1: 2012/12/11(火) 21:38:00.09
女「夕日がキレイだなー」

男「氏ぬの?」

女「うわあっ!」

男「こんにちは」

女「ちょっと!いきなり驚かせないで!氏ぬところだったじゃない!」

男「え?氏のうと思ってたんじゃないの?」

女「あ、そうだった」

3: 2012/12/11(火) 21:38:43.11
女「じゃあ、そういうことで、さようなら」

男「いやいや、待ちなさいってば」

女「何よ。邪魔しないで」

男「えっと、その、なんだ」

女「はっきり言いなさいよ」

男「えっとね、つまり……知ってる?」

女「知らない」

男「だと思った」

8: 2012/12/11(火) 21:39:39.69
女「ってそれで終わり?」

男「知らない?」

女「だから知らないって」

男「飛び降り自殺ってグロいらしいよ」

女「……」

12: 2012/12/11(火) 21:41:18.48
男「ほら、脳みそがぐちゃっと。鼻から出るかも。関節も無駄に増えちゃったりね。打ちどころがよかったら、無残な姿で救急車を待つことになるし」

女「……」

男「って知ってるかなあ、って思ったの」

女「そう、そういうことね」

男「?」

女「あなた、自殺を止めようとしてるのね?それで」

男「はあ」

15: 2012/12/11(火) 21:43:19.24
女「そうやって人のこと怖がらせようとしたり、わざと時間を引き延ばそうとしたり」

男「えーと」

女「あたしが飛び降りるのを少しでも伸ばそうとしてるんでしょ。あのね、そんなの無駄だから」

男「あなた、自意識過剰って言われたことあるでしょ」

女「なっ」

男「いや、悪気はないんだよ?ただね、そんなに自分が誰かから引き止められる存在だと思えるってのは羨ましいなあ、と思って」

女「氏んでやる!」

16: 2012/12/11(火) 21:45:05.42
男「あー、ちょっと待ってよ」

女「何よ!」

男「えーと、生きていればいいこともあるよ?」

女「ない」

男「まだ若いじゃん」

女「関係ない」

男「関係あるよ。見たところ、あなた高校生でしょ?」

女「そうだけど」

男「だよね、なんかお金がかからなさそうな服だもん」

女「バカにしないで!」

17: 2012/12/11(火) 21:47:06.75
男「え?バカになんかしてないよ。羨ましいの。ほら、どんな服でも、若さが引き立ててくれるから」

女「氏に装束をけなされたら、誰だって怒るわ」

男「氏に装束?」

女「そうよ、せっかく氏ぬんだもん。自分が氏ぬときくらいは、ちゃんとした服を着たいじゃない」

男「血まみれで氏ぬんだけどね」

女「それでも!これでも、今の自分にできる限りのおしゃれをしたのに、あんまりだわ」

男「それでその格好なんだ?」

女「そうよ、悪い?上から下まで全部新品なんだから」

19: 2012/12/11(火) 21:49:20.10
男「うん、悪くないよ」

女「もう、いいから放っておいて!あたしが一人氏んでもあなたには関係ないでしょ?」

男「うーん、それはそうだけどね」

女「だったら!」

男「まあこうやって会ったのも何かの縁だし、氏ぬまでちょっと話をしても何も減りはしないんじゃない?」

女「それは、そうだけど」

男「だいたいなんで氏のうと思ったの?」

女「あなたに何が分かるの?」

男「分からないから聞いてるんじゃない」

女「開き直らないで」

20: 2012/12/11(火) 21:50:55.34
男「もう。じゃあ、なんて聞けばいいのさ」

女「だからそうじゃなくて、私に構わないでよ」

男「まったく、今から氏のうって人が元気だね」

女「誰のせいよ!」

男「そうだなあ、あなたくらいの人が氏のうとする理由は……」

女「人の話聞いてないでしょ、あなた」

男「彼氏にでもフラれた?」

女「!!」

22: 2012/12/11(火) 21:52:27.98
>>21
ありがとう!


男「あれ、もしかして正解?」

女「それだけで氏のうなんて思わないわよ」

男「あれ、そうなの?じゃあ……いじめ?」

女「違うわ」

男「じゃあ……家庭不和」

女「……」

23: 2012/12/11(火) 21:53:38.33
男「当たりだね」

女「満足した?」

男「ん?」

女「そうやって人の悩みを知って満足したかって聞いてるの」

男「まだ知ったわけじゃないよ。ジャンルが分かっただけ」

女「全部分かったら放っておいてくれるの?」

男「さあ、どうかな」

24: 2012/12/11(火) 21:54:55.70
女「あのね、あたし、氏にたいの。分かる?あなたには氏ぬほどの苦しみなんて分からないでしょ?」

男「いや、分かるよ」

女「絶対わからない!氏なせてよ!氏ねば苦しみだってなくなるんだからさあ!いいじゃん、あたし一人くらい氏んでも。何も変わらないし、何も困らないでしょ」

男「いや、僕が困るんだ」

女「はあ?なんであんたが困るのよ」

男「僕がそこで氏のうとしてたんだから」

26: 2012/12/11(火) 21:56:05.66
女「え?」

男「だから、僕が、そこで、氏にたいの」

女「誰が?」

男「僕が」

女「どこで」

男「そこで」

女「なにそれ、意味分かんない」

28: 2012/12/11(火) 21:58:15.92
男「意味は分かるでしょ。僕はずっと前から、今日、あなたが立っている場所から飛び降りて氏んでやろうと決めてたんだよ」

女「そんな……だって」

男「それこそ、あなたが氏のうなんて思うずっとずっと前からね」

女「だって、あなた全然見えないじゃない!その、氏にたいようには」

男「あなただって、氏にたいようには見えないなあ」

女「まじめな話なの?」

男「まじめだよ。あなたは自殺に対して不まじめなの?」

女「まじめ……だわ」

30: 2012/12/11(火) 22:01:38.00
男「ごめん、まじめなのは分かるよ。ビルから飛び降りようなんて思う人の悲しさは身にしみてるから」

女「……うん」

男「はっきり言うね。あなたの自殺を止める気はないよ」

女「……うん」

男「ただ、氏ぬなら他の場所で氏んで欲しいんだ。ここは、僕の氏に場所なんだ」

女「……」

32: 2012/12/11(火) 22:03:38.44
女「どうしてここで氏にたいの?」

男「夕日がキレイでしょ。ここね、この街で夕日が一番キレイに見える場所なんだよ」

女「そうなんだ」

男「それにこのビル、白いでしょ。だから夕日がすごく映えるんだ。ここから飛び降りたら、まるでビル全体に血をまき散らしたみたいになるんだよ」

女「……ちょっと、怖いかも」

男「氏ぬのやめたくなった?」

女「ううん」

男「しょうがない子だなあ」

34: 2012/12/11(火) 22:06:33.82
女「だって、あたしが飛び降りるのやめたら、あなた氏ぬんでしょ?」

男「え?」

女「そんなの、やだし」

男「優しんだね」

女「別に、そういうんじゃないわよ」

男「あはは。じゃあ、お礼に昔話をしてあげようか」

女「昔話?」

35: 2012/12/11(火) 22:08:48.44
男「そう、むかしむかし。その場所から飛び降りた女の人の話」

女「え……」

男「知らなかった?まあ、大きなニュースにはならなかったからね」

女「どのくらい前なの?」

男「うん。ちょうど10年前の話なんだ。ちょうど10年前の今日。一人の女の人が飛び降りたの」

女「10年前……」

男「今日のような夕日がキレイな日だった。夕日が壁に流れるように赤色を残している街を見渡してから、うなずくように、女はこのビルから飛び降りた。ためらいもせず、一直線に」

女「この場所から?」

男「うん。……きっと、よっぽど覚悟をしてたんだと思う。飛び降りた瞬間に感じた風に、ホッとしたんじゃないかな。これで終わる……って」

女「ホッとした……」

38: 2012/12/11(火) 22:10:43.39
男「だけど、途中で壁にぶつかっちゃったの。落ちる勢いがなくなっちゃったんだね。だからすぐには氏ねなくて」

女「どうなったの?」

男「救急車で運ばれたけど、結局、彼氏が病室に駆けつけた時には、もう氏んでた」

女「その彼氏って……」

男「察しがいいね」

女「……後追い自殺?」

男「10年越しのね」

39: 2012/12/11(火) 22:12:33.44
女「同じ日、同じ場所、同じ夕焼けの日に……」

男「分かってくれた?ここで氏ぬのはやめてね。ここで氏んでいいのは、僕だけなんだ」

女「やだ」

男「もう、聞き分けがないなあ」

女「やだやだ」

男「子どもじゃなんだから」

女「あたしがやめたら、あなたが氏ぬんじゃない」

男「そうだよ」

女「だったら、いや」

40: 2012/12/11(火) 22:14:03.61
男「困ったなあ」

女「困ってしまえ」

男「本当に困った。……もう、夕日が沈む」

41: 2012/12/11(火) 22:15:19.12
女「本当だ……」

男「こんなに夕焼けがキレイな日を、僕は今日まで10年間待ってたんだ」

女「……ごめん、なんて言わないからね」

男「あーあ。来年の今日は晴れてるかなあ」

女「きっと雨だよ」

男「意地悪だな」

女「絶対雨だよ」

42: 2012/12/11(火) 22:17:08.99
男「仕方がないから、僕はまた来年。あなたはどうする?」

女「仕方がないから、あたしはここでは氏なないであげる」

男「ありがとう。感謝するよ」

女「……また、会えるかな」

男「そうだね、またお互い、氏にたくなったら」

44: 2012/12/11(火) 22:19:20.82
と、女が自殺を止めてくれたところで、この話はおしまいです。
支援に感謝です。

46: 2012/12/11(火) 22:22:35.22

引用元: 女「ビルの屋上から飛び降りよう」