1: 2021/10/15(金) 13:30:31.367
ある日ある日、でいだらぼっちという大きな男がいた。
城の様に大きく、一日中、何もしないでいるので、でいだらぼっちはある日村の者にこう言われてしまった。
「やーい。でいだらぼっち。お前、何にもできないんだな」
「そんなこと、ない」
でいだらぼっちは躍起になった。
でいだらぼっちは良いところを見せようと、まずは田植えを手伝うことにした。
でいだらぼっちは苗を大きく掴んで田んぼのところまで行き、それをいっぺんに植えてしまったのだ。
「お前にできて、俺にできないことは、ない」
本当は、苗を植える間隔があるのだけれど…。
「分かった。でいだらぼっち。俺の負けだよ」
でいだらぼっちはまだ気が収まらない。

3: 2021/10/15(金) 13:31:09.247
ある日ある日、でいだらぼっちは海に行って来ると言い残し、魚を腕いっぱいに抱えて帰って来た。
その日は村中で昼から晩まで宴が続き、火を囲み、串で魚を焼き、でいだらぼっちの持って来た魚は忽たちまちの内になくなってしまった。
うまいうまいと言いながら村人はでいだらぼっちに感謝を述べていた。
「どうだ、俺は凄いだろう。お前にできて、俺にできないことは、ない」
昨日、でいだらぼっちを悪く言ってしまった村人は、謝った。
「でいだらぼっち。分かった。俺の負けだ」
でいだらぼっちはふんと鼻を鳴らし、勝ち誇っていた。
でいだらぼっちの気は、まだ収まらない。

5: 2021/10/15(金) 13:32:52.018
翌日、でいだらぼっちが大きな足をずしん、ずしんと地響きの様な音を立て散歩をしていると、遠くの方に刀を持った武士が見えた。
でいだらぼっちは背が高いので、遠くの方のことにもすぐ気付く。
でいだらぼっちは大きな体を使って、武士目掛けて腹で押し潰した。
その報は瞬く間に村中に広がり、村人は口々にでいだらぼっちの武勲を褒め称えた。
「どうだい。俺は強いだろう。お前にできて、俺にできないことは、ない。
村人は謝りました。これで三回目です。
「でいだらぼっち。お前は強いな」
でも、でいだらぼっちの気はまだ収まらない。

6: 2021/10/15(金) 13:33:04.075
でいだらぼっちは、武士を倒して、褒められたことに気を良くしたので、もっと強くなろうと思った。
せっかく植えた苗をまだ実みのる前に引きちぎって食べてしまい、海に魚を捕りに行くこともしょっちゅう。
だもんだから、村の漁師は皆、魚が捕れなくなったとでいだらぼっちに当たりました。
「でいだらぼっちよ。あんまり食べるのは良そう」
その言葉を聞くと、でいだらぼっちはすぐに頂点まで怒り
「なんだい。お前らは、俺より早く田植えができるっていうのかい?それとも、俺よりいっぱい、魚が捕れるっていうのかい?
こないだ、武士をやっつけてやったのは誰だと思ってる」
でいだらぼっちは体が大きく、その分声も大きい。村人達は委縮してしまい、これ以上言うことができない。
困った村人達は、でいだらぼっちにバレない様にこそこそ村長の家に入り、そこで密談をした。
「こりゃ米も穫れんし、魚も釣れん。でいだらぼっちは村の疫病神だ」
小さく憤る血気盛んな村長に、村人は諫いさめました。
「でも、んだげどよ。村長。でいだらぼっちのおがげで、村が守れだんじゃないべが」
押し黙る他の村人と村長。でいだらぼっちによって村が守られたのも、また事実。重苦しい雰囲気の中、村長は重い口を開いた。
「しかし、このままでは私達は氏んでしまうよ」
そこで、先程でいだらぼっちを庇かばった村人は、策がありますと言うと、皆は耳を寄せた。

7: 2021/10/15(金) 13:33:14.156
その翌日、でいだらぼっちは何か村人の役に立てないかと、躍起になっていた。
「苗をもっと植えようか?」
農家は断った。でいだらぼっちが苗を植えると、間隔が空いていないので、稲が育たない。
「いんや。こっちはいいよ。手が空いてるなら、漁師の方を手伝ってやれよ」
でいだらぼっちは頷くと、海へ出かけた。
でいだらぼっちが海へ着くと、膝小僧が被らないくらいの浅瀬で、木船に乗り漁をしてる村人に話しかけた。
「ねぇねぇ。魚なら僕が採って来るよ」
漁師は断った。でいだらぼっちが漁をしてしまうと、魚があっという間になくなってしまうので、今日はいつもとは別の遠くの海域で漁をしていたのだ。
「いんや。こっちはいいよ。ところで、武士が攻め入って来ないか、村で見張りをしていてくれよ。でいだらぼっち、背が高いだろう?」
気を良くしたでいだらぼっちは、腕をぶんぶん振り回しながら村まで戻り、武士が襲ってこないか、遠くの方まで見える様に、顔を天に向け、下目遣いで一生懸命見た。
しかし、待てど暮らせど、武士の姿どころか、旅人の一人も見えない。
そこに、村人がでいだらぼっちの様子を見るためにやって来た。
「でいだらぼっちや、武士は襲ってきそうかの」
でいだらぼっちは首を横に振りました。
「いんや。人っ子一人、見えねえだ」
村人は、そうだ、と言うと、でいだらぼっちにこんな提案をした。
「櫓やぐらを作ってみたらどうかな。でいだらぼっちなら、百人力だ。すぐにできるだろう」
これに大変気を良くしたでいだらぼっちは、へへんと人差し指で鼻の下を擦り、やってみるかと一念発起いちねんほっき。
手で木を薙なぎ倒し、邪魔な枝や葉っぱを削ぎ落すために、木の根元を片手で握り、そのまま下に降ろす。すると、あっという間に櫓に使える木ができた。
だけど、でいだらぼっちは頭が良くないので、たくさんできた櫓用の木を、どうやって組み立てて良いか分からなかった。
一段目は、ちゃんと四角になっているのだが、二段目も同じ要領でやるもんだから、それ以上は、高く積み上がらなかったんだ。
「どうすれば良いんだろ」

9: 2021/10/15(金) 13:33:27.945
そこに、村人が現れた。でいだらぼっちに何もできないと言った、村人である。事の発端を作った張本人とも言えるが、事を収めるのも、その張本人の役目だろう。
「でいだらぼっち。櫓はできたかい?」
でいだらぼっちは大層参った声で、申し訳なさそうに頭を掻きながら、
「いんや。それが、いつまで経っても、積み上がらないんだ」
「そんなときは、寝るといいよ」
でいだらぼっちは訝いぶかしんだ。頭が悪くても、直感的なことは鋭いでいだらぼっち。鋭い目つきで村人を睨み、
「何だ、俺は村のためにやってるんだ。寝てる暇なんか、ない」
それがね、聞いてよと説得する村人。
「寝る子は育つって言うだろう?寝れば寝た分だけ、でいだらぼっちは強くなる」
でいだらぼっちは憤慨した。
「俺はもう強い。俺に敵う奴は誰もいない。武士が何百人、何千人と来ようと、俺にとってはただの蟻だ」
それがね、聞いてよ。村人は尚も食い下がる。
「でいだらぼっちや、頭が良くなりたいと思ったことはないかい?」
でいだらぼっちはピンときた。うまい話も、あるもんだな。良し、コイツの話を聞いてみよう。
「実は、そうなんだ」
「なら、寝ると良い。寝る子は育つというのは、何も体だけじゃない。頭も、良くなる」
それは本当か?渡りに船だとでいだらぼっち。櫓のことなんかすっかり忘れてしまい、腕を枕代わりにして、山肌に寝そべった。
「いっぱい寝て、一番賢くなるんだ」
村人はしめしめと笑いを浮かべながら村へと帰って行った。
でいだらぼっちは、それからというもの、村の名前が三回変った後でも、起きることはなかった。

10: 2021/10/15(金) 13:33:40.725
おわり

引用元: でいだらぼっち