1: 2015/10/20(火) 23:13:02.120
無人島に流れ着いて早1か月とちょっと。
日に日にポンコツになっていくココアに、チノは嫌気がさし始めていた。

チノ「はぁ……」

ココア「おはよう、チノちゃん」

チノ「おはようございます。……って、もうお昼ですよ。
  この状況でよくこんな時間まで寝ていられますね」

ココア「えへへ。……ところでチノちゃん。それ、何してるの?」

チノ「ああ。これは……」

5: 2015/10/20(火) 23:15:09.568
ココア「へー! 木の根っこが食べられるんだぁ」

チノ「はい。しっかり泥を落として、細かくちぎって、日に干さないとダメですけど」

ココア「ひとつもーらい」ガリッ

チノ「あっ」

ココア「っ!? 苦いっ! ぺっ、ぺっ!」

チノ「だからちぎって日に干さないとって……」

ココア「食べられないじゃない! チノちゃんの嘘つき!」

チノ「……」

10: 2015/10/20(火) 23:17:53.965
ココア「うー……。口の中が苦いよぉ……」

チノ「しょうがないですね。……ほら」

ココア「お水! でも、いいの?」

チノ「絶対に全部飲んじゃダメですよ。
  私たちと一緒に漂着したお水も、そのペットボトルで最後の一本なんですから」

ココア「うん、分かった!」ゴクッ……ゴクッ……

チノ「ココアさん。それくらいにしておいてください」

ココア「……」ゴクッ……ゴクッ……

13: 2015/10/20(火) 23:20:31.945
チノ「ダメって言ったのにどうして全部飲むんですか!」

ココア「フリかと思って……」

チノ「命のかかった状況でそんなフリするわけないでしょう!」

ココア「えへへ。ごめんね、チノちゃん」

チノ「うう……。海に囲まれた島で飲料水を確保するのは大変なのに……」

ココア「チノちゃん! 心配ご無用だよ!」

チノ「なんですか……。少し静かにしててください……」

ココア「お姉ちゃんに任せて!」

14: 2015/10/20(火) 23:23:35.580
チノ「空のペットボトルにお水くんできました」

ココア「ありがとう、チノちゃん」

チノ「でも海水なんてしょっぱくて飲めないですよ。どうするつもりですか、これ」

ココア「砂浜に適当に穴を掘って、そこに海水を入れて、っと」ザバーッ

チノ「ああっ。せっかくくんできたのに……」

ココア「で、穴の真ん中にカップを置くでしょ?
   それで穴を覆うようにして上からビニールをかぶせて、真ん中をへこませる」

チノ「おお。なんだかそれっぽいことをしますね」

15: 2015/10/20(火) 23:26:31.109
ココア「太陽の熱で海水が蒸発して、ビニールに付着した水滴が落ちて、
   カップに真水がたまるんだよ」

チノ「すごいです! ココアさんは物知りですね」

ココア「へっへーん。これからはお姉ちゃんって呼んでもいいんだよ」

チノ「それは呼びませんけど。この後はどうすればいいんですか。
  何かお手伝いすることはありますか」

ココア「大丈夫。しばらく待ってるだけでOKだからね」

チノ「そうですか。ところでココアさん」

ココア「?」

16: 2015/10/20(火) 23:28:27.181
チノ「こんなにきれいなビニール袋、どこで拾ってきたんですか」

ココア「あはは、チノちゃん。こんなきれいなのが落ちてるわけないじゃない」

チノ「ええ? じゃあ、どこで」

ココア「さっきコンビニでからあげクン買ったときのを取っておいたんだよ」

チノ「え?」

ココア「ん?」

チノ「コンビニ……?」

ココア「うん。コンビニ」

チノ「あるんですか……? コンビニ……」

19: 2015/10/20(火) 23:31:09.852
チノ「どうして今まで黙ってたんですか!」

ココア「な、何をそんなに怒ってるの……? チノちゃんも食べたかった? からあげクン……」

チノ「からあげクンが食べたかったから怒ってるわけじゃありません!」

ココア「そうだよね。チノちゃんファミチキ派だもんね」

チノ「何派とか今はどうでもいいんですよ!」

ココア「お、落ち着こうよ。ねっ?」

チノ「ああ……。どうしてココアさんはここまでポンコツになってしまったんでしょう……」

21: 2015/10/20(火) 23:34:45.728
ココア「ほら、あそこだよ」

チノ「本当にあった……。こんな近くに……」

ココア「あはは。チノちゃん、コンビニ見つけたくらいで震えないでよ。
   島根県民じゃあるまいし」

チノ「ふ、震えますよ! 無人島だと思ってたところにコンビニがあったら……。
  というか島根県民ってなんなんですか。島根県民って」

ココア「あ、あれはまさかコンビニでねぇか……。
   嘘じゃろ……。生きてる間にお目にかかれるとは……。ナンマンダブナンマンダブ……。
   みたいな?」

チノ「島根県の人に怒られますよ……」

23: 2015/10/20(火) 23:37:06.658
『いらっしゃいませー』

チノ「すごい……。お水だけじゃなくてオレンジジュースもあります……。
  お菓子にお弁当にサンドイッチ……。
  もう木の根っこなんて食べなくてもいいんですね……」

ココア「あはは。チノちゃんうまいねぇ。島根県民の真似」

チノ「してないですよ! 島根県民の真似なんて!」

ココア「コーヒー頼んだら空のカップだけ渡されでなぁ……。
   田舎モンのお前に飲ますコーヒーなんでねぇ、ってこどなんじゃろかぁ……。
   コンビニってのはそらおっそろしいとこだでよぉ……」

チノ「島根県民の真似はもういいんですよ!」

24: 2015/10/20(火) 23:39:19.833
『ありがとうございましたー』

チノ「ふふふ。思わずたくさん買い込んでしまいました」

ココア「すっごい量だねぇ」

チノ「それは当然です。今夜はパーティですから」

ココア(あんなにニコニコしちゃって……。チノちゃんかわいいなぁ)

チノ「おでんは熱いうちに食べてー、フライドチキンもー、
  オレンジジュース飲んでー、ポテトチップスの袋開けてー。
  ああ、そうでした。ポッキーもあります」

ココア「豪勢だねぇ」

チノ「豪勢です」

25: 2015/10/20(火) 23:41:23.536
チノ「はー。もうおなかがいっぱいです」

ココア「結構食べたねぇ」

チノ「はい。この一か月、まともなものを食べていませんでしたから」

ココア「お水もいっぱい買ったね?」

チノ「私たちしかお客さんがいないようですし、いつコンビニが潰れるか分かりませんから。
  これだけあればしばらくは持ちます」

ココア「さすが賢いね、チノちゃん」

チノ「ふふふ」

28: 2015/10/20(火) 23:43:50.563
ココア「ところでさ、チノちゃん」

チノ「なんでしょう」

ココア「ラビットハウスには帰りたくないの?」

チノ「そりゃ帰れるものなら帰りたいですけど」

ココア「? じゃあなんで帰らないの?」

チノ「はぁ……。ココアさんは本当にポンコツですね。
  帰る手立てがないから、こうしてサバイバル生活を続けているんじゃないですか」

ココア「でもさ、チノちゃん。コンビニの人に言えば帰れるんじゃない?」

チノ「あっ」

29: 2015/10/20(火) 23:46:13.621
チノ「うう……。どうしてこんなに簡単なことに気付かなかったんでしょう……」

ココア「私はてっきり、チノちゃんはここに永住するつもりなのかと思っていたよ」

チノ「そんなわけないじゃないですか……。
  まぁ今日はもう遅いですから、明日の朝にでもコンビニに行ってお願いしてみましょう」

ココア「そうだね。じゃあ、もう寝ようか」バターン

チノ「そうですね」ゴロッ

ココア「……」

チノ「……」

ココア「こうやって、二人で並んでさ、
   星空見上げながら寝るのも、今日で最後なんだね」

チノ「……そうですね」

31: 2015/10/20(火) 23:48:26.355
『ありがとうございましたー』

ココア「貨物船に乗せてくれるって。良かったね、チノちゃん」

チノ「ええ。本当に良かったです」

ココア「そっかぁ。そうだよねぇ」

チノ「? どうしたんですか、ココアさん。浮かない顔して」

ココア「うん。帰れるのはうれしいんだけど、ね」

チノ「はい」

ココア「そうだ! まだ船来るまで時間があるから、ちょっとお散歩しない?
   最後なんだし、島をぐるっと一回りしてさ」

チノ「いいですね。そうしましょう」

34: 2015/10/20(火) 23:52:34.398
ココア「夕方に出航するって言ってたから、
   日が傾く前には船着き場に行かないとね」

チノ「まだお昼ですから。余裕です」

ココア「ねぇチノちゃん」

チノ「なんでしょう」

ココア「初めてこの島に来た時の事……覚えてる?」

チノ「覚えていますよ。忘れられるはずがありません」

ココア「ふふっ。そうだよね」

37: 2015/10/20(火) 23:55:06.594
船員「大変ダ! 船底ガ岩礁ニブツカッタ!」

船長「ソリャヤバイダロ! 逃ゲルゾ!」

チノ「ちょ……。ココアさん! 寝てる場合じゃないですよ!」

ココア「うーん……。あと2時間……」

チノ「二度寝のレベル超えてますって! なんだか危ない状況みたいです!」

ココア「むにゃむにゃ……」

チノ「ココアさん!」

38: 2015/10/20(火) 23:58:13.847
船長「客ノ心配ナンテシテル場合ジャネェ!」

船員「ソレニハ同意!」

ザバーンッ!

チノ「ああっ……! 救命ボートが行ってしまいます……」

船長「波高スギダロ……」

船員「ナントカナリマスッテ」

チノ「すいません! そのボート、私たちも乗せてください!」

ココア「チノちゃーん……。朝ごはんはブリトーがいいなぁ……」

39: 2015/10/21(水) 00:00:13.859
チノ「お願いします!」

船長「無理ダロ。俺達ダケデ精一杯ダ」

船員「諦メロ」

チノ「そんな……」

ココア「ん……? んんっ?」パチッ

ザッパーンッ!!

船長「ジャア達者デナ」

船員「健闘ヲ祈ル」

チノ「嘘……。嘘ですよ……」

41: 2015/10/21(水) 00:03:15.015
ココア「チノちゃん、おはよう」

チノ「おはようじゃないです……。今がどんな状況だか分かってるんですか……」

ココア「えへへ。ごめん、分かんないや」

チノ「……ッ! 嵐の中でこの小さな船が座礁して、船員も全て逃げてしまいました!
  このまま私たちは沈むしかないんですよ! 沈むしか……氏ぬしか……ないんです……」ポロポロ

ココア「大丈夫だよ、チノちゃん」

チノ「えっ」

ココア「こっちの方が安全だから」

チノ「それは……どういう……」

42: 2015/10/21(水) 00:05:09.181
ココア「ほら、救命ボート見えなくなっちゃったでしょ?
   というか、あれは救命ボートじゃなくて、ただのゴムボートだったから」

チノ「そ、そうだったんですか」

ココア「うん。見るからにおかしかったもん。
   あんなのに乗ってこの嵐の中を進むくらいなら、こっちの方がいくらか安全」

チノ「でも……。いずれこれも沈んじゃうんじゃ……」

ココア「安心して。これがあるから」

チノ「それは……。スーツケース?」

ココア「うん。私、船で出かけるときはね、気密性の高いスーツケースをいつも持ち歩くようにしてるの。
   いざという時にしがみつけば、絶対に沈むことは無いから」

44: 2015/10/21(水) 00:07:11.529
チノ「でも……この嵐の中では……」

ココア「大丈夫だ、って最初に言ったでしょ?」

チノ「……」

ココア「チノちゃんは何も心配しなくていいんだから。お姉ちゃんに全部任せてよ」

チノ「……」

ココア「チノちゃん」

チノ「……分かり、ました」

ココア「うんっ。じゃあ行くよ。私が絶対何とかしてあげるからね」

チノ「はい」

45: 2015/10/21(水) 00:09:43.988
ココア「それでこの島に流れ着いたんだよね」

チノ「あの時のココアさん……、すごく格好良かったです」

ココア「えへへ。照れるなぁ」

チノ「コ……、ココアさん!」

ココア「わっ!? ど、どうしたの、急に大きな声出して……」

チノ「その……あの時は助けてくれて……本当にありがとうございました」

ココア「いいよぉ、そんな改まらなくても。
   私は、お姉ちゃんとして当たり前のことをしただけなんだから」

46: 2015/10/21(水) 00:12:04.716
チノ「でも、でも……。私、本当に氏んじゃうって……
  みんなにもう会えなくなっちゃうって……そう思って……」ポロポロ

ココア「チノちゃん……」

チノ「だから……ありがとうございます……」

ココア「チノちゃん」ギュッ

チノ「ココアさん……」

ココア「これで最後なんだから、怖かった思い出はこの島に残して行っちゃおうね」

チノ「……はい」

ココア「お姉ちゃんの胸で、好きなだけ泣いたらいいよ」

47: 2015/10/21(水) 00:13:18.618
ココア「そろそろ落ち着いた?」

チノ「はい。すいませんでした」

ココア「ふふっ。ねぇチノちゃん。後ろ……振り向いてみて」

チノ「? わぁ……」

ココア「すごい夕焼けだね」

チノ「……とっても綺麗です」

ココア「海も空も全部オレンジ色で、なんだか吸い込まれちゃいそうだね」

チノ「……はい」

48: 2015/10/21(水) 00:14:37.454
ココア「ちゃんと目に焼き付けておかないとね。
   こうして見る景色も、今日で見納めなんだから」

チノ「そうですね」

ココア「あー、見て見て! 船が夕焼けに向かって進んで行くよ!」

チノ「珍しいですね、このあたりに船なんて」

ココア「そうだねぇ。なんだか絵画の世界みたい」

チノ「幻想的ですね」

ココア「あれって多分、私たちが乗る予定の船だったと思うけどね」

チノ「あっ」

49: 2015/10/21(水) 00:17:41.141
ココア「またこうして星空を見上げながら寝れるとはねー」

チノ「うう……。すいません……。私がベソかいてたから……」

ココア「あはは。いいよ別に。謝らなくたって」

チノ「でも……」

ココア「それにね、チノちゃん。私、ちょっとうれしいんだぁ」

チノ「うれしい……ですか?」

ココア「うんっ。チノちゃんと二人で、こうして大自然の中で生活してさ、
   私すごく楽しかったよ。ずっとこんな日々が続けばいいなぁって」

50: 2015/10/21(水) 00:18:50.006
チノ「ココアさん……」

ココア「向こうに帰ってからも、よろしくね、チノちゃん」

チノ「はい……。こちらからもよろしくお願いします……」

ココア「?」

チノ「……」

ココア「チノちゃん、もしかして……泣いてる?」

チノ「な、泣いてません!」

52: 2015/10/21(水) 00:22:27.809
チノ「あれ……」

ココア「場所に間違いはないよ、チノちゃん」

チノ「まさか……コンビニが……」

ココア「潰れちゃってるね」

チノ「そんな……せっかく帰れると思ったのに……」

ココア「あはは。昨日がラストチャンスだったかぁ」

チノ「うう……。昨日に戻れるなら、メソメソ泣いてた自分をひっぱたきたい……」

53: 2015/10/21(水) 00:24:58.965
ココア「まぁいいじゃない。そろそろこの環境にも慣れてきたところだし」

チノ「否定できないのがつらいです……」

ココア「えーとね……。あ、再来週にはまた同じ場所に別のコンビニがオープンするみたいだよ」

チノ「え? そうなんですか?」

ココア「うん。ファミチキが食べられるよ。良かったね、チノちゃん」

チノ「どこに書いてあるんですか、そんなの。
  張り紙もしてないようなんですが……」

56: 2015/10/21(水) 00:28:11.152
ココア「ケータイで調べたんだよ。ほら」

チノ「え」

ココア「ここに書いてあるでしょ?」

チノ「ケータイ……。ココアさん……ケータイ持ってたんですか……。
  そして、電波が届いてたんですか……」

ココア「あはは。チノちゃん、ケータイの電波くらいで大げさだなぁ。
   本物の島根県民みたいだよ?」

チノ「ココアさん! 次からそういうことは早く言ってください!」

終わり

61: 2015/10/21(水) 00:33:47.039

引用元: チノ「ココアさんがポンコツになってしまいました……」