春香「最近のちーちゃんは、頭の中がプロデューサーさんで一杯みたいです」


春香「ねぇねぇ、ちーちゃんちーちゃん」

千早「何?」

春香「クッキー焼いてきたから食べよ!」サッ

千早「あ、いい匂い……折角だから、コーヒーでも淹れてくるわね」

春香「ありがとー。あ、濃い目のブラックでお願い」

千早「そのクッキー、そんなに甘いの?」

春香「いや、クッキーはそうでもないけど……」

千早「ふふっ。そういえば、プロデューサーも濃い目のコーヒーが好きなの。この前も、二人で喫茶店に行った時に」

春香「ああうん、長くなりそうだからその話は今度でいいや」

4: 2012/12/21(金) 01:12:32.13
(ガチャッ)

P「お、いいもん持ってるじゃないか」

春香「クッキー焼いてきたんです。一緒に食べませんか?」

P「勿論。ご一緒させてもらうよ」

千早「あっ、プロデューサー!」テテテッ

P「よっ、千早。今日も元気そうで良かった」

千早「プロデューサーの顔を見たお陰で、三倍増しです」ニコッ

P「ははっ、可愛いこと言うなぁ」ナデナデ

千早「あぅ……ふふふ……♪」ニコニコ

春香「あーもう尻尾振っちゃってまぁ」

P「千早は忠犬だもんな」

千早「も、もう……やめてください……」カァッ

春香「うん、こんな事だろうと思ったから先手を打ってブラック頼んだんだけどね。まだ来ないかなー」

5: 2012/12/21(金) 01:17:08.64
P「やっぱりクッキーは美味しいなぁ」ポリポリ

千早「春香のクッキーを食べると、ほっとするのよね」モグモグ

春香「うん、そのお言葉は嬉しいんだけど……」ゴクゴク

P「?」

千早「?」

春香「……砂糖、もっと少なくて良かったかなぁ」

P「そんな事無いと思うぞ」

千早「ええ、これくらいで丁度いいんじゃないかしら」

春香「うーん、なんだか胸焼けしてきちゃった」

P「具合が悪いのか? 無理はするなよ」

春香「うん、無理は良くないですよね」

千早「何が原因なのかしら……味見のし過ぎとか……?」

春香(原因は主に目の前で食べさせ合ってるカップルかなー)ズズッ

6: 2012/12/21(金) 01:21:46.89
P「でも、手作りのお菓子や料理って心に沁みるよな」

春香「プロデューサーさんは自炊するんですか?」

P「殆どしないな。どうも苦手でね……家で食べるのはもっぱら冷凍やお惣菜だよ」

千早「それじゃあ、栄養とか偏ってしまうんじゃ……」

P「一応、栄養には最低限は気を遣ってるよ。揚げ物が多すぎたりしない様にとか、野菜買ってきて切るくらいはやるし、ビタミン剤とかも飲んでるし」

春香「たまには手作り料理とか食べたくなります?」

P「まぁね。そういう時は小さい定食屋に行ったりするけど……家庭の味みたいなのも、たまに恋しくなるな」

千早「……」

春香「ちーちゃん?」

千早「あっ、いえ……プロデューサー、たまにはちゃんと栄養のあるものも、しっかり食べてくださいね」

P「はは、千早が作りに来てくれたりしたら喜んで食べるんだけど」

千早「ぷ、プロデューサー……」カァッ

春香「ちーちゃん、コーヒーおかわり」

10: 2012/12/21(金) 01:31:31.50
P「ふぅ。クッキーご馳走さん。ちょっと外回り行ってくるよ」

千早「あ……行っちゃうんですか……」シュン

P「ごめんよ。でもそんなに遅くはならないから……一緒に帰ろうな?」ギュッ

千早「絶対ですから……」ギュッ

春香「さっさと行ってらっしゃいませー」


(ガチャッ)

(バタン)


千早「…………」

春香「ほらほら、寂しいのは分かるけど、どうせあとで会えるし、そんなにしょげないで」

千早「いえ、その事ではなくて……いえ、その事もだけれど」

春香「ん? 何か悩み事?」

千早「悩み事というか……ちょっと、お願いしたいことがあって」

12: 2012/12/21(金) 01:37:42.43
春香「そして、次のオフの夜。私はちーちゃんの家に招かれていました」


春香「お邪魔しまーす」

千早「どうぞ上がって」

春香「……」チラッ

千早「ど、どうしたの?」

春香「ううん。久しぶりに来たけど、この部屋、随分変わったなぁ、って思って……」

千早「あ、えっと……その……」モジモジ

春香「やっぱり恋は女の子を変えるね」

千早「べ、別にそういうわけじゃないのよ! プロデューサーに買ってもらったり、プロデューサーが好きそうなものを見たりしてたら、いつの間にか……」アタフタ

春香「あー巧妙な惚気の罠だったかー」

千早「の、惚気なんかじゃ……」カァッ

春香「うんうん、正直肺の中に砂糖が詰まってる気分だけど、やっぱりちーちゃんは可愛いなぁ」

16: 2012/12/21(金) 01:46:20.09
春香「それでは張り切って参りましょう……」

春香「天海春香の、えんじょ~いくっきんぐ!」

千早「う、う~っ!」

春香・千早「「わっほい!」」

千早「……すごく、すごく恥ずかしい……」カァァッ

春香「大丈夫! 私達以外誰も見てないよ!」

千早「見られてる、気がするの……すごく……」

春香「気のせい気のせい! ところでちーちゃん、一つ質問なんだけど」

千早「な、何かしら?」

(パカッ)

春香「なんで『お弁当』なの? プロデューサーさんの家に行って夕ご飯を作ってあげるとかでも、というかその方が……」

千早「だ、だってそんなことしたら!!」ガタッ!

春香「わっ!? あ、そっか、スキャンダルになったら大変だもんね。ごめんね、私ったら……」

千早「い、家に上がるなんて……その、恥ずかしいし……まだ、そんなのは早いと思うし……」モジモジカァァァッ

春香「あーただの清純派思春期だったかー」

17: 2012/12/21(金) 01:50:26.39
春香「えへへ……でもちーちゃん、そんなのは早いって何が早いのかなー?」

千早「そ、それは……! は、春香のいじわる!」プイッ

春香「そっか。じゃあいじわるな私は帰るね」テクテク

千早「ま、待って! ごめん! ごめんなさい! 春香は優しいもん! いじわるなんかじゃないから!」ウルウル

春香(ふふ、冗談だよ冗談。それじゃあ始めよっか!)

春香「うわぁどうしようこのちーちゃんこのままお持ち帰りしたい」

千早「えっ」

春香「なんでもないよ?」シレッ

18: 2012/12/21(金) 01:55:48.81
春香「はい、それじゃあ今日のお弁当は、『ご家庭の味』を念頭に考えましょう」

千早「どんな具がいいのかしら……」

春香「メインを決めて、それに合わせるようにしよっか。お肉か、お魚か」

千早「プロデューサーは外食が多いから、魚の方がいいかしら……」

春香「そうだねー、じゃあ今回はお魚にしましょう! ところでちーちゃん」

千早「?」

春香「ちーちゃん自身の料理スキルは?」

千早「…………栄養は、考えているけれど」

春香「けれど?」

千早「…………包丁とかは、あまり」チラッ

春香「ゴミ箱にはお惣菜パックの山かぁ。プロデューサーさんと大差ないね」

19: 2012/12/21(金) 01:59:21.28
春香「じゃあ今日は簡単なメニューにしましょう!」

千早「ご、ごめんなさい……」

春香「ちーちゃん、大切なのは凝ってるかどうかじゃなくて、真心だよ!」

千早「真心……?」

春香「『愛は最高の調味料』、って言うでしょ?」

千早「っ……」カァァァァァァッ

春香「プロデューサーさんを想う気持ちがあれば、どんな料理だって美味しくなるよ!」

千早「春香……」

春香「それに、シンプルだからって味が劣るわけじゃないんだよ?」

千早「……ふふっ、それもそうね。先生、よろしくお願いします」ペコリ

春香「春香さんにお任せあれ♪」

21: 2012/12/21(金) 02:04:38.91
春香「というわけで、近くのスーパーで材料を購入しまして……」

千早「先生、今日の内容は?」

春香「ズバリ、かじきの照り焼き弁当です!」

千早「殆ど火とか使ったことないけれど、上手くいくかしら……」

春香「手伝ってあげるし、材料も多めに買ったから大丈夫! 自信を持って!」

千早「は、はいっ、先生!」グッ

春香「照り焼きをメインに、きんぴらとほうれん草の胡麻和えを加えて、ミニトマトを添えましょう!」

千早「プロデューサー、喜んでくれるといいけれど……」

春香「ちーちゃんが作ったものならどんなものだって喜んでくれるよ」

千早「そうね、プロデューサーのために、頑張る……えいえいおー!」

春香「その意気だよ、ちーちゃん!」

22: 2012/12/21(金) 02:08:35.79
春香「では、作る前に儀式を行います」

千早「えっ?」

春香「まず深呼吸。すぅー」

千早「……はぁー……」

春香「そして、作ってあげる人の顔を思い浮かべましょう」

千早「ふぇっ!?」

春香「はい、恥ずかしがらないで」

千早「あ、うぅ……プロ、デューサー……」カァッ

春香「その人のために真心を込めて作ると、胸に誓いましょう」

千早「……いつも、私達のために頑張ってくれてるプロデューサーのために……」

千早「……だ、大好きな、プロデューサーのために……」カァァァッ

春香「えへへ、絶対成功させようね!」

千早「……ええ!」

23: 2012/12/21(金) 02:13:38.25
春香「まずは皮を剥いてから、ごぼうと人参を棒状に刻みます。ちょっとお手本見せるね」

千早「ええ」

春香「ちょっと薄めに、斜めにスライスするの。初めてだから、厚さはそこまで気にしすぎないでもいいよ」

千早「斜めに……」

春香「滑らせて手を切らないようにね。左手は指が刃の下にならないように、気を付けて」

(トントントン)

春香「これくらいの厚さかな。時間がかかってもいいから、やってみて」

千早「こんな感じで……」トン…トン…トン…

春香「うん、多少分厚くなっちゃうのとか早さは気にしないで。慎重に……」

(トン…トン…トン…)

千早「ふぅ、終わったわ」

春香「そうしたらその薄切りを並べて、縦に刻んでいきます。こんな感じだよ」ザッザッ

千早「……こう」ザッ…ザッ…

春香「斜めになっちゃうと形が崩れちゃうから気を付けてね」

千早「え、ええ……」ザッ…ザッ…

25: 2012/12/21(金) 02:18:02.02
千早「ちょっと形が汚くなってしまったわ……」

春香「大丈夫だよ、味は変わらないから!」

千早「そうね、次に行きましょう」

春香「じゃあ、今度はレンコンを一口サイズの薄切りに。これは適当でいいよー。こんな感じ」ザクザク

千早「ええと……」ザク…ザク…ザク…

春香「うまいうまい! でも、焦らなくていいからね!」

千早「……」ザク…ザク…ザク…

春香「切れたら、ごぼうとレンコンは水にさらしておいて、人参は水で洗って水気を切っておきます」

千早「これで、置いておけばいいのかしら」ザーッキュッ

春香「じゃあ今度はほうれん草出してー」

千早「はいっ」ゴソゴソ

春香「では鍋でお湯を沸かして、ほうれん草を軽く洗いまーす」

千早「お湯……お湯……」カチッボボッ

千早「それで、ほうれん草を洗って……」ザザザッ

春香「そしたら軽く茹でるよー」

26: 2012/12/21(金) 02:22:38.72
春香「うん、軽く茹でたら取り出して、すぐに冷水で冷やします」

千早「えっと……」オソルオソル

春香「大丈夫だからね、別に中から化け物が飛び出してきたりはしないから」

千早「これを、冷水で……」ザババババッ

春香「軽く水を切ったら、適当な大きさにざく切りにします。ついでに、隣の唐辛子も種を抜いて刻んじゃって!」

千早「えいっ……やっ……」ザクッザクッ

春香「うん、ちーちゃん呑み込み早い! 包丁の扱い、慣れてきたね」

千早「家庭科の授業で昔やったのを思い出してきたわ……」ザクッザクッ

春香「とかノリノリでやってると、手を滑らせたり……」

千早「っいたっ!」ピッ

春香「えっ、ホントに切っちゃった!?」

千早「だ、大丈夫……ちょっとだけだから……」

春香「もうっ、だから気を付けてって言ったのに……」ペロッ

千早「ひゃわっ!?」

春香「はい、絆創膏。気を付けてね?」

27: 2012/12/21(金) 02:25:51.31
千早「は、はい……」

春香「大丈夫?」

千早「ええ、そんな大した傷じゃないから……残りも切れたわ」

春香「切れたらこれは置いておきます。そろそろ、ごぼう達のあく抜きできたかな」

千早「ごぼうとレンコンも、水を切るの?」

春香「Exactly(そのとおりでございます) そしたらいよいよ炒めるよ!」

千早「……!」ゴクリ

春香「ちーちゃんのフライパンは……テフロンだね。それなら、火にかける前にごま油を引いちゃおう!」

千早「え、ええと……」ドバッ

春香「ちーちゃん入れすぎぃ!!」バッ

29: 2012/12/21(金) 02:28:29.14
千早「ご、ごめんなさい……」シュン

春香「うん、まぁ仕方ないね、ほぼ満タンだもんね……」

千早「どうしよう……」

春香「幸い綺麗な鍋だから、掬える分は掬って戻しちゃおうか」

千早「じゃあ、これで火を」

春香「待って、これでも多すぎるよ。このまま炒めたら揚げ物になっちゃうよ……」

千早「うぅ」

春香「はい、キッチンペーパーで拭きとって」スッ

千早「一杯染み込むのね……」フキフキ

春香「これくらいなら大丈夫かな。じゃあ、フライパンを熱しまして」

千早「火を……」カチッボボッ

春香「あんまり強くしすぎないでね。フライパンが熱くなってきたなーと思ったら、唐辛子を投入!」

千早「よいしょ……」パラパラジュージュー

春香「そこに、ごぼう、レンコン、人参を投入して炒めます! 炒め過ぎると歯ごたえがなくなっちゃうから、軽くね?」

千早「は、はい、先生!」ジュージュー

30: 2012/12/21(金) 02:31:37.44
春香「火も通ったかな? そしたら醤油とお酒、みりんを加えて炒めて、汁気がなくなるまで炒めて……」

千早「液体が蒸発すればいいのかしら」ジュージュー

春香「そうそう! うん、香ばしい匂いがしてきたよぉ……」

千早「いい匂い……」

春香「なくなったら、火を止めていりごまを混ぜ混ぜ!」

千早「混ぜ混ぜ……!」ガチャガチャ

春香「あっ、そんなに勢い良く混ぜたら」

(ドバッ)

千早「……」

春香「……」

千早「零しちゃった……」グスッ

春香(大丈夫だよ、そんなにたくさんは零れてないから!)

春香「泣きべそちーちゃんやっぱり可愛いなぁ」

千早「え?」

春香「何でもないよ」シレッ

33: 2012/12/21(金) 02:34:18.41
春香「さて、きんぴらはこれで完成! 和え物はすぐできるから……照り焼き行くよ!」

千早「め、メインディッシュ……」ゴクリ

春香「あはは、ある意味きんぴらより楽だから大丈夫だよ。まずはフライパンを洗って……」

千早「えっと、フライパンを……」スッ

春香「あっ! いきなり洗っちゃダメ!」

千早「あつっ!?」

春香「たった今まで火にかかってたんだから熱いに決まってるじゃない! ほら、水で冷やして!」

千早「う、うぅ……」ジャー

春香「だ、大丈夫?」

千早「火傷が……」プクッ

春香「うわぁ、水膨れ……」

千早「し、心配かけてごめんなさい……頭の中が料理とプロデューサーで一杯で……」ショボン

春香「わざわざ後者を補足しなくてもよかったかな……」

35: 2012/12/21(金) 02:39:12.01
春香「いきなり熱い金属部分を洗おうとするんだもん……びっくりしちゃったよ」

千早「ご、ごめんなさい……」

春香「おっほん! では改めて、水で冷やしてから洗剤で……」

千早「先生、綺麗にしました!」ピカピカ

春香「良くできました! 誉めてあげましょう」ナデナデ

千早「……ふふっ♪」パタパタ

春香(ああもう犬みたいだなぁ)

春香「では、まずかじきに塩を振って、5分程度置いておきます」

千早「これくらい、かしら」ワシッ

春香「つ、掴みすぎぃ! 軽くでいいの軽くで! パラパラって感じで!」

千早「こ、こう……?」パラパラッ

春香「ディ・モールトベネ! じゃあ5分おいたらキッチンペーパーで水気を拭き取って……」

38: 2012/12/21(金) 02:44:21.83
~5分経過!~


春香「さっきと同じように、今度は普通の油を引いてから、フライパンを熱します。熱くなってきたかな?」

千早「ええ、多分……」ジジジ

春香「熱くなったら、中火でかじきの両面に焼き色を付けるよ。完全に火が通る必要はないからね!」

千早「ええと……これくらい?」ジュー

春香「もう少しかなー。……あ、それくらい!」

千早「じゃあ反対側も……」

春香「あ、静かにひっくり返さないと」

(ピチャッ)

春香「あつっ!?」

千早「は、春香?! 大丈夫!?」

春香「だ、大丈夫、ちょっと驚いただけだから……それより、焦げないように気を付けないと」

千早「あぇうっ!? あ、わ!」

春香「焦らないで!」

40: 2012/12/21(金) 02:48:10.51
千早「ちょっと焦げてしまったわ……」

春香「これくらいならセーフラインだよ。ちょっと、見た目は良くないかもだけど……」

千早「せっかく、プロデューサーに美味しく食べてもらおうと思ったのに……」シュン

春香「ねぇ、ちーちゃん」

千早「……?」

春香「料理で大切なのは、出来じゃなくて?」

千早「……まご、ころ」

春香「うん、だから大丈夫! これくらいなら、ちーちゃんの真心のアクセントだよ!」

千早「……先生、次は何をすればいいですか?」

春香「うんっ! かじきを取り出してフライパンをいったん洗って、醤油、みりん、お酒、砂糖を入れて、ひと煮立ちさせます」

千早「ひとにたち?」

春香「ちょっと沸騰させて、すぐ火を弱めるの。ひと煮立ちさせたら、かじきを再投入だよ!」

千早「りょ、了解です、先生!」

42: 2012/12/21(金) 02:51:58.57
春香「あとは煮汁を時々掬ってかけつつ、とろとろに煮詰まるまで焼けば……!」

千早「……」ドキドキ

(ジュワワワ…)

千早「美味しそうな香り……調味料が煮詰まって入り交ざる匂いと、魚の脂が弾ける匂い……」スンスン

春香「ちーちゃん、もう少しだよ!」

千早「ええ……!」

(タラーッタラーッ)

(タラーリタラーリ)

(トロットロッ)

春香「うん、オッケー……です……!」

(カチッ)

千早「かじきの照り焼き……完、成……!」

春香「頑張ったね、ちーちゃん……! そしたら最後に、いりごま、醤油、砂糖を混ぜたものに」

千早「さっきのほうれん草を、軽く絞って水気を切って和えて……」

千早・春香「「おかずの出来上がり!」」

43: 2012/12/21(金) 02:56:13.64
千早「ちょっと、不恰好だけれど……」

春香「ちょっぴり怪我もしちゃったね」

千早「ええ。でも……」

春香「?」

千早「……好きな人のために作ってあげるのって、とっても心が温かくなるのね」ホゥッ

春香「えへへ、そうだよ。ちーちゃんも、私がクッキーを作ってくる気持ち、分かった?」

千早「……ふふっ、少し分かった気がするわ」

春香「それじゃああとはお米を炊いて、ミニトマトも一緒に詰めるだけだね!」

千早「ええ! プロデューサー、食べてくれるかしら……」

春香「ちーちゃんの手作り弁当、プロデューサーさんが食べないと思う?」

千早「……でも、心配で」

春香「てやっ!」ビシィッ

千早「いたっ!」

春香「恋人を信用できないような悪い子はお仕置きです!」

千早「……そうね。先生、ごめんなさい」クスッ

44: 2012/12/21(金) 03:01:50.52
春香「それじゃ、明日詰めてく容器を――」

(ズルッ)

春香「ひゃっ!?」

千早「は、春香!?」

(ドンガラガッシャーン!)

春香「いたたた……」

千早「春香! 大丈……夫……?」

春香「だ、大丈夫だよ! えへへ……」ベタッ

春香「……べたっ?」チラッ

(ベシャァッ)

千早「…………私の、照り焼き……」ジワッ

春香「……あ、えっと、その……お約束、というか……あは……」オソルオソル

千早「私が、初めて、ぷろでゅーさーに、作ってあげた、照り焼き……」ポロッポロッ

千早「う……ぐすっ……ひぅ……」ボロボロ

春香「ご、ごめんなさぁいっ!!」

46: 2012/12/21(金) 03:04:42.38
春香「その夜、なかなか泣き止んでくれないちーちゃんを宥めて、余分に買ってあった材料でなんとか作り直しました」

春香「私が平謝りし、落としてしまった照り焼きもスタッフが美味しくいただいたことは、言うまでもありません」


春香「で、お弁当は綺麗に詰められた?」

千早「こ、こんな感じで、大丈夫かしら……」パカッ

春香「……うんっ! 女の子らしく、綺麗に詰まってるよ!」

千早「ご飯には梅干を乗せて……こっちも持って来たから」スッ

春香「準備は万端だね!」チラッ

(カチッコチッ)

春香「時間は、昼過ぎ……」

千早「そろそろプロデューサーが」

千早・春香「「帰ってくる……!」」


(ガチャッ)

P「ただいまー」

千早「!!」

48: 2012/12/21(金) 03:09:19.83
春香(ちーちゃん、頑張って!)

千早(春香……行ってきます)


千早「あの、プロ、デューサー……」コソコソ

P「お、千早。もう居たのか。今日は早いな」

千早「え、ええと、ですね……」モジモジ

春香(うわぁなかなか言い出せないちーちゃん可愛いなぁ)

千早「こ、こr」


P「なんだ、事務所に居るんだったら昼飯に誘うんだったよ」


千早「食べっ――え?」

春香(えっ)

千早「え、プロデューサー、どういう……?」

P「いや、さっきあんまりに腹が空いたから、ちょっと早かったけどたるき亭で食べて来ちゃってさ」

千早「食べて、来た……?」

P「ごめんごめん。来てるのに気付いてれば、メールでも入れたんだけど」

50: 2012/12/21(金) 03:14:25.37
(ドサッ)

(ゴトッ)

P「ん? なんか落としたぞ?」

千早「…………」

P「おい、指に怪我してるじゃないか。どうしたんだ?」

千早「…………」

P「……千早?」

千早「……ふ、ふふ……食べてもらえるとか、それ以前の、話じゃないですか……」

P「食べてもらえるって……え?」

千早「……一人で盛り上がって。馬鹿みたいですね。何をしているんでしょう、私」

(ダッ)

P「あっ! おい、千早っ!?」

(ガチャッ)

(タッタッタッタッタッ)

P「千早のやつ、どうしたんだ……ん?」

51: 2012/12/21(金) 03:18:54.37
P「これは……」ヒョイッ

春香「……えっと」

春香(やっちゃった……)

P「……あぁ、そういうことか」

春香「ちーちゃん、頑張ったんです。指切ったり、火傷しちゃったり」

P「……ひどいことしちゃったな」

春香「プロデューサーさんは悪くないです。驚かせようと思って、それで……」

P「まぁでも」

春香「?」

P「さしたる問題はないな」ガチャッ

春香「え、プロデューサーさん。どうするつもりですか?」

P「いやお前、そりゃ勿論追いかけるんだけど」

P「どうもお前らは前提を履き違えてるみたいだからな」

春香「?」

52: 2012/12/21(金) 03:22:48.29
(トボトボ)

千早「……折角、頑張ったのに」

千早「作り直しでも、また火傷しちゃって」

千早「でも、最初よりは綺麗に作れて、嬉しくて」

千早「……」ストン

千早「でも、そうよね。別に、お弁当を作っていくって、約束をしたわけでもないし」

千早「……プロデューサーは、悪くないわ」

千早「私が、勝手に」

千早「……」

千早「うっく……ひっく……」ポロッポロッ


P「まぁたここに居たのか」


千早「っ」ゴシゴシ

53: 2012/12/21(金) 03:27:48.05
P「お前、告白の時もここに逃げて来ただろ」

千早「……」

P「分かりやすいなぁ」

千早「……たまたまです」

P「本当は追いかけてきて欲しかったのか?」

千早「……そんなこと、ないです」

P「……隣、座っていいか?」

千早「嫌なんて、言えるわけないです」

P「よっこいしょっと」ストン

千早「……」

P「頑張ったなぁ、千早」グイッ

千早「あ……」

P「その手の様子からすると、だいぶ苦労したみたいだな」

千早「……はい」

P「ごめんな、またまた泣かせちゃって」

54: 2012/12/21(金) 03:31:47.45
千早「いいえ……私達が黙ってやってたのが、悪いんですから」ギュッ

P「でも、泣く必要はないと思うんだよな」

千早「え……?」

P「だってまぁ、たるき亭で食べて来たとは言ったけど」

(ゴソゴソ)

千早「あ……」

P「腹がいっぱいだとは、一言も言っていないわけで」

千早「えっと、それじゃあ……?」

P「丁度、物足りないと思ってたんだよ。それに」

千早「それに……?」

P「千早が作ってきてくれたお弁当を、俺が食べずに放っておけるはずないじゃないか」

千早「……!」パァァァァ

P「お、やっと笑ったな?」

千早「プロデューサー!」ギュゥッ!

P「おいおい、弁当箱ひっくり返すぞ」

56: 2012/12/21(金) 03:35:43.28
P「それじゃあ、開けるぞ?」

千早「頑張って、詰めました……」

P「では、御開帳……」

(パカッ)

千早・P「「あっ」」

千早「……そういえば」

P「さっき、お前落としてたな……」

(ゴチャッ)

千早「う、うぅ……」ウルッ

P「泣くな泣くな弱虫。ほら、ちょっと崩れちゃってるけど、ちゃんと食べられるよ」

千早「綺麗に……詰めたのにっ……!」ポロポロ

P「千早、これは春香に教わりながら作ったのか?」

千早「は、はい……」グスッ

P「見た目が大切だって言われたか? 大切なのはなんだって言われた?」

千早「…………まご、ころ」

58: 2012/12/21(金) 03:41:01.56
P「ならバッチリだ。千早の真心が、弁当箱から溢れてるよ」

千早「プロデューサー……」ゴシゴシ

P「それじゃあ、いただきます」ペコリ

千早「……はい、召し上がれ」ニコッ

P「……これは、魚の照り焼きに、きんぴら……それに胡麻の和え物とトマトか」

千早「かじきの照り焼きと、きんぴらはごぼう、レンコン、人参で……ほうれん草とトマトを添えて、栄養に気を付けてみました」

P「いただきます」ハムッ

千早「……」ドキッドキッ

P「うーむ、ちょーっとかじきがしょっぱすぎるかな?」

千早「あう……」

P「きんぴらも形が揃ってないし、炒めすぎかなー」モグモグ

千早「うぅ……」


P「でも、安心したよ」

千早「え?」

59: 2012/12/21(金) 03:46:49.20
P「まだまだうまく作れないってことは、これから千早は、俺のために料理が上手くなっていってくれるってことだろう?」

千早「ぷ、プロデューサー……」

P「それって、すごく嬉しいよ」

千早「は、はいっ! 私、プロデューサーのためにもっともっと上手くなります! プロデューサーの、ために!」

P「自分のために、可愛いアイドルが料理を練習してくれる……男冥利に尽きるな……」

千早「そ、そう言ういい方は恥ずかしいです……あ、それと!」ゴソゴソ

P「あ、そういえばもう一個魔法瓶があったな」

千早「コンソメスープも作ってみたんです。魚じゃない味も欲しいかな、と思って」コポコポ

P「気が利くなぁ千早は。いい子だ、誉めてやろう」ナデナデ

千早「あふ……ふぁ……。もっと誉めてください、ぷろでゅーさー……」トローン

P「甘えん坊め。いい子いい子……はぁ。冬にこれは、暖まるな……」ゴクゴク

千早「ぷろでゅーさー……♪」ピコピコ

60: 2012/12/21(金) 03:52:22.24
千早「今日のお弁当……お口に合いましたか……?」オソルオソル

P「ああ、好きな味だよ。ただ、ちょっと味付けが濃かったけどな」モグモグ

千早「そんなに、でしょうか。ちょっと一口いいですか……って、今口にあるので最後ですね」

P(んー、そうだなぁ)ムグムグ

千早「家に少し残ってるから、帰ったら食べてみようかしら……」

(トントン)

千早「なんですか? プロ――」クルッ

P「んっ」

千早「んんっ!?」カァァァッッ!

P「ん……」

千早「んぅ……」プシュウウウウウ

P「っぷはぁ……な、ちょっと味濃いだろ? ……千早?」

千早「…………」

千早「」バターン

P「千早ぁーーーーっ!?」

62: 2012/12/21(金) 03:58:56.71
春香「はぁ……とまぁ、結局そうなるんだね、あなた達は」

千早「もう、プロデューサーったら、いきなり……!」カァァァァッ

P「わ、悪かったよ。あまり深く考えてなくて」

千早「初めての、キスだったのに……」カァッ

春香「えっ」

P「あー……そういや、そう、だな…………」

千早「で、でも、悪くは、なかったなぁ、とか……思ったり、です、ね……」プシュウウウウ

春香「さて、コーヒー入れてこよっと」スクッ

P「あの時の千早、気絶しながら幸せそうだったなぁ」

千早「えっ?!」

春香「ええと、どこにしまってあるっけ……」ゴソゴソ

P「ほら、この写メ。可愛く撮れてるだろ?」

千早「?! や、やだっ! 消して、今すぐに消してください!!」ピョンッピョンッ

春香「あったあった。誰だろ、豆とミルなんて置いてったの……」

64: 2012/12/21(金) 04:03:53.44
春香「そういえば、お弁当はどうするの?」グルグルパキパキ

P「これから定期的に作ってくれることになったよ」

千早「料理をするっていうのも、いいものだな、って思えたから……」

春香「うんうん。調理スキルはあって損はないしね」グルグルパキパキ

千早「春香。その……色々と、ありがとう」

P「なんだか、お世話になってばかりだな」

春香「いえいえー、お気になさらずー」グルグルパキパキ

千早「ぷ、プロデューサー。明後日って、お昼は事務所にいらっしゃいますか?」

P「ああ、明後日は事務仕事だけだからな」

千早「でしたら、その……また、お弁当、作って、持っていきます……」カァッ

P「今回は和風だったからなぁ……じゃあ次はちょっと洋風なものがいいかな?」

千早「は、はいっ! 頑張ります!」

春香「うーん、やっぱり細かく細かく徹底的に挽くのは時間がかかるなぁ」グルグルパキパキ

65: 2012/12/21(金) 04:09:08.36
P「千早はどんな様子で作ってたんだ?」

春香「それはもう一生懸命でしたよ。美味しく作るんだ、食べてもらうんだ、って」グルグルパキパキ

千早「は、春香! あうぅぅぅ……」ボッ

P「でも千早、怪我には気を付けてくれよ?」

千早「気を付けています。これでも」

P「さっきも手の怪我を見て……本当に心配したんだぞ?」

千早「プロデューサー……」

春香「うううう、豆が、豆が一向に減らない……」

P「ほら千早、見せてみろ」グイッ

千早「あ……」カァッ

P「こんなに怪我して……」ギュッ

千早「でも、プロデューサーのためですから……痛くもなんともありません」ニコッ

P「千早……」

千早「プロデューサー……」

春香「うん、ずっと突っ込まない様に我慢してたんだけどね? 事務所内で桃色空間の形成はご遠慮ください」

67: 2012/12/21(金) 04:12:41.84
P「あ、そろそろ時間だな」スッ

千早「……あ! 画像! 消して! 消してください!!」

P「やーだよ。それじゃあ春香、留守番頼むな」

千早「うぅぅ……」カァァァッ

春香「ちーちゃん、諦めよう。お仕事に影響しちゃうよ?」

千早「う、うぅ、春香ぁ……」ウルッ

春香「はいはい、あとで泣き事なら聞いてあげるから。それじゃあお二人とも行ってらっしゃいませー」グルグルパキパキ

千早P「「行ってきます」」バタン

春香「……」


春香「……やっと挽き終わったよ、コーヒー豆」

春香「……じっくりと、苦く苦く淹れようっと……」



おしまい

70: 2012/12/21(金) 04:21:55.65
書いてる内に超腹減ってきた
これはもろ刃の剣だ、さっきからPC周りを徘徊してる蜘蛛さんすら美味しそうに見えてきた
なんか食ったら寝る、読んでくれたやつ乙

71: 2012/12/21(金) 04:25:04.66
おつ

14: 2012/12/21(金) 01:41:50.45
>>13
春香「清純派ちーちゃんの初めての悩み」
春香「清純派ちーちゃんと健やかな日々」

お気に召しましたらどうぞ

引用元: 春香「清純派ちーちゃんが真心を込めて」