1: 2012/10/26(金) 22:06:00.41
春香「お疲れ様でーす!」

伊織「お疲れ」

P「!!」

P「ぎ……ぎぁあああああ水瀬伊織だぁあああああ!」

春香「え、え!?」

P「ひいいいいぃ……!!」

伊織「はぁ……まったくホント情けないわねこのヘンタイは」

春香「い、伊織、プロデューサーさんに何かしたの!?」

伊織「別に大したことじゃないわよ」

伊織「ただ三日間監禁してキス漬けにしただけ」

春香「……なんだと?」

4: 2012/10/26(金) 22:11:45.42
春香「今キスって言ったのかな?」

伊織「ええ、言ったわ」

春香「監禁、キス!? 何がどうなればそんなことになるの!?」

P「イオリコワイイオリコワイイオリコワイ」

伊織「落ち着きなさい春香。私が悪いわけじゃないわ。全部この男が悪いのよ」

P「コワイオリ……コワイオリ……」

春香「ちゃんと説明して!」

伊織「じゃあもったいぶっててもしょうがないから言ってあげるけど」

伊織「私、先週この男に告白したの」

春香「!」

5: 2012/10/26(金) 22:13:48.89
あー監禁されてー

7: 2012/10/26(金) 22:17:31.44
伊織「そうしたら何て返されたと思う? ありえないわよコイツ」

伊織「俺は年下は守備範囲外だから無理だ、だって」

伊織「あとプロデューサーとアイドルの関係だから普通に無理だ、だって」

春香「あ、ちょっと……」

伊織「ムカつくでしょ?」

春香「うん……」

伊織「そうしたら監禁するのが世のため人のためってもんでしょ?」

春香「うん……いや! そんなの間違ってるよ! それ全部伊織のためだよ!」

春香「フラれた腹いせに監禁だなんて、非道義的!!」

P「コワイ……コワスギイオリ……」

伊織「まあちょっと落ち着きなさいよ春香」

9: 2012/10/26(金) 22:22:49.03
春香「これが落ち着いてなんていられないよ! プロデューサーさんにヒドいことを!」

伊織「ちゃんと有給扱いだから大丈夫よ」

春香「そういうことじゃない! 監禁だなんて……それにキス漬け!? どういうこと!?」

伊織「ハァ……ならいい? よく考えてもみなさいよ」

伊織「目の前には私をフったことで監禁されたプロデューサー」

伊織「この男を何とかして自分に振り向かせたい」

伊織「壁は社会通念と嗜好。言葉で押したって何の意味もない。ならこの場合の最善手は?」

春香「キス」

13: 2012/10/26(金) 22:28:06.47
伊織「ご名答。豊富な恋愛経験があるならともかく、私たちはそこにおいては雑兵も同然」

伊織「だったら純真さを活かして唇に頼むのが常道、でしょう?」

春香「うん……いや違う! そこはフられちゃったんだから潔く退くべきだよ!」

春香「監禁してる前提もおかしいし!」

伊織「潔さが常に美徳とは限らないわ。いい春香、世の中を常に疑ってかかりなさい」

伊織「『潔く退け』、『決して諦めるな』――世の中はこの二律背反を平気で強いてくるの」

春香「ううぅ、何が正しいの……!?」

伊織「今の春香は正解よ。人は真理に直面すれば思い惑うものなの」

春香「うん……違う絶対違う! そうだとしてもやりすぎだよ!」

春香「だってプロデューサーさんこんなに怖がってる!」

P「コワイ……」

春香「キス漬けって、何をしたの!?」

15: 2012/10/26(金) 22:33:32.16
伊織「冷静になりなさい春香」

春香「ぐっ……」

伊織「冷静にならなければ見えるものも見えなくなるわ」

伊織「紅茶でも淹れましょうか」

春香「要らない! 早く答えて!」

伊織「そうカッカしないでよね。私は春香と敵になんてなりたくないの」

春香「いいから答えて。キス漬けって具体的に何なの!?」

伊織「あまり大きな声を出さないでほしいわ。人に聞かれて気持ちのいい話じゃないんだし」

伊織「小娘でもあるまいし」

春香「そっちだって小娘のくせにっ……」

伊織「キス漬けが何かって? そのままの意味よ」

19: 2012/10/26(金) 22:39:48.21
伊織「春香……想像力を働かせて」

伊織「今のあなたはお腹を空かせた小動物。目の前にはずっとずっと追い求めてきた甘美な果実」

伊織「歯を立てれば、舌をくるみこむほどたっぷりの甘い汁」

春香「……ごく」

伊織「口にすれば本能をふやかし、脳髄をとろめかすような刺激の洪水」

伊織「くすりそこのけの勢いで、あなたはみずみずしく蹂躙されるの」

春香「やだ……やだぁ……」

伊織「ならその果実がもし、プロデューサーだったら?」

伊織「甘く狂おしく焦がれる初恋。その目当てが拘束され無防備にさらされていて」

伊織「それが今あなただけのものだとしたら?」

春香「めっちゃキスする」

22: 2012/10/26(金) 22:45:05.84
伊織「それが答えよ」

春香「え? あ……あああ……っ!!」

伊織「くす、春香、あんたってもしかして」

春香「やめて! 言わないで!」

伊織「くすくす」

春香「………っ!」

伊織「良いわねその『眼』。そんな闘気がみなぎった視線を向けられたら」

伊織「――たかぶっちゃうわ」

春香「卑怯者……奸佞の徒!」

伊織「春香……あんたまだ『理性』なんて人間の負の遺産にとらわれてるの?」

25: 2012/10/26(金) 22:50:34.90
春香「何をっ……!」

伊織「ヒトの歴史なんて生命の歴史に比べれば刹那にも満たない寸陰の出来事」

伊織「そして、かつて広がっていたのは『理性』なき『ケダモノ』たちの世界」

伊織「そこにはルールも秩序もない。ただ『喰らう』か『喰らわれるか』だけ」

春香「伊織……あなたまさか」

伊織「ええ、そうよ。私が望むのはその『ケダモノ』たちのための世界」

伊織「世界をかつての姿に戻す」

伊織「私はそのためにアイドルになったの」

春香「なんてこと……!」

30: 2012/10/26(金) 22:55:28.21
春香「……させない」

伊織「何ですって?」

春香「そんなの、絶対にさせない!」

伊織「……できるのかしら、あんたに?」

春香「伊織の考えは間違ってる! 私たちは立ち止まって、考えるから進めるんだよ!」

春香「思いやりや反省が私たちを成長させるの!」

伊織「前時代的で化石のような考え方だわ。何の面白みもない」

春香「たとえプロデューサーさんにキスしちゃっても! もし『立ち止まる』ことができれば」

伊織「ところが」

春香「え……?」

31: 2012/10/26(金) 23:01:19.72
伊織「いい春香? 冷静になることは確かに必要よ。それには諸手を上げて同意するわ」

伊織「でもそれは『理性的であれ』という意味ではない」

伊織「『本能の声を聞け』という意味よ」

伊織「『内なる無我を啓発しろ』『耳を澄ませて主体を明け渡せ』」

春香「そんなこと……!」

伊織「私はアイツにキスをしたわ」

伊織「でもアイツは残された『理性』で抵抗するの。『やめろ、やめてくれ』」

春香「っ……」

伊織「私の唇に必氏に身をよじらせて抵抗する、あまりに脆弱な成人の男」

伊織「さっきまで小動物だった私は、この瞬間、自分が捕食者にすり替わっていることを自覚する」

33: 2012/10/26(金) 23:07:29.17
伊織「キスを繰り返すたびアイツはよがり泣く。『やめてくれ、こんなことをして何になる』」

伊織「美しい弦楽器を奏でているような錯覚。陵辱の愉悦。享楽の底なし沼」

春香「いや……いやぁっ……」

伊織「普段、辣腕をふるってアイドルたちを指揮する面影はどこにもない」

伊織「口元からは私の唾液が泡立ちながら滴って、両目はとろんと据わっていて」

伊織「身体は刺激を悦ぶようにぴくぴくと震えているの」

春香「ううぅ……」

伊織「私はその姿を見て、今が絶頂にあるような多幸感に包まれると同時に」

伊織「崖から転がり落ちるような背徳の螺旋に身をゆだねた」

春香「私も」

38: 2012/10/26(金) 23:12:45.45
伊織「なら、それが答え」

春香「あああぁっ……いやぁあああ……!!」

伊織「春香、あんたそろそろ自分でも気がついてるんじゃないの」

春香「もうやめてぇっ!!」

伊織「――あんたも『こちら側』の人間だということに」

春香「ウソ……嘘っ……!」

伊織「人間は理性的な生き物なんかじゃないわ……」

伊織「大多数の人間は『脳が身体を従えている』と考えがちだけれど」

伊織「本当に究極的な局面では、『身体が脳を支配する』のよ」

伊織「何故ならそれこそが、『種』の偽らざる姿なのだから」

春香「違うっそんなの……!」

伊織「だから絶望することなんてないわ。春香がそう考えてしまうのも詮無いことなんだから」

39: 2012/10/26(金) 23:16:02.73
春香「私じゃない、伊織がっ……」

伊織「目を背けるんじゃないわよ!!!」

春香「―――」

伊織「……本当にそう?」

春香「……え?」

伊織「自分は違うって、自分の心に誓って言えるのかしら?」

春香「そ、そんなの決まって……」

伊織「愛するプロデューサーに恋心に押されるまま告白して、断られて」

伊織「本当に愛していたからショックも計り知れなくて」

伊織「同じ経緯をたどって、同じ状況に立って、同じことをしなかったと言えるの?」

春香「正直五分五分」

41: 2012/10/26(金) 23:21:35.83
伊織「ふふ、良いわね。本当に『素質』があるんじゃない?」

春香「あああぁっ……いやぁあああ……!!」

伊織「理性なんて無意味なのよ、春香」

伊織「大いなる大義のもとに並べば、理性なんてまず始めに消し飛ぶもの」

伊織「文明は研鑽を重ねた理性の産物とか考えてるなら、唾棄しなさい」

伊織「平和も、戦争も、略奪も――すべて『本能』のみが成し得るものよ」

春香「あああぁっ……いやぁあああ……!!」

伊織「ねえ春香、何が悪いの?」

伊織「よく考えて。内なる声に耳を澄ませて」

伊織「アイツを監禁することの何がいけないっていうのかしら」

44: 2012/10/26(金) 23:25:39.43
春香「そんなの……いけないからだよっ……」

伊織「何かしらその屁みたいなトートロジーは」

春香「いけないからっ……そう、法律でっ、犯罪だから……!」

伊織「まだそんな『くびき』に縛られているの? 法律? 犯罪?」

伊織「ヒトが均整に見せかけて作ったものなんて、圧倒的な力の前では無力よ」

伊織「水瀬財閥が警察に圧力をかける……そんなちょっとした力学で崩れる」

春香「だとしても、プロデューサーさんが傷ついてる!」

伊織「傷ついて? ええそう……そうでしょうね」

伊織「あんたにはそう見えるんでしょうね」

春香「――!?」

伊織「でも、幸福って多角的に検証されるべきだと思うわ」

48: 2012/10/26(金) 23:30:06.89
伊織「呆けた老人が傍目の印象に反して幸福なように」

伊織「しかし彼自身は幸福であることを自覚できないように」

伊織「真の幸福は、一つの視点で、一つの瞬間で、一つの極では決まらない」

伊織「もしかしたら破滅の先にあるかもしれないじゃない?」

春香「いやぁあああ……!!」

伊織「じゃあ春香、私とプロデューサーの間を遮るものって何?」

伊織「プロデューサーが私の元に堕ちるのが真の幸福だとすれば」

伊織「誰がそれを止める権利を持ってるっていうのかしら?」

春香「おそらく誰も持っていないのではぁあああ……?」

55: 2012/10/26(金) 23:35:17.42
伊織「ねえ春香、取引をしましょう?」

春香「え……?」

伊織「これはあんたにとっても悪い話じゃないわ。むしろ幸せにしてあげられる」

伊織「だって私たちは同胞でしょう?」

春香「わたし……私、はっ……」

伊織「私があんたに望むことはたった一つ。簡単なことよ」

伊織「この部屋からしばらく出て行ってちょうだい」

春香「!?」

伊織「私とプロデューサーを少しのあいだ二人きりにしてほしいのよ」

58: 2012/10/26(金) 23:39:18.88
春香「そんな、そんなことしたら……」

伊織「その代わりあんたには望むものを与えるわ。私にはアイツ以外に価値なんてないし」

伊織「いくら積めば出て行ってくれる?」

春香「っ! バカにしないで!」

伊織「五千万? 一億?」

春香「そんな大きいお金のこと言わないで!」

伊織「ふふ、じゃあどうすれば出て行ってくれるの? 頭の悪い私に教えて?」

春香「私はそんな伊織になんて屈しない! プロデューサーさんを守るんだから!」

伊織「そう……そうなの」

伊織「じゃあやっぱり……『ケダモノ』らしく、本能に訴えかけるべきかしら?」

61: 2012/10/26(金) 23:44:33.73
春香「!! 何をっ……」

伊織「そう警戒しないで。こっちに近づきなさいよ。話ができないでしょ?」

春香「何する気――」

伊織「嫌ね。これよこれ」

春香「そ、れって」

伊織「メモリーカードよ。ある一部始終をおさめた記録」

春香「―――」

伊織「今春香が思い浮かべた内容で正解よ」

春香「ちがっ、わたっ」

伊織「これにはプロデューサーを監禁していた時の映像が入っているわ」

62: 2012/10/26(金) 23:48:57.34
春香「伊織……っ!」

伊織「ほしくない? 欲しいはずよね? だってさっきまでありありと思い浮かべていた情景が」

伊織「この中に再現されているんだもの」

伊織「快楽のるつぼに堕ちたプロデューサーの姿が、ほとばしる煩悶が」

春香「ほしいわけない……!」

伊織「本当は私が愉しむために撮っておいたんだけどね」

伊織「特別に同志の春香にはプレゼントするわ。きっと最高の映像でしょうね」

春香「やめて……同志なんてっ」

伊織「常識だの理性だのいうベールを剥がされて喜悦にまみれた男を観る、極上の視覚体験」

伊織「そんな映像をおさめたメモリーカードがあんたは欲し……?」

春香「い……くない!」

春香「欲しくない!」

64: 2012/10/26(金) 23:53:31.45
伊織「そう、なかなか頑張るわね」

春香「当たり前!」

伊織「認めてしまえば楽になるのに。自分の内なる『ケダモノ』を」

春香「そんなものいない! 惑わされない!」

伊織「そう……残念ね……」

伊織「少し挑発しすぎたかしら。ここまで強情になられると困ったわ。どうしようかしら」

伊織「打つ手無しね。じゃあ、最後に一個だけ」

春香「………」

伊織「これに一億円もつけるって言ったらどうする?」

春香「そんな大きいお金のこと言わな――んむっ!!??」

67: 2012/10/27(土) 00:01:55.82
春香「ん、んんぅっ……!!??」

伊織「ん、ちゅ……」

春香(何これ、私っ、キス? ……キスされてるの!?)

春香(しまった、距離をとることを忘れて、許してしまった――)

伊織「ちゅるっ、ちゅむ……」

春香(伊織、伊織っ! キスで私を手篭めにしようっていうの!?)

伊織「あむん……ちゅるる」

春香(こんな下劣な手段をとるなんて、相手も困窮している証拠!)

春香(無理やり引きはがしたっていいけど、私はアイドル、そんなことしない)

春香(正々堂々受けて立つんだから!)

伊織「ちゅりゅるっ」

春香(絶対にキスになんて屈したりしない!)

69: 2012/10/27(土) 00:06:27.37


春香「んほおおおおおおキス気持ちいいのぉおおおおおおおお」

72: 2012/10/27(土) 00:07:40.12
堕ちんの早すぎだろwwwwwww

74: 2012/10/27(土) 00:08:26.02
春香「………」

春香「………」

春香「……結局、部屋から追い出されちゃった」

春香「ごめんなさいプロデューサーさん……私、何て弱い……」

春香「『プロデューサーさんを守る』だなんて言っておいて」

春香「ううっ……ぅっ……」

春香「でも伊織の尋常ならざるテクニックが私の想定を超えていたから致し方ない部分もある」

80: 2012/10/27(土) 00:13:10.83
「ぎ……ぎぁああああああああああ!!!!」



春香「!?」

春香「いまの、プロデューサーさんの声!?」

春香「中でっ、いったい何が!」

ガチャンガチャン!

春香「くっ、開かない……当然ながら鍵が……!」

春香「今度こそ助けなきゃ、でもどうすれば」

春香「……思い返せ、私はアイドル」

82: 2012/10/27(土) 00:17:14.96
春香「今までずっと自分を律して打ち込んできたんだ」

春香「ヒトの感情を知らない『ケダモノ』なんかに負けちゃいけないんだ……!」

春香「冷静になれ、『理性的』に……」

春香「私はアイドル、こんな小さな壁につまずいてる場合じゃない!」

ガチャンガチャン!

春香「ひらけっ、開けぇっ!」

ガチャンガチャン!

春香「自分のやってきたことを今ぶつけるんだ!」

ガチャンガチャン!

春香「プロデューサーさんを助けるんだ!」


春香「ひらけっ」


春香「開けぇっ!!!」

84: 2012/10/27(土) 00:21:31.56
ガチャッ!!


春香「開いた――!!」


伊織「プロデューサーぁあ/// すきっ、だいすきぃ///」

伊織「ちゅっちゅ/// ちゅっちゅ/// いおりんのちゅっちゅ///」

春香「………」

伊織「いおりんはね、プロデューサーのことがだいだいだいだい……」

伊織「だぁあーーーいすきなのよぅっ、にひひっ/// ちゅっちゅ/// ちゅっちゅ///」

伊織「にひ……ひ……」

春香「………」

87: 2012/10/27(土) 00:24:14.08
事務所でなにしてんだ…

90: 2012/10/27(土) 00:26:24.92
春香「そこまでだよ!!」

伊織「くっ……何故!? 施錠は完璧だったはずなのに」

春香「確かに施錠は完璧だった。でも伊織、最も単純にして重大な事実を見逃してない?」

春香「閉まった扉を開けるのは――鍵だよ」

伊織「それは……合鍵……!」

春香「ここ最近、私は早めに事務所に来て歌の覚えこみをしていたの」

春香「だから小鳥さんが融通して私に合鍵を渡してくれていたんだよ」

伊織「なんてこと……すごいガチャガチャ言わせて『開け』って連呼してたのに」

伊織「実際は鍵を回していただけなんて……!」

95: 2012/10/27(土) 00:31:03.02
春香「これが私のアイドルとしての力」

春香「積み重ねてきたものの証。自分自身を律してきた努力がくれた突破口」

伊織「理性が……」

伊織「あんたの『理性』が……私の『ケダモノ』を出し抜いたとでも言うの!?」

春香「伊織が思うならそうなんだよ」

春香「あなたは一時の感情に流されてアイドルを捨てた。私は捨てなかった、それだけ」

伊織「認めるわけないじゃないそんなの!!」

春香「伊織ィっ!!」

伊織「はるかぁッ!!」

伊織「まだ――まだやれる!」

伊織「まだ私は終わったわけじゃ――」


「いいや、終わりだよ」

98: 2012/10/27(土) 00:36:38.24
伊織「え……?」

春香「!!」

P「もう終わりだ」

P「伊織……お前の負けだよ」

伊織「なに、を……」


ガチャッ!!

ドタドタドタドタ!!!


伊織「ッ!?」


「警察だ! 水瀬伊織は手を上げろ!!」

100: 2012/10/27(土) 00:38:39.51
何が起こるというのです

101: 2012/10/27(土) 00:40:52.63
春香「警察……!?」

伊織「いつの、間にっ……!」

伊織「やってくれるじゃないプロデューサぁあ……」


「動くな! それ以上動くと水瀬財閥の令嬢といえど血を見るぞ!」


伊織「何ですって?」


「水瀬伊織……監禁罪および淫猥接吻罪、瑕疵ツンデレ取締法違反により逮捕する!」


伊織「自分の言っていることを自分で認識できてるのかしらこの猿は」

伊織「その水瀬財閥が動けばアンタたちなんて……」

P「無駄だ、伊織」

104: 2012/10/27(土) 00:43:46.45
違法ツンデレだったのか…

105: 2012/10/27(土) 00:44:11.90
P「水瀬財閥は動かない」

伊織「何を言って……」

P「何故なら、お前を通報したのは」

P「他ならぬ君のお父様だからだ」

伊織「―――」

伊織「あのクソジジィッ……!!」

P「伊織、お前ほど才覚のある人物なら、焦らず落ち着いて事を進めれば何だってできたはずだ」

P「トップアイドルになることだって、一人の男を手に入れることだって」

P「ただお前に欠けていたのは、今この世界と向き合う姿勢」

P「夢や幻ばかりじゃなく、周りの小さな現実を見ることを教え忘れた、俺のせいでもあるがな」

107: 2012/10/27(土) 00:46:05.62
シリアスなサスペンスっぽい雰囲気出してるけど原因はちゅっちゅです

108: 2012/10/27(土) 00:46:48.62
伊織「あんたにっ……あんたにだけは言われたくないわよ……!」

P「………」

伊織「私がこうなったのは全部――!!」


 「連行しろ」


伊織「うぁああああっ! 終わりじゃないっ、終わらせなんかしないわ!」

伊織「私を捕まえても何の意味もない! もう賽は投げられた! 『種』は蒔かれた!」

伊織「『ケダモノたちの世界』はすぐそこまで――」

伊織「プロデューサー! 春香! 見てなさいッ」

伊織「私は必ず――」


バタン……


110: 2012/10/27(土) 00:49:42.17
春香「………」

P「………」

春香「プロデューサー、さん……」

P「あとで事情聴取があるぞ、これからも忙しくなる」

春香「あの、私っ」

P「そのメモリーカードはダミーだ。俺がすり替えておいた」

P「本物は……伊織の父親のもとへ」

春香「あ……」

P「伊織の言っていた通り、水瀬財閥にはもみ消されてしまう恐れがあった」

P「ならば逆に、そちらから押さえておく必要があると思ったんだ」

112: 2012/10/27(土) 00:52:51.12
P「やっこさんは決断してくれないかと思ったが、ギリギリ間に合ってよかったよ」

P「騒ぎにならないような根回しも済ませてあるんだろう」

P「俺にできることはそれまでの時間稼ぎだったんだが」

P「春香にほとんどその役目を負わせちゃって、俺は見守るだけだったな……すまん」

春香「いえっ、私こそ、ほんと情けなくて……」

春香「じゃあ、あの怖がりぶりは」

P「ああ、演技だよ」

P「アイツは俺が激しく反抗しない限り、強硬な押さえつけはしてこなかったからな」

P「やっぱり、根は優しいんだ」

春香「………」

P「なあ春香……俺は正しかったのかな」

114: 2012/10/27(土) 00:54:16.78
どう考えてもコナンの事件が解決した時のテーマ

115: 2012/10/27(土) 00:55:12.15
P「向き合うことを、焦らず落ち着いて進めることを忘れていたのは、俺なんじゃないか?」

春香「プロデューサーさん……」

P「もっとじっくり『対話』してやっていれば、違う救いもあったんじゃないのか?」

P「なあ、春香……」

春香「プロデューサーさん」

春香「二人で、手紙を書きましょう?」

春香「伊織が安心して帰ってこれるように、伊織がいない765プロでも元気にやっていますって……」

春香「だからあなたが、また事務所の扉を開けて来られる日を、楽しみに待っていますって」

P「ぅっ……うぅううっ……!!」

116: 2012/10/27(土) 00:57:04.90
P「春香……すまない、俺はっ……」

春香「いいんですよ……」

P「俺、はっ……ぐぅ、ぅううっ……!!」

春香「いいんです、プロデューサーさん……」

P「ぅうううあああっ!!」

春香「プロデューサーさん……」

春香「大丈夫……大丈夫ですからね……」

春香「今は、このまま……」


『認めてしまえば楽になるのに。自分の内なる「ケダモノ」を』

119: 2012/10/27(土) 00:58:26.26
春香「……!!」


『春香、あなたそろそろ自分でも気がついているんじゃないの』


P「ぅうっ、ううぅっ……」

『本能の声を聞け』

春香「………」

『内なる無我を啓発しろ』『耳を澄ませて主体を明け渡せ』

P「……」

『ねえ春香、何が悪いの?』

P「春香……?」

『内なる声に』『本能を』


――『種』は蒔かれた

120: 2012/10/27(土) 00:59:27.39
P「春香……どうした……?」

P「おい春香! 春香!? 大丈夫か――」

P「なんだ、何が……いつっ」

P「いたいぞ……腕……そんな、強く……」

P「―――」

P「やめっ、おい……や、やめてくれ、春香! 春香ぁあ!!」

P「うぁ……ああああ……」


「ぎぁああああああああああああああああああああ!!!」


「な、何をしているんだ、君っ、君!!!」

121: 2012/10/27(土) 01:00:21.86
のちの警察の調べによると

天海春香の身体からは微量の薬物が検出されたらしい

媚薬や興奮剤の一種――

おそらくは、水瀬伊織と唇を交わした際に摂取されたものだろう

しかしそれはほんのきっかけにすぎない

水瀬伊織が蒔いた『種』は、それ自体は大きな作用を持つものではないのだ

何故ならあらかじめ『土壌』がなければ、『種』は芽を出さないのだから



あなたの心の中にも、『ケダモノ』は潜んでいるのかもしれない……




                                         END

123: 2012/10/27(土) 01:01:13.62
なんと!

124: 2012/10/27(土) 01:02:31.88
お、おつ・・・

125: 2012/10/27(土) 01:02:50.79
支援ありがとうございました
極上のサスペンスだったと自分でも思います

134: 2012/10/27(土) 01:11:23.47
なんだ、これホラーだったのか

引用元: P「伊織恐怖症になった」