1: 2021/09/28(火) 18:30:03.420
<カフェ>

男「タイムマシンなんて絶対ありえないんだよ」

女「どうして?」

男「だって今までどこかの時代で未来人が来たことある? なーい! 一度もぬぁーい!」

女「……」

男「つまりタイムマシンは未来永劫発明されないってわけ! アンダスタン?」

女「だけどどこかの時代で来てた可能性も……」

男「なーい! 絶対なーい! だったら未来人来たって書いてある文献示して? できないでしょ?」

女「そりゃできないけど」

2: 2021/09/28(火) 18:33:09.270
女「こっそり来てた可能性もあるし」

男「こっそり? なんでこっそり来るの? 普通過去に来たら当時の人間に接触するよね。しなきゃ意味ないもん」

女「ルールがあるとか……」

男「未来が変わる可能性があるからとかで? それにしたって、未来でタイムマシンが普及してたら普通ルール破りの一人や二人出るよね」

男「それにさ、こっそり来たところで、今……202X年だっけ。地球に何人人がいると思ってるの? 100億ぐらい?」

女「まだそこまでいってないでしょ」

男「とにかく、そんな大勢に見つからずに来るなんて絶対不可能だよ。ふ・か・の・う!」

女「……」

3: 2021/09/28(火) 18:36:18.016
男「だからさ、俺SFなんかでもタイムマシン出てくると冷めるんだよね」

女「なんで?」

男「決まってるだろ。科学的に絶対ありえない装置を出してきてるんだから」

女「だけどSFってサイエンスフィクションの略でしょ? フィクションなんだから……」

男「フィクションとはいえリアリティは必要でーす! リアリティのないフィクションはフィクションじゃありませーん!」

男「ただの妄想です! も・う・そ・う!」

男「タイムマシンが出た時点でそのSFは三流! いや五流といっていいだろうね!」

4: 2021/09/28(火) 18:39:12.419
女「ずいぶん自信たっぷりだけど」

男「どうも」

女「じゃあ、ここで私がタイムマシンがあることを証明してあげるっていったらどうする?」

男「へえ、どうやって?」

女「簡単なことよ。実は私……未来人なの」

男「は?」

6: 2021/09/28(火) 18:42:27.238
男「なにいってんの?」

女「だから、私は未来人なの。23世紀から来たの」

男「ぷっ、くくくっ、ギャハハハハッ! どういう冗談、それ。君、俺を笑い氏にさせたいの?」

女「事実なんだからしょうがないでしょ」

男「だったら、そうだな……未来人ならこれから起こることが分かるはずだよな」

女「その通りよ」

男「じゃあ、今ここで何でもいいから、当ててみてくれよ。23世紀人さん」

女「うん、分かった」

7: 2021/09/28(火) 18:45:09.838
女「あそこ歩いてる女の人、いるでしょ?」

男「ああ」

女「もう少し歩いたら、転ぶわ」

男「なんだそりゃ」



通行女「……」スタスタ

通行女「きゃっ!」ドテッ



女「ね?」

男「……!」

8: 2021/09/28(火) 18:48:27.082
女「これで私が未来人だって証明できたでしょ」

男「いやいやいや、全然出来てないだろ。君はきっとこう考えたんだ」

男「あの女性はハイヒールを履いている。なおかつ、この辺りの道路の舗装はちょっと粗い」

男「だから、こける……ってね。こんなのはただの推理だ。未来人の証明になっちゃいない」

女「分かった。じゃあもっと他のことを当ててあげる」

男「面白い。何を当てるってんだ」

女「今夜のテレビ番組の内容なんてのはどう?」

男「バカか君は。テレビ番組ってのは、事前に内容が分かるようになってるじゃないか」

女「もちろん、それじゃ分からない部分を当てるのよ」

9: 2021/09/28(火) 18:51:17.044
女「まず今夜6時からのニュース番組、最初に高速道路での事故を報道するわ」

女「かなり大きな事故だから、真っ先に報道されるはず」

女「それから8時からのバラエティ番組、これ生放送なんだけど、途中で司会者がクイズの答え言っちゃうハプニングがあるわ」

男「ずいぶん具体的だな、面白い」

女「じゃ、もし当たったら連絡ちょうだいね」

男「ああ、分かった。まず当たらないだろうがな」

13: 2021/09/28(火) 18:54:21.352
<男の自宅>

男「もうすぐ6時か……テレビをつけないと」

男「やれやれ、わざわざリモコンを使うのが面倒だな……こうか?」ピッ

TV『6時になりました。ニュースの時間です』

男「さて、お手並み拝見……」

TV『先ほど入ったニュースです。○×高速道路で大規模な玉突き事故が発生しました』

TV『トラックや乗用車10台以上を巻き込む大惨事となっており……』

男「……!」

男(この事故、俺と彼女が話してる時間の“後”に起こっている……!)

14: 2021/09/28(火) 18:57:14.550
男「8時からのバラエティはこれか……」

TV『さあ、今夜は生放送で楽しく参りましょう!』

男「ふふっ……なかなか面白いな」

TV『それではここでクイズターイム!』

TV『この画面に徐々に映し出される物はなんなのか当てて下さい! 果たしてどんな壺なのか!』

TV『△□さん、答えいってるじゃないですか! 今壺って言いましたよね!』

TV『あ……しまった!』

男「本当にハプニングが起こった……」

15: 2021/09/28(火) 19:00:07.809
男(電話しなくちゃ! ええと……このスマホにはまだ慣れないな!)

男「もしもし!」

女『もしもし? どう、番組見ててくれた?』

男「ああ……見たよ」

女『ね? 分かってくれた? 私が未来人だって』

男「いや……まだだ!」

女『まだ認めてくれないの? じゃあどうすればいいのよ』

男「今度の休み……競馬場で待ち合わせよう」

女『うん、分かった』

17: 2021/09/28(火) 19:03:15.840
<競馬場>

女「競馬場なんて初めて来たわ。で、私にどうしろって?」

男「君が未来人なら、競馬の結果を当てるなんてわけないはずだよな」

女「まあね」

男「だから、今日のレースの予想をして欲しい。一位を当ててもらえばいい」

女「ふうん、まさか私が予想した馬に賭けるつもりじゃないでしょうね。ちゃっかりお金儲けしたいとか」

男「君を信じてない俺がそんなことするもんか」

女「分かった。じゃあ私の力見せてあげる」

18: 2021/09/28(火) 19:06:19.128
男「1レース目だ。どの馬が来ると思う?」

女「んー……あの馬」

男「ひ弱そうだし、人気は低いみたいだけどね」

女「だけど、勝つのはあの馬」



ドドドドドド… ワーワー…



女「ほらね?」

男「勝ち誇るのは全レース当ててからにしてくれよ」

19: 2021/09/28(火) 19:09:02.115
男「2レース目……どの馬が一位になる?」

女「あの黒い馬」

男「今度は一番人気か……」



ドドドドドド… ワーワー…



女「当たったよ」

男「一番人気が一位になっただけだろ。得意になるほどのことじゃない」

21: 2021/09/28(火) 19:12:18.463
ワーワー…

男(最終レースも……当てた)

女「どう? 全部当ててみせたわ」

男「ああ……見事だ」

女「これで、信じてくれる?」

男「君は本物だ」

女「でしょ? 私は23世紀から来た未来人――」

男「いや……君は未来人なんかじゃないさ」

女「まだ認めないの? あなたも強情な人ね」

男「これを見てくれ」ピラッ

女「なにこれ? ……え」

22: 2021/09/28(火) 19:15:42.199
女「今日のレースの……全ての結果……?」

男「一位どころじゃない。全ての着順を当ててるはずだ」

女「なんで……こんなものが……あなたも私と同じなの!?」

男「いいや……俺は君とは違う。“予知”なんかじゃない。ただ……あらかじめ調べてきただけだ」

女「な……!」

男「君が予知能力者ということも調べていた。もっとも半信半疑だったけどね」

女「あなたは……いったい……」

男「俺は……正真正銘の“未来人”さ。君の設定よりさらに未来の24世紀のね」

女「!」

男「21世紀のテレビやスマートフォンという端末は、扱いにくくて苦労したよ」

24: 2021/09/28(火) 19:18:35.433
男「俺の正体に驚くってことは、君はこの未来を予知していなかった」

男「つまり、君の予知能力は任意で発動するタイプのようだね。しかも乱用もしない」

男「効力は昨日の件から考えて、すぐ先の未来から数時間先まで見える。素晴らしい……」

女「ひっ!」

女「か、体が!」

男「悪いが、逃がしはしない。“未来の道具”ってやつで、君の動きを縛らせてもらった」

女「私をどうする気……!?」

男「とにかく、話を聞いて欲しい」

25: 2021/09/28(火) 19:21:14.785
男「お願いがございます」サッ

女「え……!?(土下座……!?)」

男「あなたのそのお力を……貸して頂けないでしょうか!」

女「は……?」

男「実は24世紀、地球は人類史上最大の危機に見舞われております」

女「いったいどんな……」

男「宇宙人の侵略です」

女「ええっ!?」

男「宇宙人の凶暴性、科学力は恐ろしく、人類は瞬く間に追い詰められました」

26: 2021/09/28(火) 19:24:33.143
男「しかし、人類も負けてはいません」

男「持ち前の知恵と工夫で、どうにか総力を結集し、なんとか戦えるまでになりました」

男「ですが勝利するには、どうしてもあと1ピース足りない」

女「それが……私の能力?」

男「はい、敵の動きを先読みする能力。それも予知といっていい精度で。24世紀のコンピュータですらそれは叶わない」

男「そこで我々は歴史を調査し、予知能力者といえるような人間がどこかの時代でいないか徹底的に探し」

男「そして……21世紀のあなたが候補に挙がったのです」

女「よく見つけられたわね。私、能力をひけらかすことなんてないのに」

男「24世紀の調査力というやつですよ」

男「そして、21世紀にやってきた俺はあなたに近づき、挑発し、予知能力が本物かどうか試させてもらいました」

女「あーあ、上手く乗せられちゃったわ。あのいけ好かない態度も全部演技か」

27: 2021/09/28(火) 19:27:37.785
男「我々がたどってきた歴史では、ここであなたを誘うということはありません」

男「ですから、この行為は歴史を大きく変えてしまうかもしれない」

男「しかし、それでも我々はこのような選択をしました。24世紀より先の未来を造るために――」

男「さて、説明はここまで。動きは止めましたが、断られたらそれまでです。無理強いはしません」

男「どうか、俺と24世紀に来て下さい! 宇宙人を倒すために!」

女「今……自分についてちょっと予知してみたんだけど」

男「?」

女「あなたと一緒にタイムマシンに乗って……24世紀に向かって飛んでったわ」

男「あ……ありがとうございます!」

女「だけど、タイムマシンって結構地味な外見なのね」

男「もうちょっとかっこいいのもあるんですけどね……俺のは地味です」

28: 2021/09/28(火) 19:30:14.629
女「じゃ、さっそく行きましょうか」

男「え、いいんですか。当分戻ってこれないかもしれませんよ」

女「平気平気、善は急げっていうでしょ。案内よろしくね、未来人君」

男「ああ、それと……俺、タイムマシンが出てくるSF大好きです。有名どころは全部読んでます」

女「私も!」

男「25世紀も26世紀も、そんなSFが楽しめるよう、この戦い絶対勝ちましょう!」






― 終 ―

29: 2021/09/28(火) 19:36:22.132

おもしろかった

引用元: 男「タイムマシンなんて絶対ありえないんだよ。だって未来人が来たことないんだから」