込んでマフラーを
巻くと、カバンを持って部室を走り出た。



71: 2010/10/17(日) 13:13:23.89
帰り道、律がいないと何となく静かで、私たちは自然と早足になった。
どこかからパトカーの音が聞こえてきた。

「また喧嘩、ですかね」
「またって、どういうこと?」

梓の呟きに、ムギが反応する。
梓は「あぁ」と言うと、「最近不良同志の衝突が多いらしいですよ」と
音が聞こえてきたほうに目を向けて言った。

「そこら中が血の海になってたときもある、って聞いたこともありますし」
「どんな喧嘩なんだろうねえ」

ムギが間延びした声で言って、それから私を見て「あ、ごめんなさい」と謝った。

「いいよ、謝らなくても。第一、律がそっち側にいったなんてわかんないんだし」
「うん、そうだよね……」

私が苦笑を浮かべて言うと、ムギは気まずそうに頷いて目を逸らした。

まだ律が不良グループの仲間になったと決まったわけじゃない。
律がそんな奴等の仲間になるわけがない。私はそう信じておかないと、
どうにかなってしまいそうだった。
さっき視た光景がまだ脳裏にちらついている。

72: 2010/10/17(日) 13:18:57.02
私がそれを追い払うためにかじかんだ手をすり合わせて「寒いな」と言うと、
突然唯が「あ!」と声を上げた。

「どうしたんですか、唯先輩?」
「ほら、あの人たち!えっと、ニット帽被った男の人と、女の人!あの二人、
今日の朝りっちゃん、……じゃなかった、りっちゃんらしき人といた人たちだ!」

いちいち言い直した唯の指す方を見ると、確かにニット帽を被った二人がいた。
その横に目を移したとき、私も思わず「あっ」と声を上げていた。

もう一組、律に何かメモを渡していた、そしてさっき視たとき律を蹴っていた
女子高生二人組みがいた。

73: 2010/10/17(日) 13:34:56.11
「澪ちゃん、どうしたの?」
「あ、いや……、あの私たちと同じ年頃の人たち、あの人たちも前、律に
絡んでて……」

やっぱり、律はあの人たちの仲間になってしまったのか?
だから部活も辞めて、学校にも来ないのか?
でも何で。律はそんな奴じゃない。なのに何で?

「あ、どこかへ行きましたよっ」

梓が言った。四人は、それぞれ携帯を弄ったりしながら歩き出した。
パトカーの音がする反対方向に。
隠れはしないけど、あまり警察には見付かりたくないようだ。

もしあの4人を追いかけたら、律に会えるのかな……。

74: 2010/10/17(日) 13:42:41.48
「追いかけよう!」
「ふんすっ」

私が考えていることがわかったように、唐突にムギが言って唯がそれに賛同した。

「え、ちょっと待てよ」

こういうとき、私は素直に動けない。
色々とぐだぐだと考えて怖くなって、結局誰かに甘えてしまう。
よく律とは正反対だって言われるけど、何かあるとストップをかけてしまう律と私は
結構似たもの同士なのかも知れない。

「けど、追いかけたらりっちゃんのこと、何かわかるかもしれないよ!?」
「そうだけど……」
「そんなの危ないですよ!せめて警察呼びましょうよ!」
「でも何もしてるとこ見て無いのに、警察は来てくれないわよ?」
「う……」

梓は私の意見に賛同してくれたけど、ムギに言いくるめられてしまった。

「大丈夫よ、ちょっと追いかけてみるだけ。それで何もなかったら帰ればいいし、
何かあったら警察に電話すればいいわよ」

ムギは、律のことがなかったら「こういう尾行とかするの夢だったのー」と
言いそうなくらい、嬉しそうに言った。

76: 2010/10/17(日) 14:01:38.88
「澪ちゃん、行こう!」

唯が私の手を引いて、先に追いかけだしたムギと梓の元に走り出した。
私は大丈夫、怖くないと自分に言い聞かせ、震える足を前に進めた。



なんとか気付かれずにだいぶ追いかけたけど、4人は一向に止まる素振を見せなかった。
どんどんと歩みを進めていく。

「どこに行くんだろう……」

ムギが呟いたとき、やっと4人は足を止めた。
もうすぐ海が見えそうな場所。不良というか、ヤクザとかその辺りの人たちが
いそうな倉庫の前で。

そういえばこの倉庫……。中しか視なかったからわからいないけどさっき視た
倉庫なんじゃ……。

77: 2010/10/17(日) 14:10:53.15
「なあ、もう追いかけるのやめないか?」

私はまだ追いかけようとしているムギたちに言った。
もしあの中を覗いてしまったら、律がいるかも知れない。律に会えるのは
いいけど、もしその律が何かされていたら?もしその律が……何かしていたら?

そう考えると、見なくていいと思ってしまう。
見なくていいんじゃない、見たくない。

「でもせっかくここまで来たんだから……あ、中に入った!」

ムギは前を見て声を上げた。
そして私のほうを向き「もうちょっとだけ」と言って倉庫の入口まで走って行ってしまった。
唯も私の手を掴むと走り出す。

「ちょ、唯!」

梓に助けを求めようとしたけど、梓もムギたちと同じく夢中になってるらしく、
いつのまにかムギの後ろについていっている。
無理矢理引っ張られ、倉庫の入口の前まで立った。

「いい、中を覗いてみるわよ?」

78: 2010/10/17(日) 14:20:15.11
ムギが言ったとき、後ろから誰かの足音が聞こえた。
その足音と共に「何やってるんだ?」という声も。

私たちは声も上げずに、ただ驚いて後ろを振り向いた。
そこにいたのは、律だった。

「……り、りっちゃん!」
「りっちゃん、どうして学校に来ないの!?軽音部も突然辞めちゃうし!」
「それより何でこんなとこにいるんですか!?」
「そういうお前等だって、何でここにいるんだよ!?」

唯と梓の矢継ぎ早の質問に律は何も答えることはなく、逆に苛立った声で訊ねた。

79: 2010/10/17(日) 14:27:48.94
「だ、だってりっちゃんのこと心配だったから……」
「そんな言い方、しなくたっていいじゃないですか、律先輩!」

梓が怒ったように言うと、律は「大声出すな」と梓の口を塞いだ。
それから「もういいから」と掠れた声で続けた。

「もう、ほっといてくれ、私のことは。これは自分で決めたことなんだから」
「何で!?りっちゃん、私たち仲間でしょ!?何でそんなこと……!」
「確かに仲間だった!けど今はもう違う!私はほかに仲間がいる!」
「りっちゃん……」

唯の泣きそうな顔に気付き、律はぐっと何かをこらえるように拳を握った。

「頼むから……。これ以上、私に関わらないでくれ。私は皆を傷付けたくないから。
軽音部の元部長として、元仲間として、さ」

80: 2010/10/17(日) 14:35:46.34
元じゃないよ、今だって皆、律を仲間だって思ってる。
だからこっちに戻ってきてよ。

そう言いたかったのに、声が出なかった。律は変わってしまった。
ここ数日の間で。前髪は下ろして、耳にピアスをして、化粧もしてる。
手にコンビニ袋を二つ、提げていた。

「そういうことだから。もう帰れよ、ここ、暗くなったら色々物騒だし」

律はもう話は終わりだ、というように私たちの横を擦り抜けた。
待って、とは誰も言わなかった。言えなかった。


82: 2010/10/17(日) 14:58:58.11
帰り道、私たちは何も話さなかった。

「それじゃあ、また明日」
「うん、また明日な」

家の近くまで一緒に歩いてくれていたムギが立ち止まった。
私は手を振ると、再び歩き始めた。
歩きながら、考える。歩きながら、私は考える。
あのまま律を行かせちゃって良かったんだろうかとか、そんなことばかり。

今更遅いと思っても、考えてしまう。
私の足はいつのまにか、自分の家じゃなく、律の家に向かっていた。
せめてもう一度、ちゃんと律と話そう。

83: 2010/10/17(日) 15:09:45.65

何十分、いや、何時間待っただろう。
空は真っ暗で、手に感覚がなくなってきた頃、律は帰ってきた。

あとちょっとで帰ってこなかったら家に帰ろうと思っていた。

「澪、お前、何で……」
「話がある」
「私は何にもねーよ」
「律になくても私にはある!」
「いいから帰れよ!」

律は私を押し退けるようにして言った。

「やだ……。帰らないよ、律、だいぶ無理してる、そうでしょ?何でそこまで
無理してあっち側につかなきゃいけないの?私たちはまだ皆、律のこと待ってるんだよ?」

予め用意していた言葉。ずっと頭の中で考えて、律にどんな態度をとられても
それだけは伝えようと思っていた。多分、律は何も答えずに、家に入ってしまう。
それでもいい。それでもいいからさっき言えなかった言葉を伝えたかった。
だけど律の反応は違った。

「どうすればいいんだよもう……!」

85: 2010/10/17(日) 15:19:26.53
律はその場に崩れるようにして座り込んだ。
その上を、真っ暗な空が降らした白い雪が覆っていく。

「律……」

その時、遠くのほうからサイレンの音が聞こえた。
そしてそれと同時に律の携帯が鳴る。

「くそっ」

律は悪態をつくと、立ち上がって家にも帰らずにどこかへ走って行ってしまった。

「律!」

律は去り際、一言だけ「ごめんな」と呟いた。

――――― ――

94: 2010/10/17(日) 18:03:29.84
気が付くと朝になっていた。
私は重い身体を起こすと、制服に着替え朝の支度をする。
昨日の夜、ママが言っていたことを思い出す。

『そういえば、昨日田井中さんとこと会ったんだけど、りっちゃん、学校辞める
って言ってるんですって』

そんなのやだよ律。
律だって多分、本当はそんなこと望んでないはずなのに。
律は確かに変わってた。だけど、内面は変わっていない。

律、私は律を助けに行くよ。
夜通しずっと考えて、迷って迷って、律の言葉や、律の蹴られている光景を思い出し、
私は決めた。
怖い。震えるほど怖い。だけど私は律を助けたい。律を助けると、決めたんだ。

私はタイを結び終えると、携帯を開けた。
唯たちに今日は休むかもというメールを打とうとしたとき、
ムギから電話が掛かってきた。

95: 2010/10/17(日) 18:08:00.49
『澪ちゃん、おはよう』
「ムギ、どうしたんだ?」
『昨日ね、帰ってからいろいろ探ってみたの。本当はしたくなかったんだけど、
琴吹家の力を使って』
「うん……」

ムギが電話の向こうですっと息を吸い込んだのがわかった。

『どうやらりっちゃんのいるとこは、この辺りじゃ一番大きなグループみたいよ。
全員中学生から高校生の間。そのグループを率いているのはりっちゃんの知り合いの
可能性が高いわ。何か弱みを握られているのかも』
「そっか……ありがとう」

『澪ちゃん、行くんでしょ?』

あぁ、やっぱりムギにはかなわない。
私は頷いた。一人で行くつもりだったけど、ムギの話を聞いて正直、尻込みしそうに
なっていた。

「ムギ、一緒に……」
『もちろん』

私はありがとう、ともう一度言って電話を切った。
唯と梓に、学校遅れるかも知れないけど心配するな、とメールを送り、
私は家を飛び出した。

96: 2010/10/17(日) 18:12:24.56

ムギと駅前で待ち合わせ、私たちは昨日の倉庫へと急いだ。
ムギも制服姿だった。

「澪ちゃん、早くりっちゃんを見つけて、学校に行こう」
「うん……、そうだな」

倉庫の前まで来た私たちは、一旦立ち止まった。
中から煙草の煙やよくわからない匂いが漂ってくる。クスリもやってる
のかも知れない。
ここまで来て逃げ出してしまいそうになる自分を叱る。
けど、中々前には進めなかった。

と、私の代わりに中を覗いていたムギが「あ!」と小さく声を上げた。

「律、いたのか!?」
「うん……。でも、様子が変。蹲ってるわ……、違う、蹴られてる!」
「律っ!」
「澪ちゃん、今出て行ったら!」

私はムギが止めるのも聞かずに倉庫の中に踏み込んだ。

98: 2010/10/17(日) 18:16:02.13
そこにいた全員が私を振り向いた。
律を蹴っている女子高生二人組。金髪の厳つい男の人が一人、
ニット帽の男女二人組に、まだ中学生に見える男の子が一人。
敵は6人。
律と目が合った。

「澪っ!何やっ……ぐっ」

律が私に何か言おうとすると、ニット帽の男が律のわき腹を蹴った。

「へえ?コイツがみおチャン?いい顔してんじゃん。お兄さんと遊ばない?」

金髪の男が私に近付いてきた。
思わず後ずさる。
このままじゃ律を助けるどころか私まで……!

100: 2010/10/17(日) 18:20:38.27
「りっちゃん!」

そう思ったとき、ムギが私の横をすり抜け、凄い速さで律の近くまで行くと、
驚くニット帽の男に、見た目からはとても想像できない回し蹴りを食らわした。
そこにいた全員が、それを見て固まった。

その隙をついて、驚く律の手をとり立ち上がらせると、「逃げよう!」と
私の手も空いてる手で掴んで走り出した。

「ム、ムギ……、すごい、な!」
「私、……、実は、空手黒帯、……持ってる、の~」

息を切らせながら私が言うと、同じくムギも息を切らせながら笑った。
突然、律がムギの手を振り払った。

「何で、来るんだよ!?何度も言っただろ、私に、構うなって!
こんなことされたら、意味ないんだよ!私の気持ちも、考えて」
「黙って!」

ムギが律の言葉を遮った。

101: 2010/10/17(日) 18:22:42.19
「りっちゃん、確かに私たちはりっちゃんの気持ちを考えてなかったわ。
だけどりっちゃん、りっちゃんだって私たちの気持ち考えてない。
突然仲間じゃないなんて言われた私たちの気持を!」

律の表情が揺らいだのを見ると、ムギはいつもの優しい顔になって言った。

「後でちゃんと、りっちゃんの話聞くわ。だからまず、部室に行こう?
皆、待ってるから。りっちゃんの帰り」

律がゆっくりと頷いた。


102: 2010/10/17(日) 18:26:34.51
追っ手が来ていないか注意しながら私たちは学校まで走った。
いつのまにか昼休みの時間で、部室の扉を開けると唯と梓が落ち着かない
とでも言うようにギターの調整をしていた。
唯たちは、入ってきた私たちを見ると駆け寄ってきた。

「澪ちゃんムギちゃん!りっちゃん……!」
「まだ昼休みだろ?何で部室に……」

私が訊ねると、唯が「今日は午前で終わりだよ」と笑った。

皆がそれぞれ椅子に座ると、ムギが温かいお茶を淹れてくれた。
律はそれを一口飲むと、唐突に「ごめん」と小さな声で謝った。

「律」
「私、もうどうすれば良いのかわかんなかった。それで皆を突き放すしか
なかった。それ以外、私の大事な場所を守る方法はなかったんだ……」

律はそう言うと、ぽつりぽつりと今までのことを話してくれた。

105: 2010/10/17(日) 18:31:59.83
二人で商店街に行った日、律は万引きの少女が話したらしく、
うちのグループに入らないかと誘われたらしい。
そこのグループのリーダーは律の元先輩で、律のことを気に入っていた
らしく、中学のときも誘われていたという。

けどもちろん、律はどっちも断った。
しかし、向こうはしつこく、何度も誘ってきた。
そして、何度も断るうちに脅されたらしい。

お前の大事な軽音部を壊してやるぞ、と。

だから律は、私たちやこの場所を守る為に向こう側についたんだと言った。

「軽音部を辞めたのも、学校を辞めようとしたのも、あいつらから
遠ざけようとしたから」

106: 2010/10/17(日) 18:34:45.78
「何でそんなこと、何も私たちに言わなかったんですか!?」
「言えるわけないだろ。あいつらはその気になったらすぐにでも軽音部を
潰せる。力で無理矢理、な。それを知らせたってどうにもならないのわかってる
のに、言えるわけないだろ!」

律は最後は叫ぶように言うと、私たちに逃げろ、と低い声で言った。

「あいつらは仲間でも平気で潰しやがる。澪とムギだって、見ただろ?
私が蹴られてるの。ちょっとでもあいつらに逆らったらあぁなるんだ。
あいつら、もうすぐここに来る。だから来る前に逃げろ」

108: 2010/10/17(日) 19:06:04.74
私たちの誰も頷かなかった。

「何も知らずにぬくぬく暮らしてたんだよね、私たち。
りっちゃんが傷ついてるのも知らずに」

「だから、逃げるなんて嫌ですよ」

「りっちゃんを置いて逃げるのは、ね」

「律、一緒に逃げよう」

私は律に手を差し出した。前に律が私に手を差し出してくれたように。
けど律は、その手をとらなかった。

「無理だ」
「何でです!?」
「どうせすぐに見付かって、皆に危害加える!もう、私はどっちにしても
戻れないんだ、だから梓たちは逃げろ」

律が言ったとき、バイクの音やざわめきが外から聞こえてきた。
部室の扉が開いた。

109: 2010/10/17(日) 19:13:59.49
和が青ざめた顔で息を切らして部室に入ってきた。

「ちょっと、何よあれ!暴走族だかなんだか知らないけど、学校に乗り込んできて、
田井中律を出せって……!」
「わかった。和、悪いな、先生たちにも謝っといて、お騒がせしましたって」

律は和の話を聞くと立ち上がった。

「りっちゃん!どこ行くつもりなの!?」
「あいつらのとこ。ムギたちが逃げないんなら、私が自分から行く。
そうしたら事は小さく済むだろ」
「だ、だめだよりっちゃん!」

唯が窓から外を見ながら言った。
先生たちが外に出てきて止めているが、とてもじゃないが止められる数じゃない。

「あんなに沢山……。しかも凄く怖そうな人たちばっかりだよ!?危ないよ、
りっちゃん、殺されちゃうかも知れない!」
「わかってるよ、唯。けど、どっちにしても私が行かなきゃ」
「そんな……」

律の顔には諦めの色が浮かんでいた。
突然、梓が窓から身を乗り出した。

110: 2010/10/17(日) 19:21:52.95
「あずにゃん!?」
「律先輩はあんた達みたいな最低の奴等と違うです!早く帰ってください!」

梓は恐らく、下で群がっているだろう不良達にそう叫んだ。
案の定、下のほうから「あぁ?」と威嚇する声が聞こえてきた。
どこかで誰かの悲鳴が聞こえた。校舎に入ってきたのかもしれない。

「あ、あずにゃん、そんなこと言ったら逆効果……」
「だって、仕方ないじゃないですか!律先輩は何も悪くないです、なのに
こんなことって……、おかしいです、おかしいですよ……」

梓の大きな瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちる。
その時、部室のすぐ前の階段から凄い勢いで階段を上って来る音が聞こえた。
それも何人も。

「くそっ、来やがった……!」

律が呟くと、和が動き出した。部室にある椅子を全部扉の方に持って行く。

「和?」
「せめてもの時間の稼ぎになるでしょ。警察が来るまでもつかどうかはわからない
けど」

和は作業を続けながら言った。唯やムギもそれを手伝おうとしたとき、だけど
それはあっけなく崩されてしまった。

111: 2010/10/17(日) 19:29:19.31
さっきの金髪男や、ニット帽や、その他鉄パイプやカッターを持っている男や女が
部室の扉を壊して私たちを取り囲んでいた。
後ろから先生たちが「やめなさい、やめなさい!」と叫んでいる。

「律ちゃん、どうして逃げちゃったりしたの?」

それには聞く耳を持たないという感じで、誰かが前に進み出て言った。
その人は、私も見たことがあった。
確か、中学のとき律が入っていた部活で、いつも中心的な存在に居たK先輩。

「先輩……っ」

律が後ずさった。K先輩は、そんな律をじりじりと追い詰める。
K先輩の手には鉄パイプが握られている。

「律!」

思わず飛び出そうとして、いつのまにか後ろに来ていた金髪男に髪を掴まれ
引き戻されてしまった。

「さっきはどーも、みおチャン」

金髪男がにやっと笑った。

112: 2010/10/17(日) 19:44:19.48
その時、違う方向からも悲鳴が聞こえた。
ムギがニット帽に蹴られた。唯と梓もカッターを持った男数人に囲まれている。

「ねえ、律ちゃん?今ならまだ許してあげる。律ちゃんは私の大事な後輩だもん、
私たちの元に戻ってくるよねえ?」
「……っ、はい……」

K先輩が「いい子ね」と笑った。そして、持っていた鉄パイプを律のお腹に
振り落とした。

「う……っ」
「けど、少しはお仕置きも必要よね?わかってくれるでしょ、律ちゃん」
「……、は、い……っ」

倒れた律に、何度も何度も。

「律!」
「おっと、動くなよ、みーおチャン」
「うるさい……!」

私は金髪男の汚い腕を振り払った。
律が、律が氏んじゃう!早く止めさせないと、あんなこと!

「澪ちゃん、後ろ!」

ムギの声が聞こえた。振り向いたときには遅かった。
背中に鉄パイプが振り落とされた。
私はその場に倒れた。

114: 2010/10/17(日) 19:56:20.15
激痛のせいで、意識が遠くなっていく。
ムギがニット帽の男に、何の技かわからないけど殴り倒したのが見えた。

「澪ちゃん、大丈夫!?」
「私じゃなくて、律を……っ」

もう一度金髪男が鉄パイプを振り落としてきたのを間一髪で避け、
駆け寄ってきたムギに、私は言った。ムギがわかってると頷く。

律はまだ殴られ続けている。本当にあのままじゃ殺されてしまう!

「ふおぉぉぉぉぉぉお!」

唯の声が聞こえた。振り向くと、唯が群がっていたカッター男たちに
体当たりしていた。

「唯、そんなことしたら危ない!」
「唯先輩!」

唯の腕にカッターの刃が突き刺さろうとしたとき、梓が唯の身体を突き飛ばした。

「あずにゃん!」

カッターは梓の頬を少し掠っただけだった。目標を失ったカッター男がバランスを
失ったところを、唯が足をすくって転ばせた。

116: 2010/10/17(日) 20:07:36.16
私はほっとすると立ち上がった。
外からサイレンの音が聞こえてきた。もうすぐで警察が来る。
早く律を助けないと。

部室の外では、先生たちがなんとか中に入ろうと足掻いているらしいけど、
さっき私たちが時間稼ぎをしようとして椅子や何かを積み上げたせいで、それが
邪魔で、しかも不良達がいるせいで中に入ることが出来ないらしい。

金髪男の度重なる攻撃から何とか避けながら外を見た。
ほとんどの人が、パトカーの音で帰ってしまったらしい、
さっきあんなに居た人が誰もいなくなっていた。

「はっ、ちょこまかと鬱陶しいなァ!」

金髪男がそう言いながら、私を追い詰めていく。
私は後ずさりながら、律たちのほうにさりげなく方向転換した。
律を弄ることに忙しいらしく、私には気付かないK先輩の後ろまで来ると、
私は動きを止めた。金髪男が再び力を込めて振り下ろしてきた鉄パイプを
振り下ろしてきた。それを避けると、その鉄パイプはK先輩の肩に直撃した。

118: 2010/10/17(日) 20:19:00.73
K先輩の身体がふらりと揺れた。そのまま崩れるかと思ったけど違った。
K先輩の目は、普通じゃなかった。
金髪男の脳天を自分の鉄パイプで殴ると、言った。

「ふふっ、ふふふ、痛いわねえ、律ちゃん、この子、澪ちゃんって言うのよねえ?
律ちゃんの大切な人?ふふ、この子を頃しちゃったら、律ちゃんはどんな顔するの
かなあ?」

「なっ……」

なんだ、この人。頭がおかしいんじゃ……。
そう思った時、律の血がついた鉄パイプが私の身体にさっきのK先輩のように直撃した。

「澪っ!」
「ねえ、律ちゃん?この子が心配?私のことは心配してくれないの?ねえ」

逃げたいのに、身体が言うことを利かない。動かない。
さっきの律みたいに、私の身体に鉄パイプが振り落とされていく。

「どーお、律ちゃん?目の前で友達を殺される気分は。気持ちいい?ふふ、ふふふ!」
「やめて、くれ……、お願いだから、やめてくれ……、それ以上澪を……!」

もう、何もわからなくなってくる。
ただ、律が泣いているのを見て、身体じゃなく、心が痛かった。

「もう、やだ……、なんでこうなるんだよ、……!」

霞む視界の中、律が何かを手にした。それはさっき唯と梓がギターの調整の為に
使っていたのであろう、弦を切るためのハサミだった。

119: 2010/10/17(日) 20:25:06.90
ふいに心臓が大きく脈打った。こめかみの痛みは一瞬だけで、私の目の前には
ただ、血だまりが広がっていた。

部室には誰も居ない。ただ荒れ果てた部室があるだけ。
そして突然視界が切り替わり、律がK先輩の首にハサミを突き立てているのが
見えた。

何でかはわからない。これは明日じゃない。今、目の前で起ころうとしている
出来事だ。
そう気付いた私は、現実の世界へ戻っていた。

考えるより先に身体が動いた。律のハサミが振り落とされる。




「律、だめえええええええええ!」




グサッ




「み、お……?」

120: 2010/10/17(日) 20:32:49.75
肩の辺りに、鈍い痛みが走った。熱い血が、流れ落ちていく。

「澪ちゃん!」
「先輩!」

唯やムギ、梓の声が遠くで聞こえた。
部室の外からのざわめきが大きくなった。「どきなさい!」と声が聞こえた。
警察が来たのかな……。

あぁ、意識が遠くなっていく。けど、そんな中、私は未来(あした)を視た。
もう大丈夫だって思った。
警察が来たからとか、そんなことじゃなくて。

私は未来が視えるから。
律の笑顔が視えたから。

私は最後の力を振り絞ると、律を抱き締めた。

「おかえり、律――」


――――― ――

121: 2010/10/17(日) 21:06:23.15
終わる。

読み直してみてやりすぎたと思ったorz

127: 2010/10/17(日) 21:52:28.66
わかった、エピローグも行き当たりばったりで書いてみるわw
多分短いと思うけどww

128: 2010/10/17(日) 22:06:40.10
目を覚ますと暖かな日差しが私の眠るベッドの上を照らしていた。
私はふっと息を吐くと、もうすぐやってくる仲間たちのことを想った。



年が明けてから意識を取り戻した私は、暫くは誰とも面会謝絶で、
律や他の軽音部の仲間さえ会うことが出来なかった。

皆に会えない間にママから聞いた話によれば、K先輩は薬物所持の疑いで逮捕、
他の不良達も謹慎処分やそれなりの処分が下されたらしい。
律や私たちは、10日間の停学処分だったらしい。
今はもう、私が眠っている間にその期間は終わり律たちは学校に行っているそうだ。

そして今日。
私の部屋からやっと「面会謝絶」の札が外された。



132: 2010/10/17(日) 22:24:48.98
「おいーっす!」

扉が勢い良く開いた。
「唯先輩、病院では静かにして下さいっ!」という相変わらずな梓の声が
聞こえた。
私は思わず笑ってしまった。

「あ、澪ちゃん、もう大丈夫なの!?」

梓に怒られてめげていた唯が私を見るなりぱっと顔を輝かせて病室に入ってきた。
ムギと梓も走りたいのを我慢しているような感じで病室に入ってくる。

「澪先輩、お久し振りですっ」
「お見舞い用のフルーツ詰め合わせセットはどこに置いたらいいかな?」
「えぇ、ムギちゃん、そんなの持って来てたの!?」

私はそんなやり取りがいつものことなのに妙におかしくて、笑いが止まらない。
唯たちは、そんな私を見ると、「元気そうで良かった」と言って一緒に笑ってくれた。

133: 2010/10/17(日) 22:35:23.87
「それで、いつになったらそこに隠れてる奴は出てくるんだ?」

ひとしきり笑うと、私はさっきからずっと外で隠れていた最後の一人に
訊ねた。

「りっちゃん、出てきなよー」
「大丈夫ですって、澪先輩、怒ってないですから」
「それより早くりっちゃんに会いたいって思ってるんじゃないかしら?」

隠れていたそいつは、最後のムギの言葉で「本当か?」と顔だけ出して言った。
私が頷いてやると、律はやっと私の前に現れてくれた。

「……、久しぶり、律」

律は気まずそうに「おぉ」と言って顔を逸らした。
多分、律は自分からやったわけじゃないといえ、私に怪我をさせたことに
罪悪感を覚えている。だから私に顔を合わせ辛いんだろう。

突然、唯達が座っていた椅子から立ち上がった。
梓が律の肩を無理矢理押して、自分が座っていた椅子に座らせると、
「澪先輩、私たちまた来ますね」と病室を出て行った。
唯とムギも「お大事に」と言って、出て行く。

「気、利かせたつもりなのか、あいつら……」

律が呟いた。
私はそうなんじゃない?と答えた。

134: 2010/10/17(日) 22:39:47.33
律が「変に気遣うなよなあ」と頭を抱えた。
それから、律は私を見ると「ごめん」と頭を下げた。

「何が?」

私は惚けた。
律は、「色々と」と小さな声で答えた。

いいよ、別に。
そう言う代わりに、私は律の頭を一発殴ってやった。

「い、いひゃいよ澪しゃん!」
「これでおあいこな」

そう言って笑ってやると、律はきょとんとして、すぐに「バカ澪」と目を逸らした。
律の瞳が濡れていたことは、気付かなかった振りをしてやる。

135: 2010/10/17(日) 22:48:07.78
私たちは、二人きりの病室で暫く、どうでもいいようなことを話した。
何となく、どうでもいいことを話していたかった。
久しぶりに、律と笑い合える。その幸せを噛締めていたかった。

「なあ澪」

ふいに、律が私の名前を呼んだ。
なに?、と律を見ると、突然首に何かをかけられた。

それは、シンプルなデザインのネックレスだった。

「二人で商店街に行った日のこと、覚えてる?」
「……覚えてる」

あれが今回の件の全ての始まりだった。
いや、もっと詳しく言えば、律が万引きした少女を捕まえたのが始まりだったんだけど。

「あの日、私は絶対何買ってるか見ちゃだめだって澪に言ったよな?」
「そうだな」
「それ、本当はクリスマスプレゼントに渡すつもりだったんだ」

律はそう言うと、私の首にかかったネックレスを愛おしそうに撫でた。
「ま、今日になっちゃったけどな」と律は言うと小さく笑い、そして囁くように、言った。

「ハッピーバースデー、澪」

18歳の誕生日。
私は多分、今までのバースデーで一番幸せな日だと思った。

終わり。

137: 2010/10/17(日) 22:49:54.86
な、なんだこれ。ただの甘々律澪になった気が……!
でも正直こんな甘々の律澪書いたの初めてだし自分的には満足満足w

138: 2010/10/17(日) 22:56:40.43
綺麗な終わり方だな
お疲れ

引用元: 澪「未来が視えるから」