1: 2011/09/17(土) 22:50:31.43
我輩は猫であった、名前はナツメと云う。

2: 2011/09/17(土) 22:51:48.46
特に何をするわけでもなく広い住処であるじと一緒に生活していた。

ただただ明日が来るのを待つために今日を過ごすの繰り返し。

時たま、ここにはあるじ以外に2種類のニンゲンが来る。

片方は私を居ないものと扱って、あるじと話をしたり、ガチャガチャと不愉快な音がでる作業をしては帰っていく

「オバアチャンアサワチャントタベマシタカ ヤスンデテクダサイネ アライモノスマセマス」

おそらくは私のことを恐れているが、それをあるじに悟られまいとしているのだろう。

3: 2011/09/17(土) 22:53:12.29

そして、もう一方は私を見ると何かと接触しようとしてくる煩わしい奴である。

「ヤッパリモッテイクノカ ゼンゼンテカラワタベテクレンナ」

献上品を持ってきては私の目の前に差し出し、体をまさぐろうとしてくる。

「アー マタニゲラレタ」

さらにこいつは何日間か滞在して帰っていくことが多かった。

4: 2011/09/17(土) 22:55:03.17

あるじは目が効かなくなってきており、何かにけつまづいてよろけることが多くなっていた。

一方、私は物心ついたときから左の耳で音を捉えたことがなかった。

しかしそんなことは何の問題も無く、お互いに補い合う・・・とまではいかないが

この住処のなかで過ごす分には不自由を感じたことは無かった。

6: 2011/09/17(土) 22:57:01.34

特に何をするわけでもないとは言ったが、内実私は待っていた。

月齢があと一周もすれば尾が裂け、変化の法が身につくはずで、

そうなればあるじを支えたり抱えたりできるようになる。

今まで膝の上を貸してくれたあるじに、今度は膝を貸すこともできよう。

何より、あるじ以外は私に気付くことができなくなる。

あのニンゲン達は、私を居ないものと扱う必要もなくなるし、

下品な手つきでまさぐろうとすることもかなわない。それらがまた楽しみでもあった。

7: 2011/09/17(土) 22:58:54.59

--またあやつがやって来た。

今回も何日か泊っていくつもりらしく、荷物をぶら下げてしきりにあるじを呼んでいる。

私はあまりこやつのことが好きではない。

献上品は多少楽しみではあるのだが、警戒を怠れば襲いかかってくる。

私を抱え上げたかと思えば、今度はその大きな手でもみくちゃにする。

8: 2011/09/17(土) 23:00:43.32

そしてなによりこやつが居ると、あるじが私にかまってくれなくなる。

「モウイイヨバーチャン オハギミッツモクッタシ モウハイラナイッテ」

あるじをせかせかと働かせ、あるじと私の住処に我が物顔で居座るのだ。

「モウスワッテヤスンデテヨ オミヤゲニシロッテ オレマダカエラナイカラ」

まともに狩りもできない半端者に、なぜあるじがここまでかしずくのかいまだに理解できない。

「イイッテバ オレモウジブンデカセグトシナンダシ アイツニオイシイモノデモカッテヤリナヨ」

まあ、狩りに関してはあるじもからきしなのであるが・・・

9: 2011/09/17(土) 23:02:34.35

--ようやくあやつが立ち退くようだ。

いそいそと荷造りをし・・・それを見るあるじの顔が少し翳る。

やはり私はあやつのことを好きにはなれん。

「ソンナカオスンナヨバーチャン マタクルカラソレマデゲンキニシテテ」

あやつが来る度、何度となく繰り返されてきた光景だ。

「マタデンワモスルシ ヘルパーサンニモイットクカラ」

あるじはあやつの使っていた寝床を片付けず、しばらくそのままにする。

何の意味があるのかは分からないが、いつもそうしていた。

だから今回もまた、私はその寝床に寝転んで思いっきり伸びをしたり、毛づくろいをしたりする。

床と違って寝心地が良いし、なによりあるじと似た匂いがして安心するからだ。

10: 2011/09/17(土) 23:04:23.55
--

男「はい、もしもし・・・うん、変わりなかったよ。」
「・・・・・」
男「でも、俺が居る間はなんか無理して張り切ってるんじゃないかってちょっと心配だったわ。」
「・・・・・」
男「あー・・・あっちは相変わらずだ。もう威嚇とかはされなくなったけど・・・」
「・・・・・」
男「たまには自分で顔見に行ったら?ていうか自分の顔も見せに行け。同時にできる」
「・・・・・」
男「いや、行くのは嫌じゃないよ・・・ただ、前よりも弱ってるんだな~ってわかっちゃうトコもあって
  そういうトコに気が付くのが辛いんだわ。」
「・・・・・」
男「うるせーよ。俺だってそういう気分になる時くらいあるっての。」
「・・・・・」
男「あっ!・・・・ちょtt!」
--
男「ったく・・・自分の母親だろうに、現実を受け入れられてないのはオマエだろーが」

11: 2011/09/17(土) 23:06:39.52

--

ようやくこの日が来た。

夜が明ければ私は物の怪の仲間入りを果たす。

あるじに何をしてあげよう?獲物を上手く仕留める方法を伝えよう。

気配を消して待ち構えてもらって、私がそこへ追い込むのがいい。

あるじに何をしてあげよう?私が編み出した水の飲み方を伝えよう。

手を水に浸してから引き上げ、その手を舐めれば屈まなくて済む。

あるじに何をしてあげよう?あるじの知らない住処の回りを案内しよう。

同族に有ったら誇れるあるじを紹介し、みんなに広めるのだ。

13: 2011/09/17(土) 23:08:16.69

あるじは喜んでくれるだろうか?良い匂いのする壁を教えたら・・・

あるじは褒めてくれるだろうか?暑すぎず寒すぎない昼寝場所を教えたら・・・

だんだんと意識が深く深く沈んでいく・・・

劇的な転換を期待していたわけではなかったが、

これがそうなら毎日繰り返してきた昼寝と変わりないではないか

ああ・・そうか・・・何のことはない・・・それと同じくらい・・・当たり前のことなのだ

『これ』は・・・

15: 2011/09/17(土) 23:09:54.97

--

気が付いた時にはお天道様はもう真上に来ていた。

よくよく自分の体を見てみると、今の私の証である2本の尾が見て取れた。

できるようになったこと、そしてそれらのやり方は自然と理解できていた。

結果、どうなるかまではわからないから実際に試してみるしかないだろう。

まずはあるじと同じニンゲンになってみよう

16: 2011/09/17(土) 23:11:08.27

なんと見晴らしの良いことだろう。

まるで住処の周りの塀に登っているかのようだ。地面までが遠い。

(足2本で直立しても苦しくない-)

そして脇腹のあたりがムズムズしたので舐めようかと思ったが、思いとどまった。

(そうだ、手を使えばいい。この手は体のあちこちに届くのだ-)

18: 2011/09/17(土) 23:12:40.37

さあ、あるじに恩返しをしに帰ろう。

子供を成すこともできない私をこれまで大事にしてくれたあるじにむくいるのだ。

命の輪を継ぎ、継がせるという雌としての幸せを叶えることができぬ私に

あるじは別の幸せを、数え切れぬほどたくさんの楽しみを与えてくれた。

できることなら子を産み、育て、一人前になった姿をあるじに見てほしかった。

だが、もうそんなことはどうでもよい。

21: 2011/09/17(土) 23:15:38.94

住処に向けて駆け出すが、すぐに足が止まる。

(痛い-)

ニンゲンの足というものはこんなにも脆弱なものなのか。

砂利のような石の粒を踏んだだけで、思わず痛みに歩を止めてしまう。

道の脇に生い茂る草を描き分けて、地の柔らかいところを行くことにしたが、

今度は腕や腹、太ももの辺りがチクチクする。

次第にそれはヒリヒリとした痛みに変わってきた。

今一度自分の体を見ると小さな小さな傷が無数にできていた。

毛皮を持たぬということ、すなわち、肌を持つということを理解した。

少々面倒ではあるが安全な塀の上を伝って戻ることにした。

しかし、それもできないという事はすぐにわかった。

塀の上に手を掛け登ろうとしたが、この手には自らの体を引き上げる力が備わっていない。

体が大きくなっている分、自分自身の重さが増したせいもあるのだろう。

22: 2011/09/17(土) 23:17:13.11

一旦人化を解き、四ツ足で戻ることにした。

歩幅に関してならニンゲンの姿の方が大きいのだが、

歩を進めるごとに慎重に次の足場を探すような有様では日が暮れてしまう。

慣れた足取りでいつものように側溝の底を通り、

茶色の塀の上を渡り、もう誰も遊ばなくなった広場の草むらを抜けた。

住み慣れた私とあるじの住処が近付くにつれ、だんだんと嬉しさがこみ上げてくる。

(あるじに何をしてあげよう?-)

(あるじは喜んでくれるだろうか?-)

(あるじは褒めてくれるだろうか?-)

25: 2011/09/17(土) 23:19:19.25

住処に上がり込むとすぐにニンゲンの姿を取り、あるじを探す。

ここには小石も落ちていなければ、固い草も生えてはいない。

あるじは出迎えてくれなかったが、今の私は手を使える。

戸を掻いて訴えなくとも自分で開けることができるのだ。

3つ目の戸を開け中を見渡すとあるじがうずくまっていた。

すぐさまあるじに駆け寄り、顔を近づけ小さく鳴いて呼んでみる。

28: 2011/09/17(土) 23:21:10.66

(なんだこれは?-)

自分の発した鳴き声に自分で驚く。

ニンゲンの姿で発した声はとても太くそして重く、まるでこだまするかのように頭の中に残った。

自分の声に驚いていると、あるじは私の顔に手を当てゆっくりと撫でながら口を開いた。

「お前は温かいね。お前が来てからもうそんなに経ったんか。」

ニンゲンの姿を模していても、あるじにはそれが私だということが分かっているようだった。

「けれど・・・すまないね。もう少しこうしていたいけれど・・・」

顔を撫でていたあるじの手が止まった。

「今日はなんだか冷えるねぇ・・・」

あるじの手が力なく床に落とされた。

32: 2011/09/17(土) 23:22:59.93

(そうだ、あるじはきっと眠かったのだ-)

(あるじは昼寝を始めたのだ-)

なぜか目頭が熱くなり、えづくような感覚が喉元に広がってゆく。

寝入ったあるじを起こしてしまわぬよう、ゆっくりとあるじの横に寝転んで

抱きかかえながら一緒に眠りについた。

34: 2011/09/17(土) 23:24:26.26

RRRRRRRRR・・・!RRRRRRRR・・・!

突然、規則正しくもけたたましい音が鳴り響き、私は眼を覚ました。

「それ」は向かいの壁側に据えてある台の上に乗っている。

私はこの音が嫌いだった。いつもならすぐにあるじが止めてくれるのだが、

私には止めかたが分からない。あるじが起きてしまわぬよう早く鳴りやむように願う他なかった。

(あるじを寝かせてやってくれ-)

永遠に鳴り続けるかと思われたが、飽きたのだろうか?その音は何の前触れもなく止んだ。

あるじの体は冷たかった。

36: 2011/09/17(土) 23:28:04.36

(お腹が空いた-)

もう日は暮れてしまっていた。きっとあるじも空腹を感じているに違いない。

あるじが寝ている間に、私が用意しておこう。起きたらすぐに食べられるように。

天井の方からカリカリと音がしている。2~3匹は居るようだ。

(このままでは屋根裏には入れまい。今一度人化を解こう-)

体を起そうとして違和感を感じる。まるで肌が下に引っ付いているかのようだ。

それでも体を起こすとなにやら痒いような感覚が走る。

寝ている時、体の下になっていた箇所は下と同じ編んだ草の模様が付いていた。

41: 2011/09/17(土) 23:30:01.68

自分の分の食事を済ませ、あるじの分を運んできた。

多少弱らせてはあるが、まだ逃げるのをあきらめてはいないようだ。

これを使って狩りの練習をしてもらうのもいい。

いつまでも獲物を怖がっていては狩りも上達しない。

私がそばで見ていれば取り逃すことも無い。

弱って動きが鈍くなっている分、動くのを見てからでも簡単に抑え込める。

あるじはまだ寝ていた。

目の前で獲物を放してみたがやはり起きる様子はない。

逃げようとするたびに押さえつけ、もう一度あるじの前で放す。

何度も繰り返しているうち、ついにネズミは動かなくなった。

あるじはまだ寝ている。

なぜか涙がこぼれた。

42: 2011/09/17(土) 23:31:16.63

(早く起こさなければ-)

ここでこのまま寝続けていればあるじはもっと冷たくなってしまうのではないか

私は卓の上に乗ることを禁じられていたことを思い出した。

私の行動のほぼすべてに対し、あるじは寛容であったが、

卓の上に乗ることと、住処の中で爪を研ぐことだけは許されていなかった。

だが、あるじの気を引きたいときはわざとその禁忌を犯してきた。

あるじの近くで壁に爪を立て、わざとらしくばりばりと音をだしてみる。

あるじが咎めにくる様子はない・・・

(気づいていないのだろうか-)

今度は卓の上に乗り、あるじに聞こえるように鳴いてみる。

どうしてだろう、声がかすれて鳴くことができなかった・・・

43: 2011/09/17(土) 23:33:15.03

--

駅から出ると雨が降っていたが、傘など持っていない。

持っていたとしても差さないで走るのは変わらなかっただろう。

男(もう畑は作ってないハズだし、家から出る理由が無い)

嫌な予感がする。

男(別の目的で出かけることがあっても、あの時間には戻ってるハズ)

母のことを「現実を受け入れられてないのはお前だ」と罵ったことがあるが、

いざ何かが起きた時の心構えなど、俺にも出来てはいなかったのだ。

何かが起きるのはまだ先のことだと楽観していた自分が情けない。

45: 2011/09/17(土) 23:34:30.92

男(風呂に入っていて電話に気付かなかったとか-)

男(気付いたがリダイヤルの使い方が分からないとか-)

色々な推理が浮かんでは消える。もっとも可能性が高そうな1つだけは敢えて避けて・・・

しかし、最後にはどれも「そんなはずが無いだろう」と思い至ってしまう。

顔なじみとすれ違っても挨拶を交わしている余裕などない。

実家へ駆け込み玄関を開け、どの部屋に居ても聞こえるように叫ぶ。

男「ばーちゃん!!」

48: 2011/09/17(土) 23:36:32.65

いつの間にか、また眠ってしまっていたようだ。

あやつがあるじを呼ぶときに出す声、とびきり大きな今回のそれに私は覚醒させられた。

あるじの返事を待たずに、あやつは住処にあがりこんできた。

直感的に、あるじを起こしに来たのだな。と思った。

(早くあるじを起こしてくれ。私に恩返しをさせてくれ-)

あやつは2~3の部屋を行き来したのち、昨日私が開けた戸に気付くとそちらへ駆けて行く。

(さあ、はやくあるじを起こすのだ-)

「バーチャン」

そして、あるじの横に屈むとあるじの体を揺さぶった。

「バーチャン バーチャン」

あるじは目覚めない。

「・・・・・・・」

それきり、こやつは黙り込んであるじを起こすのを止めた。

50: 2011/09/17(土) 23:37:59.32

まるで尻側から頭へ向けて毛を撫でられたような感覚が全身にまとわりつく。

(なぜやめるのだ?早く起こさなければ手遅れになる-)

本当は私にもわかっていたのだ。その感覚は四肢を束縛し、私は凍りついたように硬直した。

(手遅れになる?何が?)

知っていたのは私だけだ。私が認めずにいればそれが成り立たないと思いたかっただけだ。

(あるじが昼寝から目覚めないということは-)

そうなのだ、あるじは初めから昼寝などしていなかったのだ。

(あるじはもう、亡くなっていたのだ・・・-)

「ヒック・・・ヒック・・・バー・・チャン・・・」

52: 2011/09/17(土) 23:39:34.87

それから数日、黒ずくめのニンゲン達が大勢で勝手に上がりこんできたり、

数人で寄りあって話をしていたり、あるじが管理していたものを勝手に運び出したりと、

住処の中がいつもよりやかましい日が続いた。

終始いやなにおいのする煙がたちこめており、私はずっと屋根裏で香箱を組んでいた。

あのニンゲンは初めはあるじの亡骸の近くに居たが、その後は来てはいないようだ。

私のことを探そうとするニンゲンは一人もいなかった。

もっとも、あるじ以外に姿を見せる気などなかったし、私にはそれができた。

だから下に降りていても良かったのだが、あのにおいが体に染み付くのが嫌だった。

54: 2011/09/17(土) 23:41:01.88

そして更に幾日かが過ぎ、住処の中には誰もいなくなった。

もとより訪ねてくる者はあるじに会いに来ていたわけで、

あるじが亡くなった今、ここには誰も立ち寄る理由がないのだ。

私もあるじがいなければここに居る理由も意味も価値さえもない。

子供が居ればそれを育てるという生き方もあっただろう。

それが叶わないからこそ、あるじへの恩返しに自身の価値を見出していたのだから。

55: 2011/09/17(土) 23:42:49.40

「ナツメ ナツメー オーイ ナツー」

意外な来客であった。久方ぶりに敷居を跨いだあやつは、あるじではなく、私を呼んでいる。

私はたぶん、寂しかったのだと思う。あるじに似た匂いを懐かしく思い。

こやつの前まで来て隠れ蓑を解いた。

「アア ヨカッタ マダイタンダナ」

かごのようなものをもっていたが、中には何も入っていない。

そして、いつものような荷物は持っていない。

60: 2011/09/17(土) 23:45:25.59

(泊まっていくつもりはないのだな。では、すぐまた私は孤独になるのだろうな-)

「アノサ オレノコトキライカモシレナイケドサ バーチャンノカワリワデキナイケド ウチニコイ」

(油断した!-)

私の背中をがっしりと掴んだかと思うと、すぐさま体の下に手を差し入れて持ち上げた。

逃げようにも四肢は地から放されており、飛び退くために蹴る場所は無い。

かごの中に入れられた私は、湧き上がる不安に押しつぶされそうになりながら、

せめて現在の状況だけは見失うまいと、かごの目を通して周囲に目を配るのみだった。

63: 2011/09/17(土) 23:48:25.88

かごの回りの空間は目まぐるしく変わり、

知らない風景、知らない音、知らないにおいが、入れ替わり立ち替わり私の不安を煽った。

「ツイタゾ キョウカラココガ オマエノイエダ」

かごの揺れが収まったかと思うと、ごく軽い浮遊感を感じる。

どうやらかごごと地におろされたようだ。

「スグニワナレナイダロウケド オレニデキルコトナラ ナンデモシテヤルカラ」

目の前の網が取り払われた。外に出ろということらしい。

だが、来たことも見たことも無い場所でそんな軽はずみなことができるはずもない。

周りに何が潜んでいるかもわからないし、即座に身を隠せる場所があるのかどうかもわからない。

少なくともこの中に居れば、目の前だけを警戒していればいい。

64: 2011/09/17(土) 23:49:53.09

男「ほら、こっちおいで、新しいトレーとトイレ気に入っ・・・いでっ!」

男「痛ってえー・・・血い出てる・・・ざっくりやられたな。」

男「まあ、仕方ないか・・・ホレ、餌ここに置いとくからな。」

男「んー・・・見られてると食いづらいかねえ。」

男「焦っても仕方がないよな。今日はもう寝よう。」

66: 2011/09/17(土) 23:51:36.96

明かりが消えた。あやつはすでに寝息を立てている。

遠くの方で小さな音がしている。もっと遠くの方では時々奇抜な音がする。

それらの正体は分からないが、少なくともこの周辺で私に敵意をもつ者はいないようだ。

とりあえず大量に盛られた献上品をたいらげて、周囲の様子を探ることにした。

67: 2011/09/17(土) 23:52:50.06

あやつの寝床はいくつかの柱で支えられており、少し高いところにあった。

寝床の下は何か置いてあるようだが、逃げ込んで身を守るだけの隙間は十分にある。

(何かあったらここに籠ることにしよう-)

次はあやつの目的だ。何を考えているのかは分からぬが、とりあえず夢を覗いてみよう。

(事と次第によっては悪夢に塗り替えてやる。私にはそれができる-)

寝床に上がり、枕元に座りこんで意識を重ね合わせていく・・・

(あれは・・・あるじと私・・・もう一人は誰だ?)

68: 2011/09/17(土) 23:54:08.55

--

夢を見た。

幼い俺とばーちゃんが猫に餌をやっている。

子供「あ!食べたよ!おばーちゃん!」

ばーちゃんの顔はよく見えないし、何も喋ってくれない。

でも、にっこり笑って俺と猫を見ているような気がした。

子供「元気になるかな?なるといいなー」

69: 2011/09/17(土) 23:55:15.20

そうだ、夏休みにばーちゃんの家に行って、

川遊びの帰りに弱った猫を拾ったんだっけ。

泣きじゃくりながらばーちゃんに「助けて!」って頼んだんだよな。

餌を食べている猫は次第に大きくなり、それにあわせて俺の姿も成長していった。

大人になった俺が振り返ると、いつの間にかばーちゃんは居なくなっていた。

「ばーちゃん!」

71: 2011/09/17(土) 23:56:27.95

男「夢か・・・俺、泣いてるのか」

窓からは朝日が差し込んでいる。俺の顔は涙と鼻水でぐしょぐしょになっていた。

男「ん?」

布団の中で、何かふわふわした手触りの良いものに触れた。

男「何だ?」 ニギッ

「しゃー!」 フニン

聴きなれない声がした方を見ようと頭を右に倒すと、二の腕あたりに柔らかいものが当たる。

男(女の子?誰?ていうかいつから?そもそもなんで裸?それとコレなに?)

寝起きで霞んでいた眼が、だんだんと意識と同調しはじめ、ピントが完全に合う。

男(どこかで見たような・・・)「あっ!」 ギュウ!

「ふぎー!!!」 ガブリ!

男「うぎゃああああぁあ!」

73: 2011/09/17(土) 23:58:13.41

目の前に裸の女の子(?)が居てこちらをじっと見ている。

俺はティッシュを何枚か重ねてじっと鼻に押し当てている。

鼻の中ではなく、鼻の頭から出ている血を押さえるためだ。

ふさふさした毛に覆われ、ツンと尖った耳、

黄色い右目と、青い左目。

男(人のような姿をしているが、間違い無い。この子はナツメだ。)

真っ白なカギシッポも生えている。それも2本。

男(え!?2本??)

その子は一度視線を外すと、大きなあくびをする。

伸びをし、耳を掻きながらこちらに向き直って言った。



猫「・・・ばーちゃん?」

93: 2011/09/18(日) 00:08:39.62

男「こ、こんにちは。」

猫「?」 ンナー

猫(『ばーちゃん』というのはあるじの事で間違いない。)

男「ああ、おはよう。・・・かな?」

猫「??」 キョロ

男(喋れないのか?でも、さっき『ばーちゃん』って・・・)

男(目のやり場に困る、とにかく何か着せねば)

男「とりあえず、服を着よう。ね?」

猫「ふく?」 ピコ

男「そう、服。これのことね。」

猫「ふく、ふく」 ぽふぽふ

猫(そしてこやつが纏っているのが『フク』か。要するに毛皮の代わりだな。)

95: 2011/09/18(日) 00:09:36.32

男(なんとかTシャツは着てくれたが・・・女物の下着なんか無いぞ・・・)

男「ああ!えりを噛まないで!すそはなるべくめくりあげないで!」

男(誤算だ、ダブダブのTシャツの方が破壊力が高い)

猫(ちょっと催してきたな。幸いここは同族のにおいがしない。誰の縄張りでもない。) トテトテ

男「ん?どこ行くの? え?・・・えぇ!?」

猫「ふぅ・・・」 チョロロロロロ・・・

男「わー!!ちょっ!待てっ!だめっ!いろんな意味でダメ!」

猫「ん?」 フルフル

男(ばーちゃん・・・俺はこの先やっていけるのだろうか?)

97: 2011/09/18(日) 00:10:47.85

・・・・・

男「しかし、一週間でここまで順応できるとはね。」

猫「お前が丁寧に教えてくれたからな。猫として生きた下積みもあっただろうがね。」

男「その言葉づかいはラジオの影響なの?」

猫「お前が仕事とやらに行っている間はいつも電源?が入っていたな。」 ぽふぽふ

男「まあ、物覚えが良かったから、いろんな言葉を聞かせるのが近道だと思ったからね。」

男「語尾に『にゃー』とか付けないの?」

猫「『ゴビ』とは何だ?」 ピコ

男「コトバの最後の部分だよ。」

猫「普通は付けるものなのか?らじおの中のニンゲン達は付けてなかったが」

男「あ、そうだね、普通は付けないね。うん、付けない・・・よ」

猫「何だその顔は・・・」

98: 2011/09/18(日) 00:12:21.50

男「今日はお土産を買ってきました。」

猫「『オミヤゲ』とは何だ?」 ピコ

男「出かけていた人が待っていた人に渡す贈り物です。貰うと嬉しいものです。ハイ、『こくご教材セット』」

猫「あまり嬉しいと感じないのだが・・・そもそも何に使うものかわからない。」 ぽふぽふ

男「モノを貰ったら、まず何て言うんだっけ?」

猫「ん、『ありがとう』だ。で、それは何なのだ?」 ムスッ

男「会話はできるようになったけど、読み書きはまだでしょ?これからそれをやろうと」

猫「『ヨミカキ』とは何だ?」 ペタン

男「あー・・・そっからか。」

100: 2011/09/18(日) 00:13:38.52

猫「つまり、声の音1つに対応する字?があって、『聞く』と『読む』・『言う』と『書く』が同じなのだな?」

男「聞いたことを要約して返しただけで、納得はしてもらえてないみたいですね。」

猫「納得はこれからしていくさ。まずは何をやるのだ?」

男「では、この『ひらがなカード』を読むので真似してください。」

男「あー、かー、さー、たー、にゃー・・・」

猫「アー、カー、サー、ター、ニャー・・・」 ピクッ

男「はー、まー、やー・・・」

猫「ちょっと待ってくれ。不鮮明な違和感を感じる。」

男(チクショー・・・)

102: 2011/09/18(日) 00:15:48.30

男「だいたい覚えたみたいなので、次の段階に進みます。」

猫「次は何をするのだ?」

男「カードを『適当に』置いて並べるので、声に出して読んでください。」

猫「わかった。」

男「ハイ、これは?」

猫「おー、なー、に?」

男「・・・・・」

猫「どうした?間違っていたか?」

男「いや!だだだだ大丈夫!うん!あってる!次はコレね。」

猫「もー、うー、らー、めー、え?」

男(はうっ・・・)

猫「鼻を怪我したか?血が出ているようだが。」 キョトン

男「え?いや、これはその・・・」

猫「して、今の2つはどういう意味なのだ?」 ピコピコ

男「すみません。私が悪う御座いました。」

105: 2011/09/18(日) 00:16:52.49

男「本日のおみやげは辞書です。国語辞典と漢字辞典。」

猫「『ジショ』?」

男「分らない言葉をググるための本です。」

猫「『ググル』?」

男「あ、そこは気にしないで下さい。言葉を調べるための本です。」

猫「説明が足りていないな。」

男「『じしょ』という字はもうわかりますよね。その字をこの本で探します。

  そこに説明が載っているので、それを読みます。」

106: 2011/09/18(日) 00:18:05.57

猫「私が知っている字よりもたくさんの線でできた字があるぞ。」

男「それが漢字ですね。そういう時はこっちの漢字辞典でその字を探します。」

猫「今度は別の分らないかんじ?が並んでいるが?」

男「子供用の辞書だから読み仮名はふってあるでしょ。俺のおさがりだし。

  それでも分らなかったら今度はその字を探すんです。」

猫「なんだか堂々巡りだな。お前に聞いた方が速いのではないか?」

男「だから、俺がいないとき用です。居るときに訊ねられたことはその場で答えるよ。」

107: 2011/09/18(日) 00:19:45.79

--

男「ただいま。今日は静かだな。」

猫「おう、戻ってきたか『おかえり』」

男「ちゃんと挨拶ができるようになりましたね。お、まだ勉強してたのか。偉いな関心感心。」

猫「『チロヌップのきつね』はもう読み終えたぞ。今は『シュンマオものがたり』だ。」

男「ハイペースだな。そのうちラノベでも買ってこようか?」

猫「『らのべ』?」

男「あ、いや・・・えーと、字ばっかりで絵がほとんどない本だよ。うん。」

猫「この辞書のような感じか?」

男「そうですね。でも、まだ難しいからもっともーっと勉強してからにしましょう。」

猫「そういえばこの辞書、時々赤い印がつけてあるのだが、あれは何だ?」

男「俺、オワタ\(^o^)/」

108: 2011/09/18(日) 00:21:29.14

--

男「ただいま~・・・と。」

男(Tシャツが脱ぎ捨ててある・・・ということは、今日はまだ猫のままか。)

猫「んなー・・・」 トコトコトコトコ・・・

男「ぬ!?」

猫「うに?」 ササッ

男「ちょっとそこに座りなさい。」

猫「にゃ、にゃーん」

男「この散乱したティッシュについて説明してもらおうか?」

猫「にゃおん?」 プイ

男「その姿でも、俺の言ってることは分かるよね?自分でそう自慢してたよね?」

猫「チッ」 ボフン

男「あー・・・とりあえずヒトになったら前は隠そうね。このシャツもう臭いし新しいの出すから」

109: 2011/09/18(日) 00:22:59.63

男「つまり、湧き上がる狩猟本能を抑えきれなかった。と?」

猫「ヒラヒラと挑発されているような気がしてな・・・その割には無防備だったので・・・」

男「うん。」

猫「自分が狩られたことにさえ気づかぬほどの一瞬で華麗に仕留めてやったのだ!」 フンス

猫「捕えた獲物をたぐり寄せ、成果を確認しようと思った矢先、新手が現れたのだ!」 フーフー

猫「当方に迎撃の用意あり!すぐさま洗礼の一撃を見舞うと、更なる新手が!」 ムッハー

猫「次々と現れる刺客をちぎっては投げちぎっては投げ獅子奮迅の・・・」

男「ストーップ!」

男「で、改めてこの惨劇の広場を見てどう思いますか?」

猫「無益な殺生をしてしまった・・・」 ドヤァ

男「・・・・今夜はフリスクの刑な。」

猫「ゴメンナサイ以後気ヲツケマス」

111: 2011/09/18(日) 00:24:33.29

猫「ところで、なぜ服を着なければならないのだ?」

男「ニンゲンだからです。」

猫「それはこの間聞いた。そして、私なりに肌を保護するためだと結論づけたわけだが。」

男「その結論で間違っていないと思います。」

猫「しかし、この住処、部屋と言ったか?この中にいれば危険はないのでは?」

男「俺が襲ってしまう可能性があります。少しは危機感と言うものを持ちなさい。」

猫「ひょっとして我慢しているのか?たまに感じる品定めのような視線はそのためか?」

男「バレてたのか。情けないやら恥ずかしいやら・・・」

猫「しかしお前には爪も牙も無いのだから、服など着ずとも傷を負う事はないと思うが?」

男「え?」

猫「え?」

112: 2011/09/18(日) 00:26:04.65

・・・・・

男「ただいま。今日もお土産があります。」

猫「ふむ。いったい何をいただけるのかな?」 ぽふぽふ

男「下着です。」

猫「したぎ?」 キョトン

男「服の下に着るものです。」

猫「下に着るから下着。か、わかりやすいな。えーと、『ありがとう』だな。」

猫「フム。形はずいぶん違うがこっちはお前も着ているものだな。なるほど下着というのか。」

男「そっちがパンツ。で、こっちは胸につけるほうの下着、ブラです。」

猫「お前もこれをつけているのか?」

男「俺には必要のないものです。男女の体の違いで、男は胸を保護する必要がありません。」

猫「これをつけていれば乳首が擦れて痛くなるのが防げる。という解釈でいいのか?」

男「そ、そうですね。いいと思います。」

猫「なぜ前屈みになるのだ?」

115: 2011/09/18(日) 00:27:51.14

男「じゃ、後ろ向いとくから、それ着てその上にシャツも着てください。」

猫「なぜ後ろを向く?ぱんつ?の方はともかく、ぶら?の方は構造が複雑だから教えてくれ。」

男「コンビニ受け取りの時でさえ氏ぬほど恥ずかしかったのに、勘弁してください。自分で何とかしなさい。」

猫「何の事だ?まあいい。出来たぞ。これでいいのか?」

男「あう・・・ちゃんと収まってないじゃないですか。」

猫「じゃあちゃんと収めてくれ。私にはどこがおかしいのかわからん。」

男「1回だけだぞ。ちゃんと覚えて次からは自分で出来るようにしてください。」 グッ

猫「・・・んふ」 ピクン

男「だああ、変な声出さないの!ハイ出来ました。あとは上からTシャツを・・・」

119: 2011/09/18(日) 00:31:54.71

猫「率直な意見を聞かせてくれ。私がこの姿でいるのは不愉快か?」 じー

男「・・・・え?」

猫「今までも私がこの姿でいるときは、触ろうとしないどころか、名前で呼ぶことも無かった。」

男「あ・・・」

猫「会話も口調が冷たい。」

男「ごめん。」

猫「謝ってほしいとは言っていない。質問に答えて欲しいのだ。猫でいた方がいいのか?」

男「不愉快だなんて思って無いよ。でも・・・納得できる説明はたぶん出来ない。だから、ごめん。」


121: 2011/09/18(日) 00:33:17.79

猫「私は説明を聞いて理解できるほど賢くない。お前はそう思っているという事か?」

男「そんなんじゃないよ。むしろ俺の方が上手く説明できるほど賢くないんだと思う。」

猫「それだと私がお前を買被り過ぎていた。という事になるが。」 ペチペチ

男「それでいいよ。難しいんだ人間は。」

猫「何だそれは?疎外感を感じる。」 ムスー

男「えと・・・ナ、ナツメの方こそどうなの?」

猫「!」 ピコ

123: 2011/09/18(日) 00:34:33.15

男「その、今考えると、無理やり連れて来たようなもんだし・・・迷惑じゃない?」

猫「初めのうちは驚いたが。今は満足しているぞ。」 ぽふぽふ

男「でも、ばーちゃんトコでは全然なついてくれなかったじゃん。」

猫「知っているだろう?猫というのは気まぐれな生き物なのだよ。」 ニコッ

男「あ、尻尾は中に入れなくていいんだよ。そのためにローライズのを選んだんだから。」

猫「じゃあ、やってみてくれ。私にはわからん。」 ニヤリ

男「おま・・・しょーがないなー」

猫「これからも頼むぞ。新しいあるじ。」

125: 2011/09/18(日) 00:35:45.69

男「さて、今日はどんなクライシスが待ち受けているのか。・・・ただいま。」

猫「なおーん」 トコトコ・・・

男「一体今日は何を仕留めたん・・・なっ軍曹!?おいやめろ!」 バッ

猫「シャー!」 バリッ

男「いてっ!」

猫「はぐ・・・ガツガツ」 ボフン

男「ああ・・・軍曹が・・・ようやく我が家にも着任してくだすったのに・・・」

猫「他人の獲物を横取りしようとはあまり感心せぬな。ああ、心配するな服は今着る。」 シュル

男「称えられし歴戦の勇士が・・・幾多の輝かしい戦歴が・・・」

127: 2011/09/18(日) 00:37:09.74

猫「ちゃんと着たぞ。で、説明を求めたいのだが、いいか?」 じー

男「軍曹は我が屋の迎撃部隊の要だったんだ。」

猫「『グンソウ』とは何だ?」

男「お前がたった今食べたものだ。」

猫「迎撃部隊と言ったが、何か攻めてくるのか?」

男「声に出すのもおぞましい、異形の侵略者達だ。」

猫「いまいち要領を得ないな。一応私にも理由はあるのだぞ。」

128: 2011/09/18(日) 00:38:29.47

男「また狩猟本能か?」

猫「まあ、それもあるが、自分自身を維持するために補給が必要なのだ。」

男「補給?エサ・・・じゃなくて、食事が足りてないのか?」

猫「んー上手く言えんが・・・私は猫の姿になったり、人の姿になったりしているな?

  他にも消えたり、夢に入り込んだり、人を惑わしたり、7代祟ったりできるが・・・」

男「考えてみると恐ろしい存在だな。」

猫「茶々を入れるでない。それらには代償が必要なのだ。

  生き物の精気・・・んー、つまり生命力を奪って蓄えておいてそれを使う。」

129: 2011/09/18(日) 00:39:36.11

男「それが無くなるとどうなる?」

猫「尽きたことがないから分からない。おそらく私は消えてしまうだろう。」

男「氏ぬ・・・ってことか?」

猫「似たようなものだが、体ごと消失してしまうのではないかな。まあ、わからん」

男「いつも食べさせてるものには、精気が含まれてない?」

猫「僅かには入っているようだが、やはり生き物を捕食する方がいい。段違いだ。」

132: 2011/09/18(日) 00:40:42.10

男「新鮮な方がいいってことなのか?」

猫「傾向としてはそう。あと、カリカリのやつよりはカンヅメの方がいいな。」

男「缶詰が食べたいだけなんじゃ・・・・」

猫「それは否定しない。だが、精が付くものは命のにおいが濃いんだ。」

男「今は足りてる?」

猫「一人くらいなら7代祟れるほどにはあるな。」

男「基準が参考にならんわ。」

猫「少なくとも2~3日で尽きることはないよ。無茶をしなければ。」 ニコッ

134: 2011/09/18(日) 00:41:54.87

男「俺と同じ食事とかって食べれるのか?」

猫「大丈夫だと思うが。」

男「食べながら多いとか少ないとか教えてくれれば、それで献立を考えるから。」

猫「フフン、新しいあるじ『も』やさしいな。」

男「ん?何か言った?」

猫「なんでもないさ。それよりちょっと膝を貸してくれないか?」 ゴロゴロ

137: 2011/09/18(日) 00:43:18.82

男「というわけで、オムライスができました。」

猫「中身はともかく、周りの卵のところは命のにおいが濃いな。」

男「奮発して有精卵使ったからね。で、食べる前に約束があります。」

猫「どんな約束だ?」

男「こうやって手を合わせて『いただきます』っていうの。」

猫「それは何のためなのだ?」

男「料理を作った人と、料理の材料になったものに感謝するため。なのだ。」

男・猫「「いただきます」」

猫「しかし、なぜ今日に限って?いつもはやっていなかっただろう?」

男「いいところ見せたかったんだよ。」

144: 2011/09/18(日) 00:55:01.88

猫「器用なものだな。ハシといったか?それで食べるのは非効率ではないか?」

男「そんなこと無いよ。てか、見てないで食べなよ。」

猫「そうしよう。」 クッ

男「待て、皿に顔をつけるな。手を動かすの。」

猫「手?うむー」 ワシッ

男「ダメダメ、そっちの手は皿を持つの。で、こっちに持ったスプーンですくって口に運ぶの」

猫「あーうー??」

男「ちょっと貸してごらん。こうやってすくって・・・はい、アーン・・・」

猫「あーん」

149: 2011/09/18(日) 00:57:18.21

男「んで、パクっと」

猫「はむっ・・・んんー!?」 ジタバタ

男「あれ・・・そんなに不味いか?」

猫「ケハッ、ケハッ・・・あぢゅい・・・」 んべー

男「ごめんごめん、ちゃんとフーフーして食べような。」

猫「『フーフー』?」

男「息を吹きかけて冷ますってこと。」

猫「うむ。フーフーして食べるぞ。」

152: 2011/09/18(日) 00:59:39.29

男「言い忘れてたけど、食べ終わった後にも約束があるんだ。」

猫「いただきま・・・した?」

男「『ごちそうさまでした』って言うの。」

男・猫「「ごちそうさまでした。」」

猫「人間というのは面倒なものなのだな。」 ぽふぽふ

男「難しいんだ、人間は。」

猫「またそれか。私にもわかる時が来るのだろうかな?」 ムスー

男「わからなくてもいいんじゃない?急いでわかろうとしなくてもいいし。」

猫「私は迷惑になりたくないだけだ。」

男「ナツメはナツメだよ。気まぐれなところも含めて全部ね。」

156: 2011/09/18(日) 01:02:18.73

男「牛乳買って来たけど飲む?」

猫「冷たいままでくれ。温めなくてもいいぞ。」

男「わかってるって。ハイ。」 コト

猫「?・・・器が小さくて飲みにくいな。」 ちょっぷりこ ちょっぷりこ

男「ん?」

猫「深すぎて舌が底まで届かんぞ。」 チロチロ

男「違う、カワイイけど違う。こっち見て。いいか?まずはこうやって持つ。」

猫「ふむ、こうか?」

男「次に、持ち上げて口をつける。」

猫「口をつける・・・こうだな。」

男「後はこう、コップを傾けて飲むの。」

猫「傾け・・・る・・・」 ンゴッ!ンゴッ!

猫「ヒグッ!」 ガシャーン

158: 2011/09/18(日) 01:04:09.04

男「どうした!大丈夫か?」 ササッ

猫「うっく・・・うっく・・・おぼれりゅ・・・」 ガクガク

男「傾け過ぎだよ。コップを元に戻せば・・・って、抱きつくな。」

猫「息が・・・止まって・・ヒック」 ブルブル

男「・・・・・」 ギュッ

猫「ふぇぇえ・・・」 プルプル

男「怖かったね。大丈夫だよ、もう大丈夫。」 ポンポン

猫「ごめんなさい!ごめんなさい!」 フルフル

男「何も悪いことしてないだろ。な?コップ割れてて危ないから片付けるね。」

猫「待ってくれ!すぐに落ち着くから・・・もう少し、このままで」 ギュー

男「んー・・・わかった、落ち着くまで待つよ。」

161: 2011/09/18(日) 01:07:28.97

猫「取り乱してすまなかったな。もう平気だ。」

男「なんか、ごめんな。」

猫「どうしてお前が謝るのだ?」

男「俺が中途半端に真似させたというか、配慮が足らなかったというか・・・」

猫「私が無謀なだけだ。気に病むことはない。」

男「でも・・・」

猫「そんな顔をされると私の方が申し訳なくなる。」

男「わかった。」(でも、何か忘れてるような・・・)

猫「ベトベトになってしまったな。」

男「オウフ・・・牛乳が染みたらスゲー臭くなるんだった。」

164: 2011/09/18(日) 01:09:54.50

猫「今日は恥ずかしい姿を見られてしまったな。」 フゥ・・・

男「耳元で囁くな。良からぬ気を起こしてしまう。ていうか、その姿で布団に入ってくるなと・・・」

猫「良からぬ気・・・とはコレのことか?」 ニギッ

男「フヌッ」 

猫「私が来てから自慰も我慢していたのだろう?」 サスサス

男「なっ!?一体どこでそんな言葉を!?」

猫「うん?あの辞書に赤い印がつけてあったのだぞ?」 シュル

男「ヤバ、もういいから、その手を放せ。」

猫「ダ☆メ☆だ。恥かきついでにもっともっと恥ずかしいところを見せてやる。

  それに、お前の恥ずかしい姿も見せてもらうぞ。それでおあいこだ。」 チュッ ペチャ

男「うっ・・・もう・・ああ!」 ビクンビクン

166: 2011/09/18(日) 01:12:00.23

男「!?!?!?!?!?」 ベトー

男「あちゃ~・・・中学生のガキか・・・俺は・・・」

猫「ふぁ~~~あ・・・うにゃん!」 ボフン

男「起こしちまったか・・・悪い悪い。」

猫「今朝はやけに早起きだな。悪夢でも見たのか?」 ぼー

男「逆だよ逆、ちょっと粗相しちまったんで、シャワー浴びてくる。寝てていいよ。」 パサッ カラカラ

猫「!」 ピクッ

猫「・・・・・」 スンスン

169: 2011/09/18(日) 01:15:25.94

男(そういえばホント、あいつが来てからぜんぜん抜いてなかったしなー) ザーーーー

男(抑えつけてるつもりだけど、やっぱり願望とかはあるよなー) ザーーーー

男(でも、ばーちゃんの形見みたいなもんだし、やっぱり駄目だよなー) ザーーーー

猫「んふぅ・・・」 ペロペロ

男(普段から恥じらいとかないし、やっぱりそういう意識はもってないよな) ザー・・・キュッキュッ

猫「はぁ・・はぁ・・・」 ピチャピチャ

男「ん?」 カラカラ

猫「はふぅう・・・」 モジュルルルル

171: 2011/09/18(日) 01:17:56.91

男「何やってんだーーー!!」

猫「補給だが?」 チュポン

男「俺の下着にしゃぶりついてるようにしか見えんぞ!」

猫「客観視すればそうだろうな。」 ポワー

男「他にどんな解釈ができるんだよ!?」

猫「これに極上の精気が滾っていた。だから霧消する前に取り込んでいる。他に説明が必要か?」

男「・・・・・・・アー・・・ウン・・ナルホド、トテモ理ニ適ッテマス。」

猫「ああ、いい気分だ。体に染み入るとはこのことぞ」 スリスリ

男「でもお願い。やめて!やめたげてよぉ!」

174: 2011/09/18(日) 01:21:57.94

猫「つまり、夢Oというものは恥ずかしい事で、人に知られるのは屈辱。と、」

男「ここでは粗相という表現を使って欲しい。」

猫「そして、奇しくも私がそれを強調した形になった。という事だな?」

男「だいたいそんなところです。」

猫「気に病む必要はないと思うのだがな。」

男「そういうわけには行かないもんなの。」

176: 2011/09/18(日) 01:26:27.72

猫「迷い人や旅人をかどわかして精気を奪う。世が世なら私はそういう存在だ。」

男「それはそうだけど・・・」

猫「人を惑わしたり、夢に立ち入ったりする力も、もともとはそのためにあるのだしな。」

男「夢に立ち入るって、具体的にはどんなことができるんだ?」

猫「他人の見ている夢を覗き見することだな。あと、欲をかきたてるよう改変したり、悪夢を見せたりだ。」

男「じゃあ、もしや今朝の夢はお前の仕業だったのか?」

猫「いまいち話が見えんが、私は何もしておらぬよ。」

177: 2011/09/18(日) 01:29:58.28

猫「そもそもあれは疲れるのだ。相応の見返りが無ければ使う気はない。」

男「そっか、ちょっと安心したわ。」

猫「しかし、見返りに関しては十分得られそうだし。今後は使うようにしてみるか?」 ニヤリ

男「全力で拒否する。フリスクとミカンの皮をバラまくぞ。」

猫「フフ、本気にするな。そもそも今朝の夢の内容が分からぬ事には再現できぬし、教える気も無いのだろう?」

男「でもまあ、俺から頼んだ時は使ってもいいよ。そんなことは絶対に無いと思うけど。」

猫「期待しないで待つとしよう。」

男「そうしてくれ。」

猫「フフン、難しいのだな。人間は。」

180: 2011/09/18(日) 01:34:52.05

・・・・・

男「そういえば、外に出たいとか思わないの?ナツメは。」

猫「出たいとは思わない。今まで考えたことも無かったがな。」

男「外の事とか気にならない?」

猫「私が不満を持っているかどうか知りたいということかな?」

男「うん、そんなところ。」

猫「猫は、必要に迫られなければ生活圏を広げようとは思わないものだ。」

男「どういう事?」

猫「なに、不安なようだから、それを取り払ってやろうと思ってな。まあ聞け。」

182: 2011/09/18(日) 01:38:48.10

猫「猫というものは停滞を好むのさ。むしろ環境が変化する方がストレスになる。」

猫「もっとも、私はもう猫ではないから、体調を崩すほどのストレスにはならないだろう。」

男「出られないわけじゃないけど、出たくはないってこと?」

猫「そういう事だ。ここへ来た時、外にも連れ出されていれば外も含めて自分の環境という認識をしただろうがね。」

男「悪い事しちまってたんだな。俺。」

猫「よしてくれ。人でも獣でもない、自分の立場というものは分かっているつもりだ。」

男「そんな言い方・・・」

猫「早とちりするな。自分を卑下しているわけではない。」

184: 2011/09/18(日) 01:42:27.22

猫「外へ出ていたとすれば、他の人間の目がある。」

男「まあ、当然そうだな。」

猫「会う者すべてに私のことを説明して理解してもらうか?」

猫「それとも、出かける毎に隠れ蓑をまとうべきだったか?私が擦り切れてしまうぞ。」

猫「結果論だが、お前の無思慮こそが最良の選択だったという事さ。」

男「わかったような、わからんような・・・」

猫「それと最後に言っておく。私を可哀想だとか思うなよ?私はこの生活にこそ満足しているのだ。」

185: 2011/09/18(日) 01:46:17.20

猫「もののついでだ。私について思っていることを聞かせてくれないか?」

男「漠然としすぎ。回答範囲の絞り込みを要求する。」

猫「なんでもかまわないのだがな・・・そうだな、私は重荷になってはいないだろうか?」

男「なってないよ。でも、まだ質問の意図が分からない。誘導を続行してほしいな。」

猫「常々私に対する葛藤のようなものを感じるからな。正直なところ不安なのだ。」

男「人間は難しい。というのは答えたことにならないよな・・・?」

猫「そうとしか答えられないのなら、葛藤の内容だけでも教えてもらいたい。」

男「・・・・・・」

187: 2011/09/18(日) 01:47:38.34

猫「言葉を選んでくれるなよ。なるべく簡素な表現で頼む。」

男「ナツメを独占したいと思っている。でも、独占できたナツメはナツメじゃないと思う。」

猫「ふむ、よくわからないな。」

男「わかってほしいような、ほしくないような・・・」

猫「しかし、恥ずかしさをこらえての発言だということは分かる。そのことに感謝するぞ。」

202: 2011/09/18(日) 02:05:21.60

男「晩飯どうしようか・・・てか、今日は何か冷えるな。」

猫「そうか?過ごしやすい気温・・・まて、今何と言った?」 ピクッ

男「晩ご飯はどうしようか?」

猫「違う、その後だ。」 クワッ

男「今日は何だか冷える?ちょっと寒いような気がしてな。」

猫「!」 ヘナヘナ

204: 2011/09/18(日) 02:07:04.01

猫「寒くなんかないぞ!」

男「どうしたんだよ急に。」

猫「どうにかならないか!?」

男「うーん・・・風邪かもしれんから、あったかくして早く寝る。かな?」

猫「では寝るのだ。早く寝てしまえ。」

男「待て待て、まずはご飯だ。しっかり食べるのも大事なの。」

208: 2011/09/18(日) 02:11:22.34

男・猫「「ごちそうさまでした。」」

猫「さあ、食べ終わったぞ。早く寝るのだ。」

男「ちょっとだるくなってきた。やっぱり風邪ひいたみたいだ。寝るわ。」 ゴロン バサッ

猫「・・・私も一緒に寝るぞ。」 バサッ

男「ダメだって。今日はお前なんか変だぞ?」

猫「寒いのなら私が温めるのだ。頼む、言うとおりにさせてくれ。」 フルフル

男「何か怖い事でもあるのか?しょうがない。今回だけだぞ。」

猫「すまない。これは私のわがままだ。」 キュッ

男(まあ、体がだるいからアッチの心配はしなくていいか)

210: 2011/09/18(日) 02:13:35.06

猫「ちゃんと眠れば良くなるのだな?」 ウズウズ

男「・・・ただの風邪ならね。」

猫「違ったらどうなるのだ?」 ジロジロ

男「・・・それでも大概は寝てれば治ると思うぞ。」

猫「良くなったら、お前はちゃんと眼を覚ますのだな?」 ハラハラ

男「そーだね、でも、誰かさんが何度も話しかけるから眠れないな。」

猫「すまなかった。静かにする。」 シュン

男「是非そうしてくれ。」

猫「・・・・・」

男「・・・・・」

猫「・・・・・」 ツンツン

男「・・・叩きだすぞ。」

猫「!」 ビクッ!

211: 2011/09/18(日) 02:16:44.08

・・・・・

猫「ん・・・朝か・・・」 ピコ

男「Zzz・・・」

猫「良くなったのか?起きろ、起きるのだ。」 ワシワシ

男「うぅん・・・あと5分。」

猫「寝ぼけているのか?でも冷たくはない。私はもっとお前と・・・」

男「むにゃ・・・ナツメ~・・Zzz」 ガシッ

猫「ハハ、やめぬか、これではまるで・・・まるで?」 ゾクリ

男「ん?・・・良く寝たな・・・・!?いや!違うんだ!これは寝ぼけ・・・」

猫「あれ・・・私・・・うぶっ・・・おげぇぇえ!」 ビチャビチャ

213: 2011/09/18(日) 02:18:38.16

・・・・・

男・猫「「あの」」

男「あ、ううん、何?」

猫「いや、そっちこそ。」

男「・・・・・」

猫「・・・・・」

男「・・・・・・・・・・」

猫「・・・・・・・・・・」

215: 2011/09/18(日) 02:19:52.30

猫「すまないな。寝床を汚してしまった。」

男「いや・・・・いいよ。」

猫「・・・・・」

男「・・・・・」

猫「・・・・・・・・・・」

男「・・・・・・・・・・」

男「あの、あれは寝ぼけてたからで、本気とかそういう・・・」

猫「気にするな。私の問題だ。」

男(とはいっても、言葉や態度での拒絶すっとばしてゲロとか、正直キツイわ)

猫「・・・・・」

男「・・・・・」

猫「・・・・・・・・・・」

男「・・・・・・・・・・」

216: 2011/09/18(日) 02:21:51.96

猫「少し・・・話し相手になってくれ。」

男「ああ。」

猫「お前は、生き甲斐というものを感じているか?」

猫「生きる価値とか存在理由と言い換えてもいい。」

男「あんまりハッキリとはしてないかな。無くはないと思う。」

猫「それがなくなったらどうする?」

男「最悪自頃するか、別の生き甲斐が見つかればそっちに行く・・・かな。」

猫「猫の話をしよう。」

男「うん。」

猫「猫の生き甲斐というのはな。幼い時は氏なぬことと育つこと。」

猫「そして成長した後は、子を作る事、そして育てる事へと変わる。」

男「ほとんどの生き物はそうだろうな。本能ってヤツ。」

217: 2011/09/18(日) 02:24:31.40

猫「ある猫の話だ。その猫は体が弱く、成年する前に病を患った。」

猫「医者にかかり九氏に一生を得たが、子供を授かることはできなくなった。」

男「・・・・・」

猫「その猫は集会に参加した時など、初めは周りから憐れまれていたが・・・」

猫「次第に蔑みの目を投げかけられるようになり・・・」

男「お前・・・」

猫「発情期ともなればいよいよもって邪魔者扱いだ。」 フルフル

猫「興奮して組み敷こうとする輩も居たが、産めぬとわかると暴力を振るわれる。」 カタカタ

220: 2011/09/18(日) 02:26:44.11

男「もういい。やめろ。」

猫「だが、その猫は決して不幸ではなかったのだぞ。優しいあるじが居たのだ。」

男「ばーちゃん・・・?」

猫「だから、その猫は新しい生き甲斐を見つけることができた。」

男「その猫は今は生き甲斐を感じているのかな?」

猫「あんまりハッキリとはしていないが、無くはないだろうな。」

男「なんだそれ。」

猫「今朝は新しいあるじの寝床を汚してしまって、滅入ってるらしいぞ。」 ニヤリ

223: 2011/09/18(日) 02:29:00.91

猫「ところで寒いのは良くなったのか?」

男「ああ、もう何ともないよ。」

猫「私はな・・・あるじの恩に報いることができなかった。」

男「はぁ?」

猫「あるじは、子供を産めぬ・・・生き物として無価値な私の居場所になってくれたのだ。」

猫「こうなったのも、老いたあるじの手助けをするためなのだ。」 フリフリ

猫「だが、間に合わなかった。まあ、今思えば私の考えていた恩返しなどとても稚拙なものだったがな。」 シュン

男「恩返しとか、そういうのは要らないと思う。強いて言えばもう済んでるよ。」

228: 2011/09/18(日) 02:31:19.02

猫「?」

男「ばーちゃんはさ、じーちゃんが氏んでからも一人で畑作っててさ。」

男「まあ、畑が生き甲斐になってたと思う。でも、それもやめちゃった。」

猫「体力が衰えたからか。」

男「うん。でも、やめさせたのは俺達なんだ。もう年だから危ないって。」

男「その後しばらく抜け殻みたいになっちゃったけど、ナツメがいたから・・・」

猫「私が?」 ピコ

男「そう、その後はナツメがばーちゃんの生き甲斐になってたの。間に合ってたの。」

猫「そんなことを言われると、なにかこそばゆい。」 テレテレ

男「さて、シーツを換えるか。」 ィヨイショ

猫「私は、あるじに返せなかった分までお前に充てようとしていたのかもしれないな。」

男「何か言ったか?」

猫「何でもないぞ。ありがとうと言ったのだ。」 コロン

男「変な奴。」 ワッ クセェ

229: 2011/09/18(日) 02:33:40.21

・・・・・

猫「なあ、この前の恩返しの話を覚えているか?」 れろーん れろーん

男「あれはもういいよ。もう済んでるって言っただろ。納得してなかった?」

猫「いいや、そうではない。今度はお前の事だ。」 ゴシゴシ

男「俺か・・・そう言えば俺はばーちゃんに何もしてやれてなかったかもな。てか、顔洗うなら洗面所使え。」

猫「そうなのか?お前が来た時はあるじはとても・・・いや、そうではない。私だ。」

男「???」

猫「すまなかった。順を追って言うぞ。」

猫「私はお前にも恩義を感じている。」

猫「お前に恩返しをしたいと思っている。」

猫「だが、何をすればいいのか分からない。」

男「・・・・・はい?」

234: 2011/09/18(日) 02:43:17.29

男「俺は何もしてないよ。そんなこと思わなくていい。」

猫「お前はそう思っていても、私は感謝している。それをどうにか形にしたい。」 じー

男「そういう考えはやめよう。差し引きゼロにしなきゃいけないものじゃないんだ。」

猫「しかし、虫の息だった私をあるじと引き合わせてくれたのもお前だろう?」 じー

男「じゃあ、一つだけ言う事を聞いてもらおうかな。」

猫「うむ。なんなりと。だが、私にできる範囲で頼む。」 ぽふぽふ

男「俺に引け目を感じるな。だ、できるな?」

猫「何だそれは?」

男「ばーちゃんと同じなんだよ。俺も。」

猫「まったく、人間というのは・・・」

男「難しい。か?」

猫「ああ、そして面白い。」 ニコッ

236: 2011/09/18(日) 02:46:21.43

・・・・・

男・猫「「ごちそうさまでした」」

男「牛乳いるか?」

猫「お前の分はいいのか?」

男「半端に残るのもアレだし、半分コしようと思ってな。」

猫「じゃあ冷たいままでくれ。あと、ストローをつけてな。」

男「へいへい。まだコップ怖いのか?」 コトッ

猫「克服済みだ。だが、ストローの方が好きなのだ。」 ぢぅううう

男「そろそろ家電の使い方も覚えてみるか?」 クイッ

猫「そうだな。ところで、私と交尾したくないか?」

男「ブーー!!」

241: 2011/09/18(日) 02:48:39.45

男「今なんつった!?聞き間違いか?」

猫「交尾と言ったのだ。生殖行動の事だ。したくないのか?」 ポタポタ

男「バカ、できるわけないだろ。」 ゴシゴシ

猫「できるかどうかは聞いていない。したいかしたくないかを聞いた。」 ペロペロ

男「・・・・・」

猫「黙秘するか・・・まあ、わかっているのに聞く私も意地悪だな。」

243: 2011/09/18(日) 02:51:09.03

猫「そう怒るな。私とて日々知識は増えているのだぞ。」

男「一体どこでそんなこと覚えたんだよ・・・」

猫「事典に赤い印が付いていたぞ。」

男「アレ?・・・なんかデジャヴ・・・」

猫「行為自体は知っていたがな。猫だったころに散々見ているし。」

男「該当する言葉を知ってしまったわけだな。」

猫「以前、私に引け目を感じることを禁じたが、むしろお前こそ感じているのではないか?」

244: 2011/09/18(日) 02:55:57.03

猫「うぬぼれではない。望んでいるはずだ。違うか?」

男「まあ、そりゃ・・・ね。」

猫「だが、それを押し頃している。何故だ?」

男「その先が不安だから・・・かな?あとはばーちゃんに悪い気がする。」

猫「その先とは何だ?」

男「することがきっかけで今の関係が壊れることが怖い。」

猫「私がお前のことを嫌うかもしれない。と?」

男「そうなるくらいなら、今のままが続いていく方がいいと思ってる。」

猫「案外、意気地が無いのだな。」

男「何とでも言え。それくらい今は毎日が素晴らしいってことだ。」

248: 2011/09/18(日) 02:58:41.20

猫「それで?」

男「何だ?まだ何かあるのか?」 ムスー

猫「ここまでお膳立てしているのに聞こうとしないのか?私の意思を。」 フゥ・・・

男「お前ホントにイヤな性格になってきたな。」

猫「拒絶されるのが怖いのか。だが、これ以上助け舟は出さんぞ?」 ヤレヤレ

男「お・・・俺・・た・・・・・たらナツメは・・・る?」 ボソボソ

猫「なにィー?聞こえんなァー!?」 キシャー

男「俺がしたいって言ったらナツメはどうする?」

猫「もちろん、喜んで応えるぞ。」

男「!」

252: 2011/09/18(日) 03:01:01.66

男「・・・・・」 ドキドキ

猫「さて、吐きだしてスッキリしたら眠くなった。私は寝るぞ。」

男「・・・あれ?」

猫「どうした?不満そうだな。」

男「いや、一連の流れからしてですね・・・それでその、これで寝るとか・・・」

猫「私は胸の内を確かめただけだぞ。それとも何か期待しているのか?」 ニヤニヤ

男「お前本当にいやな性格になったな。もういい。俺は風呂に入る。」 ドタドタ

猫「・・・・意気地無しめ。」 ボソ

255: 2011/09/18(日) 03:04:49.06

・・・・・

男(クソッ・・・意識しちまって眠れん)

猫「・・・・」 ボフン

男「・・・・」

猫「・・・・」 スタスタ

男「何か用か?」

猫「・・・・すまん・・・起こしたか?」

男「用がないなら早く寝ろよ。」

猫「・・・私は卑怯者だな。」 ギシッ

男「なんだよ?また俺をからかいに来たのか?」

猫「・・・ぐしぐし」 ホ口リ

男「泣いてんのか?」

273: 2011/09/18(日) 03:25:15.94

猫「なあ、私はこんな身だ。病むことも老いることも無いが、子供はできない。」

男「そうなのか?でも、どうした急に?」

猫「それでも、これからも傍に置いてくれるか?」

男「そうだなぁ・・・子供を増やせないなら置いとく意味も価値も無いな――」

猫「・・・そうか・・・そうだな。」 シュン

男「――って、猫だったら言うかもしれないけど、俺は人間だからな。」

猫「!」

男「泣きそうな顔しやがって。むしろ俺の方こそ逃がさないからな。」

猫「バカ!このバカ!大馬鹿者め!うぇええん・・」 ポロポロ

276: 2011/09/18(日) 03:28:09.08

男「でも、俺は歳も取るし、病気にもなる。そのことは覚悟しといてくれ。」

猫「ヒック・・ヒック・・今は分からない。これから考える。」

男「じゃ、シャワー浴びるか。」

猫「起こしてくれ。その・・・腰が抜けて・・・」

男「はいはい、ホラ、つかまれ・・・って、あれ?」 グラグラ

猫「?」

男「体に力が入らない・・・?」 バタッ

282: 2011/09/18(日) 03:31:44.61

・・・・・

男「つまり、俺は精気を大量に失って氏にかけていたわけだな。」

猫「その通りだ。性格には私が吸って奪った。」

男「で、丸一日寝ていた・・・と?」

猫「すまぬ、なにぶん初めてのことだったので加減が分からなかった。」

男「加減が分からなかったと言うことは、自分で調整はできると言う事だな?」

猫「吸った分を返すことはできぬが、そういう事だ。」

男「じゃあ、なるべくはやく覚えてくれ。」

猫「そのつもりだ、だから今夜もよろしく頼むぞ。」

男「え?」

猫「え?」

―――――――――――――――おわり

290: 2011/09/18(日) 03:36:25.37
お付き合いどうもでした。
感動もので始めたんだが、ぬこが報われなすぎたので路線変更した。
なのでこんな変な構成になってる。
まあ、素人の書く物語なんてこんなもんだよな。

引用元: 猫「・・・ばーちゃん?」