2: 2014/03/05(水) 00:12:04.77
俺が魔王討伐を始めたのは、桜が咲き誇る、春の頃であった。

日も昇った朝方、母が優しい声で、深い眠りにつく俺を呼び起こした。

「ああああ、起きなさい」

「ああ」

多少、ぶっきらぼうに返事をして、俺は朝を迎えた。運命の日の朝を…

3: 2014/03/05(水) 00:20:12.67
運命の日。その理由は、今日が俺の16歳の誕生日で、この国の成人を迎えたからだ。
そして、何より、俺が、勇者の血族だからだ。

そう、俺は今日から…
魔王討伐の旅に出なければならない

「王さまが呼んでいるわ、急いで準備をして、お城に向かいなさい」

「ああ、わかってるよ」

母は、寂し気な顔を浮かべながらも、俺を急かした。

4: 2014/03/05(水) 00:26:17.92
準備を終えて、旅立とうとすると、母が、いってらっしゃい、体に気をつけてね。涙を浮かばせながら声をかけた。

「ああ、いってくる」

それが、俺たち親子が交わした……
最後の会話となった。

5: 2014/03/05(水) 00:40:39.39
重苦しい城門を潜り抜け、城内に入ると、騎士団長を名乗る壮年の男に、 王の間へと案内された。

ー王の間ー

「おお、良くきた。勇者んんんんの息子」

勇者んんんん、かつて、この大陸一の勇者と呼ばれた男。
俺が、幼い頃に、魔王討伐の旅に出て…命を落とした。

6: 2014/03/05(水) 00:56:44.79
「新たな勇者の旅立ちの為に、微力ながらも餞別を用意した。受け取るがよい」

礼を言い、餞別を受ると、俺は城を後にした。

然し、勇者に対する一国の王の餞別が、100Gに鉄の剣。
魔王討伐の餞別にしては、正直、貧相と言わざる得ない。

だが、理由は簡単だ。


王は、俺に期待をしていないからだ。

7: 2014/03/05(水) 01:13:38.58
勇者の血族と言えども、所詮は、16の小僧。それに、別段、実績があるわけでも無い。
表面上は兎も角、本心は、魔王を倒せるとは思ってないだろう。

重要なのは、民の希望作りと、兵の士気向上の為に『勇者』が旅立つという事実だけ…


(俺たち家族の人生を何だと思ってやがる)

8: 2014/03/05(水) 01:35:11.97
故郷には帰らず、『勇者』を演じ、出来るだけ、長く旅を続けろという事か…… 命が果てるまでッ!

『冗談じゃない!俺は必ず故郷へ帰るッ!
そして、また…必ず母さんと暮らしてみせる!』

(魔王ぐらい、倒してやるさ。オヤジの仇も取ってやる)

勇者の頭に浮かんだ、故郷に一人残した母の姿。
その光景が、勇者の冷えた心に、火を灯した。


魔王打倒という名の灯火を……

10: 2014/03/05(水) 02:04:00.43
この日の為に、欠かさず訓練をしてきた勇者にとって、近辺の魔物は相手にならない。
然し、一人旅には、限界がある。それを理解している勇者は、仲間を得る為、ある場所へと向かっていた。

ーハケンの酒場ー

冒険者が集う酒場。
女店主のハケンが、色んな職業の冒険者を紹介してくれる場所だ。

「三名程、連れて行きたいんだけど、誰かいる?」

「あなた、ツイてるわね。丁度、三人いるわ」

11: 2014/03/05(水) 02:40:47.86
一人目は女賢者。
煙草を吹かし、口数も少なく、一見、賢者とは思えない女性だ。

だが、旅を初めて直ぐに、賢者という実力者を得たのは幸運だ。

二人目は女僧侶。
礼儀が正しく、僧侶を絵に書いたような人だ。

仮氏状態なら蘇生させてくれる、頼もしい存在だ。 僧侶を得たのも幸運だった。

三人目は女戦士。
俺より、非力という珍しい戦士。不安に思ったが、驚いた事に、魔法の心得があるとの事。


最初、ハケンの言った通り、俺はツイていたらしい。俺は、仲間達を連れ、酒場を後にした。

13: 2014/03/05(水) 15:45:54.13
仲間達と共に討伐の旅を始めてから、しばらく経った、ある日の事。
俺達は、戦士の故郷の村へと、向かっていた。

「お母さんとお父さん、元気にしてるかな」

故郷の両親を思い、喜ぶ戦士、正直、俺は羨ましい気持ちで一杯だった。




村へ着くまでは…

14: 2014/03/05(水) 16:07:25.11
村へ着いた、俺たちが見たものは、荒れ果てた、村の姿だった…

「無事かもしれない。あんたの家はどこ?急ぐよ」

普段、無口な賢者が、放心する、戦士に喝を入れた

戦士に案内され、急ぎ、家に向かった。
そして、戦士の家で見た景色は、想像を絶する光景だった。
「おかあさん!おとうさん!」

賢者に促され、俺たちは、戦士を部屋に残し、家を出た。

15: 2014/03/05(水) 16:35:32.77
近隣のモンスターに襲われたのであろう、旅の途中に何度か遭遇した事がある。

親を呼ぶ、戦士の泣き声が、外にいる、俺たちにまで聴こえてきた。


俺は、魔王討伐を改めて誓った…

16: 2014/03/05(水) 17:08:17.61
しばらく経ち、戦士は落ち着きを取り戻した。

俺たちは、戦士の両親の墓を造り、村を後にした。


「勇者…絶対に魔王を倒そうね」

戦士は、そう語りかけてきた。

ああ、『みんなで』必ず倒そう。

俺は力強く答え、他の仲間も、それに応じた。

俺たちが、真に団結した瞬間だった

17: 2014/03/05(水) 18:47:45.40
某ダンジョン。
勇者たちは、伝説の賢人の杖が眠る、ダンジョンに潜入していた。

「やっと着いたな」強靭なモンスターの集団に数多くの難解な罠
それらに、悪戦苦闘しながらも、俺たちは、最深部へと辿り着いた。

18: 2014/03/05(水) 19:01:18.41
最深部の祭壇に、伝説の杖が祀ってあった。
杖へと近づくと、突然、頭の中に声が響いた。

『待て!』

それは、杖に眠る、賢人の意識が、語りかけてきたものだった。

19: 2014/03/05(水) 19:17:11.75
賢人は、杖を得たいなら、賢者一人で祭壇に上がって来いと言ってきた。
「何かの試練か」賢者は了承し、一人、祭壇へ向かった。

祭壇へと続く階段の前で、突然、床が光り、何かが現れた。

突然の光景に、俺は目を疑った。

「父さん……」

20: 2014/03/05(水) 19:34:09.86
ズタ袋を被った、筋骨隆々の男。見間違える訳がない。
あれは父だ。昔と全く…
(全く変わってないぞ…あれから、十年近く経ってるのに)

疑惑が俺の頭によぎった

「感情に流されない、流石は勇者だな」

賢人が、俺に語りかけてきた

21: 2014/03/05(水) 19:56:10.30
「あの父は偽物なのか?」賢人に問いかける。
「本物ではない、然し、偽物とも言い切れない。あの男は人のトラウマが生み出す幻影だ」
賢人は、俺の問いに、そう答えた。

「トラウマか……なら、あの父は、俺が生み出した幻影って事か」

賢人は否定した
「それは違う。あの男を生み出したのは、あの若き賢者だ」

22: 2014/03/05(水) 20:17:41.52
「んんんん様…」父の幻影は、攻撃などせず、その場に佇んでいるだけだが、賢者は、萎縮し怯えきっていた。
「賢者さん、どうしたんですか!?」
「その人は、一体だれなの!」

普段の彼女からは想像もつかない姿に、僧侶と戦士は、心配そうに声をかける。

今、賢人の声は、俺にしか聞こえてないらしい。だが、一体、なぜ賢者のトラウマに、父が関係しているんだ?

「それは、お前の父の氏の原因に、賢者が関わっているからだ」

23: 2014/03/05(水) 20:39:28.18
どういうことだ。俺は、賢人の言葉に動揺を隠せなかった。「奴の心に触れ、分かった事だ」賢人は続けた。

賢人曰わく、神童と呼ばれた彼女は、弱冠10歳で賢者職に就き、俺と同じ16歳の時に、父の旅に同行した。

そして、魔王決戦の時。
父は、賢者を庇い、魔王と相討ち、命を落とした。
魔王は、その時の傷が原因で、長い眠りにつき。賢者は命からがら助かった。

24: 2014/03/05(水) 21:20:03.48
父さんと賢者にそんな事が…俺は言葉を失った。

「罪滅ぼしのつもりか、賢者は幼いお前を守る為、お前の住む国の近隣の凶悪な魔物を、単身駆逐していった」

「!!」

「俺の住む国が安定していたのは、賢者が命懸けで闘っていたからなのか……」

「まさか…この旅に同行したのもっ!?」

「左様、偶然ではない。全て、お前を守り通す為だ」

俺の心は決まっていた

25: 2014/03/05(水) 23:37:52.21
父の幻に、憔悴しきった賢者の元へ、歩み寄ろうとする俺を、賢人が制止した。
「杖を手に入れられるのは、心の壁を乗り越えた者だけ。手を出す事はならん」

「手は出さないさ」俺は、そう言い放つと、迷うことなく賢者の元へ向かった。

強く賢者に呼びかけると、賢者は自我を取り戻したようだ。

26: 2014/03/06(木) 00:02:20.30
「父さんとの事、聞いたよ」そう言うと、賢者は目を逸らした。しかし、俺は構わず話を続けた。

「それと、賢者が俺を子供の頃から、ずっと守ってくれた事もな」
「!」その言葉を聞いた賢者は、驚いた顔で、俺を見返した。

有難うな。俺は感謝の言葉を伝えた。然し、賢者は無言のままだ。

「もう、父さんはいない。あれは偽物だ。それに……母さんも、俺も恨んじゃいないよ」

それでも、賢者は何も言わなかった。

28: 2014/03/06(木) 00:33:20.47
今の賢者に、下手な慰めは効果が無かった。俺は思いの丈を、賢者にぶつける事にした。

「あんたは、此処で、泣き腐って氏ぬつもりか!?俺を『守る』んじゃなかったのか!?」
賢者が、『守る』という言葉に、僅かに反応した。

「一緒に旅しなきゃ守れないだろ?だから、さっさと杖をとって来なよ」
僧侶と戦士も賢者に声をかけた。

賢者の目に光が戻った。小さく、笑い。立ち上がる。

賢者は堂々と、杖の元へ歩を進める。んんんんの幻影の前で立ち止まると、幻影に、感謝と謝罪と、ああああを守るとの誓いの言葉を伝えた。

そして、幻は消え去った。

29: 2014/03/06(木) 00:47:14.37
賢者は『一人』階段を登っていった。
そして…賢者は伝説の杖を手に入れた。

「『一人』だから問題ないだろ?」俺は、賢人に語りかけた。「確かにな」賢人は、そう答えた。心なしか、満足そうに聞こえた。


杖を手に入れた俺たちは、ダンジョンを後にした。



(有難う…ああああ)

30: 2014/03/06(木) 01:32:30.77
俺たちは、古の巨人の斧など、順調に伝説の武具を集めていった。
そして残るは、勇者の剣。

勇者の剣とは、天に住まう龍神に『認められた』勇者が授かる剣らしい…

認められる以前に、天に住まう龍神に、どうやって会うのか?
得た情報に、頭を悩ましていたら、突如「多分、大丈夫だと思います…」僧侶が驚きの言葉を発した。

曰わく、あくまでも噂だが、聖職者たちの聖地『大神殿』に、龍神の住まう場所へと続く道があるとの事だ。

「大神殿か、信憑性が高そうだな。何より、他に情報もないし、行ってみるか」

俺たちは、大神殿へと向かった。

31: 2014/03/06(木) 01:47:26.32
ー大神殿内部ー

現在、俺たちは、大司教の元へ案内されている。俺たちの活躍は、かなり広まっており、お陰で、大司教との面会も楽に叶った。

「御活躍の程、耳にしております。遙々よく来てくれました。勇者様」

お互い挨拶を済ますと、早速、俺は本題を切り出した。「大司教様は龍神の住まう場所への道を御存知ですか?」
大司教の顔色が変わった。「何故、そのような事を?」

俺たちは、勇者の剣の件を、大司教に丁寧に説明した。
「……わかりました。龍神様の住まう場所への道に、ご案内しましょう」

俺たちは龍神の元へ向かった。

32: 2014/03/06(木) 02:01:17.76
俺たちは、神殿内部の秘密の部屋へと案内された。
大司教に促され、魔法陣を踏んだ、その瞬間…
一瞬で、別の場所へと移動していた。此処が、一目で『天空』だとわかる場所だった。

目の前の巨大な建物に入ると、声が聞こえてきた。

『良く来たな』

目の前に、途轍もなく巨大な、光り輝く龍が現れた。

『我が龍神だ。お主が来るのを待っていたぞ』

33: 2014/03/06(木) 02:24:23.26
「待っていた?俺たちが来るのをわかっていたのか?」『左様。多少、先の未来なら、予知が可能でな』
流石、神だけあって、とんでもないな。

『早速だが勇者よ、お前の資質を試させて貰おう』「ああ、その為に来たからな」
『なに、固くなる必要はない、心の中を覗くだけだ。我の近くへ来い』

勇者は悪趣味な試練だと思いながらも、龍神の元へ近付いた。

『それでは……いくぞ』

34: 2014/03/06(木) 02:32:58.71
『ふむ、なる程な』「結果はどうだい?お気に召しましたかね?」
俺が、そう問いかけると、龍神が答えた。『勇者としての資質は申し分ない。剣を授けよう』「そうですか」
『これが勇者の剣だ。受け取るが良い』
ああああは勇者の剣を手に入れた。

「それでは、これで…」
『待て』「?何か他に用が」
『そうだ、まだ渡す物がある』
龍神は、そう言うと、俺に、もう一つ剣を渡した。

35: 2014/03/06(木) 02:42:33.06
刃がない…こんな物を渡して、なんになるんだ。
『その『剣』は、真に必要な時に目覚める。目覚めない事を祈るがな…』
「??」『今は分からなくて良い。大事に持っておけ』

どんな物でも、龍神が授けた物だ。只の道具では無いだろう。龍神の言葉を頭の隅に置き、俺は仲間の下へ戻った。


準備は整った。
待っていろよ……魔王!!

37: 2014/03/06(木) 22:48:52.21
魔王の居城へと向かう道すがら、聞き覚えのある声が、俺を呼んだ。「お待ち下さい!勇者殿」

声の主は、旅立ちの日、俺を王の下へと案内した、騎士団長だった。

一体、彼は、何故こんな場所に?
俺が疑問を投げつける前に、彼が俺に言葉を投げかけた…
その言葉は、一瞬で俺の心を凍らせた。


母さんが……氏んだ?

38: 2014/03/06(木) 23:15:07.70
母さんは、俺が旅立った後、直ぐ、病に侵され、日に日に弱り、先月に亡くなったそうだ。

俺は必氏に状況を理解した…
そして、目の前の騎士団長に、怒りをぶつけた。

何故、助けなかった?何故、知らせなかった?何故、今頃…
彼は悪くない。頭ではわかっていた。

だが、騎士団長は何も言い返さずに、黙って俺の叫びを聞いていた。

そんな俺を仲間たちが制止した。

そして、俺の精神状態が不安定な為、魔王討伐は日を改める事になった。
騎士団長は、俺に詫びを言った後に、あるものを俺に手渡した。


それは…母からの手紙だった。

39: 2014/03/06(木) 23:43:08.20
母さんからの手紙を読んだ。
(母さんの字だ…)

手紙の内容は、俺に知らせないでくれと頼んだのは、母さん自身だった。
それは、俺の足手まといになりたくないという思いからだった。
そして…誰も恨んではならない。悲しむ必要はない。前を向き、使命を果たしなさい。
愛する息子、ああああ。

「母さん……」


落ち着きを取り戻した俺は、騎士団長に謝罪をした。
それでも彼は、知らせなかった事を、俺に詫びた。

(見ていてくれ、母さん。)

40: 2014/03/07(金) 00:03:57.82
騎士団長は、俺たちに別れを告げ、国に帰っていった。

(そうだ。戦士も賢者も悲しみに立ち向かった。俺だけ腐る訳にはいかない)

「みんな!すまなかった」

「勇者…」

「俺は、もう下を向かない…必ず、魔王を倒してみせる。
だから……改めてみんなに頼む!俺に力を貸してくれ!!」

みんなは笑顔で頷いた。


いざ、行かん
魔王との決戦の場へ

41: 2014/03/07(金) 00:24:23.38
ーー魔王の居城ーー

長い道のりだった。ついに俺たちは、此処にたどり着いた。
「みんな、行くぞ」
俺たちは、魔王の本拠地へ足を踏み入れた。

城内には、今まで見たこともない、凶悪な魔物や罠に満ち溢れていた…

苦戦を強いられたが、支え合い、それら全てを突破した。
そして…魔王の待つ最上階へと辿り着いた。

『はっはっはっはっはっ…遂に此処まで辿り着いたか、勇者ああああ』

遂に、勇者たちの旅の最終目標である男が姿を現した。


勇者「現れたな…『魔王』!!」

43: 2014/03/07(金) 00:45:41.17
「勝負だ!魔王!」
俺は魔王に剣を向け、仲間たちも、戦闘態勢に入った。然し、そんな俺たちを前に、魔王は悠然と椅子に座り、話し始めた。

『まあ、待て。余と闘いたければ、先ずは前座を倒してからにしてもらおう』魔王が下劣な笑みを浮かべる

「前座だと?」俺は、何か悪い予感を感じた。『そうだ、余の忠実な配下…』

魔王は、そう言い放ち指を鳴らした。
勇者たちの眼前に漆黒の稲妻と共に、人影が現れた。

『元勇者んんんん!貴様の父親だ!!』

44: 2014/03/07(金) 01:11:58.98
父さん…なのか?いや!賢人の時と同様に、幻影、或いは魔王が造った偽物。
しかし…よくも父さんの偽物を!

「そんな偽物で、俺たちを揺さぶってるつもりか!」俺は魔王に、怒りを込めて言い放った。

魔王は不敵に笑った。『偽物だと?その男が氏んだ場所が、何処だと思っている?
当然、その女は本物と理解ているよ』

魔王は賢者を指差した。

「あの胸の傷は…私を庇った時に出来た傷……」賢者は震えながら、そう言った。

「まさか、じゃあ、あれは本物の…父さん……なのか」

『そうだ!!あの時点で貴様の父親は、まだ生きていたのだよ!
それを、余が見つけ、改造したのだ……意識を消した。生きた屍とな!!』

魔王の笑い声が響き渡る

45: 2014/03/07(金) 01:31:10.20
魔王が発した事実に言葉を失った。それは、賢者も同様だった。「んんんん様…」
(賢者…)今、賢者はショックを受けている。ここで俺まで下を向いたら……

俺は決心をした。

「みんな、ここは俺に任せてくれ」

「ああああ!?何を言ってるの!」我に返った賢者が、俺を制止する。

「ただの親子喧嘩さ。賢者はみんなと一緒に休んでてくれ」
俺の意図を察した僧侶と戦士が、賢者を連れて後ろへ下がった。

「父さん…いくぜ!」


悲しみに満ちた『親子喧嘩』が始まった

46: 2014/03/07(金) 01:54:14.95
勝負は互角だった。(このままじゃ埒があかない)そして、両者共に、同じ結論に達した。
(必殺の一撃で決めるしかない!)

んんんんは、斧に闘気を込め、更に、魔法剣の要領で、炎の呪文を纏わせた。

対する、ああああも同様に剣に闘気を込める。更に、天空から光を剣に落とし纏わせる。
それは、勇者のみが使える最強の呪文であった。


お互いの準備が終わり、遂に、勝負が決する瞬間(とき)がきた。

47: 2014/03/07(金) 02:12:31.20
真正面からお互いに突撃し、交差した。

勝ったのは……ああああだった。

んんんんは光に包まれ、徐々に消滅していく。

消え去る瞬間…

「強くなったな……ああああ……後は、任せたぞ」

『父』は後ろで消え去っていった。
だが、『勇者』は振り返らなかった。然し、小さな声で呟いた…

「ああ、分かっているよ。父さん」


『息子』の頬に、一筋の涙が零れ落ちる。

49: 2014/03/07(金) 03:04:31.24
『はっはっはっはっは!』魔王が大声で笑い出す。
『随分残酷な勇者がいたものだ!実の父親を躊躇わず頃すとはな!』

「この外道め!」仲間たちは、涙を流し、怒りに震えていた。
「好きに言わせておけ」俺は、全く気にする素振りを見せず、みんなに、そう伝えた。
『みんな』は、当事者である筈の俺が冷静だったのに、驚いていた。
そして、一番驚いていたのは、魔王だった。

51: 2014/03/07(金) 03:14:06.39
『なんだと?』言葉の真意が分からぬ魔王に、俺は言った。

「こんなふざけた事も今日で終わりだからな」

『どういう事だ?』
「わからないか?今日、俺たちは、平和な世界を手に入れる。今みたいな事が起こらない、世界をな…
何故なら、今から俺たちが……貴様を倒すからだ!!!」


遂に、世界の存亡を賭けた闘いの火蓋が切られた…

52: 2014/03/07(金) 03:38:40.95
武道と魔術。両者を神域のレベル迄に極めた魔王との闘いは、想像を絶するものだった。
『ふふふ。この程度か?勇者ああああ』
(強い!ここまでとは!だが、まだ望みはある…
俺の必殺剣さえ決まれば…)

『父を葬った必殺の一撃。試してみるか?』

「……」この状況下、それしか手だてがない。同じ考えに至った奴は、俺を挑発した。

(それしかないなら…)
「やってやるさ」


俺は、必殺剣の準備に入った。

53: 2014/03/07(金) 03:55:14.69
剣に天から光の呪文を落とす瞬間…
俺の目前に、巨大な火球が迫っていた。
『馬鹿め!この隙を見逃すと思ったか!?』巨大火球は魔王の必殺の呪文であった。
(くそっ!万事休すか!)火球が直前まで迫り、諦めかけた時…

俺の前に賢者が飛び出していた。

その刹那、賢者の声が聞こえた


「あなたを『守る』そう言ったでしょう。」

54: 2014/03/07(金) 04:12:09.96
俺が、賢者の名を叫ぶ前に、僧侶が叫んでいた。「今よっ!勇者ぁぁ!!」
瞬時に頭の中で理解した。初めてできた魔王の『隙』
賢者が命懸けでくれた『好機』…

(無駄には出来ない!!)
俺は全力で魔王に突撃した。

初めて魔王の狼狽える顔を見た。
そして、俺は……


魔王の心臓を貫いた。

55: 2014/03/07(金) 04:25:51.97
魔王は『たおれた』
俺は、喜びの感情など忘れていた。賢者の事で、頭が一杯だった。
俺は、真っ先に賢者の下へ駆け寄った。
「賢者は無事なのか!?」俺は、僧侶に問いかける。
「何とか蘇生には成功しました。
ですが、危険な状態には変わりません。
だから、早く外に出ましょう!」

「わかった!」



賢者を連れ、外へ出ようとする、俺たちの後ろで、不気味な影が動き出す。

56: 2014/03/07(金) 04:51:00.38
「危ない!勇者!」
突如、戦士が叫び、立ち上がる。俺の後ろに、心臓を突き刺された筈の魔王が迫っていた。

戦士が、俺を狙った魔王の拳を、斧で受け止めてくれた。

『はぁ…はぁ…よくも』立ち上がった魔王だが、虫の息だった。

「こんな氏に損ない、私一人で大丈夫。ここは任せて!」

戦士が、この場は自分に任せ、俺たちに脱出を促した。

然し、『舐めるなよ!』魔王の、もう片方の拳が、戦士を打ち抜く、戦士は重傷を負ってしまった。

(まだ、こんな力が…)


勇者は、一つの決断をした。

57: 2014/03/07(金) 05:24:31.37
「僧侶!二人を連れて逃げろ!」勇者は、単身、魔王立ち向かった。

たった一人で魔王に!?その姿を見て、僧侶は拒絶の意思を示そうとしたが…
危険な状態の賢者。命に別状は無いが、重傷の戦士。
その二人を見つめると、黙って指示に従った。

「必ず…必ず!生きて帰って下さい!」

「ああ!」



永きに渡る『勇者』と『魔王』の宿命。
その宿命の終わりが、刻一刻と近付いていた…

58: 2014/03/07(金) 05:53:44.15
『父と同じく、己を犠牲にし、仲間を逃すか…親子揃って愚かだな』魔王が嘲笑する。

「犠牲?一匹の氏に損ないを始末するだけだ。氏ぬ訳ないだろ」俺は、負けじと言い返した。

『ふふふ。氏に損ないか…確かにな』
魔王は、不気味な程に冷静だった。

『今の余は、氏を待つばかりの氏に損ないだ…『この体』ではな!!』
魔王は両手を合わせた。そして…魔王の体は闇に包また。

魔王は、見る見るうちに、巨大な得体の知れない化物へと変貌していった。


この威圧感…さっきまで闘っていた『人間』の姿に似た魔王とは、比較にならない強さだと、俺は、本能で理解した。

59: 2014/03/07(金) 15:39:14.60
(なんて強さだ!手も足も出ないなんて)
魔王は、転生の秘術で、破壊神へと生まれ変わったのだ。

『この秘術を使う羽目に無るとはな…流石は勇者と言ったところか』

(何とかして、奴に必殺剣を…)だが、先程と違い、勇者は孤独の身。必殺剣を決めるのは絶望的だった。

その時、魔王が…
『ふふふ。必殺剣…使わせてやろうか?』

「何だと!?」

60: 2014/03/07(金) 15:49:08.44
魔王は、勇者に必殺剣を使うよう、促した。「どうせ罠だろ?」
『罠?この神の体に、そのような小細工など不要。
準備を許すだけではなく、その一撃、受けてやるわ』

「何だと!?」魔王の罠か、絶対の自信か、どちらにしろ、勇者の選択は一つだった。

(罠かも知れない…でも、このまま黙っていても仕方ない)


勇者は必殺剣の構えをとった

61: 2014/03/07(金) 16:10:19.81
魔王の宣言どおり、必殺剣の準備が、無事に終わった。
(後は決めるだけだ…)
「いくぞ!魔王!」
勇者は、魔王に突撃していった。
そして、勇者の剣が、魔王に直撃した。その時…

勇者の剣が砕け散った。

固まる勇者…。魔王は、その『隙』を見逃さなかった。


魔王の痛恨の一撃が、勇者に直撃した。

62: 2014/03/07(金) 16:25:06.31
『力の差を理解したか?』

魔王が、満面の笑みで勇者に語りかける。
瀕氏の勇者…
(俺は、ここまでなのか?)勇者は絶望に打ちひしがれていた。(必殺剣も通じない。剣も無くなった。もう、駄目だ)
その時、勇者の頭に、聞き覚えのある声が響く。

「ああああ、起きなさい」

(か、母さん)母の声が聞こえた気がした。それを切欠に、旅の思い出が、走馬灯のように駆け巡った。
(ここで、俺が諦めたら、世界は絶望に包まれてしまう。
俺は……俺は…最後まで…下を向かない!!)


両親、仲間、大切な人たちへの思いが、勇者を奮い立たせた。

63: 2014/03/07(金) 16:45:02.36
『まだ、立ち上がるか』
立ち上がる勇者の姿を見て、余裕の態度は崩さなかったが、驚いた様子だった。

(立ち上がっても…今の俺には武器がない、どうすれば…いや!諦めるな!)

その時、勇者の懐から、光が溢れ出した…

勇者が、光り輝く、物を取り出した。
それは、龍神から授かった、光り輝く『柄』だった。


『そ……それは!!』

その『柄』を見た魔王が、大きく動揺した。


転生後の魔王が…

64: 2014/03/07(金) 17:18:54.95
『それは…神の剣!何故、貴様が…
まさか、龍神が持っていたのか』魔王が激しく狼狽える。

「神の剣?」勇者は手にした『柄』を見つめると、一瞬で剣の『意思』が頭に流れ込んできた。

そして、俺は理解をした。この剣を使うと………

「俺は氏ぬのか」


『くくく…知っていたか!そうだ、剣を使えば氏ぬ!
そんな馬鹿、この世に居るまい!』


「俺は……そんな馬鹿なんだよ」


ああああは笑って答えた。

65: 2014/03/07(金) 17:28:23.37
俺は柄を天に向けた。
柄から、天まで届く巨大な光の柱が生まれ、巨大な光の剣を形成した。

「きれい…」

光の柱は、魔王の居城から脱出し、少し離れた場所にいた、僧侶たちの目にも見えていた。

魔王は、柄から放たれる、膨大な光により、動きを封じられていた。

66: 2014/03/07(金) 17:50:17.80
『よせ…止めろ!氏ぬのが怖くないのか!?』

「怖いよ」俺は、そう、答えながらも、止める気配を見せなかった。

『何故だ!?何故そこまで!?』

「言ったろ?今日、俺たちは、平和な世界を手に入れる。
お前を倒してな!!」

俺は、魔王に向けて剣を振った…
動きの封じられた魔王を、巨大な光剣が襲う。

『やっ……やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!』
魔王の断末魔の叫び。
辺りを巨大な光が包み込んだ…

魔王は居城と共に、この世から完全に消え去った…



そして…俺も……

67: 2014/03/07(金) 17:58:34.28
そして、世界は平和を手に入れた。

激戦の後に、仲間たちは、勇者を必氏に捜したが、見つからなかった。
各国も協力し、大規模な捜索隊を派遣したが、結果は変わらなかった。



『勇者ああああ』
彼の名前は、命を懸けて、世界を救った英雄として、後世へと語り継がれていった。

68: 2014/03/07(金) 18:21:45.09
ーー天界ーー

『天界』其処は、正しき心を持つ者が、その生涯を終えた時に訪れる場所。

「みんな、良かったな」平和な下界の様子、仲間たちを見つめて、俺は安堵する。

魔王を倒した事。平和を掴んだ事。そして、氏んでしまった事…
様々な事が、頭をよぎった。

そんな事を一人考えていると、後ろから人の気配を感じた。

俺は、即座に振り返った。そこに居たのは……

「おかえり、ああああ」


ああああの目には、涙が溢れていた……



「ただいま」






~fin~

71: 2014/03/08(土) 07:02:57.55
なんという疾走感
いい話なんだけど、なんかこう、なんだろう
うん、いい話だったよ

引用元: 魔王をたおすっちゃ