商店街――

怪人「こんな店は……こうしてやる！」

ﾄﾞｶﾞｼｬｧｧｧﾝｯ!

怪人「こっちのオブジェは……こうだ！」

ﾎﾞｶﾞｧﾝｯ!

市民A「ひええ、また怪人が悪さしてやがる！」

市民B「なんてパワーだ！」

警官「やめないか！」

怪人「やめねえよ！」ﾊﾞｷｯ

警官「ぐはっ！」

市民A「警官もまるで歯が立たない！」

少女「だけど、大丈夫だよ！　きっとヒーローが来てくれるもん！」

主婦「そうよ！　もうすぐ――」

ヒーロー「とあっ！」ｽﾀｯ

少女「ほら来た！」

ヒーロー「怪人！　覚悟しろ！」

怪人「来たか……ヒーロー！　待ちくたびれたぞ……今日こそ倒してやる！」

ヒーロー「……」ﾁﾗｯ

怪人「……」ｳﾝ

ヒーロー「てやー！」

怪人「だー！」

ﾄﾞｶｯ!　ﾊﾞｷｯ!　ﾄﾞｶｯ!

ヒーロー「そこだっ！」ﾊﾞｷｯ!

怪人「ぐあっ、やられた……！」

ヒーロー「怪人め、参ったか！　正義は勝つ！」

ﾜｰﾜｰ!　ｶｯｺｲｰ!

記者「……」

市長「ヒーロー殿、またしても怪人を撃退してくれた。どうもありがとう」

ヒーロー「いえいえ」

市長「市民達はみんな、あなたを信頼しきっていますよ。これからも頼りにしています」

ヒーロー「そうですか」

ヒーロー（狙い通りだ……）

市長「こちらは今回の報奨金です。受け取って下さい」

ヒーロー「ありがとうございます」

記者「こんにちは、ヒーローさん」

ヒーロー「どうも」

記者「今日も素晴らしい活躍でしたね」

ヒーロー「ありがとうございます」

記者「しかし、どうしても気になることがありましてねえ」

ヒーロー「気になること？」

記者「私にはどうしても、あなたと怪人の戦いが馴れ合いに見えてしまうのですよ」

ヒーロー「馴れ合いですって……？」

記者「たとえば殴り合う時、視線を合わせたり……」

ヒーロー「そりゃ戦う相手なんだから視線を合わせますよ」

記者「パンチを当てる寸前、スピードを緩めたり……」

ヒーロー「緩めてなんかいませんよ。きっと我々の戦いが速すぎて錯覚でも起こしてらっしゃるのでしょう」

記者「そういうものですか？」

ヒーロー「そういうものです」

記者「ま、いいでしょう。あなたにはまた取材をお願いしたいですな」

ヒーロー「……」

少しして――

ヒーロー「……」ｷｮﾛｷｮﾛ

ヒーロー「明日あたり頼む」

怪人「あいよ」

ヒーロー「それと記者の一人が、俺たちの馴れ合いを疑ってきた……」

怪人「ほう、鋭い奴が出てきたな」

ヒーロー「次の戦いではもう少し強く殴り合おう」

怪人「分かった」

……

ヒーロー「悪さはやめろ！」

怪人「ふん、今日こそケリをつけてやる！」

ヒーロー（目線は合わせず……）

ヒーロー「だーっ！」

怪人「でやぁっ！」

ﾄﾞｺﾞｯ!　ﾊﾞｷｯ!　ﾄﾞｽﾞｯ!

ヒーロー「参ったか！」

怪人「ち、ちくしょう……」

ヒーロー「今日の戦いはご覧になられましたか？」

記者「ええ、見ました」

ヒーロー「いかがですか？　あの迫力、馴れ合いなんかじゃないでしょう」

記者「……」

ヒーロー「まだなにか？」

記者「見事に修正してきたなぁ、と思いまして」

ヒーロー「！？」

記者「これじゃ私にいわれたから、戦い方を変えたように見えてしまいますねえ」

ヒーロー「いい加減にしろ！」

ヒーロー「ちゃんと戦っても、そんな風に邪推するのか！」

記者「ちゃんと？　何がちゃんとなんです？」

ヒーロー「！」

記者「とにかく、私には予感がするのですよ」

ヒーロー「予感？」

記者「近いうち、怪人など比べ物にならない巨悪が現れると」

ヒーロー「巨悪だと……？」

記者「例えば、善良な市民を騙してるヒーローなど、まさに巨悪といえるんじゃありませんか？」

ヒーロー「貴様……！　失礼する！」

記者「必ず暴きますよ、あなたの正体を」

……

ヒーロー（明日あたり、また怪人とヒーローショーをやるか）

ヒーロー「……よし、誰もいないな」ｷｮﾛｷｮﾛ

ヒーロー「……」ｽｽｯ





記者「……」

ヒーロー「おい」

怪人「来たか」

ヒーロー「明日三時頼む。駅前で派手に暴れてくれ」

怪人「分かった」

ヒーロー「それといつものこれ。多めに入ってる」

怪人「サンキュー」



記者「……！」

次の日――

ﾎﾞｶﾞｧｧｧﾝ!　ﾄﾞｶﾞｼｬｧｧｧﾝ!

怪人「フハハハハ、人間ども！　覚悟しろ！」

怪人「捕まえたぞ！　俺の女にしてやる！」ｶﾞｼｯ

OL「やめてーっ！」

ヒーロー「その人を放せ！」

怪人「ちっ、また来たか！」ﾊﾟｯ

ヒーロー「今日という今日こそ決着を――」

記者「ええ、決着をつけましょう」

ヒーロー「お前は……記者！」

ヒーロー「なんでお前がここに……」

怪人「おい、どうした？」

記者「あなたの正体を暴いてあげますよ、ヒーローさん」

ヒーロー「なんだと！？」

記者「この写真、なんだか分かりますか？」

ヒーロー「おい、やめろ！」

記者「皆さん、これを見て下さい！」ﾊﾞｻｧｯ

ｻﾞﾜｻﾞﾜ…

「なんだこれ！？」

「ヒーローと怪人が仲良く話してる！」

「封筒を渡してるぞ……？」

ヒーロー「ご、合成だ！　悪質なコラだ！　こんなもの！」

記者「お望みとあらば、音声も」ｶﾁｯ

『明日三時頼む。駅前で派手に暴れてくれ』

『分かった』

ヒーロー「お前、俺のことを尾けて……あ！」

記者「やっとボロを出しましたね」

怪人「お前、つけられたのに気づかなかったのか！　この間抜け！」

ヒーロー「いや、俺は十分注意してたんだけど……」

「てめえ、ふざけんな！」

「なにがヒーローだ！」

「とんだ詐欺師じゃないの！」

ヒーロー「違う！　違うんだよ！」

怪人「あーあ、お前との関係もこれまでだな。ずいぶん稼がせてもらったけどよ」

ヒーロー「ま、待て！　逃げる気か！」

記者「もう終わりですよ、ヒーローさん」

ヒーロー「余計なことしやがってぇ……！」

「ふざけんなーっ！」

「ずっと信じてたのに……」

「金返せ！」

ヒーロー「くっ、うるせえ！」

ヒーロー「てめえらが平和ボケしてっから、俺みたいな奴に騙されるんだろが！」

ヒーロー「てめえの身ぐらい自分で守れ！」

「ああ、守ってやるさ！」

「帰れ帰れ！」

「お前なんかもういらねえよ！」

ヒーロー「ちくしょう、覚えてろ！」

市長「先日、私たちを守ってくれているヒーローは実はマッチポンプをしていただけということが明らかになりました」

市長「本当に残念でなりません」

市長「しかし、これはいい教訓となりました。この教訓を生かしましょう！」

市長「皆さん、これからは自分の身は自分で守りましょう！」

ﾜｰﾜｰ…

市民A「やっぱり世の中、正義のヒーローなんていないんだな……」

市民B「俺たちひとりひとりがヒーローにならないとな！」

ﾜｲﾜｲ…

……

ヒーロー「うまくいったな。あの記者、目論み通りに動いてくれたよ」

怪人「ああ、全てシナリオ通りだ」

ヒーロー「俺たちは最初からグルだった。というか、二人とも“民衆を守るための存在”だ」

怪人「全てはヒーローなんかあてにならないと悟らせるための芝居だった」

ヒーロー「俺たちはいざとなれば、民衆を守るために全力で戦うが、それだけじゃ足りない」

怪人「市民全員が自分で自分を守るつもりでなければ、今後来る危機は乗り切れないだろう」

ヒーロー「ああ、誰かが自分を守ってくれる、自分が戦う必要はない、じゃ甚大な被害が出るだろうな」

ヒーロー「あの記者もいいカンしてるよ」

ヒーロー「近いうち、本当の“巨悪”がこの街を狙ってくる」

ヒーロー「そうなったら、いくら俺たちや警察が働いても、とても市民を守り切れない」

怪人「だが、民衆の意識が変わり、皆がひとりひとりヒーローになろうとしている」

怪人「これなら、被害はずっと少なくなるだろう。必ず難局を乗り越えられるはずだ」

ヒーロー「苦労したかいがあったな」







おわり

意外といい話だったな！