1: 2021/10/04(月) 21:00:19.081
ブロロロ… キキッ

不良(なんだ……このデカイ車は……)

大富豪「初めまして。君が不良君だね」

不良「なんだあんた」

大富豪「これは失礼、私は大富豪。大金持ちだ。君を見込んで頼みがあってね」

不良「頼み?」

大富豪「私の娘の“不良のコーチ”になって欲しいのだ」

不良「はぁ?」

4: 2021/10/04(月) 21:04:40.816
不良「ふざけんな、誰がやるかよ」

大富豪「むろん、報酬は弾もう」

不良「金ちらつかせりゃ何でもやると思ったら大間違いだぞ、おっさん」

ボディガード「貴様、旦那様に失礼な口を……」ガシッ

不良「さわるんじゃねえよ!」

ドゴォッ!

腹部に強打。

ボディガード「…………」

不良「おいおい、ビクともしねえのかよ! おもしれえ!」

5: 2021/10/04(月) 21:07:16.255
大富豪「待ちたまえ。私は争いに来たわけではない」

不良「ああ?」

大富豪「私も金持ちの道楽でこんなことを頼むわけではない」

大富豪「娘はどういうわけか不良というものに興味を持ってしまい、
    一度レッスンを受けたいといって聞かんのだ」

不良「レッスン……」

大富豪「そこで近隣の不良を私なりに調査し、今時珍しい硬派で、群れずに一匹狼、
    金にもなびかない君ならば、娘を任せられると思ったのだ」

大富豪「頼む、話だけでも聞いてくれえっ!」バッ

不良「……分かったよ。そこまでいわれたら……」

大富豪「おおっ!」

6: 2021/10/04(月) 21:10:18.356
車に乗り込む。

ブロロロロロ…

不良「俺はどうすりゃいいんだ? 酒や煙草、喧嘩なんかを教えりゃいいのか?」

大富豪「いや、酒や煙草は娘の健康を損なうから困る。喧嘩も、娘が怪我などしたら大変だ」

大富豪「それとむろん、万引きなどの犯罪なども教えないでもらいたい」

不良「…………」

不良「酒も煙草もやらない、喧嘩も犯罪もしない不良って、もはやただの“良”な気がすんだけど」

大富豪「まあ、雰囲気だけを教えてやってくれればいいのだよ。雰囲気を」

不良「……分かったよ。とりあえずやってみる」

大富豪「ありがとう、むろん礼はする」

7: 2021/10/04(月) 21:13:12.678
やがて、ある公園に到着する。

大富豪「娘はあちらにいる。さっそくレッスンしてあげてくれたまえ」

不良「ああ、分かったよ」

不良を見届けて――

大富豪「上手くいったな。ところで、さっきのパンチはどうだった?」

ボディガード「……効きましたよ。あの若さであんなパンチを打てるなんて……
       なんなら将来スカウトしたい気分です」

大富豪「ご苦労だった。彼ならばきっと娘を満足させてくれるだろう」

8: 2021/10/04(月) 21:15:39.593
不良(この女が……!)

令嬢「あなたが私に不良のレッスンをして下さるコーチ? 初めまして」

不良「は、初めまして……」

不良(おいおい、こいつは予想以上にお嬢様だぞ……ドレス着てるし)

令嬢「私を立派なお不良にして下さいませ!」

不良「お、お不良……」

10: 2021/10/04(月) 21:18:41.745
不良「最初に聞いておきたいんだが、なんで不良になりたいんだ?」

令嬢「私、近頃ヤンキー漫画というものを読みまして……それで不良ってカッコイイって思いましたの!」

不良(やっぱりこういう類かよ……)

不良「あのなあ、不良なんてもんは全然かっこいいもんじゃなく――」

令嬢「あなたは不良なのですよね? やっぱり本物はかっこいいですわ!」

不良「え、そうかな」

令嬢「あなたから不良のレッスンを受けられるなんて本当に嬉しいです。
   ぜひよろしくお願いします!」

不良「あー、うん。こちらこそよろしく」

11: 2021/10/04(月) 21:22:25.454
不良「んじゃあ、まずガンの付け方でも」

令嬢「ガンとは? ピストルかしら?」

不良「えーと、相手を睨むことだ」

令嬢「なぜ睨むのです?」

不良「なぜって……えーと、相手をビビらせる効果がある!」

令嬢「まあ、素敵! ではお手本を!」

不良「なんだコラァ!」ギロッ

令嬢「すごい迫力ですわ!」パチパチ

不良「恥ずいから拍手とかやめて。んじゃ、お前がやってみろ」

令嬢「分かりました!」

12: 2021/10/04(月) 21:25:04.087
令嬢「なんだコラァですわ!」ギロッ

不良「…………」

令嬢「いかがでした?」

不良「うん、まあ、悪くはないんじゃないかな」

令嬢「まあ、嬉しい! これで私もお不良に一歩近づけましたのね!」

不良「だけど“ですわ”はいらねえかな」

令嬢「そこは譲れませんわ!」

不良「なんでだよ……」

14: 2021/10/04(月) 21:28:18.980
不良「次はこれだ。ヤンキー座り」スッ

令嬢「あっ、よくコンビニエンスストアでその座り方をしている殿方達がおりますわね」

不良「コンビニを略さずいう奴初めて見たよ。んじゃ、やってみろ」

令嬢「こうですか?」スッ

不良「そうそう」

令嬢「この体勢、なかなか楽ですわね」

不良「そうか?」

令嬢「はい、学校でもやってみようかしら」

不良「絶対やめとけ!」

17: 2021/10/04(月) 21:31:14.837
不良「ったく、今時こんな箱入り娘がマジでいるとはな」

不良「お前、ちゃんとマブダチとかいるのか?」

令嬢「マブ?」

不良「親友だよ。その分じゃ、周りだって恐れ多くて寄ってこないだろ」

令嬢「失礼な。もちろんおりましたわ! 大変素晴らしいおマブが!」

不良「おマブ……!」

令嬢「それに私の知り合いには、一流の女優やファッションデザイナー、メイクアップアーティスト、
   といった方々が大勢……」

不良「分かった分かった、悪かったよ!」

19: 2021/10/04(月) 21:34:15.694
― 町 ―

不良「とりあえず、町を散歩するか」

令嬢「不良ならではの歩き方というのはございますの?」

不良「ん~、こんな感じかな」

肩をいからせながら歩く。

令嬢「なぜこんな歩き方を?」

不良「なんでっていわれても……うーん、自分を強く見せるためかな」

令嬢「強く見せる? なぜ、わざわざそんなことを? 不良さんは強くないのかしら?」

不良「…………!」

不良「強いに決まってんだろ! ナメんな!」

令嬢「ご、ごめんなさい!」

20: 2021/10/04(月) 21:37:17.607
警官「お、不良じゃないか!」

不良「……うっす」

警官「ずいぶん可愛い子を連れてるな。ひょっとして彼女か?」

不良「そんなんじゃないっすよ」

令嬢「私、この方に不良のレッスンを受けておりますの!」

警官「ふ、不良のレッスン?」

不良「余計なこというな!」

警官「まあ、なんでもいいが……もう暴れたりするなよ。
   ワルどものいる世界からは足洗って、大人しくしてるんだぞ」

不良「うっす」

21: 2021/10/04(月) 21:40:20.466
令嬢「先ほどのおまわりさんは?」

不良「俺の恩人さ。俺がもっと荒れてた頃、色々気にかけてくれた人でさ。
   あの人がいなかったら……俺はとんでもねえワルになってたかもしれねえ」

令嬢「まあ素敵! お不良とおまわりさんの友情ですわね!」

不良「友情なんていいもんじゃねえけどさ」

令嬢「ヤンキー漫画でもよくありますものね。お不良に理解のあるおまわりさん」

不良「まあな。だけどしょせん不良と警官……仲良くなれるもんじゃねえよ」

令嬢「立場の違う者同士、いつか対立する時が来てしまうものですものね。
   光と闇、二つの正義がぶつかり合う……なんて美しいの!」

不良「光と闇て……大げさすぎんだよ」

22: 2021/10/04(月) 21:44:12.805
不良「今日はこんなところかな」

令嬢「ありがとうございました」

令嬢「ではこれから、週に何度かレッスンをして頂くということで……」

不良「ああ」

令嬢「ではごめんあそばせ」フワッ

上品に挨拶をして帰る。

不良「……マジで妙なことになっちまったなぁ」

23: 2021/10/04(月) 21:48:42.461
数日後――

不良「今日はどうしたもんか……」

令嬢「色々とお不良の文化について教えて頂きたいですわ」

不良「不良に文化もクソもないと思うが……」

不良「とりあえず、ゲーセンでも行くか」

令嬢「ゲーセン? 三味線の一種かしら?」

不良「ゲームができる場所だよ! 今時ゲーセンを溜まり場にしてる不良も少ねえけどな」

令嬢「楽しみです!」

25: 2021/10/04(月) 21:51:24.258
― ゲームセンター ―

不良「クレーンゲームでもやるか」

令嬢「クレーンゲーム?」

不良「このアームで景品を取るんだよ」

令嬢「まあ、面白そう!」

不良「まず、俺が手本見せてやんよ」

ウイーン…

ボトッ

不良「くそっ、ダメだったか! アーム弱すぎんだろ!」

27: 2021/10/04(月) 21:53:48.240
令嬢「じゃあ次は私が」

ウイーン… ボトッ

令嬢「あら、もう一回」

ウイーン… ボトッ ウイーン… ボトッ ウイーン… ボトッ 

不良「もういい加減諦めろって……」

令嬢「嫌ですわ! 次こそ!」

ウイーン…

令嬢「取れましたわ!」

不良「す、すげえ。財力にモノいわせたごり押し……!」

28: 2021/10/04(月) 21:56:24.086
― 牛丼屋 ―

令嬢「ここはお不良御用達のお店ですの?」

不良「いや、そんなことねえけど……俺がよく来るからな」

店員「へい、牛丼並二つお待ち!」

不良「普段いいもん食ってるお嬢様の口に合うかは分からねえが……」

令嬢「いただきます」パクッ

不良「どう?」

令嬢「ええ、とってもおいしいです!」

不良「そうか、よかった」

31: 2021/10/04(月) 21:58:08.800
令嬢「ただ上質なお米やお肉を使えば、もっとおいしくなると思いますわ」

不良「まあ、そりゃそうだな」

令嬢「そうだ! 今度シェフに作ってもらおうかしら!」

不良「シェフ……!?」

令嬢「はい、私の家には世界的に有名なシェフが勤めてますので」

不良(一流シェフが作った牛丼……食いてぇ~!)

32: 2021/10/04(月) 22:02:19.441
牛丼屋を出て――

不良「さて、少しは不良らしいことしねえとな」

令嬢「お不良らしいこと……ワクワクしますわ!」

不良「これから……俺はカツアゲをする」

令嬢「カツアゲ? お料理かしら?」

不良「ちげえよ! ちょっとうまそうだけど……
   一言でいうと、弱そうな奴を脅して、金を取るって行為さ」

令嬢「そんな! いけませんわ!」

不良「安心しろ。フリだけでマジで取るわけじゃねえから。ちょっとしたドッキリだ」

33: 2021/10/04(月) 22:05:16.714
不良「ターゲットは……あれでいいか」

不良「おい!」

眼鏡「は、はいっ!?」

不良「兄ちゃん、金貸してくんねえ?」

眼鏡「お金……持ってません……」

不良「ならジャンプしてみな」

眼鏡「は、はい……」ピョンッ チャリンッ

不良「持ってんじゃねえか! ……とまぁ、こういう具合だな。怖がらせて悪かった」

眼鏡「へ……?」

令嬢「ありがとうございました。これ少ないですけどお礼ですわ」

眼鏡「え、お金もらえるんですか!?」

不良(カツアゲのアゲは“あげる”のアゲだった……?)

34: 2021/10/04(月) 22:08:47.634
警官「おお、不良」

不良「ちっす」

令嬢「こんにちは」

警官「デートはかまわんが、カツアゲなんてしてないだろうな?」

不良「! もちろんっすよ」

警官「まあ、お前は昔から、弱い者をいじめるタイプのワルではなかった。
   とにかく、今のまま大人しくしておくんだぞ。親御さんを悲しませるな」

不良「悲しむような親じゃねえけど……そのつもりっす」

警官と別れて――

令嬢「不良さんがカツアゲをしないような方だと聞いて安心しましたわ」

不良「ちっ……あの人も余計なことを……」

令嬢「でもたしかに、さっきのカツアゲ、やり慣れてる感じではなかったですわね」

不良「いちいち見破るなよな!」

35: 2021/10/04(月) 22:11:08.823
不良「ちょいとバイクで町を一周してみるか」

令嬢「私、バイクというものは初めて乗りますわ!」

不良「これ被って、しっかりつかまってろよ」

令嬢「はいっ!」

ブオンブオンブオン…

不良「飛ばしやしねえから安心しな。事故ったら大変だし」

令嬢「安全運転でお願いします!」

ブオオオオオオオオッ

令嬢「これがバイクですのね! ものすごいスピード感ですわ! もっと飛ばしてもいいですわよ!」

不良「いや……危ないから」

36: 2021/10/04(月) 22:13:42.279
不良「今日はどうだった?」

令嬢「とても楽しめましたわ。クレーンゲームに牛丼、カツアゲにバイク……
   私もどんどんやってみたいと思います」

不良「いや、カツアゲはやるなよ」

令嬢「うふふっ、冗談です」

不良「冗談までいえるようになったかよ。
   んじゃ次のレッスンの時は……もっと大勢不良がいるような場所に行ってみるか」

令嬢「はいっ、ぜひ!」

不良「!」

不良(ちょっとビビるかと思ったら、ずいぶん食い付いてきたな……)

37: 2021/10/04(月) 22:17:46.673
……

令嬢「今日はお不良の方が集まる場所に連れていってくれると伺いましたが」

不良「ああ、クラブへ行く」

令嬢「クラブ?」

不良「ダベったり、酒飲んだり、踊ったりする場所だ」

令嬢「まあ、楽しそう! いわば不良界の社交場ですわね!」

不良「社交場……まあ、そんなようなもんだ」

令嬢「だけど私、まだ未成年なのですけど……」

不良「俺もだが、近くんとこは誰でも入れる。安心しな。あと酒も飲まなくていい。
   親父さんにもいわれてるしな」

令嬢「それを聞いて安心しました!」

39: 2021/10/04(月) 22:20:19.688
― クラブ ―

ワイワイ… ウェーイ… ハハハハ…

大勢の若者で賑わっている。

不良「おー、いるいる」

令嬢「まあ……お盛んですわね」

金髪「おー、不良じゃん!」

チャラ男「久しぶり! そっちの子は? 彼女? マジ可愛いんだけど!」

不良「彼女じゃねえよ。ツレだよ」

令嬢「可愛いだなんてありがとうございます」フワッ…

上品に挨拶をする。戸惑う二人組。

不良「とりあえず、俺らはあっちで座ってジュースでも飲んでようぜ」

令嬢「はい」

40: 2021/10/04(月) 22:23:30.098
ワイワイ… キャハハハ…

令嬢「いいですわね、活気があって」

不良「そうかぁ? うるせえだけだろ。不良のレッスンなんてしなきゃ、
   二度とこんなとこ来なかったかもしれねえ」

令嬢「ということは昔は来てたんですか?」

不良「ん、まあな……」

令嬢「では、ダンスはできます?」

不良「できなくはねえけど……」

令嬢「ならば踊りましょう!」

不良「は?」

令嬢「シャル・ウィー・ダンス?」

不良「お、おう」

42: 2021/10/04(月) 22:26:28.504
令嬢にリードされ、踊る不良。

令嬢「…………」

不良(これ完全に社交ダンスじゃねえか! なんつう場違いな……)

令嬢「…………」タンッタンッ

不良(だけど、令嬢のリードが巧みなせいで……)

令嬢「さあ、フィニッシュですわ!」シュバッ

不良「おう!」シュバッ

不良(踊り切っちまった!)

ヒューッ! ピーピーッ!

パチパチパチパチパチ…

43: 2021/10/04(月) 22:28:42.730
令嬢「今日は楽しかったです!」

不良「俺も……まあ、楽しかった」

令嬢「できればこのクラブにまた来たいのですけど、よろしいかしら?」

不良「ああ、いいぜ」

令嬢「ありがとうございます!」

…………

……

44: 2021/10/04(月) 22:29:26.795
仲良くなってきたな

45: 2021/10/04(月) 22:32:31.074
― クラブ ―

令嬢「…………」

不良「優雅に紅茶なんて飲んで……」

チャラ男「お、またその子連れてきたのか」

不良「社会勉強ってやつだよ」

チャラ男「ま、女の子連れるなら、せいぜい“DQN”に気をつけろよ」

不良「DQN? 何度かやり合ったっけな。あいつがどうかしたのか?」

チャラ男「お前が大人しくなってから、入れ替わったように暴れ回ってる。
     カツアゲかっぱらいは当たり前。もっとヤベェ商売もしてるって噂だ。
     下手したら人も頃してるんじゃねえか」

不良「ふん、関係ねえよ」

令嬢「…………!」ピクッ

46: 2021/10/04(月) 22:36:01.251
令嬢「あ、あの……」

不良「ん?」

令嬢「今さっき話してたDQNさんという方……どういう御方ですの?」

不良「お前が気にかけるような奴じゃねえよ」

令嬢「…………」シュン…

不良「まあ、あれだ……ヤンキー漫画なら間違いなく“悪役”ってタイプだ」

不良「いずれ暴力団か半グレにでもなるんだろうよ。あんなのに近づくとろくなことにならねえ」

令嬢「ろくなこと……そうですよね」

不良「どうした?」

令嬢「い、いえっ! さあ、踊りましょう!」

47: 2021/10/04(月) 22:40:02.678
その後も令嬢の強い要望で、二人はクラブに通い続けた。

― クラブ ―

不良(令嬢、このところはいつもこのクラブに来るが……何やってんだか)

そこへ、松葉杖をついた男がやってきた。

包帯「お~、不良!」

不良「お前……どうしたんだ、そのケガ?」

包帯「DQNにやられたんだよ……」

不良「またあいつか……なんでまた?」

包帯「あの野郎、俺の女に手ェ出しやがって……話つけにいったらこのザマだ。
   他にも危ねえクスリ売られて、今も病院でマボロシ見てる、なんて奴もいる」

不良「…………」

48: 2021/10/04(月) 22:43:21.776
不良「あの野郎、相当調子こいてるみてえだな」

包帯「ああ……荒稼ぎしてやがる。だが、不思議とサツにパクられねえんだ。
   ありゃますます勢力拡大すんぜ」

不良「…………」

包帯「ところで、お前のツレのお嬢様、ありゃなんなんだ?」

不良「へ?」

包帯「俺に根掘り葉掘り、DQNのこと聞いてきてさ。
   一応関わるのはやめとけよって忠告しといたけど……」

不良「令嬢が……?」

包帯「ああ、あのお嬢様、アウトローマニアだったりすんのかね?」

不良「ありがとよ。早く怪我治せよ」

49: 2021/10/04(月) 22:46:21.994
クラブを出て――

不良「令嬢」

令嬢「はい?」

不良「お前……本当の狙いはなんだ?」

令嬢「ほ、本当の狙い?」

不良「ヤンキー漫画を読んで不良に憧れた……あんなのウソだろ?
   俺に不良のコーチなんて頼んだのは、こういう場所に連れてきてもらって、
   なんらかの情報を得たかったからじゃねえのか?」

令嬢「……おっしゃる通りです」

不良「やっぱりか……」

令嬢「全てお話しします。ある場所に連れてって下さる?」

不良「ああ、いいぜ」

バイクを転がす。

52: 2021/10/04(月) 22:49:52.604
― 墓地 ―

不良「着いたが、ここは……」

令嬢「墓地です」

不良「…………」

令嬢「どうしました? ずいぶん顔色が悪いですけど」

不良「あ、いや……こういう場所苦手でよ」

令嬢「まあ、不良さんも霊は苦手ですのね」

不良「うるせえよ!」

令嬢「案内します。こちらへどうぞ」

54: 2021/10/04(月) 22:52:16.246
ある墓石の前に立つ。

不良「これは……!」

令嬢「このお墓には、私のお友達が眠っています」

不良「お前の……友達!?」

令嬢「私が学校帰りにたまたま出会った……お友達でした」



不良少女『へえ、あんたみたいなお嬢様ってマジでいるんだな』

不良少女『パフェでも食いにいかない?』



令嬢「たまに会うぐらいの間柄でしたけど、彼女と過ごす日々は本当に楽しくて……。
   そう、不良さん、あなたと過ごしてる時のように……」

不良「もしかして、前に話したマブってのは……」

令嬢「はい、ここで眠る彼女です」

55: 2021/10/04(月) 22:55:35.746
令嬢「ですがある時、彼女は……氏にました」

不良「氏因は?」

令嬢「自殺と聞いてます。ビルから飛び降りたとか……」

令嬢「彼女は家出少女だったようで、体からはおクスリの反応も出たそうです。
   結局、自暴自棄になった末の自殺と片付けられてしまったと聞きました」

令嬢「だけど私には信じられません! 彼女が自殺だなんて!」

不良「だから真相を知りたくて、不良のレッスンを受けたいって親父に頼んだのか」

令嬢「そうです。不良界にお詳しい人を探してくれと頼みました」

56: 2021/10/04(月) 22:58:21.756
不良「わざわざ、親父をクッションに挟んだのはどうしてだ?」

令嬢「私が勝手に動けば、お父様はすぐ嗅ぎつけ、私を止めるでしょう
   ですが、私から『不良のレッスンを受けたい』といえば……」

不良「親公認のお遊びってことで、親父に止められることはなくなるってわけか」

令嬢「それに、この件に関してお父様の力を借りたくないという思いもありました」

令嬢「あなたをご紹介頂いたのはお父様のおかげですが、そこから先は自分の力でやりたかったのです」

不良「なるほどな……」

令嬢「ウソをついて申し訳ございませんでした」

不良「いや、かまわねえさ」

58: 2021/10/04(月) 23:00:28.847
不良「んじゃあ、最終レッスンといくか」

令嬢「え?」

不良「実は俺には、お前のダチを氏なせた奴に心当たりがある」

令嬢「え! それはいったい……」

不良「今から……DQNの元に乗り込む。ついてくるか?」

令嬢「はいっ、行きます!」

不良「よし……野郎のアジトまで飛ばすぞ!」

令嬢を乗せ、バイクを走らせる。

59: 2021/10/04(月) 23:04:00.299
ブオンブオン…

不良「あそこが……DQNのアジトだ」

令嬢「まるでカフェのような看板がありますね」

不良「ああ、潰れてほったらかしになってるカフェを溜まり場にしてやがるのさ」

茶髪「……ん?」

不良「おい、DQNいるか?」

茶髪「なんだてめえ」

パンッ!

茶髪「ぶっ!?」

不良「DQNいるか?」

茶髪「てめ……いきなり……」ボタボタ…

60: 2021/10/04(月) 23:06:16.976
ドズッ!

茶髪「ぎゃふっ!」

不良「DQNいるか?」

茶髪「ひっ、今……中に……」

令嬢「なぜお殴りに? 相手は何もしてないですわよ!」

不良「おいおい、不良ってのは相手が何もしなくても殴るもんだぜ」

令嬢「…………!」

令嬢(これが最終レッスンだというの……?)

61: 2021/10/04(月) 23:09:14.965
― カフェ ―

ヒャハハハ… アハハハ…

ドアが開く。

カランカラン…

DQN「ん?」

不良「よう、DQN」

DQN「不良……! なんでてめえがここに……!」

不良「最近ずいぶん景気いいらしいな。やべえもん売りまくってるとか……。
   だから……喧嘩売りにきたぜ」

DQN「ハァ? すっかり大人しくなったてめえに何が出来るってんだよ」

不良「…………」ギロ…

DQN「…………」ギロ…

令嬢(これがお不良同士のガンのつけ合い……! 迫力が違いますわ……!)

62: 2021/10/04(月) 23:12:39.147
手下A「てめえ!」

手下B「俺らナメてんじゃねえぞ!」

バキッ! ドガッ!

手下A「ぎゃっ!」

手下B「ぐはっ!」

手下達をあっさり返り討ちにする。

ザワザワ… ツエエ…

不良「ザコは引っ込んでろ。俺が用あんのはDQNだけだ」

令嬢(す、すごい……)

63: 2021/10/04(月) 23:16:16.551
不良「てめえ……クスリ売るわ、女さらうわ、やりたい放題らしいじゃねえか」

DQN「まあな。何しろヤりたい盛りなもんでよ。なにかと支払いも金がかかるしよ」

不良「俺はてめえみたいなのが調子こいてるのが我慢ならねえんだ……ブッ潰す」

DQN「やってみな。いっとくが、俺はてめえがいねえ間、かなり修羅場くぐってんぜ?」

不良「おもしれえっ!」

ブオンッ!

不良のパンチをかわすと――

DQN「だりゃっ!」

ガキッ!

蹴りが炸裂。

不良「ペッ、ずいぶん足癖が悪くなってんじゃねーか」

DQN「キックをかじったんだよ」

64: 2021/10/04(月) 23:18:25.009
DQN「そらっ、そらっ、そらぁっ!」

ガッ! バキィッ!

不良「ぐっ……!」

「ヒャハハ、いいぞーっ!」 「さすがDQNさん!」 「ブッ殺せ!」

DQN「てめえから乗り込んで来たんだ! 生きて帰れると思うんじゃねーぞ!」

DQN「そっちの女も俺らでたっぷり楽しんでやるぜ!」ブオンッ

ハイキックを放とうとする。

ズガァッ!

DQN「ぐ……!?」

不良は拳で迎撃していた。

不良「んな何度も蹴りばっかやってたら、さすがに読めんだよ。
   背伸びしてジム通いなんかするから、低かったIQがさらに低くなってんじゃねーのか」

DQN「てめえ……!」

66: 2021/10/04(月) 23:22:42.321
DQN「このおっ!」

ブンッ パリィンッ!

グラスを投げつける。

DQN「氏にやがれッ!」ヒュッ

さらにナイフを抜き、攻撃する。

不良「おっと!」

令嬢「刃物なんて反則ですわ!」

不良「反則じゃねえさ。これが不良の喧嘩だ。使えるもんは何でも使うんだよ」

令嬢「…………!」

不良「もちろん、俺もなァ!」ガシッ

DQN「な……!?」

テーブルを持ち上げると、それを思い切りDQNに叩きつけた。

ドガァンッ!

DQN「うごあっ!」

67: 2021/10/04(月) 23:25:11.014
倒れたDQNに、さらに殺さんばかりの滅多打ち。

ドガッ! ガッ! バキッ! ドガッ! ゴッ! … …

令嬢「ひっ……!」

不良「立てよコラァッ!」

DQN「も、もうやめ……」

「DQNさんが!」 「ひええっ!」 「マジかよ!」

手下達も尻ごみしてしまう。

不良「さーて、聞きたいことあるんだが」

DQN「な、なんだよぉ……」

不良「令嬢! お前のダチのツラが分かるようなもん持ってねーか」

令嬢「は……はい」

68: 2021/10/04(月) 23:28:08.715
令嬢「この女性をご存じかしら?」

“不良少女”の画像を見せる。

DQN「へ……誰……?」

令嬢「!」

不良「シラ切ってもすぐ分かんだぞ! クズ野郎!」

DQN「し、知らねえよぉ……本当だぁ……」

不良「どうする?」

令嬢「私はこの人は……何も知らないと思います」

不良「そうか……じゃあ、行こう」

ザッザッ…

DQN「う、うぐっ……」

69: 2021/10/04(月) 23:31:29.058
不良「お前はあいつを最有力容疑者だと思ってただろ? だが、ハズレだったな」

令嬢「そうですね……」

不良「最後のレッスンとして、マジモンの喧嘩を見せてやった。どうだった?」

令嬢「やはり不良さんはお強かったですわ。そして……怖かったです」

不良「だろうな。それでいいんだ」

令嬢「これで……なんだか吹っ切れました。やはり、友達の氏に裏なんかなかったと分かって……」

不良「じゃあ最後に、俺からあんたの友達を氏なせた張本人を教えてやろう」

令嬢「……え? それはどういう……さっきの方は違うと分かって……」

不良「俺はDQNが犯人だとは一言もいってねえよ。
   ただ……あいつとはケリつけたかっただけだ。あいつがのさばったのは俺の責任でもあるしな」

令嬢「じゃあ、いったい誰が……」

不良「お前のダチを氏なせたのは……この俺だ」

71: 2021/10/04(月) 23:34:36.372
令嬢「ど、どういう意味ですの?」

不良「お前のダチだった女……俺は知ってた」

不良「あの墓地に着いた時、顔色が悪かったのも、あいつのことを思い出したからだ」

令嬢「え……」



不良少女『よっ、バイク乗せてよ』

不良『またかよ。まあいいけどよ……』

ブオオオオンッ!

不良少女『きゃっほー!』

72: 2021/10/04(月) 23:37:26.007
不良「俺とあいつはきちんと付き合ってたわけじゃねえが……よく会ってた。
   お前とカチ合わなかったのは、多分あいつはお前とは昼、俺とは夜会ってたからだろう」

不良「男女の仲というよりはダチに近かったかな……。俺にとってもあいつはマブダチだった」

令嬢「…………」

不良「だが、ある日――あいつは俺に“とても信じられねえこと”をいった。
   俺はそれを聞いて、あいつを罵りまくった。二度と会わねえとまでいった。
   後にも先にもあの時だけだ。あんだけ人にボロクソいったのは……」

不良「それからまもなく、あいつは氏んだ。ビルから飛び降りたって……」

不良「俺は……今でもあいつが氏んだのは俺のせいだと思ってる」

不良「ホントは墓地でいうべきだったが……ひと暴れしてからじゃないと言う勇気がなかった。
   なんつう弱い男だよ」

不良「いつだったかお前、『なんで不良は自分を強く見せようとするのか』っていったが、
   んなもん弱いからそれを隠すために決まってる」

不良「本当に強い奴は不良なんかやらねーよ……」

令嬢「…………」

73: 2021/10/04(月) 23:40:53.437
不良「これが……真相だ」

令嬢「…………」

不良「どうする? 敵討ちでもするか? 抵抗はしねえ」

令嬢「いえ、そんなつもりはありません……」

不良「そうか。ならレッスンは終わりだ。少しの間だったが、お前と過ごすのは楽しかったよ」

不良「駅まで送ってやる。そしたら……お別れだ」

令嬢「はい……」

この日、二人はほとんど会話をしないまま別れた。

75: 2021/10/04(月) 23:43:35.488
― 令嬢の邸宅 ―

令嬢「帰りましたわ」

執事「お帰りなさいませ、お嬢様」

大富豪「おお、どうだった? 今日の不良君のレッスンは……」

令嬢「今日で最後ということになりました」

大富豪「! ……そうか、なら満足したことだろう。
    ワガママを聞いてやったが、これからは我が家の令嬢として相応しい道を歩むのだぞ」

令嬢「はい……お父様」

77: 2021/10/04(月) 23:46:04.048
ベッドに入るが眠れない。

令嬢「…………」

令嬢(不良さんはああいったけど、やっぱりあの方が自殺をなさるなんて考えにくい……)

令嬢(別の理由があるのでは……)

令嬢(今までに出会った人達、私が知ってること、全て考えてみよう……)

令嬢「…………」

布団の中で考え込む。

令嬢「――あっ!」

令嬢(彼女が氏んだのは、まさか――)

…………

……

80: 2021/10/04(月) 23:48:37.706
次の日――

― 墓地 ―

一人たたずむ令嬢。

令嬢「…………」

不良「…………!」

令嬢「どうも」

不良「なんでお前がここに……」

令嬢「ここにいれば来てくれると、なんとなく予感しておりました」

不良「金持ちなだけじゃなく、超能力もあるのかよ」

令嬢「超能力ついでに……私の考えをあなたに聞いて頂きたいの」

不良「なんだよ」

令嬢「やはり、私のお友達は……自殺ではありません!」

不良「…………!」

令嬢「あなたもそう思うのでしょう? 自分が罵ったぐらいで氏を選ぶような方ではないと」

不良「そりゃな……」

81: 2021/10/04(月) 23:50:30.806
不良「だがよ、それじゃあいつはなんで氏んだんだ!? 説明がつかねえよ!」

令嬢「彼女はあなたに罵られる時、こうおっしゃったんじゃありません?」

令嬢は自分の予想を話した。

不良「なんで分かったんだよ……マジで超能力者かよ」

令嬢「もし、それが真実だったとしたら、全てに説明がつきます」

令嬢「彼女がどうして氏んだのかも、DQNさんがなぜあれほど勢力を伸ばしたのかも、
   あなたが今不良界から離れてるのも……」

不良「ウソだ! 俺は信じねえ!」

82: 2021/10/04(月) 23:53:09.575
令嬢「しかし、目を向けなければならない時ですわ! 私たちには確かめる義務があります!
   彼女のおマブダチとして!」

不良「くっ……!」

令嬢「不良さん、私はあなたを信じております。どうかご一緒に……」

不良「……分かった。あんたに従うよ、令嬢」

不良「だが、あいつの氏から時間が経ち過ぎてる。どうすりゃいいんだ?」

令嬢「一つ、方法がございます」

不良「方法?」

令嬢「私ならではの方法です」

83: 2021/10/04(月) 23:56:39.606
夜中、人気のない道をパトロールする警官。

警官「…………」

警官(さっきのメールによると、DQNが不良に叩きのめされたらしいな)

警官(不良の奴め……また暴れるつもりか? きっちり足を洗わせないと……)

警官「……ん」

「おまわりさん……」

警官「はい、どうしました? ――ッ!?」

不良少女「ちょっと道を尋ねたいんですけど……」

警官「お前は……!」

85: 2021/10/04(月) 23:59:12.353
警官「なんでお前が……?」

不良少女「私をご存じ?」

警官「お前は……氏んだはず!」

不良少女「何をおっしゃってるの? 私はこうして生きております。だから道を……」

警官「迷ってんじゃねえ! とっととあの世に行けェ!」

不良少女「私は氏んでません」

警官「氏んだんだァ!」

不良少女「なぜそこまで言い切れるのですか」

警官「俺がやったからに決まってんだろ! 注射して、ビルから……」

不良少女「やはり……そういうことでしたのね」

警官「あ……?」

86: 2021/10/05(火) 00:04:06.117
ベリベリッ

令嬢「作戦、大成功ですわ」

警官「は!?」

令嬢「これは特殊メイクです。私、一流メイクアップアーティストの知り合いがおりますので」

警官「お前は……不良と一緒にいた……」

不良「あんたかよ……」

警官「!」

不良「あんただったのか! あいつを頃したのはッ!」

警官「不良……!」

87: 2021/10/05(火) 00:06:51.984
令嬢「あなたはおそらく、町を守る警察官をする傍ら、そのポジションを利用して
   町のお不良達を手なずけていたのでしょう。彼らに便宜を図る代わり、お金をもらう」

令嬢「特にあのDQNさんは、あなたにとっては稼ぎ頭だったはず」

警官「くっ……!」

令嬢「ですが、不良さんは弱い者イジメを嫌う方。DQNさんの商売の邪魔になる。
   ですから、更生を促し、不良界から手を引かせたのです」

令嬢「不良さんが大人しくなったおかげで、DQNさんは勢力を伸ばし、あなたの懐も潤った……」

令嬢「ところが、そんなあなたの正体に気づいた人がいました。
   不良さんと私のおマブダチ……不良少女さんです」

令嬢「彼女は不良さんがあなたを尊敬してることを知ってました。
   だから、『あの警官には裏がある』と忠告しました。
   ですが結果、不良さんを怒らせる結果となってしまった……」

令嬢「ですから彼女はあなたに直接訴えた。『もう悪い事はやめてくれ』と。
   この瞬間……彼女の運命は決まってしまったのです」

警官「…………ッ!」

89: 2021/10/05(火) 00:10:23.135
不良「なんでだ!? 俺は……俺はあんたを信じてたのに!」

警官「うるせえ! 親や教師からの信頼を裏切ってるクズにいわれたくねえよ」

警官「警察ってのは楽じゃねえんだ。市民のために働き、時には体だって張る。
   だからDQNみたいなの使って副業しねえと割りに合わねえんだよ!」

警官「それをあのバカ女が……余計なこと嗅ぎつけやがって」

警官「ま、評判の悪い家出娘だったおかげで、大した捜査されずに済んだがな……。
   不良の末路なんてのはあんなもんだ」

不良「てめえええええっ!!!」

不良渾身のパンチ。しかし、かわされる。

警官「公務執行妨害だぞ……このクズがッ!」ガシッ

地面に投げ飛ばされる。

不良「ぐはっ……!」

90: 2021/10/05(火) 00:13:37.173
警官「ナメるなよ。俺は悪徳警官だが、武道はきっちり習ってんだ」

警官「このまま絞め頃してやる。非行少年絞め頃したって今時の世論は俺の味方だろうよ!
   『よく社会のゴミを始末した』って褒め称えるだろうぜ!」

不良「が……あ……」

不良(ちくしょう……こんな奴に……あいつは……)

不良(だが……俺はあいつを信じず……氏に追いやって……)

不良「うおおおおおっ!」ググッ

警官「粘るねえ。だが、この体勢はひっくり返せねえよ!」

不良(やべえ……意識が……)

93: 2021/10/05(火) 00:17:03.916
令嬢(どうにか……しないと!)

警官「早くかかってこいよ、お嬢ちゃん。こいつ氏んじゃうぞ?」

令嬢「!」

不良「来る……な……!」

警官「もうオチる寸前だな、さっさと楽になっちまえよ」

令嬢(私が加勢しても役に立たない! もっと他の方法……驚かせるとか――)ハッ

不良『なぜって……えーと、相手をビビらせる効果がある!』

令嬢(今こそレッスンの成果を出す時!)

95: 2021/10/05(火) 00:20:47.268
令嬢「おまわりさん!」

警官「ん?」

令嬢「なんだコラァですわ!」ギロッ

警官「……は?」

令嬢「…………」ジロー…

警官「おいおい、それでガンつけてるつもりか? お嬢ちゃん! 笑わせるぜ!
   アッハッハッハッハァ!」

不良「……笑ってんじゃねえよ」

警官「!」

不良「おかげで力が緩んだ……ぐおおおおおおっ!」グイッ

警官「ちっ、こいつ――!」

97: 2021/10/05(火) 00:23:42.209
ガツッ!

警官「ぶあっ……!」

頭突きに怯んだところへ――

不良「このクズ野郎がァ!」



ガゴォッ!



右ストレートが顎に決まった。

警官「が、はぁ……っ!」

ドザァッ…

100: 2021/10/05(火) 00:27:23.452
不良「気絶したぐれえで終わらせねえぞ、ゴラァ!」ガシッ

令嬢「おやめ下さいっ!」

不良「なんでかばう!」

令嬢「これ以上やっては頃してしまいます!」

不良「頃していいじゃねえか! お前にはダチを想う気持ちはねえのか!」

令嬢「もちろんあります!」

不良「ならいいじゃねえか。仇討ちだ!」

令嬢「あの人はそんなこと――」

不良「氏人の意見を勝手に代弁すんじゃねえよ! 俺はやるったらやる!」

101: 2021/10/05(火) 00:30:21.328
令嬢「でしたら、自分の言葉で申し上げます!」

不良「!」

令嬢「私だって……仇を討ちたい。この方に何度もビンタしたい気分ですわ。
   ですが、私はあなたに人頃しをして欲しくない……!」

不良「…………!」

令嬢「お願いします……。どうか……」ガシッ

涙ながらに懸命にしがみつく。

不良「ちっ! 分かったよ……」バッ

102: 2021/10/05(火) 00:33:55.544
不良「だが、こいつをどうすりゃいい」

令嬢「むろん、警察に突き出します。先ほどの会話は録音していますし」

不良「だが、それだけじゃ証拠が――」

令嬢「お父様のお力を借ります」

不良「え」

令嬢「お父様にいきさつを全てお話しして、協力して頂きます。
   きっとこのおまわりさんを追い詰めることができるはず」

不良「いいのか? お前、親父の力は借りたくないって……」

令嬢「だって、不良の喧嘩というのは何でも使うんでしょう? 親を使うぐらい当然でしょう」

不良「フッ……そうだな」

…………

……

105: 2021/10/05(火) 00:37:29.991
― 令嬢の邸宅 ―

二人は全てを打ち明けた。

大富豪「ふむ……そうか」

令嬢「はい」

不良「……っす」

大富豪「娘よ、つまり“不良のレッスンを受けたい”というのはウソだったわけだな」

令嬢「申し訳ありません」

大富豪「君も、娘をよりによって喧嘩の場や、犯人の元に連れていくとは……
    ムチャクチャをしてくれたな」

不良「すんません……」

大富豪「私は君のことを到底許すことはできない」

令嬢「お父様!」

107: 2021/10/05(火) 00:40:09.929
大富豪「だから……もうしばらく娘のレッスンを頼む。いっとくが断るのは無しだ」

不良「……へ?」

大富豪「娘は君の手で守ってあげてくれ」

不良「う、うっす!」

令嬢「お父様……?」

大富豪「それにしても、我が娘が事件解決の一助になるとはな……。
    面白いことになったものだ。ああ、私の力だが、喜んで貸そうじゃないか。
    警察上層部に知り合いもいるしな」

不良「あ……ありがとうございますっ!」

令嬢「ありがとうございます」

111: 2021/10/05(火) 00:43:36.389
……

令嬢「お父様がこうもすんなり受け入れて下さるなんて……どういうことかしら?」

不良「もしかしたら、親父さんは最初から気づいてたんじゃねえかな」

不良「お前がなぜ不良のレッスンを受けたいかを……。
   ついでに、俺が不良少女と親しかったことも調査出来てたのかもしれねえ」

不良「もちろん、警官が犯人ってとこまでは知らなかったと思うが、
   お前にしばらく自由にやらせて、箱入り娘を成長させようって思ってたのかもしれねえ」

不良「結果として、俺らは真犯人を捕まえた。親父さんとしちゃ満足の成果だろう」

不良「過保護に見えて、さすがに大金持ちやってるだけのことはあるおっさんだぜ」

令嬢「お父様、恐ろしい人!」

…………

……

113: 2021/10/05(火) 00:48:15.627
― 墓地 ―

二人で墓参りをする。

不良「よう、天国で楽しくやってっか?」

不良「あれから……令嬢の親父さんの力もあって、事件が再捜査されて、
   お前を頃した警官は捕まったよ」

不良「DQNども使って悪さしてたのも全部バレたから、重い刑になるのは間違いねえ」

令嬢「どうか安らかにお眠りになって」

二人で手を合わせる。

117: 2021/10/05(火) 00:51:23.335
不良「それと今、俺はボディガードの訓練受けてる。
   プロのボディガードにしごかれまくってる。やっぱプロはつええわ」

不良「将来的には、令嬢お付きのボディガードとして……やってくつもりだ」

令嬢「はい……」

不良「そして、いつか……令嬢を自分のもんにしたいと思ってる」

令嬢「…………」

不良「こればかりは令嬢の親父さんも簡単に許しはしねえだろうが、やってみせる。
   どうか見守ってて欲しい」

令嬢「よろしくお願いします」

119: 2021/10/05(火) 00:54:21.349
不良「それじゃ、帰るか。バイク乗りな」

令嬢「はい」

不良「んじゃ行くぜ、安全運転でな」

ブオオオオオオ…

令嬢「不良さん。私、立派なお不良になれたかしら?」

不良「ああ、なれたと思うぜ」








― おわり ―

120: 2021/10/05(火) 00:54:55.886
乙!
面白かった!

引用元: 令嬢「私を立派なお不良にして下さいませ!」不良「お、お不良……」