1: 2011/02/14(月) 00:02:43.77
私こと鈴木純は、平沢憂に恋をしている。
憂とは中学時代からの付き合いがあった。
憂と一緒にいるうちに、私は憂を意識するようになってしまった。
高校二年生の今。憂への想いは、爆発しそうなほど熱く、煮えたぎっている。もう、抑えきる自信がない。
でも、憂は私の恋心に気づいていない。私の好きな人は鈍感なのだ。そういうところも含めて好きなのだが。
想いを知ってもらうべく、チョコレートを作った。チョコを湯煎するところから始めて、二日間。失敗に失敗を重ねて、満足のいく出来のチョコを作りあげた。
憂も梓も知らないだろう。何しろ、極秘で作ったのだから。憂と一緒にチョコを作りながら、家に帰ってもチョコを作っていたのだ。
2月14日は明日にまで迫っている。一眠りすれば、バレンタイン。チョコを渡す日。
誰に? もちろん憂に。
憂とは中学時代からの付き合いがあった。
憂と一緒にいるうちに、私は憂を意識するようになってしまった。
高校二年生の今。憂への想いは、爆発しそうなほど熱く、煮えたぎっている。もう、抑えきる自信がない。
でも、憂は私の恋心に気づいていない。私の好きな人は鈍感なのだ。そういうところも含めて好きなのだが。
想いを知ってもらうべく、チョコレートを作った。チョコを湯煎するところから始めて、二日間。失敗に失敗を重ねて、満足のいく出来のチョコを作りあげた。
憂も梓も知らないだろう。何しろ、極秘で作ったのだから。憂と一緒にチョコを作りながら、家に帰ってもチョコを作っていたのだ。
2月14日は明日にまで迫っている。一眠りすれば、バレンタイン。チョコを渡す日。
誰に? もちろん憂に。
2: 2011/02/14(月) 00:04:34.02
純「……緊張するなあ」
自室で椅子に座りながら、私はぽつりと漏らした。チョコは冷蔵庫の中に入っている。明日学校に行くときに、鞄の中に入れ、持っていくつもりだ。
椅子の背もたれに身をゆだねる。ぎっ、と傾いだ音がした。……痛々しい音。
横目で時計を見る。午前一時。早く寝た方がいいのは分かっているが、胸がドキドキして眠れない。
明日……時間的には今日、私は憂にチョコを渡す。そのついでに、告白するつもりだ。いや、どちらかというと告白がメインか。
場所はまだ決めていない。どこか、二人きりになれる場所で実行しようと思っている。
純「憂、受け取ってくれるかな」
少し不安になる。
自室で椅子に座りながら、私はぽつりと漏らした。チョコは冷蔵庫の中に入っている。明日学校に行くときに、鞄の中に入れ、持っていくつもりだ。
椅子の背もたれに身をゆだねる。ぎっ、と傾いだ音がした。……痛々しい音。
横目で時計を見る。午前一時。早く寝た方がいいのは分かっているが、胸がドキドキして眠れない。
明日……時間的には今日、私は憂にチョコを渡す。そのついでに、告白するつもりだ。いや、どちらかというと告白がメインか。
場所はまだ決めていない。どこか、二人きりになれる場所で実行しようと思っている。
純「憂、受け取ってくれるかな」
少し不安になる。
5: 2011/02/14(月) 00:06:20.03
脳内で、チョコを渡す時のシュミレート。
チョコを渡しながら告白。憂が快く受け取ってくれる。これが一番いい未来。そして、絶対にあり得ない未来。
チョコを渡しながら告白。憂が若干引きながらチョコを受け取る。あまり想像したくない末来。
チョコを渡しながら告白。憂に「キモい」と一蹴されて、チョコは受け取ってもらえない。絶対にあってほしくない末来。
純「ま、普通に受け取ってもらえるだけで、いいんだけどね……」
純「憂がキモいとか言うのは、想像できないし」
…………自覚している。理解もしている。私の恋は一方通行だということを。
チョコを渡しながら告白。憂が快く受け取ってくれる。これが一番いい未来。そして、絶対にあり得ない未来。
チョコを渡しながら告白。憂が若干引きながらチョコを受け取る。あまり想像したくない末来。
チョコを渡しながら告白。憂に「キモい」と一蹴されて、チョコは受け取ってもらえない。絶対にあってほしくない末来。
純「ま、普通に受け取ってもらえるだけで、いいんだけどね……」
純「憂がキモいとか言うのは、想像できないし」
…………自覚している。理解もしている。私の恋は一方通行だということを。
6: 2011/02/14(月) 00:08:09.24
憂は私を見てくれない。憂の視線の先には常に姉の姿があるからだ。わかる。中学時代からの付き合いだ。憂が誰のことを慕っているかなんて、明白だ。
憂は、姉――唯先輩のことが好きなのだろう。
確実に叶わない恋を、現在進行形で体験している。
純「…………憂」
呟きは、誰にも聞こえることなく消えていく。
知ってもらうだけでいい。私が憂のことを愛している――そのことを、憂に覚えておいてもらうだけで構わない。
実際のところ、シュミレートなんかしなくても、わかっている。この恋の結末はビターエンドで終わるのだ。
憂は、姉――唯先輩のことが好きなのだろう。
確実に叶わない恋を、現在進行形で体験している。
純「…………憂」
呟きは、誰にも聞こえることなく消えていく。
知ってもらうだけでいい。私が憂のことを愛している――そのことを、憂に覚えておいてもらうだけで構わない。
実際のところ、シュミレートなんかしなくても、わかっている。この恋の結末はビターエンドで終わるのだ。
7: 2011/02/14(月) 00:11:13.63
憂に告白したら、彼女は困ったような笑みを浮かべるだろう。そして「ごめんね、純ちゃん」と柔らかな物言いで答える。
その返答を聞いた私が残念そうな顔をすると、憂は焦って「でも、ずっと友達だからね」とか言うにきまっている。
あまりにも単純で、何より残酷な結末。
これは私の失恋の物語。
私の初恋の閉幕――。
ため息が出る。諦観や悲しみが混じった、憂欝の吐息。
かすかな睡魔を感じて、私は寝床に潜ることにした。
その返答を聞いた私が残念そうな顔をすると、憂は焦って「でも、ずっと友達だからね」とか言うにきまっている。
あまりにも単純で、何より残酷な結末。
これは私の失恋の物語。
私の初恋の閉幕――。
ため息が出る。諦観や悲しみが混じった、憂欝の吐息。
かすかな睡魔を感じて、私は寝床に潜ることにした。
8: 2011/02/14(月) 00:14:11.70
目が覚めたのは、いつもと同じ時間だった。
そういえば、今日はバレンタインでもあり、N女の合否発表日だったっけ。
純「……となると、放課後は軽音部室に行くことになるのかな」
起きたばかしの頭をフルに使って、私は告白の手順を考える。
どうせ、実らぬ恋。そんな思考がよぎる。
――もしも、告白がきっかけで、私と憂の仲が気まずくなったら?
――憂に話しかけられなくなったら?
ネガティブな考えが、頭の中に湧く。かぶりを振って、雑念を追い払う。今は、告白することにのみ集中しよう。当たって砕けるんだ。
その結果どうなるかなんて、後から考えればいい。
意識せずに、またため息が出てしまった。
そういえば、今日はバレンタインでもあり、N女の合否発表日だったっけ。
純「……となると、放課後は軽音部室に行くことになるのかな」
起きたばかしの頭をフルに使って、私は告白の手順を考える。
どうせ、実らぬ恋。そんな思考がよぎる。
――もしも、告白がきっかけで、私と憂の仲が気まずくなったら?
――憂に話しかけられなくなったら?
ネガティブな考えが、頭の中に湧く。かぶりを振って、雑念を追い払う。今は、告白することにのみ集中しよう。当たって砕けるんだ。
その結果どうなるかなんて、後から考えればいい。
意識せずに、またため息が出てしまった。
10: 2011/02/14(月) 00:15:45.90
学校にはいつもより遅く到着した。梓や憂はもう来ている。
梓「純、遅かったね」
純「ちょっと葛藤してたんだ」
憂「葛藤?」
純「うん。冷蔵庫の前でね」
二人とも、頭にクエスチョンマークを浮かべている。
純「いや、まあ気にしないで」
梓「? う、うん」
純「そういえばさ、今日N女の合格発表あるんでしょ?」
梓「うん、受かってたらメールくれるって」
梓「純、遅かったね」
純「ちょっと葛藤してたんだ」
憂「葛藤?」
純「うん。冷蔵庫の前でね」
二人とも、頭にクエスチョンマークを浮かべている。
純「いや、まあ気にしないで」
梓「? う、うん」
純「そういえばさ、今日N女の合格発表あるんでしょ?」
梓「うん、受かってたらメールくれるって」
12: 2011/02/14(月) 00:18:12.38
純「ふぅん。……澪先輩たちは、今日軽音部に来るの?」
梓「どうだろ、多分来ると思うよ。私も行くしね」
純「そっか」
梓「それが、どうかしたの?」
純「ううん、別に」
唯先輩たちも来るから、憂も部室に行くはずだ。今日はジャズ研をサボって、私も軽音部室に行こう。
その後は――?
梓「どうだろ、多分来ると思うよ。私も行くしね」
純「そっか」
梓「それが、どうかしたの?」
純「ううん、別に」
唯先輩たちも来るから、憂も部室に行くはずだ。今日はジャズ研をサボって、私も軽音部室に行こう。
その後は――?
13: 2011/02/14(月) 00:20:17.25
純「…………どうしようかな」
憂「なにが?」
純「え、あ、何か私言ってた?」
憂「どうしようかな、って言ってたよ」
純「そ、そっか。何でもないよ、ちょっと考え事してただけ」
軽音部室に行って、そこからどう告白する?
私は考えるという好きではない。まったくアイデアが浮かばない。どうすれば……。
告白したいという気持ちだけが先走っていた。同時に少しばかり、迷いがあった。
憂「なにが?」
純「え、あ、何か私言ってた?」
憂「どうしようかな、って言ってたよ」
純「そ、そっか。何でもないよ、ちょっと考え事してただけ」
軽音部室に行って、そこからどう告白する?
私は考えるという好きではない。まったくアイデアが浮かばない。どうすれば……。
告白したいという気持ちだけが先走っていた。同時に少しばかり、迷いがあった。
14: 2011/02/14(月) 00:23:18.41
…………結局、放課後になっても策は浮かばなかった。ぶっつけ本番、下手な小細工もなしで、私は告白しなければならないのだ。
策を講じて何かをするのは私の性質に合わないんだ、と自分に言い訳しながら、私は憂と軽音部室に向かった。
軽音部の面々はみな、一様に笑顔だった。合格したのだろう。
そういえば、梓や憂が授業中に肩を震えさせていた。合格した、というメールが来ていたのかもしれない。
律先輩と梓がじゃれ合っている。紬先輩がそれを見て笑っている。唯先輩は澪先輩と一緒に何かお話をしている。
純「……やっぱり軽音部のみんな仲良しだよね……」
憂「そうだね……、梓ちゃん嬉しそう」
純「本当だ」
策を講じて何かをするのは私の性質に合わないんだ、と自分に言い訳しながら、私は憂と軽音部室に向かった。
軽音部の面々はみな、一様に笑顔だった。合格したのだろう。
そういえば、梓や憂が授業中に肩を震えさせていた。合格した、というメールが来ていたのかもしれない。
律先輩と梓がじゃれ合っている。紬先輩がそれを見て笑っている。唯先輩は澪先輩と一緒に何かお話をしている。
純「……やっぱり軽音部のみんな仲良しだよね……」
憂「そうだね……、梓ちゃん嬉しそう」
純「本当だ」
15: 2011/02/14(月) 00:25:23.17
さて、と頭を切り替える。
ここからが、私のバレンタインだ。
どうする? 憂に告白。それが今日のビッグイベント。一世一代の、告白。
純「あ、あのさ、憂」
声は震えていないだろうか?
憂「なに? 純ちゃん」
純「あの、さ」
言うべき言葉が見つからない。おかしい。
純「あの……その……」
なんで?
ここからが、私のバレンタインだ。
どうする? 憂に告白。それが今日のビッグイベント。一世一代の、告白。
純「あ、あのさ、憂」
声は震えていないだろうか?
憂「なに? 純ちゃん」
純「あの、さ」
言うべき言葉が見つからない。おかしい。
純「あの……その……」
なんで?
16: 2011/02/14(月) 00:27:38.45
純「その……」
場所は教室だ。教室にしよう。放課後の教室。ひんやりとした空気と、窓の外に広がる夕焼け空。カラスの鳴き声をBGMに告白しよう。
だから、憂に「二年一組の教室、行かない?」と言えばいいのだ。
そう理解しているのに、言葉を継げられなかった。
おかしい。なんで?
ここにきて、私は……。
憂「なに? 純ちゃん」
怪訝そうに、憂が私を見つめる。
なんで私は、何も言えないのか。
場所は教室だ。教室にしよう。放課後の教室。ひんやりとした空気と、窓の外に広がる夕焼け空。カラスの鳴き声をBGMに告白しよう。
だから、憂に「二年一組の教室、行かない?」と言えばいいのだ。
そう理解しているのに、言葉を継げられなかった。
おかしい。なんで?
ここにきて、私は……。
憂「なに? 純ちゃん」
怪訝そうに、憂が私を見つめる。
なんで私は、何も言えないのか。
17: 2011/02/14(月) 00:29:44.58
気づく。
私は、恐怖している。
何に?
憂と友達のままでいられなくなるんじゃないか、ということに。
告白して、フられることに。
憂の口から、私のことが好きではない、と告げられることに。
私は、恐怖している。
何に?
憂と友達のままでいられなくなるんじゃないか、ということに。
告白して、フられることに。
憂の口から、私のことが好きではない、と告げられることに。
18: 2011/02/14(月) 00:30:40.58
憂は私のことを愛していない。そんなことは知っている。知っているけれど、私は憂に恋をしている。
何故か? 愛していない、というのは飽くまでも私の想像だからだ。憂の口から直接、聴いたことではないから。
私は期待していたのだ。
憂は唯先輩のことが好きなんだろうな、と想像しながら、その反面私は期待していた。憂は私のことが好きなのではないか、と。
でも、憂に告白して、フられたら? 私の期待は勘違いになってしまう。そして、思い知らされる。憂は私ではなく、唯先輩のことが好きなのだ――ということを。
私は、それに恐怖していた。
憂の本心を知ってしまうことに、恐怖していた。
憂「どうしたの? 純ちゃん。顔色悪いよ?」
心配そうに、私の体を触ってくる。熱でもあるの? そういって憂は、手の平を額に当てた。憂の手の平は、冷たい。
何故か? 愛していない、というのは飽くまでも私の想像だからだ。憂の口から直接、聴いたことではないから。
私は期待していたのだ。
憂は唯先輩のことが好きなんだろうな、と想像しながら、その反面私は期待していた。憂は私のことが好きなのではないか、と。
でも、憂に告白して、フられたら? 私の期待は勘違いになってしまう。そして、思い知らされる。憂は私ではなく、唯先輩のことが好きなのだ――ということを。
私は、それに恐怖していた。
憂の本心を知ってしまうことに、恐怖していた。
憂「どうしたの? 純ちゃん。顔色悪いよ?」
心配そうに、私の体を触ってくる。熱でもあるの? そういって憂は、手の平を額に当てた。憂の手の平は、冷たい。
19: 2011/02/14(月) 00:34:01.62
純「う、ううん。大丈夫だよ」
声は、やはり震えていた。
純「何でもないから――――」
告白はできずじまい。
そうして、私のバレンタインは、終わる。
終わる?
終わらしていいのか?
自問自答。
来年は受験生だ。勉強で忙しくなるに違いない。チョコなんて作っている暇はないだろう。そう考えると、今年がラストチャンスだ。
私が憂に想いを伝える、最初で最後の機会。
声は、やはり震えていた。
純「何でもないから――――」
告白はできずじまい。
そうして、私のバレンタインは、終わる。
終わる?
終わらしていいのか?
自問自答。
来年は受験生だ。勉強で忙しくなるに違いない。チョコなんて作っている暇はないだろう。そう考えると、今年がラストチャンスだ。
私が憂に想いを伝える、最初で最後の機会。
20: 2011/02/14(月) 00:36:22.19
大学が一緒だったら、まだチャンスはある。でも、と思う。同じ大学にいけるなんて、そうそうないだろう。
軽音部の面々が特例なだけで、普通は、みんなずっと一緒なんてことありえない。
恐怖が、私の口を閉ざしていた。
今伝えずにいつ伝える。そう自分を叱咤しても、恐怖は抜けなかった。
やはり、バレンタインは、これで、終わり………………。
――当たって砕けるんだ。
当たることすらもできなかった。当たることが恐かった。
フられる。その確定した未来から、私は逃げていた。初恋の幕を下ろしたくはなかった。
私は、臆病すぎた。
軽音部の面々が特例なだけで、普通は、みんなずっと一緒なんてことありえない。
恐怖が、私の口を閉ざしていた。
今伝えずにいつ伝える。そう自分を叱咤しても、恐怖は抜けなかった。
やはり、バレンタインは、これで、終わり………………。
――当たって砕けるんだ。
当たることすらもできなかった。当たることが恐かった。
フられる。その確定した未来から、私は逃げていた。初恋の幕を下ろしたくはなかった。
私は、臆病すぎた。
21: 2011/02/14(月) 00:38:39.09
揺れる。
私の想いが揺れる。
告白しようか、しないか。
ゆぅんゆぅん、と振り子のように揺れる。
ふと、昨夜の思考が、脳裏によみがえる。
〝知ってもらうだけでいい。私が憂のことを愛している――そのことを、憂に覚えておいてもらうだけで構わない〟
告白するか、しないか。
二者択一。イエスかノーかのイージークエスチョン。
私の想いが揺れる。
告白しようか、しないか。
ゆぅんゆぅん、と振り子のように揺れる。
ふと、昨夜の思考が、脳裏によみがえる。
〝知ってもらうだけでいい。私が憂のことを愛している――そのことを、憂に覚えておいてもらうだけで構わない〟
告白するか、しないか。
二者択一。イエスかノーかのイージークエスチョン。
22: 2011/02/14(月) 00:40:18.96
純「……憂」
自然に声が出た。
憂「なに?」
純「来てほしいところが、あるんだ」
言うのはとても気恥ずかしかったけれど。
憂「どこ?」
きまっている。
純「二年一組の、教室」
振り子は、告白するのほうに傾いた。
自然に声が出た。
憂「なに?」
純「来てほしいところが、あるんだ」
言うのはとても気恥ずかしかったけれど。
憂「どこ?」
きまっている。
純「二年一組の、教室」
振り子は、告白するのほうに傾いた。
23: 2011/02/14(月) 00:42:17.45
そうだ。
私は、知ってもらうだけでよかった。それ以上のことは望まない。ただ、気付いてもらうだけで満足だ。
その結果どうなるかなんて、知ったことではなかった。
それに憂は、私の恋心を知らされた後も、私と友達でいてくれるだろう。
憂はそういう子なのだ。誰に対しても優しい子なのだ。私は知っている。だって――。
私には憂との、長い付き合いがあるのだから。
私は、知ってもらうだけでよかった。それ以上のことは望まない。ただ、気付いてもらうだけで満足だ。
その結果どうなるかなんて、知ったことではなかった。
それに憂は、私の恋心を知らされた後も、私と友達でいてくれるだろう。
憂はそういう子なのだ。誰に対しても優しい子なのだ。私は知っている。だって――。
私には憂との、長い付き合いがあるのだから。
25: 2011/02/14(月) 00:45:02.96
二年一組の教室は、当たり前のように人っ子一人なかった。いつもは女子の声で騒々しい教室は、不気味なくらい静かで、薄暗い。
窓の外には朱の空がまんべんなく広がっていて、それはどこか、もの悲しさをたたえていた。BGMになるはずのカラスの声は聞こえなかったけれど。
純「あのさ、憂。今日バレンタインでしょ? だから、チョコ作ってきたんだ」
私は確かに臆病だ。だけど、ここまで来て逃げ出すほど臆病ではない。
憂「え、本当? ありがとう! 純ちゃん」
憂は笑う。つられて私も笑う。
私は鞄からチョコを取り出す。小さな箱に詰めたチョコ。製作時間二日とちょっと。睡眠時間を削って、つくったものだ。
純「あのさ、憂」
憂から返ってくる答えは、わかっている。
けれど、私にもう迷いはない。
窓の外には朱の空がまんべんなく広がっていて、それはどこか、もの悲しさをたたえていた。BGMになるはずのカラスの声は聞こえなかったけれど。
純「あのさ、憂。今日バレンタインでしょ? だから、チョコ作ってきたんだ」
私は確かに臆病だ。だけど、ここまで来て逃げ出すほど臆病ではない。
憂「え、本当? ありがとう! 純ちゃん」
憂は笑う。つられて私も笑う。
私は鞄からチョコを取り出す。小さな箱に詰めたチョコ。製作時間二日とちょっと。睡眠時間を削って、つくったものだ。
純「あのさ、憂」
憂から返ってくる答えは、わかっている。
けれど、私にもう迷いはない。
26: 2011/02/14(月) 00:47:12.56
当たって砕けてやろうじゃないか。
純「私、前から憂のこと好きだよ」
すらすらと、そう言えた。
憂はさして驚いた様子を見せない。
困った笑顔も浮かべない。
これは――予想していなかったシュミレート。逆に私の方が戸惑う。
憂は口を開いて、微笑む。
そして、言ったのだ。
憂「私もだよ」
純「私、前から憂のこと好きだよ」
すらすらと、そう言えた。
憂はさして驚いた様子を見せない。
困った笑顔も浮かべない。
これは――予想していなかったシュミレート。逆に私の方が戸惑う。
憂は口を開いて、微笑む。
そして、言ったのだ。
憂「私もだよ」
27: 2011/02/14(月) 00:49:26.42
……もしかしたら、私の方が鈍感なのかもしれない。憂よりも、ずっと。
私は、全然憂を見ていなかった。
憂は唯先輩が好きなのだと、思い込んでいた。それこそ妄想だった。
憂は、私のことが好きじゃない――と思っていたから、今まで私は憂に告白しなかった。半ばあきらめていた。今日告白したのだって、フられると内心思っていた。
憂の返答を聞いて、頭が白紙になる。
純「え、あ、そ、ほ、ほ」
何が言いたいのかよくわからなくて、私はしどろもどろになる。
私は、全然憂を見ていなかった。
憂は唯先輩が好きなのだと、思い込んでいた。それこそ妄想だった。
憂は、私のことが好きじゃない――と思っていたから、今まで私は憂に告白しなかった。半ばあきらめていた。今日告白したのだって、フられると内心思っていた。
憂の返答を聞いて、頭が白紙になる。
純「え、あ、そ、ほ、ほ」
何が言いたいのかよくわからなくて、私はしどろもどろになる。
30: 2011/02/14(月) 00:51:46.60
憂「私もね、純ちゃんのこと、好きだよ」
一語一語、ゆっくりと憂は紡ぐ。
ビターエンドしか想像していなかった私は、本当に臆病だった。
純「……ライクじゃなくて、ラブだよ?」
念のため訊く。
憂「私も、ラブだよ」
憂はさっ、と私の手からチョコを受け取る。
憂「ありがとうね、純ちゃん」
純「う、うん……」
嬉しいような、花恥ずかしいような、何とも言えないむずがゆい気持ちになる。
一語一語、ゆっくりと憂は紡ぐ。
ビターエンドしか想像していなかった私は、本当に臆病だった。
純「……ライクじゃなくて、ラブだよ?」
念のため訊く。
憂「私も、ラブだよ」
憂はさっ、と私の手からチョコを受け取る。
憂「ありがとうね、純ちゃん」
純「う、うん……」
嬉しいような、花恥ずかしいような、何とも言えないむずがゆい気持ちになる。
31: 2011/02/14(月) 00:53:54.10
憂「……実はね、私も、チョコ作ってきたんだ。帰り際純ちゃんに渡そうと思ってたんだけど」
言いながら、憂は鞄の中からチョコを取り出す。そして、私の手に渡した。
綺麗な包装で包まれたチョコレート。包装紙には〝純ちゃんへ〟と書かれている。
憂と私には、同じような葛藤があったのかもしれない。そんなことをふと思った。
当たって砕けずに済んだ。私の初恋は、今やっと開幕した。失恋の物語なんかじゃなかった。さっきまで感じていた恐怖が、体からするりと抜けおちた。
憂「ずっと、好きだったんだよ。でもさ、言ったら、気持ち悪がられちゃうかなって、言えなかったんだよね」
えへへ、と憂。
純「私もだよ――」
そう、私も。
私も臆病だ。おなじく憂も、臆病だった。
言いながら、憂は鞄の中からチョコを取り出す。そして、私の手に渡した。
綺麗な包装で包まれたチョコレート。包装紙には〝純ちゃんへ〟と書かれている。
憂と私には、同じような葛藤があったのかもしれない。そんなことをふと思った。
当たって砕けずに済んだ。私の初恋は、今やっと開幕した。失恋の物語なんかじゃなかった。さっきまで感じていた恐怖が、体からするりと抜けおちた。
憂「ずっと、好きだったんだよ。でもさ、言ったら、気持ち悪がられちゃうかなって、言えなかったんだよね」
えへへ、と憂。
純「私もだよ――」
そう、私も。
私も臆病だ。おなじく憂も、臆病だった。
32: 2011/02/14(月) 00:56:03.94
ただ、一歩踏み出しただけで予想とは何もかもが違った。そんなものなのかもしれない。
あるいは、勇気を出して進んだから、何かが変わったのかもしれない。
私は俯き加減に、手元のチョコを見る。
純「ありがとうね、憂」
どういたしまして、と憂が答える。
とろけるほど甘いであろうチョコに目を落としたまま、私は憂にもう一度、大好きだよと言ってみた。顔を見るのも照れ臭かった。
私の恋した彼女は、はにかみながら、私も大好きだよと答えてくれる。
憂もうつむいているのかもしれない、と私は思った。
終わり
あるいは、勇気を出して進んだから、何かが変わったのかもしれない。
私は俯き加減に、手元のチョコを見る。
純「ありがとうね、憂」
どういたしまして、と憂が答える。
とろけるほど甘いであろうチョコに目を落としたまま、私は憂にもう一度、大好きだよと言ってみた。顔を見るのも照れ臭かった。
私の恋した彼女は、はにかみながら、私も大好きだよと答えてくれる。
憂もうつむいているのかもしれない、と私は思った。
終わり
33: 2011/02/14(月) 00:58:49.37
乙
引用元: 純「ひとりずもう」
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります