1: 2014/04/20(日) 14:02:45.26
およそちかしとされしもの

高尚で可憐

見慣れた色恋沙汰とはまるで違うとおぼしきモノ

それら異形の一群を、ヒトは古くから畏れを含み、

いつしか総じて“百合”と呼んだ

2: 2014/04/20(日) 14:04:49.99
あかり「・・・・・・・・・」

あかり「どうやら道に迷っちまったらしいよぉ」

あかり「・・・あ、あんなところに人影が!」

あかり「おーい!ちょいといいかね、だよぉ!」

結衣「・・・・・・はい?」

あかり「ちょっと道に迷っちまって、難儀してたとこなんだよぉ」

あかり「あんた、この先に村があるのを知らんかね?だよぉ」

結衣「・・・・ちょうどその村へ行く途中だけど・・・」

あかり「ならよかった。一緒に連れてってはくれんか、だよぉ。」

あかり「それと、飯を売ってくれそうな店もできれば教えてほしいんだが、だよぉ」

結衣「・・・・・・・・・」

3: 2014/04/20(日) 14:08:39.77
百合師





訣つ縁





ザッザッザッ

あかり「お!村が見えてきたよぉ」

あかり「どうも、ありがとう、助かったよ、だよぉ」

結衣「いえ、私も丁度帰途でしたから」

あかり「あんた、この村の出かい?だよぉ」

結衣「ええ」

4: 2014/04/20(日) 14:10:21.84
結衣「・・・・・・・・・」

結衣「ですが、次の季節には・・・・・・」

西垣「おーい!結衣やー!!」

結衣「・・・・・・・・・」

西垣「どこにいたんだ。まったく」

結衣「西垣さん」

西垣「ふらっと姿を消されると、お目付け役の私がまた雇用主に怒られちまうじゃないか」

結衣「・・・すいません」

西垣「大事な御身なんだから、軽率な行動はよしてくれよ」

結衣「・・・わかりました」

あかり「・・・・・・・・・」

6: 2014/04/20(日) 14:11:36.65
西垣「そちらの方は?」

結衣「この方は、さきほど山で道に迷っているのを案内していました」

あかり「ええ」

あかり「ちょっと通りすがりのもんで・・・」

あかり「食べ物を分けて貰えんかと思いまして立ち寄らせてもらいました」

あかり「路銀と、薬とかならありますんで、良い店しりませんかね、だよぉ」

7: 2014/04/20(日) 14:13:09.09

町 庄屋

あかり「こいつぁ、惚れ薬の類だよぉ」

あかり「滅多に手に入らない値打ちものだけど今なら安くするよぉ」

「んーそうだねぇ、他にはなんかないのかい。腰痛とか滋養強壮とか」

あかり「それなら、丁度いいもんが・・・・・・」


村の通り

ザワザワ

村人「三日後、領主様の家の娘が嫁ぎにいくそうよ」

村人「ええ、なんでも会ったこともない殿方と縁をもたれるのだとか」

村人「船見家は最近傾いてらっしゃるから良家の後ろ盾が欲しいって噂があったものね」

村人「結衣様・・・とおっしゃられたかしら。哀れな子・・・」


あかり「・・・・・・・・・」

9: 2014/04/20(日) 14:16:40.72

あかり「食べ物の調達はこんなもんだよぉ」

あかり「・・・・・・・・・」

あかり「どの村にも一つか二つ、良くない話もあるもんだねぇ」

あかり「あんまり関わりあいになる前に行くとしますかね、だよぉ」

あかり「さて、いくよぉ」

アッカリアッカリ

「ん?あんた?今から山に入るのかい」

あかり「ん?あんたは?だよぉ」

京子「やめといた方がいい。今からじゃ山を抜ける前に暗くなっちまう」

10: 2014/04/20(日) 14:17:53.56
京子「この辺は今の時期」

京子「冬眠から覚めた獣が腹を空かせてて気が立ってるんだ」

京子「夜の山歩きは危険だ、明日の朝にしな」

あかり「そうかい、それはご親切にどうも、だよぉ」

あかり「でも、参ったな、一夜を明かせる場所を探さんと・・・」

京子「・・・・・・・・・」

京子「よかったら、うちくるかい」

あかり「・・・・・・・・・そりゃ、ありがてぇが・・・だよぉ」

京子「ちょうど私も、話し相手が欲しかったところなんだ」

あかり「・・・・・・・・・」

13: 2014/04/20(日) 14:19:07.77



闇が降りた室内。そこに小さな光が迸る。

京子は手にもった火を行燈に入れ、あかりの前に座した。

京子「最近、夜が眠れなくてな」

京子「でも、私はここで一人暮らしてるもんだから」

京子「話相手がいないんだ」

あかり「へぇ、そりゃ、いつから?、だよぉ」

京子「そうさ、な」

京子「ちょうど、結衣の婚儀の日取りが決まってからだ」

あかり「・・・・・・・・・」

京子「私と結衣は昔からの馴染でな」

京子「よく、田や山で一緒に遊んでた」

14: 2014/04/20(日) 14:21:07.59

小川

結衣『京子ー!こっちだー!』

京子『・・・・・・うぅ』

京子『い、石を伝って渡るなんてこわいよぉ』

結衣『大丈夫だって!うまく飛び跳ねたらこっちにこれるから』

京子『うぅぅぅ』

京子『えい!』

ピョンッ

京子『わっ、わわっ、』

ピョン  ピョン

結衣『がんばれ!最後の一飛びだ』

京子『えいっ!』ピョッコリーン

京子『わっ!!』

結衣『わわっ!』

ドシーン

15: 2014/04/20(日) 14:22:23.67
京子『わわ!ごめんね!私がぶつかっちゃったせいで』

結衣『へへっ!大丈夫だ。それよりこっちまで飛べたな、京子』

京子『うんっ!』

京子『ごめんね、すぐに結衣の上から退くから・・・』

結衣『・・・・・・・・・京子、このままでいいよ』ギュッ

京子『・・・・・・ふわっ!』

結衣『・・・・・・・・・京子・・・』

京子『・・・・・・結衣ちゃん・・・』

結衣『・・・・・・京子私は・・・』

結衣『・・・・・・・・・』

結衣『・・・・・・いや、なんでもない・・・』

京子『結衣・・・』

17: 2014/04/20(日) 14:24:08.64

京子「そんな感じで二人で育ったわけだ」

あかり「・・・・・・惚れてるのかい?だよぉ」ニヤッ

京子「そ、そういうわけじゃ!!」

京子「・・・・・・・・・」

京子「いや、そうかもしれん・・・」

京子「しかし、どうにも、恋愛という感じにはならなくてな・・・」

あかり「へぇ?そうかい?、だよぉ」

あかり「あかりから見れば、さっきの話だってキスの一つでもしたんだろって?感じだよぉ」

京子「だ、だって、女の子同士だし!そんなの変だろ!」

あかり「・・・・・・・・・」

京子「・・・・・・それに・・・」

あかり「それに?」

18: 2014/04/20(日) 14:25:39.63
京子「結衣とは・・・・・・なんていうかさ、恋人っていうより姉妹って言った方が近くてさ」

京子「どうも、そういう気になれなんのよ」

京子「それなのに縁組が決まってから、毎晩寝られないという訳・・・」

京子「笑っちまうよな・・・・・・」

あかり「・・・・・・・・・」

あかり「つかのところお聞きするが、だよぉ」

あかり「もしや、二人は同じような時期にうまれていないかね、だよぉ」

京子「・・・・・・・・・ああ」

京子「ああ、同い年で、生まれた時期も似たようなもんだと聞いている」

京子「そのせいで、村で一番仲良くなったんだ」

19: 2014/04/20(日) 14:28:34.35
あかり「京子さん、そりゃ」



あかり「百合の仕業ですね」



京子「・・・・・・・・・百合?」

あかり「ええ。私たちの良く知る生命とは一線を画すものでね」

あかり「純愛の根源、真理に一番近いモノ、そういったものを我々は」

あかり「百合とよんでるんです」

京子「・・・百合」




あかり「申し遅れました。私は百合師のあかり、と申します」

20: 2014/04/20(日) 14:30:02.36


あかり「京子さん、あんたと結衣さんに着いた百合は」

あかり「おそらくサナナジミという百合でしょう」

あかり「この百合は生まれたばかりの赤ん坊に着くんですが」

あかり「その際、体を二つに分裂して、二人の赤ん坊に着くんです」

あかり「赤ん坊は免疫が弱くすぐに氏んでしまうこともありますから」

あかり「どっちかが氏んでも、自分の個体を生き残らせる為でしょう」

京子「はぁ・・・」

22: 2014/04/20(日) 14:32:11.46
あかり「そして、この百合がついた二人は」

あかり「成長するとまるで惹かれあうように仲良くなる」

あかり「元は一つだった百合の為、分裂してもお互いに影響しているからとも言われております」

あかり「しかし、二人は恋愛に発展することはありません」

あかり「寄生した百合が阻むのでしょうな。元は同じ個体同士、縁故になられては困ります」

あかり「それで、その二人は姉妹のような仲以上にはなれない」

あかり「いや、サナナジミという百合のせいで一心同体も同じなのに、結ばれない、悲恋」

あかり「それがこのサナナジミという百合です」

23: 2014/04/20(日) 14:33:31.49
京子「それが、わたしと、結衣に・・・?」

あかり「ええ」

京子「それなら私は、一生結衣とは・・・・・・」

あかり「いえ、その百合を取り除く薬がありましてな、だよぉ」

京子「・・・・・・え?」

あかり「この百合は古くから確認されておりまして、研究がすすんでいるのです」

あかり「・・・・・・どうします?」

あかり「京子ちゃん・・・」

京子「・・・・・・・・・」

24: 2014/04/20(日) 14:35:21.58

夜。屋敷

結衣「・・・・・・・・・京子・・・」

ガラッ

結衣「!!!」

結衣「だれっ・・・!!」

京子「しー、静かにっ!」

結衣「・・・・・・京子!!」

あかり「ちょいとお邪魔します、だよぉ」

結衣「!」

結衣「あなたは、今日の・・・・・・」

あかり「少し聞いてもらいたい話があってね、だよぉ」

結衣「・・・・・・・・・」

25: 2014/04/20(日) 14:36:44.01


結衣「・・・・・・・・・そういうことだったんですね」

京子「薬を用意してくれるっていうんだ、飲もうよ、結衣」

結衣「・・・・・・・・・でも私は」

結衣「私は・・・傾きかけたこの家を建てなおすために、私の縁組が必要なんだ・・・」

結衣「だから・・・・・・」

京子「・・・・・・結衣・・・」

あかり「・・・・・・・・・」

結衣「話はありがたいけど、私には・・・・・・」

あかり「・・・・・・・・・」

京子「・・・・・・・・・くっ・・・」

27: 2014/04/20(日) 14:37:36.69
あかり「・・・部外者が口を挟むのもあれだが・・・だよぉ」

結衣「・・・・・・?」

あかり「そう思ってしまうのもやはり百合が影響してる思考になってるから、だよぉ」

あかり「・・・・・・サナジミを体外に出して、改めて、自分だけの思考で考え見ても」

あかり「遅くはない、と思うんだがねぇ、だよぉ」

28: 2014/04/20(日) 14:39:06.44
京子「・・・・・・そうだよっ!私は結衣への」

京子「・・・本当の気持ちを知りたいんだっ」

京子「サナナジミとかいう百合に影響されない私だけの心で!」

京子「姉妹みたいにしか思えないのに、この切なくなる気持ちの」

京子「本当の結衣への気持ちを・・・・・・」

結衣「京子・・・・・・・・・」

結衣「・・・・・・わかった」

結衣「私、飲むよ」

京子「・・・・・・結衣!」

29: 2014/04/20(日) 14:40:30.70

あかり「薬は簡単だよぉ」

あかり「この、数種類の薬草で調合した薬を、水に溶かし、」

あかり「サナナジミに寄生された一方が口に含み」

あかり「半分を呑み込む」

あかり「そして唾液と合わさった薬を」

あかり「口移しでもう一方に呑ませる」

あかり「そうすれば、二人にあるサナナジミは双方消えてなくなる」

31: 2014/04/20(日) 14:42:18.32
京子「」グイッ

京子(半分・・・)コクッ

京子(そしてもう半分を・・・)

京子(結衣・・・・・・)

結衣(・・・・・・京子)チュ、チュル

結衣(・・・・・・・・・んっ)コクコク

結衣(・・・・・・京子の・・・味・・・)

京子(・・・結衣が私の・・・・・・)ゾクゾク

結衣「」ゴクン




京子「あっ」ドクンッ

結衣「んっ」ドクンッ

32: 2014/04/20(日) 14:43:50.53
京子「あ、あれ・・・・・・わたし・・・」

結衣「・・・・・・・・・京子・・・わたし」

二人は涙を流し

それはいつまでも止まらなかった

京子「・・・・・・初めて会えた、結衣」

結衣「ああ・・・・・・京子・・・初めて私自身の気持ちで京子を・・・」

生まれてから百合を宿していた二人は

サナナジミとしての縁を訣たれ

その日、やっとお互いをみつけられたようだったと言っていた

33: 2014/04/20(日) 14:47:28.02
京子「結衣・・・・・大好きだ・・・初めてこんな気持ち・・・」

結衣「ああ。私もだ。うれしくてうれしくてたまらない」

京子「これが結衣への本当の気持ちなんだな」

結衣「ずっと気付かなかった。こんなに近くにいたのに。ずっと一緒にいたのに・・・」

34: 2014/04/20(日) 14:52:02.05


あかり「その後どうなったのかあかりにはわからないよぉ」

あかり「だけど風のうわさで」

あかり「ある村の領主家が没落したと聞くよぉ」

あかり「その家の娘は愛する人と親の決めた縁談から逃げて」

あかり「遠い村で暮らしたらしいよぉ」

あかり「だけどその娘も家族を没落させてしまった自責の念を」

あかり「どうしても断つことはできなかったと聞くよぉ」



訣つ縁

おわり

35: 2014/04/20(日) 14:57:44.21
おつ

引用元: あかり「百合師だよぉ」