1: 2011/01/29(土) 21:44:56.92
澪「わ、私たちの中に……」

律「犯人が……」

紬「いる……」

唯「……」

美雪「ほ、本当なの? はじめちゃん」

律「だ、誰なんだよ!」

金田一「それは……まだわからない。けど、必ず暴いてみせる」

金田一「ジッチャンの名にかけて」

……。

4: 2011/01/29(土) 21:46:07.56
……。

唯父「じゃあ、いってくるよ」

唯母「またお留守番、お願いね」

唯「うん、いってらっしゃい」

憂「気をつけてね」

唯父「はははっ、大丈夫だよ」

唯母「そうよね。うふふ」

二人「?」

6: 2011/01/29(土) 21:48:49.87
えらくニコニコとした二つの笑顔が、玄関先に並んでいる。

それを見つめ姉妹……。

両親二人で海外旅行に出かける事。

姉は、いつもの事だと思い特別何の感情も浮かべずにその二人を見つめていた。

唯(私たちも、もうすぐすれば合宿があるんだもん)

唯(今回は憂や純ちゃんも一緒で……とにかく盛りだくさんな合宿なのです)

ふふっ、と誰にも気付かれないように姉は小さく笑った。

目の前にいる、二人は……その笑顔のまま玄関から出ていった。

これでまた、隣にいる妹と一緒に過ごすいつもの時間が始まるんだ、と唯は思った。

7: 2011/01/29(土) 21:50:02.83
唯(早く合宿の日にならないかなあ)

誰もいなくなった玄関の後ろからは、付けっぱなしにしたテレビの音声が聞こえている。

『続いてのニュースです。一部上場の……コーポレーションの……』

……経済がどうとか会社の株がどうとか。

合宿を目前に控えた女子高生にとっては、どうでもいいニュースが玄関にまで響いていた……ような気がする。

唯の耳には、もうその音は届かない。

唯(楽しみだなあ、合宿)


これが合宿の始まる二週間前の事だった。

11: 2011/01/29(土) 21:55:43.46
二週間後。

佐木「せんぱ~い、早く来て下さいよ」

金田一「ぜぇ……ぜぇ……ま、まっちくり~、もう……つかれ……」

美雪「もう、情けないわね。そんな体力で沢登りがしたいだなんて」

金田一「う、うるへ~。元々は佐木と二人で来る予定だったのに……なんで美雪までついてくるんだよ」

美雪「そんな情けない姿が、簡単に想像できちゃうからですっ」

金田一「お前な……」

佐木「お、先輩いい表情ですよ」

金田一「佐木……お前もビデオまわしながら、元気なもんだなぁ」

12: 2011/01/29(土) 22:02:26.86
美雪「……にしても、沢登りっ言うよりは谷を見ながら散歩してる感じね」

佐木「いざとなったら、バスもありますからね。この辺はあまり人も通らないみたいで、一日に一本のバスしかありませんけど……」

美雪「ふ~ん。でもこんな急な崖ばっかの奥地でも、ちゃんとバスは通っているのね」

金田一「……っくしょう。元々はレジャーに来たお姉ちゃん達をナンパする予定だったのによ」

金田一「美雪がいる、おまけにこんな山奥じゃあ、ナンパどころか、観光だって……」

14: 2011/01/29(土) 22:07:19.65
佐木「まあ、半分は予定無しの行き当たりばったりなプランでしたからね。人がいないのも仕方な……」

金田一「ん、雨……か」

美雪「あら大変。雨ガッパ着ないと」

金田一「お、美雪。俺にも雨具頼むよ」

美雪「え? はじめちゃんの分なんて持ってないわよ。甘えないの」

佐木「先輩、何も持って来なかったんですか?」

金田一「……」

美雪「……もう、だったら雨宿り出来そうな場所を探しましょう」

金田一「探しましょうったって……こんな森の中まで来たら建物なんて……」

ザーッ。

佐木「わ、わ、カ、カメラカメラ!」

金田一「降ってきたな……」

15: 2011/01/29(土) 22:11:45.61
美雪「……あれ、ねえ。あそこに明かりが見えない?」

金田一「へっ?」

美雪「ほら、あの……木の奥に」

佐木「本当だ、玄関に明かりが灯ってる。誰か住んでるんですよ!」

金田一「こんな奥地に民家ね~……大方、どっかのお金持ち様の別荘かなんかじゃないのかね」

美雪「このまま濡れてるよりマシでしょ。さ、行くわよはじめちゃん」

金田一「へいへい。ま、優しいお姉さんがいる事を期待して……」

美雪「……馬鹿言ってないで行くわよ」

金田一「い、いてて! み、美雪。耳を引っ張るなって、わ、わかったから……っ!」

佐木「……♪」ジー

16: 2011/01/29(土) 22:17:36.46
ピンポーン。

金田一「……」

ピンポーン。
ピンポーン。

佐木「留守ですかね」

金田一「そんなはずねーだろ。窓からも明かり漏れてるしよ」

美雪「……別荘。ペンションみたいな感じね。ここ、お店かしら?」

ピンポーン。

金田一「なんにしてもよ~、誰か出てきてくれないと寒くて凍氏しちま……」

『……あ、の。ど、どちら様でしょう』

美雪「あ、すいません。実は私たち、雨宿りがしたくて……」

『ま、まあ。そうですか。そういう事なら……少々お待ち下さい!』

金田一「おい、佐木。可愛らしい女の子の声だったぞ。こいつは俺たち、運がよかった……」

佐木「……美雪先輩、しっかりこっちみてますよ」

19: 2011/01/29(土) 22:23:31.65
ガチャッ。

紬「あ、あの。雨宿りですか」

美雪「あ……はい。雨が止むまで、こちらの方にお世話になっても……」

紬「そうですか。それはお困りでしょうね」

美雪(うわあ、綺麗な人。髪の毛も金色で……お嬢様ってカンジ)

紬「……あら、そちらの方は顔にお怪我をされているのですか?」

金田一「ひ、ひえ。だいじょうぶれしゅ……」

佐木「先輩、全力ビンタなんていい絵が撮れましたよ」

金田一「佐木……うるへーっての」

紬「……くすっ。とにかくあがって下さい。すぐにタオルを用意しますから」

佐木「お邪魔しま~す」

21: 2011/01/29(土) 22:31:52.46
一階中央・団欒室

唯「あ、おかえりムギちゃ……って、うわあ団体さんだ~」

律「おっ、なんだか一気に賑やかになったな~」

紬「細かい話は後よ。今はお客様にタオルを貸してあげないと……」

憂「はい、タオルですよ」

紬「あ、ありがとう~憂ちゃん。さあ、どうぞ」

美雪「あ、ありがとうございます」

金田一「ど、どうも……」

金田一「お、おい佐木。こ、この状況は……」

佐木「先輩。今度は右だけじゃなくて左頬にも紅葉マークがついちゃいますよ」

23: 2011/01/29(土) 22:37:52.33
金田一(そ、そうは言っても……)

梓「……こんな所にお客さんなんて珍しいですね」

純「この辺て観光する場所あるのかな?」

紬「ん~、あまり人がいない静かな別荘を選んだんだけど……」

美雪「あ、あの。もしかしてお邪魔でしたか? だったら早めに出発して……ね、はじめちゃん」

金田一(女の子がいっぱいって、ええもんやなあ……うんうん)

美雪「……はじめちゃん」

金田一(そうだなあ。みんな可愛いけど俺の好みで言ったら……)

美雪「はじめちゃんてば!」

金田一「は、はいっ!?」

美雪「……話、ちゃんと聞いてた?」

29: 2011/01/29(土) 22:45:53.97
紬「あ、迷惑とかじゃないんです。私たち、ここで合宿をしていたんですよ」

金田一「合宿?何か部活の……」

唯「私たちはけいおん部なんだよ!」

美雪「けいおん部って、楽器の?」

紬「はい、今日が合宿初日で……」

佐木「それだったら、なおさら邪魔も出来ないですね」

律「ああ~、ウチはそこまで根つめて練習しないから大丈夫だよ」

梓「大丈夫じゃありません! 律先輩、部長なんだからちゃんとして下さいよ!」

純「あ、梓が怒ってる……」

紬「練習しないというのは、ともかく……」

33: 2011/01/29(土) 22:50:42.59
紬「雨が止むまで、ゆっくりしていって下さい」

唯「そうだよっ! せっかく知り合えたんだからお話しようよ~」

律「お~お~、さすが天然な唯ちゃん。それに比べて……」

澪「……」

律「さっきから何も喋らない澪しゃん」

澪「……う、うるさい」

美雪「え、えっと」

律「この子人見知りでさ~。まあ、あんま気にしないで下さいな」

澪「……」

紬「ふふっ、とりあえず自己紹介からね」

34: 2011/01/29(土) 23:02:37.84
……。

律「へえ、二人とも高校二年生かあ~」

唯「あ、じゃあ一応私たちのが先輩だね!」

梓「……そんな事で鼻息荒くしないで下さい」

律「あ、でも敬語とか先輩とか気にしなくて大丈夫……ですわよ」

澪「律、意識すると変になるぞ……」

憂「ふふっ。さすがに私たちは気を遣いますけど、ね」

佐木「ああ、それなら僕も同じです。気兼ねなく話過ぎてもどうも……」ジー

紬「……あら、そのカメラ。今一番新しいタイプのですよね」

佐木「え! わかりますか?」

35: 2011/01/29(土) 23:11:36.73
紬「はい」ジー

そう話した紬の左手に、いつの間にかビデオカメラが握られていた。

佐木「そ、それは! 次の春に発売されるはずの最新モデル! ど、どうしてここに……」

唯「ムギちゃんちはお金持ちだからね。この別荘だって、ムギちゃんの持ち物なんだよ!」フンス

梓「いや、唯先輩が威張んないで下さいよ」

紬「……ふふっ」

金田一「はあ、本当にお嬢様の別荘だったわけね」

律「……にしてもさあ」

律「その隣の男の子、カレシ~?」

美雪「!」

澪「か、か、かれ……!」

梓「り、律先輩。いきなり何を言うんですか!」

律「いやあ、だって考えてもみろって」

36: 2011/01/29(土) 23:19:13.50
律「こんな所に男女二人……付き合ってなきゃこれないってば」

紬「ま、まあ! そうなんですか!」

美雪「そ、そんなことないですよ。そ、それより!」

純(あ、今ちょっと嬉しそうな顔した)

美雪「み、皆さんはけいおん部なんですよね。だったら何か演奏聴かせて下さいよ!」

佐木「あ、それいいですね」ジー

澪「え、演奏!」

律「マジ?」

梓「練習の時間でちょうどいいじゃないですか。やりましょうよ!」

澪「で、でも……恥ずかしいよ」

38: 2011/01/29(土) 23:23:43.27
紬「ふふっ、じゃあこのビデオで私たちを記録に残して貰わないと。えっと、佐木さん、お願いできますか?」

澪「ムギ!」

唯「よ~し、頑張るぞ~」

澪「ゆ、唯まで……」

純「ああ、生で練習してる所が見れる……頑張って下さいねっ!」

澪「うう……」

律「……観念した?」

澪「わ、わかったよ。やるよ……」

律「よ~し。じゃあみんな娯楽室に移動~」

澪「うう……」

美雪「なんだか、楽しそうな部活ね」

金田一「ああ……そう、だな」

39: 2011/01/29(土) 23:34:58.68
娯楽室。

美雪「うわあ、すごい。ドラムにギターに……本格的」

金田一「スゲー……このギター、一体いくらするんだ?」

唯「ふふん、ムギちゃんのお陰で五万円で買えたんだよ!」

金田一「たかっ!」

律「それでも安くしてもらえたんだよ。普通に買ったらその六倍くらいの値段は当たり前で……」

金田一「……はあ、俺だったらそんな金、全部ゲームに消えちまうよ」

唯「お、ゲーマーですか。なんのゲームするのかな?」

金田一「……聞いて驚け。バイオ2ならナイフのみで……」

唯「ええっ、すごいよ~」

金田一「ぬわっはっはっ」

律「……なんか、変な所で気が合ったな」

純(ああ、こうやっていつも練習から脱線してるんだ)

40: 2011/01/29(土) 23:40:15.40
紬「じゃあ佐木さん、カメラを……って二つも持ちながら撮影は出来ませんかね?」

佐木「ああ、敬語じゃなくて大丈夫ですよ。カメラ二つは確かに辛いですけど……」

紬「んん~、じゃあ演奏しない……えっと、憂ちゃん」

憂「はい?」

紬「このカメラでみんなを撮してくれない?」

憂「あ、いいですよ」

紬「ふふっ、お願いね。ここが録画で、ズームと……」

律「……おし、じゃあそろそろ始めるか!」

唯「お~!」


律「ワン、ツー、ワンツー……」

……。

41: 2011/01/29(土) 23:50:26.04
唯「……笑わないで、どうか聞いて」

佐木「……」ジー

憂「……」ジー

美雪「……すごいね」

金田一「あ、ああ」

美雪「こんな風に何かが出来るなんて、うらやましいな」

金田一「そうかぁ~?」

美雪「そうよ。はじめちゃんだって、勉強もスポーツも出来ないけど、推理力だけは誰にも負けないし……」

金田一「美雪さん。誉めるか落とすかどっちかにしてくれ……」

唯「想いよ~、と~どけ」

美雪「音楽、かあ……」

金田一「……」

娯楽室には楽しげなメロディーが響いていて……外で激しく降り続いている雨なんて、俺たちの耳には入らない。

演奏をしているメンバーも、それを聴いている他の人間も……この音をもう聴く事が出来なくなるなんて、思ってもいなかった。

45: 2011/01/29(土) 23:58:43.18
二階・客室前廊下。

美雪「でも本当にいいの? いきなり三人も泊まっちゃうなんて……なんだか悪いわ」

紬「気にしないで、部屋なら余っているから」

金田一「よかった~、フカフカベッドで寝られるぜ!」

美雪「もう……少しは遠慮しなさい」

律「まま、気にしない気にしない。賑やかなのはいい事だ」

紬「ええ。それに……雨もまだ止んでないみたいですし。外を歩くのは危険よ」

佐木「僕もそう思います」ジー

46: 2011/01/30(日) 00:03:07.96
美雪「じゃあ、お言葉に甘えて……」

憂「あ、お姉ちゃんこっち向いて~」ジー

唯「えへへ、ピ~ス」

純(いいなあ、各々楽しそうで)

梓「純? どうかした?」

純「な、なんでもないよ~」

純「……」

純(……あれ、なんか私だけ会話に入れてない?)

澪「……」

純(先輩みたいに、人見知りってわけじゎないんだけどな……)

47: 2011/01/30(日) 00:07:32.24
二階・純の部屋

合宿二日目、午前0時。

純(……)

純(眠れないや)

純(シャワーでも浴びようかな)

純(……あ、でもどうせだったら一階の大浴場にしよっかな)

純(……うん、それがいい)

純(梓に連絡、は迷惑かな)

純(仕方ない、一人風呂といきますか)

純(バスタオルだけ持って、と)

純(よし)

48: 2011/01/30(日) 00:12:34.22
一階・大浴場

午前0時15分

純(……はあ)

純(合宿に誘われて来てみたけど)

純(なんだろう、この疎外感)

純(うう……)

純「……ダメダメ、こんなんじゃ」

純「せっかくの合宿なんだもん。楽しまないと!」

純「そうだよ、まだあまり話してないけど……新しい友達だって出来たんだから」

純「えへへっ。うん、ポジティブに行かないと!」

純「……そろそろ、部屋に戻ろっかな」

50: 2011/01/30(日) 00:20:43.49
階段前

午前0時28分

純「~♪」

トン。

トン、トン。

リズムに合わせて、木造の階段を上がる。

一階から上り、踊り場でクルリと体の向きを半回転。

この階段を上って、右に曲がって……手前から二番目の部屋が、私の戻る部屋。

純(早く寝ちゃおっと)

階段を、一歩、また一歩……軽い足取りで上がっていく。

段差がなくなり、右に……そう思った瞬間。

「……!!」

純(え……)

誰かが、視界に入ってくる。

52: 2011/01/30(日) 00:29:14.83
純(あ……)

そう思った一秒後には、その誰かが私の視界から遠ざかる。

上り終えたはずの階段を……私は。

その誰かを遠目に見ながら、背中に何もない空間を下りて……ううん、落ちていった。

ドッ。

頭の方から、鈍い音がした気がする。

音は、首の方からも聞こえたみたいだ。

純「……」

「……」

さっきまで私がいた階段の一番高い所には、じっとこっちを見ている一人の……。

ああ、私にはもう意識がありません。

もう何も、わかりません。

……。

54: 2011/01/30(日) 00:38:53.86
一階・団欒室

二日目、午前11時過ぎ。

金田一「ふわぁ~あ。おはよっす」

律「おっす、はじめちゃん~」

澪「り、律。その呼び方……」

律「こういうのは、フレンドリーな方がいいんだよ」

美雪「はじめちゃん、もうお昼前よ?」

金田一「ん~、てっきり誰か起こしに来ると思ったんだけど……ほら、合宿なら早起きが当たり前だろうからさ」

梓「……ウチは、その当たり前が通用しないんですよ」

唯「むにゅ……むにゅ……」

憂「お姉ちゃん、また寝ちゃってる」ジー

佐木「先輩もほっといたら寝ちゃうんじゃないんですか」ジー

金田一「うるへー。カメラマンは、バッテリーの心配だけしてろい」

澪「……あれ? そう言えば鈴木さんは」

55: 2011/01/30(日) 00:46:37.98
律「んあ? そう言えば来てないな~。まだ寝てんのか~?」

紬「そろそろお昼ご飯だから、起こしに行った方がいいかしらね?」

憂「そうかもしれませんね」ジー

律「お~し。じゃあ唯隊員!」

唯「すぴ~……」

律「……いいや。澪、行こうぜ」

澪「う、うん、わかったよ」

律「てわけで、ちょっくらいってきま~す」

57: 2011/01/30(日) 00:52:22.44
五分後。

ドタドタ。

律「た、大変だ」

金田一「ん?」

美雪「一体どうしたの?」

澪「鈴木さんが……部屋にいないんだ」

梓「え?」

紬「いないって……バスルームは?」

律「一応見てきたけど、やっぱり見当たらないんだよ。部屋には誰もいなかった……」

金田一「……」

美雪「……は、はじめちゃん」

全体が沈黙する中で、雨がまた一段の強く窓を叩いた。

金田一「……手分けして探そう。この天気だ、外には出ないだろうから……」

美雪「じゃあ一階と二階で別れましょう」

58: 2011/01/30(日) 01:01:40.11
一階には金田一と佐木が。

二階は女性部屋が殆どと言う事で、残りのメンバー(唯はソファーで熟睡)で探索する事に。

一階には中央の団欒室、そこから大浴場、調理場、客間、そして楽器が置いてある娯楽室の五部屋がある。

金田一「……と、一応色々探してみたものの」

佐木「見当たりませんね」ジー

金田一「ん~、隠れてそうな場所も探したし、後はやっぱり二階に……」

佐木「……あれ、先輩。ちょっと」

金田一「ん、どうした佐木」

佐木「……この階段の下に扉があるんですけど」

金田一「お、本当だ」

佐木「物置部屋かなんかですかね?」

59: 2011/01/30(日) 01:05:06.88
金田一「スペース的にはそうかもな。お~し」

ガチャッ。

金田一「!」

佐木「階段……ですね。地下に続いてるみたいだ」ジー

金田一「ううっ、さぶっ。なんだ、この冷たい空気……」

佐木「きっと地下だからですよ。ここに……いるんですかね?」

金田一「わからん。とにかく、探すしかない」

佐木「……」ジー

60: 2011/01/30(日) 01:10:48.75
金田一「さびぃ~!」

佐木「冷たいというより、冷気ですね。なんだろう、冷蔵庫でも入ってるんですかね」

金田一「うう……こんな所に隠れる訳はないよな……」

佐木「あ、もう階段も終わるみたいですよ」

金田一「……空間が開けた。ここは一体」

佐木「先輩、早く進んでくださいよ~」

金田一「ま、待て佐木。こう暗くちゃ足場が……って、押すなバカ!」

ガッ。

金田一「と、と……わっ!」

63: 2011/01/30(日) 01:17:29.66
佐木「先輩?! 大丈夫ですか?」ジー

金田一「い、いてて……何かにつまづいた……」

佐木「……あ、電気のスイッチありましたよ。ほら」ジー

カチッ。

純「」

佐木「う……」ジー

金田一「う、うわぁああああ!」

佐木「こ、これは」ジー

金田一「……」

冷気の中で、寝巻きと、タオルを体に巻いて横たわる彼女は……本当に眠っているかのようにそこにいた。

寒さに震える事もなく、ただ静かに目を閉じていた。

64: 2011/01/30(日) 01:25:38.94
一階・団欒室。

午後12時過ぎ。

梓「う……ぐすっ……」

律「……」

澪「……」

紬「……」

唯「えっと、本当なの? その……」

唯「……」

憂「お姉ちゃん……」

金田一「……」

美雪「はじめちゃん……」

律「ま、まあ……嫌な事故だった、な」

紬「……」

梓「ううっ……純……純っ……」

唯「あずにゃん……」

66: 2011/01/30(日) 01:32:54.11
紬「……とりあえず、警察と救急車は呼んだから。後は……」

律「……もう、合宿を楽しむ気分じゃないよな」

澪「鈴木さん……」

律「部長である、私の責任だ……どうケジメつければいいんだよ、クソッ」

梓「り、律先輩はっ……ぐすっ、わ、悪くなんかないですよっ……」

梓「わたしが……わたしが一緒にいてあげてたら……う、うわぁああん!」

澪「梓……」

憂「梓ちゃん……仕方ないよ」ギュッ

美雪「はじめちゃん……」

金田一(妙だ、なんか引っ掛かる)

金田一(あれは本当に……事故なのか……?)

……。

プルルルル。

プルルルル。

67: 2011/01/30(日) 01:39:31.96
全員「!」

澪「で、電話か……び、びっくりした……」ガタガタ

ガチャッ。

紬「……はい、琴吹です。あ、警察の……え?」

紬「それは本当……ですか? わかりました、はい、はい……」

ガチャッ。

唯「ど、どうしたのムギちゃん?」

澪「け、警察は? 警察が来るんだろ?」

紬「それが……この豪雨でこの別荘までの道が崖崩れを起こしたらしくて……」

!?

憂「そ、そんな……」

紬「こんな場所じゃあヘリも飛ばせないし、道が復旧するまで私たちは……」

紬「この別荘に、閉じ込められた事になるわね」

金田一「……」

69: 2011/01/30(日) 01:47:57.03
佐木「それで、復旧にはどれくらいかかる予定なんです?」ジー

紬「最低でもあと三日は……雨が弱まらなければ、もっと長くなる可能性も……」

澪「ぐっ……ぐすっ……」

律「澪!」

唯「み、澪ちゃん。泣いちゃだめだよ~」

澪「だ、だってぇ……ぐす……」

律「……心配すんなって。ほら、手握ってやるから。そしたら少し落ち着くだろ……」

澪「りつ……りつぅ……」

唯「私も、ギュ~だってするしお菓子もあげちゃうよ。だから……泣かないで、ね?」

澪「ゆい……うわぁん……」

唯「よしよし」

美雪「……とっても仲がいいのね、みんな」

金田一「ああ……そう、だな」

梓(……)

梓(純……)

71: 2011/01/30(日) 01:58:04.91
二階・金田一の部屋。

午後14時5分。

金田一「……」

佐木「先輩、どうしたんです。難しい顔しちゃって」

金田一「……事件の事を、考えていたんだ」

美雪「え? だってあれは事故……」

金田一「みんなの手前、言えなかったけどな。どう考えても……不自然なんだ」

佐木「……どういう事ですか?」

金田一「考えてみろよ佐木。どうして彼女はあんな場所にいたんだ?」

金田一「それも、薄いパジャマ一枚で」

72: 2011/01/30(日) 02:04:23.05
佐木「それは……興味本位であの地下室を覗いて、そのまま……階段から転げ落ちてしまって……」

金田一「確かに、あれが普通の地下室ならそれもあったかもしれない。でも思い出せよ佐木、俺たちが初めてあの扉を開けた時の事を」


佐木『階段……ですね。地下に続いているみたいだ』ジー

金田一『ううっ、さぶっ。なんだこの冷たい空気……』


佐木「あっ!」

金田一「そう、扉を開けただけであれだけ冷たい空気を感じるんだ。そこからパジャマ一枚で階段を降りていくのは、どう考えても不自然なんだ」

73: 2011/01/30(日) 02:11:01.78
佐木「なるほど。でも、彼女……好奇心旺盛な感じでしたからね。もしかしたら、寒いくらいはへっちゃらで……」

金田一「いや、あの時の彼女に限って、それはあり得ない事なんだ」

金田一「彼女の体に巻かれていた……タオル」

佐木「……あ! バスタオル!」

金田一「そう。あれが毛布や膝掛けなら可能性もあるけれど……バスタオルを持ち歩いてあの部屋に行く事は、どちらにしろ不自然なんだ」

美雪「じゃあ、はじめちゃん……もしかして」

金田一「……でもな。本当に事故の可能性もあるんだ」

金田一「俺には……あのメンバーが殺人を犯すとはどうも考えにくい」

美雪「はじめちゃん……」

佐木「先輩……」

74: 2011/01/30(日) 02:15:07.81
金田一「あんな仲のいい姿を見てたら……さ」

金田一「……というわけで。今からちょっと現場を調べてくるよ」

金田一「何かあった時が、嫌だからな」

佐木「あ、じゃあ僕も行きます」

金田一「おう、ビデオカメラは心強いからな。バッチリ頼むぜ佐木」

佐木「任せといてください!」

美雪「……気をつけてね、いってらっしゃい」

金田一「あ、あと。さっきの事はみんなには秘密な。余計な心配かけたくねえからさ」

美雪「うんっ、わかってる」

金田一「じゃあ、また後でな」

バタン。

美雪「……はぁ」

美雪(……本当に、私出来ないなあ……こんな時に待ってるだけなんて)

美雪(はじめちゃん……)

75: 2011/01/30(日) 02:20:47.07
二階・階段

梓「……あ」

金田一「っと。梓ちゃんだっけ、どうしたのさ、階段で座っちゃったりして」

梓「……いえ、これ。純に持っていこうかなって思ったんですけど」

佐木「毛布?」

梓「純、ずっと寒い所にいるから……凍えて、風邪ひいちゃうから……」

梓「でも、でも……やっぱり純と向き合うのが怖くて……何も話してくれない親友と会うのはやっぱり……ううっ……」

金田一「……」

スッ。

梓「金田一、さん?」

金田一「心配すんなって。これは俺が純ちゃんに届けておくよ」

梓「で、でも、でも……」

金田一「あと、この毛布にくるまってるお菓子も一緒に、さ」

梓「金田一さん……」

76: 2011/01/30(日) 02:26:04.81
梓「う、ううっ……あ、ま、また……泣かないって決めた、のにっ」

梓「純のために、笑おうって決めたのに……ぐすっ」

金田一「……純ちゃんはさ、多分お腹出したまんま寝ちゃう子だと思うんだ」

梓「え? ……ぐすっ」

金田一「だから、この梓ちゃんからの毛布をちゃんと巻いて眠ってもらえば……あっという間に風邪をひかない純ちゃんになるってわけ」

梓「う……く、ぐすっ、純。風邪ひかないでちゃんと眠りますよね……」ニコッ

金田一「ああ、梓ちゃんの毛布なんだから。きっと……大丈夫さ」

梓「うん……うん……」ニコッ

77: 2011/01/30(日) 02:34:36.10
地下室

佐木「先輩もいいとこあるじゃないですか」

金田一「……うるせー。あんなに泣かれちゃ、男失格だっての」

佐木「またまた~」

金田一「ったく……もう。さっさと調べて戻るからな」

佐木「は~い」

金田一「電気をつけて、と」

カチッ。

金田一(……被害者の様子は変わっていない)

金田一(階段のすぐ下に、転げ落ちた様子で横たわっている)

金田一(確かに、ここが現場にも思える、が……)

金田一(コンクリートの床には、血痕がほんの僅か飛び散っている)

金田一(頭部の損傷の割に……血が少なすぎる。これはやっぱり……)

金田一(……)

眠っている彼女に毛布をかけ、俺たちは階段を上がっていった。

80: 2011/01/30(日) 02:41:36.69
一階・中央団欒室

午後19時

唯「……」モグモグ

澪「……」モグモグ

梓(純……もう、一緒にご飯は食べられないの?)

次第に、自分の中に……「どうして」という感情が沸いてくるのがわかる。

どうして純はあんな所に行ったんだろう。

どうして、私に何も話してくれなかったんだろう。

どうして、純じゃなきゃいけなかったんだろう。

そして……。

梓(……)

私の頭には、どうしても拭いきれない一つの考えがあった。

それは、時間が経ってきて気持ちが落ち着けば落ち着く程……私の中で大きくなった。

それは……。

梓(純は誰に……殺されたんだろう)

82: 2011/01/30(日) 02:46:21.43
梓(確信があるわけじゃない……)

梓(本当に事故なのかもしれない)

それでも、もしかしたら。

唯「……」モグモグ

物静かに食事をしている。

律「……」モグモグ

この中の誰かが。

澪「……」モグ

紬「……」

憂「……」

梓(純を……頃した)

金田一「……」モグモグ

あの三人も含めて、私は人を疑う事にした。

違っていたら謝ればいい。

もしそれがわかってしまったら、私は……どうするんだろう。

84: 2011/01/30(日) 02:51:03.71
梓「あ、あの。ムギ先輩」

!?

食事の手が止まり、全員が一斉に梓の方を向く。

梓(落ち着け……これだけ。これだけだから)

紬「ど、どうしたのかしら?」

ムギ先輩は少し慌てている。

多分誰に質問をしても、同じような反応で会話が進むんだろう。

例え……純を頃した犯人であっても。

梓「気になったんですけど……あの地下室って一体何なんですか?」

紬「ん……」

ムギ先輩は意外、ともとれるような顔をしていた。

私は誰にも気付かれないように目配せをし、全員の顔を盗み見る。

86: 2011/01/30(日) 02:57:15.42
梓「……」

誰も顔色を変える事なく、私を見ている。

私はムギ先輩の返答を待った。

紬「あの地下室は……食料貯蔵庫、いわば冷蔵庫ね」

梓「冷蔵庫、ですか?」

紬「ええ。普段の食料とは別に、非常用の食材を常備してあるの。中には冷蔵庫しかないから……他には何も」

律「……どうして鈴木さんはあんな所に」

紬「説明しておかなかった私が悪いのよ。まさか、あんな事に……なるなんて」

「……」

再び団欒室が沈黙に包まれた。

盗み見た表情の中で……金田一さんが何かを言いたそうだったが言葉を呑み込んでいたように見えた。

が、私はそのまま何も言えずに、二日目の夕食を終えた。

90: 2011/01/30(日) 03:04:39.71
紬「……じゃあ、お皿片付けちゃうわね」

美雪「あ、私手伝います」

紬「大丈夫よ。お片付けしたら美味しいお茶を用意するわね」

唯「わ~い、久しぶりだな~ムギちゃんのお茶」

律「……昼時に飲んだばっかだろ~」

澪「でも、ムギが出すお茶は本当に美味しいからな」

紬「ふふっ」

金田一「……へえ。お嬢様かと思ったらそんな事まで」

佐木「先輩も何度か飲んでるじゃありませんか。何をいまさら」ジー

金田一「いやあ、あんまそういうのは気にしない質で……」

美雪「……もう、はじめちゃんたら」

憂「くすっ」ジー

紬「ふふっ」

94: 2011/01/30(日) 03:10:44.99
二階・梓の部屋

午後22時過ぎ

梓「……」

梓(結局あれからお茶を飲んで……でも頭はモヤモヤしてばっかで)

梓(……よし)

地下室を調べに行こう。

もしかしたら何かわかるかもしれない。

そして、証拠を見つけて……純を……。

梓(でも、一人じゃちょっと怖いかも……)

夕食の後、雑談もそこそこに。

みんなが部屋に入ったのは21時くらいだろうか。

普段の合宿では考えられないくらいだが……。

梓(起こしちゃうと迷惑かな……でも……)

悩んだあげく、私は憂を誘って地下室に向かう事にした。

95: 2011/01/30(日) 03:18:09.14
梓『憂、起きてる?』

メールを憂の携帯に送ってみる。

彼女も起きていたのか、すぐに返事がくる。

憂『起きてるよ、どうかした~?』

梓『実はね……地下室を調べに行きたいんだ。でも一人じゃ怖くて……憂にちょっとだけ付いてきて欲しいな~、って』

……。

一分もしないうちに返事が来た。

憂『うん、わかった。ちょっと支度に時間かかるけど、いい?』

いきなりの提案、それでも付き合ってくれるのは本当にありがたい。

でも、私の気持ちは焦っていたんでしょう……。

梓『大丈夫だよ。じゃあ私先に行ってるから……準備ができたらまた連絡してね』

そう返信すると、一枚小さな毛布を肩に巻き、誰もいない廊下へ飛び出して行った。

目指すは、純のいる地下室。

97: 2011/01/30(日) 03:25:06.93
地下室

梓「……」

薄暗い階段を、ゆっくり、ゆっくりと降りていく。

冷たすぎるくらいの空気が、私の体に絡み付いてくる。

寒い、というより……痛い。

純に近づく度に、胸が締め付けられるような感覚がする。

階段を降りきった梓は、地下室の電気を付けた。

梓「純……」

丁寧に巻かれた毛布にくるまっているその膨らみの下に、彼女がいる。

梓(少しだけ、ごめんなさい)

毛布を退けると、そこには目を瞑ったままの親友の姿があった。

首が変な方向に曲がっている。

少し「ひっ」と言った金切り声が出てしまう。

梓「純……」

98: 2011/01/30(日) 03:29:41.90
その姿を見たら、また泣きそうになってしまう。

梓(でも……我慢我慢)

とりあえず、素人調査でも……本で読んだ知識だけを頭に、純の遺体を調べ出す。

梓(首が曲がって、頭に傷……。体は……打ったのかな。よくわかんないや)

梓(でも、ここの床に血があまり付いてないから……純はここで氏んだんじゃないのかもしれない)

梓(そうだよね、こんな寒そうな格好でここに来ないよね)

梓(じゃあ……本当の犯行現場は?)

99: 2011/01/30(日) 03:35:35.04
梓(地下室、大浴場、娯楽室、……)

梓(全部の部屋、どこで頃したとしても発見は時間の問題)

梓(じゃあどうしてわざわざ地下室に純を運んだの?)

梓(……)

梓(それに、階段で氏んだってなった場合……この別荘にある階段なんて)

梓(一階と二階を繋ぐ階段のみ)

梓(……ちょっと、そっちも調べてみようかな)

梓(おやすみ、純。また来るから、ね)

毛布をかけ直し、電気を消して階段を上がろうとしたその時。

上の方から、扉の閉まる音がした。

102: 2011/01/30(日) 03:44:55.01
梓(わ、真っ暗。憂かな……タイミング悪いなあ、まったく)

足音が、コツコツと上から下へ降りてくる。

私も上った階段を少し戻って、電気をもう一度付けようかとも思ったけれども……携帯の光を頼りに、階段の上の人影を照らす事にした。

梓「来てもらってごめんね。もう大丈夫だから上戻ろう?」

コツ。

コツ。

話しかけても、その足音は何も反応を返さない。

無機質な足音だけが、ただ地下室と私の耳にだけ響いている。

梓「う……憂?」

103: 2011/01/30(日) 03:50:57.46
その足音が、一歩、また一歩と近付いてくる。

そしておそらく目の前にいるであろう距離までそれが近付いてきた……次の瞬間。

梓「!!!」

誰かが……私の首を絞めてきた。

梓(こ、これ……ぐっ……)

苦しい。

声にならない。

本気だ、本気でこいつは私を頃すつもりなんだ。

真っ暗闇の中で、私は……結局、誰が私を頃して。

誰が純を頃したのか。

何もわからないまま……冷たくなった純に寄り添うように、眠るのでした。

梓「」
純「」

「……」

105: 2011/01/30(日) 03:57:55.60
一階・団欒室

三日目、午前1時。

律「うっ……」

澪「あず……さ……」

唯「ううっ……うわあああん……」

紬「どう……して……」

憂「……」

ガチャッ。

美雪「あ、ど、どうだったはじめちゃん」

金田一「これは……殺人だ」

「!」

律「さ、殺人……?」

紬「梓ちゃんが誰かに……」

澪「殺され……た」

金田一「……ああ」

107: 2011/01/30(日) 04:04:06.67
憂「……して」

唯「う、うい?」

憂「どうして……梓ちゃんが」

憂「さっきまでメールして、確かに生きていたのに」

憂「ねえ、どうしてなの……」

金田一「……」

金田一「憂ちゃん。辛いかもしれないけれど、そのメールの時の様子を教えてくれないかな」

憂「……」

唯「憂……」

憂「わかりました、お話します」

憂「メールが来たのは、私が眠ろうと思っていた頃です」

112: 2011/01/30(日) 04:16:56.99
金田一「……そうか」

憂「はい、これがそのメールです」

金田一「……この、最後のメール。22時30分の後は?」

憂「えっと、私着替えてから地下に向かったんですよ。で、ちょっと準備に手間取っちゃって……15分くらいかな」

金田一「準備を終えて地下室に向かったら……」

115: 2011/01/30(日) 04:31:54.62
憂「はい。梓ちゃんが倒れていて……私、みんなを呼びにいって……ううっ……」

金田一「他に、何か変わった事は?」

憂「そんな余裕なかったですよ……」

金田一「例えば、奥に誰かの雰囲気を感じたとか、純ちゃんの様子が変わっていたりとか……」

憂「……奥まで行く勇気は無かったですけど気配とかは感じなかったと思います」

憂「純ちゃんは……毛布がかかっていたくらいです。それ以外は何も……ううっ」

佐木「……先輩、今日はもう休んでもらった方が」ジー

金田一「そう……だな」

澪「……」ガタガタ

律「澪。私の部屋に来いよ……一人じゃ眠れないだろ?」

116: 2011/01/30(日) 04:37:52.20
澪「……」コク コク

紬「じゃあ……休みましょうか」

唯「……みんな、戸締まりだけはちゃんとしようね」

「!」

その言葉に、全員が凍りついた。

金田一(そう……)

金田一(中野梓を頃した犯人は、この中にいるんだ……)

金田一(仮面を被って、この状況を見つめている)

明日からまた調査をするという事を考えると、眠気はすぐにやって来た。

部屋に戻ってから目が覚めて……三日目の朝が始まった。

117: 2011/01/30(日) 04:47:27.71
団欒室。

三日目、午前10時。

金田一「全員揃ったみたいだな」

唯「あの、これから何をするのかな?」

金田一「みんなに聞きたいんだ。一日目と二日目に、どんな行動をしてきたのか」

金田一「それを元に、アリバイを探して行くんだ」

律「ち、ちょっと待った~。アリバイなんて言ったら……」

澪「……まるで、私たちが容疑者みたいじゃないか」

律「大体さ~、たかが高校二年生の分際でしゃしゃっちゃって……推理ごっこかぁ?」

佐木「ごっこも何も、この人は本場ですよ」ジー

紬「……え」

佐木「かの有名な金田一耕助の孫……IQ180の天才高校生探偵、金田一一」ジー

澪「高校生探偵……」

憂「IQ180……」

118: 2011/01/30(日) 04:52:21.30
唯「それって、どれくらいすごいの?」

紬「テストで常に100点満点なくらいかしらね~」

佐木「まあ……学校の成績は赤点レベルですけどね」

金田一「おほん。で、話がまとまった所で、だ」

金田一「改めてみんなのアリバイを聞いていきたい」

金田一「まずは一日目から……お願いできるかな。なるべく時間は覚えている限り、正確に頼む」

澪「合宿初日だな」

紬「えっと、朝から移動して……この別荘についたのはお昼、13時くらいだったと思うわ」

美雪「この辺りは、まだ関係なさそうね」

119: 2011/01/30(日) 05:01:32.80
紬「それから荷物を片付けたりして……お茶で一息いれていたら雨が降りだしたの」

美雪「私たちが合流して……演奏を聞いて、そこからお夕飯をご馳走になったわね」

金田一「問題は……夜だ」

澪「た、確か初日は……0時近くまで騒いでたかな」

律「騒ぎ疲れて、部屋にもどったらすぐ寝ちゃったけどな~」

金田一「そこに鈴木さんは?」

唯「集まったのは、私と澪ちゃんとりっちゃんの三人だよ。みんな誘ったけど……寝ちゃう人が殆どだったから」

律「まあ、初日だったしな~。四泊五日もあるんだから、体力温存てカンジ?」

金田一「つまり、3人は0時過ぎまで一緒にいた?」

澪「大体、そんな感じかな。少なくとも1時にはもう寝ていたよ」

120: 2011/01/30(日) 05:07:29.02
金田一「じゃあ、他の人は?」

紬「私は部屋で寝ちゃってたから……」

憂「私も。特に梓ちゃんや純ちゃんと話してもいなかったし……」

金田一「じゃあ、純ちゃんを最後に見た時間は?」

憂「えっと……部屋に入っておやすみなさいする時かな。23時くらい」

律「その辺かな~」

金田一「それ以降は?」

「……」

金田一「つまり、犯行が行われたのは……少なくとも午後23時以降になるわけだ」

律「あ、あれだ。氏亡推定じこくーとかわからないもんなのかな?」

澪「冷蔵室で亡くなったなら、わからないんじゃないか?」

律「あっ、そっか」

122: 2011/01/30(日) 05:14:31.43
紬「でも、どうして冷蔵室に……」

憂「探検じゃないかな。純ちゃんて元気な子……だったから」ジー

唯「ええ~。でもあんな格好で冷蔵庫開けたくないよ~……」

律「でも、あの地下室にめちゃくちゃ美味いアイスが保管されてたら、どうする?」

唯「あ! 行きたい行きたい!」

紬「でも、地下の冷蔵庫内には冷凍されたお肉とかしか……お菓子類は何もないはずよ~」

唯「……がっくし」

美雪「あれ、紬ちゃんはここの地下に何があるか知ってるの?」

紬「あ、所有している別荘全てに似たようなお部屋があるの。中身も大体同じだって聞いたから……多分そうかなって」

美雪「そ、そう……(そんなに別荘持ってるんだ)」

123: 2011/01/30(日) 05:23:00.24
金田一「……じゃあ、二日目だ。主に夜……最後に梓ちゃんを見た時間は? 誰か覚えていないか?」

澪「私は、就寝前……午後21時くらいかな」

律「私も」

紬「それくらいかしらね」

唯「私もだよ~」

憂「……直接梓ちゃんを見たのは、私も同じくらいです」

佐木「となると……」ジー

金田一「犯行時間は、夜の21時以降の可能性か」

憂「で、でも……こうやってちゃんとメールを!」

律「携帯だけパクって、憂にメールしたとか?」

金田一「いや、携帯は梓ちゃんのポケットの中に入っていた。その可能性は低いと思うぜ」

律「んん~……携帯を梓から盗んで、憂ちゃんにメール。地下室に呼び出した後、梓の携帯をポケットに……」

澪「律、もうわけわかんないぞ。素直に負けを認めろ」

律「ううっ……」

127: 2011/01/30(日) 05:32:10.97
二階・金田一の部屋

午後13時

金田一「……結局、二日目はみんな早めに寝ちまってアリバイ無し」

金田一「一日目だって、それぞれが部屋に戻って寝ていたからアリバイ無し。せめて氏亡推定時刻がはっきり出ればな……」

金田一「アリバイから攻めるのはダメ、と……」

金田一「……」

コンコン。

美雪「はじめちゃん、いる?」

金田一「お~、美雪。なんか用か~」

美雪「どう、推理。進んでる?」

金田一「……」

金田一「犯人の目処は、なんとなく付いたよ」

128: 2011/01/30(日) 05:37:31.74
美雪「えっ、本当に?」

金田一「ああ」

美雪「じゃあ、あとは証拠とかを見つけて……事件解決じゃない」

金田一「ところがドッコイ、引っ掛かってる部分が多すぎるんだな、これが」

美雪「そ、そうなの?」

金田一「それに……」

美雪「それに?」

金田一「……俺にはまだ信じられないんだ。あんなに仲の良さそうだったメンバーが、こんな事になってるなんて」

美雪「はじめちゃん……」

129: 2011/01/30(日) 05:43:59.93
金田一「まあ、みすみす犯人を逃すつもりはねーけどな!」

金田一「さ~て、そうと決まったら調査調査! では、いってまいりま~す」

ガチャッ。


美雪「……強がっちゃって」

美雪「相変わらず、素直じゃないんだから」

美雪「でも、犯人の目処って……誰なんだろう」

美雪「それに、いつもの口癖も言わないし」

美雪「……はじめちゃん、大丈夫かな」

130: 2011/01/30(日) 05:50:13.27
コンコン。

金田一「失礼しま~す、と」

……ガチャッ。

律「な、なんか用か?」

金田一「ちょっと、話をしたいんだけどさ」

律「……澪もいるけど、いい?」

金田一「もちろん。色々聞きたいからさ」

律「入れよ」

金田一「お邪魔しま~す」

澪「……」

金田一「早速で悪いけど、いくつか話を聞きたい」

律「私たちに答えられる事なら……何でも」

132: 2011/01/30(日) 05:56:05.23
澪「この合宿場を選んだ理由?」

律「ん~、前も聞いたとおり、ここはムギの別荘だからムギの紹介なんだ」

澪「まあ、別荘によっては予約が入っていて空いてなかったりとかもあるみたいだけど……」

金田一「今回のここは?」

律「山がいい、って話から始まって。ムギがいくつか候補を出してくれたんだったかな」

澪「決まったのは多数決で、ムギが勝手に選んだわけじゃないから……」

金田一「んん~、そうか。来る時はいつもこのメンバーで?」

澪「……亡くなった鈴木さんと、唯の妹の憂ちゃんは部員じゃないから普段は来ないよ」

金田一「え!?」

133: 2011/01/30(日) 06:01:46.47
金田一「じゃあ今回の理由は?」

律「大勢のが楽しいからって、私が決めたった!」

澪「……ま、まあ。三年生の合宿だから、ちょっとぐらいの無理はいいかなって感じで」

金田一「……」

律「そそ。断られたら、それもそれ。軽い気持ちで誘ったんだよん」

金田一「そして、この人数での合宿になった、と」

律「そう言うことっ」

金田一(……つまり、鈴木さんはこの合宿に『参加しない可能性』もあったと言う事か)

137: 2011/01/30(日) 06:08:05.13
金田一「じゃあ最後に……鈴木さんや梓ちゃんが誰かに恨まれていたとかは?」

律「ああ~、多分無いかな。あっても所詮女子高生の戯言……」

澪「でもわからないだろ。最近はキレる若者が多いって言うし、もしかしたら心に悩みを抱えてるパターンも……」

律「それがあっても、私たちにはわかんねーって。だから、私はこう言うしかないんだよ」

律「梓ちゃんも鈴木さんも、とても元気で良い子達でした……ってさ」

澪「律……」

律「……ははっ。やっぱりまだ実感沸かねーや。梓がいなくなったなんてさ」

澪「そんな事言ったら、私だって……ううっ」

律「泣くなよ~。泣いたらまたあずにゃん悲しむだろ~」

澪「だ、だけどさ……ぐすっ」

138: 2011/01/30(日) 06:16:28.71
二階・廊下

金田一(彼女たちから聞ける話は、こんなもんか)

金田一(合宿場はともかくとして……問題は)

金田一(殺された鈴木さんが、部活のメンバーではないと言う事)

金田一(あの発言の様子だと……特に何か考えがあって、鈴木さんや憂ちゃんを呼んだわけではないみたいだ)

金田一(それとも、殺害するつもりで今回の合宿に呼んだのか)

金田一(……考えてみれば、被害者は二人とも同じ学年か。しかし部活も違い、共通点は年齢くらいか)

金田一「……ああ~、泥沼」

金田一「考えれば考える程わっかんね~よ……。まあ、いい。次いこ次」

139: 2011/01/30(日) 06:17:13.63
お仕事いってきます

161: 2011/01/30(日) 16:42:44.43
二階・憂の部屋

コンコン。

金田一「すいませ~ん。ちょっとお話を……」

ガチャッ。

唯「はい?」

金田一「ああ、唯ちゃんか。実はちょっと事件の事で話が……」

憂「どうしたの、お姉ちゃん」

唯「あ、はじめちゃんがね~。お話したいって」

金田一「うっす」

憂「そういう事なら……どうぞ」

唯「私はいない方がいいのかな?」

金田一「いやいや、軽い聞き込みみたいなもんだから」

唯「えへへ~、じゃあ一緒にいます~」

163: 2011/01/30(日) 16:47:09.64
憂「それで、何を聞きたいんですか?」

金田一「純ちゃんと梓ちゃんに……最近何か変わった事は無かったかな?」

憂「変わった事、ですか?」

金田一「その、学校で何か事件があったとか。部活内でトラブルがあったとか」

唯「ん~、あずにゃんとはいつも仲良しだったよ」

憂「純も別に、何かあったわけじゃ……あ。でも純、最初はこの合宿に来るの乗り気じゃなかった、かも」

唯「あれ、そうなの?」

165: 2011/01/30(日) 16:53:32.70
憂「うん。お誘いは受けても、部外者の自分が混ざるのは、って……」

金田一「それでも結局は付いてきたわけだ?」

憂「ええ。こっちに来ても最初は気後れしてたみたい……」

唯「憂はよく見てるね~」

憂「友達の事なんだもん、当たり前だよ。純ちゃんに関してはそれくらいかな」

金田一「……」

唯「ねえねえ、もしかして私たちが犯人候補っ?」

金田一「へ……」

憂「もう、お姉ちゃん。あまり変な事言わないの」

唯「だって状況が状況なんだよ~。無用な心配はお互いかけたくないじゃん~」

憂「それは、そうかもしれないけど……」

166: 2011/01/30(日) 16:59:24.07
金田一「ああ、いや。本当に話を聞いてるだけだよ。他の人の所だって行ったしさ」

憂「あれ、私たちが最後ですか?」

金田一「あとは紬ちゃんだけかな。まあ、そんなに深い考えがあるわけじゃ……」

唯「……」

唯「ね、はじめちゃん」

金田一「ん?」

唯「あずにゃんを頃した犯人……絶対つかまえてね」

金田一「あ、ああ……」

唯「約束だよ?」

憂「お姉ちゃん……」

金田一「……」

167: 2011/01/30(日) 17:03:49.71
二階・廊下

移動中

金田一「……ふぅ」

律「お」

澪「あ」

金田一「ん、お~お二人さん」

律「ういっすはじめちゃん」

金田一「今からどこか行くのか?」

澪「夕飯前に、お風呂すませちゃおうと思って。大浴場に」

律「覗いたら美雪ちゃんに言うかんな~、は・じ・め・ちゃん」

金田一「へいへい、そんな事しませんて」

澪「……っひ!」

律「……じゃあその、後ろでカメラ構えてる優秀なアシスタントは何なんだよ」

金田一「へ?」

佐木「♪」ジー

168: 2011/01/30(日) 17:08:01.26
金田一「お、おわぁ!」

律「そんな相方連れて女子高生を録画だなんて……や~らしいわ~」

金田一「知るか! 佐木、お前もいきなり背後に立つのはやめてくれ!」

佐木「いやあ、廊下で皆さんの姿が見えたものでつい」

澪「……律、行こう」

律「そうだな。こんな調子で色んなとこ覗かれたら、たまんないもんな!」

金田一「お、おい! ちょっと!」

律「あんまり美雪ちゃん泣かせんなよ~」タタタッ

澪「……」スタタタッ

金田一「……ったく」

169: 2011/01/30(日) 17:14:29.60
佐木「いやあ、やっぱり若い子は可愛らしいですね」

金田一「……お前だって十分若いだろうに」

佐木「なんていうか、元気がありますよね」

金田一「みんな、辛くても我慢してるんだろうな……いつまでも泣いていられない、って。強い人たちだよ」

佐木「先輩……」

金田一「それはそうと……佐木」

金田一「そのビデオテープ、複製できたら俺にもちょうだいね」

佐木「あ、もちろんいいですよ。先輩も好きですね~」

金田一「えっへっへっ」

佐木「……あ、でもテープよりも先に。後ろの方を何とかしないと命が危ないですよ」

金田一「……へ」

美雪「は・じ・めちゃん」

金田一「お、お、お……ち、ちがっ、これは……」

美雪「うるさいっ! バカっ!」

……。

170: 2011/01/30(日) 17:17:40.55
……。

「ね、さっきの」

「ん……」

「やっぱり疑われてる?」

「多分大丈夫だとは思うけど……」

「でも……」

「心配?」

「ちょっとだけ」

「……」

「あ、連絡してあげないと」

「ん?」

「ほら、今から探偵さんが行くよ、って」

「……平気じゃない?」

「心配なんだよ、一応ね」

「……」

171: 2011/01/30(日) 17:27:41.71
「ね」

「ん?」

「一個だけ、お願い聞いてくれるかな?」

「お願い?」

「そう。あのね、今夜……」

「……え?」

「ね、お願い」

「……わかった。理由は聞かない」

「……ありがとう」

「でも大丈夫? 危なくない?」

「……大丈夫、私だって頑張れる」

「だから、心配しないで」

……。

173: 2011/01/30(日) 17:32:30.62
二階・紬の部屋

三日目、午後16時過ぎ

紬「……」

『探偵さんが、行くよ』

紬(短いメール)

紬(それは私を疑っているからなのか)

紬(……それとも)

コンコン。

金田一「失礼しま~す」

紬「!」

紬(とにかく……普通に受け答えするしかないわよね。何もやましい事は無いんですもの)

紬(きっと……大丈夫よね)

紬「は~い、今開けます」

175: 2011/01/30(日) 17:35:18.89
紬「今、お茶を用意するわね」

金田一「すんませ~ん」

紬「……それで、何か私にお話?」

金田一「ああ、実はちょっと色々聞きたくて。聞かせてもらえないかな?」

紬「ええ、私にわかる事だったら何でも話すわよ~」

金田一「よかった。じゃあまず……」

177: 2011/01/30(日) 17:43:17.93
紬「……うん。他にも別荘はいくつかあったけど、多数決でここに決まったの」

紬「憂ちゃんたちも一緒にって……誰が言い出したかな。忘れちゃったけど、誰か特定の人がそれを推していた訳じゃなかったと思うわ~」

金田一「ふ~む(聞いた話そのまま、か)」

金田一「……にしても、別荘をいくつか持ってるなんて。すごい豪勢な話じゃない」

紬「私のお金じゃないもの。親が……親の会社がそういうのって言う、だけ」

金田一「そう言えば、佐木がカメラがどうとか言ってたけど……あれは?」

紬「企業の新製品が、一通り家に送られてくるの。ふふっ、でも今回のカメラは憂ちゃんが気に入ったみたいで……ね」

金田一(ああ、確かに。佐木も憂ちゃん……いや、カメラを見る目付きが尋常じゃなかったしな)

180: 2011/01/30(日) 17:49:38.33
金田一「い、いやあ。それにしてもうらやましい。俺がそんなお金持ってたら、絶対遊ぶお金に消えてますよ」

紬「……」

紬「それくらいの方が、いいのかもしれないわね」

金田一「……え」

紬「ふふっ、前に一度ね。唯ちゃんにそういうお話をしたの」

紬「部室にみんなでいる時、お金の話になって……」

紬「私、あまり家の事はお話したくなかったんだけど。やっぱりみんな言ってくるのよね」

182: 2011/01/30(日) 17:54:53.14
律『お金持ちってうらやましいな~』

澪『……やめろよ、律』

梓『でも、無いよりはあった方がいいに決まってます』

憂『あ、私もそれは思うな~。何があるかわからないから、あるに越した事は……』

律『あ、やっぱ? うんうん、さすが憂ちゃんしっかりもんだね~』

憂『そ、そんな事……えへへっ』

梓『もう、こんな先輩に捕まったからってかまう事ないよ。早く帰ろうよ、憂』

律『こんなとはなんだぁ~! 私は部長だぞ~!』

澪『まあまあ……』

紬(……)


紬「正直、居辛かったわ」

紬「でもね……唯ちゃんだけは違ったの」

183: 2011/01/30(日) 18:01:32.55
唯『ん~。難しい事はよくわかんないけど~』モグモグ

唯『ムギちゃんちに、そんなにお金がたくさんあるんだったら』

唯『そのお金全部でケーキ買って、ムギちゃんと半分こしたいなあ~』

全員『…………』

唯『あ、やっぱダメダメ。お茶を買うお金と、ご飯を買うお金も残しておかないと。ケーキばっかじゃ栄養かたよっちゃ……』

律『……ぷ』

澪『ふ、ふふっ……』

梓『ゆ、唯先輩……くくっ』

唯『え~?』


紬「……もう、みんな大笑いで」

紬「全部ケーキのお金にする、なんて唯ちゃんらしいわよね」

紬「でも私は、その一言に救われた気がしたの」

紬「ああ、私はお金よりも素敵モノを持ってるんだ、って」

金田一「……」

184: 2011/01/30(日) 18:10:30.62
二階・金田一の部屋

三日目、午後18時

金田一「……」

ガチャッ。

美雪「はじめちゃん、夕食よ」

金田一「……」

美雪「はじめちゃん?」

佐木「先輩?」ジー

金田一「ん、あ、ああ」

美雪「もう、大丈夫?」

金田一「……」

佐木「食事すれば、ちょっとは元気になりますよ」ジー

美雪「さ、行きましょう」

185: 2011/01/30(日) 18:17:59.83
二階・廊下。

唯「あ」

美雪「あら、みんな」

紬「ふふっ」

唯「じゃあみんなで行こう行こう~」

憂「……あれ? 澪先輩と律先輩は?」

金田一「ああ、あの二人は大浴場に行くって言ってたから……多分もう下にいるんじゃないかな」

美雪「……」ジロッ

金田一「……とと。早くご飯ご飯~と」ダダダッ

美雪「こら、待ちなさ~い!」ダダダッ

紬「あらあら、私も~」タタタッ

唯「えへへ~、ご飯~」スタスタ

憂「もう。お姉ちゃんたら」テクテク

佐木「……」ジー

186: 2011/01/30(日) 18:26:23.82
一階・団欒室

三日目、午後19時過ぎ。

金田一「……」カチャカチャ

美雪「もう、どうしたのよはじめちゃん。さっきから黙っちゃって」

金田一「ん~」モグモグ

美雪「ほら、こぼしてるわよ」

佐木「……」ジー

律「食べる時くらい、カメラ止めろっての」

唯「美味しい~」モグモグ

憂「あ、お姉ちゃん。こぼしてるよ~」

唯「ん~」

律「ほら~カメラ係の憂ちゃんだってご飯の時はお姉ちゃん係になるんだぞ~」

律「……なんだよ、お姉ちゃん係って」

189: 2011/01/30(日) 18:29:28.76
紬「ふふっ」

美雪「……何だかんだで、みんな少し元気になったみたいね。はじめちゃん?」

金田一「そう……だな」

佐木「……にしても、雨ずっと降りっぱなしですね」

美雪「初日に比べれば随分穏やかにもなったけど……」

澪「この様子だと、まだ救助は来ないかな……」

紬「連絡も無いし……そうみたいね」

律「もうしばらく足止め、か」

金田一「……」

192: 2011/01/30(日) 18:37:04.34
紬「あ……ね。よかったら、この後みんなで一緒にお風呂入らない?」

金田一「な、な、な、なんですと!」ガタッ

律「バカっ! 男は無しに決まってるだろ!」

金田一「ちぇ~。つまんね~の」

佐木「……」ジー

美雪「カメラを後ろに、喋らないの」ビシッ

金田一「いててっ……」

紬「たまには一緒に、ね?」

澪「あ、でも私と律はさっきお風呂すませてたから」

律「いいじゃんか~。もう一度みんなであったまろうぜ?」

澪「……律がそういうなら」

紬「唯ちゃんたちもどうかしら?」

唯「うん、行く~」

憂「はい、じゃあ私も」

194: 2011/01/30(日) 18:40:19.25
紬「もちろん、美雪さんもね」

美雪「わ、私もいいの?」

律「人数は多い方が楽しいって~」

美雪「じ、じゃあ私も……ご一緒しようかな」

唯「やった~」

紬「ふふっ」

金田一「じゃあ俺も……ご一緒しちゃおうかな」ヌギッ

美雪「……」ギロッ

金田一「冗談、冗談ですよ……もう」

佐木「……」ジー

200: 2011/01/30(日) 18:50:19.18
二階・金田一の部屋

20時過ぎ

金田一「……ったく、冗談が通じねえんだから。せっかく俺が雰囲気を和ませてやろうと……」

佐木「まあ、落ち込むよりはいいと思いますけどね」ジー

金田一「佐木よ、二人きりでビデオ撮るのは止めてくれないか?」

佐木「そういうわけにも、行きませんよ」ジー

金田一「ったく……」

佐木「にしても先輩。今回は僕の出番は無しですかね?」

金田一「ん? ああ……」

佐木「見落としてる事、あるんじゃないですかね?」

金田一「そう……だな」

佐木「じゃあ、今からテープ持ってきますよ! 待っていて下さいね」ダダダッ

ガチャッ。

202: 2011/01/30(日) 18:55:58.70
ピリリリリ

ピリリリリ

金田一「ん? 電話……おっさんから?」

金田一『はい、金田い……』

剣持『金田一ぃ! 無事かぁ!』キーン

金田一『……っ!!』

剣持『良かった繋がった。大丈夫か金田一!』

金田一『ま、待て待ておっさん。いきなりなんだよ!』

剣持『あ、ああ……すまんな、つい』

剣持『お前のお母さんから連絡があってな。沢登りに出掛けたまま帰って来ない、と……今しがた連絡があったんだ』

金田一『……あ、しまった。連絡入れるの、忘れてた。すまねえなおっさん』

剣持『全く、お前と言うやつは』

金田一『……と、それどころじゃないんだ。こっちは大変な事が起こってるんだよ!』

剣持『……ん?』

206: 2011/01/30(日) 19:03:26.42
剣持『ふ~む、そんな事が……。閉じ込められて、殺人にが起こって……か』

金田一『ああ、検氏のできる人間もいないから、苦労しているよ』

剣持『ふ~む…

金田一『……そうだおっさん! 一つ頼まれてくれないかな?』

剣持『ん?』

金田一『ちょっと……調べ物を、な?』

剣持『ま、待て待て。もしかしてさっき言った……女子高生の事を調べろって言うのか?』

金田一『そのとーり』

207: 2011/01/30(日) 19:10:35.76
剣持『金田一、いくら警察でも一高校生の事なんて調べられるわけ……』

金田一『何でもいいから、調べて欲しいんだ。それこそ……学生の事だけじゃない。何か彼女たちの周りで事件が起こったかどうか……』

剣持『……わかったよ、お前がそう言うなら何かアテがあるんだろ? 調べてやるよ』

金田一『すまねえなおっさん。でもな……今回は正直アテがあるわけじゃないんだ』

剣持『……な、なにぃ?』

金田一『さっきも事件の概要は話したけど……正直言って頃す理由が見つかっていないんだ』

剣持『ふむ……動機、か』

208: 2011/01/30(日) 19:15:33.73
金田一『おまけに、何も証拠も見つかっていない』

剣持『おいおい、そいつはちょっとヤバいんじゃないのか?』

金田一『だからこそ、おっさんに頼みたいんだ。何でもいい、彼女たちの事を調べて欲しいんだ』

剣持『……はぁ。また残業時間だけが増えるのか』

金田一『おっさん……!』

剣持『わかったよ。調べ終わったらお前に言う。大変だと思うが、頑張れよ』

金田一『……ああ、ありがとうおっさん』

プツッ。

金田一「……」

金田一「動機、か」

213: 2011/01/30(日) 19:54:48.36
佐木「先輩、テープ持ってきましたよ!」

金田一「お~、ご苦労さん」

佐木「どれから見ます? 三日分、全部揃ってますよ」

金田一「……一日目から、頼むよ」

ガシャッ。


唯「あ、おかえりムギちゃ……って、うわあ団体さんだ~」

律「おっ、なんだか一気に賑やかになったな~」

紬「細かい話は後よ。今はお客様にタオルを貸してあげないと……」

憂「はい、タオルですよ」

紬「あ、ありがとう~憂ちゃん。さあ、どうぞ」

……。

佐木「これは本当に最初ですね」

215: 2011/01/30(日) 20:03:20.27
佐木「……当たり前ですけど、まだみんな生きてるんですよね」

金田一「……」

律『ようし、みんな移動だ移動~!』タタタッ

佐木「娯楽室に移動するところですね」

唯『頑張るぞ~』テクテク

梓『唯先輩、一番最初トチらないで下さいよ!』グイッ

唯『大丈夫だよ~。あずにゃ~ん』

憂『ふふっ、頑張ってねお姉ちゃん』スタスタ

純『……』トボトボ

金田一「……」

216: 2011/01/30(日) 20:08:26.71
唯『き~みがい~ないと~♪』

佐木「移動の後、演奏会のスタートですね」

唯『な~にもできな~』

サッ。

憂『……』ジー

金田一「お、おい佐木。なんでいきなり憂ちゃんにカメラを向けてるんだよ」

佐木「いやあ、新しいカメラに目移りしちゃって。あ、でも大丈夫ですよ。彼女中心に撮ってたのはこの演奏の時だけですから」

金田一「ったく~、頼むぜ名カメラマン」

佐木「はいはい」

唯『想いよ~と~どけ~』

憂『……』ジー

218: 2011/01/30(日) 20:13:41.73
佐木『先輩?! 大丈夫ですか?』ジー

金田一『い、いてて……何かにつまづいた……』

佐木「地下で鈴木さんを見つけた時……ですね」

佐木『……あ、電気のスイッチありましたよ。ほら』ジー

カチッ。

純「」

金田一「……」

佐木「何度見ても、慣れませんね。あの寒さ、今でも身震いしますよ」

純「」

佐木「あんな格好で、可哀想に……」

金田一「……」

220: 2011/01/30(日) 20:22:46.18
この後、二日目の午後のテープを見てから……。

佐木「じゃあ、三日目ですね」

金田一「中野梓が殺害されて……みんなに話を聞くところか」

憂『はい、これがそのメールです』

金田一『……この、最後のメール。22時30分の後は?』

憂『えっと、私着替えてから地下に向かったんですよ。で、ちょっと準備に手間取っちゃって……15分くらいかな』

金田一『準備を終えて地下室に向かったら……』

221: 2011/01/30(日) 20:25:15.60
憂『はい。梓ちゃんが倒れていて……私、みんなを呼びにいって……ううっ……』

金田一『他に、何か変わった事は?』

憂『そんな余裕なかったですよ……』

金田一『例えば、奥に誰かの雰囲気を感じたとか、純ちゃんの様子が変わっていたりとか……』

憂『……奥まで行く勇気は無かったですけど気配とかは感じなかったと思います』

憂『純ちゃんは……毛布がかかっていたくらいです。それ以外は何も……ううっ』


佐木「……憂ちゃんも、可哀想ですよね。友達が氏んでいるところを見ちゃうなんて」

金田一「……」

222: 2011/01/30(日) 20:32:55.78
佐木「えっと、さっきのビデオが日付が変わってすぐの三日目」

佐木「これが三日目の昼になります」

紬『えっと、朝から移動して……この別荘についたのはお昼、13時くらいだったと思うわ』

佐木「アリバイ等を聞いている時ですね」

金田一『問題は……夜だ』

澪『た、確か初日は……0時近くまで騒いでたかな』

律『騒ぎ疲れて、部屋にもどったらすぐ寝ちゃったけどな~』

金田一『そこに鈴木さんは?』

唯『集まったのは、私と澪ちゃんとりっちゃんの三人だよ。みんな誘ったけど……寝ちゃう人が殆どだったから』

律『まあ、初日だったしな~。四泊五日もあるんだから、体力温存てカンジ?』

金田一「つまり、3人は0時過ぎまで一緒にいた?」

澪『大体、そんな感じかな。少なくとも1時にはもう寝ていたよ』

223: 2011/01/30(日) 20:35:54.97
紬『でも、どうして冷蔵室に……』

憂『探検じゃないかな。純ちゃんて元気な子……だったから』ジー

唯『ええ~。でもあんな格好で冷蔵庫開けたくないよ~……』

律『でも、あの地下室にめちゃくちゃ美味いアイスが保管されてたら、どうする?』

唯『あ! 行きたい行きたい!』

紬『でも、地下の冷蔵庫内には冷凍されたお肉とかしか……お菓子類は何もないはずよ~』

唯『……がっくし』

金田一「……」

225: 2011/01/30(日) 20:39:28.43
金田一『……じゃあ、二日目だ。主に夜……最後に梓ちゃんを見た時間は? 誰か覚えていないか?』

澪『私は、就寝前……午後21時くらいかな』

律『私も』

紬『それくらいかしらね』

唯『私もだよ~』

憂『……直接梓ちゃんを見たのは、私も同じくらいです』

佐木『となると……』ジー

金田一『犯行時間は、夜の21時以降の可能性か』


佐木「……と、これが三日目ですね。ここから金田一先輩と別れて、後は夕飯辺りの記録が……」

金田一「いや、もういいよ。サンキュ~な佐木」

226: 2011/01/30(日) 20:48:19.41
佐木「えっ。まだテープはあるんですよ?」

金田一「いいんだよ。さっきまでので十分さ」

佐木「そ、それじゃあ先輩……もしかして犯人が!」

金田一「……目処だけは、な。それに、気になっていた事の確認も出来たしな」

佐木「せ、先輩それじゃあ……」

金田一「……」

229: 2011/01/30(日) 20:57:26.13
一階・大浴場

三日目、午後21時過ぎ

律「……ふい~」

澪「はあ、二度目二度目っと」

美雪「気持ちいいわね。私、ここのお風呂使わなかったから……ちょっと驚き」

紬「あら、遠慮しないでよかったのに~」

美雪「なんか、一人だと利用しづらくて……」

唯「じゃあ明日は一緒にお風呂入ろうよ!」バシャッ

律「うぺっ。お湯を飛ばすな唯!」

憂「もうお姉ちゃん、お風呂ではしゃいじゃ危ないよ」

唯「えへへ、は~い」

美雪「……ふふっ」

澪「……」ジーッ

律「ん、どったの澪しゃん。美雪ちゃんのお胸なんて見つめちゃって……」

232: 2011/01/30(日) 21:10:30.99
澪「えっ! い、いや、その」

律「美雪ちゃんスタイルいいもんね~。身長高くて、胸もあって……そりゃあ見ちゃうよね~」

美雪「そ、そんな事……」カアッ

唯「でも本当にスタイルいいよね~。うらやましい」

憂「それは私もだよ、お姉ちゃん」シューン

美雪「そ、そんな事ないわよ。最近ちょっと太っちゃったし……澪ちゃんとか唯ちゃんの方がよほど立派よ」

律「……お胸が~?」

美雪「……もう! からかわないの!」

……。

236: 2011/01/30(日) 21:23:09.83
二階・金田一の部屋

三日目、午後21時50分

金田一「……ん、廊下が騒がしいな」

佐木「多分みんなが戻ってきたんですかね」

金田一「みたいだな」

コンコン。

ガチャッ。

美雪「はじめちゃん、お風呂開いたわよ。よかったら……」

金田一「ああ、俺たちはもうシャワーですませちゃったからよ」

佐木「あとは寝るだけですよ」ジー

237: 2011/01/30(日) 21:29:37.93
美雪「そうなんだ。じゃあ……」

金田一「あ、待ってくれ美雪。もう、みんな戻ってきたのか?」

美雪「ん。多分みんな部屋にいると思うわよ」

金田一「……」

美雪「じゃあ、私寝るからね。おやすみなさい」

金田一「ああ、おやすみ」

美雪「ちゃんと戸締まりはするのよ」

238: 2011/01/30(日) 21:39:21.32
佐木「じゃあ、僕もそろそろ。おやすみなさい、先輩」

金田一「ああ、おやすみ」

佐木「先輩はまだ眠らないんですか?」

金田一「……ああ、俺はちょっと、な」

佐木「あんまり無理はしないで下さいよ。じゃあ、おやすみなさい」

金田一「ああ」

バタン。

金田一「……」

金田一「さて、どうすっかな……」

239: 2011/01/30(日) 21:49:39.49
二階・唯の部屋前

三日目、午後22時10分

金田一「……う~ん」ウロウロ

金田一「……よし」

コンコン。

金田一「……」

唯「は~い」

金田一「あ、夜にすいません。金田一なんですけど……」

唯「あ、今開けま~す」

ガチャッ。

唯「? どうかしたの~?」

金田一「ちょっと話があるんだけど。いいかな?」

唯「ん~……まあ、まだ眠くないからいいかな。どうぞ~」

金田一「すんません、お邪魔します」

241: 2011/01/30(日) 22:02:34.93
唯「……それで、お話って? やっぱり事件の事かな?」

金田一「ああ」

唯「もしかして犯人がわかったとか!?」

金田一「犯人……犯人ね」

唯「うん。あずにゃんと純ちゃんを……その、頃した犯人……早く見つかるといいな」

金田一「……」

金田一「そもそも、どうして犯人は殺人を犯したんだろうな」

唯「ん~、その人の事が嫌いだから……かな?」

唯「あとは、その人がいたら嫌なんだよきっと」

金田一「純ちゃんも誰かに嫌われていた?」

唯「……それはあんま無いと思うよ~。嫌いだったら呼ばないしさ」

243: 2011/01/30(日) 22:14:35.74
唯「あずにゃんだって、みんなのアイドル的存在だよ。殺される理由なんて……」

金田一「もし……殺される理由が無いとしたら」

唯「……」

唯「……」

唯「事件じゃ、ない?」

金田一「そう、もう一つの可能性。最初の殺人が……もし事件でなく事故だったら」

唯「事故……」

246: 2011/01/30(日) 22:22:06.38
金田一「あれから自分なりに調べてみたんだ。今のところ、純ちゃんが殺される理由は……俺にはわかっていない」

金田一「そこで俺はこう考えたんだ」

金田一『彼女は……本当に事故で氏んだんじゃないか、と』

唯「……あの、地下の階段から落ちて?」

金田一「いや、純ちゃんがあの階段から落ちた可能性は低いと思うんだ」

唯「え、どうして?」

金田一「彼女の格好さ」

唯「……あ、そう言えばちょっと話していた気がするね」

249: 2011/01/30(日) 22:34:26.27
金田一「あれ~、そんな話したっけか?」

唯「ほら~。みんなで事件のおさらいをしてた時……話題に出たじゃん」

金田一「……ああ、唯ちゃんと憂ちゃんが話してくれたやつか」

憂『純ちゃんは……毛布がかかっていたくらいです。それ以外は何も……ううっ』

唯「……あれ? 憂のその話は覚えてるけど、私何か言ったっけか?」

金田一「唯ちゃんは……ほら」

唯『ええ~。でもあんな格好で冷蔵庫開けたくないよ~……』

金田一「自分の発言なのに、忘れちゃったのかい?」

唯「ああ~、ね。結局私も憂とおんなじ事言ってたから、思い出せなかったよ」

金田一「……」

金田一「本当に……憂ちゃんはそれと同じ意味で言ったんだろうか?」

唯「え……」

252: 2011/01/30(日) 22:41:17.19
金田一「考えてもみろよ。憂ちゃんは、地下で梓ちゃんと純ちゃんが氏んでいるのを見たはずさ」

唯「……」

金田一「だから、横になっている純ちゃんの様子を知っていてもおかしくない」

唯「わ、私も……ほ、ほら。憂が話していたのはみんなで聞いたから」

唯「だから、純ちゃんの格好に関してはみんな知ってるはずだよっ」

金田一「……でも、それだと変じゃないかな。さっきの発言の中で唯ちゃんはこう言っていた」

金田一「『あんな格好で』と」

唯「……」

259: 2011/01/30(日) 22:53:05.91
唯「だ、だってさ。地下だよ? おっきな冷蔵庫だよ?」

唯「パジャマと毛布だけじゃあとっても寒いんじゃないかなあ~、って思っただけだよ?」

金田一「ん……なるほどな」

唯「えへへ~」

金田一「なあ、どうして純ちゃんの格好がわかったんだ?」

唯「……?」

金田一「どうして君が、純ちゃんがパジャマを着ていたのを知っているのか……」

唯「だ、だってそれは憂が言ったから……」

金田一「憂ちゃんは『毛布がかかっていた』としか言ってないぜ。その下の格好までは……」

唯「っ……!」

264: 2011/01/30(日) 22:59:41.18
唯「そ、それは……も、もう夜中だったんだもん。格好がパジャマだと思うのは当たり前だよ~」

金田一「……なるほど、確かにそうかもしれないな」

唯「それに、みんな憂の話聞いてさ、毛布を被ってるのは知ってるはずだよね?」

唯「あの時間で、毛布の下に何を着てるか、なんて聞かれたらみんなパジャマって答えるはずだよ~」

金田一「……」

唯「……」

唯「もう、いいかな。ちょっと疲れちゃった……眠りたいな」

金田一「ああ……夜中に、悪かったね」

金田一「おやすみ」

唯「……」

268: 2011/01/30(日) 23:08:11.12
唯「……」

唯「はぁ……」


金田一『俺は、今回の事件のきっかけは事故だと思ってるんだ』

金田一『できれば、みんなの前で犯人を暴くような事はしたくないんだ……』

金田一『放課後ティータイムの事を知ってから、あまり時間は経ってないけれど……とても仲のいい人たちだったと感じているんだ』

金田一『俺が言えるのは、それだけさ』

金田一『おやすみ、唯ちゃん』

唯「……」

唯「だって、さ……」

唯「……」

唯「よしっ」

269: 2011/01/30(日) 23:15:27.76
二階・紬の部屋

三日目、午後22時48分

コンコン。

紬「……」ビクッ

唯「ムギちゃん。私、私だよ」

紬「唯……ちゃん」

唯「うん。開けて開けて~」

紬「……」

ガチャッ。

紬「どうしたの、こんな時間に……」

唯「お話、あるんだ」

紬「お話?」

唯「うん。探偵さんが、私の部屋に来たんだよ」

紬「!?」

271: 2011/01/30(日) 23:21:39.64
紬「そ、それで?」

唯「……」

紬「ゆ、唯ちゃん!」

唯「……」

紬「一体何を話したの!?」

唯「……うるさいな」

紬「っ!」

唯「そんなに興奮しないでよ。あまり大したことは聞かれてないからさ」

唯「あ、でも~」

唯「なんだかムギちゃんの事をよく聞かれていた気がするな~」

紬「!?」

唯「明日、また話を聞かせてほしいって探偵さんに言われちゃったよ」

273: 2011/01/30(日) 23:30:26.88
紬「わ、私の事……?」

唯「うん。もう、犯人の事わかっちゃったみたいだね」

紬「そ、そんな……証拠だって残してなかったはずよ……」

唯「……」

唯「それをね、明日私に聞きたいんだってさ」

紬「……!」

唯「……」

唯「私さ、明日話すからね」

紬「唯……ちゃん」

275: 2011/01/30(日) 23:38:18.31
唯「だって、疲れちゃったよ。もう……」

紬「……」

紬「ごめんね、唯ちゃん」

唯「いいよ、別に」

紬「唯ちゃん……私たち捕まっちゃうのね」

唯「え、何言ってるの? 捕まるのはムギちゃんだけだよ」

紬「えっ……!?」

唯「私は関係ないもん。私は『ムギちゃんが純ちゃんを頃したのを見ただけ』だもん」

紬「だ……だって唯ちゃんは、一緒に、地下室まで運んでくれて……」

唯「私は、それを目撃しちゃっただけだもん」

紬「ゆ……」

282: 2011/01/30(日) 23:46:57.85
唯「それにしても、ついてないよね~」

唯「純ちゃんと仲良くなりたくて……待ち伏せだっけ?」

唯「階段でちょっとおどかしたら、そのまま下まで頭から……」

紬「やめて! やめてよっ!」

唯「……」

唯「よかったね、私がそれを偶然見つけて。一緒に手伝っ……おっと。私は見ただけだったね」

紬「……それを、あの人に話したの?」

唯「明日、お話するつもりだよっ」

289: 2011/01/30(日) 23:53:41.54
唯「それにね~。ムギちゃんは気付いてないかもしれないけどさ」

唯「う一個あるんだ。ムギちゃんが犯人になっちゃう決定的な情報が」

紬「!」

唯「まあ、それも明日の……ね」

紬「な、なによ……その情報ってなによ!」

唯「……じゃあ、おやすみなさい」

唯「また明日、ね」ニッコリ

紬「……」

紬「ゆい……ちゃん」

294: 2011/01/31(月) 00:08:13.82
二階・憂の部屋

午後23時22分

憂「……」

ピッ。

憂「あ、メール」

『ありがとう、約束通り終わったよ。これできっと、大丈夫だよ』

憂「……」

憂『うん、わかった~』

……。

ガチャッ。

憂「あ」

297: 2011/01/31(月) 00:10:37.54
憂「……えへへっ」テクテク

「……」

憂「……うん、わかった。約束通り、だね」

「……」

憂「うんうん。じゃあ、おやすみなさい」

憂「また明日ね~」テクテク

バタン

唯「……」

唯「おやすみなさい、憂」

299: 2011/01/31(月) 00:26:13.20
二階・唯の部屋

四日目、午前1時41分

「すー、すー……」

……カチ、カチ。

カチャッ、ギィイイ。

「すー、すー……」

紬「……」


紬『ああ、私はお金よりも素敵モノを持ってるんだ』


紬(さよなら、私のお友達)

302: 2011/01/31(月) 00:32:15.43
スッ……。

ドスッ。

「……っ……」

グシュッ。

「ぁ……ぁ」

紬(さよなら……唯ちゃん)

紬(さよなら……)

ドンッ、ドンッ。

ズシュ。

紬(……)

「……」

303: 2011/01/31(月) 00:37:57.10
二階・紬の部屋

四日目、午後12時過ぎ

ドンドンドンドン!

美雪「紬ちゃん、紬ちゃん!」

紬「……ん」

紬(扉の向こうから声が聞こえる……)

紬(眠い……昨日はあんまり眠れなかったな)

紬(もうお昼……声は、美雪ちゃん?)

美雪「紬ちゃん起きて! 大変よ! 憂ちゃんが、憂ちゃんが……」

紬(……?)

紬(憂ちゃんの、何が大変なのかしら)

美雪「憂ちゃんが……殺されたのよ! ねえ、起きて、紬ちゃん!」

紬「……」

紬「えっ……」

307: 2011/01/31(月) 00:47:04.55
二階・唯の部屋

澪「……うっ」

律「あんまり見るな、澪。ほら、唯も……」

唯「うぅ、うい……ういぃ……」

律「よしよし」ナデナデ

佐木「……酷いもんですね」

金田一(つい先ほど、ベッドの上で大量の血を流しながら事切れているその姿を見つけた)

金田一(凶器は、胸に突き刺された包丁。この別荘の厨房にあったものだ)

金田一(胸や胴体を中心に、滅多刺し)

金田一(第一発見者は、彼女を起こしに来た唯ちゃんと澪ちゃんで……)

金田一(俺と佐木が部屋に入ると、そこには)

金田一(血がベットリ染み付いたシーツの中で、眠っている平沢憂を見つけた……)

311: 2011/01/31(月) 00:55:28.84
紬「ゆい……ちゃん?」

律「ムギ……」

澪「ムギ……」

唯「ぐ、ぐすっ、ムギちゃん……憂が、憂がぁ……」

紬「どうして憂ちゃんが、ここに寝ているのよ……」

唯「うっ、ひぐっ……」

金田一(そう。ここは唯ちゃんの部屋だ)

金田一(どうしてここに彼女がいたのか。唯ちゃんに聞けばわかるかもしれないが……)

唯「うわぁ……わっ……」

金田一(今は彼女に話を聞ける状態じゃあない)

金田一「佐木、みんなを一階に集めておいてくれ。俺はもう少しこの部屋を調べてから行く」

佐木「……はい、わかりました」

紬「……」

318: 2011/01/31(月) 01:08:24.79
一階・団欒室

四日目、午後13時過ぎ

金田一「……っと」

美雪「あ、はじめちゃん。どう……だった?」

金田一「ああ、特に手がかりになりそうな物はなかったよ。凶器が残っていたくらいで、な」

佐木「でも、あれだけ出血していたって事は犯人もそうとう返り血を浴びているんじゃないですか?」

澪「ち、血の話……」ブルッ

金田一「それは俺も考えたんだが……シーツと掛け布団に付着した血液の様子から……犯人は憂ちゃんの体に布を被せたまま殺害したみたいなんだ」

律「うう……澪じゃなくても、こんな時は血が苦手になるってもんだ」ブルッ

320: 2011/01/31(月) 01:15:20.67
佐木「なるほど、布団の下で……」

金田一「ああ。しかも傷口は相当深く、しかも多い」

金田一「これは、明らかに殺意を持った犯行だ!」

律「……つまり」

唯「憂を……殺そうって。そう考えていた人がいるだね」

澪「唯……」

唯「ねえ、誰? 憂を頃したのは……誰……」

唯「誰なの、教えてよぉ……っぐっ……」

律「唯……っ」ギュッ

金田一「……」

金田一「犯人は、この中にいる」

唯「え……」

322: 2011/01/31(月) 01:19:28.37
唯「それは……」

金田一「……今はまだ、推理するための情報が足りない」

金田一「それでも俺は、必ず犯人を見つけ出してみせる」

律「はじめちゃん……」

澪「金田一、さん……」

唯「……」

佐木「先輩……」

金田一「名探偵と言われた、ジッチャンの名にかけて!」

美雪「はじめちゃん……」

紬「……」

326: 2011/01/31(月) 01:29:54.33
二階・唯の部屋の前

四日目、15時過ぎ。

唯「……」

金田一「よっ」

唯「ひゃっ! つめたっ!」

金田一「ジュース、飲みなよ」

唯「……」コク

金田一「……俺も、隣座っていいかな」

唯「……」コク

金田一「ありがと」

唯「……」

唯「また……何かお話?」

金田一「……なあ唯ちゃん。どうして憂ちゃんは君の部屋にいたんだい」

金田一「思い出すのは辛いかもしれないけど、教えてくれないかな」

唯「……憂はね、私を守ってくれたんだ」

327: 2011/01/31(月) 01:41:27.75
金田一「守るって?」

唯「憂はね、昨日こんな事を言ってきたの」

憂『私と眠る部屋を交換しよう、って』

金田一「……それは、なんでまた?」

唯「わかんないよ~。いきなりの事だったから」

唯「でもね、憂が言うんだから何かちゃんとした理由があったと思うんだ~」

唯「……今は、もう憂に聞く事は出来なくなっちゃったけどさ」

金田一「唯ちゃん……」

律「唯、そんな悲しい事言うなよ」

唯「あ……りっちゃん?」

328: 2011/01/31(月) 01:45:55.31
澪「私たちもいるぞ」

紬「……」

唯「澪ちゃん。ムギちゃんも。どうしたの?」

律「……落ち込んでるみたいだから。そりゃあ、こんな事の後で無理に元気出せとは言わないけどさ」

澪「でも、私たち友達……同じ放課後ティータイムのメンバーじゃないか」

唯「みんな……」

律「だからさ、ちょっとみんなでお話してようぜ。そうすれば……」

澪「少しは気持ちも楽になるからさ。な、ムギ?」

紬「……ん、そうよね」

唯「みんな、みんなぁ……ぐすっ」

330: 2011/01/31(月) 01:49:41.98
唯「りっちゃ~ん!」ギュッ

律「ば、バカ。私の服に涙と鼻水くっつけるなっての!」

澪「あははっ、そう言いながらも頭は撫でるんだな」

律「う、うるしゃいのっ!」

澪「照れるなよ、まったく。素直じゃないよな」

澪「ほら、ムギも何か言ってやれよ」

紬「あ、う、うん。そう……ね」

律「……ふふっ」

澪「あはははっ」

唯「うんっ!」

金田一(……俺は、退散した方が良さそうだな)

335: 2011/01/31(月) 01:55:15.81
一階・団欒室

金田一「おっ、美雪一人か?」

美雪「さっきまで佐木君もいたんだけど、トイレに行くって言って」

金田一「ん、そ、そうか……」

美雪「……なんだか、二人きりになるのも久しぶりね」

金田一「きゅ、急にどうしたんだよ美雪?」

美雪「この数日間、色んな事があったから……なんだか落ち着かなくて」

美雪「それに、はじめちゃんてば、唯ちゃんの心配ばっかしてるように思えるんですもの」

金田一「……そ、そんなんじゃねうよ。俺はただ、落ち込んでいる姿が放っておけなくてだな……」

美雪「……」

美雪「ごめんね」

金田一「へっ?」

336: 2011/01/31(月) 02:01:26.42
美雪「はじめちゃんだって、色々考える事があって大変なんだよね」

美雪「でも、私はそんなはじめちゃんを助けてあげる事が出来なくて……」

美雪「だから……」

金田一「美雪……」

金田一「心配するなって」

金田一「美雪は俺にとって心強いパートナーだ。昔も今も、それは変わらないだろ?」

美雪「はじめちゃん……」

金田一「だ、だからよ……その、そんな泣き顔……お、お前には」

金田一「お前に、は……」

佐木「……」ジーッ

金田一「……って、柱の影でカメラを構えるな」

佐木「いやあ、あまりにいいシーンだったもんで。お邪魔しちゃあ悪いかな、と」

美雪「……くすっ」

金田一「……ったくよ」

337: 2011/01/31(月) 02:11:54.87
ピリリリリ。

ピリリリリ。

佐木「携帯?」

金田一「お、俺か。剣持のおっさん……」

ピッ。

金田一『もしも~し』

剣持『よう金田一。頼まれたもん、調べといたぞ』

金田一『お、悪いなおっさん』

金田一『……それで、何かわかったかい?』

剣持『まず、被害者からだ。鈴木純……父母共に、いたって普通の家庭だな。近年で何かトラブルがあった様子も無い』

金田一『……』

剣持『次行くぞ。中野梓、親は音楽家……ミュージシャンとも言うのかな。そう言った意味では、ちょっと珍しい家庭かもしれん』

剣持『近々ミュージックツアーがあるとかで、忙しそうな様子だったよ』

339: 2011/01/31(月) 02:19:02.82
剣持『……でだ、数年前にそのミュージシャンの所属事務所が脱税をしていた事がわかったんだ』

金田一『脱税?』

剣持『ああ、そこの事務所な社長なんだがな……まあ、こういう言い方もアレだが、よくある事件だからな』

剣持『そこの社長が手を出した株が暴落したらしくてな……よっぽど金に困っていたらしい』

金田一『……他には?』

剣持『中野梓に関してはそれだけだ』

340: 2011/01/31(月) 02:24:29.58
剣持『……そうだ、株と言えばな。面白い事がわかったぞ』

剣持『そこにいる、琴吹紬って……あの有名なコトブキコーポレーションのお嬢さんじゃないか』

金田一『おっさんでも知ってるくらいなら……そんなに有名なのか』

剣持『おいおい、大人をバカにするもんじゃない。最近よく経済ニュースでやっていただろうが。高校生のお前には、あまり興味が無いだろうがな』

金田一『……はぁ、おっさんもちゃんと勉強してんのね。ま、株で大損してもっと貧乏にならないようにね』

剣持『俺は株なんぞやっとらん! ……株で繋がっているのは、そこにいる平沢姉妹の方だ』

金田一『なんだって……?』

341: 2011/01/31(月) 02:32:36.74
剣持『正確には、平沢家の両親だな』

剣持『調べてみると随分株で儲けているみたいでな。海外への旅行機会も多い』

剣持『それでいて……しっかり貯金もしているみたいでな。遊ぶ金に困らず、未来も不安が無いってやつだ』

金田一『……でもよ~、いくら株のプロでも大失敗する事だってあんだろ? いくら不安が無いったって……』

剣持『そこだ。この平沢家にはな……家族全員に多額の生命保険がかかっていたんだ』

金田一『生命保険だって?』

剣持『高額保険をスタートしたのが、ちょうど二年前。まずは両親からだ』

剣持『そして、一年前には姉妹二人にも多額の生命保険がかけられている。調べてみてわかった事だ』

343: 2011/01/31(月) 02:39:43.32
金田一『……』

剣持『まあ、保険がかけられているから何だとは思わんがな。高校生がそれを理解しているとも思わないし……』

金田一『その事なんだがな、おっさん』

剣持『ん……』

剣持『な、なにぃ? 妹の平沢憂が今日殺されただとぉ?』

金田一『ああ、包丁で身体中を滅多刺し。ひでえもんさ』

剣持『ま、待て待て。という事は、犯人は……保険金が入って得をする人物!』

金田一『……』

剣持『そうなんだな、金田一?』

金田一『……いや』

347: 2011/01/31(月) 02:47:23.83
金田一『確かに保険金の話を聞いた時、一番にそれを考えたよ』

金田一『それに、俺は一度彼女……平沢唯に自首を促した事もあった』

剣持『なら、犯人は決まりじゃないか! きっと第三の殺人も、彼女がやったに違いない。保険金の話で決まりだ』

金田一『……』

金田一(なんなんだ、この違和感は)

金田一(剣持のおっさんの言う通り、つじつまは合っていると思う)

金田一(何より俺は、平沢唯が第一の事件の犯人だと思い……そこから推理を進めていた)

金田一(そして、憂頃しに保険金……)

金田一(つじつまは合うが、第二の事件。中野梓頃しについては何一つわかっていないんだ)

金田一『……』

348: 2011/01/31(月) 02:55:35.31
剣持『と、こんな所だな。俺が調べた内容は。どうだ、役にたったか?』

金田一『ん……あ、ああ。ありがとな。やっぱおっさんは頼りになるよ』

剣持『ははっ、お礼なら、帰ってからハンバーガーの一つでもご馳走してくれよ』

金田一『ああ、無事帰れたらな~。雨は止んだけど、相変わらず救助の連絡は来ねーし……はぁ。いつになったら帰れるやらで……』

剣持『……ん、何言っとるんだお前は。あの崖崩れの報告は冗談だったんだろう?』

金田一『はぁ? んなわけねーだろ。こちとら豪雨の中を必氏で歩いてだな……』

剣持『……確かに、お前が出掛けた日の夕方から雨は降っていたがな。だがどこの場所でも崖崩れが起きた報告は無かったぞ?』

金田一『なんだって……』

350: 2011/01/31(月) 03:02:55.34
剣持『調べるついでにな。作業が終わっていたら迎えを出そうと思ったんだが……そんな事実はないって怒られちまったよ』

金田一(つまり、という事は……)

剣持『まあ、崖崩れなんてちょっと調べたらわかる事だしな。てっきりお前の冗談だと……』

金田一『……』

金田一『そうか、そういう事か……』

剣持『ど、どうした金田一。大丈夫か?』

金田一『……おっさん、悪いんだけどさ。今から迎えに来てもらえないかな』

剣持『そりゃあ構わんが、いいのか?』

金田一『ああ。頼んだよ』

352: 2011/01/31(月) 03:07:44.22
……プツッ。

美雪「はじめちゃん、電話終わったの?」

金田一「……佐木二階のみんなを集めて来てくれないか」

佐木「どうしたんです、いきなり?」

金田一「いいから、早く」

佐木「は、はい……わかりましたよ」タタタッ

金田一「……」

美雪「はじめ……ちゃん?」

金田一「……なあ美雪」

金田一「こいつは俺の考えていた以上に……悲しい事件なのかもしれない」

金田一「それでも俺は……犯人を」

金田一「犯人を暴くしか、ないんだ……」

美雪「はじめちゃん……」

356: 2011/01/31(月) 03:15:05.19
二階・廊下

佐木「皆さん~。先輩から話があるみたいなんで……一階に集まって下さい」

律「ん?」

澪「団欒室でいいのか?」

佐木「はい。皆さん一緒に……って、あれ? メンバー足りなくないですか?」

紬「唯ちゃんは、ちょっと疲れたから休むって。結構前に部屋に……」

佐木「廊下で雑談してたんですか……」

律「ま、まあ。話が盛り上がっちゃって、ついな」

佐木「とにかく、一緒に下に来て下さい」

紬「……」

紬「あの、私。唯ちゃんを連れてから行くわね」

澪「ん……お願いしちゃっていいのか、ムギ?」

紬「ええ。大丈夫よ澪ちゃん」

律「じゃあ、下で待ってんかんな~」

紬「……」

357: 2011/01/31(月) 03:21:26.48
二階・憂の部屋前

紬(さすがに……血まみれの部屋で寝るわけにはいかないものね)

紬(唯ちゃん、起きてるかな?)

コンコン。

唯「……は~い?」

紬「唯ちゃん。起きてる?」

唯「その声はムギちゃん? な~に、またお話?」

紬「一階でみんなにお話があるんですって。だから今すぐ部屋から出てきて欲しいの」

唯「……」

358: 2011/01/31(月) 03:24:00.84
唯「今、他に誰かいる?」

紬「えっ? わ、私一人だけど?」

唯「……ちょっと入ってきて。私もムギちゃんにお話があるんだ」

紬「……」

ガチャッ。

唯「ね、お願い?」

紬「……」

紬「わかったわ」

唯「うん……」

359: 2011/01/31(月) 03:34:37.74
紬「……」

唯「……」

紬「あ、あのっ」

唯「……ねえムギちゃん」

紬「は、はいっ?」

唯「昨日は、ごめんね」ペコッ

紬「……え?」

唯「ムギちゃんの事、話しちゃうとか言ってたけど」

紬「うん……」

唯「私からはね、もう何も言わないよ。昨日のお話はこれでおしまい」

紬「……どうしたの、いきなり?」

唯「憂がね、私に教えてくれたん。私を守ってくれた」

唯「……憂が氏んじゃったのは悲しいけど、私はこうやってちゃんと生きているから」

唯「そして、ムギちゃんとはお友達でいたいから」

紬「唯……ちゃん」

361: 2011/01/31(月) 03:41:04.65
紬「……私はいつも、唯ちゃんに助けられてばっかりね」

唯「?」

紬「今回だってそう。部室で話していたあの時だって……」

唯「?」

紬「ふふっ、もう、いいのよ。ありがとう唯ちゃん。私も唯ちゃんとはずっとお友達よ」

唯「……うん!」

紬「……そろそろ一、階に向かいましょう。みんな待ってるわ」

唯「そうだね、行こう行こう~」スタスタ

紬「ええ、行きましょう」タッタッタッ

紬(お友達だから……ね)

363: 2011/01/31(月) 03:51:57.23
一階・団欒室。

四日目、17時2分

金田一「……」

美雪「二人とも遅いわね」

金田一(まさか、彼女たちに何か……)

タタタッ。

律「お、あの足音は」

紬「お待たせ~」タッタッ

唯「待たせてごめんなさ~い」スタスタ

澪「遅いぞ二人とも~」

唯「えへへ、ごめんごめん」

律「休んで、ちょっとは元気になったみたいだな~唯」

364: 2011/01/31(月) 03:56:02.89
唯「うん。おかげさまで! もう大丈夫だよ!」フンス

美雪「……ねえ唯ちゃん。本当に体調悪くない? 無理しないで大丈夫なのよ?」

唯「ふぇ? 私は大丈夫だよ?」

美雪「……でも、何だか辛そうに見えちゃって。気のせいかしら?」

唯「そうだよ気のせいだよ~。私は大丈夫だから、気にしないでね?」

美雪「そう……ね。それならいいんだけど」

金田一「?」

律「さて、全員揃った所でさ」

律「……聞かせてもらおうかな、はじめちゃんの推理とやらを」

367: 2011/01/31(月) 04:06:25.78
佐木「先輩、準備出来ましたよ」

金田「よし……」

律「ありゃ。もしかして本当に推理するの?」

澪「律、ちょっと黙ってろって……」

金田一「言ったろ、犯人はこの中にいるって」

美雪「犯人がわかったの?」

金田一「……ああ」

全員「……!?」

金田一「一番最初の事件から、順番に話していこうか」

金田一「事のはじめは地下室で被害者、鈴木純が見つかった二日目からだ」

369: 2011/01/31(月) 04:24:29.84
金田一「俺はまず、現場の異変とその服装に注目した」

律「服装は覚えてるぞっ! ええっと……確か毛布を羽織っていて……」

唯「違うよりっちゃん。純ちゃんは最初バスタオルを巻いた状態で見つかったんだよ~」

澪「あれ? でも確か毛布を巻いたって聞いて……」

美雪「それは、確か憂ちゃんが発言したんじゃないかしら。ほら、梓ちゃんの遺体が見つかってから……」

370: 2011/01/31(月) 04:31:16.28
律「ああね~。って……あれ、唯。どうしてそれ知ってるんだっけか?」

唯「? 憂に聞いたんだよ~」

金田一「!?」

唯「ほら、あずにゃんと一緒に地下に言った時にね。見ちゃったんだって」

唯「毛布の下の、格好をさ」

澪「そ、そうだったのか……」

律「憂ちゃんがねえ……度胸あるなあ」

金田一「……なあ唯ちゃん。他に憂ちゃんから聞いた事はあるかい?」

唯「ん~っとねえ……」

紬「……」

372: 2011/01/31(月) 04:40:43.31
唯「話ながら、出てきたらお話するよ。あんまりいっぺんに話しても……ね」

金田一「……」

金田一「わかった。それじゃあ話を続けよう」

金田一「次は現場の異変についてだ」

金田一「彼女があの格好で、現場にいたのはなんでだろうか?」

律「だって、階段から落ちちゃったんだろ? だったら別に現場まで行かなくても……ほら」

律「そこの地下室の扉を開けて、一歩だけ踏み出して落ちちゃった可能性もあるんだろ?」

律「別に変な事は……」

金田一「想像してみなよ。風呂上がりの水分を纏ったような体でさ、明らかに冷たい空気が流れている場所に入りたいと思うかい?」

律「ん……あんまり」

澪「まあ、確かに……一歩踏み出してみようとは思わないかな」

373: 2011/01/31(月) 04:46:37.38
金田一「しかも、地下に電気がついていない状態だったら尚更さ」

紬「……非常用として、常に電気がついている食料庫もあるけど。今回はスイッチで明かりをつけるタイプのお部屋よ」

金田一「普段も消灯を?」

紬「管理の都合上、そのはずよ」

律「ん~、真っ暗で冷え冷えじゃあさすがの私でも遠慮かな~……」

金田一「そうなった場合、どこが現場になるか。考えてみてほしい」

美雪「亡くなった理由が階段から落ちた、っていう条件なら……階段は……」

澪「この団欒室から、二階に繋がっている階段か!」

374: 2011/01/31(月) 04:55:56.15
金田一「そう。おそらく犯人はそこの階段で彼女を殺害。そして……人目につかないよう、地下室まで運んだんだ」

律「殺害って……」

紬「……」

金田一「しかし……この犯行には『計画性が全く無い』んだよ」

澪「……それは、どういう事だ?」

金田一「考えてみなよ。本当に頃すつもりがあるなら、わざわざ階段から人を落としたりするだろうか?」

金田一「もっと人目につかない場所とか、遺体を隠す場所をもっと考えるもんじゃないかな?」

律「んん~、言われてみれば確かに……」

澪「じゃあ、最初の事件は一体……」

金田一「そこに興味をもったのが、中野梓だった」

376: 2011/01/31(月) 05:03:57.52
金田一「彼女は、親友の氏を嘆いていた。そして犯人を探そうと必氏だった」



金田一「食事中、ムギちゃんに質問してしまったのもその表れさ」

梓『あ、あの。ムギ先輩』

梓『気になったんですけど……あの地下室って一体何なんですか?』

律「……そうか、だから梓のやつ」

金田一「おそらく、夜になるまで色んな場所を調べていたんだろう」

金田一「しかし、どこか別の部屋で犯行が行われた様子は無い。これは俺も調べたからよくわかる」

金田一「……そして、夜になってから憂ちゃんにメールをして……遺体のある地下室へ向かったんだ」

377: 2011/01/31(月) 05:13:13.10
金田一「おそらく、犯人にとって遺体を調べられる事が怖かったんだろう」

金田一「犯行の現場が違うにしろ、何か証拠が見つかってしまってはマズイと思った犯人は……」

唯「あずにゃんを……」

金田一「……」

紬「……」

金田一「一応……これが二件目までの流れさ」

澪「……」

美雪「……」

金田一「ところで、あの地下室なんだが……あそこに扉があるのを知っていた人はいたのかな……」

佐木「扉……ですか?」

379: 2011/01/31(月) 05:21:20.36
金田一「……まず、一日目の途中からここに着いた俺たち三人は知るはずがない。現に俺も気付かなかったし……」

金田一「では、合宿に参加していたみんなはどうだろうか。律ちゃん」

律「……私は、知らない」

金田一「澪ちゃんは?」

澪「私も、知らなかったぞ」

金田一「……唯ちゃんは?」

唯「知らないよ~」

金田一「そして先ほどの質問から、中野梓もその扉の奥は知らなかった事になる」

紬「……つまり、何が言いたいのかしら?」

金田一「遺体の隠し場所を、知っている人物がいたかどうか、さ」

380: 2011/01/31(月) 05:27:45.77
金田一「階段から落とした後の遺体をどこに隠すか。犯人は考えたはずさ」

金田一「首の骨が折れている状態だ、余っている客室に放り込むのも不自然だ」

金田一「他にいい場所もない……犯人は戸惑った。しかし、すぐに最適な場所を思い出す」

律「それが階段のある……地下室?」

金田一「ああ、そうだ」

澪「で、でもさ。さっきの話だと……」

381: 2011/01/31(月) 05:33:45.83
金田一「……地下室の存在を知っていた人物。それが第一の事件の犯人さ」

金田一「それは……あんただよ」

金田一「琴吹紬!」

紬「……」

金田一「あんたが鈴木純を殺害した……犯人だ」

澪「そ、そんな……」

律「ムギが……犯人」

唯「……」

ムギ「言い逃れは、しないわ」

!?

金田一「……」

ムギ「考えてみれば、当然よね。みんなが地下室の存在を知らないって言っちゃえば……それまでですもの」

律「ムギ……」

382: 2011/01/31(月) 05:41:43.56
金田一「俺が、アンタを疑った理由はもう一つある」

金田一「それは救援の電話さ」

紬「……」

金田一「俺が、ある知り合いの警察官から連絡を受けた……ついさっきの事さ」

金田一「この辺りで崖崩れなんて、全く起こってなかったんだろう?」

律「な!」

唯「そう……なの?」

美雪「本当なの、はじめちゃん!?」

金田一「……ああ。今ここに助けの車が向かってるよ。着くのはまだしばらくかかるみたいだけどさ」

紬「……」

金田一「考えてみれば、アンタはこの別荘内の事で中心になってよく動いていた……」

金田一「俺たちも、まんまとその印象に騙されたってわけさ」

金田一「おそらく、別荘にかかってきた電話も自分の携帯からかけていたんだろう」

383: 2011/01/31(月) 05:49:25.50
金田一「なんなら、通話記録を調べてみてもいいんだぜ?」

紬「……その必要はないわよ。だってその通りなんですもの」

澪「ムギっ、一体どうして……!」

紬「ごめんなさい。怖かったの……一時間もしないうちに、私がどこかへ連れていかれて……一人になってしまう」

紬「そう考えたら、自然と嘘を並べていたわ……本当に、ごめんなさい……」

律「そんな事から……逃げたってなあ!」

律「いい事なんかあるわけないだろ! そうやって、私たちを騙しながら……楽しく……ぐっ」

美雪「律ちゃん……」

律「ぐっ、ちくしょー……楽しくても、悲しいじゃねーかよっ……バカ……ムギっ。ぐすっ」

紬「律ちゃん……」

紬「ごめんなさい、本当に。心配させてしまって、ごめんなさい……」

385: 2011/01/31(月) 06:00:21.09
律「……ぐしっ。ところではじめちゃんよ~、さっき『第一の事件の犯人』って言ったよな?」

金田一「ああ」

律「もしかして、はじめちゃんはこう言いたいのかな。第二と第三の事件は、別の犯人がいるって」

澪「な……!」

金田一「その通りさ。でも、そう考えるまで苦労したぜ。それぞれの事件の中で……」

金田一「犯人が一人だと考えると、どうしても成立しない犯行があるんだからな」

律「それは一体……どういう事なんだ?」

金田一「ここからは、また中野梓の事件の話さ」

387: 2011/01/31(月) 06:10:41.79
金田一「彼女の行動を思い返して欲しいんだ。彼女は地下室に行く前に……まず何をしたのか」

澪「……メール、だっけか?」

金田一「そう。平沢憂に地下室へ一緒に行くためのメールをした。すぐに返事が来て……彼女は一人で地下室に向かった」

金田一「憂ちゃんの話だと、最後にメールをしてから15分。この時間の間に殺された事になる」

澪「15分、か……」

律「意外と時間あるように思えるな~」

金田一「これが、メール上のやり取りって事を忘れちゃいけないぜ?」

388: 2011/01/31(月) 06:16:29.66
金田一「なありっちゃん。そもそも、犯人はどうやって中野梓が地下に向かう事を知ったんだろう」

律「え……そ、そりゃあ扉の前で聞き耳立ててだな~」

澪「ただ廊下を歩く音だけで、判断出来るのか?」

律「う……ま、毎回廊下に出て確認してみるとか?」

唯「何にもないのに、廊下ばっか出ていたら不審者だよ~?」

律「い、いいんだよ! そこは犯人なんだからっ!」

金田一「おまけに、頃しに使える時間が15分以下だ。よほどいいタイミングで地下に向かわないと、この犯行は成立しない」

金田一「……要するにあの時間。犯人が情報無しに、中野梓を地下室で殺害するのは不可能なんだ」

390: 2011/01/31(月) 06:24:12.81
唯「……」

律「情報があれば殺人できるって? どんな情報だよ?」

金田一「簡単さ。犯人は中野梓本人からのメールを見て地下に向かったんだからな」

美雪「え……それってもしかして犯人は」

金田一「そう。中野梓を頃したのは、メールをしていた平沢憂自身さ」

澪「じ、じゃあ……梓は」

律「メールしなきゃあ殺されなかったかもしれない……のか?」

紬「……金田一さん。ちょっといいですか?」

金田一「……」

紬「そもそも、どうして憂ちゃんが梓ちゃんを殺さなきゃいけないのかしら?」

紬「純ちゃんを頃した犯人は、私。憂ちゃんは殺人に関係なんか無……」


391: 2011/01/31(月) 06:32:19.81
金田一「いいや、それがあるんだよ。この上ないくらいに、重要な関係がな」

紬「……」

金田一「佐木、ビデオをまわしてくれ」

佐木「はい、わっかりました」

カチッ。

紬『でも、どうして冷蔵室に……』

律「これは……」

金田一「三日目の聞き込みの時の様子さ」

憂『探検じゃないかな。純ちゃんて元気な子……だったから』ジー

唯「あ、カメラ……憂」

澪「唯……」ナデナデ

金田一「ここだ。よく聞いてほしい」

唯『ええ~。でもあんな格好で冷蔵庫開けたくないよ~……』

392: 2011/01/31(月) 06:38:46.85
金田一「そして、ついさっきのこの発言だ」

唯『違うよりっちゃん。純ちゃんは最初バスタオルを巻いた状態で見つかったんだよ~』

律『ああね~。って……あれ、唯。どうしてそれ知ってるんだっけか?』

唯『? 憂に聞いたんだよ~』
紬「……この発言が?」

金田一「よく思い出してほしい。最初の話をした、三日目の時点で。純ちゃんの格好を知っていたのは、誰かっていう話さ」

金田一「まず、現場を直接見た俺と佐木は知っている」

金田一「そして……第一の事件の犯人、琴吹紬もその一人のはずだ」

紬「そう、ね」

金田一「じゃあ逆に知らない人物はどうなんだろうか?」

394: 2011/01/31(月) 06:51:37.40
金田一「まあ、これは現場を見ていない人間。さっき名前が出た以外の人物が当てはまる事になると思う」

金田一「……ただ二人を、除いては」

澪「ふ、二人って?」

金田一「三日目に、服装について話していた人物。つまり……平沢唯、憂。この二人のどちらかが……第一、第二の事件の共犯者さ!」

唯「!」

律「唯と……憂ちゃんが? その理由は?」

金田一「……現場を見ていない人間が、被害者の服装の事を知るはずがない」

金田一「そしてさっきの話だ……もしも、本当に憂ちゃんが唯ちゃんに情報を教えていたとしたら」

金田一「毛布を羽織っていた状態だけでなく、パジャマでいた時の事を知っていた……平沢憂が第一の事件に関わった共犯者になる」

金田一「逆に、それが嘘だとしてもだ。服装の状態を知っていた平沢唯が第一の事件の共犯者になるんだ」

金田一「アンタは自分で、逃げ道を潰しちまったんだよ」

唯「……」

395: 2011/01/31(月) 06:59:29.77
唯「えっとね、私は嘘ついてないよ。憂が私に教えてくれたの」

唯「こういう風に話合わせてね、お姉ちゃん、って……」

金田一「……」

唯「嘘じゃないよ? 私は憂に言われたままに動いただけだよ~」

唯「ね、ムギちゃん」

紬「……ん、そうね」

唯「でしょ~」

金田一(……確かに、この話が嘘だという様子は無い)

金田一(最初に姉妹の共犯を疑った、俺の推理も……結果的には正しかったわけだ)

金田一(間違ってはいないはずなのに、なんだ……)

金田一(これじゃあまるで、犯人を見つけて欲しい……だぜ?)

396: 2011/01/31(月) 07:04:30.28
紬「……第三の事件は、完全に私一人の犯行です」

金田一(この後、琴吹紬の独白)

紬「鍵はここの……団欒室の引き出しにしまってある、マスターキーを使いました」

金田一(……このマスターキーについては、けいおん部が合宿場に到着した時、一番最初に説明を受けたんだそうだ)

金田一(鍵の管理は大事だからな、とりっちゃんが威張りながら言っていた気がする)

金田一(開けようと思えば、誰でも開ける事のできる密室)

金田一(……平沢憂は、そんな空間で殺されたのだ)

398: 2011/01/31(月) 07:12:46.34
金田一(いや、鍵が開いていた時点で、密室でも何でもないのか……)

紬「頃してしまった理由は、やはり事件の発覚が怖かったからです」

紬「ごめんなさい、唯ちゃん」

紬「ごめんなさい……憂ちゃん……」

金田一(……全ての罪を告白した彼女は、その場に崩れさって)

金田一(仲間に抱き寄せられたまま、赤ん坊のようにワンワンと涙を流していた)

美雪「……終わったのよね、はじめちゃん」

これで、全てが終わり。

……しかし、俺だけはそう思っていなかったんだ。

金田一(……なんだ、この違和感は……)

401: 2011/01/31(月) 07:17:59.89
紬「うっ……うっ……ぐすっ……」

金田一(事件はこれで終わった。犯人も明らかになった。それなのに……)

金田一(この、胸に引っ掛かるようなモヤモヤはなんだ……!)

金田一(事件は解決したはずだ)

金田一(……それとも)

澪「ムギ、ムギぃ……」

律「よしよし、わかったから。大丈夫だからな」

唯「ムギちゃん……」

金田一(まだ……事件は完全には終わっていないのか?)

……。

403: 2011/01/31(月) 07:21:03.88
お仕事。
次書いたらきっと終わります。

とりあえず、事件は解決。
解決はしたけれども……な展開です。

404: 2011/01/31(月) 07:21:32.35
どうやって共犯の唯を引っ張り出すのか気になって寝れ憂

405: 2011/01/31(月) 07:23:13.98
解決編に次ぐ真相編か……頑張れ>>1

418: 2011/01/31(月) 08:56:32.41

引用元: 金田一「犯人は、この中にいる」唯「え……」