1: 2011/05/25(水) 19:35:15.24
―――軽音楽(けいおんがく)。

 『軽い音楽』と書き、その内容は主にジャズやダンス音楽など、気軽に楽しめる音楽の事を指す。

 近年様々な高校では「バンド部」と称されることもあり
 メンバーはギター、ベース、カスタネット、トライアングル等多種に渡り
 各々が好きな楽器を好きに奏でる事で、今時の若者に比較的人気の音楽のジャンルとして幅広く慕われている。

 そして、音楽には人の様々な思いが込められる。
 友情、夢、努力、達成、絶望、後悔…様々な思いを、人は音楽に込めては歌い、音楽を通じて、人は様々な思いを抱く。

 それはここ、私立桜が丘女子高等学校、その学校にある軽音部も変わらない。

 これはその軽音楽、軽い音楽の中に込められた…3組の少女達の青春の物語である。

2: 2011/05/25(水) 19:35:58.70
 さわ子の部屋

さわ子「部屋の掃除も楽じゃないわ…っと…わっ!」

バササッ!

さわ子「あ~~…やっちゃった…えっと、このダンボールは……」

さわ子「ん…………アルバム…か。」

さわ子「これ、私がヘビメタをやる前の………」

 ぱらりとアルバムをめくり、昔を思い返す。

 
さわ子「………懐かしいなぁ…」

さわ子(勝手やってヘビメタに走っちゃったけど、あの頃も楽しかったわよねぇ…)

さわ子「っと、だめだめ、今は片付けが先っと」

さわ子(でも………もしも、あの頃に戻れるんだとしたら…私は……)

3: 2011/05/25(水) 19:36:50.24
 受験も大詰めを迎えた高3の秋、文化祭を大成功に納めた私達は受験勉強に追われていました。
 大学の事で調べ事があった私は、職員室にいる担当の先生に話を聞こうとしたんだけど、まさかそこで、あんな話を聞くことになるなんて思いもしなかった…。


 職員室

唯「失礼しまーす。先生あの~…」

さわ子「…はい、ええ……分かりました」

教頭「それではよろしくお願いしますよ、山中先生」

唯(さわちゃん…?)

さわ子「はい…」

教頭「……正直急な話で戸惑うかと思いますが、どうかよろしくお願いします…」

さわ子「いずれこうなる事は覚悟はしてましたし、私でしたら大丈夫です…」

教頭「ええ、無論心配なさらなくとも大丈夫ですよ、山中先生の実績があれば他校でもやっていけます。どうか自信を持って下さい。」

さわ子「はい……」

教頭「転勤先の教頭先生は私の恩師でしてね、これがまた良い方なんですよ…。」

さわ子「…………」


唯(他校って…転勤って……一体何の話?)

4: 2011/05/25(水) 19:37:27.07
教師「あら平沢さん、どうかしたの?」
唯「あっ…えっと、大学の事なんですけど…」
教師「そっか、それじゃあ場所を移しましょうか」

唯「はい…」

唯(まさか…さわちゃん……)

―――
――


図書室

律「X=…ううう……」
澪「ほら律、またここの方程式飛ばしてる…」
律「うがーーー!! わかるかこんな計算!」

澪「あのなぁ…この計算式、1年生の頃習っただろ?」
律「私、過去は振り返らない主義だからっ!」

澪「あっそ…じゃあ律だけ浪人で私達は3人で楽しいキャンパスライフを…」
律「そ…それだけは嫌ぁぁ~」

澪「はい、じゃあしっかり計算しような?」
律「うううううう………」

5: 2011/05/25(水) 19:38:10.45
紬「りっちゃんも大変そうねぇ…」
唯「ん~~…」

紬「唯ちゃん?」
唯「ん~~……」

紬「唯ちゃん、ゆいちゃーん?」

唯「んえ…? あっ…ごめんムギちゃん、どうかした?」
紬「どうかしたは唯ちゃんよ、さっきから唸ってばっかで…どうしたの?」

澪「ペンも進んでないな…唯、何かあったのか?」
律「お腹でも痛いの? あ、良かったら私の薬貸そっか?」

唯「ううん、そういうんじゃないから……」

 ここで私一人だけ考え込んでても仕方ないか…。

 一人でモヤモヤしてるのも嫌だったから、私はみんなに職員室で聞いた事を話してみました。


唯「実は、さっき職員室で…」

6: 2011/05/25(水) 19:39:42.74
―――
――


律「そっか……さわちゃん、いなくなっちゃうのか…」
澪「でも、まだ確定じゃないんだろ?」

唯「でも、あの話の感じ、ほとんど決まってたみたいだよ…来年の春にはもう、別の学校に行っちゃうんだって…」
紬「先生も、『卒業』しちゃうのね…」

………………

唯「あのさ、みんな…」
澪「唯が何を言いたいのかは分かるよ」

唯「ん…私、まだ何も…」
律「分かるよ、梓と同じで、歌を届けたいって言うんだろ?」

唯「………うん。」

 りっちゃんと澪ちゃんの言葉に、私は無言で頷きます。

紬「……唯ちゃんらしいわ、優しいのね」

7: 2011/05/25(水) 19:40:22.96
 私が考えていることは、みんなにはお見通しだったようです。

 そう。 夏のある日、私は、卒業の日にあずにゃんに歌を届けようとみんなに提案しました。

 そして、私のその気持ちを酌んでくれたように、澪ちゃんは歌詞を、ムギちゃんは作曲を快く引き受けてくれた。

 澪ちゃんもムギちゃんも受験勉強で大忙しなのに、引き受けてくれた…。


澪『曲作りは私とムギでなんとかするから唯と律はとにかく勉強しろ、他に時間を食って受験に失敗したら元も子もないからな』

紬『そうね、私もあまりこんな事言いたくはないけど…成績も判定も、私と澪ちゃんなら多少勉強が遅れても取り戻せる余裕はまだあるからね…』


 そうして、2人は私のわがままに付き合ってくれた…。
 それどころか、私の提案を全部引き受けてくれて…私とりっちゃんは勉強に打ち込むことができた…。

 その甲斐もあって、私とりっちゃんは志望校への合格率を大きく引き上げる事が出来たんだ。
 そうやって、夏休みに4人で集まって決めた曲名が『天使にふれたよ!』。

 この学校で出会えた掛け替えの無い一人の天使、私の…ううん、私達のとっても大切な後輩に捧げる歌が、生まれたんだ。

8: 2011/05/25(水) 19:41:47.41
紬「『天使にふれたよ!』は、なんとかパートの振り分けまでは出来上がっているわ、でも他に作るとなると…時間が上手く取れるかどうか…」
澪「私も、3/4ぐらいまでなら歌詞もできているけど…これ以上の作詞はちょっとな…」

律「だろうなぁ…まぁ、唯の気持ちもわかるけどさ…さすがに、これ以上曲作りを2人に課すのはヤバイって…」

 りっちゃんの言うことはもっともでした。

澪「音合わせをしたりする事も考えると…どこまでやれるか分からないからな…」

紬「悔しいけど…さすがに………さわ子先生の分までは……」

 それは私自身も分かっていました。
 文化祭も終わって本格的に受験モードに入った今、これ以上勉強以外の事でみんなの時間を割くわけには行かない…。

 でも…それでも……私は悔しかった…。

 …一人じゃ満足に作詞も作曲も出来ない、ギターを弾いて歌うだけしかできない自分が、すごく悔しかった…。
 3年間、この学校で一番お世話になった先生に…軽音部らしいこと、何もしてあげられないなんて……。


 ―――ただ、それだけが…すごく悔しかった……。

9: 2011/05/25(水) 19:42:19.46
―――
――


 さわ子の部屋

さわ子「…ん~~……さすがに、多いなぁ…」

さわ子「一人暮らししてから色々と買い込んではみたけど、よくもまぁこんなに荷物があるもんだわ…」


 ―――引っ越し準備。
 転勤が決まってからゆっくりやろうと決めたので、今はとりあえず荷物の整理から。
 
 しかし…多いなぁ……。

 フラれた腹いせに衝動買いしたバッグや洋服、どっぷりハマってグッズを買い漁った洋楽バンドのCD、教師を志した時に買った参考書やら哲学書……数えたらキリが無い…。

 …いっそのこと、質屋にでも売ってしまおうかな?

10: 2011/05/25(水) 19:42:55.53
さわ子「これはゴミっ…これは…んん~~……悩むなぁ…」

さわ子「…………」

 転勤は、来年の春に決まった。 新学期と同時に、私の新たな教師生活もスタートを切ることになる。

 転勤先は遠くの女子高で、桜が丘(ここ)よりも偏差値はやや高め。

 …まだ見て来たわけではないのだが、手のかかる子はいないと評判らしい。


……………


さわ子「ふぅ……」

 一段落着き、軽く食事を済ませる。

 そして、ふと目についたものをぱらぱらとめくる…。

11: 2011/05/25(水) 19:43:38.05
さわ子「………ぷっ…」

さわ子「……あははっ…懐かしいー」
さわ子「あーー、クリスティーナ若い…うふふっ…」

 高校時代のアルバムをめくり、思い出にふける。

 そして、とあるページを前に指を止める。

 私がヘビメタをやる前にやっていたグループ、その頃のメンバーの2人の写真が目に止まる。

さわ子「…………懐かしいな…」

さわ子「まだ…あったかな……あの衣装…」

14: 2011/05/25(水) 19:44:42.81
 私は押入れの奥を漁る。

 あの人に恋をしてから一心不乱に走り続けた過去を、そして決してあの子達には見せられない過去を、私は探す…。

 …どうしてだろうか。

―――何故、今更になって…私は…あんな物を探しているのか。

 過去を忘れたい気持ち。
 でも、それを大事に残しておきたいと言う思い。

 矛盾した気持ちがグルグルと頭の中を回り……。

さわ子「……やっぱり、やめよう…」


 心が重くなり、私は探すのを中断する。

さわ子「今更あんなもの探して、何をやってるんだ私は……」


 今更あんなもの見つけても、何かが変わるハズ無いのに…。

 だって……私は…私は、あの2人を…裏切ったのだから……。

 2人を裏切って…ヘビメタの世界に進んだのだから……。

15: 2011/05/25(水) 19:45:14.41
―――
――


 桜が丘図書館

唯「う~ん…」
澪「…まだ悩んでるのか?」

唯「うん…ちょっと…ね」
律「諦めろって…1曲作るだけでいっぱいいっぱいなんだからさ…」

紬「唯ちゃん、今は勉強頑張ろっ、これが終わったら久々に演奏よ♪」
律「そうそう、やっと澪とムギの歌が完成したって話だから、早いところ音合わせやっておかないとな」
唯「…うん、そう……だね」


和「あら、みんなお揃いね?」

 さわちゃんの事で勉強も手つかずだった時、和ちゃんが声をかけてくれました。

16: 2011/05/25(水) 19:45:49.50
唯「和ちゃんっ」
澪「和、図書館に来るなんて珍しいな」

和「ちょっと志望校の過去問をね…あら? 唯何か考え事?」

律「うわ、顔見ただけで当てたよ」
和「だって、いかにも悩んでますって顔してるじゃない?」

澪「さすが、幼馴染…」
律「私と澪も大概知ってるけど、こいつらの仲は私ら以上だねぇ…」
紬(目と目で通じ合う関係…素敵ねぇ)

 和ちゃんには一発で見抜かれた、さすがは和ちゃんと言うか…私の事よく知ってると言うか…。

和「話してごらんなさい、私でよければ力になるわよ?」

唯「うん、実は……」

 私は事の始まりを和ちゃんに話してみた。
 和ちゃんなら、もしかしたらすんなり答えを出してくれるかも知れない…そんな期待を込めながら…。

17: 2011/05/25(水) 19:46:34.17
―――
――


和「そっか…そんな事が…」
唯「うん……だから私さ…」

澪「でも、さすがにこれ以上の時間は…」

和「澪や律の言う事はもっともね、でも、唯の気持ちも分からなくはないわね…」
唯「うん……」


和「だったらその、先生の昔いたバンドの音楽を、みんなで演奏して聴かせてあげるってのはどうかしら?」

紬「先生の…昔のバンド…」

和「そうよ、梓ちゃんの為に歌う歌と違って、無理に新曲にする必要はないんじゃないかしら?」
和「それに、先生の思い出にある音楽なら、送別の歌にはもってこいだと思うけど」

律「…そ、そうか…!」
唯「和ちゃんすごい! こんなに簡単に答えを出してくれた!」

 みんなが『その手があったか』って顔で和ちゃんを見ています。

 前から思っていたけど和ちゃんの提案にはいつも驚かされる…。
 やっぱり、和ちゃんはすごい…!

18: 2011/05/25(水) 19:47:24.00
紬「確かに、それなら音源はもうあるから作詞も作曲も必要はないわね…」

律「って事は、私達にヘビメタをやれと…」
澪「……私…無理かも……」

唯「いつかの結婚式のとき、私先生にダメ出しされちゃったからなぁ…」

和「そこは…みんなの頑張り次第だと思うけど…」
和「でも、現状で上手く時間を使うのなら、これが一番ベストな方法だと思うけどね」

律「私、和の意見に賛成」
紬「私も、それならさわ子先生喜んでくれると思うわ」
澪「怖いのは苦手だけど…先生の為だし、頑張ってみるよ」

唯「わたしも……頑張ってみる!」


和「うん、みんな頑張ってね」

 そして、和ちゃんはまるでお姉さんの様に優しく微笑んで…エールを送ってくれました。

19: 2011/05/25(水) 19:47:47.09
和「それじゃあ私、家に戻るね」

律「っと…和!」

和「…?」

律「これからライブハウスで音合わせするんだ、良かったら私達の歌、聴いてってよ」

和「そうねぇ…ありがと、せっかくだし、聴かせてもらおうかしら?」

唯「じゃあ私…憂も誘ってみるねっ」

和「それじゃあ、私は憂と一緒に向かうから、先行っててくれる?」

唯「うん! 和ちゃんありがと!」


 そして、一足先にライブハウスに向かった私達は、お茶を飲みながら憂と和ちゃんが来るのを待ちました…。

 それから…

20: 2011/05/25(水) 19:48:19.02
―――
――


 ライブハウス

―――♪ ~~♪

唯「ずっと、永遠に一緒だーよ…♪」

~~~♪ …♪


唯「…ど、どうかな?」

憂「良い歌…梓ちゃん、きっと喜んでくれるよ…」
和「ええ…卒業にぴったりね…」

律「さすが私達、息ぴったりだな」
澪「これなら各々練習すれば何とかなりそう、卒業までには完璧に仕上がりそうだな」
紬「3年間、頑張った甲斐があったわねぇ」

唯「じゃ…じゃあ! この調子でさわちゃんの歌もやってみようよ!」
憂「先生の歌?」

唯「うん…見てて!私、先生っぽく歌ってみるから!」

21: 2011/05/25(水) 19:48:55.19
 そして、私は咳払いを一つして…

唯「スゥゥ……お…お前らが来るのを…待っていたあああ!!!」

――――シーン……………。


律「わ…ワンツースリーフォー!!」

ジャカジャカジャカジャカ………ジャラララン!!!

―――――!!! ~~~~!!!


 半ば強引に始まったりっちゃんのドラムに合わせて、私達は先生のバンドの音を…デスデビルの音を再現してみる。

~~~!!! ―――!!!

―――! ―――!!!

唯「ヘゥザワールド、ヘゥザワ~~! あ~~~!!!」

 ……………………

 な…なんとか歌えた……。
 …でも、やっぱり…何かが違う…。

 と、とりあえず、憂と和ちゃんに感想を聞いてみようかな…

22: 2011/05/25(水) 19:51:28.35
唯「ね、ねえ…。 ど…どうだったかな……?」 

和「んんん……私は良かったと思うけど……ねぇ憂?」
憂「…う、うん!! お姉ちゃんなら大丈夫だよ!!」

唯「みんなぁ…優しい言葉ありがとうねぇ……」

 憂と和ちゃんのフォローが胸に刺さる…やっぱり、私には難しいのかな…

律「前途多難だな…あはは……」
澪「でも、演奏自体に問題なかったな」
紬「先生の演奏、テープでよく聴いてたもんね…」

律「演奏は練習すりゃなんとかなりそうだけど…ボーカル次第…かねぇ」

 やっぱり、私が頑張らなきゃいけないよねぇ…

 と、自分の声の小ささに半ば幻滅しかけてた時。
 

声「おやおや、懐かしい音がしたと思ったら、まさかあんた達が演奏してたとはねぇ…」

 聞き覚えのある声が聞こえたので声の方を向いてみる、するとそこには…

唯「の…紀美さん!」

紀美「よ、久しぶりっ!」


―――軽音部のOB…さわちゃんと同じデスデビルのメンバーの、河口紀美さんが…そこにいた…!

23: 2011/05/25(水) 19:52:19.34
―――
――


 ライブハウス

 憂と和ちゃんも帰って、私達は久々に会えた紀美さんとお茶を飲んでいました。

紀美「久々に顔出したら懐かしい音が聞こえたからちょっとね、でも、なかなか上手い演奏だったよ」
紀美「っても、まだまだ私達には及ばないけどね、あははっ」

 ニコニコ顔で紀美さんは褒めてくれた、先輩に褒められたこともあって、それが妙にくすぐったかったな…えへへ。

律「あ、ありがとうございますっ!」
紬「紀美さん、お茶をどうぞ…」

紀美「うん、ありがと。 んで、なんでまた私達の演奏を?」
紀美「あー、まさか顧問に影響されちゃったクチ? まったくさわ子のヤツ…」

唯「あ、そーゆうんじゃなくて…」
紀美「…?」

澪「実は…さわ子先生、来年の春に別の学校に行ってしまうんです…」

紀美「ふむふむ」

紬「それで、先生がヘビメタに出会ったこの学校の軽音部で、私達がヘビメタを演奏すれば…喜んでくれるかなと思って…」

紀美「んで、恩師であるさわ子の為に、慣れないヘビメタをやったと…」

24: 2011/05/25(水) 19:53:13.52
唯「紀美さんっ! あの、私達に…ヘビメタを教えてください!!」

律「時間は取らせません! コツを教えてくれるだけでいいんです!」
澪「練習は…あまりできないかもしれませんけど、なんとか時間作ってやってみたいんです!」
紬「ですから…お願いします!」

 みんなで紀美さんに頭を下げます、そして……

紀美「………そっか…」

紀美「……………」

 少しの間を置いて、紀美さんは持ってたタバコに火を付ける。

紀美「…っと失礼、さすがに年頃の女の子の前で吸うモンじゃなかったね…」

 すぐさま火を付けたばかりのタバコを灰皿に押し付け、ゆっくりと紀美さんは言葉を繋げます。

25: 2011/05/25(水) 19:54:07.40
紀美「私からあんた達に教える事は無いよ…」

唯「そんな…」
澪「やっぱり、私達には荷が重すぎたのかな…」

律「いくら私達でも…先輩の紀美さん達には遠く及ばないか…」

紀美「違う違う…みんなの音楽は大したもんだと、私は思ってるよ……」
紀美「ただ…みんなの音楽は私達のそれとは違うからさ…」

紀美「私のアドバイス一つでどうこう出来るとも思えないし、それにヘビメタってのはそんなに甘い道じゃ無い」

紀美「何より、突貫工事で作り上げた音で、本当にさわ子の心を揺さぶれるとは思えない」

 そう言って紀美さんは優しく、私達を諭してくれた…

紀美「でも、みんならしい音楽でさわ子の心に響く曲、私知ってるよ」

唯「…? どういうこと…ですか?」

紀美「…さわ子がヘビメタに入るきっかけ、知ってるよね?」

唯「えっと…確か、好きだった男の人に振り向いてもらいたくて、ヘビメタをやるようになったんですよね?」
紀美「まぁそんな感じかな、その男、ワイルドな感じなのが好きだったからさ…」

紀美「じゃあその前、ヘビメタをやる前のさわ子がどんな歌を歌っていたかは、みんな知らないワケだ」


26: 2011/05/25(水) 19:54:47.50
唯「ヘビメタをやる前のさわちゃん?」
律「まぁ…きっかけがあったからヘビメタに走ったんだから、それ以前にも音楽はやってたんだよな…」

紬「それ、どんな歌だったんですか?」

紀美「あいつさ、よくみんなに可愛い衣装作ってくれたりしてない?」

澪「まぁ…ちょっと恥ずかしいけど、確かに可愛らしい衣装を作ってくれますね…」

紀美「やっぱり抜けてないな、アイツ……フフッ」

 何かを思い出したように含み笑いをする紀美さん、そして話は続きます…。


紀美「私らん時の軽音部は部員もたくさんいてさ、それぞれいろんな演奏をしていたんだ」

紬「前に、さわ子先生から聞いた事あったわね」

紀美「ああ、私は最初っからヘビメタ一直線でさ、デラやジェーン…あ、前に披露宴に来てたアイツらね、そいつらと一緒に歌ってたんだけど…」

紀美「さわ子は…今で言うと萌え系って言うのかな、メイド服とかを着て歌って踊ってた時期があったんだ」

澪「あの先生が…メイド服!?」
唯「い…意外……」
律「さわちゃん…やるなぁ…」

27: 2011/05/25(水) 19:55:17.87
紀美「そう、だから元はみんなと変わらない、明るくて可愛らしい歌を歌っていたのさ、アイドルみたいに元気な歌を…ね」

紀美「それが、ある日を境に私らのとこに来たもんだからそりゃもう大変でさ…」
紀美「当時のさわ子のグループのメンバーにゃ白い目で見られたもんよ、なんせボーカル取ってっちゃったって事になったんだから…」

澪「それで…その、先生のグループのメンバーは…先生がいなくなってからはどうしたんですか?」

紀美「…ああ、さわ子が抜けてから、日も経たないうちに退部した…」

唯「そうなんだ……」

紀美「色々あったなぁ…あの時は……」


―――紀美さんは嬉しそうに、時に寂しそうに当時の事を語ってくれた。

 さわちゃんの昔の事。
 さわちゃんがどんな感じで歌を歌っていたのか。
 ヘビメタをやる前のさわちゃんのグループの人が、どんな人だったのか。

 さわちゃんが紀美さん達と出会ってから、どう変わったのか…

 それを遠い目で、昔を懐かしむように、教えてくれました…。

28: 2011/05/25(水) 19:56:15.64
―――
――


紀美「とまぁ、こんな感じかな」

律「さわちゃんにも色々あったんだなぁ…」

紀美「…この話、さわ子には絶対内緒だからね? アイツもこの事相当気にしてるから…」

唯「私にはとても言えないよ…あはは」
律「さすがにこれをネタにゆすったら殺されるかもな…」

澪「でも、さわ子先生の在学時代にそんな事があったんじゃ…その歌をいくら私達が聴かせても…嫌な記憶を思い出させるだけなんじゃないか…?」

紬「…理由はどうあれ、さわ子先生が紀美さん達の所に入った事で、その二人は部を辞めてしまったんですものね…」

紀美「ああ、そこは私に任せてよ、なんとかしとくからさっ」

 そして、紀美さんは親指を立てて私達に微笑んでくれました。

 …和ちゃんやさわちゃんとは違うけど、とても頼り甲斐のあるお姉さん、そんな雰囲気が、紀美さんから感じられました…。

29: 2011/05/25(水) 19:57:21.84
紀美「来週またここに来てよ、そん時の音源探しといてあげるからさ。 ついでに色々と奢ってあげる♪」

唯「わぁ~、や…やったぁ!」
律「へへ、儲け儲けっと♪」
澪「すみません…でも、ありがとうございます!」
紬「紀美さんのお気持ち、すごく助かります!」

紀美「いえいえ、それにあの歌ならみんなにも問題なく演奏できると思うよ。 明るくてポップな楽しい歌だからさ」

律「明るくてポップな歌か…きっと放課後ティータイムにはもってこいの曲なんだろうなぁ」

澪「私、今ならわかる気がする…なんで私達が、あの人の前で、あの人とは違った音楽を奏でられてたのか…」

紬「さわ子先生も…もとは私達と同じ音楽を奏でていたのね……」

唯「みんな…これだよ、その…さわちゃんがやってた演奏こそが、私達がさわちゃんに送るのに一番の曲なんだよ!!」

律「ああ、梓への曲もそうだけど…絶対に聴かせてやりたいよな」
紬「頑張って練習しなきゃ!」
澪「みんな、もちろん勉強もな?」
律「ああ、受験もライブも何もかも、私達で乗り切るぞ!」

一同「おーーーー!!!」

紀美(いいねぇ…若いって…)

紀美(さわ子…あんた幸せじゃないの…こんなに想ってくれる生徒がいてくれて…さ)

30: 2011/05/25(水) 19:58:56.64
―――
――


 1週間後

紀美「来た来た、はいこれ、約束の音源」

 紀美さんから渡されたCDをセットし、再生ボタンを押します。

律「どんな曲なんだろうな……」

~~~♪ ~~~♪

 ……………。

 プレーヤーから流れる曲は、ちょうど当時のアイドルソングみたいにノリノリで、明るくて…歌ってるさわちゃんも、コーラスの人もとっても楽しそうに歌っているのがよく分かる、そんな歌でした。


唯「すごい…心が軽くなるね」
律「これが…さわちゃんの最初の最初の歌…」

澪「正直信じられない…あんなに怖い歌を歌ってた人なのに…」
紬「でも……すごく可愛い歌声…♪」

唯「うん、私達にもぴったりの歌だよ、コレ!」

律「決まりだ、これをさわちゃんに送ろう! この歌を、さわちゃんの前で歌ってあげよう!!」
澪「ああ、賛成だ!」
紬「さわ子先生、きっと喜んでくれるわよ…ね?」

31: 2011/05/25(水) 19:59:57.39
律「じゃあ、今日はこの歌聴いて練習と行くか!」
唯「うん!」

澪「律、梓への歌も忘れちゃダメだからな?」
律「わかってるって…それじゃあ放課後ティータイム、やるぞー!」

一同「お~~~~!!」


紀美「さわ子の事は私に任せて、安心して練習してね。」

紀美「あ、でも、勉強もしっかりとね?」

律「平気平気、いざとなったら澪に頼んで…」

澪「私に何をさせるつもりだ…」


紀美「あはははっ、みんな、良い友達を持ったもんだねぇ♪」

―――――――――――――――――――

 そして、日々は過ぎて行きます。

 最初は都合を見つけてやってた音合わせも、次第に回数が減り…受験勉強一色になって…
 音合わせも練習も、たまにやる程度になって…
 
 今じゃ勉強時間1日8時間! でもたまに息抜きにギー太をいじってると…止まらなくなっちゃうんだよね…あはは。 こんなんじゃまた憂に怒られちゃうな…

 でも、ギー太を触ってる時が、一番楽しいな…

32: 2011/05/25(水) 20:00:28.60
―――――――――――――――――――

 冬休み、クリスマス、お正月と季節は巡ります。
 受験のプレッシャーに押しつぶされそうになった時でも、上手く時間を見つけてみんなで集まってお茶飲んで演奏すれば、どこか心が軽くなって…

 やっぱり私、この学校でみんなに会えてよかった…
 みんなとお茶でほっと出来て、本当に良かった…

 だから、絶対に受験も演奏も成功させなきゃ…

 大好きなあずにゃんとさわちゃんの為に…そして、私自身の将来の為に……
 憂やりっちゃん、和ちゃん、澪ちゃん、ムギちゃん…お父さんにお母さん……私を信じて頑張ってくれてるみんなの為にも、頑張らなくちゃ……!!


―――――――――

――――――

―――


 引っ越し準備も生徒の進路もおよそ半分が片付いた1月の終わり頃の休日、私は紀美に呼び出されて近くの飲み屋まで来ていた。

 この冬真っ盛りで雪も降りしきる夜、…寒さが身体に堪えるなぁ……

33: 2011/05/25(水) 20:01:43.86
さわ子「ったく、紀美のやつ急に呼び出して…」

紀美「おーい、さわ子久しぶり~」

さわ子「紀美、あんたねぇ…」
紀美「まぁまぁ、あんたもいろいろあって疲れてるだろうから、今日はプチ同窓会でもねと思ってさ」

さわ子「プチ同窓会…?」

紀美「あっちあっち」

 紀美がクイクイと親指を向ける方向、そこには懐かしい顔ぶれがそろっていた。

「おいっすさわ子~!こっちこっちー!」
「去年の披露宴以来だねー、キャサリン元気だったー?」

 そこには、デスデビルのメンバーだったデラやジェーンの姿があった。

さわ子「あ…! みんな久しぶり! どうしたのー?」

 まさか、みんなに会えるとは…!
 確かに最近仕事仕事で立て込んでたから、これは嬉しいサプライズだ。

紀美「それだけじゃないよ、今日はもう二人特別ゲストにも来てもらったのさ」
さわ子「特別ゲスト…?」

紀美「おーい、2人ともこっち来なー」

 そして、紀美の声に合わせて奥から顔を覗かせる2人の女性が…。

34: 2011/05/25(水) 20:03:01.31
「さわ子、久しぶりね」
「やほー、さわ子元気してたー?」

さわ子「みゆき……恭子…?」

みゆき「こうして会うのも卒業以来だねぇ」
恭子「んま、過去の事は水に流して…今日は飲みましょ♪」

さわ子「………え…ええ……そう……ね…」

 みゆきに恭子……

 私の、昔の仲間…

 私が裏切ったこの2人にだけは、もう会うまいと思っていたのに…どうして………その2人がここに…?

―――
――


 頃合いを見て、紀美を連れて外に出る。
 
 降り続ける雪のせいで身体が締まる様に寒いが、店の中で…何よりもあの2人の耳に届く所でだけは…話したく無かった…

 それに幸いというか…他の4人は昔の思い出話に華を咲かせていたので、今が抜け出すには絶好のチャンスだったのだ…

35: 2011/05/25(水) 20:03:30.85
さわ子「紀美、どういうつもり…?」
紀美「どういうって…そーゆー事さ」

さわ子「アンタ…知ってるでしょ? 私があの2人に何したか…」
紀美「うん、知ってる」

さわ子「ふざけないでよ…私は今更あの2人に合わせる顔なんて…!」

 そうだ、あの2人を…私は裏切ったんだ。

 …もしも過去に戻れるのなら、あの時の自分を殴ってでも止めてやりたい。
 
 一時の恋心を理由に仲間を裏切ってまで違うグループの所へ行くなんて…あの時はどうかしてた…
 
 確かに恋愛に一途だったと、聞こえ良く言えばそうなのかもしれない…でも、結果的に私が抜けた事で…あの2人は…!

 …………嫌な過去が頭に蘇る……

 忘れたくても忘れられない……苦い思い出が頭に鮮明に蘇ってくる……

36: 2011/05/25(水) 20:04:29.66
―――――――――――――――――――

みゆき『ちょっとさわ子……アンタマジで言ってんの?』

さわ子『ええ、私、本気よ…』

恭子『か…考え直そうよ! 私達、これから3人で頑張るって約束したじゃん…!』

さわ子『恭子…ごめんなさい…私、あの人だけはやっぱり忘れられない……!』

さわ子『私…これからはワイルドに生きていくの……! 河口さん達と一緒に…ワイルドに生きて行くのっ!』
さわ子『だから…だから……こんな…ちゃらけたギター………っっ!…ふんッッ!!』

 ―――バキィッッ!!

さわ子『はぁ…はぁ……! 聞いて二人とも…私…本気なの…!』

恭子『…さわ子……あ…あんたねぇ!!!』

みゆき『もういいよ……さわ子がそこまで言うならさ…』

恭子『ちょっとみゆき…あんたまで何言って…!』

みゆき『勝手にしなよ…もうアンタの事なんて知らない…』

さわ子『……………』

みゆき『恭子…行こう……こんなヤツ…もう知らない……』

みゆき『裏切り者…』

37: 2011/05/25(水) 20:06:24.42
――裏切り者…。

 それが、いつも温厚で優しい仲間が、最後に私に向けて放った言葉だった……。

 …そして、そう日もかからない内に、みゆきと恭子は…部を辞めた。

 残った私は…デスデビルのボーカルとして、軽音部に残ったんだ…

 私は…私情であの2人の夢を奪って…図々しく居残ったんだ…

―――――――――――――――――――

さわ子「やめてよ…嫌な事思い出させないでよ…お願いだから…っ」

紀美「じゃあ聞くけど、なんでアンタは生徒にあんな恰好させて歌わせてるのさ?」
さわ子「…あんな恰好って…唯ちゃん達の事?」

紀美「そ、昔に未練タラタラなのがよく分かる衣装だと思ったけど?」
さわ子「紀美には…関係ないでしょ……」

紀美「いんや、関係あるね」
さわ子「…なんでよ?」

紀美「このままいなくなったら、アンタ一生その事気にして余所へ行かなきゃならないんだよ?」
さわ子「…知ってたの? 私の転勤の話…」

紀美「ちょいと小耳に挟んで…ね」
さわ子「でも…今更なんて言ってみゆき達に会えばいいって言うのよ……」

紀美「…………」

38: 2011/05/25(水) 20:07:04.84

 少し間を置き、紀美はタバコに火を付け、怒ったような目で私を睨みつける。

紀美「キャサリ…いやさわ子、いいかげんにしなよ…?」

さわ子「…何よ?」

紀美「お前が逃げてたら意味ねえだろ? お前自身の為にも、お前を慕ってる生徒の為にもならねえだろ…?」

さわ子「別に私は逃げてなんか…ってか、紀美には関係ないじゃない!!」

紀美「聞け!! デスデビルのボーカルだったキャサリンも…その前から萌え萌えの服着て踊ってたさわ子も…」
紀美「生徒の為に教師として軽音部の顧問やってるさわ子も…全部軽音部の『山中さわ子』に変わりねえだろうがっっ!!!」

さわ子「…っ!!」

 ……紀美の迫力に声が出なくなる…
 ここ一番で怒った時の迫力…変わってないな……

 でも、それでも私は……!


紀美「これからアンタは大きな感動を目にする、ここで教師やってて良かったって…そう思えるようなことがさ…」
紀美「その為にも、今ここでさわ子の中の過去を、嫌な思い出を…良い思い出にしとかなきゃなんねえんだよ!!」

さわ子「一体…何の話よ?」

39: 2011/05/25(水) 20:07:45.18
紀美「それはまだ言えない、でも、『その時』の為にも…さわ子が生徒として、また教師として桜高で過ごした思い出に、悪い思い出があっちゃならないんだ…」

紀美「それにもう時効だよ…恭子も言ってたじゃん…過去は水に流してってさ……」

さわ子「…………っっ…でも…でも……」

 紀美の言葉に声が出ない。
 
 …どうすればいいって言うんだ…今更、どう謝れって言うんだ……

 私のせいで2人は部活を辞めた…私の身勝手な振る舞いで…2人は……

 ……でも……忘れられないのもあった

 たとえ一時でも、みゆきや恭子と歌った『あの歌』を…。
 紀美やみんなで歌った…あの激しいヘビメタも…。
 教員としてあの子達と共に過ごした…あの音楽室を…。

 あの部室で…みんなと出会ったあの音楽を…たとえどんなに苦い思い出があったとしても…忘れる事なんて…できやしなかった…。

40: 2011/05/25(水) 20:08:21.98
紀美「昔に未練あるんだろ? だから、あの子達の衣装に、昔の思い乗せて…せっせと衣装作ってたんだろ? あの子達の可愛い歌声、楽しみに聴いてたんだろ?」

さわ子「そりゃ未練なんてあるわよ…でも、でも!! 私は…私は……!!」

さわ子「………っっく…っう…! わたし…は……!」

 
 柄にもなく涙が出てきた…きっと酒のせいだと、そう思いたい……でも…!
 止まれ止まれと思うほどに…涙が溢れてくる…!

 泣いてこの気持ちが晴れるなんて思っちゃいない…でも…忘れようと思えば思う程に蘇る…あのメロディが…。 みゆきと恭子と奏でた…あのメロディが。頭に響いてくる…

 …許して貰いたいとでも思っているのか、私は…

 でも…それは…

 どんな事があろうと…私は背負って行かなければ…自分の犯した罪を…背負わなければ…


さわ子「どんな理由であれ…私は恭子とみゆきを……裏切っ…て…!」
さわ子「今更…どんな顔して…2人…に……っう…ぅ…」

紀美「さわ子……まだそんな事…」

 
「まったく、やっぱりそんな事だろうと思った…」

「ホント、相変わらず気にしいなんだから…」

さわ子「……っ…?」

41: 2011/05/25(水) 20:09:13.19
 声に振り向く、するとそこには…いつの間にか話を聞いていたのか、みんなの姿があった…

ジェーン「あんなに叫んでりゃそりゃ様子も見に来るってえの」

みゆき「恭子も言ってたでしょ?もう、時効だよ」
恭子「気にしていてくれてありがとう、さわ子…でももう良いのよ。」

みゆき「あの頃は許せなかったけど…でも今はもういいよ…」

恭子「さわ子が作った今の軽音部、放課後ティータイムの歌、聴かせてもらったよ…すごく、完成されてるじゃない…」

デラ「うん、演奏技術もそうだけど、純粋に音楽を楽しもうって気がビンビン感じられたよ」

恭子「私もみゆきも感動しちゃった、さわ子が桜高で先生やってる事にもびっくりしたけど…」
恭子「それで軽音部の顧問やってて、あんなに素敵な演奏ができる生徒に囲まれてるって知って…ホントにびっくりした」

ジェーン「さわ子の造った軽音部、すごいよなぁ」


さわ子「みん…な……」

紀美「みんな、あの子達の演奏聴いて、先輩として鼻が高いって言ってるんだよ」

42: 2011/05/25(水) 20:11:21.91
紀美「さわ子、あんたはこうしてやってくれたじゃないか…」
みゆき「私達の音楽も、紀美達の音楽も…」

恭子「きっとさわ子はさ、無意識のうちに、でもしっかりと引き継いでいてくれてたんだね…」
紀美「私達も、この子達もそう、さわ子がいたから、音楽をより楽しもうって気になれたんじゃないか?」

みゆき「まぁ…これだけやってくれてたのなら、私達から離れた事も間違ってなかったなって、今ならそう思えるんじゃないの?」

紀美「さわ子、だからもう過去を引きずるな、むしろ受け入れろ」

さわ子「…受け入れ…る…」

みゆき「そ、さわ子は、もう立派にやってくれたんだよ?」
恭子「昔は昔、今は今、そして…これからはこれからだよ…」

紀美「さわ子もさ、長い間後悔して…辛かったろ、でももう、そんなこと気にしなくて良いんだよ」

さわ子「みんな……」

みゆき「長い間お疲れ様、さわ子…」
恭子「それに…せっかく久々に会えたんだし、今日は楽しみましょ♪ 私、まだまだ飲み足りないのよ~」

ジェーン「さーてさて、んじゃあ過去の清算も終わった事だし、飲みの続きと行きましょか?」

デラ「この後さ、久々にカラオケ行かない?」
紀美「お、それいいねぇ…」

43: 2011/05/25(水) 20:12:55.04
 そして、みんなは連れだって店の中へと戻っていく…
 残された私は…涙を拭ってから……少しの間だけ佇んでいた。

恭子「ほら、さわ子、早く戻ろっ!」
さわ子「……う…うん……」

みゆき「私達がいなくなってからの事も、じっくり聞かせて貰いましょうかね…」
さわ子「そ…それは……」

 ……本当にこれで良かったのか、それは…まだ分からない。 実感もあまりない…。

 でも、これだけは言える、きっと間違いない……みゆきも恭子も…紀美も…みんなが、私を認めてくれた。
 
 あの子達の歌が、みんなを認めさせてくれたんだ…

 
 ……あの子達の顧問になって本当に良かった…

 唯ちゃん…りっちゃん…澪ちゃん…紀美…みゆき…恭子……

 みんな…ありがとう………。

紀美「さわ子ー? 風邪引くから早くー」

さわ子「…ええ、待って、今行くから…!」

 気付けばもう、雪は止んでいた……  
 明日は晴れるに違いないと…そう、思えるように…

 月明かりが煌々と、雪道を照らしていた…。

44: 2011/05/25(水) 20:15:19.02
―――
――


 試験まであと3日、バレンタインも近付いて来た2月の放課後、私達はあずにゃんと一緒に部室に集まりました。

梓「…さわ子先生の、お別れ会ですか?」

律「そ、どう? 梓もやってみない?」
澪「この曲を、私たちなりにアレンジしてやってみようと思ってさ」

紬「実はもうパートの振り分けも終わってるのよ、あとは梓ちゃんが頷いてくれればすぐにでも音合わせ出来るわ」

梓「ちょっと、聴かせて貰っていいですか?」

唯「うんっ!」

45: 2011/05/25(水) 20:16:25.55
 ………………………

梓「………わぁ…」

梓「以外です…さわ子先生の演奏だって聞いたから、てっきりヘビメタかと思ってました…」

梓「でも、良いですねこの曲、私達らしいって言うか…ううん、私達にもぴったりですよ! この歌!」

紬「じゃあ…!」

梓「ええ、私にも演奏させてください!」

律「よっし決まったな! じゃあ早速演奏を…」

澪「りーつ、試験までもう残り少ないんだから、演奏してる暇なんか…」

律「ん~…でもぉ~」

紬「じゃあ、勉強してから休憩でやりましょ?」
澪「ま、それならいいか…」

唯「よっし…がんばるぞ~っ」

梓(……………。)

梓(そっか…先生も先輩達も、もうすぐいなくなっちゃうんだ……。)

梓「……………っ…」

46: 2011/05/25(水) 20:17:49.85
――――――――
――――――
―――

 そうして、試験当日…

律「絶対合格するぞーーー!」
澪「この日の為に、今日まで頑張ってきたんだもんな…!」
紬「行くわよみんなっ」

唯「放課後ティータイム、ファイトー…」

一同「お~~~~!!」

―――――――――

 部室

梓「先輩……」
憂「お姉ちゃん…」

純「だ…大丈夫だよ二人とも…みんな絶対に受かるって!」

さわ子「そうよー、だから後輩のあなた達まで不安になってないの」

さわ子「先輩を信じましょう…あの子達が本番に強いの、知ってるでしょ?」

梓「…そう…ですね……あははっ…私ったら、なんで不安になってるんだろ…」
純「なんか雰囲気重いな…ねえ梓、憂…何か演奏しない?」

47: 2011/05/25(水) 20:18:21.05
さわ子「あ、それいいわね~、じゃあ今日は私が指導してあげるから、何か演奏してごらんなさいな」

憂「私達の演奏、聴いてくれるんですか?」

さわ子「ええ、『次期』軽音部の演奏、『元』軽音部の私も聴いてみたいわぁ」

梓「…ええ、それじゃあ先生聴いてって下さい、私達の演奏を…」
憂「おぼつかない所とかあればどんどん言って下さい!」
純「ここで人前で演奏するの初めてだから…なんか緊張するなぁ…」

さわ子「言っとくけど私の指導は厳しいわよ~? みんな、覚悟なさいよー?」

梓「先生…ありがとうございます!」
さわ子「いえいえ…」

さわ子(私も残り少ないし…顧問としてやれることはやっておかなきゃ…)

さわ子「じゃあ頑張りなさい、みんな!」

梓「…ふわふわ時間、いきます!」

梓「せーの…!」

48: 2011/05/25(水) 20:19:44.20
 梓ちゃん達の演奏は…先輩には及ばないとはいえ、熱意の籠った音になっていた。

 おぼつかない憂ちゃんのオルガンに、基礎のしっかりしてる純ちゃんのベース、そして部長としてみんなを支えようとしてる梓ちゃんのギター。

 それぞれの旋律が個々を支え合っている…その意思は、あの子達に劣らないものがあった…

 今なら胸を張って言える…


 …この学校に来て、この部の顧問になれて本当に良かった……と
 
 だからこそ、それが残念でもあった…

 これからこの子達の指導が、あの子達の意思を受け継ぐこの子達の指導を出来ない事が…辛かった…

 残念な気持ちと、こんなにも立派な演奏が出来るこの子達を前に目頭が熱くなるのを堪えながら、私は彼女達の音に聴き入っていた……



―――
――


 そして1か月後の春。
 桜も芽吹く時期に、志望校に見事受かることが出来た私達はこの日を…卒業の日を迎えました。

50: 2011/05/25(水) 20:20:57.66
 教室

さわ子「みなさん、卒業おめでとうございます」

さわ子「この学校で初の担任を請け負って…それがあなた達で、私自身も色々と勉強にもなったし、何よりも充実した1年を迎えられました。」

さわ子「とまぁ…堅苦しい話は抜きにして…みんな、3年間お疲れ様」

さわ子「この学校で皆さんと過ごして、私もすごく楽しかったわ…」

さわ子「みんなも知ってのとおり私も…今日で最後になっちゃうけど……最後ぐらい、明るく行きましょ♪」


 …先生のその言葉に…私はたまらず立ち上がります。


唯「………せ…先生っっ…!」

律「…さわちゃんっ!」
紬「わ…私達も! 先生が担任で…楽しかったです…その…!」
澪「…先…生……っっ」

さわ子「ほらほら、涙はまだ取っておくの、まだまだあなた達には、やらなきゃならない事があるんだから…ね?」

さわ子「じゃあ委員長、そろそろ号令をお願いします」


和「はい…みんな、もう式の時間よ、そろそろ講堂へ向かいましょう」

52: 2011/05/25(水) 20:21:45.17
律「和…」
唯「和ちゃん…」

和「先生、私達は、先生の生徒でとても幸せでした」

和「私達の最後の晴れ舞台…是非、見て行って下さい…」

さわ子「…ええ、しっかり、目に焼き付けておくわね……」

―――――――――――――――――――

 講堂

和「―――私達がこの学校で学んだ3年間は……」

 生徒代表の和ちゃんの答辞はすごく通った声で、全生徒がその声に聞き入っていました。

生徒「………っっ…ぅ…っ…グズッ…」

 …中には、もう泣いちゃってる生徒もいる……

 卒業……しちゃうんだな…もう……


さわ子「…………っ…」

さわ子(駄目よ…泣かないって…決めたのに……っ)

53: 2011/05/25(水) 20:22:19.36
―――そして…教室でみんなとお別れをしてから、私達は…大切な後輩に…最後のお別れをするために…部室に集まっていました。


 部室

唯「あずにゃんに聴いてもらいたい歌があるんだ…」

律「勉強の合間縫って作ってみたんだ、聴いてくれる?」

梓「…はい……私、聴きたいです……」

………♪ ~~~♪……



さわ子「……」

 音楽室から聴こえる歌声に耳を寄せる…。

 もう、唯ちゃん…いや、放課後ティータイムの歌を聴くのも最後になるのか…
 そう考えると、切なくなってくる。

 軽音部はなくならない…風邪をこじらせたときに紀美にも言ったけど…でも、分かってはいても、いざ別れが目前に迫ると寂しくもなる…

 ここには思い出が多過ぎた…先日みゆき達と和解した事もあって…たくさんの暖かい思い出が…私には多過ぎた…

 …はぁ…教師がこんな事考えてちゃ駄目だな…

54: 2011/05/25(水) 20:23:37.07
「先生。」

 後ろから聴き馴染みのある声が聞こえたので振り返ってみる。

さわ子「真鍋さん…」

和「3年間、ありがとうございました」

さわ子「あら、私があなたを請け負ったのは1年だけよ?」
和「いえ、私の事じゃなく…唯の事で…」

さわ子「……唯ちゃんの事?」

和「軽音楽部に入ってからあの子、すごく変わりました」

和「毎日をのんびり過ごすでなく、部活に入って…目標を持って…あんなに立派な演奏をできるようになって…」

和「いつも私と憂にべったりな唯でしたけど…この学校に来て…軽音部と出会って…すごく変わって…」

さわ子「それは私だけじゃないわ、りっちゃんや澪ちゃん、憂ちゃんや和ちゃん、みんなに囲まれたからできたのよ」

和「…ですけど、唯の中では、先生がいてくれたからって言うのが大きかったと思います。」

和「いつの頃か、結婚式の次の日に唯、言ってたんです、『私も、大人になったら大人になるのかな』って…」

さわ子「……ああ………」


 ……あの時か…。

56: 2011/05/25(水) 20:24:11.32
さわ子『―――今、本物ってのを見せてやる!!』


 旧友の結婚式の打ち上げで紀美に一杯食わされて、つい私は昔の本性をみんなに晒してしまった。

 私自身も今では完全に失敗したと思っていたけど、それが結果的に唯ちゃんの心の成長に繋がったのだと、彼女は語ってくれた。


和「多分、私が思うに…あれ、先生を見て思った事だと、私は思うんです」

和「『大人になっても決して輝きを失わない、さわ子先生みたいな大人に、私もなるのかな』って…そう思ったんじゃないかって…今の唯を見てると…そんな気がして…」

さわ子「それは、大袈裟よ…」

和「いいえ…その、大人になっても変わらない輝き…きっとそれって、あの子達の音楽にも、先生にも通じてると思うんです。」
和「先生の歌が今も昔と変わらず色褪せないのと同じように、あの子達の音楽も、場所は違ってもどんなに時が流れようと…輝いていられると、私は信じています」

さわ子「……………」

 ……今日のこの子はやけに強気な気がする…

 もしかして……私が杞憂にしてる事を見抜かれていた…?

57: 2011/05/25(水) 20:25:46.27
さわ子「……あはは、生徒に見抜かれるようじゃ…私もまだまだねぇ…」
和「…すみません、出過ぎた事を言って…」

さわ子「ううん…実際、当たってたから…」

さわ子「大人になっても変わらない輝き……ね、確かに、そうかもね」
さわ子「あの子達の演奏聴いてたら、私もそんな気がするわ」

和「色々と…本当に、ありがとうございました…」
さわ子「……こちらこそ…真鍋さん」

さわ子「素敵な教員生活をありがとう…とても楽しかったわ」
和「………」

さわ子「大学生になってからも大変でしょうけど、頑張りなさいよ?」
和「はい…先生も、頑張ってください」

さわ子「同窓会には是非呼んでね、みんなと飲むお酒、楽しみにしてるわ♪」

和「……はいっ!」


 そして……真鍋さんは私に一礼して、階段を降りて行った……

さわ子「変わらない輝き……か」

 私にも、あるだろうか…
 歳を取ったこの私にも……輝きってやつが…

 音楽室からは…彼女達の、どれだけの月日が流れようと…決して消える事の無いであろう輝きが…絶えず響いていた…。

58: 2011/05/25(水) 20:26:13.86
―――
――


 翌日

 引っ越しを来週に控え、家で支度をしていた夕暮れ時、私は紀美に呼び出されて市内のライブハウスにいた。

 …懐かしいな…確か、私もあの子達も、ここでライブした事あったんだっけ…

紀美「さわ子ー! お疲れさん」
さわ子「紀美、どうしたのよ?」

紀美「早く、こっちこっち!」

 紀美に手を引かれ、私はステージのある部屋に入る。

 ステージの方を見るとそこには、制服に身を包み、ライトに照らされたあの子達がいた…
 そして、着々と楽器をセットしてるデラやジェーン、脇には憂ちゃんや純ちゃんの姿も見えた。

59: 2011/05/25(水) 20:27:05.51
唯「さわちゃん、やっと来てくれた!」
律「遅いよー、もうちょっとで開演だったんだからさ!」
梓「機材の準備は整ってます、いつでも行けますよ!」

みゆき「良い空気ねー、この緊張感、まさにライブって感じだね」
恭子「さわ子、あんたの育てた生徒の演奏、楽しみにしてるよ」

さわ子「2人とも…」
恭子「紀美に急に呼び出されてさ、でも、来て正解だったかもね」
みゆき「今日は、たっぷり楽しませてもらうわよー」

憂「先生、こっちへどうぞ!」
純「お菓子もジュースもあるんですよ~♪」

さわ子「みんな…これは一体…」

紀美「鈍感なヤツ…いいかげん分かるっしょ?」

律「今日は、さわちゃんのお別れ会をやろうと思ってさ」
唯「それで、先生には内緒でみんなで企画したんだ」

紀美「私らがいた旧軽音部に…」
律「私達が作った今の軽音部…」
梓「そして、これから私と憂と純で作って行く…新しい軽音部…」

唯「今日はその…今と昔と…これからの軽音部で、先生の門出をお祝いしようと思います!」

さわ子「みんな……」

60: 2011/05/25(水) 20:29:49.51
ケータイから

猿食らいましたので出来る限りケータイから引き続き投下したいと思います。

…猿の解除ってどのくらい時間かかるんでしたっけ?

61: 2011/05/25(水) 20:33:11.42
澪「唯、やろう!」
唯「うん、まずは一曲目!『U&I』!」

律「ワン、ツー、スリー、フォー!」

~~♪ ~~~~♪


唯「~~♪ キーミがーいーなーいと何もできないよー、キーミのごはんが食べたいよ~♪」


 お別れ会…ね。

 あの子達も、粋な事してくれるじゃないの。

―――――――――

唯「想いよ……とーどけーー♪」

~~♪ ―――――♪

みゆき「ヒューヒュー! みんないいよー!」
恭子「一曲目からあんな難しいリフなんて、なかなかやるじゃないの!」

紀美「さっすが私達の後輩、いやぁ先輩として嬉しいもんだわっ!」

さわ子「あんたは何もしてないだろーが…」

 そして、唯ちゃんの司会でライブは始まる。

62: 2011/05/25(水) 20:37:54.53
唯「えー…さわちゃ…じゃなかった…先生、それに憂に純ちゃん先輩方、今日は来てくれてありがとうございます!」

唯「私達もこんなに集まってくれるなんて思いませんでした、だから今日は精一杯歌います!」

唯「あ、それとお菓子もジュースもいっぱいあるから、今日はいっぱい楽しんでください!」

唯「えとえと…あと! 私達の分も残しといてくれると嬉しいかなぁ…あと…」
律「長いわ! 次行くぞ~!」

「――あははっ…!」

憂「お姉ちゃんったら相変わらず~」
純「でも、やっぱ憂のお姉ちゃんはこうでなくっちゃ♪」

みゆき「あははっ…司会のセンスも冴えてるねぇっ」
紀美「ホント、私らとは別だけど、こーゆーのもいいねぇ」

ジェーン「さわ子~、来てよかったんじゃないの?」

さわ子「何を今更…もちろん良かったに決まってるわよ…」


 文化祭を彷彿とさせるような雰囲気が部屋に広がり、私自身も胸の高鳴りを感じていた…

 これはまさにライブの高揚感……彼女達以上にライブの経験を重ねた私が…あの子達のライブをとても楽しみにしている証でもあった……

63: 2011/05/25(水) 20:41:36.00
律「次、『天使にふれたよ!』いくぜーー、わんつーすりー!」

……♪ ………♪

純「お、新曲?」
憂「おねーちゃーん! がんばって~~!」

唯「うん! 憂も純ちゃんも是非聴いていって!」


……♪………♪

唯「ねぇ…思い出のカケラに…♪」


紀美「今度はバラードか」
みゆき「よく雰囲気出てるね、さすが」
恭子「キーボードの子も、ドラムの子も安定してる」

デラ「なんつーか、私らの卒業の頃思い出しちゃうねぇ…」

さわ子「それだけじゃないわよ…この曲には…みんなの、2年間を共に過ごした後輩への想いがが詰まっている…」

さわ子「本当に…唯ちゃん最初はギターのギの字も知らなかったのに…こんなに…立派になって…」
さわ子(みんな…本当に…立派になって……)

梓「………んっ…」

梓(……ダメダメ…今日は泣いちゃダメ…私…!)
梓(笑顔で見送るの…次期部長として…先生を笑顔で見送らなきゃ………!)

66: 2011/05/25(水) 20:47:03.48
―――
――


唯「ずっと…永遠に一緒だよ……♪」

……………♪

―――パチパチパチパチパチ!!

憂「おねえちゃんかっこいい!! 私、あなたの妹で本当に…本当によかったーー!」
純「梓もいいなぁ…こんなに素敵な先輩に囲まれて…ねぇ梓?」
梓「うん…そう……だね」

唯「みんな、ありがとーー!」

唯「えー…じゃあ、ここでメンバーの紹介をしたいと思いますっ!」

唯「まずはキーボードの、琴吹紬ちゃん!」

紬「みんな今日はありがとーー」

 唯ちゃんの声に合わせてムギちゃんがキーボードを鳴らす。


唯「ムギちゃんのお茶は先生も大好きで、中でもコーヒーが特に好きで…1日になんと5杯も飲んだぐらいです!」
紬「先生、いつも私のお茶を美味しく飲んでくれてありがとうございましたー!」

「――ぶっ! あははははっ!」

67: 2011/05/25(水) 20:53:39.67
さわ子「もう…唯ちゃんったら…」
みゆき「何よー、あんた生徒にお茶汲みなんてさせてたの?」

さわ子「………別に、そういうわけじゃ……」


唯「次はベースの秋山澪ちゃん! 1年生の最初の頃に、先生の歌を聴いて一番怖がってたのが澪ちゃんだったんだよねぇ~?」
澪「余計な事言うなー!」

紀美「あはははっ! 全盛期のさわ子は今とは比べものにならないぐらいおっかなかったからなぁ~」
デラ「しかし…よくもまぁここまで猫を被ってたもんだよね~」
さわ子「……も~っ…」


唯「次、ドラムで部長の田井中律ちゃん!」
律「えへへ…こんなんですけど、軽音部の部長やってました、先輩達に負けないバンドにしてみたつもりですけど…どうだったでしょうか?」

ジェーン「安心して! 私のドラムよりも十分に勝ってるよー!」
紀美「うんうん、放課後ティータイムサイコー!」

律「……えへへっ…」

68: 2011/05/25(水) 20:55:20.67
唯「そういえば、りっちゃんのおかげでさわ子先生が軽音部の顧問になってくれたんだよね?」
律「そーいえばそーだったな…」

唯「あの写真を見つけてなかったら…ここでみんなが集まる事はなかったんだから、今日のこの日はりっちゃんのお陰でもあるんだよっ!」
唯「りっちゃん、ホントに…本当にありがとっ!」
律「やーめろって、照れるだろ~~」

唯「もしも…りっちゃんがあの時さわちゃんの弱みを握ってなかったら…」
律「それ以上は言うなぁぁ!!」

純「…そんな事があったんですか?」
憂「私も、詳しくは知りませんでしたけど…」
紀美「あっはっは! 生徒に一本取られるとは、あのデスデビルのキャサリン一生の不覚だったねぇ!」

さわ子「……………ぶ~…」

 …今日はお別れ会のハズでしょ? なんでいつの間に私のこの子達にまつわる暴露大会になってるのよ~…


唯「続いて、ギターの中の中野梓ちゃん!」
梓「どうも…先生、短い間でしたけど、お世話になりました…」

さわ子「いいえ、梓ちゃんのネコミミ、とってもチャーミングだったわよ♪」
梓「~~~それは…恥ずかしいです~っ」

唯「あずにゃんは、私達がいなくなったあとの、軽音部の部長さんなんだよ~」
梓「先輩…あまり緊張するような事言わないで下さいよぉ~」

紀美「よっ! 次期軽音部部長! 頑張れー!」
デラ「応援してるよー!梓ちゃん頑張ってーー!」

70: 2011/05/25(水) 20:58:40.14
猿解除されたようなので引き続きPCから



唯「もう部員も決まってて、オルガン担当の平沢憂…あ、私の妹と…そのお友達でベース担当の鈴木純ちゃんです!」

憂「どうも…楽器…あまりやった事ありませんけど、私達も先輩方に負けない演奏をしたいと思ってます!」

純「わ…私も! 澪先輩みたいな立派なベーシストになれるように頑張ります! ですから、よろしくお願いします!」

さわ子「3人とも…頑張りなさい!」
さわ子「お姉ちゃんに、先輩達に、そして私達に負けないような……素晴らしい軽音部を作ってね!」

梓「…はいっ!」

憂「頑張ります!」

純「……よ…よーし! やるぞー!」


唯「最後に私、ギター担当の平沢唯!」

唯「思えば…私がこうして軽音部にいられたのも、実は全部全部先生がいてくれたからなんですっ」

唯「忘れない……あの日、職員室にりっちゃんと澪ちゃんが軽音部の立ち上げに来た時に…さわ子先生が私に軽音部の事を教えてくれた時から、全部始まったんだ…!」

さわ子「…………そうだった…わね…」

72: 2011/05/25(水) 21:05:34.12
 …………そうだった…

さわ子『 『軽い音楽』 と書いて、軽音よ』
唯『軽い…音楽?』

さわ子『そ、軽い…音楽…』


 この子が私に軽音部の事を聞いてくれて…私はそれを説明して…

 気付いたら私はこの子達の顧問になっていて…文化祭前に唯ちゃんに猛特訓をして…

唯「あの時はいっぱい練習しすぎて私、声ガラガラになっちゃったんだよねぇ…」

紀美「さわ子の指導はキツかったろうに…よく耐えれたねぇ」

唯「えへへ…でも、すっごく楽しかった! ギターのコードたくさん教えてくれて…かっこいい歌い方とかギターの弾き方も教えて貰って……」

唯「可愛い…衣装とかも…っ…徹夜で作ってくれて、何かあった時は…すぐに助けてくれて…っ!」

唯「クリスマス会にも来てくれて…そうだ、2年せぃ…っの、ときの文化祭…っドジな私に代わってギター弾いてくれて…グズッ……あの時は…みんなすっごく…助かったって…言ってて…!」

 元気だった唯ちゃんの声は…次第に涙声になって行く…
 その唯ちゃんの涙が、私の胸を打つ…

 目頭が熱くなる…涙が…零れてくる…

 だめ…今日ぐらい…生徒の前では……教師として…あるべきなんだ…

 この子達の指導者として…担任として…顧問として……!

74: 2011/05/25(水) 21:08:08.53
憂「お姉ちゃん!頑張って!!」
紀美「唯ちゃんの気持ち、さわ子にどんどんぶつけてあげな!」

みゆき「がんばれー!」
恭子「頑張って…!!」


唯「他にも他にもね…っ…さん年生の時には担任になってくれたり…グズッ…音楽室でのお菓子とかお茶も許してくれて…!」

律「っっ…私と唯が…っ…進路の紙を適当に出した時、私と唯の事…真面目に叱ってくれて…えぐっ…っ」

澪「…推薦蹴って進路変えた時……遅くまで私の話に付き合ってくれたの…さわ子先生……だけ…でした……!」

紬「最後の文化祭…一人で生徒全員分のTシャツを用意してくれて…わた…し…すっごく……感動して…今でも、大事に仕舞ってあるんです……っ!」

梓「他にも……まだまだ、数え切れないぐらいあって……」

唯「さわちゃん……今まで…ありがとう……ほんとうに…ありがとう……!!」

75: 2011/05/25(水) 21:10:10.82
さわ子「…………っっっっ…ぅ…ううぅぅぅ……っ」

 我慢してたけど…もう…止まらない……
 涙が…止まらない………っっっ!

さわ子「っっ…っく……ううぅぅぅぅ……」

さわ子「もう……ぐずっ…みんな…っ…いい歳して泣かせないでよ……っっっ…うっ…」

紀美「さわ子…もう、いいじゃん…今日ぐらい…さ」
さわ子「紀美…」

紀美「あんたは、あの子達の先生だけどさ、その前に、軽音部員でもあるんだ…私達と同じさ」

みゆき「応えてやんなよ、みんな…あんたと離れたくなくて、あんなに泣いて…それでも、あんたに今まで世話になった想いを、あの子達は伝えてるんだ」
恭子「そうだよ…ここは、ちょいと先輩として、後輩の気持ちに応えてみるのもいいんじゃないの?」

憂「先生…お願いします…!」
純「先生…」

デラ「さわ子…!」
ジェーン「さわ子っ、頑張れ!」

さわ子「みんな………っ」

 …そうだ、私は、ここで応えなきゃ…あの子達の気持ちに、応えなくちゃ…

 一人の軽音部の先輩として、教師として…大人として…そして…共に音楽を通じて知り合えた『仲間』として…この子達の想いに応えなきゃ…!

 私は…一歩足を踏み出し、声を張り上げて彼女達に応えた…!

76: 2011/05/25(水) 21:11:55.47
さわ子「わ…私だって! あなた達から色んなものを貰ったわ! 歌が好きだった頃の私を思い出させてくれた…」

さわ子「過去を…私が忘れたかった過去を…嫌だった過去を…良い思い出に変えてくれた…!」

さわ子「昔の自分を受け入れる事を…悪くないって思わせてくれた…! みんなのお陰で…疎遠だったみんなともこうして再会できた…!」

さわ子「忘れていた青春を、思い出させてくれた…! ううん、いくつになっても輝きは消えないんだって…それを教えてくれたのが…あなた達だったのよ…!」

さわ子「私の方こそありがとう…! あなた達の顧問で…幸せだった…! 最高だった! みんなが…大好きよ!!」

唯「……っっ…!せ…せんせ…!」

 唯ちゃんがステージから降りようとする…
 
 その唯ちゃんを、後ろの2人が静止させる…

律「待て唯! まだ…まだライブは終わっちゃいねえ!」
紬「そうよ唯ちゃん! ボーカルは…ライブが終わるまで…ステージから降りちゃダメ!」

唯「……っっ…うん…そう…だったね…ごめんっ!」

梓「先輩やりましょう…! あの歌を…!」

澪「私達でやるんだ、私達で…『あの歌』を。 奏でるんだ! さわ子先生の…思い出の曲を!!」


唯「聴いてください…宴の夜は…まだまだ終わらない…!」


――――PARTY☆NIGHT!

77: 2011/05/25(水) 21:13:54.70
 …この子達のレパートリーの中では聞いた事の無い曲名だ

 …でも、その曲名、どこかで…聞いた事が………ある…ような……

唯「………♪」

 その予感はすぐに的中する。
 懐かしい…とても懐かしい記憶と共に…蘇って来る…

~~~♪ ―――♪

唯「Hold me baby 踊ろうよsunday…♪」
澪「Touch me baby 気分はHoliday…♪」

 そう、歌詞が彼女達の口からこぼれた時、全ての記憶が鮮明に蘇る…

さわ子「………う…嘘……?」

みゆき「この曲……」
恭子「私達の歌じゃん!」

さわ子「まさか…紀美…?」
紀美「………」ニヤリッ

さわ子「どうして…あの子達がこの曲を……?」
紀美「私は、単にあの子達の背中を押しただけだよ…」


一応参考
http://www.youtube.com/watch?v=jcgDIUvLL6c

78: 2011/05/25(水) 21:15:19.07
……今、ここでようやく理解できた。

 どうして、あの飲み会が開かれたのか…

―――――――――――――――――――

紀美『これからアンタは大きな感動を目にする、ここで教師やってて良かったって…そう思えるようなことがさ…』

紀美『その為にも、今ここでさわ子の中の過去を、嫌な思い出を…良い思い出にしとかなきゃなんねえんだよ!!』

―――――――――――――――――――

 紀美の言ってた事の意味が、今ならよく分かる…

 みゆきや恭子と和解してなければ、この歌は私の苦い思い出のままでしかなかった…

 それを紀美は…あの子達の為に…私と2人を仲直りさせて…

 あの子達も私の為に…梓ちゃんへの曲作りも受験勉強もあったのに…この子達は…私の…為に………!

 
みゆき「あの同窓会も、この日の為にあったんだろうね…」

恭子「なーんか羨ましいなぁ…さわ子、本当に幸せ者だねっ」

さわ子「……ええ………っ」

79: 2011/05/25(水) 21:16:01.21
―――♪ ――――!!!

紬「イヤな事ぜんぶ 忘れちゃおう♪」

律「一晩眠って目覚めたらhappy girl♪」

梓「夢の途中で 出会う不思議…♪」

唯「悪夢を食べてる バク達もgood friends!」

―――♪ ―――――♪

 あの子達の歌は、次第に会場中のみんなの想いを一つにして行く……

憂「Hold me baby ウキウキlady♪」
恭子「ストレスは…溜めないで♪」

みゆき「Touch me baby キラキラbody♪」
さわ子「…リフレッシュ…しよう……」

紀美「ほらさわ子、もっと声出すっ!」

デラ「ほーるみーべいべー! 気分はホリデイ♪」

さわ子「星空の、メロディー…♪」


 みんなが、口ずさんでいた…
 
 私達の歌を…ここにいるみんなが…私と一緒に歌ってくれている……

80: 2011/05/25(水) 21:18:05.02
さわ子(…?)
さわ子(あれ……?)

さわ子(今ステージにいるの…唯ちゃん…でしょ?)

 眼鏡がずれたのか、夢なのか、彼女達の演奏が魅せる幻なのか分からないけど…妙だ……。 なんで…。
 なんで、『私』がステージの上にいるの? 紀美達と出会う前の…コスプレして踊ってた頃の…私が……どうしてあそこに…

さわ子「……っ…嘘…?」

 よく周りを見ると、制服姿の憂ちゃん達に紛れて、制服姿の紀美達の姿も見える…。

 そして、私自身の姿も……制服に身を包んだ、高校生の当時の姿になっていた…

 これは…幻?


さわこ『……そこのキミ! そこのキミも、私達と一緒に歌うにょ!』

 ステージ上の『私』が、私に話しかけてくれる。

さわ子「………わた…しも?」

きょうこ『そうよ 今日はパーティー、あなたも是非楽しんで言ってね?』
みゆき『いいから、はやく歌うにゅ』

 同じように、ステージの上にいるみゆきと恭子も、私の手を引いてくれる……

 3人に手を引かれ…私は………

81: 2011/05/25(水) 21:20:51.71
唯「生きることに テキストはないよー♪」
律紬「裸足のまま 騒ごう…♪」
澪梓「クツなんて…」

さわ子「脱ーぎ捨てぇぇぇーーーーっっっ!!」

 …私は、大きな声で歌った。

 ステージ上の彼女達も、『私』も、みんなが祝福してくれている。 その祝福に応えるように…私は歌う…

 そしてその声に合わせ、会場の熱は更に温度を高めていく…!


律(さわちゃん……!)

憂(先生…)
紀美「へへっ…あいつ…」

みゆき「踊りましょ、恭子、振り付けは覚えてる?」
恭子「まっかせて! あの猛特訓、まだ身体に染みついてるわっ!」

 私達は唯ちゃん達と共にステージに上がり、あの時のまま歌い、踊り出す。

 楽しもう……! 今日は、教師とかそんな事、もうどうでもいいくらいに楽しもう…!!

 今日は宴の夜…どれだけの時が流れても決して輝きを失う事の無い…輝ける皆の宴の…夜…

 …そう、パーティーナイト!!

82: 2011/05/25(水) 21:22:28.99
――――♪ ――――――♪

HTT「Touch me babe 気分はHoliday♪」

一同「スペシャルな瞬間(とき)をーーーーー!!!♪」」

~~~~~~♪  ~~~~~♪ ~♪

――――――――――――

ワーワーワーワーワー!!!!

紀美「みんな…いや……『桜高軽音部』、さいこーーーーーー!!!!」

 演奏が終わり、割れんばかりの拍手が巻き起こる…

 そして、唯ちゃん達は楽器を置いて…私の所へ飛び込んできてくれる……


唯「ぐずっ……う…わあああぁぁん!! さわちゃぁん!!」
澪「先生……ッっ…先…生……!」
律「私達…さわちゃんに会えてよかった…本当に……良かった……っ」
紬「大好きです…先生…っ」
梓「離れたくありません…っ ずっと…ずっと私達の歌…聴いていて下さい……! 」

さわ子「私も…よっ…っく…みんなに会えて……本当に…本当に良かった……! この学校で先生をやって…教師になって…本当に良かった……!」

 大粒の涙を流しながら…みんなが私に泣きついてくれる…

 みんなの大きな想いが…抱えきれないぐらいの想いが…私の中に入って行く…!!!

85: 2011/05/25(水) 21:30:01.73
憂「お姉ちゃん…みんな……っっく…ひっく…」
純「わたし…もうダメぇ…涙が止まらないよぉぉ…うえぇん…っ」

紀美「…えへへっ…」
デラ「あれっ…紀美、貰い泣き?」
紀美「そういうデラこそ…」

みゆき「…っ…っ…っ…」
恭子「いいもん見れたよねぇみゆき…私、さっきから涙もろいなぁ…」
みゆき「……うん…っ」

――――――――――――――――

唯(ステージの上で、私達は…ただただ…子供の様に…泣いてました…)

 …でも、それは、悲しい涙なんかじゃない…
 みんなで…先生の為に歌えた事がとても嬉しいから…嬉しいから…泣いてたんだ…


 そして…泣き声も落ち着いてきた時、紀美さんが動き出した…


紀美「さってと……後輩にばかり良い格好させてもいられないよねぇ…」
デラ「うん…そうだね…」
ジェーン「私達も、やりますか…♪」

紀美「さわ…いや、キャサリン! 出番だよ!」

88: 2011/05/25(水) 21:37:03.36
さわ子「……そうね……唯ちゃん、私も…歌っていい?」

唯「うんっ…先生の、デスデビルの歌、聴かせて下さい!」

さわ子「ありがとう…ギー太、貸して貰ってもいいかしら?」

唯「…はい、先生に弾いて貰えて、ギー太も喜んでくれてるよっ」


さわ子「…ギー太、少しの間だけ…よろしくね」ジャララン…

唯「ギー太、嬉しいってさ♪」

さわ子「ギー太もありがとう……じゃあ…行くわよ………!」


 先生は眼鏡を外し、鋭い眼で会場のみんなを睨みつけます…

 でもそれは、威圧でもなければ怒ってるわけでもない…


 …戻ってきたんだ…私達の先輩が…DEATH DEVILのボーカル…キャサリンが…ここに、蘇ってきた…!


キャサリン「オメーらに見送られて……アタシゃサイッコーの気分だぜええェェーーーーっっっ!!!!」

クリスティーナ「オラァ!! オメーらテンション上げて行くぞォォォォ!!!!!」

キャサリン「ウウウオオオオオオアアァァァ!!!!!!!!!」

89: 2011/05/25(水) 21:40:38.81
―――ドスドスドスドス!!! ダンダンダンダンッッ!!!

キャサリン「アタシらの歌を……聴きやがれえええェェアァァ!!!!」

――ギュイイイイィィィン!!!

キャサリン「薔薇も恥らう紅い唇! 星も羨む青い瞳ニセモノ!!」

―――――!!! ――――――!!!!

 私にはとても真似の出来ない音が、ギー太から流れてくる…
 ドラムもベースも、歌声の何もかもが…私達とは比べものにならないぐらいの迫力がある…!

 そうだ、私は…この人に教えてもらったんだ…
 3年間ずっと…この人と一緒に……音楽を…

澪「マッディキャンディィ!!」
律「澪…?」

澪「どうしたんだよ律! 乗ろう! 私…今すっごく楽しいよ……!」
律「ヘドバンなんか慣れないでやるもんじゃないって…でも、私も負けてらんないよな……!」

 あの怖がりだった澪ちゃんが…怖がるどころか…むしろ乗ってる……

 それに同調するように、ムギちゃんも頭を振って、みゆきさんもみんな…頭を振って音楽に乗っている…

 デスデビルの演奏に、みんなが虜になってる…!

91: 2011/05/25(水) 21:45:19.77
唯「キャサリーン!!! すごく…すごくカッコいいよおおおお!!!」
律「デスデビル……さいこぉぉーーーーーー!!!」

キャサリン「イエヤアアァァァ!!!!! ウオアアァァァ!!!」

 私達の声援に絶叫で答えるキャサリン、そして曲が終わり…

「tasty cherry召し上がれ! アアアアオゥ!!!」

――ダンッダンッダンッ!!

 ……………

律「ヒューヒュー!! キャサリンかっこいいーー!!」

紬「アンコール! アンコール!!」
恭子「私もアンコール! まだまだ終わらないっしょー!!」

キャサリン「もちろんだ!! まだまだ終わらせねえ!! 次、『ラヴ』!!!!」

クリスティーナ「テメェら本気が足りねえ!! 今日は氏ぬまでやんぞコラァァ!!!」

「―――おおおおおおっっっ!!!」
 
 アンコールに応え、すぐに第二幕が始まります…

 デスデビルのライブは……まだまだ終わらない…!!

キャサリン「甘い言葉にご用心ウォォ…あんまそんなの慣れてなァい…!」

92: 2011/05/25(水) 21:52:40.98
―――! ――! ―!


 そして…2曲目も終わり、拍手が会場を埋め尽くした時の事でした……

―――――――――――――――――――

憂「ねぇ…梓ちゃん……純ちゃん…」

梓「憂……どうしたの?」

憂「こんなこと、あんなすごい演奏の後だから…もしかしたら興醒めするかもしれないけど…さ…」
憂「私も…歌いたい……」

梓「憂…」

憂「私達、もう軽音部なんだよ…?」
純「うん…梓、歌おうよっ」

梓「でも…私達の歌じゃ……」

憂「もちろんかなわないってのは分かってるけど…でも私達、それでもたくさん練習したんだよ?」

純「憂も私も、冬からたくさん練習したんだ…先輩みたいな演奏したくって…ずっと練習してたんだ…!」
純「だから私達の先輩達に、私達の歌、聴かせたいんだ……」

憂「先輩がいなくても軽音部は大丈夫だって…みんなを安心させてあげなきゃ…!」

93: 2011/05/25(水) 21:54:54.77
梓「……………」
憂「梓ちゃん…!」
純「梓…!」

梓「うん…2人の言う通りだよね……」

梓「行くよ…憂、純!」

憂純「うんっ!!」
梓「せ…先輩!!」

 あずにゃんと憂と純ちゃんがステージに上がり、私達に向けて大きな声で言います…。

唯「あず…にゃん?」
律「ん…梓……」

さわ子「梓ちゃん…」

梓「私達も…歌います…!」

憂「先輩達みたいに満足な演奏は出来ないですけど…」
純「それでも…私達の、未来の放課後ティータイムの歌…聴いてください!」

梓「先輩方…いいですか…私達…ここで歌っても…!」

律「ああ! もちろんだ…!」
澪「3人の…未来の軽音部の演奏、私達にも聴かせくれ…!」

紀美「緊張しないで、落ち着いてやれば大丈夫! なんたってさわ子の生徒なんだから!」
律「そうだ! 梓、私達と過ごした2年間の頑張り…ここで私達に見せてくれ!」

95: 2011/05/25(水) 21:57:27.03
唯「憂! あずにゃん! 純ちゃん! 頑張ってぇ!」

さわ子「じゃあ、最後に先輩から、愛すべき後輩の楽器の調律と行きますか…澪ちゃん、ムギちゃん、唯ちゃん、手伝ってあげなさい」

唯紬澪「はいっ!」

―――
――



紬「キーボードのここのスイッチでオルガンの音に変わるわ…頑張ってね、憂ちゃん…♪」
憂「紬さん、ありがとうございます…!」

憂「……んっ…」
紬「憂ちゃん……その指…」

憂「あはは…すみません、汚い指で……」

紬「すごいマメ…憂ちゃん、たくさん練習したのね…」
憂「…はい…ちょっと張り切りすぎちゃって…あ、でも、お姉ちゃんに比べたら私なんて…」

紬「謙遜しなくてもいいのよ、唯ちゃんは唯ちゃん、憂ちゃんは憂ちゃんよ」
紬「だから、今日ぐらいは唯ちゃんをライバルだと思って、唯ちゃんに負けない演奏をしよう…ね?」

憂「………はいっ!」

96: 2011/05/25(水) 21:59:18.24
澪「絃は大丈夫?」
純「はい…ありがとうございます、澪先輩っ!」

澪「力まずに気楽にやればいいさ、そうすれば絶対に上手く行くから…!」
純「はい…!」

澪「……ありがとう、それとごめん…ジャズ研抜けてまで軽音部に入ってくれて…」
純「いいんです…私、澪先輩の演奏見て…唯先輩や律先輩…みんなに囲まれてる梓を見て、決めたんです」

純「私も…先輩みたいに文化祭で…講堂に集まってくれた人を感動させる演奏がしたいって…思えたから…」

純「それ、練習第一でギスギスしたジャズ研じゃ…絶対に出来ない事だから…」

純「それに、音楽室で食べるお菓子、私も憧れてたんですっ…えへへっ」

澪「私達が卒業したら、もうお菓子は無いかもしれないけどね…」
純「あ、憂が持ってきてくれるって言ってましたよ?」

澪「別に伝統にするつもりは無いんだけどなぁ…」
純「も…もちろん、練習だっていっぱい頑張ります」

澪「ああ……じゃあ、演奏、頑張ってね」

純「ありがとうございます…! 私、精一杯演奏します!」

97: 2011/05/25(水) 22:05:09.69
さわ子「絃は…問題ないわね、ネックもヘッドも指板も万全、よく手入れされてるわ」
梓「いつでも歌えるように毎日メンテしますから…」

さわ子「良い心掛けよ、さすが次期部長さんっ♪」
梓「あはは…くすぐったいですよぉ…」


唯「あずにゃん、ムッタンよく似合ってるよ♪」
梓「唯先輩…」

さわ子「んんん~…でも。なーんか一つ物足りないわねぇ…ねぇ、やっぱりネコミミ付けない?」
唯「あ~、それいいかも、可愛いし、みんなの注目独り占めだよー」

梓「そ…それは結構ですっ!」
唯さわ子「ぶ~ぶ~」

梓「まったく……コホンッ…唯先輩とさわ子先生の演奏、とても感動しました」

唯「あずにゃん…」

さわ子「梓ちゃん、これから、頑張ってね…」
唯「休みの日とか遊びに行くから、みんなの演奏、聴かせてねっ」

梓「…はいっ!」

梓「見ててください、つたない演奏かも知れませんけど、皆さんの為に私達、歌います…!」


 そして楽器の調整が終わり、あずにゃん達の…新しい軽音部の、初ライブが始まります……!

98: 2011/05/25(水) 22:07:12.87
梓「ふわふわ時間、いきます!!!」

―――ワーワー!!

律「梓! 頑張れーー!!」
紬「憂ちゃん、しっかりー!」
澪「ベースは焦らず落ち着いてっ! 目立たない音でも、ちゃんと土台になってるから!!」

梓「いち、に、さん……」

~~♪ ―――♪ ―――♪

~~~~~♪ ~~~♪ …♪

梓「キミを見てると、いつもハートドキドキ♪」

純「揺れる想いはマシュマロみたいにふわふわ♪」



 …………あずにゃん達の演奏は、すごくバランスが取れていました。

 …それは私達の演奏とは違い、優しい感じがあの3人らしくて…とても可愛くて…

 でも、私達の演奏にも負けない熱意と、輝きがたくさん籠もっていて…

 …ううん、もう理屈とかじゃないよね…これが…これが、あずにゃんと、憂と、純ちゃんの…演奏…


 ―――私達の後を受け継いでくれる…大切な後輩の…演奏…! 

99: 2011/05/25(水) 22:13:20.27
梓「もーしーすんなりー 話せればー♪」

さわ子「そのあーとーは~~♪」

律「どうにか、なーるーよーね♪」

唯「ふわふわターイム♪」 パチパチ…♪

澪「ふわふわターイム…♪」 パチパチ…♪


 …いつしか手拍子が重なって…あずにゃん達のライブは、大成功を収めました…!


梓「唯先輩…さわ子先生、みなさん…今までありがとうございました…たくさんたくさん…お世話になりました…!!」

純「私も、皆さんの後輩で…とても、幸せです…!!」

憂「卒業しても…離れ離れになっても…私達、頑張るから…もっと練習して、お姉ちゃん達にも、先生方にも負けない演奏をして見せるから…っ!」


梓純憂「みなさん……ありがとうございましたーーーーー!!!!」


―――ワーワーワーワー!!! パチパチパチパチ!!!

 …みんな、すごくかっこ良かった………

 3人なら大丈夫だよ…これからの軽音部…全然大丈夫だよ…
 私達、安心して卒業できるよ…!

101: 2011/05/25(水) 22:17:31.52
さわ子「私もよ…最後にあなた達に指導が出来て、先輩として、顧問として、とても幸せだったわ!」

唯「あずにゃんありがとう!! 私達、あずにゃん達が後輩で良かった…本当によかったよ…!」

律「またいつか…ここにいるみんなで集まって…演奏…やろうよ! 絶対! 絶対!!」

澪「ああ…約束だ!」

紬「大人になっても…私達は離れ離れになんかならないわ! だって…私達は…絆で結ばれた…軽音部なんですもの!」

さわ子「絶対に…絶対に再会しましょう、そして…みんなで演奏しましょう!」


紀美「もちろんそん時は、私達も一緒だよな!」

デラ「今度はもっと大きいホール予約しとくよ! その時が楽しみさ!」

ジェーン「腕は磨いておくよ、今よりももっとすげえ演奏、見せてやるよ!」


みゆき「もちろん私達も行くわ、その時は私にも演奏させてよね!」

恭子「私、もっかい楽器の練習しとかないとなぁ」


律「よーし! 夜はまだまだこれからだ…! 放課後ティータイム! ステージに上がれぇぇ!!」

HTT一同「おおおーーー!!!」

 そしてりっちゃんの提案から、会場はいつの間にか…ひっきりなしに音楽が流れる…まるで…あの時の夏フェスのようなライブ会場になって行って……

102: 2011/05/25(水) 22:21:37.96
唯「次、『ごはんはおかず』!!」

梓「…じゃあ、『翼をください』歌います!」

キャサリン「『GENOM!』ヒヨっ子共にデカい顔させねえ!」

――――♪―♪ ――♪―♪―


 あれから…どれぐらいの時間が流れたんだろう…どれだけの時間、私達は歌を歌っていたんだろう…

 みんな汗だくで…声はガラガラになって…

 疲れは顔に出てても…すごく楽しそうで…明るくて……!


律「はぁ…はぁ………つ……次…は…っく…!」

紀美「さすがに…今日はみんな…やるねぇ…はぁっ…はぁ…」

梓「まだ…Cagayakeも…いちごパフェも…残って……っ…え゙っ…あ゙ぁ……? 嘘…声…かすれて…」
澪「あれだけ歌い続けてればな……声……私…も゙…」

純「多分、次で最後に…はぁ…」
憂「うん……仕方ないけど…それで精一杯…かも」

紬「いやだいやだ! 終わりたくない…私、まだまだみんなと歌いたい!!」
梓「ムギ先輩…また、そんな事言っで…」

唯「ムギちゃん…」

103: 2011/05/25(水) 22:22:28.45
唯「ムギちゃん…」

紬「………うん…ごめん…なさい……っ」

澪「…次で…ラストか…」

律「じゃあ…最後の曲は、主役のさわちゃんのリクエストで…」

唯「そうだね…」

紀美「さわ子、リクエストだ、最後に何を歌ってほしいか…言ってごらん…」

さわ子「…………っ…」

さわ子「何…言ってるのよ…最後の曲は決めてあるわ…」

さわ子「ここにいるみんなで歌う…私達が締めるのに相応しい…とっておきをね…」


 先生はステージに上がり、ムギちゃんのキーボードの設定をピアノに変えます…

 ―――キンッ♪

 鍵盤を叩き、ピアノの音が部屋に響く…

 そして……

 ――♪…♪……♪

 さわちゃんの叩く鍵盤が、私達に最も馴染み深い音を紡ぎ出します…

104: 2011/05/25(水) 22:22:51.78
紬「この歌…」
澪「確かに…私達らしいや…ここにいる全員に…ぴったり…だな…」

みゆき「歌詞、まだ覚えてたかな…?」
紀美「忘れててもすぐに思い出すよ、ってか…忘れられるわけない」

恭子「高校卒業したらまぁ、まず歌わないもんねぇ」
デラ「さわ子、ナイスセレクト!」
ジェーン「えと…出だしは…」


律「あ…みんな、起立!」

 りっちゃんの声に合わせて座ってた人は立ち上がり、気を付けの姿勢のまま、その歌を口ずさみます…

 先生が弾いてくれてる歌は…校歌。

 私達の高校の…桜が丘高校の…校歌でした……


――――――――♪

唯「澄みし碧空 仰ぎ見て…」

律「遥けき理想を 結実ばむと」

澪「香れる桜花の 咲く丘に」

紬「ああ 励みし友垣が集う校庭…」

106: 2011/05/25(水) 22:24:46.93
―――
――


さわ子「………………」

 私は、一心に鍵盤を叩く。

 それが、桜が丘高校に世話になった、私の最大限の感謝の気持ちだった…

 私は、この学校で音楽に出会い、音楽と共に歩み…音楽と共に学び…音楽と共に巣立っていく…

 彼女達もそう、音楽を通じて仲間と出会い…その仲間と学び…仲間と共に巣立っていく…


 全て、この学校でなければ成しえなかった理。

 全て…この学校で出会えたからこそ産まれた奇跡…


 何度でも言おう…私は……この学校に入学して…この学校で学ぶ事ができて…この学校で教職に就けて…幸せだった……

107: 2011/05/25(水) 22:26:12.63
――散じて忘れぬ 学窓と

――ああ 誓いし友垣が集う校庭

――ああ 誓いし友垣が集う校庭………



さわ子「……………おしまい…ね…」

唯「先生……」

梓「先…生…!!」

紀美「…ああ、お疲れ様…さわ子…」


さわ子「みんな…本当に…本当に……っっ!!」



 ―――ありがとう……―――


 ――そして、私達は最後に泣いた…

 たくさん泣いて…最後に笑って…再会を約束して…


 ―――それぞれの道へ、歩んでいった…

108: 2011/05/25(水) 22:28:01.15

 それから1ヶ月後…

―――
――


 音楽室

梓「じゃあ、新歓ライブに向けてのミーティングをやります!」

憂「お菓子もお茶もできたよー、はい純ちゃんっ」

純「わーい♪」


梓「って……憂~、なにやってるの~~!」
憂「え? 軽音部っていつもこうしてミーティングしてたんでしょ?」

梓「あれは…ムギ先輩が………ってか、そんな時間はっ!」
憂「これ、お隣のおばあちゃんからもらった羊羹なの、梓ちゃんも食べてみて☆」ヒョイッ

梓「むぐっ……ん…美味しい……」モグモグ…

梓「…ん……やっぱこういうのも…良いかも…」

梓「なんて言うか…私達らしいって言うか…むしろこうあるべきって言うか…」


純「だってさぁ…それが『放課後ティータイム』ってもんでしょ?」ニヤニヤ

109: 2011/05/25(水) 22:33:08.91
憂「お姉ちゃんたち、いつもこうして部活をやってたんだね…」

梓「………うん、そうだよ…」

純「んじゃ、食べたらしっかりミーティングやって、それから演奏しよっ」

憂「うん、そうだねぇ~」

梓「…………」

梓(焦らずにやっていこう……あの人達のように…)


 そう、唯先輩やさわ子先生達のように……好きな事をどんどんやって…とことん突き進もう。

 私達は止まれないし、止まらない。 ただ目標に向けて前進するだけ。


 その為にもまずは…顧問の先生と…新入部員の獲得をしなきゃ!


 そう、心に誓って…私は羊羹をぱくつく。


 ―――私の名前は中野梓。 現軽音部の部長…。

 DEATH DEVILと放課後ティータイム、二つの大先輩達の輝きを受け継ぐ、軽音部の部長です!

110: 2011/05/25(水) 22:37:45.84
―――
――


 女子大学、校門前広場

律「よっとっ!」ヒョイッ
唯「ほいっ!」ピョンッ!
紬「えいっ!」スタッ!

澪「…………っ」

律「みおー、なーに緊張してんだよ~」
澪「だって…この門超えたら…私、大学生なんだろ?」
律「今更何を当たり前の事…」

澪「な…なんか緊張するんだよ!」

律「あのなぁ~…」
唯「澪ちゃんっ! ファイトだよ!」
紬「そうよ! 怖がってたら前には進めないわっ!」

律「ったく…あのライブん時はノリノリだったくせに…」カタッ…

唯「りっちゃん、ケータイなんか取り出してどうかしたの?」
律「ああ、唯とムギも見てみる? へへっ…こっそりケータイで動画取っておいたんだ、澪のヘドバン動画」

律「ご覧頂こう! あの引っ込み思案な秋山澪が、ヘビメタに頭をブンブン振ってノってる超貴重な映像であるっ!」
唯「あー、私見たい見たい!」
紬「わぁ…あの大人しい澪ちゃんがこんなにノリノリに…♪」

111: 2011/05/25(水) 22:41:21.29
澪「ちょっ…! 律!」

律「へへへっ、あ、そこのお姉さんも見てみますー? これ、私の幼馴染なんですけどぉ♪」

澪「りーつーー……いいかげんに…しろっ!」

――ゴチンッ!

律「…痛たた……もー…澪手加減してよぉ~」

澪「まったく…今日から大学生なんだから、もう少し常識ってやつを……あ…」

唯「…澪ちゃん、門超えてるねぇ…」
紬「……おめでとう澪ちゃん、晴れて大学生よ♪」

澪「は…ハメられたぁぁぁ!!!」

―――――――――

律「これで、全員揃ったな…」
唯「うん…そうだね!」

紬「新しい生活が、始まるのね…」
澪「ああ…どんな大学生活になるんだろうな…」

律「みんな、私達の目標、覚えてるよな?」

唯「うんっ!」
紬「もちろんよ!」
澪「忘れるわけがない…」

113: 2011/05/25(水) 22:47:20.37
唯「私達が出会ってから…変わってないよ」

律「ああ、目指せ武道館!!!!」

紬「あの大きな玉ねぎの下での…ライブ…」
澪「できるさ…私達なら…必ずできるさ……!」
唯「放課後ティータイム…やっるぞーーっ!!」

一同「おーーーーっっ!!」


唯「…うふふ…あはははっ……」

唯(…みんなとなら…歩んで行ける…)

 ―――どんなことがあろうと…輝きを守っていける…

 私達には…大好きな仲間がいるから…大切な人達が、すぐ傍にいてくれるから…!

 私…みんなが大好き! めちゃめちゃ大好き…!

 だから歌うよ、私…

 愛を込めて歌うよ…みんな…大好きを…ありがとう……!

 ―――平沢唯…今日も、愛を込めて歌っています!

115: 2011/05/25(水) 22:51:08.19
―――
――


 某所女子高、教室

ガラッ…

さわ子「失礼します」

生徒「わ、あの先生美人…」
生徒「新任の先生なんだって…何でも遠くから来たらしいよ…」
生徒「彼氏とか、やっぱいるのかな?」

さわ子「えー…みなさん初めまして、本日よりここの学校で、音楽の担当と、みなさんの担任をさせていただきます、山中さわ子です」

生徒「音楽の先生なんだ…」
生徒「キレイだし…軽音部の顧問になってくれないかなぁ~」

生徒「ちょっとっ、軽音部はもう顧問いるじゃない、そこは部員の多い吹奏楽部にしてよぉ~」
生徒「え~、私合唱部に入ってほしいな~~」

さわ子「…みなさーん、私語は謹んで下さいねー?」

116: 2011/05/25(水) 22:54:44.63
生徒「はーいっ」

さわ子「うん、皆さんありがとうございます」


生徒「じゃあ、私から先生に一つ質問がありますっ!」

さわ子「あら、何かしら?」


生徒「先生は、どんな音楽が好きなんですか?」


さわ子「……好きな音楽…ですか…そうですねぇ…」

さわ子「好きな音楽は…クラシックとか洋楽とか、普通の音楽が好きですけど…一番はやっぱり…」

生徒「一番は……?」


さわ子「―――ヘビメタですっ♪」

118: 2011/05/25(水) 22:56:54.53
―――
――


 風がそよぐ…

 窓際からは桜が舞い、新たな舞台が私を受け入れてくれる…

 みんなに見送られて、私…山中さわ子は、教師として、新たなステージに上がることが出来た…

 新たな舞台を前に、戸惑いが無いと言えばそれは嘘になる…

 でも、不安に怯える事なんて絶対にない…私には、みんながいてくれるから…

 みんなの応援がある限り…私が好きな事を続けていられる限りは、どれだけの月日が流れようと…
 私の中の輝きは…決して消えたりはしないのだから…

 唯ちゃん…りっちゃん…梓ちゃん…紀美…みんな…輝いていよう、いつまでも…いつまでも……!

 
 私達は輝ける…永遠に…輝き続けていられる…!

 
 誰にでもなく、私は言う…


 ―――輝け…! 乙女達!!!


120: 2011/05/25(水) 23:01:16.79
―――軽音楽(けいおんがく)。

 『軽い音楽』と書き、その内容は主にジャズやダンス音楽など、気軽に楽しめる音楽の事を指す。
 
 演奏する世代は様々で、近年では若年層によるバンド活動も多数あり、若者の音楽への関心を寄せる大きなコンテンツとして全世界で人気を博している。

 
 ―――そして、音楽には人の様々な思いが込められる。

 友情、夢、努力、達成、絶望、後悔…様々な思いを、人は音楽に込めては歌い、音楽を通じて、人は様々な思いを抱き、輝いて行く。
 
 音のある全ての場所で… 音を奏でる全てのステージで…
 

 彼女達は、今日も輝き続けている……


 おわり。

122: 2011/05/25(水) 23:06:55.25
長いと感じた方も多数いると思いますが、それでも見てくれた方ありがとうございます

途中何回か猿規制喰らって投下が滞った時もありますが、それに関しては致し方ないところもありました。


過去にも何回かVIPにはけいおん絡みのSSを投下し、今回は久々の投下となりました。


けいおんSSも最近ではめっきり数が減り、禁書やまどか系のSSに飲まれがちとなって来ましたが…

個人的には、たとえ時代遅れのオワコンとなっても投下して行きたいなとか思ってます。

またけいおん絡みのSSを見かける事があれば、是非見てって下さいな。

123: 2011/05/25(水) 23:07:43.24
おっつ

引用元: さわ子「輝け!乙女達!」