1: 2009/01/23(金) 20:21:19.16
古泉一樹は疲れていた。
彼の日々の生活は、過酷なものだった。
神と呼ばれる少女の機嫌取りをし、彼女の機嫌が損なわれた時に誕生する神人という
化け物を倒し、そしてまた次の日も少女の機嫌取りをする。
かれこれ三年もこんな調子だ。
古泉一樹も、三年前は普通の子供だったのだ。
けれど、彼はもうそれを思い出すことが出来ない。
学校には本音を言える友達が居て、そして温かい家庭があったのだが、もう彼はそれを
すっかり忘れてしまっている。好きで忘れているわけではなく、それほどまでに疲れている
のだ。そう、思い出す余裕がない程に。
古泉一樹は、神人の発生に応じて、生活をしなければならない。
酷いときは、睡眠時間が一週間続けて一時間だったこともあった。
ただただ呼吸をするだけの生活。そこには、幸福などある筈もなかった。
どうせ眠りについても、また神人の発生を伝える携帯の着信に起こされるのだ、と思い、夜
眠るのをやめた。たちまち、大きなクマが出来上がり、上司に酷く怒られた。不条理ではない
だろうか。眠るだけの時間を与えてすらくれないくせに。
そんな生活も、彼女が高校に入ってからは、改善された。一度は世界が崩壊しかけたものの、
その後の彼女の精神状態は極めて安定していると言え、神人の発生回数も大分減少した。
古泉一樹が、涼宮ハルヒに生活を振り回されることは殆ど無くなった。
普通ならば、それを喜ぶべきだろう。夜も安心して眠ることが出来る、自分の娯楽に時間を充て
ることが出来る、と。
けれど、古泉一樹は、それらのことが、全て涼宮ハルヒの裏切りのように感じていた。
彼の日々の生活は、過酷なものだった。
神と呼ばれる少女の機嫌取りをし、彼女の機嫌が損なわれた時に誕生する神人という
化け物を倒し、そしてまた次の日も少女の機嫌取りをする。
かれこれ三年もこんな調子だ。
古泉一樹も、三年前は普通の子供だったのだ。
けれど、彼はもうそれを思い出すことが出来ない。
学校には本音を言える友達が居て、そして温かい家庭があったのだが、もう彼はそれを
すっかり忘れてしまっている。好きで忘れているわけではなく、それほどまでに疲れている
のだ。そう、思い出す余裕がない程に。
古泉一樹は、神人の発生に応じて、生活をしなければならない。
酷いときは、睡眠時間が一週間続けて一時間だったこともあった。
ただただ呼吸をするだけの生活。そこには、幸福などある筈もなかった。
どうせ眠りについても、また神人の発生を伝える携帯の着信に起こされるのだ、と思い、夜
眠るのをやめた。たちまち、大きなクマが出来上がり、上司に酷く怒られた。不条理ではない
だろうか。眠るだけの時間を与えてすらくれないくせに。
そんな生活も、彼女が高校に入ってからは、改善された。一度は世界が崩壊しかけたものの、
その後の彼女の精神状態は極めて安定していると言え、神人の発生回数も大分減少した。
古泉一樹が、涼宮ハルヒに生活を振り回されることは殆ど無くなった。
普通ならば、それを喜ぶべきだろう。夜も安心して眠ることが出来る、自分の娯楽に時間を充て
ることが出来る、と。
けれど、古泉一樹は、それらのことが、全て涼宮ハルヒの裏切りのように感じていた。
3: 2009/01/23(金) 20:27:39.22
「古泉くん、じゃあねー」
「はい、さようなら」
廊下ですれ違う女子に挨拶をしながら、僕はいつもの通り、部室へと向かう。けれど、
僕が行かずとも、部活が普通に機能することは分かっている。いや、僕だけではない。
それは、朝比奈みくるも長門有希も同じだろう。彼女にとっては、彼以外は、ただの邪
魔者でしかないのだから。
表面上は、朝比奈みくるや長門有希、そして僕にも笑顔を投げかけ、明るく接してく
れているが、そんなものは演技だ。そう、彼に気に入られるための。
あんな化け物を発生させる精神を持っているくせに、人に慈愛を与えようとするなんて。
考え事をしていると、時間は早く過ぎる。
気が付けば、僕は部室の前に立っていた。
「こんにちは」
笑みを浮かべながら扉を開けると、そこには机に突っ伏した涼宮さんしか居なかった。
「はい、さようなら」
廊下ですれ違う女子に挨拶をしながら、僕はいつもの通り、部室へと向かう。けれど、
僕が行かずとも、部活が普通に機能することは分かっている。いや、僕だけではない。
それは、朝比奈みくるも長門有希も同じだろう。彼女にとっては、彼以外は、ただの邪
魔者でしかないのだから。
表面上は、朝比奈みくるや長門有希、そして僕にも笑顔を投げかけ、明るく接してく
れているが、そんなものは演技だ。そう、彼に気に入られるための。
あんな化け物を発生させる精神を持っているくせに、人に慈愛を与えようとするなんて。
考え事をしていると、時間は早く過ぎる。
気が付けば、僕は部室の前に立っていた。
「こんにちは」
笑みを浮かべながら扉を開けると、そこには机に突っ伏した涼宮さんしか居なかった。
4: 2009/01/23(金) 20:34:04.93
いつもなら、部室に入るときに挨拶をすると、彼女はいつも答えてくれる。けれど、今日は
いくら待っても返答が無かった。どうしたのだろうか。彼女が一人だけ部室に居ないことなら
度々あるが、彼女が一人で部室に居るのは極めて珍しかった。
なるべく音を立てないように椅子を引き、そして座る。部屋には珍妙な空気が流れていた。
雑音を拒むような静寂。それは誰でもない、彼女が作り出しているのだ。
「古泉くん」
永遠に続くのではないかと思われた静寂は、しかし永遠には続かなかった。それは当たり前
なのだが、何だか拍子抜けしてしまう。
相変わらず机に突っ伏したまま僕の名前を呼んだ彼女に、どうしたのですか、と問いかける。
「うん……いや、なんでもない」
やはり突っ伏したまま答える彼女の声は、少し震えていた。
いくら待っても返答が無かった。どうしたのだろうか。彼女が一人だけ部室に居ないことなら
度々あるが、彼女が一人で部室に居るのは極めて珍しかった。
なるべく音を立てないように椅子を引き、そして座る。部屋には珍妙な空気が流れていた。
雑音を拒むような静寂。それは誰でもない、彼女が作り出しているのだ。
「古泉くん」
永遠に続くのではないかと思われた静寂は、しかし永遠には続かなかった。それは当たり前
なのだが、何だか拍子抜けしてしまう。
相変わらず机に突っ伏したまま僕の名前を呼んだ彼女に、どうしたのですか、と問いかける。
「うん……いや、なんでもない」
やはり突っ伏したまま答える彼女の声は、少し震えていた。
6: 2009/01/23(金) 20:42:18.27
泣いているのだ、と、そのとき気付いた。
問い詰めるべきか、知らないふりをしておくべきか迷う。
「そうですか……」
迷った末に、どちらもしないことにした。人に話せるような悩みならば、僕が
強制しなくても自分から話す筈だ。それに、無理矢理聞き出すような真似をし
て、機嫌を損ねるのも、あまり好ましくない。触らぬ神にたたりなし。
十分程経った頃だろうか、彼女がもう一度口を開いた。
「古泉くんに聞きたいことがあるんだけど」
とても小さな声だった。しかし、それは静寂の中に響くには充分な大きさだった。
何を聞いてくるつもりなのだろうか。少し緊張しつつも、僕は冷静を装い答える。
「なんでしょうか」
「うん、あのね」
一息置いてから、彼女が決心したように言葉を発した。
「古泉くんは、みくるちゃんのこと、どう思う?」
問い詰めるべきか、知らないふりをしておくべきか迷う。
「そうですか……」
迷った末に、どちらもしないことにした。人に話せるような悩みならば、僕が
強制しなくても自分から話す筈だ。それに、無理矢理聞き出すような真似をし
て、機嫌を損ねるのも、あまり好ましくない。触らぬ神にたたりなし。
十分程経った頃だろうか、彼女がもう一度口を開いた。
「古泉くんに聞きたいことがあるんだけど」
とても小さな声だった。しかし、それは静寂の中に響くには充分な大きさだった。
何を聞いてくるつもりなのだろうか。少し緊張しつつも、僕は冷静を装い答える。
「なんでしょうか」
「うん、あのね」
一息置いてから、彼女が決心したように言葉を発した。
「古泉くんは、みくるちゃんのこと、どう思う?」
9: 2009/01/23(金) 20:52:12.26
予想外の質問に、え、と声を漏らしてしまった。
突っ伏している彼女の肩が、びくりと震える。
「あ……う、ううん、何もないの。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
何もないわけがない。
「変なことだとは思いませんよ。ただ、どんなことを聞かれるのかと意気込ん
でいたものですから、少し拍子抜けしてしまっただけです」
「そ、そう……」
「それで、朝比奈さんがどうかしたのですか?」
「あ、いや、……やっぱり、男ってみくるちゃんみたいなのが好きなのかなって思って……」
意味が飲み込めない。そもそも、質問からして、わけがわからない。僕の理解力に問題がある
のだろうか、それとも、彼女の表現力に問題があるのだろうか。後者であってくれると、嬉しいのだが。
「人によって好みは違うと思いますが」
当たり障りのない返答をすると、彼女はそっと顔を上げた。目は少し赤くなっていて、頬には涙の跡
がある。泣いていたことは一目瞭然だった。
泣いている、と知ってはいたものの、実際に見ると驚いてしまった。彼女は悲しくても、寂しくても泣い
たりすることは滅多に無い人なのだ。泣く代わりに、閉鎖空間を発生させ、無意識下でストレスを解消
しようとする。それほどまでに、自分の痛みと向き合おうとしない人なのだ。
そんな人が自分の痛みを認め、泣いていたのかと思うと、とても不思議な気分になった。
「じゃあ、キョンは」
何がこれほどまでに彼女を普通の人間に仕立て上げたのだろうか。
「キョンは、みくるちゃんのこと、どう思ってると思う?」
彼への、恋心か。
突っ伏している彼女の肩が、びくりと震える。
「あ……う、ううん、何もないの。ごめんね、変なこと聞いちゃって」
何もないわけがない。
「変なことだとは思いませんよ。ただ、どんなことを聞かれるのかと意気込ん
でいたものですから、少し拍子抜けしてしまっただけです」
「そ、そう……」
「それで、朝比奈さんがどうかしたのですか?」
「あ、いや、……やっぱり、男ってみくるちゃんみたいなのが好きなのかなって思って……」
意味が飲み込めない。そもそも、質問からして、わけがわからない。僕の理解力に問題がある
のだろうか、それとも、彼女の表現力に問題があるのだろうか。後者であってくれると、嬉しいのだが。
「人によって好みは違うと思いますが」
当たり障りのない返答をすると、彼女はそっと顔を上げた。目は少し赤くなっていて、頬には涙の跡
がある。泣いていたことは一目瞭然だった。
泣いている、と知ってはいたものの、実際に見ると驚いてしまった。彼女は悲しくても、寂しくても泣い
たりすることは滅多に無い人なのだ。泣く代わりに、閉鎖空間を発生させ、無意識下でストレスを解消
しようとする。それほどまでに、自分の痛みと向き合おうとしない人なのだ。
そんな人が自分の痛みを認め、泣いていたのかと思うと、とても不思議な気分になった。
「じゃあ、キョンは」
何がこれほどまでに彼女を普通の人間に仕立て上げたのだろうか。
「キョンは、みくるちゃんのこと、どう思ってると思う?」
彼への、恋心か。
10: 2009/01/23(金) 20:59:08.50
「優しい先輩として見ているのではないかと思いますが」
何故だろう。無性に苛々してきた。きちんと笑顔で喋れているだろうか。
「そうなのかな……」
なんでだ。
色々な感情が渦巻いて爆発しそうだった。
どうして、そんな人間みたいな顔をするのだろうか。まるで人間のように傷付いている顔を
しているのだろうか。苛々する。神だ、神だ、と崇められているのに。それなのに、そんな人
間みたいな顔付きをするのは非情に卑怯だと思うのだ。違うだろうか。いや、僕は間違った
ことを思っていない筈だ。あんな化け物を生み出してきたくせに、そんなにいけしゃあしゃあ
と人間になろうとするなんて、あっていいのだろうか。いや、言い筈がない。彼を愛し、そして
普通の女子高生としてこれからを過ごすつもりでいるのだろうが、そんなことはさせない、さ
せてなるものか。
認めない。
「古泉くん?」
名前を呼ぶ声で、ふ、と我に返った。
「ああ、いえ、すみません」
「ううん、いいんだけど……ごめんね、変なこと言っちゃって」
「何があったんですか?」
何故だろう。無性に苛々してきた。きちんと笑顔で喋れているだろうか。
「そうなのかな……」
なんでだ。
色々な感情が渦巻いて爆発しそうだった。
どうして、そんな人間みたいな顔をするのだろうか。まるで人間のように傷付いている顔を
しているのだろうか。苛々する。神だ、神だ、と崇められているのに。それなのに、そんな人
間みたいな顔付きをするのは非情に卑怯だと思うのだ。違うだろうか。いや、僕は間違った
ことを思っていない筈だ。あんな化け物を生み出してきたくせに、そんなにいけしゃあしゃあ
と人間になろうとするなんて、あっていいのだろうか。いや、言い筈がない。彼を愛し、そして
普通の女子高生としてこれからを過ごすつもりでいるのだろうが、そんなことはさせない、さ
せてなるものか。
認めない。
「古泉くん?」
名前を呼ぶ声で、ふ、と我に返った。
「ああ、いえ、すみません」
「ううん、いいんだけど……ごめんね、変なこと言っちゃって」
「何があったんですか?」
11: 2009/01/23(金) 21:04:41.26
そんなに人間みたいになっちゃうなんて、一体何があったんですか?
本当に聞きたかったことはそれだが、彼女はそれを違う意味で捉えた。
「うん……さっきのことなんだけどね……」
それから、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
なんでも、彼がずっと朝比奈みくるのことばかり見ているので、怒鳴った
ところ、彼は無言で部室を出て行ったのだと言う。そして、朝比奈みくるもそ
れに続くように……。
「付き合ってるのかな、あの二人」
そういう彼女の眼には、涙が溜まっている。今にもこぼれそうだ。
「付き合ってるわよね……みくるちゃん可愛いし」
あ、と、思いつく。
そうだ。
「涼宮さん」
あなたに教えてあげたい。
「朝比奈さんを消しましょうか」
あなたが人間として存在することは罪なのだ、と。
本当に聞きたかったことはそれだが、彼女はそれを違う意味で捉えた。
「うん……さっきのことなんだけどね……」
それから、彼女はぽつりぽつりと話し始めた。
なんでも、彼がずっと朝比奈みくるのことばかり見ているので、怒鳴った
ところ、彼は無言で部室を出て行ったのだと言う。そして、朝比奈みくるもそ
れに続くように……。
「付き合ってるのかな、あの二人」
そういう彼女の眼には、涙が溜まっている。今にもこぼれそうだ。
「付き合ってるわよね……みくるちゃん可愛いし」
あ、と、思いつく。
そうだ。
「涼宮さん」
あなたに教えてあげたい。
「朝比奈さんを消しましょうか」
あなたが人間として存在することは罪なのだ、と。
13: 2009/01/23(金) 21:09:54.26
「え……みくるちゃんを消すって……」
驚いた表情を浮かべながらも、その眼には期待の色が浮かんでいる。
僕は笑いたくなるのを必氏で堪えた。そうだ、涼宮さん。それが、あなた
の本性だ。
「頃すんですよ」
彼女の眼が見開かれる。
「え……何、言ってるの……」
「とぼけなくてもいいですよ。頃すんです。子供じゃあるまいし、分かるでしょう」
沈黙が走る。
けれど、もうその沈黙は僕の敵ではなかった。
寧ろ、僕にまとわりついてくる。沈黙が逆に語りかけてくるのだ。
できればそうしてくれ。ころしてくれ。でも、わたしが加害者になるのはいやだ。
ころしてくれ。わたしの許可など取らずにころしてくれ。はやくはやく。
「なんてね、嘘ですよ、冗談です。本気にしてしまいましたか?」
驚いた表情を浮かべながらも、その眼には期待の色が浮かんでいる。
僕は笑いたくなるのを必氏で堪えた。そうだ、涼宮さん。それが、あなた
の本性だ。
「頃すんですよ」
彼女の眼が見開かれる。
「え……何、言ってるの……」
「とぼけなくてもいいですよ。頃すんです。子供じゃあるまいし、分かるでしょう」
沈黙が走る。
けれど、もうその沈黙は僕の敵ではなかった。
寧ろ、僕にまとわりついてくる。沈黙が逆に語りかけてくるのだ。
できればそうしてくれ。ころしてくれ。でも、わたしが加害者になるのはいやだ。
ころしてくれ。わたしの許可など取らずにころしてくれ。はやくはやく。
「なんてね、嘘ですよ、冗談です。本気にしてしまいましたか?」
17: 2009/01/23(金) 21:19:46.79
「え……」
落胆の表情を浮かべる彼女。
喋ってしまえばいいのに、言ってしまえば良いのに、望みを全て、汚らしい望みを全て
僕に投げつけてしまえばいい、僕はあなたが良心的な人間ではないことくらい、よく知っ
ている、常識や理性に囚われずに本能のまま、偉そうに振舞ってみせればいい。常識
なんて、あなたの一番嫌いな言葉だったのに、それなのに、いつの間に、そんなものに
囚われるようになってしまったのだろうか、ああ、彼に惹かれてからか。
「涼宮さん」
三年間、ずっと振り回されてきた。
それなのに、あっさりと棄てるなんて許さない。認めない。
「本当に欲しいものは口に出さないと」
もう僕は戻れないのだ、三年前に。
よくは思い出せないけれど、僕の幸せは三年前に詰まっていたような気がする。きっと
あんな幸せに包まれることはもうないだろう。僕は余計な感情を覚えてしまった。猜疑心。
絶望。殺意。……三年前までは知らなかった感情を、知ってしまった。
誰の所為だ。彼女の所為だ。
「大丈夫です。あなたは、自分が思ってるほど綺麗な人間ではありませんよ。
僕はそれをよく分かっています。素直に、言ってみてください」
一度道から踏み外れたくせに、しかも一人でだけならまだしも、たくさんの犠牲者をつれて
踏み外れたくせに……。
「……みくるちゃんを……頃して……」
一人だけまともな道を歩こうなんて、絶対に認めない。
落胆の表情を浮かべる彼女。
喋ってしまえばいいのに、言ってしまえば良いのに、望みを全て、汚らしい望みを全て
僕に投げつけてしまえばいい、僕はあなたが良心的な人間ではないことくらい、よく知っ
ている、常識や理性に囚われずに本能のまま、偉そうに振舞ってみせればいい。常識
なんて、あなたの一番嫌いな言葉だったのに、それなのに、いつの間に、そんなものに
囚われるようになってしまったのだろうか、ああ、彼に惹かれてからか。
「涼宮さん」
三年間、ずっと振り回されてきた。
それなのに、あっさりと棄てるなんて許さない。認めない。
「本当に欲しいものは口に出さないと」
もう僕は戻れないのだ、三年前に。
よくは思い出せないけれど、僕の幸せは三年前に詰まっていたような気がする。きっと
あんな幸せに包まれることはもうないだろう。僕は余計な感情を覚えてしまった。猜疑心。
絶望。殺意。……三年前までは知らなかった感情を、知ってしまった。
誰の所為だ。彼女の所為だ。
「大丈夫です。あなたは、自分が思ってるほど綺麗な人間ではありませんよ。
僕はそれをよく分かっています。素直に、言ってみてください」
一度道から踏み外れたくせに、しかも一人でだけならまだしも、たくさんの犠牲者をつれて
踏み外れたくせに……。
「……みくるちゃんを……頃して……」
一人だけまともな道を歩こうなんて、絶対に認めない。
20: 2009/01/23(金) 21:28:15.57
朝比奈みくるは簡単に氏んだ。
僕が頃したのではない。彼女が消したのだ。
「人を頃すのは初めてです。上手くいかないかもしれません。
……応援していて下さいませんか? 殺人がうまくいくように」
「応援って……」
「ああ、いえ、涼宮さんにも殺人をさせるわけではありません。
ただ、心の中で『朝比奈みくる、氏ね。朝比奈みくる、氏ね』と
願ってくだされば……」
「それだけで、いいの?」
「ええ、それだけでいいんです」
一体、どれほど強く朝比奈みくるの消失を願ったのだろうか。
「ふふふ、はは、あはははははははははは」
心の中でずっと、朝比奈みくる氏ね、と繰り返している彼女を想像すると、
滑稽で堪らなかった。笑い転げた。どんなバラエティ番組よりも、それは面
白いことのように思えた。
23: 2009/01/23(金) 21:37:42.76
「朝比奈さん、どうしたんだろうな」
彼がぼそっと呟く。誰も返事はしない。
朝比奈みくるは行方不明扱いになった。
まあ、それで大体当たっているのだが。
涼宮ハルヒは、僕が朝比奈みくるを頃して、そして適当な場所に氏体
を隠したのだと思い込んでいる。以前よりも、閉鎖空間の発生数が少し
増加した。もしかすると、氏体が見つかったらどうしようと冷や冷やして
いるのかもしれない。いや、冷や冷やしているのだろう。
実際彼女は、朝比奈みくるが行方不明だと全校朝会で告げられた日
の昼休みに、僕を呼び出して興奮気味に問いかけてきた。
「氏体はどこに隠したの」
よくやった、とも、ごくろうさま、とも言わないで、第一声がそれか。さすが、
神は格が違う。
「大丈夫ですよ」
「そんなことを聞いてるんじゃない! どこに隠したのよ」
僕の冷静な態度が気に食わないのか、彼女は、きっ、と睨みつけてくる。
「絶対に見つかりませんから」
「古泉くんってさ、ちょっとおかしいわよね」
彼がぼそっと呟く。誰も返事はしない。
朝比奈みくるは行方不明扱いになった。
まあ、それで大体当たっているのだが。
涼宮ハルヒは、僕が朝比奈みくるを頃して、そして適当な場所に氏体
を隠したのだと思い込んでいる。以前よりも、閉鎖空間の発生数が少し
増加した。もしかすると、氏体が見つかったらどうしようと冷や冷やして
いるのかもしれない。いや、冷や冷やしているのだろう。
実際彼女は、朝比奈みくるが行方不明だと全校朝会で告げられた日
の昼休みに、僕を呼び出して興奮気味に問いかけてきた。
「氏体はどこに隠したの」
よくやった、とも、ごくろうさま、とも言わないで、第一声がそれか。さすが、
神は格が違う。
「大丈夫ですよ」
「そんなことを聞いてるんじゃない! どこに隠したのよ」
僕の冷静な態度が気に食わないのか、彼女は、きっ、と睨みつけてくる。
「絶対に見つかりませんから」
「古泉くんってさ、ちょっとおかしいわよね」
24: 2009/01/23(金) 21:41:35.42
何を言いだしたのだろう。
「私は冗談のつもりだったのに本当に頃しちゃうし」
はあ。
「ありえないでしょ、普通。冗談でしょ、普通」
今更そんな。
「私は本当に頃してもらおうだなんて思ってなかった!」
まだ正常な道を歩こうとするのか。
「殺人者は古泉くんだけなんだから! 私は悪くない!」
僕だけを取り残して、幸福を飲み干そうとするのか。
「だから、氏体が見つかっても、私は何も関係ないんだからね」
往生際が悪いにも、程がある。
「私は冗談のつもりだったのに本当に頃しちゃうし」
はあ。
「ありえないでしょ、普通。冗談でしょ、普通」
今更そんな。
「私は本当に頃してもらおうだなんて思ってなかった!」
まだ正常な道を歩こうとするのか。
「殺人者は古泉くんだけなんだから! 私は悪くない!」
僕だけを取り残して、幸福を飲み干そうとするのか。
「だから、氏体が見つかっても、私は何も関係ないんだからね」
往生際が悪いにも、程がある。
26: 2009/01/23(金) 21:47:02.16
「でも、涼宮さんは頼みましたよね」
せいぜい悪あがきをするがいい。
「朝比奈みくるを頃して、と頼んできましたよね」
絶対に逃がさない。
「それは……」
「頼みましたよね」
「そんなの……」
「頼みましたよね」
もう、笑顔を浮かべることなど忘れていた。きっと、僕の顔は、
今まで彼女が見たことのない表情を浮かべていたに違いない。
その証拠に、いつもは人の眼を見て話をする彼女が、いまこの
時は、僕の眼をしようとしなかった。
「頼みましたよね」
心の中で何度も願ったんでしょう。朝比奈みくる氏ね、朝比奈
みくる氏ね、と。ああ、また笑えてきた。必氏で堪える。
「……頼んだわよ」
「それは冗談ではなかったですよね」
「……たしかに、冗談じゃなかったわよ」
「本当に頃して欲しかったんですよね」
「……」
「本当に頃して欲しかったんですよね」
「…………そうよ」
せいぜい悪あがきをするがいい。
「朝比奈みくるを頃して、と頼んできましたよね」
絶対に逃がさない。
「それは……」
「頼みましたよね」
「そんなの……」
「頼みましたよね」
もう、笑顔を浮かべることなど忘れていた。きっと、僕の顔は、
今まで彼女が見たことのない表情を浮かべていたに違いない。
その証拠に、いつもは人の眼を見て話をする彼女が、いまこの
時は、僕の眼をしようとしなかった。
「頼みましたよね」
心の中で何度も願ったんでしょう。朝比奈みくる氏ね、朝比奈
みくる氏ね、と。ああ、また笑えてきた。必氏で堪える。
「……頼んだわよ」
「それは冗談ではなかったですよね」
「……たしかに、冗談じゃなかったわよ」
「本当に頃して欲しかったんですよね」
「……」
「本当に頃して欲しかったんですよね」
「…………そうよ」
29: 2009/01/23(金) 21:57:08.57
「やけに、急に認めるようになりましたね。どういう心変わりですか」
「別に」
そういうと、彼女はにやりと笑った。その顔の醜さは、人間のものではなかった。
「ここで認めたからってどうもならないもの」
化け物が、自慢げな表情で喋りだす。
「だって、私は心の中で思っただけよ? みくるちゃんなんか氏ねばいい、って。
実際に手を加えたのは、古泉くんでしょ? 私には関係ないわ。
頃してって頼んだからって何? それを知ってるのは私と古泉くんだけ。
万が一氏体が見つかったとして、古泉くんが捕まって、『涼宮さんに殺せと
命令された』と供述したところで、証拠は何もないわ。そうでしょ?」
森さん。僕たちが崇めている神は、こんなに浅はかですよ。
ああ、あとであなたにも聞かせてあげたい。森さんだけでなく、皆に聞かせてあげたい。
全校放送で、いや、全国放送でこれを流したい。
「ええ、そうですね」
顔がニヤつくのを抑えきれない。
「……なに、ニヤニヤしてんのよ。古泉くん、やっぱりおかしいわよ。
おかしいから、人を頃しちゃったりするのよ。私は関係ないからね。
大体、氏体をどこに隠したか聞いたのだって、私は古泉くんの心配をしてたのよ?」
どうしてそんな嘘と分かる嘘を吐くのだろうか。
「もし見つかったら、古泉くん、きっと酷い一生を送ることになるわよ。
刑務所に入って、仮に出所できたとしても、世間からは偏見の眼で見られ……、
こわいわね。世間って酷いものよね。
古泉くんだって、そんなことで人生を棒に振りたくないでしょう?」
どの口がそんなことを言うのだろうか。もう既に僕の人生は、あなたの所為で滅茶苦茶だ。
「別に」
そういうと、彼女はにやりと笑った。その顔の醜さは、人間のものではなかった。
「ここで認めたからってどうもならないもの」
化け物が、自慢げな表情で喋りだす。
「だって、私は心の中で思っただけよ? みくるちゃんなんか氏ねばいい、って。
実際に手を加えたのは、古泉くんでしょ? 私には関係ないわ。
頃してって頼んだからって何? それを知ってるのは私と古泉くんだけ。
万が一氏体が見つかったとして、古泉くんが捕まって、『涼宮さんに殺せと
命令された』と供述したところで、証拠は何もないわ。そうでしょ?」
森さん。僕たちが崇めている神は、こんなに浅はかですよ。
ああ、あとであなたにも聞かせてあげたい。森さんだけでなく、皆に聞かせてあげたい。
全校放送で、いや、全国放送でこれを流したい。
「ええ、そうですね」
顔がニヤつくのを抑えきれない。
「……なに、ニヤニヤしてんのよ。古泉くん、やっぱりおかしいわよ。
おかしいから、人を頃しちゃったりするのよ。私は関係ないからね。
大体、氏体をどこに隠したか聞いたのだって、私は古泉くんの心配をしてたのよ?」
どうしてそんな嘘と分かる嘘を吐くのだろうか。
「もし見つかったら、古泉くん、きっと酷い一生を送ることになるわよ。
刑務所に入って、仮に出所できたとしても、世間からは偏見の眼で見られ……、
こわいわね。世間って酷いものよね。
古泉くんだって、そんなことで人生を棒に振りたくないでしょう?」
どの口がそんなことを言うのだろうか。もう既に僕の人生は、あなたの所為で滅茶苦茶だ。
34: 2009/01/23(金) 22:04:15.80
「僕は別に構いませんよ」
彼女の顔が引き攣る。
「ああ、そう。じゃあ、自首でもなんでもすれば?
古泉くんとも今日でお別れかしらね。
短い間だったけど、副団長ご苦労様」
話は終わったとでも言わんばかりに、スカートを翻し、僕に背を向ける彼女。
けれど、彼女はそのまま歩き出すことは出来ない筈だ。数分後、彼女はまた
僕と向かい合っている。そうせざるを得ないのだ。
彼女の顔が引き攣る。
「ああ、そう。じゃあ、自首でもなんでもすれば?
古泉くんとも今日でお別れかしらね。
短い間だったけど、副団長ご苦労様」
話は終わったとでも言わんばかりに、スカートを翻し、僕に背を向ける彼女。
けれど、彼女はそのまま歩き出すことは出来ない筈だ。数分後、彼女はまた
僕と向かい合っている。そうせざるを得ないのだ。
36: 2009/01/23(金) 22:10:29.57
『氏体はどこに隠したの』
彼女の歩みが、ぴくりと止まる。
『大丈夫ですよ』
『そういうことを聞いてるんじゃない! どこに隠したのよ』
震えながら振り向く彼女。
『絶対に見つかりませんから』
『古泉くんってさ、ちょっとおかしいわよね』
あなたは、異常なことがお好きじゃないですか。
だから、そんなあなたに異常をプレゼントして差し上げただけですよ、僕は。
「一部始終を、テープに取らせていただきました」
喜んで受け取ってくださいますよね。
「自首でもなんでもすれば? と仰いましたね。
自首しましょうかね。このカセットテープと共に」
「いや、いや、こ、古泉くん、だめ、違う、それは……」
慌てて駆け寄り、僕からテープレコーダーを奪いとろうとする。けれど、その手は
震えていて、全く力など入っておらず、振り払うことは容易だった。
「共犯者ですね、僕たち」
42: 2009/01/23(金) 22:17:52.64
「どうしたの、古泉。なんだか、最近御機嫌じゃない」
森さんは優しい人だ。
僕が喜んでいると、まるで自分のことのように喜び、僕が悲しんでいると、
まるで自分のことのように悲しみ、そして僕が疲れきっていると、僕のことを
必氏で休ませようとする。
もう思い出せないけれど、僕の母はこんな人だったような気がする。
「分かりますか?」
「分かるわよ。オーラが穏やかになったわ」
穏やか。今の僕の現状には似ても似つかない言葉だ。
「そうですか」
「どんないいことがあったの?」
慈愛を含む瞳で見つめてくる彼女に、あのカセットテープを聞かせてやりたい。
けれど、我慢だ。それは出来ない。
「内緒です」
もう少しだけ、楽しみたいんだ。
森さんは優しい人だ。
僕が喜んでいると、まるで自分のことのように喜び、僕が悲しんでいると、
まるで自分のことのように悲しみ、そして僕が疲れきっていると、僕のことを
必氏で休ませようとする。
もう思い出せないけれど、僕の母はこんな人だったような気がする。
「分かりますか?」
「分かるわよ。オーラが穏やかになったわ」
穏やか。今の僕の現状には似ても似つかない言葉だ。
「そうですか」
「どんないいことがあったの?」
慈愛を含む瞳で見つめてくる彼女に、あのカセットテープを聞かせてやりたい。
けれど、我慢だ。それは出来ない。
「内緒です」
もう少しだけ、楽しみたいんだ。
47: 2009/01/23(金) 22:30:49.18
朝比奈みくるが失踪したとされて、一ヶ月が経った。
もう彼も、朝比奈みくるの名前を出すことはなかった。まるで最初から居なかった
人物のようだ。彼女の淹れるお茶の味も、もう思い出せない。
涼宮さんとも、あまり喋らなくなった。喋る場が無くなったのだ。自然と、団活は無くな
っていった。長門さんは、毎日あの部屋で本を読んでいるようだが、もう、あまり集まら
なくなった。どうしてそうなったのだろうか。よく分からない。
無口な宇宙人しか居ないと分かっている部屋に、自ら好んで行くほど、イカれてはいない。
学校が終わると、家に帰り、閉鎖空間の発生を告げる電話が鳴れば、現場に行き、そして
それ以外の時間は、カセットテープを聴くようになった。
『私は本当に頃してもらおうだなんて思ってなかった!』
ふふ。
『殺人者は古泉くんだけなんだから! 私は悪くない!』
くくく。
『だから、氏体が見つかっても、私は何も関係ないんだからね』
ははははははは。
時折、僕の彼女に対するこの気持ちは何だろうかと考える。
こんなに一人の人間に執着するなんて異常かもしれない。
これが恋なのだろうか。いや、違う。僕は決して彼女のことが好きなわけではない。
強いて言うならば、復讐心。
もう彼も、朝比奈みくるの名前を出すことはなかった。まるで最初から居なかった
人物のようだ。彼女の淹れるお茶の味も、もう思い出せない。
涼宮さんとも、あまり喋らなくなった。喋る場が無くなったのだ。自然と、団活は無くな
っていった。長門さんは、毎日あの部屋で本を読んでいるようだが、もう、あまり集まら
なくなった。どうしてそうなったのだろうか。よく分からない。
無口な宇宙人しか居ないと分かっている部屋に、自ら好んで行くほど、イカれてはいない。
学校が終わると、家に帰り、閉鎖空間の発生を告げる電話が鳴れば、現場に行き、そして
それ以外の時間は、カセットテープを聴くようになった。
『私は本当に頃してもらおうだなんて思ってなかった!』
ふふ。
『殺人者は古泉くんだけなんだから! 私は悪くない!』
くくく。
『だから、氏体が見つかっても、私は何も関係ないんだからね』
ははははははは。
時折、僕の彼女に対するこの気持ちは何だろうかと考える。
こんなに一人の人間に執着するなんて異常かもしれない。
これが恋なのだろうか。いや、違う。僕は決して彼女のことが好きなわけではない。
強いて言うならば、復讐心。
51: 2009/01/23(金) 22:35:24.69
「古泉」
放課後、僕の教室の前に珍しい人物が立っていた。
「おや、どうしたんですか」
「いや、ちょっとな」
久しぶりに見る彼は、少しやつれているように思えた。
「大丈夫ですか、具合が悪いようですが……」
「いや、大丈夫だ。ちょっと、話せるか?」
「ええ、それは大丈夫ですが……」
よく見ると、目の下のクマも酷い。
「じゃあ、ちょっと、公園ででも話さないか」
放課後、僕の教室の前に珍しい人物が立っていた。
「おや、どうしたんですか」
「いや、ちょっとな」
久しぶりに見る彼は、少しやつれているように思えた。
「大丈夫ですか、具合が悪いようですが……」
「いや、大丈夫だ。ちょっと、話せるか?」
「ええ、それは大丈夫ですが……」
よく見ると、目の下のクマも酷い。
「じゃあ、ちょっと、公園ででも話さないか」
55: 2009/01/23(金) 22:44:20.94
「それで、どうしたんですか」
ベンチに座り、本題を問うと、彼は少し気まずそうにした。
「少し言いにくいことなんだが」
「ええ」
「ハルヒのやつが、おかしいんだ」
思わず噴出しそうになる。彼女なら随分前からおかしい。そう、三年程前から。
「具体的に、どういう風にですか?」
「……朝比奈さんが居なくなっただろう」
「ええ……」
どうしてその話が出てくるのだろうか。
「この間、ハルヒと電話をしていたんだ。……それで、俺が朝比奈さんの話を振ったんだよ」
「ええ」
「そしたら、ハルヒが急に喚きだしてだな……」
「喚く、とはどういう風なことを」
「耳元でガンガンガンガン煩かったから、逆に聞き取り辛かったんだが……、
みくるちゃんが居なくなったのに、まだみくるちゃんのこと気にかけてるの、だの、
私は頃してない知らない、だの、カセットテープさえ取り戻すことが出来れば、だの」
想像するだけで笑えてくる。実際に聞きたかった。彼は、その様子を録音したりはして
ないのだろうか。
「あとは、その……」
僕の顔をチラチラ見ながら、彼が発言すべきかどうか迷っている。なんだろう。そこまで
言っておいて、言いよどむのもおかしな話だ。
「あとは、なんですか」
「古泉くんが、みくるちゃんを頃したのよ、だの」
ベンチに座り、本題を問うと、彼は少し気まずそうにした。
「少し言いにくいことなんだが」
「ええ」
「ハルヒのやつが、おかしいんだ」
思わず噴出しそうになる。彼女なら随分前からおかしい。そう、三年程前から。
「具体的に、どういう風にですか?」
「……朝比奈さんが居なくなっただろう」
「ええ……」
どうしてその話が出てくるのだろうか。
「この間、ハルヒと電話をしていたんだ。……それで、俺が朝比奈さんの話を振ったんだよ」
「ええ」
「そしたら、ハルヒが急に喚きだしてだな……」
「喚く、とはどういう風なことを」
「耳元でガンガンガンガン煩かったから、逆に聞き取り辛かったんだが……、
みくるちゃんが居なくなったのに、まだみくるちゃんのこと気にかけてるの、だの、
私は頃してない知らない、だの、カセットテープさえ取り戻すことが出来れば、だの」
想像するだけで笑えてくる。実際に聞きたかった。彼は、その様子を録音したりはして
ないのだろうか。
「あとは、その……」
僕の顔をチラチラ見ながら、彼が発言すべきかどうか迷っている。なんだろう。そこまで
言っておいて、言いよどむのもおかしな話だ。
「あとは、なんですか」
「古泉くんが、みくるちゃんを頃したのよ、だの」
57: 2009/01/23(金) 22:50:58.91
「僕が、ですか?」
目を見開き、声も高めにそう言うと、彼は安心したような表情になった。
「ああ、いや、すまん。お前のことを疑ってたわけじゃないんだ。
寧ろ、俺が疑ってるのは……ハルヒなんだ」
「と、いいますと」
「その日から、おかしいんだよ。ほら、席が後ろのやつの独り言って、
結構よく聞こえるだろ? ハルヒって、別に前までは、独り言多い
やつじゃなかったんだよ。でも、その日を境に、ブツブツブツブツ
聞こえるんだ。教師の声に遮られて、全部が全部聞こえるわけではないんだが……」
「何を言ってるんですか、涼宮さんは」
「……お前を」
いつもは気だるそうな彼の眼が、今日は真剣に見開かれている。僕は、それを、
不思議な気持ちで見ていた。なんだろう、まるで第三者として、自分の視界を見て
いるかのような……。
「お前を頃す、と」
目を見開き、声も高めにそう言うと、彼は安心したような表情になった。
「ああ、いや、すまん。お前のことを疑ってたわけじゃないんだ。
寧ろ、俺が疑ってるのは……ハルヒなんだ」
「と、いいますと」
「その日から、おかしいんだよ。ほら、席が後ろのやつの独り言って、
結構よく聞こえるだろ? ハルヒって、別に前までは、独り言多い
やつじゃなかったんだよ。でも、その日を境に、ブツブツブツブツ
聞こえるんだ。教師の声に遮られて、全部が全部聞こえるわけではないんだが……」
「何を言ってるんですか、涼宮さんは」
「……お前を」
いつもは気だるそうな彼の眼が、今日は真剣に見開かれている。僕は、それを、
不思議な気持ちで見ていた。なんだろう、まるで第三者として、自分の視界を見て
いるかのような……。
「お前を頃す、と」
61: 2009/01/23(金) 22:58:16.85
家に帰り、ベッドになだれ込み、彼との会話を思い出す。
『お前の頃す、と』
はは。
乾いた笑いしか出なかった。
共犯者、なのに。
共犯者とはそういうものではない筈だ。もっと、支えあう存在じゃないか。いや、別に
僕は彼女と支えあいたいと思っているわけではない、けれど、彼女にはあまりにも共犯
者としての自覚が無さ過ぎる。
「身勝手な人だ」
声に出すつもりはなかった。けれど、気がついたら、言葉として口を出ていた。
『お前の頃す、と』
はは。
乾いた笑いしか出なかった。
共犯者、なのに。
共犯者とはそういうものではない筈だ。もっと、支えあう存在じゃないか。いや、別に
僕は彼女と支えあいたいと思っているわけではない、けれど、彼女にはあまりにも共犯
者としての自覚が無さ過ぎる。
「身勝手な人だ」
声に出すつもりはなかった。けれど、気がついたら、言葉として口を出ていた。
64: 2009/01/23(金) 23:06:14.51
それから、放課後、彼と落ち合うようになった。
「ハルヒと、今度の日曜日遊ぶ約束をしたんだが」
「楽しそうですね」
「そんなわけないだろ。あいつ、俺のこと財布だとしか思ってないからな」
「そうでしょうか」
「そうだろ。SOS団の、不思議探検のときの、俺の財布のこき使われ方を見れば分かるだろ」
「あれが彼女の愛なんですよ」
「そんな愛は要らんがな」
度々、彼は、彼女が邪魔だというような発言をした。
「俺、実は松延のことが気になってるんだ」
「松延さんですか」
「ああ、素直で小さくて可愛い子なんだ、これが」
「そうなんですか」
「でも、松延と喋ってると、決まってハルヒが邪魔してくるんだ」
「あなたのことが好きなんですよ」
「そんな好意は要らないんだがな」
彼の口から、彼女の悪口のような発言が出るたびに、僕は幸福を覚えた。
もっと言え、もっと言え、と思う。
機関全員から肯定されている彼女の存在を、もっと否定してくれ。
「古泉、お前は、ハルヒのこと好きか?」
「愛すべき方だとは思いますよ」
「愛すべき、なあ……。お前、個人としては、どうなんだ?」
「……僕、個人としてですか?」
「ああ」
「……そうですね……。内緒です」
「ハルヒと、今度の日曜日遊ぶ約束をしたんだが」
「楽しそうですね」
「そんなわけないだろ。あいつ、俺のこと財布だとしか思ってないからな」
「そうでしょうか」
「そうだろ。SOS団の、不思議探検のときの、俺の財布のこき使われ方を見れば分かるだろ」
「あれが彼女の愛なんですよ」
「そんな愛は要らんがな」
度々、彼は、彼女が邪魔だというような発言をした。
「俺、実は松延のことが気になってるんだ」
「松延さんですか」
「ああ、素直で小さくて可愛い子なんだ、これが」
「そうなんですか」
「でも、松延と喋ってると、決まってハルヒが邪魔してくるんだ」
「あなたのことが好きなんですよ」
「そんな好意は要らないんだがな」
彼の口から、彼女の悪口のような発言が出るたびに、僕は幸福を覚えた。
もっと言え、もっと言え、と思う。
機関全員から肯定されている彼女の存在を、もっと否定してくれ。
「古泉、お前は、ハルヒのこと好きか?」
「愛すべき方だとは思いますよ」
「愛すべき、なあ……。お前、個人としては、どうなんだ?」
「……僕、個人としてですか?」
「ああ」
「……そうですね……。内緒です」
71: 2009/01/23(金) 23:15:11.50
「なんだそりゃ」
不平の声を上げながらも、彼は笑っていた。僕の本心が分かったのだろう。
「なあ、お前も、ハルヒが邪魔だと思うことあるんだろ?」
「さあ、どうでしょうね」
「提案があるんだ」
ニヤニヤとしたその顔は、いつか見た涼宮さんの顔とよく似ていた。
化け物の顔だ。
「ハルヒを殺さないか」
デジャブ。なんだろうか、これは、どこで聞いたのだろう。
いや、聞いたのではない。僕は以前、これによく似た台詞を言ったのだ。
「はは、頃すだなんて物騒ですね」
「古泉。笑い話じゃない。えらくマジだ」
確かにその目は本気だった。本気で、そして狂っていた。
「あいつが居たら、俺は普通の青春を謳歌出来ないんだ。
お前だって、そうだろう。あいつの所為で、たくさんの普通を奪われただろう」
その言葉は、僕の言葉へ、ゆっくりとけれど確かに進入してきた。
「もう、いいんだよ。長門もそうじゃないか。あいつに振り回されて。
皆被害者だ。頃したっていいんだ。あんなの公害だ、公害」
心臓がどくどくと鳴っているのが分かる。
「あんなのにいつまでも囚われてる必要は無いんだ、そうだろ?」
僕は、何も答えられない。
「古泉。一週間、待っておいてやる。いい返事を期待してるからな」
不平の声を上げながらも、彼は笑っていた。僕の本心が分かったのだろう。
「なあ、お前も、ハルヒが邪魔だと思うことあるんだろ?」
「さあ、どうでしょうね」
「提案があるんだ」
ニヤニヤとしたその顔は、いつか見た涼宮さんの顔とよく似ていた。
化け物の顔だ。
「ハルヒを殺さないか」
デジャブ。なんだろうか、これは、どこで聞いたのだろう。
いや、聞いたのではない。僕は以前、これによく似た台詞を言ったのだ。
「はは、頃すだなんて物騒ですね」
「古泉。笑い話じゃない。えらくマジだ」
確かにその目は本気だった。本気で、そして狂っていた。
「あいつが居たら、俺は普通の青春を謳歌出来ないんだ。
お前だって、そうだろう。あいつの所為で、たくさんの普通を奪われただろう」
その言葉は、僕の言葉へ、ゆっくりとけれど確かに進入してきた。
「もう、いいんだよ。長門もそうじゃないか。あいつに振り回されて。
皆被害者だ。頃したっていいんだ。あんなの公害だ、公害」
心臓がどくどくと鳴っているのが分かる。
「あんなのにいつまでも囚われてる必要は無いんだ、そうだろ?」
僕は、何も答えられない。
「古泉。一週間、待っておいてやる。いい返事を期待してるからな」
77: 2009/01/23(金) 23:21:36.70
「じゃあ、俺は帰るから」
一人公園に取り残された僕は、彼の言葉を頭の中で繰り返していた。
『お前だって、そうだろう。あいつの所為で、たくさんの普通を奪われただろう』
確かにそうだ。彼女さえ居なければ、僕はいまごろ普通の男子高生で、家に帰れば、
おかえり、といってくれる人が居て、そして、あたたかいご飯を食べて、幸せな気持ちで
入浴をし、ほどよい疲労に包まれながら眠っていた筈だ。
それが、どうだろう。いまのこの生活は。
電気のついていない暗い部屋に帰り、コンビニ弁当を、もそもそと食し、薄暗い中入浴
をし、気持ちの悪い疲労に包まれながら、気味の悪い静寂の中を一人で眠る。
けれど、今更彼女をどうかしたからといって、普通が手に入るわけではない。
そう思い、朝比奈みくるを頃したのだ。
どうせなら、涼宮ハルヒを異常にしてやれ、と。
それが最高の復讐なのだ。
頃してしまっては、それではいけない。だめなのだ。
一人公園に取り残された僕は、彼の言葉を頭の中で繰り返していた。
『お前だって、そうだろう。あいつの所為で、たくさんの普通を奪われただろう』
確かにそうだ。彼女さえ居なければ、僕はいまごろ普通の男子高生で、家に帰れば、
おかえり、といってくれる人が居て、そして、あたたかいご飯を食べて、幸せな気持ちで
入浴をし、ほどよい疲労に包まれながら眠っていた筈だ。
それが、どうだろう。いまのこの生活は。
電気のついていない暗い部屋に帰り、コンビニ弁当を、もそもそと食し、薄暗い中入浴
をし、気持ちの悪い疲労に包まれながら、気味の悪い静寂の中を一人で眠る。
けれど、今更彼女をどうかしたからといって、普通が手に入るわけではない。
そう思い、朝比奈みくるを頃したのだ。
どうせなら、涼宮ハルヒを異常にしてやれ、と。
それが最高の復讐なのだ。
頃してしまっては、それではいけない。だめなのだ。
79: 2009/01/23(金) 23:26:24.40
一週間、という期限は、あまりにも短いように感じた。
あっという間に、日は過ぎていく。
「あと二日か……」
ぼそりと呟いた、そのときだった。
「古泉くん、なんか女の子が呼んでるよ」
隣の席の子が、トントンと肩を叩き、教えてくれた。誰だろうか。
のろのろと席から立ち上がり、声の主を見る。
「古泉くん、ちょっと来て」
随分と変わった、涼宮ハルヒがそこに居た。
あっという間に、日は過ぎていく。
「あと二日か……」
ぼそりと呟いた、そのときだった。
「古泉くん、なんか女の子が呼んでるよ」
隣の席の子が、トントンと肩を叩き、教えてくれた。誰だろうか。
のろのろと席から立ち上がり、声の主を見る。
「古泉くん、ちょっと来て」
随分と変わった、涼宮ハルヒがそこに居た。
83: 2009/01/23(金) 23:32:45.10
「屋上まで行きましょう」
「でも、あと三分ほどで次の授業が始まりますが……」
「サボればいいでしょ」
彼女の髪はボサボサだった。制服も薄汚れている。頬はこけ、目には力が無い。
声もしゃがれてしまっていて、以前のはきはきとしたものとは、全く異なっている。
「随分と、変わりましたね」
「ふふふ、分かる?」
「ええ、それは意図的にやってらっしゃるんですか?」
「ふふふふふふふふふふ」
不気味だった。
確かに、僕は彼女が異常になればいい、と願った。けれど、これは違う。なんだか違うのだ。
「涼宮さん、僕、教室に戻ります」
「嫌よ、古泉くん。屋上に行くの。ふふふふ」
「いえ、次、数学なんです。中野先生、凄い怖いじゃないですか」
「ふふふふふ、中野は今日、出張よ」
そのとき、チャイムが鳴った。彼女はニタリと笑う。
「一秒遅れるのも、一分遅れるのも、一時間出ないのも変わらないわよ。
私、古泉くんに話があるの。いいでしょ?」
冷や汗が背中を伝う。
「ね、いいわよね?」
何を怖がっているのだろうか、僕は。
「でも、あと三分ほどで次の授業が始まりますが……」
「サボればいいでしょ」
彼女の髪はボサボサだった。制服も薄汚れている。頬はこけ、目には力が無い。
声もしゃがれてしまっていて、以前のはきはきとしたものとは、全く異なっている。
「随分と、変わりましたね」
「ふふふ、分かる?」
「ええ、それは意図的にやってらっしゃるんですか?」
「ふふふふふふふふふふ」
不気味だった。
確かに、僕は彼女が異常になればいい、と願った。けれど、これは違う。なんだか違うのだ。
「涼宮さん、僕、教室に戻ります」
「嫌よ、古泉くん。屋上に行くの。ふふふふ」
「いえ、次、数学なんです。中野先生、凄い怖いじゃないですか」
「ふふふふふ、中野は今日、出張よ」
そのとき、チャイムが鳴った。彼女はニタリと笑う。
「一秒遅れるのも、一分遅れるのも、一時間出ないのも変わらないわよ。
私、古泉くんに話があるの。いいでしょ?」
冷や汗が背中を伝う。
「ね、いいわよね?」
何を怖がっているのだろうか、僕は。
92: 2009/01/23(金) 23:37:07.69
屋上へ出ると、心地よい風が吹いていた。少し、ほっとする。
「ねえ、古泉くんさあ」
僕の方は見ずに、空を見ながら、彼女は話し始める。
「みくるちゃん頃したのって、なんでか分かってる?」
「彼と、涼宮さんの邪魔をしたからです」
「そうそうそう。そうなのよね」
そう言いながらも、陽に照らされた彼女の顔は、氏人のようだった。
「でもさ、みくるちゃんが消えても、全然うまくいかないの」
「はあ」
「あのね、私のクラスに松延っていうのが居るのよ」
「……ええ」
「知らないだろうけど。すごい不細工なの。もう、人間とは思えないくらいのブサ」
「そうなんですか」
「そうなのよ。そいつが、邪魔してくるの」
「ねえ、古泉くんさあ」
僕の方は見ずに、空を見ながら、彼女は話し始める。
「みくるちゃん頃したのって、なんでか分かってる?」
「彼と、涼宮さんの邪魔をしたからです」
「そうそうそう。そうなのよね」
そう言いながらも、陽に照らされた彼女の顔は、氏人のようだった。
「でもさ、みくるちゃんが消えても、全然うまくいかないの」
「はあ」
「あのね、私のクラスに松延っていうのが居るのよ」
「……ええ」
「知らないだろうけど。すごい不細工なの。もう、人間とは思えないくらいのブサ」
「そうなんですか」
「そうなのよ。そいつが、邪魔してくるの」
99: 2009/01/23(金) 23:42:51.20
「私とキョンが喋っている間に、割って入ってくるのよ。
ねえ、どう思う? ありえないでしょ?
私とキョンってお似合いじゃない? 美男美女って感じで……。
でも、あいつは美女じゃないのよ。キョンとお似合いなわけないの!
ふふ、ふふふふふふふふふ、で、気づいたのよ。
キョンってB専だったのねぇ、ふふふふふ。私、美人過ぎたんだわ。
ねえ、見て? いまの私、凄い不細工でしょう? 髪の毛もボサボサだし、
目の下にクマも出来てる。制服だって、もう三日も洗ってないのよ?」
「……」
何もいえなかった。そもそも彼女の言っていることが理解出来なかった。
狂ってしまった。
彼女は本当に狂ってしまった。
「でも、不細工になったのに、キョンは松延とつるむのよ!
おかしいじゃない、そんなの! なんで、どうして、なんでよ!
私は、キョンのためにみくるちゃんまで頃したのに!
あ、ねえねえ、もういいわ。みくるちゃん頃したの私にしていいわよ。
古泉くんは何もしてないわ。私がキョンのために頃したの、ふふふ」
ねえ、どう思う? ありえないでしょ?
私とキョンってお似合いじゃない? 美男美女って感じで……。
でも、あいつは美女じゃないのよ。キョンとお似合いなわけないの!
ふふ、ふふふふふふふふふ、で、気づいたのよ。
キョンってB専だったのねぇ、ふふふふふ。私、美人過ぎたんだわ。
ねえ、見て? いまの私、凄い不細工でしょう? 髪の毛もボサボサだし、
目の下にクマも出来てる。制服だって、もう三日も洗ってないのよ?」
「……」
何もいえなかった。そもそも彼女の言っていることが理解出来なかった。
狂ってしまった。
彼女は本当に狂ってしまった。
「でも、不細工になったのに、キョンは松延とつるむのよ!
おかしいじゃない、そんなの! なんで、どうして、なんでよ!
私は、キョンのためにみくるちゃんまで頃したのに!
あ、ねえねえ、もういいわ。みくるちゃん頃したの私にしていいわよ。
古泉くんは何もしてないわ。私がキョンのために頃したの、ふふふ」
105: 2009/01/23(金) 23:47:44.66
「でね、松延を殺そうと思ったの。
みくるちゃんを私が頃したことにするっていっても、
実際みくるちゃんを頃したのは古泉くんなんだものね。
キョンは多分それが気に入らなかったのね。
だから、私に構ってくれなかったのよ。
お前の愛は、そんなものか、って絶望しちゃったのね、きっと。
だから、松延を頃して、私の愛情の深さを教えてあげようと思ったの、ふふふ」
無責任な程に青い空が、とても白々しく見えた。
僕が、彼女をこんな風にしてしまったのだろうか。
違う。こんな復讐がしたかったわけではない。
もっと、正常な状態の彼女を追い詰めたかったのだ。
「でもね、気付いたのよ。ねえ、古泉くん聞いてる?」
「ええ、聞いてますよ」
「そう? なんか、私の眼、見てない気がしたから。
……ああ、私、いま不細工なんだった。あんまり直視したくないわよね。
それでね、気付いたのよ。松延を頃しても、どうにもならないってことにね。
邪魔者なんて次から次へと沸いてくるの」
みくるちゃんを私が頃したことにするっていっても、
実際みくるちゃんを頃したのは古泉くんなんだものね。
キョンは多分それが気に入らなかったのね。
だから、私に構ってくれなかったのよ。
お前の愛は、そんなものか、って絶望しちゃったのね、きっと。
だから、松延を頃して、私の愛情の深さを教えてあげようと思ったの、ふふふ」
無責任な程に青い空が、とても白々しく見えた。
僕が、彼女をこんな風にしてしまったのだろうか。
違う。こんな復讐がしたかったわけではない。
もっと、正常な状態の彼女を追い詰めたかったのだ。
「でもね、気付いたのよ。ねえ、古泉くん聞いてる?」
「ええ、聞いてますよ」
「そう? なんか、私の眼、見てない気がしたから。
……ああ、私、いま不細工なんだった。あんまり直視したくないわよね。
それでね、気付いたのよ。松延を頃しても、どうにもならないってことにね。
邪魔者なんて次から次へと沸いてくるの」
116: 2009/01/23(金) 23:55:41.28
「だから、気付いたのよ」
「何に、ですか」
「ふふ、ふふふふふふふふ、ふふ。
キョンを監禁しちゃえばいいのよ。そうすればキョンは私のものなの。
それでね、キョンを遊びに誘ったりして、家に招こうと思ったんだけど、
中々来てくれないのよ……。
で、さ。古泉くん、最近、キョンと放課後遊んでるでしょ?」
ドキリとした。まさか、どこかから会話を聞いていたのではないだろうか。
「キョン、古泉くんのことなら信頼してるみたいだから、
……なんとかうまく古泉くんからキョンを誘い出してくれない?」
「……誘い出すとは?」
「そうね……三日後の土曜日くらいに、遊びに誘って、
そして、そこで飲み物を買ってあげて飲ませるでしょ?
その中に、睡眠薬を混ぜて、眠りについたキョンを私が受け取るわ」
「…………」
「すぐに答えが出せないのは分かるわ。
でも、あんまりもたもたされても困るのよ。
出来れば、明後日までには答えを出して欲しいんだけど……」
二日後。
偶然にも、彼が申し付けてきた期限と同じだ。
「何に、ですか」
「ふふ、ふふふふふふふふ、ふふ。
キョンを監禁しちゃえばいいのよ。そうすればキョンは私のものなの。
それでね、キョンを遊びに誘ったりして、家に招こうと思ったんだけど、
中々来てくれないのよ……。
で、さ。古泉くん、最近、キョンと放課後遊んでるでしょ?」
ドキリとした。まさか、どこかから会話を聞いていたのではないだろうか。
「キョン、古泉くんのことなら信頼してるみたいだから、
……なんとかうまく古泉くんからキョンを誘い出してくれない?」
「……誘い出すとは?」
「そうね……三日後の土曜日くらいに、遊びに誘って、
そして、そこで飲み物を買ってあげて飲ませるでしょ?
その中に、睡眠薬を混ぜて、眠りについたキョンを私が受け取るわ」
「…………」
「すぐに答えが出せないのは分かるわ。
でも、あんまりもたもたされても困るのよ。
出来れば、明後日までには答えを出して欲しいんだけど……」
二日後。
偶然にも、彼が申し付けてきた期限と同じだ。
127: 2009/01/24(土) 00:06:02.90
教室に戻り、席に座り、ひたすらに考える。
一体どうするべきなのだろうか。
彼は、ハルヒを一緒に殺さないか、と言い、彼女は、彼を監禁したいから
誘い出してくれと言う。
どちらの言うことを聞くべきなのだろうか。
もう正直、どちらにも関わりたくなかった。
もとはと言えば、自分の巻いた種だ。自業自得だ。
けれど、尻拭いをする気にはなれなかった。
いっそのこと自首をしてしまった方が楽かもしれない。
『ふふふふふ』
頭の中で彼女の笑い声が反響する。
彼の話によると、僕のことを殺そうともしていたらしい。
彼女は敵に回したくない。
けれど、だからといって、彼女に彼を明け渡すのも、後味が悪い。
『ふふふふふ』
一体どうするべきなのだろうか。
彼は、ハルヒを一緒に殺さないか、と言い、彼女は、彼を監禁したいから
誘い出してくれと言う。
どちらの言うことを聞くべきなのだろうか。
もう正直、どちらにも関わりたくなかった。
もとはと言えば、自分の巻いた種だ。自業自得だ。
けれど、尻拭いをする気にはなれなかった。
いっそのこと自首をしてしまった方が楽かもしれない。
『ふふふふふ』
頭の中で彼女の笑い声が反響する。
彼の話によると、僕のことを殺そうともしていたらしい。
彼女は敵に回したくない。
けれど、だからといって、彼女に彼を明け渡すのも、後味が悪い。
『ふふふふふ』
139: 2009/01/24(土) 00:15:59.75
放課後、僕は部室へと足を走らせた。
きっと彼女は居る筈だ。無表情で、読書をしながら、椅子に座っている筈だ。
「長門さん!」
扉を勢いよく開け、名前を呼ぶと、案の定、彼女――長門有希は居た。
彼女はそろりと本から顔を上げ、僕を見るなり言った。
「何」
その無機質な声に、まさか安心する日が来るとは思いもしなかった。
「いえ、その……」
ここまで来たのはいいものの、何を話せば良いのかが分からない。
いや、彼女のことだ。案外全てを見抜いているような気がする。
「変化無し」
発言内容を悩んでいると、ふいに彼女がそう呟いた。
変化無し……変化無しとは、何だ?
「すみません、あの……変化無し、とは……」
きっと彼女は居る筈だ。無表情で、読書をしながら、椅子に座っている筈だ。
「長門さん!」
扉を勢いよく開け、名前を呼ぶと、案の定、彼女――長門有希は居た。
彼女はそろりと本から顔を上げ、僕を見るなり言った。
「何」
その無機質な声に、まさか安心する日が来るとは思いもしなかった。
「いえ、その……」
ここまで来たのはいいものの、何を話せば良いのかが分からない。
いや、彼女のことだ。案外全てを見抜いているような気がする。
「変化無し」
発言内容を悩んでいると、ふいに彼女がそう呟いた。
変化無し……変化無しとは、何だ?
「すみません、あの……変化無し、とは……」
143: 2009/01/24(土) 00:22:09.65
「これで、1917回目」
全くわけが分からない。
「あの……説明を……」
「記憶が無いのは、これで1879回目」
「記憶が無い?」
「そう」
長門さんの無機質な目は、少し悲しそうに見えた。
「前回は、記憶があった」
「すみません……あの、記憶、とは……」
「前回の記憶」
「……前回とは」
長門さんは本を閉じ、僕と向き合い、話し始めた。
全くわけが分からない。
「あの……説明を……」
「記憶が無いのは、これで1879回目」
「記憶が無い?」
「そう」
長門さんの無機質な目は、少し悲しそうに見えた。
「前回は、記憶があった」
「すみません……あの、記憶、とは……」
「前回の記憶」
「……前回とは」
長門さんは本を閉じ、僕と向き合い、話し始めた。
150: 2009/01/24(土) 00:29:48.99
「最初にループが起こったのは、彼と朝比奈みくるが付き合ったため。
涼宮ハルヒが無意識的にループを起こした。
けれど、ループを起こしても変わらないものは変わらない。
彼と朝比奈みくるは毎回毎回付き合い、そしてその度にループは起こる」
「三十二回目のとき、あなたには記憶があった。
彼と朝比奈みくるを付き合わせないように、と最大の努力を払った。
けれど、無理だった。二人はまた付き合い、そしてまたループは起きた」
「二百五回目、また、あなたには記憶が蘇る。
あなたは今度、朝比奈みくるを頃す。
それは最初は、彼と朝比奈みくるが付き合うのを阻止するためだけだった。
けれど、その回を境に、あなたは段々とおかしくなる」
「それから、あなたは毎回、朝比奈みくるを頃した。
殺人理由は、段々と涼宮ハルヒへの復讐へと変わっていった。
ループの記憶が無くても、殺人の記憶だけは受け継がれているかのように、
あなたは毎回毎回朝比奈みくるを頃した。
今回のように、涼宮ハルヒの能力を利用したこともあれば、
あなたが自分の手で頃したこともあった」
涼宮ハルヒが無意識的にループを起こした。
けれど、ループを起こしても変わらないものは変わらない。
彼と朝比奈みくるは毎回毎回付き合い、そしてその度にループは起こる」
「三十二回目のとき、あなたには記憶があった。
彼と朝比奈みくるを付き合わせないように、と最大の努力を払った。
けれど、無理だった。二人はまた付き合い、そしてまたループは起きた」
「二百五回目、また、あなたには記憶が蘇る。
あなたは今度、朝比奈みくるを頃す。
それは最初は、彼と朝比奈みくるが付き合うのを阻止するためだけだった。
けれど、その回を境に、あなたは段々とおかしくなる」
「それから、あなたは毎回、朝比奈みくるを頃した。
殺人理由は、段々と涼宮ハルヒへの復讐へと変わっていった。
ループの記憶が無くても、殺人の記憶だけは受け継がれているかのように、
あなたは毎回毎回朝比奈みくるを頃した。
今回のように、涼宮ハルヒの能力を利用したこともあれば、
あなたが自分の手で頃したこともあった」
160: 2009/01/24(土) 00:37:39.88
信じられなかった。
僕はこんなことを何回も何回も繰り返していたのだろうか。
「朝比奈みくるを頃したあとで、彼と一緒に涼宮ハルヒを殺そうとしたこともある。
けれど、即氏させることは出来ないため、朦朧とした意識の中、涼宮ハルヒはまたループを起こす」
「彼を涼宮ハルヒに明け渡したこともあった。
けれど、彼は毎回すぐに氏んでしまう。
理由は不明。……彼が氏んだことを認めたくない涼宮ハルヒは、またループを起こす」
「私へと相談を持ちかけてくるのは、これで、1328回目。
けれど、当然私にも解決策が分からない。
もたもたしているうちに、松延と彼が付き合い、涼宮ハルヒはループを起こす」
頭痛がしてきた。これは本当の話なのだろうか。
「仮に、松延さんを頃したらどうなるのですか」
「彼も後追い自殺をする。涼宮ハルヒはループを起こす」
「そんな……。それじゃあ、このループからはどうやって抜け出せばいいのですか」
「不明」
僕はこんなことを何回も何回も繰り返していたのだろうか。
「朝比奈みくるを頃したあとで、彼と一緒に涼宮ハルヒを殺そうとしたこともある。
けれど、即氏させることは出来ないため、朦朧とした意識の中、涼宮ハルヒはまたループを起こす」
「彼を涼宮ハルヒに明け渡したこともあった。
けれど、彼は毎回すぐに氏んでしまう。
理由は不明。……彼が氏んだことを認めたくない涼宮ハルヒは、またループを起こす」
「私へと相談を持ちかけてくるのは、これで、1328回目。
けれど、当然私にも解決策が分からない。
もたもたしているうちに、松延と彼が付き合い、涼宮ハルヒはループを起こす」
頭痛がしてきた。これは本当の話なのだろうか。
「仮に、松延さんを頃したらどうなるのですか」
「彼も後追い自殺をする。涼宮ハルヒはループを起こす」
「そんな……。それじゃあ、このループからはどうやって抜け出せばいいのですか」
「不明」
167: 2009/01/24(土) 00:45:16.91
「不明って、じゃあ何回も何回もこんなことを繰り返すんですか!」
思わず怒鳴ってしまう。
けれど、彼女は動揺した様子もなく、僕の質問に、こくんと頷く。
その冷静さにも腹が立った。
彼女の胸倉を掴み、壁に叩き付けた。彼女は呻きもしない。
そのことにまた腹が立つ。
何度も何度も彼女を壁に叩きつけると、彼女の頭から血が出てきた。
「あなたが私を頃すのは、四十三回目」
長門さんは無機質な声でそれだけ言うと、そっと目を閉じた。
思わず怒鳴ってしまう。
けれど、彼女は動揺した様子もなく、僕の質問に、こくんと頷く。
その冷静さにも腹が立った。
彼女の胸倉を掴み、壁に叩き付けた。彼女は呻きもしない。
そのことにまた腹が立つ。
何度も何度も彼女を壁に叩きつけると、彼女の頭から血が出てきた。
「あなたが私を頃すのは、四十三回目」
長門さんは無機質な声でそれだけ言うと、そっと目を閉じた。
177: 2009/01/24(土) 00:53:31.70
目が覚めて、これが1918回目だと気付く。
またループからは抜け出すことが出来なかった。
いつも通りの日常。
放課後、部室に行くと、古泉一樹が先に来ていた。
「こんにちは」
彼の挨拶に、頷くと、ふ、と彼が笑った気配がした。
「1918回目ですね、長門さん」
今回は記憶がある。
「ふふ、前回は頃してしまってすみません。痛かったですか?」
「痛覚は無い」
「そうですか。長門さん。今度こそ、ループを抜け出しますよ」
「どうやって」
「ふふ、焦らないで下さい。これはいい考えです」
笑みを浮かべながら、そう言う古泉一樹。
彼がとてつもなく不思議な生き物に見え、じっと眺めていると、彼は私の眼を見て、
嬉しそうに呟いた。
「共犯者ですね、僕たち」
(完)
183: 2009/01/24(土) 00:55:15.51
乙
187: 2009/01/24(土) 00:55:41.10
見切り発車で、ところどころ矛盾があり、
そして腑に落ちない終わりだったと思います。すみません。
保守をしてくれた数多くの方に感謝します。ありがとうございました。
今度投稿する際は、きちんと一度書きおこしてからにします。
本当に、駄文につき合わせてしまいすみませんでした。
それでは、おやすみなさい。よい休日を。
そして腑に落ちない終わりだったと思います。すみません。
保守をしてくれた数多くの方に感謝します。ありがとうございました。
今度投稿する際は、きちんと一度書きおこしてからにします。
本当に、駄文につき合わせてしまいすみませんでした。
それでは、おやすみなさい。よい休日を。
引用元: 古泉「共犯者ですね、僕たち」
コメントは節度を持った内容でお願いします、 荒らし行為や過度な暴言、NG避けを行った場合はBAN 悪質な場合はIPホストの開示、さらにプロバイダに通報する事もあります