1: 2012/01/10(火) 23:44:16.43 BE:3424247977-2BP(0)
―2011年 12月26日 名古屋市久屋大通 とらのあな名古屋店8階―

友「あーどんだけ見本誌あるんだよ」

男「しょうがないだろコミケ前なんだから。当日まで置いとく方が大変だろうが」

友「でも良いよなぁコミケ。一度は行ってみたいっすよ」

男「あれ、お前行った事なかったっけ」

友「おれまだ18の大学生っすよ? 時間も無ければ余裕もないし」

男「まぁ……元よりアルバイト契約で禁止に近いお達しは出てるんだけどな」

※:とらのあなおよび関係業界では、面接時から「コミケ休暇」を禁止すると明言し、それを守る約束をさせたりする事がよくあります。

2: 2012/01/10(火) 23:44:31.68
友「で、先輩は行ったことあるんすか?」

男「あるにはあるけど……どうだったかな、もうはっきり思い出せない」

友「そんな昔に行ったんすか?」

男「いや、俺が行ったのはC79、ちょうど1年前だ」

3: 2012/01/10(火) 23:44:55.27 BE:3773660696-2BP(0)
―冬の有明―

男「す、すごい雰囲気だな……誰一人喋っていない」

時たま交わされるトランシーバーの音、物騒な銃器を抱える男達、
まるで俺は、最前線に放り込まれた一般市民だった。

男「なぁ幼馴染、一体どうなってんだよ。コミケって何なんだよ!」

幼「ねぇ……静かにして、そろそろ始まるよ」

男「あ、ちょおい、待ってくれよ!」

アナウンス \ピンポンパンポーン/

4: 2012/01/10(火) 23:45:18.12
アナウンス \おはようございます! ただいまよr――/

前列男性指揮官「総員! 戦闘開始!!」

野郎共「「「Ураааааааааа!!!」」」

男「は、はぁッ!?」

ザッ

幼「私が君を穏やかに案内できるのはここまでだ。
  この場で生きる方法は、この場で、そして自分で考えるんだ」

男「そんな事言われたって……」

幼「ほら、拳銃。弾はこっち。健闘を祈る」

男「おい……待って、待ってくれ……」

5: 2012/01/10(火) 23:45:41.65
男「…………」

友「だ、大丈夫っすか先輩」

男「いや……何でもない、とにかく見本誌の作業を進めよう」

友「ところで、結局コミケはどうだったんすか」

男「…………」

電話 \プルルルル/

6: 2012/01/10(火) 23:45:52.66
ガチャ

男「お疲れ様です、8階男です」

店長「ああお疲れ、今から5階の子を1人上げるから、ちょっと地下に戻ってきてくれないかい」

男「はぁ、了解しました」

ガチャリコ

友「休憩っすか?」

男「にしては変な時間に……いいや、とにかく行ってくる」

7: 2012/01/10(火) 23:46:13.64
ティンッ

男「お疲れ様でーす」

店長「おお待ってたよ。ちょっとこっちに来てもらえるかな」

男「(なんでわざわざ……?)」


店長「実はな……君に辞令が下ったんだよ」

男「俺にですか? アルバイトなのに?」

店長「そう……CoDMWのね」

男「…………?」

8: 2012/01/10(火) 23:46:20.94
男「日本語で大丈夫ですよ」

店長「私も人選に苦しんだのだ。フロアリーダーを選ぶ訳にはいかないし、
    かと言って新参アルバイトを送り出す訳にも行かん」

男「いやその、何のことか説明を……」

店長「既に新幹線のチケットは用意してある。名古屋駅に案内人を待たせているから
    早く荷物をまとめて店を出なさい」

男「……もういいです。で、どこに行けと」

店長「決まっている、東京だ」

9: 2012/01/10(火) 23:46:27.94
―名古屋駅 金の時計塔前―

男「案内役つったって、こんな場所で迷彩服を着た女性が立っている訳……」

女「…………」

男「いんじゃねえかよ」

10: 2012/01/10(火) 23:47:13.31
男「あのすみません」

女「身分証明はあるか」

男「えっと……店員の名札を持ってこいと言われたので」

女「ふむ、間違いないようだ。よく来てくれた男、そろそろ時間だし新幹線に乗ろう」

男「ちょっと待って! 俺本当に名札以外何も持たずに来たんだけど」

女「なに、構う事ではない。中で話そう」

11: 2012/01/10(火) 23:47:21.54
―新幹線―

男「まったく状況が呑み込めないんだけど」

女「それもそうかも知れん。だから君には、いくつか事前に知ってもらわなければいけない事がある」

男「と言うと」

女「君はC79に参加していたようだが」

男「(どこでそんな話を……)」

12: 2012/01/10(火) 23:47:30.08
男「確かに行ったには行ったけど、色々凄すぎて記憶があいまい……」

女「では現在のコミックマーケットにおける背景は全く知らないという事で良いんだな」

男「正確には、調べたくなかったってのが本当のところだけど」

女「あの状況で無知なまま放り込まれたのなら、無理もない。
   しかし逆に、何故一人で行こうとしたのかが不可解だな」

男「その時は連れが居たんだ。連れと言っても幼馴染なんだけど
  関東のイベントへ参加するために、東京の大学に行った程の真っ直ぐな馬鹿でさ」

女「そうか……とにかくまず、現況の概要から話さねばなるまい」

13: 2012/01/10(火) 23:47:37.77
女「2年前……C76で起きたコミケ事変以来、コミックマーケットは大きく変わってしまった。
   コミケットはその状況を打開するためにC77を欠番とし、業界の人員を大幅に利用して
   コミケット連合、通称コ連を編成した」

男「なんて赤そうな集まりだよ……」

女「真面目な話をしている」

男「はい、すみません」

女「コ連の首脳は従来のコミケット準備会であるが、アニメイトやとらのあな、メロンブックスからも人員が派遣されている」

男「それが今の俺って事か」

女「そうだ。準備会はいつもの通りスタッフとして働く訳だが、君たちは任命者にも言われた通り
   CoDMWに参戦してもらうために集められている」

14: 2012/01/10(火) 23:47:45.14
男「そのCoDMWって何なんだ。ゲーム大会とかいうオチだけはやめてくれよな」

女「正式にはComiket of Duty Moe Warfare、つまり萌え戦争への兵役召集だ」

男「なめてんのか」

女「真面目な話をしている!」

男 「」ビクッ

15: 2012/01/10(火) 23:47:52.35
女「今全てを話しても理解出来まい。現場に向かいつつ、ゆっくり噛み砕きながら説明しよう。
   ほら、構内で買った赤福だ。これでも食べて落ち着け」

男「はぁ……じゃあ、いただきます」

ゴソゴソッ

男「…………」

女「…………」

男「食べます?」

女「あ いや 私はいい」

16: 2012/01/10(火) 23:47:59.51
男「別に俺、1個か2個で十分だし、今お腹減ってないから」

女「そ、そうなのか……?」

男「(そんな顔で睨んで来たら食えるのも食えんだろ……)」

17: 2012/01/10(火) 23:48:05.19
女「もふもふもふもふ」

男「それで……俺を東京まで拉致ってからどこまで案内してくれるの」

女「んっ……とりあえずビッグサイトだ。ブライダルフェスタも終わって、今のところは静かだからな」

男「え 今から行くの?」

女「準備は明後日からだ。そうなると我々兵士たちもビッグサイトに立ち入る事は出来ない。
   今のうちに視察というところだ」

18: 2012/01/10(火) 23:48:23.86
―東京 ゆりかもめ―

女「へくちっ」

男「大丈夫?」

女「んにゃ……大したことない、最近はトレーニングのおかげか薄着になる機会が多くてな。
   よく体を冷やしていたのが今になってきキてるのかもしれん」

男「それじゃあ素直にホテルか家に帰らないと……」

女「そういうわけにも行かない。このままだと、また記憶に残らないコミケを体験することになるぞ」

男「う……それは勘弁してほしいかな……」

20: 2012/01/10(火) 23:48:33.65
男「さっきから萌え戦争萌え戦争つってるけど、実際は何をやるんだ?」

女「萌え戦争は究極の紳士淑女を選別する力の裁判だ。コミックマーケットに来場した有象無象に
   銃弾の雨を降らせる。その戦果をかいくぐって宝を手に入れた者を、我々はあえて勇者と称賛する」

男「そんな……同人誌なんて、現地で買わなくたって大手は委託で買えるんじゃ……」

女「それが買えないのだよ」

ガサゴソ

女「これが萌え戦争中に購入できる同人誌、そしてこっちが委託販売の同人誌」

男「何だこれ……ひっでぇ焼印、ドツキなんてレベルじゃねえぞ」

※ドツキ……角突きの略。製本された本の端が歪み、商品として成立しない状態を指す用語。
         また同様のキズモノ(折れ曲がり、損傷)などもドツキと一括に称されることもある。
         店舗では発見次第即座に回収され、倉庫に返本し通販やキズモノ品として売られたりする。

21: 2012/01/10(火) 23:48:43.75
女「馬鹿者!」スパコーン

男「ってぇ! 何しやがる!」

女「これは勇者の証。人気サークルで頒布される新刊の先行数冊のみに印されるものだ。
   勇者の証は、CoDMWを勝ち抜いた事を同時に証明する。
   つまりこれを持っているだけで最強の勇者でありかつ最高の紳士であることが認められるのだ」

男「つまり商品価値って事か」

女「愚か者!」ガスン

男「やっ止めろって!」

22: 2012/01/10(火) 23:48:57.43
女「まぁ戦場を知らないものにこの印の価値は解るまい。
   ほら、正門駅についたぞ。とっとと降りろ」

男「はいよ……」

カタン カタン
▽―▽

男「おーやっぱり目につくな会議棟は」

女「うむ。やはり最高のシンボルに違いない」

23: 2012/01/10(火) 23:49:07.27
男「ところで女、1つ聞いていいか」

女「なんだ?」

男「どうして萌え戦争なんてものをやることになったんだ?
   コミケはコミケだろ。普通に開催すればいいんじゃないか」

女「……しかし、知らないのなら、お前に話していいのかずっと迷っていた」

男「何だよ、虫の居所が悪いじゃねえか」

女「では……真実を真実のまま受け止めてもらうしか――」

軍曹「よう、ようやく最後のメンツを連れてきたようだな」

24: 2012/01/10(火) 23:49:16.35
女「軍曹! あなたもこちらに」

軍曹「連れてくると思ってたんだよ。それに海は見てて飽きねえしな。
    そこのひよっ子が初参戦の野郎か」

男「はい、そう……みたいです」

軍曹「まぁ緊張すんな。俺は軍曹。コミケット連合とらのあな師団第一大隊の指揮補佐官だ。
    手と足が動くならちゃんと仕事はやるから安心しな」

男「(余計に心配になる事をサラッと言いよった)」

軍曹「軍曹って名前だからって大隊指揮補佐官はおかしいって突っ込みはやめろよ?
    俺は一号店でマッチョに働く一社員、これはただのあだ名だ」

25: 2012/01/10(火) 23:49:43.09
女「それはどうでもいいです」

軍曹「なぁ!?」

男「そんな事より寒いので帰りたいんだけど」

軍曹「」

男「おいこの人泣きそうなんだけど」

26: 2012/01/10(火) 23:49:56.74 BE:1118122728-2BP(0)
ヨシヨシ  ヨシヨシ

軍曹「ふぅ……では改めて、初めて萌え戦争からコミケに参加する君を歓迎しよう。
    関係者用のパンフレットはこのスーツケースに収納されている。
    いいか、機密情報だから読み終わったら投棄なんて事はするなよ」

男「またここに来る時に返せばいいんですね」

軍曹「そんな所だ。じゃあ俺はまた別所で会議があるから、せいぜい体力を蓄えておいてくれ」

女「おつかれさまです」

27: 2012/01/10(火) 23:50:15.16
男「軍曹が居なくなった訳ですが」

女「……秋葉原にでも行こうか」

男「え、ちょっと、女!」

女「いいから黙ってついてくればいい! この辺をうろついてても良い事などない!」

男「あんたが無理やり連れて来たんでしょうが!」

28: 2012/01/10(火) 23:50:44.14 BE:419296032-2BP(0)
―秋葉原―

男「俺……何気に秋葉原初めてなんだよ」

女「そうか、じゃあ今日でアキバ童O卒業だな」

男「何イライラしてんだよ……あとその呼び方絶対に止めろ」

女「私一人ならHEYで時間を潰していた所だが……初めてだと言うならいろいろ回ってみるか」


男「おー、この通り電車男で見たことあるぞ」

女「あまりキョロキョロしすぎるな、恥ずかしい」

29: 2012/01/10(火) 23:51:04.72
男「人大杉ぱねぇ。何だよあのゴリラ。ソフマップでけーな。タイトーの店何軒あるんだよ」

女「(暇つぶしとはいえここは失敗か……でも他に知ってるとこ無いし)」

男「こんな所にメイドさんが」

女「おい男、あれがとらのあな秋葉原店だぞ」指さし

男「……?」

女「おいどうした」

男「……いや、どこ?」

30: 2012/01/10(火) 23:51:12.89
女「あそこだろあそこ!」

男「どれだよ!」



男「結局軒先に来るまで判らなかったぞ。天下の一号店がこんなに地味だとは」

女「その調子だと隣にアニメイトがある事にも気づいてないみたいだな」

男「はっ」

31: 2012/01/10(火) 23:51:20.68
―とらのあな秋葉原店 エレベーター内―

男「これが伝説のエレベーターか」

女「伝説?」

男「あぁ知らない? C80の4日目に、客の熱気で故障停止したんだよこのエレベーター」

女「マジで」

男「さぁ、社員さんから聞いた話だけど。板1枚剥がしたらびっしょびしょだったんだって」


※あくまで聞いた話

32: 2012/01/10(火) 23:51:27.31
―6階 成年向け同人誌フロア―

男「おー。思ったよりは地味だった」

女「工口本売り場にどんな華やかさ求めてるのだお前は……」

男「いや、もっと修羅な感じかと思ってたんだけど。
   ふむふむうちのフロアでも参考に出来るものはあるかな……」

女「はぁ……しばらくほっとくか」

33: 2012/01/10(火) 23:51:33.14
男「ふーふふーん。お、コーヒーカレーさんの本発見。なんでうちの店には入ってこないんだろ
   よっと……」

?「あっ……」

男「ん?」

34: 2012/01/10(火) 23:51:46.61
男「失礼、大丈b――」

幼「はっ」

男「あっ」

35: 2012/01/10(火) 23:51:54.77
男「何やってんだお前、こんな所で」

幼「おっおおおっおうjちfwjkrかrgぁ男くんこそ! 何で? な 名古屋に居たんじゃ……」

男「ちょっと用事でしばらく東京に。……相変わらずハードなもん買いこんでるな」

幼「ふ――うわぁぁ見ちゃだめだってぇ!! 馬鹿! 変態!」

男「お前には言われたくなかった」

36: 2012/01/10(火) 23:52:01.11
女「店員ともあろうお前が店の中で何を騒いでるんだ」

幼「ふぇ?」

男「あ、ああ。あまりに突然な事で驚いちまってさ」

幼「男くん、その人は……」

男「用事の案内人みたいな人」

女「その者は――ッ!」

幼「……!」

男「?」

38: 2012/01/10(火) 23:52:08.19
女「……いったん外に出ようか」

幼「そうだね……ちょっと会計するまで待って」

男「いきなりどうしたんだよ、神妙な声で」

女「いいから私たちは先に出るぞ」

男「(何だ一体……?)」

39: 2012/01/10(火) 23:52:21.87
―駅への道―

幼「暗くなってきたねー」

男「そうだなー。大学はどうなんだ幼馴染」

幼「まあまあ。留年しない程度に頑張ってるよ」

男「相変わらずマイペースだな」

しばらくの無言

幼「男くん、……何の用事で東京に来たの?」

40: 2012/01/10(火) 23:52:29.27
男「コミケの……一応スタッフなのかな。その応援を頼まれたんだよ」

幼「……!」

男「ん?」

幼「って事は……男くんも、戦うって事なの?」

俺はその言葉を理解するのにずいぶんな間を使った。

41: 2012/01/10(火) 23:52:37.60
幼馴染がコミケに参加するのであれば
CoDMWの兵士として参加する俺は、彼女に銃を向けなければならない。

男「そ、それは……」

女「その辺の話は立ったままする事ではないだろう。
   あそこで休みながら話さないか」

幼「…………」

女「私からも一応話がある」

42: 2012/01/10(火) 23:52:47.26
―欧風ギルドレストラン ザ・グランヴァニア―

男「やっぱり、そういう事になっちゃうんだな」

幼「こればっかりはしょうがないよ。私は獲物を狙う戦士。男くんは雇われた兵士。
   あの静かな臨海部が戦火に見舞われる時、相容れない関係になるんだよ」

女「事もあろうに男の友達というのが”窈窕のハンドガンナー”だったとはな……」

男「ようちょうの……ガンナー?」

幼「……」

43: 2012/01/10(火) 23:52:54.98
女「兵士側からすれば名の知れた戦士だ。
   普通の参加者たちが勇者の証を手に入れようとすると、間違いなく集団で結託しなければならなくなる。
   しかしこいつは、たった一人でいくつもの勇者の証を手に入れている。C80ではそれでとんでもないことになった」

男「お前そんなすごい奴だったのか?」

幼「私は私で出来ることをやったまでだよ」

女「窈窕のハンドガンナーに引き連れられたのなら、はじめから相当な前線に持ってかれたのだろう。
   記憶が残っていないのも頷ける」

幼「そ、それは! 男くんがどうしてもコミケに行ってみたいって言ったんだし
   かといって私が後方に甘んじることもできないし……」

女「詭弁だな、それは」

男「(なんだこの空気……)」

44: 2012/01/10(火) 23:53:03.77
幼「な、何よ……」

女「歴戦の勇者たちと渡り合い――いや、圧倒しているお前なら
   素人を前線に出すことがどれだけ危険か解っているはずだ。
   たとえ被弾せずとも、腹に潜む爆弾を外に漏らしていたって不思議じゃなかったはずだ」

幼「くっ……」

女「お前は何がしたかったんだ?」

幼「私は、ただ……」

男「はいはいもう止め」

45: 2012/01/10(火) 23:53:10.71
男「俺の事はどうでもいいから、そんなことで言い争わないでくれよ。
   ――そうだ、その代わりにちゃんと聞いておかなきゃいけないことがあった」

女「なんだ?」

男「ビッグサイトで言いかけていたことだよ」

女「あぁ……なぜCoDMWをすることになったのかって話か」

幼「…………」

46: 2012/01/10(火) 23:53:18.61
女「それは……コミックマーケット76で起きたコミケ事変までさかのぼる」

男「あの爆弾テロの事だろ?」

幼「違うよ男くん……違う。世間的には、爆弾テロってことになってるんだけどね」

男「……どういうことだ」

47: 2012/01/10(火) 23:53:24.69
女「コミックマーケットはいつもの通り1日目を迎えるはずだった。
   その日の深夜、いつも通りに徹夜組が列を形成し始めた。看過できるようなものではないが……まぁ毎度のことだ。

   問題は午後3時ごろに起きた。有明に潜入した国際手配中の強盗組織が、徹夜組の列に紛れ込んだのだよ。
   特殊部隊が正門に突入すると当然のごとく辺りは騒然。人が入り乱れて犯人捜しなんて出来たものじゃなかったらしい。

   そうこうしている間に犯人は脱出ルートを確保、通路の一部を小規模爆破した後に
   限界まで紙幣が詰められたATMを車に乗せて逃走した……これはコミケ事変の始まりに過ぎない」

男「そんな……! 強盗事件が起きたなんて誰も!」

女「現場で状況を把握していたのは特殊部隊の司令部と現場の隊員だけだ。
   国はこの失態を秘匿しようとし、さらに情報を漏らさないようコ連の設立へと誘導させたんだ。
   コ連は再びコミケを開催する苦肉の策として、ガチガチに縛られた管理体制を敷かざるを得なくなった。

   そんなクソつまらないコミケに価値を付けようとしたのが、萌え戦争と勇者の証だ」

48: 2012/01/10(火) 23:53:31.64
女「もう一度紳士淑女の集まりを実現するには、資格ある者を選び抜き、資格なき者を叩き潰す。それが一応の建前。
   ……君へ最初に言った通り”力の裁判”とはそういうことだ」

男「…………」

幼「ねぇ男くん。何でこんな事になったか解る?」

男「は? えっと、いや、彼女の言っているままじゃ……」

幼「そういうことじゃない。それ以前の事で」

49: 2012/01/10(火) 23:53:39.53
幼「私はね、遅かれ早かれあんな事件が起きると思ってたし、それは警察も準備会も真剣に考えていたことなの」

男「強盗事件をか?」

幼「それにかぎらず、ね。
   コミックマーケットはもともと、一つの同人即売会に過ぎなかった。
   でも現状の大きさゆえ、特殊な扱いになり、異質な集まりになり、数えきれない因果が交錯する場となった」

女「…………」

幼「コ連の内部事情、そして今のコミケに影響しあう団体とかの構図は、正直私にとってはどうでもいい。
   でもね、もう一度始めようという姿勢には賛成なんだよ」

男「始める……だと?」

幼「そう、新しいコミックマーケットを」

50: 2012/01/10(火) 23:53:47.32
女「お前! 本当にこのままでいいと思っているのか!」

幼「じゃあどうすればいいのですか。またあの混沌とした時代に戻れというのですか。
   力を取り上げ、愚者がのさばる、くたびれた祭りに戻れというのですか!
   誰かが押さえつけなければ、もっとひどい事件が起きていたのかもしれない、起こるかもしれない!」

女「そうではない! 年に二度集まり、列に並んで、欲しいものを手に入れ、人を楽しませるために作ったもの披露する――
   そんな今までのコミックマーケットをもう一度、見てみたいとは思わないのか!」

幼「…………」

女「……」

52: 2012/01/10(火) 23:53:52.93
幼「その事に関しては、言うまでもなくあなたが解っているはず。
   決して戻れないということをね」バンッ

男「お、おい幼馴染……」

幼「飲み物代くらいはおごってあげます。これで支払っておいてください」スタスタ

男「待てって、おい!」

53: 2012/01/10(火) 23:53:57.56
―指定の宿泊ホテル―

男「どうしてこんな事になってしまったんだ……」

プルルルルルルル

男「(電話?)はい、もしもし」

女「あぁ男か。寝ていたか? もしそうだったら切るぞ」

男「そういう言いかた、素なのかわざとなのか判らんぞ。余計に切れなくなるだろうが」

女「そうなのか……すまない」

男「いいよ別に、何もしてなかったし。何か用?」

女「うむ……お前の考えも一応、聞いておかないとなと思って」

54: 2012/01/10(火) 23:54:13.71
男「俺の考え?」

女「そうだ。戦士たちはもちろんだが、我々兵士たちも人に銃を向ける時、必ず何かを考えている。
   大概は”ここにいる意味”と”引き金を引く意味”だ。

   ……私は恥ずかしながら、幼馴染にほとんど言い負かされた通り、考えがまとまっていない。
   本来のコミックマーケットに戻りたいのは本心だが、コミケ事変を人よりも深く知っているだけに、単純になれない。

   お前はどう思うんだ?」

55: 2012/01/10(火) 23:54:20.97
男「そうだなー……わからん」

女「は、はぁ? 私は真面目な話を――」

男「解らないんだよ、俺には。解りようがないんだよ」

女「男……?」

男「俺はコミックマーケットを知らないに等しい。そこで何があるのかも、そこで何を求めるのかも、
   ……そこで感じる何かも」

女「そうか、お前は……」

男「だからこそ、俺は考えてるよ」

56: 2012/01/10(火) 23:54:29.30
女「ど、どっちなんだ一体!」

男「俺が導ける答え、それと――みんなが導き出したい答えを」

女「男……」

男「明日は師団会議だし、とっとと寝ようぜ」

女「……ふっ、そうだな。お休み」

57: 2012/01/10(火) 23:54:36.54


―そして12月29日 C81 1日目 開会前―

58: 2012/01/10(火) 23:54:43.65
軍曹「装備は整ったか」

女「はっ、私以下部隊員の携行装備はすべて点検しました」

軍曹「よろしい。君らは開会直後から防衛線崩壊まで、会議棟のトーチカを担当してもらう。
    男、君はマシンガン担当だ」

男「えぇっ、俺がですか?」

軍曹「適当にばらまいてくれればいい。マシンガンとはおおよそそういう役割だ。
    精度を要求しない分、冷静な射撃と給弾を意識し続けるように。では移動しろ!」

男・女・その他兵士群「はっ!」


※トーチカ=特火点。防衛拠点に作られた長期的火力を持つ建物、または場所そのもの

60: 2012/01/10(火) 23:54:52.56
―会議棟 とらのあな師団第一大隊 トーチカ―

女「見えるか男……あれが、今から我々が相手をする戦士たちだ」

男「……ゴクリ」

会議棟から見渡せる眼下には、ひたすら黒いうねりが広がっていた。
周りにはスタッフがいない。しかし、本1冊もはさめないような間隔で人が並んでいるのが見えた。

男「……ウソだろこれ……」

女「私だってさっきから震えが止まらない。我々はしょせん阻止部隊だ。
   いずれは突破され、あとは後方に退きながら防衛を続ける。しかし初めてでないとはいえ……突破された瞬間は本当に恐ろしくなる」

男「そうだな……」

61: 2012/01/10(火) 23:56:03.08
男「しかしみんな、なんでこんなに集まってるんだ。トーチカから狙われる事は解ってるはずなのに。
   ちょっと間抜けにすら見えるぞ」

女「集まればお互い、撃たれる仲間を手に入れる事になる。
   一人でぽつぽつ歩いて狙撃されるよりは、人波に紛れて進んだ方がずっと早い。
   正門だって、はじめの弾幕を抜ければお宝までほぼ一直線だ。

   つまり今最前列に並んでいるのは、呆れたバカであり屈強な戦士でもある。間違いなく奴らは本気だ」

62: 2012/01/10(火) 23:56:10.59
プルルルルルル

男「はい、もしもし」

?「…………」

男「? 誰ですか」

幼「……私だ」

男「お、幼馴染! 今どこにいるんだよ!」

幼「男くんが見えるところにいる」

男「なんだと……! じゃあいずれ、お前やその周りを撃つことになるぞ」

幼「……上等。じゃあ今から、ちょっとした茶番を見せるよ」

63: 2012/01/10(火) 23:56:24.12
男「おい……何する気だ」

女「何だ、奴から連絡が来たのか!?」

男「ああ……でもさっきからノイズばかり……違う、マイクを切り替えたのか?」

64: 2012/01/10(火) 23:56:30.43
戦士1「上空にヘリコプターを肉眼で確認! やつら今回はマジで節操なしに掃討する気だぜ」

戦士2「たまったもんじゃねえ! せっかく始発のもどかしい行軍からいい場所を取って並んだってのに……
     このまま蜂の巣は嫌じゃぁ!!」

戦士3「誰かスティンガー持ってねーのかよ」

戦士1「馬鹿野郎、そんな事したら軍資金尽きて本買えないだろうが」

戦士3「そうだよな……」

65: 2012/01/10(火) 23:56:36.99
幼「…………」

戦士2「よ……窈窕のハンドガンナーが動き出した!」

戦士1「RPG-2なんか持って……まさかこの距離でヘリコプターを!」

66: 2012/01/10(火) 23:56:44.21
戦士3「止めろォバックブラストで数人くたばるぞ!」

幼「――ッ!」

バフォォォンッ!!

67: 2012/01/10(火) 23:56:50.42
男「なっ、まだ開戦してないのに弾頭が……」

女「おいおい……!」


―ヘリコプター オペレーション―

操縦士「おいおい早漏野郎が現れたぜ」

射撃手「マジかよ糞箱買ってくるわ」

ドゴシャァァ!!

操縦士「て、テールローター破損! 姿勢維持できんぞ!」

操縦士「待て待て待てウソだろ――」



幼「…………」

68: 2012/01/10(火) 23:56:57.61
幼「私のいる場所、判った?」

男「……あぁ。銃座を動かさなくても、すぐ射程に入るような場所にいるな」

幼「ふふ、大当たり」

男「……わざとなのか」

幼「クク……大 当 た り」

69: 2012/01/10(火) 23:57:04.80
男「お前、俺の事ナメてるだろう」

幼「馬鹿にはしてないよ。ただ、男くんが出来るのは弾撒き――人を狙う事は出来ないってのは解るよ」

男「……そこまで言われたら、俺だって本気出すぞ」

幼「それは脅しなの?」

男「チッ……!」

70: 2012/01/10(火) 23:57:12.22
幼「今日は勝たせてもらうから」

男「俺は――俺は、自分の仕事をこなすだけだ」

幼「そう……うん、それでいいと思うよ」

男「……時間だ、切るぞ」

幼「――って」

男「えっ」

ツー ツー ツー ツー

男「おい、なっ何て言った!?」

71: 2012/01/10(火) 23:57:19.04
女「始まるぞ」

男「…………」

女「解っているだろうが、この戦いに私情を持ち込むな。
   いいか? これはお前を守るための忠告だ」

男「当然だろ……ここまで来てどうこう出来るような余裕、逆に持ち合わせていないわ」

72: 2012/01/10(火) 23:57:30.37
ピンポンパンポーン

男「……くそッ」

アナウンス \おはようございます!/

ドクッ……ドクッ……ドクッ……


アナウンス \ただいまより……/

軍曹「機銃構え!」

アナウンス \コミックマーケット81を……/

戦士一同「幼女の加護を……」

73: 2012/01/10(火) 23:57:37.56
軍曹「てぇいッ!!」

野郎共「「「Ураааааааааа!!!」」」

ガガガガガガッガガガッ

女「バカ、適当に撒きすぎだ! もっと侵攻を阻止するように狙え!!」

男「そんな事、言ったって……!」

強烈な反動が手を伝い、体の端から端までを揺さぶる。
言う事を聞かない体を立て直そうとし、しっかり照準を当てようと地上を見下ろしたとき

幼「…………」

彼女が拳銃を、俺に向けているのが見えた。

74: 2012/01/10(火) 23:57:45.22
兵士「企業ブースへの階段は絶対に堅守せよ! 突入する馬鹿野郎共を東に流せ!!」

戦士1「なのはァ―――――――!!!」

戦士2「まどかァ―――――――!!!」

戦士3「京子ォ――――――――!!!」

軍曹「容赦不要! 階段にすら近づけさせるな!!」

75: 2012/01/10(火) 23:57:54.90
男「うっ……!」

兵士「おいおい窈窕のハンドガンナーが涼しい顔で門をくぐるぞ!」

兵士2「後続の野郎共のほうが厄介だ……! ファミマァ!! 何サボってやがんだ!!」

――――
戦士1「一気にトーチカを潰せ、AT-4!!」

戦士2「おう!」

戦士3「誰も俺たちを止める事は出来ない!!」

ボフゥゥン

76: 2012/01/10(火) 23:58:00.70
会議棟に風穴が空く

女「下がるぞ男! もうここは持たん!」

男「そんな事いったってどこへ――」

女「やられたら後退しながらの射撃も出来ない、とっとと降りて西側の支援に回るんだ!」

男「お、おう!」

77: 2012/01/10(火) 23:58:06.67
―企業ブースへの階段付近―

タッタッタッタッタッタッ

女「この辺は混戦する事が鼻から予測されている。戦士としては、全員で攻めなければならない事は承知のはずだ。
   我々はその混乱に付け入り、なるべく効率的に抑え込む。
   そして階段を上り、走りきった者は追うな」

男「その後はもう追わなくていいのか」

女「我々は防衛線を守る兵士だ。そのラインを突破したものの背中を撃つようなマネはしない。
   そいつはがんじがらめにされたコミケのルールにのっとり、そして勝ったのだ」

男「……そうか」

78: 2012/01/10(火) 23:58:15.43
兵士「軍曹! 階段防衛のらしんばん軍が息してません!」

軍曹「なんだと!? 一気に直線通路へ上がらせたらエラい事になるぞ……
    いいかみんな、ここにいる兵士は弾薬と小銃またはそれに準ずる武器を持って階段下を守れ!
    そこを防衛線とし、頃合いを見て最終防衛線まで後退する」

女「そんなっ……あの狭い場所で耐久戦だと!?」

男「無茶言わないでくれ!」

軍曹「我々の役目を忘れるな! 本当に氏にそうになった時は、必ず後退しろ!」

79: 2012/01/10(火) 23:58:22.22
―企業ブースへの階段付近防衛線―

男「はぁっ……はぁっ……」

女「大丈夫かっ……息上がってるぞ……」

男「女こそ、銃持つ手が上がってねーじゃねーか……」

戦士たち「おらあああああああああああああああッ!!!!!!!!!」

男「クソッ! きやがった!!」

女「正面から相手にするな! 列から外れて側面を狙え!!
   無駄弾を撃ってる余裕はないぞ!」

戦士共「うらうらうるるあるあうらうらああああああ―――――――ッ!!!」

80: 2012/01/10(火) 23:58:32.36
戦士1「今だ突貫突貫突貫!! 防衛線が不完全なままだ、物量で押し込むには今しかない!!
     倒れた野郎の背中を踏み潰して進めェ!!」

子供「ううっ……うわっ!?」

ドシャァァ

子供「いたたた……」

子供2「ご、ごめん」

戦士2「おい何やってんだガキ共、面倒なところで転びやがって!」

戦士3「邪魔だ帰れ!!」

子供「……」

81: 2012/01/10(火) 23:58:39.27
女「……?」

男「どうした女?」

女「列のふくらみがおかしい……何かあって――」

男「ああっ! 階段前のライオットシールド部隊が蜂の巣に!!」

子供2「く、くそっ……」

女「な――何やってんだあいつら!」

82: 2012/01/10(火) 23:58:43.96
戦士4「そうだよ邪魔だよクソニコ厨どもが」

戦士5「まとめブログやらみて来た新参じゃね? 碌な装備も持ってないし
     そのくせ最前線列に並ぶとか、さすがガキだな」

戦士6「本物の戦場を知らない……」ボソッ

子供2「お、お前ら! 俺たちだって欲しいものがあってここに来てるんだ!」

子供「くぅ……」

戦士2「知った事か。ガキが寄ってくるような場所じゃないんだよここh――」バシュウウン

戦士1「せ、戦士2ィィ―――!」

84: 2012/01/10(火) 23:58:56.85
戦士1「誰が殺った! 畜生、お前らがグズグズしてるからだ! とっとと帰りやがれ!!」

子供2「こ……この……俺たちが、高校生だからって……ナメ……」カチャリ

女「止めろ。それは君たちが持つような物じゃない」

戦士1「な、なんだテメェ。兵士が個人に対して接触するのはルール違反だろ!」

女「確かにそうかもしれない……が、私個人としてはどうだろうか」

戦士1「意味わかんねぇよババア」

85: 2012/01/10(火) 23:59:05.28
戦士の侵攻列が、騒ぎに割り込んできた女の一声によって完全に止められる。

女「ふん……余計な突っ込みはしない。それより一つ聞いていいか」

戦士1「何だよコラ」

女「君はさっき私の事をババアと言ったが、君が初めてコミケに参加したのは何歳の時だ」

戦士1「俺は……C50、ここビッグサイトで開催された都市からだ。もう15年前か……俺はもう今年で30になる」

女「つまり参加当時は16だったという訳か」

戦士1「そう……だが、まだあの時はずっと混沌としていた! 俺たちは併設のイベントと戦い、そして目指す宝を――」

女「いいかよく聞け!」

86: 2012/01/10(火) 23:59:13.74
戦士一同「……?」

女「15年前のお前が、今こうして立派に戦士として戦うのなら、今ここにいる子供は数年後どうなる」

戦士1「そんな事、俺の知ったこっちゃ……」

女「お前と同じ――いや、一人の紳士としてコミックマーケットに訪れるのだろう。
   求める物が、変わらずこの有明に集まる限り」

戦士1「あのなぁ……だから、俺の知ったこっちゃねェつってんだろうが!!」カチャッ

女「この子供たちの目をしっかり見ろ!!」

87: 2012/01/10(火) 23:59:20.50
女「これが数年後のお前らになる、いずれは熟す紳士となる、
   創作者、運営者、模倣者、表現者、購買者、そして闘争者……同じ意思でコミケに来たのなら、こいつらはお前らの子供同然なんだよ!」

戦士たち「……!」

女「そいつらに向かって邪魔だの来るなだの言えるお前らは、一体どれ程偉いんだ! 一流の金持ちで人をどうこう出来るのか!?
  それとも良い奴と悪い奴を一瞬で見分ける目でも持ってるのか、さぁ答えてみろ!!」

戦士1「このアマ好き勝手言いやがって……!」

女「理屈の解らない野郎は嫌いだ。だがな……文句があるのに言葉に出来ない野郎はもっと嫌いなんだよッ!!」

戦士1「じゃあ俺たちはどうすりゃいんだ!」

88: 2012/01/10(火) 23:59:26.37
女「我々は全員参加者だ。目につく行動があれば、その場で注意をする。
   割り込みには肩を叩いて声を掛け、協力者には感謝する。当たり前のことを当たり前のようにやるだけだ」

戦士1「じゃあどうしても話を聞けないようなキチガイはどうする!? おめえがスタッフとして世話するってのかァ!!??」

女「その程度の努力を放棄していたら、コミケがこれほど続くわけがないだろ!
   こうして武器を持ってテメェらを相手するよりよっぽど楽――」

……そうだ、私も解ってたじゃないか。
私はいろんな理由を付けて、持たされた銃を構え

そんな簡単な、地味な、そして大事な努力を放棄しようとしていた。

89: 2012/01/10(火) 23:59:34.19
女「……男、部隊員10人ほど連れて階段を上がれ。
   最終防衛線は任せる。この野郎どもは私に相手させろ」

男「そんな、置いていける訳――」

女「行けと言っている! ほらなにぼさっとしているんだ戦士共! 私の脇道はガラガラだ、宝物は欲しくないのか!!」

戦士たち「「言われなくてもォォォォォオオオ!!!!!!!!!!!!!!!」

90: 2012/01/10(火) 23:59:40.02
―ブース列への直線通路 および最終防衛線―

男「なんとか登りきった……だけどもう数十人の戦士に先を行かれている。
   ふっ、それならあいつは――」

幼「呼んだかな、男くん」

ぞわぞわぞわ

男「……!」

幼「私を待たせるなんて、大したものね。あの女、ずいぶんはっきりしたこと言ってくれたじゃない」

男「どうしてお前、こんな所で油を……」

幼「決まってるでしょ……」ガチャリコ

91: 2012/01/10(火) 23:59:47.98
戦士8「窈窕のハンドガンナーが両手の銃を抜いた……」

戦士9「こいつは危ない……全員侵攻中止! 装甲戦士を盾に状況を待て!!」


男「幼馴染……」

幼「この舞台で男くんと相対するのを待っていたんだよ」

男「本気なのか」

92: 2012/01/10(火) 23:59:54.39
幼「言葉じゃいつまでたっても伝わらないでしょ……!」グワンッ

男「――いつまで話しても聞かないって事かよ!」ババババッ

小銃を腰に構え、フルオートで引き金を引く。
彼女はまるで、俺の火線を煽り誘導するように舞う。この時点で対等な戦いではなかった。

男「ちょこまかと!」

幼「あと1ストロークくらい……」

94: 2012/01/11(水) 00:00:03.22
カコンッ

彼女の言った通り、次に引き金を引いた時にはもう、弾倉に弾は入っていなかった。

幼「1on1で装填の暇があると思って?」

男「ちっ……! こんなもんいるかァ!」

思い切り銃を叩きつけ、腰元の拳銃に右手を添える。

幼「ふんっ!」

男「うひゃっ!?」

95: 2012/01/11(水) 00:00:15.50
男「ちくしょう――一発、一発くらい!」

幼「一発が何ですか」

男「おわっ!?」

立った一発の弾丸で、俺の拳銃は綺麗に弾かれた。

96: 2012/01/11(水) 00:00:25.28
タイルに腰を付けた俺。幼馴染は俺の眉間に拳銃を当てて睨んでくる。

男「……おい、撃てばいいじゃねえか。とっとと勇者の証でも取りに行けば」

幼「私は……男くんを倒しに来たんじゃない」

男「は、はぁ? そのために俺を待ってたんじゃなかったのか――って、なんか自惚れた言い方みたいで嫌だな……」

幼「それは私も……いいや、私の方がよっぽどよ。こんな力に、自惚れ切っていた」

97: 2012/01/11(水) 00:00:31.62
幼「私は面倒に思っていた。最初はこうして夏の暑い中、年末の寒い中に、東京の臨海に集まる事自体を。
   そして、コミケに参加するだけの価値を知った後、このイベントを取り巻く様々な問題を面倒に思い始めた。
   誰かが都合よく、誰かが良い方向に進めてくれることだけを願って……そして一参加者である身分に胡坐をかいていた」

男「でも、それこそ幼馴染一人じゃどうにもできない問題ばかりじゃないか。責任を感じる事もないんじゃ……」

幼「いいえ……だから、萌え戦争が開催されると知った時は少しうれしかった。
   そして、実際に自分の力で戦局を動かせることに快感を覚え、夢中になっている内に窈窕と呼ばれるようになった」

男「それはお前の努力だろ」

幼「違う。私は放棄したのよ、努力を」

98: 2012/01/11(水) 00:00:36.08
幼「女が言う、どうでもいいような地味な努力、必要な努力を、私は徹底的に放棄した。
   銃を持って引き金を引く。そうすれば人は簡単に黙る。会話の必要が無くなる。
   ……そんな事を続けたコミケには未来などない。コミケは真逆。そんな努力のかたまりで出来ていると言うのに」

男「幼馴染……」

幼「だから、終わらせよう。こんな戦いを」

男「え……?」

幼「楽しい事は、楽しさだけでは成立しないんだよ」

99: 2012/01/11(水) 00:00:40.86
そう言って、彼女は人差し指を引いた。

カチャ……



アナウンス \おはようございます!/


男「……は?」

100: 2012/01/11(水) 00:00:45.38
アナウンス \萌え戦争の実施時間を、予定していた12時30分より2時間繰り上げ、
         ただ今より通常のコミックマーケットを開催いたします!
         入場参加者の皆様はスタッフの指示に従い、再度列の形成を行い会場へとお進みください……/


男「へ……へ?」

女「そういう事です。なにも4時まで撃ち合っても意味ないから。12時過ぎれば自由入場だし」

男「はは……あはは……」

101: 2012/01/11(水) 00:00:53.58
―C81 一日目終了後―

男「結局何だったんだ……?」

女「さぁ。今年始まった事でもない」

幼「でも繰り上げ何てのは初めてだったね」

男「そうなのか? まぁ言われてみればおかしいところばっかりのイベントだったな……」

女「一般人からすればおかしいなんてレベルじゃないだろう。もはや見世物レベルだ」

102: 2012/01/11(水) 00:00:58.01
幼「でもでも、私は楽しかったよ」

男「そうかぁ?」

幼「うん、今までのコミケも楽しかったけど、こんなほっこりした気持ちで帰るのは初めてだから」

男「……はは、そっか。それなら俺も、一応楽しかったって事で」

103: 2012/01/11(水) 00:01:04.34
男「明日はどうするんだ?」

幼「行かない……なんて選択肢はないけど、一応迷ってはいるかな……」

女「そんな必要はないだろう。男の方はリベンジに燃えてるみたいだぞ?」

男「変な油注ぐなって!!」

プルルルルルル

女「お、失礼……もしもし、あぁ私だ
   ……はい、……は、もう一度……え……?」

男・幼「?」

104: 2012/01/11(水) 00:01:08.45
女「おい男……幼馴染……」

幼「えっと、どうしたの?」

女「今本部から連絡があったんだが、明日の――」

105: 2012/01/11(水) 00:01:15.70
―C81 2日目―

ザワザワ  ザワザワザワザワ

戦士1「うーさび、足元の感覚ねぇぞもう」

戦士2「昨日は前の列を許したけど、今日の同人列は絶対に譲らないぜ。
     ブログに書かれたけど発行部数がすくねぇんだよ」

戦士1「知った事か。お前のルートなんて……お」

子供3「でさーゆゆこがゆゆゆゆでさー」

戦士1「おいガキ、もうちょっと列詰めろ」

子供4「ぬえぇ? もうちょっとって……もうほとんど隙間ないんじゃ 戦士1「あと5センチだ、さっさと詰めろ」

子供3「はいはい、詰めますよ」

戦士1「解ったら生意気な減らず口にこのカ口リーメイトでも詰めて待ってろ、タコ」

106: 2012/01/11(水) 00:01:23.60
男「はーい列ここで切りますよー!」
ゾロゾロゾロゾロ
女「こことここの列くっつけますー、そこの区切りをまたがずにこっちへ――って、幼馴染なんでこんな後方列に」

幼「えへへ……昨日の飲み会楽しすぎて」

男「ホテルに帰ってから一人でまだ飲んでたんだと」

女「窈窕のなんたらが聞いて呆れるな。私の分も忘れず頼んだぞ」

男「ちゃっかりしてんな……」

パチパチパチ……

女「来たな」
男「ああ」

アナウンス \おはようございます! ただいまより――/


Comiket of Duty Moe Warfare                 おわり

109: 2012/01/11(水) 00:02:53.39

引用元: 女「コミケは遊びじゃねえんだよ!!!」