1: 2011/01/06(木) 12:17:25.57

 日曜の昼下がり。

 暇だから唯の家に押しかけたら、もっと暇だった。

 私はベッドに寝そべって、

 唯は椅子の背もたれに胸をつけて、とりあえず漫画を読んでいる。

 ぺらりぺらりと、安い紙をめくる音ばかり。

 あとは呼吸や心臓の鼓動。

 外で子供の遊ぶ声は、あまりしなかった。

2: 2011/01/06(木) 12:20:34.96

 ころがって、ベッドにうつぶせる。

 枕にあごをのっけると、唯の匂いがした。

 石鹸とか香水の強い匂いじゃなくて、

 あっためたミルクのような匂い。

 作為的な香りとは違う自然なやつだから、

 唯の匂いというほかない。

 意識的に、鼻呼吸。

 唯とじゃれている時を思い出した。

 やっぱり暇だ。とてつもなく。

4: 2011/01/06(木) 12:23:10.37

 何という漫画を読んでいたのかも忘れたが、

 いつの間にかページには裸の男女が描かれていた。

 女は霧のかかったように白い男の股間に顔をうずめて

 口をもごもご動かしている。

 男が女に、アイスを舐めるみたいにと言うと、

 女は頷いて霧に舌を這わせ始める。

 うげぇ、と思う。

 アイスを食べるたびに思い出してトラウマになりそうだ。

6: 2011/01/06(木) 12:25:32.10

 ふと、唯もこれを読んでいるのだなと思う。

 純朴そうな顔で、こんなものを本棚にため込んでいるとは。

 唯のほうを見る。

 今は、真剣な顔で少年マンガの展開を見守っているようだ。

 視線に気づいたのか、唯が顔を上げる。

 溜め息でも吐きたそうな目でぼーっと私を見ていたけれど、

 急にはっとした様子で椅子を立って、どたどたと駆けてきた。

 私の手から漫画がひったくられる。

8: 2011/01/06(木) 12:27:56.73

 唯はさっさと私の読んでいた漫画を本棚に戻してしまって、

 悩ましそうに首をぐりぐり回してから、ベッドに腰かけた。

 せわしく髪を掻きながら、唯は漫画を読むのを再開する。

 真っ赤な耳がちらちら覗いた。

 私は完全に暇つぶしの手段を奪われて、ぼーっとするほかない。

 枕にあごをうずめ、目は開けたままで、何も見ない。

 唯がページをめくる音は、ちょっとずつ静かになっていく。

 やがて、とん、と厚めの音で本は閉じられた。

11: 2011/01/06(木) 12:30:31.98

 ぼふぼふ布団を膝で踏みながら、

 唯が私の背中にまたがってきた。

 両肩に手を置いて、肘を背中につき、

 膝が慎重に片方ずつ腰に乗ってくる。

 寝転がり続けて、腰がこってきたところだ。

 背中で丸まる唯の重みが心地いい。

 唯が不満そうに、私の後ろ頭にこつんと頭突きをぶつけてきた。

 それから、体重をぎゅ、ぎゅっとかけてくる。

 しょうがないなと思いつつ、

 私はベッドに潰れてやった。

13: 2011/01/06(木) 12:33:00.54

 へふへふ勝ち誇ったように笑ったあと、

 唯もどさりと私の上に潰れた。

 しょうもない遊びだ。

 それでもちょっと楽しくなってしまうのは、

 私たちのヒマ度が危険値に達しているからだろう。

 このままでは命が危ない、とふざけたことを考える。

 私もすこし、へふへふ笑った。

 唯がだるそうに首を持ち上げ、あごを私の頭にのっけてくる。

 あごを枕にのっけるために不自然に曲げた首がつらくなってくる。

 結局枕に顔をうずめ、私は完全につぶれきった。

14: 2011/01/06(木) 12:35:29.80

 唯も同じように、私の頭に顔面をくっつける。

 鼻が押しつけられているのが分かる。

 枕をずらして、呼吸をしやすくする。

 私がすっと息を吸うと、唯の胸もふくらんだ。

 一緒になって、はあっ、と溜め息まじりに吐き出す。

 声はしなかったけれど、重なった体が私たちの笑い合ったことを伝えた。

 唯の顔が、ずりずり言いながらまた私の横に落ちてくる。

 鼻で息をしなくても、やわらかい唯の匂いを感じる。

16: 2011/01/06(木) 12:38:16.71

 すーすー、すーすー。

 耳もとの呼吸が、だんだん遅く、深くなっていく。

 さっきは少しだけ退屈がまぎれたような気がしたけれど、

 まったくもって単なる気のせいでしかなかったみたいだ。

 絶望的な暇のなか、

 人型布団の温もりの下で、私も眠りに落ちていく。

 唯の顔が、少しこちらを向いた気がした。

 けれど、そんな体勢はかなり不自然だから、

 頬にかかる寝息は無視し、私の錯覚ということに片付けた。

19: 2011/01/06(木) 12:40:30.73

――――

 ものすごく長い時間、眠ったような感じがする。

 砂糖を入れたミルクの匂いが、鼻いっぱいにしみついている。

 視界がはっきりしてくると、間近で唯が眠っていた。

 そういえば、唯を子亀のように乗せたまま寝てしまったのだ。

 この体のままならない感じはそれが原因か。

 唯の匂いが甘すぎて頭がくらくらする。

 長時間鼻に入れたせいもあるけれど、

 いつもより匂いが強いような気がした。

21: 2011/01/06(木) 12:43:00.75

 まばたきを繰り返しつつ、唯の顔を見る。

 幸福にまみれた寝顔は、けっこうな量のよだれをシーツに垂れていた。

 匂いのもとはあれか。

 上に乗っている唯が起きないよう、慎重に右手を動かす。

 そっと、シーツに乗った十円玉大のよだれだまりに指を触れる。

 指先に冷たい水気がしみつく。

 想像外の冷たさに、ちょっと驚いた。

 指を離そうとすると、これも予想以上に粘っこく伸びてきた。

 少し楽しくなってくる。

23: 2011/01/06(木) 12:45:27.46

 爪ですくいあげて、親指と人差し指でぬり合わせる。

 お風呂場でボディソープを塗るのと似ているけど、

 感触も匂いも音も違う。

 ひとり、テンションが上がってくる。

 右手をもう少し近くに持って来れないだろうか。

 唯が上手いことブロックされていて、確かな匂いや味やら、

 知りたいことは分からないままでいる。

 好奇心がうずく。

 まさかこのままでは終われない。

 私の目が自然と、

 今もよだれを溢れさす唯の口元に向かう。

25: 2011/01/06(木) 12:48:01.06

 おだやかな寝息を吐く唯の口。

 私は首を頷くように傾けて、そこに鼻を近づけた。

 唯の寝息にあわせて、鼻呼吸をする。

 無邪気なミルクの匂いが鼻をくすぐった。

 あたたかく吹きつける息が顔の横へ滑っていく。

 さらに鼻を口に近づける。

 唇がかすかに触れている気さえした。

 無理な体勢に首が痛むが、かまってはいられない。

 今度は息を吸ったときにあわせて、鼻から吸い込んでみる。

26: 2011/01/06(木) 12:50:31.20

 唯の唾液の匂いが、脳天に直撃した。

 私は思わず熱い息を吐いていた。

 いけないと感じても、

 いけないからやめようというところまで頭は回らなかった。

 口角から伝うよだれに目をやった。

 舌がべろりと吐き出されて、あごがぐいと前に押される。

 なにか想いにつき動かされる。

 それは間違いなく、好奇心などという子供じみた感情ではない。

 そして少なくとも、同性の友人に抱くべくものではないと分かっていた。

 でも、でも。

 私の舌はツンと尖って、唯の頬を伝うよだれの線をなぞっていた。

27: 2011/01/06(木) 12:53:04.04

 匂いからは想像もつかないほど、それは薄味だった。

 舌ですくい上げた唯のよだれが、口の奥へじれったく流れる。

 まったくの無味か。

 けれど少しだけ甘いように思うのは、本当にただの錯覚か。

 もっと量がないと、分からない。

 おそるおそる、唯の寝顔をうかがう。

 さっきまでよりも強く目を閉じているように見えた。

 なぜか、大丈夫だと判断した。

 もう一度、唯の寝息を吸いこむ。

28: 2011/01/06(木) 12:54:14.78
あらあらうふふ

30: 2011/01/06(木) 12:55:30.91

 薄く開いた唯の唇に、舌をねじ込む。

 ぬるぬると唇の間を這って、舌の裏側にある唾液の池を目指す。

 くちびる同士が合わさったが、今はどうでもいい。

 唯がうめいた。怖くて目を閉じる。

 舌が暖かい感触に包まれる。

 ほら、と誰かに自慢したくなった。

 ほら見ろ、やっぱり甘いじゃないか。

 少し調子に乗りかけたとき、

 唯の前歯が私の舌をきつく噛んだ。

32: 2011/01/06(木) 12:58:01.39

 震えながら目を開ける。

 唯の目はじっと私を見ていて、

 舌にしっかりと噛み付いて離してくれない。

 そのまま、唯は私の上に顔を持ってくる。

 舌がひどく引っぱられた。

 そしてさらに、私の顔をつかんで無理矢理に上を向かそうとしてくる。

 肩を浮かして、なんとか唯の要求に応えると、

 ようやく私の舌を放して、頬をもごもご動かし始めた。

 私は間抜けたらしく、口を開いたままそれを見守る。

 やがて、唯の顔がおりてきて。

 すぼめた口が、私の開けている口の中にすっぽりとおさまった。

35: 2011/01/06(木) 13:00:36.34

 その口が、またもごもご動くと、

 とろりとハチミツをかけるように、

 唯のよだれが舌に落ちてきた。

 もう、私の抱いていた唯の純真なイメージは完璧に崩れていたけれど、

 私はごくりと、渡された唾液を飲みこんだ。

 それを確認してから顔を上げ、唯はへふへふと笑った。

 そしてもとのように私をベッドに組み伏せて、

 また、昼寝を再開した。

37: 2011/01/06(木) 13:03:00.35

 唯が私の上で眠っている。

 眠っていてさえ、私の上にいる。

 勝ち誇ったような笑いを思い出しつつ、

 かなわないと悟った。

 潰れてやったと思っていたが、

 どうも否応なしに潰されていたらしい。

 私はまだおさまりのつかないものを抱えながらも、

 唯がこうして眠ろうと言っているのだから、

 こいつが満足するまで今は眠っていようと思った。


  おしまい

40: 2011/01/06(木) 13:04:51.57
これからってところで!じらすの上手いな!
乙!面白かった!

41: 2011/01/06(木) 13:05:32.54
きゃっきゃうふふ
乙!

46: 2011/01/06(木) 13:06:39.12
僕はどぅふふと笑った

49: 2011/01/06(木) 13:17:01.75
おつおつ
これはよかった

引用元: 律「唯の家に来たはいいがする事がない」