1: 2010/12/26(日) 21:11:22.28
梓「こんにちは。みんなのアイドル、あずにゃんです」

梓「朝起きたら何故かアイドルになってました」

梓「今日からアイドルらしく振る舞うです」

4: 2010/12/26(日) 21:14:21.76
~登校中~
梓「みんなのアイドルの基本その1、モデル歩きです」クネックネッ

梓「ちょっと大げさな歩き方のほうがメリハリがつくです」クネックネッ

梓「もちろん目線は上向きで、胸を張るです」クネックネッ

梓「腕は大きく振るです」シュンシュン

梓「…………」クネックネッシュンシュン

子「おかーさーん、きもちわるい歩き方してるひとがいるよー」

母「凛ちゃんダメよ。あれは見ちゃいけません」

7: 2010/12/26(日) 21:17:30.53
梓「そこの親子、ちょっと待つです」クネックネッ

母「ひいっ!!」

凛「わー、へんな人だー」

梓「おはようございますです。みんなのアイドル、あずにゃんです」

母「は、はぁ……」

梓「あずにゃんです」

凛「あずにゃんです!」

梓「そうです、あずにゃんです」

9: 2010/12/26(日) 21:21:15.34
母「あの、何でしょうか……」

梓「さっき私を見て何を思ったですか?」

母「えと……個性的な人だなと……」

梓「そうですか」

母「あの……私たちはこれで……ほら凛ちゃん、はやく行くよ!」タッタッタッ

凛「あずにゃんですばいばーい」タッタッタッ

梓「そうです。みんなのアイドル、あずにゃんです」

梓「…………」

梓「みんなのアイドルの基本その2、アイドルを変人扱いした親子を許す心の寛大さです」

11: 2010/12/26(日) 21:23:22.51
梓「…………」クネックネッ

純「梓ー、おはよー」

梓「あ、純。おはようです」クネックネッ

純「うえ……道端で何してんの梓。気持ち悪いよ」

梓「」

12: 2010/12/26(日) 21:26:31.30
梓「私はみんなのアイドル、あずにゃんなので許すです」

純「はあ? 何言ってんの梓?」

梓「アイドルじゃなかったらその頭に付いてるモップで牛乳拭き取ってるところです」

純「モッ……!?」

梓「あ、そうだ。モップもモデル歩きで一緒に学校まで歩くです」クネックネッ

純「モップ……」

13: 2010/12/26(日) 21:29:43.49
~教室~
純「憂、おはよー」

梓「憂、おはようです」

憂「純ちゃん梓ちゃんおはよー」

純「ちょっと憂、こっちこっち」クイックイッ

憂「? どうしたの純ちゃん?」

純「今日の梓なんかおかしいからさ、あまり近づいちゃダメだよ」ゴニョゴニョ

憂「梓ちゃんが? 何かよく分からないけど……うん、分かった」ゴニョゴニョ

梓「みんなのアイドル、あずにゃんがいるのに内緒話ですか」

梓「モップに続きデカ尻もマナーが悪いです」

憂「デカ……尻……」

14: 2010/12/26(日) 21:32:05.01
~授業中~
梓(みんなのアイドルの基本その3、多少の隙を見せるです)

梓(完璧なアイドルは確かに綺麗です。でも隙を見せると人間臭さが上がるです)

梓(それは人を惹きつける魅力になるです。あずにゃんです)

梓(さっそく隙を見せるです)

15: 2010/12/26(日) 21:35:20.18
梓「…………」カチャカチャ

梓「…………」カチャカチャ

先生「ねえ、中野さん」

梓「…………」カチャカチャ

先生「あなた、授業中に何してるか分かってるのかしら」

梓「分かってるです。隙を見せてるです」

先生「いい加減にしなさい! そんなにシャーペン分解したいなら休み時間にやりなさい!」

梓「アイドルの趣味がシャーペン分解なんて、いい隙です」

先生「何をわけの分からないことを……」

17: 2010/12/26(日) 21:38:16.43
~昼休み~
憂「純ちゃん、梓ちゃん、一緒にご飯食べよ」

純「憂、今日の梓はそっとしといたほうが……」コソコソ

梓「一緒に食べるです」

憂「うん! 皆で食べよう」

純(うう……憂、お人よしすぎ……)

18: 2010/12/26(日) 21:41:30.78
梓「今日モップはパンですか?」

純「え!? ああ、うん。そうだけど(モップ言うなし……)」

梓「そうですか。デカ尻は相変わらず手作り弁当ですね……」

憂「う、うん……」

純(あ、憂のやつ相当怒ってる。手、強く握りすぎてプルプルしてるし……)

梓「美味しそうです」

憂「あ、梓ちゃん少し食べる?」

梓「いらないです。みんなのアイドル、あずにゃんは人からものを貰ったりしないです。デカ尻とは違うです」

憂「そ、そうなんだー。あはは……」

純(憂耐えろ……耐えてくれ……)

20: 2010/12/26(日) 21:44:29.21
純「梓のお昼ご飯は?」

梓「みんなのアイドル、あずにゃんは、もちろん手作りのお弁当です」

憂「わー、すごいね梓ちゃん、お弁当作れるんだ」

梓「みんなのアイドルとして、料理の特訓は欠かさないです」

憂「それで何作ったの?」

梓「今からお弁当の蓋を開けるので慌てるなです。デカ尻はせっかちです」

憂「」

22: 2010/12/26(日) 21:49:33.93
梓「これです」カパッ

純「うえ……何その赤いの……」

梓「マグロを弁当箱サイズに切り取って詰め込んだです」

憂「す、すごいね梓ちゃん、お豆腐みたいだね。えへへ……」

梓「豆腐じゃないですマグロです。尻がデカいと豆腐とマグロの区別すらできなくなるですか」

憂「」

純(てか弁当に生魚つめんなよ……)

23: 2010/12/26(日) 21:53:08.90
~放課後~
梓「放課後です。みんなのアイドルあずにゃんは部活に励むです」

純憂「また明日ね、梓(梓ちゃん)」

梓「またあしたです。あずにゃんです」

梓「…………ふぅ」

梓「いい友達を持ったです」

25: 2010/12/26(日) 21:57:22.39
憂「梓ちゃんどうしちゃったんだろ……」

純「今までは何ともなかったのにね」

憂「それに梓ちゃん部活行くって言ってたし、お姉ちゃんと軽音部の皆さん、大丈夫かな……」

純「まあでも、軽音部の先輩なら案外受けとめてくれるかも」

憂「そうだよね。それに明日になったら元に戻ってるかもしれないし」

純「うん。それじゃ私、ジャズ研よってくから」

憂「うん。じゃあね、モップ──じゃなくて純ちゃん」

純「」

26: 2010/12/26(日) 22:02:47.28
~部室~
梓「」ガチャ

澪「お、梓か。おつかれ」

梓「おつかれさまです。澪先輩一人だけですか?」

澪「ああ、もうすぐみんな来るけどな」

梓「そうですか」

澪「…………」ペラッ

梓「…………」

澪「…………」ペラッ

梓「あの……なに読んでるですか?」

澪「ん? 音楽雑誌だよ。梓も読むか?」

梓「いえ、いいです」

澪「…………」ペラッ

梓(くそっ! 音楽雑誌とは……まるでアイドル……!)

27: 2010/12/26(日) 22:08:09.90
梓(この人はみんなのアイドル、あずにゃんに匹敵するくらいのアイドルです。それは認めるしかないです……)

梓(正直、人気ではまだ勝てないです。私にファンクラブなんてないです)

梓(で、でも、アイドルとしての優位さでは私のほうが上です)

梓(澪先輩になくて私にあるもの、それは敏捷性です)

梓(私のほうが素早いです)

梓(それを見せしめてやるです)

28: 2010/12/26(日) 22:13:30.16
梓「……」ガタッ

澪「ん? どうした梓、急に椅子から立ち上がって」

梓「……」シュッシュ

澪「??」

梓「……」シュッシュシュッ

澪「おい梓、何してるんだ?」

梓「見て分からないですか?」シュッシュ

澪「……」

梓「シャドーボクシング、もといシャドーあずにゃんです」シュシュ

梓(効いてるです。私の見せしめ攻撃が効いてるです!)シュッシュッシュ

澪「そうか」

澪「…………」ペラッ

梓「」


33: 2010/12/26(日) 22:18:22.80
梓(くっ……! こうなったらシャドーボクシングとモデル歩きの合わせ技『シャモデにゃん』を見せ付けるです)

梓「……」クネクネシュッシュ

澪「…………」ペラッ

梓「……」クネッシュクネッシュ

澪「…………」ペラッ

梓「……」クククネクネシュッシュッシュ

澪「おい、梓」

梓(!? やったですか……!)

澪「人の周りで暴れるな」ゴチンッ

梓「痛っ!」

澪「まったく……」

梓「? ? ?」

梓(こ、この人、みんなのアイドル、あずにゃんに手上げたです……!)

36: 2010/12/26(日) 22:21:27.83
律「おーっす」ガチャ

梓(ぐう……とりあえず澪先輩は後回しです)

律「梓、澪になんかされたのか? 涙目だぞー」

梓「大丈夫です。工口ガッパに心配される謂われはありません」

律「工口……ガッパ……?」

梓「そうです。デコ出し工口ガッパです。キュウリでも食ってろです」

律「」

39: 2010/12/26(日) 22:25:41.73
唯「やっほー」ガチャ

律「……」

澪「おお唯、ムギはどうしたんだ?」

唯「ムギちゃんはもうすぐ来るよ~。今日のお菓子はなんだろな~」

唯「あれ? りっちゃん元気ないね。どうしたの?」

律「……」

澪「ああ、律はさっき梓に工口ガッパ認定されて落ち込んでるんだ」

律「う……」

唯「ええっ! あずにゃん、何でそんな酷いこと言ったの?」

梓「マジキチうんたん黙れうるさい」

唯「」

澪(お前がマジキチだろ……)

40: 2010/12/26(日) 22:28:32.25
紬「ごめんなさい、遅れちゃって」ガチャ

律「……」

唯「……」

澪「気にしなくていいぞ。みんな今来たところだ」

紬「あら? 唯ちゃん、りっちゃん、どうしたの? うなだれちゃって」

澪「いや、ムギは気にするな」

紬「そう? あ、今日はケーキよ唯ちゃん」

唯「うん……」

紬「??」

律「…………」

澪「…………」ペラッ

梓「早くお茶入れるです。財布」

紬「」

41: 2010/12/26(日) 22:32:24.72
梓「ふう……財布の入れた紅茶は美味しいです」ズズー

律「…………」

唯「…………」

紬「…………」

澪「…………」ペラッ

梓(ん? 何故だか空気がいつもより悪いです)

梓(みんなのアイドルの基本その4、空気を読む力です)

梓(こういうときはみんなのアイドル、あずにゃんが場を盛り上げるです)

43: 2010/12/26(日) 22:36:21.94
梓(アイドルが場を盛り上げるといったらやっぱり歌です)ガタッ

梓(えっと、確かこの棚にCDプレイヤーと自前のCDが)ガサゴソ

梓(あ、あったです。よしコンセント差し込んでCD入れて、再生です)ピッ

チャーチャラチャラッチャー♪

唯律澪紬「!?」ビクッ

梓「んでんでんでー」

律(うぜぇ……)

梓「かまってかまってほしいのー」

唯(今日のあずにゃん頭おかしいよ……)

梓「ちょうしにのっちゃだめー」

澪(調子乗ってるのお前だろ……)

46: 2010/12/26(日) 22:41:14.97
梓「侵略攻略イカ娘、キュッ!」

梓「ふうー、とりあえずこのくらいにしとくです」

律(キュッ!じゃねーよ……何だよあいつ……)

紬(唯ちゃん頑張って。私も耐えてるのよ)

唯(うぅ……ぐすん……)

梓(あ、マジキチうんたんは感動の涙まで流してるです)

梓「大成功です。みんなのアイドル、あずにゃんです」

澪「おい梓」ガタッ

49: 2010/12/26(日) 22:44:57.65
澪「いい加減にしろ!」ゴチンッ

梓「痛っ!」

澪「律、唯、ムギ、今日は帰ろう」

律「ああ……」

紬「唯ちゃん、一緒に帰りましょ。さあ立って」

唯「うん……えっぐ……ぐすん……」

澪「じゃあな梓」スタスタ

──バタン

梓「…………」

梓「…………」

梓「…………」

梓「…………」

梓「…………」

梓「……ふぅ」

50: 2010/12/26(日) 22:48:28.56
~数時間後・唯の家~
憂「皆さん、たくさん食べてくださいね」

律「さすが憂ちゃん、どれも美味しそーだな」

唯「えっへん、自慢の妹です!」

紬(あらあら、唯ちゃんすっかり元気になったわね)

純「憂、私も何か手伝うよ」

憂「大丈夫だよ、モッ──純ちゃんは座ってていいよ」

純「あ、うん……」

澪「唯に憂ちゃん、いきなりごめんな。みんなで押し掛けたりして」

唯「そんなことないよ~。みんなでいるの楽しいよ」

憂「でも、こうして集まったのにも、きっと理由があるんですよね?」

澪「ああ……あの、梓のことなんだけど」

唯律憂純紬「!?」

52: 2010/12/26(日) 22:54:20.26
澪「先週金曜日の梓は別段おかしなところはなかった」

澪「でも、週が明けた今日、月曜日の梓は明らかにおかしかった」

澪「自分をみんなのアイドル、あずにゃんと名乗ってた」

澪「完全にマジキチの類だ」

唯「」ビクッ!

澪「ああ、唯はそんな類じゃないぞ」

唯「うん……」

澪「そこで、金曜日の放課後から今日にかけて何かあったか、梓の家へ電話を掛けて、梓の母親に聞いてみた」

澪「そしたら『別段、普段と変わらないし、何もないですよ』こう言ったんだ」

澪「そして最後にこう聞いてみた。今日は梓と話したのか?」

澪「『朝、そしてさっき学校から帰ってきた梓と、普通に話しましたよ』そう言っていた」

澪「つまり梓のママは今日も普通の梓と、普通に接してたんだ」

唯憂律紬純「ママ……」

澪「」

55: 2010/12/26(日) 22:59:05.10
澪「つまりこの電話で分かったことは」

紬「梓ちゃんか演技している。しかも何故か私たちの前だけで……」

律「演技……?」

唯「あずにゃんは演技であんな酷いことできるの!?」

澪「それは分からない。だけど酷いことをされたのは事実だ」

純「じゃあ今日集まったのは……」

澪「梓が何でそんなことをしているのか、そして明日から梓とどう接するか、皆で考えようと思ったんだ」

56: 2010/12/26(日) 23:02:59.07
憂「うーん、とりあえず様子を見るのがいいと思います」

唯「まあそうだよね。他に方法ないもんね」

律「接し方はどうするんだよ。あんなこと言われて普通にしてろってか!」

紬「まあまあまありっちゃん落ち着いて」

澪「普通に接してればいつか素の梓、いつもの梓が出てくるだろうな」

唯「じゃあ素のあずにゃんが出てきたら、何でこんな演技してるんだー!ってみんなで質問責めにすればいいよ~」

憂「すごーい、お姉ちゃん名案だね!」

唯「えへへ~///」

澪「じゃあみんな、それでいいか」

唯憂律紬純「」コクッ

57: 2010/12/26(日) 23:07:13.64
律「いやーしかし梓も酷いあだ名つけてくれるよなー」

唯「りっちゃんはまだいいじゃん。工口ガッパなんて名前ちょっと可愛いし」ブーブー

純「あの、先輩たちみんな梓にあだ名つけられたんですか?」

唯「そうだよ、私なんてマジキチうんたんだよ!」

純「あはは、唯先輩っぽいです」

唯「うー、そういう純ちゃんはどうなのさ」

純「うう……」

58: 2010/12/26(日) 23:10:55.47
紬「確かモップよね」

純「!?」

紬「さっき憂ちゃんから聞いたの~」

唯「ええ~っ! すごい可愛いあだ名じゃん!」

純「ま、まあ唯先輩よりは……」

律「それで澪には何故か付いてなくて、ムギは財布だったか」

唯「さいふ~さいふ~」ワイワイ

紬「唯ちゃんひど~い」キャハキャハ

59: 2010/12/26(日) 23:15:20.10
唯「そういえば憂はなんてあだ名つけられたの~」

純(あ、やば……)

憂「えっ!? えと……私は……」

唯「憂だけ教えないのはズルいよ~」

律「そうだそうだー、憂ちゃんズルいぞー」

澪「でも確かに気になるな。完璧な憂ちゃんにあだ名なんて」

憂「私は……その……」

唯律紬澪「うんうん」

61: 2010/12/26(日) 23:17:16.97
憂「えっと……」

唯律紬澪「うん」

憂「…………」

憂「…………」

憂「デカ尻……」

唯「」

律「」

紬「」

澪「」

純「…………」

65: 2010/12/26(日) 23:22:24.29
唯律澪紬純憂「よし、普段どおりに接するぞ。おー!」



しかし翌日以降、6人の言動に反して
梓の奇怪な行動は日に日にエスカレートしていった。

教室のゴミ箱に頭を突っ込む、シャーペンの芯や蚊取り線香を食べる、そこら辺はまだ序の口。

2日後、ついに授業中に奇声を発し始める。
お昼休み、廊下に野球のベースを持ち込み、ヘッドスライディングの練習を始める。
もちろん廊下を全力疾走する際の奇声はデフォ。そして、職員室へ連行される。

3日後、ヘッドスライディングの練習を、授業を途中で抜け出し廊下でやり始める。なぜか制服は泥だらけ。
各教室で授業中の生徒の耳に、キェー!という奇声がドップラー効果に従い走り抜ける。

4日後、自分の手足を縄で縛って登校する。指先が血で滲んでいる。
授業でノートを取ることが出来ない。
縛った状態でのヘッドスライディングの練習も欠かさない。
しかしバランスが取れないため、そのまま顔面強打。のた打ち回る。

そして放課後、6人はまた唯の家へ集まっていた。

68: 2010/12/26(日) 23:26:22.46
お風呂入ってくる
40分以内には戻る
鯖時限解除らしいから日付跨いだらまた規制されてるかもしれん
書き溜めてあるから、そのときは後日またスレ立てる

75: 2010/12/27(月) 00:04:52.41
~唯の家~
唯「…………」

律「…………」

澪「…………」

紬「…………」

純「…………」

憂「…………」

唯「……ホントにあれ、演技なのかな?」

律「あれは真性だろ……ヘッドスライディングの意味が分からない……」

純「普通に接するも何も、梓が勝手に一人でいることが多かった……」

憂「うう……梓ちゃん……どうしてあんなことに……」

澪「ちょっといいか」

78: 2010/12/27(月) 00:11:36.96
澪「私たちは4日間、素を出す梓を待ち構えるため、普通に接してきた」

澪「しかし日に日にエスカレート、人外へと変貌していった」

澪「私は梓が演技してると思ったけど、実際それは違った」

澪「4日前、梓の母親へ電話し、ここにみんなで集まって演技と判断した」

澪「その時点で私は大事なことを一つ見逃していたんだ」

唯「大事なこと……?」

澪「うん。もう一つの可能性」

澪「梓の母親と電話したとき『朝、そしてさっき学校から帰ってきた梓と話した』こう言ってたんだ」

律「だから梓が演技してるって結論に達したんだろー」

澪「確かにそうだな。でもな律、この発言が『ただの嘘』だったらどうだ?」

律「嘘……」

澪「つまり、私が電話を掛けたあの日、梓は家でもあの状態で、何故か母親はそれを隠していた」

澪「それが見逃していたもう一つの可能性……」

律「…………」

79: 2010/12/27(月) 00:16:19.84
澪「それで今回はムギに協力してもらったんだ」

澪「ムギの知り合いに精神的なものに詳しい専門家がいるらしいんだ」

紬「初めからそうしてればよかったわ……」

澪「それでその専門家曰く、梓がこうなった原因は」

唯律憂純「…………」

澪「多大な心的外傷が原因だろうって……」

律「つ、つまり私たちといたのがストレスになって、それが溜まりに溜まってああなったって言うのか?」

紬「ううん。梓ちゃんのストレスの原因が私たちなら部活になんか来ないでしょ。それに前までの梓ちゃんはどうだった?」

唯「一緒にバンド組んで私たちと演奏して、すごい楽しそうに笑ってた……」

紬「ね? ストレスの原因は私たちじゃないのよ」

唯律「じゃあ、まさか……」

澪「母親、の可能性が高いと思う……」

83: 2010/12/27(月) 00:20:08.51
憂「そ、それって梓ちゃんが虐待されてるってこと……」

澪「今日、学校の先生に話を聞いてみたんだ。この梓がマジキチの件について親は何て言ってるのか?って」

澪「『私は知らない』の一点張りらしい」

澪「病院に連れて行く気がないのか?って質問にも『私は知らない』そう答えたらしい」

澪「それに加えて梓の父親は、ひと月ほど前に、自頃してるんだ……」








唯律憂純「……え?」

85: 2010/12/27(月) 00:24:18.36
紬「このことを踏まえた上で専門家の先生に原因を聞いてみたの」

紬「まず父親が自頃したことで、母親と梓ちゃんにストレスが」

紬「そして、その母親のストレスの矛先も梓ちゃんに向かったんだろうって」

唯律憂純「…………」

律「そ、それで、梓は治るのか?」

紬「そのストレスから遠ざけて、しばらく安静にしてあげれば少しは変わるんじゃないかって」

唯律憂純「…………」

90: 2010/12/27(月) 00:28:04.68
憂「と、とりあえず皆さん、今日は泊まっていって下さい」

憂「明日は休みですし、少し落ち着いて休みましょう」

唯「で、でもあずにゃんが!」

紬「唯ちゃん落ち着いて。大丈夫、何とかなるわ」

律「…………」

純「…………」

澪「……私はちょっと外の空気を吸ってくるよ」ガチャ

91: 2010/12/27(月) 00:33:16.17
~唯の家・玄関先~
澪(空気吸うとか言って誤魔化したけど、やっぱり梓の家に行くべきだよな)

澪(あの場で梓の家へ行くって言ったら皆ついてくるだろうし)

澪(ぞろぞろと皆で行って梓の母親刺激したら、さらに状況が悪化するし)

澪(それに梓は演技だって言い出したのは私だし)

澪(ってことは責任は私にあるわけで……)

澪「…………」

澪(よし、行こう!)

95: 2010/12/27(月) 00:39:09.92
~梓の家の前~
澪(やっと着いた。梓の担任に家の場所聞いといて良かった)

澪(さて、まだ夜8時か。どうしよう。呼び鈴を押して正攻法で攻めてみるか……)

──ガッサガッサガッサ

澪(ん? 何だこの音?)

澪(庭のほうから? ち、ちょっと怖いけど行ってみようか)テクテク

──ガッサガッサガッサ

澪(怖くない怖くない怖くない)ソーッ

澪(怖くない怖──)チラッ

澪(────え?)

澪(なっ────)

澪(な……んだ……これ……)


101: 2010/12/27(月) 00:44:37.97
そこには異様な光景が広がっていた。
首輪を付けられ、犬小屋と鎖で繋がれている梓の姿。
奇声を上げさせないためか、口には猿ぐつわ。
暗くてよく見えないが、泥だらけの制服を着ている。そして縄で手足が縛られている。

そして必氏に穴を掘っているのだ。

指先は血で滲んでいる。
それでも掘り続けている。

何かから逃げるように。
ここから逃げたいと言わんばかりに。
頬を涙でグショグショに濡らしながら、掘り続けている。

口からはヨダレが、それが血で赤黒く滲んだ指先にダラダラと垂れていて、すごく、痛々しい。



澪(な、なんだよこれ……)

106: 2010/12/27(月) 00:48:25.32
澪「あ、梓……」

梓「…………」

澪「梓……」

梓「ひお、へんはい……」グスンッ

澪「猿ぐつわを外すからちょっと待ってな」カチャカチャ

澪「よし、外れたぞ」

澪「…………」

梓「……みんなの……うう……アイドル……ひっく……あずにゃんです……グスン……」

澪「うん。みんなのアイドル、あずにゃんだ」

梓「あ……あず……グスッ……うわああぁぁん!」ダキッ

澪「梓! 泣いちゃダメだ! 声で気付かれる!」ガバッ

梓「んー!」モゴモゴ

澪「…………」

梓「んー!」モゴモゴ

澪(……な、なんとか大丈夫かな)

108: 2010/12/27(月) 00:52:04.68
澪「梓……ここから逃げよう」

梓「っ!?」ビクッ

澪「分かってる。この鎖に繋がれてる杭、地面から簡単に抜けるもんな」

澪「つまり梓はいつでも自分で逃げられたんだ」

澪「でもそれをしなかった。逃げた後また捕まったら、次はどんな酷い仕打ちされるか分からないもんな」

梓「…………」

澪「でも今なら大丈夫だ。私の家に来ればいい」

梓「…………」

澪「だから逃げよう」

梓「…………」

澪「梓!」

梓「…………」コクッ

澪「よし。ほら、手つかまって」ギュッ

梓「う……///」

澪「行こう」タッタッタッ

111: 2010/12/27(月) 00:56:24.33
~澪の家・脱衣所~
澪「梓、ここにバスタオルと着替え置いておくからな」

梓「…………」シャワーシャー

澪「…………とりあえずみんなに連絡か」ピロロロロ

澪「あ、もしもし律」

律『おー澪、今どこにいるんだ? 外の空気吸いに行ったんじゃないのかー』

澪「ごめん。ちょっと色々合って。梓と私の家にいるんだ」

律『梓と!? じゃあ梓は今、隣にいるのか?』

澪「いや。今はお風呂入ってるよ。まあ、脱衣所から電話してるから隣といえば隣だな」

律『そ、それで何があったんだ? やっぱり虐待とか……』

澪「うん。まだ断定は出来ないけどな。梓と少し話してみるよ」

律『分かった。じゃあ私たちは唯の家にいるから。何かあったら無理しないでこっちに来いよ』

澪「うん。ありがとう律」ピッ

澪「…………ふぅ」

114: 2010/12/27(月) 01:00:06.92
──ガララッ

澪「うおっ! 梓!」

梓「…………」

澪「…………」

梓「…………」

澪(体が……痣だらけだ……)

梓「…………」

澪「梓」

梓「…………」

澪「体、拭いてあげるから……後ろ向いてくれるか?」

梓「…………」コクッ

117: 2010/12/27(月) 01:03:43.43
その後、梓に下着や服を着せ、髪をドライヤーで乾かしてあげた。
乾かすために髪をワシャワシャしてあげると、ちょっと嬉しそうに笑った気がした。

そして怪我している指先を処置して、私の部屋へ通した。
気が触れた言動をとると思っていたが、その間、梓はずっと無言だった。

治療している間、学校で普通に接しようと様子を見ていた4日間を思い出した。

よくよく考えてみれば──

そのときから既に梓の制服は泥だらけで、
手は血で滲んでいて、手足は縄で縛られていたんだ……

122: 2010/12/27(月) 01:14:02.83
~澪の部屋~
澪「梓、はいお茶」

梓「…………」

澪「飲んでいいぞ?」

梓「…………」ゴクゴク

澪「喉渇いてるのか。おかわりあるぞ」

梓「…………」ゴクゴク

澪「梓、あの首輪やら何やらは──」

梓「」ビクッ!

澪「あ、ごめんな……ごめん……」

梓「…………」

澪(どうしようか……)

127: 2010/12/27(月) 01:19:25.24
梓「…………」グゥ~

澪「ん? お腹空いてるのか」

澪「じゃあちょっとコンビニで何か買ってくるよ」

梓「……!?」

梓「…………」ギュッ

澪「…………」

梓「…………」ギュー

澪「……おい梓」

梓「…………」ギュー

澪「抱き付いてたら私がコンビニに行けないぞ」

梓「…………」ギュー

澪「…………」

梓「…………」ギュー

澪(……まあいいか)

129: 2010/12/27(月) 01:23:32.07
梓「…………です」ギュー

澪「ん?」

梓「……離れたくないです」ギュー

澪「ん……そうか」

梓「……そうです」ギュー

澪「…………」

梓「…………」

澪「…………」

梓「…………」

澪「…………」ナデナデ

梓「……えへへ///」

137: 2010/12/27(月) 01:28:24.03
そうして、しばらく2人並んで座っていた。
その間、梓はずっと私に抱き付いていた。

時々、にゃーにゃー言いながら頬をすり寄せてきた。
その顔がすごく嬉しそうで、代わりに頭を撫でてあげると、気持ち良さそうに微笑んでいた。

なんというか、本当に猫みたいだった。

その後、遊び疲れた子供のように眠ってしまった梓を布団に寝かし、私は唯の家へ行くことにした。

141: 2010/12/27(月) 01:32:11.66
~唯の家~
紬「やっぱり警察に連絡するべきじゃないかしら」

唯「そうだよ澪ちゃん、あずにゃんがそんな酷い目にあわされてるなら尚更だよ」

澪「やっぱりそうかな……」

律「まあでも澪が心配してることも分かるぜ」

律「もし梓に暴力を振るった人間が警察を欺いて、シラを切り通せた場合」

憂「怒ったその人は、梓ちゃんに更に酷い仕打ちをしそうですね」

紬「猫を被った礼儀正しい大人と、必氏に説明してるその親の子供なら、警察は前者を信じるでしょうね」

澪「…………」

142: 2010/12/27(月) 01:35:14.83
純「それでその犯人は梓の母親なんですか?」

澪「うん。それは間違いないと思う」

澪「でも断定はできないから、明日できたら梓と話してみるよ」

唯「できたらって……やっぱりあずにゃんは頭おかしくなっちゃったままなの?」

澪「私の家では無口だったけど普通だった。廊下でヘッドスライディングしてた奴とは別人みたいだ」

唯「そっか~よかった~。でも何で急に戻ったんだろうね?」

律「澪に会って安心したんじゃないか?」

憂「今までずっと殺されるかもしれない恐怖の中にいたんですもんね……」

紬「安静にしてれば回復するかもって話だから、梓ちゃんを自分のお家に帰すのはやめたほうがよさそうね」

147: 2010/12/27(月) 01:40:48.20
「じゃあ私はそろそろ帰るよ」

唯「え~、澪ちゃんも泊まってこうよ~。明日お休みだよ~」

律「唯ー、いま澪の部屋では梓が一人っきりなんだぞー」

唯「あ、そっか~」

憂「澪さん、無理しないでくださいね」

澪「うん。ありがとう憂ちゃん」

澪(……帰りにコンビニでおにぎりでも、あと梓の歯ブラシも買っていこう)





やばい全部投下し終わるの3時頃まで掛かるかもしれん
明日、朝早い人は無理しないで寝ておくれ

150: 2010/12/27(月) 01:43:28.33
~澪の部屋~
梓「うぅ……ぐすっ……みお……ひっく……」ポロポロ

──ガチャ

澪「!? お、おい梓!」

梓「うわああああああん!」

澪「ごめん梓。一人にして」

梓「みお……ヒック……みお……グスン……」

澪「うん。澪だぞ」

梓「うぅ……」ギュー

澪「…………」

梓「…………」ギュー

澪「梓」

梓「……?」

澪「一緒にご飯食べよう」

梓「…………うん」

156: 2010/12/27(月) 01:46:30.03
澪「梓、どれがいい? おにぎりを色々買ってきたんだ」

梓「……みおは?」

澪「ん? 私はどれでもいいぞ。梓が先に決めてくれ」

梓「……みおが先に決めて」

澪「…………じゃあ、このシーチキンにしようかな」ビリビリ

梓「…………うん」

澪「…………」パクパク

梓「…………」ビリビリ

澪(なんだ、梓もシーチキンじゃないか)モグモグ

梓「…………」パクパク

158: 2010/12/27(月) 01:49:49.53
澪「梓、飲み物もあるぞ。午後の紅茶のストレートとレモン、どっちがいい?」

梓「…………」

澪「…………」

梓「…………レモンがいい」

澪「じゃあはい。ここに置いとくぞ」

梓「…………ホントは」

澪「……ん?」

梓「ホントは一緒の、おそろいが良かったです……」

澪「…………」

梓「///」ゴクゴク

165: 2010/12/27(月) 01:57:26.21
澪「梓の分の布団を敷いて、と……」


私と梓の布団を2つ並べて床に敷く。


澪「ほら梓、遠慮しないでここで寝ていいからな」

梓「…………」

澪「よし、じゃあ電気消すぞ」

梓「みっ! み、みおも一緒の布団で……」

澪「…………」

梓「1つの布団で……一緒に……」

澪「…………」

梓「…………ダメ、ですか……?」

澪「…………」

澪「……いや、一緒に寝ようか」

梓「うん……」

168: 2010/12/27(月) 02:00:20.50
寝てるときの梓は、私を抱き枕か何かと勘違いしたかのように抱き続けていた。
ちょっと苦しかったけれど、梓の寝顔を見て、なんだか急に嬉しくなった。

頭を撫でてみると、寝ているにもかかわらず、前みたいに嬉しそうにしていた。
もしかしたら、梓は頭を撫でられるのが好きなのかもしれない。


翌朝、梓が寝ている間に、こっそりコンビニにご飯を買いに行った。

因みに家のパパとママは、昨日、泥だらけの制服の梓を見た際に、なんとなく察してくれたみたいだ。
もし必要なら相談しなさい。いつでも力になる、と言っていた。

今日、梓から色々聞けたら相談してみるのもアリかもしれない。
いや、本当は一目散に相談して、警察に連絡するべきなんだろうけど、まずは梓と話をしてみたい。

幸い今日は土曜日で、明日も休みだ。
月曜日の学校、それまでには何とかしないと。

169: 2010/12/27(月) 02:02:24.40
~翌朝・澪の部屋~
澪「梓、なに食べる?」

梓「えと……」

澪「二つずつ買ってきたから」

梓「じ、じゃあこのメロンパンで!」

澪「ふふ……じゃあ私もそれだな」

梓「うぅ……///」

170: 2010/12/27(月) 02:06:09.66
澪(結構、元気になってるみたいだし……そろそろ聞いてみようかな)

梓「……」パクパク

澪「梓、昨日のことなんだけどな」

梓「…………」

澪「聞いてもいいかな?」

梓「…………うん」

澪「あんなことをしたのは、梓のお母さんか?」

梓「……うん」

澪(やっぱりか……)

梓「あの首輪なんかを嵌められたのは……もしかして一ヶ月くらい前から?」

梓「……うん」

澪(梓の父親が自頃したあたりだな。やっぱり原因はそこか)

澪(制服が汚れてたのはつい最近だったから、最初のほうは虐待する時わざわざ私服に着替えさせてたのか)

澪(泥だらけの制服なんかで登校してたら親も怪しまれるしな)

172: 2010/12/27(月) 02:09:12.94
澪「それで梓、ここ一週間の記憶ってあるか?」

梓「…………よく覚えてない。思い出せない夢みたいな。何かしたことは覚えてるけど」

澪「じゃあここ一週間あたりで一番鮮明に覚えてることってなんだ?」

梓「…………確か、家に帰ったらお母さんが誰かと電話してて、そのあと急に怒り始めて」

梓「いつもは着替えてから首輪を付けるのに、その日は制服のまま首輪をつけられたです……」

梓「……その日はいつも以上に色々されたです」ガクガク

梓「……その前後の記憶はあやふやで、そこだけ鮮明に覚えてるです」ブルブル

澪(梓の口調が以前のに戻り始めた……)

澪「大体わかった。梓ありがとう。この話はここで終わりな」

梓「…………はい」

173: 2010/12/27(月) 02:12:11.61
梓の話をまとめるとこうだ。
今日が土曜日で、制服が汚れていたのが木曜日。(参照>>65

ということは、帰宅して母親が誰かと電話していたのは水曜日。
電話が終わったと思ったら、急に激怒。その日から制服のまま首輪をはめさせられる。

ひと月ほど前は学校側に怪しまれないように私服で首輪を付けさせられていたが、
その電話以降、制服に泥が付こうがおかまいなし、暴力も盛んになった。

そして電話の相手は──学校だろうな。
水曜日に本格的にヘッドスライディングの練習を始めた梓は、そのとき職員室へ連行された。

そして放課後、担任の先生か誰かが梓の家へ電話したんだろう。
『家でおかしな点はありませんか』とか何とか言って。

それ以前から学校で色々とおかしかったが、先生が梓の家へ電話するレベルじゃなかったしな。

そして担任の電話以降、梓の母親が自棄になり、梓への暴力が加速した。

174: 2010/12/27(月) 02:14:26.50
澪「梓、ここでちょっと留守番しててくれないかな?」

梓「…………」

澪「嫌か?」

梓「…………平気。みおの部屋、好きだから」

澪「じゃあちょっと待っててな。そこのテーブルの上にある昨日買ったやつも適当に食べていいぞ」

澪「あ、あとそこの本棚にある漫画とか雑誌も読んでいいからな」

梓「…………」

澪「じゃあ、ちょっと出掛けてくる(何も聞かないのは、何となく察してくれてるんだろうな)」

178: 2010/12/27(月) 02:16:47.39
~梓の家~
澪「」ピンポーン

──ガチャ

梓母「はい、どちらさまですか」

澪(この人が……)

澪「あの、高校の同じ部活の者ですけど、梓ちゃんは……」

梓母「ごめんなさい。梓は昨日の夜から帰ってきてないんです」

澪「そうですか。携帯のほうに連絡を入れてみたんですけど、電源が入っていないらしくて」

梓母「本当、何処にいるんでしょうね。あの子」

澪(やっぱりどこか他人事だな。こうなったら──)ガサゴソ

179: 2010/12/27(月) 02:19:05.26
澪「あの、この鎖に見覚えはありませんか?」ジャラジャラ

梓母「さあ、何のことですか?」

澪「梓が全部話してくれました。母親に酷いことをされたって」

梓母「さあ、ちょっとよく分かりません……」

澪「本当、ですか?」

澪「梓は母にこの鎖で傷付けられたと言ってましたけど」

梓母「いったい何のことですか? 第一、娘を鎖で繋げる親なんて、普通そんな人いませんよ。常識で考えて下さい」

澪「…………」

澪「あの、一ついいですか?」

梓母「はい、何でしょう?」

澪「私がいつ鎖で『繋げる』なんてお話しました?」

186: 2010/12/27(月) 02:21:47.70
澪「この鎖で傷付けるといえば、縛り上げる、叩きつける、普通はそっちを想像すると思うんですが」

梓母「え、あ……」

澪「私は、あなたを捕まえて警察に連絡しようとか、そういうことは考えてないんです」

梓母「…………」

澪「ただ梓を、あなたの暴力から解放して欲しいだけなんです」

梓母「くっ……」

澪「お願いします!」

190: 2010/12/27(月) 02:24:38.77
梓母「わ、分かりました。警察に連絡しないという約束なら、そうします」

澪「そうしますって、どういうことですか?」

梓母「梓に暴力は振るいません」

澪「ありがとうございます」

梓母「じ、じゃあ用は済んだわね!」バタンッ

梓母(ふう……)

梓母(一時どうなるかと思ったけれど……)

梓母(あんな口約束守るはずがないでしょう)

梓母(今度あの小汚いドブ猫が帰ってきたら、絶対に逃げないようにしないと)

梓母(学校も辞めさせて、ずっと犬小屋に繋げておこうかしら)

梓母(そうね、それがいいわ)

梓母(ご飯は情から猫飯を一日二食与えてやってたけど、今度からは一日一食キャットフードでいいわね)

梓母(そうと決まれば、新しい首輪や鎖、キャットフード、今から色々買いに行きましょう。ふふふ……)

191: 2010/12/27(月) 02:27:22.20
~帰り道~
『梓に暴力はふるいません』

──カチャ

澪(なんとか聞き出せたな。こうしてICレコーダーで録音もできたし。梓の母親には嘘つく形になっちゃったけど)

澪(これと一緒に首輪や鎖を警察に持って行って、梓の首の痣なんかを見せれば流石に捕まるだろうな)

澪(ただ一番問題なのは、梓がそれを望んでるかだ……)

澪(曲がりなりにも母親で、父親が自頃したからああなったわけだし)

澪(自殺以前は普通の家庭だったはずだ)

澪(ある意味、あの母親も被害者なのかな……)

194: 2010/12/27(月) 02:30:03.39
~澪の部屋~
澪「ただいま」

梓「……みお、遅かったです」

澪「うん。ごめんな梓」

澪(やっぱり話すべきだよな……)

澪「……なあ梓」

梓「?」

澪「今、梓のお母さんに会ってきたんだ」

梓「…………」

澪「それで証拠も録ってきた。あとは梓が警察に助けを求めれば母親は捕まると思う」

梓「…………」

澪「…………」

梓「……捕まって……ほしいです」

梓「……お父さんを頃したあの人は許さないです」

澪「────え?」

197: 2010/12/27(月) 02:33:12.54
梓の話はこうだった。
昔から母親はああで、何かあると梓に暴力を振るっていた。

それを止めようと父親が割って入るが、母親は手首を押さえられただけでヒステリックに泣き叫び、
事あるごとに何度も警察に電話をしていたらしい。

外面だけは良いので、警察に話を聞かれたときも『夫が、私と娘に手を上げた』そう言い通し、父の言い分は通らなかった。

家に初めて警察が来たとき、梓は父を必氏に庇った。
しかし、当時小学生の梓の話など、真剣には聞いてもらえなかった。

そして父を庇った罰として、梓はより一層、母に酷いことをされたらしい。
それ以降、警察が来たときは、母の暴力が怖くて父を庇うことができなくなった。

中学生の頃、一度だけ父と逃げたことがあるらしい。
しかし母は、父の友人に話を聞いて回り、すぐに居場所を特定。罰として、梓への暴力がエスカレート。

そこまでされても、父は決して母を殴ったりはしなかったそうだ。
いや、怒鳴ったり殴ったりすると警察を呼ばれるので、実際は出来なかったのかもしれない。

200: 2010/12/27(月) 02:36:01.72
そして今から一ヶ月前、ふと、魔が差した──
母は梓に首輪をはめ、鎖で繋ぎ、庭に放置し始めた。

それを見た父は初めて母を殴った。

そして数日後、父は刃物で刺され、殺された。

母は警察に「夫に襲われ刺されそうになり、咄嗟に刺してしまった」と語った。
もちろんそのときの泣きじゃくる母の姿を梓は演技だと見抜いていた。

母の腕には刃物で切られた後──もちろん自分でつけたんだろう──があり、
警察は以前から中野家の事情を『暴力的な父親がいる家庭』と認識していた。

そして正当防衛が認められ、母親は無罪となり、警察が母親に配慮し、自殺と公表した。

202: 2010/12/27(月) 02:39:46.30
梓「お母さんは精神的にあまり強くないので、私が産まれて、子育ての心労からおかしくなったんだと思います」

梓「とにかくお母さんが怖くて、警察にも相談できなかったです」

梓「それでもお父さんは出来るだけ私を守ってくれて」

梓「抱きしめたり頭を撫でてくれたことは1度もないけど、私がお父さんに依存しないように、そう考えてだと思うんです」

澪「…………」

梓「現にもう私は、隣で抱きしめたり頭を撫でてくれる人がいないとダメですから」

澪「…………」

梓「……責任……とってください」

澪「……梓」

そして私は、梓の唇へ、そっとキスをした。

梓「っっっ///」

澪「…………」

梓「……も、もう一回です!」

澪「……ん」チュッ

梓「~~っっ///」ジタバタ

209: 2010/12/27(月) 02:45:59.24
そして、私と梓は警察に駆け込んだ。

一から事情を説明し、鎖や首輪、ICレコーダー、
梓の首の痣などを見て、事態を信じてくれたようだ。

梓の母の取調べが始まるとともに、家からは新品の首輪や鎖、
拷問器具らしきものまでが発見された。

後日、娘への暴行、夫の殺害を認め、梓の母はその大きな罪を償っている。

212: 2010/12/27(月) 02:48:28.83
~夜・澪の部屋~
澪(なんとか警察も信じてくれたな)

澪(しかし、今日一日で色々あったな)

澪(梓の母親に会いに行って、梓から事の真相を聞いて、警察へ駆け込んで……)

澪(そして、文字通り梓が独りになっちゃたな……)

澪(父も母も、兄弟姉妹は元からいないし……)

澪(子供の頃からこんな状態で放って置かれてるんだから、近しい親戚もいないだろうし)

澪「…………」

澪(そういえば梓とキスしたよな……)

澪「…………」

214: 2010/12/27(月) 02:50:34.85
そう思い、疲れて眠ってしまった梓の寝顔をそっと覗き込む。

澪(か、可愛いな……)

梓「…………」スースー

澪(顔ちっちゃいし……)ジーッ

梓「…………」スヤスヤ

澪(ほっぺたプニプニだし……)ツンツン

梓「…………」

澪「…………」ツンツン

梓「…………」

澪「…………」ツンツン

梓「……あの」

澪「…………」ツンツン

澪「あ……」

218: 2010/12/27(月) 02:53:37.55
澪「起きてたのか?」

梓「あんなにツンツンされれば誰だって起きますよ……」

澪「そっか(口調が戻ってる……)」ツンツン

梓「ち、ちょっと! やめてください!」

澪「あ、ごめん……」スッ

梓「あ……」

澪「え?」

梓「も、もう知らないですっ!」ガバッ(頭まで布団かぶる)

澪「…………」

219: 2010/12/27(月) 02:56:07.45
梓「あの、澪先輩」ヒョコ

澪「ん?」

梓「……ちゅー、してください」

澪「…………」

梓「…………」

澪「……うん」

梓「……お願い……します」

澪「…………」

澪「……ん」チュ

梓「んん……」

澪「はぁ……はぁ……」

梓「んちゅ……んん……」

澪「ちゅ……梓……んっ……」ドサッ

梓「んちゅ……みお……しゅき……れろ……」ギュッ


そんなこんなで色々あって……よくじつ!

221: 2010/12/27(月) 02:58:49.34
~翌日・日曜日~
澪「梓、自分の家へ帰るのか?」

梓「はい、お父さんの残してくれたお金もありますし、私の家はあそこですから」

澪「ここに住んでもいいんだぞ?」

梓「気持ちだけ受け取っておきます」

澪「そっか」

梓「……色々あって、頭がゴチャゴチャしてますけど」

梓「どこまでいっても、親は親なんだと思います」

梓「だからお母さんが捕まった今でも、ちょっと悲しいんだと思います」

梓「つらいことや悲しいことがいっぱいあって、私が産まれてから、お母さんはおかしくなって」

梓「それでも、私が産まれたときは、笑顔で抱いてくれたはずだから──」

梓「そのときだけでも、優しく愛してくれたはずだから──」

223: 2010/12/27(月) 03:01:19.14
梓「私を身篭ったお母さんは、あの家でお父さんと一緒に色々と想像してたと思うんです」

梓「『名前は何にしよう』とか『家族三人で旅行に行こう』とか『河原でバーベキューもいいな』とか」

梓「私にとってのあの家は悲しい出来事だらけですけど、お父さんやお母さんにとっては、楽しい思い出もあったと思うんです」

梓「そんな思い出がつまった場所だったら──」

梓「少しでも私を思ってくれた場所だったら──」

梓「私はあの家に帰ってもいいかなって、そう思ったんです」

澪「……うん。そう思ったなら、それがいいと思う」

梓「はい。それと、この三日間ありがとうございました」

澪「うん。それじゃまた明日、学校でな」

梓「はい。それでは、澪先輩」タッタッタッ

澪「…………」

澪(……澪先輩、か)

224: 2010/12/27(月) 03:03:55.73
~翌日・登校中~
律「おっす澪、おはよー」

澪「ああ、おはよ」

律「なんだ? 元気ないなー」

澪「さすがに疲れた」

律「……それで、終わったのか?」

澪「うん」

律「そっか……」

唯「あ、りっちゃん澪ちゃんおはよー」

228: 2010/12/27(月) 03:08:10.67
~放課後~
紬「今日はケーキよ~」

紬「イチゴタルト、ショートケーキ×2、モンブラン×2よ~」

唯「わぁ、おいしそ~」

律「おっし、選ぼうぜー」

唯「はいはい、私イチゴタルト!」サッ

律「じゃあ私はショートケーキ!」サッ

紬「私はモンブランにしようかしら」サッ

律「ほら、はやく決めろよー」

澪「ん? ああ……じゃあ私はこのモンブランで……」

律(澪のやつ相当疲れてるなー)

律(まあ色々あったみたいだしな。唯が空気読んで澪に何も聞かないくらいだもんなー)

229: 2010/12/27(月) 03:14:01.10
──ガチャ

梓「すみません! 遅れました!」

唯「あ、あずにゃんやっと来た!」

梓「ごめんなさい。放課後にちょっと寝ちゃったみたいで……」

律(梓もお疲れだな)

唯「あずにゃん、余ったショートケーキでもいい?」

梓「あ、はい。何でもいいです」

律「よし、じゃあみんなそろったな」

唯律「いただきま──」

梓「あ! ち、ちょっと待ってください!」

唯「ふぇ? どうしたの? あずにゃん」

梓「えと……ムギ先輩。ケーキ交換してもらってもいいですか?」

紬「ええ、いいわよ~。はい」

梓「あ、どもです」

231: 2010/12/27(月) 03:19:06.86
唯「あれ? あずにゃんってモンブラン好きだったっけ?」

律「確かいつもショートケーキ選んでたような……」

梓「あ、いえ……気分転換にモンブランを……///」

紬「ああ! 澪ちゃんとおそろいが良かったのね」ニヤニヤ

唯「あ、なんだそういうことかー」

梓「ち、ちょっと! 違います!」

律「別にそんな必氏にならなくてもいいだろー」

梓「だから違うんです! そんなんじゃないです!」

梓「みおからも何か言ってください!」

澪「……え?」

梓「あ……」

唯律紬「みお……?」

235: 2010/12/27(月) 03:25:06.97
梓「え、えと……み、見送るからって言ったんです!」

律(うわー、無理ありすぎ)

唯(あずにゃん、それはバレバレだよぉ)

紬「あらあらまあまあ」ウフフ

梓「み、澪先輩からも何か言ってやってください!」

澪「…………」

澪「……梓、ちょっとこっち来て」

梓「……はい?」トテトテ

梓「一体なんです──!?」お口にチュー

梓「んん~~っっっ//////」チュー

唯「おおっ! 澪ちゃん大胆っ!」

律「お、おい澪っ! みみ、見てるこっちが恥ずかしいぞ/// 」

紬「まあまあまあまあまあまあ」ウフフ

237: 2010/12/27(月) 03:28:04.74
澪「ぷはっ……はあ……はあ……」

梓「み、みおっ///」

澪「まあ、そういうことだから……みんなよろしくな」

唯「おおおっ! 澪ちゃん、あずにゃんと付き合ってるんだね!」フンスッ

律「ちくしょー梓に取られるとはああああ!! おめでとう♪」

紬「一年生の時からずっと思い続けてきた甲斐があったわね。梓ちゃん♪」

澪「梓」

梓「はっ! はいっ!」

澪「大好きだぞ!」

梓「うぅ……私も……大好きだよ、みお……えへへ///」




~おわり~

239: 2010/12/27(月) 03:29:25.35
最後まで読んでくださった方々ありがとうございました

最初は序盤みたいにマジキチにゃんに変なことさせるのを長々と書いてようと思ったんだが
ネタが全然思いつかないからキチった理由とか考えてたらこんなになってしまった……

こんな深夜までホント申し訳ない
粗めっちゃあると思うが、そこら辺はそっと見逃してくれ……

唯ちゃんちゅっちゅ一緒に寝るよ!

240: 2010/12/27(月) 03:29:34.12
おつかれgj

267: 2010/12/27(月) 18:40:38.14
>>266

oh……
キャットフードに続き気付かなかった
あと>>205とかも

ご指摘どうもありがとう

引用元: 梓「みんなのアイドル、あずにゃんです」