ママ友「ってことなの～」

主婦（ふう、やっと終わった）

ママ友「そうだ。たまにはあなたの旦那さんや家族のことを聞きたいわね～」

主婦「え……」

主婦（どうしよう。うちの家族はみんないい人だけど、年収だの頭のよさなんかはあくまで普通だわ）

主婦（正直にそう話せば、絶対『勝った』と思われるし、それはなんだか嫌）

主婦（かといって見栄張っても空しくなるだけだし……そうだ！）

主婦（高すぎるハードルなら、いっそくぐればいいのよ！）

ママ友「旦那さんの年収は？」

主婦「年収は……ゼロよ！」

ママ友「ゼロ！？」

ママ友「ど、どういうこと？　働いてないの？」

主婦「うん、無職」

ママ友「そうなんだ……」

主婦「それどころか借金があるの」

ママ友「え、どのぐらい？」

主婦（借金の相場ってどのぐらいだろ？　相場とかあるのか知らないけど）

主婦（五百万？　一千万？　うーん、インパクト薄いか。こうなったら……）

主婦「10億円ぐらい」

ママ友「10億！？」

主婦（うふふっ、驚いてる驚いてる。ようし、どんどん盛っちゃえ！）

ママ友「旦那さん……普段なにしてらっしゃるの？」

主婦「だいたいお酒飲んでるわね」

ママ友「どのぐらい？」

主婦「それはもうすごいのよ。酒のツマミに酒を飲むような有様で」

主婦「こないだなんか、風呂の浴槽を酒で満たして、それに浸かりながら全部飲んでたわ」

ママ友「豪快すぎ！」

主婦（いいリアクションだわ。なんかどんどん楽しくなってきた）

暴走してる

主婦「それとDVがすごくて……」

ママ友「あまり殴られてるように見えないけど……」

主婦「それだけやり方が巧妙なのよ。法律の穴をくぐるみたいな適切なDVなの」

ママ友「DVに適切とかあるんだ……」

主婦「『DV王に俺はなる！』って宣言してるぐらいで」

ママ友「そのうちアニメになりそう」

主婦「10HITコンボは当たり前。この間の強P→弱P→強K→強P→弱Kのコンボは強烈だったわ」

ママ友「アニメと思いきやゲーム系DVだったのね」

主婦「うん、キャンセルやめくりまで使ってくるの」

ママ友「DVでそんな技使う人初めて知ったわ」

主婦（格ゲーみたいな動きでDVする夫を想像したらめちゃくちゃシュールだわ）

ママ友「えぇと……娘さんはどうなの？」

主婦「娘もひどいわ。すっかりスケ番に育っちゃって」

ママ友「今時！？」

主婦「そうなの一人称も“アタイ”だし……」

ママ友「天然記念物だわ……」

主婦「カバンには鉄板入れて、ロングのスカートをはいて、毎日のように剃刀で私を斬りつけてくるの」

ママ友「恐ろしいわね」

主婦「それに男遊びばかりしてて、今までに軽く100人以上と関係を持ったらしいわ」

ママ友「乱れてるわねえ……」

ママ友「息子さんは？」

主婦「ゲームばかりやってるわ。すっかりのめり込んじゃって」

ママ友「ゲーム？」

主婦「うん、何かおかしい？」

ママ友「いえ、借金まみれなのによくゲームが買えるなって」

主婦「！」

主婦（早くも矛盾が生まれちゃった……。矛盾のない物語を作るって本当に大変なのね）

主婦（設定が矛盾だらけの漫画だとか大嫌いだったけど、考えを改めなくちゃ）

主婦「えーと……盗むの！」

ママ友「万引きってこと？」

主婦「そうなの。うちの場合、万引きどころか億引きね。最新ゲームが出たらすぐ盗んでくるの」

主婦「いつだったかは、品薄のゲーム機をダース単位で盗んできたし」

ママ友「よく捕まらないわね」

主婦「やり方が上手いみたい。それに、ゲームにハマるとゲームキャラになりきることもあるの」

ママ友「たとえば？」

主婦「ボクは勇者だーって、私を木刀で殴ってきたりするの。もう滅多打ちよ」

ママ友「あなた、家族三人から狙われてるのね……」

ママ友「辛いわね……」

主婦「ええ、本当に辛いわ……」

ママ友「だけど、気を落とさないでね。頑張って生きて。諦めたらダメよ」

主婦「うん、分かってる」

ママ友「じゃあ、またね……」

主婦「またね！」

主婦（いつもは自慢話ばかり聞かされるけど、今日はなんだか勝った気分！　スカッとしたわ！）

また別の日――

ママ友「あら奥様、こんにちは！」

主婦「こんにちは（まーた会っちゃった）」

ママ友「あら、右腕怪我してるじゃない」

主婦「うん、これはちょっと……（転んで捻挫したんだけど）」

ママ友「もしかしてDV？」

主婦「！　う、うん、そうなの！」

主婦（そうだ、DVってことにしちゃえ！　この人の中で、私の夫はDV王なんだから！）

主婦「昨日もDVされちゃって……」

ママ友「どんな風に？」

主婦「超必殺技を出してきたわ」

ママ友「ええっ！？」

主婦「しかもカットイン付きで」

ママ友「そんなことまできるの！？」

主婦「年々演出がくどくなっていくのよ、夫のDV……」

ママ友「演出があっさりならいいってもんでもないけどね、DVだし……」

また別の日――

ママ友「最近どう？」

主婦「娘がね……男を連れてきたわ」

ママ友「あら、そうなの」

主婦「それも10人も」

ママ友「10人！？」

主婦「居間を占領して、それはもうやりたい放題だったわ」

ママ友「あらまぁ……。逆ハーレムね」

主婦「アタイは石油王、だなんてほざいてたもの」

ママ友「白い石油がたくさん出てくるのね」

また別の日――

ママ友「息子さんはどう？」

主婦「昨日は大魔王になってたわ。“ビッグバン”だとか“カタストロフ”だとか叫んでたわ」

ママ友「大魔王！？」

主婦「やってるゲームに大魔王が出てくるんだって」

主婦「そのうち『俺様の本当の力を見せてやる』って服を脱いで、第二形態になって大暴れしてたわ」

ママ友「毎日大変ねえ……」

主婦（うふふっ、同情してもらえるってのも結構楽しいものね）

ある日――

ママ友「お願いがあるんだけど」

主婦「なに？」

ママ友「今度、家に連れてってもらえない？」

主婦「え゛」

主婦「ど、どうして……？」

ママ友「あなた、旦那さんやお子さんに苦しめられてるでしょ？　一度この目で見たいのよ」

ママ友「そうすれば具体的に相談に乗れるかもしれないし……お願い！」

主婦（うぐぐ、善意からの申し出を断るわけにもいかないし、断れば今までの話がウソだったとバレそうだし……）

主婦「い、いいわよ！」

ママ友「じゃあ今度のお休みにでも」

主婦「う、うん！」

主婦「――というわけなの！」

夫「どういうわけだよ！」

主婦「お願い！　DVアル中夫、スケ番男好き娘、ゲーム依存息子を演じてぇ！」

夫「俺、酒もあまり飲まないし、しがないサラリーマンなんだけど」

娘「私もまだちゃんと男の子と付き合ったことない文学少女だよ！？」

息子「ボク、ゲームは決められた時間しかやってないよ……」

夫「どうして、そんなとんでもない嘘ついちゃったんだよ！」

主婦「ママ友のマウントに対抗するため……だったんだけど、だんだん楽しくなってきちゃって」

娘「だからってやりすぎでしょ！」

息子「そうだよ！」

主婦「ごめんなさいっ！」

夫「……」

娘「お父さん？」

夫「分かった、やろう」

主婦「え？」

夫「俺たちがトンデモ家族を演じて、ママ友との良好な関係を築けるなら……やるよ。それぐらい安いもんだ」

娘「うん……私もやる」

息子「ボクも！」

主婦「みんな……ありがとう！」

主婦（ああ……私はいい家族を持ったわ）

当日――

主婦「さ、上がって」

ママ友「お邪魔します」

主婦「こっちよ」

ママ友「借金まみれのわりに、なかなかいい家じゃない」

主婦「！　……お、夫が大工さんを脅して作らせたのよ。身内を人質にしたりしてね」

ママ友「ああ、そういうこと」

主婦（セーフ！）

主婦「紹介するわ、夫よ」

夫「おうおうおう！　どうも！」

ママ友「こんにちは……」

夫「くーっ！　酒がうまいぜ！」ｸﾞﾋﾞｯ

主婦（あまり飲めないのに、昼間から頑張って飲んでくれてる……）

ママ友「話によると、アル中だと聞いたんですけど」

夫「おうよ！　もう酒飲んでないと手がこうなっちまうぜ！」ｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀｶﾞﾀ

主婦（ちょっとやりすぎよ！　一人だけ震度7になってるじゃない！）

頑張れ夫

ママ友「それと……DVもよくなさるとか」

夫「DVD？　TSUTAYAでよく借りるけど……」

主婦「違う！　DVよ！」

夫「ああ、DVね……大好き！　えいっ！」ﾍﾟｼｯ

主婦「いたっ！」

夫「えいえいっ！」ﾍﾟｼﾍﾟｼｯ

主婦「いたたっ！」

ママ友「……」

娘「なんだい、客かい？　おかん」ｷﾞﾛｯ

ママ友「あなたは？」

娘「アタイは……娘だよ！　“カミソリのお京”と呼んでおくんなまし！」

ママ友「は、はぁ」

主婦「えーと、男遊びが大好きなのよね？」

娘「そうさ！　アタイにとっちゃ、男なんてえのは本と一緒さ！」

娘「次々に読んで……本棚にしまわれるだけの存在なのさ！」

主婦（あの恥ずかしがり屋が、男遊びが盛んなスケ番なんてムチャ設定を一生懸命演じてくれている……）

主婦（私の中で、今年のアカデミー賞は間違いなくあんたよ！）

主婦「こっちでは、息子がゲームやってるわ」

息子「……」ｶﾁｶﾁｯ

ママ友「こんにちは」

息子「あ、こんにちは」

ママ友「きちんと挨拶して下さるのね」

主婦（ま、まずいっ！）

主婦「怒って！」ﾎﾞｿｯ

息子「う、うん。ゲームの邪魔すんじゃねええよォォォォォォォ！！！」

息子「ボク……あ、いやオレは大魔王だァァァァァァァ！！！」

ママ友「邪魔しちゃってごめんなさいね」

主婦「ほら、ひどい家族でしょ？」

夫「ウ～イ……飲み過ぎた……」

娘「アタイはカミソリで人を切り刻むのが大好きなんだよ！」

息子「世界を滅ぼしてやるゥゥゥゥゥ！！！　パラダイス・インフェルノォォォォォ！！！」

ﾜｲﾜｲ…

主婦（ボロが出ないうちに帰ってもらわないと……もうボロボロな気もするけど）

主婦「そろそろ帰った方がいいんじゃない？」

ママ友「そうね。じゃあ、この紅茶を飲んだら……」

ママ友「あ、紅茶こぼした」ﾊﾞｼｬｯ

夫「大丈夫ですか！？」

娘「ふきんどうぞ！」

息子「火傷してませんか！？」

主婦「……あ」

ママ友「やっぱりね」

主婦（バレてたぁぁぁ……！）

主婦「ごめんなさいっ！」

主婦「あなたの素晴らしい旦那さんや息子さんの話に対抗したくてもできないから……」

主婦「あえてひどい家族だって話をして同情を買おうとしたの！」

主婦「ウソついてごめんなさいっ！」

夫「妻を許して下さい！」

娘「すみませんでした！」

息子「ごめんなさい！」

ママ友「……」

ママ友「私は何も気にしてないわよ。むしろほっとしたくらい」

主婦「え……？」

ママ友「あなたのご家族、本当にいい人ばかりで安心したわ」

主婦「……！」

ママ友「これからも私たち、いい仲でいましょうね。あなたが友達で本当によかった」

主婦「うん！」

いい話だなあ

普通に良いママ友だった

主婦「ふぅ……帰っていった」

夫「どんな奥さんかと思ったら、なかなかいい人だったじゃないか」

娘「うん、私も初めて会ったけど、もっとイヤミな人だと思ってた」

息子「上手くいってないけど、上手くいってよかったね！」

主婦「うん、これからはもっとあの人と仲良くできると思うわ」

…………

……

……

ママ友「ただいまー」

ママ友夫「お帰り」

ママ友息子「お帰りなさい」

ママ友夫「お前の友達の酷い家族を消すって話……やってきたのか？」

ママ友「ううん、やめたわ」

ママ友夫「どうして？」

ママ友「だってとってもいい人たちだったんだもの。あんな人達を消すなんてできない」

ママ友夫「そうか、ならなによりだ」

ママ友夫「だったら、一つ仕事いいか？」

ママ友「なんなりと」

ママ友夫「さっき一人仕留めてきてな。氏体ができた。バラして片付けてくれるか」

ママ友「任せといて。私の包丁さばき、知ってるでしょ」

ママ友夫「それと依頼料の洗浄も頼む。1000万あるが、このままじゃ使えない」

ママ友「オッケー」

ママ友夫「お前の掃除の腕前はホントピカイチだからな」

ママ友息子「ママ、ボク中国語も覚えたよ！　ニーハオ！」

ママ友「あら、すごい！」

ママ友息子「ボク、将来は世界を駆けまわって仕事するもんね！　何ヶ国語もできるようにならないと！」

ママ友夫「しかし、お前も変なことしてたもんだ」

ママ友夫「なんでこんな稼業なのに、カタギの人にマウント取るような真似したんだ」

ママ友「だって頃し屋なんて底辺の仕事でしょ？　だから、せめてできる範囲で自慢話してみたかったの」

ママ友「だけどもうやめる。これからはあの人と仲良く付き合っていくわ。温かく見守ってくつもり」

ママ友夫「ああ、それがいい」

ママ友「もし、あの家族に危害を加えるような連中が現れたら、その時は……」

ママ友夫「俺も手伝ってやるよ。愛する妻の友達、俺にとっても大切な人だ」

ママ友「ありがと、あなた」ﾁｭｯ





―　完　―

最後にどんでん返しあったな
おもしろかったよ
乙です

マウント取るマーダーだったママ友…
乙