1: 2010/11/21(日) 03:06:34.68
唯先輩たちが卒業してしばらくたち、私は三年生になった。
今軽音部は、私、純、憂の三人。
このままでは、軽音部は廃部になってしまう。

純「だーいじょうぶだってー、新歓ライブの反応も上々みたいだし」
純は相変わらず呑気なものだ。わざわざジャズ研をやめてまで軽音部にきたのに…
まあ純らしいといえば純らしいか。

憂「あとは待つしかないよ、梓ちゃん」

憂もずいぶんのんびりしている。
でも、憂が言うと本当にどうにかなりそうな気がしてくる。
不思議だ。

3: 2010/11/21(日) 03:15:25.91
梓「うん…でもとりあえず、またビラ配り行ってくるよ」

二人とは対照的に、私は焦っていた。
せっかく先輩たちから受け継いだ、この部を廃部にしてしまうことだけは避けたかった。
純「しょうがないなぁ、私も手伝ってあげる」

憂「私は誰か来るかもしれないから、ここで待ってるね」

そんな私の焦りを和ませるように、二人は部長である私の背中を押してくれる。
…いい友人を持ったものだ。

4: 2010/11/21(日) 03:28:08.85
梓「ありがと、何かあったら連絡ちょうだい」

純「よし、行こう梓!」

そう言って部室を出ようとしたそのとき、部屋のドアがノックされた。

?「あの…すいません…」

7: 2010/11/21(日) 03:30:58.01
そのとき私が受けた衝撃は、今までにないくらい、強いものだった。

?「入部希望…なんですけど…」

それは、新歓ライブで唯先輩たちの演奏を聞いたときよりも、もしかしたら強いものだったかもしれない。

?「あ…あの…?」


入ってきた入部希望らしい新入生は、唯先輩と瓜二つだった。


10: 2010/11/21(日) 03:33:55.56
憂「え…ちょっ…お姉ちゃん!?」

純「なんで唯先輩がここに!?」

憂も純も、動揺を隠しきれない。
私だってそうだ。
唯先輩が、こんなところにいるはずは…

?「あの…唯先輩って…?確かに、私の名前はゆいですけど…」

憂「え…?」

何が何だかわからない。
えっと、目の前にいる子は入部希望の新入生で、唯先輩にそっくりで、でも唯先輩じゃなくて、でも名前はゆいで…?
純「ちょ、ちょっと落ち着こう!憂、お茶淹れて!」

憂「う、うん!」

あ、ちなみにティータイムもちゃんと受け継がれてます。
ムギ先輩、喜ぶかな、じゃなくて。

13: 2010/11/21(日) 03:35:05.18
純「ふむ、平沢結ちゃん…か。名字まで一緒とは…」

梓「本当にびっくりしたよ…あ、それでゆ…結ちゃんでいいかな、入部希望、ってことでいいんだよね?」

結「はい…でも、OGの人にそんなそっくりな人がいたなんて…」
純「そっくりなんてもんじゃないよー!ホントもう全く同じ!」

憂「うん…声とか仕草までほとんど一緒なんだもん」

長年唯先輩と一緒に暮らしてきた憂が言うのだから、よほど似ているのだろう。

18: 2010/11/21(日) 03:38:10.25
確かに、そのケーキの食べ方や、間延びしたような話し方もそっくりである。
少なくとも、私にはほとんど見分けがつかない。
強いて言えば…髪留めが違うくらいか。
間違い探しじゃないんだから。

しかし…唯先輩か。
卒業間際、唯先輩とちょっといろいろあった私にとっては、この出会いは少し酷かもしれない。
事情を知っている純と憂も、少しこちらを気にしているようだ。
…我慢するって、決めたんだけどなぁ。

24: 2010/11/21(日) 04:03:25.29
結「私、新歓ライブで先輩がたが演奏しているのを見て、本当に感動しました!私も一緒に、バンドやらせてください!」

なんか何年か前にこんなセリフ聞いた気が…あ、私か。

純「ふむ、まあやる気は十分みたいだし…よっし、じゃあちょっといろいろあったけどなんだかんだ部員も揃ったことだし、新生軽音部出発だね!!」

梓「ちょっと純、それ私のセリフ!」

結「はい!よろしくお願いします、先輩!」

憂「よろしくね、結…ちゃん。えへへ、なんだか恥ずかしいな」


27: 2010/11/21(日) 05:05:11.19
憂にとっては自分の姉そっくりな後輩ができたのだ、ある意味私たちよりもとまどいは大きいだろう。
…でも、ここから始まるんだ。
私たちの軽音部が。

梓「ところで結ちゃん、結ちゃんは楽器何ができるの?」
結「あの、実は私まったくの初心者で…あ、でも幼稚園のとき、カスタネットが上手って言われました!」

梓「…」

純「…」

憂「…」

やっぱり唯先輩なんじゃないか?この子。

28: 2010/11/21(日) 05:10:03.49
結「あの、実は私まったくの初心者で…あ、でも幼稚園のとき、カスタネットが上手って言われました!」

梓「…」

純「…」

憂「…」

やっぱり唯先輩なんじゃないか?この子。
結「すいません…やっぱりこんな初心者が入ってきたら、迷惑ですよね…」

純「そ、そんなことないよ!ね、梓!?」

梓「う、うん!」

さすがに私と純の付き合いであった、考えることは同じである。

梓純「(逃がすわけにはいかない…!)」

憂「お姉ちゃんも最初初心者だったんだけど、たくさん練習して、すごく上手くなったんだよ。梓ちゃん、去年の学園祭のライブDVDどこだっけ?」

梓「あ、あれなら物置の中に!」

ナイス、憂!



29: 2010/11/21(日) 05:17:49.21
唯『U&I!』

結「これが…その唯先輩…本当に初心者だったんですか?」

憂「そうだよ、家でも毎日ギー太弾いて練習してて…あ、ギー太っていうのは」

結「このギターのことですよね?なんとなくわかります!かわいいですね!」
憂梓純「(センスまで一緒…!?)」

梓「ま、まあそんなことだから、一から一緒にがんばろう?」

結「はい!」キラキラ

純「ま、まぶしい…」

憂「あ、でも今足りないパートってドラムだよね?」

梓「あ」

30: 2010/11/21(日) 05:20:36.63
忘れてた。
すっかり結ちゃんとのツインギターの構成しか考えていなかった。

結「私、ギターやりたいです!それと、ドラムだったらやってくれそうな人知ってますよ」

純「マジで!?」

結「はい、高校でできた友達で田井中率ちゃんっていうんですけど…」
梓憂純「…」

またどっかで聞いたことあるような名前だな。
まさか…ね。

結「部活まだ決まってなかったみたいだし、明日誘ってみます!中学のとき、吹奏楽部でパーカッションやってたんですって」

ふむ。
なんにせよこれは願ってもないことだ。

32: 2010/11/21(日) 05:27:42.47
梓「うん、じゃあその子のこと、お願いね。入部届も受け取ったから」

憂「明日からよろしくね」

純「おいしいお茶淹れて待ってるからね」

淹れるのは憂でしょうが。

結「はい、よろしくお願いします!それじゃ、失礼します」
梓「…」

憂「…」

純「…」

純「やったー!!」

憂「よかった、これで軽音部続けられるよ、梓ちゃん!」

梓「うん!!」

否が応にもテンションが上がる。
待望の新入部員だ、それになにより廃部にならなくてすむ。
このことが私にとってなによりも喜ばしいことだった。


33: 2010/11/21(日) 05:34:14.59
憂「明日はとりあえず結ちゃんのギターの下見にでも行く?」

梓「そうだね、ドラムは律先輩が残していったのがあるし」

純「唯先輩と同じのがいいとか言い出したりしてー…」

…ありえる。
結ちゃん、唯先輩にただならぬ憧れを抱いたみたいだったしな。

…さすが唯先輩だ。
人を惹きつける魅力ってものを、無自覚だけど持っている。
だから私も…って今は関係ないな。



36: 2010/11/21(日) 05:38:17.69
その日はそこで家に帰った。
四人の先輩たちには、新入部員が入って、軽音部が続けられることをメールしておいた。
四人ともそれぞれ喜んでくれて、私も明日からまたがんばろうと、改めて部長として決意を固めた。
ちなみに、結ちゃんの容姿のことは詳しく言わなかった。
ちょっとしたサプライズのつもりで。
みんな学園祭、来てくれるかな。

50: 2010/11/21(日) 09:25:34.30
次の日の部室。
私たちは、結ちゃんと、その友達が来るのを待っていた。

憂「結ちゃんの友達、どんな子なんだろうね」

純「私は名前から嫌な予感しかしないよ」

純、私も同感だよ。

しかし、いくら名前が似てるからって、そんな結ちゃんみたいなことが続くはずは…
だって、ねぇ。

51: 2010/11/21(日) 09:29:27.08
憂「梓ちゃんはどんな子だと思う?」

梓「そうだなぁ、中学で吹奏楽って言ってたし、大人しい子な感じが…」

ドグシャァ

?「こんちゃーーーーーーっす!!!!!」

梓憂純「!?」

率「今日から軽音部でお世話になる、田井中率でっす!よろしくお願いしまーす!」

しなかったよ!やっぱりこういうタイプの子だったよ! っていうか…

53: 2010/11/21(日) 09:32:52.67
梓「り…律先輩…?」

憂「そっくり…」

純「なんかもうあんまり驚かなくなってきたよ」

しばらくして、後ろから結ちゃんが入ってきた。

結「り、りっちゃん…私が、紹介するからって、言ったじゃん…」ゼェゼェ

率「わかってねぇなー結は、こういうのは最初のインパクトが大事なんだよ、インパクトが!」

ええ、インパクトはありましたとも。いろんな意味で。

54: 2010/11/21(日) 09:39:20.30
結「そんなわけで、田井中率ちゃんです」

率「ども!」

梓「よ、よろしく…えっと、率ちゃんはドラム志望で入ってくれた、ってことでいいんだよね?」

率「うぃっす!てか率ちゃんなんて堅苦しいことは言わず、りっちゃんでいいっすよ、梓先輩!」

梓「梓…先輩…?」ズキューン

そういえば梓先輩なんて呼ばれるのは中学以来だったかもしれない。
あのころは何とも思わなかったけど、今こうして律先輩そっくりの後輩が私を梓先輩と呼んでると思うと…

梓「…悪くないね」

率「?」

55: 2010/11/21(日) 09:50:09.50
純「どうしてウチの部に来ようと思ったの?」

率「いや、先輩たちの新歓ライブ見てかっこいいなー、ちょうどドラムいないし私やりたいなーなんて思ってたら、結が誘ってきて…」

結「ドラム大歓迎、って言ってたって話をしたら「私の時代だ!」とか言っていきなり走ってっちゃうんだもん…まったく、本当に人の話聞かないで突っ走っちゃうんだから」プンプン

率「そう怒んなって…」

なるほど、まさしく律先輩のような子だ。

70: 2010/11/21(日) 19:14:23.64
一つ違うのは、律先輩のようなカチューシャはしておらず、前髪は下ろしてきちんとセットされている。

梓「りっちゃん」

率「へい!なんでしょう?」

梓「おでこは出しちゃだめだよ」

率「?」

純「ちょっと失礼…よっと」ファサッ

率「ああ!私のおでこがあらわに!」

憂「律先輩だね」

梓「うん、律先輩だ」

結「あーっ、りっちゃん、OGのドラムの人にそっくりだよ!」

今更かい!

73: 2010/11/21(日) 19:23:29.96
というわけで、私たちはまた去年のライブのDVDを見ている。

率「うお!?マジだこの人私にそっくり!」

純「順番的にはあんたが律先輩に似てるんだけどね…」

結「昨日見たときは気づかなかったな…ドラムの人は暗くてよく見えなかったから」

そういや律先輩、そんなことを気にしてた時期もあったっけ…

率「ふむ…確かに似てるけど…一つ言えることがあります」


75: 2010/11/21(日) 19:24:45.92

憂「?」

率「私のほうが上手い!」


76: 2010/11/21(日) 19:32:09.58
率「この人、リズムキープはバラバラだし、どんどん突っ走ってって…ベースをはじめ、梓先輩も大変だったんじゃないですか?」

ふむ。さすが経験者、鋭い。

憂「ま、まぁそれがある意味お姉ちゃんたちのバンドのいいところだったというか…」

純「元気があっていいじゃない、ね、梓?」

2人は私が先輩を馬鹿にされて怒るとでも思ったのだろうか、そんなことを言ってくれた。

梓「確かにその通りだね」

昔の私なら、リズムキープもできないドラムなんて問題外だと思っただろう。

梓「でも、」

でも。
あの人たちとやってきた今なら言える。

梓「それが私たちの音楽なんだって、胸を張って言える。そんなバンドだったよ、私たちは」

92: 2010/11/22(月) 02:21:34.82
純「なーにかっこいいこと言ってんのよ梓」

梓「い、いいじゃん別に」

憂「でも今の梓ちゃん、すごくいい顔してたよ、部長、ってかんじで!」

部長だっての。

ふとりっちゃんを見てみると、なにやらキラキラした目でこちらを見ている。

梓「り、りっちゃん?」

率「感激した!!」

93: 2010/11/22(月) 02:28:04.90
率「そんなにまでバンドのことを思ってくれてるなんて…一生ついていきます!」

よくわからないが、りっちゃんは私の言いたいことをわかってくれたようだ。
私と結ちゃんのギター、純のベース、憂のキーボード、りっちゃんのドラム。
この5人が揃って、私たちの音楽は完成する。
そのためにも、まず新入部員の2人には、このバンドを好きになってほしい。
そう思って、今の話をしたのだが…わかってくれたかな?


94: 2010/11/22(月) 02:33:10.66
そんなことを思いながら結ちゃんを見てみると、なにやら複雑な顔をしていた。

梓「結ちゃん?」

結「え?い、いや、なんでもないです!私も感激しました!」

そういうわけじゃなかったんだけど…まあいいか。
結ちゃんは私の言葉に、何を思ったのだろう?

純「とりあえず一区切りついたとこで、今日は予定があるんでしょ?」

そうでした。

梓「そうそう、今日は結ちゃんのギターを見に行こうかと思って」

96: 2010/11/22(月) 02:41:05.63
結「私のですか?」

純「他に誰のがあるのよ…」

梓「結ちゃんはまずギターを買わなきゃいけないし、選ぶにしても何もわからないままじゃ選べないだろうしね。その下見ってことで」

憂「これからよくお世話になるだろうお店だし、道とかもわかってたほうがいいでしょ?」

結「は、はい!私のために…ありがとうございます!」

そんな畏まらなくても。

率「よかったー、結から話聞いたとき、私がアドバイスしなきゃ!って思ってたんすよ!」

梓「りっちゃんはギターわかるの?」

率「全然!とりあえずかっこいいやつ買わせようと思ってました!」

…よかった、この計画考えといて。

97: 2010/11/22(月) 02:50:41.72

例の楽器屋
率「おー…」

結「ギターがいっぱい!」

梓「唯先輩はほんと直感で決めたらしいけど…とりあえずいろいろ見てみようか」

結「あ!これかわいい!」

聞いちゃいねぇ。

純「唯先輩と変わんないじゃん…」

憂「どれどれ?」

結ちゃんが手に取ったそのギターは…

私と同じ、ムスタングだった。

100: 2010/11/22(月) 02:57:35.94
梓「あ、それは私とおな…」

率「ダメだそんなんじゃ!!」

梓憂純結「!?」

率「もっとこう、激しいやつにしようぜ!あっちのV型のやつとか、あっちの先の部分ないやつとか!」

結局適当なんじゃない…

率「そんな甘っちょろい、普通の形のやつじゃつまらん!」

ゴスッ

率「ったぁーっ!?」

なんとなく殴ってみた。私のむったんを甘っちょろいなんて言うんじゃない!!

101: 2010/11/22(月) 03:05:15.47
結「でも私これがいいな。梓先輩もこれと同じやつでしたよね?」

梓「う、うん、それだと女の子でも扱いやすいだろうし、私も教えやすいかも」

まあ結ちゃんのチョイスは特に問題ないものだったし、大丈夫だろう。

純「じゃ、お金用意したときにまたみんなで…」

結「すいませーん、これいただきたいんですけどー!」

梓憂純「!?」

憂「だ、大丈夫なの?そんな安いものじゃ…」

率「大丈夫じゃないすか?結んちめっちゃ金持ちだし」

な、なんと…

103: 2010/11/22(月) 03:17:28.94
そんなわけで必要なものを一通り買って、店を出た。
途中、結ちゃんの財布の中身を見て、三人で驚愕したのは、まあ、いいだろう。

純「さて、思いのほか早く終わったね」

憂「このまま解散するにはちょっとね」

梓「うーん…せっかくだし、学校戻ってちょっと練習してみる?」

結「はい!」

率「私も大丈夫っすよ」

というわけで。
学校に戻った私たちは、部室で買ったものを広げていた。

104: 2010/11/22(月) 03:20:43.13
梓「…でこれがチューナーで、こうやってギターの音を調律するの」

ミョーン

結「へぇ…」

純「ねえねえ、そんなことよりとりあえず持ってみてよ!」

率「おおー、結のギターデビュー!」

結「は、はい…」

結ちゃんは立ち上がり、ギターを担ぐ。


…その姿が、唯先輩と被って、思わず見とれてしまった。

結「梓先輩?どうですか?」

106: 2010/11/22(月) 03:28:39.97
梓「え?あ、あぁ、うん、いいんじゃない?」

いけないいけない。
ちゃんと後輩に指導してあげなくては。

…目の前にいる女の子は、決して唯先輩ではないんだ。

純「ちょっと梓ー、せっかく後輩のギターデビューなのに何ぼーっとしてるのさ?」

憂「そうだよー、ちゃんと見てあげないと」

憂にまで言われてしまった。そんなにぼーっとしていたのだろうか。

107: 2010/11/22(月) 03:32:03.45
梓「ごめんごめん、そうだね、ギターの位置はもう少し上のほうがいいかも」

結ちゃんのもつギターに手をかけ、位置を直す。

結「あ、ど、どうも…」

梓「?」

何故か結ちゃんは頬を赤くしている。
…そんな顔されたら、ドキッとしちゃうじゃん。

率「何照れてんだー、結?」ニヤニヤ

結「も、もう!りっちゃん!」

110: 2010/11/22(月) 03:42:03.80
梓「と、とりあえずこんな感じかな?」

結「あ、ありがとうございます…」

結ちゃんはまだ顔が赤い。私、何かしたっけ?

梓「とりあえずはコードを覚えて、ギターに触れることからだね。最初は曲の練習とかじゃなくて、まずギターに慣れるところからいこう」

結「はい!」


純「ういー、私たちなんか蚊帳の外なんだけど」

憂「しょうがないよ、ギターのことは梓ちゃんに任せようよ」

率「ああ…憂先輩のいれたお茶が染みる…」


勝手にお茶してるし!てかりっちゃん馴染むの早いな!

113: 2010/11/22(月) 03:50:08.84
私たちもティータイムに加わってしばらくすると、結ちゃんがこんなことを言い出した。

結「私、また先輩たちの演奏が聞きたいです!」

ふむ。まあこのままお茶して終わりってのもあれだし、いいかも。

梓「そうだね、そしたらりっちゃんはドラムやってみる?」

率「え?でも私、先輩たちの曲そんな知らないですよ?」

純「大丈夫大丈夫、いい感じに合わせてくれればいいから!」

憂「純ちゃん…」

憂も苦笑している。
純、適当に合わせろはないでしょ、全国のドラマーの人に謝りなさい。

114: 2010/11/22(月) 03:55:49.00
そんなわけで。

梓「準備できた?」

純「あいよ!」

憂「大丈夫だよ」

率「じゃ行きますよ!ワン、ツー!」

慣れ親しんだイントロが流れる。
この曲を聞くと、どうにも先輩たちのことを思い出して、胸が熱くなる。


曲目は、ふわふわ時間。

梓「キミを見てると…」

117: 2010/11/22(月) 04:04:05.08
今、ボーカルは私がやっている。
正直、私は歌があまり上手いほうではないが、憂と純がどうしてもと言うので、そうなってしまった。

でも今、こうして唯先輩と同じ位置に立って演奏していると思うと、悪い気はしない。

梓「いつもがんばる、キミの横顔…」

りっちゃんのドラムは、やはり初めての曲だからかおぼつかない部分はあるが、それでも上手い、ということはわかる。演奏していて合わせやすい。

なるほど、あの言葉は自信があって言ったことだったのか。

120: 2010/11/22(月) 04:15:09.82
梓「夢の中なら、2人の距離…」

それでも、私は律先輩のドラムのほうが、聞いていて気持ちいいと思ってしまう。
あの走り気味なドラムが、懐かしくなってしまう。

…そして、りっちゃんを律先輩と比べている自分が、情けなく思えてくる。
私は、いつになったら先輩たちから卒業できるのだろう?

梓「ああ神様お願い…」

目の前で私たちの演奏を聞いている結ちゃん。
キラキラした目で、私たちの演奏を聞いている。

この唯先輩にそっくりな後輩は、どんな演奏をするのだろう。
…私は、この子の音を聞いたとき、どんな顔をするのだろう。

122: 2010/11/22(月) 04:20:23.73
梓「ふわふわ時間…」

だめだだめだ、こんなことばっかり考えちゃ!
この子たちは私の先輩じゃない、これから一緒にバンドをやる仲間なんだから!
だいたい、こんな先輩たちとのバンドと比べるようなことをしていたら、憂と純にも失礼だ。

私も、前に進まなきゃ。
…自信は、正直、あまりないけど。

ジャジャ、ジャジャ、ジャーン

124: 2010/11/22(月) 04:27:18.84
結「わぁ…」パチパチ

梓「ふう…どうだった?」

結「やっぱりすごいです!早く私も先輩たちに加われるようにがんばらなきゃ!」

結ちゃんは燃えていた。
その目はマンガだったらメラメラと燃え盛っているのだろう。
期待してるよ、結ちゃん。

純「りっちゃんもやるじゃーん!」

憂「うん、とても初めてとは思えないよ!」

率「へへ…」

りっちゃんは照れていた。
似合わないなこいつには。

126: 2010/11/22(月) 04:34:33.22
そうして、今日はそこで解散した。

梓「じゃあ結ちゃん、ギターのことでなにかわからなかったらメールでもしてね」

結「はい!あ、普通にメールしてもいいですか?」

梓「?いいけど…」

わざわざことわらなくてもいいのに。

結「ありがとうございます!それじゃまた明日!」

憂「ばいばい」ニコ

純「梓!私りっちゃんの家寄ってくから!私の好きなバンドのCDとかDVDとか、たくさん持ってるらしいの!」

率「純先輩、早く行きましょうよ!先輩がた、お疲れ様でっす!」

なんだかあそこは意気投合したようだ。

梓「じゃ、帰ろうか」

憂「うん」

129: 2010/11/22(月) 04:41:41.47
帰り道。
今後の部活についていろいろと話していると、憂がこんなことを言い出した。

憂「梓ちゃん。結ちゃんは、結ちゃんだからね?」

梓「…え?」

憂「梓ちゃん、結ちゃんのこと、お姉ちゃんと重ねてるでしょ」

…憂にはバレバレか。多分、純も気づいてるんだろうな。

憂「確かに結ちゃんはお姉ちゃんそっくりだし、梓ちゃんが思うこともわかるけど…それは絶対だめ。いつか、結ちゃんを傷つけちゃう」

私の懸念は、すべて看破されていた。
自分でも、これがいけないことなのはわかるし、結ちゃんに失礼だっていうことはわかる。
でも、

梓「気にしすぎだよ」

憂「…そっか」

私は、こんなときでも、素直じゃないのだ。

131: 2010/11/22(月) 04:49:01.30
その次の日の部活。

結「こんにちはー…」

憂「結ちゃん!?」

梓「ちょっと、どうしたのその顔!?」

結ちゃんは、目の下にくまをつくって、フラフラしていた。

結「昨日帰ってから家でがんばってコード覚えたり教則本読んだりしてて…徹夜になっちゃいました、てへへ」

梓「そこまでしなくても…まだ始めたばっかなんだし」

結「そんなこと言ってられなあですよ…早く先輩たちと演奏、したいですもん」

133: 2010/11/22(月) 04:57:10.19
梓「なにやってんの!!」

結「!?」

梓「一生懸命やってくれるのは嬉しいけど…それで体壊しちゃったら元も子もないんだよ?」

結「…ごめんなさい、ただ」

梓「?」

結「唯先輩に、負けたくないな、って」

衝撃を受けた。この子は、それを気にして、こんなになるまでがんばったというのか。

梓「…何言ってるの」

結「梓先輩…?」

梓「結ちゃんは、結ちゃんでしょ。結ちゃんのペースでやらなきゃ」

結「梓先輩…ありがとうございます」

私が直接何かしたわけじゃないけど、申し訳なくなった。

結「あ、でも…コードはほとんど覚えましたよ」

梓「…バカ」

そして、この後輩と一緒にがんばろうと、改めて思った。

135: 2010/11/22(月) 05:00:02.88
一方。

純「梓ー…私たちも目の下にくま作ってだるそうにしてるんだけど…」

率「うぁ…頭いてぇ…」

梓「徹夜してDVD見てるからでしょ、バカコンビ」

純率「ひどい!」

自業自得だ。

136: 2010/11/22(月) 05:04:55.85
そんなこともあったが、部活は順調だった。

結ちゃんは飲み込みが早く、元来の一生懸命さもあり、めきめき上達していった。

りっちゃんも一番あとに入部したわりに、すぐに私たちと馴染み、特に純とは姉妹のように仲良くしている。

純「だからぁ、あのサビの部分は…」

率「全っ然わかってないっすよ純先輩!」

…うん、仲良くしているようだ。

137: 2010/11/22(月) 05:09:30.36
ちなみに、結ちゃんは料理をするのが好きらしく、たまに憂に教わりに行くらしい。

憂「初めて家来たときはおもしろかったよー、お母さんたら、「あれ唯、帰ってきたの?…てかなんで制服なんて着てるの」なんて言っちゃって」

結「別人だって納得してもらうのに、すごい疲れました…」

両親でも間違えたのか。どれだけ似てるんだ。

138: 2010/11/22(月) 05:18:08.38
ある日部室でお茶しながら談笑していると、先輩たちの話になった。

純「そういえばさー、梓が抱きつかれてるの見ないから、からかいがいがないんだよね」

梓「…は?」

率「誰が抱きつくんです?」

憂「お姉ちゃんだよ、よく「あずにゃーん!」って言って抱きついてたもんね」

結「あずにゃん…?」

梓「ちょっと!それはもういいでしょ!?」

私の黒歴史が暴露された…

率「あずにゃんって…梓先輩がっすか?ぷぷっ…」

ガスッ

率「痛い!」

梓「うるさい!私の心はもっと痛い!」

失礼な後輩だ。

141: 2010/11/22(月) 05:25:38.95
率「おーいてぇ…あ、それじゃ結、ちょっと梓先輩に抱きついてみてよ!」

梓憂純「!?」

結「ふぇ!?」

お菓子を口にしながら、結ちゃんが変な声を出した。

結「そっ、そそそそそんな…お、恐れ多いよ!」

困惑する結ちゃん。そりゃそうだ。

私たち先輩組は…微妙な顔をしていた。「事情」を知っている2人からしたら、また唯先輩を思い出すきっかけになってしまうと思ったのだろう。

私は…全然大丈夫じゃない。2人が心配するとおり、きっと唯先輩を思い出してしまうだろう。
…先日、割り切ったはずなのに。

142: 2010/11/22(月) 05:32:02.04
率「いいじゃんいいじゃん、ね、梓先輩も」

ニヤリ。と。
りっちゃんからすれば、殴られたことへの仕返し程度に思ってるかもしれないが…これはまずい。

憂「り、りっちゃん、ほら、結ちゃんも困ってるし…」

結「…行きます」

梓憂純「!?」

え?マジで?結ちゃん?
なんでそんな顔真っ赤にしてるの?
なんでそんな決心したような顔してるの?

…なんでそんな、唯先輩そっくりなの?


あ、ヤバい。

143: 2010/11/22(月) 05:40:25.98
結「あ、あずにゃ…梓先輩っ!!」

だきっ

梓「!!」

私の中で、隠してた思い出が溢れ出す。
唯先輩の体温。唯先輩の声。唯先輩の笑顔。
そしてそれに対する思いが言葉になって出てきてしまう。

梓「ゆ、唯先ぱ…」

純「あーずさっ!」

ダキッ

梓「ちょ、ちょっと純!?」

純「せっかくだから私もやってみようかと、ほら憂もりっちゃんも、数少ないチャンスだよ!」

憂「あ、梓ちゃん!」

ダキッ

率「私もいいんすか!?梓せんぱーい!」

ダキッ

…そこには、私が4人の女の子に抱きつかれているという、異常な事態ができていた。

145: 2010/11/22(月) 05:46:34.92
梓「はあ、はあ…なに考えてんの、あんたたち…」グッタリ

結「す、すいません…」

憂「ごめんね、梓ちゃん」

純「たまには部員同士の交流をだな、ね、りっちゃん?」

率「そ、そうですけど!私なんで耳引っ張られてるんすか!?千切れる千切れる!」

こんなことを言ってはいたが、純には感謝しなくては。
…もう少しで、結ちゃんを傷つけてしまうところだった。

梓「はぁ…もういいから、そろそろ練習始めよう」

私も、反省しなきゃな。

162: 2010/11/22(月) 11:26:50.53
夏休みを目前に控え、私たち三年生組は頭を悩ませていた。

梓憂純「うーん…」

きっかけは、先日、純がこんなことを言い出したことだ。

163: 2010/11/22(月) 11:28:16.49
純「合宿しよう!合宿!」

梓「…は?」

憂「だから合宿だよー、バンドの強化合宿!」

そういえばもうそんな時期か。
確かに夏休みを使ってバンドメンバーの結束を深め、技術向上を図るためには、悪くない考えだ。
悪くない、のだが…
憂「でも、場所はどうするの?」

梓「ムギ先輩の別荘を借りるわけにはいかないし…スタジオ付きの泊まれるとこなんてお金もかかるよ?」

純「…」

考えてなかったのかい。

ということで。どうしたら合宿をすることができるか、ということで悩んでいた。

164: 2010/11/22(月) 11:29:55.09
純「学校に泊まるのは?」

梓「学園祭の前日でもないし許可がでるかな…」

憂「それにご飯とかお風呂とかもないしね…」

純「うーん、悪くないと思ったんだけどなぁ」

梓「純は何かジャズ研のコネとかない?」

純「あー、ジャズ研は人多すぎて合宿とかそういうのはさっぱりよ。だから私、軽音部がうらやましかったんだもん」

そういえばそんなこと言ってたな。

梓純「んー…」

165: 2010/11/22(月) 11:31:00.32
憂「そしたらさ、結ちゃんとりっちゃんにも聞いてみない?」

純「えー…」

純は不満そうに口を尖らせる。
純としては後輩にはサプライズで合宿する!と言って、先輩っぷりを見せたいらしい。

理由を聞くと、


率「純先輩って、先輩って感じしないっすね!」

と言われたのが気に食わなかったらしい。
…しょうもな。

憂「でも私たちだけじゃいい考えはでないわけだし、ね?」

純「ちぇー…」

てか、軽音部なんだから演奏で先輩らしいとこを見せなさいよ。

166: 2010/11/22(月) 11:39:26.32
梓「…というわけなんだけど、何かいい案ないかな?」

率「結、お前んとこの別荘は?」

結「大丈夫だよ?」

梓憂純「なん…だと…?」


率「いやこいつんちが金持ちって話はしましたよね?なんか親がどっかの社長らしくて」

結「そんな大したものじゃないですが…5人泊まれるくらいのとこなら確保できると思います」

純「…梓、この学校ってそんなお嬢様校だったっけ?」

梓「…いや、違うと思う」

170: 2010/11/22(月) 12:02:14.48
なんというか…あるとこにはあるもんだな。

憂「じゃ、じゃあ結ちゃん、お邪魔しても大丈夫かな?」

結「はい!じゃあ今日帰ったら、親に話してみます」

率「うおお合宿かー!楽しみだー!!」

梓「はは…」
軽音部って社長令嬢を引きつける何かでもあるのか?

171: 2010/11/22(月) 12:03:45.91
率「というわけでやってきましたー!!」ドン!

梓憂純「…」

でかい。
初めてムギ先輩の別荘に行ったときにも思ったが、こういうのは何回見ても思う。
でかい。

結「すいません、やっぱり夏休みシーズンだとどこも埋まってて、一番小さいところになってしまいましたが…」

梓「いや、そのセリフももういい」

結「?」

172: 2010/11/22(月) 12:05:16.85
中に入ると、とても別荘とは思えないくらい、手入れが行き届いている。

結「なんか部活の人を呼ぶって言ったら、お父さん気合い入っちゃって業者さん呼んだみたいで…あ、スタジオはこっちです」

案内されてスタジオについたが、これまた広い。
てかスタジオ付きの別荘持ってる人って、普段何してる人なんだろうか。
…ねぇ、ムギ先輩?

173: 2010/11/22(月) 12:08:31.79
本当に結ちゃんには感謝しなくちゃな。
正直、合宿に関しては諦めてた部分もあったし。

梓「ほら、純も結ちゃんにお礼を…」

純「え?」

…そこには、水着姿の純とりっちゃんがいた。
またこのパターンか!!

純「そうだね、ホントありがとう結ちゃん!結ちゃんたちも早くきなよ!」

率「ひゃっほー!!」

確かに庭にプールがあるとは聞かされていたが…来て早々それか!

梓「ちょ、ちょっと2人とも!練習はどうしたの!憂と結ちゃんも何か言って…」

174: 2010/11/22(月) 12:11:04.36
…そこには、水着姿に着替えた憂と結ちゃんがいた。

結「せ、せっかくですから…」

憂「部員同士の交流も目的でしょ?梓ちゃん」

そ、それはそうだけど…

梓「まったく、練習もしないでいきなり遊ぶだなんて…これじゃ合宿に来た意味が…」

純「とか言って、梓昨日楽しそうに水着選んでたじゃん」

…悪いか。


そんなわけで、結局私たちは日が暮れるまで遊んでいた。
もちろん私は部長として…

憂「相変わらずまっくろだねぇ、梓ちゃん」

梓「…うるさい」

ええ、一番はしゃいでましたとも。

175: 2010/11/22(月) 12:17:21.60
純「さーあ、しっかり遊ぶだけ遊んだし、練習もしっかりやるぞー!」

結率「おー!」

おや。
なんだ、練習もちゃんとしてくれるんじゃないか。

…唯先輩たちも、少しは見習うべきだと思う。

梓「結ちゃんと合わせるのは、今回が初めてだね」

結「はい!もう今日このときのために、今まで練習してきたようなもんです!」

いや、それはライブ本番で出してほしいんだけど…

純「曲は何やるの?」

梓「とりあえず…ふわふわ時間、かな。やっぱりライブでも、一番盛り上がるとこだろうし」

176: 2010/11/22(月) 12:20:35.72
憂「結ちゃん、大丈夫?」

結「大丈夫です!」ふんす!

率「それじゃ準備はいいっすか?行きますよ!」
今まではリードギターは私がやっていたが、結ちゃんが入ったとき、結ちゃんにリードギターをやってもらい、私は前と同じリズムギターに戻った。

純と憂曰わく、慣れないボーカルをやる、私への処置、らしい。

そして、結ちゃんのギターのイントロが始まる。

デデデデデ、デデデデデン、デデデデデン…


177: 2010/11/22(月) 12:22:35.17
その姿、その音は。

梓「キミを見てると…」
唯先輩とは、まったく異なるものだった。

唯先輩のような、あの根拠のない自信に溢れた姿ではなく、おっかなびっくり、間違えないように丁寧に弾く結ちゃんがそこにはいた。

その姿勢は音にも現れ、結ちゃんは確かに丁寧で、ミスのない音を出していた。
しかし、そこには唯先輩のような乱雑だけど、聞いていてワクワクするような、勢いがそこにはない。

そして私は、

梓「ふわふわ時間…」

私は、なぜかほっとしていた。

178: 2010/11/22(月) 12:23:28.97
結ちゃんが、唯先輩ではなかったことに。
わずかな喪失感とともに。

結「ど…どうでした?」

憂「すごいよ、完璧!」

梓「うん、みんなともちゃんと合ってたし、これなら学園祭も問題なさそう」

だから、もっと自信を持って弾いていいよ。
…そう言いたかったのに、言えなかった。

率「先輩!私は私は!?」

純「いつも通り」

率「冷たっ!」

190: 2010/11/22(月) 13:15:15.45
純はああ言っているが、りっちゃんのドラムは本当に上手だった。

軽音部に打ち解けてくれたせいもあるのか、音にも元気が出てきたし、聞いていて安心できる。

…「こっち」は、大丈夫みたい。

203: 2010/11/22(月) 16:22:46.92
そうしてその日、練習はつつがなく終わった。

深夜。
ふとトイレに起きると、スタジオに明かりがついていた。
中を見ると、結ちゃんが一人で練習していた。

梓「結ちゃん?」

結「あ、梓先輩!」

梓「またこんな遅くまで練習して…ちゃんと寝ないとダメだよ?」

結「大丈夫です!それより梓先輩、よかったらギター教えてほしいんですけど…」

梓「そう?…うんわかった、練習しよっか」

205: 2010/11/22(月) 16:24:57.67
結ちゃんに細かいことを教えているとき、ふと結ちゃんが尋ねてきた。

結「唯先輩とも、こうやって練習したんですか?」

梓「え?うん、そんなこともあったね」

思い出す。私が一年生のときの合宿。
まさにこんな状況で、私と唯先輩は練習していた。

梓「唯先輩はホント音楽用語もしらないし、練習もサボってばかりだったけど…本気になったときの唯先輩は、すごくかっこよかったんだよ」

結「ふむふむ」

206: 2010/11/22(月) 16:25:48.42
梓「しかも絶対音感持ってるみたいで…チューニングもチューナー使わないでやっちゃうし。ホント宝の持ち腐れというか…」

結「あはは」

梓「でもって私にはあずにゃんなんてあだ名もつけるし、すぐ抱きついてくるし…ホント、変な人だったんだ」

結「そういえばなんであ、あずにゃんなんですか?」

梓「そ、それは…」

そうして、私と唯先輩のことを話した。
話を聞いているときの結ちゃんは、楽しそうにしていたが、時折その表情に影がさしていた。
…そのときの私は、あまり気にしていなかったのだが。

207: 2010/11/22(月) 16:26:49.52
梓「あ、もうこんな時間か…さすがに寝なきゃね」

結「そうですね」

荷物を片付け、スタジオを後にする。そのとき。


208: 2010/11/22(月) 16:27:47.15
結「梓先輩」

梓「ん?」

結「わ、私のこと…これから、結ちゃんじゃなくて、結って呼んでくれませんか?」

梓「え…?」

ドキッとした。
結ちゃんの震える肩に、数ヶ月前の自分が重なる。

これじゃ、まるで…

結「す、すいません!変なこと言って…忘れてください…」

あの日、唯先輩に言われた言葉を思い出す。
私にはまだ、その答えは出せないけど…

梓「戻ろっか、結」

結「!は、はい!」

これが、今私ができる、精一杯なんだと思います。

210: 2010/11/22(月) 16:47:59.67
帰りの電車。

結「みんな疲れて寝ちゃってる…」

結「りっちゃんは相変わらずだな、やっぱり高校でも盛り上げ役になってる」

私にはできないから。
すごいなぁ、と思う。

結「憂先輩はホントに優しいし、料理も上手だし…」

なにより、みんなのことをよく見ている。憂先輩がいなかったら、この部活もバラバラだろう。

結「純先輩もすごく仲良くしてくれるし、なんかお姉さんができたみたい」

りっちゃんとも仲いいし。
波長があう、ってこういうことなんだろうな。

213: 2010/11/22(月) 16:56:36.02
結「梓先輩…」

私の梓先輩への思いは、まだ伝えられずにいる。

結「でも、一歩前進、かな」

梓『戻ろっか、結』

結「えへへ…」

あのときのことを思い出すと、思わず顔が熱くなってくる。

唯先輩のことを話しているときの、梓先輩の楽しそうな顔。
あれはきっと、忘れることはできない。

今はまだ、唯先輩には勝てないのだろう、ギターでも、梓先輩のことも。

214: 2010/11/22(月) 17:02:44.96
結「梓先輩、私の演奏聞いて、微妙な顔してた…」

残念ながら私は察しがいいほうなので、梓先輩が、私をどう見てるかはわかってしまう。

でも、知ってましたか?
私、割と諦めが悪いんです。

結「梓先輩、私を…見てください」

平沢唯ではなく、平沢結を。

誰にも聞こえない程度の声量でそう呟き、私も目を閉じた。

225: 2010/11/22(月) 19:06:57.31
合宿も無事終わり、私たちは残りの夏休みを満喫していた。

合宿はみんな楽しんでくれたみたいだし、演奏のほうも問題はなさそうだったので、成功と言えるだろう。

私と結ちゃ…結は、まあ、いろいろあったけど、より仲良くなった気がする。

結が呼び方を変えてほしいと言ったことは、誰にも話していない。あくまで

梓「なんとなく」

で通した。
他になんかないのか、私。

227: 2010/11/22(月) 19:11:22.51
さて、その残りの夏休みだが…


ある日、私たちは結の家に別荘のお礼を言いに訪ねた。

梓憂純「…」ポカーン

率「ね?すごいっすよね?」

梓「これ…一軒家?マンションとかじゃなくて?」

憂「すごい…うちの何個分くらいなんだろ…」

率「へへっ、そんな誉めないでくださいよ!」

純「あんたの手柄じゃないでしょ」ゴスッ

率「痛い!」

純とりっちゃんのやりとりも見慣れたものだ。あの純がしっかり先輩してるのは、なんか変だけど。

純「梓!何か言った!?」

心を読むんじゃない。


228: 2010/11/22(月) 19:13:01.44
ピンポーン

結「はーい…あ、お待ちしてましたー、上がってください!あ、スリッパはそこのを…」

梓憂純「お邪魔します…」
おそるおそる。

率「お邪魔しまーす!」
うるさい。

230: 2010/11/22(月) 19:15:34.48
リビングのようなとにかく広い部屋に通された私たちは、そこでしばらく待つように言われた。

結「今お父さん呼んできますね」

梓「う、うん」

なんだろう。無駄に緊張する。

率「先輩たち固くなりすぎっすよー、リラックスリラックス」

純「あんたはもう少し大人しくしてなさい…」

憂「はは…」

ガチャ

結父「あ、どーもすみませんお待たせしましたー、いつも結がお世話になってますー」

梓憂純「!!」

出てきたのは、やけに腰の低い、恰幅のいい紳士だった。


233: 2010/11/22(月) 19:20:15.99
梓「は、はじめまして!軽音部で部長をやってます、中野梓です!」

順番に憂と純も挨拶をする。
よかった。感じのいい、話しやすい人だ。

しかし、結父と結、全然似てないな…母似なのだろうか。
てかお父さん、誰か…いや、何かに似ている気がする。


234: 2010/11/22(月) 19:24:15.49
憂「トンちゃん?」

梓純「!?」

それだ!確かに鼻の形とか似てるかも!
でも憂、それは黙っとこうよ!

結父「?まぁ、大したおもてなしもできませんが、ゆっくりしていってくださいね」

梓「あ、あの!」

結父「はい?」

梓「あの、先日は別荘を貸していただいて、ありがとうございました、つまらないものですが、どうぞ」

持ってきた菓子折りを渡す。
…今テーブルの上に置いてあるお菓子のほうが豪華なのは、許してください。

247: 2010/11/22(月) 21:23:08.19
結父「ああこれはご丁寧に…こちらこそ気を使わせてしまってすいません、また何かあったらいつでも言ってくださいね」

…いい人だ。こんなお父さんだったら、結みたいな子が育つのもわかる。

そういえば結たちは何してるんだろう、とあたりを見回すと…

結「やったー!また私の勝ちー!」

率「くっそー!もっかいだもっかい!」

いつのまに始めたのか、サッカーゲームで遊んでいた。
しかしサッカーなのに12-0って…
りっちゃんが弱いのか、結が強いのか…

249: 2010/11/22(月) 21:24:17.39
結父「はは、りっちゃんも来てたのか。まあ皆さんも自分の家だと思って、のんびりしてください」

梓憂純「は、はい…」

自分の家ってか!この豪邸が!

…なんというか、自分とは違った世界を見た気がした、そんな1日だった。


251: 2010/11/22(月) 21:28:13.53
またある日。
夏休みも終わりにさしかかったころ、純から電話があった。

梓「ヤダ」

純「冷たいよ梓!?そんなこと言わずに手伝ってよ!!」

梓「ちゃんと計画立ててやらないからでしょ…自業自得」

純「私がそういうの苦手なの知ってるでしょ!ねぇお願い!」

そう、純は夏休み最大の敵、宿題という壁にぶち当たっていた。

254: 2010/11/22(月) 21:32:08.19
ちなみに、私はこういうのは先に終わらせてしまうタイプなので、合宿前にすでに終わっている。
ふふん。

梓「はぁ…もう、わかったから。適当にうち来て」

純「え!いいの?」

梓「宿題終わらなくて部活出られなくなっても困るしね。あくまでも、教えるだけだからね!」

純「ありがと梓!ねぇ、梓大丈夫だってさ!」

…誰と話してるんだ。

255: 2010/11/22(月) 21:37:05.32
ピンポーン

しばらくすると、どうやら純がやってきたようだ。

梓「はーい…って」

純「よ!」

率「んちゃす!」

頭が痛い。

梓「なんでりっちゃんまでいるの…」

純「りっちゃんも宿題終わってないんだって、それで梓に見てほしいと」

率「早々にバラした!私のイメージが!」

いや、イメージ通りだよ。

258: 2010/11/22(月) 21:48:23.87
二人を私の部屋に通すと、いちおうやる気はあったらしく、ちゃんと宿題を広げだした、広げだしたのだが…

梓「…純」

純「ん?」

梓「あんた、宿題一つでもやった?」

純「全然」

だよね。だってこれ、明らかに多いもん。

率「純先輩マジっすか…」

あのりっちゃんですら軽く引いている。

梓「そういうりっちゃんはどれくらい残ってるの?」

283: 2010/11/23(火) 06:10:29.76
率「私はあと一つだけですよー、数学の問題でどうしてもわからんとこがあってそれが残ってます」

なんと。
りっちゃんは思いのほか真面目な子のようだ。

それに比べ…

純「?」

梓「何来て早々に漫画読み出してんの!ほら、やるよ!」

純「へーい…」

この先輩は…

284: 2010/11/23(火) 06:15:40.04
数時間後。

純「あずさぁー…そろそろ休憩しない?」

梓「まだ半分くらい残ってるじゃん…」

純「だからこそだよ!ちょうどいい区切りじゃん!」

率「梓先輩、多分そろそろ休ませないと純先輩氏んじゃいますよ?」

ケラケラと笑っているりっちゃんは、始めてから30分ちょいで終わっている。

私が教えたのもあるだろうが、もともと勉強は苦手、ってわけではないようだ。

…そんなの、りっちゃんのイメージじゃないよ。

285: 2010/11/23(火) 06:23:00.16
梓「はいはい…じゃ、飲み物取ってくるから、適当にくつろいでて。りっちゃんは純が寝ないか見張ってて」

率「了解っす!」

純「信用ないなぁ…」




純「そういえば、今日は結ちゃんは何してるの?」

休憩している最中、純がりっちゃんに尋ねた。
まあ、いつも一緒にいるイメージだからな。

率「結は先週から北海道に行ってますよ。避暑ですって」

そっちにも別荘でもあるんだろうか…あるんだろうなぁ…

287: 2010/11/23(火) 06:27:30.31
梓「へぇ…いいなぁ…」

率「友達の危機に勝手に遊んでるなんて…ああ、なんて薄い友情…」

純「まったくだ!」

純はだまってなさい。

率「そういえば憂先輩は?」

りっちゃんが逆に尋ねてくる。

梓「憂は今日は唯先輩の家に遊びに行ってるよ。まぁ、姉妹水入らずってね」

率「ほお…」

288: 2010/11/23(火) 06:32:43.99
率「そういえば私と結はOGの先輩がたには会ったことないんですよね」

純「そういえばそうだね」

この子たちと先輩たちを会わせたら…澪先輩なんか、卒倒しちゃいそうだ。

唯先輩と…結か。
今は、まだ答えは出せないけど、いつかちゃんと、決めなくちゃならない。

率「唯先輩でしたっけ?結とそっくりな…」

梓「そうだよ?」


率「で、梓先輩はその唯先輩のことが好きなんですよね?」


289: 2010/11/23(火) 06:39:50.76
梓純「!?」

率「隠しても無駄っすよー?私の乙女電波受信アンテナはいつでもビンビンですから」ニヤニヤ

梓「ななっ、ななななななな」

何を。
言い出すんだ、この子は。

率「だって梓先輩、唯先輩のこと話すとき嫌そうに言うわりには、ニコニコしてますもん。バレバレっす!」

なんてこった…

290: 2010/11/23(火) 06:46:23.97
率「話してくださいよー!女の子が集まったら、恋バナの一つくらいしとかないと!」

梓「え、えっと…」

すがるように純を見る。
お願い、何かこの現状を打開する策を…!

純「…」フルフル

諦められた。
うっすい友情だなぁ!

率「さあさあ!」ズズイ

梓「うっ…」

でも、このとき。
私は正直、話しておきたかったのかもしれない。
唯先輩と結。
どちらかを選ぶなんて、私一人じゃできないだろうから。
きっと、その重さに潰されてしまうから。

梓「わかったよ…」

291: 2010/11/23(火) 06:51:56.89
梓「卒業式の日にね、唯先輩に告白したの」

好きですって。
ずっと想ってましたって。

私は素直ではないから、いつも唯先輩のスキンシップも嫌がってたけど、それでも唯先輩は、私に構ってくれた。

…最後の日くらい、素直になると決めたんだ。

梓「そしたら唯先輩…」


唯「私も好きだよ」

梓「!」

唯「私もあずにゃんのこと、大好き。あずにゃんが想ってるのと同じ意味で、大好きだよ」

294: 2010/11/23(火) 07:00:05.67
梓「本当に嬉しかった。私の気持ちが、一方通行じゃなかったんだって。唯先輩も、私を想ってくれてたんだって。」

だけど。


唯「だけど、今は付き合うとかはできないんだ」

梓「えっ…?」

ガツン、と。
頭を殴られたようだった。

唯「あずにゃんには、まだもう一年残ってるでしょ。この学校で、やらなきゃいけないことが」

297: 2010/11/23(火) 07:13:22.39
梓「そ、それってどういう…」

唯「またしばらくしたら、新入生が入ってくるでしょ?あずにゃんは部長になるだろうから、その子たちを引っ張って、いい部活にしてほしい」

唯「私たちがあずにゃんにしてきたように、優しくしてあげてほしいんだ」

梓「…」

言っていることはわかる。でも、それが私たちが付き合えないってことに関係あるのか、って思った。

そしたら、唯先輩はニコッ、て優しく笑って、

唯「きっとまた、いろんな出会いがあると思う。私たちが、あずにゃんに出会ったように」

299: 2010/11/23(火) 07:17:50.34
唯「もしあずにゃんが自分のやるべきことを終えて、そのときにまだ私が一番好きでいてくれたら」



唯「また、私に会いにきて。私はずっと、待ってるから」

300: 2010/11/23(火) 07:23:33.84
梓「…って言われたんだ」

純「へぇ…そこまでは聞いてなかったな…」

率「なんかドラマみたいっす…」

梓「でも、私はいまだに唯先輩のことばっか考えちゃうし、唯先輩に言われたとおり、ちゃんと先輩できてるか…」

率「大丈夫っす!」

梓「?」

率「梓先輩は…もちろん他の先輩もですけど、私たちにすごい良くしてくれるし、仲良くしてくれるし!私は、先輩たちに出会えてよかったっす!」



率「きっと結も、そう思ってます」

301: 2010/11/23(火) 07:29:10.78
梓「…ありがと」

純「なによー、りっちゃんもたまにはいいこと言うじゃない」

率「たまにってなんすかー!」

そんな2人のやりとりを見て、クスリと笑う。
私はまだ、唯先輩のところには行けない。
この笑顔を絶やさないように、まだまだがんばらなきゃいけない。

だって、部長だもん。

304: 2010/11/23(火) 07:33:17.83
率「いやーしかし…」

りっちゃんが気まずそうに笑う。

梓「ん?どしたの?」

率「いや、梓先輩と唯先輩がそういう関係だったとは…」

なにをいまさら。見抜いた、って自分で言ったんじゃないか。



率「私はてっきり、嫌そうに言ってるけど本当は仲いいんでしょ?みたいな…ライクとか友情とかそういう意味で言ってたんですけどね」


え?






え?

305: 2010/11/23(火) 07:39:55.05
梓「…」

純「…」

率「…?」


梓「うわああああああああああ!!!!!!!!!」

純「あ、梓!梓が壊れた!!!」

率「え?なに?どうするのこれ?」


顔が熱いなんてもんじゃない。顔が火だ!そう、私は火!何言ってんだ私!!

まさか…そんな…
これじゃ私、ただのろけ話を話しただけじゃないか!いくらなんでもそんなのありえない!

梓「はあ…はあ…」

純「あ、梓…?」

率「大丈夫っすか…?」

梓「…宿題、しよっか」

純率「はい」

宿題をしました。

306: 2010/11/23(火) 07:47:13.45
その後なんとか宿題を終え、二人は帰っていった。
今日の話は他言無用と、念を押したのは言うまでもない。

その日の夜、結からメールがとどいた。
広い草原で微笑む、結の写真とともに。
そういえば北海道にいるって言ったか…

その写真を見ながら、ベッドに寝そべり、考える。

ねえ、唯先輩。
私、ちゃんと先輩できてるみたいですよ。

でも、私はまだ、あなたのところには行けません。

出会いって不思議なものですね。
あれだけあなたしか見えてなかったのに。


今はまだ、私には選べないんです。

308: 2010/11/23(火) 07:57:10.17
そして、夏休みが終わった。
私にとって、いろんなものをもたらした夏休みが。

ある日、いつものように練習前にお茶を飲んでいるときに、学園祭の話になった。

率「いよいよ学園祭も近づいてきました!!」

わかっとるわい。

憂「2人にとっては初めてライブだね?」

結「はい!私、がんばります!」フンス

後輩2人は、特に気合いが入ってる。
…唯先輩とか律先輩みたいに、風邪なんてひかないでよ?

純「そういえば、先輩たち学園祭見にくるって?」

320: 2010/11/23(火) 09:18:46.74
梓「うん、みんな大丈夫だって。律先輩なんかは、授業サボってまで来るとか言ってたけど…」

憂「でも、そこまでして来てくれるなんて嬉しいな」

それはそうだけど…

純「そういえば梓、今年はなんか衣装ないの?」

梓「ない!」

あっても着るもんか!

結率「?」

322: 2010/11/23(火) 09:25:41.35
しかし、先輩たちに会うのも久しぶりだ。

先輩たちは、私たちの演奏を聞いて、喜んでくれるだろうか。

緊張はする。
しかし、それ以上に…やりがいがある。


梓「みんな、がんばろうね」

改めてみんなと決意を新たにする。

みんなそれぞれ、思い思いの顔をしている。

…うん。気合いはばっちり。

323: 2010/11/23(火) 09:40:09.08
そして学園祭までの間、みんな練習にも力が入り、とてもいい状況で本番を迎えられた。


…そして、学園祭前日の練習。

ジャジャ、ジャジャ、ジャーン

純「ふう。みんないい感じだね!」

憂「うん、息もばっちりあってきたし!」

梓「よし、それじゃ今日はちょっと早いけどこれで終わり、各自ちゃんと休んで、明日忘れ物のないようにね」

結率「はーい!」

…忘れ物は、前例があるからなぁ。

326: 2010/11/23(火) 10:14:29.26
そして、帰り道。
私は、結に話したいことがあると言われ、二人きりで帰っている。

結「…」

梓「…」

なんだろう、この沈黙は。

…いや、私には分かる。

同じことをした私には。

結「あの、梓先輩」

梓「ん」

ゆっくりとした時間が流れる。
…懐かしいな、この感覚。

結「私、先輩たちとバンド組めて、本当に幸せです」

343: 2010/11/23(火) 13:41:10.55
梓「…うん」

結「先輩たちは優しいし、りっちゃんは面白いし…軽音部に入ってから、楽しいことばかりでした」

結「でも、一番嬉しかったことは」

梓「…」


結「梓先輩、あなたに出会えたことです」

344: 2010/11/23(火) 13:45:57.14
結「新歓ライブで初めてあなたを見て、かっこいいなと思ったんです」

結「こんなこと言ったら失礼ですけど、私より全然小さい体で、ステージで歌うあなたが私には輝いて見えました」

梓「はは…」

確かに失礼だぞ、結ちゃん。

結「私が軽音部に入った理由の大半は、あなたなんです。梓先輩」

梓「…」

それは…初耳だ。

345: 2010/11/23(火) 13:53:09.07
結「実際に軽音部に入ってみても、あなたは私が思ってたとおり、優しくて頼りになる、でもかわいい先輩でした」

結「そこで唯先輩たちの存在を聞かされて…びっくりしましたけど、そのとき私は思ってたんです。」

結「梓先輩…唯先輩のこと、好きなんですよね?この前話を聞いて、なんとなくわかりました」

…結にもバレバレか。

348: 2010/11/23(火) 14:07:08.36
結「唯先輩に似てる私なら、私のことも好きになってくれるかなって」

梓「それは…」

結「わかってます、それがずうずうしいことだって」

結「私は唯先輩ではないし、そんなことで好きになってもらっても、意味がないって」

結「だから、今なら言えます。唯先輩ではなく、私を見てほしいって」

352: 2010/11/23(火) 14:26:27.44
結「梓先輩」





結「私、梓先輩が好きです」

353: 2010/11/23(火) 14:32:09.50
梓「…」

結「ライブ前にこんなこと言うべきではないとは思うんですが…唯先輩が来るって聞いたらいてもたってもいられなくなって」

結「返事は、学園祭のあとでいいです」

結「話聞いてくれて、ありがとうございました。…それではまた明日!」

梓「…うん、また明日」

そうして明日、学園祭を迎える。

365: 2010/11/23(火) 18:25:27.18
当日、私たちが部室にいくと、そこには…

唯「あーずにゃーん!!!!」だきっ

梓「ゆ、唯先輩!?」

憂「お姉ちゃん!」

澪「久しぶりだな」

律「おーみんな!」

紬「元気そうでなによりだわー」

先輩がたが、勝手にお茶していた。

368: 2010/11/23(火) 18:47:24.01
紬「ここでお茶淹れるのも久しぶりだわぁ」

澪「大学行ってからはこういうことしてなかったからな」

純「そうなんですか?」

律「そうなんだよ、あんまりまとめて集まれる時間がなかったからな」

憂「へぇ…」


唯「あずにゃーん!会いたかったよー!」スリスリ

梓「ちょっと、離れてください!」

律「あそこはいつも通りだな」

澪「ああ」

紬「いいわぁ…」ホクホク

417: 2010/11/24(水) 03:29:12.71
そんなことをしていると。

結「おはようございまーす」

律「おはっす!」


一同「…」


唯澪律紬「ええええええ!!!!!??????」


紬「ゆ、唯ちゃんとりっちゃんが二人!?」

澪「…」パタン

梓「み、澪先輩!?」

律「な、なんだ!?私が2人いる!」

唯「ほぇー…」

420: 2010/11/24(水) 03:45:18.50
まあ…こうなることはわかってたけど。

とりあえず場が静まったところで、2人の新入生を紹介した。

梓「…ということで、新入生の結とりっちゃんです」

結「は、初めまして」

率「すげー!ホントにそっくりだー!」

律「ホントにこんなそっくりなのってあるんだな…」

唯「ねー…びっくりしたよー…」


まあ最初に会ったとき、確かに私たちもびっくりしたからな。

423: 2010/11/24(水) 04:07:41.34
純「しかし…改めて見ると本当に似てますね」

憂「うーん、いざ比べてみると、お姉ちゃんと結ちゃんの違いはわかるけどね」

わ…わかるのか。すごいな…。

率「りーつ先輩!記念に写真撮ってくださいよ写真!」

律「おぉ!いいねいいね!」

澪「律が二人か…見ててなんだか疲れるな…」

424: 2010/11/24(水) 04:15:36.75
唯「結ちゃんっていうんだー、名前も一緒だね!」

結「は、はい」

結はなんだかちょっと緊張しているようだ。
…結は今、何を思っているのか。
唯先輩への憧れか。それとも、立ち向かうべき敵と見ているのか。

紬「あの二人は、見ててなんだか和むわね」

澪「そうだな」

二人はこう言っているが…実際、二人の間の事情を知ったら、驚愕するんだろうな。

427: 2010/11/24(水) 04:24:56.04
憂「あ、梓ちゃん、もうこんな時間」

気がつくと、もう本番の時間が迫っていた。

澪「じゃあ、私たちは観客席に行ってるな」

紬「みんな、がんばってね!」

律「おいりっちゃん、緊張してミスるんじゃないぞ?」

率「大丈夫ですって!」

唯「…」

みんな一人一人声をかけてくれたが、唯先輩だけは何も言わなかった。

まさか、今の時間だけで、私と結の間に起こったことがわかったのだろうか。

…でも、唯先輩、こういう時は鋭いんだよな。

428: 2010/11/24(水) 04:28:56.58
梓「唯先輩」

唯「ん?なぁに?あずにゃん」

唯先輩を呼び止める。

梓「ライブが終わったら、話があります」

唯「…うん」

梓「待ってて、くださいね」

唯「うん」


そして私たち5人の、最初で最後の、学園祭ライブが始まる。

429: 2010/11/24(水) 04:34:03.88
ステージのそでから講堂を見ると、すでにたくさんの人たちで溢れていた。

結「うわぁ…すごい人」

憂「お姉ちゃんたちで、桜高軽音部って結構有名になったからね」

純「いまや、学園祭の目玉イベントだもんね」

率「よーし!テンション上がってきたー!」

初めての学園祭ライブというわりには、みんなあまり緊張はしていないようだ。

どちらかと言うと、みんなこれから巻き起こるであろう歓声に期待して、興奮しているようだ。

…私も含め。

430: 2010/11/24(水) 04:39:04.70
観客席を見ると、唯先輩たちのところに人だかりができている。

…本当に、有名人みたい。

あんな人たちと、私は一緒にバンドをやっていたんだなぁと思うと、なんだか自分があの輪にいるようで少し照れくさい。

しかし、今はそれどころではない。
私は、この5人で、バンドを組んでいるんだ。

そして、前の組が終わり、私たち軽音部がコールされる。

梓「よし、行くよ、みんな!」

憂純結率「おー!!」

431: 2010/11/24(水) 04:44:18.47
舞台の幕が上がり、私たちは大きな歓声につつまれる。

と、そのとき、歓声がちらほらとどよめきに変わりつつあった。

…まぁ、恐らく結とりっちゃんのことだろう。

そんなことは気にせず、ボーカルの私はMCを始める。


梓「こんにちは、桜高軽音部です!!」

432: 2010/11/24(水) 04:49:41.39
梓「私たちは新入生二人を加え、新しく再出発しました」

梓「とは言っても、私たち三年生がライブをするのは今日が最後なので、この5人でライブをするのは、最初で最後です」

梓「去年までの軽音部を知っている人からしたら、私たちの演奏は全然未熟なものかもしれません」

梓「それでも、」

それでも。

梓「これが、今の私たちの音楽なんだって、胸を張って言えます」

その言葉に、嘘偽りはない。

434: 2010/11/24(水) 04:53:16.82
梓「バンドの全員が、そう思ってくれていると、私は思います」

純の顔を見る。
憂の顔を見る。
りっちゃんの顔を見る。
結の顔を見る。

みんな、頷いてくれている。


梓「私たち新生軽音部の演奏が、少しでも皆さんの心に届くように、全力で歌います!」



梓「聞いてください、「U&I」!!」

435: 2010/11/24(水) 04:57:22.99
りっちゃんのドラムが鳴り響き、曲が始まる。

この歌は、唯先輩が、憂のことを思って作った歌ということだ。

そうやって、誰かのことを思って作ったものは、ちゃんとその人の心に届く。
私はそう信じてる。


…だからこの歌も、私はあなたを思って歌うんです。

キミの胸に、届くかな?

436: 2010/11/24(水) 05:01:38.01
一曲目のU&Iを成功させた私たちは、そのまま波に乗って、二曲目、三曲目も問題なく終えられた。

観客の反応も、上々だ。

梓「ありがとうございました!…それでは、次が最後の曲になります」

先輩たちを見る。

梓「私は、今の軽音部の中では一番の古株になりますが、この曲はやはり、桜高軽音部の原点であるように思います」

437: 2010/11/24(水) 05:07:11.30
梓「私は気がつけばこの曲を口ずさみ、いつでも頭の中でこの曲を歌うところをイメージしていました」

梓「…ある意味では、私はこの曲とともに、過ごしてきたといってもいいかもしれません」

先輩たちを見る。
作った本人である澪先輩とムギ先輩は、少し照れくさそうにしている。

梓「その曲で、私の軽音部生活を終わらせられることを誇りに思います」


梓「最後の曲、「ふわふわ時間」!!」

439: 2010/11/24(水) 05:12:56.76
もう何度聞いたかわからない、出だしのイントロを結が奏でる。

それを聞くと、ああ、これで終わりなんだな、としみじみ思ってしまう。


思えば、先輩たちが卒業して、私一人になった軽音部に入ってくれたみんな。
りっちゃんなんかは、尊敬できる先輩、なんて言っていたけれども、私はみんなに、いくら感謝しても足りないくらいなんだ。

みんながいたから、今こうして、大勢の人の前でライブができる。

先輩たちに、立派になった私たちの姿を見せられる。

みんなに支えられて、私はここまで来れたんだ。


本当に、ありがとう。

440: 2010/11/24(水) 05:17:31.08
歌いながら、この数ヶ月の生活が、走馬灯のように蘇ってくる。

純のこと、憂のこと、りっちゃんのこと。

そして、結のこと。


みんなと過ごした大切な日々が、これからも続いてほしいと、心から思う。

そして、それが決して叶わない夢であることも。

…そのとき私は、去年先輩たちが学園祭のあとに流した涙がどんなものだったのか、理解できた気がした。

444: 2010/11/24(水) 05:23:43.83
「ふわふわ時間…」

ジャジャ、ジャジャ、ジャーン

最後のピッキングは、いつも以上に強く。
この時間が、少しでも長く続くように。


そして、長く響いたギターの音が終わると、地鳴りのような拍手が響いた。

先輩たちも、立ち上がって拍手してくれている。

見てくれましたか?先輩たち。


私は、先輩たちがいなくても、ここまでやってこれました。
ここにいる5人、みんなの力で。


ステージの幕が降り、ライブの終わりを告げる。

…そのとき、私は一つの問題に、答えを出した。

447: 2010/11/24(水) 05:28:57.54
ライブが終わって、部室。
みんなそれぞれに、互いを誉めあったり、まだやり足りないとでも言うように、楽器を鳴らしたりしている。


…みんな、とてもいい顔をしていた。

そんなとき。

律「おっつかれさまー!!」

唯「すごいよかったよー!」

澪「とても春できたばかりのバンドとは思えないくらい、息もばっちり合ってたな!」

紬「みんな素晴らしかったわぁ!」

先輩たちが、ねぎらいに来てくれた。

448: 2010/11/24(水) 05:33:52.28
純「ありがとうございます!」

憂「お姉ちゃん、見ててくれた?」

率「ほーら律先輩!失敗しなかったでしょ?約束通り、ジュース一本ですよ!」

結「り、りっちゃんたら…」

いつの間にそんな仲良くなったのか、先輩たちと交流するみんなを見ていると、律先輩に声をかけられた。

449: 2010/11/24(水) 05:37:26.69
律「お疲れさん」

梓「どうも。皆さん、楽しんでいただけました?」

一番気になるところだ。

律「ああ、すごくよかったよ。MCのとこなんか、澪のやつ少し涙目だったしな」

そうか…精一杯、考えたかいがあったな。

律「それも踏まえて、梓、お前はよくがんばった」

いつの間にか、みんな私の周りに集まっていた。

450: 2010/11/24(水) 05:40:56.40
澪「正直、失礼な話だけど梓のことは心配だったんだ」

紬「一人で大丈夫かって。部長という重責に、潰されてしまわないかって」

律「でも、お前はがんばった。そして、バンドを一つにまとめあげた。これは間違いなく、お前の力だ」

唯「あずにゃんは、部長という仕事を、完璧にこなしたんだよ」

451: 2010/11/24(水) 05:44:41.98
憂「経験のある梓ちゃんは、私たちにとってとても頼りになる存在だったんだよ」

率「入ったばかりの私たちにも、馴染みやすいように優しくしてくれました」

純「バンドとして一つになることを押しつけるんじゃなく、自分たちでそう思えるようにできたのも、梓が一番にそう思っていたから」

結「梓先輩がいたから、今日の私たちがいるんです」

455: 2010/11/24(水) 06:00:25.53



「だから、ありがとう。そして、おめでとう」



誰が言ったかはわからない。みんなが言ったのかもしれないし、幻聴だったのかもしれない。


私はそのとき、すでに泣き崩れていたから。

456: 2010/11/24(水) 06:02:12.88
そして、先輩たちとも別れ、純たちも帰り、私は一人で部室に向かっていた。
唯先輩が待っているから。

唯先輩には先にやることができたと言っておいたが、もしかしたらずいぶん待たせているかもしれない。

急いで部室のドアを開くと、唯先輩がギー太を弾いていた。

457: 2010/11/24(水) 06:03:36.68
唯「ところで、話って?」

来た。

梓「…その話をしながら、ちょっとセッションしませんか?」

唯先輩は訝しげな顔をしたが、すぐに

唯「うん、いいよ」

と言ってくれた。


梓「そしたら、今の唯先輩みたいに即興でメロディーを作って、それを交互にどんどん繋げていく…ってのがあるんですが、それやりましょうか」
唯「よっし!」フンス

458: 2010/11/24(水) 06:07:43.32
梓「それじゃ私から…」

そして始まった。私のこの半年間の、答え合わせが。


梓「今日ライブを終えたとき、ようやくわかったんです。唯先輩に言われたことが」


唯「そうだね、そんな顔してたもんね」


梓「唯先輩の言ったとおり、この半年間でいろんな出会いがありました。驚きの連続でした」


唯「でしょ?もっと先輩の言うことを聞かないと!」

459: 2010/11/24(水) 06:10:55.29
梓「ふふっ…すいません、でもちゃんと言われたことも守りましたよ」


唯「みたいだね。結ちゃんと率ちゃんも、あずにゃんを慕ってたし」


梓「そして、唯先輩の言ったとおり、心が揺れることも度々ありました」

唯「そりゃそうだよ。誰かと出会うっていうのは、そういうこと」

460: 2010/11/24(水) 06:14:24.51
梓「その上で、言います」

ギターを弾く手は、いつしか止まっていた。





梓「唯先輩、私はあなたが好きです」

461: 2010/11/24(水) 06:18:46.07
唯「…」

唯先輩は、ギターを弾き続けている。
この空間を、彩るように。


梓「私、結に告白されたんです。好きですって。正直、私の気持ちは揺れていました」


梓「でもさっき、ここに来る前に、断ってきました」


梓「唯先輩、私には、やっぱりあなたしかいないみたいです」

463: 2010/11/24(水) 06:23:53.85
唯先輩はギターを弾き続けている。

しかし、それがだんだん、覚束なくなってきて、


突然、泣き笑いした唯先輩が、抱きついてきた。


梓「唯先輩、泣かないで。それとも、それも汗ですか?」

こんな軽口を叩いてしまう私は、やっぱり素直ではないようだ。

唯「ううん…これは、嬉し涙。あずにゃんと一緒に歩けることに。これまで待ち続けて、本当によかったと思ってるから」

465: 2010/11/24(水) 06:27:40.16
私は、唯先輩が泣き止むまで、その体を抱き続けていた。

…私から抱きつくなんて、合格発表のとき以来かな。


しばらくして泣き止んだ唯先輩は、今まで見た中で、一番綺麗な笑顔で言った。


唯「ありがとう。よろしくね、あずにゃん」

467: 2010/11/24(水) 06:32:56.23
帰り道。
私と唯先輩が、並んで歩いている。
手をつないで。


唯「でも、どうして私を選んでくれたの?」

梓「それは…ひ、秘密です」

唯「何でー!?あずにゃん、白状しなさい!!」

唯先輩がわき腹をくすぐってくる。

梓「ひゃっ!?ゆ、唯先輩!止めてください!」

何されたって、絶対言うもんか。
結局選ぶきっかけも、あなたからもらったなんて。

473: 2010/11/24(水) 07:04:02.52
結「りっちゃん」

率「ん?」

結「私、梓先輩にふられちゃった」

率「…そうか」

結「話、聞いてもらってもいいかな」

率「当然だろ。私たち、友達なんだから」

結「…ありがと」

474: 2010/11/24(水) 07:05:42.53
校舎裏


結「…梓先輩」

梓「…結」

梓「この前の、告白の返事をしにきたよ」

結「…はい」



梓「…ごめんなさい。私は結とは付き合えない」

475: 2010/11/24(水) 07:07:23.68
結「…」

梓「…ごめん」

結「…理由、聞いてもいいですか?」

梓「…うん」


梓「私は部長としてみんなの姿を見てきた。もちろん、結のことも」

梓「そして、今日ライブが終わったとき思ったのは、結たち一年生のことだった」

476: 2010/11/24(水) 07:09:59.66
梓「私たちがいなくなったら、軽音部は二人になっちゃう。それはきっと、私たちのときより大変だと思う」

梓「まだどっちが部長になるかはわからないけど…でも、来年来るだろう新入生を、大事にしてほしいんだ。私たちが、結たちにしたように」



梓「結、あなたにはこれから、やるべきことがたくさんあるんだよ」

479: 2010/11/24(水) 07:11:45.05
梓「これからも、いろんな出会いがある。私と結が出会ったように。…私と、唯先輩が出会ったように」

梓「その出会いを大切にしてほしい。どんな人と出会うかはわからないけど、どれもきっと結にとって大事なものになる」

梓「だから…私は結とは付き合えない。今は私の言葉が理解できなくても、きっといつか、わかるときがくるから」

480: 2010/11/24(水) 07:13:07.62
結「…って言われちゃった。やっぱり、唯先輩には勝てなかったみたい」

率「…なるほどね」

結「?」

率「そうだな、今回は、相手が悪かった」

結「うん。私も、そう思う」

率「でも梓先輩の言うとおり、来年新入生も勧誘しなきゃいけないし、やることはたくさんあるよ!」

そのぶん、出会いもたくさんあるはず。

率「前を向こう、結。高校生活、まだ始まったばっかじゃん」

結「…そうだね!ありがとう、話聞いてくれて!」

483: 2010/11/24(水) 07:19:00.18
そして、学園祭が終わり、軽音部を引退した私たち三年生は…やっぱり先輩たちと同じように、部室で受験勉強をしている。

憂「やっぱり部室は落ち着くよねー、もうすっかり馴染んじゃった」

純「憂のお茶もあるしね!」

こら。

そんなやりとりをしてると、結とりっちゃんが入ってきた。

結「こんにちは!」

率「こんちわっす!梓先輩、純先輩ちゃんと勉強してますか?」

純「失礼な!ちゃんとしてるよ!」

たしかにしてるけど…後輩に心配されちゃダメでしょ。

507: 2010/11/24(水) 14:16:04.49
あれから、結と気まずくなるようなことは、一切なかった。
私が思っているよりも、結は大人なのだろう。

結「梓先輩たち、唯先輩たちと同じ大学行けるといいですね!」

つまり、そういうこと。
私たちは、唯先輩たちと同じ大学を目指して勉強している。

509: 2010/11/24(水) 14:17:25.29
憂なんかはもっと上の大学にいけるはずだが…みんな一緒がいい、と珍しく駄々をこねた。

まあ、せっかくだしね。


今、一年生の二人はこの時期から新入部員を探しているらしい。
主に帰宅部の子に声をかけてまわっている、とのことだ。

梓「新入部員、入るといいね」

結「はい、優しくする相手がいないんじゃ、話になりませんからね」

513: 2010/11/24(水) 14:37:04.30
…びびった。本当にいきなりこういうこと言い出すんだから、この子は。

でも、こういうことを言えるようになったってことは、もう心配はないのだろう。

…結には、幸せになってほしいと思う。
私が言っていいことなのかは、わからないけど。

515: 2010/11/24(水) 15:05:42.06
あと数ヶ月で、私たちは卒業してしまう。

しかし、部長としての役割は終わったかもしれないが、私にはまだ先輩として、 二人に残して行かなきゃいけないことがまだある。

私と唯先輩は互いに想いを伝えあったが、その…いわゆるデートとかは、まだしていない。

私がちゃんと卒業してから、と自分で決めた。

516: 2010/11/24(水) 15:13:14.82
唯先輩も、最初は嫌がっていたが、私の考えを理解してくれたのか、賛同してくれた。

だから、それまでの間、みんなとの絆を深め、この部活をもっと好きになってもらいたい。

…もちろん、勉強もちゃんとするけど。


二人は、これから新入部員の確保のために、すごく苦労すると思う。
でも、きっと大丈夫。
このバンドを好きでいれば、その思いは伝わるから。

春のキミたちみたいに、きっと誰かが来てくれる。


だから、がんばって。

517: 2010/11/24(水) 15:14:16.39
そして、4月。




唯「あずにゃん、待ってたよ」





おしまい

518: 2010/11/24(水) 15:15:54.65
やっと完結しました。
長い間付き合っていただいて、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。

いろいろ忙しく書くのに時間がかかってしまい、申し訳なく思います

519: 2010/11/24(水) 15:18:26.27

引用元: ゆい「あの…入部希望…なんですけど…」